(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178602
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】外接ギヤポンプ
(51)【国際特許分類】
F04C 2/18 20060101AFI20241218BHJP
F04C 15/06 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
F04C2/18 311C
F04C15/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096865
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001236
【氏名又は名称】株式会社小松製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮太
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢治
(72)【発明者】
【氏名】富岡 裕之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 邦彦
【テーマコード(参考)】
3H041
3H044
【Fターム(参考)】
3H041AA02
3H041BB02
3H041CC13
3H041CC19
3H041DD04
3H041DD13
3H041DD18
3H041DD38
3H044AA02
3H044BB02
3H044CC12
3H044CC18
3H044DD04
3H044DD13
3H044DD16
3H044DD28
(57)【要約】
【課題】エロージョンの発生を抑制する。
【解決手段】外接ギヤポンプは、駆動源により回転駆動される第1ギヤと、前記第1ギヤに噛み合い従動回転する第2ギヤと、前記第2ギヤに噛み合い従動回転する第3ギヤと、前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの一方の側面に面する第1内側面部を有するボディと、前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの他方の側面に面する第2内側面部を有するカバーと、を備え、前記ボディには、オイルが吸い込まれる吸込口と前記オイルが吐き出される吐出口とが形成され、前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤは、互いに噛み合い回転することによって前記オイルを前記吸込口から前記吐出口に向けて圧送するよう構成され、前記第1内側面部及び前記第2内側面部の少なくとも一方は、前記吸込口と前記吐出口とを隔てる隔壁部に、前記吐出口の端縁となる吐出端縁を有し、前記吐出端縁には、切欠溝が形成される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動源により回転駆動される第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛み合い従動回転する第2ギヤと、
前記第2ギヤに噛み合い従動回転する第3ギヤと、
前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの一方の側面に面する第1内側面部を有するボディと、
前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの他方の側面に面する第2内側面部を有するカバーと、を備え、
前記ボディには、オイルが吸い込まれる吸込口と前記オイルが吐き出される吐出口とが形成され、
前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤは、互いに噛み合い回転することによって前記オイルを前記吸込口から前記吐出口に向けて圧送するよう構成され、
前記第1内側面部及び前記第2内側面部の少なくとも一方は、前記吸込口と前記吐出口とを隔てる隔壁部に、前記吐出口の端縁となる吐出端縁を有し、
前記吐出端縁には、切欠溝が形成される、
外接ギヤポンプ。
【請求項2】
前記第2ギヤの回転軸に沿う軸方向から見て、前記切欠溝の少なくとも一部は、前記第2ギヤの歯底円よりも内周側に配置される、
請求項1に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項3】
前記軸方向から見て、前記切欠溝の外形の一部は、前記第2ギヤのピッチ円と重なる、
請求項2に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項4】
前記軸方向から見て、前記切欠溝の外形の一部は、前記軸方向に直交する径方向において前記歯底円と前記第2ギヤの軸受の外形との間の距離を2等分する2等分点と重なる、
請求項3に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項5】
前記軸方向から見て、前記第2ギヤの回転方向下流を向く前記第2ギヤの歯の第1面が前記吐出端縁と重なった際に、前記切欠溝の外形の一部は、前記第2ギヤの回転方向上流を向く前記歯の第2面と前記ピッチ円とが交わる交点と重なる、
請求項4に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項6】
前記軸方向から見て、前記切欠溝の外形は、前記ピッチ円、前記2等分点及び交点と重なる曲線形状を含む、
請求項5に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項7】
前記隔壁部は、前記吸込口の端縁となる吸込端縁を有し、
前記切欠溝の少なくとも一部は、前記隔壁部において前記吸込端縁と前記吐出端縁との間の部位から前記吐出端縁にわたって形成され、前記第2ギヤの回転に伴って開口面積が大きくなる、
請求項6に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項8】
前記軸方向から見て、前記切欠溝の少なくとも一部は、前記開口面積が変化する、
請求項7に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項9】
前記切欠溝を前記軸方向と平行な面で切断した断面視で、前記切欠溝の少なくとも一部は、前記開口面積が変化する、
請求項7又は8に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項10】
前記切欠溝は、前記第1内側面部及び前記第2内側面部のそれぞれに形成される、
請求項1から8の何れか一項に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項11】
前記第2ギヤの回転軸に沿う軸方向に延び、一端が前記ボディに固定され、他端が前記カバーに固定されたシャフトと、
前記第2ギヤの内周面と前記シャフトの外周面との間に配置され、油溝が形成された軸受と、を更に備え、
前記第2ギヤ、前記シャフト及び前記軸受は、前記油溝を通じて、前記カバーの側から前記ボディの側に向けて前記オイルを流すように構成される、
請求項1から8の何れか一項に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項12】
前記第2内側面部には、前記オイルが流れる内側溝が形成され、
前記切欠溝は、前記軸方向から見た高圧オイル押付面積が前記内側溝と略同じになるように前記第1内側面部に形成される、
請求項11に記載の外接ギヤポンプ。
【請求項13】
前記外接ギヤポンプは、エンジンに搭載される、
請求項1から8の何れか一項に記載の外接ギヤポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外接ギヤポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
外接ギヤポンプには、2つのポンプギヤが噛み合う2連式のオイルポンプと、3つのポンプギヤが噛み合う3連式のオイルポンプと、がある。特許文献1には、2連式の外接ギヤポンプが開示されている。特許文献1の外接ギヤポンプは、各ポンプギヤの両側面に配置されたサイドプレートを備える。サイドプレートには、各ポンプギヤの回転軸を結ぶ直線方向に延在する吸入側逃げ部及び吐出側逃げ部が傾斜面により形成される。特許文献1には、3連式の外接ギヤポンプは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
3連式の外接ギヤポンプでは、オイルを吸込口から吐出口まで圧送する区間で十分な長さを確保することが困難である。そのため、オイルを圧送する際、ギヤ開放時に歯溝内の圧力が急激に上昇する場合がある。この場合、オイルの流れの中で圧力差により短時間に泡の発生と消滅とが起きる、いわゆるキャビテーションが発生する可能性が高くなる。キャビテーションが発生すると、ギヤ室底部にエロージョン(機械的な摩耗)が発生する虞がある。そのため、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制する上で改善の余地がある。
【0005】
そこで本発明は、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる外接ギヤポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る外接ギヤポンプは、駆動源により回転駆動される第1ギヤと、前記第1ギヤに噛み合い従動回転する第2ギヤと、前記第2ギヤに噛み合い従動回転する第3ギヤと、前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの一方の側面に面する第1内側面部を有するボディと、前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの他方の側面に面する第2内側面部を有するカバーと、を備え、前記ボディには、オイルが吸い込まれる吸込口と前記オイルが吐き出される吐出口とが形成され、前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤは、互いに噛み合い回転することによって前記オイルを前記吸込口から前記吐出口に向けて圧送するよう構成され、前記第1内側面部及び前記第2内側面部の少なくとも一方は、前記吸込口と前記吐出口とを隔てる隔壁部に、前記吐出口の端縁となる吐出端縁を有し、前記吐出端縁には、切欠溝が形成される。
【発明の効果】
【0007】
上記態様によれば、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】実施形態に係る外接ギヤポンプの分解斜視図。
【
図3】実施形態に係る外接ギヤポンプを搭載したエンジンの斜視図。
【
図4】実施形態に係る外接ギヤポンプのオイル流れを説明する斜視図。
【
図5】実施形態に係る外接ギヤポンプの内部流路のオイル流れを説明する斜視図。
【
図6】実施形態に係る外接ギヤポンプのギヤ室のオイル流れを説明する図。
【
図7】実施形態に係る外接ギヤポンプの軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図。
【
図8】実施形態に係る第1ギヤの軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図。
【
図9】実施形態に係る第2ギヤの軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図。
【
図10】実施形態に係る第3ギヤの軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図。
【
図11】実施形態に係る外接ギヤポンプを各ポンプギヤの回転軸を含む面で切断した断面を含む図。
【
図12】実施形態に係るボディを軸方向内側から見た図。
【
図13】実施形態に係るカバーを軸方向内側から見た図。
【
図14】実施形態に係るボディに形成された切欠溝を示す図。
【
図15】実施形態に係るカバーに形成された内側溝を示す図。
【
図16】実施形態に係るボディに形成された切欠溝の外形を説明する図。
【
図17】実施形態に係る第2ギヤの回転に伴う高圧オイル押付面積の変動を説明する図。
【
図18】
図17に続く、高圧オイル押付面積の変動を説明する図。
【
図19】
図18に続く、高圧オイル押付面積の変動を説明する図。
【
図20】実施形態に係る外接ギヤポンプの作用説明図であって、
図15のXX-XX断面を含む図。
【
図21】実施形態に係る外接ギヤポンプの作用説明図であって、
図14のXXI-XXI断面を含む図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。実施形態においては、外接ギヤポンプとして、ディーゼルエンジン(エンジンの一例)に搭載された外接ギヤポンプを挙げて説明する。
【0010】
以下の説明において、例えば「平行」や「直交」、「中心」、「同軸」等の相対的又は絶対的な配置を示す表現は、厳密にそのような配置や状態を意味するのみならず、公差や同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している配置や状態をも含むものとする。以下の説明に用いる図面では、各部材を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更して示す場合がある。
【0011】
<外接ギヤポンプ>
図1は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1の斜視図である。
図2は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1の分解斜視図である。
図1及び
図2に示すように、外接ギヤポンプ1は、3つのポンプギヤ10,20,30が噛み合う3連式のオイルポンプである。3つのポンプギヤ10,20,30は、第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30で構成される。外接ギヤポンプ1は、駆動源により回転駆動される第1ギヤ10と、第1ギヤ10に噛み合い従動回転する第2ギヤ20と、第2ギヤ20に噛み合い従動回転する第3ギヤ30と、第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30の一方の側面に面する第1内側面部41を有するボディ40と、第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30の他方の側面に面する第2内側面部51を有するカバー50と、を備える。以下、ボディ40の第1内側面部41を「ギヤ室底面」、カバー50の第2内側面部51を「カバー取付面」ともいう。
【0012】
例えば、ポンプギヤ10,20,30は、鉛直線に沿って配置されてもよい。例えば、ポンプギヤ10,20,30は、鉛直上方から第1ギヤ10、第2ギヤ20、第3ギヤ30の順に配置されてもよい。例えば、ポンプギヤ10,20,30は、上記に限らず、水平線に沿って配置されてもよい。例えば、ドライブギヤである第1ギヤ10は、オイルポンプのサイド側に配置されることに限らず、センタ側に配置されてもよい。例えば、ポンプギヤ10,20,30の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0013】
例えば、ポンプギヤ10,20,30は、それぞれ同じ形状を有する。例えば、ポンプギヤ10,20,30は、上記に限らず、それぞれの少なくとも一部が互いに異なる形状を有してもよい。例えば、ポンプギヤ10,20,30の各々の形状は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0014】
図の例では、ポンプギヤ10,20,30の歯数は、8である。なお、ポンプギヤ10,20,30の歯数は、上記に限らず、7以下でもよいし、9以上でもよい。例えば、ポンプギヤ10,20,30の歯数は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0015】
<エンジン>
図3は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1を搭載したエンジン100の斜視図である。
図3を併せて参照し、外接ギヤポンプ1は、エンジン100のクランクケース101の下部に配置される。ポンプ駆動ギヤ103は、駆動源であるエンジン100のクランクシャフト102に連動して回転する。ポンプ駆動ギヤ103の回転力によって、互いに噛み合うポンプギヤ10,20,30が回転する。ポンプギヤ10,20,30の回転により、クランクケース101下部のオイルパン104からオイルがくみ上げられる。くみ上げられたオイルは、外接ギヤポンプ1の吸込口を通じて外接ギヤポンプ1の内部流路2へ吸い込まれる。
【0016】
このように、外接ギヤポンプ1は、各ポンプギヤ10,20,30の回転により噛み合い部の空間容積を変化させ、オイルパン104から外接ギヤポンプ1の内部流路2へオイルを吸い込む。吸い込まれたオイルは、ポンプギヤ10,20,30の回転により、外接ギヤポンプ1の吐出口へ圧送される。圧送されたオイルは、各摺動部(例えば、エンジン100のシリンダ105及びピストン106の摺動部など)へ送り出される。
【0017】
<オイルの流れ>
図4は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1のオイル流れを説明する斜視図である。
図5は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1の内部流路2のオイル流れを説明する斜視図である。
図6は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1のギヤ室のオイル流れを説明する図である。
図4から
図6を併せて参照し、ボディ40には、オイルが吸い込まれる吸込口3A,3Bとオイルが吐き出される吐出口4A,4Bとが形成される。第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30は、互いに噛み合い回転することによってオイルを吸込口3A,3Bから吐出口4A,4Bに向けて圧送するよう構成される。
【0018】
例えば、オイルパン104から吸込口3A,3Bを通じて吸い込まれたオイルは、分流して各ポンプギヤ10,20,30へ向けて流れる。例えば、分流したオイルの一部は、第1ギヤ10の
図6の矢印R1方向(時計回り)の回転により、吸込口3Aから吐出口4Aへ向けて
図6の矢印W1方向へ流れる。例えば、分流したオイルの一部は、第2ギヤ20の
図6の矢印R2方向(反時計回り)の回転により、吸込口3Bから吐出口4Aへ
図6の矢印W2方向へ流れるとともに、吸込口3Aから吐出口4Bへ
図6の矢印W3方向へ流れる。例えば、分流したオイルの一部は、第3ギヤ30の
図6の矢印R3方向(時計回り)の回転により、オイルは吸込口3Bから吐出口4Bへ図の矢印W4方向へ流れる。
【0019】
例えば、各吐出口4A,4Bへ圧送されたオイルは、合流して外接ギヤポンプ1の外部へ送り出される。例えば、送り出されたオイルは、各摺動部の潤滑又は冷却などに利用される。例えば、オイルの圧送により外接ギヤポンプ1の内部流路2の油圧が規定値に達した場合は、リリーフバルブ60が開くことにより、オイルは不図示のバイパス流路へ流される。
【0020】
<軸受潤滑オイル流れ>
図7は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1の軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図である。
図8は、実施形態に係る第1ギヤ10の軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図である。
図9は、実施形態に係る第2ギヤ20の軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図である。
図10は、実施形態に係る第3ギヤ30の軸受潤滑オイル流れを説明する斜視図である。
図11は、実施形態に係る外接ギヤポンプ1を各ポンプギヤ10,20,30の回転軸を含む面で切断した断面を含む図である。
軸受潤滑オイルは、ポンプギヤ10,20,30の回転による回転部の焼き付きを防ぐため、軸受を潤滑するために流れる。軸受潤滑オイルは、高圧側から低圧側へ流れる。軸受潤滑オイルは、吐出側(高圧側)の油溝から流入し、軸受の油溝を流れて吸込側(低圧側)の油溝へ流出する。
【0021】
図7から
図11を併せて参照し、外接ギヤポンプ1は、各ポンプギヤ10,20,30の回転軸に沿うシャフト11,21,31(第1シャフト11、第2シャフト21及び第3シャフト31)と、各シャフト11,21,31を支持し油溝が形成された軸受13,23,33(第1軸受13、第2軸受23及び第3軸受33)と、を更に備える。
【0022】
3つのシャフト11,21,31の中心軸は、互いに平行に配置される。例えば、シャフト11,21,31の中心軸は、同一の鉛直面上に配置されてもよい。例えば、シャフト11,21,31は、鉛直上方から第1シャフト11、第2シャフト21、第3シャフト31の順に配置されてもよい。例えば、シャフト11,21,31の中心軸は、上記に限らず、それぞれ異なる鉛直面上に配置されてもよい。例えば、シャフト11,21,31の中心軸は、水平面上に配置されてもよい。例えば、シャフト11,21,31の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0023】
第1シャフト11は、第1ギヤ10の回転軸に沿う軸方向に延びる。第1シャフト11の一端は、ポンプ駆動ギヤ103に固定される。第1シャフト11は、ポンプ駆動ギヤ103に固定される分、第2シャフト21及び第3シャフト31よりも軸方向に長い。
【0024】
第1軸受13は、ボディ40の貫通孔内周面と第1シャフト11の外周面との間、及び、カバー50の貫通孔内周面と第1シャフト11の外周面との間のそれぞれに配置される。ポンプ駆動ギヤ103の回転により、第1シャフト11及び第1ギヤ10が一体に回転する。第1ギヤ10、第1シャフト11及びボディ40側の第1軸受13は、油溝12を通じて、吐出口4A,4Bからボディ40の側に向けて矢印W11方向にオイルを流すように構成される。第1ギヤ10、第1シャフト11及びカバー50側の第1軸受13は、油溝12を通じて、カバー50の側から外接ギヤポンプ1の外部へ矢印W12方向にオイルを流すように構成される。
【0025】
第2シャフト21は、第2ギヤ20の回転軸に沿う軸方向に延びる。第2シャフト21の一端は、ボディ40に固定される。第2シャフト21の他端は、カバー50に固定される。第2軸受23は、第2ギヤ20の内周面と第2シャフト21の外周面との間に配置される。第2ギヤ20は、第1ギヤ10との噛み合いにより第2シャフト21を中心に従動回転する。第2ギヤ20、第2シャフト21及び第2軸受23は、油溝22を通じて、カバー50の側からボディ40の側に向けて矢印W13方向にオイルを流すように構成される。
【0026】
第3シャフト31は、第3ギヤ30の回転軸に沿う軸方向に延びる。第3シャフト31の一端は、ボディ40に固定される。第3シャフト31の他端は、カバー50に固定される。第3軸受33は、第3ギヤ30の内周面と第3シャフト31の外周面との間に配置される。第3ギヤ30は、第2ギヤ20との噛み合いにより第3シャフト31を中心に従動回転する。第3ギヤ30、第3シャフト31及び第3軸受33は、油溝32を通じて、ボディ40の側からカバー50の側に向けて矢印W14方向にオイルを流すように構成される。
【0027】
図の例では、各軸受13,23,33は、互いに同じ形状を有する。なお、軸受13,23,33の形状は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
図の例では、軸受13,23,33は、各シャフト11,21,31に2つずつ配置される。なお、軸受13,23,33の数は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
図の例では、油溝12,22,32は、それぞれ軸受13,23,33の内周面又は外周面に、軸方向に沿って螺旋状に形成される。なお、油溝12,22,32の形状は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0028】
<切欠溝>
図12は、実施形態に係るボディ40を軸方向内側から見た図である。
図13は、実施形態に係るカバー50を軸方向内側から見た図である。
図14は、実施形態に係るボディ40に形成された切欠溝45を示す図である。
図15は、実施形態に係るカバー50に形成された内側溝52を示す図である。
図16は、実施形態に係るボディ40に形成された切欠溝45の外形を説明する図である。
図12及び
図13中において矢印W11~W14は、ギヤ室底面又はカバー取付面におけるシャフト挿入部の油溝を流れる軸受潤滑オイルの流れ方向を示す。
図14においては、軸方向から見て第2ギヤ20と切欠溝45とが重なる領域をハッチで示している。
図15においては、軸方向から見て内側溝52の形成領域をハッチで示している。
図16においては、軸方向から見て切欠溝45の形成領域をハッチで示している。
図12から
図16を併せて参照し、第1内側面部41(ギヤ室底面)は、吸込口3A,3Bと吐出口4A,4Bとを隔てる隔壁部42を有する。
【0029】
隔壁部42は、軸方向から見て、一方の吸込口3Aと吐出口4Bとを隔てる部分と、他方の吸込口3Bと吐出口4Aとを隔てる部分とに形成される。隔壁部42は、軸方向から見て、第2ギヤ20の一部と重なる領域に形成される。隔壁部42は、軸方向から見て、第2シャフト21の挿入部を挟む2つの領域に形成される。隔壁部42は、吐出口4A,4Bの端縁となる吐出端縁44を有する。吐出端縁44は、軸方向から見て、第2シャフト21の中心軸と直交する方向に沿って延びている。吐出端縁44には、切欠溝45が形成される。
【0030】
図16を併せて参照し、第2ギヤ20の回転軸に沿う軸方向から見て、切欠溝45の一部は、第2ギヤ20の歯底円Dcよりも内周側に配置される。歯底円Dcは、軸方向から見て第2ギヤ20の歯の根元を通り、ピッチ円Pcと同心の円を意味する。ピッチ円Pcは、軸方向から見て第2ギヤ20の中心から第2ギヤ20が第1ギヤ10又は第3ギヤ30と接触する点までの距離を半径とする円を意味する。
【0031】
軸方向から見て、切欠溝45の外形の一部は、第2ギヤ20のピッチ円Pcと重なる。軸方向から見て、切欠溝45の外形の一部は、軸方向に直交する径方向において歯底円Dcと第2軸受23の外形との間の距離を2等分する2等分点Bpと重なる。
【0032】
図17は、実施形態に係る第2ギヤ20の回転に伴う高圧オイル押付面積の変動を説明する図である。
図18は、
図17に続く、高圧オイル押付面積の変動を説明する図である。
図19は、
図18に続く、高圧オイル押付面積の変動を説明する図。
図17は、軸方向から見て、第2ギヤ20の回転方向下流を向く第2ギヤ20の歯の第1面F1が吐出端縁44と重なった際の図に相当する。
図17から
図19を併せて参照し、軸方向から見て、第2ギヤ20の回転方向下流を向く第2ギヤ20の歯の第1面F1が吐出端縁44と重なった際に、切欠溝45の外形の一部は、第2ギヤ20の回転方向上流を向く第2ギヤ20の歯の第2面F2とピッチ円Pcとが交わる交点Ipと重なる。軸方向から見て、切欠溝45の外形は、ピッチ円Pc、2等分点Bp及び交点Ipと重なる曲線形状を含む。
【0033】
隔壁部42は、吸込口3A,3Bの端縁となる吸込端縁43を有する。切欠溝45の一部は、隔壁部42において吸込端縁43と吐出端縁44との間の部位から吐出端縁44にわたって形成される。切欠溝45の一部は、第2ギヤ20の回転に伴って開口面積が大きくなる。また、切欠溝45の一部は、第2ギヤ20の回転に伴って深さが深くなる。
【0034】
軸方向から見て、切欠溝45の一部は、開口面積が変化する。図の例では、軸方向から見て、切欠溝45の一部は、第2シャフト21の軸方向と直交する径方向において開口面積が変化するとともに、第2ギヤ20の回転方向(第2シャフト21の周りの周方向)において開口面積が変化する。なお、軸方向から見て切欠溝45の一部の開口面積が変化する態様は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0035】
切欠溝45を軸方向と平行な面で切断した断面視で、切欠溝45の一部は、開口面積が変化する。例えば、断面視で、切欠溝45の一部は、軸方向と直交する径方向において開口面積が変化してもよい。なお、断面視で切欠溝45の一部の開口面積が変化する態様は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0036】
<内側溝>
図15を併せて参照し、第2内側面部51(カバー取付面)には、オイルが流れる内側溝52が形成される。
図16を併せて参照し、切欠溝45は、軸方向から見た高圧オイル押付面積が内側溝52と略同じになるように第1内側面部41に形成される。
【0037】
図15の例では、内側溝52は、カバー取付面におけるシャフト挿入部の外周に沿う環状部分と、環状部分の一部から径方向に延びる延在部分と、で構成される。内側溝52の全部は、軸方向から見て歯底円Dcよりも内周側に配置される。そのため、内側溝52が形成されるカバー50側では、第2ギヤ20の回転に伴って高圧オイルに押し付けられる面積は変動しない。
【0038】
上述の通り、切欠溝45の一部は、軸方向から見て歯底円Dcよりも外周側に配置される。そのため、切欠溝45が形成されるボディ40側では、第2ギヤ20の回転に伴って高圧オイルに押し付けられる面積が変動する。
【0039】
<ポンプギヤの偏りについて>
例えば、軸受潤滑オイルは、吐出側(高圧側)の油溝から流入し、軸受の油溝を流れて吸込側(低圧側)の油溝へ流出する。その際、高圧のオイルがポンプギヤ10,20,30側面の隙間を流れるため、ポンプギヤ10,20,30を一方へ押し付けることとなる。これにより、ポンプギヤ10,20,30の偏り(軸方向のずれ)が発生する。
【0040】
第2ギヤ20、第2シャフト21及び第2軸受23は、油溝22を通じて、カバー50の側からボディ40の側に向けてオイルを流すように構成される。そのため、第2ギヤ20は、ボディ40側へ押し付けられ、ボディ40側へ偏る。
【0041】
すると、第2ギヤ20とボディ40との間の隙間が狭くなり、オイル吐出時に高圧のオイルが微小な隙間を高速で流れて低圧部(キャビテーション部)に解放されることになる。そのため、キャビテーション及びキャビテーションによるエロージョンが発生しやすくなる。
【0042】
本実施形態では、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制するために、ボディ40の側(第1内側面部41)に切欠溝45が形成される。例えば、カバー50側の高圧オイルによる第2ギヤ20の押し付け面積と同等になるように、ボディ40側に切欠溝45を形成する。これにより、第2ギヤ20の両側から同等の押し付け力を作用させ、第2ギヤ20をバランスさせることで、第2ギヤ20側面の隙間を確保することができる。例えば、第2ギヤ20の両側から同等の押し付け力を作用させ、第2ギヤ20両側面の隙間を確保するために、ボディ40及びカバー50の各々に形成される溝の容積は互いに同等にするとよい。
【0043】
以下、軸方向から見た切欠溝45の高圧オイル押付面積をA1、軸方向から見た内側溝52の高圧オイル押付面積をA2とする。例えば、高圧オイル押付面積の比A1/A2は、0.98以上1.02以下の範囲内に設定することが好ましい。これにより、軸方向の両側からバランスよく同等の力で第2ギヤ20を押すことができる。例えば、高圧オイル押付面積の比A1/A2は、上記に限らず、設計仕様に応じて変更することができる。
【0044】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の外接ギヤポンプ1は、駆動源により回転駆動される第1ギヤ10と、第1ギヤ10に噛み合い従動回転する第2ギヤ20と、第2ギヤ20に噛み合い従動回転する第3ギヤ30と、第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30の一方の側面に面する第1内側面部41を有するボディ40と、第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30の他方の側面に面する第2内側面部51を有するカバー50と、を備える。ボディ40には、オイルが吸い込まれる吸込口3A,3Bとオイルが吐き出される吐出口4A,4Bとが形成される。第1ギヤ10、第2ギヤ20及び第3ギヤ30は、互いに噛み合い回転することによってオイルを吸込口3A,3Bから吐出口4A,4Bに向けて圧送するよう構成される。第1内側面部41は、吸込口3A,3Bと吐出口4A,4Bとを隔てる隔壁部42に、吐出口4A,4Bの端縁となる吐出端縁44を有する。吐出端縁44には、切欠溝45が形成される。
例えば、3連式の外接ギヤポンプ1では、オイルを吸込口3A,3Bから吐出口4A,4Bまで圧送する区間で十分な長さを確保することが困難である。そのため、オイルを圧送する際、第2ギヤ20の開放時に歯溝内の圧力が急激に上昇する場合がある。この場合、キャビテーションが発生する可能性が高くなる。キャビテーションが発生すると、ギヤ室底面にエロージョンが発生する虞がある。これに対し本構成によれば、吸込口3A,3Bと吐出口4A,4Bとを隔てる隔壁部42の吐出端縁44に切欠溝45が形成されることで、第2ギヤ20の回転が進む過程で歯溝が吐出口4A,4Bと連通する前に歯溝が切欠溝45と連通する。そのため、圧送されたオイルが吐出口4A,4Bへ流れる際、オイルの流速低下によって、第2ギヤ20の歯溝内の急激な圧力上昇を抑制することができる。したがって、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【0045】
本実施形態では、第2ギヤ20の回転軸に沿う軸方向から見て、切欠溝45の一部は、第2ギヤ20の歯底円Dcよりも内周側に配置される。
例えば、軸方向から見て切欠溝45の全部が第2ギヤ20の歯底円Dcよりも外周側に配置される場合、第2ギヤ20の回転に伴い高圧オイル押付面積の変動が生じてしまう。これに対し、本構成によれば、軸方向から見て切欠溝45の一部が第2ギヤ20の歯底円Dcよりも内周側に配置されることで、高圧オイル押付面積の変動を抑えることができる。
【0046】
本実施形態では、軸方向から見て、切欠溝45の外形の一部は、第2ギヤ20のピッチ円Pcと重なる。
この構成によれば、切欠溝45の外形が必要以上に大きくなることを抑制することができる。
【0047】
本実施形態では、軸方向から見て、切欠溝45の外形の一部は、軸方向に直交する径方向において歯底円Dcと第2ギヤ20の軸受の外形との間の距離を2等分する2等分点Bpと重なる。
この構成によれば、高圧オイル押付面積の変動を抑えつつ、切欠溝45の外形が必要以上に大きくなることを抑制することができる。
【0048】
本実施形態では、軸方向から見て、第2ギヤ20の回転方向下流を向く第2ギヤ20の歯の第1面F1が吐出端縁44と重なった際に、切欠溝45の外形の一部は、第2ギヤ20の回転方向上流を向く第2ギヤ20の歯の第2面F2とピッチ円Pcとが交わる交点Ipと重なる。
この構成によれば、切欠溝45の外形が必要以上に大きくなることを抑制することができる。
【0049】
本実施形態では、軸方向から見て、切欠溝45の外形は、ピッチ円Pc、2等分点Bp及び交点Ipと重なる曲線形状を含む。
この構成によれば、軸方向から見て切欠溝45の外形がピッチ円Pc、2等分点Bp及び交点Ipと重なる直線形状を含む場合と比較して、切欠溝45内にオイルを円滑に流すことができる。
【0050】
本実施形態では、隔壁部42は、吸込口3A,3Bの端縁となる吸込端縁43を有する。切欠溝45の一部は、隔壁部42において吸込端縁43と吐出端縁44との間の部位から吐出端縁44にわたって形成される。切欠溝45の一部は、第2ギヤ20の回転に伴って開口面積が大きくなる。
この構成によれば、切欠溝45の全部が隔壁部42において吸込端縁43と吐出端縁44との間の部位から吐出端縁44にわたって開口面積が一定である場合と比較して、圧送されたオイルが吐出口4A,4Bへ流れる際、オイルの流速低下がより緩やかになる。そのため、第2ギヤ20の歯溝内の急激な圧力上昇をより効果的に抑制することができる。したがって、キャビテーションによるエロージョンの発生をより効果的に抑制することができる。
【0051】
本実施形態では、軸方向から見て、切欠溝45の一部は、開口面積が変化する。
この構成によれば、切欠溝45の開口面積を最適化する上で設計自由度が向上する。
【0052】
本実施形態では、切欠溝45を軸方向と平行な面で切断した断面視で、切欠溝45の一部は、開口面積が変化する。
この構成によれば、切欠溝45の開口面積を最適化する上で設計自由度が向上する。
【0053】
本実施形態では、外接ギヤポンプ1は、第2ギヤ20の回転軸に沿う軸方向に延び、一端がボディ40に固定され、他端がカバー50に固定された第2シャフト21と、第2ギヤ20の内周面と第2シャフト21の外周面との間に配置され、油溝22が形成された第2軸受23と、を更に備える。第2ギヤ20、第2シャフト21及び第2軸受23は、油溝22を通じて、カバー50の側からボディ40の側に向けてオイルを流すように構成される。
例えば、高圧のオイルが第2ギヤ20をカバー50の側からボディ40の側へ押し付けることになると、軸方向において第2ギヤ20がボディ40の側へ偏る。すると、第2ギヤ20とボディ40との間の隙間が狭くなり、オイル吐出時に高圧のオイルが微小な隙間を高速で流れて低圧部(キャビテーション部)に解放されることになる。そのため、キャビテーションによるエロージョンが発生しやすくなる。本実施形態では、上述の通りボディ40の側(第1内側面部41)に切欠溝45が形成されることで、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制する実益が大きい。
【0054】
本実施形態では、第2内側面部51には、オイルが流れる内側溝52が形成される。切欠溝45は、軸方向から見た高圧オイル押付面積が内側溝52と略同じになるように第1内側面部41に形成される。
この構成によれば、軸方向の両側からバランスよく同等の力で第2ギヤ20を押すことができる。そのため、第2ギヤ20の両側面と第1内側面部41及び第2内側面部51のそれぞれとの間に隙間を確保することができる。したがって、キャビテーションによるエロージョンの発生をより効果的に抑制することができる。
【0055】
本実施形態の外接ギヤポンプ1は、ディーゼルエンジン100に搭載される。
この構成によれば、ディーゼルエンジン100に搭載された外接ギヤポンプ1において、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【0056】
従来、ディーゼルエンジン用オイルポンプは、エンジンのクランクシャフトに連動してポンプ駆動ギヤが回転し、その回転力によって互いに噛み合うポンプギヤが回転駆動する外接ギヤポンプが主に用いられている。外接ギヤポンプにおいては、ポンプギヤの回転により吸込口から歯溝内にオイルを導入し、ポンプギヤを回転させてオイルを吐出口まで圧送する。オイルは、ポンプギヤの歯溝内の圧力が吸入圧から吐出圧に変化されて送出される。また、ポンプ効率低下防止のため、互いに噛み合うポンプギヤの両側面とギヤ室底面及びカバー取付面との間は、極めて小さい隙間で構成されている。
【0057】
しかしながら、従来の外接ギヤポンプでは、互いに噛み合うポンプギヤの回転により吸込口から歯溝内に導入されたオイルを加圧して吐出口へ送出する際に、吐出側の高圧のオイルがポンプギヤの両側面とギヤ室底面及びカバー取付面との間を通って低圧となっている吸込口側へと流入する現象が発生しやすい。また、ポンプギヤの軸受部潤滑のため、外接ギヤポンプ内のオイルを潤滑させていることから、オイルの流れる方向によってポンプギヤが片側へ偏り、ポンプギヤ側面の隙間が小さくなりやすい。そのため、ポンプギヤの両側面とギヤ室底面及びカバー取付面との間が極めて小さくなりやすい。これにより、隙間を流れるオイルが高流速となり(低圧箇所が発生し)、キャビテーションが発生しやすくなる。また、ポンプギヤの回転により吸込口から吐出口までオイルが圧送され、吐出口へ送出される際、吐出側の高圧オイルがポンプギヤの歯溝内に侵入しやすい。特に、3連式の外接ギヤポンプでは、吸込口から吐出口までの圧送区間において十分な長さを確保できないことから、第2ギヤの歯溝内の圧力が急激に上昇し、キャビテーションによるエロージョンが発生しやすくなる。
【0058】
これに対し本実施形態の外接ギヤポンプ1では、吸込口3A,3Bと吐出口4A,4Bとを隔てる隔壁部42の吐出端縁44に切欠溝45が形成されることで、ポンプ効率の低下を回避しつつ、第2ギヤ20側面と第1内側面部41(ギヤ室底面)及び第2内側面部51(カバー取付面)との隙間部におけるキャビテーションの発生を抑制することができる。加えて、圧送されたオイルが吐出口4A,4Bへ送出される際に発生する第2ギヤ20の歯溝内の急激な圧力上昇によるキャビテーションの発生を抑制するとともに、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【0059】
具体的に、
図16から
図19を併せて参照し、吐出口4A,4Bと連通している切欠溝45に高圧オイルが導入されることによって、歯底円Dcの内周側の第2ギヤ20側面が高圧オイルで満たされる。高圧オイルは、軸方向の一方に偏っている第2ギヤ20を押し返すことで、第2ギヤ20両側面とギヤ室底面及びカバー取付面との隙間を大きく確保することできる。そのため、上記隙間を流れる高圧オイルの流速を小さく保持でき、低圧側への開放時における高圧オイルの流速低下によってオイルの圧力降下が鈍くなる。これにより、第2ギヤ20側面との隙間で発生するキャビテーションを抑制することができる。
【0060】
また、吸込口3A,3Bから第2ギヤ20の歯溝内に導入されたオイルは、ポンプギヤ10,20,30の回転に伴い吐出口4A,4Bへ移動する。第2ギヤ20の歯溝内の圧力が吸込圧から吐出圧へ移行する過程において、切欠溝45は高圧側の吐出口4A,4Bと連通されている。そのため、
図17に示すように、第2ギヤ20の歯溝部が切欠溝45に達すると、歯溝内の圧力は徐々に上昇する。第2ギヤ20の歯溝部が切欠溝45に達した初期段階では、切欠溝45の大部分が第2ギヤ20で覆われている。そのため、第2ギヤ20の歯溝内の圧力は徐々に上昇する。すなわち、切欠溝45と通じた第2ギヤ20の歯溝内の圧力は緩やかに上昇する。
【0061】
図18及び
図19に示すように、ポンプギヤ10,20,30の回転が進むことで、第2ギヤ20の歯溝部に解放される切欠溝45が拡大し、さらに圧力が上昇して吐出圧に近づく。これにより、圧送されたオイルが吐出口4A,4Bへ送出される際に発生する第2ギヤ20の歯溝内の急激な圧力上昇が抑制される。したがって、キャビテーションの発生及びキャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【0062】
また、本実施形態では、切欠溝45の一部は、隔壁部42において吸込端縁43と吐出端縁44との間の部位から吐出端縁44にわたって形成されている。そのため、第2ギヤ20側面とギヤ室底面及びカバー取付面との隙間は、吸込口3A,3Bと連通されていない。そのため、切欠溝45の形成によるポンプ効率の低下を回避することができる。
【0063】
したがって、本実施形態によれば、ポンプ効率の低下を回避しつつ、第2ギヤ20側面とギヤ室底面及びカバー取付面との隙間部におけるキャビテーションの発生を抑制することができる。加えて、圧送されたオイルが吐出口4A,4Bへ送出される際に発生する第2ギヤ20の歯溝内の急激な圧力上昇によるキャビテーションの発生を抑制するとともに、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【0064】
<変形例>
上述した実施形態では、軸方向から見て、切欠溝の一部は、第2ギヤの歯底円よりも内周側に配置される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、軸方向から見て切欠溝の全部が第2ギヤの歯底円よりも外周側に配置されてもよい。例えば、軸方向から見て、切欠溝の少なくとも一部は、第2ギヤの歯底円よりも内周側に配置されてもよい。例えば、第2ギヤの歯底円に対する切欠溝の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0065】
上述した実施形態では、軸方向から見て、切欠溝の外形の一部は、第2ギヤのピッチ円と重なる例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、軸方向から見て、切欠溝の外形の一部は、第2ギヤのピッチ円と重ならなくてもよい。例えば、第2ギヤのピッチ円に対する切欠溝の外形の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0066】
上述した実施形態では、軸方向から見て、切欠溝の外形の一部は、軸方向に直交する径方向において歯底円と第2ギヤの軸受の外形との間の距離を2等分する2等分点と重なる例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、軸方向から見て、切欠溝の外形の一部は、2等分点と重ならなくてもよい。例えば、2等分点に対する切欠溝の外形の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0067】
上述した実施形態では、軸方向から見て、第2ギヤの回転方向下流を向く第2ギヤの歯の第1面が吐出端縁と重なった際に、切欠溝の外形の一部は、第2ギヤの回転方向上流を向く第2ギヤの歯の第2面とピッチ円とが交わる交点と重なる例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、軸方向から見て、第2ギヤの回転方向下流を向く第2ギヤの歯の第1面が吐出端縁と重なった際に、切欠溝の外形の一部は、交点と重ならなくてもよい。例えば、交点に対する切欠溝の外形の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0068】
上述した実施形態では、軸方向から見て、切欠溝の外形は、ピッチ円、2等分点及び交点と重なる曲線形状を含む例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、軸方向から見て切欠溝の外形がピッチ円、2等分点及び交点と重なる直線形状を含んでもよい。例えば、ピッチ円、2等分点及び交点に対する切欠溝の外形の配置態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0069】
上述した実施形態では、隔壁部は、吸込口の端縁となる吸込端縁を有し、切欠溝の一部は、隔壁部において吸込端縁と吐出端縁との間の部位から吐出端縁にわたって形成され、第2ギヤの回転に伴って開口面積が大きくなる例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、切欠溝の全部が隔壁部において吸込端縁と吐出端縁との間の部位から吐出端縁にわたって開口面積が一定であってもよい。例えば、切欠溝の少なくとも一部は、隔壁部において吸込端縁と吐出端縁との間の部位から吐出端縁にわたって形成され、第2ギヤの回転に伴って開口面積が大きくなってもよい。例えば、第2ギヤの回転に伴う切欠溝の開口面積の大きさは、設計仕様に応じて変更することができる。
【0070】
上述した実施形態では、軸方向から見て、切欠溝の一部は、開口面積が変化する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、軸方向から見て、切欠溝の全部は、開口面積が変化しなくてもよい。例えば、軸方向から見て、切欠溝の少なくとも一部は、開口面積が変化してもよい。例えば、軸方向から見て切欠溝の開口面積が変化する態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0071】
上述した実施形態では、切欠溝を軸方向と平行な面で切断した断面視で、切欠溝の一部は、開口面積が変化する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、断面視で、切欠溝の全部は、開口面積が変化しなくてもよい。例えば、断面視で、切欠溝の少なくとも一部は、開口面積が変化してもよい。例えば、断面視で切欠溝の開口面積が変化する態様は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0072】
上述した実施形態では、切欠溝は、第1内側面部に形成され、第2内側面部には形成されない例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、切欠溝は、第1内側面部及び第2内側面部のそれぞれに形成されてもよい。この構成によれば、ボディ及びカバーの各内側面部において、キャビテーションによるエロージョンの発生を抑制することができる。
【0073】
上述した実施形態では、外接ギヤポンプは、第2ギヤの回転軸に沿う軸方向に延び、一端がボディに固定され、他端がカバーに固定されたシャフトと、第2ギヤの内周面とシャフトの外周面との間に配置され、油溝が形成された軸受と、を更に備え、第2ギヤ、シャフト及び軸受は、油溝を通じて、カバーの側からボディの側に向けてオイルを流すように構成される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、第2ギヤ、シャフト及び軸受は、油溝を通じて、ボディの側からカバーの側に向けてオイルを流すように構成されてもよい。例えば、油溝を通じたオイルの流れ方向は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0074】
上述した実施形態では、第2内側面部には、オイルが流れる内側溝が形成され、切欠溝は、軸方向から見た高圧オイル押付面積が内側溝と略同じになるように第1内側面部に形成される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、切欠溝は、軸方向から見た高圧オイル押付面積が内側溝と異なるように第1内側面部に形成されてもよい。例えば、軸方向から見た切欠溝及び内側溝の高圧オイル押付面積の関係は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0075】
上述した実施形態では、外接ギヤポンプは、ディーゼルエンジンに搭載される例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、外接ギヤポンプは、ディーゼルエンジン以外のエンジンに搭載されてもよい。例えば、外接ギヤポンプは、エンジン以外の他の動力源に搭載されてもよい。例えば、外接ギヤポンプが搭載される対象は、設計仕様に応じて変更することができる。
【0076】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれらに限定されることはなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、構成の付加、省略、置換、およびその他の変更が可能であり、上述した実施形態を適宜組み合わせることも可能である。
【0077】
(付記1)
駆動源により回転駆動される第1ギヤと、
前記第1ギヤに噛み合い従動回転する第2ギヤと、
前記第2ギヤに噛み合い従動回転する第3ギヤと、
前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの一方の側面に面する第1内側面部を有するボディと、
前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤの他方の側面に面する第2内側面部を有するカバーと、を備え、
前記ボディには、オイルが吸い込まれる吸込口と前記オイルが吐き出される吐出口とが形成され、
前記第1ギヤ、前記第2ギヤ及び前記第3ギヤは、互いに噛み合い回転することによって前記オイルを前記吸込口から前記吐出口に向けて圧送するよう構成され、
前記第1内側面部及び前記第2内側面部の少なくとも一方は、前記吸込口と前記吐出口とを隔てる隔壁部に、前記吐出口の端縁となる吐出端縁を有し、
前記吐出端縁には、切欠溝が形成される、
外接ギヤポンプ。
【0078】
(付記2)
前記第2ギヤの回転軸に沿う軸方向から見て、前記切欠溝の少なくとも一部は、前記第2ギヤの歯底円よりも内周側に配置される、
付記1に記載の外接ギヤポンプ。
【0079】
(付記3)
前記軸方向から見て、前記切欠溝の外形の一部は、前記第2ギヤのピッチ円と重なる、
付記2に記載の外接ギヤポンプ。
【0080】
(付記4)
前記軸方向から見て、前記切欠溝の外形の一部は、前記軸方向に直交する径方向において前記歯底円と前記第2ギヤの軸受の外形との間の距離を2等分する2等分点と重なる、
付記3に記載の外接ギヤポンプ。
【0081】
(付記5)
前記軸方向から見て、前記第2ギヤの回転方向下流を向く前記第2ギヤの歯の第1面が前記吐出端縁と重なった際に、前記切欠溝の外形の一部は、前記第2ギヤの回転方向上流を向く前記歯の第2面と前記ピッチ円とが交わる交点と重なる、
付記4に記載の外接ギヤポンプ。
【0082】
(付記6)
前記軸方向から見て、前記切欠溝の外形は、前記ピッチ円、前記2等分点及び交点と重なる曲線形状を含む、
付記5に記載の外接ギヤポンプ。
【0083】
(付記7)
前記隔壁部は、前記吸込口の端縁となる吸込端縁を有し、
前記切欠溝の少なくとも一部は、前記隔壁部において前記吸込端縁と前記吐出端縁との間の部位から前記吐出端縁にわたって形成され、前記第2ギヤの回転に伴って開口面積が大きくなる、
付記6に記載の外接ギヤポンプ。
【0084】
(付記8)
前記軸方向から見て、前記切欠溝の少なくとも一部は、前記開口面積が変化する、
付記7に記載の外接ギヤポンプ。
【0085】
(付記9)
前記切欠溝を前記軸方向と平行な面で切断した断面視で、前記切欠溝の少なくとも一部は、前記開口面積が変化する、
付記7又は8に記載の外接ギヤポンプ。
【0086】
(付記10)
前記切欠溝は、前記第1内側面部及び前記第2内側面部のそれぞれに形成される、
付記1から9の何れかに記載の外接ギヤポンプ。
【0087】
(付記11)
前記第2ギヤの回転軸に沿う軸方向に延び、一端が前記ボディに固定され、他端が前記カバーに固定されたシャフトと、
前記第2ギヤの内周面と前記シャフトの外周面との間に配置され、油溝が形成された軸受と、を更に備え、
前記第2ギヤ、前記シャフト及び前記軸受は、前記油溝を通じて、前記カバーの側から前記ボディの側に向けて前記オイルを流すように構成される、
付記1から10の何れかに記載の外接ギヤポンプ。
【0088】
(付記12)
前記第2内側面部には、前記オイルが流れる内側溝が形成され、
前記切欠溝は、前記軸方向から見た高圧オイル押付面積が前記内側溝と略同じになるように前記第1内側面部に形成される、
付記11に記載の外接ギヤポンプ。
【0089】
(付記13)
前記外接ギヤポンプは、エンジンに搭載される、
付記1から12の何れかに記載の外接ギヤポンプ。
【符号の説明】
【0090】
1…外接ギヤポンプ、3A,3B…吸込口、4A,4B…吐出口、10…第1ギヤ、20…第2ギヤ、21…第2シャフト(第2ギヤのシャフト)、22…油溝(第2軸受の油溝)、23…第2軸受(第2ギヤの軸受)、30…第3ギヤ、40…ボディ、41…第1内側面部、42…隔壁部、43…吸込端縁、44…吐出端縁、45…切欠溝、50…カバー、51…第2内側面部、52…内側溝、100…エンジン(駆動源)、A1…切欠溝の高圧オイル押付面積、A2…内側溝の高圧オイル押付面積、Bp…2等分点、Dc…歯底円、F1…歯の第1面、F2…歯の第2面、Ip…交点、Pc…ピッチ円