(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178291
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメートの溶媒和物フォーム
(51)【国際特許分類】
C07C 271/12 20060101AFI20241217BHJP
C07C 269/08 20060101ALI20241217BHJP
A61K 31/27 20060101ALI20241217BHJP
A61P 25/26 20060101ALI20241217BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20241217BHJP
A61P 25/30 20060101ALI20241217BHJP
A61P 15/00 20060101ALI20241217BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20241217BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20241217BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20241217BHJP
A61P 25/24 20060101ALI20241217BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20241217BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
C07C271/12 CSP
C07C269/08
A61K31/27
A61P25/26
A61P25/14
A61P25/30
A61P15/00
A61P3/00
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/24
A61P3/04
A61P25/18
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024161956
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2021155292の分割
【原出願日】2017-09-06
(71)【出願人】
【識別番号】524202214
【氏名又は名称】アクサム マルタ リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】511206696
【氏名又は名称】エスケー バイオファーマスティカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100113376
【弁理士】
【氏名又は名称】南条 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100179394
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬田 あや子
(74)【代理人】
【識別番号】100185384
【弁理士】
【氏名又は名称】伊波 興一朗
(74)【代理人】
【識別番号】100137811
【弁理士】
【氏名又は名称】原 秀貢人
(72)【発明者】
【氏名】ネルソン ジェニファー リー
(72)【発明者】
【氏名】ハーレー フィオン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート(APC)塩酸塩の溶媒和物フォーム、APC塩酸塩の製造方法、及びそれを障害の治療に使用する方法を提供する。
【解決手段】特定の粉末X線回折パターン及び/または約7.0、13.6、16.2、17.4、17.8、18.5、21.0、21.7、22.7、23.0、24.0、及び27.3±0.2°2θでピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォームが提供される。さらに、増加した純度でAPC塩酸塩を製造する方法が提供される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
図1のフォーム(form)Bに示されるものと実質的に同一の粉末X線回折パターン(powder x-ray diffraction pattern)及び/または約7.0、13.6、16.2、17.4、17.8、18.5、21.0、21.7、22.7、23.0、24.0、及び27.3±0.2°2θでピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩((R)-2-amino-3-phenylpropyl carbamate hydrochloride)の溶媒和物フォーム。
【請求項2】
示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry)により69.1℃の温度で開始し、71.7℃の温度でピークを有する広い吸熱(broad endotherm)、及び182.5℃の温度で開始し、183.6℃の温度でピークを有する急激な吸熱(sharp endotherm)を有することをさらなる特徴とする、請求項1に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォーム。
【請求項3】
溶媒和物フォームは半水和物(hemihydrate)である、請求項1または2に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォーム。
【請求項4】
アセトニトリル/水(95%/5% v/v)中で(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩をスラリー化して生産することをさらなる特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォーム。
【請求項5】
アセトニトリル/水(95%/5% v/v)中で(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩をスラリー化する段階、及び真空ろ過(vacuum filtration)で溶媒和物を収集する段階を含む、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォームを製造する方法。
【請求項6】
スラリー化する段階は室温で行われる、請求項5に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォームを製造する方法。
【請求項7】
スラリー化する段階は、少なくとも約20時間行われる、請求項5または6に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォームを製造する方法。
【請求項8】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の少なくとも30%は、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶媒和物フォームである、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項9】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の10%未満が、請求項1から4のいずれか一項に記載の溶媒和物フォームである、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項10】
組成物は剤形(dosage form)である、請求項8または9に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項11】
組成物は、即時放出経口剤形(immediate release oral dosage form)である、請求項10に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項12】
組成物は、錠剤(tablet)またはカプセルである、請求項11に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項13】
請求項8から11のいずれか一項の記載の組成物を対象に投与する段階を含み、それを必要とする対象のナルコレプシー(narcolepsy)、カタプレキシー(cataplexy)、日中の過剰な眠気(excessive daytime sleepiness)、薬物中毒(drug addiction)、性機能障害(sexual dysfunction)、疲労(fatigue)、繊維筋肉痛(fibromyalgia)、注意欠陥/多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder)、下肢静止不能症候群(restless legs syndrome)、うつ病(depression) 、双極性障害(bipolar disorder)または肥満を治療するか、或いはそれを必要とする対象の禁煙を促進する、方法。
【請求項14】
錠剤は1日1回投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
錠剤は1日1回以上投与する、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩をHCl水溶液の存在下で結晶化させ、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩結晶を生産する段階を含む、2-クロロプロパンによる汚染を最小限に抑えながら(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を製造する方法。
【請求項17】
結晶化は、約25℃~約30℃の温度で行われる、請求項16に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を製造する方法。
【請求項18】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の結晶を約35℃以下の温度で乾燥する段階をさらに含む、請求項16または17に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を製造する方法。
【請求項19】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩中の2-クロロプロパンの含量は約5ppm未満である、請求項16から18のいずれか一項に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を製造する方法。
【請求項20】
約5ppm未満の2-クロロプロパンを含む、(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項21】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩は、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法により製造される、請求項20に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項22】
組成物は剤形である、請求項20または21に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項23】
組成物は即時放出経口剤形である、請求項22に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項24】
組成物は、錠剤またはカプセルである、請求項23に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項25】
請求項20から24のいずれか一項に記載の組成物を対象に投与する段階を含み、それを必要とする対象のナルコレプシー(narcolepsy)、カタプレキシー(cataplexy)、日中の過剰な眠気(excessive daytime sleepiness)、薬物中毒(drug addiction)、性機能障害(sexual dysfunction)、疲労(fatigue)、繊維筋肉痛(fibromyalgia)、注意欠陥/多動性障害(attention deficit / hyperactivity disorder)、下肢静止不能症候群(restless legs syndrome)、うつ病(depression)、双極性障害(bipolar disorder)または肥満を治療するか、或いはそれを必要とする対象の禁煙を促進する、方法。
【請求項26】
錠剤は1日1回投与する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
錠剤は1日1回以上投与する、請求項25に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
優先権主張
本発明は、2016年9月6日付で提出された米国仮出願第62/383,822号に対して、35U.S.C.§119(e)に基づく利益を主張するものであり、その全内容は本明細書に参照として組み込まれる。
【0002】
本発明は、新たに確認された(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート(APC)塩酸塩の溶媒和物フォーム(form)、APC塩酸塩の製造方法、及びそれを障害の治療に使用する方法に関するものである。本発明はさらに、増加した純度でAPC塩酸塩を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
APCは、日中の過剰な眠気、カタプレキシー、ナルコレプシー、疲労、うつ病、双極性障害、繊維筋肉痛などを含む様々な障害の治療に有効であることが証明されたフェニルアラニンの類似体である。例えば、米国特許第8,232,315号;第8,440,715号;第8,552,060号;第8,623,913号;第8,729,120号;第8,741,950号;第8,895,609号;第8,927,602号;第9,226,910号;及び第9,359,290であり;そして、米国特許出願公開第2012/0004300号及び2015/0018414号を参考にする。APC(また、他の名称を有する)を生成する方法及び関連化合物は、米国特許第5,955,499号;第5,705,640号;第6,140,532号及び第5,756,817号から見出すことができる。上述の特許及び出願はすべて、あらゆる目的のためにその全体が本明細書に参照として組み込まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、APCの新しい溶媒和物フォーム及び最小限の汚染でAPCを製造する方法を提供することにより、当業界における欠点を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、半水和物フォームであるAPCの新規溶媒和物フォームの同定(identification)に関するものである。本発明はさらに、最小限の汚染でAPCを製造する方法に関するものである。本発明はまた、APCに反応する障害の治療のために増加した純度を有するAPC及び/または新規溶媒和物フォームの使用に関するものである。
【0006】
したがって、本発明は、
図1に示されているものと実質的に同一の粉末X線回折パターン及び/または約7.0、13.6、16.2、17.4、17.8、18.5、21.0、21.7、22.7、23.0、24.0、及び27.3±0.2°2θでピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とする、APC塩酸塩の溶媒和物フォームに関するものである。
【0007】
本発明はまた、アセトニトリル/水(95%/5% v/v)中でAPC塩酸塩をスラリー化する段階、及び真空ろ過(vacuum filtration)で溶媒和物を収集する段階を含む、APC塩酸塩の溶媒和物フォームを製造する方法に関するものである。
【0008】
本発明はさらに、APCを含む組成物において、組成物中のAPCの約10%未満が、本発明の溶媒和物フォームである組成物に関するものである。
【0009】
本発明はさらに、APCを含む組成物において、組成物中のAPCの少なくとも約30%が、本発明の溶媒和物フォームである組成物に関するものである。
【0010】
本発明はまた、APCで治療可能な障害、例えば、それを必要とする対象のナルコレプシー(narcolepsy)、カタプレキシー(cataplexy)、日中の過剰な眠気(excessive daytime sleepiness)、薬物中毒(drug addiction)、性機能障害(sexual dysfunction)、疲労(fatigue)、繊維筋肉痛(fibromyalgia)、注意欠陥/多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder)、下肢静止不能症候群(restless legs syndrome)、うつ病(depression)、双極性障害(bipolar disorder)または肥満を治療するか、或いはそれを必要とする対象の禁煙を促進する方法に関するものであり、これは、本発明の溶媒和物フォームを含む剤形(dosage form)を対象に投与する段階を含む。
【0011】
本発明はまた、2-クロロプロパンによる汚染を最小限に抑えながらAPC塩酸塩を製造する方法に関するものであり、上記方法は、APCをHCl水溶液の存在下で結晶化させ、APC塩酸塩の結晶を生成する段階を含む。
【0012】
本発明はさらに、本発明の方法によって製造されて純度が増加したAPCを含む組成物に関するものである。
【0013】
本発明はまた、APCで治療可能な障害を治療する方法に関するものであり、例えば、それを必要とする対象のナルコレプシー、カタプレキシー、日中の過剰な眠気、薬物中毒、性機能障害、疲労、繊維筋肉痛、注意欠陥/多動性障害、下肢静止不能症候群、うつ病、双極性障害、または肥満を治療するか、或いはそれを必要とする対象の禁煙を促進する方法に関するものであり、これは、本発明の方法により製造されて純度が増加したAPCを含む剤形を対象に投与する段階を含む。
【0014】
本発明は、本明細書の図面及び下記に記載される明細書においてより詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】APCの結晶質フォーム(crystalline form)のX-線パターン回折(X-ray pattern diffraction、XRPD)を示す。
【
図2】APCの半水和物フォームBの示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry、DSC)によるサーモグラム(thermogram)を示す。
【
図3】APCのフォームA及びBにおけるDSCサーモグラムの比較を示す図である。
【
図4】APCのフォームA及びBにおける熱重量分析(thermogravimetric、TG)によるサーモグラムの比較を示す。
【
図5】APCのフォームAからフォームBへの転換におけるXRPDパターンを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、他の形態で実現されることができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものと解釈してはならない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完璧であり、当業者に本発明の範囲を十分に伝えるために提供されるものである。例えば、一実施形態に関して記載される特徴は他の実施形態に組み込まれることができ、特定の実施形態に関して記載される特徴はその実施形態から削除されることができる。さらに、本明細書で提案される実施形態に対する多数の変形及び追加は、本発明から逸脱しない限り、本開示に照らして当業者にとって明らかである。
【0017】
特に定義しない限り、本明細書で使用されるすべての技術的、科学的用語は、本発明が属する技術分野における当業者によって一般に理解されるものと同一の意味を有する。本明細書において説明に使用される用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的としており、本発明を限定することを意図しない。
【0018】
文脈上別に指示しない限り、本明細書に記載の本発明の様々な特徴は、任意の組み合わせで使用できることを特に意図する。
【0019】
さらに、本発明の一部の実現例において、本明細書に記載の任意の特徴または特徴の組み合わせは、排除または省略され得ることを予想することができる。
【0020】
説明のために、明細書で成分A、B、Cを含む複合体を述べる場合、具体的にA、B、またはCのいずれか、またはそれらの組み合わせを意図したものであり、単独または任意の組み合わせで省略または否認されることができる。
【0021】
本明細書において言及されるすべての刊行物、特許出願、特許、及び他の参考文献は、あらゆる目的のためにその全体が本明細書に参考として含まれる。
【0022】
本明細書において使用される「a」、「an」または「the」は、1つ以上を意味することができる。例えば、「a cell」は、単一セルまたは複数のセルを意味することができる。
【0023】
また、本明細書において使用される「及び/または」は、関連する列挙された項目において1つ以上の任意の及びすべての可能な組み合わせだけではなく、代案(「または」)として解釈される場合には組み合わせの欠如を言及する。
【0024】
さらに、本明細書において本発明の化合物または製剤の量、投与量、時間、温度などといった測定可能な値を言及するときに使用される「約(about)」という用語は、特定含量の±10%、±5%、±1%、±0.5%、または±0.1%の変化も含むことを意味する。
【0025】
本発明の組成物に適用される「基本的に~からなる」(及び文法的な変形)という用語は、追加成分が組成物を物質的に変形させない限り、組成物が追加成分を含み得ることを意味する。組成物に適用される「物質的に変形された」という用語は、列挙された成分からなる組成物の治療有効性と比較して、少なくとも約20%以上の組成物の治療有効性の増加または減少を示す。
【0026】
本明細書で使用される「治療有効量」または「有効量」という用語は、調節効果を付与する本発明の組成物、化合物または作用剤の量を意味し、効果は、当業界において公知されているように、例えば、(例えば、1つ以上の症状において)対象の状態改善、状態の進行減少または遅延、障害の発症の遅延、及び/または疾患または病気などにおいて臨床的パラメータの変化を含む、障害、疾患または疾病に苦しんでいる対象に対する有益な効果となり得る。例えば、治療有効量または有効量は、少なくとも5%、例えば、少なくとも10%、少なくとも15%、少なくとも20%、少なくとも25%、少なくとも30%、少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも45%、少なくとも50%、少なくとも55%、少なくとも60%、少なくとも65%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも95%、または少なくとも100%、対象の状態を改善する組成物、化合物、または作用剤の量を意味することができる。
【0027】
「治療する(treat)」または「治療すること(treating)」または「治療(treatment)」とは、調節効果を付与する任意の作用(action)タイプを意味し、効果は、例えば、当業界において公知されているように、(例えば、1つ以上の症状において)対象の状態改善、状態の進行減少または遅延、及び/または疾患または疾病などにおいて臨床的パラメータの変化を含む、障害、疾患または疾病に苦しんでいる対象に対する有益な効果となり得る。
【0028】
「APCで治療可能な障害」とは、APCを患者に投与すると、その患者の障害の1つ以上の症状が治療される任意の障害を意味する。かかる障害の例としては、ナルコレプシー、カタプレキシー、日中の過剰な眠気、薬物中毒、性機能障害、疲労、繊維筋肉痛、注意欠陥/多動性障害、下肢静止不能症候群、うつ病、双極性障害、または肥満を含むが、これに限定されない。
【0029】
本明細書で使用される「薬学的に許容可能な」とは、生物学的または他の方式で好ましくないものではない物質を含む。即ち、上記物質は、実質的に有害な生物学的効果または組成物に含有された任意の他の成分と有害な方式で相互作用を引き起こすことなく、本発明の組成物と共に個体に投与されることができることを意味する。当業者に周知であるように、上記物質は、当然、活性成分のあらゆる分解を最小限に抑え、且つ対象におけるあらゆる不利な副作用を最小限に抑えるために選択される(例えば、レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Science);21版、2005を参照)。
【0030】
「同時に(concurrently)」とは、複合効果を生み出すのに時間的に十分に短いことを意味する(即ち、同時に(concurrently)は一緒に(simultaneously)であってもよく、または、それぞれ前後の短期間内に2つ以上の事件が発生することであってもよい)。一部の実現例において、2つ以上の化合物を「同時に」投与するとは、2つの化合物が十分に短い時間内に投与されて、一方の存在が他方の生物学的効果を変化させることを意味する。2つの化合物は、同一または異なる製剤(formulations)で、または順次に投与されることができる。同時投与は、投与前に化合物を混合するか、または2つの異なる製剤の化合物を投与することによって行われることができ、例えば、同一の時点ではあるが、異なる解剖学的部位または異なる投与経路を使用して投与することによって行われることができる。
【0031】
本発明は、フォームBと称される、APC塩酸塩の新しい溶媒和物フォームの同定及び特定に関するものである。溶媒和物フォームは半水和物フォームであり、無水フォームA(anhydrous Form A)と比較して、高い湿度レベルでより安定したフォームの化合物である。
【0032】
APC遊離塩基の構造は、下記式Iに表される。
【0033】
【0034】
したがって、本発明の一見地は、
図1においてフォームBに示されるものと実質的に同一の粉末X線回折パターン及び/または約7.0、13.6、16.2、17.4、17.8、18.5、21.0、21.7、22.7、23.0、24.0及び27.3±0.2°2θでピークを有する粉末X線回折パターンを特徴とするAPC塩酸塩の溶媒和物フォームに関するものである。一部の実現例において、溶媒和物は、示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry)によって69.1℃の温度で開始し、71.7℃の温度でピークを有する広い吸熱(broad endotherm)、及び182.5℃の温度で開始し、183.6℃の温度でピークを有する急激な吸熱(sharp endotherm)を有することをさらなる特徴とする。一部の実現例において、溶媒和物は、pH 1~6.5で約700~750mg/mlの緩衝溶液溶解度を有することをさらなる特徴とする。特定の実現例において、溶媒和物フォームは半水和物である。
【0035】
一部の実現例において、溶媒和物フォームは、アセトニトリル/水(95%/5% v/v)中でAPCをスラリー化して生産することをさらなる特徴とする。
【0036】
本明細書で使用されるように、「半水和物」という用語は、1分子の水が2分子のAPCと結合されている水和物を意味する。
【0037】
本明細書で使用されるように、「結晶質(crystalline)」という用語は、特定の化合物を含有する物質を意味し、これは水和及び/または溶媒和されたものであり、XRPDまたは他の回折技術によって識別可能な回折パターンを示すのに十分な結晶含有量を有する。
【0038】
溶媒和物フォームは、APC塩酸塩を適切な溶媒系(例えば、アセトニトリル/水(95%/5% v/v))中でスラリー化する段階、及び適した技術、例えば、真空ろ過を用いて溶媒和物結晶を収集する段階を含む方法により製造されることができる。一部の実現例において、上述の工程は、例えば、約20℃~28℃の室温で行われ、約5~10(例えば、10)体積の溶媒中で行われる。一部の実現例において、スラリー化段階は、溶媒和物が形成されるのに十分な時間、例えば、少なくとも約10時間、例えば、少なくとも約10、15、20、25、50、75、または100時間以上行われる。
【0039】
一部の実現例において、上述の工程は、約20℃の温度及び約5体積の溶媒中で行われる。一部の実現例において、スラリー化段階は、溶媒和物が形成されるのに十分な時間、例えば、約1~2時間の間行われる。
【0040】
本明細書に記載の方法により製造された湿潤フォームBは、フォームBとして維持し、フォームAは、脱水を制限するのに適した任意の方法により乾燥させることができる。一部の実現例において、乾燥は、約20℃~約25℃の温度で行われる。一部の実現例において、乾燥は減少した圧力、例えば、約600~950mbar、例えば、約700~750mbarで行われる。一部の実現例において、乾燥は、完全な乾燥を達成するのに適した時間、例えば、約4~40時間、例えば、約10~24時間の間行われる。一部の実現例において、乾燥は、例えば、80~100%の相対湿度の高い湿度で行われる。
【0041】
本発明のさらに他の見地は、APCを含む組成物、例えば、剤形に関するものであり、ここで、組成物中のAPCの約10%未満が溶媒和物フォームBである。一部の実現例において、APCの約9%、8%、7%、6%、5%、4%、3%、2%、または1%未満が溶媒和物フォームBである。一部の実現例において、剤形は、経口剤形、例えば、即時放出剤形を含む、例えば、錠剤(tablet)またはカプセルである。
【0042】
本発明のさらなる見地は、APCを含む、例えば、剤形の組成物に関するものであり、ここで組成物中のAPCの少なくとも約30%、例えば、約30%~約99%以上が溶媒和物フォームBである。一部の実現例において、少なくとも約40%、50%、60%、70%、80%、または90%のAPCが溶媒和物フォームBである。一部の実現例において、剤形は、経口剤形、例えば、即時放出剤形を含む、例えば、錠剤またはカプセルである。
【0043】
一部の実現例において、剤形は、対象に錠剤を投与した後15分未満の期間内に、そこに含有されているAPC HClを少なくとも85%、例えば、少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、または99%放出する即時放出剤形である。かかる即時放出剤形は、例えば、その全体が本明細書に参照として組み込まれている米国仮特許出願第62/383,818号に開示されている。
【0044】
即時放出製剤(formulations)を含むAPC製剤は、例えば、充填されたカプセル、圧縮された錠剤またはカプレット(caplet)、または通常の技術を用いる経口投与に適した他の剤形のような、経口投与に適した単位剤形に加工されることができる。記載のように製造された即時放出剤形は、予め選択された間隔の間に治療レベルのAPCを達成し維持するための経口投与に適合することができる。特定の実現例において、本明細書に記載のような即時放出剤形は、円形、楕円形、細長い円筒形(oblong cylindrical)、または多角形(polygonal)を含む任意の所望の形状及び大きさの固体経口剤形を含むことができる。このような一実現例において、即時放出剤形の表面は、平坦(flat)、円形(round)、凹状(concave)、または凸状(convex)であることができる。
【0045】
特に、即時放出剤形が錠剤として製造される場合、即時放出錠剤は、相対的に高い百分率及び絶対量のAPCを含有するため、多量の液体または液体/固体懸濁液(suspensions)を摂取する必要性を代替することにより、患者のコンプライアンス及び利便性が改善されることが予想される。本明細書に記載されたような1つ以上の即時放出錠剤は、例えば、短い間隔で(closely spaced)、比較的短期間内に患者に治療上有効な用量のAPCを提供するように経口摂取によって投与されることができる。
【0046】
所望または必要な場合、当業界に公知された物質及び方法を用いて、即時放出剤形の外面を、例えば、カラーコーティングまたは水分遮断層でコーティングすることができる。
【0047】
剤形は、単位剤形として投与に適したAPCまたはその薬学的に許容される塩の量を含有することができる。一部の実現例において、剤形は、約1mg~約1000mgの薬物、またはその任意の範囲または値、例えば、約10mg~約500mg、例えば、約37.5mg、約75mg、約150mg、または約300mgを含有する。
【0048】
APCまたはそれの薬学的に許容される塩は、当業界に公知された方法及び本明細書に記載の方法によって獲得または合成されることができる。APCを合成するための詳細な反応スキーム(reaction schemes)は、米国特許第5,705,640;5,756,817;5,955,499;及び6,140,532に記載されており、これらすべては、その全体が本明細書に参照として組み込まれている。
【0049】
APCの製造工程の開発中に、許可されないレベルの不純物2-クロロプロパン(即ち、イソプロピルクロライド)がAPC塩酸塩の結晶化の間に現れ得ることが見出された。これは、潜在的な遺伝毒性(genotoxic)不純物であるため、2-クロロプロパンを最小限に抑えることが好ましい。したがって、本発明の一見地は、2-クロロプロパンによる汚染が最小限に抑えられたAPC塩酸塩の改善された製造方法に関するものである。かかる改善された方法により、最終生成物中の2-クロロプロパンのレベルは、約10ppm未満、例えば、約9、8、7、6、5、4、3、2、または1ppm未満となる。
【0050】
したがって、本発明の一見地は、2-クロロプロパンによる汚染を最小限に抑えながらAPC塩酸塩を製造する方法に関するものであり、上記方法は、HCl水溶液の存在下でAPCを結晶化させ、APC塩酸塩の結晶を生成させる段階を含む。結晶化は、適した溶媒、例えば、イソプロパノール中でAPCの遊離塩基を用いて行われることができる。
【0051】
一部の実現例において、HCl水溶液は37%のHCl水溶液である。一部の実現例において、結晶化は約15℃~約40℃、例えば、約25℃~約35℃の温度で行われ、続いて0℃未満、例えば、約-5℃~約-25℃、例えば、約-15℃の温度で冷却させる。一部の実現例において、結晶は、約45℃未満、例えば、約40℃、35℃、または30℃未満の温度で乾燥される。一部の実現例において、結晶化は、約1~約1.2モル当量(例えば、約1.05モル当量)の37%HCl水溶液の存在下で、約25℃~約35℃の温度で行われ、続いて約-15℃の温度で行われる。
【0052】
本明細書に記載されているように、有効量の1つ以上の剤形を投与することによりAPCによる治療が可能な状態を治療するための方法を本明細書に開示する。例えば、本発明の剤形は、ナルコレプシー、カタプレキシー、日中の過剰な眠気、薬物中毒、性機能障害、疲労、繊維筋肉痛、注意欠陥/多動性障害、下肢静止不能症候群、うつ病、双極性障害、または肥満の治療が必要な対象を治療するか、或いは禁煙促進が必要な対象に投与することができる。例えば、米国特許第8,232,315号;第8,440,715号;第8,552,060号;第8,623,913号;第8,729,120号;第8,741,950号;第8,895,609号;第8,927,602号;第9,226,910号;及び第9,359,290であり、そして米国特許公開第2012/0004300号及び2015/0018414号を参考とし、これらそれぞれは、治療される障害に関してその全体が参照として組み込まれる。
【0053】
本明細書に開示されている剤形はまた、ホイル外皮(foil envelopes)またはブリスターパック(blister pack)のように、個々に包装されることができる錠剤またはカプセルのような複数の即時放出錠剤またはカプセルを含む容器を含むキットとして提供されることができる。錠剤またはカプセルは、乾燥剤または他の物質の有無にかかわらず、水の浸入を防止するために多くの構造(conformation)で包装されることができる。予め選択された時間の間に生体内で所望のレベルのAPCを算出し、予め選択された状態を治療するために、投与、例えば、予め選択された期間及び/または予め選択された間隔の間に順次投与するために印刷されたラベルのような指示資料または手段がさらに含まれることができる。
【0054】
約1~約2000mgのAPCまたはそれの薬学的に許容される塩の1日用量を投与することにより、本明細書に開示されている治療結果を達成することができる。例えば、約10~1000mg、例えば、約20~500mgの1日用量が、単一または分割された用量で投与される。一部の実現例において、1日用量は、約0.01~約150mg/kg体重、例えば、約0.2~約18mg/kg体重であることができる。
【0055】
本発明の一実現例において、APCは、障害を治療するために必要に応じて対象に投与される。化合物は、連続的にまたは断続的に投与されることができる。一実現例において、化合物は、1日に1回以上、例えば、1日に2、3回または4回、または1、2、3、4、5、6日または7日に1回投与される。他の実現例において、化合物は、1週間に1回のみ、例えば、2週間に1回のみ、1ヶ月に1回、2ヶ月に1回、3ヶ月に1回、4ヶ月に1回、5ヶ月に1回、6ヶ月に1回、またはそれ以上、対象に投与されることができる。さらなる実現例において、化合物は、2つ以上の異なるスケジュールを使用して、例えば、初期にはより頻繁に(例えば、特定のレベルまで形成されるように、例えば、1日1回以上)、その次は、少ない頻度(例えば、一週間に1回以下)で投与されることができる。他の実現例において、化合物は、任意の不連続投与療法により投与されることができる。一例として、化合物は、3日毎、4日毎、5日毎、6日毎、7日毎、8日毎、9日毎または10日毎、またはそれ以上、1回のみ投与されることができる。投与は1、2、3週間または4週間、または1、2ヶ月または3ヶ月、またはそれより長く持続することができる。選択的に、休息期間後に、化合物は同一または異なるスケジュール下で投与されることができる。対象に対する化合物の薬力学的効果(pharmacodynamic effects)に従って、休息期間は1、2、3週または4週、またはそれ以上であることができる。さらに他の実現例において、化合物は、特定のレベルまで形成されるように投与されることができ、その後に一定のレベルに維持されてから、テーリング用量(tailing dose)に維持されることができる。
【0056】
本発明の一見地において、APCは追加の治療剤と同時に対象に伝達される。追加の治療剤は、化合物と同一の組成物または別の組成物として伝達されることができる。追加の治療剤は、化合物と比較して異なるスケジュールまたは異なる経路によって対象に伝達されることができる。追加の治療剤は、対象に利益を提供することができる任意の作用剤(agent)であることができる。追加の作用剤には、興奮剤、抗精神病剤、抗うつ剤、神経障害作用剤、及び化学治療剤が含まれるが、これに制限されない。同一の期間中に投与されることができる治療剤の1つとしては、Jazz製薬会社から商業的に販売されているXyrem(商標)があり、これはナルコレプシー及びカタプレキシーの治療に使用される。これについては、米国特許第8,952,062号及び第9,050,302号を参照する。
【0057】
本発明は、獣医学及び医学分野だけでなく、研究分野でも使用される。適する対象は、一般的に哺乳動物である。本明細書で使用される「哺乳動物」という用語は、ヒト、非ヒト霊長類、牛、羊、ヤギ、豚、馬、猫、犬、ウサギ、げっ歯類(例えば、ラットまたはマウス)などを含むが、これらに限定されない。ヒトの対象には、新生児、乳児、青少年、成人及び老人が含まれる。
【0058】
特定の実現例において、対象は、APCで治療可能な障害を有するヒトである。他の実現例において、本発明の方法に用いられる対象は、APCで治療可能な障害の動物モデルである。
【0059】
対象は、本発明の方法を「必要とする」対象、例えば、本発明の方法の治療効果を必要とする対象であることができる。例えば、対象は、APCで治療可能な障害を患っており、APCで治療可能な障害を有することが疑われ、及び/またはAPCで治療可能な障害を経験することが予想される対象であることができる。そして、本発明の方法及び組成物は、治療及び/または予防的治療に使用される。
【0060】
本発明は、次の制限されない実現例においてより詳細に説明される。
【0061】
実現例1
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の溶媒和物フォーム
【0062】
様々な固体フォームとして存在する傾向を評価し、化合物の安定したフォームを決定するために、APCの多形体及び溶媒和物スクリーンを行った。APCの4つのロット(lots)は部分的に特徴付けられた。すべてのロットは、同一の無水、結晶性物質であることが判明し、物質はフォームAと命名した。
【0063】
熱力学及び動力学条件の両方を調査する、結晶核形成(nucleation)及び成長の条件を変えるために、異なる結晶化技術を用いてAPCの多形体及び溶媒和物スクリーンを行った。様々な化学的特性を有する溶媒系が使用され、選択された実験は、具体的に工程溶媒に重点を置いた。また、選択された実験は遊離塩基を使用し、一塩酸塩を標的とする塩形成実験を介して行われた。
【0064】
結晶質半水和物フォームを同定し、フォームBと命名した。フォームBは、室温でアセトニトリル:水(95%:5% v:v)のスラリーから製造された。フォームBはまた、周囲以下(subambient)の温度でp-ジオキサン:水(95%:5% v:v)のスラリーから製造された。フォームBはまた、エタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、メタノール、及び/または水中でのクラッシュ(crash)沈殿及び蒸発のような様々な実験からのフォームAまたは他の結晶質物質との混合物として観察された。約75%の湿度(RH)でフォームAをストレッシング(stressing)した後にフォームBへの部分的転換も観察された。
【0065】
フォームBのXRPDパターンは、
図1に示されている。フォームBの示差走査熱量測定法(differential scanning calorimetry)によるサーモグラムは、69.1℃(開始)、71.7℃(最大ピーク)の温度で広い吸熱を示した(
図2)。吸熱は約0.5モルの水を計算するTGサーモグラムにおいて対応する3.5%の重量減少と関連している。このような現象は脱水によるものと考えられる。182.5℃(開始)、183.6℃(最大ピーク)の温度で観察される急激な吸熱、及び以後に185.2℃の温度で観察される発熱は、再結晶化現象に起因するものと考えられる。次いで190.1℃(最大ピーク)の温度で吸熱が観察された。フォームA及びフォームBのDSC及び熱重量分析(TG)サーモグラムの比較が
図3及び
図4に示されている。
【0066】
カール・フィッシャー(Karl Fischer)分析によると、フォームBが~3.71重量%の水または約0.5モルを含有することを示した。このデータは、TGサーモグラムで観察された重量減少と一致する。
【0067】
フォームBの顕微鏡画像を撮影した結果、細長い板(~50~100μm)及びより小さい断片が見られた。
【0068】
表1に示されているように、フォームBの水溶液溶解度(aqueous solubility)は、異なるpH緩衝液において700mg/mlを超えることが測定された。
【0069】
【0070】
単結晶構造の分析のためにAPCの結晶を提出した。構造は、単結晶X-線回折により決定された。単斜晶系セル(monoclinic cell)パラメータ及び計算された体積は以下の通りである:a=15.9491(8)Å;b=5.8431(6)Å;c=12.7663(12)Å;β=94.404(5)°(α=γ-90°);V=1186.21(18)Å3。APCフォームBの結晶構造において、非対称単位の化学式量はZ=4である239.70g mol-1であり、計算された密度は1.342g cm-3である。空間群(space group)はC2(no.5)と決定された。空間群と単位セルパラメータは、予め獲得したフォームBのXRPDインデクシング(indexing)と一致する。
【0071】
適切に相対的なRHが達成されると、フォームAはフォームBに転換される。フォームA及びフォームBで行われた相互変換スラリー実験は、フォームBが室温で約50%RHまたはそれ以上でより安定したフォームであることを示唆する。
【0072】
スラリー実験は、フォームAのみで開始し、またAPCで相互転換されるスラリーまたは予め飽和溶液で行ってから、同一の量のフォームA及びフォームBを添加することにより行うことができる。フォームAのみをスラリー化する場合、室温でのフォームBへの転換は67%RHで発生し、2~8℃の温度では40%RHで発生した。相互変換スラリーにより、フォームBは、50%~70%の相対湿度を有するすべての実験から分離された。
【0073】
フォームAからフォームBへの転換が一晩で可能であるかどうかを評価するために、アセトニトリル:水(95%:5% v:v)中で2つの小規模実験を行った。実験は、約98mg/ml及び約51mg/mlで行われた。約24時間の間スラリー化した結果、両方の試験ではフォームBが現れた。これは、フォームAからフォームBへの転換動力が24時間以内に起こり得ることを示す(
図5)。
【0074】
乾燥研究は、フォームBで行われた。乾燥実験は、真空の有無にかかわらず、様々な温度で行われた。ミリング(milling)、乾燥剤下での保管、及び低RHストレッシング(stressing)がさらに行われた。すべての実験において、フォームBは、部分的または完全に脱水してフォームAとなる。フォームAへの部分変換は、周囲(ambient)温度で1日間真空乾燥、1日間40℃で加熱、1日間乾燥剤下で保管、及び2週間33%RHでストレッシングした後に発生した。フォームAへの完全な脱水は、1日間50℃で真空乾燥、1日間80℃で加熱、及びミリングした後に発生した。フォームBの乾燥研究結果は、フォームBが低RHまたは上昇した温度下で安定しないことを示唆する。
【0075】
フォームBを生産するために規模を拡大した方法が開発された。APCをアセトニトリル:水(95%:5% v:v)中で温度を22℃に維持しながらスラリー化した。スラリーのサブサンプルを定期的に採取し、真空ろ過し、XRPDで分析した。フォームBと微量のフォームAの混合物が約20~28.5時間で観察されることが分かった。20時間で採取したサブサンプルと比較して、24時間で採取したサブサンプルではフォームAの増加が観察された。これは、真空ろ過及び低い大気湿度によって引き起こされる脱水によるものと考えられる。スラリーをさらに3日間攪拌し、さらに他のサブサンプルを採取した。XRPD分析は、約91時間で採取したサブサンプルがフォームBであることを示した。約121.5時間スラリー化した後、真空ろ過によりスラリーを分離させ、湿潤ケーキを2つのろ過ケーキ体積のアセトニトリル:水(95%:5% v:v)で洗浄した。XRPD分析は、湿潤ケーキがフォームBからなることを示した。湿潤ケーキを周囲温度で真空下で約16時間の間乾燥した。XRPD分析は、乾燥した物質が混合物中に約5%のフォームAを有する、フォームAにわずかに脱水したことを示した。脱水は、真空を行うことなく乾燥させるか、または高RH(約75%)下で乾燥させることによって回避することができる。
【0076】
フォームBと微量のフォームAの混合物はまた、水含量の決定のためのカール・フィッシャー(Karl Fischer)と、溶媒含量(convent)の判断のための1H NMR溶液によって特徴付けられた。カール・フィッシャー分析は、混合物がAPCモル当たり0.47モルの水または約3.52%の水を含有していることを示した。1H NMRスペクトルは、APCの構造と一致した。水及び微量のアセトニトリル(APCモル当たり0.003モル)もスペクトルで観察された。
【0077】
反応時間及び体積を減少させ、収率を増加させるフォームBを生産するために、規模をさらに拡大した方法が開発された。フォームAからフォームBへの分離は、約20℃温度で約1~2時間の間、5体積の溶媒(アセトニトリル:水(95%:5% v:v))中で行った。乾燥工程は、20~25℃のオーブン温度及び低い真空(700~750mbar)で行われた。かかる乾燥条件下でフォームBは安定し、検出可能なフォームAは形成されなかった。この方法を4.5kgのAPCバッチ(batch)で使用し、生産されたフォームBの収率は93.7%であった。
【0078】
実現例2
最小限の2-クロロプロパンを有する(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩の合成
【0079】
初期に、遊離塩基からのAPC塩酸塩の大規模製造は、次のように行われた。最終濃度が19%w/wとなるように、イソプロピルアルコール中のAPC遊離塩基溶液をイソプロピルアルコールで希釈した。水(37g/mol)を添加し、溶液を70℃に加熱した。気体状HCl(約2当量)を流量計(flow meter)を用いて溶液の上部のヘッドスペース(headspace)に添加した。HClが溶解されることによって、温度は75~80℃に上昇した。透明な(clear)過飽和溶液を添加した後、15分以内に迅速にシーディング(seeded)した。APC塩酸塩が結晶化した。懸濁液を78℃で攪拌してから、10時間の間40℃の温度に冷却させた。懸濁液を20℃に冷却し、その後に2時間以内に3℃にさらに冷却し、この温度で1時間撹拌した。固体をろ過により回収し、イソプロピルアルコールで洗浄した。湿潤ケーキを減少した圧力下で少なくとも16時間以上乾燥させた。
【0080】
この方法では、許可できないレベルの潜在的な遺伝毒性不純物である2-クロロプロパン(2-CP)が生成されたが、2-CPは優先的には5ppm未満のレベルである。上記レベルは、過酷な結晶化条件に起因するものと考えられる(HClを反応混合物の沸点に近く充填させ、78℃で1時間攪拌してから10時間の間40℃の温度で冷却させた後、3℃の温度に徐々に冷却させる)。上昇した温度で結晶を乾燥させても、2-CPの量は減少させることができなかった。結晶を再スラリー化しても効果がなかった。
【0081】
一旦形成された2-CPの除去が困難であることを考慮すると、2-CPの形成を回避けるために結晶化条件を修正することが必要である。イソプロピルアセテート中のAPC遊離塩基から始めて2-CPの形成を防止したが、結晶化が十分に制御されず、反応器に厚いクラスト(crust)が生成され、非常に小さい結晶を生成するため、条件が適さなかった。低い温度(30~35℃)でHClガスを充填することは、2-CPの形成を制御するが、結晶化が十分に制御されず、反応器に厚いクラスト形成され、より少ない結晶質物質を生成するため、条件が適さなかった。
【0082】
HClをガスの形態で充填することは、評価された条件において不要な自発的な結晶化を引き起こすため、HClを37%水溶液の形態で添加して試験を行った。このプロトコルは、水の総量を37g/molから65g/molに1.76倍増加させ、生成された懸濁液を、収率を最大にするためにより低い温度に冷却しなければならなかった。しかし、より低いモルの過量の酸と結合されたより多くの量の水(2モル当量に比べて1.05モル当量)及び低い温度は、2-CPの形成速度を最小化するのに寄与する。
【0083】
次のような一般的なプロトコルが開発された。イソプロピルアルコールにおいてAPC遊離塩基溶液が最終濃度19重量%となるようにイソプロピルアルコールで希釈した。透明な溶液を25℃(20~30℃)まで加温(warmed up)した。37%HCl水溶液を透明な溶液にゆっくり添加した。温度を30℃に上昇させた。その後にすぐにシーディング(seeding)を適用した(15分以内に)。透明な溶液を30℃の温度で15分間攪拌することにより、APC塩酸塩がゆっくり結晶化し始めた。37%HCl水溶液を懸濁液にさらに添加した。混合物を30℃で1時間攪拌した後、2時間以内に-15℃の温度に冷却させ、この温度で1時間撹拌した。生成物を白色結晶質固体として回収し、イソプロピルアルコールで洗浄した。湿潤生成物は、窒素ストリーム下、35℃(30~40℃)で乾燥した。
【0084】
一例として、APC遊離塩基16.9g、0.0871モルの溶液をイソプロピルアルコール(43.8g)で希釈し、30℃まで加温した。温度を35℃以下に維持しながら、37%HCl水溶液(4.51g、0.0458モル、0.525モル当量)を滴状(dropwise)添加した。APC塩酸塩(22mg)を透明な溶液に添加した。溶液は、ほとんどすぐに濁った。15分後に懸濁液を獲得した。反応器の壁の周囲には結晶化が起こらなかった。さらに37%のHCl水溶液(4.51g、0.0458モル、0.525モル当量)を35℃の温度以下に維持しながら滴状添加した。懸濁液を充填した後、30℃で1時間攪拌し、2時間以内に-15℃の温度に冷却させ、この温度で2時間攪拌した。生成物をろ過して回収し、IPA(16.7g)で洗浄し、35℃、30~50mbarで空気流下で17時間乾燥させた。16.87gの生成物が回収された(収率83.96%)。結晶化は、非常に円滑に起こった。生成物は、白色結晶質粉末であった。2-CPは発見されなかった。
【0085】
同一のプロトコルを使用して、2つの追加バッチを製造した。2つのバッチはともに、生成物中の2-CPのレベルは1ppm未満であった。
【0086】
上記内容は本発明の例示であり、これを制限するものと解釈してはならない。本発明は、次の請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等物もここに含まれる。本明細書で引用されるすべての刊行物、特許出願、特許、特許公開、及びその他の参照文献は、その参照が提示されている文章及び/または段落に関連する教示のために、その全体が参照として組み込まれる。
【手続補正書】
【提出日】2024-09-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物であって、
前記(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩中の2-クロロプロパンの含量は、1ppm未満である、
組成物。
【請求項2】
組成物は剤形として提供される、請求項1に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項3】
組成物は即時放出経口剤形として提供される、請求項2に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項4】
組成物は、錠剤またはカプセルとして提供される、請求項3に記載の(R)-2-アミノ-3-フェニルプロピルカルバメート塩酸塩を含む組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物であって、それを必要とする対象のナルコレプシー(narcolepsy)、カタプレキシー(cataplexy)、日中の過剰な眠気(excessive daytime sleepiness)、薬物中毒(drug addiction)、性機能障害(sexual dysfunction)、疲労(fatigue)、繊維筋肉痛(fibromyalgia)、注意欠陥/多動性障害(attention deficit / hyperactivity disorder)、下肢静止不能症候群(restless legs syndrome)、うつ病(depression)、双極性障害(bipolar disorder)または肥満を治療するか、或いはそれを必要とする対象の禁煙を促進するための、
組成物。
【請求項6】
1日1回投与される、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
1日2回以上投与される、請求項5に記載の組成物。
【外国語明細書】