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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178565
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】建物保全管理システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/163 20240101AFI20241218BHJP
【FI】
G06Q50/16 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096787
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】517436350
【氏名又は名称】生和コーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099357
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100105418
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 聖
(72)【発明者】
【氏名】三好 義典
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049CC15
(57)【要約】
【課題】建物の立地に合わせて精度良く外壁の状態評価を行えるようにした建物保全管理システムを提供する。
【解決手段】対象となる建物の外壁の保全管理を行う建物保全管理システム1であって、建物における外壁の構造情報の入力を受け付ける入力部3と、入力された外壁の構造情報を方位単位で区別し、それぞれ方位単位ごとに経年による劣化予測を行う劣化予測部5と、劣化予測部5による予測情報を出力する出力部4と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象となる建物の外壁の保全管理を行う建物保全管理システムであって、
前記建物における外壁の構造情報の入力を受け付ける入力部と、
入力された前記外壁の構造情報を方位単位で区別し、それぞれ方位単位ごとに経年による劣化予測を行う劣化予測部と、
前記劣化予測部による予測情報を出力する出力部と、
を備えていることを特徴とする建物保全管理システム。
【請求項2】
前記劣化予測部は、入力された前記外壁の構造情報に前記建物の存在する近隣環境に関するエリア情報が含まれている場合、前記エリア情報毎に予め対応された係数で、前記予測情報を補正し、前記出力部は補正された前記予測情報を再度出力することを特徴とする請求項1に記載の建物保全管理システム。
【請求項3】
前記劣化予測部は、前記外壁のメンテナンスに用いる素材情報を前記入力部から受け付けると、前記素材情報を用いた場合の前記予測情報を前記出力部から出力することを特徴とする請求項1に記載の建物保全管理システム。
【請求項4】
前記入力部は、前記建物の入居者情報を受付可能であり、
前記劣化予測部は前記入居者情報の変化に基づき前記予測情報を更新して前記出力部から出力することを特徴とする請求項1に記載の建物保全管理システム。
【請求項5】
前記劣化予測部は、前記外壁における方位単位毎のひび割れの実測値情報を前記入力部から受け付けると、前記実測値情報に基づき前記予測情報を補正して前記出力部から出力することを特徴とする請求項1に記載の建物保全管理システム。
【請求項6】
前記劣化予測部は、類似物件検索機能を備え、類似する物件が存在する場合には、当該物件で予測された過去の予測情報と実施されたメンテナンス内容を含む予測情報を前記出力部から出力することを特徴とする請求項1に記載の建物保全管理システム。
【請求項7】
前記出力部は、前記予測情報を経過年数と外壁を構成するコンクリートの中性化深さとの関係を示すグラフを表示するディスプレイであることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の建物保全管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の特に外壁の保全管理を行うために用いられる建物保全管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の管理会社によって、顧客の建物の外壁などを定期点検し、必要に応じてメンテナンスを提案することが行われている。このような管理会社は、独自の判断基準で点検を行い、メンテナンス計画などを提案しており、例えば特許文献1に示されるように、外壁の点検箇所からコンクリート片を採取し、採取したコンクリート片を検査することで中性化の進行度合いを測定することで、メンテナンスの必要性を判定するようになっている。
【0003】
このコンクリートの中性化とは、アルカリ性であるコンクリートが雨や紫外線に曝されることにより、コンクリート内部のカルシウム化合物が大気中の二酸化炭素と反応し、徐々にアルカリ性を失うことであり、コンクリートの中性化は進行するとコンクリート内部の鉄筋が錆びて膨張し、ひび割れや剥落が生じる可能性が高まる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-241250号公報(第5頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように、特許文献1のような判定方法を採用することで、適切なタイミングで顧客に対して外壁のメンテナンスの必要性を提案することができる。また、近年では情報技術の発展に伴い、メンテナンスの必要性の判定結果と外壁の構造情報をコンピュータで集計・演算することで、同様の建物におけるメンテナンス推奨時期を予測し、提案することはこのような建物の保全管理を行う当業者としては当然考えられる。しかしながら、建物の外壁は、それぞれ外的環境が異なり、例えば日射量の差が中性化の進行度合いへ影響することが確認されている。そのため、建物の立地によって外壁の状態評価の予測の精度が低いという問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、建物の立地に合わせて精度良く外壁の状態評価を行えるようにした建物保全管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明の建物保全管理システムは、
対象となる建物の外壁の保全管理を行う建物保全管理システムであって、
前記建物における外壁の構造情報の入力を受け付ける入力部と、
入力された前記外壁の構造情報を方位単位で区別し、それぞれ方位単位ごとに経年による劣化予測を行う劣化予測部と、
前記劣化予測部による予測情報を出力する出力部と、
を備えていることを特徴としている。
この特徴によれば、例えば日射量など、外壁が面する方位によって異なる劣化の進度を実際の数値として取り込み考慮することで、それぞれ方位単位ごとに外壁の劣化予測が行われるため、建物の立地に合わせて精度良く外壁の状態評価を行うことができる。
【0008】
前記劣化予測部は、入力された前記外壁の構造情報に前記建物の存在する近隣環境に関するエリア情報が含まれている場合、前記エリア情報毎に予め対応された係数で、前記予測情報を補正し、前記出力部は補正された前記予測情報を再度出力することを特徴としている。
この特徴によれば、例えば海に近いなど、近隣環境による外壁の劣化への影響が考慮されて外壁の劣化予測が行われるため、建物の立地に合わせて精度良く外壁の状態評価を行うことができる。
【0009】
前記劣化予測部は、前記外壁のメンテナンスに用いる素材情報を前記入力部から受け付けると、前記素材情報を用いた場合の前記予測情報を前記出力部から出力することを特徴としている。
この特徴によれば、メンテナンスに用いられる素材情報の外壁の劣化への影響が考慮されて、外壁の劣化予測が再度行われるため、精度良く外壁の保全管理及びメンテナンス提案を行うことができる。
【0010】
前記入力部は、前記建物の入居者情報を受付可能であり、
前記劣化予測部は前記入居者情報の変化に基づき前記予測情報を更新して前記出力部から出力することを特徴としている。
この特徴によれば、例えば入居者が多ければそれだけ外壁への負荷が増えるなど、入居者情報による外壁の劣化への影響が考慮されて外壁の劣化予測が行われるため、適切に外壁の状態評価を行うことができる。
【0011】
前記劣化予測部は、前記外壁における方位単位毎のひび割れの実測値情報を前記入力部から受け付けると、前記実測値情報に基づき前記予測情報を補正して前記出力部から出力することを特徴としている。
この特徴によれば、ひび割れの実測値から予測されるコンクリートの中性化の進度によって、外壁の構造情報から予測された予測情報が補正されるため、精度良く外壁の状態評価を行うことができる。
【0012】
前記劣化予測部は、類似物件検索機能を備え、類似する物件が存在する場合には、当該物件で予測された過去の予測情報と実施されたメンテナンス内容を含む予測情報を前記出力部から出力することを特徴としている。
この特徴によれば、実際に建っている建物で実施されたメンテナンス内容を含む予測情報を出力することで、現実味のあるメンテナンスの提案を行うことができる。
【0013】
前記出力部は、前記予測情報を経過年数と外壁を構成するコンクリートの中性化深さとの関係を示すグラフを表示するディスプレイであることを特徴としている。
この特徴によれば、経過年数と中性化の進度の関係を顧客がひと目で確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる実施例における建物保全管理システムを示す図である。
図2】管理を行う建物の外観を示すイメージ図である。
図3】出力部であるディスプレイに表示される情報画面を示す図である。
図4】情報画面に導出された方位別の年間日射量が表示された状態を示す図である。
図5】地域情報と方位別の年間日射量を例示する表である。
図6】情報画面に劣化予測表示が表示された状態を示す図である。
図7】情報画面に結果が異なる劣化予測表示と提案表示とが同時に表示された状態を示す図である。
図8】情報画面に海岸と物件との距離情報及び遮蔽物の有無が表示された状態を示す図である。
図9】海岸と物件との距離情報及び遮蔽物の有無に対する係数を例示する表である。
図10】情報画面に雨かかり有無が表示された状態を示す図である。
図11】計測される外壁のひび割れを示すイメージ図である。
図12】基礎情報データ部に記憶される新築時の構造躯体の建物情報を例示する表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る建物保全管理システムを実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例0016】
実施例に係る建物保全管理システムにつき、図1から図11を参照して説明する。図1の符号1は、建物の特に外壁の保全管理を行うために用いられる建物保全管理システム(以下、「管理システム」という。)である。
【0017】
図1に示されるように、管理システム1は、ネットワークに接続された、建物の外壁の構造情報等が記録されるデータベース2を備えた中央管理サーバSVR(以下サーバSVRという)と、複数のパソコンP,P,…と、により構成されている。パソコンP(端末)は、ネットワークを介してサーバSVRとの間でデータのやり取りを行う他、入力部としてのキーボード3と、出力部としてディスプレイ4を、それぞれ有している。尚、パソコンPは、少なくとも1台以上用意されていればよく、更にアプリケーションをインストールした端末は、パソコンに限らずスマートフォンやタブレットPCなどであってもよい。
【0018】
本実施例において、管理システム1は、主に建築会社もしくは管理会社の従業員が顧客の所有する建物であるRC造である集合住宅等の外壁の保全管理を行うために用いられるものである。データベース2には、建物ごとに物件識別情報が割り当てられて構造情報が記憶されており、かつ物件識別情報には当該建物の所有者の識別情報が対応付けられている。
【0019】
詳しくは、データベース2は、新築時の外壁の構造情報を記憶する基礎情報データ部2Aと、条件データ部2B、メンテナンスメニューデータ部2C、建物情報データ部2Dとを備えて構成されている。サーバSVRはデータベース2に加えて、演算手段5を備えている。演算手段は後述する劣化予測部としての機能を有する。
【0020】
管理システム1におけるサーバSVRは、パソコンPから入力された様々な情報を用いて、建物の劣化予測情報(予測情報)を出力するものである。従業員は、パソコンPを用いて顧客の所有する建物の情報を入力する。図3の符号10はサーバSVRに接続されたパソコンPに表示されるメンテナンス情報画面(以下、単に「情報画面」という。)である。サーバSVRはFTPサーバとしての機能を有し、情報画面10のレイアウトデータを図示しない記憶手段から参照して、サーバSVRにインターネットを通じて接続されたパソコンPに対して、情報画面10を出力するようになっている。
【0021】
まず、建物の情報を新規登録する場合について説明する。尚、本実施例では、図2のような外観の建物の情報を入力する場合を例に取り説明する。図2の建物Aは、大まかに4つの方位(N,S,E,W)のいずれかに面する外壁をそれぞれ有している。従業員は、パソコンPを用いて情報画面10の入力部に適宜情報を入力する。情報画面10の入力部に入力された情報はインターネットを通じてパソコンPからサーバSVRに逐次送信される。
【0022】
情報画面10には、建物の基本情報を入力できる入力部をそれぞれ構成する基本情報部14と、条件データ入力部15と、予測表示部16とを備えている。
【0023】
まず、条件データ入力部15を構成する外壁の方位を指定する入力部である方位指定部11について説明する。方位指定部11には、建物の上面視つまり各外壁のイメージ表示を入力することができるとともに、それぞれの外壁に対してそれぞれ面する方位表示12を入力可能になっている。方位表示12には、例えば「北面」などの方位を示す表示と南を基準としたときの外壁の面が面する角度とを入力することができる。尚、ここでは図示しないが「北面」などの方位を示す表示はプルダウンなどで選択入力可能になっている。更に尚、角度の入力に加えて、例えば外壁の傾斜角も入力できるようにすることもでき、これによれば、後に詳述する条件データ部2Bに記憶された年間日射量の情報に傾斜角の変数を用いることでより正確な劣化予測処理を行うことができる。
【0024】
演算手段5は、方位表示12に入力された情報を受信したことに基づき、北に面する外壁にはN、西に面する外壁にはW、南に面する2つの外壁にはS1,S2、東に面する2つの外壁にはE1,E2をそれぞれ識別名13として表示させる。これにより、それぞれがひと目で判別できるようになる。方位指定部11に入力された条件情報はサーバSVRに送信され、サーバSVRは受信した条件情報を条件データ部2Bに記憶させる。
【0025】
基本情報部14には、当該建物の所有者の情報、戸数、構造、新築時の仕上げ材などの基本情報を入力できるようになっている。サーバSVRは、受信したこれら基本情報部14に入力された基本情報を基礎情報データ部2Aに記憶させる。
【0026】
サーバSVRの劣化予測部である演算手段5は、少なくとも基本情報部14に入力された基本情報と方位指定部11に入力された条件情報を受信したことに基づき、劣化予測処理を開始する。
【0027】
サーバSVRの演算手段5は、図6に示されるように、情報画面10に予測表示部16に劣化予測処理の結果として劣化予測表示17を出力させる。劣化予測表示17は、外壁を構成するコンクリートの中性化の指標が主であり、経過年の時系列をx軸とし、中性化の進行度合いである劣化度をy軸として示すグラフで表示される。グラフには、y軸にメンテナンス推奨時期の境界が表示されており、各方位の外壁単位で、それぞれどのタイミングでメンテナンス推奨時期に達するかを確認できるようになっている。
【0028】
劣化予測表示17として出力される劣化予測は、特に基礎情報データ部2Aに記憶された大量の建物の基本情報及び、蓄積されたメンテナンスの実例データに基づく独自のアルゴリズムによって、基礎情報データ部2Aに記憶された基本情報から演算された値と、後述する外壁が面する方位の条件とによって算出される。
【0029】
図6の劣化予測表示17のグラフに示されるように、方位の異なる外壁ごとにメンテナンス推奨時期に達するタイミングに差が出る。これは、外壁が面する方位によって主に年間日射量の差が影響することを示す。図5は、地域情報と方位における年間日射量を例示する表であり、このような年間日射量の情報が条件データ部2Bに記憶されている。演算手段5は、基本情報に含まれる建築地の地域情報と、外壁が面する方位とに基づき、条件データ部2Bから各方位の外壁に対してそれぞれ年間日射量を導出する。導出された年間日射量は、条件表示20の「方位別日射量」の列20aに表示される(図4参照)。
【0030】
また、条件データ部2Bでは、年間日射量に対して所定の係数が設定されている。例えば、年間日射量が20kwh/平方メートル未満であれば0.9、年間日射量が30kwh/平方メートル以上であれば1.2などの係数が設定されている。劣化予測部である演算手段5は、この年間日射量の係数を基礎情報データ部2Aに記憶された基本情報から演算した値に乗算して、劣化予測表示17として出力する。
【0031】
このように、日射量など、外壁が面する方位によって異なる劣化の進度が考慮され、それぞれ方位単位ごとに外壁の劣化予測が行われるため、建物の立地に合わせて精度良く外壁の状態評価を行うことができる。
【0032】
情報画面10の予測表示部16には、施工情報入力部19を有するメンテナンスの提案表示18が表示される。施工情報入力部19は、外壁が面する方位に対してそれぞれ表示され、予防修繕に用いる施工情報を入力可能になっている。例えば、図4では、全外壁に対応する施工情報入力部19に「厚塗材(一般塗装)」という施工情報が入力されている。施工情報入力部19では、サーバSVRのメンテナンスメニューデータ部2Cから参照された施工情報をプルダウン等で適宜選択入力できる仕様になっている。
【0033】
サーバSVRの劣化予測部である演算手段5は、基本情報部14に入力された基本情報と方位指定部11に入力された条件情報に加えて、予測表示部16に入力された施工情報を受信したことに基づき、劣化予測を行う。予防修繕を行うことで外壁の中性化の進行が緩慢になるため、演算手段5は、予測表示部16に入力された施工情報を用いて、劣化予測表示17に表示されるグラフを作成する。
【0034】
図6では、現在のタイミングで「厚塗材(一般塗装)」によるメンテナンスを全ての外壁に施工した場合の劣化予測表示17と、各外壁が次にメンテナンス推奨時期に達する時期が表示された提案表示18を示す。ここでは、外壁S1及びS2が最も早い12年後に次のメンテナンス推奨時期に達することを示す。
【0035】
また、予測表示部16に入力する施工情報を変更することで、各外壁のメンテナンス推奨時期のタイミングを調整することができる。例えば、図7に示されるように、外壁S1及びS2と外壁E1及びE2とに対応する施工情報入力部19に「防水形複層塗材E(高耐久塗材)」という施工情報が、外壁Nと外壁Wとに対応する施工情報入力部19に「厚塗材(一般塗装)」という施工情報が入力された場合、この場合における劣化予測表示17’と提案表示18’とが表示される。これらの表示により外壁S1及びS2は20年後に次のメンテナンス推奨時期に達し、外壁E1及びE2は22年後に次のメンテナンス推奨時期に達し、外壁Nは25年後にメンテナンス推奨時期に達し、外壁Wは21年後に次のメンテナンス推奨時期に達することがわかる。
【0036】
これによれば、日射量の差により相対的に早く劣化が進む外壁S1及びS2と外壁E1及びE2に「防水形複層塗材E(高耐久塗材)」を施工し、相対的に劣化が緩慢に進む外壁Nと外壁Wに「厚塗材(一般塗装)」を施工することで、これら全ての外壁のメンテナンス推奨時期のタイミングを近づける(ここでは20年)ことができる。これによれば、一度に工事が済むことに起因する長期スパンで見た修繕コストの削減を提案することができる。
【0037】
尚、図7に示されるように、予測表示部16には、それぞれ施工情報入力部19に異なる施工情報を入力したことで、結果が異なる劣化予測表示17,17’と提案表示18,18’とを同時に表示させることができ、採用する施工情報によるメンテナンスの比較提案を行うことができる。
【0038】
サーバSVRの劣化予測部である演算手段5は、少なくとも基本情報部14に入力された基本情報と方位指定部11に入力された条件情報を受信したことに加えて、方位指定部11に入力された条件情報以外の条件情報を受信した場合、その条件情報によって劣化予測情報を更新する。
【0039】
例えば、塩害の可能性がある場合は、劣化予測に関連する条件情報となる。条件データ入力部15には、対象となる建物の周辺環境を入力することができる。図8に示されるように、条件データ入力部15には、建物のイメージ表示の周囲に特殊な環境(ここでは海岸)が存在する場合、海岸のイメージ表示21を入力できる。
【0040】
また、建物のイメージ表示の周囲に特殊な環境(ここでは近隣建物)が存在する場合、近隣建物のイメージ表示22を入力できる(図10参照)。この近隣建物のイメージ表示22を入力するのは、建物の外壁と所定距離以内に建物の外壁の高さに対して所定割合以上の高さの外壁を有する建物であること条件を満たすものに限られる。
【0041】
海岸のイメージ表示21が入力されると、サーバSVRの演算手段5は、条件表示20に「塩害(海からの距離)」の行を形成する。従業員は、この「塩害(海からの距離)」の行に対応する入力部20cに、海岸と物件との距離情報及び遮蔽物の有無(条件情報)を入力する。図9に示されるように、条件データ部2Bには、海岸と物件との距離情報及び遮蔽物の有無に応じてそれぞれ所定の係数が設定されて記憶されており、演算手段5は、入力された海岸と物件との距離情報及び遮蔽物の有無に応じた係数を導出し、劣化予測時に乗算を行う。
【0042】
また、図10に示されるように、近隣建物のイメージ表示22が入力されると、サーバSVRの演算手段5は、条件表示20に「雨かかり有無」の列20bを形成するとともに、近隣建物のイメージ表示22と所定距離以内で対向する外壁(ここでは、外壁S1と外壁E1)について、「かからない」という表示を行う。条件データ部2Bには、雨かかりが無い、つまりかからない場合の所定の係数が設定されて記憶されており、演算手段5は、雨かかり有無が「かからない」とされる外壁に対して係数を導出し、劣化予測時に乗算を行う。
【0043】
図10では、外壁S1と外壁E1とについて雨が「かからない」と判断されていることから、劣化予測表示17,17’と提案表示18,18’の表示が変化している。詳しくは、外壁Sと外壁Eのメンテナンス推奨時期への到達年数が2年延び、それに合わせてメンテナンスサイクルも延長されるように、表示がそれぞれ更新されている。
【0044】
尚、上記したものは条件データ部2Bに係数が記憶される、建物のイメージ表示の周囲に存在する特殊な環境の一例であり、他にも例えば、防風林の有無や、幹線道路に面しているか否かなどがある。
【0045】
また、サーバSVRは、ここでは図示しないが賃貸物件である建物の入居者情報が記憶された建物情報データ部2Dを備えており、演算手段5は条件データ部2Bに記憶された賃貸物件の入居率に応じた係数を劣化予測時に乗算する。入居者情報はパソコンに表示される図示しない入力画面から入力されてサーバSRVに送信される。入居率が高いほど建物の構造に及ぼす影響が大きく、特に共用部分にかかる負荷が大きいといえるため、この入居率を考慮して劣化予測を行うことで、精度良く外壁の保全管理及びメンテナンス提案を行うことができる。また、建物への入居者数の負荷や、入居率に関係する美化性能など、外装と入居者との関係性により、外壁のメンテナンス時期を評価して決めることもできる。
【0046】
管理する建物については、定期的に実際に点検も行われる。このとき、図11に示されるような外壁のひび割れを計測する。従業員は、方位単位毎の外壁から計測されたひび割れの実測値情報を図示しない入力画面から入力し、サーバSVRに送信することができる。ここでいう「ひび割れ」は、「ひびの深さ」と「水の侵入深さ」とのいずれかもしくはいずれか一方である。
【0047】
演算手段5は、ここでは図示しないが、外壁における方位単位毎のひび割れの実測値情報を受信したことに基づき、この実測値情報からコンクリートの中性化の進度を予測した予測スコアを外壁毎に算出する。そして、この予測スコアと、その他の条件情報により出力された劣化予測情報とを比較し、これらの差が小さくなるように、例えば平均化することで劣化予測情報を補正し、補正後の劣化予測情報を出力する。
【0048】
これによれば、ひび割れの実測値から予測されるコンクリートの中性化の進度によって、外壁の構造情報から予測された劣化予測情報が補正されるため、精度良く外壁の状態評価を行うことができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0050】
例えば、前記実施例において、サーバSVRの劣化予測部である演算手段5は、基本情報部14に入力された基本情報と方位指定部11に入力された条件情報に加えて、予測表示部16に入力された施工情報を受信したことに基づき劣化予測を行い、劣化予測表示17に表示されるグラフを作成する構成、すなわち劣化予測表示17は入力された施工情報により提案時点でまずメンテナンスをすることを前提とした劣化予測情報であるが、予測表示部16に施工情報を入力しない、つまりメンテナンスを提案時点では行わない場合でも劣化予測表示17を表示できる構成であってもよい。これによれば、提案時点でメンテナンスを行わない場合の劣化予測情報を比較対象として早期のメンテナンスの必要性を提案することができる。
【0051】
また、演算手段5により予測されて出力される劣化予測情報は、劣化予測表示17のようなグラフに限らず、例えば、数値や文章によるものであってもよい。
【0052】
また、劣化予測情報の出力部としては、パソコンPのディスプレイ4に限らず、例えばメールを劣化予測情報の画像を送信する通信部であってもよい。
【0053】
また、管理システム1の中央管理サーバSVRは、複数のサーバにより構成されていてもよい。
【0054】
また、ひび割れの実測値については、撮像装置で撮像したひび割れ箇所の画像から自動的に測定され、サーバSVRに自動的に送信されるものであってもよい。
【0055】
また、出力される劣化予測情報としてはコンクリートの中性化の進度に限らず、例えばアクリルシリカ反応や凍害などによる劣化の予測情報であってもよい。
【0056】
また、情報画面10には、方位を示すN,S,E,Wの表示を省略して、南面(S)を0°とし対象面が向いている角度で分類されてもよい。
【0057】
また、年間日射量の情報はデータベース2の条件データ部2Bに記憶されていなくてもよく、例えば社外などの別のサーバに記憶されたデータにサーバSVRからアクセスして取得されるものであってもよい。
【0058】
また、サーバSVRは、年間日射量など外壁が面する方位によって予め設定されている係数の変更を受け付けることができる構成であってもよい。
【0059】
また、図12に示されるように、サーバSVRが新築時の構造躯体の建物情報の入力を受け付けて基礎情報データ部2Aに記憶することができる構成とし、この新築時の構造躯体の建物情報を用いることで、劣化予測部である演算手段5でより正確な劣化予測を行うことができるようにしてもよい。このような新築時の細かな建物情報は、新築時の建築会社がその後の保全管理まで一貫して行う場合にのみ管理できるものであり、この管理システムの仕様は、上記したような特殊な建築会社にとって特に有用である。
【符号の説明】
【0060】
1 建物保全管理システム
2A 基礎情報データ部
2B 条件データ部
2C メンテナンスメニューデータ部
2D 建物情報データ部
3 キーボード(入力部)
4 ディスプレイ(出力部)
5 演算手段(劣化予測部)
10 情報画面
11 方位指定部
12 方位表示
14 基本情報部
15 条件データ入力部
16 予測表示部
17 劣化予測表示
18 提案表示
19 施工情報入力部
20 条件表示
21,22 イメージ表示
A 建物
N,S,E,W 外壁
P パソコン
SVR 中央管理サーバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12