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  • 特開-建物構造及び建物構造の設計方法 図1
  • 特開-建物構造及び建物構造の設計方法 図2
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  • 特開-建物構造及び建物構造の設計方法 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178626
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】建物構造及び建物構造の設計方法
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20241218BHJP
   F16F 15/04 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
F16F15/04 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096905
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】清水 扶
(72)【発明者】
【氏名】最上 利美
(72)【発明者】
【氏名】森 洋一
(72)【発明者】
【氏名】丹治 春一郎
(72)【発明者】
【氏名】菓子 進
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AB01
2E139AC10
2E139AD03
2E139CA02
2E139CA16
2E139CA21
2E139CB03
2E139CB19
2E139CC02
2E139CC13
3J048AA01
3J048BA08
3J048DA01
3J048EA38
(57)【要約】
【課題】建物の利用時の温度変化による免震層への影響を抑制することができる建物構造及び建物構造の設計方法を提供する。
【解決手段】冷蔵倉庫10は、下部基礎11と上部基礎12との間に免震装置20を設けた免震層102と、上部基礎12の上方に床スラブ15により保管空間101を設けた上部構造体10aを有する。保管空間の温度変化に応じた上部構造体10aの変形の分布に応じて、異なる種類の免震装置20を配置する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の下部基礎と上部基礎との間に免震装置を設けた免震層と、前記上部基礎の上方に、床スラブを介して保管空間を設けた上部構造体を有する建物構造であって、
前記保管空間の温度変化に応じた前記上部構造体の変形量の分布に応じて、異なる種類の免震装置を配置したことを特徴とする建物構造。
【請求項2】
前記免震装置として、前記建物構造の周辺領域に転がり支承を配置し、前記周辺領域に囲まれた内部領域に積層ゴム支承を配置したことを特徴とする請求項1に記載の建物構造。
【請求項3】
前記建物は冷蔵倉庫であることを特徴とする請求項1又は2に記載の建物構造。
【請求項4】
前記床スラブの下面に断熱層を設けたことを特徴とする請求項1又は2に記載の建物構造。
【請求項5】
建物の下部基礎と上部基礎との間に免震装置を設けた免震層と、前記上部基礎の上方に、床スラブを介して保管空間を設けた上部構造体を有する建物構造の設計方法であって、
前記保管空間の温度変化に応じた前記上部構造体の変形量の分布を算出し、
前記変形量の分布に応じて、異なる種類の免震装置を配置することを特徴とする建物構造の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、免震装置を備えた冷蔵倉庫等の建物構造及び建物構造の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍品や冷蔵品は、10℃以下の低温に冷却した冷蔵倉庫で保管される。この冷蔵倉庫の構築完成後に倉庫内を冷却すると、冷気により建物の部材が低温となり、上部構造全体が収縮する。しかしながら、下部構造体である下部基礎は常に外気に触れているので、常温のままであり、ほとんど温度収縮しない。その結果、下部構造体と上部構造体との間に設置してある免震装置が変形した状態となる。そこで、応力や変形を吸収するために、免震装置を用いた冷蔵倉庫の建物構成が検討されている(例えば、特許文献1参照。)。この特許文献1に記載の免震構造の冷蔵・冷蔵倉庫は、下部構造体と上部構造体との間に免震装置を設ける。免震装置を、連結部材を介して下部基礎構造に連結する。この場合、水平方向において、冷却前に連結部材が下部基礎構造に対して可動状態にする。冷却後には、連結部材を下部基礎構造と剛結合状態にする。
【0003】
また、免震構造において、種類が異なる2以上の免震装置を、上部構造と下部構造との間に設置する技術も検討されている(例えば、特許文献2参照。)。この特許文献2に記載の方法は、上部構造と下部構造との間に積層ゴムを介装するとともに、積層ゴムの周囲にその過大変形を拘束するフェールセーフ機構として機能する転がり支承を設置する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-105073号公報
【特許文献2】特開2012-229786号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1においては、冷却による上部構造体の温度収縮変形に応じて、冷却前や冷却中に、連結部材が下部基礎構造に対して可動となるように構成している。しかしながら、熱の影響を考慮した施工は難しかった。例えば、連結部材を下部基礎構造と剛結合状態にした後に冷却を中断した場合、免震層における免震装置の機能を発揮できない可能性がある。特許文献2においては、地震時等の過大変形の抑制を目的としているため、上部構造体の温度収縮変形は考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する建物構造は、建物の下部基礎と上部基礎との間に免震装置を設けた免震層と、前記上部基礎の上方に床スラブを介して保管空間を設けた上部構造体を有する。前記保管空間の温度変化に応じた前記上部構造体の変形量の分布に応じて、異なる種類の免震装置を配置する。
【0007】
また、上記課題を解決する建物構造の設計方法は、建物の下部基礎と上部基礎との間に免震装置を設けた免震層と、前記上部基礎の上方に、床スラブを介して保管空間を設けた上部構造体を有する建物構造の設計方法である。そして、前記保管空間の温度変化に応じた前記上部構造体の変形量の分布を算出し、前記変形量の分布に応じて、前記免震層に、異なる種類の免震装置を配置する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、建物の利用時の温度変化による免震層への影響を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態における建物構造を有する建物の全体を説明する模式図である。
図2】実施形態における免震装置の説明図であって、(a)は弾性すべり支承、(b)は積層ゴム支承、(c)は直動転がり支承である。
図3】実施形態における設計方法の説明図である。
図4】実施形態における免震装置の配置の説明図である。
図5】実施形態における冷却時の建物の変化の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図1図5を用いて、建物構造及び建物構造の設計方法を具体化した一実施形態を説明する。ここでは、建物構造として、マイナス25℃前後(-20℃~-30℃未満)となるF1級の冷蔵倉庫10を想定する。この冷蔵倉庫10は、例えば、約350m×約100mの大きさの3階建てである。更に、この冷蔵倉庫は、下部基礎と上部基礎との間に免震装置を設けた免震層を有する免震構造で構成されている。
【0011】
(冷蔵倉庫の構造)
図1に示すように、冷蔵倉庫10は、約-25℃に冷却して冷凍品等を保管する保管空間101を有する上部構造体10aを備える。この上部構造体10aは基礎F1に支持される。
【0012】
上部構造体10aは、上部基礎12、梁部材13、柱部材14a,14b、床スラブ15を有する。上部基礎12の上には、柱部材14a,14bが立設されるとともに、柱部材14a,14bの間に床スラブ15が設けられている。なお、柱部材14aは、冷蔵倉庫10の外周に配置され、柱部材14bは、冷蔵倉庫10の内側に配置される。
【0013】
基礎F1は、下部基礎11と上部基礎12とを備える。下部基礎11は、冷蔵倉庫10の柱部材14a,14bの直下において上方に突出した下部構造体11aを備える。
上部基礎12は、基礎梁12b及び上部構造体12aを有する。
【0014】
上部構造体12aは、下部構造体11aに対向するように下方に突出して設けられている。
下部構造体11a及び上部構造体12aの間の免震層102には、免震装置20が設けられている。本実施形態では、免震装置20として、後述するように、異なる種類の免震装置として、弾性すべり支承、積層ゴム支承、直動転がり支承を用いる。ここで、各種類の免震装置は、免震性能(常時変形の許容量)が異なる。
【0015】
更に、上部基礎12の側面及び底面の下面であって、免震装置20が当接する部分以外の領域は、断熱材で覆われている。なお、図面では、断熱材を省略している。具体的には、上部基礎12の上部構造体12aの側面の外周には、側面断熱材が配置されている。ここで、免震装置20と当接する上部構造体12aの下面には、断熱材は配置されていない。また、床スラブ15の下面も断熱材で覆われて断熱層が設けられている。この断熱層により、上部構造体10aが、全体を均等に収縮させる構造計算が成立する。
【0016】
更に、基礎梁12bの外周には、断熱材がそれぞれ配置されている。具体的には、基礎梁12bの側面及び底面には、一続きの側面断熱材及び底面断熱材が設けられている。これら断熱材としては、例えば、スタイロフォーム(登録商標)等の押出法発泡ポリスチレンフォームを用いることができる。また、硬質ウレタンフォームやロックウール等の断熱材料を吹き付けたりすることも可能である。1階の床スラブ15は、スラブ本体(図示せず)と、床下防熱部材(図示せず)とを備える。スラブ本体は、鉄筋コンクリートにより構成され、1階の床スラブ15のほぼ全面を構成する部分であり、その上面が1階の床面になる。床下防熱部材は、スラブ本体の下側(下面や側面)を覆うように配置された断熱材である。
柱部材14a,14bの下部の外周も、断熱材に覆われている。
【0017】
(免震装置)
図2(a)に示すように、弾性すべり支承210は、すべり板211、積層ゴム部212、上部フランジ213とから構成される。すべり板211は下部構造体11aに固定される。積層ゴム部212は、上部フランジ213を介して、上部構造体12aに固定される。小振幅の地震時には積層ゴム部212のみが変形し、振幅が大きくなると積層ゴム部212とすべり板211間ですべりが発生し、大地震時の大きな揺れに追従する。
【0018】
図2(b)に示すように、積層ゴム支承220は、下部フランジ221と上部フランジ223との間に固定された積層ゴム部222から構成される。下部フランジ221、上部フランジ223は、それぞれ下部構造体11a、上部構造体12aに固定される。積層ゴム部222は、天然ゴムと鋼板を幾層にも重ね、外周をゴムで覆って一体化させて構成される。鉛直方向には硬くほとんど変形しない一方で、水平方向には積層ゴム部222が変形することで、揺れを軽減する。
【0019】
図2(c)に示すように、直動転がり支承230は、下部プレート231、下部リニアレール232、リニアブロック233、上部リニアレール234、上部プレート235を備える。下部プレート231、上部プレート235は、それぞれ下部構造体11a、上部構造体12aに固定される。下部リニアレール232と上部リニアレール234とは、高さが異なる位置で直交して十字型に組み合わせられている。リニアブロック233は、鋼球の循環機構を有し、下部リニアレール232と上部リニアレール234に沿って、任意の方向に滑動する。
【0020】
(設計方法)
次に、図3を用いて、設計方法を説明する。
まず、冷凍倉庫の構造設計を行なう(ステップS11)。具体的には、冷蔵倉庫10の上部構造体10aの柱や梁、基礎について、所望の構造材を用いて構造設計を行なう。ここでは、常温時の上部構造体10aの設計を行なう。この設計には、例えば、BIM(Building Information Modeling)技術を用いる。
【0021】
次に、冷却時シミュレーションを行なう(ステップS12)。冷蔵倉庫10の上部構造体10aの内部を、所定の温度(例えば、約-25℃)に冷却した場合のシミュレーションを実行する。この場合、上部構造体10aの構造材の収縮率、構造に応じて、冷却時の上部構造体10aの変形量を算出する。このシミュレーションには、FEM(有限要素法)を用いる。
【0022】
次に、収縮レベルの分布を生成する(ステップS13)。冷却時シミュレーションにより、基礎F1の上部基礎12の変形量に応じて、上部構造体12aの位置の変化(収縮レベル)をマッピングした分布を生成する。
【0023】
次に、収縮レベルに応じて免震装置を配置する(ステップS14)。ここでは、弾性すべり支承210、積層ゴム支承220のゴム総厚を取得する。そして、弾性すべり支承210、積層ゴム支承220のゴム総厚の25%を、それぞれの許容長さとして特定する。すなわち、破断を防ぐために、常時水平変形がゴム総厚の25%を超える場所には、ゴムを用いる弾性すべり支承210、積層ゴム支承220を用いない。次に、収縮レベルが許容長さ以下の領域で、弾性すべり支承210、積層ゴム支承220を配置する。収縮レベルの大きい領域では、常時水平変形が大きな場所にも使用できる直動転がり支承230を配置する。
【0024】
図4に示すように、冷蔵倉庫10の中央領域である通りX5~X9、通りY4~Y7は、収縮レベルが小さい第1領域R1(内部領域)となる。第1領域R1の周囲である通りX2~X12、通りY1~Y10は、収縮レベルが中間の第2領域R2(内部領域)となる。更に、その外側の通りX1,X2の一部,X12の一部,X13は、収縮レベルが大きい第3領域(周辺領域)となる。第1~第3領域には、それぞれ弾性すべり支承210、積層ゴム支承220、直動転がり支承230を配置する。このように、冷蔵倉庫10の周辺部は変形が大きいので、常時水平変形が大きな場所にも使用できる直動転がり支承230を用いる。
【0025】
(作用)
図5に示すように、常温時(建設時)の上部構造体10aは、冷蔵倉庫10の冷却時には、外側の断熱材により、全体的に収縮して上部構造体10bに変形する。この収縮レベルに応じて、種類が異なる免震装置20が、許容範囲内で常時変形する。
【0026】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
(1)本実施形態では、冷却時シミュレーション(ステップS12)により、収縮レベルの分布を生成し(ステップS13)、収縮レベルに応じて免震装置を配置する(ステップS14)。これにより、建物の冷却等の温度変化に応じた変形量に対応させた免震装置20を配置することができる。例えば、周辺領域R3では大きな収縮が予想されるので、常時変形の許容量が大きい免震装置である直動転がり支承230を用いて、免震性能を維持することができる。
【0027】
(2)本実施形態では、免震装置20として、弾性すべり支承210、積層ゴム支承220、直動転がり支承230を用いる。すべての免震装置20を、常時変形の許容量が大きい直動転がり支承230により構成することもできるが、この場合、コスト高となる。弾性すべり支承210、積層ゴム支承220を併用することにより、効率的に免震層を構築することができる。
【0028】
本実施形態は、以下のように変更して実施することができる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・上記実施形態では、冷蔵倉庫10に適用したが、適用対象は冷蔵倉庫に限定されるものではない。建設後に局所的に変形レベルが異なる構造物に適用することができる。
【0029】
・上記実施形態では、冷蔵倉庫10を複数に分割して、エクスパンションジョイント等で連結してもよい。この場合には、エクスパンションジョイントで分割された領域毎に冷却シミュレーションを行なって、変形レベルを算出する。
【0030】
・上記実施形態では、免震装置20として、弾性すべり支承、積層ゴム支承、直動転がり支承を用いる。利用する免震装置はこれらの3種類に限定されるものではない。2種類の免震装置を用いてもよいし、他の種類の免震装置を用いてもよい。例えば、エネルギー吸収材として鋼板を利用したU字ダンパーを併用してもよい。この場合には、常時水平変形が小さいエリアにおいて、積層ゴム支承の間にU字ダンパーを配置する。
【符号の説明】
【0031】
F1…基礎、10…冷蔵倉庫、101…保管空間、102…免震層、10a,10b…上部構造体、11…下部基礎、11a…下部構造体、12…上部基礎、12a…上部構造体、13…梁部材、14a,14b…柱部材、15…床スラブ、20…免震装置、210…弾性すべり支承、211…すべり板、212,222…積層ゴム部、213,223…上部フランジ、220…積層ゴム支承、221…下部フランジ、230…直動転がり支承、231…下部プレート、232…下部リニアレール、233…リニアブロック、234…上部リニアレール、235…上部プレート。
図1
図2
図3
図4
図5