(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178740
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】リヤサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 3/20 20060101AFI20241218BHJP
【FI】
B60G3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097113
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】阿部 学
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA60
3D301CA13
3D301CA49
3D301DA87
3D301DB57
(57)【要約】
【課題】外力によって生じたサスペンションジオメトリの変化を外部から見出すことができるリヤサスペンション装置を提供する。
【解決手段】リンク5を有するリンク機構4が車体1と車輪2の間に基準取付位置を有して介装され、後輪3L,3Rにおいて、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が加わった場合に、リンク機構4が基準取付位置から相対移動される相対移動可能部7を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンクを有するリンク機構が車体と車輪との間に基準取付位置を有して介装されたリヤサスペンション装置において、
前記車輪において、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が加わった場合に、前記リンク機構が前記基準取付位置から相対移動される相対移動可能部を有することを特徴とするリヤサスペンション装置。
【請求項2】
前記相対移動可能部は、前記リンク機構を前記車体側に連結するための締結部品と、前記車体側に設けられ、前記締結部品の軸部が挿通され、車両左右方向において前記軸部よりも大きい開口を有する長穴と、を備えて構成されることを特徴とする請求項1に記載のリヤサスペンション装置。
【請求項3】
前記締結部品は前記長穴に前記軸部が挿通された状態で締結され、前記長穴の車両左右方向の少なくとも一方に、前記締結部品と当接又は近接して設けられ前記締結部品の車両左右方向の少なくとも一方への移動を規制し且つ前記所定の大きさ以上の外力が加わった場合に破断可能な規制部が設けられたことを特徴とする請求項2に記載のリヤサスペンション装置。
【請求項4】
前記リンク機構は後輪を転舵するための後輪転舵アクチュエータを有し、前記相対移動可能部は、前記後輪転舵アクチュエータと前記車体との間に設けられたことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のリヤサスペンション装置。
【請求項5】
前記相対移動可能部は、前記後輪転舵アクチュエータを前記車体に連結するための締結部品と、
前記車体に設けられ、前記締結部品の軸部が挿通され、車両左右方向において前記軸部よりも大きい開口を有する長穴と、
前記軸部と前記長穴との間に介装される円筒部材と、を備え
前記円筒部材は、前記所定の大きさ以上の外力が加わった場合に破断可能に前記長穴の内周面及び/又はその近傍に固着されていることを特徴とする請求項4に記載のリヤサスペンション装置。
【請求項6】
前記長穴の長手方向両端部における前記長穴の短手方向の寸法は長手方向中央部における前記長穴の短手方向の寸法より小さく且つ前記円筒部材の外径より小さいことを特徴とする請求項4に記載のリヤサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のリヤサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、後軸中心から車両前後方向(後方)に離れた位置でハブキャリア(アクスルハウジング)に接続されるサイドロッド(リンク)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に車両左右(横)方向から大きな外力が作用すると、後軸中心から離れた位置でハブキャリアに固定されるサイドロッドなどのリンク機構が位置ずれしてサスペンションジオメトリが変化するおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、リンクを有するリンク機構が車体と車輪との間に基準取付位置を有して介装されたリヤサスペンション装置において、車輪において、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が加わった場合に、リンク機構が基準取付位置から相対移動される相対移動可能部を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が加わると、リンク機構が基準取付位置から相対移動されるので、外力によって加わるリンク機構へのエネルギーを吸収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】車両用リヤサスペンション装置の第1実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1のリヤサスペンション装置の機能説明図である。
【
図3】
図1のリヤサスペンション装置に設けられた相対移動可能部の構成を示す組立図である。
【
図4】
図3の相対移動可能部の長穴と規制部の説明図である。
【
図5】
図4の長穴と規制部が設けられたブラケットの正面図である。
【
図7】
図3の相対移動可能部を組み立てた状態の平面図である。
【
図8】
図7の相対移動可能部によるリンク調整の説明図である。
【
図9】
図7の相対移動可能部に外力が作用した場合の説明図である。
【
図11】車両用リヤサスペンション装置の第2実施形態を示す斜視図である。
【
図12】
図11のリヤサスペンション装置における後輪転舵アクチュエータと相対移動可能部の組立図である。
【
図14】
図11の相対移動可能部に外力が作用した場合の説明図である。
【
図15】
図11の相対移動可能部の他の例を示す外力作用時の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面は模式的なものであって、現実のものとは異なる場合がある。また、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0009】
図1に示す第1実施形態の車両用のリヤサスペンション装置は、後輪3L,3Rが取り付けられるハブキャリア2と車体であるサスペンションメンバ1の間に、主として後輪3L,3Rの上下方向への移動(ストローク)を許容するリンク機構4が介装されて構成されている。このリンク機構4は、フロントアッパーリンク51、リヤアッパーリンク52、フロントロアリンク53、リヤロアリンク54、トーコントロールリンク(ロッド)5を有する。これらのリンクの車輪側端部は、周知のリヤサスペンション装置と同様に、ハブキャリア2に弾性的に連結されている。また、フロントアッパーリンク51、リヤアッパーリンク52、フロントロアリンク53、リヤロアリンク54の車体側端部も、周知のリヤサスペンション装置と同様に、サスペンションメンバ1に弾性的に連結されている。また、このリヤサスペンション装置は、車両の後輪3L,3Rを能動的に転舵するための後輪転舵アクチュエータ6を備える。この実施形態の後輪転舵アクチュエータ6は、サスペンションメンバ1の車両左右方向中央部に形成されたアクチュエータマウント部55にリジットに固定されている。この後輪転舵アクチュエータ6は、車両左右方向両側にアクチュエータロッド55が突出しており、それらアクチュエータロッド55の突出先端部に車両左右方向両側のトーコントロールリンク5の車体側端部が弾性的に連結されている。この後輪転舵アクチュエータ6では、車両左右方向両側のトーコントロールリンク5を車両左右方向に同時に移動することにより、
図2に示すように、後輪3L,3Rのトーの向き(トー角)を変更して後輪3L,3Rを転舵する。後輪転舵アクチュエータ6の作動は、図示しないコントローラからの制御信号(駆動信号)によって電子制御されるが、その制御態様については省略する。また、後輪転舵アクチュエータ6は、例えば、車両左右方向両側のアクチュエータロッド55が独立して作動するものであってもよい。
【0010】
トーコントロールリンク5と後輪転舵アクチュエータ6のアクチュエータロッド55の連結部位には、トーコントロールリンク5を車両左右方向に移動して後輪3L,3Rのトー角を調整するトー角調整機構56が設けられている。このトー角調整機構56は、例えば、部品の製造公差や組み立て誤差の累積などによって生じる後輪3L,3Rのトー角の誤差を規定の範囲内に収まるように調整するためのものである。また、このトー角調整機構56は、後軸(後輪3L,3Rの車軸)中心から車両前後方向に離れた位置に主として車両左右方向への大きな外力が作用した場合にトーコントロールリンク5を車両左右方向に移動させる相対移動可能部7を構成している。
図3の組立図を用いてトー角調整機構56(相対移動可能部7)の構成要素を説明する。このトー角調整機構56は、後輪転舵アクチュエータ6の(車両左側の)アクチュエータロッド55の突出先端部に固定されたブラケット21、ブラケット21に差し込まれたトーコントロールリンク5の車体側端部にブラケット21の一方の外側から差し込まれるカムボルト22、ブラケット21の他方の外側に突出されたカムボルト22の軸部22b(ねじ部22c)に被嵌されてカムボルト22と一体的に回転されるカムワッシャ23、及びカムボルト22のねじ部22cに螺着されるナット24を備えて構成される。
【0011】
ブラケット21は、
図4に示す車両左側のもののように、2つの対向する方形金属製対向板部21aの1つの端部(端面)同士を方形金属製連結板部21bで連結したコ字状断面を有する二股の金属製板部材であり、連結板部21bの外側面が後輪転舵アクチュエータ6のアクチュエータロッド55の先端に固着されている。また、ブラケット21の2つの対向板部21aのそれぞれの中央部には、車両左右方向に長手な長穴8が互いに対向するように形成されている。すなわち、長穴8は車両左右方向において軸部22bよりも大きい開口を有する。この長穴8の車両左右方向両側には、
図4aに示すように、台形形状の金属製板部材からなる規制部材25が底辺を向き合わせて対向板部21aに溶接などによって固着され、これにより、
図4bに示すように、規制部9が形成されている。この規制部9の台形断面の底辺間の距離は、カムボルト22(締結部品)の円形板状カム部22aの直径相当に設定されている(
図5参照)。従って、この規制部9は、カムボルト22の車両左右方向への移動を規制するものである。但し、後段に詳述するように、規制部材25は、車両左右方向に向けて所定の大きさ以上の外力が作用すると破断するようにブラケット21に固着されていることから、規制部9は、所定の大きさ以上の車両左右方向への外力が作用した場合にカムボルト22の車両左右方向への移動を許容するものであるともいえる。
【0012】
カムボルト22は、
図6の三面図からも理解されるように、金属製円形板部からなるワッシャ形状のカム部22aが形成されており、その中心は軸部22b(ねじ部22c)の中心(軸心)から所定寸法だけずれている。カムボルト22のカム部22aを挟んで軸部22bの反対側には、一般的な六角ボルトと同等の六角形断面の頭部22dが設けられている。カムワッシャ23の単体は図示を省略しているが、カムボルト22のカム部22aと同等の形状であり、カムボルト22の軸部22bの軸心と同位置にカムボルト22の軸部22b(ねじ部22c)を挿通するための穴部が形成されており、この穴部とカムボルト22の軸部22b(ねじ部22c)には、カムワッシャ23が周方向に回転しないための(例えばキーとキー溝形状による)回り止め構造が設けられている。ナット24は、一般的な座付きナットと同等である。
図5に示す車両左側のブラケット21の長穴8にカムボルト22を
図6の状態で差し込んでトー角調整機構56を組み立てると
図7の平面図のようになる。
図8bは、
図7の状態のカムボルト22をブラケット21の正面から見た図である。この場合、カムボルト22の軸部22b(ねじ部22c)は長穴8の長手方向中央に位置する。ここでは、カムボルト22のカム部22a(カムワッシャ23も同じ)の外周面がカムボルト22の軸部22bから最も遠くなる部分をカム山22fと規定する。この状態から、例えばカムボルト22の頭部22dを時計回り方向に回転すると、カム山22fも時計回り方向に回転されるが、カム部22aは規制部9によって車両左右方向への移動が規制されているので、カムボルト22の軸部22bは、
図8aに示すように、長穴8内を図の右方に移動する。従って、トーコントロールリンク5も図の右方に移動されるので、
図2の左後輪3Lはトーアウトし、右後輪3Rはトーインする。一方、カムボルト22の頭部22dを反時計回り方向に回転すると、カム山22fも反時計回り方向に回転され、これに伴って、カムボルト22の軸部22bは、
図8cに示すように、長穴8内を図の左方に移動する。従って、トーコントロールリンク5も図の左方に移動されるので、
図2の左後輪3Lはトーインし、右後輪3Rはトーアウトする。このようにして後輪3L,3Rのトー角を調整した後は、カムボルト22とナット24を規定の締め付けトルクで締め付けて固定する。従って、大きな外力が作用しない限り、カムボルト22もカムワッシャ23も固定された状態に維持され、特に車両左右方向には移動されない。
【0013】
例えば、車両がスピンした結果、後輪3L,3Rが縁石などに当接し、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に車両左右方向の所定の大きさ以上の外力が作用すると、トーコントロールリンク5が車両左右方向に押される。これに伴い、カムボルト22のカム部22aが当接している規制部9の固着部位が破断し、規制部材25がブラケット21から剥離する。
図9は、トーコントロールリンク5の一部を含めたトー角調整機構56、すなわち相対移動可能部7の平面図、
図10は、相対移動可能部7の正面図である。例えば、
図9b、
図10bがトー角調整された正常状態のカムボルト22の位置(
図8bと同じ)である場合に、車両左側のトーコントロールリンク5が車両右方に所定の大きさ以上の外力で押されると、車両右側の規制部9をカムボルト22のカム部22aが押圧する。そして、その結果、
図9a、
図10aに示すように車両右側の規制部9が破断して、その規制部9を構成している規制部材25が取れてしまう(トーコントロールリンク5も移動する)。一方、車両右側のトーコントロールリンク5が車両左方に所定の大きさ以上の外力で押され、これにより後輪転舵アクチュエータ6のアクチュエータロッド55を介して車両右側のトーコントロールリンク5が車両左方に所定の大きさ以上の外力で押されると、車両左側の規制部9をカムボルト22のカム部22aが押圧する。そして、その結果、
図9c、
図10cに示すように車両左側の規制部9が破断して、その規制部9を構成している規制部材25が取れてしまう(トーコントロールリンク5も移動する)。これらをまとめると、トー角調整された正常状態のトーコントロールリンク5の取付位置を基準取付位置としたとき、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が作用した場合に、相対移動可能部7によってトーコントロールリンク5が車両左右方向に相対移動される。このとき、相対移動可能部7に固定されている規制部9が破断することによって、外力によってトーコントロールリンク5、全体としてリンク機構4に作用するエネルギーが吸収される。また、実際に、トーコントロールリンク5が基準取付位置から相対移動された場合には、例えば、車両直進時には後輪3L,3Rは転舵されないはずなのに、正常時の車両直進時の車両挙動と比べて乗員が違和感を覚え、後輪3L,3Rのサスペンションジオメトリに何らかの変化が生じたことに気づく。
【0014】
このように、この実施形態のリヤサスペンション装置は、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が加わった場合に、トーコントロールリンク5が基準取付位置から相対移動される相対移動可能部7を備える。従って、車両左右方向に大きな外力が作用してトーコントロールリンク5が移動されるような場合に、リンク機構4に作用するエネルギーを吸収することができる。
また、相対移動可能部7は、トーコントロールリンク5をサスペンションメンバ1側に連結するためのカムボルト22と、サスペンションメンバ1側に設けられ且つカムボルト22の軸部22bが挿通され且つ車両左右方向において軸部22bよりも大きな開口を有する長穴8を備える。従って、カムボルト22の車両左右方向への移動を規制する規制部材25を所定の固着力で固着することで、車両左右方向に所定の大きさ以上の外力が加わった場合に、トーコントロールリンク5が基準取付位置から相対移動される相対移動可能部7を構成することができる。
また、カムボルト22は長穴8に軸部22bが挿通された状態で締結され、その長穴8の車両左右方向の少なくとも一方に、カムボルト22と当接して設けられカムボルト22の車両左右方向の少なくとも一方への移動を規制し且つ車両左右方向に向けて所定の大きさ以上の外力が加わった場合に破断可能な規制部9を設けた。これにより、簡潔な構造にして、リンク機構4に作用する外力のエネルギーを緩和することが可能な相対移動可能部7を構成することができる。なお、規制部9は、例えばカムボルト22に近接して設けられていてもよい。この場合の「近接」は、締結部品であるカムボルト22の締結の際に、カムボルト22の締結が決められる位置の近傍であることを意味する。
【0015】
次に、車両用リヤサスペンション装置の第2実施形態について説明する。
図11に示す第2実施形態の車両用のリヤサスペンション装置は、
図1に示す第1実施形態の車両用のリヤサスペンション装置とほぼ同等であり、同等の構成要素には同等の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施形態では、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の車両左右方向への外力が作用した場合にトーコントロールリンク5を車両左右方向に移動可能とする相対移動可能部7が、後輪転舵アクチュエータ6と車体であるサスペンションメンバ1の間に設けられている。具体的には、
図12に示すように、後輪転舵アクチュエータ6をサスペンションメンバ1のアクチュエータマウント部55に取り付ける取り付け構造31が相対移動可能部7を構成している。このアクチュエータマウント部55は、
図13に明示するように、比較的厚さの大きい金属製板部材で箱型に構成されており、後輪転舵アクチュエータ6の連結プレート32を取り付ける箇所の車両前後の板部材に車両左右方向に長手な長穴8が設けられている。この長穴8は、アクチュエータマウント部55の上部の車両左右方向両側部と下部の車両左右方向中央部の計3カ所に設けられており、何れも、その車両左右方向中央部に、箱型のアクチュエータマウント部55を貫通する円筒部材10が溶接などによって固着されている(
図14参照)。具体的には、円筒部材10の外周面が長穴8の内周面及び/又はその近傍に溶接されて固着されている。この円筒部材10の長穴8内における固着部分は、車両左右方向に向けて所定の大きさ以上の外力が作用すると破断するように設定されている。この円筒部材10は、軸線を車両前後方向に向けて長穴8に固着されており、後輪転舵アクチュエータ6を取り付けるための連結ボルト33(締結部品)の軸部33a(ねじ部33b)が挿通可能な内穴を有し、外径は長穴8の短手方向寸法と同等かそれより僅かに小さい。後輪転舵アクチュエータ6をアクチュエータマウント部55に対して適正に配置した状態で、後輪転舵アクチュエータ6の連結プレート32には、円筒部材10の内穴と対向する位置に連結ボルト33の軸部33a(ねじ部33b)が挿通される円形の取り付け穴32aが設けられている。
【0016】
そして、車両前方から円筒部材10の内穴内に連結ボルト33の軸部33aを挿入し、円筒部材10から車両後方向きに突出した連結ボルト33の軸部33a(ねじ部33b)を後輪転舵アクチュエータ6の連結プレート32の取り付け穴32a内に挿通し、連結プレート32から突出されたねじ部33bにナット34を螺着して後輪転舵アクチュエータ6がサスペンションメンバ1に固定されている。なお、この実施形態でも後輪3L,3Rのトー角を調整するトー角調整機構56が設けられているが、この実施形態では相対移動可能部7としては機能しない。
図14bは、長穴8の長手方向(=車両左右方向)中央部に円筒部材10が正常に固着されている状態の長穴8、及び、円筒部材10、連結ボルト33の断面を表しており、図中のクロスハッチングの部分が溶接などによる円筒部材10の長穴8への固着部分である。例えば、車両がスピンした結果、後輪3L,3Rが縁石などに当接し、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に車両左右方向の所定の大きさ以上の外力が作用すると、トーコントロールリンク5が車両左右方向に押される。これに伴い、後輪転舵アクチュエータ6が車両左右方向に移動されると、それをサスペンションメンバ1に連結している連結ボルト33が押圧され、これにより円筒部材10を長穴8に固着している固着部分が破断し、円筒部材10が長穴8内を車両左右方向に移動する。例えば、車両左側のトーコントロールリンク5が車両右方に所定の大きさ以上の外力で押されると、連結ボルト33に押されて円筒部材10と長穴8の固着部分が破断し、その結果、
図14aに示すように連結ボルト33と円筒部材10が長穴8内を車両右方に移動する。一方、車両右側のトーコントロールリンク5が車両左方に所定の大きさ以上の外力で押されると、同様に、連結ボルト33に押されて円筒部材10と長穴8の固着部分が破断し、その結果、
図14cに示すように連結ボルト33と円筒部材10が長穴8内を車両左方に移動する。これらをまとめると、円筒部材10が長穴8に固着されている状態の後輪転舵アクチュエータ6の取付位置を基準取付位置としたとき、後軸中心から車両前後方向に離れた位置に所定の大きさ以上の外力が作用した場合に、相対移動可能部7によって後輪転舵アクチュエータ6が車両左右方向に相対移動される。このとき、相対移動可能部7に固着されている円筒部材10の固着部分が破断することによって、外力によって後輪転舵アクチュエータ6、全体としてリンク機構4に作用するエネルギーが吸収される。また、実際に、後輪転舵アクチュエータ6、すなわちそれに連結されているトーコントロールリンク5が基準取付位置から相対移動された場合には、例えば、車両直進時には後輪3L,3Rは転舵されないはずなのに、正常時の車両直進時の車両挙動と比べて乗員が違和感を覚え、後輪3L,3Rのサスペンションジオメトリに何らかの変化が生じたことに気づく。
【0017】
図15は、第2実施形態の変形例を示す。この実施形態では、
図15bに示すように、長穴8の長手方向両端部における長穴8の短手方向の寸法は長手方向中央部における長穴8の短手方向の寸法より小さく且つ円筒部材10の外径より小さく設定されている。そのため、車両左側のトーコントロールリンク5が車両右方に所定の大きさ以上の外力で押されて、
図15aに示すように連結ボルト33と円筒部材10が長穴8内を車両右方に移動したり、車両右側のトーコントロールリンク5が車両左方に所定の大きさ以上の外力で押されて、
図15cに示すように連結ボルト33と円筒部材10が長穴8内を車両左方に移動したりする際、円筒部材10の外周面が長穴8の内周面を拡幅(拡径)する。これにより、トーコントロールリンク5を車両左右方向に移動する外力のエネルギーがより一層吸収され、それが車両に及ぼす損傷を低減することが可能となる。
【0018】
このように、この実施形態のリヤサスペンション装置では、リンク機構4が後輪3L,3Rを転舵するための後輪転舵アクチュエータ6を有し、後輪転舵アクチュエータ6とサスペンションメンバ1の間に相対移動可能部7を設けた。これにより、大きな車両左右方向への外力が作用した場合には車両左右方向両側のトーコントロールリンク5を同時に車両左右方向に移動させることができ、その結果、正常時に比べて車両挙動の変化が大きくなり、乗員にサスペンションジオメトリの変化を早く気付かせることが可能となる。
また、相対移動可能部7は、後輪転舵アクチュエータ6をサスペンションメンバ1に連結するための連結ボルト33と、サスペンションメンバ1に設けられ且つ連結ボルト33の軸部33aが挿通され且つ車両左右方向において軸部33aよりも大きい開口を有する長穴8と、軸部33aと長穴8との間に介装される円筒部材10と、を備え、車両左右方向に向けて所定の大きさ以上の外力が加わった場合に破断可能に、長穴8の内周面及び/又はその近傍に円筒部材10が固着されて構成される。これにより、簡潔な構造にして、リンク機構4に作用する外力のエネルギーを緩和することが可能な相対移動可能部7を構成することができる。
また、長穴8の長手方向両端部における長穴8の短手方向の寸法を長手方向中央部における長穴8の短手方向の寸法より小さく且つ円筒部材10の外径より小さく設定することにより、車両左右方向に向けて作用する外力のエネルギーがより一層吸収され、それが車両に及ぼす損傷を低減することが可能となる。
【0019】
以上、実施形態に係るリヤサスペンション装置について説明したが、本件発明は、上記実施の形態で述べた構成に限定されるものではなく、本件発明の要旨の範囲内で種々変更が可能である。例えば、上記の実施形態では、何れも、車両左右方向に向けて所定の大きさ以上の外力が作用するとトーコントロールリンク5が車両左右方向に移動される相対移動可能部7についてのみ説明したが、他のリンクが移動される構成であってもよく、更には全てのリンク、すなわちハブキャリア2(車輪)とサスペンションメンバ1(車体)の間に介装されているリンク機構4が移動される構成とすることも可能である。同様に、後輪転舵アクチュエータ6は、トーコントロールリンク5を介して後輪3L,3Rを転舵するものに代えて、他のリンクを介して後輪3L,3Rを転舵するものであってもよく、更にはリンク機構4を介して後輪3L,3Rを転舵するものであってもよい。
【符号の説明】
【0020】
1…サスペンションメンバ(車体)、2…ハブキャリア、3L,3R…後輪、4…リンク機構、5…トーコントロールリンク(リンク)、6…後輪転舵アクチュエータ、7…相対移動可能部、8…長穴、9…規制部、10…円筒部材