IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大日本印刷株式会社の特許一覧

特開2024-178555医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット
<>
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図1
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図2
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図3
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図4
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図5
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図6
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図7
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図8
  • 特開-医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178555
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】医療撮像機器用カラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セット
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/52 20060101AFI20241218BHJP
   A61B 1/00 20060101ALI20241218BHJP
   A61B 1/227 20060101ALI20241218BHJP
   A61B 3/14 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G01J3/52
A61B1/00 630
A61B1/00 650
A61B1/227
A61B3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096769
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】前田 晃宏
(72)【発明者】
【氏名】荻野 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】梶村 陽一
(72)【発明者】
【氏名】田中 豪
【テーマコード(参考)】
2G020
4C161
4C316
【Fターム(参考)】
2G020AA08
2G020DA05
2G020DA36
2G020DA65
2G020DA66
4C161AA11
4C161AA24
4C161CC06
4C161GG11
4C161LL01
4C161TT03
4C316AA09
4C316AB16
4C316FA14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】医療用撮像機器間での医療画像の色差を低減可能な医療撮像機器用カラーチャートを提供する。
【解決手段】医療撮像機器用カラーチャート10は、光源からの光の正反射を抑制する正反射抑制領域1と、正反射抑制領域の周囲に設けられた複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域2と、を有する。本開示の医療撮像機器用カラーチャートによれば、正反射抑制領域の周囲に複数のカラーパッチを有するカラーパッチ領域が配置されているため、光が集光しやすいカラーチャートの中央での光の正反射が抑制され、カラーパッチの読み取りが困難となることを抑制できる。従って、医療画像の正確な色補正が可能となり、医療用撮像機器間の色再現性の差を抑制することができる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用撮像機器に使用されるカラーチャートであって、
光源からの光の正反射を抑制する正反射抑制領域と、
前記正反射抑制領域の周囲に設けられた、複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域と、を有する、医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項2】
前記正反射抑制領域は、360nm~740nmの波長の光の正反射率が、5%以下である、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項3】
前記カラーパッチ領域は、360nm~740nmの波長の光の正反射率が、15%以下である、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項4】
前記複数のカラーパッチの色は、赤(R)、緑(G)および青(B)の3色、または、イエロー(Y)、シアン(C)およびマゼンタ(M)の3色を、基準色として含む、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項5】
前記カラーパッチ領域は、複数の無彩色の前記カラーパッチを有する、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項6】
前記カラーパッチ領域は、医療用共通色の前記カラーパッチを含み、
前記医療用共通色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、色温度2000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第1領域内にある、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項7】
前記カラーパッチ領域は、第1の外耳内用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差0.02の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、黒体軌跡の色温度6000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、で囲まれた第2領域内にある、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項8】
前記カラーパッチ領域は、さらに、第2の外耳内用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、(0.396,0.388)を中心として、x軸方向に±0.05、y軸方向に±0.025の第3領域内にあり、
前記第2の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、xy色度図上における前記第2領域の前記第3領域以外の領域内にある、請求項7に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項9】
前記カラーパッチ領域は、第1の眼底用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、黒体軌跡の色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第4領域内にある、請求項1に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項10】
前記カラーパッチ領域は、さらに、第2の眼底用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度2400K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度2400K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.00の点を結んだ直線と、黒体軌跡の色温度2400Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.00の点を結んだ直線と、で囲まれた第5領域内にあり、
前記第2の眼底用色のxy色度図上における座標点は、xy色度図上における前記第4領域の前記第5領域以外の領域内にある、請求項9に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【請求項11】
医療用撮像機器で得られる医療画像の色補正を行う治具であって、
請求項1から請求項10までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャートが配置された基体と、前記基体に接続され、前記カラーチャートを囲うように配置された側壁と、を有する医療画像用色補正治具。
【請求項12】
前記医療画像用色補正治具は、外耳内画像の色補正を行う治具であり、
前記基体が、中央に凹部を有し、凹部の底面である第1底面および前記第1底面よりも高い位置にある第2底面と、を有し、
前記第1底面に前記正反射抑制領域に対応する正反射抑制層が配置され、
前記第2底面に前記カラーパッチ領域に対応する印刷層が配置された、請求項11に記載の医療画像用色補正治具。
【請求項13】
前記医療画像用色補正治具は、眼底画像の色補正を行う治具であり、
前記基体と前記側壁が一体化しており、
前記側壁が、眼球の形状に対応した曲面であり、
前記カラーチャートに対向する位置に配置されたレンズと、
前記レンズと前記カラーチャートとの間に配置されたNDフィルタと、を有する、請求項11に記載の医療画像用色補正治具。
【請求項14】
前記側壁が、遮光性を有する、請求項11に記載の医療画像用色補正治具。
【請求項15】
請求項11から請求項14までのいずれかに記載の医療画像用色補正治具と、
前記カラーチャートに対向する位置に配置された撮像機器および光源と、を有する、医療画像用色補正装置セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、医療用撮像機器に使用されるカラーチャート、医療画像用色補正治具および医療画像用色補正装置セットに関する。
【背景技術】
【0002】
撮像機器は、正しい再現色をもって出力画像を表示するために、例えば、特許文献1で開示されるようなカラーチャートを用いて、撮像機器での再現色とカラーチャートでの再現色とを比較し、再現色に相違がある場合は上記カラーチャートにもとづき較正される。
【0003】
患者の患部周辺を撮影し、これをモニタ画面上に表示する医療用画像表示システムは、多くの医療現場において利用されている。
例えば、眼科で使用される眼底検査機や顕微鏡、耳鼻咽喉科で使用されるイヤースコープ、内視鏡カメラ等の医療用の撮像機器は、それぞれの機器ごとに固有の色特性を有している。たとえば、全く同一の被写体を複数台のカメラで撮影した場合、得られる画像データはそれぞれ異なる可能性がある。また、撮像機器は所定の照明機器も備えていることも多く、撮像機器が使用される照明環境による違いによっても、得られる画像は異なる可能性がある。
【0004】
遠隔地での医療格差の解消を目的として遠隔診療が注目されている。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の蔓延により、感染予防の観点からも、遠隔診療の重要性が認識されている。遠隔診療においても、撮像機器ごとに得られた画像データの色再現性が異なると、色の認識が正しく行われずに、医師による正確な診断に影響を及ぼす可能性がある。したがって、医療用撮像機器間での色再現性の差が抑制されることが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2004/044639号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、医療用撮像機器間での医療画像の色差を低減可能な医療撮像機器用カラーチャート等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示においては、医療用撮像機器に使用されるカラーチャートであって、光源からの光の正反射を抑制する正反射抑制領域と、上記正反射抑制領域の周囲に設けられた、複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域と、を有する、医療撮像機器用カラーチャートを提供する。
【0008】
また、本開示においては、医療用撮像機器で得られる医療画像の色補正を行う治具であって、上述の医療撮像機器用カラーチャートが配置された基体と、上記基体に接続され、上記カラーチャートを囲うように配置された側壁と、を有する医療画像用色補正治具を提供する。
【0009】
また、本開示においては、上述の医療画像用色補正治具と、上記カラーチャートに対向する位置に配置された撮像機器および光源と、を有する、医療画像用色補正装置セットを提供する。
【発明の効果】
【0010】
本開示の医療撮像機器用カラーチャートは、医療用撮像機器間での医療画像の色差を低減することができるという作用効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の医療撮像機器用カラーチャートを例示する概略上面図である。
図2】本開示の医療撮像機器用カラーチャートにおける正反射抑制領域およびカラーパッチ領域を例示する概略上面図である。
図3】本開示の医療撮像機器用カラーチャートを例示する概略断面図である。
図4】外耳内の色および眼底の色を解析した結果を示すxy色度図である。
図5】本開示の医療撮像機器用カラーチャートの外耳内用色を示すxy色度図である。
図6】本開示の医療撮像機器用カラーチャートの眼底用色を示すxy色度図である。
図7】外耳内用撮像機器の色補正を行う補正治具を例示する概略断面図および基体を例示する概略斜視図である。
図8】外耳内用撮像機器の色補正を行う色補正装置セットを例示する概略断面図である。
図9】眼底用撮像機器の色補正を行う補正治具を例示する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
下記に、図面等を参照しながら本開示の実施の形態を説明する。ただし、本開示は多くの異なる態様で実施することが可能であり、下記に例示する実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、図面は説明をより明確にするため、実際の形態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表わされる場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0013】
本明細書において、ある部材の上に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」、あるいは「下に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。また、本明細書において、ある部材の面に他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「面側に」または「面に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上、あるいは直下に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方、あるいは下方に、さらに別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含むものとする。
【0014】
医療用の撮像機器は、直進性の高い光源が使用される場合がある。例えば、近年、イヤースコープにはLEDが搭載されており、イヤースコープで反射型のカラーチャートを撮影すると、カラーチャートの正面で鏡面反射(正反射)が生じ、カラーチャートの中央がハレーションし、適切な色情報を取得できず、色補正が困難になる。また、近年使用されている無散瞳眼底カメラでは、水晶体を通してフラッシュ光を網膜に当てて、撮影する。用いられるフラッシュ光は非常に強く、無散瞳眼底カメラで反射型のカラーチャートを撮影すると、ハレーションが生じるため、色補正が困難となる。
【0015】
一方、これらのイヤースコープや無散瞳眼底カメラ等は、直進性の高い光を観察したい部位に照射し、その反射光をカメラでとらえて診断に用いるものであるから、カラーチャートとしては反射型を用いるのが望ましい。
【0016】
上記課題を解決するために、本開示の発明者等が鋭意研究を行ったところ、カラーチャートの中央部に正反射抑制領域を設け、正反射抑制領域の周囲に、複数のカラーパッチを有するカラーパッチ領域を設けることにより、光源からの光の正反射が抑制され、正確な色補正が可能であることを見出し、本発明を完成させた。以下、本開示の医療撮像機器用カラーチャートについて説明する。
【0017】
A. 医療撮像機器用カラーチャート
図1は、本開示の医療撮像機器用カラーチャートを例示する概略上面図である。図1に示すように、本開示の医療撮像機器用カラーチャート10は、光源からの光の正反射を抑制する正反射抑制領域1と、上記正反射抑制領域1の周囲に設けられた複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域2と、を有する。図1に示すように、本開示における医療撮像機器用カラーチャート10は、正反射抑制領域1およびカラーパッチ領域2以外の領域である外周領域3を有していてもよい。さらに、正反射抑制領域1およびカラーパッチ領域2の向きを判別する方向識別マーク4を有していてもよい。さらに、カラーチャート10の範囲を示す範囲識別マーク5を有していてもよい。
【0018】
本開示の医療撮像機器用カラーチャートによれば、正反射抑制領域の周囲に複数のカラーパッチを有するカラーパッチ領域が配置されているため、光が集光しやすいカラーチャートの中央での光の正反射が抑制され、カラーパッチの読み取りが困難となることを抑制できる。従って、医療画像の正確な色補正が可能となり、医療用撮像機器間の色再現性の差を抑制することができる。
【0019】
1.正反射抑制領域
本開示における正反射抑制領域とは、光源からの光の正反射を抑制する領域である。正反射抑制領域は、通常、カラーパッチを含まない。具体的には、正反射抑制領域の360nm~740nmの波長の光の正反射率は、5%以下であることが好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0020】
上記正反射抑制領域の正反射率とは、360nm~740nmの波長の光を入射光とし、JIS Z 8722:2009の幾何条件cにて測定される、di:8°における反射率からde:8°における反射率を差し引いて得られる値である。また、上記正反射率は、正反射抑制領域における任意の10箇所の測定値の平均値である。
【0021】
上記正反射率は、分光測色計を用いて測定することができる。正反射率の測定には、例えば、コニカミノルタジャパン株式会社製の分光測色計、CM―2500dを用いることができる。
【0022】
カラーチャート全体の面積に対する、正反射抑制領域の面積の割合は、例えば、3%以上であってもよく、33%以上であってもよい。正反射抑制領域の面積の割合が上記範囲であることにより、光源からの光の正反射を十分に抑制することができる。一方、例えば、100%未満であり、80%以下であってもよく、50%以下であってもよい。正反射抑制領域の面積の割合が上記範囲であることにより、カラーパッチ領域の面積を広くとることができ、色補正の精度が向上する。
【0023】
上記カラーチャート全体の面積とは、50mm以上であってもよく、70mm以上であってもよい。また、500mm以下であってもよく、400mm以下であってもよい。
【0024】
また、正反射抑制領域と後述するカラーパッチ領域との合計の面積に対する、正反射抑制領域の面積の割合は、例えば、3%以上であり、6%以上であってもよく、25%以上であってもよい。面積の割合が上記値以上であると、医療用撮像機器による直進性の高い光の反射を効果的に抑えることができ、カラーパッチの読み取りに及ぼす影響を十分に小さくすることができる。一方、例えば、50%以下であってもよい。面積の割合が上記値以下であると、限られたカラーチャート全体の面積の中でカラーパッチを配置できる面積を十分に確保できる。
【0025】
正反射抑制領域の形状は、特に限定されないが、例えば、略矩形、略多角形などが挙げられる。図2は、本開示の医療撮像機器用カラーチャートにおける正反射抑制領域およびカラーパッチ領域を例示する概略上面図である。図2(a)は正反射抑制領域1が略矩形形状であり、図2(b)は正反射抑制領域1が略六角形形状であり、図2(c)は正反射抑制領域1が略八角形形状である様子を示している。中でも、カラーパッチ領域の面積を確保しつつ、正反射抑制領域の面積を大きくする観点から、略矩形形状、略六角形形状が好ましい。
【0026】
2.カラーパッチ領域
本開示におけるカラーチャートは、正反射抑制領域1の周囲に設けられた複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域を有する。カラーパッチ領域は、色較正に用いられ、任意の色の複数のカラーパッチを含む。図1および図2に示すように、カラーパッチ領域2は、正反射抑制領域1の外周に接して形成されていることが好ましい。カラーパッチ領域は、360nm~740nmの波長の光の正反射率が、15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。カラーパッチ領域の上記正反射率の測定方法は、正反射抑制領域の正反射率の測定方法と同様である。
【0027】
カラーパッチの種類は、撮像機器により再現可能とする色域(以下、単に「色域」と略する場合がある。)に応じて適宜選択することができる。
【0028】
ここで、色域とは、可視領域のうち特定の範囲をいい、例えば図4に示すように、CIE(国際照明委員会)が定めたXYZ表色系(CIE1931-XYZ表色系)のxy色度図を使用して表わすことができる。色域は、xy色度図においてはR、G、Bの各色の頂点となる色度座標を定めそれぞれを直線で結んだ三角形で示すことができる。色域は従来から種々の色域規格により定められており、例えば、sRGB規格、NTSC規格等が挙げられる。sRGB規格は国際電気標準会議(IEC)が定めた国際標準規格である。また、xy色度図上における各色の座標を算出する際は、既知であるD65光源スペクトルのデータが用いられる。
【0029】
(1)基準色のカラーパッチ
複数のカラーパッチは、例えば、後述する、医療用共通色、外耳内用色および眼底用色とは異なる複数の基準色のカラーパッチを有していてもよい。基準色としては、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエロー等が挙げられる。複数のカラーパッチの色は、赤(R)、緑(G)および青(B)の3色、または、シアン(C)、マゼンタ(M)およびイエロー(Y)の3色を、基準色として含んでもよい。基準色として、例えば、赤、緑、青を含む3種類以上を含むことが好ましく、シアン、マゼンタ、イエローを含む3種類以上を含むことが好ましく、さらには、赤、緑、青、シアン、マゼンタ、イエローを含む6種類以上を含むことがより好ましい。
【0030】
基準色のxy色度図上の座標は、赤は、(0.735、0.265)、(0.627、0.372)、黒体軌跡BLの色温度1200K以上色温度6000K以下の間の色偏差が-0.01の曲線部と(0.520、0.174)に囲まれた領域内にあっても良い。
なお、黒体軌跡とは、完全な黒色の物体が、絶対温度と共に変化する状態を色度図上に描いた軌跡をいう。
【0031】
緑は、(0.005、0.587)、(0.014、0.750)、(0.074、0.834)、(0.155、0.806)、(0.345、0.652)、黒体軌跡BLの色温度6000K以上色温度7000K以下の間の色偏差が+0.02の曲線部に囲まれた領域内にあっても良い。
【0032】
青は、(0.174、0.005)、(0.131、0.046)、(0.073、0.185)、黒体軌跡BLの色温度15000Kで色偏差が+0.02の点および-0.01の点を結ぶ直線、黒体軌跡BLの色温度15000Kから7000Kで色偏差が-0.01の曲線部、(0.280、0.054)に囲まれた領域内にあっても良い。
【0033】
シアンは、(0.073、0.185)、(0.005、0.587)、黒体軌跡BLの色温度7000K以上15000K以下の間の色偏差が+0.02の曲線部に囲まれた領域内にあっても良い。
【0034】
マゼンタは、(0.520、0.174)、黒体軌跡BLの色温度7000Kから6000Kで色偏差が-0.01の曲線、(0.280、0.174)に囲まれた領域内にあっても良い。
【0035】
イエローは、(0.345、0.652)、黒体軌跡BLの色温度6000Kで色偏差が+0.02の点、(0.512、0.487)、に囲まれた領域内にあっても良い。
【0036】
(2)無彩色のカラーパッチ
複数のカラーパッチは、例えば、明度が異なる複数の無彩色のパッチを有する。無彩色のパッチの種類は、例えば、3種類以上であり、5種類以上であることが好ましく、7種類以上であってもよい。
【0037】
(3)医療用共通色のカラーパッチ
複数のカラーパッチは、例えば、医療用共通色のカラーパッチを含む。ここで、図4(a)は、内視鏡で外耳内の分光を取得し、統計処理して外耳内の色を解析した結果および眼底カメラの画像から眼底の色を解析した結果を示したxy色度図である。また、図4(b)は、内視鏡(機器1および機器2)の肝臓画像から色を解析した結果を示したxy色度図である。図4(a)および図4(b)の結果から、xy色度図上における黒体軌跡BLの色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡BLの色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、色温度2000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第1領域内にある色は、生体内で共通して有する色であると推察される。従って、医療用撮像機器に使用されるカラーチャートは、撮像対象の種類によらず、このような医療用共通色のカラーパッチを含むことが好ましい。
【0038】
(4)外耳内用色のカラーパッチ
本開示におけるカラーチャートが、イヤースコープ等の外耳内用撮像機器に用いられる場合、カラーパッチ領域は、例えば、第1の外耳内用色のカラーパッチを含む。図5は、内視鏡で外耳内の分光を取得し、統計処理して外耳内の色を解析した結果を示したxy色度図である。図5に示すように、第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡BLの色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差が-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差0.02の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、黒体軌跡の色温度6000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、で囲まれた第2領域内にあることが好ましい。このような第1の外耳内用色のカラーパッチを含むことにより、外耳内画像に対して、高い精度で色補正をすることができる。図5において、「×:イヤースコープチャート」とは、イヤースコープ用のカラーチャートとして、好ましいカラーパッチの色を示す。
【0039】
この場合、カラーパッチ領域は、さらに、第2の外耳内用色の上記カラーパッチを含むことが好ましい。この場合、第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、基準点M(0.396,0.388)を中心として、x軸方向に±0.05、y軸方向に±0.025の第3領域内にあり、第2の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、xy色度図上における第2領域の第3領域以外の領域内にあることが好ましい。なお、基準Mとは、メラニンの分光反射率に基づいて得られた色度である。
【0040】
カラーパッチ領域は、さらに、第1および第2以外の他の外耳内用色の上記カラーパッチを含むことが好ましい。この場合、他の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、第3領域内にあってもよく、第2領域の第3領域以外の領域内にあってもよい。他の外耳内用色は、3種類以上であってもよく、4種類以上であってもよく、5種類以上であってもよい。
【0041】
(5)眼底用色のカラーパッチ
本開示におけるカラーチャートが、眼科で使用される眼底カメラ等の撮像機器に用いられる場合、カラーパッチ領域は、例えば、第1の眼底用色のカラーパッチを含む。図6は、眼底カメラの画像から眼底の色を解析した結果を示したxy色度図である。第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡BLの色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡BLの色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡BLの色温度1000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、黒体軌跡BLの色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第4領域内にあることが好ましい。このような第1の眼底用色のカラーパッチを含むことにより、眼底画像に対して、高い精度で色補正をすることができる。図6において、「*:眼底チャート」とは、眼底カメラ用のカラーチャートとして、好ましいカラーパッチの色を示す。
【0042】
この場合、カラーパッチ領域は、さらに、第2の眼底用色のカラーパッチを含むことが好ましい。この場合における第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡BLの色温度1000K以上色温度2400K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度2400K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.00の点を結んだ直線と、黒体軌跡の色温度2400Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.00の点を結んだ直線と、で囲まれた第5領域内にあり、上記第2の眼底用色のxy色度図上における座標点は、xy色度図上における上記第4領域の第5領域以外の領域内にある、の領域内にあることが好ましい。
【0043】
カラーパッチ領域は、さらに、第1および第2以外の他の眼底用色のカラーパッチを含むことが好ましい。この場合、他の眼底用色のxy色度図上における座標点は、上記第5領域内にあってもよく、第4領域の第5領域以外の領域内にあってもよい。他の眼底用色は、3種類以上であってもよく、4種類以上であってもよく、5種類以上であってもよい。
【0044】
(6)カラーパッチ
カラーパッチ領域におけるカラーパッチの数は、例えば、8以上であり、16以上であることが好ましい。カラーパッチの数が多いほど、色補正の精度を向上することができる。
カラーチャートにおける各カラーパッチの大きさとしては、16mm以下が好ましく、4mm以下が特に好ましい。カラーパッチの大きさが上記範囲であることにより、カラーパッチ領域により多くのカラーパッチを含むことができる。一方、各カラーパッチの大きさとしては、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、1mm以上が特に好ましい。カラーパッチの大きさが上記範囲であることにより、カラーパッチから色情報を取得する際に、周囲にある他の色のカラーパッチの影響を受けにくい。
【0045】
各カラーパッチの形状としては、特に限定されず、例えば、矩形、円形、多角形などが挙げられる。図2(a)および図2(c)は、各カラーパッチが略矩形形状であり、図2(b)は、各カラーパッチが略六角形形状である様子を示している。
【0046】
複数のカラーパッチは、正反射抑制領域からの距離の差が小さいことが好ましい。正反射抑制領域からの距離とは、正反射抑制領域の中心とカラーパッチの中心とを結ぶ直線の距離をいう。また、距離の差が小さいとは、例えば、正反射抑制領域からの距離が最も大きいカラーパッチと、正反射抑制領域からの距離が最も短いカラーパッチとの間の正反射抑制領域からの距離の差が、例えば、1mm以下であり、0.1mm以下であってもよい。
【0047】
複数のカラーパッチは、正反射抑制領域の周囲に配置されていることが好ましい。正反射抑制領域からの距離の差が小さくなるためである。また、複数のカラーパッチは、順不同に配列されることが好ましい。また、この場合、隣り合うカラーパッチとの間の色差ΔEが3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることが特に好ましい。ΔEが3以上であると、カラーパッチを読み取る際に隣り合う他の色と混ざりにくく、誤検出しにくい。
【0048】
色差ΔEは、ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb1/2で表され、CIELAB色座標からCIE1976色差計算式を用いて求めることができる。CIELAB色座標はXYZ表色系からL表色系に下記の式で変換して求めることができる。
=116f(Y/Y)-16、
=500[f(X/X)-f(Y/Y)]、
=200[f(Y/Y)-f(Z/Z)]であり、
t>(6/29)の場合 f(t)=t1/3
t≦(6/29)の場合 f(t)=(1/3)*(29/6)t+4/29
ここで、X、Y、ZはX,Y,Zの値がそれぞれ白色点の座標である。
【0049】
カラーパッチ領域の面積としては、特に限定されないが、用途によって異なるが、例えば、0.8cm以上であり、1.5cm以上であってもよい。カラーパッチ領域の面積が上記範囲であることにより、カラーパッチ領域により多くのカラーパッチを含むことができる。一方、カラーパッチ領域の面積は、例えば、2.0cm以下であり、1.8cm以下であってもよい。カラーパッチ領域の面積が上記範囲であることにより、正反射抑制領域を広くすることができる。従って、光源からの光の正反射をより一層抑制することができ、医療画像の正確な色補正が可能となる。
【0050】
3.外周領域
本開示におけるカラーチャートは、図1に示すように、反射抑制領域1およびカラーパッチ領域2以外の領域である外周領域3を有していてもよい。外耳内用撮像機器用のカラーチャートの場合、外周領域の色のxy色度図上における座標点は、上記第3領域内にあってもよく、第2領域の第3領域以外の領域内にあってもよい。同様に、眼底用撮像機器用のカラーチャートの場合、外周領域の色のxy色度図上における座標点は、上記第5領域内にあってもよく、第4領域の第5領域以外の領域内にあってもよい。
【0051】
このような色の外周領域を設けることにより、実際の対象を撮像する場合と近い条件でカラーチャートを撮像することができる。
【0052】
4.マーク
本開示のカラーチャートは、図1に示すように、正反射抑制領域1およびカラーパッチ領域2の向きを判別する方向識別マーク4を有していてもよい。さらに、カラーチャート10の範囲を示す範囲識別マーク5と、を有していてもよい。これらのマークの形状や大きさは、マークとして認識することができる程度の形状や大きさであれば特に限定されず、カラーチャートの設計等に応じて適宜調整することが可能である。
【0053】
5.具体的構造
本開示におけるカラーチャートは、上述したような正反射抑制領域およびカラーパッチ領域を有していれば、具体的な構造は特に限定されない。図3(a)~(c)は、本開示の医療撮像機器用カラーチャートを例示する概略断面図である。
【0054】
図3(a)に示すカラーチャート10は、基材層11と、印刷層12と、印刷層12の基材層11とは反対側の面の中央に形成された正反射抑制層14を有する。また、印刷層12の基材層11とは反対側の面に、低反射膜13を有していてもよい。図3(a)において、正反射抑制領域1は、例えば、基材層11と、印刷層12と、正反射抑制層14と、を有する領域である。カラーパッチ領域2は、例えば、基材層11と、印刷層12と、を有する領域である。
【0055】
(1)正反射抑制層
正反射抑制層は、光源からの光の正反射を抑制する機能を有する層であれば特に限定されないが、360nm~740nmの波長の光の正反射率が、上記範囲である層が好ましい。正反射抑制層としては、例えば、表面に凹凸形状を有する表面凹凸層である。このような表面凹凸層としては、微細多孔構造を有し、微細多孔構造の中に光が入り込み光を吸収する層が挙げられる。微細多孔構造を有する層としては、例えば、光陽オリエントジャパン株式会社のファインシャットSPが挙げられる。また、微細な凹凸構造を有する遮光溝を有し、遮光溝に対して垂直方向からの光を吸収する層が挙げられる。このような微細遮光溝構造を有する層としては、例えば、光陽オリエントジャパン株式会社のファインシャット極が挙げられる。微細多孔構造を有する層および微細遮光溝構造を有する層は、それぞれ、ポリウレタンフォーム等の発泡樹脂およびカーボンブラック、チタンブラック等の暗色系顔料を含んでいてもよい。また、植毛布やベルベットのような毛の内部に光が入り込み吸収される層が挙げられる。
【0056】
正反射抑制層は、例えば、カーボンブラックやチタンブラック等の暗色系顔料を含んだ樹脂層であってもよい。
【0057】
(2)基材層
基材層としては、例えば、紙基材、樹脂基材、不織布等が挙げられる。紙基材としては、具体的には、マット紙、半光沢紙、普通紙、ラミネート紙等が挙げられる。中でも、60°鏡面光沢度が10以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。60°鏡面光沢度が上記範囲であると、カラーパッチ領域および正反射抑制領域における正反射率をより抑制することができる。基材層の60°鏡面光沢度とは、JIS Z 8741の方法3に準拠した、基材層の任意の10箇所における60°鏡面光沢度の測定値の平均値である。測定器としては、光沢計を用いることができる。光沢計としては、例えば、コニカミノルタジャパン株式会社製、GM―268Aが使用できる。
【0058】
また、基材層の正反射率は、1.25%以下である事が好ましく、1.00%以下である事がより好ましい。基材層の正反射率の測定方法は、正反射抑制領域の正反射率の測定方法と同様である。
【0059】
基材層が紙の場合、坪量は、特に限定されないが、好ましくは50g/m以上、300g/m以下である。
【0060】
基材層の厚さは、特に限定されないが、好ましくは、20μm以上、1,000μm以下、より好ましくは30μm以上500μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0061】
(3)印刷層
印刷層は、上述した複数のカラーパッチが印刷された層である。印刷層は、例えばグラビア印刷法、インクジェット法、オフセット印刷法、フレキソ印刷法、スクリーン印刷法等の印刷法により、形成することができる。または、ガラス等の基材にカラーパッチの色に応じた染料を定着させたもの、プラスチックフィルム等の基材にカラーパッチの色に応じた顔料を練りこんだもの等が使用できる。
【0062】
(4)低反射膜
本開示のカラーチャートは、印刷層の基材層とは反対の面側に、低反射膜を有していてもよい。低反射膜を配置することにより、カラーパッチ領域および正反射抑制領域における正反射率をより抑制することができる。低反射膜としては、モニターディスプレイ等の表面層として使用される反射防止膜が挙げられる。
【0063】
(5)他の構造
図3(b)に示すカラーチャート10は、中央に凹部を有する基体21上に配置された、中央が貫通している基材層11と、印刷層12と、基体21の凹部に形成された正反射抑制層14と、を有する。また、カラーチャート10は、印刷層12の基材層11とは反対側の面に形成された低反射膜13を有していてもよい。図3(b)に示すように、正反射抑制領域1の表面は、カラーパッチ領域2の表面よりも高さ位置(カラーチャートの面内方向D2に対して垂直方向D1における位置)が低いことが好ましい。正反射抑制領域1で反射した光が、カラーパッチ領域に入射することを抑制することができるためである。
【0064】
図3(c)に示すカラーチャート10は、基材層11と、基材層11の中央に配置された円錐または角錐状の突起部15と、突起部15の周囲に形成された印刷層12と、を有する。図3(c)において、正反射抑制領域1は、例えば、基材層11と、突起部15と、を有する領域である。カラーパッチ領域2は、例えば、基材層11と、印刷層12と、を有する領域である。また、印刷層12の基材層11とは反対側の面に、低反射膜13を有していてもよい。突起部15は、光反射機能を有していてもよく、光吸収機能を有していてもよい。
【0065】
6.カラーチャートの使用方法
本開示のカラーチャートは、医療画像の色補正に使用される。まず、カラーチャートを光源で照らしながら、撮像機器により撮影する。この際、カラーチャートに対して、撮像機器と光源とは同じ面側に配置される。カラーチャートを撮影後、撮像機器の演算回路は、撮影画像上のカラーチャートに含まれるカラーパッチと予め撮像機器の記憶部に記憶されている参照用のカラーパッチとを比較して、両者の色度に基づいた撮像機器の色補正量を算出する。補正量を同じ撮像機器により撮影された医療画像に展開することで、医療画像の色補正を行う。このような色補正は、カラーパッチの一つのみを用いて行ってもよいし、複数を用いて行ってもよい。
【0066】
B.医療画像用色補正治具
本開示においては、医療用撮像機器で得られる医療画像の色補正を行う治具であって、上述の医療撮像機器用カラーチャートが配置された基体と、上記基体に接続され、上記カラーチャートを囲うように配置された側壁と、を有する医療画像用色補正治具を提供する。このような側壁を有する医療画像用色補正治具によれば、体内に似た環境でカラーチャートを撮影することが可能となる。体内に似た環境で撮影することで、カラーチャートと患部を同時に撮影する必要がなくなる。
【0067】
1.外耳内画像の色補正治具
図7(a)は、外耳内用撮像機器で得られる外耳内画像の色補正を行う補正治具を例示する概略断面図である。また、図7(b)は、外耳内用撮像機器の補正治具における基体を例示する概略斜視図である。図7(a)に示すように、外耳内用撮像機器の色補正治具80Aは、上述の医療撮像機器用カラーチャート10が配置された基体50Aと、基体50Aに接続され、カラーチャートを囲うように配置された側壁60Aと、を有する。側壁60Aは、基体50Aと接続可能な内壁61、および内壁61と接続可能な外壁62を有している。内壁61は、カラーチャートの面内方向D2に対して垂直方向D1に延在する、外耳道を模した筒状であることが好ましい。さらに、少なくとも内面が外耳道に近い肌色であることが好ましい。内壁61の長さL61は、例えば、30mm以上であり、35mm以上であってもよい。外壁62は、撮像機器Cを挿通可能な筒状を有することが好ましい。外壁62は、外部からの光を遮光するため、少なくとも外面が遮光性を有することが好ましい。このような補正治具によれば、外耳内での撮影環境と似た環境において、撮影することができる。
【0068】
外耳内用撮像機器の補正治具80Aは、カラーチャート10が配置された基体21を有することが好ましい。図7(b)に示すように、基体21は、例えば、底部22および壁部23を有する容器状であり、底部22の中央に凹部を有し、凹部の底面である第1底面22aおよび第1底面よりもD1方向において高い位置にある第2底面22bと、を有する。第1底面22aには、正反射抑制領域に対応する正反射抑制層14が配置され、第2底面22bには、カラーパッチ領域に対応する印刷層12が配置されていることが好ましい。基体21の凹部の深さHとしては、例えば、5mm以上であり、1cm以上であってもよい。
【0069】
図8は、外耳内用撮像機器の補正装置セットを例示する概略断面図である。図8に示すように、外耳内用撮像機器の補正装置セット100は、補正治具80Aと、補正治具80Aに配置されたカラーチャート10に対向する位置に配置された撮像機器Cおよび光源と、を有する。なお、図8における撮像機器Cは、光源が搭載されたイヤースコープである。
【0070】
外耳内用撮像機器の補正装置セット100において、撮像機器Cと、カラーチャート10との間の距離L10は、例えば、10mm以上であり、15mm以上であってもよい、一方、例えば、20mm以下である。
【0071】
2.眼底画像の色補正を行う補正治具
図9は、眼底用撮像機器で得られる眼底画像の色補正を行う補正治具を例示する概略断面図である。図9に示すように、眼底用撮像機器の補正治具80Bは、上述の医療撮像機器用カラーチャート10が配置された基体50Bと、カラーチャートを囲うように配置された側壁60Bとが一体化している。また、側壁60Bは、眼球の形状に対応した曲面を有している。このような補正治具80Bとしては、例えば、網膜や硝子体等の手術練習用として市販されている模擬眼を使用することができる。この場合、基体50Bは、網膜部分に相当する。さらに、補正治具80Bは、カラーチャート10に対向する位置に配置されたレンズ91と、レンズ91とカラーチャート10との間に配置されたNDフィルタ90と、を有することが好ましい。このような補正治具によれば、眼底の撮影環境と似た環境において、カラーチャートを撮影することができる。
【0072】
ここで、人間の眼において、水晶体は直径約9mmであり、瞳孔の直径は2mm~6mm程度変化する。上記レンズ91は、水晶体を模したサイズであることが好ましいため、例えば、直径9mm程度とすることが好ましい。光が透過する面積は、実際の眼底検査時においては、瞳孔の直径が6mmとすれば、28.26mm(3mm×3mm×3.14)であるのに対し、模擬眼では、63.59mm(4.5mm×4.5mm×3.14)である。また、硝子体の透過率は約70%である。従って、入射光の光量を低減することが好ましく、上記のような模擬眼を使用する場合、入射光を30%以下に減光することが好ましい。そのため、補正治具80Bは、NDフィルタ90を配置することが好ましい。さらに、NDフィルタ90を、レンズ91とカラーチャート10との間に配置することにより、反射防止膜が不要となる。
【0073】
C.医療画像用色補正装置セット
本開示においては、上述した医療画像用色補正治具と、上記カラーチャートに対向する位置に配置された撮像機器および光源と、を有する、医療画像用色補正装置セットを提供する。
上記医療画像用色補正治具としては、「B.医療画像用色補正治具」で説明した内容と同様である。撮像機器としては、例えば、眼底検査機、顕微鏡、イヤースコープ、内視鏡カメラ等が挙げられる。撮像機器が有する撮像素子としては、例えば、CCD(電荷結合素子)、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)などが挙げられる。光源は、撮像機器の種類によっても異なるが、撮像機器に内蔵されていてもよいし、撮像機器とは別に配置されていてもよい。
【0074】
D.その他
本開示においては、医療用撮像機器に使用されるカラーチャートであって、複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域を有し、前記カラーパッチ領域は、医療用共通色の前記カラーパッチを含み、前記医療用共通色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡BLの色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡BLの色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、色温度2000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第1領域内にある、医療撮像機器用カラーチャートを提供する。
【0075】
本開示においては、医療用撮像機器に使用されるカラーチャートであって、複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域を有し、前記カラーパッチ領域は、第1の外耳内用色の前記カラーパッチを含み、前記第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡BLの色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差0.02の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、黒体軌跡の色温度6000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、で囲まれた第2領域内にある、医療撮像機器用カラーチャートを提供する。
【0076】
本開示においては、医療用撮像機器に使用されるカラーチャートであって、複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域を有し、前記カラーパッチ領域は、第1の眼底用色の前記カラーパッチを含み、前記第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡BLの色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡BLの色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡BLの色温度1000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、黒体軌跡BLの色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第4領域内にある、医療撮像機器用カラーチャートを提供する。
【0077】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【0078】
このように、本開示においては、例えば、以下の発明が提供される。
【0079】
[1]
医療用撮像機器に使用されるカラーチャートであって、
光源からの光の正反射を抑制する正反射抑制領域と、
上記正反射抑制領域の周囲に設けられた、複数のカラーパッチを含むカラーパッチ領域と、を有する、医療撮像機器用カラーチャート。
【0080】
[2]
上記正反射抑制領域は、360nm~740nmの波長の光の正反射率が、5%以下である、[1]に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0081】
[3]
上記カラーパッチ領域は、360nm~740nmの波長の光の正反射率が、15%以下である、[1]または[2]に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0082】
[4]
前記複数のカラーパッチの色は、赤(R)、緑(G)および青(B)の3色、または、イエロー(Y)、シアン(C)およびマゼンタ(M)の3色を、基準色として含む、[1]から[3]までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0083】
[5]
上記カラーパッチ領域は、複数の無彩色の上記カラーパッチを有する、[1]から[4]までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0084】
[6]
前記カラーパッチ領域は、医療用共通色の前記カラーパッチを含み、
前記医療用共通色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000K以上3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、色温度2000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第1領域内にある、[1]から[5]までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0085】
[7]
前記カラーパッチ領域は、第1の外耳内用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000K以上色温度6000K以下の間の色偏差0.02の曲線部と、黒体軌跡の色温度2000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、黒体軌跡の色温度6000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.02の点を結ぶ直線と、で囲まれた第2領域内にある、[1]から[6]までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0086】
[8]
前記カラーパッチ領域は、さらに、第2の外耳内用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、(0.396,0.388)を中心として、x軸方向に±0.05、y軸方向に±0.025の第3領域内にあり、
前記第2の外耳内用色のxy色度図上における座標点は、xy色度図上における前記第2領域の前記第3領域以外の領域内にある、[7]に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0087】
[9]
前記カラーパッチ領域は、第1の眼底用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度3000K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、黒体軌跡の色温度3000Kの色偏差0.00の点および色偏差-0.01の点を結ぶ直線と、で囲まれた第4領域内にある、[1]から[8]までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0088】
[10]
前記カラーパッチ領域は、さらに、第2の眼底用色の前記カラーパッチを含み、
前記第1の眼底用色のxy色度図上における座標点は、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度2400K以下の間の色偏差-0.01の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000K以上色温度2400K以下の間の色偏差0.00の曲線部と、黒体軌跡の色温度1000Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.00の点を結んだ直線と、黒体軌跡の色温度2400Kの色偏差-0.01の点および色偏差0.00の点を結んだ直線と、で囲まれた第5領域内にあり、
前記第2の眼底用色のxy色度図上における座標点は、xy色度図上における前記第4領域の前記第5領域以外の領域内にある、[9]に記載の医療撮像機器用カラーチャート。
【0089】
[11]
医療用撮像機器で得られる医療画像の色補正を行う治具であって、
[1]から[10]までのいずれかに記載の医療撮像機器用カラーチャートが配置された基体と、上記基体に接続され、上記カラーチャートを囲うように配置された側壁と、を有する医療画像用色補正治具。
【0090】
[12]
上記医療画像用色補正治具は、外耳内画像の色補正を行う治具であり、
上記基体が、中央に凹部を有し、凹部の底面である第1底面および上記第1底面よりも高い位置にある第2底面と、を有し、
上記第1底面に上記正反射抑制領域に対応する正反射抑制層が配置され、
上記第2底面に上記カラーパッチ領域に対応する印刷層が配置された、[11]に記載の医療画像用色補正治具。
【0091】
[13]
上記医療画像用色補正治具は、眼底画像の色補正を行う治具であり、
上記基体と前記側壁が一体化しており、
上記側壁が、眼球の形状に対応した曲面であり、
上記カラーチャートに対向する位置に配置されたレンズと、
上記レンズと上記カラーチャートとの間に配置されたNDフィルタと、を有する、[11]に記載の医療画像用色補正治具。
【0092】
[14]
上記側壁が、遮光性を有する、[11]から[13]までのいずれかに記載の医療画像用色補正治具。
【0093】
[15]
[11]から[14]までのいずれかに記載の医療画像用色補正治具と、
上記カラーチャートに対向する位置に配置された撮像機器および光源と、を有する、医療画像用色補正装置セット。
【符号の説明】
【0094】
1 … 正反射抑制領域
2 … カラーパッチ領域
3 … 外周領域
10… カラーチャート
80… 医療画像用色補正治具
100… 医療画像用色補正装置セット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9