(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178495
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】フッ素吸着剤、浄化体の製造方法、及び汚染地下水の拡散抑制方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20241218BHJP
B01J 20/30 20060101ALI20241218BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20241218BHJP
【FI】
B01J20/12 C
B01J20/30
C02F1/28 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096644
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】根岸 昌範
(72)【発明者】
【氏名】海野 円
(72)【発明者】
【氏名】中平 淳
【テーマコード(参考)】
4D624
4G066
【Fターム(参考)】
4D624AA04
4D624AB11
4D624BA06
4D624BB01
4D624BC01
4G066AA16A
4G066AA16B
4G066AA20A
4G066AA20B
4G066AA63B
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA26
4G066CA32
4G066DA08
4G066FA03
4G066FA37
(57)【要約】
【課題】特に吸着開始直後のフッ素溶出量を低減可能なフッ素吸着剤を提供する。
【解決手段】吸着剤10は、層状複水酸化物成分により構成される第1吸着剤11と、第1吸着剤11に由来するフッ素を吸着する第2吸着剤12とを含む。第2吸着剤12は、赤玉土を含む。第2吸着剤12は、赤玉土である。第1吸着剤11及び第2吸着剤12の合計100質量部において、第2吸着剤12の含有量は50質量部以上80量部以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
層状複水酸化物成分により構成される第1吸着剤と、前記第1吸着剤に由来するフッ素を吸着する第2吸着剤とを含む
ことを特徴とするフッ素吸着剤。
【請求項2】
前記第2吸着剤は、赤玉土を含む
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ素吸着剤。
【請求項3】
前記第2吸着剤は粉状を呈する
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ素吸着剤。
【請求項4】
前記第1吸着剤及び前記第2吸着剤の合計100質量部において、前記第2吸着剤の含有量は50質量部以上80量部以下である
ことを特徴とする請求項1に記載のフッ素吸着剤。
【請求項5】
フッ素吸着剤と、基材とを混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合物を用いて、処理対象物中のフッ素の吸着により前記処理対象物を浄化する浄化体を製造する製造工程とを含み、
前記フッ素吸着剤は、層状複水酸化物成分により構成される第1吸着剤と、前記第1吸着剤に由来するフッ素を吸着する第2吸着剤とを含む
ことを特徴とする浄化体の製造方法。
【請求項6】
フッ素吸着剤と基材とを含んで構成される透水性の地下水浄化体によって遮蔽される領域から前記領域外に、フッ素を含む汚染地下水が拡散することを抑制する汚染地下水の拡散抑制方法であって、
前記フッ素吸着剤は、層状複水酸化物成分により構成される第1吸着剤と、前記第1吸着剤に由来するフッ素を吸着する第2吸着剤とを含む
ことを特徴とする汚染地下水の拡散抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、フッ素吸着剤、浄化体の製造方法、及び汚染地下水の拡散抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素で汚染された地下水(汚染地下水)を揚水して水処理設備を使用し、工場排水として処理する場合には排水基準が適用される。フッ素濃度の排水基準は8mg/L以下である。フッ素濃度を8mg/L以下にする場合、例えば水酸化カルシウム、硫酸アルミニウム等の薬剤を排水に多段で変化することで、達成できる。
【0003】
一方で、幾つかの理由により、上記排水基準よりも厳しい基準値が設置され得る。具体的には例えば、地下水の浄化体(透過性の地下水浄化壁、地下水浄化杭等)により揚水せずに地中で吸着除去する場合、揚水後の排水処理でも条例等による上乗せがある場合、地域協定等が存在する場合、地下水環境基準値又は水質環境基準値である0.8mg/L以下の処理性能が要求され得る。0.8mg/L以下に低減する場合、例えば、層状複水酸化物(合成又は天然のハイドロタルサイト等)等を使用できる。
【0004】
特許文献1には「酸化マグネシウムと塩化アルミニウムを原料とし、原料中の結晶水を除いた固形分の質量の和を1としたときに、水の質量と原料中の結晶水の質量の和が1以下になるように調整した水を加えて混合した後に、養生することで、微細なハイドロタルサイトを含む優れた吸着性能を有する吸着剤を得る。また、鉄粉、磁鉄鉱粉末を混合して、磁性を有する粒状の吸着剤を得る。」ことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
フッ素の電気陰性度は極めて大きいため、フッ素は他元素との間で容易に反応する。このため、陰イオン交換作用を有する層状複水酸化物には、天然の層状複水酸化物の生成過程、合成の層状複水酸化物の製造過程の何れにおいても、フッ化物イオン等の形態を有するフッ素が容易に取り込まれ易い。このため、特許文献1に記載のフッ素吸着剤によるフッ素吸着を行う場合、フッ素吸着剤に通水を開始した直後(吸着開始直後)に、層状複水酸化物由来のフッ素が溶出し得る。この結果、特に吸着開始直後のフッ素溶出量が環境基準を超える可能性があり、吸着剤を用いた水処理性能に未達成期間が生じ得る。
本開示が解決しようとする課題は、特に吸着開始直後のフッ素溶出量を低減可能なフッ素吸着剤、浄化体の製造方法、及び、汚染地下水の拡散抑制方法の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のフッ素吸着剤は、層状複水酸化物成分により構成される第1吸着剤と、前記第1吸着剤に由来するフッ素を吸着する第2吸着剤とを含む。その他の解決手段は発明を実施するための形態において後記する。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、特に吸着開始直後のフッ素溶出量を低減可能なフッ素吸着剤、浄化体の製造方法、及び、汚染地下水の拡散抑制方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】従来のフッ素吸着剤を使用したカラム試験の結果を示すグラフである。
【
図3】本開示のフッ素吸着剤を使用した地下水浄化体の設置形態を説明する図である。
【
図4】本開示のフッ素吸着剤を使用した地下水浄化体の地中での設置形態を説明する図である。
【
図5】別の実施形態に係る地下水浄化体の地中での設置形態を説明する図である。
【
図6】本開示の地下水浄化体の製造方法を示すフローチャートである。
【
図7】第1層状複水酸化物と赤玉土とを併用した場合の、赤玉土の配合比率毎のフッ素溶出量を示すグラフである。
【
図8】第2層状複水酸化物と赤玉土とを併用した場合の、赤玉土の配合比率毎のフッ素溶出量を示すグラフである。
【
図9】第1層状複水酸化物と鹿沼土とを併用した場合の、赤玉土の配合比率毎のフッ素溶出量を示すグラフである。
【
図10】建屋での粉塵濃度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本開示を実施するための形態(実施形態と称する)を説明する。以下の一の実施形態の説明の中で、適宜、一の実施形態に適用可能な別の実施形態の説明も行う。本開示は以下の一の実施形態に限られず、異なる実施形態同士を組み合わせたり、本開示の効果を著しく損なわない範囲で任意に変形したりできる。また、同じ部材については同じ符号を付すものとし、重複する説明は省略する。更に、同じ機能を有するものは同じ名称を付すものとする。図示の内容は、あくまで模式的なものであり、図示の都合上、本開示の効果を著しく損なわない範囲で実際の構成から変更したり、図面間で一部の部材の図示を省略したり変形したりすることがある。また、同じ実施形態で、必ずしも全ての構成を備える必要はない。
【0011】
図1は、本開示のフッ素吸着剤(以下、単に「吸着剤10」という)の模式図である。
図1において第1吸着剤11及び第2吸着剤12の大きさは便宜的な大きさであり、第1吸着剤11と第2吸着剤12との相対的な大きさは
図1の例に限定されない。吸着剤10は、第1吸着剤11と、第2吸着剤12とを含む。第1吸着剤11は、層状複水酸化物成分により構成される。第2吸着剤12は、第1吸着剤11に由来するフッ素を吸着するものである。吸着剤10は、第1吸着剤11及び第2吸着剤12以外の成分を含んでもよい。
【0012】
第1吸着剤11を構成する層状複水酸化物成分には、層状複水酸化物成分の製造工程で排除しきれない水溶性のフッ素が含まれている。ここでいうフッ素は、通常はフッ化物イオン(F-。フッ化物イオン)であり、特に地下水中でフッ素は、フッ化物イオンとして存在する。ただし、フッ素は、フッ素単体、フッ素化合物等でもよい。以下、特に断らない限り、単に「フッ素」の記載は、フッ化物イオン、フッ素単体、フッ素化合物等に意味を含む。
【0013】
図2は、従来のフッ素吸着剤(比較例)を使用したカラム試験の結果を示すグラフである。まず、
図2の結果を取得した試験の方法を説明する。当該試験においては、直径4cm×長さ30cmの円筒形ガラスカラムに、層状複水酸化物(ハイドロタルサイト)により構成されるフッ素吸着剤と砂(透水性の基材(母材))との混合物を充填した。従って、上記特許文献1に記載の吸着剤(浄化体)が使用され、第2吸着剤12(
図1)は使用されない。
【0014】
このカラムの下端から上端に向けて、フッ素濃度(フッ化物イオン濃度)1.5mg/L濃度の水溶液を通水し、カラム出口(上端)におけるフッ素濃度(フッ素溶出量)を経時的に測定した。この結果が
図2である。
図2において、縦軸はカラム出口におけるフッ素濃度(mg/L)、縦軸は間隙置換回数(PV=Pore Volume)である。間隙置換回数は、カラム内に充填された吸着剤の間隙体積が入れ替わった回数を表し、累積通水量を間隙体積で除して得られる値である。横の数値が大きいほど、通水が進行したことを意味する。
【0015】
地下水におけるフッ素濃度の環境基準値は、上記のように0.8mg/Lである。従って、カラム出口におけるフッ素濃度も0.8mg/L以下にすることが好ましい。しかしながら、
図2に示すように、試験開始(PV=0)からPV=3程度迄の初期段階において、フッ素濃度の低下が不十分であり、この初期段階では、フッ素濃度が0.8mg/Lを超える。これは、カラムへの通水開始に伴い、層状複水酸化物の内部に存在していたフッ素がフッ化物イオンの形態で溶出したため、初期段階で瞬間的にフッ素濃度が高くなったことに起因すると考えられる。
【0016】
本発明者は、参考として、既製品の合成層状複水酸化物ト及びその焼成物(何れも第2吸着剤12(
図1)を含まない)に対して、フッ素溶出量を測定した。測定は、土壌汚染対策法の環告18号準拠の溶出量試験に基づいて行った。この結果を以下の表1に示す。
【0017】
【0018】
試料4及び5について、層状複水酸化物Aと層状複水酸化物A’とは、製造ロットが異なること以外は同じ銘柄(種類)である。表1に示すように、フッ素溶出量にはばらつきがあり、殆ど溶出しない試料も存在する(試料No.1、3、4)。一方で、溶出量が環境基準値を大きく超える試料も存在する(試料No.2)。ただし、例えば試料No.2では、大きなフッ素溶出量は、フッ化物イオンの溶出量を管理する観点での製造管理がなされた事例が無いため、製造ロットでのばらつきに基づく可能性もある。例えば、試料No.4及び5を比較すると、ロット間の違いにより、2倍の差が生じる。いずれにしても、上記
図2を参照して説明した初期段階でのフッ化物イオン濃度の増大に影響する可能性があり、このようなバラつきは無視できない現象である。
【0019】
図2に示すように、ある程度の通水が進行し(即ち間隙置換回数が増え)、層状複水酸化物中のフッ素がある程度溶出しきると、排水中のフッ素濃度は環境基準以下になる。本試験を行ったカラムの内容席程度の大きさであれば、フッ素濃度が環境基準値以下になる迄の時間はさほど長くない。しかし、地下における地下水の流動は緩慢であるため、初期段階である一定期間(例えば数か月等)にわたって、
図2の傾向と同様に、フッ化物イオン濃度が環境基準値を超える可能性がある。即ち、吸着性能を発揮できない期間が生じ得る。
【0020】
そこで、本開示の吸着剤10では、層状複水酸化物成分により構成される第1吸着剤11に加えて、更に、第1吸着剤11に由来するフッ素を吸着する第2吸着剤12とを含む。第2吸着剤12を含むことで、通水時に発生する第1吸着剤11由来のフッ素を第2吸着剤12が吸着でき、排水中のフッ素濃度の過度の上昇を抑制できる。これにより、特に吸着開始直後のフッ素溶出量を低減できる。
【0021】
図1に戻って、第1吸着剤11を構成する層状複水酸化物成分は、層状複水酸化物成分は、層状複水酸化物そのものでもよく、層状複水酸化物から誘導される成分(層状複水酸化物由来の成分)の何れでもよい。層状複水酸化物は、天然鉱物としてはハイドロタルサイトに代表される粘土鉱物である。層状複水酸化物は、一般式[M
2+
(1-x)M
3+
x(OH)
2]
x+[A
n-
x/n・yH
2O]
x-で表される。M
2+は、2価の陽イオン、M
3+は、3価の陽イオン、Aは、n価の陰イオン、xは0より大きく1未満の数、yは、0以上の実数である。2価の陽イオンとしては、例えば、Mg、Fe、Cu、Ni、Ca等が挙げられる。3価の陽イオンとしては、Al、Fe、Cr、Co等が挙げられる。
【0022】
層状複水酸化物では、2価の陽イオンにOHが6配位した8面体が形成されており、層状複水酸化物は、当該8面体が平面配列した水酸化物層の一部が3価の陽イオンに置換した構造を有する。そして、置換した3価の陽イオン量に応じた正電荷を相殺(中和)するように層間に陰イオンが存在している。この陰イオンは交換可能であり、各種の陰イオン(CO3
2-、Cl-、SO4
2-、F-等)が存在し得る。また、層間のみならず、水酸化物層の端面でも陰イオンを吸着し得る。
【0023】
層状複水酸化物としては、Mg-Al系複水酸化物を含むことが好ましい。Mg-Al系複水酸化物には、2価の陽イオンとしてMgが、3価の陽イオンとしてAlが含まれる。Mg-Al系複水酸化物を含むことで、フッ化物イオン等の陰イオンを特に吸着し易くできる。
【0024】
層状複水酸化物成分は、層状複水酸化物の焼成物を含むことが好ましい。焼成により層間に存在し得る炭酸イオン(CO3
2-)を除去できるため、焼成物を使用することで、層間への炭酸イオンの存在を抑制した層状複水酸化物を使用できる。炭酸イオンは、フッ化物イオン等の他の陰イオンとの交換性が低い。このため、炭酸イオンの存在を抑制した層状複水酸化物を使用することで、フッ化物イオンの吸着を促進できる。
【0025】
ただし、焼成によって、上記表1の試料No.1、4及び5に示すように、フッ素溶出量が増える傾向にある。この理由は、必ずしも明らかではないし、以下の理由に限定されるものでもないが、本発明者の検討によれば、以下の理由と考えられる。
【0026】
まず、フッ素は、塩素等と同様にハロゲンであるため、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム等中の塩素と置換するように、層状複水酸化物に含まれている。また、特に湿式合成による層状複水酸化物の製造時、原料(例えば水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等)を溶解し、炭酸塩共存下で、pHをアルカリ性にすることで固形物(白色沈澱)が得られる。この固形物は、未焼成のMg-Al層状腹水酸化物であり、層間に存在するイオンは炭酸イオンが主で、一部フッ化物イオンである。
【0027】
これらのイオンは層間に固定されているため、通水時にもフッ素の溶出量は少ない。しかし、例えば500℃以上等の条件で焼成すると、炭酸イオン等はガス化等によって除去されるが、フッ化物イオンはガス化せずに残存し、一部はフッ化マグネシウム等の水溶性の形態に変化する。そして、水溶性の形態に変化したフッ素は、層状複水酸化物に残存し、通水時に容易に層状複水酸化物から溶出する。このため、焼成した層状複水酸化物は、焼成していない(未焼成の)層状複水酸化物と比べて、フッ素溶出量が増大する。
【0028】
しかし、上記のように、本開示の吸着剤10によれば、吸着開始直後のフッ素溶出量を低減できる。このため、焼成による陰イオンとの交換性向上に伴って生じる、フッ素溶出量の増大を、効果的に抑制できる。
【0029】
焼成条件は特に制限されないが、例えば400℃以上800℃以下で焼成できる。また、焼成時間は、例えば1時間以上12時間以下にできる。
【0030】
第1吸着剤11のBET比表面積は、例えば50m2/g以上、好ましくは100m2/g以上、上限に関して例えば250m2/g以下、好ましくは200m2/g以下である。
【0031】
第1吸着剤11の形状は例えば粉状(粒子状)であることが好ましい。第1吸着剤11の粒径は、例えば0.1μm以上、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、上限に関して例えば50μm以下、好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下である。粒径は、例えば、レーザ回折式粒度分布測定装置を用いた平均粒径D50として測定できる。
【0032】
第2吸着剤12は、陰イオン交換によりフッ素を吸着する吸着剤を含むことが好ましい。ここでいうフッ素は、通常はフッ化物イオンであるあるが、上記フッ素単体又はフッ素化合物から生じたフッ化物イオンが陰イオン交換により吸着されてもよい。このような吸着剤を使用することで、陰イオン交換作用を利用して、フッ化物イオンを吸着し易くできる。
【0033】
第2吸着剤12は、火山灰質粘性土(火山灰質土壌)を含むことが好ましい。火山灰質粘性土を使用することで、陰イオン交換によりフッ素を吸着できる。また、火山灰質粘性土は多孔質であり、詳細は後記するが、砂利、砂等の透水性基材と混合したときに微粉を吸着できる。これにより、混合及びその後と取り扱い時に粉塵の発生(発塵)を抑制できる。この結果、施工現場での地下水浄化体1の製造時におけるフッ素吸着剤のハンドリングを向上できる。
【0034】
火山灰質粘性土は、赤玉土又は鹿沼土のうちの少なくとも一方を含むことが好ましい。中でも、第2吸着剤12は、火山灰質粘性土として、赤玉土を含むことが好ましい。
【0035】
赤玉土は、例えば、関東ローム層の赤土を乾燥したものを粉砕分級した園芸用資材である。天然の土壌系資材であり、赤玉土と接触させた水は弱酸性(例えばpHが4.5~6.5)を有する。ここで、例えば地下水中でフッ素がAl(OH)3F-等のように複雑な形態でイオン化している場合がある。このような形態のフッ素は、赤玉土の付近でのpHが弱酸性になる影響で、例えば例えば[Al(OH)3]nFのような形態に変化する。この結果、フッ素を共沈でき、フッ素の吸着性能を向上できる。
【0036】
また、赤玉土は、アロフェンと呼ばれる粘土鉱物及び土壌腐植を含有するので、pH緩衝作用も有する。赤玉土は、シリカ(Si)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)及び炭素(C)を豊富に含む土壌である。また、赤玉土は、採取地域、製造ロット等に寄らず、ある程度同程度の含水率(例えば15質量%~30質量%)を有する。従って、赤玉土を使用することで発塵を抑制し易くできる。なお、同様の理由により、含水率が同程度の例えば鹿沼土等であっても発塵を抑制できる。
【0037】
粉状(粒子状)の赤玉土は、例えば、以下の手順で製造できる。まず、例えば関東ローム層等の採掘箇所から赤玉土が掘削され、掘削された赤玉土は工場に運搬される。次いで、赤玉土は、例えば屋根付きの屋外で天日乾燥された後、破砕及び分級され、最後に粒径毎に袋詰めされる。袋詰めされた赤玉土は、例えば園芸用資材として一般に販売され得る。一方で、分級時に例えば最も小さい目開きの篩を通過した粉状の赤玉土は、余剰になった粉体であり、園芸用資材としては販売用途に使用できない。そこで、このような赤玉土を、第2吸着剤12として好ましく使用できる。
【0038】
第2吸着剤12の大きさは、例えば目開き1cm以下、好ましくは目開き5mm以下、より好ましくは2mm以下、の各篩を通過する第2吸着剤12が好ましい。下限に関しては特に制限されないが、例えば10μm以上である。
【0039】
第2吸着剤12のBET比表面積は、例えば50m2/g以上、好ましくは100m2/g以上、上限に関して例えば300m2/g以下、好ましくは250m2/g以下である。
【0040】
第1吸着剤11及び第2吸着剤12の相対的な使用量として、第1吸着剤11及び第2吸着剤12との合計100質量部において、第2吸着剤12の含有量は50質量部以上80量部以下であることが好ましい。第2吸着剤12の含有量を50質量部以上にすることで、第2吸着剤12の添加によるフッ素吸着効果を十分に発揮できる。一方で、第2吸着剤12の含有量を80質量部以下にすることで、第2吸着剤12の使用による発塵抑制効果を高めることができる。
【0041】
第2吸着剤12は、粉状を呈することが好ましい。粉状の第2吸着剤12は大きな比表面積を有するため、フッ素の吸着能力及び粉塵の吸着能力を高め、フッ素の溶出量増大及び発塵を特に抑制できる。
【0042】
ただし、第2吸着剤12は粉状である必要はないが、第2吸着剤12の粒径は、比較的小さいことが好ましい。特に、粒径が例えばメジャー等を用いた測定値で1cm以下であれば、発塵抑制効果を特に効果的に発揮できる。粒径が例えば実測値で1cm以下の第2吸着剤12は、例えば、採取現場から採取した大型の第2吸着剤12を粉砕することで製造できる。
【0043】
また、第2吸着剤12は、吸着剤10の使用時に粉状等に成型してもよい。例えば、施工現場において、例えば鋼製の水槽等に透水性基材(主に砕石等)を敷いたところに、袋詰めした吸着剤10(予混合物)を開梱して敷き詰め、バックホウ等の重機で例えば10分~30分程度混合すればよい。この混合により、混合前の第2吸着剤12の大きさが例えば1cmを超えていても、例えばバケットによる押し付け、透水性基材との摩擦等に起因して、第2吸着剤12を例えば1cm以下(好ましくは粉状)に成型でき得る。
【0044】
図3は、本開示の吸着剤10を使用した地下水浄化体1の使用形態を説明する図である。
図1の例では、地下水浄化体1は、例えば透水性を有し、壁状を有する地下水浄化壁である。ただし、地下水浄化体1は、杭状を有する地下水浄化杭でもよい。水中のフッ素吸着により水を浄化する浄化体は、地下水浄化体1及び地下水浄化杭に限られない。また、吸着剤10(
図1)は、地下水に含まれる通常はフッ化物イオンを吸着する。ただし、本開示のフッ素吸着剤は、フッ素(単体)、フッ素化合物等のフッ素を吸着してもよい。
【0045】
図3においては、フッ化物イオンの発生源となる汚染源2が工場の敷地S内の地中に存在する。汚染源2から発生した、又は、汚染源2の付近を通過することで汚染された汚染地下水3は、地中を流れる。地下水浄化体1は、汚染地下水3の流れを妨げるように、汚染地下水3の流れの方向に対して例えば直角かつ例えば壁状に設置される。
図3では、地下水浄化体1は、任意の2か所を汚染源2に向けて所定角度屈曲させることで、地下水浄化体1a,1b,1cを備える。矩形板状の地下水浄化体1aの両端に、同じく矩形板状の地下水浄化体1b,1cが接続される。一対の地下水浄化体1b,1cは、地下水浄化体1b,1cの表面に接触した汚染地下水3を当該表面に沿って地下水浄化体1aに流すように、汚染源2に向けて屈曲する。
【0046】
地下水浄化体1aは、吸着剤10(
図1)を含み、かつ、透水性を有して構成される。地下水浄化体1aが具体的にどのような形態で吸着剤10を含むのかは後記する。一方で、地下水浄化体1b,1cは、鋼矢板遮水壁あるいはソイルセメント地中連続壁等の遮水性を持つ構造物により構成される。これにより、汚染地下水3を効率良く地下水浄化体1aに導くことができる。また、地下水浄化体1の全体に吸着剤10を使用する場合と比較して、吸着剤10の使用量を削減できる。
【0047】
地下水浄化体1aに流れてきた汚染地下水3は、地下水浄化体1aの通過するときに吸着剤10によって含まれるフッ素が吸着除去され、浄化地下水4として、汚染源2とは反対側に流出する。
【0048】
図4は、本開示の吸着剤10(
図1)を使用した地下水浄化体1の地中での設置形態を説明する図である。地下水浄化体1aの設置は、吸着剤10を含んで構成される柱状体又は壁状体を地中に設置することで実行できる。なお、地下水浄化体1aの設置は、地下水浄化体1b,1cを接続した状態で実行してもよい。設置の具体的方法は特に制限されず、地中に浄化体を設置可能な任意の方法を採用できる。
【0049】
柱状体の態様を採用する場合は、柱状体1dを複数用い、互いに当接させて列状配置するように設けることが好ましい。これにより、地下水浄化体1に導かれる汚染地下水3のほぼ全てを吸着剤10と接触でき、より高度に浄化できる。
【0050】
柱状体1dは、通常は例えば透水性基材を含む。柱状体1dは、例えば、吸着剤10と透水性基材とを混合した混合物を例えば柱状に成型することで製造できる。透水性基材としては、例えば、砂、砂利、砕石、礫等の地盤材料、活性炭等の植物材料、多孔質コンクリート等の人工構造物等が挙げられる。透水性基材を含むことで、汚染地下水3の通水性を向上でき、地下水浄化体1によるフッ化物イオンの吸着効率を向上できる。また、地下水浄化体1における目詰まりを抑制でき、吸着性能を長期間に亘って維持できる。
【0051】
図5は、別の実施形態に係る地下水浄化体1の地中での設置形態を説明する図である。複数の柱状体1dは、間欠的に列状配置してもよい。これにより、吸着剤10の使用量を削減でき、設置コストを削減できる。
図5に示す設置形態は、汚染地下水3中のフッ化物イオン濃度が比較的低い場合に採用されることが好ましい。また、隣接する柱状体1dの間隔は、汚染地下水3の浄化を十分に成し得る間隔(密度)であることが好ましい。
【0052】
なお、地下水浄化体1は、上記
図4及び
図5に示す例に限定されない。例えば、地下水浄化体1の構成は、屈曲させないストレートな壁状に設けることもできる。また、側部の地下水浄化体1b,1cは鋼矢板ではなく、中央部の地下水浄化体1aと同様に、吸着剤10を用いた柱状体1d又は壁状体で形成してもよい。
【0053】
上記
図3~
図5から示す地下水浄化体1によれば、汚染地下水3の拡散を抑制できる。即ち、本開示の汚染地下水3の拡散抑制方法は、透水性の地下水浄化体1によって遮蔽される領域A1から、領域A1外である領域A2に、フッ素を含む汚染地下水3が拡散することを抑制する方法である。透水性の地下水浄化体1は、上記のように、吸着剤10と、例えば透水性基材等の基材とを含んで構成される。このような方法によれば、領域A2には、吸着剤10の作用によって浄化地下水4が流出するため、汚染地下水3の領域A2への拡散を抑制できる。
【0054】
図6は、本開示の地下水浄化体1の製造方法(以下、本開示の製造方法という)を示すフローチャートである。以下、汚染地下水3(
図3。処理対象物の一例)中のフッ素の吸着により汚染地下水3を浄化する地下水浄化体1(
図3)を例示して、本開示の製造方法が説明される。地下水浄化体1は、地下水を浄化する浄化体である。
【0055】
ただし、本開示の製造方法は、処理対象物中のフッ素の吸着により処理対象物を浄化する浄化体を製造する方法であればよく、処理対象物は汚染地下水3に限定されず、浄化体は地下水浄化体1に限定されない。従って、処理対象物は、例えば汚染地下水3以外の水、水以外の液体、固体等でもよい。浄化体は、例えば、地下水以外の水を浄化する浄化体、地上に設置される浄化体等でもよい。浄化体へのフッ素吸着は、例えば、フッ素を含む処理対象物の、浄化体への接触により実行できる。ここでいう接触は、例えばフッ素を含む液体の浄化体内部への通液、フッ素を含む固体と浄化体との物理的な接触等をいう。フッ素を含む固体と浄化体との物理的な接触では、当該接触させた状態で固体及び浄化体に例えば連続的に通液させることで、フッ素を当該固体から浄化体に流出させて、浄化体にフッ素を吸着させてもよい。
【0056】
本開示の製造方法は、混合工程S1と、製造工程S2とを含む。混合工程S1は、吸着剤10(
図1)と透水性基材(基材の一例)とを混合して混合物を得る工程である。吸着剤10は、上記
図1等を参照して説明したとおりである。透水性基材は、上記
図4等を参照して説明したとおりである。
【0057】
混合工程S1では、吸着剤10として、第1吸着剤11と第2吸着剤12とが予め混合された予混合物が使用されることが好ましい。このように、予め混合された混合物(予混合物)を使用することで、開放系において例えばバックホウ等の重機による混合により、吸着剤10と透水性基材との混合物を製造できる。なお、「開放系」は、例えば、屋外、蓋を備えない混合装置の内部、内部が外気と連通する混合装置の内部等をいう。
【0058】
例えば金属鉄粉のように比重が大きい粉体と、砕石、砂等の透水性基材との混合により吸着剤10を製造する場合、開放型の大型槽内でバックホウ等の重機で撹拌混合しながら適宜散水する程度で、発塵を抑制しながら柱状体1d(
図4。浄化体の一例)を製造できる。一方で、第1吸着剤11のように、層状複水酸化物の例えば焼成物のように比重が軽い微粉材料を使用する場合には、発塵抑制の観点から別の方法が使用される。具体的には、例えば、一旦小型の密閉ミキサ内で水と層状複水酸化物とを混合してスラリーを得て、そのスラリーに対して、改めて透水性基材が混合される、所謂「2段階製造」を利用できる。
【0059】
しかし、本開示のように、例えば吸着剤10の工場出荷時に、予め第1吸着剤11と第2吸着剤12とを混合した予混合物(事前混合物)を予め一定量毎にパッキング(例えばフレキシブルコンテナパックに収容)し、予混合物を吸着剤10として使用することで、開放系で重機により吸着剤10と透水性基材とを混合しても、粉塵を抑制しながら、地下水浄化体1に使用される材料を製造できる。
【0060】
そして、このような吸着剤10の予混合物を使用することで、吸着剤10と基材との混合時に粉塵抑制効果が得られる。従って、混合工程S1は、開放系で行われることができる。開放系で行うことで、周囲への粉塵飛散抑制のための大がかりな設備が不要であるため、設備構成の簡略化、及び、吸着剤10を使用する際の使用場所等の自由度を向上できる。
【0061】
粉塵抑制効果が生じる理由は、必ずしも明らかではなく、以下の理由に限定されるものでもないが、本発明者の検討によれば、例えば以下の理由と推察される。
【0062】
例えば赤玉土、鹿沼土等の火山灰質粘性土の粒子は比表面積が大きい。このため、塵は、多孔質の火山灰質粘性土の表面に吸着されためと考えられる。更には、赤玉土、鹿沼土等の含水率は、ある程度同程度の含水率(例えば15質量部~30質量部)を有する。水分は細孔の内部に侵入しており、このような範囲の含水率を有するにもかかわらず、火山灰質粘性土の実際の見た目としてサラサラな状態を示す。従って、水分が余るようなことは無く、適度な濡れ状態になっており、これにより、発塵抑制効果が更に向上されると考えられる。
【0063】
製造工程S2は、混合工程S1で得られた混合物を用いて地下水浄化体1(
図3。浄化体の一例)を製造する工程である。具体的には例えば、当該混合物が柱状体1d(
図4等)に成型され、柱状体1dが地中に設置されることで、地下水浄化体1を地中で製造できる。
【実施例0064】
更に具体例を挙げて、本開示が説明される。
【0065】
<材料>
第1吸着剤11(
図1)として、以下の表2に示す物性を有するMg-Al系の2種の層状複水酸化物を使用した。第1層状複水酸化物及び第2層状複水酸化物は、いずれもMg-Al系複水酸化物であり、いずれも、焼成物である。Mg塩は、含まれるマグネシウム塩の種類、平均粒径は、レーザ回折式粒度分布測定装置による測定値である。溶出量は、後記土壌溶出量試験に基づいて測定されたフッ素溶出量である。
【0066】
【0067】
第2吸着剤12(
図1)として、栃木県産の赤玉土を火山灰質粘性土として使用した。赤玉土は、赤玉土の体積の10倍の水に懸濁して当該水のpHが5.8になるものを使用した。また、使用した赤玉土は、目開き2mmの篩を通過する赤玉土であった。前記の赤玉土について、更に細かい目開きを有する複数の篩を用い、各篩の通過量を計算し、各篩の目開きの大きさと通過量とから、使用した赤玉土の平均粒径を求めた。この結果、平均粒径は350μmであった。火山灰質粘性土は、篩い分けの際に発生する余剰の粉体(園芸用赤玉土使用時の余剰粉体。目開き2mmの篩を通過した粉体)を、第1層状複水酸化物と予混合して吸着剤10(
図1)を得た。混合比率は、第1吸着剤11及び第2吸着剤12との合計100質量部において、第2吸着剤12の含有量は50質量部、60質量部、70質量部、80量部、及び90質量部の合計5種とした。
【0068】
以上の操作を、第1吸着剤11として、第1層状複水酸化物を使用した場合と、第2層状複水酸化物を使用した場合とで、それぞれ行った。従って、全部で10種の吸着剤10を製造した。
【0069】
<試験1(第1層状複水酸化物を使用した吸着性能評価)>
まず、第1層状複水酸化物を使用して作成した5種の吸着剤10について、土壌溶出量試験(環境省告示18号)に準拠し、質量比で吸着剤10の10倍量の蒸留水を添加し、フッ素の溶出量を測定した。この結果を
図7に示す。
【0070】
図7は、第1層状複水酸化物と赤玉土とを併用した場合の、赤玉土の配合比率毎のフッ素溶出量を示すグラフ(実施例)である。各棒グラフの上に記載した数値はフッ素溶出量であり、この点は、後記
図8及び
図9において同様である。
図7には、比較例として、赤玉土を含まない第1層状複水酸化物のみを使用したときの溶出量(上記表2の値)を示す棒グラフが併記される。この点は、後記
図9において同様である。縦軸において、0.6mg/Lは、赤玉土を含まない第1層状複水酸化物のみを使用したときの溶出量である。また、0.8mg/Lは上記環境基準値であり、この点は、後記
図8及び
図9において同様である。
【0071】
赤玉土を含まない第1層状複水酸化物のみの場合(比較例)には、フッ素溶出量(0.6mg/L)は、環境基準値(0.8mg/L)を僅かに下回る程度であって、環境基準値に対してほとんど余裕がない状態であった。一方で、赤玉土を50質量部で混合すると、溶出量は0.16mg/Lに迄低下した。この値は、比較例であるフッ素溶出量(0.6mg/L)から70%以上低減できた値である。また、赤玉土の使用量の増加に伴い、溶出量も増加した。特に、赤玉土を70質量部以上使用することで、比較例を基準として95%以上も溶出量を低減できた。
【0072】
この結果から、第1吸着剤11及び第2吸着剤12との合計100質量部において、第2吸着剤12の含有量は50質量部以上にすることで、フッ素吸着効果を十分に発揮できることがわかった。
【0073】
<試験2(第2層状複水酸化物を使用した吸着性能評価)>
第1層状複水酸化物に代えて第2層状複水酸化物を使用したこと以外は上記試験1と同様にして、フッ素溶出量を測定した。この結果を
図8に示す。
【0074】
図8は、第2層状複水酸化物と赤玉土とを併用した場合の、赤玉土の配合比率毎のフッ素溶出量を示すグラフである。
図8には、比較例として、赤玉土を含まない第2層状複水酸化物のみを使用したときの溶出量(上記表2の値)を示す棒グラフが併記される。縦軸において、0.2mg/Lは、赤玉土を含まない第2層状複水酸化物のみを使用した比較例の溶出量である。
【0075】
上記第1層状複水酸化物のみを使用した場合とは異なり、赤玉土を含まない第2層状複水酸化物のみの場合でも、環境基準値を大きく下回っていた。そして、第2層状複水酸化物に対して赤玉土を加えると、溶出量は略0にまで低減できた。特に、赤玉土の使用量が60質量部以上90質量部以下のときに、溶出量を90%以下に迄低減できた。
【0076】
このように、本試験では、第2層状複水酸化物の使用により、赤玉土を使用せずに十分に環境基準値を下回った。しかし、上記のように、フッ素の溶出量は製造ロット等によってばらつきが生じ得る。このため、別ロットで環境基準値に近づく又は上回ることがあっても、赤玉土によって超えることを特に抑制できる。
【0077】
<試験3(鹿沼土を使用した吸着性能評価)>
赤玉土に代えて鹿沼土(上記赤玉土と同様に測定した値として平均粒径510μm)を使用したこと以外は上記試験1と同様にして、フッ素の溶出量を測定した。この結果を
図9に示す。
【0078】
図9は、第1層状複水酸化物と鹿沼土とを併用した場合の、赤玉土の配合比率毎のフッ素溶出量を示すグラフである。鹿沼土を用いた場合においても、赤玉土(
図7)と同様にフッ素溶出量を低減できた。特に、鹿沼土の使用量を80質量部以上にすることで、溶出量をほぼ0mg/Lに迄低減できた。
【0079】
以上の
図7~
図9の試験結果から、赤玉土、鹿沼土等の火山灰質粘性土を50質量部以上の割合で層状複水酸化物を併用することで、フッ素溶出量を低減できることが確認できた。
【0080】
<試験4(発塵抑制評価)>
発塵抑制評価は、現行の施工現場での作業状況を模擬して、発塵状況を評価することを目的とした。上記<材料>に記載の第2層複水酸化物及び赤玉土を使用して、発塵抑制評価を行った。試験は、工場での建屋内で以下に記す4ケースの試験を実施した。
【0081】
Case0:バックグラウンド測定
試験開始前の建屋内の粉塵濃度を、デジタル粉塵計(LD-3K2;柴田科学社製)を使用して測定した。デジタル粉塵計は地表から1mの高さに固定して使用した。測定は、1分おきに測定開始から10分間行った。
【0082】
Case1:既存材料での現場作業を模擬したケース(比較例)
赤玉土を使用せず、第2層状複水酸化物のみを使用する場合、第2層状複水酸化物は、現場搬入後に砂等の母材と混合される。そこで、珪砂4号(透水性基材)と、第2層状複腹水酸化物と、を容量70Lのミキサ内で撹拌混合した。質量混合比は珪砂95%に対して第2層状腹水酸化物を5%とした。この時点で既にミキサ内に粉塵が発生していたが、改めて大型の角型バット上に材料を排出し、全体質量の3%を目安に散水したのち、手作業で撹拌しながら粉塵濃度を測定した。
【0083】
Case2:質量比50:50で第2層状複水酸化物と赤玉土とを併用(実施例)
質量比50:50で第2層状複水酸化物と赤玉土とを併用し、別の場所にある工場でこれらを予め混合した(予混合)。従って、Case2では、第1吸着剤11及び第2吸着剤12の相対的な使用量として、第1吸着剤11及び第2吸着剤12との合計100質量部において、第2吸着剤12の含有量は50質量部である。予混合物は袋詰めされ、施工現場(混合場所)で開封された。そして、そして、第2層状複水酸化物のみに代えて、予混合物を用いたこと以外はCase1と同様にして粉塵濃度を測定した。従って、ミキサにおいて、珪砂4号と当該予混合物とが混合された。
【0084】
Case3:質量比50:50に代えて質量比20:80に代えたこと以外はCase2と同様にして粉塵濃度を測定した。従って、Case3では、第1吸着剤11及び第2吸着剤12の相対的な使用量として、第1吸着剤11及び第2吸着剤12との合計100質量部において、第2吸着剤12の含有量は80質量部である。
【0085】
図10は、建屋での粉塵濃度の経時変化を示すグラフである。太い実線はCase2(実施例)、細い実線はCase3(実施例)、破線はCase1(比較例)、一点鎖線はCase0(バックグラウンド)である。横軸は経過時間、縦軸は1分間当たりの粉塵のカウント数(CPM;Counts per minute)の対数値である。赤玉土を使用したCase2及び3では、粉塵濃度は、Case1のピーク時である4分後の粉塵濃度(6000cpm)から大きく低減された200cpm未満で推移した。従って、第2吸着剤12を使用することで、粉塵濃度が最大で97%も低減された。中でも、Case3に示すように、第2吸着剤12の含有量を80量部以下にすることで、発塵抑制効果を高められることが確認できた。
【0086】
層状複水酸化物の中には、上記のように、例えば湿式合成(原料溶液を混合し、結晶析出したものを乾燥及び粉砕)により製造される層状複水酸化物が存在する。このような方法で製造された層状複水酸化物の一次粒子は微細(100nmオーダー)であり、造粒により得られた製品粒子も数μm等と細かい。しかも、かさ比重が小さい。このため、地下水浄化体等の浄化体の施工に際して、例えば原料混合時に発塵(粉塵発生)が顕著な傾向がある。
【0087】
例えば、鉄粉等の比重の大きい材料の使用時には、少量の散水で重機混合時の発塵抑制は可能である。しかし、層状複水酸化物のような比重の小さな材料の使用時には発塵抑制が困難である。このため、例えば層状複水酸化物を少量ずつスラリー状にしてから透水性基材等の混合する等、施工現場での特別な対応が行われていた。
【0088】
しかし、本開示の吸着剤10を使用することで、例えば第2吸着剤12に起因して、例えば混合時の発塵を抑制できる。これにより、施工現場において、地下水浄化体等の浄化体の製造時に、製造に使用される材料の取り扱い性を改善できる。
【0089】
また、発塵を抑制できるため、例えば、第1吸着剤11及び第2吸着剤12との混合物(予混合物。事前混合物。)を一定量ごとにパッキング(フレキシブルコンテナパック等の袋を使用)しておくことで、開放系で重機混合により浄化体の材料を製造できる。また、混合比率が異なる袋を用意しておけば、施工現場毎に必要な混合比率の袋を選べばよいため、吸着剤10毎の第1吸着剤11と第2吸着剤12との混合作業を省略できる。
【0090】
また、珪砂等の基材と、吸着剤10(
図1)との混合の均一化及び時間短縮を期待できる。即ち、一般的に重機混合では、ある程度の量があった方が、均一混合に要する時間を短縮できる。このため、例えば、層状複水酸化物を質量ベースで2%の割合で母材に混合する場合(例えば上記Case2)、当該割合と等量の赤玉土等(第2吸着剤12)を更に使用すれば、基材に対して質量ベースで合計4%になり、混合対象となる全体の量が使用しない場合よりも多くなる。このため、重機を用いた混合が行い易くなり、混合の均一化及び時間短縮を図ることができる。
【0091】
特に、この効果は、第2吸着剤12の使用量が多いほど顕著であり、例えば上記Case3の場合には、吸着剤10の使用量が、基材に対して質量ベースで合計10%になり、混合の更なる均一化及び時間短縮を図ることができる。