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  • 特開-セメント量の推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178696
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】セメント量の推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/38 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097034
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000115463
【氏名又は名称】ライト工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 高明
(72)【発明者】
【氏名】村田 晋一
(57)【要約】
【課題】セメント量の推定方法の新たな方法とする。
【解決手段】セメントを含む材料のセメント量を推定するにあたり、材料に酸溶液を添加してカルシウム分を溶解させ、アルカリ溶液を添加してpHを調節し、カルシウムイオン選択電極を使用してカルシウム量を測定し、得られた測定値に基づいてセメント量を推定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントを含む材料のセメント量を推定するにあたり、
前記材料に酸溶液を添加してカルシウム分を溶解させ、
アルカリ溶液を添加してpHを調節し、
カルシウムイオン選択電極を使用してカルシウム量を測定し、
得られた測定値に基づいてセメント量を推定する、
ことを特徴とするセメント量の推定方法。
【請求項2】
前記測定値に希釈倍率を掛け、カルシウムの割合で割ることでセメント量を推定する、
請求項1に記載のセメント量の推定方法。
【請求項3】
セメントを含む試料を作製し、この試料についてセメント量とカルシウム量との関係式を作成しておき、
この関係式のカルシウム量に前記測定値を代入して前記セメント量の推定を行う、
請求項1に記載のセメント量の推定方法。
【請求項4】
前記カルシウムイオン選択電極による推定値と原子吸光光度法及びICP発光分析法の少なくともいずれか一方による分析値との関係式を作成しておき、この関係式に基づいて補正する、
請求項2又は請求項3に記載のセメント量の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、地盤改良工法等において地盤に混入されたセメントの量を推定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法等においては、施工後の硬化確認をサンプリング試料の強度確認を実施して行うのが一般的である。しかしながら、通常固化材として用いられるセメントは、最終強度発現まで1か月程度の時間を要し、施工後28日以上の日数を待って試験をすることが一般的である。しかるに、セメントと地盤の撹拌状態に懸念がある場合等においては、早期に混合状態を把握する必要があり、地盤に混入されたセメントを含む固化材の量を把握する必要がある。この必要から、固化材が混入された地盤、すなわち、セメントを含む材料中のセメント量を推定する方法が提案されている。
【0003】
このセメント量の推定方法としては、例えば、固化材が混入された材料と酸とを接触させるステップと、材料中のセメントと酸とを中和反応させた際のpHの時間変化特性を取得するステップと、取得した時間変化特性に基づいてセメント量を推定するステップとを有する推定方法がある(特許文献1)。
【0004】
しかしながら、pHの時間変化特性という基準が曖昧で、しかも時間がかかり、また、セメント量の推定方法の新たな提案も期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-59851号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、セメント量の推定方法の新たな提案である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段は、
セメントを含む材料のセメント量を推定するにあたり、
前記材料に酸溶液を添加してカルシウム分を溶解させ、
アルカリ溶液を添加してpHを調節し、
カルシウムイオン選択電極を使用してカルシウム量を測定し、
得られた測定値に基づいてセメント量を推定する、
ことを特徴とするセメント量の推定方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、セメント量の推定方法の新たな提案となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】原子吸光の結果から算出したセメント量である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、発明を実施するための形態を説明する。なお、本実施の形態は本発明の一例である。本発明の範囲は、本実施の形態の範囲に限定されない。
【0011】
本形態の方法においては、まず、セメントを含む材料に塩酸等の酸溶液を添加してセメント中のカルシウム分を溶解させる。次に、水酸化ナトリウム等のアルカリ溶液を添加してカルシウムイオン選択電極が使用可能となるpHに調節する。このpHは、通常5~11、好ましくは6~8である。pHを調節したら、次に、カルシウムイオン選択電極を使用してカルシウム量を測定する。そして、この測定値(カルシウム量)に基づいてセメント量を推定する。
【0012】
この点、セメントの種類によって異なりはするが、各種セメントが含有するカルシウムの量はほぼ一定である。また、セメントに含まれるカルシウムの量は、一般土壌中に含まれるカルシウムの量よりも著しく多い。したがって、セメントを含む材料中のカルシウム量を測定することで当該材料中のセメント量を推定することができる。
【0013】
ちなみに、本形態が対象とするセメントに限定はなく、地盤改良工法において使用されるセメント、例えば、ポルトランドセメント、石膏、高炉スラグ微粉末等で構成される種々の水硬性粉体(固化材)、高炉B種セメント、一般軟弱土用セメント系固化材等が対象となる。また、セメントを含む材料にも限定はなく、例えば、ソイルセメント、モルタル、コンクリート等が対象になる。
【0014】
ところで、液間の電位差を測定することで水溶液中の濃度を測定するものとして、pHが一般的に知られている。このpHは溶液中の水素イオン濃度を示すものであるが、これはガラス電極のガラス膜電位が水素イオンに選択的であることを利用して測定するものである。同様に、カルシウムイオンに選択的な膜電位を持つ電極(カルシウムイオン選択電極)を使用して電位差測定をすることにより、溶液中のカルシウムイオンの量(濃度)を測定することができる。
【0015】
本形態においてカルシウム分を溶解させる酸溶液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、グルコン酸等の水溶液を例示することができる。塩酸の場合であれば、次の式のように反応が進む。
【0016】
CaO + 2HCl → CaCl + H
【0017】
また、pH調整のためのアルカリ溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、炭酸ナトリウム等の水溶液を例示することができる。
【0018】
測定値(カルシウムの量)に基づいてセメント量を推定するにあたっては、次の方法によることができる。
【0019】
まず1つの方法は、測定したカルシウム量に希釈倍率を掛け、各種セメントに含まれるカルシウムの割合で割ることでセメント量を推定する(セメント量の推定値=カルシウムの測定値×希釈倍率/セメントに含まれるカルシウムの割合)。
【0020】
具体的には、例えば、高炉B種セメント(カルシウム分40%)を含む材料100mlを、酸溶液でカルシウム分を溶解し、アルカリ溶液でpHを調整し、その後に水で希釈し500ml(5倍希釈)とした場合において、カルシウムイオン選択電極によるカルシウム量の測定値が50g/Lだとすると、
セメント量の推定値=50×5/0.4=625kg/m
となる。
【0021】
また、この方法による場合においては、次のように補正するとより好ましいものとなる。
補正したセメント量の推定値=カルシウムイオン選択電極によるセメント量の推定値(=上記セメント量の推定値)×補正値
ここで、補正値=カルシウムイオン選択電極による推定値/原子吸光光度法及びICP発光分析法の少なくともいずれか一方による分析値である。
【0022】
先の例において補正値が0.9であるとすると、
補正したセメント量の推定値=625/0.9=694kg/m
である。
【0023】
この補正は、次の理由により行うものである。カルシウムイオン選択電極による方法は原子吸光光度法と比較してカルシウムの溶出時間が短いこと、また希釈誤差を最小限にするために希釈率を抑えており排泥濃度が高いためカルシウムの溶出が抑制されていること、さらに現場試料土は湿潤状態であり水を含んでいるため希釈倍率の値以上に希釈されている可能性があることである。つまり、カルシウムイオン選択電極による測定値は、原子吸光光度法測定値より低い傾向にあり、上記関係式(1)を考慮することでより正確なセメント量の推定が可能となるのである。また、改良対象地盤が貝殻層や石灰石を多量部含む場合は、推定セメント量に正の誤差を生じやすいことなども補正の理由である。
【0024】
ちなみに、上記補正値は、原子吸光光度法の場合、例えば、0.8~1.0、好ましくは0.9である。
【0025】
測定値(カルシウムの量)に基づいてセメント量を推定する次の方法は、セメントを含む材料(例えば、土質材料とセメントを含む固化材とを混合してセメントを含む試料としたものなど。)を作製し、この試料についてセメント量とカルシウム量との関係式を作成しておき、この関係式にカルシウムイオン選択電極による測定値を代入してセメント量の推定を行う方法である。この方法は、新たなセメント含有材料が対象になり、上記カルシウムの割合や補正値に関する知見がない場合等に有用である。なお、この方法においても、前述補正を行うことができる。
【0026】
以上、本形態のカルシウムイオン選択電極を使用した推定方法においては、カルシウム濃度が高くても可能であり、希釈工程の簡素化や測定誤差の低減を図ることができる。また、電極を溶液に浸すのみで測定することができるため、極めて容易に推定することができる。このことは、測定装置の小型化、簡素化につながる。
【実施例0027】
次に、本発明の実施例について、説明する。
(セメントペーストにおけるカルシウム定量)
以下の手順でカルシウム量からセメント量を推定(算出)する試験を行った。
【0028】
まず、セメント(高炉B種)及び練り水(イオン交換水)を混ぜてセメント濃度が25~100kg/mの溶液100mlとした。この溶液は、15分間攪拌した。次に、10%濃度の塩酸及び希釈水(イオン交換水)を添加して、容量を400mlとした。この溶液は、10分間攪拌した。この時点でpH(溶解後pH)を測定した。次に、6mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7前後に調節した。次に、希釈水(イオン交換水)を添加して、容量を500mlとした。次に、カルシウムイオン選択電極を使用してカルシウム量を測定した。測定値が安定するまでは、3~5分であった。結果を表1に示した。
【0029】
【表1】
【0030】
(考察)
酸溶液を添加した後のpHが弱酸性の場合、固化材からのカルシウムの溶出が不十分となり誤差が大きくなる傾向にある。pHを3以下にすることで溶出量が増加し、精度よく測定可能となることが分かった。
【0031】
(模擬排泥におけるカルシウム定量)
上述セメントペーストと同様の試験を模擬排泥について行った。結果を表2に示した。
【0032】
【表2】
【0033】
(考察)
セメントペーストでの結果と同様に酸溶液を添加した後のpHを3以下にすることでカルシウムの溶出量が増加し、精度よく測定可能となることが分かった。
【0034】
(現場排泥におけるカルシウム定量)
上述セメントペーストと同様の試験を現場排泥について行った。ただし、この試験については、カルシウム量の測定をイオンメーター(現場測定)及び原子吸光(後日測定)の2通りで行った。具体的には、以下のとおりとした。
【0035】
まず、イオンメーターによる場合は、現場排泥50~100ml及び10%濃度の塩酸400~600mlを混合し、10分間攪拌した。この時点でpHが2.5以下であることを確認した。次に、6mol/lの水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH7前後に調節した。次に、希釈水(イオン交換水)を添加して、容量を1500~2000mlに調節した。そして、イオンメーター(メーター校正:10g/L,1g/L)を使用してカルシウム量を測定した。
【0036】
一方、原子吸光による場合は、乾燥排泥1~3g及び塩酸(1+50)200mlを混合し、攪拌後、2日間放置した。この放置後の溶液は、ろ過後、ろ液を500mlに希釈し、更に純水にて200倍に希釈した。そして、原子吸光にてカルシウム量を測定した。結果を表3及び図1に示した。
【0037】
【表3】
【0038】
(考察)
現場測定値(イオンメーター使用の場合)が原子吸光値より低い値となった理由は、前述したとおりである。すなわち、まず、現場測定においては高濃度の塩酸は使用しているが原子吸光分析と比較してカルシウムの溶出時間が短いことによる。また、現場測定においては希釈誤差を最小限にするために希釈率を抑えており、排泥濃度が高いためカルシウムの溶出が抑制されていることによる。したがって、現場測定値と原子吸光測定値等の関係式を作成しておくことで、現場測定値を補正してセメント量を測定するとより好適なものとなる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、例えば、地盤改良工法等において地盤に混入されたセメントの量を推定する方法として利用可能である。
図1