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特開2024-178540薬液改良土の強度推定方法および地盤改良工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178540
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】薬液改良土の強度推定方法および地盤改良工法
(51)【国際特許分類】
   E02D 3/12 20060101AFI20241218BHJP
   E02D 1/04 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
E02D3/12 101
E02D1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096743
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107272
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 敬二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109140
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 研一
(72)【発明者】
【氏名】秋本 哲平
(72)【発明者】
【氏名】上野 一彦
(72)【発明者】
【氏名】仙頭 紀明
【テーマコード(参考)】
2D040
2D043
【Fターム(参考)】
2D040AB01
2D040CB03
2D040GA01
2D040GA02
2D043AC01
2D043BA08
(57)【要約】
【課題】地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を推定可能な薬液改良土の強度推定方法および地盤改良工法を提供する。
【解決手段】
この薬液改良土の強度推定方法は、地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を推定する方法であって、地盤改良の対象地から試料を採取し(S01)、その試料を用いて土質試験を行い(S02)、対象地の現地土と薬液とを混合した場合の薬液改良土の強度を、土質試験により得られた単位体積あたりの土粒子表面積および薬液のホモゲル強度に基づいて推定する(S04)。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を推定する方法であって、
前記地盤改良の対象地から試料を採取し、前記試料を用いて土質試験を行い、
前記対象地の現地土と薬液とを混合した場合の薬液改良土の強度を、前記土質試験により得られた単位体積あたりの土粒子表面積および前記薬液のホモゲル強度に基づいて推定する薬液改良土の強度推定方法。
【請求項2】
前記地盤改良のため地盤に薬液を注入する薬液注入工法の施工に先だって行われる配合試験の前に前記薬液改良土の強度の推定を行う請求項1に記載の薬液改良土の強度推定方法。
【請求項3】
前記薬液のホモゲル強度を実験により複数設定し、前記薬液のホモゲル強度毎に前記薬液改良土の強度を推定する請求項1に記載の薬液改良土の強度推定方法。
【請求項4】
前記単位体積あたりの土粒子表面積を前記土質試験で得た土粒子の粗粒分と細粒分とを考慮して算定する請求項1に記載の薬液改良土の強度推定方法。
【請求項5】
前記粗粒分の直径を前記土質試験で得た粒径加算曲線で通過質量百分率が50%に相当する粒径D50とした球体、および、前記細粒分の直径を0.075mmとした球体から前記単位体積あたりの土粒子表面積を算定する請求項4に記載の薬液改良土の強度推定方法。
【請求項6】
前記薬液改良土の強度を次の式1~式4から推定する請求項1に記載の薬液改良土の強度推定方法。


ただし、q:薬液改良土の一軸圧縮強さ(kN/m
uh:薬液のホモゲル強度(kN/m
a,b,c:定数
:単位体積あたりの土粒子表面積(cm/cm
Cm:粗粒分の比表面積(cm/g)
Fm:細粒分の比表面積(cm/g)
ρ:乾燥密度(g/cm
:細粒分含有率(%)
:1土粒子(球体)の表面積(cm
ρ:土粒子密度(g/cm
:1土粒子(球体)の体積(cm)
前記粗粒分は粒径加算曲線のD50を直径とする球体、前記細粒分は0.075mmを直径とする球体として前記1土粒子(球体)の表面積Sおよび前記1土粒子(球体)の体積Vを算定する。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかに記載の薬液改良土の強度推定方法により推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足する場合、前記対象地から採取した現地土と薬液とを混合した薬液改良土の配合試験を行い、前記配合試験に基づいて前記薬液の種類および/または濃度を決定し、前記決定された種類および/または濃度の薬液により薬液注入工法を行う地盤改良工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を推定する薬液改良土の強度推定方法および地盤改良工法に関する。
【背景技術】
【0002】
既設構造物直下の地震による液状化の対策工法として、地表面から地盤内を削孔し、薬液を注入することで地盤を改良する薬液注入工法が公知である(非特許文献1参照)。この薬液注入工法は、地盤内の土粒子間の間隙水を薬液に置き換えることで地盤の液状化を防止する工法である。地盤を構成する土粒子骨格を壊すことなく浸透注入を実施することで地盤の隆起や薬液の逸走を防止しつつ品質の高い地盤改良を行うことができる。
【0003】
特許文献1は、原地盤の微小変形特性値(VS又はG)を取得する第1ステップと、原地盤と同等の密度を有する試験試料についての微小変形特性値(VS*又はG*)と液状化強度比(RL*)とを取得する第2ステップと、原地盤の液状化強度比(RL)を、前記原地盤の微小変形特性値(VS又はG)と、前記試験試料の微小変形特性値(VS*又はG*)と、前記試験試料の液状化強度比(RL*)とから推定する第3ステップとを備える液状化強度比の推定方法を開示する(請求項1)。
【0004】
特許文献2は、活性シリカ系薬剤を用いた薬液注入改良地盤において、改良後の早期材齢から、精度良く対象改良地盤の強度を推定することを目的とし、活性シリカ系薬剤を地盤注入して改良される改良地盤内に粗密波およびせん断波を発振受振可能な振動子センサを設置する。この振動子センサで得られた粗密波速度を用いて、あらかじめ室内試験により得られた粗密波速度と一軸圧縮強度との関係を示した回帰曲線への当てはめを行って改良地盤の一軸圧縮強度を推定する地盤強度推定方法を開示する(要約)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-188887号公報
【特許文献2】特開2011-106843号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「浸透固化処理工法技術マニュアル(改訂新版)」 一般財団法人 沿岸技術センター 令和2年7月
【非特許文献2】秋本哲平・仙頭紀明・上野一彦「薬液注入改良土の一軸圧縮強さに影響を及ぼす要因の評価」土木学会論文集B3(海洋開発),vol.78,No.2,I_535-I_540,2022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
薬液注入工法により地盤改良工事を実施する場合、施工前に現地土を採取して配合試験を実施している。すなわち、現地土とシリカ濃度が異なる数種類の薬液(例えばシリカ濃度7%,8%,9%)とを混ぜて薬液改良土を作製し、この薬液改良土について一軸圧縮試験を行って各濃度に対応する強度を確認する。要求性能(設計基準強度)と比較して要求性能を満足できる薬液濃度を決定する。薬液濃度が高くなるほど強度は大きくなるが、費用も高くなるので、設計基準強度を満足できる最低濃度の薬液を注入薬液として決定する。強度発現は現地土によって異なるため、かかる配合試験は工事ごとに実施する必要がある。
【0008】
しかしながら、通常の薬液濃度では要求性能を満たすことができない場合があり、特殊な高濃度の薬液で配合試験を再度実施する場合がある。それでも強度が確保できない場合は、薬液注入工法が適用不可となり、他の工法に変更することとなる。これは大変な手戻りであり、配合試験が無駄になり、費用面や工程面でも大きな負担となる。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題に鑑み、地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を配合試験の実施前に推定可能な薬液改良土の強度推定方法および地盤改良工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための薬液改良土の強度推定方法は、地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を推定する方法であって、
前記地盤改良の対象地から試料を採取し、前記試料を用いて土質試験を行い、前記対象地の現地土と薬液とを混合した場合の薬液改良土の強度を、前記土質試験により得られた単位体積あたりの土粒子表面積および前記薬液のホモゲル強度に基づいて推定するものである。
【0011】
この薬液改良土の強度推定方法によれば、地盤改良の対象地から採取した試料を用いて土質試験を行い、この土質試験により単位体積あたりの土粒子表面積を求め、薬液のホモゲル強度の考慮に加えて、単位体積あたりの土粒子表面積を用いて現地土の土粒子の粒径と密度とを考慮することで、対象地の現地土と薬液とを混合した場合の薬液改良土の強度を精度よく推定することができる。この薬液改良土の強度推定方法は、引用文献1,2の強度推定方法とは全く異なる。
【0012】
前記地盤改良のため地盤に薬液を注入する薬液注入工法の施工に先だって行われる配合試験の前に前記薬液改良土の強度の推定を行うことにより、配合試験の実施前に薬液改良土の強度を把握できるので、たとえば、推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足するとき、薬液の種類および/または濃度を変えて配合試験を行い、その配合試験結果から薬液の種類および/または濃度を決定し、その決定された種類および/または濃度の薬液により薬液注入工法を行うことができる。一方、推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足しない場合、配合試験後に地盤改良工法の見直しといった手戻りを防止でき、配合試験を行わずに薬液注入工法から他の工法に変更する等の対策が可能となり、無駄な配合試験の実施を省くことができ、配合試験に関する費用や期間が無駄にならず、地盤改良の工程や工期に悪影響が生じない。
【0013】
また、前記薬液のホモゲル強度を実験により複数設定し、前記薬液のホモゲル強度毎に前記薬液改良土の強度を推定することが好ましい。このために、薬液の種類および/または濃度を変えた実験により複数のホモゲル強度を設定することが好ましい。
【0014】
また、前記単位体積あたりの土粒子表面積を前記土質試験で得た土粒子の粗粒分と細粒分とを考慮して算定することが好ましい。この場合、前記粗粒分の直径を前記土質試験で得た粒径加算曲線で通過質量百分率が50%に相当する粒径D50とした球体、および、前記細粒分の直径を0.075mmとした球体から前記単位体積あたりの土粒子表面積を算定することが好ましい。
【0015】
また、前記薬液改良土の強度を次の式1~式4から推定することが好ましい。


ただし、q:薬液改良土の一軸圧縮強さ(kN/m
uh:薬液のホモゲル強度(kN/m
a,b,c:定数
:単位体積あたりの土粒子表面積(cm/cm
Cm:粗粒分の比表面積(cm/g)
Fm:細粒分の比表面積(cm/g)
ρ:乾燥密度(g/cm
:細粒分含有率(%)
:1土粒子(球体)の表面積(cm
ρ:土粒子密度(g/cm
:1土粒子(球体)の体積(cm)
前記粗粒分は粒径加算曲線のD50を直径とする球体、前記細粒分は0.075mmを直径とする球体として前記1土粒子(球体)の表面積Sおよび前記1土粒子(球体)の体積Vを算定する。
【0016】
上記目的を達成するための地盤改良工法は、上述の薬液改良土の強度推定方法により前記推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足する場合、前記対象地から採取した現地土と薬液とを混合した薬液改良土の配合試験を行い、前記配合試験に基づいて前記薬液の種類および/または濃度を決定し、前記決定された種類および/または濃度の薬液により薬液注入工法を行うものである。
【0017】
この地盤改良工法によれば、配合試験前に上述の薬液改良土の強度推定方法により推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足するとき、続いて、薬液の種類および/または濃度を変えて配合試験を行い、その配合試験結果から薬液の種類および/または濃度を決定し、その決定された種類および/または濃度の薬液により薬液注入工法を行うことができる。一方、推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足しない場合、配合試験後に地盤改良工法の見直しといった手戻りを防止でき、配合試験を行わずに薬液注入工法から他の工法に変更する等の対策が可能となり、無駄な配合試験の実施を省くことができ、配合試験に関する費用や期間が無駄にならず、地盤改良の工程や工期に悪影響が生じない。
【発明の効果】
【0018】
本発明の薬液改良土の強度推定方法および地盤改良工法によれば、地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を配合試験の実施前に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態による薬液改良土の強度推定方法を用いた地盤改良工法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
図2】本実施形態において配合試験により得た薬液濃度と薬液改良土の一軸圧縮強さとの関係例を示すグラフである。
図3】本実験例で使用した東北珪砂6号の粒径加算曲線である。
図4】本実験例において得た単位体積あたりの土粒子表面積S(cm/cm)と実験結果の薬液改良土の一軸圧縮強さqとの関係を薬液濃度ごとに示すグラフである。
図5】本実験例において得た式2の係数aと薬液のホモゲル強度quhとの関係を示すグラフである。
図6】式1~4から推定した薬液改良土の一軸圧縮強さq(横軸)と、実験結果の一軸圧縮強さq(縦軸)との比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態について図面を用いて説明する。図1は本実施形態による薬液改良土の強度推定方法を用いた地盤改良工法の各ステップを説明するためのフローチャートである。
【0021】
まず、薬液注入工法による地盤改良の対象地から現地土を試料として採取する(S01)。この試料について土質試験を行う(S02)。粒度試験(JIS A 1204)を含む土質試験により次の値やデータを得る。
・乾燥密度ρd:単位体積当たりの土の重量
・土粒子密度ρs:土粒子の比重
・細粒分含有率Fc:0.075mmの篩を通過する土粒子(粒径が0.075mmより小さい)の重量割合
・粒径加算曲線
【0022】
一方、薬液注入工法に用いる薬液のホモゲル強度を実験により求め設定する(S03)。複数の濃度の薬液で実験を行い、濃度ごとに薬液のホモゲル強度を設定する。ホモゲル強度は、薬液だけが固化した固化体(砂が入っていない)の強度である。
【0023】
次に、ステップS02の土質試験により得られた単位体積あたりの土粒子表面積およびステップS03で設定した薬液のホモゲル強度に基づいて対象地の現地土と薬液とを混合した場合の薬液改良土の強度を推定する(S04)。
【0024】
ステップ04における現地の土質試験結果に基づく薬液改良土の強度推定方法について説明する。一般的に土粒子の大きさ(粒径)と強度には関係があると言われている(非特許文献2参照)。実験用の砂のように均質な砂であれば、平均粒径D50だけで強度を推定することも可能であるが、現地土は通常、均等係数が大きく(粒度分布が良く)、細粒分も含まれているため、平均粒径D50だけで強度を推定するのは困難である。また、薬液改良土の強度は、薬液のホモゲル強度に加えて、土の密度の影響も受けるため、密度を考慮する必要がある。そこで、単位体積あたりの土粒子表面積S(cm/cm)および薬液のホモゲル強度quhに基づいて薬液改良土の強度を推定する。単位体積あたりの土粒子表面積は土質試験で得た土粒子の粗粒分と細粒分とを考慮して算定する。推定式1~4を以下に示す。
【0025】
【数1】
【0026】
ただし、q:薬液改良土の一軸圧縮強さ(kN/m
uh:薬液のホモゲル強度(kN/m
a,b,c:定数
Cm:粗粒分の比表面積(cm/g)
Fm:細粒分の比表面積(cm/g)
ρd:乾燥密度(g/cm
c:細粒分含有率(%)
s:1土粒子(球体)の表面積(cm
ρs:土粒子密度(g/cm
s:1土粒子(球体)の体積(cm
粗粒分は粒径加算曲線のD50を直径とする球体、細粒分は0.075mmを直径とする球体としてSおよびVを算定する(S=4πr,V=(4/3)πr,r:球体の半径)。
【0027】
次に、上記推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足する場合(S05のYes)、地盤改良の対象地から採取した現地土と薬液とを混合した薬液改良土の配合試験を行う(S06)。次に、配合試験の結果に基づいて薬液の濃度を決定する(S07)。
【0028】
配合試験は、現地土とシリカ濃度が異なる数種類の薬液(たとえば、シリカ濃度7%,8%,9%)とを混ぜて薬液改良土を作製し、たとえばJIS A 1216に基づいて実施した一軸圧縮試験の結果によって各濃度の強度を確認するものである。要求性能(設計基準強度)と比較して要求性能を満足できる薬液濃度を決定する。
【0029】
図2に配合試験により得た薬液濃度と薬液改良土の一軸圧縮強さとの関係例を示すが、設計基準強度(配合目標強度)をたとえば、200kN/mとすると、薬液濃度は8%に決定される。
【0030】
次に、地盤改良の対象地において、決定された濃度の薬液を用いて薬液注入工法により地盤改良を実施する(S09)。
【0031】
また、ステップS04で推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足しない場合(S05のNo)、他の工法に変更し(S08)、その工法により地盤改良を実施する(S09)。
【0032】
(実験例)
次に、5種類の砂を用いて、薬液改良土の一軸圧縮強さqと単位体積あたりの土粒子表面積Sとの関係および一軸圧縮強さの推定精度を確認した実験例について説明する。使用した砂材料とその土質特性を次の表1に示す。粒度試験結果例として東北珪砂6号の粒径加算曲線を図3に示す。また、使用した薬液のホモゲル強度quhを実験により求め、薬液濃度ごとに次の表2に示す。なお、薬液は溶液型活性シリカ系グラウトのエコシリカ(登録商標)を使用した。
【0033】
【表1】
【0034】
【表2】
【0035】
各砂材料について各薬液濃度の薬液により薬液改良土を作製し、各薬液改良土についてJIS A 1216に基づいて一軸圧縮試験を実施した。式3,4から求めた単位体積あたりの土粒子表面積S(cm/cm)と、薬液改良土の一軸圧縮強さqの実験結果とを図4に示す。図4から単位体積あたりの土粒子表面積S(cm/cm)と薬液改良土の一軸圧縮強さqとは薬液濃度ごとに略比例関係にあることがわかる。図4に示す薬液濃度ごとの近似式は、式1と対応し、係数aが薬液濃度6,8,10%でそれぞれ0.594,1.040,1.406である。
【0036】
式2のように係数aは係数b,cを含む薬液のホモゲル強度quhの関数として示すことができる。図5に式2の係数aと薬液のホモゲル強度quhとの関係を示す。図5に示す係数aと薬液のホモゲル強度quhとの近似式は、式2と対応し、b=0.381,c=0.397である。
【0037】
図6は、式1~4から推定した薬液改良土の一軸圧縮強さq(横軸)と、実験結果の一軸圧縮強さq(縦軸)との比較図である。図6における二乗平均平方根誤差RMSEは、37.6kN/mであり、推定一軸圧縮強さqは、実験結果と比較的よく近似し、式1~4により薬液改良土の一軸圧縮強さを比較的精度よく推定できることがわかった。
【0038】
以上のように、本実施形態による薬液改良土の強度推定方法によれば、薬液注入工法の施工に先だって行われる配合試験の前に薬液改良土の強度を現地の土質調査結果から推定できるので、推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足するか否かを配合試験前に判断でき、その配合試験の実施の要・不要を判断できるので、経済的時間的ロスの抑制を実現できる。すなわち、推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足しない場合、配合試験後に地盤改良工法の見直しといった手戻りを防止でき、配合試験を行わずに薬液注入工法から他の工法に変更する等の対策が可能となる。配合試験の再実施を省くことができるので、配合試験に関する費用や期間が無駄にならず、地盤改良の工程や工期に悪影響が生じない。また、推定された薬液改良土の強度が設計基準強度を満足する場合、配合試験を行い、その配合試験結果から薬液の濃度を決定し、その決定された濃度の薬液により薬液注入工法を行うことができる。
【0039】
また、図1のステップS03では複数の濃度の薬液で実験を行い、濃度ごとに薬液のホモゲル強度を設定することで、配合試験前に薬液改良土の強度を薬液の濃度ごとに把握でき、必要な薬液濃度を推定することが可能となるので、配合試験における薬液濃度の設定の目安にできる。
【0040】
以上のように本発明を実施するための形態について説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で各種の変形が可能である。本実施形態では、薬液注入工法による地盤改良の施工に先だって行われる配合試験の前に薬液改良土の強度の推定を行う場合に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されず、たとえば、薬液注入工法による地盤改良の実施が未確定の段階での調査等のために薬液改良土の強度の推定を行う場合にも適用できることはもちろんである。
【0041】
また、図1のステップS03で薬液のホモゲル強度を実験により求め設定する際に、複数の濃度の薬液で実験を行い、濃度ごとに薬液のホモゲル強度を設定するようにしたが、本発明は、これに限定されず、薬液の種類および濃度を変えた実験により薬液のホモゲル強度を複数設定するようにしてもよい。また、ステップS06の配合試験も薬液の種類および濃度を変えて行い、その配合試験結果に基づいて薬液の種類および濃度を決定するようにしてもよい。
【0042】
本実施形態および実験例での使用薬液は、溶液型活性シリカ系グラウトであるが、これに限定されず、溶液型の水ガラス系であれば、他の薬液を使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明によれば、地盤改良のための薬液注入工法の薬液による薬液改良土の強度を配合試験の実施前に推定できるので、配合試験の再実施を省くことができ、配合試験に関する費用や期間が無駄にならず、地盤改良の工程や工期に悪影響が生じない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6