(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178522
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/42 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
H01R13/42 E
H01R13/42 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096707
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 貴裕
【テーマコード(参考)】
5E087
【Fターム(参考)】
5E087EE02
5E087FF08
5E087FF13
5E087GG15
5E087GG26
5E087GG31
5E087GG32
5E087GG33
5E087HH04
5E087RR26
(57)【要約】
【課題】フロントマスク一体型のリテーナを備えるコネクタにおいて、検査用スライダによる端子半挿入検知を精度良く行うことが可能なコネクタを提供する。
【解決手段】ハウジング20は、前方を向く前面部24と、前面部24に交差して配置される端面部26と、ハウジング20の内部を延びて端面部26に開口する本体装着部25と、を有している。リテーナ50は、本体装着部25の内部に配置されるリテーナ本体51と、前面部24を覆うように配置されるフロントマスク部52と、リテーナ本体51とフロントマスク部52とをつなぐ連結部53と、を有している。リテーナ本体51は、仮係止位置から本係止位置へと端面部26からの突出量を減少させる本体端部66と、本係止位置で端子金具90を係止する抜け止め部55と、を有している。本体端部66は、本係止位置でハウジング20の内部に配置される。フロントマスク部52は、途中位置において本体端部66の前面を前方に開放させる凹部62を有している。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の端部に接続される端子金具と、
前記端子金具が収容されるハウジングと、
前記ハウジングに対して仮係止位置と本係止位置との間を移動可能に配置されるリテーナと、を備え、
前記ハウジングは、前方を向く前面部と、前記前面部に交差して配置される端面部と、前記ハウジングの内部を延びて前記端面部に開口する本体装着部と、を有し、
前記リテーナは、前記本体装着部の内部に配置されるリテーナ本体と、前記前面部を覆うように配置されるフロントマスク部と、前記リテーナ本体と前記フロントマスク部とをつなぐ連結部と、を有し、
前記リテーナ本体は、前記仮係止位置から前記本係止位置へと前記端面部からの突出量を減少させる本体端部と、前記本係止位置で前記端子金具を係止する抜け止め部と、を有し、
前記本体端部は、前記本係止位置で前記ハウジングの内部に配置され、
前記フロントマスク部は、前記仮係止位置または前記仮係止位置と前記本係止位置との間の途中位置において、前記本体端部の前面を前方に開放させる凹部を有している、コネクタ。
【請求項2】
前記ハウジングは、前記前面部および前記端面部の各々と交差する幅方向に一対の側面部を有し、
前記連結部は、前記一対の側面部を覆う一対の側壁を有し、
前記端面部は、前記一対の側壁の間に形成された空間部に露出している、請求項1に記載のコネクタ。
【請求項3】
前記リテーナ本体が前記途中位置で前記ハウジングへの挿入途中の前記端子金具と干渉する場合に、前記凹部の内底面および前記端面部が前後方向に段差無く配置されている、請求項1に記載のコネクタ。
【請求項4】
前記ハウジングは、前記端子金具を収容するキャビティを有し、
前記キャビティは、前記前面部に開口しており、
前記リテーナ本体が前記本係止位置にある場合に、前記前面部の一部が前記凹部の内部に露出するように配置される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のコネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は開示されたコネクタは、端子金具が収容されるハウジングと、ハウジングに対して仮係止位置と本係止位置との間を移動可能に装着されるフロントマスク一体型リテーナとしてのリテーナと、を備えている。リテーナは、ハウジングの前面を覆うフロントマスク部と、フロントマスク部より後方に配置されるリテーナ部と、リテーナ部とフロントマスク部とをつなぐ幅方向に一対の側板と、を有している。リテーナ部は、本係止位置で端子金具を係止し、ハウジングからの端子金具の抜け出しを規制する。
【0003】
しかし、端子金具がハウジングに対して規定の挿入位置まで挿入されずに半挿入位置に留まっていると、リテーナが端子金具と干渉し、仮係止位置から本係止位置へのリテーナの移動が阻止される。その結果、フロントマスク部およびリテーナ部の各々の一部がハウジングの下面から突出する。このため、リテーナの突出状態を目視や治具等で確認することにより、端子金具が半挿入位置に留まっていることを検知することができる。
【0004】
特許文献2は、フロントマスク部に相当するフロントカバーとリテーナ部に相当するスペーサとを可撓性ヒンジの連結体でつないだリテーナを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-129111号公報
【特許文献2】特開2000-315546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1において、仮に、コネクタが小型である場合に、端子金具がハウジングに対して半挿入位置に留まっていると、ハウジングからのリテーナの突出量が小さくなり、リテーナの突出状態を目視や治具等で確認することが困難になる。
【0007】
図13の第1の参考例に示すように、例えば、フロントマスク部700とリテーナ部300とが別体の部材で構成されていれば、端子金具200が半挿入位置にあるときに、リテーナ部300のみがハウジング400の下面から突出することになる。このリテーナ部300の突出部分にはハウジング400の下面に沿って移動する検査用スライダ80を当てることができる。仮に、検査用スライダ80がリテーナ部300の突出部分に当たると、リテーナ600が本係止位置に至っていないと判断でき、ひいては端子金具200が半挿入位置に留まっていると検知することができる。つまり、検査用スライダ80を使用した検知方法によって、端子金具200が半挿入位置に留まっていることを検知することができる(以下、この検知を「検査用スライダ80による端子半挿入検知」と称する)。しかし、特許文献1の場合、リテーナがフロントマスク部とリテーナ部とを一体化した一体型である。リテーナが一体型であると、
図14の第2の参考例(特許文献1に開示された構造ではない)に示すように、端子金具200が半挿入位置にあるときに、リテーナ部300とともにフロントマスク部700もハウジング400の下面から突出することになる。そうすると、
図14の矢印に示すように、検査用スライダ80がハウジング400の下面から離れてフロントマスク部700とリテーナ部300の各々の下面に沿って移動することになる。このため、検査用スライダ80がリテーナ部300の突出部分に当たらず、検査用スライダ80による端子半挿入検知を行うことができないという事情がある。
【0008】
そこで、本開示は、フロントマスク一体型のリテーナを備えるコネクタにおいて、検査用スライダによる端子半挿入検知を精度良く行うことが可能なコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示のコネクタは、電線の端部に接続される端子金具と、前記端子金具が収容されるハウジングと、前記ハウジングに対して仮係止位置と本係止位置との間を移動可能に配置されるリテーナと、を備え、前記ハウジングは、前方を向く前面部と、前記前面部に交差して配置される端面部と、前記ハウジングの内部を延びて前記端面部に開口する本体装着部と、を有し、前記リテーナは、前記本体装着部の内部に配置されるリテーナ本体と、前記前面部を覆うように配置されるフロントマスク部と、前記リテーナ本体と前記フロントマスク部とをつなぐ連結部と、を有し、前記リテーナ本体は、前記仮係止位置から前記本係止位置へと前記端面部からの突出量を減少させる本体端部と、前記本係止位置で前記端子金具を係止する抜け止め部と、を有し、前記本体端部は、前記本係止位置で前記ハウジングの内部に配置され、前記フロントマスク部は、前記仮係止位置または前記仮係止位置と前記本係止位置との間の途中位置において、前記本体端部の前面を前方に開放させる凹部を有している、コネクタである。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、フロントマスク一体型のリテーナを備えるコネクタにおいて、検査用スライダによる端子半挿入検知を精度良く行うことが可能なコネクタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナが本係止位置にある状態を示す正面図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナが本係止位置にある状態を示す側面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナが本係止位置にある状態を示す側断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナがハウジングに対して仮係止位置に係止される状態を示す横断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナが仮係止位置にある状態を示す側断面図である。
【
図6】
図6は、実施形態1に係るコネクタにおいて、ハウジングの斜視図である。
【
図7】
図7は、実施形態1に係るコネクタにおいて、ハウジングの側面図である。
【
図8】
図8は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナの斜視図である。
【
図9】
図9は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナを
図8とは異なる方向から見た斜視図である。
【
図10】
図10は、実施形態1に係るコネクタにおいて、リテーナの正面図である。
【
図11】
図11は、実施形態1に係るコネクタにおいて、検査用スライダがフロントマスク部の凹部を通してリテーナ本体の本体端部と干渉し、端子半挿入検知を行う状態を示す側断面図である。
【
図12】
図12は、実施形態1に係るコネクタにおいて、検査用スライダがフロントマスク部の凹部を通してリテーナ本体の本体端部と干渉し、端子半挿入検知を行う状態を示す底面図である。
【
図13】
図13は、第1の参考例において、検査用スライダがリテーナ本体の突出部分と干渉し、端子半挿入検知を行う状態を示す側断面図である。
【
図14】
図14は、第2の参考例において、検査用スライダの移動がリテーナ本体の突出部分に干渉せず、端子半挿入検知ができない状態を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示のコネクタは、
(1)電線の端部に接続される端子金具と、前記端子金具が収容されるハウジングと、前記ハウジングに対して仮係止位置と本係止位置との間を移動可能に配置されるリテーナと、を備え、前記ハウジングは、前方を向く前面部と、前記前面部に交差して配置される端面部と、前記ハウジングの内部を延びて前記端面部に開口する本体装着部と、を有し、前記リテーナは、前記本体装着部の内部に配置されるリテーナ本体と、前記前面部を覆うように配置されるフロントマスク部と、前記リテーナ本体と前記フロントマスク部とをつなぐ連結部と、を有し、前記リテーナ本体は、前記仮係止位置から前記本係止位置へと前記端面部からの突出量を減少させる本体端部と、前記本係止位置で前記端子金具を係止する抜け止め部と、を有し、前記本体端部は、前記本係止位置で前記ハウジングの内部に配置され、前記フロントマスク部は、前記仮係止位置または前記仮係止位置と前記本係止位置との間の途中位置において、前記本体端部の前面を前方に開放させる凹部を有している。
【0013】
仮に、端子金具がハウジングに対して規定の挿入位置まで挿入されずに半挿入位置に留まっていると、リテーナが端子金具と干渉し、仮係止位置から本係止位置へのリテーナの移動が阻止される。すなわち、リテーナがハウジングに対して仮係止位置または途中位置に留まることになる。リテーナが仮係止位置または途中位置にあるときには、リテーナ本体の本体端部がハウジングの端面部から突出した状態になる。この本体端部の前面には、フロントマスク部の凹部からハウジングの端面部に沿って移動する検査用スライダを当てることができる。したがって、リテーナ本体とフロントマスク部とを一体化した、フロントマスク一体型のリテーナを備えるコネクタであっても、端子金具の半挿入時に検査用スライダをリテーナ本体に当てることができ、検査用スライダによる端子半挿入検知を行うことが可能となる。
【0014】
(2)前記(1)に記載のコネクタにおいて、前記ハウジングは、前記前面部および前記端面部の各々と交差する幅方向に一対の側面部を有し、前記連結部は、前記一対の側面部を覆う一対の側壁を有し、前記端面部は、前記一対の側壁の間に形成された空間部に露出していることが好ましい。
【0015】
本端端部の前面が各側壁間に形成された空間部から凹部を通して前方に開放されるので、端子半挿入検知を行う際に、検査用スライダが連結部と干渉することを回避できる。
【0016】
(3)前記(1)または(2)に記載のコネクタにおいて、前記リテーナ本体が前記途中位置で前記ハウジングへの挿入途中の前記端子金具と干渉する場合に、前記凹部の内底面および前記端面部が前後方向に段差無く配置されていることが好ましい。
【0017】
上記(3)の構成によれば、検査用スライダが凹部の内底面から端面部にわたって移動することができる。
【0018】
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載のコネクタにおいて、前記ハウジングは、前記端子金具を収容するキャビティを有し、前記キャビティは、前記前面部に開口しており、前記リテーナ本体が前記本係止位置にある場合に、前記前面部の一部が前記凹部の内部に露出するように配置されることが好ましい。
【0019】
リテーナ本体が本係止位置にある場合に、凹部を通して前面部の一部の露出状態を確認することにより、リテーナが本係止位置にあることを検知することが可能となる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0021】
<実施形態1>
実施形態1に係るコネクタ10は、
図3に示すように、ハウジング20と、ハウジング20に収容される端子金具90と、ハウジング20に装着されるリテーナ50と、を備えている。ハウジング20は、図示しない相手ハウジングに嵌合可能とされている。なお、以下の説明において、前後方向については、ハウジング20が嵌合時に相手ハウジングと対向する面側を前側とする。上下方向は、
図12を除く各図の上下方向を基準とする。左右方向は、前後方向および上下方向と交差する方向であって、
図1の左右方向を基準とする。これらの方向は、コネクタ10が車両等に搭載された状態における方向の基準と必ずしも一致しない。
【0022】
(ハウジングおよび端子金具)
ハウジング20は合成樹脂製であって、
図6に示すように、矩形ブロック状の外形形状をなすハウジング本体21を有している。
図3に示すように、ハウジング本体21は、複数のキャビティ22を有している。各キャビティ22は、前後方向に延び、ハウジング本体21の前面および後面に開口している。ハウジング本体21の前面は、リテーナ50の後述するフロントマスク部52で覆われる前面部24として構成される。端子金具90は、ハウジング20の後方から対応するキャビティ22に挿入される。
【0023】
ハウジング本体21は、各キャビティ22の内壁下面から突出する弾性変形可能なランス23を有している。ランス23は、前面部24に露出している。端子金具90は、ランス23に係止されることでキャビティ22からの抜け出しを規制された状態に収容される。
【0024】
端子金具90は導電金属製の板材を曲げ加工等して形成されている。端子金具90は、
図3に示すように、筒状の接続部91と、接続部91より後方に配置されるバレル部92と、を有している。接続部91は、コネクタ10の嵌合時、図示しない相手コネクタの相手端子金具のタブ190を受容し、相手端子金具と電気的に接続される。ランス23は、接続部91の下面に形成された第1突起93に係止される。接続部91は、第1突起93より後方に、第2突起94を突設させている。第2突起94の後端は、接続部91の後端に位置し、後述するリテーナ50の抜け止め部55に接触可能とされている。バレル部92は、電線100の端末部に電気的および機械的に接続される。なお、電線100は、芯線等の導体の周囲を絶縁被覆で覆った被覆電線である。
【0025】
図3および
図6に示すように、ハウジング本体21は、前後方向の途中に、上下方向に延びてハウジング本体21の下面に開口する本体装着部25を有している。本体装着部25は、各キャビティ22と連通している。リテーナ50の後述するリテーナ本体51は、本体装着部25の内部に配置される。
図3および
図7に示すように、ハウジング本体21の下面は、本体装着部25の開口より前方に、前面部24と交差して連なる端面部26を有している。端面部26は、前後方向および左右方向に沿って水平な面であって、前面部24と本体装着部25との間に配置されている。
【0026】
図1および
図6に示すように、ハウジング本体21は、前面部24の左右両端部から前方に突出する区画部27を有している。各区画部27は、互いに平行に対向する内側面28を有している。各区画部27の内側面28は、上下方向に沿って配置されている。ハウジング本体21は、各区画部27の内側面28に開口する第2係止受部29を有している。第2係止受部29は、ハウジング本体21の前方に開放されている。
【0027】
図4および
図7に示すように、ハウジング本体21は、左右両側の端面に、前面部24および端面部26の各々と交差する一対の側面部31を有している。ハウジング本体21は、各側面部31に、前後方向に延びるリブ状の第1係止受部32を有している。第1係止受部32は、各側面部31に上下方向に対をなして配置されている。
【0028】
図1および
図6に示すように、各区画部27の上端部間には、架設部33が設けられている。ハウジング本体21は、各区画部27の内側面28間で且つ架設部33より下方に、マスク装着部34を有している。マスク装着部34は、ハウジング本体21の前方に開放されている。リテーナ50の後述するフロントマスク部52は、マスク装着部34の内部に配置される。ハウジング本体21は、前面部24の下端部の左右両側に開口する一対のハウジング溝部35を有している。各ハウジング溝部35は、前面部24から端面部26にわたって開口している。
【0029】
さらに、ハウジング20は、ハウジング本体21の上面から突出するロックアーム36と、ハウジング本体21の後端部から上方および下方にそれぞれ張り出す張出部37と、を有している。
【0030】
ロックアーム36は、架設部33に連なる前端部から後端部にかけて延び、前端部を支点として上下方向に弾性変形可能とされている。ロックアーム36は、図示しない相手ハウジングを係止し、ハウジング20および相手ハウジングを嵌合状態に保持する。各張出部37は、壁状をなし、壁面を前方および後方に向けて配置される。上側の張出部37は、ロックアーム36の後端部の外周を包囲している。作業者は、各張出部37を摘みながらコネクタ10の嵌合離脱作業を行うことが可能とされている。
【0031】
(リテーナ)
リテーナ50は合成樹脂製であって、
図8および
図9に示すように、リテーナ本体51と、リテーナ本体51より前方にリテーナ本体51と対向して配置されるフロントマスク部52と、リテーナ本体51とフロントマスク部52とをつなぐ連結部53と、を有している。リテーナ本体51とフロントマスク部52とは、連結部53によって、互いの位置関係を一定に維持している。
【0032】
リテーナ本体51は、矩形ブロック状の外形形状をなし、本体装着部25の内部に嵌合可能とされている(
図3を参照)。リテーナ本体51は、前後方向に貫通する複数の貫通孔54を有している。リテーナ本体51が本体装着部25の内部に配置されたときに、各貫通孔54が最上段を除く各キャビティ22と連通する。リテーナ本体51は、各貫通孔54の内壁下面から突出するリブ状の抜け止め部55を有している。各抜け止め部55は、各貫通孔54毎に形成されている。また、抜け止め部55は、リテーナ本体51の上面において、最上段のキャビティ22と対応する位置にも並んで形成されている。
【0033】
フロントマスク部52は、矩形板状なし、板面を前方および後方に向けて配置される。
図8-
図10に示すように、フロントマスク部52は、前後方向に貫通する複数のタブ挿通孔56を有している。フロントマスク部52が前面部24を覆うように配置されたときに、各タブ挿通孔56が各キャビティ22と連通する(
図3を参照)。コネクタ10の嵌合時に相手端子金具のタブ190がタブ挿通孔56に挿通される。
図10に示すように、フロントマスク部52は、左右両側の端面から突出する第2係止部57を有している。第2係止部57は、第2係止受部29に係止可能とされている(
図1および
図2を参照)。
【0034】
フロントマスク部52は、下端部の左右両側に、前後方向に貫通する一対のリテーナ溝部58を有している。各リテーナ溝部58は、フロントマスク部52の後述する凹部62の内底面63に開口している。フロントマスク部52が前面部24を覆うように配置されたときに、
図1に示すように、各リテーナ溝部58が各ハウジング溝部35と連通する。各リテーナ溝部58および各ハウジング溝部35には、コネクタ10の嵌合時に、図示しない相手ハウジングのリブが嵌合される。ハウジング20が相手ハウジングに対して不正な嵌合姿勢をとっていると、リブがリテーナ溝部58およびハウジング溝部35に嵌合されることを規制する。これにより、コネクタ10の誤嵌合が防止される。
【0035】
図8-
図10に示すように、連結部53は、左右方向に間隔を置いて配置される一対の側壁59によって構成される。各側壁59は、壁状をなし、壁面を左右方向に向けて配置される。各側壁59の前端部は、フロントマスク部52の左右両側の端面に連結されている。各側壁59の後端部は、リテーナ本体51の左右両側の端面に連結されている。リテーナ本体51とフロントマスク部52との間で且つ各側壁59間には、上下方向に貫通する空間部60が形成されている(
図9を参照)。リテーナ50がハウジング20に装着されたときに、
図12に示すように、端面部26が空間部60に露出して配置される。
図4に示すように、各側壁59は、互いに対向する内面から空間部60に突出する第1係止部61を有している。第1係止部61は第1係止受部32に係止可能とされている。
【0036】
リテーナ50は、ハウジング20に対して仮係止位置と本係止位置との間を移動可能に配置される。仮係止位置では、上下の第1係止受部32の間に第1係止部61が嵌り込み(
図4を参照)、第1係止受部32の下方に第1係止部61が配置される。これにより、リテーナ50がハウジング20に対して仮係止位置に移動を規制された状態に保持される。本係止位置では、上側の第1係止受部32の上方に第1係止部61が配置され、第2係止受部29に第2係止部57が嵌り込む(
図1を参照)。これにより、リテーナ50がハウジング20に対して本係止位置に移動を規制された状態に保持される本係止位置では、フロントマスク部52の上端が架設部33に当て止めされ、本係止位置より上方へのリテーナ50の移動が確実に規制される。
【0037】
図10に示すように、リテーナ50は、フロントマスク部52の下面に凹む形状の凹部62を有している。凹部62は、フロントマスク部52の下端部を、左右両端部を除いて、前後方向に貫通し、フロントマスク部52の下面に加え、フロントマスク部52の前面および後面にも開口している。具体的には、凹部62は、フロントマスク部52の左右中央部において左右方向に沿って長く延びる内底面63と、フロントマスク部52の左右両端部において上下方向に短く延びる一対の内端面64と、各内端面64の上端と内底面63の左右端の各々との間に位置する直角または湾曲状の内角部65と、によって区画されている。凹部62の左右方向の幅は、フロントマスク部52の左右方向の全幅の半分を超えている。凹部62の上下方向の深さ(高さH1)は、ハウジング20における最下段のキャビティ22と端面部26との間に形成されたキャビティ底部38の厚みH2と同じか(
図5を参照)、またはキャビティ底部38の厚みH2より小さく設定されている(H1≦H2)。また、凹部62の上下方向の深さ(高さH1)は、仮係止位置から本係止位置に移動するリテーナ50の移動量と同じか、またはリテーナ50の移動量より小さく設定されている。
【0038】
図10に示すように、リテーナ本体51は、上下方向に関して凹部62と同じ高さ範囲となる下端部に、本体端部66を有している。本体端部66の前面は、凹部62から前方に開放され、前方から視認可能に配置される。
【0039】
(コネクタの作用)
図3に示すように、リテーナ50がハウジング20に対して仮係止位置に保持されているときに、端子金具90がハウジング20のキャビティ22に挿入される。端子金具90は予め電線100の端末部に接続されている。端子金具90がキャビティ22に対して規定の位置まで正しく挿入されると、接続部91の第1突起93にランス23が係止可能に配置される。これにより、端子金具90がキャビティ22に一次的に抜け出しを規制された状態で配置される。
【0040】
リテーナ50が仮係止位置にあるときに、フロントマスク部52がマスク装着部34の内部に配置される。最下端のキャビティ22に挿入された端子金具90の第1突起93は、凹部62の上部に位置するマスク底部67から離れて配置される。端子金具90は、フロントマスク部52に当たることでそれ以上の前進が規制される。また、リテーナ50が仮係止位置にあるときに、リテーナ本体51が本体装着部25の内部に配置され、抜け止め部55がキャビティ22から退避して配置される。これにより、キャビティ22への端子金具90の挿入が許容される。
フロントマスク部52の凹部62およびリテーナ本体51の本体端部66は、仮係止位置で端面部26より下方に配置される。本体端部66の前面は、仮係止位置で凹部62から前方に開放され、前方から視認可能に配置される。
【0041】
端子金具90がキャビティ22に挿入された後、リテーナ50が仮係止位置から本係止位置へと移動させられる。リテーナ50に上方への押し込み力を付与すると、第1係止受部32と第1係止部61との係止が解除されるとともに、第1係止受部32と第2係止部57との係止が解除され、リテーナ50が本係止位置に移動可能な状態となる。
【0042】
リテーナ50が本係止位置に至ると、
図3に示すように、抜け止め部55が接続部91の第2突起94に係止可能に配置される。これにより、端子金具90の抜け出しが二次的に規制される。リテーナ本体51の本体端部66は、仮係止位置から本係止位置に向かう過程で端面部26からの突出量を減少させ、本係止位置では全体が本体装着部25の内部に収容される。
リテーナ50が本係止位置にあるときに、キャビティ底部38が空間部60に入り込み、リテーナ本体51の下面と端面部26とは同じ高さ位置に配置される。凹部62の内底面63は、キャビティ底部38の上端と同じ高さ位置に配置される。
図1に示すように、前面部24(キャビティ底部38の前面を含む)の下端部は、凹部62から前方に開放され、前方から視認可能に配置される。
図3に示すように、最下段のキャビティ22は本係止位置であっても凹部62と連通せずに凹部62から離れて配置される。マスク底部67は、最下段のキャビティ22から突出するランス23より前方に配置される。
【0043】
これに対し、
図11に示すように、端子金具90がキャビティ22に対して規定の位置まで挿入されず、挿入途上の半挿入位置に留まっている場合、リテーナ50が仮係止位置から本係止位置へと向かう途中位置で、リテーナ本体51の貫通孔54の内面等が接続部91の第2突起94等に干渉する。これにより、リテーナ50の本係止位置への移動が規制される。なお、
図11では最下段のキャビティ22に挿入された1つの端子金具90が半挿入位置に留まる場合を図示しているが、その他の端子金具90が半挿入位置に留まる場合も、同様にリテーナ50の本係止位置への移動が規制される。
【0044】
図11に示すように、凹部62の内底面63は、途中位置では端面部26と同じ高さ位置に揃うように配置される。凹部62の内底面63から端面部26にわたる部分は、前後方向に連続して配置される。そして、マスク底部67とキャビティ底部38とは同じ高さ範囲で前後方向に並んで配置される。
本体端部66は、途中位置においても端面部26から突出する。本体端部66の前面は、凹部62から前方に開放され、前方から視認可能に配置される。
【0045】
リテーナ50の移動操作後、端子金具90がキャビティ22に対して半挿入位置に留まっているか否かの検査が行われる。検査にあたり、
図11に示す検査用スライダ80が使用される。検査用スライダ80は、ハウジング20の前方から端面部26に沿って後方へ直線状に移動するように設定されている。具体的には、検査用スライダ80は、水平な板状をなし、一定の高さ位置を端面部26に沿って平行に移動するように設定されている。なお、本実施形態1の場合、ハウジング20の後端部に下側の張出部37が設けられているため、ハウジング20の後方から検査用スライダ80を移動させることができない。
【0046】
検査用スライダ80は、前方から凹部62に進入し、さらに凹部62の内底面63から端面部26にわたる部分を移動する。ここで、端子金具90がキャビティ22に対して規定の位置に挿入されていれば、リテーナ50が本係止位置に至ることができ、リテーナ本体51の下面と端面部26とが同じ高さ位置に連続することになる。このため、検査用スライダ80が端面部26からリテーナ本体51の下面に沿って後方へとそのまま移動することができる。
【0047】
他方、端子金具90がキャビティ22に対して半挿入位置に留まっていると、上記したように、リテーナ本体51の本体端部66が端面部26から突出しているため、検査用スライダ80後端面(移動方向の先端面)が本体端部66の前面に突き当たる。これにより、検査用スライダ80の移動が規制される。このように、検査用スライダ80の移動が規制されることをもって、リテーナ50が途中位置にあり、端子金具90がキャビティ22に対して半挿入位置に留まっていることがわかる。つまり、検査用スライダ80を使用した検知方法によって、端子金具90が半挿入位置にあることを間接的に検知(以下、「検査用スライダ80による端子半挿入検知」と称する)することができる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態1の場合、リテーナ50は、フロントマスク部52とリテーナ本体51とを連結部53で連結したフロントマスク一体型のリテーナである。リテーナ本体51は、仮係止位置から本係止位置へとハウジング20の端面部26からの突出量を減少させる本体端部66を有している。フロントマスク部52は、仮係止位置、および仮係止位置と本係止位置との間の途中位置において、本体端部66の前面を前方に開放させる凹部62を有している。端子金具90が半挿入位置に留まっている場合に、リテーナ50が端子金具90と干渉して途中位置で停止すると、リテーナ本体51の本体端部66が端面部26から突出し、その本体端部66の前面に、凹部62から端面部26に沿って移動する検査用スライダ80を当てることができる。よって、フロントマスク一体型のリテーナ50を備えるコネクタ10であっても、端子金具90の半挿入時に検査用スライダ80をリテーナ本体51に当てることができ、検査用スライダ80による端子半挿入検知を行うことが可能となる。
【0049】
また、本実施形態1の場合、ハウジング20の端面部26が連結部53の各側壁59間に形成された空間部60に露出し、本体端部66の前面が空間部60から凹部62を通して前方に開放されるため、検査用スライダ80による端子半挿入検知を行う際に、検査用スライダ80が連結部53と干渉することを容易に回避できる。
【0050】
また、端子金具90の半挿入時、リテーナ本体51が途中位置にあるときに、
図11に示すように、凹部62の内底面63および端面部26が前後方向に段差無く配置され、検査用スライダ80が凹部62の内底面63から端面部26にわたって移動できる。
【0051】
また、リテーナ50が本係止位置にあるときに、リテーナ50が本係止位置にあるときに、ハウジング20の前面部24の一部が凹部62の内部に露出するため、凹部62を通して前面部24の露出状態を確認し、リテーナ50が本係止位置にあることを検知することも可能となる。
【0052】
[本開示の他の実施形態]
今回開示された上記実施形態1はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えるべきである。
上記実施形態1の場合、リテーナをハウジングに保持する手段として、リテーナに第1係止部および第2係止部が設けられ、ハウジングに第1係止受部および第2係止受部が設けられていた。これに対し、他の実施形態の場合、リテーナをハウジングに保持する手段として、リテーナに第1係止部のみが設けられ、ハウジングに第1係止受部のみが設けられるものであっても良い。
上記実施形態1の場合、凹部は、フロントマスク部の下端部のうちの左右両端部を除く部分に設けられていた。これに対し、他の実施形態の場合、凹部は、フロントマスク部の下端部の左右方向の全幅にわたって設けられていても良い。あるいは、凹部は、フロントマスク部の下端部に左右方向に間隔を置いて複数設けられていても良い。
上記実施形態1の場合、端子金具の半挿入時にリテーナが途中位置にあるときに、凹部の内底面が端面部と前後方向に段差無く配置されていた。これに対し、他の実施形態の場合、端子金具の半挿入時にリテーナが途中位置にあるときに、凹部の内底面が端面部より上方に段差をもって配置されていても良い。
フロントマスク部の凹部は仮係止位置で本体端部の前面を前方に開放させており、本開示は、リテーナが仮係止位置にあるときに半挿入位置の端子金具と干渉することも想定範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
10…コネクタ
20…ハウジング
21…ハウジング本体
22…キャビティ
23…ランス
24…前面部
25…本体装着部
26…端面部
27…区画部
28…内側面
29…第2係止受部
31…側面部
32…第1係止受部
33…架設部
34…マスク装着部
35…ハウジング溝部
36…ロックアーム
37…張出部
38…キャビティ底部
50…リテーナ
51…リテーナ本体
52…フロントマスク部
53…連結部
54…貫通孔
55…抜け止め部
56…タブ挿通孔
57…第2係止部
58…リテーナ溝部
59…側壁
60…空間部
61…第1係止部
62…凹部
63…内底面
64…内端面
65…内角部
66…本体端部
67…マスク底部
80…検査用スライダ
90…端子金具
91…接続部
92…バレル部
93…第1突起
94…第2突起
100…電線
190…相手端子金具のタブ
200…参考図の端子金具
300…参考図のリテーナ部
400…参考図のハウジング
600…参考図のリテーナ
700…参考図のフロントマスク部