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特開2024-178445エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178445
(43)【公開日】2024-12-24
(54)【発明の名称】エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダ
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/347 20060101AFI20241217BHJP
【FI】
G01D5/347 110A
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024169008
(22)【出願日】2024-09-27
(62)【分割の表示】P 2024527202の分割
【原出願日】2024-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2023044524
(32)【優先日】2023-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024005698
(32)【優先日】2024-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】今井 剛
(57)【要約】      (修正有)
【課題】うねりを抑制することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【解決手段】第1面、および第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材1と、金属基材1の第1面側に、金属基材1の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層2と、を有する、エンコーダ用反射型光学式スケール10であって、金属基材1の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、上記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面、および前記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、
前記金属基材の前記第1面側に、前記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、
を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、
前記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、エンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項2】
中心孔を有する有孔円盤状である、請求項1に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項3】
内径寸法精度を示す工程能力指数Cpが、1.33以上である、請求項2に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかの請求項に記載のエンコーダ用反射型光学式スケールと、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールの前記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、
前記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、
を備える、反射型光学式エンコーダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、制御機構を備えるサーボモータ等に光学式エンコーダが使用されている。光学式エンコーダには、透過型エンコーダと反射型エンコーダがあるが、反射型エンコーダは透過型エンコーダに比べて光路が短く、小型化、薄型化が容易であり、また、発光素子や受光素子の位置決めが不要であり組み立てが容易であるという利点を有する。
【0003】
反射型光学式エンコーダは、反射型光学式スケール、スケールに光を照射するLED等の光源、およびスケールからの反射光を検出する光検出器を備える。反射型光学式スケールは、反射領域(高反射領域)と非反射領域(低反射領域)が交互に配置され、反射領域における光の反射率は、非反射領域における光の反射率よりも高い(例えば、特許文献1)。これにより、スケールから反射し光検出器に入射する光の強さは、スケールの位置の変化により強弱を生じる。光検出器は、スケールの位置が測長方向に移動することによって生じる光の強弱を検出する。反射型光学式エンコーダは、検出された光の強弱にしたがって、このスケールの位置の変位情報を処理し、位置情報を取得しうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-241248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、反射型光学式スケールは、複数の反射型光学式スケールが並んで配置されている多面付け体を個片化することによって製造される。多面付け体を構成する基材が金属基材である場合、個片化工程においては、加工精度が良好であることから、金属基材のエッチング加工によって個片化する場合が多い。しかし、金属基材のエッチング加工による個片化は、コスト面で不利である。
【0006】
そこで、金属基材の厚さを薄くすることで、エッチングコストを削減することが検討されている。また、金属基材の厚さが薄いほうが、精度良くエッチング加工できる。しかし、金属基材が薄いと、反射型光学式スケールの取り扱いが困難になる。また、金属基材が薄いと、金属基材自体にうねりや反りが生じやすいため、反射型光学式スケールにうねりや反りが生じる場合がある。また、金属基材のエッチング加工の場合、通常、反射型光学式スケールの外周には、反射型光学式スケールとフレームとを繋ぐブリッジが設けられる。エッチング加工後にブリッジを切断することで、個々の反射型光学式スケールに分離する。この場合、反射型光学式スケールにブリッジ痕が生じる。ブリッジ痕はバリや突起となり、反射型光学式スケールに部分的に歪みが発生する。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、うねりを抑制することが可能なエンコーダ用反射型光学式スケールを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一実施形態は、第1面、および上記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、上記金属基材の上記第1面側に、上記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、上記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、エンコーダ用反射型光学式スケールを提供する。
【0009】
本開示の他の実施形態は、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備える、反射型光学式エンコーダを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールにおいては、うねりを抑制することが可能であるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを例示する概略上面図である。
図2】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを例示する部分拡大断面図である。
図3】エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりを説明する模式図である。
図4】エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりを説明する模式図である。
図5】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールを例示する概略断面図である。
図6】本開示における反射型光学式エンコーダを例示する概略斜視図である。
図7】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール多面付け体を例示する概略上面図である。
図8】本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールの製造方法における個片化工程で用いる打ち抜き加工装置を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示は、エンコーダ用反射型光学式スケールおよび反射型光学式エンコーダを実施態様に含む。以下、本開示の実施態様を、図面等を参照しながら説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0013】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0014】
また、本明細書において、「エンコーダ用反射型光学式スケール」を単に「光学式スケール」と称する場合がある。
【0015】
以下、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール、反射型光学式エンコーダ、およびエンコーダ用反射型光学式スケール多面付け体について詳細に説明する。
【0016】
A.エンコーダ用反射型光学式スケール
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、第1面、および上記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、上記金属基材の上記第1面側に、上記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、上記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、上記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である。
【0017】
図1は、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールの一例を示す概略上面図である。図2(a)は、図1の点線枠a部分のA-A線拡大断面図である。図1および図2(a)に例示するように、エンコーダ用反射型光学式スケール10は、第1面1aおよび第1面1aに対向する第2面1bを有する円盤状の金属基材1と、金属基材1の第1面1a側に、金属基材1の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層2とを有する。金属基材1の厚さT1は所定の範囲内である。エンコーダ用反射型光学式スケール10は、有孔円盤状を有しており、低反射層2が設けられた領域である低反射領域R2と、低反射層2が設けられていない領域である高反射領域R1とが周方向に交互に配置されている。低反射領域R2は、エンコーダ用反射型光学式スケール10の厚さ方向において、金属基材1および低反射層2を有する。高反射領域R1は、金属基材1を有する。高反射領域R1における光の反射率は、低反射領域R2における光の反射率よりも高い。なお、高反射領域R1における光の反射率、および低反射領域R2における光の反射率は、同一の波長および同一の入射角での反射率を示す。
【0018】
本開示によれば、金属基材の厚さが所定の範囲であり、比較的厚いことにより、うねりや反りを抑制できる。さらに、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが所定の値以下であるため、エンコーダ用反射型光学式スケールの精度を高めることができ、エンコーダ用反射型光学式スケールを備える反射型光学式エンコーダの精度を向上できる。
【0019】
また、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、後述するように、多面付け体の打ち抜き加工により製造することが好ましい。多面付け体の打ち抜き加工の場合、多面付け体のエッチング加工とは異なり、エンコーダ用反射型光学式スケールとフレームとを繋ぐブリッジを設ける必要がないため、ブリッジ痕が生じることがない。そのため、部分的な歪みの発生を抑制できる。また、コスト削減や精度向上のために、金属基材の厚さを薄くする必要もない。そのため、金属基材を厚くすることができ、上述したように、うねりや反りを抑制できる。また、多面付け体のエッチング加工と比較して、コスト面で有利である。
【0020】
以下、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールについて、構成毎に説明する。
【0021】
1.エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールのうねりは、30μm以下であり、20μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。上記うねりが上記範囲であることにより、エンコーダ用反射型光学式スケールを備える反射型光学式エンコーダの精度を向上できる。一方、上記うねりは少ないほど好ましく、下限は特に限定されない。
【0022】
なお、本明細書において、エンコーダ用反射型光学式スケールの「うねり」とは、以下のように定義する。まず、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心を中心として所定の半径Rの円を描き、三次元測定機を用いて、上記円の軌跡を円周方向成分をX、高さ方向成分をYとしてデータを取得する。次に、フーリエ変換を行い、2次成分についてのY成分の最大値と最小値との差分を、うねりとする。
【0023】
本開示においては、上記のように「うねり」を定義することにより、うねりを適切に評価できる。この理由について、以下説明する。
【0024】
例えば図3(a)に示すように、エンコーダ用反射型光学式スケールが水平に置かれている場合、三次元測定機により、図3(b)に例示するようなデータが取得される。このデータをフーリエ変換すると、図3(c)に例示するような1次成分および2次成分が得られる。一方、例えば図4(a)に示すように、エンコーダ用反射型光学式スケールが傾いて置かれている場合、三次元測定機により、図4(b)に例示するようなデータが取得される。このデータをフーリエ変換すると、図4(c)に例示するような1次成分および2次成分が得られる。エンコーダ用反射型光学式スケールが水平に置かれている場合と比較して、エンコーダ用反射型光学式スケールが傾いて置かれている場合は、図4(b)におけるY成分の最大値と最小値との差分が大きくなる場合があり、結果として、図4(c)における1次成分についてのY成分の最大値と最小値との差分が大きくなる場合がある。これに対し、エンコーダ用反射型光学式スケールが水平に置かれている場合であっても、エンコーダ用反射型光学式スケールが傾いて置かれている場合であっても、2次成分についてのY成分の最大値と最小値との差分は、同程度になる。よって、2次成分を用いることにより、うねりを測定する際のエンコーダ用反射型光学式スケールを置く状態によらず、うねりを適切に評価できるのである。
【0025】
また、1次成分は、1回転を周期とするため、1次成分についてのY成分の最大値と最小値との差分が比較的大きい場合でも、エンコーダ用反射型光学式スケールを備える反射型光学式エンコーダにおいて、補正が可能である場合がある。これに対し、2次成分は、1/2回転を周期とするため、エンコーダ用反射型光学式スケールを備える反射型光学式エンコーダにおいて、補正が困難である。よって、このことからも、2次成分を用いることにより、うねりを適切に評価できるといえる。
【0026】
また、本明細書において、エンコーダ用反射型光学式スケールの「歪み(ゆがみ)」とは、エンコーダ用反射型光学式スケールの表面における一部分の領域において、エンコーダ用反射型光学式スケールの表面が大きく荒れている状態をいう。また、歪みは、うねりより間隔が小さいものを指す。具体的には、間隔が、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径の1/10以下の値(mm)、または、2.5mmのうち大きいほうの値以下であるものを、歪みとする。
【0027】
ここで、うねりは、以下の方法により求める。まず、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心を中心として半径10.5mmの円を描き、三次元測定機を用いて、上記円の軌跡を円周方向成分をX、高さ方向成分をYとしてデータを取得する。次に、フーリエ変換を行い、2次成分についてのY成分の最大値と最小値との差分を、うねりとする。なお、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径が小さい場合は、上記の半径10.5mmの円を描けない場合がある。そのため、エンコーダ用反射型光学式スケールの半径が10.5mm以下である場合は、上記円の半径を、エンコーダ用反射型光学式スケールの半径に0.875を乗じた値とする。また、エンコーダ用反射型光学式スケールが有孔円盤状であって、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径が大きい場合は、上記の半径10.5mmの円を描けない場合がある。そのため、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径の半径が10.5mm以上である場合は、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心を中心として、エンコーダ用反射型光学式スケールの外周から5mm内側の円を描くこととする。三次元測定機は、例えば、キーエンス社製のワンショット3D形状測定機 VR-6000シリーズが用いられる。測定面は、エンコーダ用反射型光学式スケールの低反射層側の面とする。
【0028】
また、本明細書において、「うねり」および「歪み」は、JIS B0601:2013に規定されている表面性状パラメータとは区別される。JIS B0601:2013には、表面性状パラメータとして、断面曲線から求められる断面曲線パラメータ(Pa、Pzなど)、粗さ曲線から求められる粗さパラメータ(Ra、Rzなど)、および、うねり曲線から求められるうねりパラメータ(Wa、Wzなど)が規定されている。断面曲線、粗さ曲線、および、うねり曲線は、測定断面曲線に輪郭曲線フィルタを適用して得られる曲線である。また、断面曲線パラメータ、粗さパラメータ、および、うねりパラメータは、輪郭曲線における基準長さの部分から求める。そのため、断面曲線パラメータ、粗さパラメータ、および、うねりパラメータは、ミクロな領域での表面性状を表しているといえる。これに対し、本明細書において、「うねり」は、上述したように、フーリエ変換を適用して求められる。また、「うねり」は、上記の方法により求められるのであり、エンコーダ用反射型光学式スケールにおけるマクロな領域での高低差を表しているといえる。したがって、「うねり」は、JIS B0601:2013に規定されている表面性状パラメータとは異なる。
【0029】
エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりの調整方法としては、例えば、後述するように多面付け体を打ち抜き加工する場合、多面付け体を構成する被加工用金属基材のうねりを調整する方法、打ち抜き刃の硬さを調整する方法が挙げられる。
【0030】
被加工用金属基材のうねりが小さいと、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりも少なくなる。具体的には、被加工用金属基材のうねりは、30μm以下であり、20μm以下であってもよく、10μm以下であってもよい。被加工用金属基材のうねりを求める方法は、上記のエンコーダ用反射型光学式スケールのうねりを求める方法と同様である。
【0031】
また、打ち抜き刃の硬さが硬いと、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが少なくなる傾向にある。
【0032】
2.エンコーダ用反射型光学式スケールの形状
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、通常、ロータリーエンコーダ用の光学式スケールとして用いられる。エンコーダ用反射型光学式スケールは円盤状である。エンコーダ用反射型光学式スケールは、例えば、中心孔を有する有孔円盤状であってもよく、中心孔を有していなくてもよい。
【0033】
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールが有孔円盤状である場合、平面視において、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径は、例えば15mm以上であり、20mm以上であってもよい。一方、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径は、例えば70mm以下であり、60mm以下であってもよい。具体的には、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径は、例えば15mm以上、70mm以下であり、20mm以上、60mm以下であってもよい。
【0034】
また、上記の場合、平面視において、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径は、例えば5mm以上20mm以下である。
【0035】
エンコーダ用反射型光学式スケールの外径は、3点座標から求める。具体的には、エンコーダ用反射型光学式スケールの外周上の任意の3点を選択し、3点座標から近似円を求め、近似円の直径を外径とする。
【0036】
また、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径は、3点座標から求める。具体的には、エンコーダ用反射型光学式スケールの内周上の任意の3点を選択し、3点座標から近似円を求め、近似円の直径を内径とする。
【0037】
エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpは、1.33以上が好ましく、1.6以上がより好ましい。上記工程能力指数Cpが上記範囲であれば、内径寸法精度に優れる。そのため、回転軸にエンコーダ用反射型光学式スケールを取り付ける際に、回転軸の中心と、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心とがずれてしまうこと、すなわち偏心を抑制できる。これにより、偏心誤差を低減し、反射型光学式エンコーダの精度を高めることができる。
【0038】
ここで、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpは、標準偏差から、下記式により求められる。
Cp=(U-L)/6σ
=[(A+α)-(A-α)]/6σ
=α/3σ
上記式において、σは標準偏差、Uは上限規格値、Lは下限規格値、Aは基準値、αは上限規格値または下限規格値と基準値との差、すなわち許容値を示す。標準偏差σは、5つのサンプルの内径の測定値から求める。また、許容値αは、0.015とする。これは、許容値αが0.015mmより大きくなると、偏心誤差が多くなり、反射型光学式エンコーダの精度が悪化するためである。
【0039】
また、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法公差は、例えば、0.007mm以下が好ましい。上記内径寸法公差が上記範囲であることにより、回転軸にエンコーダ用反射型光学式スケールを取り付ける際に、回転軸の中心と、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心とがずれてしまうこと、すなわち偏心を抑制できる。これにより、偏心誤差を低減し、反射型光学式エンコーダの精度を高めることができる。
【0040】
ここで、内径寸法公差とは、5つのサンプルの内径の測定値のうち、最大値と最小値との差をいう。5つのサンプルの内径の測定値の求め方は、上述の通りである。
【0041】
エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度の調整方法としては、例えば、後述するように多面付け体を打ち抜き加工する際に、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心孔も打ち抜く場合、打ち抜き型の精度を調整する方法が挙げられる。
【0042】
また、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径寸法精度を示す工程能力指数Cpは、1.33以上が好ましい。上記工程能力指数Cpが上記範囲であると、次の利点がある。一般的に、回転軸にエンコーダ用反射型光学式スケールを取り付ける際には、粘着剤を用いてエンコーダ用反射型光学式スケールを固定する。この際、粘着剤がはみ出すことが多い。そのため、はみ出した粘着剤が這い上がることにより、エンコーダ用反射型光学式スケールの表面が汚染され、エンコーダ精度、つまり読み取り精度が低下するおそれがある。粘着剤による汚染を抑制するためには、エンコーダ用反射型光学式スケールにおいて、低反射層の最外周縁部を内側へ配置すればよい。しかし、その場合は、角度検出精度が確保できないおそれがある。よって、エンコーダ用反射型光学式スケールの表面汚染の抑制と、角度検出精度の確保との両立を図るためには、低反射層の最外周縁部と、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径との間に一定のスペースを有するように、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径寸法精度を示す工程能力指数Cpが1.33以上であることが重要である。
【0043】
ここで、エンコーダ用反射型光学式スケールの外径寸法精度を示す工程能力指数Cpの求め方は、上記のエンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpの求め方と同様である。
【0044】
また、上記外径と上記内径との差、つまり外内径差は、例えば、8mm以上、13mm以下である。外内径差が上記範囲内であれば、打ち抜き加工の際に生じる光学式スケールのうねりや反りを抑制できる。
【0045】
3.金属基材
(1)厚さ
本開示において、金属基材の厚さは、0.3mm以上であり、0.32mm以上が好ましく、0.35mm以上がより好ましい。金属基材の厚さが上記範囲であることにより、うねりや反りを抑制できる。また、金属基材の厚さが上記範囲であれば、エンコーダ用反射型光学式スケールとしての強度が十分となる。一方、金属基材の厚さは、1.1mm以下であり、0.50mm以下が好ましく、0.47mm以下がより好ましく、0.45mm以下がさらに好ましい。金属基材の厚さが上記範囲であれば、多面付け体の打ち抜き加工によりエンコーダ用反射型光学式スケールを製造できる。具体的には、金属基材の厚さは、0.3mm以上、1.1mm以下であり、0.32mm以上、0.50mm以下が好ましく、0.32mm以上、0.47mm以下がより好ましく、0.35mm以上、0.45mm以下がさらに好ましい。なお、金属基材の厚さとは、金属基材の平均厚さをいう。
【0046】
ここで、各部材の「厚さ」とは、一般的な測定方法によって得られる厚さをいう。厚さの測定方法としては、例えば、触針で表面をなぞり凹凸を検出することによって厚さを算出する触針式の方法や、分光反射スペクトルに基づいて厚さを算出する光学式の方法等が挙げられる。具体的には、ケーエルエー・テンコール社製の触針式膜厚計「P-15」を用いて厚さを測定できる。また、厚さは、対象となる部材の複数箇所における厚さの測定値の平均値を採用する。例えば、金属基材の場合、円盤状の金属基材の中心を対称とする2箇所における厚さの測定値の平均値を採用すればよい。
【0047】
(2)形状
本開示における金属基材は、円盤状である。金属基材は、例えば、中心孔を有する有孔円盤状であってもよく、中心孔を有していなくてもよい。
【0048】
金属基材が有孔円盤状である場合、平面視において、金属基材の外径は、例えば15mm以上であり、20mm以上であってもよい。一方、金属基材の外径は、例えば70mm以下であり、60mm以下であってもよい。具体的には、金属基材の外径は、例えば15mm以上、70mm以下であり、20mm以上、60mm以下であってもよい。
【0049】
また、上記の場合、平面視において、金属基材の内径は、例えば5mm以上、20mm以下である。
【0050】
また、上記の場合、上記外径と上記内径との差、つまり外内径差は、例えば、8mm以上、13mm以下である。外内径差が上記範囲内であれば、打ち抜き加工の際に生じる光学式スケールのうねりや反りを抑制できる。
【0051】
(3)反射率
金属基材の第1面の反射率は、例えば50%以上であり、55%以上であってもよく、60%以上であってもよい。一方、金属基材の第1面の反射率は、例えば100%以下である。具体的には、金属基材の第1面の反射率は、例えば50%以上、100%以下であり、55%以上、100%以下であってもよく、60%以上、100%以下であってもよい。上記反射率が上記範囲内であれば、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差が大きくなるため、光検出器による誤検出を防ぎ、信号の検出精度を高めることができる。
【0052】
なお、本明細書において、反射率とは、光学式エンコーダで用いられる検出光に対する反射率である。金属層の第1面において、入射する光の波長が500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかである場合に、入射角が5°以上70°以下の範囲内における反射率が、上記範囲内であることがより好ましい。
【0053】
反射率の測定には、島津製作所社製の紫外可視近赤外分光光度計「SolidSpec 3700DUV」を使用する。照射ビームサイズは、約6mm×15mmである。P偏光、S偏光とも測定を行い、和の平均をとることで、45°直線偏光を計算し、反射率を算出する。
【0054】
(4)ダレ
本開示において、金属基材は第1面側の外周縁にダレを有していてもよい。図2(b)は、図1の点線枠bのB-B線拡大断面図である。図2(b)において、金属基材1は、第1面1a側の外周縁にダレPを有する。金属基材の第1面側の外周縁にダレを有するエンコーダ用反射型光学式スケールは、通常、多面付け体の打ち抜き加工により製造されたものである。そのため、上述したように、ブリッジ痕が生じることがなく、部分的な歪みの発生を抑制できる。また、金属基材を厚くすることができ、うねりや反りを抑制できる。また、コスト面で有利である。
【0055】
また、金属基材が有孔円盤状である場合、第1面側の内周縁にダレを有していてもよい。
【0056】
(5)材料
金属基材の材料としては、上記反射率を満たすものであることが好ましく、例えば、ステンレス(SUS)、銅、アルミニウム等が挙げられる。
【0057】
4.低反射層
本開示における低反射層は、金属基材の第1面側に、金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置される。
【0058】
(1)反射率
低反射層が設けられている領域である低反射領域に入射する光の反射率は、低反射層が設けられていない高反射領域に入射する光の反射率よりも低ければよい。具体的には、低反射領域の反射率は、上記金属基材の第1面の反射率よりも低ければよい。低反射領域において、500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率は、例えば10%以下であり、5%以下であってもよく、1%以下であってもよい。一方、低反射領域の上記反射率は、例えば、0%以上である。具体的には、低反射領域の上記反射率は、例えば0%以上、10%以下であり、0%以上、5%以下であってもよく、0%以上、1%以下であってもよい。上記反射率が上記範囲内であれば、高反射領域での反射率と低反射領域での反射率との差を大きくすることができる。
【0059】
低反射領域において、入射する光の波長が500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかである場合に、入射角が5°以上70°以下の範囲内のいずれかにおける反射率が、上記範囲内であることがより好ましい。
【0060】
(2)層構成
低反射層は、上記反射率を満たしていれば、その構成は特に限定されない。中でも、低反射層は、金属基材側から、金属クロム膜と、金属クロム膜の金属基材とは反対の面に順不同に配置された酸化クロム膜および窒化クロム膜とを有することが好ましい。このような3層構造の低反射層であれば、低反射領域の反射率を上述の範囲となるように下げることができる。また、金属クロムのみを準備すれば、反応性スパッタ等を利用することにより、容易に酸化クロム膜および窒化クロム膜を形成することができる。さらに、上記のような低反射層であれば、酸化ケイ素膜と比較して、高精細のパターニングも容易に行うことができる。
【0061】
本明細書において、「金属クロム膜の金属基材とは反対の面に順不同に配置された酸化クロム膜および窒化クロム膜」とは、金属クロム膜、酸化クロム膜、および窒化クロム膜の順で配置されていてもよく、金属クロム膜、窒化クロム膜、および酸化クロム膜の順で配置されていてもよいことを意味する。
【0062】
例えば図5(a)において、低反射層2は、金属基材1側から、金属クロム膜2cと、窒化クロム膜2bと、酸化クロム膜2aとを有する。一方、図5(b)において、低反射層2は、金属基材1側から、金属クロム膜2cと、酸化クロム膜2aと、窒化クロム膜2bとを有する。
【0063】
低反射層において、金属基材とは反対の最表面に位置する膜は、酸化クロム膜または窒化クロム膜であることが好ましく、酸化クロム膜であることがより好ましい。低反射領域の反射率をより効果的に低減できるからである。
【0064】
以下、「金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置された低反射層」を第一仕様の低反射層、「金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置された低反射層」を第二仕様の低反射層と称する。
【0065】
(a)第一仕様の低反射層
本仕様の低反射層においては、金属基材側から、金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜がこの順に配置されている。本仕様の低反射層を有する低反射領域においては、500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率を5%以下、特に0.5%以下まで下げることができる。また、波長変化に対する反射率変化が緩やかであり、反射率の制御が容易となる。
【0066】
(i)金属クロム膜
本仕様において、金属クロム膜は金属基材の第1面に配置される。金属クロム膜は、金属クロムからなる層である。金属クロム膜は、実質的に光源から照射された光を透過しない層であり、透過率が0.0%以上1.0%以下であることが好ましい。透過率は、島津製作所社製の分光光度計「MPC-3100」を用いて測定する。金属クロム膜の厚さは、例えば40nm以上が好ましく、70nm以上がより好ましい。
【0067】
金属クロム膜の形成方法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着法(PVD)が用いられる。
【0068】
(ii)窒化クロム膜
本仕様における窒化クロム膜は、金属クロム膜と酸化クロム膜との間に配置される。窒化クロム膜は、酸化窒化クロムや酸化窒化炭化クロム等とは異なり、その主成分がクロムおよび窒素であり、クロムおよび窒素以外の不純物を実質的に含有しない。
【0069】
窒化クロム(CrNx)膜において、CrとNとの原子比率を表すxは、0.4以上1.1以下であることが好ましい。
【0070】
また、窒化クロム膜に含まれる全元素の割合を100原子%としたとき、クロムおよび窒素の割合は、80原子%以上100原子%以下が好ましく、90原子%以上100原子%以下がより好ましい。窒化クロム膜には、不純物として、例えば、水素、酸素、炭素等が含まれていてもよい。
【0071】
窒化クロム膜の厚さ(T)は、例えば5nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上80nm以下がより好ましい。また、後述する酸化クロム膜の厚さ(T)との関係において、波長が850nmの場合には、TとTとの合計が40nm以上であることが好ましい。また、波長が550nmの場合には、TとTとの合計が20nm以上であることが好ましい。このような厚さであれば、厚さが上記範囲外である場合に比べ、低反射領域の反射率を所望の範囲になるように容易に低くすることができる。さらには、窒化クロム膜の厚さは、10nm以上80nm以下が好ましい。緑色から赤外領域全域における反射率、すなわち500nm以上1000nm以下程度における反射率を低減することが容易となる。
【0072】
窒化クロムの形成方法としては、例えば反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着法(PVD)が用いられる。反応性スパッタ法の利用に際しては、アルゴン(Ar)ガス中に窒素を導入し、Crターゲットを用いた反応性スパッタリング法にて窒化クロム膜を成膜できる。この際、窒化クロム膜の組成の制御は、Arガス、窒素ガスの割合を制御することにより行うことができる。
【0073】
(iii)酸化クロム膜
本仕様における酸化クロム膜は、窒化クロム膜の金属クロム膜とは反対の面に配置される。酸化クロム膜は、その主成分がクロムおよび酸素であり、酸化窒化クロムや酸化窒化炭化クロム等とは異なり、クロムおよび酸素以外の不純物を実質的に含有しない。
【0074】
酸化クロム(CrOy)膜において、CrとOとの原子比率を表すyは、1.4以上2.1以下であることが好ましい。
【0075】
具体的には、酸化クロム膜に含まれる全元素の割合を100原子%としたとき、クロムおよび酸素の割合は、80原子%以上100原子%以下が好ましく、90原子%以上100原子%以下がより好ましい。酸化クロム膜には、不純物として、例えば、水素、窒素、炭素等が含まれていてもよい。
【0076】
酸化クロム膜の厚さは、特に限定されず、例えば5nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上80nm以下がより好ましい。また、酸化クロムの厚さと窒化クロム膜の厚さとの合計については、上述した通りである。さらには、酸化クロム膜の厚さは、10nm以上65nm以下が好ましい。緑色から赤外領域全域における反射率、すなわち500nm以上1000nm以下程度における反射率を低減することが容易となる。
【0077】
酸化クロムの形成方法としては、例えば反応性スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法等の物理蒸着法(PVD)が用いられる。反応性スパッタ法の利用に際しては、アルゴン(Ar)ガス中に酸素を導入し、Crターゲットを用いた反応性スパッタリング法にて酸化クロム膜を成膜できる。この際、酸化クロム膜の組成の制御は、Arガス、酸素ガスの割合を制御することにより行うことができる。
【0078】
(b)第二仕様の低反射層
本仕様の低反射層においては、金属基材側から、金属クロム膜、酸化クロム膜、窒化クロム膜がこの順に配置されている。本仕様の低反射層を有する低反射領域においては、500nm以上1000nm以下の範囲内のいずれかの波長における反射率を5%以下、特に1%以下まで下げることができる。
【0079】
(i)金属クロム膜
本仕様における金属クロム膜については、上記の第一仕様の低反射層における金属クロム膜と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0080】
(ii)酸化クロム膜
本仕様における酸化クロム膜は、金属クロム膜と窒化クロム膜との間に配置される。
【0081】
酸化クロム膜の厚さは、特に限定されず、例えば5nm以上60nm以下が好ましく、10nm以上50nm以下がより好ましい。また、後述するように、酸化クロム膜の厚さと窒化クロム膜の厚さとの合計が所定の範囲であることが好ましい。さらには、酸化クロム膜の厚さは、緑色から赤外領域全域における反射率、すなわち500nm以上1000nm以下程度における反射率を低減することが容易となるため、5nm以上35nm以下が好ましい。
【0082】
酸化クロム膜の物性、組成および形成方法については、上記の第一仕様の低反射層における酸化クロム膜と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0083】
(iii)窒化クロム膜
本仕様における窒化クロム膜は、酸化クロム膜の金属クロム膜とは反対の面に配置されている。
【0084】
窒化クロム膜(T)の厚さは、特に限定されず、例えば5nm以上100nm以下が好ましく、10nm以上80nm以下がより好ましい。さらに、酸化クロム膜の厚さ(T)との関係において、波長が850nmの場合には、TとTとの合計が30nm以上であることが好ましく、波長が550nmの場合には、TとTとの合計が15nm以上であることが好ましい。さらには、窒化クロム膜の厚さは、10nm以上60nm以下が好ましい。緑色から赤外領域全域における反射率、すなわち500nm以上1000nm以下程度における反射率を低減することが容易となる。
【0085】
窒化クロム膜の形成方法については、上記の第一仕様の低反射層における窒化クロム膜と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0086】
(3)形成方法
低反射層の形成方法は特に限定されないが、選択エッチングやリフトオフによって低反射層を形成できる。
【0087】
選択エッチングの場合、例えば、まず、金属基材の第1面に、スパッタ法等により金属クロム膜を形成し、その後、窒化クロム膜および酸化クロム膜を形成する。次に、フォトリソグラフィおよびエッチングによって、金属クロム膜、窒化クロム膜および酸化クロム膜をパターニングする。
【0088】
また、リフトオフ法の場合、例えば、まず、金属基材の第1面にレジストパターンを形成し、スパッタリング法等の公知の真空製膜法を用いて、金属クロム膜、窒化クロム膜および酸化クロム膜を形成する。その後、レジストパターンを除去することで、レジストパターン直上に形成された金属クロム膜、窒化クロム膜、酸化クロム膜をリフトオフし、金属クロム膜、窒化クロム膜および酸化クロム膜のパターンを得る。
【0089】
(4)配置
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、金属基材の外周面から500μm内側までの領域に、低反射層を有さないことが好ましい。これにより、低反射層の剥がれやヒビを抑制できる。
【0090】
具体的には、金属基材の外周面と、低反射層の外周面との距離は、500μm以上が好ましく、550μm以上がより好ましく、600μm以上がさらに好ましい。上記距離が上記範囲であれば、低反射層の剥がれやヒビを容易に抑制できる。一方、上記距離は、例えば、1500μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、900μm以下がさらに好ましい。上記距離が上記範囲であれば、エンコーダ用反射型光学式スケールのサイズの拡大を抑制ができる。具体的には、上記距離は、例えば500μm以上、1500μm以下が好ましく、550μm以上、1000μm以下がより好ましく、600μm以上、900μm以下がさらに好ましい。
【0091】
5.他の層構成
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、上記の金属基材および低反射層以外に、他の層を有していてもよい。例えば、本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールは、金属基材と低反射層との間に保護層を有していてもよい。
【0092】
保護層は、透明性を有し、また、金属基材を保護する機能を有することが好ましい。保護層を設けることにより、低反射層をパターン状に形成する際のエッチング時に、金属基材の表面が荒れて表面粗さが大きくなるおそれがない。そのため、光の乱反射を抑制できる。保護層は、平面視において、金属基材の全域に設けられていてもよいし、一部領域に設けられていてもよい。
【0093】
保護層の材料としては、透明性を有し、金属基材を保護できる材料であれば特に限定されず、有機材料、無機材料のいずれであってもよい。
【0094】
有機材料は、樹脂を含むことが好ましい。保護層に用いられる樹脂としては、透明性を有する保護層を得ることができる樹脂であれば特に限定されず、例えば、紫外線や電子線等の電離放射線の照射により硬化する電離放射線硬化性樹脂、加熱により硬化する熱硬化性樹脂が挙げられる。具体的には、ノボラック系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂が好ましい。ノボラック系樹脂は、中でもフェノールノボラック樹脂が好ましい。電気特性に優れ、帯電による不具合を抑制することができるためである。アクリル系樹脂は、中でもペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールテトラアクリレート等の三官能以上のアクリレートが好ましい。光硬化性を高めることができるためである。エポキシ系樹脂は、フルオレン構造を有するエポキシアクリレート樹脂が好ましい。耐熱性、密着性、耐薬品性が向上するためである。エポキシ系樹脂は、カルドエポキシ樹脂も好ましい。優れた透明性、耐熱性、表面硬度、平坦性を付与できるためである。有機材料には、樹脂の他に、重合開始剤や各種添加剤等が含まれていてもよい。
【0095】
無機材料としては、無機化合物が挙げられる。無機化合物としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、カルシウム、カリウム、スズ、ナトリウム、チタン、ホウ素、イットリウム、ジルコニウム、セリウム、亜鉛等の金属元素または非金属元素の酸化物、酸化窒化物、窒化物、酸化炭化物、酸化炭化窒化物等が挙げられる。特に、二酸化ケイ素(SiO)が好ましい。無機化合物は、単独で用いてもよいし、上述の材料を任意の割合で混合して用いてもよい。
【0096】
6.エンコーダ用反射型光学式スケールの製造方法
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケールの製造方法は、第1面、および上記第1面に対向する第2面を有し、厚さが0.3mm以上、1.1mm以下である被加工用金属基材と、上記被加工用金属基材の上記第1面側に多面付けされた、円周状に配置されたパターン状の低反射層と、を有し、各々の上記低反射層の外周面よりも外側にエンコーダ用反射型光学式スケールの外周打ち抜き予定線を有し、うねりが30μm以下である多面付け体を作製する多面付け体作製工程と、上記多面付け体を上記外周打ち抜き予定線で打ち抜いて個片化することにより、エンコーダ用反射型光学式スケールを得る個片化工程と、を有することが好ましい。
【0097】
図7は、本開示における多面付け体の一例を示す概略上面図である。多面付け体50は、厚さが所定の範囲である被加工用金属基材51と、被加工用金属基材51の第1面側に多面付けされた、円周状に配置されたパターン状の低反射層2と、を有する。多面付け体50は、各々の低反射層2の外周面よりも外側にエンコーダ用反射型光学式スケールの外周打ち抜き予定線Lが配置されている。個片化工程において、外周打ち抜き予定線Lで打ち抜いて個片化することにより、エンコーダ用反射型光学式スケールが得られる。
【0098】
(1)多面付け体作製工程
本工程においては、第1面、および上記第1面に対向する第2面を有し、厚さが0.3mm以上、1.1mm以下である被加工用金属基材と、上記被加工用金属基材の上記第1面側に多面付けされた、円周状に配置されたパターン状の低反射層と、を有し、各々の上記低反射層の外周面よりも外側にエンコーダ用反射型光学式スケールの外周打ち抜き予定線を有し、うねりが30μm以下である多面付け体を作製する。
【0099】
多面付け体のうねりは、上記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりと同様である。
【0100】
被加工用金属基材の厚さは、上記金属基材の厚さと同様である。また、被加工用金属基材の第1面の反射率は、上記金属基材の第1面の反射率と同様である。被加工用金属基材の平面視における大きさは、パターン状の低反射層が多面付け可能な大きさであれば、特に限定されない。
【0101】
被加工用金属基材の第1面側に、パターン状の低反射層を多面付けする方法としては、上記低反射層の形成方法と同様である。
【0102】
例えば図7に示すように、多面付け体50においては、各々の低反射層2の外周面よりも外側にエンコーダ用反射型光学式スケールの外周打ち抜き予定線Lが配置されている。エンコーダ用反射型光学式スケールの外周打ち抜き予定線Lと、低反射層2の外周面との距離D1は、例えば500μm以上が好ましく、550μm以上がより好ましく、600μm以上が特に好ましい。上記距離D1が上記範囲であれば、打ち抜き加工時の低反射層の剥がれやヒビを抑制できる。一方、上記距離D1は、例えば1500μm以下が好ましく、1000μm以下がより好ましく、900μm以下がさらに好ましい。上記距離D1が上記範囲であれば、エンコーダ用反射型光学式スケールのサイズの拡大を抑制できる。具体的には、上記距離D1は、例えば500μm以上、1500μm以下が好ましく、550μm以上、1000μm以下がより好ましく、600μm以上、900μm以下がさらに好ましい。
【0103】
なお、有孔円盤状のエンコーダ用反射型光学式スケールを製造するための多面付け体には、エンコーダ用反射型光学式スケールの中心孔を打ち抜くための内周打ち抜き予定線が配置されていてもよい。
【0104】
(2)個片化工程
本工程においては、上記多面付け体を、上記外周打ち抜き予定線で打ち抜いて個片化することにより、エンコーダ用反射型光学式スケールを得る。
【0105】
図8(a)および図8(b)は、個片化工程で用いる打ち抜き加工装置の一例を示す概略図である。まず、図8(a)に示すように、下刃61を有する下ステージ62上に、多面付け体50を載置する。次いで、図8(b)に示すように、下ステージ62を上方向に、上刃64を有する上ステージ63を下方向に動かし、押し込むことによって、多面付け体50を打ち抜きく。この際、図示しないが、多面付け体50の外周打ち抜き予定線および内周打ち抜き予定線に、上刃64の位置を合わせる。また、上刃64に対向する位置に、押さえ部材65が配置されていることが好ましい。打ち抜き加工時に上刃64と押さえ部材65とにより被加工用金属基材を挟み込み、バリ、ダレの少ない打ち抜き加工を行うことができる。このようにして、個々のエンコーダ用反射型光学式スケール10が得られる。
【0106】
本工程において、クリアランスの幅は、例えば0.020mm以下が好ましく、0.017mm以下がより好ましく、0.015mm以下がさらに好ましい。クリアランスの幅が上記範囲であれば、打ち抜き加工時の低反射層の剥がれやヒビを抑制できる。一方、クリアランスの幅は、例えば0.003mm以上が好ましく、0.004mm以上がより好ましく、0.006mm以上がさらに好ましい。クリアランスの幅が上記範囲であることにより、打ち抜き加工装置の刃への負担を低減できる。具体的には、クリアランスの幅は、例えば0.003mm以上、0.020mm以下が好ましく、0.004mm以上、0.017mm以下がより好ましく、0.006mm以上、0.015mm以下がさらに好ましい。なお、クリアランスの幅とは、図8(b)に示すような、上刃64の端面と下刃61の端面との幅方向の距離Cをいう。
【0107】
B.反射型光学式エンコーダ
本開示における反射型光学式エンコーダは、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールと、上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、を備える。
【0108】
図6は、本開示における反射型光学式エンコーダの一例を示す概略斜視図である。反射型光学式エンコーダ100は、エンコーダ用反射型光学式スケール10と、光源21と、光検出器22とを備える。図6においては、固定スリット23が光検出器22とエンコーダ用反射型光学式スケール10との間に配置されている。
【0109】
本開示によれば、上述のエンコーダ用反射型光学式スケールを備えるため、反射型光学式エンコーダの精度を向上できる。
【0110】
以下、本開示における反射型光学式エンコーダについて、構成毎に説明する。
【0111】
1.エンコーダ用反射型光学式スケール
エンコーダ用反射型光学式スケールは、上述した「A.エンコーダ用反射型光学式スケール」に記載したものと同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0112】
2.光源
光源としては、例えばLED(発光ダイオード)やレーザーが挙げられる。光源から照射される光の波長λは、例えば、緑色から赤外領域、すなわち500nm以上1000nm以下程度である。光学式スケールに対する光の入射角度は、例えば、5°以上70°以下である。
【0113】
3.光検出器
光検出器は、光学式スケールで反射された光を検出する。光検出器は、例えば、フォトダイオードや撮像素子等の受光素子を備える。受光素子としては、例えば、光電変換素子が挙げられる。
【0114】
4.その他
本開示における反射型光学式エンコーダは、光検出器とエンコーダ用反射型光学式スケールとの間に固定スリットを備えていてもよい。固定スリットを設けることで、光検出器が受光する光量の変化が大きくなり、検出感度を向上できる。固定スリットは、光源とエンコーダ用反射型光学式スケールとの間に設けてもよい。
【0115】
C.エンコーダ用反射型光学式スケール多面付け体
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール多面付け体は、第1面、および上記第1面に対向する第2面を有し、厚さが0.3mm以上、1.1mm以下である被加工用金属基材と、上記被加工用金属基材の上記第1面側に多面付けされた、円周状に配置されたパターン状の低反射層と、を有し、各々の上記低反射層の外周面よりも外側にエンコーダ用反射型光学式スケールの外周打ち抜き予定線を有し、うねりが30μm以下である。
【0116】
本開示におけるエンコーダ用反射型光学式スケール多面付け体は、上記「A.エンコーダ用反射型光学式スケール 6.エンコーダ用反射型光学式スケールの製造方法」に記載した内容と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0117】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例0118】
以下、実施例および比較例を示し、本開示をさらに説明する。
【0119】
[実施例1]
まず、鏡面加工が施された厚さ0.37mmのSUS基板を準備した。次いで、SUS基板の鏡面加工が施された面に、カルドエポキシ樹脂を含む保護層用樹脂組成物を塗布し、硬化させることによって、保護層を形成した。次に、金属クロム層、窒化クロム層および酸化クロム層を保護層側からこの順に有する低反射層をパターン状に形成した。これにより、多面付け体を得た。
【0120】
次に、上記多面付け体を、外径が100mmから250mm程度になるように粗切りした。次に、光学アライメントマークを用いて位置合わせを行い、外周打ち抜き予定線および内周打ち抜き予定線で、粗切り後のワークに打ち抜き加工を施した。これにより、エンコーダ用反射型光学式スケールを得た。外径の設計値は24mm、内径の設計値は15mmとした。
【0121】
[実施例2]
内径の設計値を6mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。
【0122】
[実施例3]
SUS基板の厚さを0.30mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。
【0123】
[実施例4]
SUS基板の厚さを1.10mmとしたこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。
【0124】
[比較例1]
多面付け体に打ち抜き加工に替えてエッチング加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。
【0125】
[比較例2]
SUS基板の厚さを0.20mmとしたこと、および、多面付け体に打ち抜き加工に替えてエッチング加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。
【0126】
[比較例3]
SUS基板の厚さを1.20mmとしたこと、および、多面付け体に打ち抜き加工に替えてエッチング加工を施したこと以外は、実施例1と同様にして、エンコーダ用反射型光学式スケールを作製した。
【0127】
[評価]
(1)エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり
上記の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール 1.エンコーダ用反射型光学式スケールのうねり」に記載の方法により、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりを測定した。
【0128】
(2)エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cp
上記の「A.エンコーダ用反射型光学式スケール 2.エンコーダ用反射型光学式スケールの形状」に記載の方法により、エンコーダ用反射型光学式スケールの内径寸法精度を示す工程能力指数Cpを求めた。
【0129】
(3)ブリッジ痕
エンコーダ用反射型光学式スケールのブリッジ痕の有無を目視で観察した。
【0130】
(4)エンコーダ精度
エンコーダ用反射型光学式スケールを用いて、反射型光学式エンコーダを作製した。反射型光学式エンコーダについて、エンコーダ出力波形の周期、パルス幅、パルス間位相差を測定し、設計値と比較して、誤差およびバラつきの程度を確認した。下記に評価基準を示す。
A:精度は十分であった。
B:精度がやや不足していた。
C:精度が不足していた。
【0131】
【表1】
【0132】
表1より、金属基材の厚さが所定の範囲内であり、エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが所定の範囲である場合は、エンコーダ精度が良いことが確認された。
【0133】
すなわち、本開示においては、以下の発明を提供できる。
[1]
第1面、および上記第1面に対向する第2面を有する、円盤状の金属基材と、
上記金属基材の上記第1面側に、上記金属基材の円周方向に沿ってパターン状に配置された低反射層と、
を有する、エンコーダ用反射型光学式スケールであって、
上記金属基材の厚さが、0.3mm以上、1.1mm以下であり、
上記エンコーダ用反射型光学式スケールのうねりが、30μm以下である、エンコーダ用反射型光学式スケール。
[2]
中心孔を有する有孔円盤状である、[1]に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[3]
内径寸法精度を示す工程能力指数Cpが、1.33以上である、[2]に記載のエンコーダ用反射型光学式スケール。
[4]
[1]から[3]までのいずれかに記載のエンコーダ用反射型光学式スケールと、
上記エンコーダ用反射型光学式スケールの上記低反射層が配置された側の表面に、測定光を照射する光源と、
上記エンコーダ用反射型光学式スケールからの反射光を検出する光検出器と、
を備える、反射型光学式エンコーダ。
【符号の説明】
【0134】
1 … 金属基材
2 … 低反射層
10… エンコーダ用反射型光学式スケール
50… エンコーダ用反射型光学式スケール多面付け体
100… 反射型光学式エンコーダ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8