(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178510
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】デオキシニバレノールおよびアセチル化デオキシニバレノールに対する抗体
(51)【国際特許分類】
C07K 16/14 20060101AFI20241218BHJP
G01N 33/569 20060101ALI20241218BHJP
C12N 15/13 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C07K16/14 ZNA
G01N33/569 A
C12N15/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096677
(22)【出願日】2023-06-13
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和4年度農林水産省「安全な農畜水産物安定供給のための包括的レギュラトリーサイエンス研究推進委託事業のうち課題解決型プロジェクト研究(国産農産物中のかび毒及びかび毒類縁体の動態解明並びに汚染の防止及び低減に関する研究)」産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(74)【代理人】
【識別番号】100137512
【弁理士】
【氏名又は名称】奥原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100149294
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 直人
(72)【発明者】
【氏名】三宅 司郎
(72)【発明者】
【氏名】小林 直樹
【テーマコード(参考)】
4H045
【Fターム(参考)】
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA09
4H045CA40
4H045DA76
4H045EA50
4H045FA74
(57)【要約】 (修正有)
【課題】フザリウム属菌が小麦、大麦などの麦類やトウモロコシなどの穀類に感染し、生産する、トリコテセン系の毒素であるデオキシニバレノール、および/またはアセチル化デオキシニバレノールに特異的に結合するモノクローナル抗体を提供する。
【解決手段】特定のCDRアミノ酸配列を有する、デオキシニバレノールおよび/またはアセチル化デオキシニバレノールに、特異的に結合する抗体、またはその抗原結合断片を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(A-1)または(A-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片;
(A-1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(A-2)配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号8で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号9で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号10で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
【請求項2】
下記(a)または(b)のいずれかを満たすことを特徴とする請求項1に記載の抗体またはその抗原結合断片;
(a)配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(b)配列番号13で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号14で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する。
【請求項3】
CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(B-1)または(B-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片;
(B-1)配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号20で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B-2)配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
【請求項4】
下記(a)または(b)のいずれかを満たすことを特徴とする請求項3に記載の抗体またはその抗原結合断片;
(a)配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(b)配列番号27で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号28で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する。
【請求項5】
CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(C-1)または(C-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片。
(C-1)配列番号29で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号30で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(C-2)配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号39で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号40で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
【請求項6】
下記(a)または(b)のいずれかを満たすことを特徴とする請求項5に記載の抗体またはその抗原結合断片;
(a)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(b)配列番号41で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号42で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する。
【請求項7】
Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖抗体、scFv、scFv二量体またはdsFvであることを特徴とする請求項1、請求項3または請求項5のいずれか1項に記載の抗原結合断片。
【請求項8】
トリコテセン系カビ毒を検出するためのキットであって、請求項1、請求項3または請求項5のいずれか1項に記載の抗体または抗原結合断片を含む、前記キット。
【請求項9】
3-アセチルデオキシニバレノール(3-Ac-DON)と結合する抗体であって、請求項1または請求項2に記載の抗体と3-Ac-DONとの結合を競合阻害する抗体またはその抗原結合断片。
【請求項10】
デオキシニバレノール(DON)および15-アセチルデオキシニバレノール(15-Ac-DON)と結合する抗体であって、請求項3に記載の抗体とDONおよび15-Ac-DONとの結合を競合阻害する抗体またはその抗原結合断片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デオキシニバレノールおよびアセチル化デオキシニバレノールに対するモノクローナル抗体に関する。
【背景技術】
【0002】
フザリウム・グラミネアラム(Fusarium graminearumt)などのフザリウム属菌は、小麦、大麦などの麦類やトウモロコシなどの穀類に感染し、防除が困難な赤カビ病を引き起こす。さらに、これらの赤カビ病菌は、デオキシニバレノール(deoxynivalenol;DON)などのトリコテセン系の毒素を生産する場合があるため、赤カビ病菌に汚染された穀物を摂取したヒトや家畜に、下痢、嘔吐、消化管等への障害などの中毒症状を引き起こし、症状が慢性化すると体重減少などの健康被害をもたらすことが知られている。そのため、生産現場において、赤カビ病菌の迅速な検出が求められている。
【0003】
DONなどのトリコテセン系毒素の検出には、HPLC法、GC/MS法、LC/MS法などが用いられているが、これらの方法は、短時間で多くのサンプルを処理するにはあまり適していない。そのため、ELISAなどの免疫学的定量法により、多くのサンプルを効率的に測定することが望ましい。現在、DON を対象としたイムノアッセイキットは市販されており、規格基準等が定められている。DONに対する抗体は、そのアセチル化体に対する抗体を含めて多くの報告が存在する。これまでに、例えば、DON、3-アセチルデオキシニバレノール(3-acetyldeoxynivalenol;3-Ac-DON)および15-アセチルデオキシニバレノール(15-acetyldeoxynivalenol;15-Ac-DON)を認識するポリクローナル抗体(非特許文献1)、DON、3-Ac-DONの他いくつかのトリコテセン系毒素を認識するモノクローナル抗体(非特許文献2)、DON、3-Ac-DONを認識するモノクローナル抗体(非特許文献3)などに関する報告がある。
【0004】
現在のところDONについては抗体を用いた検出キット等が販売されてはいるものの、反応特異性および反応親和性等の点において、より改善された抗DON抗体が依然として求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Usleberら, J. Agric. Food Chem. 39:2091-2095 1991.
【非特許文献2】Abouziedら, J. Food Prot. 54:288-290 1991.
【非特許文献3】Maragosら, Food Agric. Immunol. 12:191-192 2000.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記事情に鑑み、本発明は、DONおよび/またはアセチル化DONに特異的に結合する抗体の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、DONの免疫測定法の開発に必要な抗体の作製に取り組んだ。DONは、タンパク質と結合させるための OH基を複数もつ。下記のトリコテセン誘導体の構造式において、DONは、3位のR
1、7位のR
4、15位のR
3が-OHで、4位のR
2が-Hである。
【化1】
そのため、DONに免疫原性を付与するためのキャリアタンパク質を導入しようとすると、上記OH基にランダムに結合してしまい、元の立体構造を維持したままキャリアタンパク質を結合させることが難しいと考えられていた。
このような事情を考慮し、本発明者らは、DONまたは3-Ac-DONの15位のみに選択的にキャリアタンパク質を結合させ、これを抗原としてモノクローナル抗体を作製し、当該抗体の重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列、ならびに6つのCDRのアミノ酸配列を明らかにした。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)~(10)である。
(1)CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(A-1)または(A-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片;
(A-1)配列番号1で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号2で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号3で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号4で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号5で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号6で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(A-2)配列番号7で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号8で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号9で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号10で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号11で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号12で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
(2)下記(a)または(b)のいずれかを満たすことを特徴とする上記(1)に記載の抗体またはその抗原結合断片;
(a)配列番号13で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号14で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(b)配列番号13で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号14で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する。
(3)CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(B-1)または(B-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片;
(B-1)配列番号15で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号16で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号17で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号18で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号20で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(B-2)配列番号21で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号22で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号23で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号24で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号25で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号26で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
(4)下記(a)または(b)のいずれかを満たすことを特徴とする上記(3)に記載の抗体またはその抗原結合断片;
(a)配列番号27で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号28で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(b)配列番号27で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号28で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する。
(5)CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(C-1)または(C-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体またはその抗原結合断片。
(C-1)配列番号29で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号30で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号33で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号34で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する、
(C-2)配列番号35で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1、
配列番号36で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2、
配列番号37で表されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3、
配列番号38で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1、
配列番号39で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2、および
配列番号40で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3を有する。
(6)下記(a)または(b)のいずれかを満たすことを特徴とする上記(5)に記載の抗体またはその抗原結合断片;
(a)配列番号41で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号42で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する、
(b)配列番号41で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域、および配列番号42で表されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域を有する。
(7)Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv、一本鎖抗体、scFv、scFv二量体またはdsFvであることを特徴とする上記(1)、(3)または(5)のいずれかに記載の抗原結合断片。
(8)トリコテセン系カビ毒を検出するためのキットであって、上記(1)、(3)または(5)のいずれかに記載の抗体または抗原結合断片を含む、前記キット。
(9)3-アセチルデオキシニバレノール(3-Ac-DON)と結合する抗体であって、上記(1)または(2)に記載の抗体と3-Ac-DONとの結合を競合阻害する抗体またはその抗原結合断片。
(10)デオキシニバレノール(DON)および15-アセチルデオキシニバレノール(15-Ac-DON)と結合する抗体であって、上記(3)に記載の抗体とDONおよび15-Ac-DONとの結合を競合阻害する抗体またはその抗原結合断片。
なお、本明細書において「~」の符号は、その左右の値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、トリコテセン系カビ毒であるDONおよびそのアセチル化体に対して、定量的かつ特異的に結合するモノクローナル抗体が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】抗DON 抗体(MoAb)であるMDN8とMDN31のDONと15-Ac-DONに対する反応特性の検討。縦軸はDONおよび15-Ac-DONを含まずに反応させたODに対するサンプルのODの比率を示し、横軸は反応ウェルに添加したDONまたは15-Ac-DONの濃度を示す。
【
図2】抗3-Ac-DON 抗体(MoAb)のM3ADN27とM3ADN28のDON、3-Ac-DONおよび15-Ac-DONに対する反応特性の検討。縦軸はDON、3-Ac-DONおよび15-Ac-DONを含まずに反応させたODに対するサンプルのODの比率を示し、横軸は反応ウェルに添加したDON、3-Ac-DONまたは15-Ac-DONの濃度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。なお、「本実施形態」と記す場合、特に断らない限り、本明細書に記載されている全ての実施形態を指すものとする。
第1の実施形態は、DONおよび/またはアセチル化DON(3-Ac-DONまたは15-Ac-DON)に結合する抗体(以下、本明細書中において、DONおよび/またはアセチル化DONに結合する抗体を、「本実施形態にかかる抗DON抗体」とも記す)、または当該抗体の抗原結合断片であって、当該抗体のCDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が下記(A-1)もしくは(A-2)、(B-1)もしくは(B-2)、または(C-1)もしくは(C-2)のいずれかを満たすことを特徴とする、抗体またはその抗原結合断片である。なお、CDR配列はKabatデータベースまたはIMGTデータベースの情報に基づいてIgBLAST(National Center for Biotechnology Information:NCBI)アルゴリズムを使用して解析した。
【0012】
(A-1)M3ADN27抗体(実施例中では「M3ADN27 MoAb」と記載)のCDR配列(Kabatデータベースを使用)
重鎖CDR1アミノ酸配列が、YYAMS(配列番号1)、
重鎖CDR2アミノ酸配列が、SISAGGRKYNSDNVEG(配列番号2)、
重鎖CDR3アミノ酸配列が、GGHDYDGSLLAY(配列番号3)、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が、RSSTGTVTTTNYAN(配列番号4)
軽鎖CDR2アミノ酸配列が、GTNNRVP(配列番号5)、および
軽鎖CDR3アミノ酸配列が、ALWYRNYWV(配列番号6)を有する。
(A-2)M3ADN27抗体のCDR配列(IMGTデータベースを使用)
重鎖CDR1アミノ酸配列が、GFTFSYYA(配列番号7)、
重鎖CDR2アミノ酸配列が、ISAGGRK(配列番号8)、
重鎖CDR3アミノ酸配列が、VRGGHDYDGSLLAY(配列番号9)、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が、TGTVTTTNY(配列番号10)
軽鎖CDR2アミノ酸配列が、GTN(配列番号11)、および
軽鎖CDR3アミノ酸配列が、ALWYRNYWV(配列番号12)を有する。
【0013】
(B-1)M3ADN28抗体(実施例中では「M3ADN28 MoAb」と記載)のCDR配列(Kabatデータベースを使用)
重鎖CDR1アミノ酸配列が、TYAMS(配列番号15)、
重鎖CDR2アミノ酸配列が、SISSGGKEYPSDSVKG(配列番号16)、
重鎖CDR3アミノ酸配列が、GGFDYDGSLLAY(配列番号17)、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が、RSSTGAVTTSNYAN(配列番号18)
軽鎖CDR2アミノ酸配列が、GTNNRVP(配列番号19)、および
軽鎖CDR3アミノ酸配列が、ALWYSNYWV(配列番号20)を有する。
(B-2)M3ADN28抗体のCDR配列(IMGTデータベースを使用)
重鎖CDR1アミノ酸配列が、GFTFSTYA(配列番号21)、
重鎖CDR2アミノ酸配列が、ISSGGKE(配列番号22)、
重鎖CDR3アミノ酸配列が、VRGGFDYDGSLLAY(配列番号23)、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が、TGAVTTSNY(配列番号24)
軽鎖CDR2アミノ酸配列が、GTN(配列番号25)、および
軽鎖CDR3アミノ酸配列が、ALWYSNYWV(配列番号26)を有する。
【0014】
(C-1)MDN31抗体(実施例中では「MDN31 MoAb」と記載)のCDR配列(Kabatデータベースを使用)
重鎖CDR1アミノ酸配列が、NYWIG(配列番号29)、
重鎖CDR2アミノ酸配列が、DIYPGGGYSNNNEKFKG(配列番号30)、
重鎖CDR3アミノ酸配列が、SHYGNYGDY(配列番号31)、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が、RASSSVNFMH(配列番号32)
軽鎖CDR2アミノ酸配列が、DTSKLAS(配列番号33)、および
軽鎖CDR3アミノ酸配列が、LQWISNPLT(配列番号34)を有する。
(C-2)MDN31抗体のCDR配列(IMGTデータベースを使用)
重鎖CDR1アミノ酸配列が、GYTFTNYW(配列番号35)、
重鎖CDR2アミノ酸配列が、IYPGGGYS(配列番号36)、
重鎖CDR3アミノ酸配列が、VRSHYGNYGDY(配列番号37)、
軽鎖CDR1アミノ酸配列が、SSVNF(配列番号38)
軽鎖CDR2アミノ酸配列が、DTS(配列番号39)、および
軽鎖CDR3アミノ酸配列が、LQWISNPLT(配列番号40)を有する。
【0015】
上記M3ADN27抗体とM3ADN28抗体は3-Ac-DONと高い特性で結合し、MDN31 MoAbはDONおよび15-Ac-DONと高い特異性で結合することを確認している。
【0016】
また、本実施形態にかかる抗DON抗体およびその抗原結合断片として、配列番号13(M3ADN27抗体)、配列番号27(M3ADN28抗体)もしくは配列番号41(MDN31抗体)で表されるアミノ酸配列を含む重鎖可変領域のいずれかを含む抗体、または配列番号14(M3ADN27抗体)、配列番号28(M3ADN28抗体)もしくは配列番号42(MDN31抗体)で表されるアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域のいずれかを含む抗体およびそれらの抗原結合断片、ならびに、これらの抗体を構成する重鎖可変領域および/または軽鎖可変領域の各アミノ酸配列と約70%以上、好ましくは約80%以上、約81%以上、約82%以上、約83%以上、約84%以上、約85%以上、約86%以上、約87%以上、約88%以上、約89%以上、より好ましくは約90%以上、約91%以上、約92%以上、約93%以上、約94%以上、約95%以上、約96%以上、約97%以上、約98%以上、最も好ましくは約99%以上のアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列からなる抗体であって、DONまたはアセチル化DONと結合する抗体およびそれらの抗原結合断片が含まれる。配列番号13、配列番号14、配列番号27、配列番号28、配列番号41、配列番号42で表されるアミノ酸配列を以下に示す。
【0017】
M3ADN27抗体の重鎖可変領域
GGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSYYAMSGIRQTPEKRLERVTSISAGGRKYNSDNVEGRFTISRDNARNILYLQMSSLRSEDSAMYYCVRGGHDYDGSLLAYWGQGTLVTVSAAKTTAPSVYPLAPVCGDTTGSSVTLGCLVKGYFPEPVTLTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVTSSTWPSQSITCNVAHPA(配列番号13)
M3ADN27抗体の軽鎖可変領域
MAWISLILSLLALSSGAISQAVVTQESALTTSPGETVTLTCRSSTGTVTTTNYANWVQEKPDHLFTGLIGGTNNRVPGVPARFSGSLIGGKAALTITGAQTEDEAMYFCALWYRNYWVFGGGTKLTVLGQPKSSPSVTLFPPSSEELETNKATLVCTITDFYPGVVTVDWKVDGTPVTQGMETTQPSKQSNNKYMASSYLTLTARAWERHSSYSCQVTHEGHT(配列番号14)
【0018】
M3ADN28抗体の重鎖可変領域
MNFGFSLIFLVLVLKGVQCEVKLVESGGGLVKPGGSLKLSCAASGFTFSTYAMSWIRQTPEKRLERVTSISSGGKEYPSDSVKGRFTISRDNVRSILYLQMSSLRSEDTAMYYCVRGGFDYDGSLLAYWGQGTLVTVSAAKTTAPSVYPLAPVCGDTTGSSVTLGCLVKGYFPEPVTLTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVTSSTWPSQSITCNVAHPA(配列番号27)
M3ADN28抗体の軽鎖可変領域
MAWISLILSLLALSSGAISQTVVTQESALTTSPGETVTLTCRSSTGAVTTSNYANWVQEKPDHLFTGLIGGTNNRVPGVPARFSGSLIGDKAALTITGAQTEDEAIYFCALWYSNYWVFGGGTKLTVLGQPKSSPSVTLFPPSSEELETNKATLVCTITDFYPGVVTVDWKVDGTPVTQGMETTQPSKQSNNKYMASSYLTLTARAWERHSSYSCQVTHEGHT(配列番号28)
【0019】
MDN31抗体の重鎖可変領域
MEWSGVFIFLLSVTAGVHSQVQLQQSGAELVRPGTSVKMSCKAGGYTFTNYWIGWVKQRPGHGLEWIGDIYPGGGYSNNNEKFKGKARLTADTSSSTAYMQLSRLTSEDSAIYYCVRSHYGNYGDYWGQGTTLTVSSAKTTAPSVYPLAPVCGDTTGSSVTLGCLVKGYFPEPVTLTWNSGSLSSGVHTFPAVLQSDLYTLSSSVTVTSSTWPSQSITCNVAHPAS(配列番号41)
MDN31抗体の軽鎖可変領域
MDFQVQIFSFLLISASVIISRGQNVLIQSPAIMSASPGEKVTMTCRASSSVNFMHWVQQKSGTSPKRWIYDTSKLASGVPARFSGSGSGTSFSLTISSMEAEDAATYYCLQWISNPLTFGTGTKLELKRADAAPTVSIFPPSSEQLTSGGASVVCFLNNFYPKDINVKWKIDGSERQNGVLNSWTDQDSKDSTYSMSSTLTLTKDEYERHNSYTCEATHKTSTSP(配列番号42)
【0020】
M3ADN27抗体の重鎖可変領域および軽鎖領域の核酸配列は、各々、配列番号43および配列番号44に、M3ADN28抗体の重鎖可変領域および軽鎖領域の核酸配列は、各々、配列番号45および配列番号46に、MDN31抗体の重鎖可変領域および軽鎖領域の核酸配列は、各々、配列番号47および配列番号48に示す。
【0021】
M3ADN27抗体の重鎖可変領域の核酸配列
GGAGGCTTGGTGAAGCCTGGAGGGTCCCTGAAACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACTTTCAGTTATTATGCCATGTCTGGGATTCGCCAGACTCCAGAGAAGAGGCTGGAGAGGGTCACATCCATTAGTGCTGGTGGTAGAAAATATAATTCAGACAATGTGGAGGGCCGATTCACCATCTCCAGAGATAATGCCCGGAACATCCTATACCTGCAAATGAGCAGTCTGAGGTCTGAGGACTCGGCCATGTATTACTGTGTAAGAGGCGGGCATGATTACGACGGTTCCCTGCTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACGGTCTCTGCAGCCAAAACAACAGCCCCATCGGTCTATCCACTGGCCCCTGTGTGTGGAGATACAACTGGCTCCTCGGTGACTCTAGGATGCCTGGTCAAGGGTTATTTCCCTGAGCCAGTGACCTTGACCTGGAACTCTGGATCCCTGTCCAGTGGTGTGCACACCTTCCCAGCTGTCCTGCAGTCTGACCTCTACACCCTCAGCAGCTCAGTGACTGTAACCTCGAGCACCTGGCCCAGCCAGTCCATCACCTGCAATGTGGCCCACCCGGCAA(配列番号43)
M3ADN27抗体の軽鎖可変領域の核酸配列
ATTATGGCCTGGATTTCACTTATACTCTCTCTCCTGGCTCTCAGCTCAGGGGCCATTTCCCAGGCTGTTGTGACTCAGGAATCTGCACTCACCACATCACCTGGTGAAACAGTCACACTCACTTGTCGCTCAAGTACTGGGACTGTTACAACTACTAACTATGCCAACTGGGTCCAAGAAAAACCAGATCATTTATTCACTGGTCTAATAGGCGGTACCAACAACCGAGTTCCAGGTGTTCCTGCCAGATTCTCAGGCTCCCTGATTGGAGGCAAGGCTGCCCTCACCATCACAGGGGCACAGACTGAGGATGAGGCAATGTATTTCTGTGCTCTATGGTACAGAAATTACTGGGTGTTCGGTGGAGGAACCAAACTGACTGTCCTAGGCCAGCCCAAGTCTTCGCCATCAGTCACCCTGTTTCCACCTTCCTCTGAAGAGCTCGAGACTAACAAGGCCACACTGGTGTGTACGATCACTGATTTCTACCCAGGTGTGGTGACAGTGGACTGGAAGGTAGATGGTACCCCTGTCACTCAGGGTATGGAGACAACCCAGCCTTCCAAACAGAGCAACAACAAGTACATGGCTAGCAGCTACCTGACCCTGACAGCAAGAGCTTGGGAAAGGCATAGCAGTTACAGCTGCCAGGTCACTCATGAAGGTCACACT(配列番号44)
【0022】
M3ADN28抗体の重鎖可変領域の核酸配列
AGACACCTCACCATGAACTTCGGGTTCAGCTTGATTTTCCTTGTCCTTGTTTTAAAAGGTGTCCAATGTGAAGTGAAACTGGTGGAGTCTGGGGGAGGCTTAGTGAAGCCTGGAGGGTCCCTGAAACTCTCCTGTGCAGCCTCTGGATTCACTTTCAGTACCTATGCCATGTCTTGGATTCGCCAGACTCCAGAGAAGAGGCTGGAGAGGGTCACATCCATTAGTAGTGGTGGTAAAGAGTATCCTTCAGACAGTGTGAAGGGCCGATTCACCATATCTAGAGATAATGTCAGGAGCATCCTGTACCTGCAAATGAGCAGTCTGAGGTCTGAGGACACGGCCATGTATTACTGTGTAAGAGGCGGTTTTGATTACGACGGTTCCCTGCTTGCTTACTGGGGCCAAGGGACTCTGGTCACTGTCTCTGCAGCCAAAACAACAGCCCCATCGGTCTATCCACTGGCCCCTGTGTGTGGAGATACAACTGGCTCCTCGGTGACTCTAGGATGCCTGGTCAAGGGTTATTTCCCTGAGCCAGTGACCTTGACCTGGAACTCTGGATCCCTGTCCAGTGGTGTGCACACCTTCCCAGCTGTCCTGCAGTCTGACCTCTACACCCTCAGCAGCTCAGTGACTGTAACCTCGAGCACCTGGCCCAGCCAGTCCATCACCTGCAATGTGGCCCACCCGGCAA(配列番号45)
M3ADN28抗体の軽鎖可変領域の核酸配列
ATTATGGCCTGGATTTCACTTATACTCTCTCTCCTGGCTCTCAGCTCAGGGGCCATTTCCCAGACTGTTGTGACTCAGGAATCTGCACTCACCACATCACCTGGTGAAACAGTCACACTCACTTGTCGCTCAAGTACTGGGGCTGTTACAACTAGTAACTATGCCAACTGGGTCCAAGAAAAACCAGATCATTTATTCACTGGTCTAATAGGCGGTACCAACAACCGAGTTCCAGGTGTTCCTGCCAGATTCTCAGGCTCCCTGATTGGAGACAAGGCTGCCCTCACCATCACAGGGGCACAGACTGAGGATGAGGCAATTTATTTCTGTGCTCTATGGTACAGCAATTACTGGGTGTTCGGTGGAGGAACCAAACTGACTGTCCTAGGCCAGCCCAAGTCTTCGCCATCAGTCACCCTGTTTCCACCTTCCTCTGAAGAGCTCGAGACTAACAAGGCCACACTGGTGTGTACGATCACTGATTTCTACCCAGGTGTGGTGACAGTGGACTGGAAGGTAGATGGTACCCCTGTCACTCAGGGTATGGAGACAACCCAGCCTTCCAAACAGAGCAACAACAAGTACATGGCTAGCAGCTACCTGACCCTGACAGCAAGAGCTTGGGAAAGGCATAGCAGTTACAGCTGCCAGGTCACTCATGAAGGTCACACT(配列番号46)
【0023】
MDN31抗体の重鎖可変領域の核酸配列
CTCACCATGGAATGGAGCGGGGTCTTTATCTTTCTCCTGTCAGTAACTGCAGGTGTCCACTCCCAGGTCCAGCTGCAGCAGTCTGGAGCTGAGCTGGTAAGGCCTGGGACTTCAGTGAAGATGTCCTGTAAGGCTGGTGGATACACCTTCACTAACTACTGGATAGGTTGGGTAAAGCAGAGGCCTGGACATGGCCTTGAGTGGATTGGAGATATTTACCCTGGAGGTGGTTATAGTAACAATAATGAGAAGTTCAAGGGCAAGGCCAGACTGACTGCAGACACATCCTCCAGCACAGCCTACATGCAGCTCAGTAGGCTGACATCTGAGGACTCTGCCATCTATTACTGTGTTAGATCCCACTATGGTAACTACGGGGACTACTGGGGCCAGGGCACCACTCTCACAGTCTCCTCAGCCAAAACAACAGCCCCATCGGTCTATCCACTGGCCCCTGTGTGTGGAGATACAACTGGCTCCTCGGTGACTCTAGGATGCCTGGTCAAGGGTTATTTCCCTGAGCCAGTGACCTTGACCTGGAACTCTGGATCCCTGTCCAGTGGTGTGCACACCTTCCCAGCTGTCCTGCAGTCTGACCTCTACACCCTCAGCAGCTCAGTGACTGTAACCTCGAGCACCTGGCCCAGCCAGTCCATCACCTGCAATGTGGCCCACCCGGCAAGCA(配列番号47)
MDN31抗体の軽鎖可変領域の核酸配列
GACAGAATGGATTTTCAAGTGCAGATTTTCAGCTTCCTGCTAATCAGTGCCTCAGTCATAATATCCAGAGGACAAAATGTTCTCATCCAGTCTCCAGCAATCATGTCTGCATCTCCAGGGGAAAAGGTCACCATGACCTGCCGTGCCAGCTCAAGTGTAAATTTCATGCACTGGGTCCAGCAGAAGTCAGGCACCTCCCCCAAAAGATGGATTTATGACACATCCAAACTGGCTTCTGGAGTCCCTGCTCGCTTCAGTGGCAGTGGGTCTGGGACCTCTTTCTCTCTCACAATCAGCAGCATGGAGGCTGAAGATGCTGCCACTTATTACTGCCTGCAGTGGATTAGTAACCCGCTCACGTTCGGTACTGGGACCAAGCTGGAGCTGAAACGGGCTGATGCTGCACCAACTGTATCCATCTTCCCACCATCCAGTGAGCAGTTAACATCTGGAGGTGCCTCAGTCGTGTGCTTCTTGAACAACTTCTACCCCAAAGACATCAATGTCAAGTGGAAGATTGATGGCAGTGAACGACAAAATGGCGTCCTGAACAGTTGGACTGATCAGGACAGCAAAGACAGCACCTACAGCATGAGCAGCACCCTCACGTTGACCAAGGACGAGTATGAACGACATAACAGCTATACCTGTGAGGCCACTCACAAGACATCAACTTCACCC(配列番号48)
【0024】
本実施形態にかかる抗DON抗体は、免疫動物に抗原をインジェクトして作製しても、または、遺伝子工学的に作製してもよく、その作製方法はいかなる方法であってもよい。 本実施形態にかかる抗DON抗体が、遺伝子組換え抗体である場合、その形体は特に限定されず、例えば、キメラ抗体などが挙げられる。キメラ抗体とは、例えば、異なる動物種由来の可変領域と定常領域を連結した抗体(例えば、ラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に結合させた抗体)などのことで(例えば、Morrisonら, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 81, 6851-6855 1984.など)、遺伝子組換え技術によって容易に構築することができる。
【0025】
ヒト化抗体は、フレームワーク領域(FR)にヒト由来の配列を持ち、相補性決定領域(CDR)が他の動物種(例えば、マウスなど)由来の配列からなる抗体である。ヒト化抗体は、まず、他の動物種、ここではマウスで説明するが、マウス由来の抗体の可変領域からそのCDRをヒト抗体可変領域に移植し、重鎖および軽鎖可変領域を再構成した後、これらヒト化された再構成ヒト抗体可変領域をヒト抗体定常領域に連結することで作製することができる。このようなヒト化抗体の作製法は、当分野において周知である(例えば、Queenら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86, 10029-10033 1989.など)。
【0026】
本実施形態にかかる抗原結合断片とは、本実施形態にかかる抗体の一部分の領域であって、所望の抗原に結合する抗体断片のことであり、断片としては、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv(variable fragment of antibody)、一本鎖抗体(重鎖、軽鎖、重鎖可変領域、軽鎖可変領域およびナノ抗体等)、scFv(single chain Fv)、diabody(scFv二量体)、dsFv(disulfide-stabilized Fv)、ならびに、本実施形態にかかる抗体のCDRを少なくとも一部に含むペプチド等が挙げられる。
【0027】
Fabは、抗体分子をタンパク質分解酵素パパインで処理して得られる断片のうち、重鎖のN末端側約半分と軽鎖全体とがジスルフィド結合で結合した、抗原結合活性を有する抗体断片である。Fabの作製は、抗体分子をパパインで処理して断片を取得する他、例えば、FabをコードするDNAを挿入した適当な発現ベクターを構築し、これを適当な宿主細胞(例えば、CHO細胞などの哺乳類細胞、酵母細胞、昆虫細胞など)に導入後、細胞内でFabを発現させることで実施することができる。
【0028】
F(ab’)2は、抗体分子をタンパク質分解酵素ペプシンで処理して得られる断片のうち、Fabがヒンジ領域のジスルフィド結合を介して結合されたものよりやや大きい、抗原結合活性を有する抗体断片である。F(ab’)2は、抗体分子をペプシンで処理して断片を取得する他、Fabをチオエーテル結合あるいはジスルフィド結合させて作製することも可能で、さらに、Fabと同様に遺伝子工学的手法によっても作製することができる。
【0029】
Fab’は、上記F(ab’)2のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断した、抗原結合活性を有する抗体断片である。Fab’も、Fab等と同様に遺伝子工学的な手法により作製することができる。
【0030】
scFvは、1本の重鎖可変領域(VH)と1本の軽鎖可変領域(VL)とを適当なペプチドリンカーを用いて連結した、VH-リンカー-VLないしはVL-リンカー-VHポリペプチドであって、抗原結合活性を有する抗体断片である。scFvは、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするcDNAを取得し、遺伝子工学的手法により作製することができる。
【0031】
diabodyは、scFvが二量体化した抗体断片で、2価の抗原結合活性を有する抗体断片である。2価の抗原結合活性は、同一抗原結合活性であっても、または、一方が異なる抗原結合活性であってもよい。diabodyは、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするcDNAを取得し、重鎖可変領域と軽鎖可変領域をペプチドリンカーで結合したscFvをコードするcDNAを構築して、遺伝子工学的手法により作製することができる。
【0032】
dsFvは、重鎖可変領域および軽鎖可変領域中のそれぞれ1アミノ酸残基をシステイン残基に置換したポリペプチドを、該システイン残基間のジスルフィド結合を介して結合させたものをいう。システイン残基に置換するアミノ酸残基は、抗体の立体構造予測に基づいて選択することができる。dsFvは、抗体の重鎖可変領域および軽鎖可変領域をコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築して遺伝子工学的手法により作製することができる。
【0033】
CDRを含むペプチドは、重鎖または軽鎖のCDR(CDR1~3)の少なくとも1領域以上を含むように構成される。複数のCDRを含むペプチドは、直接または適当なペプチドリンカーを介して結合させることができる。CDRを含むペプチドは、抗体の重鎖または軽鎖のCDRをコードするDNAを構築し、発現ベクターに挿入する。ベクターの種類としては特に限定はなく、その後に導入される宿主細胞の種類等によって適宜選択すればよい。これらを抗体として発現させるために適当な宿主細胞(例えば、CHO細胞などの哺乳類細胞、酵母細胞、昆虫細胞など)に導入し製造することができる。また、CDRを含むペプチドは、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)およびtBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によって製造することもできる。
【0034】
ヒト抗体(完全ヒト抗体)は、一般にV領域の抗原結合部位である超可変領域(Hypervariable region)、V領域のその他の部分および定常領域の構造が、ヒトの抗体と同じ構造を有するものである。ヒト抗体は、公知の技術により当業者であれば容易に作製することができる。ヒト抗体は、例えば、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(例えば、Tomizukaら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97, 722-727 2000.など)や、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(例えば、Siriwardenaら, Opthalmology, 109, 427-431 2002.等を参照)により取得することができる。
【0035】
本実施形態にかかる抗原結合断片を用いて、多重特異性抗体を構築してもよい。多重特異性とは2つ以上の抗原に対して結合特異性を有することを意味し、例えば、2つ以上の抗原に対して結合特異性を有するモノクローナル抗体あるいは抗原結合断片を含むタンパク質の形態が挙げられる。これは既知の技術によって当業者によって実施される。多重特異性を構築する方法としては、異なる2種類の抗体重鎖分子がヘテロ二量体を形成するようにタンパク工学的操作を施した非対称IgGの構築技術、抗体から得た低分子量の抗原結合断片同士を連結する、あるいは別の抗体分子と連結する技術、などに分類される手法が複数開発されている。具体的な構築法の例はたとえば以下の文献を参考にすることができる。Kontermannら, Drug Discovery Today, 20, 838-847 2015.
【0036】
第2の実施形態は、DONまたはDONのアセチル化体に結合する抗体であって、CDR(complementarity determining region)1~3のアミノ酸配列が上記(A-1)もしくは(A-2)、(B-1)もしくは(B-2)、または(C-1)もしくは(C-2)のいずれかを満たすことを特徴とする抗体とDONまたはDONのアセチル化体との結合を競合阻害する抗体(以下「本実施形態にかかる競合抗体」とも記載する)である。本実施形態にかかる競合抗体は、当業者において周知である競合実験などにより、調製および取得することができる。具体的には、第1の抗DON抗体(本実施形態にかかる抗DON抗体)とDONまたはDONのアセチル化体との結合が、第2の抗DON抗体によって競合阻害を受けるとき、第1の抗DON抗体と第2の抗DON抗体は実質的に同一、または極近傍の抗原部位に結合していると判断される。当該第2の抗DON抗体は本実施形態にかかる競合抗体である。なお、上記競合実験の方法として、例えば、Fab断片等を用いる方法が当該技術分野おいて、通常行われている。例えば、WO95/11317、 WO94/07922、WO2003/064473、WO2008/118356およびWO2004/046733などを参照のこと。
【0037】
第3の実施形態は、トリコテセン系カビ毒を検出するためのキットであって、本実施形態にかかる抗DON抗体(第1の実施形態にかかる抗体)または本実施形態にかかる競合抗体(第2の実施形態にかかる抗体)を、少なくとも含む、キットである。
本実施形態にかかるキットには、上記抗体の他、トリコテセン系カビ毒を検出するために必要な試薬、装置(例えば、抗原を検出するためのイムノクロマトやイムノセンサなど)、器具(ELISA用のプレートなど)が含まれていてもよい。
【0038】
本明細書が英語に翻訳されて、単数形の「a」、「an」および「the」の単語が含まれる場合、文脈から明らかにそうでないことが示されていない限り、単数のみならず複数のものも含むものとする。また、本明細書において、「同程度」、「約」とは、±10%の数値範囲を意味する。
以下に実施例を示してさらに本発明の説明を行うが、本実施例は、あくまでも本発明の実施形態の例示にすぎず、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例0039】
1.デオキシニバレノール(DON)を産生する菌株の培養
DONを産生する保存菌株、Fusarium graminearum TSY 0341を、ポテトデキストロースアガーに植菌し、20 ℃、1週間培養した。毒素産生用培地として、市販押し麦50 gを500 mL三角コルベンに入れ、等量の精製水をさらに加えた後、一晩冷蔵庫に静置した。静置後121 ℃、60分間加熱し室温に戻した後(培地量約100 g)、上記ポテトデキストロースアガーに培養した菌を毒素産生用培地に植菌し、2週間後に毒素産生用培地に発育した培養物をDONの抽出に用いた。
【0040】
2.DONおよび3-acetyl-DONの調製
2-1.DONの精製
毒素産生用培地に発育した培養物(約400 g)より、85%アセトニトリル (v/v) でDONを抽出した(400 mL、3回)。この抽出液(約1.2 L)に含まれるDONの量は、約244 mgであった。この抽出液(約1.2 L)を、減圧下濃縮した後、等量(約900 mL)のn-ヘキサンで3回洗浄した。水層(約900 mL)を、合成吸着樹脂(DIAION HP20、300 mL、6.0 cm i. d. × 9.5 cm、三菱ケミカル)に供し、水(900 mL)で洗浄後、DONをメタノール(450 mL)で溶出させた。この溶出液を減圧下濃縮した。この濃縮液より、DONを等量(約100 mL)の酢酸エチルで3回抽出した。酢酸エチル層を減圧下乾固した後、シリカゲルカラム(2 cm i.d. x 20 cm;Silica gel 60、Merck)に填着し、ジクロロメタン/メタノール混合液(20:1、10:1)、メタノールで順次展開した。その結果得られたDONを含む溶出液(ジクロロメタン:メタノール=10:1)を合わせ、減圧下濃縮した。その液をODS-HPLCに供した。ODS-HPLCのクロマト条件は、ポンプ:LC-6AD(島津)、カラム:InertSustein C18(20 mm i.d. ×250 mm、5μm、ジーエルサイエンス)、移動相:アセトニトリル:水 = 5:95 (v/v)、流速:10 mL/min、カラム温度:40℃、検出器:SPD-20A(島津)、検出波長:220 nmを用いた。DONを含むフラクションを減圧下乾固することで、下記式(1)で表されるDON(無色の飴状の固形物)を、69 mg得た。
【化2】
【0041】
2-2.3-acetyl-DONの合成
DON(145 mg)のピリジン(10 mL)溶液にn-ブチルボロン酸(498 mg)を加え、室温で終夜撹拌し、次いで無水酢酸 (0. 92 mL) のピリジン (4 mL) 溶液を加え、55℃で3.5時間撹拌した。反応液にメタノール (2 mL) を加えて濃縮し逆相HPLCで精製した。目的物を含むフラクションを凍結乾燥し、白色粉末として下記式(5)で表される3-acetyl-DON(142 mg)を得た。
【化3】
【表1】
【0042】
3.DONまたは3-acetyl-DONにリンカーを介してカルボキシ基を導入した誘導体の合成
3-1.DON誘導体(DON-Linker-COOH)
2つの容器に分けてDONへの修飾反応を実施した。
「第一容器」;グルタル酸無水物(8.2 mg)のCHCl
3(1.8 mL)溶液に、DON(21 mg)、1-メチルイミダゾール(1.7μL)を加えた。
「第二容器」;グルタル酸無水物(77 mg)のCHCl
3(17 mL)溶液に、DON(200 mg)、1-メチルイミダゾール(16 μL)を加えた。2つの容器とも室温で10日間撹拌し、その反応液を合わせて濃縮し逆相HPLCで精製した。目的物を含むフラクションを凍結乾燥し、白色粉末として下記式(3)で表されるDON-linker-COOH(15-O-(4-カルボキシブチリル)DON)(51 mg)を得た。
【化4】
【表2】
【0043】
3-2.3-acetyl-DON誘導体(3-acetyl-DON -Linker-COOH)
3-acetyl-DON(122 mg)にグルタル酸無水物(206 mg)、N,N-ジメチルアミノピリジン(49 mg)のCHCl
3(20 mL)溶液を加え、室温で3時間撹拌した。その後、グルタル酸無水物(206 mg)、N,N-ジメチルアミノピリジン(49 mg)を追加し、さらに2.5時間撹拌した。反応液を濃縮し逆相HPLCで精製した。目的物を含むフラクションを凍結乾燥し、白色粉末として下記式(6)で表される3-acetyl-DON-Linker-COOH(105 mg)を得た。
【化5】
【表3】
【0044】
4.DON誘導体または3-acetyl-DON (3-Ac-DON) 誘導体とタンパク質との結合体の調製
合成したDON-Linker-COOHと3-Ac-DON-Linker-COOHは、活性化エステル法によりスカシ貝ヘモシアニン(KLH)、ウシ血清アルブミン(BSA)、および西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)のL-リシン残基のε位にある1級アミンと共有結合し、各々免疫原(DON-KLH結合体、3-Ac-DON-KLH結合体)、間接競合ELISA用抗原(DON-BSA結合体、3-Ac-DON-BSA結合体)および直接競合ELISA用抗原(HRP標識DON、HRP標識3-Ac-DON)とした。
まず、誘導体5.0μmolを各々DMSO 100μLに溶解した。次にこれらの溶液にDMSO 5μLに溶解したN-ヒドロキシコハク酸イミド(NHS)6.0μmolを添加し、さらにDMSO 10μLに溶解した1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC) 6.0μmolを添加し、混合した。室温にて1.5時間静置して反応させた後、この反応溶液に10 mmol/Lリン酸緩衝液(pH 7.0)1 mLに溶解したKLH、BSA、HRP各々10 mgを添加し、再び室温にて1.5時間反応させた。反応終了後、150 mmolの塩化ナトリウムを添加したリン酸緩衝液(PBS)に対して透析し、DON-KLH結合体、3-Ac-DON-KLH結合体およびDON-BSA結合体、3-Ac-DON-BSA結合体を調製した。一方、HRP標識DON、HRP標識3-Ac-DONは、ゲル濾過(セファデックス G-25、fineグレード、Cytiva)により精製した。
【0045】
5.DON-KLH結合体または3-Ac-DON-KLH結合体の免疫
免疫は、DON-KLH結合体、3-Ac-DON-KLH結合体を、各々2 mg/mL(PBS)の濃度に調製し、等量のフロイント完全アジュバントと乳化混合した後、この100 μLをマウス(Balb/c、7週齢、メス)の腹腔内に接種することで実施した。その後2週間ごとに合計3回、初回免疫の1/4量(25 μg)をフロイント不完全アジュバントと乳化混合して追加免疫した。追加免疫の1週間後に尾静脈から部分採血し、抗血清を調製した。DON-KLH結合体を免疫して得られた抗血清を抗DONポリクローナル抗体(PoAb)を免疫して得られた抗血清を抗NIV PoAbとした。また、追加免疫の3日後のマウスをモノクローナル抗体(MoAb)作製に供した。抗3-Ac-DON抗体については、MoAb作製のみ実施した。
【0046】
6.直接ELISAの構築と抗血清の抗体価の確認
抗DON抗体(PoAb、MoAb)の抗体価は、直接ELISAで確認した。PBSで4 μg/mLに希釈した抗マウスIgGヤギ抗体(Thermo Fisher Scientific社製)を、96ウェルのマイクロタイタープレートの各ウェルに100 μL/ウェルで添加した後、4℃で1晩静置することにより抗体を固相化した。液を吸引除去後、0.4% BSAを添加したPBS(以下、ブロッキング液という)300 μL/ウェルを加えて室温で1時間ブロッキングした。このウェルを0.02%のtween20を添加したPBS(以下、洗浄液という)で1回洗浄後、0.2% のBSAを添加したPBS(以下、抗体希釈液という)で段階希釈した抗DON抗体を100 μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、抗体希釈液で20 ng/mLに希釈したHRP標識DONを100 μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、100 μg/mLの3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジンと0.006%の過酸化水素を加えた0.1 mol/L酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.5)(以下、発色基質液という)100 μLで発色させ、10分後に等量の0.5 mol/Lの硫酸で発色停止したのちに450 nmの吸光度を測定した。得られた結果から、飽和時の1/2の吸光度になる抗DON抗体の希釈倍数を抗体価と定義した。
抗3-Ac-DON MoAbについても、HRP標識DONに代えてHRP標識3-Ac-DONを20 ng/mLで用いた以外は同様に実施し、抗体価を得た。
【0047】
7.直接競合ELISAの構築
抗DON抗体を用いた直接競合ELISAにおいては、直接ELISAと同様に抗マウスIgGヤギ抗体を固相化し、ブロッキングした。抗体価を示す希釈倍数に調製した抗DON抗体を100 μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。一方、10%メタノールで段階希釈したDONあるいはその類縁体標準液をHRP標識DON(40 ng/mL)と等量混合した。この混合液を3回洗浄後の各ウェルに100 μL/ウェルで加えた。室温で1時間反応させたのち、直接ELISAと同様に洗浄、発色させ、吸光度を測定した。抗3-Ac-DON MoAbについても、HRP標識DONに代えてHRP標識3-Ac-DONを40 ng/mLで用いた以外は同様に実施した。
【0048】
8.間接ELISAと間接競合ELISA
間接ELISAと間接競合ELISAは、 MoAb作製時のスクリーニングに用いた。
抗DON MoAb作製時の間接ELISAは、以下のように実施した。まずDON-BSA結合体をPBSで1μg/mLに調製し、96ウェルのマイクロタイタープレートに50μL/ウェルの量で添加した後、4℃で1晩静置することにより固相化した。液を吸引除去後、ブロッキング液200μL/ウェルを加えて室温で1時間ブロッキングした。洗浄液で洗浄後、ハイブリドーマの培養上清を50 μL/ウェルで加え、室温で1時間反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、抗体希釈液で5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(γ)ヤギ抗体(American Qualex社製)を50 μL/ウェルの量で加え、1時間反応させた。再び洗浄液で3回洗浄した後、発色基質液を加えて発色させ、450 nmの吸光度を測定した。
【0049】
一方、抗DON MoAb作製時の間接競合ELISAは、以下のように実施した。まずDON-BSA結合体25 ng/mLとBSA 100 ng/mLになるようPBSで調製し、96ウェルのマイクロタイタープレートに50 μL/ウェルの量で添加した後、4℃で1晩静置することにより固相化した。液を吸引除去後、ブロッキング液200 μL/ウェルを加えて室温で1時間ブロッキングした。洗浄液で洗浄後、ハイブリドーマの培養上清と10%メタノールに溶解したDONの等量混合液を50 μL/ウェルで加え、室温で1時間競合的に反応させた。洗浄液で3回洗浄した後、抗体希釈液で5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(γ)ヤギ抗体(American Qualex社製)を50 μL/ウェルの量で加え、1時間反応させた。再び洗浄液で3回洗浄した後、発色基質液を加えて発色させ、450 nmの吸光度を測定した。
【0050】
9.抗DON MoAbの作製
モノクローナル抗体の作製は、常法により行った。まず細胞融合には、最終免疫後3日目のマウスから取り出した脾臓細胞を用いた。メッシュで大きな固形物を除去しながら、RPMI1640培地中に取り出した脾臓細胞をRPMI1640培地にて3回洗浄した後、マウスのミエローマ細胞P3U1と細胞数の比で5:1(脾臓細胞:ミエローマ細胞)になるように混合し、遠心(1300 rpm、5分間)して細胞沈渣を集めた。この細胞沈渣に予め37℃に温めた50%ポリエチレングリコール(分子量1500)1 mLを加え、細胞を融合した。細胞融合は、10%のウシ胎児血清(以下、FBSという)を添加したRPMI1640培地(以下「RPMI1640/10% FBS培地」という)30 mLを徐々に添加することにより、停止した。融合した細胞は、RPMI1640/10% FBS培地に100μmol/Lのヒポキサンチン、0.4μmol/Lのアミノプテリン、および16μmol/Lのチミジンを添加したHAT培地に懸濁後、96ウェルのマイクロプレート4枚に分注し、37℃、5%CO2存在下で10~14日間培養した。培養後、コロニーを生じたハイブリドーマのウェル中での抗体の反応性を、間接ELISAと間接競合ELISAを用いて調べた。
【0051】
10.抗DON MoAbの反応性
DONに反応性を示す抗体を産生したハイブリドーマは多数存在したが、中でも間接競合ELISAで高い反応性を示したハイブリドーマを限界希釈法によって細胞クローニングし、モノクローナル抗体産生細胞(MDN8とMDN31)とした。これらの細胞の培養上清は、MDN8由来のモノクローナル抗体(以下、MDN8 MoAbという)およびMDN31由来のモノクローナル抗体(以下、MDN31 MoAbという)として使用した。両抗体のサブクラスはMDN8: IgG2a λ、MDN31;IgG2a κであった。
MDN8 MoAbとMDN31 MoAbのDONとの反応性を、直接競合ELISAで調べた。結果は、
図1に示した通り、MDN8 MoAbがDONとは3~200 ng/mL、15-Ac-DONとは3~85 ng/mL、MDN31 MoAbがDONとは2~200 ng/mL、15-Ac-DONとは3~120 ng/mLの範囲で定量的に反応し、抗DON PoAbと同様にDONと15-Ac-DONに対して高い反応性を示した。一方、3-Ac-DONおよび他のトリコテセン系カビ毒であるニバレノール(nivalenol:NIV)とは全く反応性を示さなかった。
【0052】
11.抗3-Ac-DON MoAbの作製とその反応性
抗3-Ac-DON MoAbも抗DON MoAbと同様の条件で作製した。スクリーニングは、直接ELISAと直接競合ELISAを用いた。直接競合ELISAで3-Ac-DONに高い反応性を示したハイブリドーマを限界希釈法によって細胞クローニングし、 MoAb産生細胞(M3ADN27とM3ADN28)とした。
これらの細胞の培養上清は、M3ADN27 MoAbとM3ADN28 MoAbとして用い、3-Ac-DON、DON、15-Ac-DONとの反応性を、各々直接競合ELISAで調べた。結果は、
図2に示した通り、M3ADN27 MoAbが3-Ac-DON と11~120 ng/mL、15-Ac-DONと210~2300 ng/mL、DONと3300~10000 ng/mLの範囲で、M3ADN28 MoAbが3-Ac-DON と13~140 ng/mL、15-Ac-DONと180~1900 ng/mL、DONと2000~10000 ng/mLの範囲で定量的に反応し、特に3-Ac-DONと高い反応性を示した。一方NIVとは全く反応性を示さなかった。
【0053】
12.抗体CDR領域のアミノ酸配列の決定
抗DONモノクローナル抗体MDN31 MoAb、および抗3-Ac-DONモノクローナル抗体M3ADN27 MoAbとM3ADN28 MoAbの重鎖および軽鎖の可変領域のアミノ酸配列を決定した。詳細は、以下に使用した各キットの取扱説明書に従って実施した。RNeasy mini kit(QIAGEN)を使用し、モノクローナル抗体産生細胞からmRNAを抽出した。その後、5’/3’ RACE Kit、2nd Generation version 10(Roche)を使用し、5’RACE法により、各モノクローナル抗体の軽鎖および重鎖のcDNA断片を増幅した。5’RACE法で使用したプライマーを表4に示す。増幅した一本鎖のcDNA断片は、High Pure PCR Product Purification Kit(Roche)を用いて精製した。精製後、再び5’/3’ RACE Kit、2nd Generationを用いてpoly(A)を付加するとともに、1st PCR、2nd PCRを実施した。アガーロースゲル電気泳動後に該当するDNA断片を切り出し、illustra GFX PCR DNA and Gel Band Purification Kitを用いて精製した。精製したDNA断片をpGEM-T Easy Vector(Promega)にクローニングし、そのDNA配列を分析することで、抗体の軽鎖および重鎖の塩基配列を決定した。これらの配列から、各モノクローナル抗体の重鎖可変領域のCDR(CDR1、CDR2、CDR3)と軽鎖可変領域のCDR(CDR1、CDR2、CDR3)におけるアミノ酸配列と重鎖可変領域と軽鎖可変領域のアミノ酸配列を決定した。
【表4】