(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178526
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】圧力容器の製造方法および圧力容器の製造装置
(51)【国際特許分類】
F16J 12/00 20060101AFI20241218BHJP
F17C 1/16 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
F16J12/00 Z
F17C1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096711
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】308039414
【氏名又は名称】株式会社FTS
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴史
(72)【発明者】
【氏名】大脇 優介
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB05
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC01
3E172BC04
3E172BD03
3E172CA14
3E172CA19
3E172CA22
3E172DA36
3J046AA14
3J046BA01
3J046CA04
3J046DA05
3J046EA01
(57)【要約】
【課題】ベース部材の内面にバリア層を形成するための加熱工程において、ベース部材とバリア層との界面にボイドが発生することを抑制し得る技術を提供する
【解決手段】加熱により気化する気化成分を含むベース材料を有する胴部基体22と、胴部基体22の内面に塗布したバリア性材料を加熱処理することにより形成されるバリア層24と、を備える圧力容器10の製造方法である。この製造方法は、バリア層24の形成時に、胴部基体22の内面を加熱処理すると同時に、胴部基体22の外面を冷却する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱により気化する気化成分を含むベース材料を有するベース部材と、前記ベース部材の内面に塗布したバリア性材料を加熱処理することにより形成されるバリア層と、を備える圧力容器の製造方法であって、
前記バリア層の形成時に、前記内面を加熱処理すると同時に、前記ベース部材の外面を冷却する
圧力容器の製造方法。
【請求項2】
前記バリア層の形成時における前記内面と前記外面の温度差を、10℃以上160℃以下にする
請求項1に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項3】
前記ベース部材は筒状であり、
前記バリア性材料の加熱時における前記ベース部材の軸方向中央側の温度よりも軸方向端部側の温度の方を高くする
請求項1又は請求項2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項4】
前記バリア層の形成時に、前記ベース部材の外面を冷却装置で急冷する
請求項1又は請求項2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項5】
前記バリア性材料を前記内面に塗布する前に、前記ベース部材を加熱することによって前記ベース材料の気化成分を気化させる事前加熱処理を行う
請求項1又は請求項2に記載の圧力容器の製造方法。
【請求項6】
加熱により気化する気化成分を含むベース材料を有するベース部材と、前記ベース部材の内面に塗布したバリア性材料を加熱処理することにより形成されるバリア層と、を備える圧力容器の製造装置であって、
前記ベース部材の内面を加熱するヒーターと、
前記ベース部材の外面を冷却する冷却装置と、
を備える圧力容器の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力容器の製造方法および圧力容器の製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示される高圧タンクは、高圧の水素ガスを貯留するタンクであり、円筒状(シリンダ状)の胴部と、胴部の両端に設けられた一対の半球状のドーム部と、を備えている。胴部は、アルミニウム合金等の金属材料からなる中空の補強層と、補強層の内側に設けられるバリア層と、を有している。バリア層は、内側から外側への水素ガスの流出を抑制する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように胴部の内側の層(ベース部材の内側の層)としてバリア層を設ける構成では、例えば、ベース部材の内面にバリア性材料を塗布し、加熱処理で熱溶融させた後に固着することでバリア層を形成する方法がある。しかし、ベース部材に気化成分が含まれることで、加熱処理で気化成分が気化し、ベース部材とバリア層との間にボイドが生じるおそれがある。
【0005】
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、ベース部材の内面にバリア層を形成するための加熱工程において、ベース部材とバリア層との界面にボイドが発生することを抑制し得る技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つである圧力容器の製造方法は、
加熱により気化する気化成分を含むベース材料を有するベース部材と、前記ベース部材の内面に塗布したバリア性材料を加熱処理することにより形成されるバリア層と、を備える圧力容器の製造方法であって、
前記バリア層の形成時に、前記内面を加熱処理すると同時に、前記ベース部材の外面を冷却する。
【0007】
本発明の1つである圧力容器の製造装置は、
加熱により気化する気化成分を含むベース材料を有するベース部材と、前記ベース部材の内面に塗布したバリア性材料を加熱処理することにより形成されるバリア層と、を備える圧力容器の製造装置であって、
前記ベース部材の内面を加熱するヒーターと、
前記ベース部材の外面を冷却する冷却装置と、
を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の圧力容器の製造方法および圧力容器の製造装置によれば、ベース部材の内面にバリア層を形成するための加熱工程において、ベース部材の外面を冷却することで、ベース部材の外面側における気化成分の気化を抑制することができる。そのため、バリア層形成時にベース部材全体としての気化成分の気化を低減することができ、ベース部材とバリア層との界面にボイドが発生することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1の圧力容器をあらわす斜視図である。
【
図3】胴部基体の製造工程を説明する説明図である。
【
図4】恒温槽を用いて加熱対象物を加熱する構成を示す説明図である。
【
図5】赤外線ヒーターを用いて加熱対象物を加熱する構成を示す説明図である。
【
図6】赤外線ヒーターおよび冷却装置を用いて加熱対象物を加熱する構成を示す説明図である。
【
図7】
図4の構成で加熱処理した際の各種温度の時間経過を示す説明図である。
【
図8】
図5の構成で加熱処理した際の各種温度の時間経過を示す説明図である。
【
図9】
図6の構成で加熱処理した際の各種温度の時間経過を示す説明図である。
【
図10】炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を材料とする部材における気化成分と、温度に応じた気化成分の発生量との関係を示す分析結果の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の圧力容器の製造方法において、前記バリア層の形成時における前記内面と前記外面の温度差を、10℃以上160℃以下にすることが好ましい。
この構成によれば、ベース部材の内面側の温度を高めて気化成分の気化を進めつつ、ベース部材の外面側の温度を低くしてベース部材の劣化を抑制できる。
【0011】
本発明の圧力容器の製造方法において、前記ベース部材は筒状であり、前記バリア性材料の加熱時における前記ベース部材の軸方向中央側の温度よりも軸方向端部側の温度の方を高くすることが好ましい。
この構成によれば、熱放出し易いベース部材の軸方向端側部分の方を高温にすることができ、ベース部材の内面を均一に加熱し易くなる。
【0012】
本発明の圧力容器の製造方法において、前記バリア層の形成時に、前記ベース部材の外面を冷却装置で急冷することが好ましい。
この構成によれば、バリア層の形成時に、バリア層が結晶化することを抑制することができる。
【0013】
本発明の圧力容器の製造方法において、前記バリア性材料を前記内面に塗布する前に、前記ベース部材を加熱することによって前記ベース材料の気化成分を気化させる事前加熱処理を行うことが好ましい。
この構成によれば、バリア性材料をベース部材の内面に塗布する前に、事前加熱処理によりベース材料の気化成分を気化させ、ベース部材の外部へ放出することができる。そのため、バリア層を形成するための加熱処理工程では、ベース材料の気化成分が少なくなっているので、ベース部材とバリア層との界面にボイドが発生することを抑制できる。
【0014】
<第1実施形態>
以下、本発明を具体化した第1実施形態を、
図1~
図3を参照して説明する。
【0015】
(圧力容器の構成)
本第1実施形態の圧力容器10は、
図1に示すように、円筒カプセル形状である。圧力容器10は、例えば、車両に搭載され、高圧の水素ガスの充填容器として用いられる。なお、
図1~
図3に示す圧力容器10及びその一部では、径の大きさや軸方向の長さ、各層の厚さ等は誇張して描かれており、
図1~
図3に示す形態はあくまで一例である。
【0016】
圧力容器10は、
図1に示すように、胴部分割体20と、ドーム部分割体30と、を備えている。圧力容器10は、胴部分割体20とドーム部分割体30とを合体して構成される。圧力容器10は、バリア性を有する。本第1実施形態において、バリア性は、圧力容器10内に充填された流体(水素ガスなど)が圧力容器10を透過して圧力容器10の外部へ漏出することを防止又は抑制する特性と定義する。
【0017】
胴部分割体20は、
図2に示すように、胴部基体22と、バリア層24と、を有している。胴部基体22は、本発明の「ベース部材」の一例に相当する。胴部基体22は、軸方向(軸線L1に沿う方向)に長い円筒状である。胴部基体22の内径寸法は、全長に亘って一定である。胴部基体22の外径寸法は、全長に亘って一定である。
【0018】
胴部基体22は、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)等の繊維強化樹脂からなるベース材料を含む。ベース材料は、加熱により気化する気化成分を含む。気化成分は、例えば、ブタンジオール、アクリル酸2‐エチルヘキシル、ポリオール化合物、イミダゾール化合物、ブタンジオールジグリシジルエーテル、アクリル酸ブチル、その他のアクリル系化合物等である。
【0019】
胴部基体22は、例えば繊維束(図示略)に液状の熱硬化性樹脂を含浸させたもの、または繊維束に含浸した熱硬化性樹脂を半硬化状態にしたもの(プリプレグ繊維)を、例えばフィラメントワインディング法によってフープ巻きで形成されている。繊維束は、炭素繊維、ガラス繊維、ケプラ繊維等からなる糸状の繊維を束ねたものである。
【0020】
バリア層24は、
図2に示すように、胴部基体22の内面(内周面、以下同じ)全領域を覆うように設けられている。バリア層24は、円筒状である。バリア層24は、バリア性を有している。バリア層24の材料(バリア性材料)として、例えばEVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)、PA6(ナイロン6)等が用いられる。バリア層24は、圧力容器10内に貯留される流体が外部へ透過することを遮断又は抑制することを目的として用いられている。
【0021】
バリア層24は、胴部基体22の内面に塗布したバリア性材料を加熱処理することにより形成される。バリア性材料は、例えば粉末状態で胴部基体22の内面に塗布される。バリア性材料は、例えば静電塗装を用いて胴部基体22の内面に塗布される。
【0022】
ドーム部分割体30は、
図1に示すように、ドーム部基体31と、ドーム部基体31の内側に設けられるバリア層(図示略)と、を有している。ドーム部基体31は、胴部基体22の長手方向の端部に連なる半球状の部分である。ドーム部基体31は、胴部基体22から離れるにつれて縮径している。ドーム部基体31は、例えば、胴部基体22と同様の材料によって構成されている。ドーム部基体31は、例えば繊維束(図示略)に液状の熱硬化性樹脂を含浸させたもの、または繊維束に含浸した熱硬化性樹脂を半硬化状態にしたもの(プリプレグ繊維)を、例えばハンドレイアップ法により積層させ、球殻状に成形した成形品を半分に分割して形成される。繊維束は、炭素繊維、ガラス繊維、ケプラ繊維等からなる糸状の繊維を束ねたものである。ドーム部基体31の内側に設けられるバリア層(図示略)は、バリア層24と同様の材料によって構成されている。
【0023】
(圧力容器の製造装置)
図3に示す圧力容器の製造装置40(以下、単に製造装置40ともいう)は、圧力容器10の胴部分割体20の製造に用いられる。製造装置40は、ヒーター42と、冷却装置44と、を備えている。
【0024】
ヒーター42は、胴部基体22の内面を加熱する。ヒーター42は、赤外線を放射するロッドヒーターとして構成されている。ロッドヒーターは、例えば金属製のシースの中に加熱体(例えば、ニクロム線等)を内蔵した構成である。ヒーター42は、バリア性材料の種類に合わせた波長の電磁波を放射する。例えば、バリア性材料がEVOHである場合、ヒーター42は、吸収率の高い赤外線(中~遠赤外線)を放射する。ヒーター42として赤外線ヒーターを用いることで、恒温槽等を用いる構成に比べて設備の省スペース化を図ることができる。
【0025】
冷却装置44は、胴部基体22の外面(外周面、以下同じ)を冷却する装置である。冷却装置44は、例えば、冷却部材46と、冷却器48と、を備えている。冷却部材46は、例えばアルミニウム、銅等の材料によって構成されている。冷却部材46は、例えば円筒状であり、胴部基体22の外面全体を覆うように、胴部基体22の外面全体に接している。冷却器48は、例えば空冷式熱交換器(空冷ラジエータ)、水冷式熱交換器等として構成されている。なお、冷却器48による冷却方法は、空冷、液冷等、特に制限はない。
【0026】
(圧力容器の製造方法)
次に、圧力容器の製造方法について説明する。圧力容器の製造方法は、胴部分割体20の製造工程を含む。胴部分割体20の製造工程は、事前加熱工程と、バリア層形成工程と、を含む。
【0027】
事前加熱工程では、バリア性材料を胴部基体22の内面に塗布する前に、胴部基体22を加熱する事前加熱処理を行う。事前加熱工程では、胴部基体22の気化成分を気化させる。例えば、
図3に示すように、赤外線を放射するロッドヒーターとして構成されるヒーター42を、胴部基体22の内部に挿入する。ヒーター42の軸は、胴部基体22の軸線L1と重なるようにする。ヒーター42によって、胴部基体22の内面を加熱する。
【0028】
このように、バリア性材料を胴部基体22の内面に塗布する前に、事前加熱処理により胴部基体22のベース材料の気化成分を事前に気化させて大気中に放出させることができる。そのため、続くバリア層形成工程における加熱処理では、ベース材料の気化成分が少なくなっているので、胴部基体22とバリア層24との界面にボイドが発生することを抑制できる。
【0029】
事前加熱処理は、胴部基体22の内面と外面の両方に対して加熱処理を行うことが好ましい。例えば、ヒーター42によって胴部基体22の内面を加熱し、別途設けられるヒーター(例えば赤外線ヒーター)によって胴部基体22の外面を加熱する。これにより、胴部基体22がその内外両側の面で加熱処理されるため、気化成分の気化を効率的に行うことができる。
【0030】
続くバリア層形成工程では、まず、胴部基体22の内面にバリア性材料を塗布する。バリア性材料は、例えば粉末状である。バリア性材料の塗布では、静電塗装を用いることが好ましい。そして、胴部基体22の内面に塗布されたバリア性材料を加熱処理し、熱溶融させる。その後、バリア性材料を冷却固化することで、バリア層24が形成される。例えば、バリア層24を、大気環境で自然冷却することによって、胴部基体22に固着させる。
【0031】
バリア層形成工程では、バリア性材料と胴部基体22の内面の両方を加熱処理すると同時に、胴部基体22の外面を冷却(逆面冷却)する。加熱処理の開始と同時に冷却を開始し、加熱処理の終了と同時に冷却を終了する。例えば、赤外線を放射するロッドヒーターとして構成されるヒーター42を、胴部基体22の内部に挿入して、バリア性材料と胴部基体22の内面を加熱する。例えば、
図3に示すように、冷却装置44によって胴部基体22を冷却する。冷却部材46を胴部基体22の外周面全体を覆うようにして、胴部基体22の外面に接触させる。そして、冷却器48によって冷却部材46を介して胴部基体22の外面を冷却する。このように、胴部基体22の外面を冷却装置44で急冷することで、バリア層24の結晶化を抑制できる。急冷とは、自然冷却(例えば常温の雰囲気中での冷却)よりも低温下での冷却である。なお、加熱処理後に冷却固化する段階においても、冷却装置44による胴部基体22の外面の冷却を続けてもよい。
【0032】
バリア層形成工程における、胴部基体22の内面と外面の温度差は、10℃以上160℃以下が好ましく、30℃以上140℃以下がより好ましく、90℃以上120℃以下がさらに好ましく、95℃以上104℃以下が特に好ましい。これにより、胴部基体22の内面側の温度を高めて気化成分の気化を進めつつ、胴部基体22の外面側の温度を低くして胴部基体22の劣化を抑制できる。
【0033】
事前加熱工程における加熱温度は、バリア層形成工程における加熱温度よりも高いことが好ましい。事前加熱工程における加熱温度は、230℃以上255℃以下が好ましい。バリア層形成工程における加熱温度は、200℃以上240℃以下が好ましい。このように、バリア層形成工程の加熱温度よりも高い温度で事前加熱工程が行われるため、バリア層24の形成時の加熱温度で気化し得る気化成分の大部分を事前に気化させておくことができる。そのため、バリア層24の形成時の加熱によって生じるボイドを、効果的に抑制できる。
【0034】
事前加熱工程における加熱処理と、バリア層形成工程における加熱処理を、同一のヒーター42で行う。これにより、事前加熱処理と、バリア層24の形成時の加熱処理とでヒーター42を兼用することができる。また、ヒーター42を事前加熱工程時に胴部基体22の内部に挿入された状態を維持し、そのままバリア層形成工程における加熱処理を行ってもよい。
【0035】
なお、明細書に記載の種々の数値範囲は、それぞれそれらの上限値と下限値を任意に組み合わせることができ、それら全ての組み合わせが好ましい数値範囲として本明細書に記載されているものとする。
【0036】
(第1実施形態の効果)
第1実施形態の圧力容器の製造方法および圧力容器の製造方法では、バリア層24の形成時の加熱処理中に、胴部基体22の外面を冷却する。この構成によれば、胴部基体22の外面を冷却することで、胴部基体22の外面側における気化成分の気化を抑制することができる。そのため、バリア層24の形成時に胴部基体22全体としての気化成分の気化を低減することができ、胴部基体22とバリア層24との界面にボイドが発生することを抑制できる。このような界面におけるボイドの発生を抑制することで、例えば水素を充填する際の耐水素ブリスタ性の向上等が期待できる。
【0037】
第1実施形態の圧力容器の製造方法において、バリア層24の形成時における胴部基体22の内面と外面の温度差を、10℃以上160℃以下にする。この構成によれば、胴部基体22の内面側の温度を高めて気化成分の気化を進めつつ、胴部基体22の外面側の温度を低くして胴部基体22の劣化を抑制できる。
【0038】
第1実施形態の圧力容器の製造方法において、胴部基体22は筒状である。バリア層24の形成時における胴部基体22の中央側の温度よりも端部側の温度の方を高くする。この構成によれば、熱放出し易い胴部基体22の端側部分の方を高温にすることができ、胴部基体22を均一に加熱し易くなる。
【0039】
第1実施形態の圧力容器の製造方法において、バリア層24の形成時に、胴部基体22の外面を冷却装置44で急冷する。この構成によれば、バリア層24の形成時に、バリア層24が結晶化することを抑制することができる。
【0040】
第1実施形態の圧力容器の製造方法において、バリア性材料を胴部基体22の内面に塗布する前に、胴部基体22を加熱することによって胴部基体22の気化成分を気化させる事前加熱処理を行う。この構成によれば、バリア性材料を胴部基体22の内面に塗布する前に、事前加熱処理により胴部基体22の気化成分を気化させ、胴部基体22の外部へ放出することができる。そのため、バリア層24を形成するための加熱処理工程では、ベース材料の気化成分が少なくなっているので、胴部基体22とバリア層24との界面にボイドが発生することを抑制できる。
<実施例>
【0041】
次に、実施例を挙げて上記第1実施形態を更に具体的に説明する。
1.試料の作製
胴部分割体20に見立てて、板状の加熱対象物120を作製した。加熱対象物120は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を材料として構成される基体122と、EVOH(エチレン-ビニルアルコール共重合体)を材料として構成されるバリア性部材124と、を備えている。以下の表1に示すように、加熱対象物120に対して加熱条件を変えて加熱処理を行うことで、試料No.1-6が得られた。基体122は、80mm角で、3.0mmの厚さであった。バリア性部材124は、70mm角、1.0の厚さで、基体122上に塗した。
【0042】
【0043】
2.加熱方法
試料No.1-2は、バリア層形成工程で、
図4に示すように、恒温槽130を用いて加熱対象物120の加熱処理を行った。
図4に示す配置で、恒温槽130内において、基体122およびバリア性部材124をアルミフレーム132上に設置した。恒温槽130での加熱温度は210℃であり、加熱時間は100秒であった。試料No.1は、事前加熱工程を行わなかった。試料No.2は、事前加熱工程を行った。試料No.2の事前加熱処理は、
図4の構成で行い、加熱温度が245℃、加熱時間が600秒であった。
【0044】
試料No.3-4は、バリア層形成工程で、
図5に示すように、遠赤外線を放射する赤外線ヒーター140を用いて加熱対象物120の加熱処理を行った。
図5に示す配置で、基体122およびバリア性部材124を煉瓦142上に設置した。赤外線ヒーター140は、昇温時に230℃に達すると急止させた。試料No.3は、事前加熱工程を行わなかった。試料No.4は、事前加熱工程を行った。試料No.4の事前加熱処理は、
図5の構成で行い、加熱温度が240℃、加熱時間が600秒であった。
【0045】
試料No.5-6は、バリア層形成工程で、
図6に示すように、遠赤外線を放射する赤外線ヒーター140と、逆面冷却を行う冷却装置150と、を用いて加熱対象物120の加熱処理を行った。
図6に示す配置で、基体122およびバリア性部材124をアルミプレート152および熱伝導グリス154上に設置した。赤外線ヒーター140は、昇温時に230℃に達すると急止させた。冷却装置150として、ペルチェデバイス(オーム電機株式会社製、OCE-KT3)を用いた。試料No.5は、事前加熱工程を行わなかった。試料No.6は、事前加熱工程を行った。試料No.6の事前加熱処理は、
図5の構成で冷却装置150を用いずに行い、加熱温度が240℃、加熱時間が600秒であった。
【0046】
3.評価方法
次に、得られた試料No.1-6について、以下のような評価をした。
【0047】
[温度の評価方法]
バリア性部材124と基体122との界面近傍(
図4~
図6のXの位置)の温度、基体122の下面側(
図4~
図6のYの位置)の温度を測定した。測定した温度の時間経過を、
図7~
図9に示す。
図7から
図9は、それぞれ試料No.1-2、試料No.3-4、試料No.5-6の結果である。
図7には、恒温槽130内の雰囲気温度の時間経過、バリア性部材124と基体122との界面近傍の温度と、基体122の下面側の温度との差の時間経過、を図示している。
図8、
図9には、赤外線ヒーター140の表面温度の時間経過、バリア性部材124と基体122との界面近傍の温度と、基体122の下面側の温度との差の時間経過、を図示している。
【0048】
[ボイド率、ボイド直径の評価方法]
加熱処理後、基体122から剥離したバリア性部材124の剥離面全体を、マイクロスコープで観察し、代表箇所(画面全体面積:1.7494mm2)を観察評価範囲とした。評価結果を表1に示す。表1中の「ボイド率」は、観察評価範囲の面積に対する、観察評価範囲に含まれるボイドの総面積の割合である。表1中の「分布50%値」は、ボイドの直径の分布を取ったときの中央値(大きさ順に数えたときに50%の数となるボイドの直径)である。なお、5.6μm未満のボイドは、計測精度限界により、未計測である。
【0049】
[発生ガスの評価方法]
基体122に相当する炭素繊維強化プラスチック(CFRP)を材料とする部材について、加熱時の発生ガスの分析を行った。その結果を
図10に示す。
図10は、沸点に応じて分けられた気化成分と、その発生量との関係を示している。2つの帯グラフは、それぞれ第1加熱処理(事前加熱を行わない状態での加熱処理)の結果と、第2加熱処理(事前加熱後に行う加熱処理)の結果とを示している。事前加熱において、加熱温度が230℃であり、加熱時間が600秒であった。2つの線グラフは、それぞれ第1加熱処理における各気化成分の発生量の累積であり、第2加熱処理における各気化成分の発生量の累積である。
【0050】
4.評価結果
[温度の評価結果]
試料No.1-2では、
図7に示すように、バリア性部材124と基体122との界面近傍(
図4のXの位置)の温度が230℃のときに、基体122の下面側(
図4のYの位置)の温度は232℃であり、基体122の下面側の温度の方が2℃高かった。
試料No.3-4では、
図8に示すように、バリア性部材124と基体122との界面近傍(
図7のXの位置)の温度が230℃のときに、基体122の下面側(
図7のYの位置)の温度は193℃であり、基体122の下面側の温度の方が38℃低かった。
試料No.5-6では、
図9に示すように、バリア性部材124と基体122との界面近傍(
図8のXの位置)の温度が230℃のときに、基体122の下面側(
図8のYの位置)の温度は126℃であり、基体122の下面側の温度の方が104℃低かった。
恒温槽130で加熱する試料No.1-2より、赤外線ヒーター140で加熱する試料No.3-4の方が、基体122の下面側の温度を低下させることができた。
逆面冷却を行わない試料No.3-4より、冷却装置150で逆面冷却を行わない試料No.5-6の方が、基体122の下面側の温度を100℃程度低下させることができた。
【0051】
なお、試料No.5-6では、冷却装置としてペルチェデバイスを用いたが、その他の冷却装置を用いてもよく、例えば冷却水を用いた冷却装置(オリオン機械株式会社製、RKS1500F、チラー設定10℃)で、基体122の下面側の温度を120℃程度低くできることを確認した。
【0052】
[発生ガスの評価結果]
図10の2つの線グラフで示すように、第1加熱処理(事前加熱を行わない状態での加熱処理)に比べ、第2加熱処理(事前加熱後に行う加熱処理)では、ガス発生量が8ppm程度低くなっている。また、ブタンジオール、アクリル酸2-エチルヘキシル、ポリオール化合物、イミダゾール化合物、ブタンジオールジグリシジルエーテル、アクリル酸ブチル、その他のアクリル系化合物については、第2加熱処理で、第1加熱処理に対して低減、または検出されなくなっている。以上より、事前加熱を行った場合、主にその事前加熱温度以下の沸点となる気化成分を、事前に除去可能であることが分かる。
【0053】
[ボイド率、ボイド直径の評価結果]
恒温槽130で加熱処理を行った試料No.1-2において、試料No.1のボイド率は19.5%であり、試料No.2のボイド率は9.4%であった。これにより、恒温槽130を用いた場合において、事前加熱処理を行うことで、ボイド率が半減したことが分かる。
【0054】
赤外線ヒーター140で加熱処理を行った試料No.3-4において、試料No.3のボイド率は18.9%であり、試料No.4のボイド率は11.2%であった。これにより、赤外線ヒーター140を用いた場合において、事前加熱処理を行うことで、ボイド率が半減したことが分かる。
【0055】
赤外線ヒーター140で加熱処理を行い、且つ逆面冷却を行った試料No.5では、ボイド率は10.6%であり、逆面冷却を行わなかった試料No.3の値(18.9%)よりも低減していた。
【0056】
赤外線ヒーター140で加熱処理を行い、且つ逆面冷却を行った試料No.5-6において、試料No.5のボイド率は10.6%であり、試料No.6のボイド率は2.7%であった。これにより、赤外線ヒーター140で加熱処理を行い、且つ逆面冷却を行った場合において、事前加熱処理を行うことで、ボイド率が大幅に低減したことが分かる。
【0057】
以上のように、事前加熱を行った場合(試料No.2とNo.4とNo.6の場合)、上記「発生ガスの評価」で説明したように、事前加熱により基体122の気化成分を気化させることができたと考えられる。そのため、バリア性部材124の加熱処理を行う際に、基体122の気化成分の気化が生じ難くなり、事前加熱を行わなかった場合(試料No.1とNo.3とNo.5の場合)に比べて基体122とバリア性部材124との界面にボイドが発生し難くなったことが考えられる。
【0058】
また、バリア層形成工程で逆面冷却を行った場合(試料No.5-6の場合)、基体122の内部のうち界面の近傍領域の温度上昇を抑えることによって、界面近傍領域の気化を抑制できたことが考えられ、逆面冷却を行わなかった場合(試料No.3-4の場合)に比べて、ボイドの発生を抑制できたと考えられる。
【0059】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記第1実施形態において、冷却装置44が、冷却部材46と、冷却器48と、を備える構成を例示したが、胴部基体22の外面を冷却する装置であればこれに限定されない。例えば、冷却装置44は、冷却部材46を用いない構成であってもよい。
(2)上記第1実施形態において、事前加熱工程やバリア性材料の加熱時に、胴部基体22における軸方向中央側部分の温度よりも軸方向両端側部分の温度の方を高くするように、ヒーター42で加熱してもよい。これにより、熱放出し易い胴部基体22の軸方向端側部分の方を高温にすることができ、胴部基体22の内面を均一に加熱し易くなる。
(3)上記第1実施形態において、事前加熱処理で、胴部基体22の内面と外面の両方に対して加熱する例を示したが、胴部基体22の内面のみを加熱してもよい。
(4)上記第1実施形態において、事前加熱工程における加熱温度を、バリア層形成工程における加熱温度よりも高くする例を示したが、バリア層形成工程における加熱温度と同じ、またはバリア層形成工程における加熱温度よりも低くしてもよい。
(5)上記第1実施形態において、事前加熱工程における加熱処理と、バリア層形成工程における加熱処理を、同一のヒーター42で行う例を示したが、それぞれの工程で異なるヒーターを用いてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10…圧力容器
20…胴部分割体
22…胴部基体(ベース部材)
24…バリア層
30…ドーム部分割体
31…ドーム部基体
40…圧力容器の製造装置
42…ヒーター
44…冷却装置
46…冷却部材
48…冷却器
120…加熱対象物
122…基体
124…バリア性部材
130…恒温槽
132…アルミフレーム
140…赤外線ヒーター
142…煉瓦
150…冷却装置
152…アルミプレート
L1…軸線