(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178623
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】アルカリセルロース材料、ビスコース及びビスコースの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 16/00 20060101AFI20241218BHJP
C08B 1/08 20060101ALI20241218BHJP
C08B 9/00 20060101ALI20241218BHJP
D01F 2/06 20060101ALI20241218BHJP
D01F 2/18 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C08B16/00
C08B1/08
C08B9/00
D01F2/06 Z
D01F2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096900
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】佐孝 幸一
(72)【発明者】
【氏名】築田 憲明
(72)【発明者】
【氏名】石川 竣平
【テーマコード(参考)】
4C090
4L035
【Fターム(参考)】
4C090AA05
4C090BA24
4C090BB11
4C090BB33
4C090BB52
4C090BB54
4C090BB63
4C090CA40
4C090DA28
4C090DA31
4L035AA04
4L035AA06
4L035BB03
(57)【要約】
【課題】原料として再生セルロースを用いて、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに適した物性のビスコースを得ることができる、アルカリセルロース材料を提供すること。
【解決手段】二硫化炭素で硫化することでビスコースを製造するための中間材料として使用する、再生セルロース、アルカリ及び水を含むアルカリセルロース材料であって、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有する、アルカリセルロース材料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
二硫化炭素で硫化することでビスコースを製造するために使用する、再生セルロース、アルカリ及び水を含むアルカリセルロース材料であって、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有する、アルカリセルロース材料。
【請求項2】
セルロース成分は天然セルロースを含まない、請求項1に記載のアルカリセルロース材料。
【請求項3】
セルロース成分は再生セルロースから成る、請求項1に記載のアルカリセルロース材料。
【請求項4】
前記ビスコースは5質量%以上のセルロース濃度を有する、請求項1に記載のアルカリセルロース材料。
【請求項5】
前記ビスコースは6,000以下の目詰まり度を有する、請求項1に記載のアルカリセルロース材料。
【請求項6】
請求項1に記載のアルカリセルロース材料と、再生セルロース以外のセルロース材料から製造された同じ用途のアルカリセルロース材料とを含む、混合アルカリセルロース材料。
【請求項7】
再生セルロース、アルカリ及び水を含み、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有するアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物。
【請求項8】
請求項7に記載のアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物と、再生セルロース以外のセルロース材料から製造された同じ用途のアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物とを含む、混合された、アルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物。
【請求項9】
再生セルロース、アルカリ及び水を含み、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有するアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物を含む、ビスコース。
【請求項10】
請求項9に記載のビスコースと、再生セルロース以外のセルロース材料から製造されたビスコースとを含む、混合ビスコース。
【請求項11】
再生セルロース、アルカリ及び水を含み、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有するアルカリセルロース材料を、二硫化炭素で硫化することを含む、ビスコースの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスコースを製造するための中間材料であるアルカリセルロース材料に関し、特に、原料として再生セルロースを用いるアルカリセルロース材料に関する。
【背景技術】
【0002】
セロファン、レーヨン及びビーズ等のセルロース製品を製造する際には端材及び規格外品などの副産物が発生する。一方、セルロースは熱可塑性を有さず、汎用の溶媒に溶解しないために、原料としてセルロース製品を使用し、ビスコース等のセルロース溶液を調製して再利用するには、煩雑な作業工程及び高いコストが必要になる。
【0003】
通常、ビスコースは、まず原料の溶解パルプシートを粗粉砕しながら多量のアルカリ水溶液に浸漬してアルカリセルロースとし(マーセル化)、圧搾して余分なアルカリ水溶液を除去後に粉砕し、二硫化炭素と反応させてセルロースザンテートに変換して(硫化)、これをアルカリ水溶液に溶解することで調製される。
【0004】
非特許文献1には、木材パルプを原料に、アルカリ水溶液の使用量を削減する目的で圧搾を省略するため、少量の濃厚苛性ソーダ溶液を均一に噴霧してビスコースを製造する方法(無圧搾法)が記載されている。
【0005】
特許文献1には、再生利用人工セルロース系原材料を原料に、アルカリ水溶液に浸漬し、続けて圧搾する工程により、硫化及び溶解を行うアルカリセルロースを調製することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】万木正、「第1報 無壓搾ヴィスコースの製造實験」、繊維学会誌、2巻2号、79~81頁、1946年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、非特許文献1の方法で製造されたビスコースは、未反応繊維が多く残存しており、分散溶解状態に劣るという問題がある。
【0009】
また、特許文献1のアルカリセルロースは、硫化及び溶解した場合に、セルロースの溶解性が低いために、未溶解分を多く含むビスコースが生成する。そうしたビスコースでは濾過性が悪化する上に、強度物性の低い成形体しか得られず、実用性に劣るという問題がある。
【0010】
本発明は前記課題を解決するものであり、その目的とするところは、原料として再生セルロースを用いて、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに適した物性のビスコースを得ることができる、アルカリセルロース材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は以下の態様を提供する。
[態様1]二硫化炭素で硫化することでビスコースを製造するために使用する、再生セルロース、アルカリ及び水を含むアルカリセルロース材料であって、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有する、アルカリセルロース材料。
【0012】
[態様2]セルロース成分は天然セルロースを含まない、態様1のアルカリセルロース材料。
【0013】
[態様3]セルロース成分は再生セルロースから成る、態様1または2のアルカリセルロース材料。
【0014】
[態様4]前記ビスコースは5質量%以上のセルロース濃度を有する、態様1~3のいずれかのアルカリセルロース材料。
【0015】
[態様5]前記ビスコースは6,000以下の目詰まり度を有する、態様1~4のいずれかのアルカリセルロース材料。
【0016】
[態様6]態様1~5のいずれかのアルカリセルロース材料と、再生セルロース以外のセルロース材料から製造された同じ用途のアルカリセルロース材料とを含む、混合アルカリセルロース材料。
【0017】
[態様7]再生セルロース、アルカリ及び水を含み、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有するアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物。
【0018】
[態様8]態様7のアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物と、再生セルロース以外のセルロース材料から製造された同じ用途のアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物とを含む、混合された、アルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物。
【0019】
[態様9]再生セルロース、アルカリ及び水を含み、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有するアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物を含む、ビスコース。
【0020】
[態様10]態様9のビスコースと、再生セルロース以外のセルロース材料から製造されたビスコースとを含む、混合ビスコース。
【0021】
[態様11]再生セルロース、アルカリ及び水を含み、27~40質量%のセルロース濃度及び8~20質量%のアルカリ濃度を有するアルカリセルロース材料を、二硫化炭素で硫化することを含む、ビスコースの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、原料として再生セルロースを用いて、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに適した物性のビスコースを得ることができる、アルカリセルロース材料が提供される。本発明によれば、このアルカリセルロース材料を中間材料として使用した、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに適した物性のビスコースが提供される。また、本発明によれば、原料として再生セルロースを用いて、各種セルロース成形物の成形原料として使用するのに適した物性のビスコースの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】目詰まり度を計算するためのビスコースの特性値がプロットされたグラフの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明するが、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更ができる。また、特定のパラメータについて、複数の上限値及び下限値が記載されている場合、これらの上限値及び下限値の内、任意の上限値と下限値とを組合せて好適な数値範囲とすることができる。
【0025】
<再生セルロース>
原料として使用する再生セルロースは、主に天然セルロースを従来公知のビスコース法や銅アンモニア法により液化した後に、所定の形状に凝固して成形したセルロースをいう。再生セルロースには、セルロース成形物、セルロース成形物を裁断等して製造されたセルロース製品、セルロース成形物を製造する際の副産物等が含まれる。それらは、反応効率を向上させるため、粉砕されていてもよい。再生セルロースの具体例としては、セロファン、レーヨン及びビーズ等のセルロース成形物を製品化する際に発生する端材、規格外品、不良品、及びセルロース製品の廃棄物等が挙げられる。さらに、天然セルロースの代わりに、再生セルロースを原料として再利用することもできる。
【0026】
<天然セルロース>
ビスコースの原料に用いられる天然セルロースとしては、特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等のバイオマスを原料とするパルプが挙げられる。また、その製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。パルプの品位としては、製紙用パルプの他に、人造繊維、セロファンなどの主原料となる、精製度合いの高い溶解パルプが好ましい。
【0027】
<アルカリセルロース材料>
再生セルロースは、アルカリ水溶液に接触させて反応させ、これに含まれるセルロースをアルカリセルロースに変換する。この工程は、一般にマーセル化と呼ばれる。再生セルロース、アルカリ及び水を含む、マーセル化後の混合物を、アルカリセルロース材料という。アルカリセルロース材料の性状は、溶液、不溶物を含む分散物、又は固形物であってよい。マーセル化によってセルロースは膨潤し、アルカリセルロースを硫化する際の反応効率が向上する。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム等の強アルカリ化合物を使用することができる。
【0028】
マーセル化工程は、一般に、セルロース材料を多量のアルカリ水溶液に浸漬して行われ、続けて圧搾することで過剰なアルカリ水溶液が除去される。これに対し、本発明では、予め再生セルロースの硫化及び溶解に必要な最低限の量の濃厚アルカリ水溶液を、再生セルロースに添加してマーセル化を行う。再生セルロースの状態によっては、均一に添加するために噴霧などの手段を用いても良い。アルカリ水溶液を過剰に添加しないため、圧搾等の脱水行程は不要であり、行わない。
【0029】
再生セルロースは、アルカリ水溶液に浸漬した場合に、水分を多く吸着して強く膨潤する。そのため、圧搾等の通常行われる脱水手段では、セルロース濃度を適切な水準に上昇させることが困難である。
【0030】
アルカリ水溶液の添加量は、原料として用いる再生セルロースの水分に応じて調節されるが、再生セルロース及びアルカリ水溶液を混合した混合物中のアルカリ濃度として8~20質量%、好ましくは9~18質量%、より好ましくは10~16質量%となるように調節する。また、前記混合物中のセルロース濃度は27~40質量%、好ましくは29~38質量%、より好ましくは30~36質量%となるように調節する。前記混合物中のアルカリ濃度及びセルロース濃度を前記範囲に調節することで、得られるビスコースの物性がセルロース成形物の成形原料として適切なものになる。
【0031】
次いで、アルカリ水溶液と再生セルロースとを混合及び撹拌してマーセル化を進める。このときの混合及び撹拌には、固体の再生セルロースに少量のアルカリ水溶液を混合するのに適した撹拌装置が選ばれる。撹拌装置は撹拌槽を有し、撹拌槽の周囲に温度調節することが可能な温度調節ジャケットを有するものが望ましい。反応温度を精度よく調節するため、マーセル化において、反応中は撹拌槽内全体をかき混ぜることで、前記混合物の温度を均一化する低速翼を備えるものを使用することが好ましい。低速翼の形状としては、アンカー翼、リボンアンカー翼、ヘリカルリボン翼、ゲート翼、パドル翼などがあるが、中でもアンカー翼やリボンアンカー翼がより好ましい。さらに、撹拌効率を向上させるため、撹拌軸を斜めや水平にしたり、偏心させたりする他、撹拌槽に邪魔板を設けたり、撹拌槽自体を回転させたりしても良い。
【0032】
再生セルロースのマーセル化は、-20~50℃、好ましくは0~40℃、より好ましくは10~30℃の温度にて行う。マーセル化時の温度が-20℃未満であると液温を低温に維持するために手間及びエネルギーを要し、50℃を超えると硫化に適した温度に冷却するために、手間及び時間を要することになる。マーセル化の反応時間は、通常0.5~120時間、好ましくは1~72時間、より好ましくは2~48時間の範囲である。マーセル化の反応時間は、短すぎると浸透が不十分となって反応が中心部まで進まずに未溶解分が増加するが、長すぎると重合度低下が生じる。また、この重合度低下は空気中の酸素で酸化することによって起こるため、減圧下、あるいは窒素ガス、水素ガスなどで空気を置換してマーセル化を行っても良い。
【0033】
本発明のアルカリセルロース材料は、常法で再生セルロース以外のセルロース材料から調製したアルカリセルロース材料と混合して使用することができる。本発明のアルカリセルロース材料と混合される前記アルカリセルロース材料は、好ましくは、二硫化炭素で硫化することでビスコースを製造する目的にて使用するものである。再生セルロース以外のセルロース材料としては、溶解パルプ等の天然セルロースが挙げられる。
【0034】
その場合、混合されたアルカリセルロース材料中の再生セルロースの含有量は、セルロース成分を基準にして1~99質量%、好ましくは2~50質量%、より好ましくは3~20質量%である。前記再生セルロースの含有量をできるだけ多くすることで、再生セルロースのリサイクル率を向上させ、環境負荷の低減効果を高めることができる。
【0035】
本発明のアルカリセルロース材料は、二硫化炭素に接触させて反応させ、セルロースザンテートに変換する。この工程は、一般に硫化と呼ばれる。硫化は、マーセル化後のアルカリセルロース材料に、二硫化炭素を加えて混合及び撹拌することで行うことができる。また、セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素を一度に混合して、マーセル化と硫化を同時に行うこともできる。
【0036】
再生セルロースとアルカリ水溶液と二硫化炭素とを含む混合物について、セルロース濃度及びアルカリ化合物の濃度は、新たに調整する必要のない限り、マーセル化の後に添加される二硫化炭素で希釈された値となる。前記混合物における二硫化炭素添加量は、セルロースの質量に対して5~60質量%、好ましくは10~50質量%、より好ましくは15~40質量%に調節する。二硫化炭素添加量が5質量%未満であるとアルカリセルロースとの反応が不十分となり、60質量%を超えると二硫化炭素の副反応が増加したり、未反応の二硫化炭素が残存したりして安全性が低下するおそれがある。
【0037】
硫化の間は、撹拌槽内全体をかき混ぜることで混合物の温度を均一化する。硫化においては、アルカリセルロースは固体であるのに対し、二硫化炭素は液体又は気体で存在するために、撹拌装置としては、マーセル化と同様に、撹拌槽の壁面に沿って回転することで混合物を均一化する低速翼を備え、温度調節ジャケットを有するものを使用することが好ましい。
【0038】
アルカリセルロースの硫化は、0~50℃、好ましくは5~40℃、より好ましくは10~30℃の温度にて行う。硫化時の温度が0℃未満であると液温を低温に維持するために手間及びエネルギーを要し、50℃を超えるとセルロースの重合度が低下し易くなり、発火などの危険性も増大する。硫化の反応時間は、アルカリセルロース全体に二硫化炭素が十分に浸透する様に設定され、通常30分~12時間、好ましくは1~9時間、より好ましくは2~6時間の範囲である。
【0039】
また、得られた硫化物の溶解は、0~40℃、好ましくは5~35℃、より好ましくは10~30℃の温度にて行う。溶解時の温度が0℃未満であると液温を低温に維持するために手間及びエネルギーを要し、40℃を超えるとセルロースの溶解性が低下し易くなる。溶解の時間は、目詰まり度が所望する値に到達、完結する様に設定され、撹拌等の条件にもよるが、通常2分~48時間、好ましくは4分~36時間、より好ましくは5分~24時間の範囲である。このとき、特に高速翼を併用すると短時間で溶解することができる。高速翼の形状としては、ディスパ翼、タービン翼、プロペラ翼、パドル翼、ローター・ステーターなどがあるが、中でもディスパ翼が好ましい。
【0040】
本発明のアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物は、アルカリ水溶液に溶解することでビスコースを製造するために使用したり、常法で再生セルロース以外のセルロース材料から調製したアルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物と混合して使用したりすることができる。再生セルロース以外のセルロース材料としては天然セルロースが挙げられ、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等のバイオマスを原料とするパルプに加え、古紙や紙粉等を使用することもできるが、中でも木材から製造したパルプが好ましい。
【0041】
その場合、混合された、アルカリセルロース材料の二硫化炭素による硫化物中の再生セルロースの含有量は、セルロース成分を基準にして1~99質量%、好ましくは2~50質量%、より好ましくは3~20質量%である。前記再生セルロースの含有量をできるだけ多くすることで、再生セルロースのリサイクル率を向上させ、環境負荷の低減効果を高めることができる。
【0042】
<ビスコース>
硫化及び溶解の終了後に得られる本発明のビスコースは、各種セルロース成形物の成形原料であるビスコース等のビスコースと同等の物性を有している。本発明のビスコースは、6,000以下、好ましくは4,000以下、より好ましくは2,000以下の目詰まり度を示す。かかる目詰まり度は小さい値のものほど、硫化物中のセルロースザンテートが溶解性に優れたものであることを意味している。目詰まり度の計算方法を以下に示す。
【0043】
(目詰まり度)
ビスコースについて、綿布5枚重ねのろ布を用いて、23℃で0.04MPaの圧力をかけて加圧ろ過を行い、経時的にろ液の質量V(g)を測定する。一定時間経過後に、ろ過時間t(分)とろ過速度の逆数t/Vをプロットし、得られた直線の傾き(k/2)から、下記式に基づき、目詰まり度を算出する。
図1は、ビスコースの測定された特性値がプロットされたグラフの模式図である。
目詰まり度=100,000×k
【0044】
本発明のビスコースは、5質量%以上、好ましくは6~12質量%、より好ましくは8~10質量%のセルロース濃度を有する。かかるセルロース濃度は各種セルロース成形物の成形原料であるビスコース等のビスコースと同等の水準である。ビスコースのセルロース濃度が高いと粘度が高くなりすぎ、低いとセルロース成形物の強度が不十分なものとなり、酸等の薬品の使用量なども増加するために経済性も低下する。セルロース濃度の測定方法を以下に示す。
【0045】
(セルロース濃度)
ビスコースを、予め秤量したガラス板上にベーカー式アプリケーター(テスター産業(株)製、SA-201)を使って薄く広げてから質量を測定し、ビスコースの質量を計算する。その後、70℃の定温乾燥機内に40分間静置し、ガラス板毎、10質量%塩化アンモニウム水溶液に30分間浸漬して、凝固したビスコースをガラス板から剥離する。それを蒸留水で水洗後、105℃の熱風乾燥機で乾燥して質量を測定し、次式からビスコースのセルロース濃度を算出する。
セルロース濃度={乾燥後の質量/(ビスコースの質量)}×100
【0046】
本発明のビスコースは、2質量%以上、好ましくは4~12質量%、より好ましくは5~10質量%のアルカリ濃度を有する。かかるアルカリ濃度は各種セルロース成形物の成形原料であるビスコース等のビスコースと同等の水準である。ビスコースのアルカリ濃度が高いと中和に必要な酸の量が増加し、低いと溶解性が低下する。
【0047】
本発明のビスコースは、塩溶液、硫酸や塩酸等の希酸、有機溶媒等に投入したり、加熱したりすると容易に凝固し、酸で再生することによりセロファン、レーヨン及びビーズ等の成形物を得ることができる。また、凝固に希酸を使用した場合は、凝固と再生が同時に進行する。
【0048】
本発明のビスコースは、常法で再生セルロース以外のセルロース材料から調製したビスコースと混合して使用することができる。再生セルロース以外のセルロース材料としては、溶解パルプ等の天然セルロースが挙げられる。
【0049】
その場合、混合された、ビスコース中の再生セルロースの含有量は、セルロース成分を基準にして1~99質量%、好ましくは2~50質量%、より好ましくは3~20質量%である。前記再生セルロースの含有量をできるだけ多くすることで、再生セルロースのリサイクル率を向上させ、環境負荷の低減効果を高めることができる。
【実施例0050】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中の単位「部」は質量を基準にする単位である。
【0051】
<実施例1>
再生セルロース試料として、セロファン(レンゴー(株)製「PT #300」(商品名))を機械粉砕して直径1mmΦの丸網を通過させ、水洗して付着している柔軟剤(グリセリン)を除去した湿潤品(セルロース分:43質量%)を調製した。
【0052】
再生セルロース試料100部及び40質量%水酸化ナトリウム水溶液36部を撹拌装置の撹拌槽に投入して、パドル翼を備えた低速撹拌機(新東科学(株)製、スリーワンモーター BL-600)を用いて混合した。この混合物を撹拌しながら、約20℃の室温でマーセル化を行ってアルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースは、セルロース32質量%及び水酸化ナトリウム11質量%を含むものである。
【0053】
このアルカリセルロースに、セルロース質量当たり35質量%の二硫化炭素を加えて、前記低速撹拌機を用いて30rpmで撹拌しながら4時間硫化を行った。得られた硫化物に水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温にて19時間600rpmで撹拌しながら溶解して、ビスコースを得た。得られたビスコースは、セルロース9.8質量%、水酸化ナトリウム6.0質量%を含むものである。
【0054】
硫化及び溶解の終了後に得られたビスコースについて、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表1に示す。
【0055】
(粘度)
ビスコースを20℃に調温し、B型粘度計(No.5ローター×20rpm)を使用して粘度を測定した。
【0056】
(溶解性)
溶解性の評価基準は以下の通りにした。
【0057】
◎(優)目詰まり度:2,000以下
○(良)目詰まり度:6,000以下
×(劣)目詰まり度:6,000を超える
【0058】
<実施例2>
実施例1にて調製したアルカリセルロースに、セルロース質量当たり25質量%の二硫化炭素を加えて得られた硫化物を、ディスパ翼を備えた高速撹拌機(プライミクス(株)製「ラボ・リューション」(商品名))を用いて室温にて5,000rpmで撹拌しながら10分間溶解を行った以外は同様にして、ビスコースを得た。得られたビスコースはセルロース9.6質量%、水酸化ナトリウム6.1質量%を含むものである。
【0059】
<比較例1>
実施例1にて調製した再生セルロース試料100部を18質量%水酸化ナトリウム水溶液1000部に50℃にて1.5時間浸漬することでマーセル化を行い、遠心機HF110F型(商品名、(株)コクサン製)を用いて3,000rpmで溶液の排出が止まるまで脱水して、アルカリセルロースを得た。得られたアルカリセルロースは、セルロース22質量%及び水酸化ナトリウム16質量%を含むものである。
【0060】
このアルカリセルロースを使用した以外は実施例1と同様にして、ビスコースを得た。得られたビスコースは、セルロース8.2質量%、水酸化ナトリウム6.1質量%を含むものである。
【0061】
得られたビスコースについて、実施例1と同様にして、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表1に示す。
【0062】
【0063】
比較例1のように、一般的なビスコースの製造方法に従って再生セルロースであるセロファンを溶解しようとした場合、溶解性が低くなる。その原因は、セロファンがアルカリ水溶液に著しく膨潤して、十分に脱水されず、アルカリセルロースのセルロース濃度が低くなった(25質量%以下)ことにある。つまり、アルカリセルロースの脱水が不十分な場合、硫化時に副反応が多くなり、セルロースザンテートへの変換率が低下して、溶解性が低下したと考えられる。
【0064】
実施例1及び2では、二硫化炭素の添加量と溶解時の撹拌状況に違いはあるが、再生セルロースを多量のアルカリ水溶液に浸漬及び脱水する代わりに、少量で必要最低限の濃厚アルカリ水溶液を再生セルロースに添加して均一に混合することで、32質量%とセルロース濃度の高いアルカリセルロースを調製することができた。その結果、セルロースの溶解性に優れたビスコースを得ることができた。
【0065】
なお、パルプを原料に用いた非特許文献1では、常法に対してビスコースの濾過が困難化(ビスコース300gの濾過時間が、常法では177.4秒に対し、本法では320秒)しており、原料パルプ中のヘミセルロース等の混入やアルカリセルロースの不均一性が原因と考察されている。しかし、原料を再生セルロースに置き換えたところ、常法では濾過できなかったものの、本願では濾過が可能となっており、原料中のヘミセルロースの含有量が少ないことなどが原因と考えられる。
【0066】
<実施例3>
実施例1のセロファンから製造したビスコースを工業用ビスコースと混合
実施例1のビスコース10部をレンゴー(株)製ビスコース(常法で溶解パルプから調製したもの)90部と混合して、混合ビスコース(セルロース:9.7質量%、水酸化ナトリウム:6.2質量%)を調製した。
【0067】
得られたビスコースについて、実施例1と同様にして、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0068】
<実施例4>
実施例1の硫化後のセロファンを硫化したパルプと混合
実施例1の硫化した再生セルロース試料を、常法で溶解パルプから調製した硫化物と、再生セルロースと天然セルロースの質量比が1:9となるように混合し、アルカリ水溶液に溶解して、ビスコース(セルロース:9.8質量%、水酸化ナトリウム:6.1質量%)を調製した。
【0069】
得られたビスコースについて、実施例1と同様にして、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0070】
<実施例5>
実施例1のマーセル化後のセロファンをマーセル化したパルプと混合
実施例1のマーセル化した再生セルロース試料を、常法で溶解パルプから調製したマーセル化パルプと、再生セルロースと天然セルロースの質量比が1:9となるように混合し、セルロース質量当たり35質量%の二硫化炭素を添加して4時間硫化後にアルカリ水溶液に溶解して、ビスコース(セルロース:9.8質量%、水酸化ナトリウム:6.1質量%)を調製した。
【0071】
得られたビスコースについて、実施例1と同様にして、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0072】
<比較例2>
粉砕したセロファンをパルプと混合
再生セルロース試料と溶解パルプを、再生セルロースと天然セルロースとの質量比が1:9となるように混合した。この混合物を18質量%水酸化ナトリウム水溶液に50℃にて1.5時間浸漬することでマーセル化を行い、圧搾してアルカリセルロースを得た(セルロース:26質量%、水酸化ナトリウム:16質量%)。アルカリセルロースに、セルロース質量当たり35質量%となるように二硫化炭素を加えて4時間硫化を行った。得られた硫化物に水酸化ナトリウム水溶液を加え、20℃で19時間撹拌しながら溶解し、ビスコース(セルロース:9.6質量%、水酸化ナトリウム:6.0質量%)を調製した。
【0073】
得られたビスコースについて、実施例1と同様にして、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0074】
<比較例3>
比較例1のマーセル化後のセロファンをマーセル化したパルプと混合
比較例1のマーセル化した再生セルロース試料を、常法で溶解パルプから調製したマーセル化パルプと、再生セルロースと天然セルロースの質量が1:9となるように混合し、硫化後にアルカリ水溶液に溶解して、ビスコース(セルロース:9.6質量%、水酸化ナトリウム:6.0質量%)を調製した。
【0075】
得られたビスコースについて、実施例1と同様にして、粘度及び目詰まり度を測定した。セルロースの溶解性は目詰まり度に基づき評価した。結果を表2に示す。
【0076】
【0077】
実施例3、4及び5は溶解性が良好である。これに対し、常法の浸漬及び圧搾を行った比較例2及び3は溶解性が悪化している。また、実施例5は、実施例3及び4より溶解性が低くなっている。その原因は、硫化反応において表面積が少ないセロファンはパルプに比べて反応性が低く、硫化が不均一に進行したためと考えられる。セロファンとパルプは別々に硫化することで反応が均一になり、溶解性の点ではより好ましいと予想される。
【0078】
本発明において、再生セルロースをマーセル化してアルカリセルロースを得る条件が最適化されたため、その段階あるいは硫化した状態で木材パルプからのそれと混合したり、硫化してアルカリ水溶液に溶解したビスコースの状態で工業用ビスコースと混合したりしても、成形体の製造に適したビスコースが得られることが分かった。それにより、専用の製造設備を用意する必要が少なくなり、既存の設備を有効利用できる上に、エネルギーコストの面でも有利となる。