(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178367
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】バイオマスをタンパク質で強化する方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/00 20060101AFI20241217BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20241217BHJP
C12N 1/12 20060101ALI20241217BHJP
C07K 14/405 20060101ALI20241217BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20241217BHJP
A61K 38/02 20060101ALI20241217BHJP
A61K 36/04 20060101ALI20241217BHJP
A23K 10/37 20160101ALI20241217BHJP
A23K 20/147 20160101ALI20241217BHJP
【FI】
C12P21/00 A
A23L33/135
C12N1/12 A
C07K14/405
A61P3/02
A61K38/02
A61K36/04
A23K10/37
A23K20/147
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024165665
(22)【出願日】2024-09-24
(62)【分割の表示】P 2021512429の分割
【原出願日】2019-09-05
(31)【優先権主張番号】1857950
(32)【優先日】2018-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】513127711
【氏名又は名称】フェルメンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】カニャク、オリヴィエ
(72)【発明者】
【氏名】アタネ、アクセル
(72)【発明者】
【氏名】デモル、ジュリアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ガルディエリア(Galdieria)などの単細胞紅藻のバイオマスをタンパク質強化する方法および当該方法により得られたバイオマスを提供する。
【解決手段】溶解された微生物の、タンパク質に富むバイオマスを生産する方法であって、当該方法が、
b.1.溶解された微生物のバイオマスを懸濁する工程と、
b.2.得られた懸濁液を酸性化してpHを5以下にする工程と、
c.pH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分を回収する工程と、
必要に応じて、前記工程c.で回収したpH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分に対し、前記工程b.1.、工程b.2.および工程c.を繰り返す工程と
を含む、方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解された微生物の、タンパク質に富むバイオマスを生産する方法であって、当該方法が、
b.1.溶解された微生物のバイオマスを懸濁する工程と、
b.2.得られた懸濁液を酸性化してpHを5以下にする工程と、
c.pH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分を回収する工程と、
必要に応じて、前記工程c.で回収したpH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分に対し、前記工程b.1.、工程b.2.および工程c.を繰り返す工程と
を含む、方法。
【請求項2】
工程b.2.で得られた酸性懸濁液のpHが4.5以下であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程b.2.で得られた酸性懸濁液の乾燥物含有量が1%~30%であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
工程b.1.および工程b.2.が連続しているかまたは同時であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程b.1.および工程b.2.が連続しており、工程b.2.が工程b.1.の直後に、さらなるバイオマス処理工程無しで、特に脱脂工程無しで実施されることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
予め培養された微生物のバイオマスを溶解する予備工程a.を含むことを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
工程c.で回収したバイオマスを乾燥させることを特徴とする、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記微生物が、イデユコゴメ科(Cyanidiaceae)またはガルディエリア科(Galdieriaceae)の単細胞紅藻(URA)から選択されることを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載の方法によって得られる、タンパク質に富む溶解された微生物のバイオマス。
【請求項10】
乾燥物に対して少なくとも60%のタンパク質を含有し、かつ乾燥物に対して少なくとも20%未満の全糖含有量、および/または乾燥物に対して10%未満のグリコーゲン含有量、および/または乾燥物に対して少なくとも5%の脂肪含有量を有することを特徴とする、請求項9に記載のバイオマス。
【請求項11】
請求項9または10に記載の溶解された微生物のバイオマスを含むことを特徴とする、ヒトまたは動物消費用の食品または食品組成物。
【請求項12】
治療に使用するための、請求項9または10に記載の溶解された微生物のバイオマス。
【請求項13】
栄養失調の予防および治療に使用するための、請求項9または10に記載の溶解された微生物のバイオマス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガルディエリア(Galdieria)などの単細胞紅藻のバイオマスをタンパク質で強化する方法および当該方法により得られたバイオマスに関する。
【背景技術】
【0002】
いくつかの植物性タンパク質源は、動物およびヒトにそれらの代謝に必要なアミノ酸を供給するために、ヒトまたは動物消費用の食品に直接使用され、または栄養補助食品として使用されることで知られている。これらのタンパク質源は、いったん食品が摂取されると、動物またはヒトに利用可能なアミノ酸源であると意図される。
【0003】
動物飼料に使用される最もよく知られている植物性タンパク質源は大豆であり、一般に、ミール(油を抽出した後に残る固形残渣)の形態で使用される。しかしながら、大豆ミールの使用には、その起源に関連するいくつかの欠点がある。大豆ミールは、一般に、生物多様性をもたらす他の植物を犠牲にして集約的大豆栽培を行っている国から輸入される。さらに、多くの国が遺伝子組換え(GM)大豆品種の栽培を奨励しており、GM大豆品種はミール中で非GM大豆と混合されていることが知られており、遺伝子組換え生物(GMO)を含まない植物起源の食品生成物への需要の高まりを満たすのに役立っていない。
【0004】
植物性タンパク質の他の供給源、特にスピルリナ(Spirulina)またはクロレラ(Chlorella)は、ヒト用栄養補助食品として使用されることが知られている。
【0005】
しかしながら、スピルリナ(Spirulina)はクロレラ(Chlorella)と同様に生産性が低く、高収率の発酵培養ができないという欠点がある。これらの培養により、従来の栄養補助食品に対する地域的かつ限定的な需要を満たすことは可能であるが、動物およびヒト消費用の食品において、大豆などの一般的な供給源に取って代わることが可能な品質の食品タンパク質源を、より広範に、採算の合うように工業生産するという目的を達成することはできない。
【0006】
ガルディエリア(Galdieria)などの微細藻類も、その栄養学的特性について研究されている(Grazianiら、2013)。多価不飽和脂肪酸に富む油を産生することが知られているオーランチオキトリウム(Aurantiochytrium)などの微細藻類由来のタンパク質抽出物も記載されている(WO2017/132407、WO2017/019125、WO2016/015013)。しかしながら、これらの抽出物は、脱脂バイオマスに対して、すなわち培養バイオマスから脂肪画分を抽出および除去した後に実施されたものである。これは、クロレラ(Chlorella)タンパク質を回収するために実施されることでもある(WO2016/120548、WO2016/00194)。
【0007】
例えば、タンパク質の過剰発現に特に適した株の選択、および/または、この過剰発現を促進し、バイオマスをタンパク質で強化する培養方法の実施を通じてタンパク質に富む微生物バイオマスを生産する方法が知られている。しかしながら、遺伝子組換え微生物(GMO)由来のバイオマスは、特定の食品および(特に、欧州における)水産養殖を含む飼料市場には適さない。
【0008】
大豆などの従来のタンパク質源に代わるものとして、広範な、採算の合う工業生産という目的を達成するような、タンパク質に富む非GMOバイオマス源を提案できることに関心が寄せられている。
【発明の概要】
【0009】
本発明は、タンパク質に富むバイオマスを生産する方法に関し、当該方法は、
b.1.溶解された微生物のバイオマスを懸濁する工程と、
b.2.得られた懸濁液を酸性化してpHを5以下にする工程と、
c.pH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分を回収する工程と、
必要に応じて、工程c.で回収したpH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分に対し、工程b.1.、工程b.2.および工程c.を繰り返す工程と
を含む。
【0010】
次いで、工程c.で回収したバイオマス画分を乾燥させてもよい。
【0011】
本発明はまた、このようにして得られたバイオマス、ヒトまたは動物消費用食品への当該バイオマスの使用、ならびに当該バイオマスを含有する食品および食品組成物に関する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明による処理の前および1サイクル処理後(HP1)または4サイクル処理後(HP4)のスピルリナ(Spirulina)バイオマスおよびガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulfuraria)株UTEX2919バイオマスのタンパク質含有量(乾燥物中のアミノ酸の%)を示す図である。
【
図2】本発明による処理の前および1サイクル処理後(HP1)または4サイクル処理後(HP4)のスピルリナ(Spirulina)バイオマスおよびガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulfuraria)株UTEX2919バイオマスのアミノ酸組成(g/乾燥物100g)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、溶解された微生物の、タンパク質に富むバイオマスを生産する方法であって、当該方法が、
b.1.溶解された微生物のバイオマスを懸濁する工程と、
b.2.得られた懸濁液を酸性化してpHを5以下にする工程と、
c.pH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分を回収する工程と、
必要に応じて、工程c.で回収したpH5以下で不溶性の溶解されたバイオマス画分に対し、工程b.1.、工程b.2.および工程c.を繰り返す工程と
を含む、方法に関する。
【0014】
本発明によれば、微生物は、基本的に水溶性グリコーゲンを蓄積する微生物、例えば、酵母または原生生物など、増殖中に、特にバイオマス蓄積を伴う発酵培養の工業的条件下で、水溶性グリコーゲンを蓄積する微生物である。
【0015】
有利には、本発明の方法は、フィコビリタンパク質産生微生物のバイオマスに特に適している。本発明の方法は、フィコビリタンパク質の抽出後に残存するバイオマス、すなわちこれらの目的分子の生産の副産物に有利に付加価値を与える。
【0016】
これらの微生物およびその培養方法は当業者に周知であり、特にWO2017/050917、WO2017/050918およびWO2017/093345に記載されている。
【0017】
特に、単細胞紅藻(URA)が挙げられる。本発明によれば、「URA」とは、紅色植物(Rhodophytes)を意味し、詳細にはイデユコゴメ亜門(Cyanidiophytina)の、好ましくはイデユコゴメ網(Cyanidiophyceae)の、詳細にはイデユコゴメ目(Cyanidiales)の、より詳細にはイデユコゴメ科(Cyanidiaceae)またはガルディエリア科(Galdieriaceae)の、さらにより詳細にはシアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属またはガルディエリア(Galdieria)属の紅色植物を意味する。
【0018】
好ましくは、URAは、Cyanidioschyzon merolae種 10D、Cyanidioschyzon merolae種 DBV201、Cyanidium caldarium種、Cyanidium daedalum種、Cyanidium maximum種、Cyanidium partitum種、Cyanidium rumpens種、Galdieria daedala種、Galdieria maxima種、Galdieria partita種またはGaldieria sulphuraria種、より優先的にはGaldieria sulphuraria種から選択される。
【0019】
好ましくは、本発明の方法は、少なくとも70%の細胞が溶解された、より優先的には少なくとも80%の細胞が溶解された、さらにより優先的には90%の細胞が溶解された、さらにより優先的には95%の細胞が溶解された、溶解されたバイオマスを用いて実施される。
【0020】
本発明の一つの実施形態によれば、本発明の方法は、前培養された微生物のバイオマスを溶解する予備工程a.を含む。
【0021】
溶解工程a.は、当業者に公知の任意の細胞溶解手段によって行われてよい。特に、粉砕または酵素による溶解が挙げられる。好ましくは、細胞溶解は粉砕によって行われ、この方法は、URA、特にガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)種の溶解に特に好ましい。
【0022】
従って、工程a.は、細胞が水中、発酵マスト中または再構成懸濁液中に懸濁されている間に、あるいはいわゆる「乾燥」バイオマスに対して、すなわち発酵培地から分離された新鮮なバイオマスに対して、または乾燥および保存後、例えば凍結乾燥後のバイオマスに対して、実施され得る。
【0023】
有利には、粉砕による溶解は、「乾燥」細胞のバイオマスに対して、特に、培養後に発酵培地から分離された新鮮な細胞のバイオマスに対して、当業者に周知の任意の分離方法によって、特にろ過または遠心分離によって、実施される。
【0024】
本発明の別の実施形態によれば、粉砕による溶解は、保存のために予め凍結乾燥または乾燥された細胞のバイオマスに対して実施される。
【0025】
懸濁工程b.1.は、溶解バイオマスの懸濁液を得ることを可能とする。
【0026】
工程b1で得られた懸濁液は、一般に、1%~40%またはそれ以上の乾燥物を含有する。好ましくは、20%~30%の乾燥物を含有する。
【0027】
工程b.2.は、懸濁液の水相のpHが5以下である懸濁液を得るために、酸を添加することによって実施される。好ましくは、4以下のpHが求められる。
【0028】
pHの調整は、固体または溶液の形態で、酸、無機酸または有機酸、強酸または弱酸を添加することによって行われ、添加される酸の量は、処理される懸濁液のpHおよび当業者が得ようとするpH値によって決定される。当業者に周知の無機酸の中では、特に塩酸、硫酸およびリン酸が挙げられる。当業者に周知の有機酸の中では、特に酢酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、好ましくはクエン酸が挙げられる。また、酸性ポリフェノール、例えばロスマリン酸、タンニン酸、二没食子酸、クエルシタン酸、ガロタンニン酸、酸性タンニン、例えばクエルセチン、エラジタンニン、カスタラギン、カスタリン、カスアリチシン(casuariticin)、グランジニン、プニカリギン(punicaligin)、プニカリン、ロブリンA、テリマグランジンII、テルフラビンB、ベスカリギン(vescaligin)、ペンダンクラギン(pendunculagin)、カジュアリイン(casuariin)、カストリン(castlin)、ベスカリン、好ましくはタンニン酸が挙げられる。好ましくは、使用される酸は、食品用に認可された酸、特にリン酸、硫酸、クエン酸またはタンニン酸である。
【0029】
工程b.2.で得られた酸性懸濁液は、好ましくは1%以上の乾燥物含有量、有利には2%を超える、優先的には3~30%、より優先的には4~15%、さらにより優先的には5~12%、さらにより優先的には6~10%の乾燥物含有量を有する。
【0030】
本発明の特定の実施形態によれば、工程b.1.および工程b.2.は連続しており、工程b.2.は、例えば工程b.1.の直後に、脱脂工程などの任意の他のバイオマス処理工程無しで実施される。懸濁、または懸濁液の希釈に続いて、酸を固体または液体の形態で添加する。
【0031】
本発明の別の特定の実施形態によれば、工程b.1.および工程b.2.は適量の酸性溶液を添加することによって同時に実施され、5以下の所望のpHおよび所望の乾燥物含有量の双方を得る。
【0032】
工程a.から回収された溶解バイオマスに応じて、特に、溶解が細胞の水懸濁液において実施されたか、またはいわゆる「乾燥」バイオマスに対して実施されたかに応じて、当業者は、所望の乾燥物含有量および所望のpHを有する懸濁液を得るために必要な量の水および酸を添加する方法を、これらの添加が2工程で行われるかまたは1工程で行われるかにかかわらず、理解するであろう。
【0033】
工程c.は、溶解された細胞を含む酸性懸濁液由来の水溶液から溶解された細胞の固体残渣を分離するために、当業者に公知の任意の分離手段、特にろ過または遠心分離によって、実施される。ろ過については、特にタンジェンシャルろ過、例えば、セラミック膜上または中空ポリエーテルスルホン繊維などの有機膜上でのタンジェンシャルろ過が挙げられる。また、フロンタルろ過(プレートフィルターまたはプレスフィルター)を用いてもよい。
【0034】
必要に応じて、酸性pHで可溶性の成分を枯渇させるために、工程c.で回収したpH5以下で不溶性の溶解バイオマス画分に対し、懸濁/酸性化/回収サイクル(工程b.1./工程b.2./工程c.)を数回繰り返してもよい。有利には、懸濁/酸性化/回収サイクルは、工程c.で回収した溶解バイオマスに対し、1回、2回または3回繰り返される。
【0035】
工程c.で回収したタンパク質に富むバイオマス画分は、その後、公知の任意の乾燥方法で乾燥させてもよい。
【0036】
懸濁液の母液は、酸性pHで可溶性の成分を抽出する処理のために回収されるのが一般的であり、これらの成分はそれ自体が価値を有し得る。このことは、微生物が上記のフィコビリタンパク質産生微生物である場合において、特にフィコシアニンについてよく当てはまる。このようなプロセスは、特に、2018年3月30日に出願された特許出願PCT/EP2018/058294に記載されている。
【0037】
得られたバイオマスは、一般に、乾燥物に対して少なくとも60%のタンパク質(全窒素定量による評価、N×6.25)を有し、好ましくは65%超、より優先的には68%超、70%超、または80%超のタンパク質を有する。
【0038】
バイオマスはまた、乾燥物に対して20%未満、より優先的には10%未満、5%未満の全糖含有量を有することが好ましい。
【0039】
得られたバイオマスはまた、好ましくは、乾燥物に対して10%未満、より優先的には5%未満、または1%未満、さらにより優先的には0.1%未満のグリコーゲン含有量を有する。
【0040】
使用される微生物に応じて、pHが5以下で不溶性の溶解バイオマスは、乾燥物に対して少なくとも5%、または少なくとも10%、または少なくとも15%、または少なくとも16%、または最大で20%であり得る脂肪含有量、特に脂質含有量を有していてもよい。また、脂肪の組成は微生物によっても異なる。URAについては、本発明による溶解バイオマスは、一般に、オメガ3、6および9系の多価不飽和脂肪酸、特にオレイン酸、パルミチン酸およびα-リノレン酸を含み、これらは脂肪の少なくとも30%、優先的には40%、より優先的には50%を占める。
【0041】
当業者であれば、所望の量のタンパク質、糖、グリコーゲンおよび脂質を含むバイオマス、特に上記のバイオマスを得るために、回収された溶解バイオマスに対する本発明による方法の実施条件、特に懸濁液のpHおよび懸濁/酸性化/回収サイクルの繰り返し回数を適合させる方法を理解するであろう。
【0042】
タンパク質の重量%は、タンパク質自体に対して表してもよく、当該タンパク質に含まれるアミノ酸に対して表してもよい。本発明によれば、タンパク質とは、5以下の酸性pHで不溶性の任意のタンパク質、ペプチドまたはアミノ酸を意味する。
【0043】
本発明はまた、本発明による方法により得られる、先に定義されたバイオマスに関する。
【0044】
このバイオマスは、有利には、
- 少なくとも60%のタンパク質、好ましくは65%超、より優先的には68%超、70%超、または80%超のタンパク質、
- 20%未満の全糖、優先的には10%未満、より優先的には5%未満の全糖、
- 10%未満のグリコーゲン、好ましくは5%未満、優先的には1%未満、より優先的には0.1%未満のグリコーゲン、および
- 最大20%の脂肪
を有し、
上記のパーセンテージ(%)は、バイオマスの乾燥物に対して表される。
【0045】
本発明はまた、化粧品、医薬品、ヒトまたは動物消費用の食品の分野における上記のバイオマスの使用に関する。
【0046】
本発明は、特に、動物のパフォーマンスを向上させるための、上記または下記の本発明によるタンパク質に富むバイオマスの使用に関する。このパフォーマンスの向上は、特に、飼料摂取、体重増加、または飼料要求率を測定することによって評価され得る。
【0047】
動物飼料では、家畜、特に工業型農業における家畜の給餌と、飼育動物またはペットまたはいわゆる「レジャー」動物、例えば水族館の魚または鳥小屋もしくは鳥かごの中の鳥または外来ペットの給餌とは区別され得る。
【0048】
「家畜」とは、特に、ヒトの活動(輸送、レクリエーション)を支えるかまたはヒトの食糧となることを目的とした草食動物(特に、食肉、乳、チーズおよび皮革用に飼育される畜牛;食肉、羊毛およびチーズ用に飼育されるヒツジ;ヤギ)、豚、ウサギ、家禽(ニワトリ、雌鳥、シチメンチョウ、アヒル、ガチョウなど)、ウマ科の動物(ポニー、ウマ、子ウマ)、水生動物(例えば、魚、エビ、貝類(特に、カキおよびムール貝))をいう。しかしながら、稚魚期までの魚の給餌と養殖魚の給餌とは、それらを対象とする飼料および飼料組成物を含めて区別され得る。
【0049】
これらの家畜は、哺乳類、反芻動物もしくは非反芻動物、鳥または魚も含めた飼育動物、ペットまたはレジャーペットと区別されるべきである。特に、家畜には犬および猫が含まれる。
【0050】
本発明はまた、上記の本発明によるバイオマスを含むヒトまたは動物用の食品、または食品組成物に関する。「食品」とは、ヒトまたは動物の食用に使用され得る任意の組成物を意味する。
【0051】
本発明によれば、食品は、乾燥または未乾燥の、処理または未処理のバイオマスのみを含んでいてもよく、あるいは、乾燥または未乾燥の、処理または未処理のバイオマスと、ヒトまたは動物消費用の食品の分野で使用される任意の他の添加物、ビヒクルまたは担体、例えば食品保存料、着色料、風味向上剤、pH調整剤、または成長ホルモン、抗生物質などの医薬添加物との混合物であってもよい。
【0052】
本発明は、特に動物用の飼料、より詳細には家畜用の飼料に関する。これらの飼料は、通常、本発明によるバイオマスが配合された粉末、顆粒またはスープの形態である。「動物用の飼料」とは、動物の給餌に使用され得る任意のものをいう。
【0053】
集約畜産の場合、飼料は、藻類バイオマスに加えて栄養ベースおよび栄養添加物を含んでいてもよい。このため、動物用飼料の配合割合の大部分は、「栄養ベース」および藻類バイオマスからなる。一例として、この栄養ベースは、動物由来および/または植物由来の穀類、タンパク質および脂肪の混合物で構成されている。
【0054】
動物用の栄養ベースは、これらの動物の給餌に適合されており、当業者には周知である。本発明において、これらの栄養ベースとしては、例えば、トウモロコシ、コムギ、エンドウマメおよびダイズが挙げられる。これらの栄養ベースは、対象とする異なる動物種のニーズに適合されている。これらの栄養ベースには、ビタミン、ミネラル塩およびアミノ酸などの栄養添加物が既に含まれていてもよい。
【0055】
動物飼料に使用される添加物は、当該飼料の特定の特性を改善するために、例えば、風味を向上させ、飼料材料をより消化しやすくし、または動物を保護するために添加され得る。それらの添加物は、大規模集約畜産によく使用される。
【0056】
動物飼料に使用される添加物は、詳細には、以下のサブカテゴリに分類される(出典:EFSA):
- 技術的添加物:例えば、防腐剤、酸化防止剤、乳化剤、安定剤、pH調整剤およびサイレージ添加剤;
- 官能的添加物:例えば、香料、着色料;
- 栄養添加物:例えば、ビタミン、アミノ酸および微量元素;
- 畜産学的添加物:例えば、消化促進剤、腸内細菌叢安定剤;
- 抗コクシジウム剤および抗ヒストモナス剤(抗寄生虫剤)。
【0057】
1つの実施形態において、本発明は、本発明による方法によって得られた乾燥バイオマスを1~60%、好ましくは1~20%、最も優先的には3~8%含む家畜飼料に関する。
【0058】
別の実施形態において、本発明は、本発明の方法によって得られた未乾燥バイオマスを1~40%、好ましくは5~10%含む家畜飼料に関する。
【0059】
本発明の特定の実施形態によれば、飼料は、家畜、特にウシ、ヒツジ、ブタ、ウサギ、家禽およびウマ科の動物を対象としたものである。
【0060】
本発明の別の特定の形態によれば、食品は、水生動物、特に養殖魚および観賞魚を含めた少なくとも稚魚期までの魚を対象としたものである。
【0061】
本発明の別の特定の実施形態によれば、食品は、飼育動物、ペットおよび/またはレジャー動物および外来ペットを対象としたものである。
【0062】
最後に、本発明の別の実施形態によれば、食品組成物はヒトを対象としたものである。
【0063】
本発明はまた、上記の本発明によるバイオマスを含むヒトまたは動物用の化粧品、栄養補助食品または医薬組成物に関する。
【0064】
本発明によれば、化粧品、栄養補助食品または医薬組成物は、乾燥または未乾燥の、変換または未変換のバイオマスのみを含んでいてもよく、あるいは、乾燥または未乾燥の、変換または未変換のバイオマスと、化粧品または医薬品の分野で使用される任意の他の添加物、ビヒクルまたは担体、例えば防腐剤、着色料、pH調整剤などとの混合物であってもよい。
【0065】
本発明はまた、栄養失調の予防および治療(treatment)、ならびに治療(therapy)における上記バイオマスの使用に関する。
【実施例0066】
材料および方法
溶解バイオマス
本発明による方法によって処理されたバイオマスは、スピルリナ(Spirulina)(Arthrospira platensis)のバイオマス、およびガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)株UTEX2919(米国テキサス大学藻類カルチャーコレクション、205 ウエスト 24th ストリート、生物学研究棟 218、テキサス大学オースティン校(A6700)、オースティン、TX78712、米国)のバイオマスであり、これらの株を培養するための通常の方法に従って培養されたものである。
溶解バイオマスは、95%の溶解細胞含有量を有する。
乾燥物含有量は10%である。
【0067】
操作手順
富化(強化)プロセスは、酸性pH条件下で粉砕されたバイオマスのペレットを繰り返しリンスすることによって行う。これを行うために、操作には遠心分離機の使用を伴い、ここではSORVALL RC5BプラスおよびSorvall SLA3000固定角ローターを用いて説明する。粉砕されたバイオマスを12000×gで15分間遠心分離し、不溶性画分を最大限にペレット化する。「可溶性画分」である上清を除去し、水で置換する。ペレットを再懸濁した後に遠心分離操作を繰り返し、pHをモニターして必要に応じてpH4.8未満の値に調整する。このプロセスを3~4回繰り返すことにより、不溶性画分のタンパク質および脂質の強化が最大となる。
【0068】
分析
総タンパク質量は、当業者に公知のケルダール法を用いて評価する。酸加水分解によるアミノ酸プロファイルは、ISO 13903:2005;EU152/2009の方法に従って実施する。脂質含有量および組成の分析は、当業者に公知のGC/FIDおよび内部較正によって行う。糖プロファイルは、イオンクロマトグラフィー-パルスアンペロメトリック検出によって決定する。
【0069】
結果
ガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)株UTEX2919バイオマス(表1)およびスピルリナ(Spirulina)バイオマス(表2)について、1回目の抽出後の重液相(HPすなわち不溶性画分)(HP1)および4回目の抽出後の重液相(HP4)の組成をモニターし、投入した溶解物の組成と比較した。パーセンテージ(%)は乾燥物(DM)に対して表される。
【0070】
【0071】
1回目の懸濁/酸性化/回収サイクルにより、溶解バイオマスのタンパク質含有量に明らかな増加が認められた(6%超)。4回目の処理サイクル後には、この増加はさらに顕著であった(16%超)。
【0072】
【0073】
ガルディエリア(Galdieria)などのURAとは逆に、スピルリナ(Spirulina)に対し本発明の方法を実施すると、pH5以下で不溶性の溶解バイオマス中のタンパク質含有量の減少を引き起こした(表2)。アロフィコシアニン(APC)のフィコシアニン(C-PC)のpHiよりも低いpHであるpH4での抽出については、重液相におけるフィコシアニンおよびアロフィコシアニンの量の減少が認められた。pH4では、C_PCおよびAPCは水に溶解しないため、上記バイオマスについてHP4で認められた損失は、このpHでのこれらの分子の一部の分解によるものであることは明らかである。
【0074】
異なるバイオマスのタンパク質含有量を
図1に示す。
図2に示される異なる生成物のアミノ酸組成を詳細に見ると、重液相ではすべてのアミノ酸の全体的な増加が明らかであり、アラニンを除くほとんどのアミノ酸の量についてスピルリナのものと同等以上である。
【0075】
ヒトの栄養のための必須アミノ酸に関するFAO勧告を考慮して、異なる重液相の組成と比較すると、それらの量はすべて推奨値以上であることが認められる。
【0076】
数回の抽出後、重液相に依然フィコシアニン(C-PCおよびAPC)が残存しており、これは乾燥質量の約3%に相当する。フィコシアニンは強い抗酸化力を有する分子であることが知られている。脂肪酸組成によれば、脂肪質量の50%超に相当する量のオメガ3、6および9系の不飽和脂肪酸が極性脂質の形態で認められ、これは重液相の乾燥質量の約5~20%に相当する(表3)。
【0077】
【0078】
糖類は、繊維と同様に本発明の方法の検出限界未満である(表4)。
【0079】
【0080】
特許出願WO2017/050917に記載の方法に従って培養したガルディエリア・スルフラリア(Galdieria sulphuraria)株UTEX2919バイオマスに対し、本発明による方法を繰り返した。
【0081】
出発バイオマスは、DMに対し70%超のタンパク質を含む。本発明による処理を3回行った後、80%超のタンパク質を含むバイオマスが得られ、14%超の増加である。
【0082】
グリコーゲン含有量の異なる3種のバイオマスに対し、連続抽出を行う。バイオマスのほぼすべての可溶性グリコーゲンが、1回目の抽出後に溶液中に観察されることに注目すべきである。
【0083】
【0084】
次いで、このようにして得られたタンパク質に富む重液相をプロテアーゼで酵素的に処理することにより、タンパク質加水分解物が得られ、生成物の溶解性および消化性が高められる。
【0085】
各人の異なる人生の期間および1日のエネルギー消費量によって、推奨されるタンパク質の量(ANSES、2007)は異なる。健康な成人では、タンパク質の推奨栄養所要量(RDA)は0.83g/kg/日である。しかしながら、これらの所要量は変動し、妊婦、高齢者および特定のアスリートでは増加する。
【0086】
本発明の方法によって生成されるタンパク質に富む画分は、コールドプレスされた錠剤の形態か、カプセル形態中の粉末の形態で直接摂取されてもよく、または他の成分と混合される粉末として直接摂取されてもよい。この画分はまた、パンケーキ、クッキー、他のペストリー、またはシリアルバーの製造に使用され得る他の食品調製物に組み込まれてもよく、あるいはこのように調製された食品をタンパク質で強化するために、従来の小麦粉の代替物として任意の調製物に組み込まれてもよい。
【0087】
上記タンパク質画分はまた、乳(動物性または植物性)、生乳または発酵乳をベースとした調製物、例えばクリームデザート、ヨーグルト、チーズなどへの使用が想定され得る。上記タンパク質画分を添加することにより、脂肪の量を減少させつつ、タンパク質に富む乳またはチーズの調製物を得ることができる。上記タンパク質画分はまた、生チーズ、プレス調理されたかまたはプレス調理されていないチーズ、またはプロセスチーズをベースに用いて調製物を作製することも想定され得る。藻類は、上記調製物の塊の中に組み込まれてもよく、上記調製物の外皮が食用である場合には単に外皮の外側に組み込まれてもよい。
【0088】
このタンパク質画分はまた、ベジバーガーなどの肉代替物として使用するための調製物中に、またはすり身スタイルのプロテインスティック中に組み込まれてもよく、その場合、これらのタンパク質はテクスチャ加工されてもよいし、そのまま使用されてもよい。
【0089】
別の使用例としては、スムージーまたはシェイクなどの飲料に添加される粉末の形態が挙げられる。
【0090】
組成の例:
藻類タンパク質強化小麦粉:
小麦粉1kgの組成:
800gの小麦粉(10~12%のタンパク質)
200gのタンパク質強化海藻抽出物(65~80%のタンパク質)
すなわち、通常のタイプ55小麦粉が10~12%のタンパク質であるのに対し、強化小麦粉100g当たり16~19%のタンパク質。
【0091】
藻類タンパク質強化小麦粉で作製したクッキー
クッキー100gの成分(7g~9gのタンパク質):
45gの海藻タンパク質強化小麦粉
23gのバター
21.7gの砂糖
5gのココアパウダー
4gの卵
1gの塩
0.3gのベーキングパウダー
【0092】
藻類タンパク質強化小麦粉で作製したパン
パン100gの成分(10~25gのタンパク質):
63.2gの海藻タンパク質強化小麦粉
34gの水
1.8gの塩
1gのパン酵母
【0093】
海藻入りベジバーガー
バーガー100gの組成
水、ひよこ豆粉(26%)、海藻粉末(25%)、玉ネギ、にんじん、小麦グルテン(3%)、レモン汁、酵母エキス、ジャガイモ澱粉、植物油(ひまわり)、ウコン、にんにく、pH調整剤(塩化カリウム)、酸化防止剤、ジャガイモ繊維、増粘剤(カラギーナン)、澱粉(とうもろこし、小麦)、乳化剤(グアーガム)。
これはバーガー1個当たり22~33gのタンパク質に相当する。
【0094】
藻類タンパク質強化乳製品
ゴーダタイプチーズをベースとした調製物
凝固した乳タンパク質にタンパク質強化海藻画分を添加し、その後得られたペーストをプレスする。タンパク質強化海藻画分の割合は、1%から50%まで変化し得る。この場合、制限要因は最終生成物の外観に関係し、特にその食感および切断性に関係する。
【0095】
【0096】
藻類タンパク質強化飲料用粉末
スムージーの組成:
93.8gの藻類タンパク質強化画分由来の粉末
5gの天然果実香料
0.25gのキサンタンガム
0.2gのグアーガム
0.25gの天然甘味料または甘味力を有する香味料
25gの粉末を200mlの冷水または果汁に混合する。
これは一杯当たり15~18.5gのタンパク質に相当する。
【0097】
シェイクの組成:
84.35gの藻類タンパク質強化画分由来の粉末
10gの粉乳
5gのココア
0.2gのキサンタンガム
0.2gのグアーガム
0.25gの甘味料
25gの粉末を200mlの冷水または熱水に混合する。これは一杯当たり15~20gのタンパク質に相当する。
【0098】
参考文献
WO2016/00194
WO2016/120548
WO2016/015013
WO2017/019125
WO2017/050917
WO2017/050918
WO2017/093345
WO2017/050917
WO2017/132407
US2017-020834
Graziani & al., Food & Function,vol.4,n°1,2013,144-152。