(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178722
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】鉄道車両用の筒型防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/387 20060101AFI20241218BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20241218BHJP
B61D 49/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
F16F1/387 C
F16F15/08 K
B61D49/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097091
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友祐
(72)【発明者】
【氏名】大坪 繁宏
【テーマコード(参考)】
3J048
3J059
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048BA19
3J048EA15
3J059AA06
3J059AB11
3J059BA42
3J059BC01
3J059BC06
3J059BD06
3J059BD07
3J059GA02
(57)【要約】
【課題】異音や耐久性低下といった非接着タイプの問題点の解決を図りつつ、鉄道車両用として要求されるばね特性を実現することができる、新規な構造の鉄道車両用の筒型防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材12とアウタ筒部材14が筒状の連結ゴム16で連結された鉄道車両用の筒型防振装置10であって、連結ゴム16がインナ軸部材12の外周面及びアウタ筒部材14の内周面に固着されており、連結ゴム16の外周端部には、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリット40,40がインナ軸部材12を挟んだ径方向の両側に形成されており、各スリット40の周方向長さは、一対のスリット40,40の周方向間における連結ゴム16の周方向長さよりも長くされており、インナ軸部材12における連結ゴム16の固着部分には、一対のスリット40,40に向けて外周へ突出する膨出部32,32が軸方向で部分的に設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材とアウタ筒部材が筒状の連結ゴムで相互に連結された鉄道車両用の筒型防振装置であって、
前記連結ゴムが前記インナ軸部材の外周面及び前記アウタ筒部材の内周面に固着されており、
該連結ゴムの外周端部には、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリットが該インナ軸部材を挟んだ径方向の両側に形成されており、
各該スリットの周方向長さは、該一対のスリットの周方向間における該連結ゴムの周方向長さよりも長くされており、
該インナ軸部材における該連結ゴムの固着部分には、該一対のスリットに向けて外周へ突出する膨出部が軸方向で部分的に設けられている筒型防振装置。
【請求項2】
前記スリットは、軸方向両側の開口に向けて径方向で幅広となる拡開形状とされている請求項1に記載の筒型防振装置。
【請求項3】
前記アウタ筒部材の内周面は、前記連結ゴムと一体形成されて前記スリットの外周側の壁面を構成する緩衝ゴム層によって覆われている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項4】
前記膨出部は、前記一対のスリットに向けて径方向の両側へ突出する一対が設けられている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項5】
前記一対の膨出部の突出方向と直交する径方向において、前記インナ軸部材における前記連結ゴムの固着部分の外周面が一対の平坦面で構成されている請求項4に記載の筒型防振装置。
【請求項6】
前記膨出部は、円弧状の縦断面形状とされている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項7】
前記膨出部が設けられた軸方向位置において、前記一対のスリットが位置する径方向における前記インナ軸部材の中心軸回りでの90度領域の周方向長さが、該一対のスリットが位置する径方向と直交する径方向における該インナ軸部材の中心軸回りでの90度領域の周方向長さよりも長くされている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項8】
前記スリット内には、前記連結ゴムの摩耗を抑制する摩耗低減部が設けられている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項9】
前記連結ゴムは、前記一対のスリットの周方向間に位置する部分が切断予定部とされており、鉄道車両に装着された使用状態では該切断予定部が切断されて前記インナ軸部材に固着された内周ゴムと前記アウタ筒部材に固着された外周ゴムとに分離されるようになっている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項10】
前記連結ゴムには、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との径方向間を周方向に延びる中間部材が固着されている請求項1又は2に記載の筒型防振装置。
【請求項11】
前記中間部材が前記スリットの内周に隣接して配置されている請求項10に記載の筒型防振装置。
【請求項12】
前記中間部材が一対の板状部材で構成されており、該一対の板状部材が前記一対のスリットと同じ径方向の両側に配置されている請求項11に記載の筒型防振装置。
【請求項13】
インナ軸部材とアウタ筒部材が筒状の連結ゴムで相互に連結された鉄道車両用の筒型防振装置であって、
前記連結ゴムが前記インナ軸部材の外周面及び前記アウタ筒部材の内周面に固着されており、
該連結ゴムには、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリットが該インナ軸部材を挟んだ径方向の両側に形成されており、
該連結ゴムは、該一対のスリットの周方向間に位置する部分が切断予定部とされており、鉄道車両に装着された使用状態では該切断予定部が切断されて該インナ軸部材に固着された内周ゴムと該アウタ筒部材に固着された外周ゴムとに分離されるようになっている筒型防振装置。
【請求項14】
インナ軸部材とアウタ筒部材が筒状の連結ゴムで相互に連結された鉄道車両用の筒型防振装置であって、
前記連結ゴムが前記インナ軸部材の外周面及び前記アウタ筒部材の内周面に固着されており、
該連結ゴムの外周端部には、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリットが該インナ軸部材を挟んだ径方向の両側に形成されており、
該連結ゴムには、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との径方向間を周方向に延びる中間部材が固着されており、
該中間部材が該スリットの内周に隣接して配置されている筒型防振装置。
【請求項15】
前記中間部材が一対の板状部材で構成されており、該一対の板状部材が前記一対のスリットと同じ径方向の両側に配置されている請求項14に記載の筒型防振装置。
【請求項16】
前記中間部材の外周面の曲率が、前記スリットの外周側内面の曲率と同じとされている請求項14又は15に記載の筒型防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両に用いられる筒型防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、鉄道用車両の台車などにおいて、筒型防振装置が用いられている。筒型防振装置は、例えば、特開2007-139100号公報(特許文献1)に開示されているように、インナ軸部材(ピン8)とアウタ筒部材(外筒7)とが連結ゴム(ゴム筒9)で相互に連結された構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、鉄道車両用の筒型防振装置は、一般的に、入力荷重が大きい加減速時等において硬いばね特性が求められると共に、入力荷重が小さい通常走行時等において柔らかいばね特性が求められる。そこで、このような要求ばね特性に対応するために、特許文献1では、インナ軸部材と連結ゴムを非接着として、インナ軸部材と連結ゴムの間に間隙部を形成した非接着タイプの筒型防振装置が提案されている。これにより、特許文献1の筒型防振装置では、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向での変位量が大きい場合と、小さい場合とにおいて、相互に異なるばね特性を得ることができる。
【0005】
しかしながら、インナ軸部材と連結ゴムの間に間隙部を形成すると、間隙部に砂塵や水等の異物が侵入するおそれがあり、それによって異音の発生やインナ軸部材の浸食等が問題になり易かった。特に、間隙部は、特許文献1に開示されているように、連結ゴムの成形後の熱収縮を利用して形成されることから、幅が狭く、連結ゴムの成形後に間隙部に露出するインナ軸部材の外周面に対して塗装等の防錆処理を施すことが難しい。それゆえ、水の浸入時にインナ軸部材が錆び易く、耐久性が低下することも考えられた。また、寒冷地で使用する場合には、間隙部に入った水が凍結して膨張し、ばね特性に影響するおそれもあった。
【0006】
本発明の解決課題は、上記の如き非接着タイプの問題点の解消を図りつつ、鉄道車両用として要求されるばね特性を実現することができる、新規な構造の鉄道車両用の筒型防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が筒状の連結ゴムで相互に連結された鉄道車両用の筒型防振装置であって、前記連結ゴムが前記インナ軸部材の外周面及び前記アウタ筒部材の内周面に固着されており、該連結ゴムの外周端部には、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリットが該インナ軸部材を挟んだ径方向の両側に形成されており、各該スリットの周方向長さは、該一対のスリットの周方向間における該連結ゴムの周方向長さよりも長くされており、該インナ軸部材における該連結ゴムの固着部分には、該一対のスリットに向けて外周へ突出する膨出部が軸方向で部分的に設けられているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、連結ゴムがインナ軸部材及びアウタ筒部材に固着されていることから、連結ゴムとインナ軸部材及びアウタ筒部材との間に砂塵や水等の異物が侵入することがなく、異音やインナ軸部材及びアウタ筒部材の浸食等の不具合が回避される。
【0010】
連結ゴムには、一対のスリットがインナ軸部材に対して径方向の両側に形成されていることから、それら一対のスリットが配置された径方向において、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が小さい小荷重入力時の低ばね特性と、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が大きい大荷重入力時の高ばね特性とが、何れも実現される。特に、スリットの周方向長さは、スリット間における連結ゴムの周方向長さよりも長くされていることから、一対のスリットが配置された径方向の入力に対する連結ゴムの圧縮ばね及びせん断ばねが小さく設定されて、小荷重入力時の低ばね特性がより有利に実現される。
【0011】
インナ軸部材に一対のスリットに向けて突出する膨出部が設けられていることから、一対のスリットが配置された径方向において連結ゴムの厚さ寸法が小さくされて、大荷重の入力によってスリットの対向内面が径方向で相互に当接する場合に、薄肉とされた連結ゴムの圧縮ばね定数が大きくなって、硬いばね特性が発揮される。
【0012】
また、インナ軸部材は、連結ゴムの固着部分において軸方向で部分的に膨出部が設けられており、連結ゴムの固着部分において軸方向で膨出部が設けられていない部分がある。これにより、インナ軸部材における膨出部が設けられていない部分において、連結ゴムを厚肉とすることができて、連結ゴムの径方向の自由長を確保できることから、連結ゴムの耐久性の向上等を実現できる。このような連結ゴムの厚肉部分を設けたとしても、大荷重入力時には、一対のスリットが配置された径方向において、膨出部の突出先端面に固着された薄肉の連結ゴムの圧縮による硬いばね特性を得ることができる。
【0013】
なお、膨出部がインナ軸部材における連結ゴムの固着部分の軸方向中間に設けられて、連結ゴムがインナ軸部材への固着部分の軸方向両端部において厚肉とされていることが望ましい。これによれば、連結ゴムの弾性変形時に歪が集中し易い連結ゴムの軸方向端の自由表面が広く確保されることから、連結ゴムの耐久性の向上がより有利に実現される。
【0014】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒型防振装置において、前記スリットは、軸方向両側の開口に向けて径方向で幅広となる拡開形状とされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、スリット内に砂塵や水、連結ゴムの摩耗屑等の異物が入った場合に、軸方向外側に向けて拡開するテーパ状のスリット内面によって異物が外部へ排出され易くなる。
【0016】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒型防振装置において、前記アウタ筒部材の内周面は、前記連結ゴムと一体形成されて前記スリットの外周側の壁面を構成する緩衝ゴム層によって覆われているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、アウタ筒部材の内周面が緩衝ゴム層で覆われて保護されることにより、アウタ筒部材の耐食性が確保される。また、スリット内面の当接時に、緩衝ゴム層の弾性による打音の低減作用も期待できる。なお、本態様における緩衝ゴム層は、防振特性において無視できる程度に薄肉とされており、スリットは連結ゴムの外周端部に位置している。
【0018】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記膨出部は、前記一対のスリットに向けて径方向の両側へ突出する一対が設けられているものである。
【0019】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、一対の膨出部が突出する径方向では、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が大きい大荷重入力時の硬いばね特性が実現される。また、一対の膨出部の突出方向と直交する径方向では、連結ゴムの厚さ寸法が大きくされて、一対のスリットが配置された径方向の入力時のせん断ばね定数が低減されることから、小荷重入力時のより柔らかいばね特性が実現される。
【0020】
第五の態様は、第四の態様に記載された筒型防振装置において、前記一対の膨出部の突出方向と直交する径方向において、前記インナ軸部材における前記連結ゴムの固着部分の外周面が一対の平坦面で構成されているものである。
【0021】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、一対の平坦面が設けられた径方向において、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向間の距離が大きく確保されることから、インナ軸部材とアウタ筒部材とを連結する部分において連結ゴムの径方向の自由長をより長くすることができる。それゆえ、連結ゴムのせん断ばね定数の低減や連結ゴムの耐久性の向上等が図られる。
【0022】
第六の態様は、第一~第五の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記膨出部は、円弧状の縦断面形状とされているものである。
【0023】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、膨出部の表面が角のない円弧状断面の湾曲面で構成されることにより、膨出部の表面に固着される連結ゴムにおいて応力の分散化が図られる。
【0024】
また、インナ軸部材とアウタ筒部材の間へのこじり方向の入力時に、連結ゴムにおいてせん断ばね成分がより支配的となることから、低ばね化を実現することができる。
【0025】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記膨出部が設けられた軸方向位置において、前記一対のスリットが位置する径方向における前記インナ軸部材の中心軸回りでの90度領域の周方向長さが、該一対のスリットが位置する径方向と直交する径方向における該インナ軸部材の中心軸回りでの90度領域の周方向長さよりも長くされているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、連結ゴムのスリット内面を構成する部分をインナ軸部材に対して大きな固着面積で固着することができて、連結ゴムにおける当該部分のインナ軸部材への固着強度を大きく得ることができる。
【0027】
第八の態様は、第一~第七の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記スリット内には、前記連結ゴムの摩耗を抑制する摩耗低減部が設けられているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、例えば、スリット内面への潤滑剤の塗布、ばね特性に影響しない発泡体等のスリット内への配置等によって実現される摩耗低減部を設けることで、スリット内面における連結ゴムの摩耗が抑えられて、連結ゴムの損傷の防止やばね特性の長期に亘る安定化等が図られる。
【0029】
第九の態様は、第一~第八の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記連結ゴムは、前記一対のスリットの周方向間に位置する部分が切断予定部とされており、鉄道車両に装着された使用状態では該切断予定部が切断されて前記インナ軸部材に固着された内周ゴムと前記アウタ筒部材に固着された外周ゴムとに分離されるようになっているものである。
【0030】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、鉄道車両に取り付けられた使用状態において、切断予定部が切断されて、連結ゴムが相互に独立した内周ゴムと外周ゴムとに分離されるようになっていることにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の径方向での相対変位量が小さい状態での低ばね特性がより有利に実現される。
【0031】
また、鉄道車両に取り付けられる前の筒型防振装置の単体状態では、内周ゴムと外周ゴムとが切断予定部によって一体的につながっており、インナ軸部材とアウタ筒部材が連結ゴムで相互に連結されている。これにより、使用前の筒型防振装置は全体を一体的に取り扱うことが可能とされており、例えば輸送や保管が容易になる。
【0032】
なお、切断予定部は、例えば、筒型防振装置が鉄道車両に取り付けられた状態で切断作業を行って切断してもよいし、切断のための特別な作業をすることなく使用時の入力によって破断するようになっていてもよい。
【0033】
第十の態様は、第一~第九の何れか1つの態様に記載された筒型防振装置において、前記連結ゴムには、前記インナ軸部材と前記アウタ筒部材との径方向間を周方向に延びる中間部材が固着されているものである。
【0034】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、中間部材を設けることによって、ばね特性をチューニングすることができる。即ち、例えば、連結ゴムにおけるスリット側の端部が中間部材によって拘束されると共に、中間部材によって連結ゴムの径方向厚さが制限されることにより、一対のスリットが配置された径方向において、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が大きい場合の高ばね化が図られる。
【0035】
第十一の態様は、第十の態様に記載された筒型防振装置において、前記中間部材が前記スリットの内周に隣接して配置されているものである。
【0036】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、中間部材がスリットの内周に隣接して配置されることで、中間部材とアウタ筒部材との対向面間にばね特性に影響するゴムがなく、中間部材とアウタ筒部材の直接的又は間接的な当接時に硬いばね特性が速やかに発揮される。
【0037】
第十二の態様は、第十又は第十一の態様に記載された筒型防振装置において、前記中間部材が一対の板状部材で構成されており、該一対の板状部材が前記一対のスリットと同じ径方向の両側に配置されているものである。
【0038】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、一対の板状部材で構成された中間部材によって、一対のスリットが配置された径方向における高ばね特性と、一対のスリットの配置方向と直交する径方向における連結ゴムの自由長の確保とを、両立して実現することができる。
【0039】
第十三の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が筒状の連結ゴムで相互に連結された鉄道車両用の筒型防振装置であって、前記連結ゴムが前記インナ軸部材の外周面及び前記アウタ筒部材の内周面に固着されており、該連結ゴムには、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリットが該インナ軸部材を挟んだ径方向の両側に形成されており、該連結ゴムは、該一対のスリットの周方向間に位置する部分が切断予定部とされており、鉄道車両に装着された使用状態では該切断予定部が切断されて該インナ軸部材に固着された内周ゴムと該アウタ筒部材に固着された外周ゴムとに分離されるようになっているものである。
【0040】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、鉄道車両に取り付けられた使用状態において、切断予定部が切断されて、連結ゴムが相互に独立した内周ゴムと外周ゴムとに分離されるようになっていることにより、インナ軸部材とアウタ筒部材の変位量が小さい状態での低ばね特性がより有利に実現される。
【0041】
また、鉄道車両に取り付けられる前の筒型防振装置の単体状態では、内周ゴムと外周ゴムとが切断予定部によって一体的につながっており、インナ軸部材とアウタ筒部材が連結ゴムで相互に連結されている。これにより、使用前の筒型防振装置は全体を一体的に取り扱うことが可能とされており、例えば輸送や保管が容易になる。
【0042】
なお、切断予定部は、例えば、筒型防振装置が鉄道車両に取り付けられた状態で切断作業を行って切断してもよいし、切断のための特別な作業をすることなく使用時の入力によって破断するようになっていてもよい。
【0043】
第十四の態様は、インナ軸部材とアウタ筒部材が内外挿配置されて筒状の連結ゴムで相互に連結された鉄道車両用の筒型防振装置であって、前記連結ゴムが前記インナ軸部材の外周面及び前記アウタ筒部材の内周面に固着されており、該連結ゴムの外周端部には、周方向に延びて軸方向に貫通する一対のスリットが該インナ軸部材を挟んだ径方向の両側に形成されており、該連結ゴムには、該インナ軸部材と該アウタ筒部材との径方向間を周方向に延びる中間部材が固着されており、該中間部材が該スリットの内周に隣接して配置されているものである。
【0044】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、中間部材を設けることによって、ばね特性をチューニングすることができる。即ち、例えば、連結ゴムにおけるスリット側の端部が中間部材によって拘束されると共に、中間部材によって連結ゴムの径方向厚さが制限されることにより、一対のスリットが配置された径方向において、インナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が大きい場合の高ばね化が図られる。
【0045】
また、中間部材がスリットの内周に隣接して配置されることで、中間部材とアウタ筒部材との対向面間にばね特性に影響するゴムがなく、中間部材とアウタ筒部材の直接的又は間接的な当接時に硬いばね特性が速やかに発揮される。
【0046】
第十五の態様は、第十四の態様に記載された筒型防振装置において、前記中間部材が一対の板状部材で構成されており、該一対の板状部材が前記一対のスリットと同じ径方向の両側に配置されているものである。
【0047】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、一対の板状部材で構成された中間部材によって、一対のスリットが配置された径方向における高ばね特性と、一対のスリットの配置方向と直交する径方向における連結ゴムの自由長の確保とを、両立して実現することができる。
【0048】
第十六の態様は、第十四又は第十五の態様に記載された筒型防振装置において、前記中間部材の外周面の曲率が、前記スリットの外周側内面の曲率と同じとされているものである。
【0049】
本態様に従う構造とされた筒型防振装置によれば、一対のスリットが配置された径方向におけるインナ軸部材とアウタ筒部材の相対変位量が大きい場合に、中間部材の外周面によって構成されるスリットの内周側壁部とスリットの外周側壁部とが周方向のより広い範囲で当接することから、硬いばね特性をより実現し易くなる。
【発明の効果】
【0050】
本発明によれば、鉄道車両用の筒型防振装置において、異音や耐久性低下といった非接着タイプの問題点の解決を図りつつ、鉄道車両用として要求されるばね特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての鉄道車両用の筒型防振装置を示す正面図
【
図5】
図1に示す筒型防振装置の左右方向のばね特性を示すグラフ
【
図6】本発明の第二の実施形態としての鉄道車両用の筒型防振装置を示す正面図
【
図8】本発明の第三の実施形態としての鉄道車両用の筒型防振装置を示す正面図
【
図9】本発明の第四の実施形態としての鉄道車両用の筒型防振装置を示す正面図
【
図10】
図9に示す筒型防振装置断面図であって、
図9のX-X断面に相当する図
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0053】
図1~
図4には、本発明に従う鉄道車両用の筒型防振装置の第一の実施形態として、鉄道車両用ブッシュ10(以下、ブッシュ10と称する)が示されている。ブッシュ10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とが連結ゴム16で相互に連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、左右方向とは
図1中の左右方向を、前後方向とは
図2中の左右方向を、それぞれ言う。
【0054】
インナ軸部材12は、例えば金属や繊維補強された合成樹脂等によって形成された硬質の部材であって、一対の取付部18,18の間に固着部20が一体形成された構造とされている。取付部18は、平坦な一対の取付面22,22を備える板状とされており、板厚方向に貫通するボルト孔24を備えている。取付部18は、側面が円弧状に湾曲して周方向に延びている。なお、インナ軸部材12の構造は、実施形態において具体的に例示されるものに限定されない。例えば、中実ロッド状のインナ軸部材も採用され得るし、当該中実ロッド状のインナ軸部材に対して、ボルト孔24に代えて軸方向一方の端面に開口する非貫通のねじ穴が形成されていてもよい。また、例えば、インナ軸部材が車体又は台車に対して圧入等の手段で固定される場合には、ボルト孔24やねじ穴はなくてもよい。また、例えば、インナ軸部材の取付部18において、取付面22は、1つ又は3つ以上設けられ得る。
【0055】
固着部20は、後述するように連結ゴム16が固着される部分であって、軸方向の両端部分が全周に亘って略一定の径寸法とされた一対の円柱状部26,26とされていると共に、それら円柱状部26,26の間には中間部28が設けられている。中間部28と円柱状部26,26とは、一体形成されており、断面形状が相互に異なっている。円柱状部26の外径寸法は、取付部18の最大外径寸法よりも僅かに大きくされており、円柱状部26と取付部18の境界部分には前後方向と直交して広がる段差面30が全周に亘って形成されている。
【0056】
中間部28には、
図1に破線で示すように、左右方向へ突出する一対の膨出部32,32が設けられている。膨出部32は、円柱状部26の外周面よりも左右方向の外側へ突出している。膨出部32は、先端面34の横断面形状が、円柱状部26の外周面と同心的に周方向へ延びる円弧湾曲形状とされている。本実施形態の中間部28は、一対の膨出部32,32の突出方向と直交する上下方向の幅寸法が、円柱状部26の直径と略同じとされている。膨出部32の先端面34は、
図3に示す縦断面において円弧状に湾曲しており、略一定の円弧湾曲形状で周方向に連続的に延びている。なお、縦断面とは、
図2,
図3のように、前後方向に延びるブッシュ10の中心軸を含む断面を言う。
【0057】
膨出部32の周方向端面は、上下方向と直交して広がる平坦面36とされている。従って、膨出部32,32の突出方向と直交する径方向において、インナ軸部材12の中間部28の外周面が一対の平坦面36,36で構成されている。膨出部32の先端面34と平坦面36は、膨出部32における先端面34と平坦面36との交差部分には角部38が形成されている。角部38は、膨出部32の先端面34と平坦面36とが、湾曲面を介して滑らかに連続することなく直接的につながって形成されていてもよいが、例えば、曲率半径の小さな湾曲面を介して実質的な角状をなすように滑らかに連続して形成されていてもよく、これによれば、連結ゴム16の角部38への固着部分において、連結ゴム16の亀裂の発生を防止することができる。
【0058】
膨出部32,32が設けられた軸方向位置において、スリット40,40が位置する径方向(左右方向)におけるインナ軸部材12の中心軸回りでの90度領域(
図4における左右の90度領域X,X)の周方向長さよりも、スリット40,40が位置する径方向と直交する径方向(上下方向)におけるインナ軸部材12の中心軸回りでの90度領域(
図4における上下の90度領域Y,Y)の周方向長さが短くされている。本実施形態では、膨出部32,32が設けられた軸方向位置において、左右の90度領域X,Xにおけるインナ軸部材12の外周面が膨出部32,32の先端面34,34で構成されており、上下の90度領域Y,Yにおけるインナ軸部材12の外周面が平坦面36,36で構成されている。なお、後述するスリット40は、左右の90度領域Xの周方向全長に亘って延びていると共に、周方向端部が上下の90度領域Yまで延び出している。
【0059】
アウタ筒部材14は、インナ軸部材12と同様に、金属や繊維補強された合成樹脂等によって形成された硬質の部材であって、薄肉大径の略円筒形状とされている。アウタ筒部材14の内径寸法は、インナ軸部材12の固着部20の最大外径寸法よりも大きくされており、固着部20に対して外周へ離隔した状態で外挿可能とされている。アウタ筒部材14の軸方向長さ寸法は、インナ軸部材12の固着部20の軸方向長さ寸法よりも大きくされている。尤も、アウタ筒部材14の軸方向長さ寸法は、インナ軸部材12の固着部20の軸方向長さ寸法より小さくてもよい。
【0060】
インナ軸部材12の固着部20に対してアウタ筒部材14が外挿状態で配置されており、それらインナ軸部材12の固着部20とアウタ筒部材14の間が連結ゴム16によって弾性連結されている。連結ゴム16は、全体として略円筒形状とされており、内周面がインナ軸部材12の固着部20の外周面に加硫接着されていると共に、外周面がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されている。本実施形態では、連結ゴム16がインナ軸部材12とアウタ筒部材14を備えた一体加硫成形品として形成されている。また、インナ軸部材12の段差面30によって連結ゴム16の成形用金型におけるキャビティの端部位置が規定されており、インナ軸部材12において連結ゴム16が取付部18にまで固着されることなく固着部20の外周面だけに固着されている。連結ゴム16の軸方向両側の表面は、外周へ向けて軸方向内側へ傾斜するテーパ形状を有している。なお、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、好適には、連結ゴム16の成形前に、防錆や接着強度の向上を目的とした塗装、接着剤層の形成、めっき等の下処理が施されることから、外部への露出が防止されて、耐久性の向上が図られる。
【0061】
連結ゴム16の内周端部は、軸方向の中央部分が一対の膨出部32,32の先端面34,34を含む外周面に固着されていると共に、軸方向の両端部が一対の円柱状部26,26の外周面に固着されている。換言すれば、インナ軸部材12における連結ゴム16の固着部分において、軸方向の一部に膨出部32,32が設けられている。連結ゴム16の軸方向両端部分は、膨出部32を軸方向に外れた位置でインナ軸部材12に固着されていることにより、膨出部32によって更に薄肉となることなく厚さを確保されている。
【0062】
連結ゴム16には、一対のスリット40,40が形成されている。スリット40は、連結ゴム16の外周端部に形成されており、連結ゴム16の周方向に延びていると共に、連結ゴム16を軸方向に貫通している。スリット40は、インナ軸部材12に対して左右方向の両側にそれぞれ形成されている。本実施形態において、一対のスリット40,40は、互いに対称形状とされており、径方向の幅寸法及び周方向の長さ寸法が互いに略同じとされている。
【0063】
一対のスリット40,40の周方向端部間には、一対のゴム腕部42,42が形成されている。ゴム腕部42は連結ゴム16の一部であって、インナ軸部材12とアウタ筒部材14を径方向(上下方向)で相互に連結している。スリット40の周方向長さ寸法は、ゴム腕部42の周方向幅寸法よりも大きくされている。スリット40の周方向長さ寸法は、好適には、ゴム腕部42の周方向幅寸法の1.25倍以上とされ、より好適には、1.5倍以上とされる。
【0064】
スリット40の外周側には、スリット40の外周側の壁面を構成する緩衝ゴム層44が設けられている。緩衝ゴム層44は、連結ゴム16に一体的に設けられて連結ゴム16の外周端部を構成しており、アウタ筒部材14の内周面に固着されている。緩衝ゴム層44は、アウタ筒部材14の内周面を軸方向の両端部を除く略全体に亘って被覆している。緩衝ゴム層44は、ブッシュ10の左右方向のばね特性に影響しないほど十分に薄肉とされている。
【0065】
スリット40の内周側には、スリット40の内周側の壁面を構成するストッパゴム46が設けられている。ストッパゴム46は、連結ゴム16に一体的に設けられて連結ゴム16の内周端部を構成しており、スリット40に向けて突出する膨出部32の先端面34においてインナ軸部材12に固着されている。ストッパゴム46は、緩衝ゴム層44よりも厚肉とされており、アウタ筒部材14側への当接時にブッシュ10の左右方向のばね特性に寄与する。
【0066】
本実施形態では、インナ軸部材12の外周面の周長が、左右の90度領域X,Xにおいて上下の90度領域Y,Yよりも長くされている。これにより、ストッパゴム46のインナ軸部材12に対する固着面積を大きく確保することができて、ストッパゴム46をインナ軸部材12に対して強固に固着することができる。
【0067】
スリット40は、軸方向の中央から外側へ向けて径方向で幅広となる拡開形状とされており、スリット40の内周側の対向内面48aが軸方向中央から軸方向両外側へ向けて内周側へ傾斜するテーパ面とされていると共に、スリット40の外周側の対向内面48bが軸方向中央から軸方向両外側へ向けて外周側へ傾斜するテーパ面とされている。これにより、スリット40の対向内面48a,48bが相互に摺接することで発生する連結ゴム16の摩耗屑等の異物が、それら対向内面48a,48bのテーパによって外部へ排出され易くなる。特に、左右方向の振動入力で対向内面48a,48bが繰り返し変位及び変形することにより、異物の排出作用が効果的に発揮される。なお、スリット40の内周側の対向内面48aは、周方向の中央部分がストッパゴム46によって構成されていると共に、スリット40の外周側の対向内面48bが緩衝ゴム層44によって構成されている。
【0068】
スリット40の径方向幅寸法は、インナ軸部材12の膨出部32の先端からアウタ筒部材14までの距離よりも小さく、好適にはインナ軸部材12の円柱状部26とアウタ筒部材14との径方向での距離の半分よりも小さく、より好適には円柱状部26とアウタ筒部材14との径方向距離の1/4よりも小さい。なお、スリット40の周方向両端部は、それぞれ前後方向視で略半円形とされている。従って、スリット40の周方向両端部は、それぞれ周方向外側へ向けて径方向で幅狭となっている。
【0069】
スリット40内には、摩擦低減部が設けられていてもよい。摩擦低減部は、スリット40の対向内面48a,48bの摺接に際して摩擦抵抗を低減して、連結ゴム16の摩耗を抑制する。なお、摩擦低減部は、例えば、対向内面48a,48bの少なくとも一方の表面を被覆する潤滑剤層等であってもよいし、対向内面48a,48bの間に差し入れられるスポンジ状の発泡体等であってもよい。
【0070】
かくの如き構造とされたブッシュ10は、鉄道車両の車体と台車とを連結する連結ロッドの端部に配されており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が車体又は台車と連結ロッドとの各一方に取り付けられる。具体的には、例えば、ブッシュ10は、連結ロッドの両端部に設けられた取付筒部に対してアウタ筒部材14が圧入固定されると共に、インナ軸部材12が車体又は台車に対してボルト孔24を利用してボルト締結されることにより、車体又は台車と連結ロッドとを防振連結する。ブッシュ10が連結ロッドに取り付けられる場合に、ブッシュ10は、連結ロッドの片側だけに設けられていてもよいが、連結ロッドの両端部にそれぞれ設けられることが望ましい。
【0071】
ブッシュ10の鉄道車両への装着状態において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の間には、主たる荷重として連結ロッドの軸方向である左右方向の振動が入力される。ここにおいて、ブッシュ10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の左右方向での相対変位量が小さい領域と、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の左右方向での相対変位量が大きい領域とにおいて、ばね定数が大幅に変化する。
【0072】
すなわち、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の左右方向での相対変位量(撓み)が小さい小変位領域Aでは、
図5に示す荷重-撓み線図の傾斜角度が小さくなっており、ばね定数が小さく設定される。蓋し、小変位領域Aでは、スリット40の対向内面48a,48bが離隔状態に保持されることで、ブッシュ10のばね特性においてゴム腕部42,42のせん断ばねが支配的となるからである。
【0073】
スリット40は、周方向両端部が膨出部32よりも上下両外側まで延び出しており、膨出部32の先端面34の全体がスリット40に向けて配置されている。それゆえ、小変位領域Aでは、膨出部32の先端面34とアウタ筒部材14の内周面との対向面間で連結ゴム16が左右方向に圧縮され難く、ゴム腕部42,42のせん断ばねによる柔らかいばね特性を得ることができる。
【0074】
ブッシュ10において、スリット40,40の周方向間におけるゴム腕部42の周方向幅寸法は、スリット40の周方向長さ寸法よりも小さくされている。このようにゴム腕部42の左右幅寸法が小さくされていることによって、ゴム腕部42のせん断ばね定数が小さくされており、
図5中の小変位領域Aにおける低ばね特性が有利に実現されている。
【0075】
また、インナ軸部材12の膨出部32,32がゴム腕部42,42とは直交する径方向に突出しており、インナ軸部材12におけるゴム腕部42,42の固着面が平坦面36,36とされている。これにより、ゴム腕部42,42の径方向での自由長が優れたスペース効率で長く確保されており、ゴム腕部42,42のせん断ばね定数がより小さく設定されて、小変位領域Aでの低ばね特性がより有利に実現されている。
【0076】
一方、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の左右方向での相対変位量(撓み)が小変位領域Aよりも大きい大変位領域Bでは、
図5に示す荷重-撓み線図の傾斜角度が大きくなっており、ばね定数が大きく設定される。蓋し、大変位領域Bでは、スリット40の対向内面48a,48bが相互に当接し、膨出部32の先端面34を覆う連結ゴム16のストッパゴム46が、緩衝ゴム層44を介してアウタ筒部材14の内面に当接して圧縮されることで、ブッシュ10のばね特性においてストッパゴム46の圧縮ばねが支配的となるからである。本実施形態では、アウタ筒部材14の内周面が緩衝ゴム層44で覆われていることにより、ストッパゴム46で覆われた膨出部32の先端面34とアウタ筒部材14の内周面とが当接する際の打音が、緩衝ゴム層44によって低減される。
【0077】
ブッシュ10では、膨出部32がインナ軸部材12の固着部20において軸方向中央部分に設けられており、固着部20の両端部分が膨出部32,32の形成部分よりも左右方向で小径の円柱状部26とされている。これにより、変形による歪が集中し易い連結ゴム16の軸方向両端部において、ゴムボリュームを確保することができて、連結ゴム16の耐久性の向上が図られる。特に本実施形態では、連結ゴム16の軸方向端面がテーパ状とされることで、連結ゴム16の軸方向端面での自由表面積が大きく確保されており、連結ゴム16の耐久性の向上がより効果的に実現されている。しかも、
図3に示す縦断面において、膨出部32が突出先端側となる上方又は下方へ向けて先細となる円弧状断面とされることで、膨出部32の表面が連結ゴム16の軸方向表面と同じ方向に傾斜していることから、連結ゴム16の軸方向端面がテーパ状とされていても、膨出部32の軸方向両外側において連結ゴム16の肉厚を確保し易い。
【0078】
膨出部32の先端面34は、
図4に示す横断面において、全体に亘って略一定の曲率で延びる円弧状とされており、上下側面に対して角部38を形成してつながっている。これにより、膨出部32の先端面34を覆うストッパゴム46の厚さ寸法が周方向の全体に亘って略一定とされており、ストッパゴム46の圧縮ばねによる硬いばね特性をスペース効率よく実現することができる。
【0079】
スリット40は、径方向の幅寸法が周方向の中間部分において略一定とされていると共に、周方向の両端部分において狭くなっている。これにより、大変位領域Bにおいて、スリット40の対向内面48a,48bが全体に亘って相互に当接して、スリット40が実質的になくなって、高ばね特性が有利に発現される。
【0080】
なお、
図5のばね特性を示すグラフでは、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の左右方向での相対変位量が3b未満の領域が小変位領域Aであり、3b以上の領域が大変位領域Bとされている。従って、本実施形態のブッシュ10では、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が左右方向で3b程度変位することにより、スリット40の対向内面48a,48bが相互に当接する。尤も、小変位領域Aと大変位領域Bの境界となる変位量(撓み)の大きさは、特に限定されず、要求されるばね特性に応じて適宜に設定される。
【0081】
鉄道車両に装着されたブッシュ10には、左右方向の振動荷重以外の入力も作用し得る。例えば、左右こじり方向の入力によって、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とが左右方向で相対的に傾動変位する場合もある。この場合に、
図3に示すように膨出部32の先端面34がインナ軸部材12の中央を曲率中心とする円弧状とされていることにより、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の左右こじり変位に際して、台形断面等の他の断面形状の膨出部に比して、膨出部32による連結ゴム16の圧縮が抑えられて、低ばね特性を得ることができる。
【0082】
図6,
図7には、本発明の第二の実施形態としての鉄道車両用ブッシュ50が示されている。ブッシュ50は、連結ゴム16に一対のスリット52,52が形成された構造を有している。なお、以下の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付すことで説明を省略する。
【0083】
本実施形態のスリット52は、第一の実施形態のスリット40に比して、周方向の長さが長くされており、一対のスリット52,52の周方向端部が相互に近接している。連結ゴム16における一対のスリット52,52の周方向端部間に位置する部分は、周方向で薄肉とされた切断予定部54,54とされている。切断予定部54は、連結ゴム16の軸方向全体に亘って延びており、スリット52,52を周方向で相互に隔てて、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とを上下方向で相互に連結している。本実施形態の切断予定部54は、周方向の厚さ寸法が径方向の中央において最小となっているが、例えば径方向の全体に亘って一定の厚さ寸法とされていてもよいし、内周端部や外周端部が最も薄くなっていてもよい。
【0084】
切断予定部54は、ブッシュ50を鉄道車両に装着する前のブッシュ単品状態において、
図6,
図7に示すようにインナ軸部材12とアウタ筒部材14とを相互に連結している。一方、ブッシュ50が鉄道車両への装着状態で使用される際には、切断予定部54が周方向に切断されて、連結ゴム16がスリット52及び切断予定部54の切断部位よりも内周側の内周ゴム56と外周側の外周ゴム58(緩衝ゴム層44)とに分離されるようになっている。従って、ブッシュ50が鉄道車両に装着された使用状態において、連結ゴム16はインナ軸部材12とアウタ筒部材14とを連結しておらず、インナ軸部材12とアウタ筒部材14とが互いに独立している。しかしながら、インナ軸部材12とアウタ筒部材14は、鉄道車両の車体と台車との各一方に取り付けられていることから、切断予定部54の切断後にも相対的に位置決めされる。
【0085】
切断予定部54は、例えば、ブッシュ50の鉄道車両への装着後に刃物で切断してもよいし、ブッシュ50に対する使用時の荷重入力によって切断作業を要することなく自動的に破断するようにしてもよい。切断予定部54を切断工程において切断すれば、切断状態の安定化が図られて、安定した防振特性や信頼性の向上等が図られる。また、切断工程を省略して入力荷重で切断予定部54が破断するようにすれば、作業工程数を少なくすることができる。なお、切断予定部54が使用時の荷重入力で自動的に破断する場合には、使用開始後に直ちに破断することが望ましいが、例えば、一定の使用期間を経て破断するようにしてもよく、破断のタイミングは特に限定されない。
【0086】
本実施形態では、スリット52,52が連結ゴム16の外周端部に形成されており、アウタ筒部材14に沿って周方向に延びており、切断予定部54,54がアウタ筒部材14に対して近接して配置されている。それゆえ、入力荷重によって切断予定部54を破断させる場合に、アウタ筒部材14の拘束力によって切断予定部54の切断態様の安定化が期待できる。
【0087】
このように、ブッシュ50は、切断予定部54が使用状態において切れていることにより、小変位領域Aにおけるばね定数がより小さくなって、微振幅振動に対する振動絶縁作用がより有利に発揮される。
【0088】
なお、ブッシュ50の使用状態において連結ゴム16が切断予定部54で切れている構造では、小変位領域Aでの低ばね化を目的として第一の実施形態のようにゴム腕部42,42の径方向での自由長を確保する必要がない。それゆえ、
図8に示す第三の実施形態としての鉄道車両用ブッシュ60のように、外周側へ突出する膨出部62を全周に亘って一定の断面形状で連続的に設けたとしても、小変位領域Aでの低ばね特性を得ることができる。なお、第一の実施形態のブッシュ10において、一対の膨出部32,32に代えて全周に亘って設けられる膨出部62を採用してもよい。
【0089】
図9,
図10には、本発明の第四の実施形態としての鉄道車両用ブッシュ70が示されている。ブッシュ70は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との径方向間を周方向に延びる中間部材72が、連結ゴム16に固着された構造を有している。
【0090】
中間部材72は、一対の板状部材74,74によって構成されている。板状部材74は、円弧状に湾曲して周方向に延びており、周方向で半周に満たない長さとされている。一対の板状部材74,74は、一対のスリット40,40が配された左右方向の両側に相互に対向して配置されており、周方向で相互に離隔している。本実施形態の連結ゴム16のゴム腕部42は、スリット40,40及び板状部材74,74の各周方向間を径方向(上下方向)に延びて形成されている。なお、一対の板状部材74,74は、互いに同じ形状及び大きさで相互に対向して対称配置されている。これにより、一対の板状部材74,74は、共通の部品とすることが可能である。尤も、一対の板状部材は、互いに異なる形状とされていてもよく、例えば、一方の板状部材が他方の板状部材よりも周方向長さが長く、一方の板状部材の周方向長さが半周以上とされていてもよい。
【0091】
板状部材74は、膨出部32よりも周方向の両外側まで延び出していると共に、スリット40よりも周方向の内側に位置している。尤も、板状部材74とスリット40の周方向長さ寸法の大小関係は特に限定されず、板状部材74がスリット40よりも周方向の外側まで延び出していてもよい。このことからも分かるように、板状部材74は、必ずしも周方向の全体がスリット40に隣接していなくてもよく、周方向の少なくとも一部が隣接していればよい。同様に、板状部材74は、必ずしも軸方向の全体がスリット40に隣接していなくてもよく、軸方向の少なくとも一部が隣接していればよい。
【0092】
本実施形態では、軸方向視で略半円弧状とされたスリット40の周方向両端部が、板状部材74よりも周方向の両外側へ突出して位置しているが、スリット40の周方向両端部が板状部材74の周方向両端部よりも周方向内側に位置していてもよい。この場合には、スリット40の周方向両端部と板状部材74との径方向間を埋める比較的に厚肉のゴムが、板状部材74の外周面上に形成され得るが、当該ゴムも防振特性への影響を考慮する必要がない。
【0093】
一対の板状部材74,74は、各一方のスリット40の内周側に隣接した位置において連結ゴム16に固着されている。板状部材74は、スリット40と同心的に周方向に延びており、スリット40の内周側の壁部を構成している。板状部材74の外周面は、スリット40内に露出していてもよいし、薄肉の被覆ゴムで覆われていてもよいが、被覆ゴムで覆われる場合に、被覆ゴムはブッシュ10のばね特性に対する影響を考慮しなくてよい程に薄肉とされる。従って、本実施形態では、スリット40の対向内面48aが実質的に板状部材74で構成される。
【0094】
板状部材74は、
図10に示すように、連結ゴム16の軸方向端面から突出している。板状部材74は、アウタ筒部材14と略同じ軸方向長さ寸法とされているが、アウタ筒部材14よりも軸方向外方まで突出していてもよいし、アウタ筒部材14よりも軸方向内側に位置していてもよい。
【0095】
板状部材74,74がスリット40,40の内周側に配置されることにより、各膨出部32の先端面34を覆うストッパゴム46の径方向厚さ寸法が、第一の実施形態に比して小さくされている。このように、板状部材74,74からなる中間部材72をスリット40,40と膨出部32,32の径方向間に設けることにより、スリット40,40の径方向幅寸法や膨出部32,32の左右方向での突出高さ寸法を大きくすることなく、ストッパゴム46,46の径方向での厚さ寸法を小さくして、大変位領域Bのばね定数をより大きく設定することができる。なお、膨出部32,32の左右方向での突出高さ寸法を大きくする必要がないことから、こじり入力やねじり入力に対する低ばね特性が維持されて、こじり方向及びねじり方向の入力に対する有効な振動絶縁作用を得ることができる。
【0096】
なお、中間部材72(一対の板状部材74,74)を備えた鉄道車両用ブッシュ70のインナ軸部材12において、膨出部32,32を省略することもできる。
【0097】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、膨出部は、インナ軸部材における連結ゴムの固着部分において、軸方向で相互に離隔する複数箇所にそれぞれ設けられていてもよい。
【0098】
膨出部の側面は、必ずしも平坦面に限定されず、例えば先端面と連続的に広がる湾曲面で構成することもできる。要するに、膨出部の形成部分での横断面(インナ軸部材の中心軸と直交する断面)において、例えばインナ軸部材を膨出部の突出方向が長軸方向とされた楕円形とすることもできる。
【0099】
また、膨出部の具体的な形状は特に限定されず、例えば、縦断面(インナ軸部材の中心軸と平行で且つ当該中心軸を含む断面)において四角形状とされた膨出部を採用することもできる。このような縦断面において四角形状とされた膨出部を採用すれば、膨出部の先端面に固着される連結ゴム(ストッパゴム)を、軸方向のより広い範囲に亘って薄肉とすることができて、大変位領域でのより硬いばね特性を実現し易くなる。
【0100】
スリットは、径方向の幅寸法が周方向で変化していてもよく、例えば、スリット内面の当接時に連結ゴムで埋まり難い周方向の両端部分を中央部分より幅狭とすることによって、ばね特性を調節することもできる。また、一対のスリットが相互に異なる形状や大きさとされていてもよく、それによって、径方向の両側で異なるばね特性を実現すること等も可能となる。
【0101】
第二の実施形態に示した切断予定部54は、必ずしも軸方向の全長に亘って設けられている必要はなく、軸方向で部分的に設けられていてもよく、これによって、切断作業が簡単になったり、荷重入力による破断も生じ易くなる効果が期待できる。なお、切断予定部54を軸方向で部分的に設ける場合に、その軸方向位置は特に限定されないが、例えば、切断作業によって使用前に切る場合には、切断が容易となるように軸方向端部付近に設けられていることが望ましく、使用時の荷重入力によって破断させる場合には、切断前のバランスを考慮して軸方向中央部分に設けられていることが望ましい。
【0102】
第四の実施形態に示した中間部材72(板状部材74,74)は、アウタ筒部材14と同心的に設けられていたが、例えば、中間部材72の外周面(スリット40の内周側の対向内面48a)の曲率と、アウタ筒部材14の内周面(スリット40の外周側の対向内面48b)の曲率とが、相互に略同じとなるように、中間部材72をアウタ筒部材14に対して非同心的に設けてもよい。これによれば、大荷重入力時において、スリット40の対向内面48a,48bが周方向のより広い範囲に亘って略同時に当接することから、大変位領域Bのばね定数を小変位領域Aのばね定数に対してより大幅に高めることができる。
【符号の説明】
【0103】
10 鉄道車両用ブッシュ(鉄道車両用の筒型防振装置 第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 連結ゴム
18 取付部
20 固着部
22 取付面
24 ボルト孔
26 円柱状部
28 中間部
30 段差面
32 膨出部
34 先端面
36 平坦面
38 角部
40 スリット
42 ゴム腕部
44 緩衝ゴム層
46 ストッパゴム
48a,48b 対向内面
50 鉄道車両用ブッシュ(鉄道車両用の筒型防振装置 第二の実施形態)
52 スリット
54 切断予定部
56 内周ゴム
58 外周ゴム
60 鉄道車両用ブッシュ(鉄道車両用の筒型防振装置 第三の実施形態)
62 膨出部
70 鉄道車両用ブッシュ(鉄道車両用の筒型防振装置 第四の実施形態)
72 中間部材
74 板状部材
X 左右の90度領域
Y 上下の90度領域
A 小変位領域
B 大変位領域