(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178550
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】枕及び頭部の支持方法
(51)【国際特許分類】
A47G 9/10 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
A47G9/10 B
A47G9/10 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096761
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】520095843
【氏名又は名称】金澤 良明
(71)【出願人】
【識別番号】520095865
【氏名又は名称】南堀 良明
(74)【代理人】
【識別番号】100101605
【弁理士】
【氏名又は名称】盛田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】金澤 良明
(72)【発明者】
【氏名】南堀 良明
【テーマコード(参考)】
3B102
【Fターム(参考)】
3B102AA07
3B102AB00
3B102AB07
3B102AC02
(57)【要約】
【課題】頭部を安定的に保持しつつ、頭部の動きを阻害することがなく、さらに、頭部の移動によって睡眠を促進できる音を発生させることができる枕を提供する。
【解決手段】柔軟な薄肉シートから形成される頭部支持シート2aと、上記頭部支持シートの周囲が接合されて、上記頭部支持シートとの間に所定の流体保持空間10を形成できるベース部材2bと、上記ベース部材の上記頭部支持シート側に保持されるクッション体3と、上記流体保持空間に保持されるとともに、所定の流動性を有する流体5とを備え、頭部6によって上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面を上記クッション体に所定範囲で接触させることができるとともに、上記頭部の重量を、上記頭部支持シートを介して作用する流体の圧力と、上記頭部により変形させられる上記クッション体の双方で支持することができるように構成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部を支持する枕であって、
柔軟な薄肉シートから形成される頭部支持シートと、
上記頭部支持シートの周囲が接合されて、上記頭部支持シートとの間に所定の流体保持空間を形成できるベース部材と、
上記ベース部材の上記頭部支持シート側に保持されるクッション体と、
上記流体保持空間に保持されるとともに、所定の流動性を有する流体とを備え、
頭部によって上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面を上記クッション体に所定範囲で接触させることができるとともに、
上記頭部の重量を、上記頭部支持シートを介して作用する流体の圧力と、上記頭部により変形させられる上記クッション体の双方で支持することができるように構成された、枕。
【請求項2】
上記クッション体は連続気孔を有する多孔質弾性体であり、上記流体が上記多孔質弾性体内を流動できるように構成された、請求項1に記載の枕。
【請求項3】
上記クッション体は、通気性のない弾性体である、請求項1に記載の枕。
【請求項4】
上記流体は所定の液体と気体とを含み、
上記気体は、大気圧の下で、上記液体に対して体積割合で0.5~10%の割合で配合されている、請求項1に記載の枕。
【請求項5】
上記頭部の重量は、上記流体の圧力によって、その20~80%が保持されるように構成されている、請求項1に記載の枕。
【請求項6】
少なくとも20cmの直径を有する球体を上記頭部支持シートの上方から押し付けたとき、上記球体が上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体の所定範囲で接触させられるように構成されている、請求項1に記載の枕。
【請求項7】
上記頭部支持シートの内面は、上記球体の全表面積の20分の1~3分の1の面積で上記クッション体に接触させられる、請求項6に記載の枕。
【請求項8】
上記液体の粘度が、0.5~20mPa・sである、請求項1に記載の枕。
【請求項9】
上記液体が水であり、上記気体が空気である、請求項4に記載の枕。
【請求項10】
上記流体は、0℃以下の温度範囲で凍結しない液体材料を含んで構成されている、請求 項1から請求項9のいずれか1項に記載の枕。
【請求項11】
上記頭部支持シートの少なくとも一部を変形させて、上記流体が充填された流体保持空間の容量を調節できる容量調節手段が設けられている、請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の枕。
【請求項12】
頭部を支持する枕であって、
柔軟な薄肉シートから形成される頭部支持シートと、
縁部に頭部支持シートの縁部が接合できるベース部材と、
上記ベース部材の上記頭部支持シート側に保持されるクッション体と、
柔軟なシート又はフィルムから形成されるとともに、上記ベース部材に配置されたクッション体の表面を覆うようにして縁部が上記ベース部材の上面内側部に接合されて、上記頭部支持シート及び上記ベース部材と協働して上記流体を保持する流体保持空間を構成するクッション体封止シートとを備え、
上記封止シートによって、上記クッション体を上記流体に接触することなく保持できるように構成された、枕。
【請求項13】
上記ベース部材の上記クッション体を配置した領域に、上記クッション体を着脱できる開口手段を設け、
上記クッション体を交換可能に設けた、請求項12に記載の枕。
【請求項14】
枕による頭部の支持方法であって、
上記枕は、柔軟な薄肉シートから形成される頭部支持シートと、上記頭部支持シートの周囲が接合されて、上記頭部支持シートとの間に所定の流体保持空間を形成できるベース部材と、上記ベース部材の上記頭部支持シート側に保持されるとともに、上記頭部の重量によって変形できる材料から形成されたクッション体とを備えて構成されており、
上記頭部によって流体保持空間内の上記流体を排除するとともに上記クッション体を変形させることにより、上記頭部の重量を、上記頭部支持シートを介して作用する流体の圧力と上記クッション体の双方で支持する、枕における頭部支持方法。
【請求項15】
上記流体は、液体と気体とを含み、
上記気体は、大気圧の下で、上記液体に対して、体積割合で0.5~10%の割合で混合されているとともに、
頭部の移動によって、上記流体の流動音を発生させる、請求項14に記載の枕における頭部支持方法。
【請求項16】
上記頭部によって変形させられたクッション体の変形部分の面積が、上記頭部の全表面積の20分の1~3分の1である、請求項14又は請求項15に記載の枕における頭部支持方法。
【請求項17】
上記クッション体によって、上記頭部の重量の20%~80%を支持する、請求項16に記載の枕における頭部支持方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、枕及び枕における頭部支持方法に関する。詳しくは、就寝時等における頭部を確実に保持するとともに、寝返り等の際に頭部を容易に移動させることができ、さらに、頭部を種々の態様で支持できる枕、及び枕における頭部の支持方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の安眠枕が提供されている。近年は、頭部の圧力によって表面が頭部の形状に応じて変形し、この変形形態を保持しつつ頭部を均一な圧力で保持できるスポンジ状の材料(以下、低反発スポンジという。)を用いた枕や、水等の流体を充填した枕が提供されている。
【0003】
また、近年、睡眠についての研究が進み、その成果を取り入れた枕が種々提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002ー159388
【特許文献2】特開2009ー207750
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
人は、就寝中に数回~数十回寝返りを行う。上記寝返りは、睡眠にとって非常に重要な要素であるばかりでなく、その回数が少ない場合は腰痛等を引き起こすとの研究結果が報告されている。寝返りにともなって、頭部の移動も行われるが、頭部が円滑に移動できないと、寝返りを行いにくくなる。また、首周りの筋肉が緊張させられた状態で就寝したり、寝返りの際に頭部の動きが阻害されると、首や肩こりが発生しやすい。さらに、寝返りの際に頭部に大きな力が作用すると、頸ついに障害(寝違い:一種の捻挫)が生じる恐れも高まる。
【0006】
上記低反発スポンジを用いた枕では、頭部の広い範囲に均一な力を作用させるとともに、頭部を自然な姿勢に保持することができる。ところが、低反発スポンジを用いた枕では、頭部が沈み込むように保持されるとともに、この状態での保形性が高い。したがって、頭部を移動させるには、頭部の形態に応じて変形させられた上記低反発スポンジをさらに変形させなければならない。このため、頭部の移動に大きな抵抗力が発生し、寝返りの際に、頭部の動きが阻害されるという問題がある。
【0007】
一方、水等の流体を一つの収容空間に充填した枕では、流体が上記収容空間内で自由に流動できるため、頭部が転がり移動する場合の抵抗がきわめて小さい。特に、移動速度が小さい場合には、抵抗がほとんど発生しない。このため、頭部を上記流体で支持する枕においては、頭の移動に抵抗がほとんどなく、頭部の動きを阻害することはない。
【0008】
ところが、頭部が移動する際の抵抗がほとんど発生しないため、少しの力が作用するだけで頭部が大きく移動してしまう。このため、頭部を所定の位置及び姿勢で安定的に保持するのが困難である。また、頭部の位置が抵抗なく変更できることから、睡眠導入期や睡眠中に不安定感を覚えることも多い。さらに、頭部の移動抵抗が小さいと、頭部が枕から外れやすいといった問題もある。
【0009】
上記特許文献1では、流体を充填する空間を区分して、頭部を安定的に保持できるように構成している。ところが、空間を区分することにより流体の移動が規制されるため、頭部が移動する際の抵抗が小さくなることはない。また、頭部が移動する(転がる)ためには、区分された上記空間の間に形成される段差を乗り越える必要があるため、頭部を移動させるための抵抗が大きく変化し、睡眠を妨げる恐れがある。
【0010】
上記課題を解決するため、本願発明の発明者らは、特許第7108991号に係る枕を考案した。この枕は、頭部の重量を、流体を充填した柔軟な薄肉シートから形成される変形可能な袋状の密封容器と、この密封容器の下方に配置したクッション体の双方で支持することにより、頭部を安定的に保持できるとともに、移動の際の抵抗を低減して、睡眠を促進することができる。
【0011】
上記発明においては、クッション体を密封容器の下方に別体として配置しているため、枕を使用するにはこれらを重ね合わせて使用する必要がある。このため、上記クッション体と密封容器がずれると使い心地が低下する恐れがあった。また、上記クッション体と密封容器が別体であるため、一体化するにはカバー等の別部材が必要であった。さらに、上記密封容器は柔軟な薄肉シートから袋状に形成されるとともに、その最大収容量の流体は充填されていない。このため、保形性が低く密封容器が容易に変形して破損しやすいという問題があった。このため、搬送する場合等には何等かの保形部材が必要であり、取り扱いに注意を要するといった問題もあった。
【0012】
本願発明は、上記課題を解消するために案出されたものであって、クッション体を、流体を満たした流体保持空間内に配置し、クッション体と流体保持空間とを一体化することにより、頭部を安定的に保持しつつ、頭部の動きを阻害することがなく、さらに、保形性及び強度を高めた枕を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明は、頭部を支持する枕であって、柔軟な薄肉シートから形成される頭部支持シートと、上記頭部支持シートの周囲が接合されて、上記頭部支持シートとの間に所定の流体保持空間を形成できるベース部材と、上記ベース部材の上記頭部支持シート側に保持されるクッション体と、上記流体保持空間に保持されるとともに、所定の流動性を有する流体とを備え、頭部によって上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面を上記クッション体に所定範囲で接触させることができるとともに、上記頭部の重量を、上記頭部支持シートを介して作用する流体の圧力と、上記頭部により変形させられる上記クッション体の双方で支持することができるように構成されたものである。
【0014】
上記頭部支持シートを柔軟な薄肉シートから形成するとともに、流体保持空間に上記流体を所定量充填して構成することにより、頭部の重量によって上記流体保持空間内の頭部下方にある流体が排除された状態で、上記頭部支持シートを介して、上記頭部が上記クッション体上に保持される。また、頭部の重量は、上記頭部支持シートを介して作用する上記流体の圧力と上記クッション体によって分担支持される。頭部の移動によって、上記流体が上記流体保持空間内で流動させられるため、上記頭部支持シートを変形させるための抵抗はほとんど発生しない。一方、上記クッション体の変形量に応じた移動抵抗が発生するが、上記クッション体に頭部の全重量を支持させた場合に比べて、移動抵抗は格段に小さくなる。
【0015】
すなわち、本願発明においては、頭部の重量は、上記頭部支持シートを介して作用する上記流体からの圧力のみによって支持されるのではなく、上記クッション体によっても支持される。すなわち、使用者の頭部の重量によって、上記頭部支持シートと上記クッション体の間の流体が排除されて、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体と所定範囲で互いに接触させられるように上記流体が充填されている。この構成によって、上記頭部支持シートを介して上記流体から作用する圧力と、上記クッション体から作用する圧力の2つの力によって頭部を支持できるように構成されている。
【0016】
頭部の重量によって変形させられて変形抵抗が生じるものであれば、上記クッション体として、種々の材料から形成されたものを採用できる。また、上記流体中に浸漬して使用可能なもののみならず、後述する構成によって上記流体に浸漬して使用できない材料から構成することもできる。上記クッション体から頭部に作用する力は弾性力に限定されることはない。たとえば、小豆やそば殻等の集合体が変形させられるときに生じる力を利用したものを採用することもできる。
【0017】
上記クッション体として、独立気泡を有するスポンジ体のように、通気性のない弾性体を採用できる。また、連続気泡を有するスポンジ体や繊維の交絡体のように、上記流体中に浸漬した場合に上記流体が上記多孔質弾性体内で流動できるように構成されたものを採用できる。この場合、上記クッション体内から排除された流体が他の流体保持空間に移動させられることになるため、流体圧力が上記クッション体の変形に影響することはなく、上記クッション体の変形特性が変化することはない。また、上記クッション体内の流体が周囲の流体保持空間に移動させられるため、流体から作用する反力を増加させる効果も期待できる。
【0018】
一般的な枕の材料として使用されてはいるが、水等の流体中では変質等によりそのまま浸漬して使用できない材料、例えば、小豆、そば殻等の粒子状材料を採用することもできる。このような材料を採用する場合、上記粒子状材料の集合体を変形可能な防水性のシート等で密封包装して構成されるクッション体を採用できる。
【0019】
上記クッション体においては、上記流体保持空間内に充填された流体とは異なり、頭部を移動させるのにクッション体自体を変形させる必要があり、頭部が移動する際に抵抗が発生する。本願発明は、上記流体が充填された流体保持空間に充填された流体の圧力と上記クッション体の双方で頭部の重量を分担支持するように構成することにより、所定の位置で頭部を安定的に保持できるとともに、寝返り等に伴う頭部の移動に必要な抵抗を従来の枕に比べて低減させ、睡眠を阻害することがないように構成している。
【0020】
頭部を載置したときの上記流体保持空間の変形量と上記クッション体の変形量は、上記流体保持空間の流体充填可能容量(最大充填可能容量)と、充填された流体の量と、上記クッション体の変形特性と、頭部の大きさ等によって複雑に変化する。このため、これらの多くの特性に基づいて、枕の特性を規定するのは困難である。特に、上記流体保持空間の最大充填可能容量に対する上記流体の充填率が高いと、頭部を載置した場合に、流体圧力によって上記頭部が上記クッション体に接触することなく支持されて、上記クッション体で頭部の重量を支持できなくなる。また、充填率が同じ流体保持空間であっても、枕の形態によって、上記クッション体によって支持される頭部の重量割合は大きく変化する。
【0021】
一方、所定の直径を有する球体を押し付けたときの上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられる範囲(接触面)の面積は容易に計測できる。しかも、上記接触させられる範囲の面積は、上記クッション体の変形量を直接示すものであり、これを特定することにより頭部の移動抵抗等を規定することが可能となり、枕の特性を特定することも可能となる。なお、球体における球冠の表面積は、球体の高さに比例する。すなわち、クッション体の球体に沈み込んだ高さと、沈み込んだ球体の接触表面積とは比例する。したがって、接触面積の代わりに、上記球体がクッション体に沈み込んだ高さを計測して基準とすることもできる。
【0022】
頭部を上記頭部支持シートの上に載置したとき、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられる領域の面積が大きくなるほど、上記クッション体の変形量が大きくなり、上記クッション体によって支持される重量も大きくなる。また、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられる領域の面積が大きくなるほど、頭部を移動させる際の上記クッション体の変形抵抗も大きくなることは明らかである。
【0023】
人の頭部の大きさは、年齢によって異なるものの、それほど広く分布するものではない。このため、特定の半径を有する球体を人の頭部と仮定した場合、各部材(流体保持空間の形態とクッション体)の変形特性が異なっていても、上記接触させられる領域の面積(あるいは、球冠の高さ)を容易に測定することが可能であり、また、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触する接触面積を規定することにより、所要の変形特性を有する流体保持空間やクッション体を設定することも可能となる。すなわち、上記接触面積によって、寝心地に関する上記枕の特性を規定することが可能となる。
【0024】
本願発明では、使用状態における、すなわち、頭部を載置した状態で、上記頭部支持シートの内面とクッション体とが、所定範囲で互いに接触させることができるように、上記流体保持空間に上記流体が充填される。人の頭部の大きさ及び形態は、人や年齢によって異なるが、上述したように、ほぼある範囲内に収まる。このため、使用状態における上記接触面積の範囲を容易に規定することができる。本願発明では、少なくとも20cmの直径を有する球体を頭部とみなして上記頭部支持シートの上方から押し付けたとき、上記球体が上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面が所定範囲で上記クッション体に接触させられるように構成している。すなわち、頭部とみなした上記球体を枕の上に載置した場合、まず、上記球体によって流体保持空間内の流体が排除された分だけ上記球体が上記頭部支持シートを介して上記流体保持空間内に沈み込む。次に、沈んだ上記球体によって上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられる。そして、上記頭部支持シート内面の接触面積が増加するように球体が上記クッション体に沈み込む。さらに、上記球体によって排除された流体が、上記流体保持空間の最大容量に達した場合、すなわち、上記球体によって上記排除された流体が退避する容量がなくなった場合、上記流体保持空間内の圧力が高まり、上記球体が上記流体保持空間内へそれ以上沈み込むことがなくなる。この変形態様は、上記クッション体として種々の材料や形態のものを採用した場合にも同様に生じる。
【0025】
人の頭部の周囲の長さ(頭囲)は、帽子を選ぶ際の基準となるものであり、大人男性で平均570mmであり、また、その分布は、528mmから613mmの範囲にあるとされている。頭部が球形であると仮定すると、上記の頭囲の値から、その直径は平均値が181mmであり、168mm~195mmの範囲にあることになる。したがって、少なくとも直径20cmの直径を有する球体を、上記頭部支持シートに載置して押し付けたときに、上記球体が上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面と上記クッション体が所定範囲で接触させられるように設定することにより、ほぼすべての人の頭を載置した場合に、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられることになる。また、上記直径の球体を用いることにより、人の頭部が上記頭部支持シートに載置された場合における、上記接触面積の範囲、すなわち上記クッション体によって支持される重量範囲を規定することが可能となる。なお、子供の頭部のように、頭部の重量や寸法が小さい場合は、上記頭部支持シートを介して作用する上記流体保持空間内の流体の浮力のみによって頭部の重量が支持される場合(すなわち、上記頭部支持シートと上記クッション体とが接触しない場合)も考えられるが、本願発明において要求される流動性を確保できる上記流体の比重は、頭部の比重に比べて小さく、また、頭部の全体が上記流体保持空間内に沈み込むことは考えられないため、考慮する必要はないと考えられる。
【0026】
上記構成を採用することにより、頭部を、上記流体保持空間内に充填した流体の圧力による反力と、上記クッション体の変形によって作用する反力の双方の力によって支持することが可能となる。なお、上記接触面積は、上記頭部支持シート上に頭部を直接載置した場合について説明したが、上記頭部支持シートの上面にタオル等の薄いシート状部材を配置した場合も、頭部の重量は最終的には、上記頭部支持シートを介して作用する上記流体と、上記クッション体で支持されることになるため、同様の効果を得られる。
【0027】
上記頭部支持シートと上記クッション体の接触面積が小さい場合、上記クッション体から作用する力が小さくなり、頭部を移動させる場合の抵抗力も小さくなる。頭部が移動するのに所要の抵抗を発生させるには、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられる領域の面積を、少なくとも上記球体(頭部)の全表面積の20分の1以上となるように構成するのが望ましい。
【0028】
頭部の形が球体であると仮定した場合で全表面積の20分の1によって上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられた場合、上記頭部は直径の約20分1の高さ分だけ、上記クッション体が沈み込むことになる。そして、頭部が転がり移動するには、上記流体保持空間内の流体移動と、上記クッション体の変形が必要となる。上記流体保持空間内の流体は容易に流動することができるため、頭部の動きによる変形抵抗はほとんど発生しない。一方、上記クッション体には変形抵抗が生じるため、頭部の移動に所定の抵抗が発生する。また、上記クッション体は流体ではなく、変形に対する固有の抵抗が存在するため、頭部を所定の位置及び姿勢で保持する保持力も発生する。本願発明では、頭部重量の一部が上記クッション体に保持されるため、頭部の下面の一部が保持された状態で左右に揺れるように揺動することも容易になる。すなわち、船が岩礁で座礁した場合、所定位置を保持しつつ波によって揺り動かされるような状態となる。所定位置における頭部の一種の揺れを許容することにより、所定の安定感を得られるとともに、揺れによって血行を促進する効果を期待でき、また、首等の筋肉を弛緩させて睡眠を促進する効果を期待できる。
【0029】
上記抵抗や保持力は、クッション体の変形特性に応じて変化する。しかしながら、上記クッション体に作用するのは頭部の全重量ではないため、従来の枕のように頭部の全体を上記クッション体に直接支持させた場合に比べて移動抵抗が小さくなり、通常の枕に比べて頭部を容易に移動させることができる。このため、寝返り等を容易に行うことも可能になる。一方、水枕のように頭部の全重量が流体で保持されないため、所定の位置に頭部を保持する保持力も発生する。
【0030】
頭部(球体と仮定した場合には、直径20cmの球体)の全表面積の20分の1~3分の1の領域で、より好ましくは、全表面積の10分の1~3分の1の領域で、上記頭部支持シートの内面が上記クッション体に接触させられるように構成するのが望ましい。接触面積が、頭部の全表面積の20分の1以下では、頭部の移動抵抗が小さくなって、頭部を安定支持することができなくなる。一方、接触面積が、3分の1以上になると、頭がクッション体に大きく沈み込むため(球体と仮定した頭部の直径の3分の1以上がクッション体に沈み込む)、頭部を移動させるのが困難になる恐れがある。上記の範囲に設定することにより、頭部に適度の移動抵抗を確保することが可能となる。
【0031】
上記ベース部材は、上記クッション体を保持できれば、種々の材料で形成できる。たとえば、基本的に変形しない硬質樹脂や木材、あるいはアルミ等の板状材料で形成することもできるし、上記頭部保持シートと同様の変形可能なシート状材料で形成することもできる。上記ベース部材を頭部支持シートと同様の柔軟なシートで形成した場合においても、上記クッション体を上記ベース部材の上記頭部支持シート側に保持することができる。上記クッション体は、上述したように変形抵抗を有するため、上記流体保持空間内に配置することにより、枕全体の保形部材として機能させることができる。特に、上記流体保持空間の保形性を高めることができるため、枕の補強材としても機能する。もちろん、上記ベース部材を硬質の板状部材で構成した場合、上記頭部支持シートの変形が規制されるため、より保形性及び強度が高まる。
【0032】
上記流体保持空間内に上記クッション体を保持する場合、上記ベース部材に上記クッション体を固定して保持する必要はなく、使用時に上記クッション体が上記ベース部材に支持できればよい。すなわち、少なくとも、頭部を載置した使用状態において、上記クッション体を、上記ベース部材の所定位置に保持できるように構成されていればよい。たとえば、上記クッション体を上記流体中に浸漬して構成する場合、使用していない状態では、上記流体保持空間内の所定範囲で遊動できるが、頭部を載置することにより上記ベース部材の所定領域に保持されるように構成できる。例えば、上記流体保持空間内で、クッション体から離間した状態では流体保持空間内を所定範囲で遊動できるが、上記クッション体に密着させると互いに篏合して位置決めできる凹凸等を設けて構成することができる。
【0033】
上記クッション体は、必ずしも上記流体に浸漬するようにして上記流体保持空間内に保持する必要はない。例えば、クッション体を防水性のシートで覆うように構成し、上記流体保持空間内に配置することができる。また、上記ベース部材の上面中央部に、防水シートから構成されるクッション体封止シートを、上記クッション体を覆うように配置し、上記クッション体封止シートの縁部と上記ベース部材の上面を接合して上記クッション体をこれら部材間に密封することができる。そして、クッション体封止シートを、上記頭部支持シート及び上記ベース部材と協働して上記流体を保持する流体保持空間を形成するように構成できる。この場合、上記クッション体が、上記クッション体封止シートを介して、上記流体保持空間に膨出する形態となり、実質的に上記流体保持空間内に直接配置されたのと同様の構成となり、また、同様の作用効果を得ることができる。
【0034】
上記ベース部材を、縁部に上記頭部支持シートの縁部が接合できる板状部材と、柔軟なシート又はフィルムから形成されるとともに、上記クッション体の表面を覆うようにして縁部が上記板状部材の内側部に接合されて、上記クッション体をこれら部材間に密封するクッション体封止シートとを備えて構成することができる。これにより、上記クッション体を、上記頭部支持シートと板状部材間に形成される流体保持空間内で上記流体に接触することなく保持できるように構成することもできる。
【0035】
さらに、上記ベース部材の上記クッション体を配置した領域に、上記クッション体を着脱できる開口手段を設けることができる。たとえば、上記板状部材の上記クッション体を配置した領域を開口するとともに、この開口を開閉可能に覆う蓋体を設け、上記クッション体封止シートの縁部を上記開口の縁部に接合することにより、上記クッション体を上記ベース部材に交換可能に設けることも可能となる。しかも、上記封止シートによって、クッション体は、上記流体に接触することがない。このため、種々の材料や変形特性を有する材料から形成されたクッション体を交換可能に配置することができる。これにより、使用者の好みや身体条件に応じたクッション体を採用することが可能となる。
【0036】
上記頭部支持シートの内面を上記クッション体に接触させることができる球体の直径を規定することにより、上記枕の特性を示すことができる。後述するように、使用者の好みや就寝姿勢によって上記クッション体を選択する必要がある場合が考えられる。また、流体保持空間の特性(仕様)を規定しておき、上述した接触面積となるように、クッション体の材料や厚みを設定する場合も考えられる。このため、所定の範囲のクッション体に適合する上記流体保持空間の特性を規定する必要がある。たとえば、上記クッション体を有しない上記流体保持空間を構成する材料を、変形しない平坦面に設置して、少なくとも25cmの直径を有する球体を載置したとき、上記球体が上記流体保持空間内の流体を排除して、上記頭部支持シートの内面が上記ベース部材の内面に接触させられるとともに、上記流体保持空間内の容量に余裕がなくなるように構成することができる。
【0037】
直径25cmの球体は、人間の頭部の約1.5倍の直径となる。上記平坦面及び上記球体は変形しないため、理論的には、上記頭部保持シートの内面は一点で、上記ベース部材の内面に接触させられることになる。上記基準の流体保持空間内に、枕として構成可能なクッション体を設けた場合、使用状態において、上述した面積の範囲内で、上記頭部支持シートの内面をクッション体に接触させることが可能となる。
【0038】
特許文献2に記載されているように、音楽等に睡眠の導入効果があることは実証されている。ところが、睡眠中の音の効果については、これまで余り知られていなかった。近年研究が進み、所定の音が睡眠中の脳を刺激し、睡眠の質を高めたり、認知症に効果があることが分かってきた。本願発明では、上記クッション体を上記流体保持空間内に、上記流体と接触させて保持することができる。上記クッション体として上記流体が出入りできる多孔質体を採用すると、上記クッション体内を流動する流動音を発生させことも可能となる。たとえば、上記クッション体内に、流体の流動によって振動するリード等を配置することが考えられる。
【0039】
また、上記流体保持空間内に、所定の流動性を有する液体と気体とを所定の割合で含む流体を充填することができる。液体と気体とを混合した流体を採用することにより、頭部の移動によって粘度の異なる流体が流動させられることになり、これら流体間に速度差が生じる。また、気体は、液体より比重が小さく、流体保持空間の上方内面に沿って流動させられるとともに、頭部の移動によって一種の泡となって、分割集合させられる。このため、液体と気体とを混合して、流体保持空間内に充填することにより、所要の流動音を発生させることができる。
【0040】
就寝中の使用者に与える音の影響についての詳細な効果は実証されていない。しかしながら、海の波音や川のせせらぎ音等の自然の音が、睡眠導入によい効果をもたらすことは周知である。本願発明に係る上記流体保持空間内で発生する音は、上記波音や川のせせらぎ音に近く、したがって、睡眠導入の促進効果を期待できる。
【0041】
また、就寝中であっても音に対する認知機能は発揮されており、レム睡眠中の寝返り時等においては、音が脳を刺激することが実証されている。また、睡眠中の音の刺激が認知症の予防あるいは治療に効果があるとの研究結果がある。本願発明では、頭部の移動にともなう流動音は、自己の頭部の移動によって発生する音声であり、また、液体の流動音であるため自然界の水音に近く、睡眠を阻害することはない。
【0042】
上記流体の粘度は、頭部の移動によって大きな抵抗を発生しない範囲であって、気体と混合することにより、所要の流動音を発生させるように設定することができる。たとえば、上記液体の粘度を、0.1~20mPa・sの範囲に設定することができる。また、液体の粘度を、0.5~10mPa・sに設定するのが好ましい。液体の粘度が0.1mPa・s未満であると、流動抵抗が小さくなり、発生する流動音も水の流動音と異質のものとなる。また、0.1mPa・s未満の液体は揮発性のものが多くなるため、利用するのは困難である。一方、液体の粘度が、20mPa・sを越えると、流動抵抗が大きくなり、流速も低下するため、流動音が発生しにくくなり、波音やせせらぎ音からは遠くなるため、睡眠促進効果は期待できないと考えられる。なお、20℃における水の粘度は1.0mPa・sであり、波音や川のせせらぎ音に近い流動音を発生させるには、流体として水を採用するか、水の粘度に近い粘度を有する流体を採用するのが好ましい。
【0043】
なお、流動音は、上記流体の粘度等の特性によって変化するため、使用者の好みに合わせて、所要の粘度を有する流体を選択することもできる。たとえば、上記流体として水を採用し、上記気体として空気を採用できる。また、安全性を確保できれば、流動性のある種々の液体状油脂を採用できる。なお、気体にも粘性があるが、液体と比較すると非常に小さいため、発生する音声に気体の粘度が関係することはほとんどなく、考慮する必要はないと考えられる。
【0044】
上記流動音は、上記液体の流動抵抗と上記気体の流動抵抗(流動速度)の差からも生じるものであり、配合割合によって、流動音が変化する。たとえば、ゴム風船の中に水と空気とを充填した水ヨウヨウのように、配合割合で流動音が変化する。
【0045】
睡眠に適する流動音を発生させるには、上記気体を上記液体に対して、大気圧の下で、容積割合で0.5~10%の割合で混合したものを採用するのが好ましい。上記範囲に設定することにより、頭部の移動にともなう上記液体の流動によって、波音や川のせせらぎ音に近い音を発生させることができ、睡眠を促進できる流動音を発生することが可能となる。
【0046】
上記混合割合が0.5%未満では、流動音が小さくなりすぎて、睡眠中の人が感知しうる流動音を発生させることができない。一方、10%を越えると、流体保持空間を構成する材料の変形に上記空気の弾性の影響が出て、寝心地を低下させる恐れがある。
【0047】
砂浜に波が打ち寄せる音が、睡眠を促進させるとの種々の報告がある。砂浜に打ち寄せる波音は、砂浜の砂が流体によって流動させられる際の衝突音を含む。このため、上記流体保持空間内の上記流体内で浮遊する粒子状固形物を混合することにより、頭部の移動によって粒子間の衝突音を発生させることが可能となり、砂浜に波が打ち寄せる音に近い音を発生させることができる。
【0048】
上記流体保持空間内に、5~20容量%の粒子状固形物を含ませることができる。粒子状固形物の配合割合が5容量%未満の場合、効果のある衝突音を発生させることが困難である。一方、20容量%以上配合すると、流体の流動性が低下させられて、本願発明の上述した作用効果がなくなる恐れがある。
【0049】
上記粒子状固形物は、上記流体保持空間に充填された液体の比重以下の比重を有するとともに、上記枕を平坦面に載置したときの上記流体保持空間の厚みの5分の1以下の粒径を有するものを採用するのが好ましい。
【0050】
上記粒子状固形物として、液体の比重以下のものを採用することにより、上記粒子状固形物を上記液体に浮遊させた状態で保持することができる。このため、液体の流動にともなって、上記粒子状固形物を効果的に流動させることが可能となり、所要の衝突音を発生させることができる。また、上記粒子状固形物を浮遊させることにより、頭部の下に挟まれることがなくなり、寝心地を低下させる恐れもなくなる。また、粒子状固形物の大きさが大きいと、上記液体の流動を阻害する。上記流体保持空間の厚みの5分の1以上の粒径を有するものを採用すると、頭部の移動による流体の流動によって、これら粒子状固形物を流動させるのが困難になる。このため、効果的な衝突音を発生させることができなくなる。
【0051】
上記粒子状固形物は、衝突によって衝突音が発生するものであれば特に限定されることはない。充填された液体より比重の軽い天然あるいは人工の無機物質等を採用することができる。たとえば、液体として水を採用した場合は、水に浮く軽石粒子や水より比重の小さい樹脂粒子を採用できる。また、硬質ゴムや硬質プラスチック等で形成された粒子を採用できる。ゴムやプラスチックは、金属等に比べて衝突の際に生じる音が小さく、また、音の周波数も小さい。このため、睡眠を阻害するような衝突音が発生しにくい。
【0052】
本願発明では、上記流体保持空間内に、連続気泡(気孔)を有する多孔質体から形成されたクッション体を上記流体に浸漬した状態で配置することができる。この場合、寝返り等によって上記クッション体が変形させられた場合、上記流体が上記クッション体内でも流動させられる。この多孔質体内の流体の流動を利用して、流動音を発生させることもできる。例えば、上記多孔質体内に、上記流体の流動によって振動する振動体や、流体の流動速度を高めて流動音が生じる流路等を設けることができる。
【0053】
上記流体保持空間内に保持されるクッション体に加えて、上記頭部支持シートの上方あるいは下方に種々のクッション性を有するシート状部材を積層し、上記クッション体の特性を補完することができる。また、複数のシート状クッション体を選択して重ね合わせ、上記クッション体の弾性変形量を調整できる。この場合も、頭部の重量は、上記頭部支持シートを介して作用する上記流体の圧力と、上記クッション体によって支持されるため、上述した作用効果が発揮される。
【0054】
上記流体保持空間に充填される流体の充填量(最大充填可能容量に対する充填割合)によって、上記頭部支持シートがクッション体に接触させられる領域の面積や、枕の高さが変化する。このため、上記流体保持空間の最大充填容量に対する流体の充填割合を変化させることにより、寝心地を変化させることが可能となり、適用可能範囲を広げることができる。たとえば、上記頭部支持シートあるいはベース部材を、少なくとも一の縁部において変形させ、上記流体が充填された空間の容量を調節できるように構成することができる。この構成を採用すると、上記流体保持空間の最大充填容量に対する流体の充填割合を調整することが可能となり、上記流体保持空間と上記クッション体によって分担保持される頭部重量の割合を変更することが可能となる。このため、寝心地を容易に変更することができる。
【0055】
また、上記流体保持空間の一部を密封可能に開口しておき、上記クッション体を交換したり、充填される上記流体の量を調節できるように構成することができる。これにより、枕の特性選択の幅が大きく広がる。
【0056】
本願発明では、上記流体保持空間内に液体を充填できるため、熱容量の大きな液体を採用することにより、水枕と同様に冷却効果を期待できる。例えば、上記流体として、粘度の低い種々の液状保冷材を採用できる。
【0057】
また、枕には、通常カバーが設けられる。上記頭部支持シートの変形を妨げないかぎり、種々のカバーを採用できる。
【発明の効果】
【0058】
頭部の重量を、流体保持空間内に充填された流体と、変形可能なクッション体とによって分担支持することにより、頭部を安定的に保持するとともに、移動抵抗を低減させ、寝返り等を容易に行うことができる。また、上記クッション体を流体保持空間内に配置することにより、枕の保形性を確保して強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【
図1】本願発明の第1の実施形態に係る枕の不使用時の構造を示す断面図である。
【
図2】本願発明の第1の実施形態に係る枕の使用時の構造を示す断面図である。
【
図3】第1の実施形態において、頭部を移動させる場合の流体保持空間及びクッション体の変形を模式的に示す断面図である。
【
図4】第1の実施形態において、頭部を載置する場合の枕の変形の過程を説明する断面図である。
【
図5】第1の実施形態のクッション体として繊維を交絡させた多孔質体を採用した場合の断面図である。
【
図6】第1の実施形態のクッション体として、連続気孔を有するスポンジ体を採用した場合の断面図である。
【
図7】第1の実施形態のクッション体として、ブラシ毛状の茎体を設けたものを採用した場合の断面図である。
【
図8】第2の実施形態に係る枕の図でありベース部材に硬質の板材を採用した場合の断面図である。
【
図9】第3の実施形態に係る枕の図でありベース部材に皿状の樹脂成形品を採用した場合の断面図である。
【
図10】第4の実施形態に係る枕の図であり、他の形態のベース部材を採用した断面図である。
【
図11】第5の実施形態に係る枕の図であり、クッション体を流体に接触することなく、かつ交換可能に保持した形態の断面図である。
【
図13】
図11に示す実施形態に係る枕において、他の形態のクッション体を採用した例を示す断面図である。
【
図14】流体保持空間の容量を調節できるように構成した例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0060】
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて詳細に説明する。なお、本実施形態では、外観形態が矩形状に形成された枕に本願発明を適用したが、円形等他の外観形態を有する枕にも適用できる。なお、枕使用者の頭部6を球体として表している。
【0061】
図1及び
図2に示すように、枕1は、柔軟な薄肉シートから形成される頭部支持シート2aと、上記頭部支持シート2aの周囲が接合されて上記頭部支持シート2aとの間に所定の流体保持空間10を形成できるベース部材2bと、上記流体保持空間10内に配置されたクッション体3と、上記流体保持空間10内に保持されるとともに、所定の流動性を有する流体5とを備える。
【0062】
本実施形態では、上記クッション体3は、
図1に示すように、不使用時には上記流体保持空間10に充填された流体内で遊動できるように保持される。一方、
図2に示すように、頭部6を上記頭部支持シート2aに載置する使用時には、自重あるいは上記頭部6の重量によって、上記クッション体3の底面が平坦面Hに載置された上記ベース部材の内面に添着されるように構成されている。なお、本実施形態では、上記クッション体3を上記流体保持空間10に遊動可能に保持したが、上記ベース部材2bの内面に保持されるように構成することもできる。
【0063】
図2に示すように、頭部6を頭部支持シート2aの上に載置すると、頭部6によって上記流体保持空間10内の流体5を排除して、上記頭部支持シート2aの内面を上記クッション体3に所定範囲Sで接触させることができるように構成されている。上記構成によって、上記頭部6の重量が、上記頭部支持シート2aを介して作用する流体5の圧力と、上記頭部6により変形させられる上記クッション体3の双方で支持することができるように構成されている。なお、本実施形態では、上記頭部支持シート2aと上記ベース部材2bの双方を、柔軟な樹脂から形成された薄肉シートから構成している。また、
図2以降の図に示すように、本実施形態では上記ベース部材2bを平坦面Hに載置した状態に基づいて説明する。
【0064】
上記流体保持空間10は、柔軟な上下の薄肉シートから構成される上記頭部支持シート2aと上記ベース部材2bとの縁部を接合して構成される矩形袋状の形態を備える、上記流体保持空間10に流体5が充填されている。
【0065】
容易に変形させることができれば、上記頭部支持シート2aの材料は限定されることはない。たとえば、種々のプラスチック製シートやゴム製シートを採用できる。また、プラスチックあるいはゴムと、繊維等から形成された複合材料シートを採用することもできる。上記頭部支持シート2aの厚みも、頭部の重量によって容易に変形させることができる柔軟性と、頭部6の重量を支持できる強度を有しておれば、特に限定されることはない。プラスチック製シートを採用する場合、0.05mm~0.3mmの厚みを有するものを採用するのが好ましい。本実施形態では、0.1mmの厚みを有するポリエチレン製シートを採用している。なお、上記ベース部材2bを頭部支持シート2aと同じシート形成することもできるが、上記ベース部材2bは、特に変形できる材料を用いる必要はなく、硬質の板状材料等を採用することもできる。
【0066】
上記流体保持空間10内に、ゴム等の弾性材料から形成されたクッション体3と、流体5が充填される。本実施形態では、まず、上記頭部支持シート2aとベース部材2bの三方の縁部を溶着した袋体を形成し、溶着されていない一方の縁部に設けられた開口部分から上記流体5と上記クッション体3充填した後に、この一方の縁部を溶着する。本実施形態では、上記流体5として水と空気とを混合したものを採用している。
【0067】
上記クッション体3は、種々の材料から形成できる。本実施形態では、上記クッション体3が上記流体5中に浸漬されるため、上記流体5によって変質しない材料を採用するのが好ましい。たとえば、上記流体として水を採用する場合、耐水性のあるスポンジ体や、耐水性のある繊維を交絡させて構成される多孔質体を採用することができる。また、変質する材料から上記クッション体3を構成する場合には、クッション体の周囲を防水性のシート等で覆って密封し、上記流体5が上記クッション体3を構成する材料に接触しないように構成することもできる。たとえば、クッション体3として木綿綿やタオル等の布材料を防水シート等で密封して使用することができる。また、樹脂ビーズやそば殻等の粒子状物質を、防水性のある袋に充填したものを採用することもできる。
【0068】
上記クッション体3は、
図1及び
図2に示すように、少なくとも使用時には、上記ベース部材2bの内面に密着するように保持される。なお、上記クッション体3は、上記ベース部材2bの内面に接着剤等を用いて固定的に設けることもできるし、
図1に示すように、不使用時に上記流体保持空間10内で遊動可能に保持することもできる。上記クッション体3として、保形性のある材料を選択することにより、
図1に示すように、上記流体保持空間10の保形性を高めることが可能となり、枕1の強度を高めることができる。
【0069】
上記流体保持空間10には、水と空気とを混合した流体5が充填されている。本実施形態では、上記流体5は、上記水に対して2容量%の空気8が配合されている。上記空気8の混合割合は、0.5~10%の範囲で設定できる。上記範囲に設定することにより、流体が流動する際に、上記空気8が泡となって離散集合させられ、流動音が発生する。なお、上記流体5の構成も特に限定されることはない。たとえば、流動性のある油脂と、チッソ等の不活性ガスを混合したものを流体として利用できる。所要の流動性を確保するため、上記液体として粘度が、0.5~20mPa・sである液体を採用するのが好ましい。なお、水の粘度は、常温(20℃)において、1mPa・sである。
【0070】
本願発明に係る枕1においては、頭部6の重量を、上記頭部保持シート2aを介して作用する上記流体5の圧力と、上記クッション体3からの変形反力によって支持するように構成する。使用状態において、上記頭部支持シート2aの内面を、上記クッション体3の上面に所定範囲で接触させることができるように、上記流体保持空間10の寸法や変形特性と、上記クッション体3の変形特性が設定される。
【0071】
本実施形態に係る枕1の構造及び機能を
図3及び
図4に基づいて具体的に説明する。なお、これらの図は、理解を容易にするため、上記枕1において、使用者の頭部6を球体と仮定するとともに、上記頭部支持シート2a上に頭部6を直接載置した場合の変形形態を示している。また、枕1を平坦面に載置して使用する場合を示す。
【0072】
図4に、頭部6を載せる過程における枕1の形態変化を模式的に示す。なお、実際の形態変化は、上記流体保持空間10の三次元の形態変化であるが、二次元の形態変化として模式的に表している。
図4(a)は、頭部6を載置する前の状態、
図4(b)は、上記頭部6が流体保持空間10内に沈み込んではいるが、クッション体3にまで沈み込んでいない状態、
図4(c)は、頭部6がクッション体3に沈み込んで、上記クッション体3を所定量変形させているが、流体保持空間10の容量に余裕がある状態、
図4(d)は、流体保持空間10において頭部6によって排除された流体5を他の部位に退避(移動)させる容量の余裕がなくなった状態を示す。
【0073】
枕1に頭部6を載置しない状態(
図4(a))では、上記ベース部材2bが、平坦面Hに沿って保持されるとともに、上記頭部支持シート2aの内面と、上記クッション体3の上面との間に、所定の高さで流体5が保持される。なお、
図4(a)では、クッション体3の比重が上記流体5より大きいため自重によって下方に沈んで上記ベース部材2bの下方内面に添着されている。
【0074】
図4(b)に示すように、頭部6が上記頭部支持シート2aに沈み込むと、その下方に位置する流体保持空間10内の流体が排除されるが、排除された流体が沈み込んだ頭部6の周囲の流体保持空間10に流動させられて、頭部6の周囲の頭部支持シート2aが膨れ上がるように変形させられている。すなわち、上記形態において流体保持空間の充填容量に余裕があれば、上記頭部6によって排除された流体5は周囲の流体保持空間の厚みが増加することにより吸収される。この場合、頭部6には、上記排除された分の液体5の重量に対応した浮力が作用すると考えられる。
【0075】
図4(b)の状態から、頭部6がさらに沈み込むと、
図4(c)に示すように、上記頭部支持シート2aの内面と上記ベース部材2bの上面が接触させられ、上記頭部支持シート2aとともに、頭部6が上記クッション体3に沈み込む。この状態では、上記頭部6の重量は、上記クッション体3の弾性力と、上記流体5による一種の浮力により支持される。
【0076】
さらに、
図4(d)に示すように、上記頭部6の流体保持空間10内への沈み込みによって上記流体保持空間10の容量に余裕がなくなると、頭部6が排除した流体5が他の部位に移動できなくなるとともにクッション体3がそれ以上変形できなくなる。上記変形が停止した後、上記頭部支持シート2aを介して頭部6からそれ以上の重量が作用した場合は上記流体5の圧力が上昇して、上記流体5によって頭部を支持する力の割合が高まる。
【0077】
本願発明に係る枕1は、上記
図4(c)に示す状態、及び上記
図4(d)に示す状態で使用される。すなわち、上記頭部支持シート2aと上記クッション体3とが頭部6によって所定範囲Sで接触させられるとともに上記クッション体3に沈み込んだ状態(
図4(c))、及び頭部6によって排除された流体5によって上記流体保持空間10のそれ以上の変形が不可能となった状態(
図4(d))で使用することができる。
【0078】
上記
図4(c)及び
図4(d)の状態では、上記頭部6の重量は、上記頭部支持シート2aを介して作用する上記流体の圧力と、上記クッション体3の双方で支持されている。一方、上記の各状態から頭部6が横方向に移動しようとした場合、上記クッション体3を変形させるために抵抗が発生する。
図3に示すように、頭部6が移動する際の抵抗(転がり移動するための抵抗)は、上記接触により変形状態にあるクッション体3において、上記変形状態からさらに変位あるいは変形する際に生じるものである。このため、
図2に示す接触させられる範囲Sの変形量を特定することにより、寝返り時等における頭部の移動抵抗を推定することができる。このことからも、上記接触させられる範囲Sの面積を特定することにより、枕1の変形特性を特定することができる。
【0079】
一方、移動速度が小さい場合は、上記流体5及びこれに支持された頭部支持シート2aを変形させる抵抗はほとんど発生しない。したがって、頭部6を移動させる抵抗が軽減される。なお、流体保持空間10内の流体5が移動する抵抗が発生すると思われるが、頭部6の移動速度が小さい場合は上記流体5の流動抵抗も上記クッション体3の変形抵抗に比べて小さい。
【0080】
上述したように、上記流体保持空間10に上記頭部6によって排除された流体5を収容する容量に余裕がある場合、使用者の頭部6を載置すると、頭部6の下方の水が排除されて他の部分の厚みが増加するように変形させられる。この変化は、上記流体保持空間10の容量に余裕がなくなるまで増加する。上記厚みの変化は、上記流体保持空間10の充填可能容量に対する水の充填割合や、流体保持空間10の形態等によって変化する。また、上記流体保持空間10内には、クッション体3が配置されているため、上記流体保持空間10の変形形態も、上記クッション体3の変形特性によって大きく変化する。このため、上記流体5を構成する水の充填割合やクッション体3の弾性等によって、上記枕1の変形特性を特定することは困難である。
【0081】
一方、上記クッション体3に、頭部6の重量の一部を支持させるには、上記頭部支持シート2aの内面と、上記クッション体3の上面が接触させられるように構成する必要がある。しかも、
図2に示すように、上記接触させられる範囲Sの面積が増加すると、クッション体3の変形量が増加し、頭部6を支持する反力も増加する。また、クッション体3の変形量や変形抵抗は比較的容易に測定できることから、クッション体3が支持する頭部の重量を求めることも可能となる。したがって、上記流体保持空間10に充填された流体5と上記クッション体3が頭部を支持する力の割合を容易に求めることも可能となる。たとえば、頭部6を示す球体として透明なものを用いると、上方からの目視で接触面を確認することが可能となり、また、接触面積を容易に測定できる。
【0082】
少なくとも、使用状態において、頭部支持シート2aの内面と上記クッション体3の上面とが、球体と仮定した上記頭部6の全表面積の20分の1~3分の1の面積で接触させられるように構成するのが望ましい。接触面積が、頭部の全表面積の20分の1以下では、頭部の移動抵抗が小さくなって、頭部を安定支持することができなくなる。一方、接触面積が、3分の1以上になると、頭がクッション体に大きく沈み込むため(球体と仮定した頭部の直径の3分の1以上がクッション体に沈み込む)、頭部を移動させるのが困難になる恐れがある。上記の範囲に設定することにより、頭部に適度の移動抵抗を確保することが可能となる。
【0083】
上記頭部6から作用する力(頭部の重量)は、上記頭部支持シート2aから作用する流体からの反力と、上記クッション体3が変形させられたことによる反力とを加え合わせたものに相当する。上記頭部6が排除した流体の重量による力が、上記頭部支持シート2aから上記頭部6(球体)に作用する反力となるように設定するのが望ましい。すなわち、上記頭部6の重量が上記流体保持空間10内の圧力を高めないように構成するのが望ましい。これにより、流体5の圧力は、表面が大気に接している場合と同じ状態となり、流体5の流動性が阻害されることはなく、また、流体保持空間10内の圧力変化が生じない。なお、上記流体保持空間10に充填される流体の充填量率を大きく設定し、容量に余裕のない状態で頭部6を支持して上記流体保持空間10内の圧力を高め、上記流体5に頭部支持力の分担割合を増加させることもできる。
【0084】
一方、上記クッション体3は、頭部支持シート2aが接触させられた部分において、上記頭部6の形態に応じて変形させられている。そして、この変形に要した力が、接触させられた範囲Sから反力として上記頭部6に直接作用し、この反力が、上記頭部6を支持するための上記クッション体3が分担する力となる。
【0085】
図3に示すように、頭部6が転がり移動する場合、すなわち、球体が転がり移動するには、上記クッション体3の移動方向の部分を変形させなければならない。上記流体保持空間10内には流体5が充填されているため、頭部6の移動速度が小さい場合は、この流体5が流体保持空間10内で流動させられることによる変形抵抗はほとんど生じない。したがって、流体保持空間10の変形に伴う頭部6の横方向への移動抵抗は、ほとんど生じない。一方、上記クッション体3は、弾性あるいは塑性を有しているため、頭部6が転がり移動する際に変形抵抗が発生し、頭部6の横方向への転がり抵抗が発生する。したがって、ごく低速で上記頭部6が移動するための抵抗(転がり抵抗)は、上記クッション体3を直接変形させるための力にほぼ等しい。したがって、上記頭部支持シート2aの内面がクッション体3に接触させられる範囲Sの面積が大きいほど、上記頭部6のころがり抵抗が大きくなる。また、上記接触させられる範囲Sの面積は、上記流体保持空間10から頭部6に作用する力の分だけ小さくなるため、上記クッション体3に直接頭部6を載置した場合に比べて小さくなる。これにより、上記接触させられる範囲Sの面積を調節することにより、上記頭部6の転がり抵抗を調節することが可能となる。
【0086】
なお、接触させられる範囲Sの面積は、頭部の重量やクッション体の弾性等によって変化する。また、頭部の重量は人によって異なるが、広い範囲に分布するものではなく、ほぼ体重の10分の1と言われている。本実施形態に係る枕の目的は、最適な転がり抵抗が発生するように構成することである。したがって、頭部6の重量に係わらず、上記接触させられる領域の面積を頭部6と仮定した球の全表面積の20分の1~3分の1の範囲、より好ましくは、10分の1~3分の1の範囲で設定するのが望ましい。なお、上記接触させられる範囲Sの面積は、頭部6のクッション体3への沈み込み量(沈み込み深さ)によっても規定することができる。使用者の頭の形態や寸法に応じて、上記クッション体3と上記流体保持空間10の形態とを調整し、最適な接触面積となるように構成するのが好ましい。
【0087】
上記構成によって、所要の転がり抵抗を有する枕1を構成することができる。上記枕1における転がり抵抗は、上記クッション体3に頭部6を直接載置した場合に比べて小さく、寝返り等を容易に行うことが可能となり、寝心地を高めることができる。
【0088】
さらに、本実施形態では、流体5として上記水とともに、空気8を流体保持空間10に充填している。上記空気8の配合割合は、水と空気の混合流体の2容量%としている。
【0089】
空気8の比重は水より小さいため、上記流体保持空間10における頭部支持シート2aの上方内面に沿って集合する。頭部6を枕1に載置すると、頭部6の両側に分離させられた状態となる。
【0090】
上記頭部6が転がり移動すると、上記頭部6の移動にともなう水(流体5)の流動によって、上記空気が気泡となって離散集合させられる。このとき、上記空気8と上記水の流動速度等に差が生じるため、流動音が発生する。上記流動音は、上記水と空気8の流動速度の差によって、空気の気泡が離散集合される際に生じる振動音であると考えられる。
【0091】
上記流動音は、使用者の頭の移動によって生じるものであり、大きな流動音や、周波数の高い流動音は発生しない。このため、睡眠を阻害する恐れもない。また、上記流動音は、波音や川のせせらぎ音と同様の水と空気が混合した流動音であり、睡眠を促進する効果を期待できる。睡眠促進効果を期待できる流動音を発生させるためには、充填された流体の体積割合で0.5~10%の空気8を配合するのが好ましい。
【0092】
上述した実施形態では、流体保持空間10とクッション体3とを備える枕の特性について説明したが、使用者の好みに応じて種々のクッション体を採用したい場合がある。このような場合は、使用者の頭部の重量や形態に係わらず所要の範囲の接触面積を得ることができる枕を提供する必要がある。
【0093】
このような場合、理論的には、流体保持空間10の最大充填容量に対する充填量を規定することにより、変形特性を規定することができると思われる。ところが、接触範囲Sの面積は、流体保持空間10の容量のみならず、形状や大きさによって変化する。このため、流体の充填割合のみを規定したのでは、所要の特性を有する枕1を得ることができない場合が多い。
【0094】
上述した実施形態では、中実のゴム状体をクッション体3として採用したが、クッション体3として種々の材料から形成されたものを採用できる。
図5~
図7に、クッション体3として種々の材料を採用した実施例を示す。
【0095】
図5は繊維を交絡させてクッション体301を形成したものである。上記繊維として種々のものを採用できるが、流体5によって変質することがなく、弾性のある繊維を採用するのが好ましい。例えば、ポリエチレン繊維を交絡させたものを採用できる。上記クッション体301は、
図5に示すように、連続する空隙を有する多孔質状に形成されており、流体5が自由に出入りできる。このため、中実状の弾性体を採用した場合に比べて、種々の変形特性を有するクッション体301を形成することができる。また、クッション体301内に流体が出入りさせられるため、上記流体5によって支持される重量の割合を若干ではあるが増加させることができる。さらに、多孔質体内を上記流体が流動できるため、流体の流動による音声を発生させることもできる。
【0096】
図6に示す実施形態は、上記クッション体302の材料として、連続気泡を有するスポンジ体を採用したものである。この実施形態においても、
図5に示す実施形態と同様の作用効果を得ることができる。上記スポンジ体として、上記液体5に対する耐性のある材料から形成されたものを採用するのが好ましい。例えば、ネオプレンゴム、シリコンゴム、EPDM等の材料から形成されたものを採用できる。
【0097】
図7に示す実施形態は、クッション体303として、変形可能な基板303aに弾性繊維303bを植設したものである。例えば、人工芝状に構成したクッション体303を採用できる。この実施形態においても、
図5に示す実施形態と同様の作用効果を得ることができる。さらに、上記弾性繊維303bの先端によるマッサージ効果を期待することもできる。
【0098】
図8に示す実施形態に係る枕104は、上記ベース部材202bとして、硬質の板状部材を採用したものである。実施形態では、上記ベース部材202bの縁部において、柔軟な樹脂から形成された薄肉シート製の頭部支持シート202aが接合されている。この実施形態では、上記ベース部材202bが変形しないため、枕全体としての高い保形性を得ることができる。また、上記頭部支持シート202aと上記ベース部材202bの接合強度を高めることもできる。
【0099】
上記実施形態において、柔軟なシート又はフィルムから形成されるとともに、上記板状部材の上面に配置された上記クッション体の表面を覆うようにして縁部が上記板状部材(ベース部材)の上面内側部に接合されて、上記クッション体302を上記流体に接触させることなく密封するクッション体封止シートを設けることができる。この場合、流体は上記頭部支持シート202aと上記ベース部材202bと上記クッション体封止シートから形成される空間に保持される。一方、断面形態は、
図8に示す実施形態と同一であり、上記クッション体は、実質的には
図8に示す実施形態と同一になり、同じ作用効果を発揮する。このように構成することにより、上記流体5に接触させて使用できない材料から形成されたクッション体を採用することも可能となる。
【0100】
上記ベース部材に成形可能な樹脂材料を採用することにより、種々の形態のベース部材を構成することができる。例えば、
図9に示すような硬質樹脂を成形して形成される皿状のベース部材203bを採用することができる。この実施形態では、ベース部材203bの周囲に立ち上がり部501と鍔部502とを一体形成し、上記鍔部502に、上記頭部支持シート203aを接合している。
【0101】
ベース部材203bを皿状に構成することにより、枕の縁部の強度を格段に高めることができる。また、枕105の保形性を確保しながら、種々の形態の流体保持空間10を形成できるため、種々の特性を有する枕を構成できる。また、保形性が高いため、大きな面積を有する枕を形成することもできる。なお、上記立ち上がり部501は、枕の全周に設ける必要はなく、使用者側の縁部のみ平坦状にしておくこともできる。
【0102】
さらに、
図10に示す実施形態は、上記ベース部材(ベース部)204bと上記クッション体(クッション部)304とを、変形可能なゴム状部材で一体形成したものである。上記ベース部材204bの縁部には土手状の膨出部503が設けられており、上記頭部支持シート204aが上記膨出部503に接合されている、本実施形態では、上記クッション体304は、上記ベース部材204bと同じ材料から一体形成されているとともに、流体保持空間10内へ膨出するように一体成型されている。また、頭部6が保持されるクッション体304の上部変形特性を調整するため、表面側に凹凸304bが形成されている。これにより、上記ベース部材204bとして高い保形性のある材料を採用できるとともに、同じ材料を採用しながら、頭部6の載置部分(クッション体304)に、上記ベース部材204bと異なる変形特性を付与することが可能となる。
【0103】
図11~
図13に示す実施形態は、クッション体305を、上記流体保持空間10に充填された流体に接触しないように構成するとともに、交換可能に保持したものである。上述した実施形態では、各クッション体が、各頭部保持シートと各ベース部材によって形成され、流体が充填された流体保持空間10に保持される。したがって、上記クッション体を交換等することは困難である。また、長期間使用する上記クッション体の特性や形態が変化することも考えられる。さらに、使用者の体形変化等に対応することも困難である。また、好みに応じて種々の材料から形成されたクッション体を選択して使用したいという要望もある。
【0104】
本実施形態に係る枕107は、上記ベース部材205bを、縁部に上記頭部支持シート205aの縁部が接合できる板状部材601と、柔軟なシート又はフィルムから形成されるとともに、上記板状部材601の中央部に配置された上記クッション体305の表面を覆うようにして縁部が上記板状部材601の上面内側部に接合されて、上記頭部支持シート205a及び上記板状部材601と協働して上記流体5を保持するクッション体封止シート603とを備えて構成する。上記板状部材601は、中央部に開口605が設けられており、この開口605内に上記クッション体305が保持される。上記クッション体封止シート603によって、上記クッション体305を上記流体保持空間内10で上記流体5に接触することなく保持できる。さらに、上記開口605を開閉可能に覆う蓋体602を設けている。上記蓋体602は、螺子604によって上記開口605を覆うように上記板状部材601に装着できるように構成されている。
【0105】
上記構成では、上記クッション体305が上記流体保持空間10に、上記クッション体封止シート603を介して膨出するように保持されており、実質的に上記流体保持空間10内に保持されている。この構成においても上述した実施形態に係る枕と同様に、頭部6の重量が上記流体5の圧力と上記クッション体305によって分担保持される。このため、上述した実施形態に係る枕と同様の作用効果を発揮することができる。
【0106】
さらに、上記クッション体305を、上記流体5に接触させることなく、交換可能に保持することができる。すなわち、
図12に示すように、上記蓋体602の螺子を外すことにより、上記蓋体602を、上記開口605を設けた板状部材601から分離し、上記クッション体305を、上記開口605から取り出すことができる。この構成を採用することにより、上記流体5に接触して使用できない材料のみならず、種々の特性を有する材料から上記クッション体305を形成できる。
【0107】
また、
図13に示すように、上記クッション体305を種々の材料から形成された部材を組み合わせて構成することも可能となる。これにより、ゴム状材料やスポンジ材料では得られない変形特性、すなわち弾性材料では得られない変形特性を有するクッション体305を構成することも可能となる。
【0108】
上述した実施形態では硬質材料で上記ベース部材205bを形成したが、樹脂シート等の軟質材料から形成することができる。例えば、上記ベース部材を上記頭部支持持シートと同じ材料から形成し、上記ベース部材の上記頭部支持シートと反対側(下面)において、上記クッション体を着脱可能に設置できるポケット状の収容部を設けることができる。
【0109】
図14に示す枕109は、上記流体保持空間10の容量を変更して、枕109の変形特性を変更できるように構成したものである。頭部6の移動抵抗は、上記頭部支持シート206a内面が上記クッション体306に接触させられる範囲Sの面積によって大きく変化し、寝心地も変化する。上記接触させられる範囲Sの面積は、上記流体保持空間10の充填可能容量と、これに充填された流体の容量の割合によって変化する。
【0110】
図14に示す本実施形態では、上記頭部支持シート206aの一方の縁部を、挟圧部材901と挟圧クリップ902とから構成され容量調節手段900によって、ベース部材206bに重ねて密着させることができる。上記挟圧部材901の挟圧面の大きさを異ならせることにより、上記頭部支持シート206aのベース部材206bに重ねる面積を調節することができる。これにより、上記流体保持空間10の容量を調整することが可能となり、上記流体保持空間10の充填容量を調節し、頭部支持シート206aがクッション体306に接触させられる範囲Sの面積を変更して、クッション体によって分担される頭部重量を調整し、寝心地を変化させることが可能となる。
【0111】
上記枕は、冷蔵庫等で冷却して用いることができるように設定するのが好ましい。一方、上記流体が凍結すると、本願発明の上述した効果を発揮できない。このため、0℃以下の温度でも凍結しないような液体材料を選択するか、水を採用する場合には、グリセリン等の凍結防止成分を含ませて、0℃以下の温度でも上記流体の所定の流動性を確保できるように構成するのが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0112】
頭部を容易に移動することができるため、寝返りが打ちやすく、また、頭部の移動によって流体の流動音を発生して睡眠を促進できる枕を提供できる。
【符号の説明】
【0113】
1 枕
2a 頭部支持シート
2b ベース部材
3 クッション体
5 流体
6 頭部