(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178713
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】燃料電池モジュール
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20241218BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20241218BHJP
H01M 8/04858 20160101ALI20241218BHJP
H01M 8/04664 20160101ALI20241218BHJP
H01M 8/04992 20160101ALI20241218BHJP
H01M 8/04492 20160101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M8/04 Z
H01M8/04537
H01M8/04858
H01M8/04664
H01M8/04992
H01M8/04492
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097075
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121083
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 宏義
(74)【代理人】
【識別番号】100138391
【弁理士】
【氏名又は名称】天田 昌行
(74)【代理人】
【識別番号】100074099
【弁理士】
【氏名又は名称】大菅 義之
(72)【発明者】
【氏名】小野 大輔
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127BA02
5H127BA22
5H127BA57
5H127BA58
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127CC07
5H127DB50
5H127DB53
5H127DB63
5H127DB66
5H127DB69
5H127DB74
5H127DB89
5H127DC42
5H127DC46
5H127DC50
(57)【要約】
【課題】外部負荷に実際に供給される電力が要求電力値に精度よく追従する燃料電池モジュールを提供する。
【解決手段】燃料電池モジュールは、燃料電池および外部負荷から通知される要求電力値に基づいて燃料電池の発電動作を制御する制御部を備え、外部負荷に電力を供給可能に電気的に接続される。制御部は、燃料電池により生成される電力の測定値を表す第1の電力値、燃料電池モジュールから外部負荷に供給される電力の測定値を表す第2の電力値、及び燃料電池モジュールの状態に応じて決まる発電量制限値に基づいて、燃料電池モジュールから外部負荷に供給される電力の設定値を表すモジュール電力設定値を計算する。制御部は、要求電力値またはモジュール電力設定値のうちの小さい方の値と第2の電力値との誤差に対してPI演算を行い、その演算結果を利用して燃料電池の発電動作を制御する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部負荷に電力を供給可能に電気的に接続される燃料電池モジュールであって、
燃料電池と、
前記外部負荷から通知される要求電力値に基づいて、前記燃料電池の発電動作を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、
通常発電モードまたは当該燃料電池モジュールの異常状態の検出に起因して実行される制限発電モードで発電動作を制御し、
前記燃料電池により生成される電力の測定値を表す第1の電力値、当該燃料電池モジュールから前記外部負荷に供給される電力の測定値を表す第2の電力値、および当該燃料電池モジュールの状態に応じて決まる前記燃料電池の発電量の上限を表す発電量制限値に基づいて、当該燃料電池モジュールから前記外部負荷に供給される電力の設定値を表すモジュール電力設定値を計算し、
前記要求電力値または前記モジュール電力設定値のうちの小さい方の値と前記第2の電力値との誤差に対してPI演算を行い、
前記PI演算の演算結果を利用して前記燃料電池の発電動作を制御する
ことを特徴とする燃料電池モジュール。
【請求項2】
前記制御部は、前記第1の電力値と前記第2の電力値との差分を前記発電量制限値から引算することで、前記モジュール電力設定値を計算する
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池モジュール。
【請求項3】
前記第1の電力値は、前記燃料電池の出力電流を測定する第1の電流センサによる測定値と、前記燃料電池の出力電圧を測定する第1の電圧センサの測定値とを乗算することで計算される
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池モジュール。
【請求項4】
前記第2の電力値は、当該燃料電池モジュールから前記外部負荷に供給される電流を測定する第2の電流センサによる測定値と、当該燃料電池モジュールから前記外部負荷への出力電圧を測定する第2の電圧センサによる測定値とを乗算することで計算される
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池モジュール。
【請求項5】
前記燃料電池の出力電圧を所定の直流電圧に変換するDC/DCコンバータをさらに備え、
前記第2の電流センサは前記DC/DCコンバータの出力電流を測定し、前記第2の電圧センサは前記DC/DCコンバータの出力電圧を測定する
ことを特徴とする請求項4に記載の燃料電池モジュール。
【請求項6】
前記発電量制限値は、前記燃料電池の冷却水の温度または前記燃料電池を構成する各燃料電池セルの出力電圧のうちの最低値に対して予め設定されている
ことを特徴とする請求項1に記載の燃料電池モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外部負荷に電力を供給する燃料電池モジュールに係わる。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムは、電解質を介して燃料ガスおよび酸化ガスを電気化学的に反応させることで電力を生成する。例えば、外部負荷からの要求に応じて、燃料電池に供給する燃料ガスおよび/または酸化ガスの量を調整することで、外部負荷が必要とする電力が生成される。また、燃料電池システムは、多くのケースにおいて、出力を制限する機能を備える。例えば、特許文献1に記載されている燃料電池システムは、セル電圧に応じて燃料電池の出力制限を行う機能、および出力制限中に燃料電池の出力可能な電力量が燃料電池に要求される電力量を上回った場合に出力制限を解除する機能を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の燃料電池システムにおいては、外部負荷に実際に供給される電力をモニタしてフィードバックすることで燃料電池の出力が制御される。これにより、外部負荷が要求する電力がその外部負荷に供給される。
【0005】
ところが、この方式では、外部負荷に実際に供給される電力が、その外部負荷から要求される電力値に追従できないことがある。特に、燃料電池システムの動作モードが、燃料電池の出力を制限する制限発電モードから通常の発電モードに復帰した直後において、外部負荷に実際に供給される電力が要求値から大きく乖離することがある。
【0006】
本発明の1つの側面に係る目的は、外部負荷に実際に供給される電力が要求電力値に精度よく追従する燃料電池モジュールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの態様に係わる燃料電池モジュールは、外部負荷に電力を供給可能に電気的に接続される。この燃料電池モジュールは、燃料電池と、前記外部負荷から通知される要求電力値に基づいて、前記燃料電池の発電動作を制御する制御部と、を備える。前記制御部は、通常発電モードまたは当該燃料電池モジュールの異常状態の検出に起因して実行される制限発電モードで発電動作を制御し、前記燃料電池により生成される電力の測定値を表す第1の電力値、当該燃料電池モジュールから前記外部負荷に供給される電力の測定値を表す第2の電力値、および当該燃料電池モジュールの状態に応じて決まる前記燃料電池の発電量の上限を表す発電量制限値に基づいて、当該燃料電池モジュールから前記外部負荷に供給される電力の設定値を表すモジュール電力設定値を計算し、前記要求電力値または前記モジュール電力設定値のうちの小さい方の値と前記第2の電力値との誤差に対してPI演算を行い、前記PI演算の演算結果を利用して前記燃料電池の発電動作を制御する。
【0008】
上述の構成によれば、制限発電モードにおいて燃料電池の発電量が制限されるときは、モジュール電力設定値が小さくなり、要求電力値に代わりにそのモジュール電力設定値を利用して発電制御が行われる。この場合、PI演算における2つの入力値の間の誤差が小さくなるので、制限発電モードから通常発電モードに復帰した直後においてPI演算の積分項が小さくなり、燃料電池モジュールから外部負荷に供給される電力は、短時間で要求電力値に収束する。すなわち、外部負荷に実際に供給される電力が要求電力値に精度よく追従する。
【0009】
制御部は、第1の電力値と第2の電力値との差分を発電量制限値から引算することで、モジュール電力設定値を計算してもよい。
【0010】
第1の電力値は、例えば、燃料電池の出力電流を測定する第1の電流センサによる測定値と、燃料電池の出力電圧を測定する第1の電圧センサの測定値とを乗算することで計算される。
【0011】
第2の電力値は、例えば、燃料電池モジュールから外部負荷に供給される電流を測定する第2の電流センサによる測定値と、燃料電池モジュールから外部負荷への出力電圧を測定する第2の電圧センサによる測定値とを乗算することで計算される。
【0012】
燃料電池モジュールは、燃料電池の出力電圧を所定の直流電圧に変換するDC/DCコンバータをさらに備えてもよい。この場合、第2の電流センサはDC/DCコンバータの出力電流を測定し、第2の電圧センサはDC/DCコンバータの出力電圧を測定する。
【0013】
発電量制限値は、例えば、燃料電池の冷却水の温度に対して予め設定されている。あるいは、発電量制限値は、燃料電池を構成する各燃料電池セルの出力電圧のうちの最低値に対して予め設定されている。
【発明の効果】
【0014】
上述の態様によれば、外部負荷に電力を供給する燃料電池モジュールにおいて、外部負荷に実際に供給される電力が要求電力値に精度よく追従する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係わる燃料電池モジュールの一例を示す図である。
【
図3】異常状態が検知されたときの動作を表す動作マップの例を示す図である。
【
図4】制限発電モードから通常発電モードへの復帰時に生じる課題を説明する図である。
【
図5】本発明の実施形態に係わる発電制御の一例を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態に係わる発電制御による効果を説明する図である。
【
図7】制御部の処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態に係わる発電制御のバリエーションを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の実施形態に係わる燃料電池モジュールの一例を示す。本発明の実施形態に係わる燃料電池モジュール100は、燃料電池スタック1、燃料ガス供給装置2、酸化ガス供給装置3、DC/DCコンバータ4、DC/DCコンバータ5、および制御部6を備える。また、燃料電池モジュール100は、各種センサ(V1、A1、V2、A2、T等)を備える。さらに、燃料電池モジュール100は、
図1に示していない他のデバイス、回路、機能を備えてもよい。そして、燃料電池モジュール100は、外部負荷200に電力を供給可能に電気的に接続される。外部負荷200は、特に限定されるものではないが、例えば、産業機械、産業車両、定置発電機などである。
【0017】
燃料電池スタック1は、複数の燃料電池セルから構成される。各燃料電池セルは、電解質を介して燃料ガスおよび酸化ガスを電気化学的に反応させることで電力を生成する。ただし、各燃料電池セルの出力電圧は小さいので、複数の燃料電池セルを積層させることで燃料電池スタック1が構成される。すなわち、燃料電池スタック1は、所望の電圧を出力するように、必要な数の燃料電池セルが積層されている。
【0018】
燃料ガス供給装置2は、例えば、水素インジェクタおよび水素ポンプを含み、制御部6からの指示に応じて、水素タンクから燃料電池スタック1に必要量の水素を供給する。酸化ガス供給装置3は、エアコンプレッサを含み、制御部6からの指示に応じて、燃料電池スタック1に必要量の酸化ガス(例えば、空気)を供給する。
【0019】
DC/DCコンバータ4は、燃料電池スタック1の出力電圧を指定された直流電圧に変換する。なお、DC/DCコンバータ4は、例えば、外部負荷200が必要とする直流電圧を出力するように設計される。DC/DCコンバータ5は、DC/DCコンバータ4の出力電圧を指定された直流電圧に変換する。DC/DCコンバータ5から出力される電力は、燃料電池モジュール100内の補機を動作させるために使用される。燃料電池モジュール100内の補機は、燃料電池モジュール100を動作せるための装置および回路に相当し、上述した水素ポンプ、エアコンプレッサなどを含む。なお、DC/DCコンバータ5から出力される電力は、バッテリまたはコンデンサに蓄積された後に、燃料電池モジュール100内の補機に供給されるようにしてもよい。
【0020】
制御部6は、外部負荷200から通知される要求電力値に基づいて、燃料電池モジュール100の発電動作を制御する。具体的には、制御部6は、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力が要求電力値に近づくように、燃料ガス供給装置2、酸化ガス供給装置3、およびDC/DCコンバータ4を制御する。このとき、制御部6は、電圧センサV1、電流センサA1、電圧センサV2、電流センサA2、および温度センサTの測定値を利用して、燃料電池モジュール100の発電動作を制御する。
【0021】
なお、制御部6は、この実施例では、プロセッサおよびメモリを備えるマイコン(ECU:Electronic Control Unit)により実現される。この場合、制御部6は、1個のECUで実現してもよいし、複数のECUで実現してもよい。
【0022】
第1の電流センサとしての電流センサA1は、燃料電池スタック1の出力電流を測定する。第1の電圧センサとしての電圧センサV1は、燃料電池スタック1の出力電圧を測定する。よって、制御部6は、電流センサA1および電圧センサV1の測定値を取得することにより、燃料電池スタック1が生成する電力を検出することができる。具体的には、燃料電池スタック1が生成する電力は、電流センサA1の測定値と電圧センサV1の測定値との積を計算することで得られる。なお、以下の記載では、燃料電池スタック1が生成する電力(すなわち、電流センサA1の測定値と電圧センサV1の測定値との積)を「FC発電量」または「グロス電力」と呼ぶことがある。
【0023】
第2の電流センサとしての電流センサA2は、燃料電池モジュール100の出力電流(すなわち、外部負荷200に供給される電流)を測定する。第2の電圧センサとしての電圧センサV2は、燃料電池モジュール100の出力電圧(すなわち、外部負荷200の入力電圧)を測定する。よって、制御部6は、電流センサA2および電圧センサV2の測定値を取得することにより、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力を検出することができる。具体的には、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力は、電流センサA2の測定値と電圧センサV2の測定値との積を計算することで得られる。なお、以下の記載では、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力(すなわち、電流センサA2の測定値と電圧センサV2の測定値との積)を「モジュール電力」または「ネット電力」と呼ぶことがある。
【0024】
このように、制御部6は、電圧センサV1、電流センサA1、電圧センサV2、電流センサA2の測定値を取得することで、燃料電池スタック1が生成する電力(即ち、FC発電量)および燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力(即ち、モジュール電力)を検出できる。ここで、この実施例では、FC発電量の一部は、燃料電池モジュール100内の補機により消費される。また、DC/DCコンバータ4、5において損失が発生する。したがって、モジュール電力は、補機による消費電力およびDC/DCコンバータにおける損失の分だけ、FC発電量よりも小さくなる。なお、以下の記載では、補機による消費電力およびDC/DCコンバータにおける損失の和を「モジュール内損失」と呼ぶことがある。
【0025】
温度センサTは、燃料電池スタック1に係わる温度を測定する。一例としては、温度センサTは、燃料電池スタック1を冷却するための冷却水の温度を測定する。そして、制御部6は、温度センサTによる測定値が所定の閾値を超えた場合、燃料電池スタック1の発電量を制限してもよい。
【0026】
図2は、制御部6による発電制御の一例を示す。この実施例では、制御部6は、乗算器11、PI(Proportional-Integral)演算器12、および加算器13を備える。
【0027】
乗算器11は、モジュール電流とモジュール電圧との積を計算する。ここで、モジュール電流は、
図1に示す電流センサA2により測定され、燃料電池モジュール100の出力電流を表す。モジュール電圧は、
図1に示す電圧センサV2により測定され、燃料電池モジュール100の出力電圧を表す。したがって、乗算器11の出力は、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力(すなわち、モジュール電力)を表す。
【0028】
PI演算器12は、外部負荷200から通知される要求電力値および乗算器11により計算されるモジュール電力測定値に対してPI演算を実行する。PI演算は(1)式で表される。
【数1】
【0029】
右辺の第1項は、比例項であり、Kpは定数を表す。第2項は、積分項であり、KIは定数を表す。eは、2つの入力の誤差を表す。
図2に示すPI演算器12においては、eは、外部負荷200から通知される要求電力値と測定により得られるモジュール電力測定値との誤差に相当する。
【0030】
加算器13は、要求電力値にPI演算器12の出力値を加算する。そして、加算器13により得られる値は、発電量指令として出力される。発電量指令は、燃料電池スタック1の発電量を制御するために使用される。一例としては、制御部6は、発電指令値に基づいて、外部負荷200から通知される要求電力値と測定により得られるモジュール電力測定値との誤差が小さくなるように、燃料ガス供給装置2および/または酸化ガス供給装置3を制御する。これにより、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力(即ち、モジュール電力)が要求電力値に近づく。
【0031】
このように、発電量指令は、燃料電池スタック1の発電量を指示する。すなわち、発電量指令は、実質的に、FC発電量を表す。ここで、発電量指令は、要求電力値にPI演算器12の出力値を加算することで得られる。したがって、定常状態においては、発電量指令は、モジュール電力にPI演算器12の出力値を加算した値と等価である。他方、モジュール電力は、FC発電量からモジュール内損失を減算することで得られる。よって、PI演算器12の出力値は、実質的に、モジュール内損失に相当する。
【0032】
ところで、本発明の実施形態に係わる燃料電池モジュール100は、所定の異常状態を検知したときに、燃料電池スタック1の発電量を制限する制限発電モードで動作する。すなわち、燃料電池モジュール100の動作モードは、通常発電モードおよび制限発電モードを含む。具体的には、制御部6は、所定の異常状態を検知したときに、燃料電池モジュール100の動作モードを通常発電モードから制限発電モードに移行させる。また、制御部6は、異常状態が解消したときに、燃料電池モジュール100の動作モードを制限発電モードから通常発電モードに復帰させる。
【0033】
図3は、異常状態が検知されたときの動作を表す動作マップの例を示す。なお、電圧センサV1は、燃料電池スタック1の出力電圧を測定すると共に、燃料電池スタック1を構成する各燃料電池セルの出力電圧を測定できるものとする。また、温度センサTは、燃料電池スタック1の冷却水の温度を測定する。
【0034】
図3(a)は、FC電流制限マップの一例を示す。横軸は、各燃料電池セルの出力電圧の最低値(最低セル電圧)を表す。なお、最低セル電圧は、
図3(a)では、燃料電池セルの基準出力電圧に対する差分で表されている。燃料電池セルの基準出力電圧は、この実施例では、燃料電池セルを構成する材料等により決まる固定値である。縦軸は、燃料電池スタック1の出力電流の上限値を表す。なお、このマップは、予め作成されて制御部6のメモリに保存されているものとする。
【0035】
制御部6は、各燃料電池セルの出力電圧を常時監視する。そして、いずれかの燃料電池セルの出力電圧が基準出力電圧より0.1V以上低下すると、制御部6は、このマップに従って、燃料電池スタック1の出力電流を制限する。このとき、制御部6は、例えば、燃料ガス/酸化ガスの供給量を削減する処理、及び/又は、DC/DCコンバータ4のスイッチングパルスのデューティ比を小さくする処理を実行する。
【0036】
図3(b)は、FC発電量制限マップの一例を示す。横軸は、燃料電池スタック1の冷却水の温度を表す。縦軸は、燃料電池スタック1の発電量の上限値を表す。制御部6は、燃料電池スタック1の冷却水の温度を常時監視する。そして、冷却水の温度が75℃を超えると、制御部6は、このマップに従って、燃料電池スタック1の発電量を制限する。このとき、制御部6は、燃料ガス/酸化ガスの供給量を削減する。
【0037】
図4は、制限発電モードから通常発電モードへの復帰時に生じる課題を説明する図である。この実施例では、時刻T1以前は、燃料電池モジュール100は、通常発電モードで動作している。通常発電モードは、
図3(a)または
図3(b)に示す制限を受けることなく、要求電力値に応じて電力を生成する動作モードを意味する。なお、燃料電池モジュール100が通常発電モードで動作しているときは、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力(即ち、モジュール電力)は、
図4に示すように、要求電力量とほぼ一致している。
【0038】
時刻T1において、何らかの異常に起因して、
図3(a)または
図3(b)に示す制限が開始される。すなわち、時刻T1において、燃料電池モジュール100の動作モードが通常発電モードから制限発電モードに移行する。そうすると、燃料電池スタック1の発電量が削減されるので、モジュール電力も小さくなる。この結果、要求電力値とモジュール電力との差分が大きくなる。
【0039】
この後、上述の異常が解消し、時刻T2において、燃料電池モジュール100の動作モードが制限発電モードから通常発電モードに復帰する。そうすると、
図3(a)または
図3(b)に示す制限が無くなるので、燃料電池スタック1の発電量が元の値に戻る。この結果、モジュール電力が要求電力値に近づいていく。
【0040】
ただし、この実施例では、制御部6は、
図2に示すように、要求電力値とモジュール電力測定値との誤差に基づくPI演算を実行し、その演算結果を利用して燃料電池スタック1の発電量を制御する。ここで、制限発電モードから通常発電モードに復帰する直前の要求電力値とモジュール電力との誤差は、比較的大きな値となっている。このため、PI演算の積分項に起因して、モジュール電力が一時的に要求電力値を大きく超える状況が発生する。すなわち、
図2に示す制御方法では、制限発電モードから通常発電モードへの復帰時に、要求電力値に対してモジュール電力の追従性が悪くなることがある。
【0041】
ここで、
図2に示す制御系においては、モジュール電力の測定値を利用して燃料電池スタックの発電量が制御される。このとき、燃料電池モジュールと外部負荷との間では要求電力値/モジュール電力値に基づいて制御が行われるのに対して、燃料電池モジュール内では燃料電池スタックの発電量が制御される。ところが、モジュール内損失により、要求電力値/モジュール電力値と燃料電池スタックの発電量とは一致しない。この結果、
図2に示す制御系では、要求電力値に対してモジュール電力の追従性が悪くなることがある。そこで、本発明の実施形態に係わる燃料電池モジュールは、この点を考慮して、要求電力値に対するモジュール電力の追従性を改善する機能を備える。
【0042】
図5は、本発明の実施形態に係わる発電制御の一例を示す。この実施例では、制御部6は、乗算器11、PI演算器12、加算器13、乗算器21、減算器22、乗算器23、比較器(min)24、減算器25、および比較器(min)26を備える。なお、乗算器11、PI演算器12、および加算器13は、
図2および
図5において実質的に同じである。
【0043】
乗算器21は、FC電流値とFC電圧値との積を計算する。ここで、FC電流値は、
図1に示す電流センサA1により測定され、燃料電池スタック1の出力電流を表す。FC電圧値は、
図1に示す電圧センサV1により測定され、燃料電池スタック1の出力電圧を表す。よって、乗算器21の演算結果は、燃料電池スタック1により生成される電力(すなわち、FC発電量またはグロス電力)を表す。
【0044】
減算器22は、乗算器21の演算結果から乗算器11の演算結果を引算する。ここで、乗算器11の演算結果は、上述したように、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力(すなわち、モジュール電力またはネット電力)を表す。よって、減算器22の演算結果は、FC発電量とモジュール電力との差分を表す。換言すると、減算器22の演算結果は、モジュール内損失を表す。
【0045】
乗算器23は、FC電圧値とFC電流制限値との積を計算する。FC電圧値は、上述したように、燃料電池スタック1の出力電圧を表す。FC電流制限値は、
図3(a)に示すFC電流制限マップに基づいて決定される。よって、FC電流制限値は、燃料電池スタック1を構成する各燃料電池セルの出力電圧のうちの最も低い電圧(すなわち、最低セル電圧)に基づいて決定される。具体的には、最低セル電圧が基準出力電圧に対して低下していないときは、FC電流制限値は、通常発電モードでの燃料電池スタック1の出力電流と同じである。この場合、乗算器23の演算結果は、実質的に、通常発電モードでの燃料電池スタック1の発電量と同じになる。これに対して、最低セル電圧が基準出力電圧に対して所定レベルより大きく低下すると、FC電流制限値は、
図3(a)に示すマップに従ってFC電流値より小さい値に設定される。この場合、乗算器23の演算結果は、通常発電モードでの燃料電池スタック1の発電量より小さくなる。
【0046】
このように、乗算器23の演算結果は、燃料電池モジュール100の状態(ここでは、最低セル電圧)に応じて燃料電池スタック1の出力を制限することを考慮したときの燃料電池スタック1の発電量に相当する。したがって、乗算器23の演算結果は、発電量制限値の一例である。
【0047】
比較器24は、乗算器23の演算結果とFC発電量制限値とを比較し、小さい方の値を出力する。ここで、FC発電量制限値は、
図3(b)に示すFC発電量制限マップに基づいて決定される。よって、FC発電量制限値は、燃料電池スタック1の冷却水の温度に基づいて決定される。具体的には、冷却水の温度が所定の閾値以下であれば、FC発電量制限値は、通常発電モードでの燃料電池スタック1の発電量と同じである。これに対して、冷却水の温度がその閾値を超えると、FC発電量制限値は、通常発電モードでの燃料電池スタック1の発電量より小さくなる。
【0048】
このように、比較器24は、
図3(a)に示すFC電流制限マップに基づいて決まる発電量を表す値、または、
図3(b)に示すFC発電量制限マップに基づいて決まる発電量を表す値のうちの小さい方の値を出力する。即ち、比較器24の出力値は、
図3(a)または
図3(b)に示すマップに基づいて設定される、燃料電池スタック1の発電量のうちの小さい方の値を表す。よって、以下の記載では、比較器24の出力値を「FC発電量設定値」と呼ぶことがある。
【0049】
減算器25は、比較器24の出力値から減算器22の演算結果を引算する。即ち、FC発電量設定値からモジュール内損失値が引算される。ここで、モジュール内損失値は、実質的に、燃料電池スタック1が生成する電力を表すFC発電量と、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給される電力を表すモジュール電力との差分である。したがって、減算器25の出力値は、燃料電池スタック1の出力電力が制限される状況を考慮したときのモジュール電力の設定値に相当する。よって、以下の記載では、減算器25の出力値を「モジュール電力設定値」と呼ぶことがある。
【0050】
比較器26は、外部負荷200から通知される要求電力値と、減算器25から出力されるモジュール電力設定値とを比較し、小さい方の値を出力する。ここで、燃料電池モジュール100が通常発電モードで動作しているときは、燃料電池スタック1の発電量が制限されないので、モジュール電力設定値は、要求電力値に近づくように制御されている。他方、燃料電池モジュール100が制限発電モードで動作しているときは、
図3(a)または
図3(b)に示すマップに従って燃料電池スタック1の発電量が制限されるので、モジュール電力設定値は、要求電力値より小さくなる。したがって、制限発電モード時には、比較器26は、モジュール電力設定値を選択して出力する。
【0051】
上記構成の制御部6において、PI演算器12は、比較器26の出力値と乗算器11の出力値との誤差に対してPI演算を実行する。ここで、比較器26の出力値は、要求電力値またはモジュール電力設定値である。また、乗算器11の出力値は、燃料電池モジュール100のモジュール電力を表す。
【0052】
図6は、
図5に示す本発明の実施形態に係わる発電制御による効果を説明するための図である。なお、
図6に示す例においても、
図4に示すケースと同様に、時刻T1において通常発電モードから制限発電モードに移行し、時刻T2において制限発電モードから通常発電モードに復帰するものとする。
【0053】
制限発電モードにおいては、比較器26は、モジュール電力設定値を出力する。したがって、制限発電モードにおいては、比較器26の出力値は、モジュール電力の測定値に近い値を表すことになる。そうすると、
図2および
図4に示すケースと比較して、PI演算器12に入力される2つの値の誤差が小さくなり、PI演算で計算される積分項も小さくなる。この結果、燃料電池モジュール100の動作モードが制限発電モードから通常発電モードに復帰した後、モジュール電力は、短時間で要求電力値に収束する。すなわち、燃料電池モジュール100の動作モードが変化した直後においても、外部負荷200に実際に供給される電力が要求電力値に精度よく追従する。
【0054】
このように、燃料電池モジュール100の状態に起因して燃料電池スタック1の発電量が制限されるときには、燃料電池モジュール100は、要求電力値に応じた電力を供給することができない。このため、モジュール電力の測定値を要求電力値に近づける制御を行うと、PI演算器12に入力される2つの値の誤差が大きくなり、
図4に示すように、通常発電モードに復帰した直後に発電制御の追従性が悪くなる。
【0055】
そこで、本発明の実施形態では、燃料電池スタック1の発電量が制限されるときには、制限された発電量に対応するモジュール電力を設定する。そして、燃料電池モジュール100は、モジュール電力の測定値をモジュール電力の設定値に近づける制御を行う。これにより、PI演算器12に入力される2つの値の誤差が小さくなり、
図6に示すように、通常発電モードに復帰した直後の発電制御の追従性が改善する。
【0056】
図7は、制御部6の処理の一例を示すフローチャートである。このフローチャートの処理は、例えば、定期的に実行される。なお、このフローチャートにおいては、
図3に示すマップに従って発電量を制限する手順は省略されている。
【0057】
S1において、制御部6は、外部負荷200から通知される要求電力値を取得する。S2において、制御部6は、電流センサA1および電圧センサV1の測定値を取得することにより、燃料電池スタック1の発電量の測定値を取得する。S3において、制御部6は、電流センサA2および電圧センサV2の測定値を取得することにより、燃料電池モジュール100から外部負荷200に供給されるモジュール電力の測定値を取得する。
【0058】
S4において、制御部6は、燃料電池スタック1の発電量の測定値からモジュール電力の測定値を引算することにより、モジュール内損失値を計算する。S5において、制御部6は、燃料電池モジュール100の状態(最低セル電圧、冷却水の温度)および
図3に示す動作マップに基づいて、燃料電池スタック1の発電量の設定値を計算する。S6において、制御部6は、燃料電池スタック1の発電量の設定値からモジュール内損失値を引算することにより、モジュール電力の設定値を計算する。
【0059】
S7において、制御部6は、要求電力値とモジュール電力の設定値とを比較する。この結果、要求電力値がモジュール電力の設定値以下であれば、制御部6は、S8において、要求電力値に基づいて発電量指令を生成する。一方、要求電力値よりモジュール電力の設定値が小さいときは、制御部6は、S9において、モジュール電力の設定値に基づいて発電量指令を生成する。
【0060】
<バリエーション>
図5に示す実施例では、電流センサA1および電圧センサV1の測定値が制御部6に入力され、制御部6がこれらの積を計算することで燃料電池スタック1の発電量が計算されるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。例えば、
図8に示すように、燃料電池スタック1の発電量を表す値が制御部6に入力される構成であってもよい。
【0061】
図5に示す実施例では、電流センサA2および電圧センサV2の測定値が制御部6に入力され、制御部6がこれらの積を計算することでモジュール電力が計算されるが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。例えば、
図8に示すように、モジュール電力を表す値が制御部6に入力される構成であってもよい。或いは、外部負荷200において測定される入力電流および入力電圧が制御部6に通知されてもよい。
【0062】
図1に示す実施例では、電圧センサV1は、燃料電池スタック1の出力電圧を直接的に測定するが、本発明の実施形態はこの構成に限定されるものではない。例えば、電圧センサV1は、燃料電池スタック1を構成する各燃料電池セルの出力電圧を測定してもよい。この場合、各燃料電池セルの出力電圧の総和を計算することで燃料電池スタック1の出力電圧が計算される。
【0063】
電圧センサV2および電流センサA2の取り付け位置は、燃料電池モジュール100の出力電圧及び出力電流(すなわち、外部負荷200の入力電圧及び出力電流)を測定できればよく、外部負荷200に設けられてもよい。すなわち、燃料電池モジュール100の制御部6が信号を認識可能であれば、電圧センサV2および電流センサA2は燃料電池モジュール100の外側に設けられてもよい。
【0064】
図5に示す実施例では、PI演算を利用して発電量指令が生成されるが、PI演算の代わりに、PID(Proportional-Integral-Derivative)演算を利用して発電量指令を生成してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 燃料電池スタック
2 燃料ガス供給装置
3 酸化ガス供給装置
4、5 DC/DCコンバータ
6 制御部
11 乗算器
12 PI演算器
13 加算器
21、23 乗算器
22、25 減算器
24、26 比較器(min)
100 燃料電池モジュール
200 外部負荷