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特開2024-178585CO2ガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178585
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】CO2ガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/05 20170101AFI20241218BHJP
   F27D 25/00 20100101ALI20241218BHJP
   F27B 3/22 20060101ALI20241218BHJP
   F27D 27/00 20100101ALI20241218BHJP
   C01B 32/907 20170101ALI20241218BHJP
   C01B 32/956 20170101ALI20241218BHJP
   C01B 32/921 20170101ALI20241218BHJP
【FI】
C01B32/05
F27D25/00
F27B3/22
F27D27/00
C01B32/907
C01B32/956
C01B32/921
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096831
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100011
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 省三
(72)【発明者】
【氏名】近藤 正聡
(72)【発明者】
【氏名】小野塚 龍斗
(72)【発明者】
【氏名】堀川 虎之介
【テーマコード(参考)】
4G146
4K045
4K056
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AA15
4G146AA16
4G146AA17
4G146BA09
4G146BC08
4G146BC32
4G146BC43
4G146CA02
4G146CB09
4G146DA03
4G146DA12
4G146DA23
4G146DA27
4G146DA45
4K045AA04
4K045AA06
4K045BA03
4K045RA19
4K045RB04
4K045RB16
4K045RB29
4K045RC20
4K056AA02
4K056AA06
4K056BA03
4K056BB06
4K056CA04
4K056EA02
4K056EA14
(57)【要約】
【課題】ランニングコストが安いCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収できる装置及び方法を提供する。
【解決手段】液体金属収容容器1は液体錫(Sn、融点232℃)を収容し、COガス供給管2はCOガスを吹き込む。液体金属収容容器1の上部に生成物を分離回収して排出するための生成物排出管3が設けられる。液体金属収容容器1内の液体Snが少なくなった場合には、ステンレス製の液体錫(Sn)補充管5によって予め加熱された液体錫が補充される。COガスから固体炭素の分離回収を液体Sn(融点232℃)によって行う。すなわち、液体SnとCOガスとは次のごとく反応する。
Sn+CO→SnO+C
固体炭素が分離回収されると共に、Sn自身も酸化されて酸化錫(SnO)が生成物として固体炭素Cと共に生成物排出管3から排出される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体錫を収容するための液体金属収容容器と、
前記液体金属収容容器を加熱するための容器加熱部と、
前記液体金属収容容器にCOガスを供給するためのCOガス供給管と、
前記COガス供給管を加熱するためのCOガス供給部加熱部と、
前記液体金属収容容器の上部に設けられ、前記液体錫と前記COガスとが反応して生成された生成物を前記液体金属収容容器から排出するための生成物排出管と
を具備するCOガスから固体炭素を分離回収するための装置。
【請求項2】
さらに、前記液体金属収容容器内に前記液体Snを補充するための液体錫補充管を具備する請求項1に記載のCOガスから固体炭素を分離回収するための装置。
【請求項3】
前記生成物は酸化錫及び固体炭素よりなる請求項1に記載のCOガスから固体炭素を分離回収するための装置。
【請求項4】
液体錫を充填するための液体金属収容容器と、
前記液体金属収容容器を加熱するための容器加熱部と、
前記液体金属収容容器内に加熱されたアルミニウムを添加して前記液体錫を液体錫アルミニウムに変換させるための添加物供給管と、
前記液体金属収容容器にCOガスを供給するためのCOガス供給管と、
前記COガス供給管を加熱するためのCOガス供給部加熱部と、
前記液体金属収容容器の上部に設けられ、前記液体錫アルミニウムと前記COガスとが反応して生成された生成物を前記液体金属収容容器から排出するための生成物排出管と
を具備するCOガスから固体炭素及び炭化物を分離回収するための装置。
【請求項5】
前記生成物はアルミニウムオキシカーバイド及び固体炭素よりなる請求項4に記載のCOガスから固体炭素及び炭化物を分離回収するための装置。
【請求項6】
液体錫を充填するための液体金属収容容器と、
前記液体金属収容容器を加熱するための容器加熱部と、
前記液体金属収容容器内に加熱されたアルミニウム及びシリコンを添加して前記液体錫を液体錫アルミニウムシリコンに変換させるための添加物供給管と、
前記液体金属収容容器にCOガスを供給するためのCOガス供給管と、
前記COガス供給管を加熱するためのCOガス供給部加熱部と、
前記液体金属収容容器の上部に設けられ、前記液体錫アルミニウムシリコンと前記COガスとが反応して生成された生成物を前記液体金属収容容器から排出するための生成物排出管と
を具備するCOガスから炭化物を分離回収するための装置。
【請求項7】
前記生成物はアルミナ及びシリコンカーバイドよりなる請求項6に記載のCOガスから炭化物を分離回収するための装置。
【請求項8】
液体錫を充填するための液体金属収容容器と、
前記液体金属収容容器を加熱するための容器加熱部と、
前記液体金属収容容器内に加熱されたアルミニウム及びチタンを添加して前記液体錫を液体錫アルミニウムチタンに変換させるための添加物供給管と、
前記液体金属収容容器にCOガスを供給するためのCOガス供給管と、
前記COガス供給管を加熱するためのCOガス供給部加熱部と、
前記液体金属収容容器の上部に設けられ、前記液体アルミニウム錫チタンと前記COガスとが反応して生成された生成物を前記液体金属収容容器から排出するための生成物排出管と
を具備するCOガスから炭化物を分離回収するための装置。
【請求項9】
前記生成物はアルミナ及びチタンカーバイドよりなる請求項8に記載のCOガスから炭化物を分離回収するための装置。
【請求項10】
液体錫を加熱する段階と、
加熱された前記液体錫中に加熱したCOガスを吹き込む段階と、
前記液体錫と前記COガスとの反応によって生成された生成物を排出する段階と
を具備するCOガスから固体炭素を分離回収するための方法。
【請求項11】
さらに、前記液体Snを補充する段階を具備する請求項10に記載のCOガスから固体炭素を分離回収するための方法。
【請求項12】
前記生成物は酸化錫及び固体炭素よりなる請求項10に記載のCOガスから固体炭素を分離回収するための方法。
【請求項13】
液体錫を加熱する段階と、
前記液体Snに加熱されたアルミニウムを添加して液体錫アルミニウムに変換する段階と、
加熱された前記液体錫アルミニウム中に加熱したCOガスを吹き込む段階と、
前記液体錫アルミニウムと前記COガスとの反応によって生成された生成物を排出する段階と
を具備するCOガスから固体炭素を分離回収するための方法。
【請求項14】
前記生成物はアルミニウムオキシカーバイド及び固体炭素よりなる請求項13に記載のCOガスから固体炭素を分離回収するための方法。
【請求項15】
液体Snを加熱する段階と、
前記液体Snに加熱されたアルミニウム及びシリコンを添加して液体錫アルミニウムシリコンに変換する段階と、
加熱された前記液体錫アルミニウムシリコン中に加熱したCOガスを吹き込む段階と、
前記液体錫アルミニウムシリコンと前記COガスとの反応によって生成された生成物を排出する段階と
を具備するCOガスから炭化物を分離回収するための方法。
【請求項16】
前記生成物はアルミナ及びシリコンカーバイドよりなる請求項15に記載のCOガスから炭化物を分離回収するための方法。
【請求項17】
液体Snを加熱する段階と、
前記液体Snに加熱されたアルミニウム及びチタンを添加して液体アルミニウム錫に変換する段階と、
加熱された前記液体錫アルミニウムチタン中に加熱したCOガスを吹き込む段階と、
前記液体アルミニウム錫チタンと前記COガスとの反応によって生成された生成物を排出する段階と
を具備するCOガスから炭化物を分離回収するための方法。
【請求項18】
前記生成物はアルミナ及びチタンカーバイドよりなる請求項17に記載のCOガスから炭化物を分離回収するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体錫(Sn)又は液体錫合金(SnAl、SnAlSi(Ti))を用いてCOガスから固体炭素又は炭化物を分離回収するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大気中の温室効果ガスGHSたとえばCOガス、CHガス、NOガス、代替フロンガスにより熱が地球から逃げにくくなり、地球の気温が高くなる地球温暖化が問題となっている
【0003】
温室効果ガスの排出量は、COガスの何倍の温室効果を有するかを表す地球温暖化係数GWPを用いて各ガスの排出量×GWPで計算され、この結果、COガスが温室効果ガスGHSの90.8%を占める。従って、温室効果ガスGHSの低減には、排出されたCOガスを分離回収し、固定化し、又は再利用する技術が必要である。
【0004】
従来のCOガス分離回収方法は、火力発電プラント等の排気ガスをアミン溶液に接触させて約15vol%の高濃度のCOガスをアミン溶液に吸着させて吸収し、残りの排気ガスを大気中に戻す。次いで、アミン溶液を約120℃に加熱して約100%の超高濃度のCOガスを分離回収すると共にアミン溶液を再生する。
【0005】
上述の分離回収されたCOガスの貯蔵方法は、分離回収されたCOガスを液化して船舶で輸送し、海底の地下800mより深い貯留層に圧入して貯留する貯留層貯留方法である。大規模なCOガス排出源は沿岸部に多いために、海底下への貯留が適している。
【0006】
しかしながら、上述の貯留層貯留方法は、貯留層はその上にCOガスが漏出ないようにするための遮断層が必要である。また、地震を起こさないか、COガスが漏出した場合の健康被害に対する社会受容性が必要である。さらに、COガスの漏出を検出するためのモニタリングを確立する必要がある。従って、貯留層貯留方法は不適切であり、しかも、分離回収されたCOガスは固定化されてもCOガスは有効利用されていない。従って、分離回収されたCOガスの有効利用が必要である。
【0007】
上述の分離回収されたCOガスを有効化する第1の有効化方法は、COガスリフォーミング方法である。すなわち、COガスと天然ガスとを反応させて化学原料となる合成ガス(CO+H)を合成し、内燃機関の原料、プラスチック、肥料等の製造に用いるCOガスリフォーミング方法である。すなわち、始めに、天然ガスの成分CHとの主反応で合成ガス(CO+H)を合成する。
CO+CH→2CO+2H
また、COから
CO+2H→CHOH
によりメタノールを合成する。このメタノールは内燃機関の燃料、接着剤、塗料、農薬等の原料となる。
さらにまた、Hから
3H+N→2NH
によりアンモニアを合成する。このアンモニアは肥料、合成繊維等の原料となる。
【0008】
しかしながら、上述のCOガスリフォーミング方法においては、合成ガスを合成する低温においては、炭素が析出してガス気流の閉塞(コーキング)が発生する、また、メタノール合成においては、C-O分離のための高温(約800℃)が必要である、さらに、アンモニア合成においては、長期間使用しても劣化しない触媒が必要である、等から実用化に至っていない。
【0009】
また、上述のCOガスリフォーミング方法の特殊方法としてメタネーション法、オレフィン合成法がある。すなわち、メタネーション法によれば、
CO+4H→CH+2H
によりメタンを合成する。メタンは発電用燃料・都市ガスの原料として利用できる。また、オレフィン合成法によれば、
2CO+6H→C+4H
によりエチレンを合成する。エチレンはプラスチックの原料として利用できる。
【0010】
しかしながら、メタネーション法、オレフィン合成法においては、還元剤として水素の消費を必要とし、また、長期間使用しても劣化しない触媒を必要とする。尚、メタネーション法は、未だ実用化に至ってない。
【0011】
上述の分離回収されたCOガスを有効化する第2の有効化方法は、油田の油層にCOガスを圧入し、石油を回収し易くする石油増進回収方法である。COガスは石油に混和し易いために、COガスが石油に混和すると石油の粘度が下がり、石油を押し出し易くなる。
【0012】
上述の分離回収されたCOガスを有効化する第3の有効化方法は、COガスにカルシウムを反応させて生成する炭酸カルシウムと製鉄で生じる高炉スラグ等とによりコンクリートを製造するカーボンリサイクルコンクリートである。
【0013】
しかしながら、上述のCOガス分離回収方法、第1、第2、第3の有効化方法のいずれも固体炭素又は炭化物を分離回収して再利用していない。
【0014】
従って、COガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収して固定化することが求められている。
【0015】
図9は従来のCOガスから固体炭素を分離回収のための装置を示し、(A)はブロック図、(B)は生成された生成物の断面写真である(参照:非特許文献1)。
【0016】
図9の(A)に示すように、液体GaIn(Ga75vol%:In25vol%)(融点15℃)を収容するための液体金属収容容器101を比較的低温で加熱してCOガスを吹き込む。この結果、液体金属合金GaInとCOガスとが低温で次式のごとく反応する。
4GaIn+3CO→2Ga+3C
従って、固体炭素が分離回収されると共に、図9の(B)に示すごとく、Ga自身も酸化されて酸化ガリウム(Ga)が生成物として固体炭素Cと共に排出される。この場合、GaとCとは物理的にたとえば遠心分離法等によって分離可能である。従って、Gaは液体GaInのGaとして再利用できる。また、還元剤は不要であり、既存工学プロセスに統合し易く、スケールアップし易い。尚、上述の反応により液体金属収容容器101内の母材液体Gaは消失するので補充する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【非特許文献1】K.Zuraigi et al., Direct conversion of CO2 to solid carbon by Ga-based liquid metals, Energy Environ sci., 2022,15,595.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、図9に示す従来のCOガスから固体炭素を分離回収するための装置においては、固体炭素を分離回収できるが、液体GaInのGa、Inは共に非常に高価(特に、Gaは高価)であるので、装置のランニングコストが大きいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上述の課題を解決するために、本発明に係るCOガスから固体炭素又は炭化物を分離回収するための装置は、液体錫を収容するための液体金属収容容器と、液体金属収容容器を加熱するための容器加熱部と、液体金属収容容器にCOガスを供給するためのCOガス供給管と、COガス供給管を加熱するためのCOガス供給部加熱部と、液体金属収容容器の上部に設けられ、液体錫(Sn)とCOガスとが反応して生成された生成物を液体金属収容容器から排出するための生成物排出管とを具備するものである。
【0020】
また、本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための方法は、液体Snを加熱する段階と、加熱された液体Sn中に加熱したCOガスを吹き込む段階と、液体SnとCOガスとの反応によって生成された生成物を排出する段階とを具備するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、COガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収できると共に生成物は物理的に分離されて再利用できる。さらに、SnはGa、Inに比較して安価であるので、ランニングコストを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第1の実施の形態を示す概観図である。
図2】本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第2の実施の形態を示す概観図である。
図3】Al-Sn合金の融点を説明するためのAl-Sn合金の状態図である。
図4図4は液体SnAl中における酸化物の生成反応式の酸素原子1個当たりのギブス自由エネルギーを示すグラフである。
図5】本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第3の実施の形態を示す概観図である。
図6】本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第4の実施の形態を示す概観図である。
図7図2図5図6の装置の実験を示す図である。
図8図7の実験で得られた生成物の断面写真である。
図9】従来のCOガスから固体炭素を分離回収するための装置を示し、(A)は概観図、(B)は得られた生成物の断面写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第1の実施の形態を示す概観図である。
【0024】
図1において、ステンレス製の液体金属収容容器1は液体錫(Sn、融点232℃)を収容し、マントルヒータ1aによって500~700Kに加熱される。ステンレス製のCOガス供給管2は液体金属収容容器1の上方から下方に向って設けられ、COガスを吹き込む。この結果、液体錫中にCO気泡が発生する。尚、COガス供給管2は液体金属容器1の側方から内部に向かって設けてよい。COガス供給管2はリボンヒータ2aによって500~700Kに予め加熱される。液体金属収容容器1の上部に生成物を分離回収して排出するための生成物排出管3が設けられる。
【0025】
COガス供給管2は流量調整ユニット4を介してCOガスを供給する。また、液体金属収容容器1内の液体Snが少なくなった場合には、ステンレス製の液体錫(Sn)補充管5から予めリボンヒータ5aによって加熱された液体Snが補充される。流量調整ユニット4及び液体錫補充管5はコンピュータ等によって構成される制御ユニット6によって制御される。また、制御ユニット6は液体Sn中に設けられた熱電対(図示せず)の温度に基づいてマントルヒータ1aを制御し、COガス供給管2内に設けられた熱電対(図示せず)の温度に基づいてリボンヒータ2aを制御する。
【0026】
COガスから固体炭素の分離回収を液体Sn(融点232℃)によって行うことができる。すなわち、液体SnとCOガスとは次のごとく反応する。
Sn+CO→SnO+C
従って、固体炭素が分離回収されると共に、Sn自身も酸化されて酸化錫(SnO)が生成物として固体炭素Cと共に生成物排出管3から排出される。この場合、酸化錫(SnO)と固体炭素Cとは物理的に分離されており、従って、酸化錫(SnO)は遠心分離等によって固体炭素Cと分離されて液体Snとして再利用できる。但し、液体金属収容容器1内の液体錫は生成物として消失するので、随時、液体錫補充管5を介して補充される。
【0027】
このように、図1の装置においては、液体Snを加熱し、加熱した液体Snに加熱したCOガスを吹き込み、液体SnとCOガスとの反応によって生成された生成物を排出する。液体Snは随時補充される。生成物は錫酸化物及び固体炭素である。従って、図9の従来の装置に比較してSnの融点はGaInの融点より高いがSnはGa、Inに比較して安価なので、ランニングコストを大幅に低減できる。たとえば、Snの市場価格はGaの市場価格の1/200以下、Inの市場価格の1/20以下である。
【0028】
図2は本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第2の実施の形態を示す概観図である。
【0029】
図2においては、図1の構成要素に対して、液体錫補充管5を削除し、リボンヒータ7aによって加熱される添加物供給管7を付加してある。添加物供給管7は添加物としてアルミニウム(Al)を液体金属収容容器1内に添加して液体Snを液体錫アルミニウム(SnAl)に変換する。制御ユニット6は添加物供給管7内に設けられた熱電対(図示せず)の温度に基づいてリボンヒータ7aを制御する。
【0030】
後述のごとく、液体錫(Sn)は生成物として排出されず、従って、液体Snを補充する必要はない。この結果、ランニングコストをさらに低減できる。
【0031】
図3はAl-Sn合金の融点を説明するためのAl-Sn合金の状態図である。
【0032】
図3に示すように、97.8at%(99.95vol%)Sn、0.22at%(0.05vol%)Alの共晶点の融点は228℃であるのに対し、90at%(97.54vol%)Sn、10at%(2.46vol%)Alでの融点は380~390℃である。従って、Alが10at%未満であれば、錫アルミニウム合金(SnAl)の融点は230~400℃と比較的低いとみなせる。
【0033】
図4は液体AlSn中における酸化物の生成反応式の酸素原子1個当たりのギブス自由エネルギーを示すグラフである。尚、図4の縦軸の単位は酸素原子1個当たりの生成エネルギーkJ/atom Oである。
【0034】
図4に示すように、酸化物の生成反応式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)が存在する。
1/2C+1/2O→1/2CO+1/2ΔG°(CO) (1)
1/2CO+Sn→SnO+1/2C+ΔG°(SnO) (2)
1/2CO+1/2Sn→1/2SnO+1/2C+1/2ΔG°(SnO) (3)
1/2CO+2/3Al→1/3Al+1/2C+1/3ΔG°
(Al) (4)
1/4CO+1/2Al→1/4AlC+1/4C+1/4ΔG°
(AlC) (5)
温度500~700Kでは、
1/2ΔG°(CO)>ΔG°(SnO)>1/2ΔG°(SnO
>1/3ΔG°(Al)>1/4ΔG°(AlC)
であるので、生成反応式(5)が一番熱力学的に安定している。従って、生成物はアルミニウム酸化炭化物(アルミニウムオキシカーバイド)(AlC)及び固体炭素(C)よりなる。アルミニウムオキシカーバイド及び固体炭素は物理的にたとえば遠心分離法等によって分離される。
【0035】
Alの価格はGaの価格より安くAlの生産量はGaの約160倍であり、アルミニウムオキシカーバイド(AlC)は耐熱衝撃性、低熱膨張率、耐酸化性がよく、鉄鋼等の溶融金属の耐火物として期待され、転炉壁に使われるMgOに添加することにより保護膜(MgAl)を形成するのに用いられる。
【0036】
このように、図2の装置においては、液体アルミニウム錫を加熱し、加熱した液体アルミニウム錫に加熱したCOガスを吹き込み、液体錫アルミニウムとCOガスとの反応によって生成された生成物を排出する。この場合、母材液体錫は酸化されないので、補充する必要はない。アルミニウムのみを適宜添加する。生成物はアルミニウムオキシカーバイド及び固体炭素である。従って、図9の従来の装置に比較してSnAlの融点はGaInの融点より高いが、Sn、AlはGa、Inに比較して安価なので、ランニングコストを大幅に低減できる
【0037】
図5は本発明に係るCOガスから少なくとも固体炭素及び炭化物の1つを分離回収するための装置の第3の実施の形態を示す概観図である。
【0038】
図5においては、添加物供給管7は添加物としてアルミニウム(Al)及びシリコン(Si)を液体金属収容容器1内に添加して液体Snを液体錫アルミニウムシリコン(SnAlSi)に変換する。
【0039】
図5の液体SnAlSiとCOガスとの化学反応式は次のごとくである。
2CO+4Al+Si→AlC+SiC(ΔG=-1332 kJ、at300K)
3CO+4Al+3Si→2Al+3SiC(ΔG=-1946 kJ、at300K)
従って、アルミニウムオキシカーバイド(AlC)よりもアルミナ(Al)がシリコンカーバイド(SiC)と共に生成される。この場合も、アルミナ(Al)とシリコンカーバイド(SiC)とは遠心分離法等によって物理的に分離できる。
【0040】
このように、図5の装置においては、液体錫アルミニウムシリコンを加熱し、加熱した液体錫アルミニウムシリコンに加熱したCOガスを吹き込み、液体錫アルミニウムシリコンとCOガスとの反応によって生成された生成物を排出する。この場合も、母材液体Snは酸化されないので、補充する必要はない。アルミニウム、シリコンのみを適宜添加する。生成物はシリコンカーバイド及びアルミナである。従って、図9の従来の装置に比較してSnAlSiの融点はGaInの融点より高いが、Sn、Al、SiはGa、Inに比較して安価なので、ランニングコストを大幅に低減できる。
【0041】
Al、Siの価格はGaの価格より安く生産量も大きい。アルミナ(Al)については、純度99.5%が汎用的に使用される。また、高純度ほど機械的強度、耐食性に優れる。さらに、電気絶縁性を有するので、半導体基板等に用いられ、耐摩耗性を有するので、工業用炉材の摩耗部品、人工骨、軸受等に用いられ、高剛性を有するので、半導体・液晶パネルの製造装置などの精密部材等に用いられ、生体親和性を有するので、歯科用インプラントなどの医療用接合部品等に用いられる。他方、シリコンカーバイド(SiC)については、高硬度(高温でも)性、耐摩耗性、耐食性、液中での良好な摺動特性、高破壊電界強度を有するので、摺動部品(ケミカルポンプ軸受け、シャフト)、粉砕機(分級機)、耐熱部品(バーナーノズル)、耐摩耗部品(ブラストノズル)、パワー半導体等に用いられる。特に、半導体としての需要が増加傾向にあり、Siと比較し、10倍の破壊電界強度を有し、かつ同じ耐圧を1/10の厚みで実現できる。これにより、電子機器の小型化に役立つ。また、Siと比較して3倍の熱伝導率を有するので、放熱性がよく、冷却装置の小型化を図れる。
【0042】
図6は本発明に係るCOガスから固体炭素又は炭化物を分離回収するための装置の第4の実施の形態を示す概観図である。
【0043】
図6においては、添加物供給管7′は添加物としてアルミニウム(Al)及びチタン(Ti)を液体金属収容容器1内に添加して液体Snを液体錫アルミニウムチタン(SnAlTi)に変換する。
【0044】
図6の液体SnAlTiとCOガスとの化学反応式は次のごとくである。
2CO+4Al+Ti→AlC+TiC(ΔG=-1451 kJ、at300K)
3CO+4Al+3Ti→2Al+3TiC(ΔG-2304 kJ、at300K)
従って、アルミニウムオキシカーバイド(AlC)よりもアルミナ(Al)がチタンカーバイド(TiC)と共に生成される。この場合も、アルミナ(Al)とチタンカーバイド(TiC)とは遠心分離法等によって物理的に分離できる。
【0045】
このように、図6の装置においては、液体錫アルミニウムチタンを加熱し、加熱した液体アルミニウム錫チタンに加熱したCOガスを吹き込み、液体アルミニウム錫チタンとCOガスとの反応によって生成された生成物を排出する。この場合も、母材液体Snは酸化されないので、補充する必要はない。アルミニウム、チタンのみを適宜添加する。生成物はチタンカーバイド及びアルミナである。従って、図9の従来の装置に比較してSnAlTiの融点はGaInの融点より高いが、Sn、Al、TiはGa、Inに比較して安価なので、ランニングコストを大幅に低減できる
【0046】
Al、Tiの価格はGaの価格より安く生産量も大きい。アルミナ(Al)については、上述のごとくである。他方、チタンカーバイド(TiC)については、高硬度、高融点、耐摩耗性、導電性(温度にほぼ依存しない) 等を有するので、スパッタリングターゲット、切削工具、アーク溶接電極等に用いることができる。
【0047】
図7図2図5図6の装置の実験を説明する図である。
【0048】
始めに、図7の(A)を参照すると、アルミナ坩堝71を準備し、錫(Sn)及び添加物としてのアルミニウム(Al)又はアルミニウム(Al)及びシリコン(Si)あるいはチタン(Ti)をアルミナ坩堝71に入れる。
【0049】
次に、図7の(B)を参照すると、錫(Sn)、添加物(Al、Si、Ti)をすりつぶしながらホットプレート72によって300℃以上に加熱する。
【0050】
次に、図7の(C)を参照すると、液体Sn、液体SnAl、液体SnAlSi又は液体SnAlTiを得る。
【0051】
次に、図7の(D)を参照すると、液体Sn、液体SnAl、液体SnAlSi、液体SnAlTiを液体金属収容容器1に充填し、COガス供給管2が固定された蓋1’で液体金属収容容器1を塞ぐ。
【0052】
最後に、図7の(E)を参照すると、加熱したCOガスをCOガス供給管2を介して吹き込む。
【0053】
その後、液体SnAl、液体SnAlSi又は液体SnAlTiを固化させる。このようにして得られた固化したSnAl、SnAlSi又はSnAlTi上に図8の断面写真に示す生成物が形成された。つまり、生成物はSnAlTiと物理的に分離されている。
【0054】
尚、上述の実施の形態では、マントルヒータ1a、リボンヒータ5a、7a、7’aは他のタイプたとえばシースヒータ、ホットプレート又は太陽熱を利用するものになし得る。
【0055】
また、本発明は上述の実施の形態の自明の範囲のいかなる変更にも適用し得る。
【符号の説明】
【0056】
1、101:液体金属収容容器
1a:マントルヒータ
2:COガス供給管
2a:リボンヒータ
3:生成物排出管
4:流量調整ユニット
5:液体錫補充管
5a:リボンヒータ
6:制御ユニット
7、7’:添加物供給管
7a、7’a:リボンヒータ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9