(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017840
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】リニア振動モータ
(51)【国際特許分類】
B06B 1/04 20060101AFI20240201BHJP
H02K 33/04 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B06B1/04 S
H02K33/04 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120748
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【弁理士】
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】栗田 剛志
(72)【発明者】
【氏名】高田 和英
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 敬司
【テーマコード(参考)】
5D107
5H633
【Fターム(参考)】
5D107AA16
5D107BB08
5D107CC09
5H633BB03
5H633GG02
5H633GG06
5H633GG08
5H633GG17
5H633HH03
5H633HH05
5H633HH06
(57)【要約】 (修正有)
【課題】振動子が振動方向と交わる方向にも振動することを防ぎ、静粛性が高められるリニア振動モータを提供する。
【解決手段】リニア振動モータ2は、筐体と、筐体内に収容される振動子20と、筐体内を第1の方向(X軸方向)に延び、振動子20の荷重を支える支持面Rと、振動子の第1の方向(X軸方向)における両側面に設けられる第1及び第2の磁石M1、M2と、振動子を上面視した状態で、第1の磁石M1と第2の磁石M2の間に設けられる第3の磁石M3と、筐体内の底面部に設けられ、交流磁界を生じさせることにより、振動子の第3の磁石M3に対して駆動力を印加する駆動コイルと、筐体内に固定され、第1の方向(X軸方向)において対向配置される、第1の磁石M1と反発する第4の磁石M4、及び第2の磁石M2と反発する第5の磁石M5と、を備え、振動子が支持面Rに沿って第1の方向(X軸方向)に振動するように構成される。
【選択図】
図4A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体内に収容される振動子と、
前記筐体内を第1の方向に延び、前記振動子の荷重を支える支持面と、
前記振動子の第1の方向における両側面に設けられる第1及び第2の磁石と、
前記振動子を上面視した状態で、前記第1の磁石と前記第2の磁石の間に設けられる第3の磁石と、
前記筐体内の底面部に設けられ、交流磁界を生じさせることにより、前記振動子の前記第3の磁石に対して駆動力を印加する駆動コイルと、
前記筐体内に固定され、前記第1の方向において対向配置される、前記第1の磁石と反発する第4の磁石、及び前記第2の磁石と反発する第5の磁石と、
を備え、前記振動子が前記支持面に沿って前記第1の方向に振動するように構成されるリニア振動モータであって、
前記駆動コイルが取り付けられた面を底面としたとき、前記第1の磁石及び前記第4の磁石並びに前記第2の磁石及び前記第5の磁石が接近するとき、前記振動子に対して下向きに反発力が生じるように、相対的に配置されることを特徴とするリニア振動モータ。
【請求項2】
前記第1の磁石、前記第2の磁石、前記第4の磁石及び前記第5の磁石は略直方体の形状を有し、
前記第1の磁石及び前記第4の磁石の対向する面並びに前記第2の磁石及び前記第5の磁石の対向する面は、前記第1の方向に対して略直交しており、
前記第1の方向に沿った前記第1の磁石及び前記第2の磁石の重心位置どうしを結んだ直線が、前記第1の方向に沿った前記第4の磁石及び前記第5の磁石の重心位置どうしを結んだ直線よりも低い位置にあることを特徴とする、請求項1に記載のリニア振動モータ。
【請求項3】
前記振動子は、前記第1の磁石及び前記第2の磁石を保持する磁石ホルダを有し、
前記磁石ホルダと前記第1の磁石及び前記第2の磁石との接着面は、前記筐体内において、天面側であることを特徴とする、請求項2に記載のリニア振動モータ。
【請求項4】
前記第4の磁石及び前記第5の磁石は、前記筐体内において、前記駆動コイルの載置面よりも高い面に載置されることを特徴とする、請求項2または3に記載のリニア振動モータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに通電して振動子を振動させるリニア振動モータに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯型情報端末等の電子機器には、皮膚感覚フィードバックのため、またはキー操作や着信等を振動で確認するため等の振動発生装置として、リニア振動モータが用いられることがある。リニア振動モータの中には、駆動コイルに交流磁界を生じさせ、振動子の駆動用磁石に対して駆動力を印加して、振動子を振動させるものがある。このような駆動コイルで振動子を駆動するリニア振動モータの中には、更に、対向する磁石の反発力で付勢する磁気バネを備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載のリニア振動モータでは、振動子に取り付けられた磁石及び筐体に取り付けられた磁石の間の反発力で付勢するので、振動子に共振を生じさせて、十分な強度の振動を発生させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のリニア振動モータでは、磁気バネを構成する磁石のうち、筐体側の磁石が筐体の底面に固定され、振動子はこの磁石の上方に配置されている。よって、振動子に取り付けられた振動子側の磁石の重心位置は、筐体側の磁石の重心位置よりも高くなる。このため、振動子側及び筐体側の磁石が接近したとき、振動子に対して斜め上側に反発力が加わる。このため、磁気バネを構成する磁石が接近したとき、振動子が上側に持ち上げられるので、振動子は、水平方向だけでなく、上下にも振動することになり騒音が生じる。
【0005】
この開示の目的は、振動子が振動方向と交わる方向にも振動することを防ぎ、静粛性が高められるリニア振動モータを提供することである。
【0006】
本開示の1つの態様に係るリニア振動モータは、
筐体と、
前記筐体内に収容される振動子と、
前記筐体内を第1の方向に延び、前記振動子の荷重を支える支持面と、
前記振動子の第1の方向における両側面に設けられる第1及び第2の磁石と、
前記振動子を上面視した状態で、前記第1の磁石と前記第2の磁石の間に設けられる第3の磁石と、
前記筐体内の底面部に設けられ、交流磁界を生じさせることにより、前記振動子の前記第3の磁石に対して駆動力を印加する駆動コイルと、
前記筐体内に固定され、前記第1の方向において対向配置される、前記第1の磁石と反発する第4の磁石、及び前記第2の磁石と反発する第5の磁石と、
を備え、前記振動子が前記支持面に沿って前記第1の方向に振動するように構成されるリニア振動モータであって、
前記駆動コイルが取り付けられた面を底面としたとき、前記第1の磁石及び前記第4の磁石並びに前記第2の磁石及び前記第5の磁石が接近するとき、前記振動子に対して下向きに反発力が生じるように、相対的に配置されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、振動子が振動方向と交わる方向にも振動することを防ぎ、静粛性が高められるリニア振動モータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの構造を模式的に示す分解斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの構造を模式的に示す側面断面図である。
【
図3A】本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの振動子を形成する工程を示す図であって、折り曲げる前の平板状の本体を示す平面図である。
【
図3B】
図3Aの状態から本体を折り曲げた後の状態を示す側面図である。
【
図3C】
図3Bの状態から、更に磁石を本体に取り付けた後の状態を示す側面図である。
【
図4A】本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【
図4B】
図4Aの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
【
図4C】本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第2の磁石が筐体に取り付けられた第5の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【
図4D】
図4Cの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
【
図5】リニア振動モータにおいて、振動子の位置と振動子に加わる反発力の垂直分力の大きさの関係を示したグラフである。
【
図6A】本発明の第2の実施形態に係るリニア振動モータの構造を模式的に示す側面図である。
【
図6B】
図6Aに示す構造において、振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係るリニア振動モータの構造、及び振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【
図8】従来のリニア振動モータの構造を模式的に示す側面断面図である。
【
図9A】従来のリニア振動モータの振動子を形成する工程を示す図であって、折り曲げる前の平板状の本体を示す平面図である。
【
図9B】
図9Aの状態から本体を折り曲げた後の状態を示す側面図である。
【
図9C】
図9Bの状態から、更に磁石を本体に取り付けた後の状態を示す側面図である。
【
図10A】従来のリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【
図10B】
図10Aの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
【
図10C】従来のリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第2の磁石が筐体に取り付けられた第5の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【
図10D】
図10Cの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以降、図面を参照しながら、本発明を実施するための様々な実施形態、実施例を説明する。各図面中、同一の機能を有する対応する部材には、同一符号を付している。要点の説明または理解の容易性を考慮して、便宜上実施形態を分けて示すが、異なる実施形態で示した構成の部分的な置換または組み合わせは可能である。後述の実施形態では、前述と共通の事柄についての記述を省略し、異なる点についてのみ説明する。特に、同様の構成による同様の作用効果については、実施形態ごとには逐次言及しないものとする。各図面が示す部材の大きさや位置関係等は、説明を明確にするため、誇張して示している場合もある。
【0010】
全ての図において、リニア振動モータが水平面に置かれた状態を示し、水平面上において、振動子の振動方向をX軸とし、それに直交する横方向をY軸とし、重力方向をZ軸として示す。振動子の振動方向であるX軸方向を、第1の方向と称することもできる。つまり、第1の方向(X軸方向)は、重力方向(Z軸方向)に対して直交している。「方向」という用語は、一方の向きとその反対の向きの両方を含む意味で用いられる。例えば、「重力方向」は、重力のかかる向き(
図1で矢印Zと反対の向き)と、重力のかかる向きと反対の向き(
図1で矢印Zの向き)とを含む。
【0011】
(第1の実施形態に係るリニア振動モータ)
はじめに、
図1を参照しながら、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの概要を説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの構造を模式的に示す分解斜視図である。なお、
図8、
図9Aから
図9C及び
図10Aから
図10Dを参照して後述する従来のリニア振動モータについても、磁気バネを構成する磁石の取り付け構造、取り付け位置を除き、基本的な構成は
図1に示すものと同様である。
【0012】
リニア振動モータ2は、筐体10と、筐体10内に配置された振動子20、駆動コイル30及びシャフト40とを備える。筐体10は、天板部16(例えば、
図2参照)で覆われる。2本のシャフト40は、第1の方向(X軸方向)に延びている。振動子20には、シャフト40に係合するためのスリーブ(例えば、
図4Bの番号42参照)が取り付けられている。
【0013】
図1は、2本のシャフト40が、それぞれ振動子20の両側のスリーブの孔に挿入された状態を示す。
図1の点線の矢印に示すように、シャフト40の両端部は、筐体10に設けられた凹部14にはめ込まれて、筐体10に固定される。シャフト40は、重力方向と交わる第1の方向(X軸方向)に延び、振動子20の荷重を支える支持面Rを有する。振動子20は、シャフト40の支持面Rに沿って第1の方向(X軸方向)に振動するようになっている。
【0014】
振動子20がシャフト40に沿って移動する機構は、上記のようなスリーブを用いる構造に限定されず、その他の任意のスライド機構、摺動機構を採用することができる。また、シャフト40を筐体10に取り付ける構造も、筐体10に設けられた凹部14にシャフト40をはめ込む構造に限定されず、その他の任意の取り付け方法を採用できる。
【0015】
更に、振動子20を第1の方向(X軸方向)に移動させる構造は、シャフト40を用いた構造に限定されない。例えば、振動子20を筐体10の底面に載置して、振動子20を筐体10の底面に沿って移動させることもできる。その場合、筐体10の底面が支持面Rとなる。
更に、第1の方向(X軸方向)に延びたレールの上面、ガイド溝の底面、ガイド部材の上面等に振動子20を載置して、振動子20を移動させることもできる。その場合、レールの上面、ガイド溝の底面、ガイド部材の上面等が支持面Rとなる。
【0016】
図1の説明に戻ると、振動子20の第1の方向(X軸方向)における両側面に第1の磁石M1及び第2の磁石M2が取り付けられている。更に、振動子20を上面視した状態で、振動子20の第1の磁石M1と第2の磁石M2との間に、第3の磁石M3が取り付けられている。また、筐体10内の底面部に駆動コイル30が取り付けられている。
【0017】
筐体10の底面部には、筐体10のY軸方向の外側に張り出すように、基板32が配置されている。基板32には、携帯型情報端末等の電子機器の電子回路と接続するための電極32A、32Bが設けられている。電極32A、32Bを介して、駆動コイル30に電力を供給して、駆動コイル30を駆動することができる。駆動コイル30に交流磁界を生じさせることにより、振動子20の第3の磁石M3に対して駆動力を印加することができる。これにより、振動子20をシャフト40の支持面Rに沿って、第1の方向(X軸方向)に振動させることができる。より強い駆動力を得るため、駆動用の磁石として機能する第3の磁石M3は、ハルバッハ配列となるように構成するのが好ましい。
【0018】
更に、筐体10内の第1の方向(X軸方向)の両側に第4の磁石M4及び第5の磁石M5が取り付けられている。なお、動かない筐体10に部材が取り付けられている場合には、固定されていると記載する場合もある。第4の磁石M4は、振動子20に取り付けられた第1の磁石M1と対向配置される。第1の磁石M1及び第4の磁石M4は同極が対向するように配置され、接近すると反発力が生じる。同様に、第5の磁石M2は、振動子20に取り付けられた第2の磁石M2と対向配置される。第2の磁石M2及び第5の磁石M5は同極が対向するように配置され、接近すると反発力が生じる。
【0019】
第1~第5の磁石M1~M5は、何れも略直方体の形状を有する。磁気バネを構成する第1の磁石M1及び第4の磁石M4の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交している。同様に、第2の磁石M2及び第5の磁石M5の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交している。第1の方向(X軸方向)で振動子20の両側に配置された第1の磁石M1及び第2の磁石M2のそれぞれの重心位置を結ぶ直線は、第1の方向(X軸方向)と略平行になる。同様に、第1の方向(X軸方向)で筐体10の両側に配置された第4の磁石M4及び第5の磁石M5のそれぞれの重心位置を結ぶ直線は、第1の方向(X軸方向)と略平行になる。第1の方向(X軸方向)と略平行に配置された重心位置を結ぶ直線を、第1の方向に沿った重心位置を結ぶ直線と称することもできる。
【0020】
このように、対向配置される第1の磁石M1及び第4の磁石M4の対により磁気バネが構成され、対向配置される第2の磁石M2及び第5の磁石M5の対により磁気バネが構成される。駆動コイル30に交流磁界を生じさせて、振動子20を振動させるのに加えて、磁気バネにより付勢されるので、所定の振動周波数において振動子20に共振を生じさせ、十分な強度の振動を発生させることができる。このとき、振動子20の質量を大きくし、磁気ばねを介して筐体10に大きな振動を伝えるため、振動子20に錘部を備えることができる。
【0021】
筐体10及び振動子20は、ステンレス鋼、アルミ合金等の金属板を折り曲げ加工して形成することができる。ただし、これに限られるものではなく、ポリフェニレンサルファイド樹脂及び液晶ポリマー等のエンジニアリングプラスチックに代表される樹脂材料で形成することもできる。また、シャフト40は、ステンレス鋼、アルミ合金等の金属製棒状部材を用いることができる。シャフト40に沿って摺動する振動子20に取り付けられたスリーブ42は、低摩擦樹脂材料、黄銅(真鍮)、ステンレス鋼等で形成することができる。また、第1~第5の磁石M1~M5の材料として、ネオジム-鉄-ホウ素系またはサマリウム-コバルト系などの希土類磁石を用いることができる
【0022】
(従来のリニア振動モータの磁気バネの構造)
本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの磁気バネの構造を詳細に説明する前に、
図8及び
図9Aから
図9Cを参照しながら、従来のリニア振動モータの磁気バネの構造について説明を行う。
【0023】
図8は、従来のリニア振動モータの構造を模式的に示す側面断面図である。
図9Aは、従来のリニア振動モータの振動子を形成する工程を示す図であって、折り曲げる前の平板状の本体を示す平面図である。
図9Bは、
図9Aの状態から本体を折り曲げた後の状態を示す側面図である。
図9Cは、
図9Bの状態から、更に磁石を本体に取り付けた後の状態を示す側面図である。
【0024】
従来のリニア振動モータ102でも、第1~第5の磁石M1~M5は、何れも略直方体の形状を有し、図示された側面断面図では略矩形の形状を示す。磁気バネを構成する第1の磁石M1及び第4の磁石M4の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交している。同様に、第2の磁石M2及び第5の磁石M5の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交している。
【0025】
第1の方向(X軸方向)で振動子120の両側に配置された第1の磁石M1及び第2の磁石M2のそれぞれの重心位置を結ぶ直線L1-2は、第1の方向(X軸方向)に略平行になる。同様に、第1の方向(X軸方向)で筐体110の両側に配置された第4の磁石M4及び第5の磁石M5のそれぞれの重心位置を結ぶ直線L4-5は、第1の方向(X軸方向)に略平行になる。
【0026】
図8に示すように、第4の磁石M4は、磁石ホルダ112を介して、筐体110に固定されている。磁石ホルダ112の水平部112Aの上面の高さは、筐体110の底面との高さと略同一になっている。筐体110の底面には、駆動コイル130が載置されている。よって、第4の磁石M4の載置面の高さと、駆動コイル130の載置面の高さは略同一となっている。
【0027】
一方、振動子120は、金属板が折り曲げ加工されて形成されている。
図9Aに示すような、板状の本体122の第一の方向(X軸方向)における両側にスリットSが形成され、本体122が折り曲げられて、
図9Bに示すような、水平部124A及び垂直部124Bが略直交して繋がった磁石ホルダ124が形成される。
図9Cに示すように、この磁石ホルダ124に第1の磁石M1が取り付けられる。第1の磁石M1は、接着剤等により、磁石ホルダ124の水平部124Aの上面及び垂直部124Bの側面に貼り付けられる。第1の磁石M1は、磁石ホルダ124の水平部124Aの上側に配置される。つまり、磁石ホルダ124と第1の磁石M1との接着面は、筐体110内において底面側にある。
【0028】
図8に示すように、振動子120は、筐体110の底面に載置された駆動コイル130の上方に配置される。振動子120は、第1の方向(X軸方向)に振動するので、磁石ホルダ124の水平部124Aの下面は、所定のクリアランスを持って、駆動コイル130の上方に配置される。第1の磁石M1は、この水平部124Aの上側に配置される。第1の磁石M1の下面は、駆動コイル130の厚み、磁石ホルダ124の水平部124Aの厚み及びクリアランスの分だけ、第4の磁石の下面より高い位置に配置されている。
【0029】
このため、第1の磁石M1の重心位置は、第4の磁石M4の重心位置より高くなる。図示されていないが、第2の磁石M2及び第5の磁石M5の取り付け構造も同様なので、第2の磁石M2の重心位置は、第5の磁石M4の重心位置より高くなる。
【0030】
よって、
図8から明らかなように、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1及び第2の磁石M2の重心位置どうしを結んだ直線L1-2は、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4及び第5の磁石M5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも、距離hだけ高い位置にある。
【0031】
このように、
図8に示す従来のリニア振動モータ102の磁気バネを構成する磁石M1、M2、M4、M5の取り付け構造は、上記の特許文献1とは異なるが、同様に、振動子120に取り付けられた磁石M1、M2の重心位置が、筐体110に固定された磁石M4、M5の重心位置よりも高くなっている。
【0032】
<従来のリニア振動モータの問題点>
次に、このような構造の従来のリニア振動モータ102の磁気バネに関する問題点を、
図10Aから
図10Dを参照しながら説明する。
図10Aは、従来のリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに、振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
図10Bは、
図10Aの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
図10Cは、従来のリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第2の磁石が筐体に取り付けられた第5の磁石に接近したときに、振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
図10Dは、
図10Cの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
【0033】
図10Aに示すように、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1及び第2の磁石M2の重心位置どうしを結んだ直線L1-2は、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4及び第5の磁石M5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも、距離hだけ高い位置にある。振動子120に取り付けられた第1の磁石M1が筐体110に取り付けられた第4の磁石M4に接近したとき、第1の磁石M1に斜め上側に向いた反発力Fが加わる。反発力Fは、第1の方向(X軸方向)でX軸マイナス側に向かう水平分力Fhと、重力方向(Z軸方向)で重力のかかる向きと反対のZ軸プラス側に向かう垂直分力Fvとの合力となる。
【0034】
このように、振動子120に対して重力のかかる向きと反対の向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、
図10Bに示すように、振動子120の第1の磁石M1側の端部が、重力G(矢印参照)に抗して上方へ持ち上げられる。振動子120がスムーズに振動するように、振動子120に取り付けられたスリーブ142の孔部と、この孔部に挿入されたシャフト140との間には若干隙間を有する。通常、重力Gのかかった振動子120の荷重を支えるシャフト140の上面側の支持面Rと、スリーブ142の孔部の内面の上面側とが当接し、スリーブ142の孔部の下側において、シャフト140との間に隙間が存在する。
【0035】
しかし、振動子120を持ち上げる垂直分力Fvを含む反発力Fにより、振動子120の第1の磁石M1側の端部が上方へ持ち上げられ、
図10Bに示すように、シャフト140の上面側の支持面Rとスリーブ142の孔部の内面の上面側との間に、隙間Cが生じる。一方、この状態から、第1の磁石M1が第4の磁石M4から離れていくと、振動子120を持ち上げる成分を含む反発力が失われ、持ち上げられていた振動子120は落下して、シャフト140の上面側の支持面Rとスリーブ142の孔部の内面の上面側とが当接し、騒音が発生する。
【0036】
同様に、
図10Cに示すように、振動子120に取り付けられた第2の磁石M2が筐体110に取り付けられた第5の磁石M5に接近したとき、第2の磁石M2に斜め上側に向いた反発力Fが加わる。反発力Fは、第1の方向(X軸方向)でX軸プラス側に向かう水平分力Fhと、重力方向(Z軸方向)で重力のかかる向きと反対のZ軸プラス側に向かう垂直分力Fvとの合力となる。
【0037】
このように、振動子120に対して重力Gのかかる向きと反対の向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、
図10Dに示すように、振動子120の第2の磁石M2側の端部が重力に抗して上方へ持ち上げられ、シャフト140の上面側の支持面Rとスリーブ142の孔部の内面の上面側との間に、隙間Cが生じる。一方、この状態から、第2の磁石M2が第5の磁石M5から離れていくと、振動子120を持ち上げる成分を含む反発力が失われ、持ち上げられていた振動子120は落下して、シャフト140の上面側の支持面Rとスリーブ142の孔部の内面の上面側とが当接し、騒音が発生する。
【0038】
駆動コイル130に交流磁界を生じさせて、振動子120を第1の方向(X軸方向)に振動させたとき、振動の振幅位置近傍で振動子120の端部が上方に持ち上げられるので、振動子120が振動する際に重力方向にも振動し、騒音が発生する問題が生じる。また、重力方向の振動により、リニア振動モータ102が早く損傷する虞もある。
【0039】
(本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの磁気バネの構造)
次に、
図2及び
図3Aから
図3Cを参照しながら、上記の問題を解決する本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータ2の磁気バネの構造を詳細に説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの構造を模式的に示す側面断面図である。
図3Aは、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータの振動子を形成する工程を示す図であって、折り曲げる前の平板状の本体を示す平面図である。
図3Bは、
図3Aの状態から本体を折り曲げた後の状態を示す側面図である。
図3Cは、
図3Bの状態から、更に磁石を本体に取り付けた後の状態を示す側面図である。
【0040】
図1を用いて上述したように、本実施形態に係るリニア振動モータ2では、第1~第5の磁石M1~M5は、何れも略直方体の形状を有し、図示された側面断面図では略矩形の形状を示す。磁気バネを構成する第1の磁石M1及び第4の磁石M4の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交している。同様に、第2の磁石M2及び第5の磁石M5の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交している。
【0041】
第1の方向(X軸方向)で振動子20の両側に配置された第1の磁石M1及び第2の磁石M2のそれぞれの重心位置を結ぶ直線L1-2は、第1の方向(X軸方向)に略平行になる。同様に、第1の方向(X軸方向)で筐体10の両側に配置された第4の磁石M4及び第5の磁石M5のそれぞれの重心位置を結ぶ直線L4-5は、第1の方向(X軸方向)に略平行になる。
【0042】
図2に示すように、第4の磁石M4は、磁石ホルダ12及びスペーサ18を介して、筐体10に固定されている。磁石ホルダ12の水平部12Aの上面の高さは、筐体10の底面との高さと略同一になっている。筐体10の底面には、駆動コイル30が載置されている。よって、第4の磁石M4は、スペーサ18の厚みの分だけ、駆動コイル30の載置面よりも高い面に載置されている。
【0043】
振動子20は、金属板が折り曲げ加工されて形成されている。
図3Aに示すような、板状の本体22の第1の方向(X軸方向)における両側にスリットSが形成され、番号24Bで示される部分が折り曲げられて、
図3Bに示すような、水平部24A及び垂直部24Bが略直交して繋がった磁石ホルダ24が形成される。
図3Cに示すように、この磁石ホルダ24に第4の磁石M4が取り付けられる。第4の磁石M4は、接着剤等により、磁石ホルダ24の水平部24Aの下面及び垂直部24Bの側面に貼り付けられる。よって、第4の磁石M4は、振動子20の天面側の水平部24Aの下側に配置される。
【0044】
図2に示すように、振動子20は、筐体10の底面に載置された駆動コイル30の上方に配置される。振動子20は、第1の方向(X軸方向)に振動するので、第1の磁石M1の下面は、所定のクリアランスを持って、駆動コイル30の上方に配置される。本実施形態に係るリニア振動モータ2では、第1の磁石M1が天面側に配置された磁石ホルダ24の水平部24Aに貼り付けられ、第1の磁石M1の下側に部材が存在しないので、従来のリニア振動モータ102に比べて、水平部124Aの厚み分だけ低い位置に配置できる。
【0045】
このように第1の磁石M1の位置を低くするのに加えて、スペーサ18により第4の磁石M4の設置位置を高くできるので、本実施形態では、第1の磁石M1の重心位置を、第4の磁石M4の重心位置より低くすることができる。図示されていないが、第2の磁石M2及び第5の磁石M5の取り付け構造も同様なので、第2の磁石M2の重心位置は、第4の磁石M4の重心位置より低くなっている。
【0046】
これにより、
図2から明らかなように、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1及び第2の磁石M2の重心位置どうしを結んだ直線L1-2は、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4及び第5の磁石M5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも、距離Hだけ低い位置にある。
【0047】
<本実施形態に係るリニア振動モータによる効果>
次に、このような構造の本実施形態に係るリニア振動モータ2における効果を、
図4Aから
図4Dを参照しながら説明する。
図4Aは、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに、振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
図4Bは、
図4Aの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
図4Cは、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータにおいて、振動子に取り付けられた第2の磁石が筐体に取り付けられた第5の磁石に接近したときに、振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
図4Dは、
図4Cの状態における振動子に取り付けられたスリーブと筐体に取り付けられたシャフトとの位置関係を模式的に示す側面断面図である。
【0048】
図4Aに示すように、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1及び第2の磁石M2の重心位置どうしを結んだ直線L1-2は、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4及び第5の磁石M5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも、距離Hだけ低い位置にある。よって、振動子20に取り付けられた第1の磁石M1が筐体10に取り付けられた第4の磁石M4に接近したとき、第1の磁石M1に斜め下側に向いた反発力Fが加わる。反発力Fは、第1の方向(X軸方向)でX軸マイナス側に向かう水平分力Fhと、重力方向(Z軸方向)で重力のかかる向きであるZ軸マイナス側に向かう垂直分力Fvとの合力となる。
【0049】
このように、振動子20に対して重力のかかる向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、
図4Bに示すように、振動子20が重力のかかる向きである支持面R側に押し付けられる。本実施形態でも、振動子20がスムーズに振動するように、振動子20に取り付けられたスリーブ42の孔部と、この孔部に挿入されたシャフト40の間には若干隙間を有する。通常、重力のかかった振動子20の荷重を支えるシャフト40の上面側の支持面Rと、スリーブ42の孔部の内面の上面側とが当接し、スリーブ42の孔部の下側において、シャフト140との間に隙間が存在する。
【0050】
本実施形態では、重力のかかる向きの垂直分力Fvを含む反発力Fにより、振動子20がシャフト40側に更に押しつけられ、シャフト40の上面側の支持面Rとスリーブ42の孔部の内面の上面側とが当接した状態が維持される。よって、
図4Bに示すように、スリーブ42の孔部の下側において、シャフト40との間に隙間Cが存在する。
【0051】
よって、この状態から、第1の磁石M1が第4の磁石M4から離れていくと、振動子20を重力のかかる向きに押し付ける成分を含む反発力が失われるが、シャフト40の上面側の支持面Rとスリーブ42の孔部の内面の上面側とが当接した状態がそのまま維持される。よって、騒音が発生することなく、振動子20はシャフト40の支持面Rに沿ってスムーズに移動する。
【0052】
同様に、
図4Cに示すように、振動子20に取り付けられた第2の磁石M2が筐体10に取り付けられた第5の磁石M5に接近したとき、第2の磁石M2に斜め下側に向いた反発力Fが加わる。反発力Fは、第1の方向(X軸方向)でX軸プラス側に向かう水平分力Fhと、重力方向(Z軸方向)で重力のかかる向き向きであるZ軸マイナス側に向かう垂直分力Fvとの合力となる。
【0053】
このように、振動子20に対して重力のかかる向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、
図4Dに示すように、振動子20が重力のかかる向きに押し付けられる。このような重力のかかる向きの垂直分力Fvを含む反発力Fにより、振動子20がシャフト40側に更に押しつけられ、シャフト40の上面側の支持面Rとスリーブ42の孔部の内面の上面側とが当接した状態が維持される。よって、
図4Dに示すように、スリーブ42の孔部の下側にシャフト40との間に隙間Cが存在する。
【0054】
よって、この状態から、第2の磁石M2が第5の磁石M5から離れていくと、振動子20を重力のかかる向きに押し付ける成分を含む反発力が失われるが、シャフト40の上面側の支持面Rとスリーブ42の孔部の内面の上面側とが当接した状態がそのまま維持される。よって、騒音が発生することなく、振動子20はシャフト40の支持面Rに沿ってスムーズに移動する。
【0055】
これにより、駆動コイル30に交流磁界を生じさせて、振動子20を第1の方向(X軸方向)に振動させたとき、第1の方向(X軸方向)と交わる方向に振動することを防ぎ、静粛性を高めることができる。つまり、駆動コイル30が取り付けられた筐体10の面を底面としたとき、第1の磁石M1及び第4の磁石M4並びに第2の磁石M2及び第5の磁石M5が接近するとき、振動子20に対して下向きに反発力が生じるように相対的に配置されていれば、振動子20を第1の方向(X軸方向)に振動させたとき、上下方向に振動することを防ぎ、静粛性を高めることができる。
【0056】
(シミュレーション結果)
上記の効果を実証するため、実際にリニア振動モータ2を設計し、磁気バネにより振動子20に加わる反発力のシミュレーションを行った。
図5は、シミュレーションの結果であり、リニア振動モータにおいて、振動子の位置と振動子に加わる反発力の垂直分力の大きさの関係を示したグラフである。
【0057】
グラフの横軸は、振動子の第1の方向(X軸方向)の位置(mm)を示し、中立位置を0としている。グラフの縦軸は、重力方向(Z軸方向)の反発力Fの垂直分力Fvの大きさ(N)を示す。縦軸のプラスが、重力のかかる向きと反対の向きの力の大きさを示し、マイナスが、重力のかかる向きの力の大きさを示す。横軸で+1.5に達した位置は、第1の磁石M1が第4の磁石M4に最接近した位置を示し、横軸で-1.5に達した位置は、第2の磁石M2が第5の磁石M5に最接近した位置を示す。
【0058】
細線で示す一番上のグラフが、従来のリニア振動モータ102の場合を示す。中間の太さの線で示す中央のグラフが、従来のリニア振動モータ102に比べて、振動子側の磁石M1、M2を筐体側の磁石M4、M5に対して0.1mm下げた場合を示す。太線で示す一番下のグラフが、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータ2の場合を示し、具体的には、従来のリニア振動モータ102に比べて、振動子側の磁石M1、M2を筐体側の磁石M4、M5に対して0.2mm下げて配置している。
【0059】
グラフから明らかなように、従来のリニア振動モータ102では、振動子側の磁石M1、M2が筐体側の磁石M4、M5に接近したとき、重力のかかる向きと反対の上側の向きに大きな垂直分力Fvが加わっている。従来のリニア振動モータ102から振動子側の磁石M1、M2を磁石M4、M5に対して0.1mm下げた場合には、振動子側の磁石M1、M2が筐体側の磁石M4、M5に接近したときに加わる力は、依然、重力のかかる向きと反対の上側の向きにかかっているが、垂直分力Fvの値が大きく減少している。この結果から、磁石M1、M2を磁石M4、M5に対して0.1mm下げた場合には、振動子側の磁石M1、M2の重心位置が、筐体側の磁石M4、M5の重心位置よりも僅かに上側に位置していると考えられる。なお、反発力による上側の向きにかかる力が小さく、振動子10を上に持ち上げることのない場合にも、動子20が振動する際に振動方向と交わる方向に振動するのを防ぐことができる。
【0060】
振動子側の磁石M1、M2の重心位置が筐体側の磁石M4、M5の重心位置より低い、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータ2では、振動子側の磁石M1、M2が筐体側の磁石M4、M5に接近したとき、重力のかかる向きに十分な大きさの垂直分力Fvが加わっている。これにより、上記のような「振動子20を第1の方向(X軸方向)に振動させたとき、第1の方向(X軸方向)と交わる方向にも振動することを防ぎ、静粛性を高めることができる」という効果を奏することが実証された。
【0061】
以上のように、本発明の第1の実施形態に係るリニア振動モータ2では、第1の磁石M1、第2の磁石M2、第4の磁石M4及び第5の磁石M5は略直方体の形状を有し、第1の磁石M1及び第4の磁石M4の対向する面並びに第2の磁石M2及び第5の磁石M5の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して略直交しており、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1及び第2の磁石M2の重心位置どうしを結んだ直線L1-2が、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4及び第5の磁石M5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも低い位置にある。
【0062】
これにより、振動子20に取り付けられた第1の磁石M1及び第2の磁石M2が反発力で持ち上がることがないので、振動子20が振動する際に振動方向と交わる方向に振動するのを確実に防ぐことができる。
【0063】
特に、本実施形態に係る振動子20は、第1の磁石M1及び第2の磁石M2を保持する磁石ホルダ24を有し、磁石ホルダ24と第1の磁石M1及び第2の磁石M2との接着面(水平部24Aの下面)は、筐体10内において、天面側である。
【0064】
このように、磁石ホルダ24と磁石M1、M2との接着面を天面側とすることにより、振動子20側の磁石M1、M2の重心をより下げることができる。
【0065】
更に、本実施形態では、第4の磁石M4及び第5の磁石M5は、筐体10内において、駆動コイル30の載置面よりも高い面に載置されている。
【0066】
このように、筐体10側の磁石M4、M5の載置面を嵩上げすることにより、磁石M4、M5を必要以上に大きくすることなく、重心位置を高くすることができる。よって、リニア振動モータ2の低背化、小型にも貢献する。
【0067】
本実施液体では、スペーサ18を用いることにより磁石M4、M5の載置面を嵩上げしているが、これに限られるものではない。磁石ホルダ24の下側の部材の厚みを増やす、または磁石ホルダ24の設置構造を変更するといったような他の態様でも、磁石M4、M5の載置位置を高くすることもできる。
【0068】
本実施形態では、磁石ホルダ24と磁石M1、M2との接着面を天面側にするという振動子20側の対策と、磁石M4、M5の載置面を高くするという筐体10側の対策を組み合わせて、磁石M1、M2の重心位置どうしを結んだ直線L1-2が、磁石M4、M5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも低い位置にしている。ただし、これに限られるものではなく、振動子20側の対策及び筐体10側の対策のうちの一方を行うことにより、直線L1-2が直線L4-5よりも低い位置とすることもあり得る。
【0069】
(第2の実施形態に係るリニア振動モータ)
次に、
図6A及び6Bを参照しながら、本発明の第2の実施形態に係るリニア振動モータの説明を行う。
図6Aは、本発明の第2の実施形態に係るリニア振動モータの構造を模式的に示す側面図である。
図6Bは、
図6Aに示す構造において、振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【0070】
第2の実施形態に係るリニア振動モータ2’は、下記の点で上記の第1の実施形態に係るリニア振動モータ2と異なる。
【0071】
第2の実施形態に係るリニア振動モータ2’は、第1の磁石M1’及び第2の磁石M2’が略直方体の形状を有しておらず、
図6Aに示すように、第1の方向(X軸方向)の沿った側面視で、略L字形の側面形状を有している。なお、これに直交するY軸方向に沿った側面視では、略矩形の側面形状を有する。その他の第3~第5の磁石M3~M5は、上記の第1の実施形態と同様な略直方体の形状を有する。第1の磁石M1’及び第4の磁石M4の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して、略直交している。同様に、第2の磁石M2’及び第5の磁石M5の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して、略直交している。その他の事項については、上記の第1の実施形態と同様なので、更なる説明は省略する。
【0072】
図6Aに示すように、第1の磁石M1’は、磁石ホルダ24’の下側の水平部24’に載置されている。よって、
図8に示す従来のリニア振動モータ102と同様に、磁石ホルダ24’と第1の磁石M1’との接着面は、筐体10内において底面側にある。
一方、第4の磁石M4は、
図8に示す従来のリニア振動モータ102と同様に、スペーサを介さず、磁石ホルダ12の水平部12Aに直接載置されている。第2の磁石M2及び第5の磁石M5の取り付け構造も、第1の磁石M1及び第4の磁石M4の場合と同様である。
【0073】
このため、第1の磁石M1’の重心位置は、第4の磁石M4’の重心位置より高くなっている。このため、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1’及び第2の磁石M2’の重心位置どうしを結んだ直線L1-2が、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4’及び第5の磁石M5’の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも、距離hだけ高い位置にある。
【0074】
一方、第1の磁石M1’は第4の磁石M4’に接近したとき、
図6Bに示すように、第1の磁石M1’の第4の磁石M4’と最も近い対向面が下側に位置しているので、第1の磁石M1’に斜め下側に向う反発力Fが加わる。反発力Fは、第1の方向(X軸方向)でX軸マイナス側に向かう水平分力Fhと、重力方向(Z軸方向)で重力のかかる向きのZ軸マイナス側に向かう垂直分力Fvとの合力となる。
【0075】
このように、振動子20に対して重力のかかる向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、振動子20が重力のかかる向きに押し付けられる。このことは、第2の磁石N2’及び第5の磁石M5’が接近したときにも、同様に、振動子20に対して重力のかかる向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、振動子20が重力のかかる向きに押し付けられる。
【0076】
本実施形態に係るリニア振動モータ2’では、磁石M1’及びM2’の重心位置どうしを結んだ直線L1-2が、磁石M4及びM5の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも高い位置にあるが、第1、第2の磁石M1’、M2’が略L字形の側面形状を有するので、下向きに反発力Fが生じ、振動子20’が振動する際に振動方向と交わる方向に振動することを防ぎ、静粛性が高められる。
【0077】
(第3の実施形態に係るリニア振動モータ)
次に、
図7を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係るリニア振動モータの説明をおこなう。
図7は、本発明の第3の実施形態に係るリニア振動モータの構造、及び振動子に取り付けられた第1の磁石が筐体に取り付けられた第4の磁石に接近したときに振動子に加わる反発力を模式的に示す側面図である。
【0078】
第3の実施形態に係るリニア振動モータ2’’は、下記の点で第1の実施形態に係るリニア振動モータ2と異なる。
【0079】
第1~第5の磁石M1’’~M5’’は、何れも略直方体の形状を有する。しかし、第1の磁石M1’’及び第4の磁石M4’’の対向する面は、第1の方向(X軸方向)に対して直交しておらず、第1の方向(X軸方向)に対して斜めに配置されている。第1の磁石M1’’及び第4の磁石M4’’は、第1の方向(X軸方向)で、上側が中央寄りに位置し下側が外端寄りに位置するように斜めに配置されている。第2の磁石M2’’及び第5の磁石5’’の位置関係も同様である。その他の事項については、上記の第1の実施形態と同様なので、更なる説明は省略する。
【0080】
第3の実施形態も上記の第2の実施形態と同様に、第1の方向(X軸方向)に沿った第1の磁石M1’’及び第2の磁石M2’’の重心位置どうしを結んだ直線L1-2が、第1の方向(X軸方向)に沿った第4の磁石M4’’及び第5の磁石M5’’の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも、距離hだけ高い位置にある。
【0081】
一方、第1の磁石M1’’及び第4の磁石M4’’の対向する面の傾きにより、第1の磁石M1’’に斜め下側に向う反発力Fが加わる。反発力Fは、第1の方向(X軸方向)でX軸マイナス側に向かう水平分力Fhと、重力方向(z軸方向)で重力のかかる向きのZ軸マイナス側に向かう垂直分力Fvとの合力となる。
【0082】
このように、振動子20に対して重力のかかる向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、振動子20が重力のかかる向きに押し付けられる。このことは、第2の磁石M2’’及び第5の磁石M5’’が接近したときにも、同様に、振動子20に対して重力のかかる向きの分力Fvを含む反発力Fが生じるので、振動子20が重力のかかる向きに押し付けられる。
【0083】
本実施形態に係るリニア振動モータ2’’でも、磁石M1’’及びM2’’の重心位置どうしを結んだ直線L1-2が、磁石M4’’及びM5’’の重心位置どうしを結んだ直線L4-5よりも高い位置にあるが、第1の磁石M1’’及び第4の磁石M4’’の対向する面の傾き、並びに第2の磁石M2’’及び第5の磁石M5’’の対向する面の傾きにより、下向きに反発力Fが生じ、振動子20’’が振動する際に振動方向と交わる方向に振動することを防ぎ、静粛性が高められる。
【0084】
以上のように、上記の第1~第3の実施形態を考慮すると、本発明の実施形態に係るリニア振動モータ2、2’、2’’は、筐体10と、筐体10内に収容される振動子20と、筐体10内を第1の方向(X軸方向)に延び、振動子20の荷重を支える支持面Rと、振動子20の第1の方向(X軸方向)における両側面に設けられる第1の磁石M1、M1’、M1’’及び第2の磁石M2、M2’、M2’’と、振動子20を上面視した状態で、第1の磁石M1、M1’、M1’’と第2の磁石M2、M2’、M2’’の間に設けられる第3の磁石M3と、筐体10内の底面部に設けられ、交流磁界を生じさせることにより、振動子20の第3の磁石M3に対して駆動力を印加する駆動コイル30と、筐体10内に固定され、第1の方向(X軸方向)において対向配置される、第1の磁石M1,M1’、M1’’と反発する第4の磁石M4、M4’、M4’’、及び第2の磁石M2、M2’、M2’’と反発する第5の磁石M5、M5’、M5’M5’’と、を備え、振動子20が支持面Rに沿って第1の方向(X軸方向)に振動するように構成されるリニア振動モータ2、2’、2’’であって、駆動コイル30が取り付けられた面を底面としたとき、第1の磁石M1、M1’、M1’’及び第4の磁石M4、M4’、M4’’並びに第2の磁石M2、M2’、M2’’及び第5の磁石M5、M5’、M5’’が接近するとき、振動子20に対して下向きに反発力Fが生じるように、相対的に配置されている。
【0085】
これにより、振動子20が振動方向と交わる方向にも振動することを防ぎ、静粛性を高めることができる。
【0086】
なお、第1の磁石M1及び第4の磁石M4並びに第2の磁石M2及び第5の磁石M5が接近したときに発生する反発力のうち振動方向と交わる方向の分力の大きさが、振動子20の端部を持ち上げることのない大きさの場合には、振動子20が振動方向と交わる方向にも振動することを防ぎ、静粛性を高めることができる。
【0087】
(リニア振動モータを備えた電子機器)
上記の実施形態に係るリニア振動モータ2、2’、2’’と、リニア振動モータ2、2’、2’’を収容する機器筐体とを備える電子機器においても、振動する際の静粛性を高めることができる。
【0088】
上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。更に、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【符号の説明】
【0089】
2 リニア振動モータ
10 筐体
12 磁石ホルダ
12A 水平部
14 凹部
16 天板部
18 スペーサ
20 振動子
22 本体
24、24’ 磁石ホルダ
24A、24A’ 水平部
24B 垂直部
30 駆動コイル
32 基板
32A、32B 電極
40 シャフト
42 スリーブ
102 従来のリニア振動モータ
110 筐体
112 磁石ホルダ
112A 水平部
11 天板部
120 振動子
122 本体
124 磁石ホルダ
124 水平部
124 垂直部
130 駆動コイル
140 シャフト
142 スリーブ
M1、M1’ M1’’ 第1の磁石
M2、M2’、M2’’ 第2の磁石
M3 第3の磁石
M4、M4’、M4’’ 第4の磁石
M5、M5’、M5’’ 第5の磁石
R 支持面
C 隙間
S スリット
G 重力
L1-2 第1-第2磁石重心線
L4-5 第4-第5磁石重心線
H 重心線の高さの差(第4-第5磁石重心線が高い場合)
h 重心線の高さの差(第1-第2磁石重心線が高い場合)
F 反発力
Fh 水平分力
Fv 垂直分力