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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178741
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】電気回路体および電力変換装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20241218BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20241218BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20241218BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L25/04 C
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097115
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉武 勇一郎
(72)【発明者】
【氏名】楠川 順平
(72)【発明者】
【氏名】露野 円丈
(72)【発明者】
【氏名】志村 隆弘
(72)【発明者】
【氏名】高木 佑輔
【テーマコード(参考)】
5F136
5H770
【Fターム(参考)】
5F136BC05
5F136CB06
5F136DA22
5F136DA27
5F136FA02
5F136FA03
5F136FA22
5H770AA21
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA02Y
5H770JA10X
5H770PA11
5H770PA26
5H770PA28
5H770QA04
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA38
5H770QA40
(57)【要約】
【課題】従来では、高電圧化を考慮した場合に、絶縁信頼性に課題があった。
【解決手段】半導体素子が接合された導体板と、前記導体板と対向して配置され、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記導体板と前記冷却部材との間に配置される絶縁シートと、を備え、前記絶縁シートは、前記導体板と対向する中間導体を内蔵し、前記中間導体は、前記半導体素子の一つに対応する前記導体板に対して複数個に分割して配置され、前記導体板に対して電気的に並列となる電気容量を形成する電気回路体。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が接合された導体板と、前記導体板と対向して配置され、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記導体板と前記冷却部材との間に配置される絶縁シートと、を備え、
前記絶縁シートは、前記導体板と対向する中間導体を内蔵し、
前記中間導体は、前記半導体素子の一つに対応する前記導体板に対して複数個に分割して配置され、前記導体板に対して電気的に並列となる電気容量を形成する電気回路体。
【請求項2】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記中間導体は、前記導体板の端部と対向する領域において複数個に分割して配置される電気回路体。
【請求項3】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記中間導体は、前記導体板の端部と対向する領域の分割数が前記導体板の中央部と対向する領域の分割数よりも多い電気回路体。
【請求項4】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記中間導体は、格子状に分割される電気回路体。
【請求項5】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記絶縁シートは、前記中間導体を前記絶縁シートの厚み方向に複数本内蔵する電気回路体。
【請求項6】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記絶縁シートは、セラミックを用いた電気回路体。
【請求項7】
請求項1に記載の電気回路体において、
前記絶縁シートは、前記絶縁シートの断面において前記中間導体が占める面積の割合が20%以上である電気回路体。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の電気回路体において、
前記導体板は、前記半導体素子の両面に形成され、
前記冷却部材は、前記各導体板と対向して両面に配置され、
前記絶縁シートは、前記導体板と前記冷却部材との間にそれぞれ配置される電気回路体。
【請求項9】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載の電気回路体を備え、直流電力と交流電力を相互に変換する電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気回路体および電力変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子のスイッチング動作により直流電力と交流電力とを相互に変換する電力変換装置は、変換効率が高いため、民生用、車載用、鉄道用、変電設備等に幅広く利用されている。電力変換装置は、半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、半導体素子と冷却部材との間に配置される絶縁シートと、を備えた電気回路体をインバータとして動作するように組み込んで構成される。インバータとして用いられる電気回路体は、小型化および軽量化が要求される他、高電圧化の要望に応えるべく絶縁信頼性の向上が求められる。
【0003】
特許文献1には、上アーム側の第1パワー半導体素子及び下アーム側の第2パワー半導体素子と、交流電流を伝達する第1導体部と、直流電流を伝達する第2導体部と、導電性の放熱部と、第1導体部と放熱部との間に絶縁層を介して配置される第1中間導体層と、第2導体部と放熱部との間に絶縁層を介して配置される第2中間導体層と、を備え、第2中間導体層は、第1中間導体層と分離して構成され、第1中間導体層は、第1導体部と放熱部との間の電圧を分担する容量回路を形成するパワーモジュールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-059147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の装置では、高電圧化を考慮した場合に、絶縁信頼性に課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による電気回路体は、半導体素子が接合された導体板と、前記導体板と対向して配置され、前記半導体素子による発熱を冷却する冷却部材と、前記導体板と前記冷却部材との間に配置される絶縁シートと、を備え、前記絶縁シートは、前記導体板と対向する中間導体を内蔵し、前記中間導体は、前記半導体素子の一つに対応する前記導体板に対して複数個に分割して配置され、前記導体板に対して電気的に並列となる電気容量を形成する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電気回路体の絶縁信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電気回路体の平面図である。
図2】電気回路体のX-X線における断面図である。
図3】電気回路体のY-Y線における断面図である。
図4】電気回路体の断面拡大図である。
図5】半導体モジュールの半透過平面図である。
図6】半導体モジュールの回路図である。
図7】変形例1における電気回路体の断面拡大図である。
図8】変形例2における絶縁シートの平面図である。
図9】変形例3における絶縁シートの平面図である。
図10】変形例4における絶縁シートの平面図である。
図11】変形例5における電気回路体の断面拡大図である。
図12】半導体モジュールを用いた電力変換装置の回路図である。
図13】電力変換装置の外観斜視図である。
図14】電力変換装置のXV-XV線における断面斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下の記載および図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略および簡略化がなされている。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は単数でも複数でも構わない。
【0010】
図面において示す各構成要素の位置、大きさ、形状、範囲などは、発明の理解を容易にするため、実際の位置、大きさ、形状、範囲などを表していない場合がある。このため、本発明は、必ずしも、図面に開示された位置、大きさ、形状、範囲などに限定されない。
【0011】
図1は、本発明の実施形態における電気回路体400の平面図である。
電気回路体400は、半導体モジュール300、冷却部材340等よりなる。図1に示す例では、電気回路体400は、半導体モジュール300を3個並列に設けてなる。
【0012】
半導体モジュール300は、半導体素子155、157を封止材360により封止して、これを内蔵している。半導体モジュール300の両面は半導体素子155、157のスイッチング動作による熱を放熱する。さらに、半導体モジュール300は、半導体素子155、157と接続されている端子が半導体モジュール300の側面の封止材360より導出される。これらの端子は、直流回路のコンデンサモジュール500(図12参照)に連結する正極側端子325Pおよび負極側端子325M、交流回路のモータジェネレータ192、194(図12参照)に連結する交流側端子325A等の大電流が流れるパワー端子である。なお、半導体素子155、157は、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラートランジスター)やMOSFET(金属酸化物半導体型電界効果トランジスタ)などのスイッチング素子を用いることができる。
【0013】
また、半導体モジュール300の側面の封止材360より導出される端子は、下アームゲート端子325L、コレクタセンス端子325C、エミッタセンス端子325E、上アームゲート端子325Uなどの端子である。半導体モジュール300より導出されるこれらの端子は、図示省略した基板の配線パターンなどの配線に接続される。半導体モジュール300を3個並列に設けた電気回路体400は、半導体素子155、157のスイッチング動作により直流電力と交流電力を相互に変換する電力変換装置200(図12参照)として機能する。なお、電気回路体400が有する半導体モジュール300の個数は3個に限らず、電気回路体400の種々の形態に合わせて任意に設定される。
【0014】
冷却部材340は、半導体モジュール300と対向して配置され、半導体素子155、157のスイッチング動作による発熱を冷却する。具体的には、冷却部材340は、内部に冷媒が流通する流路が形成され、流路を流通する冷媒により半導体素子155、157からの発熱を冷却する。冷媒には、水や水にエチレングリコールを混入した不凍液等を用いる。冷却部材340は、熱伝導率が高く軽量なアルミ系が望ましい。
【0015】
図2図3は、電気回路体400の断面図である。図2は、図1に示す電気回路体400のX-X線における断面図である。図3は、図1に示す電気回路体400のY-Y線における半導体モジュール300の一個分の断面図である。
【0016】
図2に示すように、電力変換装置200の上アーム回路を形成する第1半導体素子として、能動素子155、ダイオード156を備える(後述の図5図6参照)。能動素子としては、Si、SiC、GaN、GaO、C等を用いることができる。能動素子155のボディダイオードを用いる場合は、別付けのダイオードを省略してもよい。図3に示すように、第1半導体素子155のコレクタ側は、第2導体板431に接合されている。この接合には、はんだを用いてもよいし、焼結金属を用いてもよい。第1半導体素子155のエミッタ側には第1導体板430が接合されている。
【0017】
図2図3に示すように、下アーム回路を形成する第2半導体素子として、能動素子157、ダイオード158を備える(後述の図5図6参照)。第2半導体素子157のコレクタ側は、第4導体板433に接合されている。第2半導体素子157のエミッタ側には第3導体板432が接合されている。
【0018】
導体板430、431、432、433は、電気伝導性と熱伝導率が高い材料であれば特に限定されないが、銅系又はアルミ系材料等の金属系材料や、金属系材料と高熱伝導率のダイヤモンド、カーボンやセラミック等の複合材料等を用いることが望ましい。これらは、単独で用いてもよいが、はんだや、焼結金属との接合性を高めるためNiやAg等のめっきを施してもよい。
【0019】
導体板430、431、432、433は、電流を通電する役割の他に、半導体素子155、156、157、158が発する熱を冷却部材340に伝熱する伝熱部材としての役割をはたしている。半導体素子155、156、157、158と接合されている面と反対側の面が導体板430、431、432、433の放熱面となる。そして、導体板430、431、432、433と冷却部材340は電位が異なるため、放熱面との間に絶縁シート443を配置する。すなわち、絶縁シート443は導体板430、431、432、433から冷却部材340等へ電流が導通するのを防止し、電気的に絶縁するのが目的である。絶縁シート443は電力変換装置200において半導体モジュール300の主要な絶縁を形成する部位である。
【0020】
絶縁シート443は、一方面において導体板430、431、432、433を覆って導体板430、431、432、433の放熱面に接着される。絶縁シート443は、所定の絶縁性が確保できるのであれば有機物でも無機物でも適用することができる。一般的には、絶縁シート443は、樹脂絶縁層と呼ばれエポキシ樹脂であることが多いが、セラミックを用いてもよい。セラミックを用いた絶縁シート443の製作法は、例えば、セラミックコンデンサなどと同じようにグリーンシートを焼成し、中間導体440としてシート状の電極を入れる。セラミックを用いることにより部分放電が発生しても熱劣化が生じにくくなる。絶縁シート443は、熱伝導性を向上するためにフィラー粒子などを入れることがある。
【0021】
絶縁シート443の詳細は後述するが、絶縁シート443は、導体板430、431、432、433と対向する中間導体440を内蔵し、中間導体440は、半導体素子155、157の一つに対応する導体板430、431、432、433にして複数個に分割して配置され、導体板430、431、432、433に対して電気的に並列となる電気容量を形成する。
絶縁シート443の他方面には、表面導体層444が接着され、半導体モジュール300の表面に露出し、熱伝導部材453と接する。表面導体層444は、例えば金属箔である。
【0022】
半導体素子155、156、157、158、導体板430、431、432、433は、絶縁シート443、表面導体層444と共に、トランスファーモールド成型により封止材360で封止され、半導体モジュール300を構成する。封止材360はエポキシ樹脂であることが多いが、絶縁性があれば種類を選ばず適用するものとする。
【0023】
冷却部材340は、半導体モジュール300の両面に配置され、図示省略した固定部材により半導体モジュール300に固定されている。なお、本実施形態では、冷却部材340を半導体モジュール300の両面に配置した電気回路体400で説明するが、冷却部材340を半導体モジュール300の片面に配置した電気回路体400であってもよい。この場合は、半導体モジュール300の他の片面には、筐体や取り付け部材が配置され、この筐体や取り付け部材に、半導体モジュール300の他の片面が、固定部材により固定される。
【0024】
熱伝導部材453は、半導体モジュール300と冷却部材340との間に、接触熱抵抗を低減するために配置される。熱伝導部材453は、グリースや、ゲルグリース、フェーズチェンジシートなどを用いる。
【0025】
図4は、電気回路体400の断面拡大図であり、図3のA部分を示す。
図4に示すように、絶縁シート443は、導体板433と対向する中間導体440を内蔵している。導体板433は、半導体素子157(図3参照)に対応している。中間導体440は、導体板433に対して複数個に分割して配置されている。その結果、複数個に分割された中間導体440は、導体板433との間で電気的に並列となる電気容量を形成する。なお、絶縁シート443の厚さは、中間導体440と絶縁シート443を挟む導体板430、432あるいは冷却部材340との間の距離が、通常動作時において、部分放電が発生しない厚さにする。
【0026】
絶縁シート443と封止材360と導体板433が接する部分Pは、電気的な観点から一般的に三重点と呼ばれる。この三重点は、比誘電率が異なる部材の境界となるため、電位集中などが発生しやすく、絶縁信頼性を高めることが要求される。また三重点は、機械的な力が加わることからもボイド、クラック、剥離などの空隙が発生しやすく、絶縁信頼性を高めることが要求される。また、三重点に限らず、導体板433の端部と対向する絶縁シート443の領域は、電力変換装置200の稼働時に熱応力などに起因した剥離等が生じやすく、絶縁信頼性を高めることが要求される。
【0027】
絶縁シート443は、導電性の中間導体440を内蔵しているので、絶縁シート443内に空隙が発生した場合にその誘電率の低さにより電位が集中しても、中間導体2によりボイド等への電位集中を分担することができる。絶縁シート443は、絶縁シート443の断面において中間導体440が占める面積の割合が20%以上であることが望ましい。
【0028】
図4に示すように、中間導体440は、絶縁シート443内において同じ幅で複数個に分割され、同じ間隔で配置されている。なお、中間導体440の分割配置される幅や間隔は一例であり、半導体モジュール300の構造、構成、電気的特性に応じて適宜決定することができる。例えば、中間導体440は、少なくとも導体板433の端部と対向する領域において複数個に分割して配置される構成であればよい。
【0029】
絶縁シート443の中間導体440を複数個に分割しているので、仮にボイドなどにより分割された中間導体440が部分的に短絡しても中間導体440の全体が同電位にならず、短絡部以外の中間導体440への電位の集中を抑制することができる。
【0030】
例えば、部分Pで示す三重点において、電位集中や機械的な力により、ボイド、クラック、剥離などが発生したとしても、中間導体440の全体への電位の集中を抑制でき、絶縁信頼性を高めることができる。この結果、駆動電圧の電圧値に応じて、絶縁シート443の薄肉化により半導体モジュール300の放熱性が向上し、小型化も図れる。ひいては電力変換装置200の絶縁性能が向上し、電力変換装置200の出力密度向上に寄与できる。
【0031】
また、三重点に限らず、導体板433の端部と対向する絶縁シート443の領域で熱応力などに起因した剥離等が発生しても、この領域で中間導体440を複数個に分割して配置することにより、絶縁信頼性を高めることができる。
【0032】
図5は、半導体モジュール300の半透過平面図である。図6は、半導体モジュール300の回路図である。
【0033】
図5図6に示すように、正極側端子325Pは、上アーム回路のコレクタ側から出力しており、バッテリ又はコンデンサの正極側に接続される。上アームゲート端子325Uは、上アーム回路の能動素子155のゲートから出力している。負極側端子325Mは、下アーム回路のエミッタ側から出力しており、バッテリ若しくはコンデンサの負極側、又はGNDに接続される。下アームゲート端子325Lは、下アーム回路の能動素子157のゲートから出力している。交流側端子325Aは、下アーム回路のコレクタ側から出力しており、モータに接続される。中性点接地をする場合は、下アーム回路は、GNDでなくコンデンサの負極側に接続する。
【0034】
上アームのエミッタセンス端子325Eは、上アーム回路の能動素子155のエミッタから、下アームのエミッタセンス端子325Eは、下アーム回路の能動素子157のエミッタから出力される。上アームのコレクタセンス端子325Cは、上アーム回路の能動素子155のコレクタから、下アームのコレクタセンス端子325Cは、下アーム回路の能動素子157のコレクタから出力される。
【0035】
また、半導体素子(上アーム回路)の能動素子155およびダイオード156の上下に導体板(上アーム回路エミッタ側)430、導体板(上アーム回路コレクタ側)431が配置される。半導体素子(下アーム回路)の能動素子157およびダイオード158の上下に導体板(下アーム回路エミッタ側)432、導体板(下アーム回路コレクタ側)433が配置される。
【0036】
本実施形態の半導体モジュール300は、上アーム回路及び下アーム回路の2つのアーム回路を、1つのモジュールに一体化した構造である2in1構造である。この他に、複数の上アーム回路及び下アーム回路を、1つのモジュールに一体化した構造を用いてもよい。この場合は、半導体モジュール300からの出力端子の数を低減し小型化することができる。
【0037】
図7は、変形例1における電気回路体400の断面拡大図であり、図4と同様に、図3のA部分に相当する。図4と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0038】
図4では、中間導体440は、絶縁シート443内において同じ幅で複数個に分割され、同じ間隔で配置されている例を示した。変形例1では、図7に示すように、中間導体440の分割数は、導体板433の端部と対向する領域の分割数が導体板433の中央部と対向する領域の分割数よりも多い。
【0039】
導体板433の端部と対向する絶縁シート443の領域は、電力変換装置200の稼働時に熱応力などに起因した剥離等が生じやすいが、この領域で中間導体440の分割数を多くすることにより、絶縁信頼性を高めることができる。
【0040】
図8は、変形例2における絶縁シート443の平面図である。絶縁シート443内の中間導体440を斜線網掛けで、導体板430、432の端部周囲を破線で示す。なお、図5の半透過平面図に示す絶縁シート443、導体板430、432とはその形状が同じではないが、図8、および以下に示す図9図10では、分かり易くするために、模式的に図示する。
【0041】
図8に示すように、絶縁シート443の導体板430、432の端部周囲に位置する部分には、分割した中間導体440のうち面積が小さい中間導体440を配置する。さらに、絶縁シート443の端部周囲に位置する部分には、分割した中間導体440のうち面積が小さい中間導体440を配置する。
【0042】
変形例2によれば、分割された中間導体440が絶縁シート443を挟む導体板430、432あるいは冷却部材340のいずれかと部分的に短絡しても中間導体440の全体が同電位にならず、短絡部以外の中間導体440への電位の集中を抑制することができる。
【0043】
図9は、変形例3における絶縁シート443の平面図である。絶縁シート443内の中間導体440を斜線網掛けで、導体板430、432の端部周囲を破線で示す。
図9に示すように、絶縁シート443の中間導体440は球形状の格子状に分割されている。球形状の面積は導体板430、432の領域の面積より小さく、半導体モジュール300の構造、構成、電気的特性に応じて適宜決定する。導体板430、432の端部周囲に位置する部分には、分割した中間導体440が適宜配置される。なお、球形状に限らず、楕円形、半円形、その他の形状であってもよく、これらの形状を混在してもよい。また、同一の形状、異なる形状を問わず、分割した中間導体440の面積は、同一であっても、異なってもよい。
【0044】
変形例3によれば、導体板430、432の位置に応じて中間導体440の分割位置や面積などを設計する手間を省略できる。そのうえで、絶縁信頼性を高めることができる。
【0045】
図10は、変形例4における絶縁シート443の平面図である。絶縁シート443内の中間導体440を斜線網掛けで、導体板430、432の端部周囲を破線で示す。
図10に示すように、絶縁シート443の中間導体440は菱形形状の格子状に分割されている。菱形形状の面積は導体板430、432の領域の面積より小さく、半導体モジュール300の構造、構成、電気的特性に応じて適宜決定する。導体板430、432の端部周囲に位置する部分には、分割した中間導体440が適宜配置される。なお、菱形形状に限らず、三角形、四角形、その他の多角形であってもよく、これらの形状を混在してもよい。また、同一の形状、異なる形状を問わず、分割した中間導体440の面積は、同一であっても、異なってもよい。
【0046】
変形例4によれば、導体板430、432の位置に応じて中間導体440の分割位置や面積などを設計する手間を省略できる。そのうえで、絶縁信頼性を高めることができる。
【0047】
図11は、変形例5における電気回路体400の断面拡大図であり、図7と同様に、図3のA部分に相当する。図7と同一の箇所には同一の符号を付してその説明を簡略に行う。
【0048】
図7では、絶縁シート443は、中間導体440を絶縁シート443の厚み方向に一本内蔵する例を示した。変形例5では、図11に示すように、絶縁シート443は、中間導体440を絶縁シート443の厚み方向に二本内蔵する。二本に限らず、複数本設けてもよい。なお、中間導体440と絶縁シート443を挟む導体板430、432あるいは冷却部材340との間の距離は、絶縁シート443の混在させたフィラー粒子の径よりも大きくする。
【0049】
中間導体440の本数が増えることにより、中間導体440と絶縁シート443を挟む導体板430、432あるいは冷却部材340のいずれかとの電位分担がより効果的になる。これにより、短絡した場合における保護を多重化することが可能になる。
【0050】
図12は、半導体モジュール300を用いた電力変換装置200の回路図である。
電力変換装置200は、インバータ回路部140、142と、補機用のインバータ回路部43と、コンデンサモジュール500とを備えている。インバータ回路部140及び142は、半導体モジュール300を複数個備えており、それらを接続することにより三相ブリッジ回路を構成している。電流容量が大きい場合には、更に半導体モジュール300を並列接続し、これら並列接続を三相インバータ回路の各相に対応して行うことにより、電流容量の増大に対応できる。また、半導体モジュール300に内蔵している半導体素子である能動素子155、157やダイオード156、158を並列接続することでも電流容量の増大に対応できる。
【0051】
インバータ回路部140とインバータ回路部142とは、基本的な回路構成は同じであり、制御方法や動作も基本的には同じである。インバータ回路部140等の回路的な動作の概要は周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0052】
上アーム回路は、スイッチング用の半導体素子として上アーム用の能動素子155と上アーム用のダイオード156とを備えており、下アーム回路は、スイッチング用の半導体素子として下アーム用の能動素子157と下アーム用のダイオード158とを備えている。能動素子155、157は、ドライバ回路174を構成する2つのドライバ回路の一方あるいは他方から出力された駆動信号を受けてスイッチング動作し、バッテリ136から供給された直流電力を三相交流電力に変換する。
【0053】
上アーム用の能動素子155および下アーム用の能動素子157は、コレクタ電極、エミッタ電極、ゲート電極を備えている。上アーム用のダイオード156および下アーム用のダイオード158は、カソード電極およびアノード電極の2つの電極を備えている。図6に示すように、ダイオード156、158のカソード電極が能動素子155、157のコレクタ電極に、アノード電極が能動素子155、157のエミッタ電極にそれぞれ電気的に接続されている。これにより、上アーム用の能動素子155および下アーム用の能動素子157のエミッタ電極からコレクタ電極に向かう電流の流れが順方向となっている。能動素子155、157は、例えばIGBTである。
【0054】
なお、能動素子としてはMOSFETを用いても良く、この場合は、上アーム用のダイオード156、下アーム用のダイオード158は不要となる。
【0055】
各上・下アーム直列回路の正極側端子325Pと負極側端子325Mはコンデンサモジュール500のコンデンサ接続用の直流端子にそれぞれ接続されている。上アーム回路と下アーム回路の接続部にはそれぞれ交流電力が発生し、各上・下アーム直列回路の上アーム回路と下アーム回路の接続部は各半導体モジュール300の交流側端子325Aに接続されている。各相の各半導体モジュール300の交流側端子320Bはそれぞれ電力変換装置200の交流出力端子に接続され、発生した交流電力はモータジェネレータ192または194の固定子巻線に供給される。
【0056】
制御回路172は、車両側の制御装置やセンサ(例えば、電流センサ180)などからの入力情報に基づいて、上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157のスイッチングタイミングを制御するためのタイミング信号を生成する。ドライバ回路174は、制御回路172から出力されたタイミング信号に基づいて、上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157をスイッチング動作させるための駆動信号を生成する。なお、181、188はコネクタである。
【0057】
上・下アーム直列回路は、不図示の温度センサを含み、上・下アーム直列回路の温度情報がマイコンに入力される。また、マイコンには上・下アーム直列回路の直流正極側の電圧情報が入力される。マイコンは、それらの情報に基づいて過温度検知および過電圧検知を行い、過温度或いは過電圧が検知された場合には全ての上アーム用の能動素子155、下アーム用の能動素子157のスイッチング動作を停止させ、上・下アーム直列回路を過温度或いは過電圧から保護する。
【0058】
図13は、図12に示す電力変換装置200の外観斜視図であり、図14は、図13に示す電力変換装置200のXV-XV線の断面斜視図である。
【0059】
電力変換装置200は、下部ケース11および上部ケース10により構成され、ほぼ直方体形状に形成された筐体12を備えている。筐体12の内部には、電気回路体400、コンデンサモジュール500等が収容されている。電気回路体400は冷却部材340へ流れる冷却流路を有しており、筐体12の一側面からは、冷却流路に連通する冷媒流入管13および冷媒流出管14が突出している。下部ケース11は、上部側が開口され、上部ケース10は、下部ケース11の開口を塞いで下部ケース11に取り付けられている。上部ケース10と下部ケース11とは、アルミニウム合金等により形成され、外部に対して密封して固定される。上部ケース10と下部ケース11とを一体化して構成してもよい。筐体12を、単純な直方体形状としたことで、車両等への取り付けが容易となり、また、生産もし易い。
【0060】
筐体12の長手方向の一側面に、コネクタ17が取り付けられており、このコネクタ17には、交流ターミナル18が接続されている。また、冷媒流入管13および冷媒流出管14が導出された面には、コネクタ21が設けられている。
【0061】
図14に図示されるように、筐体12内には、電気回路体400が収容されている。電気回路体400には、制御回路172およびドライバ回路174が配置され、電気回路体400の直流端子側には、コンデンサモジュール500が収容されている。コンデンサモジュールを電気回路体400と同一高さに配置することで、電力変換装置200を薄型化でき、車両への設置自由度が向上する。電気回路体400の交流側端子325Aは、電流センサ180を貫通してコネクタ188に接続されている。また、半導体モジュール300の直流端子である、正極側端子325Pおよび負極側端子325Mは、それぞれ、コンデンサモジュール500の正・負極端子362A、362Bに接合される。
【0062】
以上説明した実施形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)電気回路体400は、半導体素子155、156、157、158が接合された導体板430、431、432、433と、導体板430、431、432、433と対向して配置され、半導体素子155、156、157、158による発熱を冷却する冷却部材340と、導体板430、431、432、433と冷却部材340との間に配置される絶縁シート443と、を備え、絶縁シート443は、導体板430、431、432、433と対向する中間導体440を内蔵し、中間導体440は、半導体素子155、156、157、158の一つに対応する導体板430、431、432、433に対して複数個に分割して配置され、導体板430、431、432、433に対して電気的に並列となる電気容量を形成する。これにより、電気回路体の絶縁信頼性が向上する。
【0063】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の特徴を損なわない限り、本発明の技術思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。また、上述の実施形態と複数の変形例を組み合わせた構成としてもよい。
【符号の説明】
【0064】
10・・・上部ケース、11・・・下部ケース、13・・・冷媒流入管、14・・・冷媒流出管、17、21、181、182、188・・・コネクタ、18・・・交流ターミナル、43、140、142・・・インバータ回路、155、156、157、158・・・半導体素子、172・・・制御回路、174・・・ドライバ回路、180・・・電流センサ、192、194・・・モータジェネレータ、200・・・電力変換装置、300・・・半導体モジュール、310・・・回路体、325P・・・正極側端子、325M・・・負極側端子、325A・・・交流側端子、325C・・・コレクタセンス端子、325L・・・下アームゲート端子、325E・・・エミッタセンス端子、325U・・・上アームゲート端子、340・・・冷却部材、360・・・封止材、400・・・電気回路体、430、431、432、433・・・導体板、440・・・中間導体、443・・・絶縁シート、444・・・表面導体層、453・・・熱伝導部材、500・・・コンデンサモジュール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14