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特開2024-178548セルロースナノファイバーの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178548
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】セルロースナノファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20241218BHJP
   D21H 15/02 20060101ALI20241218BHJP
   D21H 11/14 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
D21H11/18
D21H15/02
D21H11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096756
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】596134172
【氏名又は名称】丸富製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098936
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 晃司
(74)【代理人】
【識別番号】100098888
【弁理士】
【氏名又は名称】吉川 明子
(72)【発明者】
【氏名】佐野 武男
(72)【発明者】
【氏名】八木 英一
(72)【発明者】
【氏名】若林 安紀
【テーマコード(参考)】
4L055
【Fターム(参考)】
4L055AA02
4L055AA03
4L055AA11
4L055AC06
4L055AC09
4L055AF09
4L055AF46
4L055AG99
4L055BA10
4L055BA12
4L055BB25
4L055EA04
(57)【要約】
【課題】製造コストの安い機械的な解繊を実施しても、品質の良いセルロースナノファイバーを製造できる製造方法の提供。
【解決手段】製紙工程で生じて製紙原料として使用可能な損紙を原料として、水とセルラーゼ系酵素剤に合わせて水分散体とした上で、機械的解繊処理工程に供する。その機械的解繊処理工程を、好ましくは、粗解繊工程と、その後の微細化工程に分け、機械的解繊処理工程では、2枚の砥石板によって構成された石臼式摩砕機を用いて実施する。そして、微細化工程では、原料濃度と、砥石板どうしのクリアランスと、砥石板の回転速度を調整パラメータとする。好ましくは、セルラーゼ系酵素剤として、ハーコボンド8922、8988「HERCOBOND(登録商標)」を用いる。ナノサイズからマイクロサイズまでピーク粒径を有して分布し、且つフィブリル化が促進される品質の良いものが得られる。
【選択図】 なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製紙工程で生じて製紙原料として使用可能な損紙をセルロースナノファイバー原料として、水とセルラーゼ系酵素剤に合わせて水分散体とした上で、機械的解繊処理工程に供することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載したセルロースナノファイバーの製造方法において、
機械的解繊処理工程を、粗解繊工程と、その後の微細化工程に分けることを特徴する製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載したセルロースナノファイバーの製造方法において、
機械的解繊処理工程では、2枚の砥石板によって構成された石臼式摩砕機を用いて実施することを特徴とする製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載したセルロースナノファイバーの製造方法において、
微細化工程では、原料濃度と、砥石板どうしのクリアランスと、砥石板の回転速度を調整パラメータとして、セルロースナノファイバーの粒径を調整することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載したセルロースナノファイバーの製造方法において、
セルラーゼ系酵素剤として、ハーコボンド8922、8988(「HERCOBOND(登録商標)」を用いることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載したセルロースナノファイバーの製造方法において、
トイレットペーパーロールの製紙工程由来の損紙を用いることを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノファイバーの製造方法に係り、特に、製紙工程で発生する損紙を原料とした、品質の良いセルロースナノファイバーの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースナノファイバーは、セルロースを主成分とする植物繊維を、ナノ(1ナノは10億分の1)メートルサイズまでほぐして微細化した素材である。高強度且つ軽量の他に、高弾性、低熱膨張、高透明性、高吸水性、高粘度保持性、透明性等の複数の特性を有しており、構造材だけでなく、その特性の多様さを生かしたシャンプー、化粧品、トイレットペーパーといった衛生用品や日用品への利用、更には天然素材であることを生かした食品分野での応用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-131725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
セルロースナノファイバーは、特許文献1に記載のように、セルロースナノファイバーをパルプから製造する方法は既に確立されてはいる。
しかしながら、現在主流となっている製造方法は、TEMPO酸化処理等化学的な処理を利用するものであり、確かに繊維の長さ、すなわち粒径の揃った品質の良いセルロースナノファイバーを製造できるが、製造コストが掛かることから、販売価格が押し上げられて利用の拡大が妨げられている。
一方、現状の機械的な解繊法で製造するとなると、コスト面では引き下げることができるが、粒径がバラバラとなり、品質上問題がある。特に、繊維を長めに揃えたい場合には不満がある。
【0005】
本発明は上記課題を解決するものであり、機械的な解繊を実施しても、品質の良いセルロースナノファイバーを製造できる製造方法を提供することを、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
セルロースナノファイバーは、粒径が揃っていることが品質の良さの指標になってきたが、本発明者は、少なくとも強度面では、ナノサイズからマイクロサイズまでピーク粒径を有して分布し、且つフィブリル化が促進されることが品質の良さの指標になると考えた。
また、製紙会社では、製紙工程を実施する際には不可避的に損紙が発生しており、未だ印刷等が施されていないものについては、概ね同一工程内を循環・回流させているが、本発明者は、この損紙が既に叩解済みであることに着目した。
これらの知見に基づいて、上記の損紙を原料として使用し、更に工夫を凝らすことで、機械的な解繊を主に利用しても品質の良いセルロースナノファイバーを製造できる製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、製紙工程で生じて製紙原料として使用可能な損紙をセルロースナノファイバー原料として、水とセルラーゼ系酵素剤に合わせて水分散体とした上で、機械的解繊処理工程に供することを特徴とするセルロースナノファイバーの製造方法である。
【0008】
その機械的解繊処理工程を、好ましくは、粗解繊工程と、その後の微細化工程に分ける。
好ましくは、機械的解繊処理工程では、2枚の砥石板によって構成された石臼式摩砕機を用いて実施する。
そして、微細化工程では、原料濃度と、砥石板どうしのクリアランスと、砥石板の回転速度を調整パラメータとして、セルロースナノファイバーの粒径を調整する。
【0009】
好ましくは、セルラーゼ系酵素剤として、ハーコボンド8922、8988「HERCOBOND(登録商標)」を用いる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の製造方法によれば、製紙会社であれば容易に入手可能な損紙を上手く利用することで、機械的な解繊を主に利用しても、品質の良いセルロースナノファイバーを製造できる。
また、最終的にペースト状で得られるセルロースナノファイバーの濃度やピーク粒径を調整することも容易になっており、用途に応じてカスタマイズできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る製造方法の工程図である。
図2】実施例で製造したセルロースナノファイバーの粒径データである。
図3図2のセルロースナノファイバーの画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のセルロースナノファイバーの製造方法について、材料と工程に分けて以下で説明する。
<材料>
[セルロースナノファイバー原料]
木材チップや古紙をパルプ化した後に、そのパルプを製紙工程では、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤパートに供して原紙にして、その原紙をリールに巻き付けてジャンボロールにする。その後は、ワインダ・カッタに供して仕上げる。
【0013】
上記の製紙工程では、そのまま製紙工程に戻され製紙原料として使用される、所謂回流損紙と、製紙工場又は事業者内に保管されて後に製紙原料として使用される、所謂仕込み損紙が発生する。これらの損紙は、製紙工場では極力抑えようとしても不可避的に日常的に発生するものであり、いずれも、十分に叩解されており、しかも、未だ印刷されていない。
本発明では、セルロースナノファイバー原料として、この損紙を使用する。特性的に適しているだけでなく、入手が容易なことも有利である。
【0014】
広葉樹由来のパルプでは、LBKP(広葉樹クラフトパルプ)が知られる。針葉樹由来のパルプでは、NBKP(針葉樹クラフトパルプ)が知られる。広葉樹由来のパルプはセルロースの繊維が短く、紙表面の地合いを良好にし易く重用されているが、セルロースの繊維が長い針葉樹の方が、広葉樹より優れたセルロースナノファイバーが製造できると言われている。また、LBKPやNBKPは、リグニン、ヘミセルロース等の不純物が少なく、解繊には有利である。
トイレットペーパーロールの原紙(ジャンボロール)では、NBKPとして針葉樹由来のパイプが通常20%以上含まれており、本発明のセルロースナノファイバー原料として特に有利になっている。
なお、現在の実験室段階では、このトイレットペーパーロールの製紙工程で生じる損紙のうち、特に原紙(ジャンボロール)の切れ端が使用されている。
【0015】
[セルラーゼ系酵素剤]
セルラーゼ系酵素剤は機能性添加剤であり、パイプのフィブリル化を促進することで紙力を増強するために、従来から製紙工場では紙力増強剤として使用されている。
本発明では、このセルラーゼ系酵素剤を、機械的な解繊を実施する際の離解を促進するために使用する。
この使用により、機械的な解繊にかかる時間が短縮化されるので、先ず、エネルギーコストや人件費の抑制が期待される。しかしながら、それだけに留まらず、後で詳述するが、セルロースナノファイバーの品質にも影響する。
【0016】
セルラーゼ系酵素剤としては、商品名:ハーコボンド8922、8988「HERCOBOND(登録商標)」(製造元:株式会社理研グリーン)の使用が推奨される。
セルラーゼ系酵素剤は、原料(乾燥状態の損紙)100質量%に対して、0.05~0.3質量%の割合で添加することが推奨される。これより少ないと有意的な添加効果が得られないが、0.3質量%程度あれば現在までの実験結果では十分と確認されている。
【0017】
<工程>
[前準備]
トイレットペーパーロールの製紙工程で生じた原紙(ジャンボロール)の切れ端の損紙を原料とする。
原料と水を入れて、原料を水に浸した状態で、半日~1日程度静置する。
配合は、後の工程での処理のし易さを考慮して、原料160gに対して水8L程度を基準とする。
以下では、原料160gを絶対量とした場合に基づいて、用いる装置の種類やその作動条件を記載する。
【0018】
容器(バケツ)に、先ず原料を入れてから、水をストレートノズルから水圧をかけて噴射して入れる。
原料は乾燥した紙であるが、この水噴射とその後の静置により、膨潤する。
【0019】
[撹拌]
上記のように膨潤した状態のものを、撹拌機に投入して撹拌して、水分散体にする。
撹拌機は、所謂ホモジナイザーであり、一例として、ASONE製ハイパワーミキサーを用いる。
上記の一例の撹拌機を用いた場合には、2000~2300rpmの回転速度で30分程度作動させる。
【0020】
セルラーゼ系酵素剤は、この撹拌機に入れて、原料等と合わせて撹拌する。この撹拌を経て、水分散体となる。
【0021】
[機械的解繊処理]
上記のように撹拌したものに、機械的な粗解繊処理を施す。
処理を施す装置としては、グラインダー方式、ホモジナイザー方式、混練機による方式、水中対向衝突方式等があるが、本発明では、グラインダー方式の一種である石臼式摩砕機を用いることが推奨される。石臼式摩砕機は、対向して少なくとも一方が回転する2枚の砥石板の間に原料が供給されて、解繊されるようになっている。
一例として、商品名:マスコロイダー(製造元:増幸産業株式会社)を用いる。
機械的解繊処理は、粗解繊と微細化に分かれており、先ず粗解繊した後に微細化する。
【0022】
(粗解繊)
原料は既に叩解されているため、撹拌された後は、機械的解繊処理工程で解繊され易くなっている。
一方の砥石板を固定、他方の砥石板を回転させるとして、一例では、その回転速度を1800rpm程度、砥石板のクリアランスは500μm程度に設定して、石臼式摩砕機を作動させる。
撹拌した原料の全量を一度に投入して、更に水を1L追加投入する。パス回数を2回にするので、水の総容量は10Lとなる。クリアランスが大きいこともあり、原料はサラサラと排出されていく。
【0023】
その後、装置の洗浄を挟んで以下を実施する。
【0024】
(微細化)
次に、一方の砥石板を固定、他方の砥石板を回転させるとして、一例では、その回転速度を1500rpm程度、砥石板のクリアランスは150μm程度に設定して、石臼式摩砕機を作動させる。
パス回数を一例では2回にする。原料の落ちてくる速度が、粗解繊の場合より遅くなるので、1回目に投入した原料が完全にパスして落下し終わるのを待って2回目の原料を投入するのではなく、少量ずつ原料を追加していく。
この微細化の時間は、一例では、1時間15分程度である。なお、セルラーゼ系酵素剤を添加しなかった場合は、2時間程度であり、セルラーゼ系酵素剤を添加することで時間が短縮化される。
【0025】
また、本発明では、原料が既に叩解されていることと、セルラーゼ系酵素剤の添加の協働により、クリアランスを大きめの150μm程度にしながら、ナノメートルサイズまでほぐして最終段階の微細化まで進めることができるので、得られたセルロースナノファイバーは、ナノサイズからマイクロサイズまでピーク粒径を有して分布し、且つフィブリル化が促進されている。すなわち、ヒゲが多数生えた状態になっている。
また、原料濃度と、砥石板どうしのクリアランスと、砥石板の回転速度を調整パラメータとすることで、ピーク粒径をずらすことができる。
【0026】
[後処理]
必要に応じて、加水して濃度を調整する。
以上より、製造効率の大幅なアップによる低コストが実現される。
【0027】
実用化の一例では、強度補強用に、芯無しトイレットペーパーロールの芯部に塗布して、芯強度を向上させている。
【実施例0028】
トイレットペーパーロールの製紙工程で生じる原紙(ジャンボロール)の切れ端の損紙を原料とした。この損紙は、NBKP/LBKP=25/75質量%であり、繊維の粒径はピークが1200μm程度であった。
これに、実施の形態の一例で示した装置とその装置の作動条件に従って、撹拌、機械的解繊処理を施した。
得られたセルロースナノファイバーは、水を含んでペースト状になっており、水量が最終的に調整されて、98質量%が水分になっていた。
【0029】
セルロースナノファイバーの粒度分布を測定したところ、図2に示す結果が得られた。粒径のピークが46μmで、繊維長さのピークを長めにもってくることができた。また、ナノサイズからマイクロサイズで混在していた。
更に、セルロースナノファイバーの画像は、図3に示す通りであった。矢印に示すように、ヒゲが沢山出ていた。
【0030】
以上、本発明の実施の形態と実施例について詳述してきたが、本発明の範囲はこれらに限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更などがあっても発明に含まれる。
図1
図2
図3