(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178668
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
B60W 50/00 20060101AFI20241218BHJP
B60W 60/00 20200101ALI20241218BHJP
【FI】
B60W50/00
B60W60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023096983
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小栗 春紀
【テーマコード(参考)】
3D241
【Fターム(参考)】
3D241BA00
3D241CC01
3D241CC08
3D241CC17
3D241CD07
3D241CE05
3D241DA52Z
3D241DB02Z
3D241DB32Z
(57)【要約】
【課題】手動運転に適切に切替えること。
【解決手段】車両制御装置は、自動運転システムと、自動運転システムからの指令に従って自動運転を行う車両プラットフォームとの間に接続される車両制御装置であって、信号ごとに定義された所定のAPIを含むプログラムが格納されたメモリと、プログラムを実行することによって自動運転システムからの指令に応じて車両プラットフォームを制御するプロセッサとを備える。車両制御装置は、車両モードとして、手動運転モードと、自動運転モードとを有する。車両プラットフォームは、手動運転モードにおいて手動による運転操作を受付可能であり、自動運転モードにおいて自動運転システムからの運転指令を受付可能である。プロセッサは、車両プラットフォームが停車していないことを条件として、自動運転モードから手動運転モードへの遷移を禁止する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動運転システムと、前記自動運転システムからの指令に従って自動運転を行う車両プラットフォームとの間に接続される車両制御装置であって、
信号ごとに定義された所定のAPIを含むプログラムが格納されたメモリと、
前記プログラムを実行することによって前記自動運転システムからの指令に応じて前記車両プラットフォームを制御するプロセッサとを備え、
前記車両制御装置は、車両モードとして、手動運転モードと、自動運転モードとを有し、
前記車両プラットフォームは、
前記手動運転モードにおいて手動による運転操作を受付可能であり、
前記自動運転モードにおいて前記自動運転システムからの運転指令を受付可能であり、
前記プロセッサは、前記車両プラットフォームが停車していないことを条件として、前記自動運転モードから前記手動運転モードへの遷移を禁止する、車両制御装置。
【請求項2】
前記プロセッサは、緊急停止スイッチが操作された場合、前記車両プラットフォームが動かない状態とされたことを条件として、前記自動運転モードから前記手動運転モードに遷移する、請求項1に記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記プロセッサは、前記手動運転モードに遷移した場合、前記車両プラットフォームが起動されていない状態から起動されたことを条件として、前記自動運転モードへの遷移を許可する、請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記車両プラットフォームは、さらに、遠隔運転システムからの指令に従って自動運転が可能であり、
前記プロセッサは、
前記プログラムを実行することによって前記遠隔運転システムからの指令に応じて前記車両プラットフォームを制御し、
前記遠隔運転システムからの指令を受付不能となった場合、前記車両プラットフォームが動かない状態とされたことを条件として、前記自動運転モードから前記手動運転モードに遷移する、請求項2に記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記プロセッサは、前記遠隔運転システムからの指令を受付不能となったときに前記緊急停止スイッチが操作された場合、前記車両プラットフォームが動かない状態とされたことを条件として、前記自動運転モードから前記手動運転モードに遷移する、請求項4に記載の車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、車両制御装置に関し、特に、自動運転システムと、自動運転システムからの指令に従って自動運転を行う車両プラットフォームとの間に接続される車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両および情報処理装置が協働して自動運転を実行するシステムがあった(たとえば、特許文献1参照)。このシステムにおいては、情報処理装置は、自動運転制御ソフトウェアによって制御情報を自動的に生成し、車両へ送信する。車両は、受信した制御情報に基づいて自動運転を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のシステムにおける自動運転が可能な車両において、走行中に手動運転に遷移させる場合に、運転者が適切に対応できるか不明である。このため、手動運転に適切に切替えるといった課題があった。
【0005】
この開示は、上述した課題を解決するためになされたものであって、その目的は、手動運転に適切に切替えることが可能な車両制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この開示に係る車両制御装置は、自動運転システムと、自動運転システムからの指令に従って自動運転を行う車両プラットフォームとの間に接続される車両制御装置であって、信号ごとに定義された所定のAPIを含むプログラムが格納されたメモリと、プログラムを実行することによって自動運転システムからの指令に応じて車両プラットフォームを制御するプロセッサとを備える。車両制御装置は、車両モードとして、手動運転モードと、自動運転モードとを有する。車両プラットフォームは、手動運転モードにおいて手動による運転操作を受付可能であり、自動運転モードにおいて自動運転システムからの運転指令を受付可能である。プロセッサは、車両プラットフォームが停車していないことを条件として、自動運転モードから手動運転モードへの遷移を禁止する。
【0007】
このような構成によれば、車両プラットフォームが停車していないような、運転者が適切に対応し難い状態において、自動運転モードから手動運転モードへ遷移しないようにすることができる。このため、運転者が適切に対応し易い状態において、自動運転モードから手動運転モードへ遷移するようにできる。その結果、手動運転に適切に切替えることが可能な車両制御装置を提供することである。
【0008】
プロセッサは、緊急停止スイッチが操作された場合、車両プラットフォームが動かない状態とされたことを条件として、自動運転モードから手動運転モードに遷移するようにしてもよい。
【0009】
このような構成によれば、緊急停止スイッチが操作されたことに応じて、自動運転モードにおいて車両プラットフォームが確実に動かない状態とされた場合に、手動運転モードに遷移するようにできる。その結果、手動運転にさらに適切に切替えることができる。
【0010】
プロセッサは、手動運転モードに遷移した場合、車両プラットフォームが起動されていない状態から起動されたことを条件として、自動運転モードへの遷移を許可するようにしてもよい。
【0011】
このような構成によれば、自動運転モードから手動運転モードに遷移した場合は、一度、車両プラットフォームが起動されていない状態とされてから、自動運転モードへの遷移が可能となるようにできる。その結果、車両プラットフォームが再度、起動できないような異常な状態で、手動運転モードから自動運転モードに遷移させないようにすることができる。
【0012】
車両プラットフォームは、さらに、遠隔運転システムからの指令に従って自動運転が可能であり、プロセッサは、プログラムを実行することによって遠隔運転システムからの指令に応じて車両プラットフォームを制御し、遠隔運転システムからの指令を受付不能となった場合、車両プラットフォームが動かない状態とされたことを条件として、自動運転モードから手動運転モードに遷移するようにしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、遠隔運転システムの指令にしたがった自動運転ができなくなった場合、自動運転モードにおいて車両プラットフォームが確実に動かない状態とされた場合に、手動運転モードに遷移するようにできる。その結果、遠隔運転されていた場合においても、手動運転に適切に切替えることができる。
【0014】
プロセッサは、遠隔運転システムからの指令を受付不能となったときに緊急停止スイッチが操作された場合、車両プラットフォームが動かない状態とされたことを条件として、自動運転モードから手動運転モードに遷移するようにしてもよい。
【0015】
このような構成によれば、遠隔運転されていた場合に、緊急停止スイッチが操作されたことに応じて、自動運転モードにおいて車両プラットフォームが確実に動かない状態とされた場合に、手動運転モードに遷移するようにできる。その結果、遠隔運転されていた場合においても、手動運転にさらに適切に切替えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この開示の実施の形態に係る車両の概要を示す図である。
【
図2】ADS、VCIBおよびVPの構成をより詳細に示す図である。
【
図3】この実施の形態における車両モードを説明するための状態遷移図である。
【
図4】モード間の遷移に関連する各種信号または指令の伝送方向を示す図である。
【
図5】緊急停止スイッチが操作された場合の統合制御マネージャの状態遷移図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、この開示の実施の形態に係る車両の概要を示す図である。車両1は、自動運転キット(ADK:Autonomous Driving Kit)10と、車両プラットフォーム(VP:Vehicle Platform)20とを備える。ADK10は、VP20に取り付け可能(車両1に搭載可能)に構成されている。ADK10とVP20とは、車両制御インターフェース(後述するVCIB40)を介して相互に通信可能に構成されている。
【0018】
VP20は、ADK10からの制御要求に従って自動運転を行うことができる。なお、
図1では、ADK10がVP20から離れた位置に示されているが、ADK10は、実際にはVP20のルーフトップ等に取り付けられる。ADK10をVP20から取り外すことも可能である。ADK10が取り外されている場合には、VP20は、マニュアルモードによる走行制御(ユーザ操作に応じた走行制御)を実行する。
【0019】
ADK10は、車両1の自動運転を行うための自動運転システム(ADS:Autonomous Driving System)11を含む。ADS11は、たとえば、車両1の走行計画を作成する。ADS11は、走行計画に従って車両1を走行させるための各種制御要求を、制御要求毎に定義されたAPI(Application Program Interface)に従ってVP20に出力する。また、ADS11は、車両状態(VP20の状態)を示す各種信号を、信号毎に定義されたAPIに従ってVP20から受ける。そして、ADS11は、車両状態を走行計画に反映する。
【0020】
VP20は、ベース車両30と、車両制御インターフェースボックス(VCIB:Vehicle Control Interface Box)40とを含む。ベース車両30は、ADK10(ADS11)からの制御要求に従って各種車両制御を実行する。ベース車両30は、ベース車両30を制御するための各種システムおよび各種センサを含む。より具体的には、ベース車両30は、統合制御マネージャ31と、ブレーキシステム32と、ステアリングシステム33と、パワートレーンシステム34と、アクティブセーフティシステム35と、ボディシステム36と、車輪速センサ51,52と、ピニオン角センサ53と、カメラ54と、レーダセンサ55,56とを含む。
【0021】
統合制御マネージャ31は、プロセッサおよびメモリを含み、車両1の動作に関わる上記各システム(ブレーキシステム32、ステアリングシステム33、パワートレーンシステム34、アクティブセーフティシステム35、ボディシステム36)を統合して制御する。
【0022】
ブレーキシステム32は、ベース車両30の各車輪に設けられた制動装置を制御するように構成されている。ブレーキシステム32には車輪速センサ51,52が接続されている。車輪速センサ51,52は、それぞれ、ベース車両30の前輪,後輪の回転速度を検出し、ブレーキシステム32に出力する。ブレーキシステム32は、各車輪の回転速度を車両状態に含まれる情報の一つとしてVCIB40に出力する。また、ブレーキシステム32は、ADS11からVCIB40および統合制御マネージャ31を介して出力される所定の制御要求に従って、制動装置に対する制動指令を生成する。ブレーキシステム32は、生成された制動指令を用いて制動装置を制御する。
【0023】
ステアリングシステム33は、車両1の操舵輪の操舵角を操舵装置を用いて制御可能に構成されている。ステアリングシステム33にはピニオン角センサ53が接続されている。ピニオン角センサ53は、アクチュエータの回転軸に連結されたピニオンギヤの回転角(ピニオン角)を検出し、ステアリングシステム33に出力する。ステアリングシステム33は、ピニオン角を車両状態に含まれる情報の一つとしてVCIB40に出力する。また、ステアリングシステム33は、ADS11からVCIB40および統合制御マネージャ31を介して出力される所定の制御要求に従って、操舵装置に対する操舵指令を生成する。ステアリングシステム33は、生成された操舵指令を用いて操舵装置を制御する。
【0024】
パワートレーンシステム34は、複数の車輪のうちの少なくとも1つに設けられた電動パーキングブレーキ(EPB:Electric Parking Brake)システム341と、車両1のトラッスミッションに設けられたパーキングロック(P-Lock)システム342と、シフトレンジを選択可能に構成されたシフト装置を含む推進システム343とを制御する。
【0025】
アクティブセーフティシステム35は、カメラ54およびレーダセンサ55,56を用いて前方または後方の障害物(歩行者、自転車、駐車車両、電柱など)を検出する。アクティブセーフティシステム35は、車両1と障害物との間の距離、および、車両1の移動方向に基づいて、車両1が障害物と衝突する可能性があるかどうかを判定する。アクティブセーフティシステム35は、衝突の可能性があると判定した場合、制動力が増加するように、統合制御マネージャ31を介してブレーキシステム32に制動指令を出力する。
【0026】
ボディシステム36は、たとえば、車両1の走行状態または環境等に応じて、方向指示器、ホーン、ワイパー等の部品を制御するように構成されている。ボディシステム36は、ADS11からVCIB40および統合制御マネージャ31を介して出力される所定の制御要求に従って、上記の各部品を制御する。
【0027】
VCIB40は、CAN(Controller Area Network)等を通じてADS11と通信可能に構成されている。VCIB40は、信号毎に定義された所定のAPIを実行することにより、ADS11から各種制御要求を受信したり、車両状態をADS11に出力したりする。VCIB40は、ADK10から制御要求を受信すると、その制御要求に対応する制御指令を統合制御マネージャ31を介して、その制御指令に対応するシステムに出力する。また、VCIB40は、ベース車両30の各種情報を各種システムから統合制御マネージャ31を介して取得し、ベース車両30の状態を車両状態としてADS11に出力する。
【0028】
ベース車両30は、さらに、緊急停止スイッチ39を含む。緊急停止スイッチ39は、車両1の運転者によって操作可能に設けられ、操作されると、操作されたことを示す信号を統合制御マネージャ31に出力する。
【0029】
図2は、ADS11、VCIB40およびVP20の構成をより詳細に示す図である。
図2に示すように、ADS11は、コンピュータ111と、HMI(Human Machine Interface)112と、認識用センサ113と、姿勢用センサ114と、センサクリーナ115とを含む。
【0030】
コンピュータ111は、車両1の自動運転時に各種センサを用いて車両1の環境、ならびに、車両1の姿勢、挙動および位置を取得するとともに、VP20からVCIB40を経由して車両状態を取得して車両1の次の動作(加速、減速、曲がる等)を設定する。コンピュータ111は、次の動作を実現するための各種指令をVCIB40に出力する。コンピュータ111は、通信モジュール111A,111Bを含む。通信モジュール111A,111Bの各々は、VCIB40と通信可能に構成されている。
【0031】
HMI112は、自動運転時、ユーザ操作を要する運転時、自動運転とユーザ操作を要する運転との間の移行時などに、ユーザに情報を提示したりユーザ操作を受け付けたりする。
【0032】
認識用センサ113は、車両1の環境を認識するためのセンサである。認識用センサ113は、たとえばLIDAR(Laser Imaging Detection and Ranging)と、ミリ波レーダと、カメラとのうちの少なくとも1つを含む。
【0033】
姿勢用センサ114は、車両1の姿勢、挙動、位置を検出するためのセンサである。姿勢用センサ114は、たとえば、IMU(Inertial Measurement Unit)と、GPS(Global Positioning System)とを含む。センサクリーナ115は、洗浄液、ワイパー等を用いて、車両1の走行中に上記の各種センサ(カメラのレンズ、レーザ光の照射部など)に付着する汚れを除去するように構成される。
【0034】
VCIB40は、メインのVCIB41と、サブのVCIB42とを含む。VCIB41,42の各々は、いずれも図示しないが、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリとを含む。メモリは、プロセッサによって実行可能なプログラムを記憶する。VCIB41と通信モジュール111Aとは相互に通信可能に接続されている。VCIB42と通信モジュール111Bとは相互に通信可能に接続されている。さらに、VCIB41とVCIB42とは相互に通信可能に接続されている。
【0035】
VCIB41,42の各々は、ADS11とVP20との間で制御要求および車両情報を中継する。より具体的には、VCIB41は、APIを用いて、ADS11からの制御要求から制御指令を生成する。そして、VCIB41は、生成された制御指令を、VP20に含まれる複数のシステムのうちの対応するシステムに出力する。また、VCIB41は、APIを用いて、VP20の各システムからの車両情報から車両状態を示す情報を生成する。VCIB41は、生成された車両状態を示す情報をADS11に出力する。VCIB42についても同様である。
【0036】
EPBシステム341は、ADS11からVCIB41を介して出力される制御要求に従ってEPBを制御する。EPBは、制動装置(ディスクブレーキシステムなど)とは別に設けられ、アクチュエータの動作によって車輪を固定する。
【0037】
P-Lockシステム342は、ADS11からVCIB41を介して出力される制御要求に従ってP-Lock装置を制御する。P-Lockシステム342は、たとえば、制御要求がシフトレンジをパーキングレンジ(Pレンジ)にする制御要求を含む場合にP-Lock装置を作動させ、制御要求がシフトレンジをPレンジ以外にする制御要求を含む場合にP-Lock装置の作動を解除する。P-Lock装置は、トランスミッションの出力軸の回転を固定し、車輪を固定する。
【0038】
推進システム343は、ADS11からVCIB41を介して出力される制御要求に従って、シフト装置のシフトレンジを切り替えたり、駆動源(モータジェネレータ、エンジンなど)からの駆動力を制御したりする。
【0039】
車両1においては、たとえば、ADK10からの要求によって後述の自動運転モードが選択された場合に自動運転が実行される。前述したように、ADS11は、自動運転中には、まず走行計画を作成する。走行計画の例としては、たとえば、直進を継続する計画、予め定められた走行経路の途中の所定の交差点で左折/右折する計画、走行車線を変更する計画などが挙げられる。ADS11は、作成された走行計画に従って、車両1が動作するために必要な制御的な物理量(加速度、減速度、タイヤ切れ角など)を算出する。ADS11は、APIの実行周期毎の物理量を分割する。ADS11は、APIを用いて、分割された物理量を表す制御要求をVCIB40に出力する。さらに、ADS11は、VP20から車両状態(車両1の実際の移動方向、車両の固定化の状態など)を取得し、取得された車両状態を反映した走行計画を再作成する。このようにして、ADS11は、車両1の自動運転を可能とする。
【0040】
図3は、車両モードの遷移を示す状態遷移図である。この例において、車両1は、車両モードとして、マニュアルモード(Manual Mode)と、自動運転モード(Autonomous Mode)とを有する。
【0041】
マニュアルモードとは、自動運転に非対応の車両と同様のモード、すなわち、VP20が運転者の制御下にあるモードである。マニュアルモードにおいては、ADK10は、一部の要求を除き、基本的にはVP20を制御することができない。
【0042】
自動運転モードとは、VP20がADK10の制御下にあり、車両1の自動運転が可能なモードである。自動運転モードにおいては、ADK10は、VCIB40によるADK10の認証が成功した後に、VP20との通信が可能となる。自動運転モードにおいて、VP20は、ADK10から車両モード要求(後述)として「自動の要求(Request for Autonomy)」が発行された結果として、ADK10の制御下にある。
【0043】
マニュアルモードにおいては、電源モード状態(Power mode status)は、「ウェイクモード(Wake)」または「ドライビングモード(Driving Mode)」である。車両モード状態(Vehicle mode state)は、「マニュアルモード」である。自動運転モードにおいては、電源モード状態は、「ドライビングモード」である。車両モード状態は、「自動運転モード」である。
【0044】
図4は、モード間の遷移に関連する各種信号または指令(要求)の伝送方向を示す図である。モード遷移に際し、VCIB40は、電源モード要求(Power mode command)および車両モード要求(Vehicle Mode Command)をADK10(ADS11)から受ける。また、VCIB40は、電源モード状態信号、車両モード状態信号および自動化準備信号(Readiness for autonomization)をADK10に出力する。
【0045】
電源モード要求は、VP20の電源モードを制御するための要求である。電源モード状態信号は、VP20の現在の電源モードの状態を示す信号である。この車両1では、所定のAPIに従ってADS11からVCIB40へ電源モード要求を送信することにより、ADS11からVP20の電源モードを制御することができる。この実施の形態に係るVP20は、電源モードとして、ウェイクモード(Wake)と、ドライビングモード(Driving Mode)との2つの電源モードを有する。
【0046】
ウェイクモードは、車載の補機バッテリからの給電によってVCIB40が起動している状態である。ウェイクモードでは、主機バッテリからの給電はなく、ボディシステム36の一部のボディ系ECU(例えば、スマートキーの照合等を行なう照合ECUや、ドアのロック/アンロック等を制御するボディECU等)を除いて、VCIB40以外のECUは起動していない。
【0047】
ドライビングモードは、VP20の電源がオンである状態(車両電源がオンの状態)である。ドライビングモードでは、主機バッテリからの給電が行なわれ、VCIB40およびベース車両30の各システムが起動し、VP20は、走行可能な状態となる。
【0048】
電源モード要求は、引数に値0,2,6のいずれかをとり得る。値0は、ADS11からVP20の電源モードの要求を行なわない場合に設定される。値0が設定された電源モード要求をVCIB40が受信した場合、VP20は、そのときの電源モードを維持する。値2は、ADS11からウェイクモードを要求する場合に設定される。すなわち、値2が設定された電源モード要求は、VCIB40の起動を要求する。値2が設定された電源モード要求をVCIB40が受信すると、VP20の電源モードがウェイクモードに遷移し、補機バッテリから給電を受けてVCIB40が起動する。値6は、ADS11からドライビングモードを要求する場合に設定される。すなわち、値6が設定された電源モード要求は、VP20の起動を要求する。値6が設定された電源モード要求をVCIB40が受信すると、VP20の電源モードがドライビングモードに遷移し、VP20は電源がオンの状態となる。
【0049】
この車両1では、所定のAPIに従ってVCIB40からADS11へ電源モードの状態を示す信号を送信することにより、VP20の電源モードの状態がADS11に通知される。ADS11へ送信される電源モード状態信号は、引数に値2,6のいずれかをとり得る。値2は、電源モードがウェイクモードである場合に設定される。値6は、電源モードがドライビングモードである場合に設定される。
【0050】
この車両1では、所定のAPIに従ってADS11からVCIB40へ車両モード要求を送信することにより、ADS11からVP20の車両モードを制御することができる。車両モード要求は、引数に値0~2のいずれかをとり得る。値0は、ADS11からVP20の車両モードの要求を行なわない場合に設定される。値0が設定された車両モード要求をVCIB40が受信した場合には、そのときの車両モードが維持される。値1は、ADS11から自動運転モードを要求する場合に設定される(自動の要求:Request For Autonomy)。すなわち、値1が設定された車両モード要求は、車両モードのマニュアルモードから自動運転モードへの移行を要求する。値2は、ADS11からマニュアルモードを要求する場合に設定される(非アクティブ化の要求:Deactivation Request)。すなわち、値2が設定された車両モード要求は、車両モードの自動運転モードからマニュアルモードへの移行を要求する。
【0051】
この車両1では、所定のAPIに従ってVCIB40からADS11へ車両モードの状態を示す信号を送信することにより、VP20の車両モードの状態がADS11に通知される。車両モード状態信号は、引数に値0,1のいずれかをとり得る。値0は、車両モードがマニュアルモードである場合に設定される。値1は、車両モードが自動運転モードである場合に設定される。なお、VP20の起動時(電源モード状態がウェイクまたはドライビングモード)には、車両モードは、マニュアルモードから始まる。すなわち、車両モードの初期状態は「マニュアルモード」に設定されている。
【0052】
この車両1では、所定のAPIに従ってVCIB40からADS11へ、VP20の自動化の準備状態を示す信号を送信することにより、VP20の自動運転モードへの移行可否がADS11に通知される。自動化準備信号は、引数に値0,1,3のいずれかをとり得る。値0は、自動運転モードの準備ができていない場合に設定される(自動運転モードの準備未完了:Not Ready For Autonomous Mode)。値1は、自動運転モードの準備ができている場合に設定される(自動運転モードの準備完了:Ready For Autonomous Mode)。値3は、状態がまだ決定されていない場合に設定される。値3は、無効な値(Invalid)を意味する。
【0053】
再び
図3を参照して、モード間の遷移について詳細に説明する。遷移aは、マニュアルモードから自動運転モードへの遷移を示す。マニュアルモードにおいて、第1条件が成立した場合に、車両モードがマニュアルモードから自動運転モードに遷移する。第1条件は、以下の(1)~(4)の条件を含む。第1条件は、以下の(1)~(4)の条件が全て成立した場合に成立する。第1条件は、以下の(1)~(4)の条件のいずれかが成立していない場合には、成立しない。
【0054】
(1)VCIB40によりADK10が認証されたという条件。(2)電源モード状態信号が「ドライブモード(Drive)」であるという条件。(3)自動化準備信号が「自動運転モードの準備完了(Ready For Autonomous Mode)」であるという条件。(4)車両モード要求が「自律性の要求(Request For Autonomy)」であるという条件。
【0055】
遷移bは、自動運転モードからマニュアルモードへの遷移を示す。自動運転モードにおいて、車両モード要求が「非アクティブ化の要求」であるという第2条件が成立した場合に、車両モードが自動運転モードからマニュアルモードに遷移する。
【0056】
図5は、緊急停止スイッチ39が操作された場合の統合制御マネージャ31の状態遷移図を示す図である。
図5を参照して、通常時は、VCIB40からの指示により、自動運転OFF(手動運転モード)の状態と、自動運転ON(自動運転モード)でフェールセーフ制御が無しである状態(正常状態)との間で、統合制御マネージャ31の状態が遷移する。
【0057】
AFSS(Emergency Stop System in case of ADK Failure)は、ADK10が失陥した場合にVP20を緊急停止させるシステムである。自動運転OFFの状態において、緊急停止スイッチ39が操作されたことを示す操作信号が統合制御マネージャ31に入力され、かつ、AFSSが作動中である場合は、統合制御マネージャ31の状態が、自動運転OFFの状態から、自動運転ONかつフェールセーフ制御が(2)緊急停止スイッチ制御である状態に移行する。
【0058】
自動運転ONかつフェールセーフ制御が無しである状態において、緊急停止スイッチ39が操作されたことを示す操作信号が統合制御マネージャ31に入力された場合は、統合制御マネージャ31の状態が、自動運転ONかつフェールセーフ制御が無しである状態から、自動運転ONかつフェールセーフ制御が(2)緊急停止スイッチ制御である状態に移行する。
【0059】
自動運転ONかつフェールセーフ制御が(2)緊急停止スイッチ制御である状態において、走行中である場合は、統合制御マネージャ31は減速制御を実行し、停車中である場合、または、減速制御で停車が完了した場合は、統合制御マネージャ31は、車両固定制御を実行する。減速制御は、推進システム343による駆動力を低減させたり、ブレーキシステム32により制動させたりすることで、VP20を減速させる制御である。車両固定制御は、EPBシステム341またはP-Lockシステム342を作動させて、VP20の車輪が固定された状態とする制御である。車両固定制御が完了すると、統合制御マネージャ31の状態が、自動運転OFFの状態に移行する。なお、緊急停止スイッチ39が操作されて自動運転OFFの状態に移行された場合は、VP20が起動された状態のままでの自動運転ONの状態への移行は禁止され、VP20が一旦、起動されていない状態とされ、ADK10等の不具合の影響無しに正常に起動できた場合に、自動運転ONの状態への移行が許可される。
【0060】
このように、VP20が停車していない(車速が0km/hより大きい)ことを条件として、統合制御マネージャ31のプロセッサによって、自動運転ON(自動運転モード)の状態から自動運転OFF(手動運転モード)への遷移が禁止される。また、緊急停止スイッチ39が操作された場合、統合制御マネージャ31のプロセッサによって、VP20が動かない状態(ここでは、VP20の車輪が固定された状態)とされたことを条件として、統合制御マネージャ31のプロセッサによって、自動運転ON(自動運転モード)の状態から自動運転OFF(手動運転モード)の状態に遷移される。また、自動運転OFF(手動運転モード)の状態に移行した場合、VP20が起動されていない状態から起動されたことを条件として、統合制御マネージャ31のプロセッサによって、自動運転ONへの移行が許可される。
【0061】
この緊急停止スイッチ39が操作された場合の制御と同様の制御が、VCIBからのRDK(Remote Driving Kit)リンプアサイド制御においても従来から実行されている。RDKは、ADK10の代わりに遠隔でオペレータがVP20の運転を制御するシステムである。RDKリンプアサイド制御は、RDKの制御が失陥した場合に車両1を適切に自動停車させるための制御である。
【0062】
RDKからの指令が受付不能になった場合、VCIB40から統合制御マネージャ31に、RDKリンプアサイド制御の要求が送信される。自動運転ONかつフェールセーフ制御が無しである状態において、VCIB40からのRDKリンプアサイド制御の要求が統合制御マネージャ31に送信された場合は、統合制御マネージャ31の状態が、自動運転ONかつフェールセーフ制御が無しである状態から、自動運転ONかつフェールセーフ制御が(1)RDKリンプアサイド制御である状態に移行する。
【0063】
自動運転ONかつフェールセーフ制御が(1)RDKリンプアサイド制御である状態において、走行中である場合は、統合制御マネージャ31は減速制御および操舵制御を実行し、停車中である場合、または、減速制御および停車制御で停車が完了した場合は、統合制御マネージャ31は、車両固定制御を実行する。減速制御および車両固定制御は、上述と同様である。操舵制御は、ステアリングシステム33を制御して適切な場所にVP20を向かわせる制御である。車両固定制御が完了すると、統合制御マネージャ31の状態が、自動運転OFFの状態に移行する。
【0064】
自動運転ONかつフェールセーフ制御が(1)RDKリンプアサイド制御である状態において、緊急停止スイッチ39が操作されたことを示す操作信号が統合制御マネージャ31に入力された場合は、統合制御マネージャ31の状態が、自動運転ONかつフェールセーフ制御が(1)RDKリンプアサイド制御である状態から、自動運転ONかつフェールセーフ制御が(2)緊急停止スイッチ制御である状態に移行する。自動運転ONかつフェールセーフ制御が(2)緊急停止スイッチ制御である状態においては、上述と同様の制御が実行される。
【0065】
このように、RDKからの指令を受付不能となった場合、VP20が動かない状態(ここでは、VP20の車輪が固定された状態)とされたことを条件として、統合制御マネージャ31のプロセッサによって、自動運転ON(自動運転モード)の状態から自動運転OFF(手動運転モード)の状態に遷移される。また、RDKからの指令を受付不能となったときに緊急停止スイッチ39が操作された場合、VP20が動かない状態(ここでは、VP20の車輪が固定された状態)とされたことを条件として、統合制御マネージャ31のプロセッサによって、自動運転ON(自動運転モード)の状態から自動運転OFF(手動運転モード)の状態に遷移される。
【0066】
なお、上述した統合制御マネージャ31のプロセッサによる処理が、VCIB41,42のプロセッサと協調して実行されるようにしてもよいし、他のプロセッサによって実行されるようにしてもよい。
【0067】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0068】
1 車両、10 自動運転キット(ADK)、11 自動運転システム(ADS)、111 コンピュータ、111A,111B 通信モジュール、113 認識用センサ、114 姿勢用センサ、115 センサクリーナ、20 車両プラットフォーム(VP)、30 ベース車両、31 統合制御マネージャ、32,321,322 ブレーキシステム、33,331,332 ステアリングシステム、34 パワートレーンシステム、341 EPB、342 P-Lockシステム、343 推進システム、35 アクティブセーフティシステム、36 ボディシステム、39 緊急停止スイッチ、40~42 車両制御インターフェースボックス(VCIB)、51,52 車輪速センサ、53 ピニオン角センサ、54 カメラ、55,56 レーダセンサ。