(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017835
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】移動端末試験装置とそのMCS探索方法
(51)【国際特許分類】
H04W 88/02 20090101AFI20240201BHJP
H04B 17/15 20150101ALI20240201BHJP
H04B 17/29 20150101ALI20240201BHJP
【FI】
H04W88/02 150
H04B17/15
H04B17/29
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120743
(22)【出願日】2022-07-28
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.3GPP
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細谷 峻弘
【テーマコード(参考)】
5K067
【Fターム(参考)】
5K067AA44
5K067EE02
5K067LL11
(57)【要約】
【課題】設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすような設定値を自動的に探索して、試験の効率を向上させることができる移動端末試験装置を提供すること。
【解決手段】移動端末10との間でRF信号を送受信する擬似基地局部2と、試験のシナリオに基づいて、擬似基地局部2に報知情報を送信させたり、移動端末10との間で通信シーケンスを実行させたりするシナリオ処理部3と、基地局を擬似するためのパラメータを設定するとき、設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすようなMCSの設定値を探索して提示する制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体通信の基地局を擬似して移動端末(10)を試験する移動端末試験装置(1)であって、
基地局を擬似するためのパラメータを設定するとき、設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすようなMCSの設定値を探索して提示する制御部(6)を備える移動端末試験装置。
【請求項2】
前記制御部は、Code Rateが規格値以下であり、かつTBSが最大となるMCSを探索する請求項1に記載の移動端末試験装置。
【請求項3】
移動体通信の基地局を擬似して移動端末(10)を試験する移動端末試験装置(1)の基地局を擬似するためのパラメータを設定するときのMCS探索方法であって、
現在のMCSと、設定されたパラメータと、に基づいてCode Rateを算出するステップと、
算出されたCode Rateが規格値以下である場合に、現在のMCSと、設定されたパラメータと、に基づいてTBSを算出するステップと、
算出されたTBSが現在の最大値より大きい場合に、現在のMCSを最大値のMCSとして設定し、現在のTBSの値をTBSの最大値として設定するステップと、
これらのステップを全てのMCSについて実行し、TBSが最大となるMCSを求めるMCS探索方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動端末の試験を行なう移動端末試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やデータ通信端末等の移動しながら通信を行なう移動端末を開発した場合、この開発した移動端末が正常に通信を行なえるか否かを試験する必要がある。このため、実際の基地局の機能を擬似する擬似基地局として動作する試験装置に試験対象の移動端末を接続し、試験装置と移動端末との間で通信を行ない、この通信の内容を確認する試験を行なっている。
【0003】
移動通信システムとしては、LTE(Long Term Evolution)や、5G(5th Generation) NR(New Radio)などがサービスされている。
【0004】
このLTEや5G NRでは、無線の伝搬路を推定し、その推定結果に基づき変調方式やチャネル符号化率(MCS:Modulation and Coding Scheme)、リソースブロック(RS:Resource Block)数などを決定し、通信を行なうようになっている。
【0005】
特許文献1には、MCS、RB数、トランスミッションモードから、無線信号の帯域幅全体で所定のパケット誤り率を満たしながら伝送できる情報ビットの数を表すTBS(Transport Block Size)を求め、求めたTBSからパケット伝送レートを求めて表示することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
移動端末試験装置では、基地局を擬似するためのパラメータを、実施する試験の内容に応じて設定しなければならない。
【0008】
しかしながら、例えば、TBSは、RB数やMCSなどの値によって決まるが、TBSを所望の値に設定したい場合には、多くのパラメータを調整する必要があった。
【0009】
また、3GPP(3rd Generation Partnership Project)の規格では、端末に送信するデータ量の送信可能な最大のデータ量に対する比率であるCode Rateを規格値以下とする必要があり、この条件を満たすようにパラメータを調整しなければならない。
【0010】
このため、基地局を擬似するためのパラメータの設定に手間が掛かり、試験の効率が悪かった。
【0011】
そこで、本発明は、設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすような設定値を自動的に探索して、試験の効率を向上させることができる移動端末試験装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の移動端末試験装置は、移動体通信の基地局を擬似して移動端末を試験する移動端末試験装置であって、基地局を擬似するためのパラメータを設定するとき、設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすようなMCSの設定値を探索して提示する制御部を備えるものである。
【0013】
この構成により、設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすようなMCSの設定値が探索されて提示される。このため、ユーザーの負担を軽減し、試験効率を向上させることができる。
【0014】
また、本発明の移動端末試験装置において、前記制御部は、Code Rateが規格値以下であり、かつTBSが最大となるMCSを探索するものである。
【0015】
この構成により、Code Rateが規格値以下であり、かつTBSが最大となるMCSが探索される。このため、自動的にTBSが最大となるMCSが提示され、ユーザーの負担を軽減して、試験効率を向上させることができる。
【0016】
また、本発明のMCS探索方法は、移動体通信の基地局を擬似して移動端末を試験する移動端末試験装置の基地局を擬似するためのパラメータを設定するときのMCS探索方法であって、現在のMCSと、設定されたパラメータと、に基づいてCode Rateを算出するステップと、算出されたCode Rateが規格値以下である場合に、現在のMCSと、設定されたパラメータと、に基づいてTBSを算出するステップと、算出されたTBSが現在の最大値より大きい場合に、現在のMCSを最大値のMCSとして設定し、現在のTBSの値をTBSの最大値として設定するステップと、これらのステップを全てのMCSについて実行し、TBSが最大となるMCSを求めるものである。
【0017】
この構成により、Code Rateが規格値以下であり、かつTBSが最大となるMCSが探索される。このため、自動的にTBSが最大となるMCSが提示され、ユーザーの負担を軽減して、試験効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、設定されたパラメータに応じて所定の条件を満たすような設定値を自動的に探索して、試験の効率を向上させることができる移動端末試験装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る移動端末試験装置の要部のブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施形態に係る移動端末試験装置の変調方式として256QAM無効時のMCSとTBSとの関係を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態に係る移動端末試験装置の変調方式として256QAM有効時のMCSとTBSとの関係を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態に係る移動端末試験装置のMCS探索処理の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る移動端末試験装置について詳細に説明する。
【0021】
図1において、本発明の一実施形態に係る移動端末試験装置1は、擬似基地局として同軸ケーブル等を介して有線で移動端末10とRF(無線周波数)信号を送受信するようになっている。なお、移動端末試験装置1は、アンテナを介して無線で移動端末10とRF信号を送受信するようにしてもよい。
【0022】
移動端末試験装置1は、擬似基地局部2と、シナリオ処理部3と、操作部4と、表示部5と、制御部6とを含んで構成されている。
【0023】
擬似基地局部2は、シナリオ処理部3の制御により、移動端末10との間でRF信号を送受信する。擬似基地局部2は、移動端末10との通信の状態などを制御部6に出力する。
【0024】
擬似基地局部2は、LTEの規格に従ってLTEの通信を移動端末10との間で行なえるようになっている。擬似基地局部2は、5G NRの規格に従って5G NRの通信を移動端末10との間で行なえるようにしてもよい。
【0025】
シナリオ処理部3は、制御部6からの指示により、記憶されているシナリオを読み出して、そのシナリオに基づいて擬似基地局部2に、報知情報を送信させたり、移動端末10との間で通信シーケンスを実行させたりする。
【0026】
操作部4は、キーボード、マウス、タッチパネル等の入力機器で構成され、操作入力されたシナリオの生成に必要な情報などを制御部6に出力する。表示部5は、液晶ディスプレイ等の画像表示機器で構成され、シナリオの生成に必要な情報を入力させる画像や試験中の状態を示す画像などを表示する。
【0027】
制御部6は、操作部4に入力された指示に従って、試験シナリオの作成画面を表示部5に表示させて試験シナリオの生成に必要な情報を入力させたり、試験シナリオの作成画面において操作部4に入力された情報に基づいて試験シナリオを生成したりする。また、制御部6は、操作部4に入力された指示に従って、シナリオ処理部3に指示を送信して、記憶装置に記憶された試験シナリオに基づいて試験を実行させたり、シナリオ処理部3から送信される各レイヤの状態や移動端末10との通信の状態などの情報に基づいて表示部5に試験中の状態などを表示させたりする。
【0028】
ここで、移動端末試験装置1は、移動端末10と通信を行なうための通信モジュールが設けられた図示しないコンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、それぞれ図示しないCPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)と、ハードディスク装置などの記憶装置と、入出力ポートと、タッチパネルとを有する。
【0029】
このコンピュータ装置のROM及びハードディスク装置には、コンピュータ装置を移動端末試験装置1として機能させるためのプログラムが格納されている。すなわち、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行することにより、当該コンピュータ装置は、移動端末試験装置1として機能する。
【0030】
このように、本実施形態において、シナリオ処理部3、制御部6は、CPUによって構成され、擬似基地局部2は、通信モジュールによって構成される。
【0031】
このような構成の移動端末試験装置1において、LTEあるいは5G NRに対応した移動端末10を試験する場合、制御部6は、LTEあるいは5G NRの擬似基地局としてのパラメータや試験の信号シーケンスなどをユーザーに設定させ、試験シナリオを作成して記憶装置に記憶させる。
【0032】
本実施形態の移動端末試験装置1は、設定された擬似基地局としてのパラメータに応じて所定の条件を満たすようなMCSの設定値を自動的に探して、ユーザーに提示する。
【0033】
制御部6は、例えば、Code Rateを規格値以下とし、かつTBSの値が最大となるMCSを探して、パラメータ設定画面のMCSの設定値として表示部5に表示させる。
【0034】
Code Rateは、おおまかに、(端末に送信するデータ量)/(LTEのDownlinkフレームに載せることのできる最大データ量)で求められる。
【0035】
分子の(端末に送信するデータ量)は、TBSの値などによって決まる。分母の(LTEのDownlinkフレームに載せることのできる最大データ量)は、フレーム内のPDSCH(Physical Downlink Shared CHannel) RB数と変調方式などによって決まる。
【0036】
Downlinkフレームには参照信号や、報知情報信号、同期信号、PDCCH(Physical Downlink Control CHannel)、PCFICH(Physical Control Format Indicator CHannel)、PHICH(Physical HARQ Indicator CHannel)などの各種物理チャネルが存在する。これらの物理チャネルが存在しないリソースにPDSCHを割り当てることができ、ユーザーデータはこのPDSCHによって伝送される。
【0037】
フレーム構成やアンテナ構成(MIMO:Multi Input Multi Output)などによって物理チャネルのリソースマッピングは異なるため、これらのパラメータによって分母の値は変動する。また変調方式が変わることによって、PDSCHの各Symbolで伝送できるデータのビット数が変わるため、変調方式によっても分母の値は変動する。
【0038】
制御部6は、規格で定められたMCSのインデックスの全てについて、設定されているパラメータに基づいてCode Rateを算出する。
【0039】
制御部6は、Code Rateが規格値以下のMCSインデックスについてTBSの値を求め、TBSの値が最大となるMCSをパラメータ設定画面のMCSの設定値として表示部5に表示させる。なお、表示させるだけでなく、パラメータの設定値として設定するようにしてもよい。
【0040】
TBSは、RF信号の周波数帯域幅、RB数、変調方式、MCSのインデックスなどにより値が変わる。
【0041】
図2は、FDD(Frequency Division Duplexing)方式で、RF信号の周波数帯域幅が20MHz、RB数が100、変調方式として256QAM無効時のMCSインデックスとTBSの値との関係を示した表である。
【0042】
また、
図3は、
図2と同条件で、変調方式として256QAMが有効となった場合のMCSインデックスとTBSの値との関係を示した表である。
【0043】
このように、Code Rateを規格値以下とし、かつTBSの値が最大となるMCSを求めるには、複数のパラメータの設定内容を参照して求めなければならず、ユーザーの負担が大きかった。
【0044】
本実施形態では、Code Rateを規格値以下とし、かつTBSの値が最大となるMCSを、パラメータの設定内容に応じて自動的に求め、ユーザーに提示するため、ユーザーの負担を軽減し、試験効率を向上させることができる。
【0045】
以上のように構成された本実施形態に係る移動端末試験装置1によるMCS探索処理について、
図4を参照して説明する。なお、以下に説明するMCS探索処理は、ユーザーの操作部4の操作により、MCS設定機能が選択されると開始される。
【0046】
ステップS1において、制御部6は、MCSのインデックスを探索範囲の最大値に設定する。ステップS1の処理を実行した後、制御部6は、ステップS2の処理を実行する。
【0047】
ステップS2において、制御部6は、設定したMCSインデックスと、設定されたパラメータと、に基づいてCode Rateを算出する。ステップS2の処理を実行した後、制御部6は、ステップS3の処理を実行する。
【0048】
ステップS3において、制御部6は、算出されたCode Rateが規格値以下であるか否かを判定する。
【0049】
算出されたCode Rateが規格値以下であると判定した場合には、制御部6は、ステップS4の処理を実行する。算出されたCode Rateが規格値以下でないと判定した場合には、制御部6は、ステップS6の処理を実行する。
【0050】
ステップS4において、制御部6は、設定したMCSインデックスと、設定されたパラメータと、に基づいてTBSを算出し、算出されたTBSの値が現在の最大値より大きいか否かを判定する。
【0051】
設定したMCSインデックスでのTBSの値が現在の最大値より大きいと判定した場合には、制御部6は、ステップS5の処理を実行する。設定したMCSインデックスでのTBSの値が現在の最大値より大きくないと判定した場合には、制御部6は、ステップS6の処理を実行する。
【0052】
ステップS5において、制御部6は、現在のMCSインデックスをTBSの値が最大となるMCSインデックスとして設定し、現在のTBSの値をTBSの最大値として設定する。ステップS5の処理を実行した後、制御部6は、ステップS6の処理を実行する。
【0053】
ステップS6において、制御部6は、MCSインデックスの値が探索範囲の最小値であるか否かを判定する。
【0054】
MCSインデックスの値が探索範囲の最小値であると判定した場合には、制御部6は、ステップS8の処理を実行する。MCSインデックスの値が探索範囲の最小値でないと判定した場合には、制御部6は、ステップS7の処理を実行する。
【0055】
ステップS7において、制御部6は、MCSインデックスの値を1減算する。ステップS7の処理を実行した後、制御部6は、ステップS2の処理を実行する。
【0056】
ステップS8において、制御部6は、設定されているTBSの値が最大となるMCSインデックスの値をMCSの設定値として更新して表示部5に表示させる。ステップS8の処理を実行した後、制御部6は、MCS探索処理を終了する。
【0057】
このように、上述の実施形態では、制御部6は、ユーザーの指示により、Code Rateを規格値以下とし、かつTBSの値が最大となるMCSを、パラメータの設定内容に応じて自動的に求め、ユーザーに提示する。
【0058】
これにより、パラメータの設定内容を確認しながらTBSの値を算出して、TBSの値が最大となるMCSを探さなくても、自動的にTBSの値が最大となるMCSが提示され、ユーザーの負担を軽減して、試験効率を向上させることができる。また、提示されたMCSを自動的にパラメータの設定値として設定するようにすれば、ユーザーがその都度、操作部4で設定する負荷も低減できる。
【0059】
なお、本実施形態においては、MCSのインデックス値の探索範囲の最大値から最小値まで、TBSが最大となるMCSを探したが、MCSのインデックス値の探索範囲の最小値から最大値まで探すようにしてもよい。
【0060】
また、Carrier Aggregationを使った試験を実施する場合は、複数のComponent Carrierの設定を前述の処理により一括で設定できるようにしてもよいし、Component Carrierごとに個別に設定できるようにしてもよい。
【0061】
また、本実施形態においては、TBSが最大となるMCSを探索したが、他の条件に合致するようなMCSを探索するようにしてもよい。
【0062】
本発明の実施形態を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正及び等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0063】
1 移動端末試験装置
2 擬似基地局部
3 シナリオ処理部
4 操作部
5 表示部
6 制御部
10 移動端末