(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178335
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ゲランガムおよびフェニレフリンに基づく組成物、製造方法、ならびに眼科用生成物としての使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/137 20060101AFI20241217BHJP
A61K 31/4409 20060101ALI20241217BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20241217BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20241217BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20241217BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20241217BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241217BHJP
A61K 9/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A61K31/137
A61K31/4409
A61K47/36
A61K47/12
A61K47/38
A61K9/08
A61P27/02
A61K9/06
【審査請求】有
【請求項の数】31
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024164385
(22)【出願日】2024-09-20
(62)【分割の表示】P 2021564813の分割
【原出願日】2020-04-30
(31)【優先権主張番号】1904602
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】521475886
【氏名又は名称】ユニター ファーマシューティカルズ
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】デストルエル,ピエール-ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ボウディ,ヴィンセント
(72)【発明者】
【氏名】チェン,ニ
(72)【発明者】
【氏名】ミニェ,ナタリー
(72)【発明者】
【氏名】モーリ,マーク
(57)【要約】 (修正有)
【課題】眼と接触してゲル化が可能な組成物を提供する。
【解決手段】少なくともゲランガムおよびフェニレフリンを含む特定の組成物を提供する。そのような組成物を製造するための特定の方法、および特に散瞳眼科用生成物としてのその使用を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともゲランガム及びフェニレフリンを含む組成物。
【請求項2】
前記組成物が20~25℃の温度で500mPa・s以下の粘度を有する溶液の形態であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物が最大でも0.6%のゲランガムを含み、前記パーセンテージがゲランガムの重量/組成物の体積によって求められることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物が0.1~0.5%のゲランガムを含み、前記パーセンテージがゲランガムの重量/組成物の体積によって求められることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記組成物が少なくとも0.1%のフェニレフリンを含み、前記パーセンテージがフェニレフリンの重量/組成物の体積によって求められることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物が0.1~10%のフェニレフリンを含み、前記パーセンテージがフェニレフリンの重量/組成物の体積によって求められることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、フェニレフリンおよびゲランガムに加えて少なくとも1つの他の構成要素を含むことを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物がトロピカミドも含むことを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が少なくとも0.1%のトロピカミドを含み、前記パーセンテージがトロピカミドの重量/組成物の体積によって求められることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が0.1~10%のトロピカミドを含み、前記パーセンテージがトロピカミドの重量/組成物の体積によって求められることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
少なくとも1つのゲル化調節剤を更に含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ゲル化調節剤は、有機酸、キレート剤、及びそれらの混合物から選択されることを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記組成物が少なくとも1つの抗酸化剤も含むことを特徴とする、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記ゲル化調節剤及び/又は前記抗酸化剤が、少なくともクエン酸ナトリウム、有機酸、又は有機酸塩であることを特徴とする、請求項11~13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記組成物が、0.01%~0.2%のクエン酸ナトリウム、有機酸、又は有機酸塩を含み、前記パーセンテージは前記組成物の体積に対する重量によって求められる、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記組成物が少なくとも1つのセルロース誘導体も含むことを特徴とする、請求項1~15のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記組成物がヒドロキシエチルセルロース及び/又はヒドロキシプロピルメチルセルロースを更に含むことを特徴とする、請求項1~16のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
前記組成物が水を更に含むことを特徴とする、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
眼科用生成物としてのその使用のための、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項20】
前記組成物は眼科用製品として用いられ、涙液中に含まれる一価カチオンおよび二価カチオンの効果の下で、眼の表面上に落とされるとゲル化することを特徴とする、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
散瞳眼科用製品として用いられる、請求項19又は請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
ヒトまたは動物の眼において用いられる、前記眼の手術前または前記眼の検査前に散瞳を誘発する、請求項19~21のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項23】
10分未満で散瞳を誘発する、ヒトまたは動物の眼に用いられる、請求項19~22のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項24】
120分間を超えて続く散瞳を誘発する、ヒトまたは動物の眼に用いられる、請求項19~23のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項25】
眼に少なくとも1滴を適用するように用いられる、請求項19~24のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項26】
眼病理の治療における医薬として用いられる、請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項27】
ぶどう膜炎および/または角膜炎の治療に用いられる、請求項1~26のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項28】
請求項1~18のいずれか一項に記載の組成物の調製方法であって、以下の工程:
少なくともゲランガムを含む溶液Aを調製する工程a;
少なくともフェニレフリンを含む溶液Bを調製する工程b;
前記溶液Aと前記溶液Bを混合する工程cであって、
前記溶液A及び前記溶液Bの混合物の総重量の重量でパーセンテージで求めた場合に、
前記溶液Aは20%~40%であり、
前記溶液Bは60%~80%である、工程c
を包含する調製方法。
【請求項29】
前記工程cにおいて、前記溶液Aを前記溶液Bに注ぐように混合される、請求項28に記載の調製方法。
【請求項30】
前記溶液Aは、キレート剤、有機酸、抗酸化剤、及び/又は水を更に含み、
前記溶液Bは、トロピカミド、セルロース誘導体、及び/又は水を更に含む
請求項28又は請求項29に記載の調製方法。
【請求項31】
前記工程aは以下の工程:
水に前記ゲランガムを撹拌しながら溶解させ、任意選択的に、前記キレート剤、前記有機酸、及び/又は前記抗酸化剤を更に溶解させる工程a1;
前記工程a1で得た溶液を撹拌しながら60℃~90℃に加熱する工程a2;
撹拌したまま1分~15分放置する工程a3;
前記工程a3の後、前記溶液が15℃~30℃になるまで撹拌したまま放置する工程a4;
任意選択的に、滅菌ろ過する工程a5
を包含し、
前記工程bは以下の工程:
水に前記フェニレフリンを溶解させ、任意選択的に、前記トロピカミドを更に溶解させる工程b1; 前記工程b1において、溶液が完全に溶解するまで1時間~3時間の間撹拌する工程b2;
任意選択的に、前記セルロース誘導体を溶解する工程b3;
任意選択的に、滅菌ろ過する工程b4
を包含し、
前記工程cは以下の工程:
前記溶液Aを撹拌する工程c1;
前記溶液Aを撹拌しながら前記溶液Bに加える工程c2;
均一な混合物が得られるまで撹拌を続ける工程c3
を包含する、請求項28~30のいずれか一項に記載の調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、それが眼の上に落とされたときにゲル化することができる特定の組成物、および眼科用生成物としての、特に眼の散瞳を誘発するためのその使用に関する。本発明はまた、かかる組成物の製造のための特定の方法に関する。
【0002】
多くの眼科検査または白内障手術などの眼の手術では、散瞳としても知られる瞳孔の拡張が必要である。
【0003】
散瞳を引き起こすことが可能ないくつかの分子が知られている。
【0004】
特にフェニレフリン、より具体的には塩酸フェニレフリンがそうである。フェニレフリンは、α1受容体に対してより高い親和性を有するα-アドレナリン受容体作動薬であり、α1受容体は主に瞳孔内に位置する。これにより、放射状拡張器筋の収縮を通じて活性型散瞳を得ることができる。フェニレフリンは通常、Neosynephrine(登録商標)の名で点眼薬に使用される。
【0005】
その散瞳作用で知られている別の分子は、主に虹彩に位置するM4受容体の競合的アンタゴニストであるトロピカミドである。トロピカミドの散瞳効果は、最初の点眼液を塗布した10分後に観察される。トロピカミドは通常、Mydriaticum(登録商標)の名で点眼薬に使用される。
【0006】
散瞳を誘発するために、他の2つの分子を使用することができる:
-アトロピンであるが、これは全身レベルで著しい副作用を示す、
-シクロペントラートであるが、これは短時間の効果があり、視覚的な調整を遮断する。
【0007】
従来、瞳孔拡張を達成するために、フェニレフリンおよびトロピカミドの組み合わせを使用することが知られている。この組み合わせは、瞳孔の効率的な拡張を可能にするために相乗的に作用する。これらの分子を使用して散瞳を誘発するための様々な方法が知られている。
【0008】
最も古典的な方法は、液体溶液中の2つの点眼薬(Mydriaticum(登録商標)すなわちトロピカミド0.5%、およびNeosynephrine(登録商標)10%すなわちフェニレフリン10%)の組み合わせで構成されている。しかしながら、従来の点眼剤の形態での投与は、一般に、トロピカミドおよびフェニレフリンの非常に低い眼のバイオアベイラビリティをもたらす。眼の生理学的防御機構、特にまぶたのまばたきおよび鼻涙液ドレナージは、眼表面の迅速な除去を引き起こし、これは経時的な反復投与によって補償されなければならない散瞳効果の持続時間を減少させる。効果的な散瞳を誘発するためには、30~45分間にわたって、各滴の間に5分間の間隔で3~5滴の点眼剤を投与する必要がある。したがって、これは患者管理時間が長く、大過ぎる量の生成物を投与し、病院の構造にとって看護時間にかかる顕著なコストにつながる、制限的なプロトコルである。加えて、眼の生理学的防御機構はまた、全身レベルで高い吸収を引き起こし、副作用につながる可能性がある。特に、全身レベルでのフェニレフリンの存在は、強い血管収縮および反射性徐脈を引き起こし、熱障害または不整脈を既に患っている患者において深刻であり得る。
【0009】
別の方法は、フェニレフリンおよびトロピカミドの固体挿入物の投与に依存する。挿入物は浸透圧錠剤であり、医療専門家によって下部結膜嚢に配置され、予想される散瞳効果を得るために30~45分間所定の位置に維持しなければならない。その後、投与後最大2時間以内に医療専門家が挿入物を取り外す必要がある。したがって、患者のケア時間も長く、浸透圧錠剤のコストも高い。
【0010】
最後に、最近市販されているトロピカミド、フェニレフリンおよびリドカインの前眼房注射からなる第3の方法がある。ただし、この生成物は定期的な検査には使用できず、その投与方法およびその組成物中に麻酔剤が存在するため、術前の段階で推奨されるにすぎない。加えて、眼内注射は、術前散瞳であっても、患者にとってリスクを伴う複雑な処置であり、かなりのコストがかかる。
【0011】
また、使用しやすく安価な効率的かつ迅速な散瞳効果を示すことができる生成物に対する大きな必要性が存在する。
【0012】
本発明の目的は、眼と接触してゲル化が可能な組成物を提供することによって、この必要性を満たし、従来技術の欠点を克服することである。
【0013】
この目的のために、本発明の主題は、少なくともゲランガムおよびフェニレフリンを含む組成物である。少なくともこれらの2つの分子の組み合わせにより、組成物が液体形態であり、イオン環境における変動により、眼と接触してゲル化することが可能になる。したがって、液相は、組成物を拡散させ、固体形態よりも大きな吸収面を有することを可能にし、ゲル相は、眼表面上の組成物の滞留時間を延長することを可能にする。これにより、フェニレフリンおよび組成物中に存在する任意の他の分子の容易な投与および高い眼のバイオアベイラビリティが可能になる。加えて、組成物は、特に、その低粘度のため、有利に、低い工業的製造コストを有する。
【0014】
特に、本発明の対象は、20~25℃の温度で500mPa.s以下の粘度を有する溶液の形態の組成物であり、少なくとも
-ゲランガムと、
-フェニレフリンと、
-クエン酸ナトリウム、有機酸、有機酸の塩、およびそれらの混合物から選択されるゲル化調節剤と、を含む。
【0015】
したがって、本発明の主題はまた、非治療用眼科用生成物、特に散瞳剤としてのそれらの使用のための組成物、または特定の眼科病理の治療のためのそれらの使用のための組成物の使用でもある。
【0016】
有利には、本発明に従う組成物は、従来技術の慣用的な点眼薬についてのいくつかの注入(2~8滴)と比較して、液体形態の1または2滴の単回投与で有効な散瞳を得ることを可能にする。したがって、フェニレフリンの量、およびそれが存在する場合のトロピカミドの量は、従来技術に従う点眼薬を使用する場合に必要とされる量の4~8倍よりも少なく、したがって、局所および全身性の副作用のリスクへの曝露は、患者にとって低い。さらに、本発明は、10分未満で散瞳の最適な強度および持続時間を得ることを可能にする。さらに、本発明に従う組成物の眼への単一の滴下は、有効な散瞳を得るのに十分であるため、高度な資格を有する要員を利用する必要はない。
【0017】
したがって、本発明に従う使用は、容易、安全、および再現可能である。
【0018】
他の特徴および利点は、以下に続く本発明の詳細な説明から明らかになるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0019】
したがって、本発明は、少なくともゲランガムおよびフェニレフリンを含む眼科用組成物に関する。「眼科用」という用語は、ヒトまたは動物の眼での使用に適していることを意味する。
【0020】
特に、本発明の対象は、20~25℃の温度で500mPa.s以下の粘度を有する溶液の形態の組成物であり、少なくとも
-ゲランガムと、
-フェニレフリンと、
-クエン酸ナトリウム、有機酸、有機酸の塩、およびそれらの混合物から選択されるゲル化調節剤と、を含む。
【0021】
好ましくは、組成物はまた、溶媒、好ましくは水を含む。
【0022】
組成物は、低粘度、すなわち、20℃~25℃の温度で500mPa.s以下の粘度、好ましくは20℃~25℃の温度で10mPa.s~500mPa.sの粘度を有する溶液の形態である。本発明に従う組成物は、ずり流動化である特性を示すことができ、つまり、その粘度は、生成物が剪断されるときに変化する。好ましくは、本発明に従う組成物は、
-低剪断で、25℃で粘度300~400mPa.s、
-高剪断で、25℃で粘度3~50mPa.s、を示す。
【0023】
全てのレオロジー解析をAnton Paar MCR102レオメータ上で行い、全てのデータを専用のソフトウェアを使用して解析した。幾何学形状は、試料の均質な剪断を提供したステンレス鋼円錐/平面(直径50mm、角度1°およびエアギャップ100μm)であった。コーンには、測定中の蒸発を防止するための溶媒トラップが装備されていた。プレート下部にPeltierダイオードを配置することにより、0.1℃の精度で温度を制御することができた。本明細書に提示された全ての粘度値は、この方法によって得られた。
【0024】
溶液は、そのイオン環境が変化するとゲル化することができる。したがって、組成物は、眼の表面上に落とされると、涙液に含まれる一価および二価カチオン、特にカルシウムおよびマグネシウムの効果の下でゲル化形態に変換される。眼表面に到達すると、本発明に従う組成物は、液体状態からゲル状態に通過する相転移を示す。このインサイチュゲル化により、本発明に従う組成物の眼表面への滞留時間の延長が可能となる。驚くべきことに、投与時のイオン強度の低下にもかかわらず、液体ゲル相転移が得られる。これは、本発明に従う組成物が涙液よりも高い張力を有し、結果としてイオン強度の低下中にゲル化があるため可能である。この張力は、特に、クエン酸ナトリウム、有機酸、および有機酸塩から選択される少なくとも1つのゲル化調節剤の存在に関連している。
【0025】
液相は有利に、
-眼への送達性、安全性、および投与の容易性、
-接触面の広がりおよび増加、
-簡単な製造および滅菌、を可能にする。
【0026】
ゲル相は有利に、
-粘膜接着、
-眼表面上の長い保持時間、
-長期化および制御されている放出、を可能にする。
【0027】
投与すると、本発明に従う組成物は直ちに液体状態からゲル状態に変化する。これらの急速なゲル化動態は、液体状態での組成物の排除を防止することを可能にする。加えて、本発明に従う組成物は、涙液およびまぶたのまばたきにおける希釈にもかかわらず、その機械的および流動的特性を保持しながら、長時間、眼表面と接触したままにすることができる。この長時間の接触は粘膜接着現象によって強化される。これらの特徴は、フェニレフリンおよび任意の他の活性分子を有効濃度で経時的に迅速かつ持続的に放出することを可能にする。
【0028】
別の利点によれば、フェニレフリンの散膜活性および組成物中に存在する任意の他の活性分子の活性が保存される。
【0029】
加えて、本発明に従う組成物は、眼表面に無害であり、かつ患者の視覚に干渉しない。
【0030】
これらの特徴および利点はすべて、フェニレフリンと組み合わせたゲランガムの特定の選択に関連している。ゲル化可能な溶液中で使用されることが知られているポリマーは確かに多く存在するが、ゲランガムのみがこれらの特徴のすべてを満たすことを可能にする:
-活性物質の眼投与のための選択ベクターを構成し、
-生体由来であり、生体適合性および生分解性を有するように糖類の性質を有し、
-その四糖ユニット上に存在する酢酸塩およびグリセリン酸塩基により、中性pHで負に荷電したポリ電解質であり、
-その多糖鎖は、非常に低い濃度でも好適な粘弾性特性を提供する一時的かつ可逆的な三次元ネットワークに組織されている、水性媒体中に可溶性であり、
-そのずり流動化性は、まぶたのまばたき中の刺激のリスクを低減することによって良好な局所耐性を可能にし、その非異方性挙動は、各まぶたの剪断後にその初期粘度を再構成および回復させることを可能にし、
-粘着力があり、
-その粘度および弾性は、眼表面におけるその持続性を促進し、長期間の滞留を可能にし、
-患者の視力を維持することを可能にする、澄んだかつ透過性ゲルを形成し、
-持続放出特性を付与する、カチオンの存在下でゲル化中にマトリックスネットワークを形成し、
-眼に害はない。
【0031】
好ましくは、ゲランガムは脱アセチル化ガムである。脱アセチル化形態により、透明なゲルを得ることができる。例えば、例えばKELCOGEL CG-LA(登録商標)である。ゲランガムは、任意選択で、アセチル化ゲランガムであり得る。例えば、例えばKELCOGEL CG-HA(登録商標)である。
【0032】
本発明に従う組成物は、好ましくは、最大0.6%のゲランガム(ゲランガムの重量パーセンテージ/組成物の体積)、特に0.05~0.6%(両端を含む)、特に0.1~0.6%(両端を含む)、および特に0.1~0.5%(両端を含む)を含む。非常に好ましくは、本発明に従う組成物は、0.05~0.25%のゲランガム(ゲランガムの重量パーセンテージ/組成物の体積)、特に0.1~0.5%を含む。
【0033】
本発明に従う組成物の効果および特徴を得るために、これらの濃度のゲランガムが好ましい。
【0034】
本発明に従う組成物は、好ましくは、少なくとも0.1%のフェニレフリン(フェニレフリンの重量パーセンテージ/組成物の体積)、さらにより好ましくは0.1~10%を含む。これらのフェニレフリン濃度は、本発明に従う組成物中のゲランガムとの分子の会合と適合し、また、副作用なしで有効な散瞳効果を得ることを可能にする。
【0035】
好適な実施形態によれば、フェニレフリンは、フェニレフリンの塩、特にフェニレフリン塩酸塩である。
【0036】
本発明に従う組成物は、ゲランガム、フェニレフリンおよび任意選択の溶媒に加えて、組成物が眼の上に落とされるとゲル化相を促進するゲル化調節剤も含む。本発明に従う組成物は、好ましくは、特にクエン酸ナトリウム、有機酸、有機酸の塩およびそれらの混合物から選択される少なくとも1つのゲル化調節剤を含む。好ましくはクエン酸ナトリウムである。クエン酸ナトリウムは、原液の調製中にゲランガム鎖のより良い水和を可能にする。カチオンキレート剤としての性質により、ゲランガムに含まれる残留カチオンを捕捉することができる。したがって、カチオンの非存在下では、ゲランガム鎖はより伸長され、ポリマーはより良好に水和される。これにより、より優れたゲル化特性およびより高い粘度が組成物に付与される。これはまた、ゲランガムの水和温度の低下を可能にする。加えて、クエン酸ナトリウムの存在により、酸化に敏感なフェニレフリンの分解を低減することが可能である。
【0037】
クエン酸ナトリウム、有機酸、有機酸の塩、およびそれらの混合物から選択されるゲル化調節剤は、好ましくは、ゲル化調節剤(クエン酸ナトリウム、および/または有機酸、および/または有機酸の塩、および/またはそれらの混合物)/組成物の体積に対して0.01~0.2重量%(両端を含む)存在する。
【0038】
これまたはこれらのゲル化調節剤(複数可)に加えて、本発明に従う組成物は、任意選択で、少なくとも1つの他のゲル化調節剤、好ましくはキレート剤およびそれらの混合物から選択されるゲル化調節剤を含み得る。キレート剤は、好ましくは、キレート剤/組成物の体積の0.01重量%~0.2重量%(両端を含む)で存在する。
【0039】
これには、例えば、
-EDTA、
-酒石酸ナトリウム、カリウムもしくはカルシウム、または酒石酸、
-クエン酸カリウム、マグネシウムまたはクエン酸、が含まれる。
【0040】
有利には、キレート剤の存在により、酸化に敏感なフェニレフリンの分解を低減することが可能になる。
【0041】
本発明に従う組成物はまた、少なくとも1つの抗酸化剤を含むことができる。これは、例えば、アスコルビン酸、リンゴ酸、クエン酸またはそれらのナトリウム等価物、アスコルビン酸ナトリウム、マレイン酸ナトリウム、EDTA、またはクエン酸ナトリウムであり得る。
【0042】
本発明に従う組成物は、フェニレフリンとの相乗作用の散瞳作用のための他の成分、特にトロピカミドも含むことができる。好ましくは、トロピカミドは、組成物中に少なくとも0.1%(トロピカミドの重量パーセンテージ/組成物の体積)の量で存在し、さらにより好ましくは、組成物は、0.1~10%(両端を含む)のトロピカミドを含む。
【0043】
本発明に従う組成物はまた、少なくとも1つのセルロース誘導体を含むことができる。好ましくは、ヒドロキシエチルセルロース(例えば、Natrosol 250M(登録商標)、Natrosol 250G(登録商標))および/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースであり得る。セルロース誘導体、特にヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルメチルセルロースは、十分に耐容性があり、ゲランガムと組み合わせて、適切な粘度および質感特性を示す。これらは、本発明に従う組成物の活性分子の粘度、粘膜接着および放出特性をさらに改善することを可能にする。
【0044】
好ましくは、セルロース誘導体は、セルロース誘導体の重量/組成物の体積に対して0~2%(両端を含む)、さらにより好ましくは0~1%(両端を含む)の量で存在する。一実施形態によれば、本発明に従う組成物は、0~1%のヒドロキシエチルセルロースと、0~1%のヒドロキシプロピルメチルセルロースとを含む。
【0045】
本発明に従う組成物は、任意の好適な製造/調製方法によって得ることができる。
【0046】
好ましくは、本発明に従う組成物は、以下のステップを含む調製方法を実施することにより得られる:
-少なくともゲランガムと、クエン酸ナトリウム、有機酸、有機酸の塩およびそれらの混合物から選択されるゲル化調節剤と、任意選択でまた、キレート剤、および/または有機酸、および/または抗酸化剤、および/または水とを含む溶液Aの調製、
-少なくともフェニレフリンと、任意選択でまた、トロピカミドおよび/またはセルロース誘導体および/または水とを含む溶液Bの調製、
-溶液Aと溶液Bとを混合し、溶液Aは20~40%、溶液Bは60~80%を示し、パーセンテージは2つの溶液の混合物の総重量の重量で求められる。
【0047】
非常に好ましくは、ゲランガムを含有する溶液(溶液A)を、フェニレフリンを含有する溶液(溶液B)に注ぐ。これにより、均質、透明、流体および低粘度の調製物を得ることができる。
【0048】
好ましくは、溶液Aは、以下のステップを実施することによって調製される:
*ゲランガムと、クエン酸ナトリウム、有機酸、有機酸の塩およびこれらの混合物から選択されるゲル化調節剤と、任意選択によりキレート剤および/または抗酸化剤とを、好ましくは攪拌しながら水に溶解し、
*溶液を60℃~90℃で、好ましくは撹拌しながら加熱し、
*1~15分間攪拌を続け、
*加熱を中止し、温度が15℃~30℃になるまで攪拌を続け、
*任意選択で、好ましくは0.22μm以下の多孔性を有するフィルターで滅菌濾過を行う。
【0049】
好ましくは、溶液Bは、以下のステップを実施することによって調製される:
*フェニレフリン、場合によってはトロピカミドを水に溶かし、
*完全に溶解するまで1~3時間攪拌し、
*任意選択で、セルロース誘導体を溶解させ、
*任意選択で、好ましく0.22μm以下の多孔性を有するフィルターで滅菌濾過を行う。
【0050】
好ましくは、溶液Aと溶液Bとの混合は、以下のステップを実施することによって行われる:
*溶液Aを攪拌し、好ましくはより高い均一性のためにゆっくりと攪拌し、
*溶液Bを加えながら攪拌し、好ましくはより高い均一性のためにゆっくり攪拌し、
*均一な混合物が得られるまで攪拌を続ける。
【0051】
本発明に従う組成物は、好ましくは、眼科での使用に適した単回投与容器内に保管される。これらは、好ましくは、周囲温度および/または使用までそれらの保存を可能にする条件下で保管される。
【0052】
本発明に従う組成物は、眼科用生成物、特に非治療用眼科用生成物として使用することができる。したがって、本発明は、そのような使用を目的とする。実際、組成物は、それが涙液中に含まれる一価および二価カチオンの効果の下で眼の表面上に落とされるとゲル化することを特徴とする。
【0053】
特に、本発明は、散瞳眼科用生成物として上記の組成物の使用に関する。実際、本発明に従う組成物は、特に前記眼の操作前または前記眼の検査前に、散瞳を誘発するために、ヒトまたは動物の眼で使用することができる。本発明に従う組成物を使用して、10分未満で散瞳を誘発し、120分以上持続することができる。
【0054】
本発明に従う使用は、好ましくは、少なくとも1滴を眼に適用することからなる。確かに、1滴は散瞳を迅速かつ長時間誘発するのに十分である。
【0055】
これらの手順を容易にするために、眼の検査または手術の前に瞳孔の拡張を誘発するためのその非治療的な使用とは無関係に、本発明に従う組成物を、眼の病理の治療、および特にぶどう膜炎(前後部ぶどう膜炎、すなわち外傷または手術に二次的なぶどう膜の反応であり、後方シネキアの形成を予防または停止させる)および/または角膜炎の治療において医薬として使用することができる。実際には、誘発性拡張はこれらの病態を治療することを可能にする。
【0056】
本発明は、本発明に従う組成物の実施例および本発明の効果、特に散膜効果を実証する試験結果によって示される。
【実施例0057】
実施例1:ゲラン-フェニレフリン組成物の例
実施例1の組成物は、
-ゲランガム0.5%
-クエン酸ナトリウム0.05%
-フェニレフリン9%
-水QS、からなる。
【0058】
組成物は、以下のステップを実施することにより得られる:
-タンク1の溶液Aを調製すること、すなわち
*ゲランガムおよびクエン酸ナトリウムを撹拌しながら水に溶かし、
*溶液を攪拌しながら75℃に加熱し、
*5分間攪拌を続け、
*加熱を止め、それが室温に戻るまで攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク2の溶液Bを調製すること、すなわち
*フェニレフリンを水に溶かし、
*完全に溶解するまで約1時間45分間攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク3での最終混合すること、すなわち
*溶液Aを攪拌し、
*攪拌しながら溶液Bを加え、
*均一な混合物が得られるまで攪拌を続ける。
【0059】
実施例2:ゲラン-フェニレフリン組成物の例
実施例2の組成物は、
-ゲランガム0.2%
-クエン酸ナトリウム0.08%
-0.1%ヒドロキシエチルセルロースおよび/または0.1%ヒドロキシプロピルメチルセルロース
-フェニレフリン:9%
-水QS、からなる。
【0060】
組成物は、以下のステップを実施することにより得られる:
-タンク1で溶液Aを調製すること、すなわち
*ゲランガムおよびクエン酸ナトリウムを撹拌しながら水に溶かし、
*溶液を攪拌しながら75℃に加熱し、
*5分間攪拌を続け、
*加熱を止め、室温に戻るまで攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク2で溶液Bを調製すること、すなわち
*フェニレフリンを水に溶かし、
*完全に溶解するまで約1時間45分間攪拌を続け、
*ヒドロキシエチルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを攪拌しながら溶解させる、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送し、
-タンク3で最終混合すること、すなわち
*溶液Aを攪拌し、
*攪拌しながら溶液Bを加え、
*均一な混合物が得られるまで攪拌を続ける。
【0061】
実施例3:ゲラン-フェニレフリン組成物の例
実施例3の組成物は、
-ゲランガム0.2%
-クエン酸ナトリウム0.1%
-フェニレフリン7%
-トロピカミド0.5%
-水QS、をからなる。
【0062】
組成物は、以下のステップを実施することにより得られる:
-タンク1で溶液Aを調製すること、すなわち
*ゲランガムとクエン酸ナトリウムを撹拌しながら水に溶かし、
*溶液を攪拌しながら75℃に加熱し、
*5分間攪拌を続け、
*加熱を止め、室温に戻るまで攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク2で溶液Bの調製すること、すなわち
*フェニレフリンとトロピカミドを水に溶かし、
*完全に溶解するまで約2時間攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する
-タンク3で最終混合すること、すなわち
*溶液Aを攪拌し、
*攪拌しながら溶液Bを加え、
*均一な混合物が得られるまで攪拌を続ける。
【0063】
実施例4:ゲラン-フェニレフリン組成物の例
実施例4の組成物は、
-ゲランガム0.2%
-クエン酸ナトリウム0.05%
-フェニレフリン8%
-トロピカミド0.6%
-水:QS、からなる。
【0064】
組成物は、以下のステップを実施することにより得られる:
-タンク1で溶液Aを調製すること、すなわち
*ゲランガムおよびクエン酸ナトリウムを撹拌しながら水に溶かし、
*溶液を攪拌しながら75℃に加熱し、
*5分間攪拌を続け、
*加熱を止め、室温に戻るまで攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク2で溶液Bを調製すること、すなわち
*フェニレフリンおよびトロピカミドを水に溶かし、
*完全に溶解するまで約2時間攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク3で最終混合すること、すなわち
*溶液Aを攪拌し、
*攪拌しながら溶液Bを加え、
*均一な混合物が得られるまで攪拌を続ける。
【0065】
実施例5:ゲラン-フェニレフリン組成物の例
実施例5の組成物は、
-ゲランガム0.15%
-クエン酸ナトリウム0.09%
-ヒドロキシエチルセルロース0.25%
-フェニレフリン5%
-トロピカミド0.5%
-水QS、からなる。
【0066】
組成物は、以下のステップを実施することにより得られる:
-タンク1で溶液Aを調製すること、すなわち
*ゲランガムおよびクエン酸ナトリウムを撹拌しながら水に溶かし、
*溶液を攪拌しながら75℃に加熱し、
*4分間攪拌を続け、
*加熱を止め、室温に戻るまで攪拌を続け、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク2で溶液Bを調製すること、すなわち
*フェニレフリンおよびトロピカミドを水に溶かし、
*完全に溶解するまで約2時間攪拌を続け、
*ヒドロキシエチルセルロースおよび/またはヒドロキシプロピルメチルセルロースを攪拌しながら溶解させ、
*滅菌ろ過した状態でタンク3に移送する、
-タンク3で最終混合すること、すなわち
*溶液Aを攪拌し、
*攪拌しながら溶液Bを加え、
*均一な混合物が得られるまで攪拌を続ける。
【0067】
試験および結果
以下に提示する研究において、本発明に従う3つの組成物を試験した。それらを表1に示す。
【表1】
【0068】
I.投与前の本発明に従う組成物の液体状態および人工涙液の存在下でのそれらのゲル化を実証するインビトロ研究
組成物A、B、およびCを、pH、浸透圧および透明度、およびそれらのレオロジー特性、ならびにそれらの粘度およびそれらのゲル化力に関して評価した。
【0069】
透明度
参考として、水に対する400~800nmの波長の可視光スペクトルにおける光透過率のパーセンテージを、UV-Vis Perkin-Elmer Lambda25分光器を使用して測定した。測定を3回に分けて行い、各組成物の平均値±SD値を算出した。
【0070】
pH測定
組成物のpHは、以前に較正されたpH計を使用して測定した。組成物をpHについて3回に分けて試験し、平均±SD値を算出した。
【0071】
浸透圧
組成物の浸透圧を、自動浸透圧計を使用して試験した。使用前に、デバイスを滅菌蒸留水(0mOsm/L)で較正し、300mOsm/Lの標準溶液を得た。測定を3回に分けて行い、各組成物の平均±SD値を計算した。
【0072】
レオロジー研究
全てのレオロジー解析をレオメータ上で行い、全てのデータを専用のソフトウェアを使用して解析した。幾何学形状は、試料の均質な剪断を提供したステンレス鋼円錐/平面(直径50mm、角度1°およびエアギャップ100μm)であった。コーンには、測定中の蒸発を防止するための溶媒トラップが装備されていた。プレート下部に配置されたPeltierダイオードにより、0.1℃の精度で温度を制御することができた。
【0073】
粘弾性挙動およびゲル化の評価
インサイチュのゲル化系の粘弾性挙動を、模擬涙液(STF)の添加前後、それぞれ25℃および35℃で評価した。振動実験を行った。貯蔵弾性率G’および損失弾性率G”を測定した。G’が不変のままであり、試料が構造変化を受けない線形粘弾性領域に属する周波数および振幅値を用いて実験を行った。周波数は1Hz、振幅は0.1%であった。結果は、n=6の実験の平均±SDに対応する。
【0074】
STFを、注入した点眼剤組成物に対する生理学的涙液の体積の割合に対応する7:30の割合で添加した。涙液の生理学的体積は7μl、点眼液の1ドロップの平均体積は30μlである。
【0075】
【0076】
流動挙動および粘度
前述のインサイツゲルの流動特性は、STFを35℃で添加した後に決定した。2分後、剪断速度を0.1から5000S
-1(上昇曲線)に徐々に増加させた。その後、剪断速度を5000s
-1に30秒間維持し、5000s
-1から0.1s
-1(降下曲線)に徐々に減少させた。結果は、n=6の実験の平均±SDである。
【数1】
【0077】
粘度曲線は、以下の交差方程式に従って適合させた。
【0078】
ここでηは所与の剪断速度(mPa.s)における見かけの粘度を表し、
γは剪断速度(s-1)であり、
η0はゼロ剪断粘度(mPa.s)であり、
η∞は無限剪断における粘度(mPa.s)であり、
Cは時間定数(複数可)であり、逆に、1/Cで、剪断速度の有用な指標である臨界剪断速度が求められ、
mはクロス定数であるが、無次元であり、剪断速度に対する粘度の依存度の尺度である。mに対するゼロの値は、ニュートン挙動を示し、一方、1に向かって傾向するmの値は、ずり流動化挙動の増加を示す。
【0079】
粘弾性挙動およびゲル化の評価
振動実験を主に使用して、本発明に従う組成物が、STFの有無にかかわらず、液体であるかまたはゲルであるかを決定した。
【0080】
G’の値が大きいほど、弾性の性質が顕著になる。逆に、G”の値が大きいほど粘性特性が顕著になる。推定すると、G”の値がG’の値よりも大きい場合、調製物は優勢な粘性挙動(つまり、液体に類似している)を示すと考えることができる。逆に、G’の値がG”の値よりも大きい場合、調製物は、支配的な弾性挙動(すなわち、固体に類似している)を示す。次に、流体中の弾性の存在および程度の有用な定量剤である位相角の接線は、次のように計算することができる:tanδ=G”/G’。したがって、tanδ>1のときに粘性状態(液体型)が観察される。Tanδ≦1の場合、ゲル状態(固体型)が観察される。この臨界ゲル点を超えると、調製物は必ずしも凝集性ではないように見えるが、「弱ゲル」とも呼ばれる流体ゲルの形態であってもよい。この挙動は、眼投与に関して非常に求められる。
【0081】
貯蔵弾性率(G’)、損失弾性率(G”)、位相角タンジェント(tanδ)の値を表7に示す。
【0082】
得られた結果を以下の表に示す(表3:pHおよび浸透圧、表4:透過率、表5および6:粘度およびチキソトロピー、表7:粘弾性挙動およびゲル化)。
【表3】
【0083】
本発明に従う3つの組成物は、同様のpHおよび浸透圧を示す。pH値が6.45~6.50である場合、pH値は、わずかに酸性であるが、中性に十分近く、眼科で使用するのに適切なpH範囲内である。
【0084】
浸透圧については、430~440mOsm/Lの値が確認されている。一見すると、これらの結果は等張性(300~320mOsm/L)からの比較的大きな偏差を示す。しかしながら、これらの高い浸透圧値は、散瞳を達成するために必要な組成物中の塩酸フェニレフリンの高い割合にほとんど起因するものにすぎない。塩酸フェニレフリン10%を含有する市販の散瞳剤の浸透圧は、900mOsm/Lを超えることが示されている。したがって、生理学的浸透圧よりも相対的に高い一方で、本発明に従う組成物の浸透圧濃度は、従来技術で使用されている散瞳剤と比較して最適化され、半減される。
【表4】
【0085】
本発明に従う組成物の光透過率のパーセンテージは、可視範囲全体にわたって90%を超えており、これにより、眼科での使用に適している。加えて、HEC濃度を増加させることにより、透過性がわずかに低下したことが明らかになり、これはポリマーの固有の特性に起因し得る。
【表5】
【表6】
【0086】
本発明に従う組成物の3つの実施例は、眼投与に好適な流動挙動および粘度を示す。組成物Aは、まず、高い剪断速度下で非常に低い粘度を示すが、剪断が停止するとほぼ即座に復元される。粘度調節剤を有する組成物BおよびCは、高剪断速度でより高い粘度を示し、その後、安静時に遅延および不完全な回収が続くため、より好適である。ずり流動化挙動は、眼表面上に留まることを意図する組成物にとって実質的な利点を提示する。眼が開いているときの安静時の粘度が高く、まぶたの剪断下の粘度が低いため、刺激および不快感を回避できる。
【表7】
【0087】
STFの添加前に、本発明に従う3つの組成物は、非常に低い貯蔵弾性率および損失弾性率の値、ならびに1より大きい位相角接線を有する液体タイプの挙動を示す。投与前の液体様の挙動は、良好な流れおよびドロップを形成する能力を可能にするインサイチュゲル化送達システムの前提条件である。したがって、本発明に従う組成物は、容易、安全かつ再現可能な眼投与に好適である。
【0088】
STFの添加後、本発明に従う組成物は液体/ゲル化遷移を受けている。実際には、貯蔵弾性率は30倍増加し、観察された位相角接線は1未満である。これらの測定により、本発明に従う組成物と涙液の一価および二価カチオンとの間のイオン相互作用によるインビトロでのゲル化を評価することが可能となった。
【0089】
II.眼表面上の本発明に従う組成物のレオロジー挙動を決定するためのまぶたのまばたきを模擬するインビトロ研究
以前の観察を完了するために、2つのレオロジー実験が開発された。本発明に従う組成物を、眼表面上の経時でのレオロジー挙動を予測するために、一連の模擬眼まばたき(すなわち、高い剪断速度、続いて休止期間)に供した。
【0090】
回転測定
最初のテストは、まばたき後の残りの間隔の粘度を測定する。模擬まばたき毎に、粘度はずり流動化挙動により最小値に達し、その後、休止期間中に回復した。剪断サイクル(粘度)に対応する結果を表8に表す。
【表8-1】
【表8-2】
【表8-3】
【0091】
結果は、レオロジー挙動およびチキソトロピー研究と一致している。また、1s-1における粘度の大きさのオーダーは、以前に観測されたものと同じである。非チキソトロピックハイドロゲルとして、組成物Aの粘度は、休止期間中にほぼ瞬時にその初期値でプラットフォーム化され、10回の模擬まばたきサイクルにわたって一定の粘度をもたらした。対照的に、チキソトロピックヒドロゲルとして、組成物BおよびCの粘度は、残りの間隔中に初期プラトーに到達することなく回収された。この遅延により、まばたき毎に粘度がわずかに失われた。したがって、2つのサイクルの後、組成物BおよびCは、本来最も粘度の低い組成物であった組成物Aよりも低い粘度を示す。
【0092】
振動測定
この試験は、休止間隔中の貯蔵(G’)弾性率および損失(G”)弾性率を測定する。tanδパラメータを使用して、組成物のゲル状態を評価した。各模擬まばたきにおいて、ゲルの三次元ネットワークの部分的な破壊に起因して、tanδは最大に達し、次いで休止期間中に回復した。結果を表9に示す。
【表9-1】
【表9-2】
【0093】
組成物Aは、10サイクルを通してtanδ<1を示す。したがって、ゲルネットワークは、模擬まばたきの高い剪断に抵抗し、組成物Aはゲル状態のままである。
【0094】
組成物Bはまた、剪断速度が高い場合を除いて、10サイクルを通じてゲル状態を維持する。
【0095】
組成物Cは、最初の2つのサイクルの休止期間中にtanδ<1を示し、その後に解体される。
【0096】
III.本発明に従う組成物の粘膜接着性を実証することを目的としたインビトロ研究
引張強度試験
最大ヒドロゲル剥離力(Fmax)を測定し、ムチンフィルムの存在下および非存在下で比較した。剥離力に関する結果を表10に示す。
【表10】
【0097】
ムチンの存在下におけるFmaxの値を、Fmaxによって本明細書で説明されるムチンを含まないものと比較すると、本発明に従う全ての組成物について有意な増加が観察された(p<0.001)。
【0098】
これは、ヒドロゲルとムチンとの間の正の相互作用を示す。したがって、ヒドロゲルは、眼表面に関連するムチンと相互作用することによって保持することができ、これは眼保持時間を増加させる。
【0099】
ポイントI、IIおよびIIIで提示される研究および結果は、本発明に従う全ての組成物が、眼科使用に好適な物理化学的特性を示すことを示す。適切な粘度およびインサイチュゲル化能力、ならびに患者の快適性に関して眼投与に有利なずり流動化挙動が実証されている。HECの任意選択の添加により、剪断応力に対するゲルの抵抗を低減しながら粘度を改善することが可能となる。加えて、HECは組成物の粘膜接着特性を増強した。次に、眼の滞留時間をインビボで評価し、各パラメータの重要性をよりよく理解することができた。実際、眼の滞留時間は、個々にインビトロで評価したすべてのパラメータの効果の組み合わせから生じる。
【0100】
したがって、本発明に従う組成物は、従来技術の点眼薬と比較して、特に3時間を超える眼表面上の滞留時間を増加させるそれらの容量に関して、したがってそれらのバイオアベイラビリティに関して、多くの利点を示す。このバイオアベイラビリティの増加は、投与頻度の低減、したがって投与される薬物の量の低減を可能にしながら、治療のより良い有効性をもたらす。加えて、本発明に従う組成物は、全身レベルでの吸収が低減された低減された副作用を示す。
【0101】
IV.膜の有無にかかわらず、方法を用いる散瞳効果の起点での活性分子の放出を研究するインビトロ研究
異なるデバイスを使用して、眼用半固体ガレン酸形態の異なるインビトロ放出試験が行われている。
【0102】
全ての薬物放出実験は、2つの細胞モデル、すなわち、膜を有しない標準細胞および膜を有する半固体形態のアダプターを有するUSP4(through-cell)装置(USP-NF、2013)を使用して行った。この研究は、組成物A、B、およびCのインビトロ放出プロファイル、ならびに放出メカニズムに対するHECの影響を調査するために実施した。
【0103】
STF(pH7.4)を溶解媒体として使用した。
【0104】
標準細胞を用いたインビトロでの薬物放出の評価
眼表面の水性環境を模倣するために、直径22.6mmの6つの標準細胞を全ての実験で使用した。自動システムは閉じた構成で動作し、蠕動ポンプに接続された。溶解培地を手動でサンプリングし、HPLC-UVによって解析した。各細胞において、層流を確実にするために、直径5mmのルビービーズおよび直径1mmのガラスビーズをフローセルの基部に配置した。約300μLのヒドロゲルをガラスビーズのベッドに入れた。試験中、150mLのSTFを、3、8および15mL/分の流速で各細胞内に循環させた。35±0.5℃の温度を、試験全体を通して維持した。5%PHEおよび0.5%TPCの水溶液も試験し、基準として使用した。結果は、n=6の実験の平均±SDである。閉じた構成で得られた薬物放出プロファイル、すなわち、累積的な薬物放出パーセント(Mt/M1、%)対時間(t、分)をプロットした。
【0105】
半固体アダプターを使用したインビトロでの薬物放出の評価
ヒドロゲルからのPHEおよびTPCの拡散プロファイルを評価するために、半固体形態用のアダプター(「USP36-NF31:(1724))semi-solid pharmaceuticals-performance tests」,2013)を使用した。アダプターは、USP4デバイスの22.6mmセルとともに使用するように設計された。
【0106】
アダプターは、生成物が導入されるリザーバおよび膜が保持されるリングの2つの基本的な構成要素で構成されている。1200μLのヒドロゲルをリザーバ内に配置し、リングには、一度酢酸セルロース膜(0.45μm)を取り付け、特定のツールでリザーバにねじ込んだ。次に、膜を下向きにして、アダプターを細胞の円筒部分にスリップさせた。閉じたシステムも適用された。流量を15mL/分に設定した。試験手順は、標準セルで前述したものと同じであった。
【0107】
半固体形態からの活性剤の放出は複雑な現象である。一般に2つの主要なメカニズムが関与している。放出は、Fickian拡散(ケースI)またはシステムの弛緩/浸食(輸送ケースII)のいずれかによって管理することができる。多くの場合、両方の機構が関与しているため、放出は異常放出と呼ばれる。
【0108】
Peppas-Sahlinモデルを使用して、活性成分のインサイチュゲル化送達系からの放出に対する拡散および侵食の寄与を定量化した。Peppas-Sahlin方程式は変換可能である。時間tにおける拡散パーセンテージと侵食パーセンテージは、システムの幾何学的形状について0.5の値を仮定して、Zengの方程式によって得られた。
【0109】
モデルに依存しない方法である類似性因子f2を、全ての放出プロファイルの対比較のために計算した。まず、PHEおよびTPCとの放出性能の比較を行った。次いで、組成物A、B、およびC間の比較を各流速で行った。
【0110】
加えて、25%、50%、および80%の放出時間(それぞれ、T25、T50、およびT80)を、Peppas-Sahlin方程式から計算した。
【0111】
半固体アダプターを用いずに得られた結果を表11(3mL)、12(8mL)および13(15mL)に示す。
【表11】
【表12】
【表13】
【0112】
上記の結果は、標準溶解細胞において、FDAによって承認されたUSP 4デバイスにおいて、インサイチュゲル化送達システムが、経時的に速いが持続的な放出を示したことを示した。すべてのコントロール溶液(CTRL)は、10分以内に80%を超える薬物を放出し、一方、組成物A、B、およびCの80%放出時間(T80)は、流れに応じて30~180分に達した。薬物の経時的な放出の長期化は、2つの現象によって説明できる。マトリックスからの薬物の放出は拡散に起因するか、または薬物の放出はこのマトリックスの侵食の結果である。わずかな初期放出が観察されたが、これは投与後に予想される散瞳の迅速な誘導のための資産である。
【0113】
放出プロファイルを比較するために、FDAはモデルに依存しないアプローチを推奨する。類似性因子f2の検討を目的としており、プロファイルの比較を容易に行うことができる。係数f2の値100は、比較した2つのプロファイルが完全に同一であることを意味し、50の値は、全ての時点における10%の差に対応する。したがって、f2の値が50~100である場合、2つのプロファイルは類似する(すなわち、10%未満の差異)と見なされる。3つの異なる流速で組成物A、BおよびCのPHEおよびTPC放出プロファイルを比較することによって得られたf2の値を表14に要約する(類似性因子f2:3、8および15mL/分の流速での活性剤の放出プロファイルの対ごとの対比、PHEおよびTPC放出プロファイルの組成内比較、PHE放出プロファイルの組成内比較、ならびにTPC放出プロファイルの組成内比較)。
【表14】
【0114】
放出された総量の25、50および80%の時間もまた、Peppas-Sahlinモデル方程式から計算し、平均値を表15に示す。本発明に従うすべての組成物について、流速の増加はT25、T50およびT80の減少をもたらした。
【表15】
【0115】
V.ヒト角膜細胞、HCE株の耐容性および細胞毒性試験
ヒト角膜上皮細胞での細胞毒性アッセイ
10%のウシ胎仔血清(Eurobio)、1%のグルタミン(Eurobio)、および1%のペニシリンおよびストレプトマイシン(Eurobio)を補充した、ヒト角膜上皮(HCE)細胞株を、ダルベッコ必須培地(Eurobio,Les Ulis,France)中で培養した。培養物を加湿したインキュベーター中で5%CO2中で37℃で維持した。
【0116】
すべてのウェルに同じ数の細胞(9×104個の細胞/mL溶液)を播種した。24時間後、細胞は約70%~80%のコンフルエンスに達した。細胞をPBSで洗浄し、インサイチュで、100μLのゲルを用いて30分間インキュベートした。白色ゲル(活性成分を含まない組成物A、BおよびC)、5%PHEおよび0.5%TPCコントロール溶液、1.29%NaClコントロール溶液(インサイチュゲルと同じ浸透圧を示す)、ならびに市販の点眼薬(0.5%Mydriaticum(登録商標)および10%Neosynephrine(登録商標)の無菌単位用量)をコントロールとして使用した。次いで、PBSで細胞を洗浄した。インキュベーション直後であって、培養培地中で24時間回収した後に中性赤色試験を行った。実験は3回に分けて行った。
【0117】
中性赤色試験(Fluka,Buchs,Switzerland)は、非イオン拡散によって細胞膜を容易に浸透させ、リソソーム内に蓄積する弱いカチオン性色素である中性赤色を組み込む生存細胞の能力に基づいた細胞生存率試験である。それは、リソソームマトリックス内のアニオン部位に結合する。リソソーム膜の完全性は、細胞生存率と密接に関連しており、中性赤色蛍光(535nmで励起、600nmで放出)によって評価される。37℃で3時間インキュベートした後、細胞をPBSで洗浄し、BorenfreundおよびPuernerによって検証されたプロトコルに従って、中性赤色溶液(50μg/mL)のウェル当たり200μLでインキュベートした。5%CO2の湿潤な雰囲気中で37℃で3時間インキュベートした後、ウェルをPBSで洗浄して、任意の残りの非組み込み色素を除去した。次いで、ウェル当たり200μLの溶解液(1%酢酸、50%エタノール、および49%H2O)を使用して細胞から色素を放出させ、次いで、マイクロプレート用の蛍光計(Safire、Tecan,Lyon,France)を使用して蛍光を測定した。
【0118】
【0119】
まず、本発明に従う組成物は、24時間後に回収せずにHCE細胞に適用すると、生存率の有意な低下を誘導する(p<0.001)。430mOsm/Lの浸透圧値を示した1.29%のNaClコントロール溶液については、細胞生存率への影響は観察されなかった(生存率98.7±6.0%)。したがって、組成物A、BおよびCの比較的高い浸透圧濃度は、毒性を誘発するパラメータではないと考えられた。
【0120】
次いで、5%PHEおよび0.5%TPCを含有するコントロール溶液を試験した。組成物A、BおよびCについて観察されたもの(p>0.05)と同様に、生存率の有意な低下が観察された(p<0.001)。さらに、市販のPHE(Neosynephrine(登録商標)10%)およびTPC(Mydriaticum(登録商標)0.5%)点眼薬を個別に試験した。繰り返しになるが、ネオシネフリン(登録商標)10%は、組成物A、BおよびCの値と同様の値で生存率の顕著な低下を誘導した(p>0.05)。Mydriaticum(登録商標)0.5%は、細胞生存率の小さな低下を誘導したが、それでも39.3±16.1%を超えなかった。したがって、組成物A、BおよびCによって示される見かけの毒性は、主にPHEによって誘発される毒性に起因するはずであるが、TPCによっても誘発されるはずである。
【0121】
最後に、眼細胞膜の完全性は、PHEおよびTPCを含まないインサイチュゲル組成物(組成物A’、B’およびC’)によって変化させられず、100%超にとどまった。中性赤色アッセイは、組成物A’、B’およびC’ならびに未処理細胞への曝露後の生存率に有意差を示さなかった(p>0.05)。したがって、開発された投与系は毒性を誘導しなかったが、これは活性成分に起因していた。それにもかかわらず、FDAおよびEMAは、とりわけ、PHEおよびTPCの使用を広く使用し、承認している。加えて、PHEおよびTPCは、一回限りの散瞳治療として使用され、慢性的な眼投与を意図するものではない。したがって、開発された組成物の毒性は、市販の点眼薬の毒性よりも大きくはなかった。さらに、インサイチュゲル化送達システムを使用して効果的な散瞳を誘発するために必要とされるPHEおよびTPCの量が少ないため、眼毒性が低下し得る。
【0122】
VI.本発明に従う組成物の、瞳孔の拡張および投与部位における持続に対する有効性のインビボイメージング研究。
インビボ実験は、封じ込め箱に保管された麻酔されていないウサギにおいて実行された。しかしながら、頭部は自由に動くことができたため、実験中は正常なまぶたおよび眼の動きが認められた。
【0123】
1滴の調製物を、プラスチックパスチュールピペットを使用して、動物の結膜嚢に慎重に投与した。対側眼を治療せず、コントロールとして使用した。異なる組成物およびコントロール溶液のドロップの体積を測定し、有意な変動は観察されなかった(28.6±0.8μL~30.1±1.2μL)。ウサギの頬にフレキシブルスライダーを配置し、ズームおよびオートフォーカスを提供するCanonEF100mmf/2.8マクロレンズを搭載したCanonEOS350Dを使用して両眼の画像を記録し、高い精度で眼領域を撮影し、目的の領域に焦点を合わせることを可能にした。ウサギを外科照明(Halux LED 20 PSX、Derungs medical lighting)下に配置して、眼の一定の照明を維持し、散瞳における生理学的変動を回避した。収集は、投与前(参照画像)、および組成物の投与後5時間までに行った。
【0124】
本発明に従う組成物A、BおよびCを、コントロール溶液(CTRL)(滅菌水中の5%フェニレフリンおよび0.5%トロピカミド)と比較し、市販の点眼薬(CED)と比較した。Mydryaticum(登録商標)(トロピカミド0.5%)およびNeosynephrine(登録商標)(塩酸フェニレフリン10%)。市販の点眼薬の場合、臨床的に使用される標準的なプロトコルに従った。5分間隔で各点眼液4滴をt0~35まで注入した。最終的に、Image Jオープンソース画像処理ソフトウェアを使用して画像を解析することにより、散瞳の運動学的データを得た。瞳孔径を測定し、基準径を差し引いた直径を時間に対してプロットして、瞳孔拡張を発現した。曲線下面積(AUC)を算出した。結果は、3つの異なるウサギに対して行われたn=3の実験の平均±標準偏差である。各ウサギは、2つの実験の間に最短48時間の洗浄期間を有した。
【0125】
プロトコルの最後に、ウサギは承認された協会によって保護施設に送られた。犠牲は必要なかった。
【0126】
有効な散瞳は、基準直径(t0)から瞳孔の直径が5mm以上増加し、瞳孔反射がないことによって定義される。
【0127】
組成物A、B、およびCは、10分未満で有効な散瞳をもたらし、3時間を超えて十分な膨張を維持する。それどころか、コントロール溶液は約20分で有効な散瞳を達成し、1時間未満の十分な効果を維持した。本発明に従って開発された組成物の一滴は、コントロール溶液の一滴と同量のPHEおよびTPCを含有することに留意することが重要である。したがって、同量のPHEおよびTPCを滴下した。
【0128】
曲線下面積を算出し、コントロール溶液と比較して組成物A、B、およびC間で有意差を観察し、これは、バイオアベイラビリティに対するインサイチュでのゲル化組成物の直接効果を証明した(表17)。瞳孔拡張のこの顕著な増加は、開発されたインサイチュゲル化送達システムについて以前に評価された長い滞留時間および持続的な薬物放出によって説明され得る。
【表17】
【0129】
インビボでの滞留時間(表18)およびインビボでの散瞳(表19)に関する結果を以下に示す。
【表18】
【表19】
【0130】
CEDの投与により、約20分で有効な散瞳が達成され、3時間維持された。CED投与後の散瞳の強度が組成物A、BおよびCの強度よりも有意に低かった最初の20分を除いて、散瞳の強度プロファイルは次いで比較可能であった。
【0131】
本発明に従うすべての組成物は、一滴の投与後に有効な散瞳を可能にした。さらに、参照プロトコルよりも速く十分な散瞳を得た。組成物A、B、およびCによって誘発された散瞳の強度および持続時間は、CEDの投与後に得られたものと同様であった。
【0132】
したがって、本発明に従う組成物は、既存の治療の有望な代替物と見なすことができる。有効な散瞳は、1滴の液体を滴下した後に誘導することができ、これは、眼表面に投与されるとゲル化し、滞留時間を増加させ、薬物の持続的な放出を増加させ、バイオアベイラビリティを劇的に増加させる。
【0133】
加えて、CEDプロトコルに従って投与されたPHEおよびTPCの量は、それぞれ8および4倍大きかった。それにもかかわらず、瞳孔の拡張は現れるのが遅く、長くは続かなかった。これは、古典的な点眼剤の投与後、バイオアベイラビリティが低く、眼表面上の活性剤の除去速度が高いことを強調している。
【0134】
したがって、本発明は、副作用のリスクの低下をもたらす。一方、CEDで開発されインサイチュゲル化送達システムを使用して、散瞳を誘発するのに必要な活性成分の総量が小さいため、眼表面領域への局所刺激を低減することができた。PHEおよびTPCは、ヒト角膜上皮細胞に顕著な細胞毒性を示している。実験中、フェニレフリン(Neosyneffrine(登録商標)10%)の1滴の投与後に、点滅頻度の増加をもたらす不快感が観察された(投与から30秒以内に5~6回の追加のまばたき)。組成物A、B、およびCの投与後、まばたき頻度の増加または不快感は観察されなかった。この効果は、フェニレフリン点眼薬の高い浸透圧(>900mOsm/L)に起因する可能性がある。これらの点眼薬の投与後、ヒトでは何度もピリピリ感が報告されている。したがって、患者の快適性は、インサイチュゲル化送達システムの使用によって改善することができる。他方では、潜在的に全身的に吸収された眼表面からの薬物の排除の減少により、全身的な副作用を低減することができる。これは、眼の滞留時間の増加により、PHEおよびTPCを眼表面領域に保持することができ、局所的に吸収される薬物の量の増加につながるためである。
【0135】
他のゲル化ポリマーとの比較試験
ポロキサマー、カルボマー、アルギン酸塩、またはキサンタンガムなどの他のゲル化、粘性化、および/または粘膜接着ポリマーが試験された。
【0136】
ポロキサマーは、濃度および温度に依存してゲル化を呈し、涙液流体の存在下での希釈効果がゲル化温度の大きな変動を引き起こすため、本発明に従う点眼には適していない。
【0137】
アルギン酸塩は、カルシウムイオンの存在下でのみゲル化する。涙液中のカルシウム濃度は、想定される用途および本発明の目的に適したゲル化を可能にするには低すぎる。
【0138】
キサンタンガムは、その使用前であっても調製物のゲル化を引き起こす。このゲル化は、特に、イオン化フェニレフリンとキサンタンガム鎖の負電荷との間のイオン相互作用に起因する。
【0139】
カルボマーは、pHゲル化ポリマーである。酸性pHでは粘性のある液体であり、中性pHではゲル状である。酸性溶液の眼への投与は、患者の忍容性および快適性には最適ではない。