(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178553
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】負極合材、負極合材の製造方法および全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20241218BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20241218BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20241218BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20241218BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20241218BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/133
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096767
(22)【出願日】2023-06-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発(第2期)」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】川本 浩二
(72)【発明者】
【氏名】板山 直彦
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ05
5H029AJ06
5H029AK11
5H029AL02
5H029AL03
5H029AL06
5H029AL07
5H029AL11
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ22
5H029HJ07
5H050AA07
5H050AA12
5H050CA17
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA03
5H050DA13
5H050EA11
5H050EA15
5H050FA18
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】本開示は、抵抗の増加を抑制できる負極合材を提供することを主目的とする。
【解決手段】本開示においては、全固体電池に用いられる負極合材であって、被覆負極活物質および硫化物固体電解質を含有し、上記被覆負極活物質は、負極活物質と、上記負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、上記被覆層は、LiBH
4およびLiX(Xは、Cl、BrまたはIから選択される)を含有する水素化ホウ素固体電解質を含有する、負極合材を提供することにより上記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全固体電池に用いられる負極合材であって、
被覆負極活物質および硫化物固体電解質を含有し、
前記被覆負極活物質は、負極活物質と、前記負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、
前記被覆層は、LiBH4およびLiX(Xは、Cl、BrまたはIから選択される)を含有する水素化ホウ素固体電解質を含有する、負極合材。
【請求項2】
前記被覆負極活物質が、前記負極活物質として黒鉛を含有する、請求項1に記載の負極合材。
【請求項3】
前記被覆負極活物質において、前記負極活物質および前記水素化ホウ素固体電解質の合計に対する前記水素化ホウ素固体電解質の割合が、0.8体積%以上、22体積%以下である、請求項1に記載の負極合材。
【請求項4】
前記被覆負極活物質において、前記負極活物質および前記水素化ホウ素固体電解質の合計に対する前記水素化ホウ素固体電解質の割合が、1.5体積%以上、15体積%以下である、請求項1に記載の負極合材。
【請求項5】
前記水素化ホウ素固体電解質が、前記LiXとしてLiClを含有する、請求項1に記載の負極合材。
【請求項6】
前記硫化物固体電解質として、アルジロダイト型硫化物固体電解質を含有する、請求項1に記載の負極合材。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載された負極合材の製造方法であって、
前記被覆負極活物質を得る、被覆工程と、
前記被覆負極活物質および前記硫化物固体電解質を混合して、前記負極合材を得る、混合工程と、を有し、
前記被覆工程は、
前記LiBH4および前記LiXを含有する前駆体溶液を前記負極活物質の表面に塗工し、かつ、前記前駆体溶液を塗工した負極活物質を乾燥することで、前駆体層を形成する、前駆体層形成処理と、
前記前駆体層を加熱して、前記水素化ホウ素固体電解質を含有する被覆層を形成する、被覆層形成処理と、を有する、負極合材の製造方法。
【請求項8】
正極活物質層と、負極活物質層と、前記正極活物質層および前記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、
前記負極活物質層が、請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載された負極合材を含有する、全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極合材、負極合材の製造方法および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
全固体電池は、正極活物質層および負極活物質層の間に固体電解質層を有する電池であり、可燃性の有機溶媒を含む電解液を有する液系電池に比べて、安全装置の簡素化が図りやすいという利点を有する。中でも硫化物系固体電解質を用いた全固体電池は、高いイオン伝導度と成形性の良さから近年活発に研究が進められている。また、固体電解質の伝導度向上を目的として添加成分を加える検討も行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、硫化物固体電解質と、LiXが固溶したLiBH4と、を含む固体電解質、および、上記固体電解質を含む全固体電池が開示されている。また、特許文献2には、固体電解質として水素化ホウ素化合物を含有する全固体電池の製造方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、全固体電池ではサイクル寿命の向上や出力の向上などの課題があり、固体電解質のイオン伝導度向上に加えて電極層の抵抗低減および材料の劣化抑制などの対策も求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-134316号公報
【特許文献2】国際公開第2019/078130号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記点に関して、硫化物固体電解質は良好なイオン伝導度を示すものの、還元されやすく、硫化物固体電解質と接する負極活物質の表面に劣化層が形成される恐れがあり、抵抗が増加する恐れがある。
【0007】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、抵抗の増加を抑制できる負極合材を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]
全固体電池に用いられる負極合材であって、被覆負極活物質および硫化物固体電解質を含有し、上記被覆負極活物質は、負極活物質と、上記負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、上記被覆層は、LiBH4およびLiX(Xは、Cl、BrまたはIから選択される)を含有する水素化ホウ素固体電解質を含有する、負極合材。
【0009】
[2]
上記被覆負極活物質が、上記負極活物質として黒鉛を含有する、[1]に記載の負極合材。
【0010】
[3]
上記被覆負極活物質において、上記負極活物質および上記水素化ホウ素固体電解質の合計に対する上記水素化ホウ素固体電解質の割合が、0.8体積%以上、22体積%以下である、[1]または[2]に記載の負極合材。
【0011】
[4]
上記被覆負極活物質において、上記負極活物質および上記水素化ホウ素固体電解質の合計に対する上記水素化ホウ素固体電解質の割合が、1.5体積%以上、15体積%以下である、[1]から[3]までのいずれかに記載の負極合材。
【0012】
[5]
上記水素化ホウ素固体電解質が、上記LiXとして少なくともLiClを含有する、[1]から[4]までのいずれかに記載の負極合材。
【0013】
[6]
上記硫化物固体電解質として、アルジロダイト型硫化物固体電解質を含有する、[1]から[5]までのいずれかに記載の負極合材。
【0014】
[7]
[1]から[6]までのいずれかに記載された負極合材の製造方法であって、上記被覆負極活物質を得る、被覆工程と、上記被覆負極活物質および上記硫化物固体電解質を混合して、上記負極合材を得る、混合工程と、を有し、上記被覆工程は、上記LiBH4および上記LiXを含有する前駆体溶液を上記負極活物質の表面に塗工し、かつ、上記前駆体溶液を塗工した負極活物質を乾燥することで、前駆体層を形成する、前駆体層形成処理と、上記前駆体層を加熱して、上記水素化ホウ素固体電解質を含有する被覆層を形成する、被覆層形成処理と、を有する、負極合材の製造方法。
【0015】
[8]
正極活物質層と、負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に配置された固体電解質層と、を有する全固体電池であって、上記負極活物質層が、[1]から[6]までのいずれかに記載された負極合材を含有する、全固体電池。
【発明の効果】
【0016】
本開示においては、抵抗の増加を抑制できる負極合材を提供できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本開示における被覆負極活物質を例示する概略断面図である。
【
図2】本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
【
図3】実施例1~4および比較1における被覆材量と容量維持率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本開示における負極合材、負極合材の製造方法および全固体電池について、詳細に説明する。
【0019】
A.負極合材
本開示における負極合材は、全固体電池に用いられる負極合材であって、被覆負極活物質および硫化物固体電解質を含有する。また、上記被覆負極活物質は、負極活物質と、上記負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層と、を有し、上記被覆層は、LiBH4およびLiX(Xは、Cl、BrまたはIから選択される)を含有する水素化ホウ素固体電解質を含有する。なお、本開示においては、被覆層における水素化ホウ素固体電解質を固体電解質A(SE-A)と称し、負極合材における硫化物固体電解質を固体電解質B(SE-B)と称する場合がある。また、本明細書において負極活物質の「表面」とは、負極活物質(負極活物質粒子)の外表面のみならず、後述する前駆体溶液などの液体と接触することができる部分も含まれる。
【0020】
本開示によれば、負極活物質を被覆する被覆層が所定の水素化ホウ素固体電解質を含有することから、抵抗の増加を抑制できる負極合材となる。
【0021】
上述のように、硫化物固体電解質はイオン伝導度が良好であるものの、還元されやすく電池の充放電を繰り返すうちに負極活物質の表面に劣化層が形成される恐れがある。これに対して、本開示における負極合材は所定の被覆負極活物質を含有する。被覆負極活物質では、耐還元性が良好な所定の水素化ホウ素固体電解質を含有する被覆層で負極活物質が被覆されている。そのため、電池の充放電を繰り返しても、劣化層の形成が抑制され、抵抗の増加を抑制でき、電池のサイクル特性を向上させることができる。また、上記被覆負極活物質とともに、イオン伝導度が良好な硫化物固体電解質を含有しているため、初期抵抗が抑制できる負極合材となる。さらに、劣化層が形成された場合には、Liイオンなどのキャリアイオンの移動が阻害され、イオン伝導度が低下する恐れがあるが、本開示における負極合材においては、劣化層の形成が抑制されることで、イオン伝導度の低下を抑制できるという利点も得られる。
【0022】
1.被覆負極活物質
図1は、本開示における被覆負極活物質を例示する概略断面図である。
図1に示すように、被覆負極活物質1は、負極活物質2と、負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆する被覆層3と、を有する。また、被覆層3は、所定の水素化ホウ素固体電解質を含有する。
【0023】
(1)負極活物質
本開示における負極活物質は、電池において負極活物質として機能する材料であれば特に限定されない。負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、グラフェン、ハードカーボン、ソフトカーボンなどのカーボン系活物質、Nb2O5、Li4Ti5O12およびSiOなどの酸化物活物質、ならびに、In単体、Al単体、Si単体、Sn単体およびこれら金属の合金などの金属活物質を挙げることができる。これらの中でも、黒鉛が好ましい。また、負極活物質は1種類のみのであってもよく、2種類以上であってもよい。
【0024】
負極活物質の形状は、例えば粒子状である。また、負極活物質は、一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。
【0025】
負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば10nm以上であり、100nm以上であってもよく、500nm以上であってもよく、1μm以上であってもよく、5μm以上であってもよい。一方、負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、50μm以下であり、40μm以下であってもよく、30μm以下であってもよく、25μm以下であってもよく、20μm以下であってもよい。なお、平均粒径(D50)とは、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径をいう。また、上記平均粒径(D50)は、一次粒子の平均粒径であってもよく、二次粒子の平均粒径であってもよい。なお、平均粒径(D50)とは、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積基準の粒子径分布における累積50%粒子径をいう。
【0026】
(2)被覆層
本開示における被覆層は、上記負極活物質の表面の少なくとも一部を被覆し、かつ、LiBH4およびLiX(Xは、Cl、BrまたはIから選択される)を含有する水素化ホウ素固体電解質を含有する。なお、「表面」については上述のとおりであるが、被覆層は、通常、負極活物質における外表面の少なくとも一部を、少なくとも被覆している。
【0027】
水素化ホウ素固体電解質は、例えば、αLiBH4―LiX(Xは、Cl、BrまたはIから選択される少なくとも1種)で表される組成を有する。αは、例えば1以上5以下の数であり、Xは上記のとおりである。特に水素化ホウ素固体電解質の組成は、3LiBH4―LiXで表されることが好ましい。
【0028】
水素化ホウ素固体電解質は、上記LiXとしてLiCl、LiBrおよびLiIのうち、いずれか1種のみを含有してもよく、2種以上を含有してもよい。特に、水素化ホウ素固体電解質は、上記LiXとしてLiClを含有していることが好ましい。例えば、素化ホウ素固体電解質が2種以上のLiXを含有する場合、全てのLiXにおけるLiClの割合は50%以上であることが好ましい。
【0029】
水素化ホウ素固体電解質は、上記LiBH4およびLiXの固溶体であることが好ましい。
【0030】
被覆層は、材料として上記水素化ホウ素固体電解質のみを含有する層であってもよく、他の材料を含有する層であってもよい。後者の場合、被覆層を構成する全材料の内、水素化ホウ素固体電解質の割合は50%以上であることが好ましい。
【0031】
被覆層は、負極活物質の表面の一部を被覆してもよく全部を被覆してもよい。被覆率は、例えば10%以上であり、30%以上であってもよく、50%以上であってもよく、70%以上であってもよく、90%以上であってもよい。一方、被覆率は、100%であってもよく、100%未満であってもよい。後者の場合、被覆率は、例えば99%以下であり、97%以下であってもよく、95%以下であってもよく、93%以下であってもよい。
【0032】
被覆層の平均厚さは、例えば、5nm以上であり、50nm以上であってもよく、100nm以上であってもよい。一方、被覆層の平均厚さは、例えば1000nm以下であり、500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよい。
【0033】
被覆率および平均厚さは、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による顕微鏡観察およびXPS(X線光電子分光法)により求めることができる。
【0034】
被覆負極活物質において、負極活物質および水素化ホウ素固体電解質の合計に対する水素化ホウ素固体電解質の割合は、例えば0.8体積%以上であり、1.5体積%以上であってもよく、4体積%以上であってもよく、7体積%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば、22体積%以下であり、18体積%以下であってもよく、15体積%以下であってもよく、11体積%以下であってもよい。なお、本明細書において、上記割合を「被覆材量」と言い換えることもできる。
【0035】
また、被覆材量を重量基準で表すと、被覆材量は、例えば0.5重量%以上であり、1重量%以上であってもよく、3重量%以上であってもよく、5重量%以上であってもよい。一方、被覆材量は、例えば、15重量%以下であり、12重量%以下であってもよく、10重量%以下であってもよく、7重量%以下であってもよい。
【0036】
ここで、被覆層は、負極活物質の1次粒子の表面を被覆していてもよく、負極活物質の1次粒子が凝集した2次粒子の表面を被覆していてもよい。また、被覆負極活物質が2次粒子である場合、被覆層は、負極活物質の1次粒子および2次粒子の両方の表面を被覆していてもよい。この場合、上記水素化ホウ素固体電解質は、被覆負極活物質の表面(二次粒子の表面)および内部(一次粒子の表面)に配置されていると捉えることができる。また、被覆層は、負極活物質を直接被覆していることが好ましい。
【0037】
(3)被覆負極活物質
被覆負極活物質の形状は、例えば粒子状である。また、被覆負極活物質は、一次粒子であってもよく、二次粒子であってもよい。被覆負極活物質の平均粒径(D50)は、例えば、10nm以上、50μm以下である。上記平均粒径は、一次粒子の平均粒径であってもよく、二次粒子の平均粒径であってもよい。平均粒径(D50)については、上述のとおりである。
【0038】
負極合材における被覆負極活物質の割合は、例えば40体積%以上であり、50体積%以上であってもよく、70体積%以上であってもよい。一方、被覆負極活物質の割合は、例えば90体積%以下であり、80体積%以下であってもよい。
【0039】
被覆負極活物質の作製方法については後述する。
【0040】
2.硫化物固体電解質
本開示における硫化物固体電解質は、通常、アニオン元素の主成分として、硫黄(S)を含有する固体電解質である。
【0041】
硫化物固体電解質としては、例えば、Li元素、A元素(Aは、P、As、Sb、Si、Ge、Sn、B、Al、Ga、Inの少なくとも一種である)、および、S元素を含有する固体電解質が挙げられる。また、硫化物固体電解質は、O元素およびハロゲン元素の少なくとも一方をさらに含有していてもよい。ハロゲン元素としては、例えば、F元素、Cl元素、Br元素、I元素が挙げられる。硫化物固体電解質は、ガラス(非晶質)であってもよく、ガラスセラミックスであってもよく、結晶であってもよい。
【0042】
本開示における硫化物固体電解質としては、特にアルジロダイト型硫化物固体電解質が好ましい。「アルジロダイト型硫化物固体電解質」とは、アルジロダイト型結晶相を有する硫化物固体電解質を意味する。アルジロダイト型結晶相を有するか否かは、例えば、X線回析測定(XRD測定)を行い確認することができる。また、アルジロダイト型硫化物固体電解質においては、アルジロダイト型結晶相を主相として有することが好ましい。
【0043】
アルジロダイト型硫化物固体電解質の組成は特に限定されないが、例えば、Li7-yPS6-yX′y(X′はハロゲン元素であり、yは0≦y≦2を満たす数である)が挙げられる。
【0044】
硫化物固体電解質は、イオン伝導度が高いことが好ましい。25℃におけるイオン伝導度は、例えば0.5×10-3S/cm以上であり、1×10-3S/cm以上であってもよく、2×10-3S/cm以上であってもよい。
【0045】
硫化物固体電解質の形状としては、例えば、粒子状が挙げられる。硫化物固体電解質の平均粒径(D50)は、例えば、10nm以上、50μm以下である。平均粒径(D50)については、上述のとおりである。
【0046】
負極合材における硫化物固体電解質の割合は、例えば10体積%以上であり、30体積%以上であってもよく、50体積%以上であってもよい。一方、硫化物固体電解質の割合は、例えば60体積%以下である。
【0047】
3.負極合材
本開示における負極合材は、さらに、導電材およびバインダーのうち少なくとも一方を含有していてもよい。
【0048】
導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)およびケッチェンブラック(KB)などの粒子状炭素材料、および、炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)などの繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素含有バインダー、ブタジエンゴムなどのゴム系バインダー、および、アクリル系バインダーが挙げられる。
【0049】
また、負極合材は、分散媒を含有する負極スラリーであってもよい。分散媒としては、例えば、酪酸ブチル、ジブチルエーテル、ヘプタンおよびテトラヒドロフランなどの有機溶媒を挙げることができる。負極スラリーを、集電体などの基板に塗布して乾燥させることで、負極合材を含有する負極活物質層を形成することができる。一方、負極合材は、分散媒を含有していなくてもよい。
【0050】
本開示における負極合材は、通常、全固体電池における負極活物質層に用いられる。全固体電池については、「C.全固体電池」に記載する。
【0051】
B.負極合材の製造方法
本開示における負極合材の製造方法は、所定の被覆工程および混合工程を有する。
【0052】
1.被覆工程
本開示における被覆工程は、上述した被覆負極活物質を得る工程であり、所定の前駆体層形成処理および被覆層形成処理を有する。
【0053】
(1)前駆体層形成処理
前駆体層形成処理は、上記LiBH4および上記LiXを含有する前駆体溶液を上記負極活物質の表面に塗工し、かつ、上記前駆体溶液を塗工した負極活物質を乾燥することで、前駆体層を形成する処理である。
【0054】
前駆体溶液は、後述する実施例に記載するように、LiBH4を含有する溶媒と、LiXを含有する溶媒とを、LiBH4とLiXとが所望の割合となるように混合して調製することができる。溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒を挙げることができる。
【0055】
塗工方法は特に限定されず、例えば前駆体溶液に負極活物質を浸漬して攪拌する方法を挙げることができる。また、乾燥温度および乾燥時間などの乾燥条件は、前駆体溶液から上記溶媒を除去できれば特に限定されない。例えば乾燥温度は、80℃以上、100℃以下であり、乾燥時間は、例えば、5分以上、1時間以下である。
【0056】
後述する被覆層形成処理において、所望の厚さおよび被覆率を有する被覆層を形成するため、上記塗工および乾燥を複数回繰り返してもよい。
【0057】
(2)被覆層形成処理
本開示における被覆層形成処理は、上記前駆体層を加熱して被覆層を形成する処理である。被覆層については、「A.負極合材」に記載した内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0058】
加熱温度および加熱時間は、所望の被覆層を形成できれば特に限定されない。加熱温度は、例えば、80℃以上、150℃以下であり、加熱時間は、例えば、30分以上、2時間以下である。また、加熱は、真空などの減圧環境下で行ってもよい。
【0059】
(3)被覆負極活物質
被覆負極活物質については、「A.負極合材」に記載した内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0060】
2.混合工程
本開示における混合工程は、上記被覆負極活物質および上記硫化物固体電解質層を混合して、上記負極合材を得る工程である。
【0061】
被覆負極活物質および硫化物固体電解質の割合については、「A.負極合材」に記載した内容と同様である。また、混合工程においては、被覆負極活物質および硫化物固体電解質は、導電材およびバインダーの少なくとも一方と、分散媒の存在下で混合されてもよい。導電材、バインダーおよび分散媒については、「A.負極合材」に記載した内容と同様である。混合方法については、特に限定されず、従来公知の方法とすることができる。
【0062】
3.負極合材
上述した方法で製造される負極合材については、「A.負極合材」に記載した内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。
【0063】
C.全固体電池
図2は、本開示における全固体電池を例示する概略断面図である。
図2に示す全固体電池10は、正極活物質層11と、負極活物質層12と、正極活物質層11および負極活物質層12の間に形成された固体電解質層13と、を有し、負極活物質層12が上述した負極合材を含有する。また、全固体電池10は、正極活物質層11の集電を行う正極集電体14と、負極活物質層12の集電を行う負極集電体15とを有している。
【0064】
本開示における全固体電池は、負極活物質層が上述した負極合材を含有するため、充電容量維持率が良好な全固体電池となる。
【0065】
1.負極活物質層
負極活物質層は、上述した負極合材を含有する。負極合材については「A.負極合材」に記載した内容と同様であるため、ここでの記載は省略する。負極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0066】
2.正極活物質層
正極活物質層は、少なくとも正極活物質を含有する。正極活物質層は、必要に応じて、固体電解質、導電材、およびバインダーの少なくとも1つを含有することが好ましい。正極活物質、導電材およびバインダーとしては、従来公知の材料を挙げることができる。また、正極活物質層は、固体電解質として、上述した硫化物固体電解質を含有することが好ましい。正極活物質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0067】
3.固体活物質層
固体電解質層は、少なくとも固体電解質を含有し、必要に応じてバインダーを含有していてもよい。バインダーについては上述のとおりである。また、固体電解質は上述した硫化物固体電解質であることが好ましい。固体電解質層の厚さは、例えば、0.1μm以上、1000μm以下である。
【0068】
4.正極集電体および負極集電体
正極集電体および負極集電体の材料は、例えば、Al、SUS、CuおよびNiなどの従来公知の金属材料とすることができる。
【0069】
5.全固体電池
本開示における全固体電池は、典型的にはリチウムイオン二次電池である。また、全固体電池の用途としては、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車などの車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)または電気自動車(BEV)の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、全固体電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置などの電気製品の電源として用いられてもよい。
【0070】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例0071】
[実施例1]
(被覆負極活物質の調製)
LiBH4を含有するテトラヒドロフラン(THF)溶液と、LiIを含有するTHF溶液とを、LiBH4およびLiIのモル数が3:1となるように混合した。これにより、前駆体溶液(3LiBH4-LiIを含有するTHF溶液)を準備した。次に、前駆体溶液を負極活物質(球状天然黒鉛、粒径16μm)に添加して80℃ホットプレート上で乾燥させるという操作を複数回繰り返した。これにより、被覆材量(SE-A/(黒鉛+SE-A))が表1の値となるように調整した。その後、120℃で1時間真空乾燥を行った。これにより、被覆負極活物質(被覆黒鉛)を調製した。
【0072】
(負極合材の作製)
上記被覆黒鉛にアルジロダイト型硫化物系固体電解質(SE-B)を加え、これらを乳鉢で丁寧に混合した。これにより負極合材を作製した。なお、アルジロダイト型硫化物系固体電解質の量は、負極合材の組成が表1の値となるように調整した。
【0073】
(評価用電池の作製)
評価用電池(負極ハーフセル)として、内径が11.28mmである円筒形非導電性セラミック製ガイドと、ステンレス製集電体を備えた圧粉セルを作製した。具体的には、セラミックガイドに、上記負極合材を黒鉛量が8mgとなるように投入し、0.1gのアルジロダイト型硫化物系固体電解質を投入して、588MPaでプレスして、負極活物質層およびセパレーター層を作製した。そして、セパレーター層上に対極としてIn-Li箔を配置して、さらに、98MPaでプレスした。その後、拘束治具で拘束した。これにより評価用電池を作製した。
【0074】
[実施例2~実施例4]
被覆材量および負極合材の組成を表1の値となるように、被覆負極活物質および負極合材を作製したこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0075】
[比較例1]
被覆負極活物質の調製において、水素化ホウ素固体電解質(3LiBH4-LiI)の代わりに上記アルジロダイト型硫化物系固体電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして被覆負極活物質を作製した。この被覆負極活物質を用いて、組成が表1の値となるように負極合材を作製したこと以外は、実施例1と同様にして、評価用電池を作製した。
【0076】
[比較例2]
被覆負極活物質の代わりに球状の天然黒鉛を用いた。また、負極合材の組成が、表1の割合となるように黒鉛、3LiBH4-LiI、アルジロダイト型硫化物系固体電解質を、まとめて乳鉢を用いて丁寧に混合して、負極合材を作製した。つまり、被覆黒鉛を調製しなかった。上記負極合材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作製した。
【0077】
[評価]
(インピーダンス測定および容量維持率測定)
実施例1~4および比較例1~2の評価用電池に対して、以下のようにしてセル抵抗および充電容量維持率を評価した。結果を表2および
図3に示す。
まず、1C電流量を2.72mA/cm
2とし、0.1C-CCCV、1.5-0.05V(v.s.Li
+/Li)、25℃の条件で充放電を3サイクル行った(仕上げ充放電)。
その後、1.1mAhまで充電して、電圧幅10mV、7MHz~0.01Hzの周波数領域、25℃の条件でインピーダンス測定を行い、初期抵抗を測定した。
次いで、60℃、1.5-0.05V(v.s.Li
+/Li)、0.1C-CCCVの条件で充放電を20サイクル行い、その後、再び1.1mAh充電条件でインピーダンス測定を行った。20サイクル後の抵抗および上記初期抵抗から、抵抗増加率を算出した。
抵抗増加率を算出した各評価用電池に対して、25℃、1.5-0.05V(v.s.Li
+/Li)で0.1、0.2、0.3、0.5CのCC充電、0.1CのCCCV放電の条件で充電レート試験を行った。0.1C充電容量を基準として、0.5Cにおける充電容量維持率を算出した。
【0078】
【0079】
【0080】
表2に示すように、いずれの実施例も比較例1および2に比べ抵抗増加率が顕著に抑制され、かつ、容量維持率も良好であった。また、表2および
図3(a)、(b)に示された実施例1~実施例4の結果から、被覆材量(wt%およびvol%)を調整することで、より良好な容量維持率が得られることが確認された。
【0081】
[実施例5および6]
表3に示す被覆材(水素化ホウ素固体電解質:SE-A)を用い、被覆材量を表3の値となるようにして被覆負極活物質を調製した。この被覆負極活物質を用いたこと以外は実施例1と同様にして、負極合材および評価用電池を作製し、かつ、上記評価を行った。結果を表3に示す。なお、実施例6において抵抗増加率はマイナスとなったが、便宜上抵抗増加率は0%とした。
【0082】
【0083】
実施例1、5および6から、被覆材として3LiBH4-LiClを用いた場合に、最も抵抗増加率が抑制され、かつ、容量維持率も良好であった。
【0084】
[比較例3~比較例5]
被覆処理をしていない黒鉛と表4に示す水素化ホウ素固体電解質(SE-A)とを、表4の割合で乳鉢混合して負極合材を作製した。この負極合材を用いたこと以外は、実施例1と同様にして評価用電池を作成した。作製した評価用電池に対して、上述した方法で初期抵抗を測定した。結果を表4に示す。
【0085】
【0086】
比較例2および比較例3~5から、負極合材に硫化物固体電解質を用いることで、初期抵抗が抑制できることが確認された。
【0087】
以上の結果から、本開示における負極合材を用いることで、抵抗の増加を抑制でき、容量維持率が良好な全固体電池が得られることが確認された。