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特開2024-178346ベンゾアゼピン化合物含有凍結乾燥組成物
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  • 特開-ベンゾアゼピン化合物含有凍結乾燥組成物 図1
  • 特開-ベンゾアゼピン化合物含有凍結乾燥組成物 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178346
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】ベンゾアゼピン化合物含有凍結乾燥組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/675 20060101AFI20241217BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20241217BHJP
   A61K 9/19 20060101ALI20241217BHJP
   A61P 7/10 20060101ALN20241217BHJP
【FI】
A61K31/675
A61K47/26
A61K9/19
A61P7/10
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024164941
(22)【出願日】2024-09-24
(62)【分割の表示】P 2022040341の分割
【原出願日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2019064347
(32)【優先日】2019-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 貴邦
(72)【発明者】
【氏名】佐古 信朋
(57)【要約】      (修正有)
【課題】トルバプタンのプロドラッグを安定に含有する製剤を提供する。
【解決手段】式(1):

で表される化合物又はその金属塩、及び二糖を含有する、凍結乾燥組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】
で表される化合物又はその金属塩、及び二糖を含有する、凍結乾燥組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ベンゾアゼピン化合物含有凍結乾燥組成物等に関する。なお、本明細書に記載される文献は、下記先行技術文献(特許文献及び非特許文献)として挙げた文献を含め、全ての文献につき、記載される全ての内容が、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
ベンゾアゼピン化合物であるトルバプタンは、バソプレシンV2受容体拮抗作用を有しており、利尿薬等として活用されている。トルバプタンの構造式を以下の式(2)に示す。
【0003】
【化1】
【0004】
ただ、トルバプタンは水難溶性であるため、剤形及び投与経路等の点において制限が多い。経口投与が困難な患者(嚥下困難、意識がない)でも投与できること、錠剤に比べて薬剤の効果発現が早いことが見込めることから、経血管投与により用いられるトルバプタンの注射製剤が要望されていたが、トルバプタンは水難溶性であるため、その開発は困難であった。そこで、水溶性であるトルバプタンのプロドラッグについて研究開発がなされている。例えば特許文献1では、優れた水溶性を有するトルバプタンのプロドラッグが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2007/074915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、トルバプタンのプロドラッグは、安定性が悪く、容易にトルバプタンに戻ってしまう。そこで、本発明者らは、トルバプタンのプロドラッグを安定に含有する製剤の開発を試みた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らがトルバプタンのプロドラッグの安定性について検討したところ、注射剤等の水性溶液製剤化のための製剤化工程において、水に溶解して高圧蒸気滅菌すると、プロドラッグが分解して水難溶性のトルバプタンが生成し、白濁化、又は不溶性微粒子を生成した。また、水性溶液製剤を長期間保管すると、プロドラッグが分解してトルバプタンが生成し、不溶性異物を析出、又は不溶性微粒子を生成した。
【0008】
そこで、本発明者らは、さらにトルバプタンのプロドラッグを安定性について検討し、
特定のトルバプタンのプロドラッグと二糖とを含有する組成物が当該プロドラッグを安定に含み得る可能性を見出し、さらに改良を重ねた。
【0009】
本開示は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1.
式(1):
【0010】
【化2】
【0011】
で表される化合物又はその金属塩、及び二糖を含有する、凍結乾燥組成物。
項2.
前記金属塩が、2ナトリウム塩である、請求項1に記載の凍結乾燥組成物。
項3.
二糖が、スクロース、マルトース、ラクトース、及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項1又は2に記載の凍結乾燥組成物。
項4.
式(1)で表される化合物又はその金属塩1質量部に対して、二糖を0.5~70質量部含有する、請求項1~3のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
項5.
式(1)で表される化合物又はその金属塩、及び二糖の合計量が、組成物全体の65質量%以上である、項1~4のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
項6.
さらに緩衝剤を含有する、項1~5のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
項7.
緩衝剤がリン酸緩衝剤である、項6に記載の凍結乾燥組成物。
項8.
pH7.5~9の水溶液組成物を構成するように水(好ましくは生理食塩液もしくはブドウ糖注射液)に溶解して経血管投与により用いられる、項1~7のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
項9.
式(1):
【0012】
【化3】
【0013】
で表される化合物又はその金属塩、及び二糖を含有する、pH7.5~9の水溶液組成物。
項10.
前記金属塩が、2ナトリウム塩である、項9に記載の水溶液組成物。
項11.
二糖が、スクロース、マルトース、ラクトース、及びトレハロースからなる群より選択される少なくとも1種である、項9又は10に記載の水溶液組成物。
項12.
式(1)で表される化合物又はその金属塩1質量部に対して、二糖を0.5~70質量部含有する、項9~11のいずれかに記載の水溶液組成物。
項13.
二糖が、1~8(w/v)%含有される、項9~12のいずれかに記載の水溶液組成物。項14.
さらに緩衝剤を含有する、項9~13のいずれかに記載の水溶液組成物。
項15.
緩衝剤がリン酸緩衝剤である、項14に記載の水溶液組成物。
項16.
経血管投与用である、項9~15のいずれかに記載の水溶液組成物。
項17.
項1~8のいずれかに記載の凍結乾燥組成物調製用である、項9~16のいずれかに記載の水溶液組成物。
項18.
項9~16のいずれかに記載の水溶液組成物調製用である、項1~8のいずれかに記載の凍結乾燥組成物。
項19.
滅菌されている、項1~18のいずれかに記載の組成物。
項20.
医薬組成物である、項1~19のいずれかに記載の組成物。
【発明の効果】
【0014】
特定のトルバプタンのプロドラッグを安定に含有する製剤(好ましくは水性注射剤)が提供される。なお、水性注射剤は経血管投与により用いられるため、溶液中に各国の薬局方に規定されている数以上の不溶性異物や不溶性微粒子の生成は許容されない。当該トルバプタンのプロドラッグを安定に含有する製剤は、長期保管しても薬局方に規定されている数以上の不溶性異物や不溶性微粒子を生成し難いため、水性注射剤として特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】化合物(1)の0.1(w/v)%水溶液を調製し、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)処理を施した際の、安定性を検討した結果を示す。
図2】化合物(1)の凍結乾燥組成物の安定性を、調製時の水溶液のpHを変化させて検討した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、特定のトルバプタンのプロドラッグを含有する凍結乾燥組成物、又は水溶液組成物等を好ましく包含するが、これらに限定されるわけではなく、本開示は本明細書に開示され当業者が認識できる全てを包含する。
【0017】
本開示に包含される凍結乾燥組成物及び水溶液組成物は、次の式(1):
【0018】
【化4】
【0019】
で表される化合物又はその金属塩、及び二糖を含有する。好ましくは、式(1)で表される化合物の金属塩及び二糖を含有する。なお、式(1)で表される化合物を、「化合物(1)」ということがある。また、化合物(1)又はその塩及び二糖を含有する凍結乾燥組成物及び水溶液組成物を、それぞれ、「本開示の凍結乾燥組成物」及び「本開示の水溶液組成物」ということがある。また、これらをまとめて「本開示の組成物」ということがある。好ましくは、本開示の水溶液組成物を凍結乾燥することにより、本開示の凍結乾燥組成物を調製することができる。また、好ましくは、本開示の凍結乾燥組成物を水で再構成することにより、本開示の水溶液組成物を調製することができる。なお、本開示の凍結乾燥組成物は、好ましくはケーキ状組成物である。
【0020】
化合物(1)又はその金属塩が、本開示の凍結乾燥組成物又は水溶液組成物に含有される、特定のトルバプタンのプロドラッグである。当該特定のトルバプタンのプロドラッグとしては、特に化合物(1)の金属塩が好ましい。
【0021】
化合物(1)の金属塩としては、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩あるいは亜鉛塩が好ましく、より具体的には、例えばナトリウム塩(1又は2ナトリウム塩)、カリウム塩(1又は2カリウム塩)、カルシウム塩、マグネシウム塩、亜鉛塩等が好ましい。中でも、特に2ナトリウム塩が好ましい。次に化合物(1)の2ナトリウム塩の構造式を示す。
【0022】
【化5】
【0023】
なお、化合物(1)又はその金属塩は、公知の方法又は公知の方法から容易に想到できる方法により製造することができる。例えば、特許文献1(国際公開第2007/074915号)に記載の方法(特に実施例に記載の方法)により、製造することができる。
【0024】
二糖としては、二糖を構成する2つの糖のうち少なくとも片方がグルコースである二糖が好ましく、具体的にはスクロース、マルトース、トレハロース、ラクトース、セロビオース等が挙げられ、スクロース、マルトース、トレハロース、ラクトースが好ましく、スクロース、トレハロースがより好ましく、特にスクロースが好ましい。二糖は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0025】
二糖の含有量は、化合物(1)又はその金属塩の含有量を1質量部としたとき、0.5~70質量部程度であることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.5、4、4.5、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、58、59、60、61、62、63、64、65、66、67、68、又は69質量部程度であってもよい。例えば、化合物(1)又はその金属塩の含有量を1質量部としたとき、0.8~60質量部程度であってもよく、また、本開示の凍結乾燥組成物を水で再構成する際の泡立ちを考慮すると、1~15質量部程度のものがより泡立ちにくく、好ましい。
【0026】
なお、特に組成物が凍結乾燥組成物である場合には、化合物(1)又はその金属塩と二糖との合計含有量が、組成物全体の65質量%以上であることが好ましく、66、67、68、69、又は70質量%以上であることがより好ましい。
【0027】
また、特に組成物が水溶液組成物である場合には、二糖が1~8(w/v)%含有されることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、又は7.5(w/v)%であってもよい。例えば、本開示の凍結乾燥組成物を水で再構成する際の泡立ちを考慮すると、1~3(w/v)%含有されるものがより泡立ちにくく、好ましい。
【0028】
本開示の組成物は、さらに緩衝剤(buffering agent)を好ましく含有する。緩衝剤と
しては、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤が好ましく、特に、リン酸緩衝剤が好ましく、より具体的には、例えばリン酸水素2ナトリウム(リン酸水素ナトリウム)及び/又はリン酸2水素ナトリウムが好ましく挙げられる。水溶液組成物におけるリン酸緩衝剤の濃度として
は、緩衝能が発揮される範囲であれば特に制限はされないが、例えば5~100mM程度であることが好ましい。当該範囲の上限又は下限は、例えば10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、又は95mMであってもよい。例えば、10~80mM程度であることがより好ましく、15~50mM程度であることがさらに好ましく、20~40mM程度であることがよりさらに好ましい。
【0029】
また、本開示の組成物は、pH調整剤を必要に応じて含有していてもよい。pH調整剤としては、具体的には、酸性pH調整剤としては塩酸、酢酸、リン酸などが、また塩基性pH調整剤としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム等が、例示される。本開示の水溶液組成物のpHは7.5~9であることから、特に塩基性pH調整剤を用いることが好ましく、中でも水酸化ナトリウムが好ましい。なお、本開示の水溶液組成物のpHの前記範囲の上限又は下限は、例えば7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、又は8.9であってもよい。例えば、本開示の水溶液組成物のpHは8~9程度であることが好ましく、特にpH8.5程度であることが最適である。
【0030】
また、これらの他、本開示の組成物には、薬学的に許容される担体、特に凍結乾燥医薬製剤分野で公知の成分を、必要に応じて含有させてもよい。
【0031】
本開示の組成物は、例えば医薬組成物として好ましく用いることできる。特に、バソプレシン受容体(特にV2受容体)拮抗薬として好ましく用いることができる。当該医薬組成物は、より具体的には、例えばうっ血性心不全、肝硬変、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)による低ナトリウム血症の治療や、常染色体優性多発性嚢胞腎の腎容積増加抑制や腎機能低下抑制のために、好ましく用いることができる。
【0032】
本開示の組成物の投与形態は、特に制限はされないが、経血管投与されることが好ましく、経静脈投与されることがより好ましい。水溶液組成物はそのまま経血管投与に供することができる。また、凍結乾燥組成物は、水に溶解して(すなわち、再構成して)経血管投与に供することができる。凍結乾燥組成物を溶解させる水には、当該技術分野で用いられる公知のその他成分が含まれていてもよい。例えば、当該水としては、生理食塩液又はブドウ糖注射液等がより好ましい。
【0033】
本開示の組成物の剤形としても特に制限はされず、例えば注射剤、点滴剤等の剤形で用いることができる。
【0034】
本開示の水溶液組成物は、上述の通り、そのまま経血管投与に供することができる他、凍結乾燥処理を施すことにより、本開示の凍結乾燥組成物を好ましく調製することができる。つまり、本開示の水溶液組成物は、本開示の凍結乾燥組成物の調製用としても有用である。
【0035】
本開示の凍結乾燥組成物は、水を加えて溶解する(すなわち、再構成する)ことにより、本開示の水溶液組成物を好ましく調製することができる。つまり、本開示の凍結乾燥組成物は、本開示の水溶液組成物から調製されることができ、また本開示の水溶液組成物を(再)調製するためにも有用である。
【0036】
本開示の組成物は、注射剤の場合、滅菌され、無菌化されることが好ましい。滅菌方法は特に制限はされず、例えば水溶液調製後に無菌ろ過を行う方法が好ましく例示される。
【0037】
本開示の組成物は、公知の方法、例えば凍結乾燥医薬製剤の調製方法に基づいて調製す
ることができる。より具体的には例えば、化合物(1)又はその金属塩及び二糖、並びに必要に応じて緩衝剤やpH調整剤等を水とともに混合して溶解させ、水溶液組成物を調製することができる。また、上記の通り、凍結乾燥組成物は、当該水溶液組成物を凍結乾燥させることによって調製することができる。
【0038】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【0039】
また、上述した各実施形態について説明した各種特性(性質、構造、機能等)は、本開示に包含される主題を特定するにあたり、どのように組み合わせられてもよい。
【実施例0040】
以下、本開示に包含される主題をより具体的に説明するが、当該主題は下記の例に限定されるものではない。
【0041】
化合物(1)の金属塩の製造
特許文献1(国際公開第2007/074915号)の実施例(特に実施例1、3、及び9)に記載の方法に従って、化合物(1)及びその2ナトリウム塩を調製した。当該2ナトリウム塩を化合物Aとして、以下の検討に用いた。当該調製は、具体的には、次のようにして行った。なお、以下の具体的な調製方法の記載においては、当該化合物(1b)が化合物(1)にあたり、化合物(1b)の2ナトリウム塩が化合物Aにあたる。
【0042】
【化6】
【0043】
トルバプタン1.0g及び1H-テトラゾール460mgを塩化メチレン30mlに溶解し、該溶液に室温攪拌下、ジベンジルジイソプロピルホスホラミジト1.2gを滴下し、同温度で2時間攪拌した。
【0044】
得られた反応液を-40℃に冷却し、該溶液にメタクロル過安息香酸920mgの塩化
メチレン溶液6mlを滴下した。この混合物を、同温度で30分、更に0℃で30分攪拌した。反応混合物をチオ硫酸ナトリウム水溶液、飽和重曹水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。得られた反応混合物を濾過し、濃縮し、残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出溶媒:n-ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製することにより、化合物(1a-1)のアモルファスフォーム1.5g(収量97.2%)を得た。
【0045】
【化7】
【0046】
化合物(1a-1)5.3gをエタノール100mlに溶解した。5%パラジウム炭素2gを触媒として用い、常温、常圧下で10分間、該溶液を接触還元した。該溶液から触媒を濾去し、得られた濾液を濃縮した(4.2g)。得られた残渣をメタノール-水より結晶化した。結晶を濾取し、減圧下乾燥(五酸化二リン)することにより、化合物(1b)の白色粉末3.5g(収量88.5%)を得た。
【0047】
さらに、化合物(1b)276mg (0.52ミリモル)のメタノール溶液(2ml)に氷冷下1N-水酸化ナトリウム水溶液 1.0mlを加え、得られる混合物を5分間撹拌した。反応混合物を減圧下に濃縮し、残渣をアセトン-水から再結晶して、化合物(1b)の2ナトリウム塩221mgを白色粉末として得た。
【0048】
なお、特許文献1の実施例に記載の方法に従い、化合物(1)のカルシウム塩、マグネシウム塩、及び亜鉛塩も製造した。以上の金属塩について固体状態の安定性を検討したところ、化合物(1)と比較して、2ナトリウム塩(すなわち化合物A)、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び亜鉛塩は、安定性が顕著に向上した。また、さらに水への溶解性を検討したところ、化合物(1)、カルシウム塩、マグネシウム塩、及び亜鉛塩と比較して、2ナトリウム塩(すなわち化合物A)は下記表に示すように顕著に優れており、水性注射製剤用原体として好適であった。
【0049】
【表1】
【0050】
高圧蒸気滅菌処理における、化合物(1)のリン酸エステル結合の安定性
化合物(1)の0.1(w/v)%水溶液を調製し、高圧蒸気滅菌(121℃、20分)処理を施した際の、安定性を検討した。当該水溶液は、100mMリン酸ナトリウム緩衝液若しくは100mMトリス緩衝液で調製した。なお、それぞれの緩衝液を用いた水溶液において、水酸化ナトリウムを用いてpHを調製し、異なるpHの溶液を調製した。ま
た、当該処理後における、化合物(1)の純度、並びにトルバプタンの生成量をHPLCの面積百分率法にて測定した。
【0051】
特定結果を図1に示す。当該結果から、高圧蒸気滅菌処理により、化合物(1)のリン酸エステル結合は加水分解してトルバプタンとなり、析出することが分かった。また、pH7.5以上のリン酸ナトリウム緩衝液を用いた場合には、当該加水分解が効果的に抑制されており、化合物(1)のリン酸エステル結合の安定性が高いことも分かった。
【0052】
化合物(1)の凍結乾燥製剤の安定性の検討1
20mMリン酸水素2ナトリウム緩衝液を用いて、化合物(1)0.1(w/v)%及びマンニトール4(w/v)%及び水酸化ナトリウム(適量)を含有する水溶液(pH7、7.5、8、8.5、又は9)を調製した。
【0053】
当該水溶液を2mLガラスバイアルに充填し、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、
水分を除去することで凍結乾燥し、凍結乾燥組成物を得た。これを40℃で3ヶ月又は60℃で1ヶ月保管した後、凍結乾燥により乾燥除去した量と同量の水により再構成して水溶液に戻した。得られた水溶液中の総分解物又はトルバプタンの生成量(%)をHPLCの面積百分率法にて測定した。
【0054】
結果を図2に示す。pHが8より高い溶液から調製した凍結乾燥組成物は、60℃での保管においても化合物(1)は比較的安定であった。しかし、マンニトールの添加では、60℃1か月での保管においては、高いpHの溶液から調製した凍結乾燥組成物であって
も、pH8.5で1.45%、pH9で0.9%トルバプタンを生成したことから、その安定化効果は十分ではなかった。
【0055】
化合物(1)の凍結乾燥製剤の安定性の検討2
マンニトール以外の添加剤として、NaCl、ソルビトール、スクロース、マルトース、トレハロース、又はラクトースを用いて、上記「化合物(1)の凍結乾燥製剤の安定性の検討1」と同様にして、凍結乾燥組成物を調製した。ただし、凍結乾燥組成物調製前の水溶液のpHは、8.5に調整した。但し、ラクトースに関しては、凍結乾燥組成物調製前の水溶液は24mM炭酸水素ナトリウム緩衝液を用いて、pHは、9.0に調整した。
【0056】
得られた凍結乾燥組成物を60℃で1ヶ月保管した後、トルバプタンの生成量をHPLCの面積百分率法で測定して、各組成物中の化合物(1)の安定性を検討した。結果を表2に示す。当該結果から、塩化ナトリウム及びマンニトールと比較して、二糖類(スクロース、マルトース、トレハロース、又はラクトース)を配合した場合、顕著にトルバプタンの生成量が抑制された。当該抑制は、特にスクロース、マルトース、及びラクトースで顕著であった。また、凍結乾燥組成物調製前の水溶液を60℃で1週間保管した後、各組成物中の化合物(1)の安定性を検討した。結果を表3に示す。その結果、マルトースとラクトースを用いた場合ではトルバプタンの生成量(%)が増えた。
【0057】
以上のことから、凍結乾燥組成物の調製(すなわち、凍結乾燥組成物調製のための水溶液組成物の調製)に二糖を用いることにより、凍結乾燥組成物中でのトルバプタンのプロドラック(化合物(1))の安定性が顕著に高まること、さらには、スクロースを用いた場合には、凍結乾燥を行わない水溶液組成物の状態であっても、トルバプタンのプロドラック(化合物(1))の安定性が顕著に高まること、がわかった。従って、スクロースを配合した場合に、凍結乾燥物並びに水溶液状態において、その安定化効果が極めて顕著であることがわかった。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
化合物Aの凍結乾燥製剤の安定性の検討1
化合物Aを使用し、その含有量を0.541(w/v)%、スクロース含有量を7.5(w/v)%、とした以外は、上記「化合物(1)の凍結乾燥製剤の安定性の検討2」と同様にして、pH7.5、8、8.5、又は9の水溶液を調製し、これを凍結乾燥して凍結乾燥組成物を得て、当該凍結乾燥組成物を60℃で1ヶ月保存した。そして、トルバプタンの生成量(%)をHPLCの面積百分率法で測定した。結果は、pH7.5のものは0.22%、pH8のものは0.10%、pH8.5のものは0.07%であり、pH9のものは検出限界以下であり、いずれも安定性は良好であった。
【0061】
化合物Aの凍結乾燥製剤の安定性の検討2
緩衝剤としてリン酸ナトリウムではなくリン酸カリウムを用いて、上記「化合物Aの凍結乾燥製剤の安定性の検討1」と同様にpH8.5の水溶液を調製し、さらに凍結乾燥組成物を調製して、当該凍結乾燥組成物における化合物Aの安定性を検討(60℃1ヶ月保存)したところ、トルバプタンの生成量(%)は0.07%でリン酸ナトリウムを用いた場合と同じであった。
【0062】
また、水溶液におけるスクロース含有量を1%、2%、4%、又は7.5%としたものを用いて、上記「化合物Aの凍結乾燥製剤の安定性の検討1」と同様にpH8.0の水溶液を調製し、さらに凍結乾燥組成物を調製して、当該凍結乾燥組成物における化合物Aの安定性を検討(60℃1ヶ月保存)したところ、トルバプタンの生成量(%)は、スクロース含有量1%のもので0.25%、スクロース含有量2%のもので0.12%、スクロース含有量4%のもので0.08%、スクロース含有量7.5%のもので0.10%であった。このことから、検討したいずれのものも化合物Aの安定性は良好であり、特に水溶液中スクロース含有量が1%を超える場合に安定性がより良好になることがわかった。なお、スクロース含有量が4%及び7.5%のものは、凍結乾燥組成物を水で再構成して水溶液に戻した際、発泡し若干の白濁が観察されたため、脱気して透明に戻るまで静置して待つ必要があった。投与に際して問題になる訳ではないが、発泡による白濁が見られない
という観点からすれば、水溶液におけるスクロース含有量は4%より少ない量であることが好ましいと考えられた。
【0063】
また、水溶液のリン酸ナトリウム濃度が20mMのpH8.5のものだけではなく、10mM又は50mMの水溶液も上記「化合物Aの凍結乾燥製剤の安定性の検討1」と同様に調製し、さらに凍結乾燥組成物を調製して、当該凍結乾燥組成物を保存(60℃1ヶ月保存又は40℃3ヶ月保存)した後、水で再構成した際のpHがどの程度であるかを検討した。結果を下表に示す。
【0064】
【表4】
【0065】
当該結果から、保存前と比べて大きなpHの変動は見られないことがわかった。
【0066】
また、当該凍結乾燥組成物における化合物Aの安定性を検討(60℃1ヶ月保存)したところ、トルバプタンの生成量(%)は、10mMのもので0.07%、20mMのもので0.07%、50mMのもので検出限界以下であった。いずれも安定性は良好であった。
【0067】
処方例1
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを8.5に調整し、表5の組成の水溶液を調製した。表5の組成の水溶液を無菌ろ過後、滅菌されたバイアルに製剤溶液例1は5.21mL、製剤溶液例2は20.66mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-10℃にして水分を除去した後、棚温を30℃にして残存水分を除去することで、表6の組成の無菌の凍結乾燥組成物を得た。製剤例1の凍結乾燥組成物を40℃75%RH(相対湿度)6か月、又は25℃60%RH36カ月保管した後の化合物Aの安定性を検討したところ、HPLCの面積百分率法で測定したトルバプタンの生成量は検出限界以下であり、長期保管後も極めて安定であった。製剤例1は5mL注射用水を、製剤例2は20mL注射用水を加え、再構成することで、長期保管後においても、不溶性異物や不溶性微粒子が日本薬局方に規定された範囲内の、表5に示す製剤溶液例1及び製剤溶液例2が得られた。
【0068】
【表5】
【0069】
【表6】
【0070】
処方例2
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを8.5に調整し、表7の組成の水溶液を調製した。表7の組成の水溶液を無菌ろ過後、滅菌されたバイアルに2.63mL~2.64mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-20℃にして水分を除去した後、棚温を30℃にして残存水分を除去することで、表8の組成の無菌の凍結乾燥組成物を得た。表5の製剤例3、4、5、6の凍結乾燥組成物を40℃75%RH6か月、又は25℃60%RH18カ月保管した後の化合物Aの安定性を検討したところ、トルバプタンの生成量はいずれも検出限界以下であり、長期保管後も極めて安定であった。表7の凍結乾燥組成物に2.5mL注射用水を加え、再構成することで、長期保管後においても、不溶性異物や不
溶性微粒子が日本薬局方に規定された範囲内の、表7に示す製剤溶液例3、4、5、及び6が得られた。
【0071】
【表7】
【0072】
【表8】
【0073】
処方例3
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを8.5に調整し、表9の組成の水溶液を調製した。表9の組成の水溶液を無菌ろ過後、バイアルに2mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-20℃にして水分を除去した後、棚温を30℃にして残存水分を除去することで、表10の組成の凍結乾燥組成物を得た。表10の製剤例7、8、9の凍結乾燥組成物を50℃4週間保管した後の化合物Aの安定性を検討したところ、トルバプタンの生成量は製剤例7(比較例)では1.2%であり、製剤例8及び製剤例9では検出限界以下であった。50℃4週間保管後の表10の凍結乾燥組成物に2mL注射用水を加え、再構成す
ると、製剤例7(比較例)では不溶性微粒子が日本薬局方の規定量を超えたが、製剤例8と製剤例9では日本薬局方に規定された範囲内であった。従って、トルバプタンの生成と不溶性微粒子に対するスクロースの配合効果が再確認された。
【0074】
【表9】
【0075】
【表10】
【0076】
処方例4
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、及びリン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを8.5に調整し、表11の組成の水溶液を調製した。表11の組成の水溶液を無菌ろ過後、バイアルに2mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-20℃にして水分を除去した後、棚温を30℃にして残存水分を除去することで、表12の組成の凍結乾燥組成物を得た。表12の製剤例10、11、12、13の凍結乾燥組成物を50℃4週間保管した後の化合物Aの安定性を検討したところ、トルバプタンの生成量はすべての製剤例で検出限界以下であった。50℃4週間保管後の表9の凍結乾燥組成物に2mL注射用水を加え、再構成すると、不溶性異物や不溶性微粒
子が日本薬局方に規定された範囲内の製剤溶液が得られた。
【0077】
【表11】
【0078】
【表12】
【0079】
処方例5
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを8.5に調整し、表13の組成の水溶液を調製した。表13の組成の水溶液を無菌ろ過後、バイアルに2mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-20℃にして水分を除去した後、棚温を30℃にして残存水分を除去することで、表14の組成の凍結乾燥組成物を得た。表14の製剤例14、15、16、17の凍結乾燥組成物を50℃4週間保管した後の化合物Aの安定性を検討したところ、トルバプタンの生成量はすべての製剤例で検出限界以下であった。50℃4週間保管後の表14の凍結乾燥組成物に2mL注射用水を加え、再構成すると、不溶性異物や不溶性微粒子が
日本薬局方に規定された範囲内の製剤溶液が得られた。
【0080】
【表13】
【0081】
【表14】
【0082】
処方例6
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムでpHを8.5に調整し、表15の組成の水溶液を調製した。表15組成の水溶液を無菌ろ過後、バイアルに2.04mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-20℃にして水分を除去した後、棚温を30℃にして残存水分を除去することで、表16の組成の凍結乾燥組成物を得た。表16の凍結乾燥組成物を50mLの
生理食塩液もしくはブドウ糖注射液で溶解し、化合物Aの点滴用注射液を調製した。
【0083】
【表15】
【0084】
【表16】
【0085】
処方例7
下表に、化合物Aを用いた製剤の処方例を示す。化合物A、精製白糖(スクロース)、リン酸水素ナトリウム水和物、リン酸二水素ナトリウムを注射用水に溶解し、水酸化ナトリウムもしくはリン酸でpHを8.5に調整し、表17の組成の水溶液を調製した。表17組成の水溶液を無菌ろ過後、バイアルに2.14mL充填した。さらに、-40℃以下に凍結後、真空に減圧し、棚温を-10℃にして水分を除去した後、棚温を40℃にして残存水分を除去することで、表18の組成の凍結乾燥組成物を得た。表18の凍結乾燥組成物を50mLの生理食塩液もしくはブドウ糖注射液で溶解し、化合物Aの点滴用注射液を調製した。
【0086】
【表17】
【0087】
【表18】
図1
図2