(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178679
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】リアクタンス補償回路
(51)【国際特許分類】
H02J 50/12 20160101AFI20241218BHJP
【FI】
H02J50/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097003
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】近藤 尚弥
(72)【発明者】
【氏名】笹谷 卓也
(72)【発明者】
【氏名】平野 哲夫
(57)【要約】
【課題】リアクタンスの補償範囲の拡大と、大電力化とを両立できるリアクタンス補償回路を提供する。
【解決手段】リアクタンス補償回路8において、3つの位相調整用主回路3(1)~3(3)を、送電回路2より電力が供給される負荷1に直列に接続する。信号生成回路5は、送電回路2より得られる出力電圧Vsの位相情報に基いて、主回路3(1)~3(3)に対応して設けられる駆動回路7(1)~7(3)に共通の制御信号1を出力する。駆動回路7(1)~7(3)の入力側にそれぞれ設けられる遅延器6(1)~6(3)は、制御信号1の位相をそれぞれ異なる遅延量で遅延させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送電回路(2、22)より電力が供給される負荷(1)と、
この負荷に直列に接続され、それぞれが1つ以上のスイッチング素子(SW1,SW2)及びコンデンサ(C1,C2)を有してなる複数の位相調整用主回路(3(1)~3(3)、32(1)~32(3))と、
これら複数の位相調整用主回路に対応して設けられる複数の駆動回路(7(1)~7(3))と、
前記送電回路より得られる出力電圧の位相情報に基いて、前記複数の駆動回路に共通の駆動制御信号を出力する信号生成回路(5)と、
前記複数の駆動回路の入力側にそれぞれ設けられ、駆動制御信号の位相を遅延させる複数の遅延器(6(1)~6(3))と、を備え、
前記複数の遅延器は、入力される駆動制御信号を、それぞれ異なる遅延位相量を持つリアクタンス補償回路。
【請求項2】
前記複数の遅延器は、前記負荷に近い位置に配置される位相調整用主回路に対応した遅延器ほど、遅延位相量がより大きくなるように設定されている請求項1記載のリアクタンス補償回路。
【請求項3】
前記複数の遅延器は、各位相調整用主回路に入力される駆動信号が、隣接する位相調整用主回路に入力される駆動信号に対して0.1ns~10nsの位相差を持つように位相を遅延させる請求項2記載のリアクタンス補償回路。
【請求項4】
前記複数の位相調整用主回路にそれぞれ設けられ、当該主回路に発生する電圧の振幅値を検出する主回路検出部(33)と、
前記複数の遅延器の少なくとも一部に設けられ、前記主回路検出部の検出値に基いて、付与する遅延量を補正する補正部(36(1),36(2))と、
前記位相調整用主回路が有するスイッチング素子に印加される電圧を制限するため、前記スイッチング素子と並列に接続されるツェナーダイオード(ZDi1,ZDi2)と、を備える請求項1から3の何れか一項に記載のリアクタンス補償回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電回路より負荷に電力を供給する装置において、リアクタンスを補償する回路に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ワイヤレス給電装置において、共振周波数を調整するため、負荷であるアンテナのリアクタンス成分を補償する構成が開示されている。特許文献1では、コンデンサとスイッチング素子を備える主回路により、送電回路の出力電圧から位相を90度遅延させた電圧源として動作させることで、リアクタンスを補償している。そして、補償できるリアクタンスの範囲を拡大するために、複数の主回路をカスケード接続する構成が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2013/057896号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のカスケード接続を想定すると、主回路を構成する部品であるコンデンサ、スッチング素子間を接続する配線と、駆動回路や送電回路の内部にあるグランドとの間の寄生容量に起因して、スイッチング素子に印加される電圧が所望の値より高くなる。すると、使用するスイッチング素子の耐圧が制約となり、リアクタンスの補償範囲を思うように拡大できなくなる。そこで、寄生容量を低減するために主回路の配線幅を狭くすると、許容電流値が低下するため、大電力化のニーズに応えられなくなってしまう。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、リアクタンスの補償範囲の拡大と、大電力化とを両立できるリアクタンス補償回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載のリアクタンス補償回路によれば、それぞれが1つ以上のスイッチング素子及びコンデンサを有してなる複数の位相調整用主回路を、送電回路(2、22)より電力が供給される負荷(1)に直列に接続する。信号生成回路(5)は、送電回路より得られる出力電圧の位相情報に基いて、複数の位相調整用主回路(3(1)~3(3)、32(1)~32(3))に対応して設けられる複数の遅延器(6(1)~6(3))に共通の制御信号を出力する。複数の遅延器は、それぞれ異なる遅延位相量を有し、対応する駆動回路7(1)~7(3)に、それぞれ異なる位相の制御信号を出力する。それぞれの駆動回路は、対応する遅延器が出力する制御信号の位相に基づいて、スイッチング素子の駆動信号を生成する。
【0007】
複数の駆動回路を共通の制御信号により制御することを想定すると、各位相調整用主回路に流れる電流振幅の差によって、スイッチング素子をオンした際にコンデンサに充電される電荷量に差が生じる。この電荷量の差は、スイッチング素子に印加される電圧の差になる。これに対して、請求項1では、複数の遅延器によって、各駆動回路にそれぞれ入力される制御信号の位相をそれぞれ異なる位相で遅延させる。これにより、各コンデンサに充電される電荷量の差が小さくなるように調整することができる。したがって、各スイッチング素子に印加される電圧の差を縮めることで、リアクタンスの補償範囲を拡大できると共に、大電力化も図ることができる。
【0008】
具体的には、請求項2記載のリアクタンス補償回路のように、複数の遅延器によって付与される遅延位相量を、負荷に近い位置に配置される位相調整用主回路に対応した遅延器ほど、より大きくなるように設定することで、各スイッチング素子に印加される電圧がほぼ等しくなるように調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態であり、送電回路と負荷に接続されたリアクタンス補償回路の構成を示す図
【
図2】
図1における複数の駆動回路を共通の制御信号で動作させた場合に、1周期のスイッチング動作で各主回路のコンデンサC1に充電される電荷量を示す波形図
【
図3】第1実施形態における1周期のスイッチング動作で、各主回路のコンデンサC1に充電される電荷量を示す波形図
【
図4】
図1における複数の駆動回路を共通の制御信号で動作させた場合に得られるリアクタンス補償範囲を示す図
【
図6】第2実施形態であり、駆動回路及び主回路の具体構成例を示す図
【
図7】第3実施形態であり、信号生成回路の具体構成例を示す図
【
図8】第4実施形態であり、信号生成回路を、送電回路が備えるものと兼用した構成例を示す図
【
図9】第5実施形態であり、送電回路と負荷に接続された位相遅延補正回路を有するリアクタンス補償回路の構成を示す図
【
図11】位相遅延補正回路の動作を示すタイミングチャート
【
図12】位相遅延補正回路の動作を示すフローチャート
【
図13】位相遅延補正回路の動作に応じて、各主回路に加わる電圧が変化する状態を示すタイミングチャート
【
図14】主回路の寄生容量と負荷のリアクタンス成分に対して、遅延器により付与する遅延時間の具体数値例を示す図
【
図15】
図14における適切な遅延時間を設定しなかった場合に生じる、各主回路のスイッチング素子に印加される電圧のバラツキを示す図
【
図16】第6実施形態であり、第1実施形態における負荷の両端にLCフィルタ回路を搭載した構成を示す図
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1に示すように、負荷1には、送電回路2により交流電力が供給される。負荷1とグランドとの間には、位相調整用の3つの主回路3(1)~3(3)が直列に接続されている。主回路3は、1つのスイッチング素子と1つのコンデンサを備える直列回路2つを、並列に接続した構成である。スイッチング素子SW1及びSW2は、例えばNチャネルMOSFET等である。尚、送電回路2により供給される交流電力の周波数は、ここでは例えばMHz帯を想定している。
【0011】
主回路3(1)のスイッチング素子SW1及びSW2の共通接続点は、負荷1に接続されている。主回路3(1)のコンデンサC1及びC2の共通接続点は、主回路3(2)のスイッチング素子SW1及びSW2の共通接続点に接続されている。主回路3(2)のコンデンサC1及びC2の共通接続点は、主回路3(3)のスイッチング素子SW1及びSW2の共通接続点に接続されている。主回路3(2)のコンデンサC1及びC2の共通接続点は、グランドに接続されている。
【0012】
負荷1のインピーダンスはZl(=R+jX)であり、送電回路2から負荷側をみたインピーダンスはZinである。また、各主回路3(1)~3(3)にそれぞれ入力される電流をI1~I3とする。
主回路3(1)~3(3)は、制御部4により制御される。制御部4は、信号生成回路5、遅延器6(1)~6(3)、及び駆動回路7(1)~7(3)を備えている。信号生成回路5は、送電回路2より出力電圧Vsの位相情報を取得し、遅延器6(1)~6(3)に対して共通の制御信号である制御信号1を出力する。遅延器6(1)~6(3)は、制御信号1をそれぞれ異なる位相で遅延させて制御信号2~4を生成し、駆動回路7(1)~7(3)に出力する。
【0013】
駆動回路7(1)は、制御信号2に基づいて、主回路3(1)のスイッチング素子SW1、SW2をそれぞれ駆動する駆動信号1,2を出力する。駆動回路7(2)は、制御信号3に基づいて、主回路3(2)のスイッチング素子SW1、SW2をそれぞれ駆動する駆動信号3,4を出力する。駆動回路7(3)は、制御信号4に基づいて、主回路3(3)のスイッチング素子SW1、SW2をそれぞれ駆動する駆動信号5,6を出力する。駆動信号2,4,6は、それぞれ駆動信号1,3,5のレベルを反転したものである。以上において、負荷1及び送電回路2を除いたものが、リアクタンス補償回路8を構成している。
【0014】
次に、本実施形態の作用について説明する。
図2は、比較のため遅延器6(1)~6(3)がなく、駆動回路7(1)~7(3)に共通の制御信号1をそのまま出力した場合を想定している。コンデンサC1には、スイッチング素子SW1のターンオンタイミングから所定時間の間に電荷が充電されるが、各主回路を構成する部品であるコンデンサ、スイッチング素子間を接続する配線と、駆動回路や送電回路の内部にあるグランドとの間の寄生容量に起因して、各電流I1~I3の振幅はそれぞれ異なる。負荷1に近い側の電流I1の振幅は大きく、負荷1より遠い側の電流I3の振幅は小さくなる。
【0015】
スイッチング素子SW1がオンする期間内でコンデンサC1の充放電が行われる。電荷Qの充電量から放電量を差し引いた量は、図中にハッチングで示す部分になり、主回路3(1)~3(3)の順に多くなる。スイッチング素子SW1に印加される電圧は、コンデンサC1に充電される電荷量で決まるため、
図4に示すように、主回路3(1)~3(3)の順に大きくなる。
【0016】
これに対して、本実施形態では、遅延器6(1)~6(3)により、制御信号1をそれぞれ異なる位相で遅延させて制御信号2~4を生成する。
図3では、遅延器6(3)の位相遅延量をゼロにして主回路3(3)を
図2と同じ波形にしている。遅延器6(1)~(2)にはそれぞれ一定の位相遅延量を設定し、遅延器6(1)の位相遅延量を遅延器6(2)より多く設定することで、スイッチング素子SW1がオンする1周期でコンデンサC1に充電される電荷Qの量が、主回路3(1)~3(3)で等しくなるように調整できる。
【0017】
本実施形態の遅延器6(1)~6(3)がなければ、上述のように、各主回路3(1)~3(3)におけるそれぞれのコンデンサC1、C2が充電する電荷量が相違するため、
図4に示すように、それぞれのスイッチング素子SW1、SW2に印加される電圧の大きさが異なる。したがって、同図のケースでは、リアクタンスの補償範囲は主回路3(1)により限定され、上述した寄生容量が存在しない場合に得られる所望の特性での範囲より狭くなる。
【0018】
これに対して、本実施形態では、遅延器6(1)~6(3)で付与する位相遅延量によりコンデンサC1、C2が充電する電荷量の違いを無くし、
図5に示すように、各主回路3(1)~3(3)のスイッチング素子SW1、SW2に印加される電圧が等しくなるように調整するため、リアクタンスの補償範囲を、寄生容量が存在しない場合に得られる所望の特性での範囲まで広くすることが可能になる。
【0019】
以上のように本実施形態によれば、リアクタンス補償回路8において、3つの位相調整用主回路3(1)~3(3)を、送電回路2より電力が供給される負荷1に直列に接続する。信号生成回路5は、送電回路2より得られる出力電圧Vsの位相情報に基いて、主回路3(1)~3(3)に対応して設けられる遅延器6(1)~6(3)に共通の制御信号1を出力する。遅延器6(1)~6(3)は、制御信号1の位相をそれぞれ異なる位相で遅延させ、制御信号2~4を駆動回路7(1)~(3)に出力する。
【0020】
これにより、各コンデンサC1、C2に充電される電荷量の差が小さくなるように調整することができる。したがって、各スイッチング素子SW1、SW2をオンした際に印加される電圧の差を縮めることで、リアクタンスの補償範囲を拡大できると共に、大電力化も図ることができる。具体的には、遅延器6(1)~6(3)によって付与される遅延位相量を、負荷1に近い位置に配置される順に大きくなるように設定することで、各スイッチング素子SW1、SW2に印加される電圧がほぼ等しくなるように調整できる。
【0021】
(第2実施形態)
図6に示すように、第2実施形態は駆動回路7の構成例を示す。駆動回路7は、ゲート駆動IC13及びパルストランス14を備えている。ゲート駆動IC13の出力端子は、パルストランス14の1次側コイル15に接続されている。パルストランス14は、2つの2次側コイル16,17を備えており、2次側コイル16は正相、2次側コイル17は逆相である。主回路3のスイッチング素子SW1及びSW2は、それぞれNチャネルMOSFETで示している。2次側コイル16の両端はスイッチング素子SW1のゲート、ソースに接続され、2次側コイル17の両端はスイッチング素子SW2のゲート、ソースに接続されている。
【0022】
このように、駆動回路7を、パルストランス14を用いて構成することで、入出力間を絶縁できると共に、スイッチング素子SW1及びSW2をMHz帯の高周波で駆動できる。尚、ゲート駆動IC13の駆動能力が許容すれば、3つ以上のスイッチング素子を駆動することも可能である。
【0023】
(第3実施形態)
図7に示すように、第3実施形態は信号生成回路5の構成例を示す。信号生成回路5は、トランス18及びコンパレータ19を備えている。トランス18の1次側コイル20には、送電回路2が出力する正弦波電圧Vsが入力される。2次側コイル21の一端はグランドに接続され、他端はコンパレータ19の反転入力端子に接続されている。コンパレータ19の非反転入力端子は、直流電源に接続されている。トランス18により、入力電圧Vsの正弦波は降圧されてコンパレータ19に入力され、矩形波の制御信号1に変換される。
【0024】
(第4実施形態)
図8に示すように、第4実施形態は、信号生成回路5を、送電回路2に替わる送電回路22の内部に配置した構成を示す。送電回路22は、直流電源とグランドとの間に接続されるインダクタ及びNチャネルMOSFETの直列回路、この直列回路に接続される複数のコンデンサ及びインダクタを含む共振型インバータ23を有しており、上記のFETを駆動することで交流電力を送電する。また、FETを駆動する駆動回路部分24と、駆動回路の制御信号を生成する信号生成回路が必要であるため、第1実施形態における信号生成回路5は送電回路22の信号生成回路と共通化できる。このように、信号生成回路5として、送電回路22に内蔵されているものを利用すれば、リアクタンス補償回路をより小型に構成できる。
【0025】
(第5実施形態)
図9に示すように、第5実施形態のリアクタンス補償回路31は、主回路3に替わる主回路32を備えている。主回路32では、スイッチング素子SW1及びSW2それぞれにツェナーダイオードZDi1及びZDi2が並列に接続されている。ツェナーダイオードZDi1及びZDi2は、スイッチング素子SW1及びSW2を過電圧から保護するためのものである。また、ZDi1のカソードとZDi2のアノードに、位相調整用主回路の電圧検出器としてのトランス33の1次側が接続されている。トランス33(1)~33(3)の2次側では、ZDi1のカソードとZDi2のアノード間に印加された電圧V1a~V3aを降圧した電圧V1b~V3bを出力する。
【0026】
制御部10に替わる制御部34では、遅延器6(1)~6(3)に替えて、遅延器35並びに補正部に相当する位相遅延補正回路36(1)及び36(2)が配置されている。遅延器35は、信号生成回路5より出力される制御信号1を、例えば最大で180度遅延させたものを制御信号2として出力する。制御信号2は、位相遅延補正回路36(1)及び36(2)並びに駆動回路7(3)に入力される。位相遅延補正回路36(1)には、電圧V1b及びV3bが入力され、制御信号3が生成されて駆動回路7(1)に入力される。位相遅延補正回路36(2)には、電圧V2b及びV3bが入力され、制御信号4が生成されて駆動回路7(2)に入力される。
【0027】
図11に示すように、位相遅延補正回路36において、制御信号2は、抵抗素子Rtr及びコンデンサCtrからなる三角波発生部37に入力される。抵抗素子Rtr及びコンデンサCtrの共通接続点は、カップリングコンデンサ38及びバッファ39を介して、Dフリップフロップ40のクロック端子CLKに接続されている。
【0028】
可変直流電源41の正側端子は、抵抗素子42及び43を介してグランドに接続されている。抵抗素子42及び43の共通接続点は、バッファ39の入力端子;節点Aに接続されている。電圧V1b又はV2bと電圧V3bとは、位相遅延制御部44に入力されている。位相遅延制御部44は、電圧V1b又はV2bと電圧V3bとの差に応じて電圧指令を出力し、可変直流電源41の電圧Vbを制御する。
【0029】
Dフリップフロップ40のプリセット端子PREはグランドに接続され、入力端子Dは電源にプルアップされている。出力端子Qからは、制御信号3又は4が出力される。出力端子Qバーは、抵抗素子45及びコンデンサ46を介してグランドに接続されている。また、出力端子Qバーは、抵抗素子47及びショットキーバリアダイオード48を介して抵抗素子45及びコンデンサ46の共通接続点に接続されている。前記共通接続点は、インバータ49を介してDフリップフロップ40のクリア端子CLRに接続されている。出力端子Qバーのレベルがローになると、コンデンサ46が放電されてインバータ49の出力信号がハイレベルとなり、Dフリップフロップ40はクリアされる。
【0030】
図11に示すように、位相遅延補正回路36では、入力される制御信号2に基づき三角波発生部37により発生させた三角波に、位相遅延制御部44により制御される可変直流電源41の電圧Vbがオフセットとして印加される。これにより、三角波の振幅が、バッファ39の閾値Vthを超えるタイミングを変化させる。その変化に応じて、制御信号3又は4の位相が変化する。
【0031】
次に、第5実施形態の作用について説明する。
図12に示すフローチャートは、位相遅延補正回路36の回路動作を表している。
図13は、位相遅延補正回路36によって各主回路に印加される電圧が近づく過程を示している。なお、位相遅延補正回路36(1)及び36(2)は、常にどちらか一方のみが動作する。
図12と
図13は、最初に位相遅延補正回路36(1)が動作し、次に位相遅延補正回路36(2)が動作するとして記載している。
図13に示すように、各電圧V1a(b)~V3a(b)が飽和した後に、位相遅延補正回路36(1)は、電圧V1a(b)とV3a(b)とを比較する(S1;
図13(時点A,B))。(V1a(b)>V3a(b))であれば(S2;YES)電圧V1a(b)とV3a(b)との差分が許容値以下か否かを判断する(S3)。
【0032】
差分が許容値以下でなければ(S3;NO)、主回路32(1)に出力する駆動信号1,2をΔtだけ遅延させてから(S7)ステップS1に戻る。ステップS1~S3→S7→S1のループは、
図13に示す時点Aから時点Cの区間に対応する。差分が許容値以下であれば(S3;YES)、位相遅延補正回路36(2)は電圧V2a(b)とV3a(b)とを比較する(S4;
図13(時点C,D))。ステップS2で「NO」と判断した場合もステップS4に移行する。(V2a(b)>V3a(b))であれば(S5;YES)電圧V2a(b)とV3a(b)との差分が許容値以下か否かを判断する(S6)。
【0033】
差分が許容値以下でなければ(S6;NO)、主回路32(2)に出力する駆動信号3,4をΔtだけ遅延させてから(S8)ステップS1に戻る。差分が許容値以下であれば(S6;YES)処理を終了する。ステップS5で「NO」と判断した場合も処理を終了する。処理の終了は、
図13に示す時点Cから時点Eの区間に対応する。尚、上記の処理は、送電回路2より電力が送電されている間に繰り返し実行される。
【0034】
ここで、主回路32が、送電回路2が交流周波数6.78MHzで1.5kWの電力を送電する場合に対応した構成であるものとする。また、主回路32の寄生容量が、1つ当たり20pF~100pF存在する条件を前提にすると、主回路32(1)、32(2)に対して付与する位相遅延は0.1ns~10nsの範囲に限定される。以下、この限定について説明する。
【0035】
図14は、リアクタンス補償回路31について回路シミュレーションを行って算出した、主回路32(1)~32(3)のスイッチング素子SW1及びSW2に印加される電圧が同等になる位相遅延設定値を、寄生容量と負荷のリアクタンス成分毎に示している。寄生容量と負荷のリアクタンス成分が大きくなる程必要な遅延量は大きくなる。寄生容量100pFで、且つ負荷リアクタンスが、寄生容量をゼロとした理想条件で得られる補償可能なリアクタンスの最大値と等しい162Ωでも、必要な遅延は6ns~8ns程度である。
【0036】
また、
図15に示すように、必要以上の遅延を設定した場合は、負荷に直接接続している主回路32(1)より、主回路32(2)と(3)の方がスイッチング素子SW1及びSW2に印加される電圧が大きくなるため、リアクタンスの補償範囲は、適切な遅延を設定した時より低減する。これらの結果より、第6実施形態において、主回路32(1)、32(2)に対して付与する位相遅延は0.1ns~10nsの範囲に限定されるという結論を導き出した。尚、この結論は第1実施形態についても同様である。
【0037】
(第6実施形態)
図16に示すように、第6実施形態は、第1実施形態の負荷1の両端に、それぞれLCフィルタ回路52,53を配置した構成である。これにより、リアクタンス補償回路8における主回路3のスイッチング素子ング動作によって発生する高調波ノイズを、負荷1に流入する前に減衰させることができる。
【0038】
(その他の実施形態)
位相調整用主回路については、1つ以上のスイッチング素子及びコンデンサを備えていれば良い。
また、位相調整用主回路の数は、2又は4以上でも良い。
スイッチング素子は、NチャネルMOSFETに限らない。
第6実施形態で提示した遅延時間の限定範囲は、同時実施形態における周波数や電力、回路定数等の条件を前提とするものであるから、上記の限定範囲に限ることはない。
【0039】
本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0040】
図面中、1は負荷、2は送電回路、3は主回路、4は制御部、5は信号生成回路、6は遅延器、7は駆動回路、SW1及びSW2はスイッチング素子、C1及びC2はコンデンサを示し、8は3から7を含むリアクタンス補償回路を示す。