IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アクプランタ株式会社の特許一覧

特開2024-178407植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤
<>
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図1
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図2
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図3
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図4
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図5
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図6
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図7
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図8
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図9
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図10
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図11
  • 特開-植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178407
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/02 20060101AFI20241217BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20241217BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20241217BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20241217BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20241217BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P21/00
A01N37/36
A01N25/02
A01G7/06 A
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166676
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2022503393の分割
【原出願日】2021-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2020034089
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】518456306
【氏名又は名称】アクプランタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100152331
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 拓
(72)【発明者】
【氏名】金 鍾明
(57)【要約】      (修正有)
【課題】植物に対して、耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、活性を付与することのできる手段を提供する。
【解決手段】酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
【請求項2】
リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
【請求項3】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
【請求項4】
少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
【請求項5】
pHが3~9の範囲である、請求項4に記載の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
【請求項6】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための組成物。
【請求項7】
リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための組成物。
【請求項8】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための組成物。
【請求項9】
少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する、請求項6~8のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項10】
pHが3~9の範囲である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用することを含む、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法。
【請求項12】
植物の生育に関する1個以上の情報を取得すること、
取得した1個以上の情報に基づき、請求項1~5のいずれか1項に記載の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、若しくは活性向上剤又は請求項6~10のいずれか1項に記載の組成物を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用する条件を決定すること、
を含む、植物の生育を管理する方法。
【請求項13】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を併用する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法。
【請求項14】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を用いる、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人口が爆発的に増加していることもあり、食物となる植物を十分な供給量で生産していくことは世界的な課題となっている。また、緑地の減少等による土地の砂漠化等も問題となっており、加えて、世界的な温暖化現象に基づく地表の温度の上昇等も問題となり、植物を生育する上での環境上の問題点も増えつつある。
すなわち、植物における地球環境要因に基づく過度のストレスは、植物の生育上問題となることが多い。
【0003】
植物に対するストレスの一つとして、乾燥ストレスが挙げられる。
乾燥ストレスに対しては、乾燥ストレス応答性遺伝子を改変した遺伝子組み換え植物の作出や、乾燥ストレス耐性を向上させる化学的又は生物学的調節剤の施用が試みられている。
【0004】
特許文献1には、10mM以上の酢酸を灌注によって植物の根に施用し、該植物を乾燥ストレス条件下で生育させる工程を含む、植物の乾燥ストレス耐性を向上させる方法が開示されている。
また、非特許文献1には、ジャスモン酸シグナル経路を刺激して、解糖系から酢酸合成へと動的に代謝フラックスを転換する引き金を引くことで、植物が乾燥耐性を獲得する、乾燥応答のネットワークが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第9,258,954号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Kim,J.M.ら,Nature Plants,Vol.3,17097(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、乾燥ストレスに対する植物の耐性能をより高めることができれば、植物生育において有利である。そこで、植物の耐乾燥性をさらに向上させることができないかを指標として、本発明者は研究を行った。
また、植物の生育において、植物に対するストレスとして、乾燥ストレス以外のストレスも存在する。そこで、高温環境下での植物生育時のストレスに対して植物に耐性を付与することができるかを指標としても、本発明者は研究を行った。
本発明が解決しようとする課題は、植物に対して、耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、活性を付与することのできる手段を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、酢酸及びリンゴ酸の双方の施用が、熱ストレス及び/又は乾燥ストレスに対して植物が良好に生育し得ることに寄与することを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
(2)
リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
(3)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
(4)
少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する、(1)~(3)のいずれかに記載の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
(5)
pHが3~9の範囲である、(4)に記載の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。
(6)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための組成物。
(7)
リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための組成物。
(8)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物と併用するための、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための組成物。
(9)
少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する、(6)~(8)のいずれかに記載の組成物。
(10)
pHが3~9の範囲である、(9)に記載の組成物。
(11)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用することを含む、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法。
(12)
植物の生育に関する1個以上の情報を取得すること、
取得した1個以上の情報に基づき、(1)~(5)のいずれかに記載の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、若しくは活性向上剤又は(6)~(10)のいずれかに記載の組成物を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用する条件を決定すること、
を含む、植物の生育を管理する方法。
(13)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を併用する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法。
(14)
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を用いる、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、植物に対して、耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、及び/又は活性を付与することのできる手段を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1A及び1Bは、カキチシャ(サンチュ)を用いた熱乾燥耐性試験1及び熱乾燥耐性試験2の結果を示す図である。
図2図2は、トマトを用いた熱乾燥耐性試験3の結果を示す図である。
図3図3は、ペペロミアを用いた活性化試験1(花芽の誘導及び成長に対する効果)の結果を示す図である。
図4図4は、ホウレンソウを用いた活性化試験2(植物体成長に対する効果(収穫後の植物体サイズ))の結果を示す図である。
図5図5は、ホウレンソウを用いた活性化試験2(植物体成長に対する効果(収穫後の植物体サイズ))の結果を示す図である。
図6図6は、ニンジンを用いた活性化試験3(根部成長に対する効果(収穫後の植物体サイズ))の結果を示す図である。
図7図7は、ニンジンを用いた活性化試験3(根部成長に対する効果(収穫後の植物体サイズ))の結果を示す図である。
図8図8は、アロマティカスを用いた活性化試験4(根の誘導に対する効果)の結果を示す図である。
図9図9は、アロマティカスを用いた活性化試験4(根の誘導に対する効果)の結果を示す図である。
図10図10は、ホウレンソウを用いた活性化試験5(収穫後の鮮度維持及び水分維持)の結果を示す図である。
図11図11は、ホウレンソウを用いた活性化試験5(収穫後の鮮度維持及び水分維持)の結果を示す図である。
図12図12は、ノースポールを用いた活性化試験6(花芽の誘導及び成長に対する効果)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、種々変更して実施することができる。
【0013】
本発明は、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤である。
本発明においては、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を植物に施用することにより、植物の耐熱性及び/又は耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上することができる。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤は、耐熱性向上剤であってもよく、耐乾燥性向上剤であってもよく、耐熱性向上剤かつ耐乾燥性向上剤であってもよい。また、本発明における植物の耐熱性向上剤あるいは耐乾燥性向上剤は、植物の熱耐性向上剤あるいは乾燥耐性向上剤であってもよい。さらに、本発明における植物の耐熱性向上剤あるいは耐乾燥性向上剤が、植物の耐熱性及び/又は耐乾燥性を向上することができる剤であるとき、熱乾燥耐性向上剤であってもよい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を農薬や農業化学製剤として用いることができる。
本発明においては、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を植物に施用することにより、植物の生育における好ましくない影響となる、高温環境下や、塩類土壌といった環境下での植物生育時のストレスに対して植物に耐性を付与することができる。本明細書において、植物に植物生育時のストレスに対する耐性を付与するとは、完全な耐性であることを意味しているものではない。
【0014】
本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物(以下、本明細書において、「酢酸等」という場合がある。)を含む。
また、本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物(以下、本明細書において、「リンゴ酸等」という場合がある。)を含む。
ここで、酢酸等は、リンゴ酸等と共に、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤としての特性を発揮する限り、特に限定されないものの、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、有効成分として酢酸等を含有する。
本発明において有効成分とは、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤に含有する成分が、その剤としての特性として、耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させることができる成分であることを意味する。
本発明において使用される酢酸等は、工業用途の酢酸等であってもよく、食品用途の酢酸等であってもよい。
酢酸としては、農業用途にも使用される木酢液や、発酵などにより製造される醸造酢といった安全且つ安価な酢酸を使用してもよい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤として、これらの酢酸等を用いることは、安全性が高く、また、低コストであるため好適である。
【0015】
本発明において使用される酢酸等として、酢酸自体だけでなく、酢酸の塩であってもよい。
酢酸の塩としては、酢酸イオンを供給し得る塩であれば特に限定されるものではないが、カチオンとの塩が挙げられ、具体的には、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛イオン、及び酢酸アンモニウム等が挙げられる。
酢酸アンモニウムにおいては、アンモニウムイオンに代えて、置換若しくは非置換のアンモニウムとの酢酸塩であってもよい。
中でも、酢酸の塩としては、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムを好適に使用することができる。また、卵の殻を酢で溶かした液肥を酢酸等として使用することも可能である。
本発明においては、酢酸と酢酸塩を混合物として用いてもよい。酢酸と酢酸塩の混合物としては、酢酸自体と、酢酸塩とを混合したものであってもよく、酢酸に、酢酸イオンとの塩を形成するカチオン源を加えて、例えば、水溶液として中和反応により生成される酢酸と酢酸塩の混合液であってもよい。この場合、完全に酢酸は中和されていてもよく、酢酸の一部が中和されるような量でカチオン源が加えられていてもよい。
酢酸塩を含む水溶液としては、例えば、酢酸緩衝液等が挙げられる。
【0016】
本発明に使用される酢酸等として、酢酸の溶媒和物又は酢酸塩の溶媒和物であってもよい。
酢酸又はその塩の溶媒和物を形成し得る溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、並びにアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノールアミン及び酢酸エチルのような有機溶媒等が挙げられる。
アルコールとしては、例えば、低級アルコールであってもよく、高級アルコールであってもよい。低級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール又は2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような炭素数が1~6の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐状のアルキルアルコール等が挙げられ、高級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1-ヘプタノール又は1-オクタノールのような炭素数が7以上の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐状のアルキルアルコール等が挙げられる。
溶媒和物を形成する溶媒としては、単独であってもよく、2種以上の溶媒であってもよい。
溶媒物については、例えば、溶媒和物の水溶液として用いる場合、水溶液中での酢酸等の形態としては、特に限定されず、溶媒和されていなくてもよい。
【0017】
本発明において使用される酢酸等としては、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物であるが、酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であってよい。酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物からなる群に包含される化合物としては、上述の酢酸、酢酸の塩、又はそれらの溶媒和物について記載する化合物から任意の組合せで適宜選択することができる。
本発明の剤や組成物等において、酢酸等は、酢酸及び/又は酢酸の塩として存在していてもよく、酢酸の塩としては、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムであってよく、これらの任意の組合せから選択されてもよいが、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウムであってもよく、酢酸カリウム、酢酸ナトリウムであってもよく、酢酸マグネシウム、酢酸カルシウムであってもよい。
【0018】
本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤はリンゴ酸等を含み、リンゴ酸等は、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤としての特性を発揮する限り、特に限定されないものの、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、有効成分としてリンゴ酸等を含有する。
本発明において使用されるリンゴ酸等は、特に限定されず、あらゆる用途において用いられ得るリンゴ酸等であってもよく、工業用途や食品用途のリンゴ酸等であってもよい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤として、これらのリンゴ酸等を用いることは、安全性が高く、また、低コストであるため好適である。
【0019】
本発明において使用されるリンゴ酸等として、リンゴ酸自体だけでなく、リンゴ酸の塩であってもよい。
リンゴ酸の塩としては、リンゴ酸イオンを供給し得る塩であれば特に限定されるものではないが、カチオンとの塩が挙げられ、具体的には、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸カルシウム、リンゴ酸マグネシウム、リンゴ酸亜鉛イオン、及び酢酸アンモニウム等が挙げられる。
リンゴ酸アンモニウムにおいては、アンモニウムイオンに代えて、置換若しくは非置換のアンモニウムとのリンゴ酸塩であってもよい。
中でも、リンゴ酸の塩としては、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸アンモニウム、リンゴ酸マグネシウム、リンゴ酸カルシウムを好適に使用することができる。また、卵の殻をリンゴ酢で溶かした液肥をリンゴ酸等として使用することも可能である。
本発明においては、リンゴ酸とリンゴ酸塩を混合物として用いてもよい。リンゴ酸とリンゴ酸塩の混合物としては、リンゴ酸自体と、リンゴ酸塩とを混合したものであってもよく、リンゴ酸に、リンゴ酸イオンとの塩を形成するカチオン源を加えて、例えば、水溶液として中和反応により生成されるリンゴ酸とリンゴ酸塩の混合液であってもよい。この場合、完全にリンゴ酸は中和されていてもよく、リンゴ酸の一部が中和されるような量でカチオン源が加えられていてもよい。
リンゴ酸塩を含む水溶液としては、例えば、リンゴ酸緩衝液等が挙げられる。
【0020】
本発明に使用されるリンゴ酸等として、リンゴ酸の溶媒和物又はリンゴ酸塩の溶媒和物であってもよい。
リンゴ酸又はその塩の溶媒和物を形成し得る溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、並びにアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノールアミン及び酢酸エチルのような有機溶媒等が挙げられる。
アルコールとしては、例えば、低級アルコールであってもよく、高級アルコールであってもよい。低級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール又は2-プロパノール(イソプロピルアルコール)のような炭素数が1~6の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐状のアルキルアルコール等が挙げられ、高級アルコールとしては、特に限定されるものではないが、例えば、1-ヘプタノール又は1-オクタノールのような炭素数が7以上の飽和又は不飽和の直鎖又は分岐状のアルキルアルコール等が挙げられる。
溶媒和物を形成する溶媒としては、単独であってもよく、2種以上の溶媒であってもよい。
溶媒物については、例えば、溶媒和物の水溶液として用いる場合、水溶液中でのリンゴ酸等の形態としては、特に限定されず、溶媒和されていなくてもよい。
【0021】
本発明において使用されるリンゴ酸等としては、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物であるが、リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物からなる群から選択される1種又は2種以上の化合物であってよい。リンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物からなる群に包含される化合物としては、上述のリンゴ酸、リンゴ酸の塩、又はそれらの溶媒和物について記載する化合物から任意の組合せで適宜選択することができる。
本発明の剤や組成物等において、リンゴ酸等は、リンゴ酸及び/又はリンゴ酸の塩として存在していてもよく、リンゴ酸の塩としては、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸アンモニウム、リンゴ酸マグネシウム、リンゴ酸カルシウムであってよく、これらの任意の組合せから選択されてもよいが、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウム、リンゴ酸アンモニウムであってもよく、リンゴ酸カリウム、リンゴ酸ナトリウムであってもよく、リンゴ酸マグネシウム、リンゴ酸カルシウムであってもよい。
【0022】
酢酸の塩と、リンゴ酸の塩は、同じカチオン源であってもよいし、異なるカチオン源の塩をそれぞれで用いる場合、例えば、溶液(好ましくは水溶液)中で、その性質に応じてカチオン源がそれぞれの比率で酢酸やリンゴ酸と塩形態(ただし、解離していれば、特定の塩として認識されるものではない)として存在していてもよい。
【0023】
本発明における耐熱性向上剤あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤として、リンゴ酸等と併用するため、酢酸等を含有していてもよく、酢酸等と併用するため、リンゴ酸等を含有していてもよい。
酢酸等とリンゴ酸等とを併用するとは、酢酸等とリンゴ酸等とを一の混合物として植物に施用してもよく、酢酸等を含む組成物と、リンゴ酸等を含む組成物とを同時に、あるいは、別時に植物に施用してもよく、酢酸等を植物に施用して、植物の有するリンゴ酸等との間での併用することで所望の効果を期待してもよく、リンゴ酸等を植物に施用して、植物の有する酢酸等との第で併用することで所望の効果を期待してもよい。
【0024】
本発明において、「耐熱性向上剤」や「耐熱性を向上する」とは、植物の集団に本発明の植物の耐熱性向上剤を適用することにより、生育不能(枯死)、生育不良(例えば、植物の全体若しくはその部分(例えば葉若しくは花)の白化若しくは黄化、根長の減少若しくは葉数の減少、又は倒伏)、生育速度の低下、又は植物体重量若しくは作物収量の減少のような、植物の生育における好ましくない影響である熱ストレスを実質的に軽減させることができることを意味する。
「耐熱性向上剤」であることや「耐熱性を向上する」ことの確認は、本発明の植物の耐熱性向上剤を適用しない対照の植物の集団と比較して確認することができ、また、通常は30%以上、好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、生存率が向上していることで確認することができる。
【0025】
本明細書で「熱ストレス」とは、温度60度以下の環境下に置かれることを意味し、温度は50℃以下の環境下であってもよく、45℃以下の環境下であってもよい。
また、通常、恒温を25℃程度と考えると、「熱ストレス」とは、30℃以上の環境下であることが好ましく、35℃以上の環境下であることがより好ましい。
本発明において、「耐熱性向上剤」であることや「耐熱性を向上する」ことの確認は、特に限定されるものではないが、以下の手段によって評価してもよく、より具体的には実施例に挙げる方法により評価してもよい。
例えば、対象となる植物を、一定量の試験溶液(水及び場合により通常の栄養成分を含む)中で、通常の生育条件下、すなわち非熱ストレス条件下で生育させる。一定期間生育させた後、耐熱性向上剤を施用した後に、熱ストレス条件下で生育させ、次いで、通常の生育条件下、すなわち非熱ストレス条件下で生育させて、対象となる植物の生存率を計測することにより評価することができる。
熱ストレス条件としては、上記「熱ストレス」の温度条件下で30分以上静置する条件であればよく、温度条件に応じて、静置する時間は設定してよい。
熱ストレス条件においては、恒湿度条件で、特に給水を行わずに静置する条件であることが好ましい。
【0026】
本発明において、「耐乾燥性向上剤」や「耐乾燥性を向上する」とは、植物の集団に本発明の植物の耐乾燥性向上剤を適用することにより、生育不能(枯死)、生育不良(例えば、植物の全体若しくはその部分(例えば葉若しくは花)の白化若しくは黄化、根長の減少若しくは葉数の減少、又は倒伏)、生育速度の低下、又は植物体重量若しくは作物収量の減少のような、植物の生育における好ましくない影響である乾燥ストレスを実質的に軽減させることができることを意味する。
「耐乾燥性向上剤」であることや「耐乾燥性を向上する」ことの確認は、本発明の植物の耐乾燥性向上剤を適用しない対照の植物の集団と比較して確認することができ、また、通常は30%以上、好ましくは50%以上、60%以上、70%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは85%以上、特に好ましくは90%以上、生存率が向上していることで確認することができる。
【0027】
本明細書で「乾燥ストレス」とは、低湿度の環境下に置かれることを意味する。
乾燥ストレスの起因となることとして、特に限定されるものではないが、本発明においては、温度条件に基づく乾燥ストレスであってよく、水の添加のない高温を伴った乾燥ストレスが挙げられる。
湿度の変化については、植物個体及び土壌における水分量の変化に影響を与える。したがって、湿度が高い場合には、耐熱性や耐乾燥性の向上効果はより発揮される。また、湿度が高い場合に、徐々に熱又は乾燥ストレスがかかると、リンゴ酸等を混合している効果はより発揮される。すなわち、熱及び/又は乾燥ストレスがかかりやすい湿度ではより効果が発揮される。
本発明において、「耐乾燥性向上剤」であることや「耐乾燥性を向上する」ことの確認は、特に限定されるものではないが、以下の手段によって評価してもよく、より具体的には実施例に挙げる方法により評価してもよい。
例えば、対象となる植物を、一定量の試験溶液(水及び場合により通常の栄養成分)を含む中で、通常の生育条件下、すなわち非乾燥ストレス条件下で生育させる。一定期間生育させた後、耐乾燥性向上剤を施用した後に、乾燥ストレス条件下で生育させ、次いで、通常の生育条件下、すなわち非乾燥ストレス条件下で生育させて、対象となる植物の生存率を計測することにより評価することができる。
乾燥ストレス条件としては、上記「乾燥ストレス」の湿度条件下で30分以上静置する条件であればよく、耐乾燥性向上剤の種類や濃度条件に応じて、静置する時間は設定してよい。
乾燥ストレス条件においては、低湿度条件で特に給水を行わずに静置する条件であることが好ましい。
【0028】
本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤は、植物の耐熱性向上剤であってもよく、植物の耐乾燥性向上剤であってもよく、植物の耐熱性向上剤であると共に、植物の乾燥耐性向上剤であってよい。
本発明において、植物の耐熱性あるいは乾燥耐性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、酢酸等及びリンゴ酸等を含有する組成物として、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上する組成物であってもよい。
すなわち、本明細書においては、「植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤」は、「植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上する組成物」と同様の意味に理解することも可能である。
【0029】
本発明の各態様において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤の効果は、植物の生育自体に対する効果、例えば、茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、又は分蘖の促進のような生育の促進効果を包含してもよい。
【0030】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤は、耐熱性あるいは耐乾燥性という性質を利用して、あるいは、利用しなくても、以下のような植物の活性化のために用いてもよい。
また、本発明においては、酢酸等及びリンゴ酸等を含有する、以下のような作用を示す、植物の活性向上剤であってもよい。
1)根の伸長、根の活着率の向上
2)栄養吸収効率の増大
3)花芽の誘導、開花の促進、結実量の増大
4)糖分など成分の蓄積
5)節水効果の増大
6)カルス化の誘導効果
7)植物体のサイズの向上、中でも、地上部及び地下部の伸長又は肥大
8)傷の修復
本発明において、植物の活性向上剤は、上記1)~8)のような作用を示してもよいし、茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、又は分蘖の促進のような生育の促進効果を有していてもよい。
すなわち、本発明においては、酢酸等及びリンゴ酸等を植物に施用することにより、植物の活性化剤や活力増強剤として用いることも可能である。
植物の活性化剤や活力増強剤としては、植物の生育において利点を有することを意味する。本発明においては、植物に酢酸等及びリンゴ酸等を施用して、植物に活力を与えることができる。また、本発明においては、植物に酢酸等及びリンゴ酸等を施用して、植物の生育を促進することができ、生育促進剤として用いてもよい。
また、本発明においては、酢酸等及びリンゴ酸等を含有する、植物の耐塩性向上剤としてもよい。
【0031】
本発明においては、酢酸等及びリンゴ酸等を植物に施用することにより、熱ストレス及び/又は乾燥ストレスに対して、耐熱性及び/又は耐乾燥性を向上させることができる。
また、本発明においては、酢酸等及びリンゴ酸等を植物に施用することにより、塩ストレスに対して、耐塩性を向上させることができる。
さらに、本発明においては、酢酸等及びリンゴ酸等を植物に施用することにより、植物の活性を向上させることができる。
本発明における植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤や植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上する組成物は、農業化学製剤又は農薬として、植物の生育を促進するために使用することができる。
【0032】
本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、例えば、固体(例えば粉末若しくは粒状物)、液体(例えば溶液若しくは懸濁液)、又は気体のような任意の形態であってよい。
本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、溶液又は懸濁液のような液体の形態で使用することが好ましい。
本発明において、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を溶液として用いる場合、液体の状態であってもよく、施用する際に、用事調整した液体として用いてもよい。
本発明において、熱乾燥耐性向上剤として用いる場合にも、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤として記載する内容が、同様に適用可能である。植物の耐塩性向上剤や、植物の活性向上剤として用いる場合にも同様である。
【0033】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤において、酢酸等及びリンゴ酸等を、好適には、酢酸及びリンゴ酸を有効成分として単独で使用してもよく、1種以上の農業上許容される成分と組み合わせて使用してもよい。
酢酸等とリンゴ酸を使用してもよく、酢酸とリンゴ酸等を使用してもよい。酢酸等を1種あるいは2種以上を用いてもよく、リンゴ酸等を1種あるいは2種以上を用いてもよい。すなわち、2種以上の酢酸等を用いてもよく、2種以上のリンゴ酸等を用いてもよく、酢酸と酢酸以外の1種以上の酢酸等とリンゴ酸とリンゴ酸以外の1種以上のリンゴ酸等を用いてもよく、酢酸とリンゴ酸とリンゴ酸以外の1種以上のリンゴ酸等を用いてもよく、酢酸と酢酸以外の1種以上の酢酸等とリンゴ酸を用いてもよく、酢酸とリンゴ酸を用いてもよい。さらには、酢酸以外の1種以上の酢酸等とリンゴ酸以外の1種以上のリンゴ酸等を用いてもよい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、農薬乃至農業化学製剤として、所望の施用方法に応じて、当該技術分野で通常使用される様々な剤形に製剤化させることができる。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、酢酸等及びリンゴ酸等に加え、1種以上の農業上許容される成分をさらに含有していてもよい。
農業上許容される成分としては、溶媒若しくは担体、賦形剤、結合剤、溶解補助剤、安定剤、増粘剤、膨化剤、潤滑剤、界面活性剤、油性液、緩衝剤、殺菌剤、不凍剤、消泡剤、着色剤、酸化防止剤、添加剤、肥料、及びさらなる薬剤等が挙げられる。
農業上許容される溶媒若しくは担体としては、水、ケロセン若しくはディーゼル油のような鉱油画分、植物若しくは動物由来の油、環状若しくは芳香族炭化水素(例えばパラフィン、テトラヒドロナフタレン、アルキル化ナフタレン類若しくはそれらの誘導体、又はアルキル化ベンゼン類若しくはそれらの誘導体)、アルコール(例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、エチレングリコール、グリセロール又はシクロヘキサノール)、ケトン(例えばシクロヘキサノン)、若しくはアミン(例えばN-メチルピロリドン)、又はこれらの混合物のような農業上許容される溶媒若しくは液体担体が好ましく、少なくとも水を含む1種以上の溶媒がより好ましい。
肥料としては、油粕若しくは牛糞のような有機肥料、又は硫安、石灰窒素若しくは熔成リンのような無機肥料が好ましい。
【0034】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤が、少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する場合、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤の溶液のpHは、好ましくは3~9の範囲であり、その範囲内でpHの下限値は、4以上、5以上、6以上であってもよく、pHの上限値は、8.5以下、8以下、7.5以下、7以下であってもよい。
pHの範囲は、より好ましくは4~8の範囲であり、さらに好ましくは5~7.5の範囲であり、よりさらに好ましくは5~7の範囲である。pHの範囲は、5~6としてもよく、6~7としてもよい。
植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤のpHは、対象の植物への施用時点で前記範囲内であることが好ましい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤のpHは、酸やアルカリで調整してもよく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水又は酢酸アンモニウムのような、酸、アルカリ又は緩衝剤を用いて調整してもよい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤においては、そのpHが、対象の植物への施用時点で、前記範囲内であることが好ましいが、仮に、対象の植物への施用時点で、前記範囲内になくても、施用される土壌、培地又は培養液のpH緩衝作用を利用して、前記範囲内のpHに調整される場合であってもよい。
【0035】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤が、少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する場合、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤における酢酸等の総体積に対する割合は、好ましくは0.01~0.5体積%の範囲であり、その範囲内で割合の下限値は、0.05体積%以上、0.075体積%以上、0.09体積%以上、0.1体積%以上であってよく、割合の上限値は、0.25体積%以下、0.2体積%以下であってもよい。
酢酸等の割合の範囲は、より好ましくは0.05~0.5体積%の範囲であり、さらに好ましくは0.075~0.25体積%の範囲であり、よりさらに好ましくは0.09~0.2体積%の範囲であり、特に好ましくは0.1~0.2体積%の範囲である。
【0036】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤が、少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する場合、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤における酢酸等の濃度は、好ましくは1~100mMの範囲であり、その範囲内で濃度の下限値は、2mM以上、5mM以上、7.5mM以上、9mM以上、10mM以上であってよく、濃度の上限値は、50mM以下、40mM以下、30mM以下であってもよい。
酢酸等の割合の範囲は、より好ましくは1~50mMの範囲であり、さらに好ましくは7.5~50mMの範囲であり、よりさらに好ましくは9~40mMの範囲であり、特に好ましくは10~40mMの範囲である。
【0037】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤が、少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する場合、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤におけるリンゴ酸等の濃度は、好ましくは1~100mMの範囲であり、その範囲内で濃度の下限値は、2mM以上、5mM以上、7.5mM以上、9mM以上、10mM以上であってよく、濃度の上限値は、50mM以下、40mM以下、30mM以下であってもよい。
リンゴ酸等の割合の範囲は、より好ましくは1~50mMの範囲であり、さらに好ましくは7.5~50mMの範囲であり、よりさらに好ましくは9~40mMの範囲であり、特に好ましくは10~40mMの範囲である。
【0038】
本発明における酢酸等及びリンゴ酸等を併用して、または混合物として、植物の活性化のために用いる場合には、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤として用いる場合として酢酸等及びリンゴ酸等の濃度(体積%やmM)として記載した内容に加え、リンゴ酸等の濃度は、1~100mMの範囲であってもよいが、1mM以下の濃度であってもよい。植物の活性化のために用いる場合には、リンゴ酸等の濃度は、0mMを超えて、100mMの範囲内であってもよく、下限値は、0mMを超えて1mM以下の範囲から設定してもよく、1mM以上の範囲として上記している下限値としてもよい。1mM以下の範囲から濃度の下限値とする場合、mMとして、10-5のオーダーでの濃度、10-4のオーダーでの濃度、10-3のオーダーでの濃度、10-2のオーダーでの濃度、10-1のオーダーでの濃度の下限値としてもよい。
【0039】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤が、少なくとも水を含む1種以上の溶媒をさらに含有する場合、前記範囲内のpHであり、かつ、前記範囲内の酢酸等及びリンゴ酸等の濃度であることが好適である。
pHと、濃度は、前記する範囲内で適宜選択され得る。
【0040】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、1種以上のさらなる薬剤を含有していてもよい。
当該薬剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、2-クロロエチルホスホン酸(商品名:エスレル(登録商標))、カーバイド、ベンジルアデニン、ブラシノステロイド、ストリゴラクトン及びジャスモン酸等が挙げられる。また、当該薬剤としては、当該技術分野で通常使用される植物ホルモン、植物化学調節剤及び農薬等であってもよい。
【0041】
本発明において、対象となる植物は、特に限定されるものではなく、例えば、被子植物及び裸子植物から選択される。
対象となる植物としては、特に限定されるものではないが、例えば、キク及びガーベラのようなキク科植物、ジャガイモ、トマト及びナスのようなナス科植物、ナタネ及びアブラナのようなアブラナ科植物、イネ、トウモロコシ、コムギ、サトウキビ及びオオムギのようなイネ科植物、ダイズのようなマメ科植物、ニンジンのようなセリ科植物、バジル、ミント及びローズマリーのようなシソ科植物、アサガオのようなヒルガオ科植物、ポプラのようなヤナギ科植物、トウゴマ、キャッサバ及びジャトロファのようなトウダイグサ科植物、サツマイモのようなヒルガオ科植物、オレンジ及びレモンのようなミカン科植物、サクラ及びバラのようなバラ科植物、コチョウランのようなラン科植物、トルコキキョウのようなリンドウ科植物、シクラメンのようなサクラソウ科植物、パンジーのようなスミレ科植物、ユリのようなユリ科植物、テンサイのようなヒユ科植物、ブドウのようなブドウ科植物、スギ及びヒノキなどのヒノキ科植物、オリーブ及びキンモクセイなどのモクセイ科植物、並びにアカマツのようなマツ科植物等が挙げられる。また、実施例で用いる植物であってもよい。
対象となる植物としては、植物の全体(すなわち完全な植物体)だけでなく、植物の組織若しくは器官(例えば、切り花、又は根茎、塊根、球茎若しくはランナー等の栄養繁殖器官)、培養細胞及び/又はカルス等の植物の部分であってもよい。
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、植物の発芽前又は発芽後を含む任意の生育段階にある植物の全体又はその部分(例えば、種子、幼苗又は成熟植物の全体又はその部分)に施用することができる。
【0042】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤は、植物自体だけでなく、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用してもよい。
本発明は、酢酸等及びリンゴ酸等を、好ましくは農業上有効な量の酢酸及びリンゴ酸を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用することを含む、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上させる方法にも関する。この場合には、酢酸等及びリンゴ酸等を、好ましくは農業上有効な量の酢酸及びリンゴ酸を、混合液として施用してもよい。
本発明の方法において、施用される酢酸等、リンゴ酸等及びその他の態様は、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤として本明細書において説明したとおりである。
植物に施用するための資材としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、肥料のような、当該技術分野で通常使用される各種の資材が挙げられる。
【0043】
本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤の剤形は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常使用される、乳剤、水和剤、液剤、水溶剤、粉剤、粉末剤、ペースト剤又は粒剤等の剤形であってよい。
本発明の各態様において、酢酸等は、農業上有効な量で含有又は施用される。本発明の各態様において、酢酸等の農業上有効な量は、例えば、施用時の総質量に対して、0.01~0.5質量%の範囲であり、通常は、施用時の総質量に対して、0.05~0.5質量%の範囲であり、典型的には、施用時の総質量に対して、0.075~0.25質量%の範囲であり、さらに典型的には、施用時の総質量に対して、0.09~0.2質量%の範囲であり、特に、施用時の総質量に対して、0.1~0.2質量%の範囲である。例えば、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤が液体形態の剤形である場合、酢酸等の農業上有効な量は、例えば、施用時の総体積に対して、0.01~0.5体積%の範囲であり、通常は、施用時の総体積に対して、0.05~0.5体積%の範囲であり、典型的には、施用時の総体積に対して、0.075~0.25体積%の範囲であり、さらに典型的には、施用時の総質量に対して、0.09~0.2体積%の範囲であり、特に、施用時の総質量に対して、0.1~0.2体積%の範囲である。
【0044】
本発明の各態様において、リンゴ酸等は、農業上有効な量で含有又は施用される。本発明の各態様において、リンゴ酸等の農業上有効な量は、例えば、施用時の総質量に対して、0.01~0.5質量%の範囲であり、通常は、施用時の総質量に対して、0.05~0.5質量%の範囲であり、典型的には、施用時の総質量に対して、0.075~0.25質量%の範囲であり、さらに典型的には、施用時の総質量に対して、0.09~0.2質量%の範囲であり、特に、施用時の総質量に対して、0.1~0.2質量%の範囲である。例えば、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤が液体形態の剤形である場合、リンゴ酸等の農業上有効な量は、例えば、施用時の総体積に対して、0.01~0.5体積%の範囲であり、通常は、施用時の総体積に対して、0.05~0.5体積%の範囲であり、典型的には、施用時の総体積に対して、0.075~0.25体積%の範囲であり、さらに典型的には、施用時の総質量に対して、0.09~0.2体積%の範囲であり、特に、施用時の総質量に対して、0.1~0.2体積%の範囲である。
【0045】
植物の栽培において、植物の生育の状態に基づき、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用する条件を適切に設定することにより、植物における耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、活性を向上させつつ、植物の生育を安定的に管理することができる。
本発明は、
植物の生育に関する1個以上の情報を取得すること(以下、「情報取得工程」とも記載する)、
取得した1個以上の情報に基づき、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、活性向上剤を、植物、植物に施用するための資材、又は植物が生育する土壌、培地若しくは培養液に施用する条件を決定すること(以下、「施用条件決定工程」とも記載する)、
を含む、植物の生育を管理する方法にも関する。
【0046】
情報取得工程において取得する、植物の生育に関する1個以上の情報としては、特に限定されるものではないが、例えば、熱ストレスあるいは乾燥ストレス、塩ストレス条件下での、あるいはそれらの条件がない場合でも、茎葉部若しくは根部の伸張、葉数の増加、開花若しくは結実の促進、花若しくは果実の数の増加、植物体重量若しくは作物収量の増加、緑化、又は分蘖の促進のような生育の促進効果に関する種々の情報、並びに、生育不能(枯死)、生育不良(例えば、植物の全体若しくはその部分(例えば葉若しくは花)の白化若しくは黄化、根長の減少若しくは葉数の減少、又は倒伏)、生育速度の低下、又は植物体重量若しくは作物収量の減少のような植物の生育における好ましくない影響に関する種々の情報を挙げることができる。
前記で例示した1個以上の情報を取得することにより、植物の生育の状態を評価することができる。
【0047】
施用条件決定工程において決定される、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を施用するための条件は、当該施用を実施することによって植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上することができるように、適宜設定される。本工程において決定される条件は、特に限定されるものではないが、例えば、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤の組成、pH、施用量及び施用時期、並びに有効成分として含有される酢酸等やリンゴ酸等の含有量からなる群より選択される1種以上の条件が挙げられる。
これらの条件の具体的な値は、本明細書において例示した範囲から適宜設定してよい。
【0048】
本発明において、植物の生育を管理する方法において、情報取得工程及び施用条件決定工程の回数及び順序は特に限定されない。例えば、情報取得工程及び施用条件決定工程をこの順序で1回ずつ実施してもよく、情報取得工程、施用条件決定工程、次いでさらなる情報取得工程をこの順序で実施してもよく、1回目の情報取得工程、1回目の施用条件決定工程、2回目の情報取得工程、及び2回目の施用条件決定工程のように、情報取得工程及び施用条件決定工程の組み合わせを複数回繰り返し実施してもよい。
本明細書においては、本発明の植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤を施用するとは、酢酸等及びリンゴ酸等を施用することと置き換えて理解することもできる。酢酸等及びリンゴ酸等の施用は、本明細書において「酢酸等とリンゴ酸等とを併用する」として記載の方法により実施してよい。
【0049】
また、本発明は、酢酸等及びリンゴ酸等を施用することによる、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上する方法に関してもよい。
さらに、本発明は、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性、耐塩性、又は活性を向上するための酢酸等及びリンゴ酸に関してもよい。
【実施例0050】
以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0051】
<熱乾燥耐性試験1>
簡易に作成したインキュベーター内で、ビニールポットを用いて、カキチシャ(サンチュ,キク科アキノノゲシ属 Lactuca sativa L.)を発芽後、温度22℃、湿度40~50%の条件で、3週間育てた。栽培期間中、給水は、一株あたり100mL/3日の水を灌注して行った。
水を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを水処理区1とし、10mM酢酸水溶液を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを酢酸処理区1とした。
その後、別トレーにビニールポットを移し、給水をせず、連続光、温度42℃、湿度40%の条件で、インキュベーター内で静置した。
インキュベーターからビニールポットを取り出しカキチシャの状態を観察し、カキチシャの生存率を計測した。生存率は、枯死していないカキチシャの苗数をカウントすることで算出した。5日間静置後の結果を図1Aに示す。
5日間静置後の水処理区1及び酢酸処理区1の生存率はいずれも100%であったが、図1Aに示すとおり、水処理区1の方が酢酸処理区1に比して、枯死していないが明らかに萎れの程度が激しかった。その後、7日間静置後の生存率は、酢酸処理区1において生存率は100%であり、水処理区1における生存率は0%であった。
【0052】
<熱乾燥耐性試験2>
熱乾燥耐性試験1と同様にしてカキチシャの生存率を測定した。本試験においては、温度50℃、湿度10%の条件とした。
また、水を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを水処理区2とし、10mMの酢酸及び10mMのリンゴ酸を含む水溶液を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを処理区2とした。
3日間静置後インキュベーターからビニールポットを取り出しカキチシャの状態を観察し、カキチシャの生存率を計測した。処理区2において生存率は100%であり、水処理区2において0%であった。結果を図1Bに示す。
なお、以下の試験においても、連続光下で、カキチシャ及びトマトの生育を行ったが、温度42℃の条件のインキュベーターでの照度を、約3300ルクスとした以外は、約5000ルクスの条件とした。
【0053】
水処理区1及び水処理区2の結果を比較すると、水処理区2では植物体が完全に枯死していることから、植物体にとって水処理区2における条件の方がより過酷な生存環境条件であることが分かる(図1A及びBを参照)。
酢酸処理区1の結果から、酢酸処理により植物体の高温乾燥耐性能が強化されていることがわかるが、さらに過酷な環境条件で生育させた処理区2での結果から、酢酸に加えリンゴ酸をさらに添加して施用することにより、酢酸の高温乾燥耐性能がさらに増強されていることが分かる。
【0054】
<熱乾燥耐性試験3>
簡易に作成したインキュベーター内で、ビニールポットを用いて、トマト(品種:桃太郎,ナス科ナス属 Solanum lycopersicum)を発芽後、温度22℃、湿度40~50%の条件で、3週間育てた。栽培期間中、給水は、一株あたり100mL/3日の水を灌注して行った。
水を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを水処理区3とし、20mM酢酸水溶液を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを酢酸処理区3とした。また、10mMの酢酸及び10mMのリンゴ酸を含む水溶液を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを処理区3とした。
その後、別トレーにビニールポットを移し、給水をせず、連続光、温度50℃、湿度10%の条件で、インキュベーター内で静置した。
3日間及び4日間の静置後インキュベーターからビニールポットを取り出しトマトの状態を観察し、トマトの生存率を計測した。生存率は、枯死していないカキチシャの苗数をカウントすることで算出した。3日間静置後の結果を図2に示す。
3日間静置後の水処理区3の生存率は0%であり、酢酸処理区3及び処理区3の生存率はいずれも100%であったが、4日間静置後の水処理区3及び酢酸処理区3の生存率は0%であり、処理区3において生存率は100%であった。
水処理区3、酢酸処理区3、酢酸とリンゴ酸での処理区3の順に、高温乾燥耐性化能が強化されていることが分かった。
【0055】
<活性化試験1>
同時期に株分けしたペペロミア(コショウ科サダソウ属 Peperomia albovittata)を購入後、簡易に作成したインキュベーター内で、温度22℃、湿度40~50%の条件で、2日間育てた。栽培期間中、給水は、一株あたり50mL/日の水を灌注して行った。
水を50mL株元に灌注し、24時間かけて吸収させたものを水処理区1とし、20mM酢酸水溶液を50mL株元に灌注し24時間かけて吸収させたものを酢酸処理区1、及び20mM酢酸+0.075μMのリンゴ酸を含む水溶液を50mL株元に灌注し24時間かけて吸収させたものを処理区1とした。
その後、別トレーにビニールポットを移し、連続光、温度22℃、湿度40%の条件で、インキュベーター内で静置した。
3週間の静置後インキュベーターからビニールポットを取り出しトマトの状態を観察し、それぞれのペペロミア個体において、開花初期の花芽形成数と長さ3cm以上に成長した開花後の花芽数をカウントした。3日間静置後の結果を図3に示す。
3週間の静置後の水処理区1では開花前の花芽形成数は3であり、酢酸処理区1では開花前の花芽形成数は5であり、水処理区1及び酢酸処理区1の3cm以上に成長した開花後の花芽数はいずれも0であったが、処理区1において開花前の花芽形成数は12であり、3cm以上に成長した開花後の花芽数は6であった。
酢酸とリンゴ酸での処理区1は、酢酸処理区1及び水処理区1のそれぞれに比べて、花芽の誘導と成長が強化されていることが分かった。
【0056】
<活性化試験2>
ビニールハウス内の圃場で直播種子から発芽したホウレンソウ(ヒユ科ホウレンソウ属 Spinacia oleracea)を用いた。
試験期間中の植物体への水やりは、自動制御による灌水システムにより、午前6時と午後4時の1日2回行った。
発芽から2週間後(本葉3-5枚)の苗に50mLの以下に示す試験液をそれぞれ株元に灌注した。最初の灌注処理から2週間後と4週間後に50mLの試験液を再度灌注した(合計3回の灌注を行った)。
1回目の灌注処理から45日後に収穫し、それぞれの試験区に対して20個体の湿重量の計測を行った。各試験区での植物体の平均重量と標準偏差を算出した。各試験区間の湿重量の有意差検出はWelchのT検定(Welch検定)により算出した。結果を図4及び図5に示す。以下も含め図中のWelch検定の結果は、*:p<0.05、**:p<0.01を意味する。
なお、用いた試験液は以下のとおりである。以下の活性化試験3~6でも同様に調製した試験液を用いた。
水処理区2 滅菌蒸留水
リンゴ酸処理区2 0.24%(w/w)リンゴ酸水溶液
酢酸処理区2 0.06%(w/w)酢酸水溶液
処理区2 0.24%(w/w)リンゴ酸及び0.06%(w/w)酢酸水溶液
それぞれKOHを用いてpH=6.0に調整した。
水処理区2とリンゴ酸処理区2の間に湿重量の有意差は認められなかったが、水処理区2と酢酸処理区2との間では122%の湿重量の有意な増加(p<0.05)が認められた。水処理区2と酢酸とリンゴ酸での処理区2の間では、165%の湿重量のさらに有意な増加(p<0.01)が認められた。
【0057】
<活性化試験3>
圃場で直播種子から発芽したニンジン(セリ科ニンジン属 Daucus carota subsp. sativus)を用いた。
試験期間中の植物体への水やりは自然降雨による。
発芽から2週間後(本葉4-5枚)の苗に50mLの各試験液をそれぞれ株元に灌注した。最初の灌注処理から3週間後と6週間後に50mLの試験液を再度灌注した(合計3回の灌注を行った)。
1回目の灌注処理から90日後に収穫し、地上部(葉部分)を切除除去して可食部の根部分にした後、それぞれの試験区に対して100個体の湿重量の計測を行った。データ上下10%をそれぞれ取り除き、80個体について、各試験区での植物体の平均重量と標準偏差を算出した。各試験区間の湿重量の有意差検出はWelch検定により算出した。
水処理区3、酢酸処理区3及びリンゴ酸処理区3の間に湿重量の有意差は認められなかったが、水処理区3と酢酸とリンゴ酸での処理区3の間では、また、酢酸処理区3及び酢酸とリンゴ酸での処理区3の間では、それぞれ収穫後の根部湿重量に有意差(p<0.01)が認められた。
【0058】
<活性化試験4>
20cmポット培養土壌で生育させたアロマティカス(シソ科プレクトランサス属 Plectranthus amboinicus)から、各試験区に対して20枝を回収し、茎頂からおよそ10葉を残して切除した。
それぞれの下部(茎部分)を200mLの各試験液に浸し、温室内で自然光を当て2週間育てた。2週間後、植物体を取り出しそれぞれの発根数、根伸長及び根の分岐について計測した。これらの平均値及び標準偏差を求めるとともに、各試験区間の有意差検出はWelch検定により算出した。
水処理区4及び酢酸処理区4では根の新生発根は認められなかったが、酢酸処理区4及び酢酸とリンゴ酸での処理区4では、それぞれの溶液処理により、根の新生発根が認められた。水処理区4と酢酸とリンゴ酸での処理区4の間では、また、酢酸処理区4及び酢酸とリンゴ酸での処理区4の間では、それぞれ発根数、根長及び分岐数に有意差が認められた。また、酢酸とリンゴ酸での処理区4では酢酸処理区4に比べて、著しい新生根の発生、伸長と分岐が認められた。
【0059】
<活性化試験5>
ビニールハウスにて収穫前日の地植えのホウレンソウに対して、ジョウロを使って株元灌注で、各試験液を一株当たり100mLずつ地表面から与えた。
18時間後に地上部を根からカッターで切り取って収穫して、5束ずつ同面積(30cmx45cm)の新聞紙に包んだ。
それぞれの試験区を一つずつ計4種類の試験区(合計20個体)をビニール袋(25cmXc30m)に入れて、口を開けたまま縦置きにして、4℃、湿度40%の冷蔵庫内に保管し、経時的に各個体の重量変化を重量計で計測した。各植物体の試験開始時の重量を100%とし、各処理区の重量の変化個体ごとに算出した。それぞれ20個体の各時間の重量変化の平均と標準偏差を求めた。
水処理区5とリンゴ酸処理区5の間には湿重量の減少速度に有意差は見られなかったが、酢酸処理区5及び酢酸とリンゴ酸での処理区5では、冷蔵保存開始12時間以降から、水処理区5及びリンゴ酸処理区5に比べて顕著な保水効果が現れた。
96時間の実験終了後、水処理区5に比べて酢酸処理区5では平均値で7.1%、酢酸とリンゴ酸での処理区5では22%の水分減少の低下防止効果が検出された。酢酸処理区5及び酢酸とリンゴ酸での処理区5では、収穫後の植物の鮮度維持に効果があることが示された。
【0060】
<活性化試験6>
9cmポットで育てたノースポール(キク科フランスギク属 Leucanthemum paludosum)を用いた。
同時期に播種発芽し、成長したノースポール苗を3日おきに2週間100mLの水を与えて生育させた。試験区について5苗ずつ用意し、200mLの各試験液にそれぞれ浸漬して、24時間放置し、溶液をポット底面から吸収させた。溶液処理後に全ての頂芽をハサミで切除(ピンチ)した。
頂芽切除後、野外温室にて4日毎に200mLの水道水を給水しながら育て、3週間後に新生された頂芽(花芽)の数を計測した。
水処理区6とリンゴ酸処理区6の間には新生した花芽の数に有意差は見られなかったが、酢酸処理区6及び酢酸とリンゴ酸での処理区6では水処理区6に比べて花芽数の増加が確認された。酢酸処理区6及び酢酸とリンゴ酸での処理区6の間でも有意差が認められた。
酢酸は、頂芽及び花芽の新生発生並びに形成を促すことができ、さらに、酢酸とリンゴ酸の混用により強い頂芽及び花芽の新生発生並びに形成を促すことが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【手続補正書】
【提出日】2024-10-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物並びにリンゴ酸若しくはその塩、又はそれらの溶媒和物を含有する、植物の耐熱性あるいは耐乾燥性向上剤、耐塩性向上剤、又は活性向上剤。