(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178513
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C09D 5/44 20060101AFI20241218BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20241218BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20241218BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20241218BHJP
【FI】
C09D5/44 A
C09D163/00
C09D7/61
C09D7/63
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096686
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】足立 明良
(72)【発明者】
【氏名】安藤 亮
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB001
4J038DG282
4J038DG302
4J038GA03
4J038GA08
4J038GA09
4J038GA11
4J038HA146
4J038HA386
4J038HA416
4J038HA426
4J038HA446
4J038JB18
4J038JB27
4J038JC30
4J038KA05
4J038MA08
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA23
4J038NA27
4J038PA04
4J038PA19
4J038PB07
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】 本発明は、被塗物に化成処理をしなくても高い防錆性が発揮できるカチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ニオブ化合物(B)と、を含有するカチオン電着塗料組成物を提供する。前記ニオブ化合物(B)は、酸化ニオブゾルまたは酸化ニオブゾルを安定化させた酸化ニオブコロイド粒子でありうる。本発明のカチオン電着塗料組成物は、更にブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)、シリカ、シランカップリング剤、チタンカップリング剤およびそれらの混合物からなる群から選択された防錆性補助剤(D)、リン酸化合物(E)またはポリアミジン化合物(F)を配合してもよい。本発明は、また、上記カチオン電着塗料組成物を用いて得られた塗装物も提供する。更に、本発明は、上記カチオン電着塗料組成物を用いた塗装方法を提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ニオブ化合物(B)と、
を含有するカチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記ニオブ化合物(B)が、酸化ニオブゾルまたは酸化ニオブゾルを安定化させた酸化ニオブコロイド粒子である、請求項1記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
更に、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を含有する、請求項1または2記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
更に、シリカ、シランカップリング剤、チタンカップリング剤およびそれらの混合物からなる群から選択された防錆性補助剤(D)を含む、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
更に、リン酸化合物(E)を含有する、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
更に、ポリアミジン化合物(F)を含有する、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
前記ポリアミジン化合物は下記一般式:
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、請求項6記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項8】
更に、顔料(G)を含有する、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項9】
更に、硬化触媒(H)を含有する、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項10】
前記カチオン電着塗料組成物が、亜鉛メッキ鋼板、冷間圧延鋼板またはアルミニウム基材に化成処理をせずに塗装される、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項11】
被塗物と、
前記被塗物上に、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する電着塗装物。
【請求項12】
請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える、電着塗装物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、自動車などの工業製品に防錆性を付与するための下塗り塗料として多用されている。通常、カチオン電着塗料で塗装される被塗物は、化成処理をした後、電着塗料浴に浸漬した後、被塗物を陰極として通電して塗装される。このようなカチオン電着塗料塗装は、工程の簡略化および省資源等の観点から、被塗物に化成処理をしないで、直接カチオン電着塗装に付されることが考えられているが、化成処理をしない被塗物はカチオン電着塗装を行っても防錆性が不足する傾向にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、被塗物に化成処理をしなくても高い防錆性が発揮できるカチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ニオブ化合物(B)と、
を含有するカチオン電着塗料組成物。
[2]
前記ニオブ化合物(B)が、酸化ニオブゾルまたは酸化ニオブゾルを安定化させた酸化ニオブコロイド粒子である、[1]記載のカチオン電着塗料組成物。
[3]
更に、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を含有する、[1]または[2]記載のカチオン電着塗料組成物。
[4]
更に、シリカ、シランカップリング剤、チタンカップリング剤およびそれらの混合物からなる群から選択された防錆性補助剤(D)を含む、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[5]
更に、リン酸化合物(E)を含有する[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[6]
更に、ポリアミジン化合物(F)を含有する、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[7]
前記ポリアミジン化合物は下記一般式:
【化1】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、[6]記載のカチオン電着塗料組成物。
[8]
更に、顔料(G)を含有する、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[9]
更に、硬化触媒(H)を含有する、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[10]
前記カチオン電着塗料組成物が、亜鉛メッキ鋼板、冷間圧延鋼板またはアルミニウム基材に化成処理をせずに塗装される、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[11]
被塗物と、
前記被塗物上に、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する電着塗装物。
[12]
[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える、電着塗装物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、カチオン電着塗料組成物に酸化ニオブ化合物(特に、酸化ニオブゾルもしくはそれをクエン酸またはその塩によって安定化された酸化ニオブコロイド粒子)をカチオン電着塗料組成物に配合することにより、被塗物(特に、亜鉛メッキ鋼板やアルミニウム基材)に化成処理を施すことなく、カチオン電着塗装を行い、高い防錆性を有する塗膜を形成することができる。更に、本発明のカチオン電着塗料組成物を用いた電着塗装物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、金属基材が電着塗料組成物浴に浸漬された状態で金属(具体的には、ニオブ)が金属基材に析出して防錆性を発揮するものと考えられる。この金属の析出は、カチオン電着浴で通電を行わずとも起こることもあり、カチオン電着浴に被塗物を陰極として通電した場合には金属の析出がより加速するものと考えられる。被塗物はより具体的には亜鉛メッキ鋼板、冷間圧延鋼板またはアルミニウム基材に、高い防錆効果が化成処理をせずにかつ通電せずに得られる。
【0008】
[カチオン電着塗料組成物]
本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物(以下、単に塗料組成物と称する場合がある。)は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ニオブ化合物(B)を含む。本発明のカチオン電着塗料組成物は、更に、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)、シリカやシランカップリング剤、チタンカップリング剤またはそれらの混合物である防錆性補助剤(D)、リン酸化合物(E)、ポリアミジン化合物(F)、顔料(G)または硬化触媒(H)等を含有する。それぞれの成分について以下に説明する。
【0009】
<アミン化エポキシ樹脂(A)>
アミン化エポキシ樹脂(A)は塗膜形成樹脂である。アミン化エポキシ樹脂は、樹脂エマルションの形態でカチオン電着塗料組成に含まれる。アミン化エポキシ樹脂(A)において、エポキシ樹脂の少なくとも1つのオキシラン環(「エポキシ基」ともいう。)がアミン化されている。
【0010】
アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、例えば、1,000以上7,000以下である。数平均分子量が1,000以上であると、得られる硬化電着塗膜の防錆性および耐溶剤性が向上し易い。数平均分子量が7,000以下であると、アミン化エポキシ樹脂(A)の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、加えて、得られたアミン化エポキシ樹脂(A)の乳化分散が容易になる。アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、1,500以上4,000以下であってもよい。
【0011】
数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、スチレンホモポリマー換算値である。
【0012】
アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価は、例えば、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価が20mgKOH/g以上であると、塗料組成物中におけるアミン化エポキシ樹脂(A)の乳化分散の安定性が良好となる。アミン価が100mgKOH/g以下であると、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性の低下が抑制される。アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価は、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であってもよい。
【0013】
アミン価は、ASTM D2073に準じ、以下の方法で求めることができる。
(1)200ml三角フラスコにアミン化エポキシ樹脂を500mg精秤する。
(2)氷酢酸約50mlを加え、均一に溶解する。
(3)指示薬(メチルバイオレット溶液)を5~6滴加え、均一に攪拌する。
(4)0.1N過塩素酸酢酸溶液で滴定していき、明緑色となった点を終点とする。
(上記(3)および(4)は電位差滴定に置き換えてもよい。)
【0014】
アミン化エポキシ樹脂(A)の水酸基価は、例えば、150mgKOH/g以上650mgKOH/g以下である。水酸基価が150mgKOH/g以上であると、塗料組成物の硬化性が高まるとともに、塗膜外観が向上する。水酸基価が650mgKOH/g以下であると、硬化電着塗膜中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性が向上し易くなる。アミン化エポキシ樹脂の水酸基価は、150mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であってもよい。
【0015】
水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めることができる。
【0016】
特に、アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が1,000~7,000の範囲内であり、アミン価が20~100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が150~650mgKOH/g(好ましくは150~400mgKOH/g)であると、被塗物の防錆性はさらに向上し易い。
【0017】
塗料組成物は、アミン価および/または水酸基価の異なる複数のアミン化エポキシ樹脂(A)を含んでもよい。この場合、複数のアミン化エポキシ樹脂(A)の質量比に基づいて算出される平均アミン価および平均水酸基価が、上記の範囲に含まれることが好ましい。なかでも、複数のアミン化エポキシ樹脂(A)は、アミン価が20~50mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50~300mgKOH/gである第1のアミン化エポキシ樹脂と、アミン価が50~200mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が200~500mgKOH/gである第2のアミン化エポキシ樹脂との2種類のアミン化エポキシ樹脂を含むことが好ましい。第1および第2のアミン化エポキシ樹脂のアミン価の差は、10~100mgKOH/gであり、水酸基価の差は10~300mgKOH/gであるのが好ましい。これにより、エマルションのコア部がより疎水性となり、シェル部がより親水性となるため、被塗物の防錆性はより向上し易くなる。
【0018】
アミン化エポキシ樹脂(A)は、エポキシ樹脂のオキシラン環(「エポキシ基」ともいう。)をアミン化合物で変性することにより得られる。アミン化合物として、ケチミン(ジケチミンを含む)を除く、一級アミノ基、二級アミノ基および三級アミノ基の少なくとも1種を有するアミン化合物を用いることが好ましい。
【0019】
アミン化の際、アミン化合物は、原料エポキシ樹脂が有するエポキシ基1当量に対して0.9当量以上1.2当量以下となる量で用いられることが好ましい。アミン化の反応条件は、反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。例えば、80℃以上150℃以下で、0.1時間以上5時間以下、あるいは120℃以上150℃以下で、0.5時間以上3時間以下反応させればよい。
【0020】
(エポキシ樹脂)
アミン化エポキシ樹脂(A)の出発原料であるエポキシ樹脂は、例えば、多環式フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応生成物である、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂である。上記多環式フェノール化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等が挙げられる。本明細書において、上記「ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂」とは、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂と多環式フェノール化合物とが交互に連続的に反応して鎖延長した状態を含む。
【0021】
エポキシ樹脂のアミン化合物による変性においては、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂及び多環式フェノール化合物が鎖延長反応したエポキシ樹脂を用いることが好ましい。上記鎖延長反応の条件は、特に限定されず、用いる撹拌装置、反応スケール等に応じて適宜選択することができる。反応条件としては、例えば、85~180℃で0.1~8時間とすることができる。より好ましくは、100~150℃で2~8時間とすることができる。用いる撹拌装置としては、特に限定されず、塗料分野において一般的に用いられる撹拌装置を使用できる。
【0022】
エポキシ樹脂としては、上記以外に、特開平5-306327号公報に記載のオキサゾリドン環含有エポキシ樹脂を挙げることができる。これらのエポキシ樹脂は、ジイソシアネート化合物、またはジイソシアネート化合物のイソシアネート基をメタノール、エタノール等の低級アルコールでブロックして得られたビスウレタン化合物と、エピクロルヒドリンとの反応によって調製することができる。
【0023】
上記エポキシ樹脂として、アミン化合物による変性の前に、その一部を鎖延長反応させたものを用いてもよい。上記鎖延長反応には、例えば、2官能性のポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、2塩基性カルボン酸等を用いることができる。上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレンオキシド基を有するポリオール、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオール等が挙げられる。これにより、例えば、ポリプロピレンオキシド基を有するポリオールを用いて鎖延長反応を行う場合は、ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂となる。上記ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して1~40質量部であることが好ましく、15~25質量部であることがより好ましい。上記ポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂と同様の態様であるエポキシ樹脂として、ポリフェノールポリグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、多環式フェノール化合物及びポリプロピレンオキシド基含有エポキシ樹脂が鎖延長反応したエポキシ樹脂が挙げられる。
【0024】
アミン化エポキシ樹脂(A)は、上記エポキシ樹脂のエポキシ基とアミン化合物とを反応させることで得られる。上記エポキシ樹脂のエポキシ基は、上記アミン化合物との反応により全て消費されて、アミン化エポキシ樹脂(A)の分子中には実質的に残存しない。
【0025】
(アミン化合物)
エポキシ樹脂のアミン化に用いられるケチミン以外のアミン化合物としては、例えば、ブチルアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミンなどの一級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミンなどの二級アミン;トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどの三級アミン;ジエチレントリアミンなどの複合アミン;N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミンなどの、一級アミノ基と三級アミノ基とを有するジアミン;N-(3-アミノプロピル)ジエタノールアミンなどの、一級アミノ基と三級アミノ基とヒドロキシル基とを有するジアミンが挙げられる。アミン化合物は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、ヒドロキシル基を有するジアミンを用いると、塗膜の密着性および硬化性が向上し易い。
【0026】
アミン化合物において、一級アミノ基の数は特に限定されず、1個または2個以上であればよい。なかでも、反応制御の観点から、一級アミノ基の数は1個が好ましい。ヒドロキシル基の数も特に限定されず、1個または2個以上であればよい。
【0027】
(他の塗膜形成樹脂)
カチオン電着塗料組成物は、必要に応じて、アミン化エポキシ樹脂(A)以外のアミン化樹脂、例えば、アミン化アクリル樹脂、アミン化ポリエステル樹脂を含んでもよい。塗料組成物は、また、上記アミン化樹脂以外の他の塗膜形成樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂としては、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。塗料組成物に含まれるすべての硬化性化樹脂のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、アミン化エポキシ樹脂(A)であってよい。
【0028】
<ニオブ化合物(B))>
ニオブ化合物は、ニオブが含まれる化合物であればよいが、通常、酸化ニオブが一般的に用いられる。特に、酸化ニオブゾルが入手しやすい。酸化ニオブゾルとしては特に限定されず、例えば、日本特許第2849799号等に記載された公知の方法によって製造されたもの等を挙げることができる。また、多木化学株式会社によって製造されている酸化ニオブゾルを使用することもできる。
【0029】
上記酸化ニオブゾルの製造方法としては、例えば、酸化ニオブをフッ化水素酸に溶解し、アンモニア水に添加した後、ろ過、洗浄を行い、水酸化ニオブのスラリーを得た後、シュウ酸二水和物を添加し、次いで水を添加し、攪拌しながら還流条件下で反応を進行させ、均一な、酸化ニオブコロイド粒子からなる溶液を得た後、クエン酸又はその塩を添加し、攪拌混合を行う方法を挙げることができる。必要に応じて、得られた酸化ニオブゾルにアンモニア等の塩基性化合物を添加して所望のpHに調整してもよい。均一な、酸化ニオブコロイド粒子溶液が得られたかどうかはスラリー液の色で判断することが可能であり、青色を帯びると均一な状態であると判断することができる。
【0030】
本発明のカチオン電着塗料組成物に使用することができる酸化ニオブゾルは、シュウ酸によって安定化された酸化ニオブゾル溶液に対して更にクエン酸を含有させて高度に安定化させたものであってよい。本発明のカチオン電着塗料組成物は、必要に応じて上記酸化ニオブゾルを必要な濃度に希釈したり、他の成分を混合したりすることによって調製することができ、調製後も長期にわたり増粘、ゲル化、沈殿等を引き起こすことなく安定である。肝心なことは、本発明のカチオン電着塗料組成物に使用する酸化ニオブゾルは、クエン酸又はその塩で高度に安定化された状態であって、上記酸化ニオブゾルの製造時に配合されるシュウ酸又はその塩の量は特に限定されない。このことにより、本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれる他の成分、例えば、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)、シリカやシランカップリング剤、チタンカップリング剤またはそれらの混合物である防錆性補助剤(D)、リン酸化合物(E)、ポリアミジン化合物(F)、顔料(G)または硬化触媒(H)等と混合した際にも酸化ニオブコロイド粒子の安定性が低下しない点で好ましい。
【0031】
本発明のカチオン電着塗料組成物に添加されるクエン酸又はその塩の量は、カチオン電着塗料組成物中のNbに対してモル比で下限0.02、上限1.0の範囲内であることが好ましい。上記クエン酸又はその塩の添加量がモル比で0.02未満であると、他の成分を添加した時の安定性が不充分となり、1.0を超えると、もはや添加量に相応した安定化の効果が得られず、不経済である。
【0032】
上記酸化ニオブコロイド粒子は、平均粒子径が100nm以下であることが好ましい。上記平均粒子径は小さい方が、より安定して緻密な酸化ニオブの処理皮膜が形成されるため、被塗物に対して安定して防錆性を付与することができる。上記酸化ニオブコロイド粒子の平均粒子径は、動的散乱光による粒度分布測定装置、例えば、NICOMP Model-370型(PACIFIC SCIENTIFIC社製)等を用いて測定することができる。
【0033】
本発明のカチオン電着塗料組成物は、上記酸化ニオブコロイド粒子を、該コロイド粒子中のNbをNb2O5として換算した場合、カチオン電着塗料組成物の全不揮発分に対して1質量%以上含有することが好ましい。上記含有率が1質量%未満であると充分な防錆性が得られず、好ましくない。上記含有率の下限は、2質量%であることがより好ましく、3質量%であることが更に好ましい。上記含有率の上限は、30質量%であることがより好ましく、15質量%であることが更に好ましい。
【0034】
<ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)>
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)(以下、単に硬化剤(C)と称する場合がある。)もまた、カチオン電着塗料組成物に配合してもよい。カチオン電着塗料は通常ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)の存在により、塗膜形成成分であるアミン化エポキシ樹脂(A)中の反応基(具体的には、水酸基またはアミノ基)と反応して硬化塗膜を形成するが、本発明のカチオン電着塗料組成物はこのブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)が存在しなくても、金属基材(特に、亜鉛メッキ鋼板、冷間圧延鋼板やアルミニウム基材)上にニオブが析出し、さらにアミン化エポキシ樹脂がその後析出して塗膜を形成するいわゆるラッカー的な塗膜形成(積極的硬化反応を伴わない塗膜形成)として使用することもできる。従って、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)は添加剤として記載している。通常、カチオン電着塗料組成物はブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を含み、積極的に加熱硬化することが多い。
【0035】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。
【0036】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0037】
封止剤の例としては、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0038】
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、塗料組成物の貯蔵安定性が向上する。
【0039】
硬化剤(代表的には、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C))の含有量は、塗膜形成樹脂(代表的には、アミン化エポキシ樹脂(A))の量、構造等を考慮して設定される。具体的には、塗膜形成樹脂が有する一級アミノ基、二級アミノ基および水酸基などの活性水素含有官能基と反応するのに十分な量の硬化剤が用いられる。硬化剤は、例えば、塗膜形成樹脂と硬化剤との固形分質量比(塗膜形成樹脂/硬化剤)が、90/10~50/50、より好ましくは80/20~65/35になるように配合される。塗膜形成樹脂と硬化剤との固形分質量比によって、塗料組成物の流動性および硬化速度が制御される。
【0040】
カチオン電着塗料組成物は、必要に応じて、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)以外の硬化剤を含んでいてよい。他の硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤や、下記成分(D)として説明する防錆性補助剤であるシランカップリング剤が挙げられる。カチオン電着塗料組成物に含まれるすべての硬化剤のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)であってよい。
【0041】
<シリカ、シランカップリング剤、チタンカップリング剤およびそれらの混合物からなる群から選択される防錆性補助剤(D)>
本発明のカチオン電着塗料組成物は、シリカ、シランカップリング剤、チタンカップリング剤およびそれらの混合物からなる群から選択された防錆性補助剤(D)を含んでもよい。これらはニオブ化合物(B)と併用して防錆性能を相乗的に向上するので、防錆性補助剤とする。シリカとしては、通常水分散性シリカが挙げられる。
【0042】
上記水分散性シリカとしては特に限定されず、例えば、ナトリウム等の不純物が少ない、球状シリカ、鎖状シリカ、アルミ修飾シリカ等を挙げることができる。上記球状シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックスN」、「スノーテックスO」、「スノーテックスOXS」、「スノーテックスUP」(いずれも日産化学工業株式会社製)等のコロイダルシリカや、「アエロジル」(日本アエロジル株式会社製)等のヒュームドシリカ等を挙げることができる。上記鎖状シリカとしては特に限定されず、例えば、「スノーテックスPS-M」、「スノーテックスPS-MO」(いずれも日産化学工業株式会社製)等のシリカゲル等を挙げることができる。上記アルミ修飾シリカとしては、「アデライトAT-20A」(旭電化工業株式会社製)等の市販のシリカゲル等を挙げることができる。
【0043】
本発明のカチオン電着塗料組成物が上記水分散性シリカを含有する場合、カチオン電着塗料組成物中のSiO2含有率は、カチオン電着塗料組成物中の全不揮発分に対して30質量%以下であることが好ましい。30質量%を超えると、皮膜が脆くなり防錆性が低下するという問題がある。上記上限は、30質量%であることがより好ましく、3質量%であることが更に好ましい。
【0044】
シランカップリング剤やチタンカップリング剤は、金属表面に対する密着性を改善することができ、さらにアミン化エポキシ樹脂(A)の架橋剤的な作用を有し、耐食性が向上するという点で好ましい。
【0045】
シランカップリング剤としては特に制限されず、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N,N’-ビス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(β-アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N-〔2-(ビニルベンジルアミノ)エチル〕-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。
【0046】
なかでも、特に好ましいシランカップリング剤としては、ビニルメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N-(1,3-ジメチルブチリデン)-3-(トリエトキシシリル)-1-プロパンアミン、N,N’-ビス〔3-(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミンを挙げることができる。上記シランカップリング剤は1種類を単独で使用するものであっても、2種類以上を併用して使用するものであってもよい。
【0047】
チタンカップリング剤としては、特に限定されず、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリ-n-ドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルピロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2-ジアリルオキシメチル-1-ブチル)ビス(ジ-トリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)オキシアセテートチタネート、ビス(ジオクチルピロホスフェート)エチレンチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリロイルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル-アミノエチル)チタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラキス(2-エチルヘキシル)チタネート、テトラステアリルチタネート、テトラメチルチタネート、ジエトキシビス(アセチルアセトナト)チタン、ジイソプロピルビス(アセチルアセトナト)チタン、ジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)チタン、イソプロポキシ(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン、ジ(2-エチルヘキソキシ)ビス(2-エチル-1,3-ヘキサンジオラト)チタン、ジ-n-ブトキシビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラアセチルアセトネートチタン、ヒドロキシビス(ラクタト)チタン、ジクミルフェニルオキシアセテートチタネート、ジイソステアロイルエチレンチタネート等を挙げることができる。
【0048】
上記チタンカップリング剤としては、市販品を用いることができ、例えば、味の素ファインテクノ(株)製のプレンアクトシリーズであるKR-TTS、KR-46B、KR-55、KR-41B、KR-38S、KR-138S、KR-238S、338X、KR44、KR9SA等;マツモトファインケミカル(株)製のオルガチックスシリーズであるTA‐10、TA‐25、TA‐22、TA‐30、TC‐100、TC‐200、TC‐401、TC‐750等;日本曹達(株)製のA-1、B-1、TOT、TST、TAA、TAT、TLA、TOG、TBSTA、A-10、TBT、B-2、B-4、B-7、B-10、TBSTA-400、TTS、TOA-30、TSDMA、TTAB、TTOP等を挙げることができる。
【0049】
本発明のカチオン電着塗料組成物が上記シランカップリング剤またはチタンカップリング剤(単に、「カップリング剤」と言うこともある。)を含有する場合、シランカップリング剤またはチタンカップリング剤含有率は、カチオン電着塗料組成物の全不揮発分に対して下限0.5質量%、上限30質量%の範囲内であることが好ましい。カップリング剤の含有率が0.5質量%未満になると防錆性補助機能が不足する場合があり、30質量%を超えると添加効果が飽和し不経済になるとともに、組成物のゲル化、増粘等が起こり、液安定性が低下するおそれがあるため好ましくない。上記下限は、1質量%であることがより好ましく、上記上限は、20質量%であることがより好ましい。
【0050】
<リン酸化合物(E)>
本発明のカチオン電着塗料組成物は、リン酸化合物(E)を含有することが好ましい。本発明のカチオン電着塗料組成物に含まれるリン酸化合物は、被塗物の表面にリン酸金属塩を形成することによって、表面処理膜の防錆性を更に向上させる働きがある。
【0051】
上記リン酸化合物としては、水中においてリン酸イオンを形成することができる化合物であれば特に限定されず、例えば、リン酸類(例えば、亜リン酸、次亜リン酸、有機リン酸、有機亜リン酸、リン酸、ホスホン酸等);リン酸塩類(例えば、Na3PO4、Na2HPO4、NaH2PO4、リン酸亜鉛等);縮合リン酸(例えば、縮合リン酸、ポリリン酸、メタリン酸、ピロリン酸、及びウルトラリン酸等)又はそれらの塩類等が挙げられる。
【0052】
本発明のカチオン電着塗料組成物が上記リン酸化合物を含有する場合、カチオン電着塗料組成物中のリン酸化合物含有率は、カチオン電着塗料組成物の全固形物に対して、下限0.1質量%、上限20質量%の範囲内であることが好ましい。含有率が0.1質量%未満であると耐食性の改善効果が充分でない場合があり、20質量%を超えると亜鉛系めっき鋼板に過剰なエッチングを起こしたり、組成物のゲル化を引き起こしたりする場合があるので好ましくない。上記下限は、より好ましくは、0.5質量%であり、上記上限は、より好ましくは、10質量%である。
【0053】
<ポリアミジン化合物(F)>
ポリアミジン化合物(F)は、金属基材のエッジ部の防食性を向上させるために添加される。ポリアミジン化合物(F)は、具体的には環状ポリアミジン化合物であり、下記一般式(I):
【化2】
(式中、R
1およびR
2はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される環状アミジン構造を有する構成単位を含む。
【0054】
このような環状構造を有するポリアミジン化合物は、電荷を有するためエッジ部に析出し易く、さらにカチオン電着塗料組成物の粘度を高める。そのため、エッジ部防錆性が向上すると考えられる。
【0055】
R1およびR2はそれぞれ独立して、水素原子であってよい。Xは、例えば、ハロゲンイオンである。ハロゲンイオンとしては、F-、Cl-、Br-、I-が挙げられる。なかでも、入手し易い点で、ハロゲンイオンはCl-であってよい。
【0056】
環状ポリアミジン化合物は、例えば、N-ビニルカルボン酸アミドと不飽和ニトリルとの共重合物を、酸の存在下で加水分解することにより合成することができる。酸の存在下における加水分解の際、N-ビニルカルボン酸アミドに由来するアミド基が加水分解するとともに、不飽和ニトリルのシアノ基との反応が生じて、環状のアミジン骨格が形成される。
【0057】
N-ビニルカルボン酸アミドとしては、例えば、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-ビニルプロピオン酸アミドおよびN-ビニル酪酸アミドが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0058】
不飽和ニトリルは、例えば、炭素数3~18であってよく、炭素数3~9であってよい。不飽和ニトリルとして、具体的には、アクリロニトリル;メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;フマロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリルが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0059】
加水分解に使用される酸は、例えば無機の強酸であり、具体的には塩酸、硝酸およびp-トルエンスルフォン酸が挙げられる。
【0060】
環状ポリアミジン化合物は、N-ビニルカルボン酸アミドと不飽和ニトリルとの共重合物の部分加水分化物であってよい。従って、環状ポリアミジン化合物は、上記の構成単位(I)と、例えば、下記二つの一般式:
【化3】
【化4】
(上記2つの式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基である。)
で表される構成単位(II)と(III)と、をランダムに含み得る。この構成単位(II)と(III)が以下の化学式のように並んだ時に、加水分解することにより、上記構成単位(I)のアミジン構造が得られる:
【化5】
(式中、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基である。)
【0061】
環状ポリアミジン化合物の数平均分子量は、例えば、5万以上である。これにより、少量で、エッジ部防錆性向上の効果を得ることができる。環状ポリアミジン化合物の数平均分子量は、8万以上であってよく、10万以上であってよく、30万以上であってよい。環状ポリアミジン化合物の数平均分子量は、400万以下であってよく、350万以下であってよく、320万以下であってよく、300万以下であってよい。一態様において、環状ポリアミジン化合物の数平均分子量は、5万以上400万以下であり、8万以上320万以下であり得る。
【0062】
ポリアミジン化合物(F)の固形分質量は、カチオン電着塗料組成物の固形分質量の20ppm以上であってよい。ポリアミジン化合物(F)の固形分質量は、1,200ppm以下であってよい。ポリアミジン化合物(F)の添加量がこのように少量であっても、エッジ部防錆性向上の効果を得ることができる。ポリアミジン化合物(F)の固形分質量は、23ppm以上であってよく、25ppm以上であってよく、50ppm以上であってよい。ポリアミジン化合物(F)の固形分質量は、1,000ppm以下であってよく、700ppm以下であってよく、200ppm以下であってよい。一態様において、ポリアミジン化合物(F)の上記固形分質量は、20ppm以上1,200ppm以下であり、25ppm以上1,000ppm以下であり得、25ppm以上700ppm以下であり得、50ppm以上200ppm以下であり得る。
【0063】
<顔料(G)>
顔料は、カチオン電着塗料組成物において一般的に用いられる顔料である。顔料としては、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、酸化亜鉛、カーボンブラックおよびベンガラなどの着色顔料;カオリン(例えば、焼成カオリン)、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーなどの体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などの防錆顔料が挙げられる。エッジ部防錆性がより向上し得る点で、塗料組成物は体質顔料を含んでいてよい。
【0064】
カチオン電着塗料組成物の固形分とは、塗料組成物中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全てを意味する。顔料は、通常、顔料分散樹脂および顔料を含む顔料分散ペーストとして、カチオン電着塗料組成物に添加される。
【0065】
(顔料分散樹脂)
顔料分散樹脂は、顔料を分散させるための樹脂である。顔料分散樹脂としては、例えば、四級アンモニウム基、三級スルホニウム基および一級アミノ基から選択される少なくとも1種を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂が挙げられる。顔料分散樹脂の具体例としては、四級アンモニウム基含有エポキシ樹脂、三級スルホニウム基含有エポキシ樹脂が挙げられる。水性溶媒としては、例えば、イオン交換水、少量のアルコール類を含むイオン交換水が挙げられる。
【0066】
<硬化触媒(H)>
カチオン電着塗料組成物は、硬化触媒を含んでもよい。硬化触媒は特に限定されず、塗料分野において公知のものが使用できる。硬化触媒としては、例えば、有機スズ化合物、ビスマス化合物が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫ジベンゾエートが挙げられる。ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、次サリチル酸ビスマス、次硝酸ビスマスが挙げられる。
【0067】
環境負荷の観点から、硬化触媒(特に、有機スズ化合物)の含有量は、塗料組成物の固形分の0.5質量%以下であってよく、0.25質量%以下であってよい。
【0068】
<その他の成分>
塗料組成物は、必要に応じて、塗料分野において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、無機防錆剤を含んでよい。有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。無機防錆剤としては、例えば、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩が挙げられる。
【0069】
さらに、上記以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などが含まれてもよい。
【0070】
<カチオン電着塗料組成物の調製>
塗料組成物は、塗膜形成樹脂(代表的には、アミン化エポキシ樹脂(A))およびニオブ化合物(B)、必要に応じて他の添加剤成分、具体的にはブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)、シリカやシランカップリング剤、チタンカップリング剤またはそれらの混合物である防錆性補助剤(D)、リン酸化合物(E)、ポリアミジン化合物(F)、顔料(G)または硬化触媒(H)等を、通常用いられる方法により混合することによって、調製される。
【0071】
その他の成分および添加剤成分は、樹脂エマルションに添加されてもよいし、顔料分散ペーストに添加されてもよいし、樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合時または混合後に添加されてもよい。
【0072】
(樹脂エマルションの調製)
樹脂エマルションは、アミン化エポキシ樹脂(A)およびさらにその他の塗膜形成樹脂、ならびに、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)およびさらにその他の硬化剤のそれぞれを、有機溶媒中に溶解させて溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することにより、調製することができる。
【0073】
中和酸としては、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。中和酸は、ギ酸、酢酸および乳酸よりなる群から選択される1種またはそれ以上であってよい。
【0074】
樹脂エマルションの固形分量は、例えば、樹脂エマルション全量に対して25質量%以上50質量%以下であり、35質量%以上45質量%以下であってよい。樹脂エマルションの固形分とは、樹脂エマルション中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全てを意味する。樹脂エマルションの固形分とは、具体的には、樹脂エマルション中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)および必要に応じて添加される他の固形成分である。
【0075】
中和酸の使用量は、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10%以上100%以下であってよく、20%以上70%以下であってよい。以下、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率と称する。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0076】
(顔料分散ペーストの調製方法)
顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂、顔料等の固体物質(本発明では、ニオブ化合物(B)、防錆性補助剤(D)、リン酸化合物(E)、顔料(G)および硬化触媒(H)のいずれかまたはそれらの混合物)および必要に応じてポリアミジン化合物(F)を混合して調製される。顔料分散ペースト中の顔料分散樹脂の固形分質量は特に限定されず、例えば、顔料100質量部に対して20質量部以上100質量部以下であってよい。
【0077】
顔料分散ペーストの固形分質量は、例えば、40質量%以上70質量%以下であり、50質量%以上60質量%以下であってよい。
【0078】
顔料分散ペーストの固形分とは、顔料分散ペースト中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全てを意味する。顔料分散ペーストの固形分とは、具体的には、顔料分散ペースト中に含まれる、顔料分散樹脂、顔料および必要に応じて添加される他の固形成分である。
【0079】
[電着塗装物の製造方法]
塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装することによって、電着塗膜が形成される。
電着塗膜を有する電着塗装物は、本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、被塗物と対極との間に電圧を印加して、被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える方法(製造方法1)により製造される。
【0080】
カチオン電着塗料組成物は、上記の通り、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ニオブ化合物(B)、必要に応じて添加剤成分(ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)、防錆性補助剤(D)、リン酸化合物(E)、ポリアミジン化合物(F)、顔料(G)、硬化触媒(H)またはこれらの組合せ)と、を含む。
【0081】
(1)未硬化の電着塗膜の形成
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、被塗物を陰極として、対極(陽極)との間に電圧を印加する。これにより、未硬化の電着塗膜が被塗物上に析出する。
【0082】
(印加条件)
電圧は、例えば、50V以上450V以下である。浴液温度は、例えば、10℃以上45℃以下である。電圧を印加する時間は特に限定されず、例えば、2分以上5分以下である。
【0083】
(被塗物)
被塗物の材質は特に限定されず、通電可能であればよい。被塗物の形状も特に限定されず、平板状であってよく、複雑な立体形状であってよい。被塗物としては、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板、およびこれらに化成処理(例えば、リン酸塩、ジルコニウム塩などを用いた表面処理)を施したものが挙げられる。リン酸塩で化成処理する場合、化成処理の前に、被塗物を亜鉛系、チタン系、マンガン系の表面調整剤で表面調整処理してもよい。これにより、リン酸亜鉛皮膜の結晶がより緻密になる。本発明では、被塗物は化成処理をしていないもの、特に亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム基材をそのまま化成処理をせずに用いることができる。化成処理をせずに使用することで、化成処理工程を省略することができ、非常に有利である。
【0084】
(2)電着塗膜の硬化
形成された未硬化の電着塗膜を、必要に応じて水洗した後、75℃以上200℃以下の温度で加熱する。これにより、硬化反応が生じて、硬化した電着塗膜が得られる。
【0085】
(硬化条件)
硬化温度は、100℃以上であってよく、110℃以上であってよい。硬化温度は、例えば180℃以下であってよく、150℃以下であってよい。加熱時間は特に限定されず、例えば、10分から30分である。
【0086】
[電着塗装物]
電着塗装物は、被塗物と、被塗物上に、上記のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する。電着塗膜は硬化している。電着塗装物は、例えば、上記の方法により製造される。電着塗装物は、防錆性に優れる。電着塗装物は、さらに、良好な外観を有する。
【0087】
硬化後の電着塗膜の膜厚は、防錆性の観点から、5μm以上60μm以下であってよい。硬化後の電着塗膜の膜厚は、10μm以上であってよい。硬化後の電着塗膜の膜厚は、25μm以下であってよい。
【実施例0088】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0089】
[製造例1]アミン化エポキシ樹脂(A1)の製造
反応容器に、ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA380部、フェノール58部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、内部の温度を120℃に保持した。エポキシ当量が1100g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ジエタノールアミン(DETA)60部、N-メチルエタノールアミン(MMA)20部、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン:固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)85部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂を得た。
【0090】
[製造例2]アミン化エポキシ樹脂(A2)の製造
攪拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、DER-331J(ダウケミカル社製、ビスフェノールAのジグリシジルエーテル)198質量部及びビスフェノールA108質量部を入れ、DPnB(プロピレングリコールモノブチルエーテル)45.7質量部及びメチルイソブチルケトン(MIBK)56.5質量部に溶解した。ここに、ジメチルベンジルアミン0.8質量部を加えて、エポキシ当量が4,000になるまで120℃で反応を続け、原料となるビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂を得た。反応終了後、DPnB62.5質量部及びケチミン34.9質量部を加え、120℃で1時間反応させて、ビスフェノール骨格を有するアミン化エポキシ樹脂(A2)を得た。
【0091】
得られたアミン化エポキシ樹脂の数平均分子量は6,000であった。
得られたアミン変性エポキシ樹脂(A2)を、90%酢酸5.2質量部及びイオン交換水482.5質量部の混合液に加えて十分に攪拌した後、さらに、減圧下50℃でMIBKと水の混合物163.3質量部を留去して、アミン化エポキシ樹脂(A2)の水分散体(固形分濃度:38質量%)を得た。
【0092】
[製造例3]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)の製造
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)1370部およびメチルイソブチルケトン(MIBK)732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、ブチルジグリコールエーテル300部、ブチルセロソルブ1330を60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認した。放冷後、MIBK27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)を得た。
【0093】
[製造例4]顔料分散樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート2220部およびメチルイソブチルケトン342.1部を仕込んだ。50℃に昇温して、さらにジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃に昇温して、さらにメチルエチルケトンオキシム878.7部を投入した。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部をさらに投入した。さらに、60℃で1時間保温し、IRでNCOピークが消失していることを確認した。次いで、60℃を超えないよう冷却しながら、50%乳酸1872.6部および脱イオン水495部を投入して四級化剤を得た。
【0094】
異なる反応容器にトリレンジイソシアネート870部およびメチルイソブチルケトン49.5部を仕込んだ。50℃以上にならないように冷却しながら、反応容器に2-エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにメチルイソブチルケトン35.5部を投入し、30分保温した。その後、NCO当量が330~370になっていることを確認して、ハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0095】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940.0部およびメタノール38.5部を仕込み、さらにジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、トリレンジイソシアネート87.1部投入した。さらに100℃に昇温してN,N-ジメチルベンジルアミン1.4部を投入し、その後、130℃で2時間保温した。このとき、分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、メチルイソブチルケトンを固形分濃度90%になるまで仕込んだ。その後、ビスフェノールA270.3部および2-エチルヘキサン酸39.2部を仕込み、125℃で2時間加熱撹拌した。続いて、上記ハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後、30分間加熱撹拌した。さらに、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加えて、これに溶解させた。90℃まで冷却後、上記四級化剤を加え、70~80℃に保持した。その後、酸価が2以下になったことを確認して、顔料分散樹脂(樹脂固形分30%)を得た。
【0096】
[調製例1]顔料分散ペーストAの調製
サンドグラインドミルにイオン交換水116.7部、50%乳酸水溶液15.7部および酸化ビスマス20.3部を撹拌・混合した。ここに、製造例4で得た顔料分散樹脂を169.4部およびポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤を0.7部加え、60℃で1時間、ディゾルバーで3000rpmにて攪拌した。つぎに、顔料分散樹脂338.7部を添加攪拌し、その後、顔料である酸化亜鉛6.8部、カーボンブラック67.7部、焼成カオリン264.1部を加え、サンドミルを用いて40℃で20分間、1800rpmにて粒度10μm以下になるまで分散して、固形分濃度53質量%の顔料ペーストAが得られた。
【0097】
[調製例2]顔料分散ペーストBの製造
サンドグラインドミルにイオン交換水117部に、50%乳酸水溶液15.7部および酸化ビスマス20.3部を撹拌・混合した。ここに、製造例4で得た顔料分散樹脂を169.4部およびポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤を0.7部加え、60℃で1時間、ディゾルバーで3000rpmにて攪拌した。つぎに、顔料分散樹脂338.7部を添加攪拌し、その後、顔料である酸化亜鉛6.8部、カーボン67.7部、焼成カオリン237.7部、顔料シリカ26.4部を加え、サンドミルを用いて40℃で20分間、1800rpmにて粒度10μm以下になるまで分散して、固形分濃度53質量%の顔料ペーストBが得られた。
【0098】
[調製例3]顔料分散ペーストCの製造
サンドグラインドミルにイオン交換水117部、50%乳酸水溶液15.7部および酸化ビスマス20.3部を撹拌・混合した。ここに、製造例4で得た顔料分散樹脂を169.4部およびポリオキシアルキレン型非イオン界面活性剤を0.7部加え、60℃で1時間、ディゾルバーで3000rpmにて攪拌した。つぎに、顔料分散樹脂338.7部を添加攪拌し、その後、顔料である酸化亜鉛6.8部、カーボン67.7部、焼成カオリン237.7部、リン酸亜鉛系防錆顔料(商品名LFボウセイ P-W-2、キクチカラー社製26.4部を加え、サンドミルを用いて40℃で20分間、1800rpmにて粒度10μm以下になるまで分散して、固形分濃度53質量%の顔料ペーストBが得られた。
【0099】
[実施例1]
(樹脂エマルションの調製)
製造例1で得たアミン化エポキシ樹脂(A1)450部(固形分)と、製造例2で得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤(C)240部(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して0.7%(4.5部)になるように添加した。次に酢酸を中和率45%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈して樹脂エマルションを得た。
【0100】
(カチオン電着塗料組成物の製造)
ステンレス容器に、イオン交換水654.4部、アミン変性エポキシ樹脂(A1)のエマルション687.8部、顔料分散ペースト157.8部および酸化ニオブゾル(Nb2O5;6%、平均粒子径5nm、pH8、NH3/酸化ニオブ(Nb2O5)(モル比)=0.5~1.5、多木化学株式会社製)を3.57部加えて混合し、その後、40℃で16時間エージングして、カチオン電着塗料組成物A1を得た。
【0101】
(2)電着塗装物の作製
冷間圧延鋼板、亜鉛めっき鋼板およびアルミニウム基材を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント社製)中に50℃ で2分間浸漬して、脱脂処理した。その後、脱イオン水による水洗を行った。
【0102】
カチオン電着塗料組成物A1に、硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなるようにエチレングリコールモノヘキシルエーテルを必要量添加し、その後に亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材を浸漬して、30秒昇圧し各実施例の条件の電圧に達してから150秒間保持するという条件で電圧を印加して、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で15分間加熱硬化させて、膜厚20μmの硬化電着塗膜を有する電着塗装物を得た。
【0103】
得られた塗装物(冷間圧延鋼板、亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材)について、以下に記載の方法で腐食試験(サイクル腐食試験)および外観の評価を行った。結果を表1に示す。表1には、使用した成分の配合量(添加量を質量%に変更した値で記載)も記載した。表1では、「外観」は被塗物の亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材の両方で評価したが、同じ結果であるので、被塗物毎に分離して記載していない。
【0104】
<サイクル腐食試験(Cycle Corrosion Test(CCT))>
電着塗装物である亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材の両方を用いて、硬化後の電着塗装板の塗膜に基材に達するようにナイフでクロスカット傷を入れ、JASOM609-91「自動車用材料腐食試験方法」を100サイクル行った。その後、クロスカット部からの錆やフクレ発生を観察し、実際の腐食環境に即した耐食性を亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材の両方についてそれぞれ評価した。評価基準は以下の通りである。
評価基準
5:錆またはフクレの最大幅がカット部より7.5mm未満(両側)カット部以外にブリスターなし
4:錆またはフクレの最大幅がカット部より5mm以上6mm未満(両側)カット部以外もブリスターあり
3:錆またはフクレの最大幅がカット部より6mm以上10mm未満(両側)
2:錆またはフクレの最大幅がカット部より10mm以上12.5mm未満(両側)
1:錆またはフクレの最大幅がカット部より12.5mm以上(両側)
合格は3以上である。
【0105】
<外観>
JIS-B0601に準拠した方法により、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ-201P)を用いて、硬化電着塗膜の粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値(μm)を得た。Ra値が小さい程、凹凸が少なく、塗膜外観が良好である。
5:Raが0.2μm未満の場合
4:Raが0.2μm以上~0.3μm未満の場合
3:Raが0.3μm以上~0.4μm未満の場合
2:Raが0.4μm以上~0.5μm未満の場合
1:Raが0.5μm以上の場合。
【0106】
[実施例2]
実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を得て、亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材に電着塗装して電着塗装物を作製した。尚、塗装物である亜鉛メッキ鋼板とアルミニウム基材はサーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して脱脂処理し、サーフファインGL1(日本ペイントサーフケミカルズ社製)に常温30秒浸漬して表面調整し、次いでリン酸亜鉛化成処理液であるサーフダインSD-5000(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)に40℃で2分間浸漬した。その後、脱イオン水による水洗を行った。得られた電着塗装物に実施例1と同様にサイクル腐食試験および外観を評価した。結果を表1に示す。
【0107】
[実施例3]
実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を表1に記載する配合量で得て、亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材に塗装して電着塗装物を作製した。得られた電着塗装物に実施例1と同様にサイクル腐食試験および外観を評価した。この実施例3は、顔料(G)を含まない実験である。結果を表1に示す。
【0108】
[実施例4~10]
実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を表1に記載する配合量で得て、亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材に塗装して電着塗装物を作製した。得られた電着塗装物に実施例1と同様にサイクル腐食試験および外観を評価した。結果を表1に示す。
[実施例11]
実施例1に対してさらにポリアミジン化合物(F)(ハイモ株式会社、ハイモロックZP-700、数平均分子量300万、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物)の2%水溶液を、その固形分量がカチオン電着塗料組成物の固形分質量の0.1質量部になるように、添加して表1に記載の基材に塗装して電着塗装物を作製した。得られた電着塗装物に実施例1と同様にサイクル腐食試験および外観を評価した。結果を表1に示す。
【0109】
[比較例1~4]
ニオブ化合物(B)を添加しなかったことおよび表1に記載の成分を使用する以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を得た。得られたカチオン電着塗料組成物を用いて、亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材に塗装して電着塗装物を作製した。比較例1および2は、実施例1および2に対応するニオブ化合物を含まない例である。比較例3はニオブ化合物ではなく、バナジウムを含む化合物を用いた例であり、比較例4はイットリウムを含む化合物を用いた例である。
得られた電着塗装物に実施例1と同様にサイクル腐食試験および外観を評価した。結果を表1に示す。
【0110】
【0111】
表1において使用した成分は、以下の通りである:
酸化ニオブコロイド粒子:酸化ニオブコロイド粒子水分散体(Nb2O5;10%、平均粒子径;2000nm)。
シランカップリング剤:KBM403、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン;信越化学工業株式会社製。
シリカ:サイリシア550(二酸化ケイ素(非結晶);富士シリシア化学株式会社製)
チタンカップリング剤:オルガチックスTC400(チタントリエタノールアミネート;Ti;10.4%;固形分換算値);マツモトファインケミカル株式会社製。
ホスホン酸:試薬。
リン酸亜鉛系防錆顔料:LFボウセイP-W-2(リン酸亜鉛);キクチカラー株式会社製。
ポリアミジン化合物(F):ハイモロックZP-700、数平均分子量300万、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物、構成単位(I)と構成単位(I+II)との割合:(I)/(I+II)=30~40%(モル比);ハイモ株式会社。構造単位(I)の化学式では、R1およびR2は共に水素であり、Xは塩素を表す場合に相当する。
メタバナジン酸アンモニウム(V;43.6%):試薬。
硝酸イットリウム:試薬。
【0112】
実施例のカチオン電着塗料組成物を用いた場合はいずれも、サイクル腐食試験で評価3以上を示し、防錆性の高さを示す。比較例1の場合、実施例1と同様で、ニオブ化合物を含まない例であり、サイクル腐食試験で良くない値が、特に亜鉛メッキ鋼板でみられる。比較例2は、被塗物の前処理にリン酸亜鉛処理(防錆処理)をしたものを使用したので、亜鉛メッキ鋼板およびアルミニウム基材の両方で、優れた防錆性能をしめした。比較例3および4では、バナジウムを含む化合物やイットリウムを含む化合物を、ニオブ化合物の代わりに用いたものであるが、これらの金属では優れた防錆性能が得られていない。