(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178743
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】現実拡張型表示装置
(51)【国際特許分類】
G02B 27/02 20060101AFI20241218BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20241218BHJP
G02C 11/00 20060101ALI20241218BHJP
B60K 35/23 20240101ALI20241218BHJP
H04N 13/302 20180101ALI20241218BHJP
H04N 5/64 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
G02B27/01
G02C11/00
B60K35/00 A
H04N13/302
H04N5/64 511A
H04N5/64 521Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097117
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】520487808
【氏名又は名称】シャープディスプレイテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】臼倉 奈留
【テーマコード(参考)】
2H006
2H199
3D344
【Fターム(参考)】
2H006CA00
2H199CA04
2H199CA12
2H199CA23
2H199CA25
2H199CA42
2H199CA46
2H199CA47
2H199CA63
2H199CA74
2H199CA97
2H199DA03
2H199DA12
2H199DA15
3D344AA27
3D344AB01
3D344AC25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】表示画像の臨場感が向上した現実拡張型表示装置を提供する。
【解決手段】現実の環境を視認可能な状態で、距離の異なる第一及び第二の画像をユーザーに視認させる現実拡張型表示装置であって、第一及び第二の画像用の偏光を出射する表示パネルと、前記偏光が入射する位置に配置された面分割偏光変換部材と、前記面分割偏光変換部材を透過した前記偏光が入射する位置に配置された光学素子及び凹面ハーフミラーと、を備え、前記面分割偏光変換部材は、平面視において、第一の画像用の偏光を透過させる第一の透過部と、第二の画像用の偏光を透過させ、かつ前記第一の透過部よりもλ/2異なる位相差を生じさせる第二の透過部と、を有し、前記光学素子は、前記第一の透過部を透過した第一の偏光から生成する第一の画像の虚像距離と、前記第二の透過部を透過した第二の偏光から生成する第二の画像の虚像距離とを異ならせる、現実拡張型表示装置。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
現実の環境を視認可能な状態で、距離の異なる第一及び第二の画像をユーザーに視認させる現実拡張型表示装置であって、
第一及び第二の画像用の偏光を出射する表示パネルと、
前記偏光が入射する位置に配置された面分割偏光変換部材と、
前記面分割偏光変換部材を透過した前記偏光が入射する位置に配置された光学素子及び凹面ハーフミラーと、を備え、
前記面分割偏光変換部材は、平面視において、第一の画像用の偏光を透過させる第一の透過部と、第二の画像用の偏光を透過させ、かつ前記第一の透過部よりもλ/2異なる位相差を生じさせる第二の透過部と、を有し、
前記光学素子は、前記第一の透過部を透過した第一の偏光から生成する第一の画像の虚像距離と、前記第二の透過部を透過した第二の偏光から生成する第二の画像の虚像距離とを異ならせる、現実拡張型表示装置。
【請求項2】
前記第一の透過部は、第一の画像用の偏光に対して偏光状態を変換せずに透過させる無変換部であり、
前記第二の透過部は、第二の画像用の偏光に対してλ/2の位相差を生じさせて偏光状態を変換する変換部である、
請求項1記載の現実拡張型表示装置。
【請求項3】
前記変換部は、λ/2の位相差を有する樹脂層を含む、請求項2記載の現実拡張型表示装置。
【請求項4】
前記第二の透過部は、断面視において、一対の基板と、前記一対の基板間に配置された液晶層と、を備え、
前記液晶層への印加電圧に応じて位相差が可変である、
請求項1記載の現実拡張型表示装置。
【請求項5】
前記光学素子は、液晶レンズであり、
前記液晶レンズは、前記第一の偏光に対して第一の焦点距離をもつレンズとして作用し、かつ前記第二の偏光に対してレンズとして作用しない、又は第二の焦点距離をもつレンズとして作用する、
請求項1記載の現実拡張型表示装置。
【請求項6】
前記液晶レンズは、屈折型レンズ、屈折率分布型レンズ又は回折型レンズである、請求項5記載の現実拡張型表示装置。
【請求項7】
前記液晶レンズは、パンチャラトナム・ベリー相レンズである、請求項5記載の現実拡張型表示装置。
【請求項8】
前記液晶レンズは、液晶層を有し、前記液晶層への印加電圧に応じて焦点距離が可変である、請求項5記載の現実拡張型表示装置。
【請求項9】
更に、前記面分割偏光変換部材を透過した前記偏光が入射する位置に配置された偏光選択反射板を備える、請求項1記載の現実拡張型表示装置。
【請求項10】
更に、別の面分割偏光変換部材と別の液晶レンズの組み合わせを備える、請求項1記載の現実拡張型表示装置。
【請求項11】
ヘッドマウント型表示装置である、請求項1記載の現実拡張型表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
以下の開示は、現実拡張型表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、現実世界に画像(「映像」ともいう)を重ね合わせて表示する現実拡張型表示装置の研究開発が進展しており、例えば、フロントガラスに運転者向けの情報の画像を表示するヘッドアップディスプレイが提案されている。このような現実拡張型表示装置では、臨場感を向上させるために、現実世界に重ね合わせる画像として、三次元の画像が用いられることがある。
【0003】
三次元表示に関する先行技術としては、例えば、特許文献1には、観察者から見て異なった奥行き位置に配置される複数の表示面に対して、表示対象物体を観察者の視線方向から射影した二次元像を生成し、前記生成された二次元像を前記複数の表示面の中の任意の2個の表示面にそれぞれ表示し、当該表示される二次元像の輝度を前記複数の表示面の中の任意の2個の表示面毎にそれぞれ独立に変化させて、三次元立体像を生成する三次元表示方法であって、偏光型多焦点光学系により、前記二次元像の表示光を、前記複数の表示面の中の任意の2個の表示面に結像させ、かつ、表示光の偏光方向を制御し、前記複数の表示面の中の任意の2個の表示面に結像される前記二次元像の輝度を独立に変化させることを特徴とする三次元表示方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に記載された先行技術は、裸眼での三次元表示が可能であるが、現実拡張型表示装置に適用できるものではなかった。
【0006】
本発明は上記現状に鑑みてなされたものであり、表示画像の臨場感が向上した現実拡張型表示装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の一実施形態は、現実の環境を視認可能な状態で、距離の異なる第一及び第二の画像をユーザーに視認させる現実拡張型表示装置であって、第一及び第二の画像用の偏光を出射する表示パネルと、前記偏光が入射する位置に配置された面分割偏光変換部材と、前記面分割偏光変換部材を透過した前記偏光が入射する位置に配置された光学素子及び凹面ハーフミラーと、を備え、前記面分割偏光変換部材は、平面視において、第一の画像用の偏光を透過させる第一の透過部と、第二の画像用の偏光を透過させ、かつ前記第一の透過部よりもλ/2異なる位相差を生じさせる第二の透過部と、を有し、前記光学素子は、前記第一の透過部を透過した第一の偏光から生成する第一の画像の虚像距離と、前記第二の透過部を透過した第二の偏光から生成する第二の画像の虚像距離とを異ならせる、現実拡張型表示装置。
【0008】
(2)また、本発明のある実施形態は、上記(1)の構成に加え、前記第一の透過部は、第一の画像用の偏光に対して偏光状態を変換せずに透過させる無変換部であり、前記第二の透過部は、第二の画像用の偏光に対してλ/2の位相差を生じさせて偏光状態を変換する変換部である、現実拡張型表示装置。
【0009】
(3)また、本発明のある実施形態は、上記(2)の構成に加え、前記変換部は、λ/2の位相差を有する樹脂層を含む、現実拡張型表示装置。
【0010】
(4)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、(2)又は(3)の構成に加え、前記第二の透過部は、断面視において、一対の基板と、前記一対の基板間に配置された液晶層と、を備え、前記液晶層への印加電圧に応じて位相差が可変である、現実拡張型表示装置。
【0011】
(5)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、(2)、(3)又は(4)の構成に加え、前記光学素子は、液晶レンズであり、前記液晶レンズは、前記第一の偏光に対して第一の焦点距離をもつレンズとして作用し、かつ前記第二の偏光に対してレンズとして作用しない、又は第二の焦点距離をもつレンズとして作用する、現実拡張型表示装置。
【0012】
(6)また、本発明のある実施形態は、上記(5)の構成に加え、前記液晶レンズは、屈折型レンズ、屈折率分布型レンズ又は回折型レンズである、現実拡張型表示装置。
【0013】
(7)また、本発明のある実施形態は、上記(5)の構成に加え、前記液晶レンズは、パンチャラトナム・ベリー相レンズである、現実拡張型表示装置。
【0014】
(8)また、本発明のある実施形態は、上記(5)の構成に加え、前記液晶レンズは、液晶層を有し、前記液晶層への印加電圧に応じて焦点距離が可変である、現実拡張型表示装置。
【0015】
(9)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)の構成に加え、更に、前記面分割偏光変換部材を透過した前記偏光が入射する位置に配置された偏光選択反射板を備える、現実拡張型表示装置。
【0016】
(10)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)又は(9)の構成に加え、更に、別の面分割偏光変換部材と別の液晶レンズの組み合わせを備える、現実拡張型表示装置。
【0017】
(11)また、本発明のある実施形態は、上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)、(7)、(8)、(9)又は(10)の構成に加え、ヘッドマウント型表示装置である、現実拡張型表示装置。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、表示画像の臨場感が向上した現実拡張型表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】表示装置における虚像の表示原理を説明する図である。
【
図3】人が現実の物を見る状態を説明する図である。
【
図4】虚像面が1つである場合の表示状態を説明する図である。
【
図5】虚像面が2つである場合の表示状態を説明する図である。
【
図6】実施形態1に係る現実拡張型表示装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図7】実施形態1に係る面分割偏光変換部材の拡大断面図である。
【
図8】樹脂を用いた屈折型レンズの構造を説明する図であり、上の図が断面図であり、下の図が上面図である。
【
図9】
図8に示した方位Aにおける屈折型レンズの動作を説明する図であり、上の図が液晶層への電圧印加時を表し、下の図が液晶層への電圧無印加時を表している。
【
図10】
図8に示した方位Bにおける屈折型レンズの動作を説明する図であり、上の図が液晶層への電圧印加時を表し、下の図が液晶層への電圧無印加時を表している。
【
図11】パンチャラトナム・ベリー相レンズの構成を説明する上面図である。
【
図12】パンチャラトナム・ベリー相レンズの機能を説明する図である。
【
図13】実施形態2に係る現実拡張型表示装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図14】実施形態3に係る現実拡張型表示装置の構成を模式的に示す側面図である。
【
図15】実施形態3に係る現実拡張型表示装置における凹面ハーフミラー近傍の構成の別の例を模式的に示す側面図である。
【
図16】現実拡張型表示装置により表示される画像の例を示す説明図であり、左側は元画像を示しており、右側は拡大画像を示している。
【
図17】自動車に設置された現実拡張型表示装置の表示画像を現実の環境に重ねた状態の例を示す説明図である。
【
図18】実施形態4に係る現実拡張型表示装置が備える面分割偏光変換部材の構成を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に記載された内容に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。なお、以下の説明において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を異なる図面間で共通して適宜用い、その繰り返しの説明は適宜省略する。本発明の各態様は、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜組み合わされてもよい。
【0021】
本実施形態の現実拡張型表示装置は、現実の環境を視認可能な状態で、距離の異なる第一及び第二の画像をユーザーに視認させるものである。上記表示装置の種類は特に限定されず、例えば、AR(拡張現実)技術に対応したコンテンツを表示するAR表示装置であってもよいし、ヘッドアップディスプレイ(Head-Up Display、略称:HUD)であってもよい。
上記表示装置の形式は特に限定されず、例えば、ヘッドマウント型表示装置(HMD)であってもよい。ヘッドマウント型表示装置(HMD)は、頭に装着できる形態の表示装置であり、例えば、頭に装着できるゴーグル形状を有し、装着時に液晶ディスプレイ等のディスプレイが使用者の目の前方に配置される。このようなHMDは、AR(拡張現実)技術に対応したコンテンツを視聴するのに好適である。HMDの構成としては、例えば、使用者の頭に装着するための支持部と、液晶モジュールを備えるディスプレイとを有し、装着時に上記ディスプレイが使用者の目の前方に配置されるものが挙げられる。
【0022】
本実施形態の現実拡張型表示装置は、面分割偏光変換部材を備え、1つの表示パネルから、虚像距離が異なる2つの像を生成させることができる。具体的な適用例としては、AR表示装置の場合、現実世界に近景(近くの虚像)と遠景(遠くの虚像)の画像を追加することができる。これにより、表示画像の臨場感を向上させることができるので、視聴時のユーザー(観察者)の負担を減らしたり、コンテンツへの没入感を向上したりすることができる。
【0023】
図1は、表示装置における虚像の表示原理を説明する図である。本願の図面において、一点鎖線は、ユーザーUの視線の方向を示し、実線矢印は、ユーザーUの目に向かう実像を表示する光の経路を示し、点線矢印は、ユーザーUの目に向かう虚像を表示する光の経路を示している。
図1の表示装置は、ユーザーU側から順に、焦点距離を調整可能な液晶レンズ50、焦点距離が一定のレンズ(物理レンズ)40、偏光板13、及び、ディスプレイ11を備える。ヘッドマウント型表示装置(HMD)等では、液晶レンズ50からディスプレイ11までの距離が短いことから、ユーザーUは、ディスプレイ11の後方に虚像Vを視認する。ここで、液晶レンズ50の焦点距離を変化させると虚像Vの位置はユーザーUに対して前後に動く。虚像Vが断続的に動くか、連続的に動くかは液晶レンズ50の方式による。ただし、
図1の表示装置において、特定のタイミングでの虚像Vはあくまで特定の距離に形成される。言い換えれば、虚像Vは1つの面内に表示される。以下、虚像Vが表示される面を「虚像面」ともいう。
【0024】
次に、虚像を表示に利用する場合の問題点について、虚像を表示に利用する表示装置の典型例であるVR表示装置に基づき説明する。上記問題点としては、VR酔いが知られており、その発生メカニズムは次の通りである。
図2は、従来のVRの表示原理を説明する図である。
図2に示すように、VR表示では、右目用の画像Rと左目用の画像Lとを別々に表示することによって、3D画像を映したい位置に画像I1があるとユーザーUに視認させる。
図3は、人が現実の物を見る状態を説明する図である。
図2及び3の比較から分かるように、従来のVRは、右目RE及び左目LEを画像I1に向けて回転させる動き(輻輳)とピント調節とが整合していない点で、人が現実の物を見る状態とは異なっている。VR酔いは、ピント調節の距離(右目用の画像R及び左目用の画像Lの距離)D1と両目による注視点の距離D2とが異なることによって発生すると考えられている。これは右目用の画像R及び左目用の画像Lが虚像であり、虚像面(虚像の距離)が動かせないことから発生する。ここで、焦点距離を調整可能な液晶レンズ等を用いて虚像面を動かすことができれば、
図3の状態を実現することができ、VR酔いを防止することができる。
【0025】
一方、VRにより立体感のある画像(3D画像)を表示する際、焦点距離を調整可能な液晶レンズ等を用いて虚像を動かすだけでは、人が現実の物を見る状態と比べたときの違和感を完全に無くすことは難しい。
図4は、虚像面が1つである場合の表示状態を説明する図であり、
図5は、虚像面が2つである場合の表示状態を説明する図である。虚像面数が1面しかない場合、周辺視の物体をどのように表現するかが問題となる。具体的には、
図4に示すように、画像I1の位置に焦点を合わせているとき、より近い位置にある物体の画像I2はボケて見えるはずである。虚像面が1つであると、1つの虚像面に右目用と左目用に2つのぼかした画像I2aを表示し、あたかもボケた画像I2があるように見せることで、周辺視であるように感じさせることができる。しかし、画像I1の位置と画像I2の位置に視点を切り替える際に、液晶レンズと画像の両方を切り替える必要があることと、ボケを画像で表現しているため、違和感を完全に無くすことは難しい。これに対して、
図5に示すように、2つの虚像面があれば、視点切替の際に液晶レンズと画像を切り替える必要が生じないため、スムーズな視点切替が可能となり、良好な没入感が得られる。そこで、本発明では、2つの虚像面(虚像距離が異なる2つの像)を生成する。
【0026】
<実施形態1>
図6は、実施形態1に係る現実拡張型表示装置の構成を模式的に示す側面図である。実施形態1に係る現実拡張型表示装置は、AR表示装置である。AR表示装置は、凹面レンズ(凹面ハーフミラー)60や導光板等を用いて、ディスプレイ11からの画像と現実の環境とを重ね合わせてユーザーUに視聴させる。凹面ハーフミラー60は、環境光をユーザーU側に透過するとともに、ディスプレイ11からの画像光をユーザーU側に反射させる。AR表示装置は、凹面ハーフミラー60の反射面に対向して、焦点距離を調整可能な液晶レンズ(光学素子)50、面分割偏光変換部材20、偏光板13、及び、ディスプレイ11を順に備える。
【0027】
上記ディスプレイ11と上記偏光板13との組み合わせからなる表示パネル10は偏光を出射する。虚像距離が異なる2つの画像の一方を「第一の画像」と定義し、他方を「第二の画像」と定義するとき、上記表示パネルは、第一及び第二の画像用の偏光をそれぞれ出射する。上記第一及び第二の画像用の偏光は、面分割偏光変換部材20を透過し、焦点距離を調整可能な液晶レンズ50に入射する。
【0028】
上記ディスプレイ11としては、例えば、液晶表示装置(LCD)や、有機EL表示装置(OLED)等の自発光ディスプレイが挙げられる。上記偏光板13としては、ある一方向に振動する偏光(第一の偏光成分)を透過し、該偏光に直交する方向に振動する偏光(第二の偏光成分)を吸収又は反射する直線偏光子が用いられる。
【0029】
上記面分割偏光変換部材20は、平面視において、第一の画像用の偏光を透過させる第一の透過部と、第二の画像用の偏光を透過させる第二の透過部とを有する。第二の透過部は、第一の透過部よりもλ/2異なる位相差を生じさせる領域であり、第一の画像用の偏光が第一の透過部を透過し、第二の画像用の偏光が第二の透過部を透過することにより、第一の画像用の偏光と第二の画像用の偏光がλ/2異なる位相差を生じさせることができる。
図6の表示装置は、λ/2の位相差を利用して2つの画像の虚像距離を異ならせることができる。ここで、「λ/2の位相差を生じさせ」るとは、透過する光に対し、その波長の1/2に相当する位相差を付与することを意味し、例えば、波長550nmの光に対して200nm以上、350nm以下の位相差を付与することを意味する。
本実施形態において、上記面分割偏光変換部材20は、第一の透過部が、第一の画像用の偏光に対して偏光状態を変換せずに透過させる無変換部22であり、第二の透過部が、第二の画像用の偏光に対してλ/2の位相差を生じさせて偏光状態を変換する変換部21である。ここで、「偏光状態を変換せず」とは、例えば、波長550nmの光に対する位相差が10nm以下であることを意味する。
【0030】
上記面分割偏光変換部材20としては、ディスプレイ11の表示面と平行な面内に、互いに位相差がλ/2異なる2以上の部分を可変的に形成するものを用いることができ、例えば、液晶パネルを用いることができる。すなわち、上記面分割偏光変換部材20において、上記変換部(第二の透過部)21は、断面視において、一対の基板と、上記一対の基板間に配置された液晶層とを備え、上記液晶層への印加電圧に応じて位相差が可変であってもよい。互いに位相差がλ/2異なる2以上の部分を可変的に形成する形態では、面内における上記変換部(第二の透過部)21と上記無変換部(第一の透過部)22の配置は時間切替(ON/OFF)可能であり、具体的には、液晶層への電圧印加により、ある時点で上記変換部21であったところが上記無変換部22となり、ある時点で上記無変換部22であったところが上記変換部21となる。したがって、面分割偏光変換部材20の全体が液晶パネルであることが好ましい。
【0031】
図7は、実施形態1に係る面分割偏光変換部材の拡大断面図である。ディスプレイ11の画面上には、λ/2(すなわち、550nmの光に対して275nm)の位相差の有無を切替えできる面分割偏光変換部材(液晶パネル)20が配置されている。液晶パネルの液晶モードとしては、TNモード、VAモード、ECBモード、IPSモード、FFSモード等の一般的に液晶パネルで利用されるモードは適用可能である。VAモードを例とすると、電圧オフで位相差は発生せず、電圧オンで位相差λ/2を発生する構成とすることができる。なお、面分割偏光変換部材20は、波長依存性を低減するため、液晶パネルを2層積層する等の対応をしてもよい。
【0032】
図7に示すように、面分割偏光変換部材(液晶パネル)20は、一対の基板25に挟まれた液晶層26に対して電圧を印加することにより液晶層26中の液晶26aを領域ごとに駆動できる。面分割偏光変換部材20を構成する液晶パネルの領域数は、重畳して配置されるディスプレイ11の画素数と同じであってもよいし、ディスプレイ11の画素数よりも少なくてもよい。
図7では、VAモードの液晶パネルについて、上方に電圧オン状態が、下方に電圧オフ状態が示されている。
ディスプレイ11から出射した直線偏光は、電圧オフ状態の面分割偏光変換部材20では位相が変わらないので、直線偏光のまま透過する。液晶レンズ50の向きは限定されないが、ここではレンズとして作用しないように液晶レンズ50が配置された場合について説明する。この場合、透過光はディスプレイから出たそのままに人の目に到達するので、ディスプレイ11の画面がそのまま見えることになる(実像が見える)。
【0033】
一方で、面分割偏光変換部材20の電圧がオンされると、ディスプレイ11から出射した光は90度回転した直線偏光になる。そうすると、直線偏光が通過する際に液晶レンズ50はレンズとして作用する。液晶レンズ50の焦点距離と同等の距離にディスプレイ11を置いているので、このレンズ作用により、ほぼ平行光となってユーザーUの目に届く。従って、ユーザーUには、ディスプレイ11がほぼ無限遠にあるように見える(虚像が見える)。
このようにして、実像と虚像を面分割偏光変換部材20で切替えることができるので、距離が異なる2つの虚像面を面分割で同時に見ることができ、奥行きのある表示(3Dディスプレイ)を見ることができる。例えば、前景としたいキャラクターの表示領域のみを無変換部22(位相差ゼロの領域)とし、遠景としたい背景領域を変換部21(位相差λ/2の領域)としてもよい。
【0034】
なお、上記構成では、簡単のため、焦点距離にディスプレイ11を置いて、虚像を無限遠としたが、液晶レンズ50の焦点距離、又は、液晶レンズ50からディスプレイ11までの距離を変えることで、任意の場所に虚像を配置することができる。液晶レンズ50の焦点距離は電圧で調整することが可能なため、液晶レンズ50への印加電圧を上げることでも虚像距離を無限遠から手前に動かすことができる。
【0035】
また、上記面分割偏光変換部材20としては、ディスプレイ11の表示面と平行な面内に、互いに位相差がλ/2異なる2以上の部分を定常的に有するものを用いることができ、例えば、上記無変換部22が透明部材であり、かつ上記変換部21がλ/2板であるように面分割された部材を用いることができる。λ/2板は、可視光に対し、その波長の1/2に相当する位相差を付与する部材であり、例えば、波長550nmの光に対して200nm以上、350nm以下の位相差を付与する部材である。λ/2板を用いる場合、面内における上記変換部(第二の透過部)21と上記無変換部(第一の透過部)22の配置は時間切替(ON/OFF)されない。
上記面分割された部材は、例えば、ガラス基板等の支持部材の全面に、λ/2の位相差を有する樹脂フィルムを貼り付けた後に、上記樹脂フィルムが上記変換部21に配置されるようにパターニングして樹脂層を形成する方法によって作製することができる。或いは、支持部材の上記変換部21に対応する領域のみに、λ/2の位相差を有する樹脂フィルムを貼り付けて樹脂層を形成する方法によって作製してもよい。また、λ/2の位相差を有する樹脂フィルムを用いる代わりに、λ/2の位相差を有する樹脂層を支持部材上に形成してもよく、例えば、支持部材上に配向膜を形成し、該配向膜上に光重合性液晶材料からなる層を形成し、該光重合性液晶材料を硬化物させて樹脂層を形成する方法を用いてもよい。
【0036】
上記面分割偏光変換部材20を透過した上記偏光が入射する位置には、上記無変換部(第一の透過部)22を透過した第一の偏光から生成する第一の画像の虚像距離と、上記変換部(第二の透過部)21を透過した第二の偏光から生成する第二の画像の虚像距離とを異ならせる光学素子が配置される。そのような光学素子として、本実施形態では、焦点距離を調整可能な液晶レンズ50が設けられている。液晶レンズ50は、上記第一の偏光に対して第一の焦点距離をもつレンズとして作用し、かつ上記第二の偏光に対してレンズとして作用しない(光を曲げない)、又は第二の焦点距離をもつレンズとして作用する。例えば、表示パネル10から出射される偏光の振動方向が、液晶レンズ50が作用する方向に一致するとき、上記無変換部22を透過した第一の偏光は、虚像Vを見せることになり、上記変換部21によって偏光の振動方向が90度直交するように切り替えられた第二の偏光は、液晶レンズ50が作用しないので、実像(表示パネルの表示画面)を見せることになる。これによって、1つの表示パネルを用いて、2つの虚像距離(一方が実像となる場合も含む)を実現することができ、前述のような周辺視も含めたスムーズな視点切替を実現することができる。
なお、環境光に液晶レンズ50を作用させると、レンズ作用がある方位と無い方位で拡大率が異なるため、大きさの異なる2つの像が見えてしまうことになる。そのため、液晶レンズ50は環境光が通過しない位置に置かれ、液晶レンズ50の光路上のユーザーU側に凹面ハーフミラー60が配置されている。
【0037】
上記液晶レンズ50の種類は特に限定されず、屈折型レンズ、屈折率分布型(GRIN)レンズ、回折型レンズ等が挙げられる。なお、上記屈折率分布型(GRIN)レンズは、液晶の配向により光を曲げるレンズである。これらの液晶レンズは一般的に、一方の振動方向の直線偏光に対してレンズとして作用するが、他方の振動方向の直線偏光に対してはレンズ作用が無い。また、液晶材料が硬化型である場合、液晶レンズの焦点距離が固定である。一方、液晶材料が可動である場合、レンズの焦点距離を可変にできる。焦点距離の制御方法について、屈折型レンズは電圧で制御でき、屈折率分布型レンズは電圧及び周期の両方で制御でき、回折型レンズは周期で制御できる。上記液晶レンズとしては、液晶層を有し、上記液晶層への印加電圧に応じて焦点距離が可変であるものが好ましい。
【0038】
上記屈折型レンズについて、
図8~10を参照して説明する。
図8は、樹脂を用いた屈折型レンズの構造を説明する図であり、上の図が断面図であり、下の図が上面図である。
図9は、
図8に示した方位Aにおける屈折型レンズの動作を説明する図であり、上の図が液晶層への電圧印加時を表し、下の図が液晶層への電圧無印加時を表している。
図10は、
図8に示した方位Bにおける屈折型レンズの動作を説明する図であり、上の図が液晶層への電圧印加時を表し、下の図が液晶層への電圧無印加時を表している。
図9及び10中の矢印は、屈折型レンズを透過する光の経路を示している。
屈折型レンズは、ガラス基板51、樹脂製のフレネルレンズ52、電極53、液晶層54、電極53、及び、ガラス基板51が積層された構造を有する。例えば、液晶層54にポジ型の液晶54a(液晶の屈折率楕円体の長軸が電界に沿う)を用いた場合、電圧無印加時は液晶54aが水平に配向し(
図9及び10の下の図)、電圧印加すると液晶54aが垂直に配向する(
図9及び10の上の図)。フレネルレンズ52を構成する樹脂と液晶54aの屈折率の組み合わせは限定されないが、例えば樹脂の屈折率が約1.5、液晶54aのne(長軸側の屈折率)が1.8、no(短軸側の屈折率)が1.5とする。このとき、
図9に示すように、方位Aでは、電圧無印加時は屈折差があるため光が曲がり、電圧印加時は屈折差がなくなるため、光が曲がらない。一方、
図10に示すように、方位Bでは、電圧無印加時及び電圧印加時のいずれでも屈折差は発生せず、レンズ機能は常に発生しないことになる。
【0039】
上記液晶レンズ50は、パンチャラトナム・ベリー相(Pancharatnam-Berry Phase)レンズであってもよい。パンチャラトナム・ベリー相レンズは、円偏光の向きによって、発散と収束を切り替えられる液晶レンズである(例えば、米国特許第10379419号参照)。例えば、左円偏光と右円偏光で焦点距離がfと-fに切り替わるレンズとして機能する。焦点距離fはアクティブなものであれば、原理的には周期で制御することができる。本実施形態では、別途焦点距離fの固定レンズを加えることで、焦点距離の切り替え距離を調整することができるので、例えば焦点距離fの固定レンズを加えれば、焦点距離f/2と0とを切り替えることができる。また、円偏光は、直線偏光にλ/4板を追加することで実現することができるので、直線偏光の場合とほぼ同様の構成で、別途設けるレンズの強さを調節することで、ほぼ同様の作用を実現することができる。
【0040】
図11は、パンチャラトナム・ベリー相レンズの構成を説明する上面図であり、
図12は、パンチャラトナム・ベリー相レンズの機能を説明する図である。パンチャラトナム・ベリー相レンズは、パンチャラトナム・ベリー相(PB配向)を用いるものであり、
図11に示すような液晶54aの周期的な配向により、回折が発生し、レンズ機能を得ることができる。
図12において、パンチャラトナム・ベリー相レンズPBLから出射した右円偏光RCPの光路を
図12中の実線で示し、パンチャラトナム・ベリー相レンズPBLから出射した左円偏光LCPの光路を
図12中の点線で示している。
図12のパンチャラトナム・ベリー相レンズPBLは、入射する円偏光が右円偏光RCPであると集光し、左円偏光LCPであると発散する例を示しており、出射時の円偏光の向きは逆方向になっている。このようにパンチャラトナム・ベリー相レンズは、入射させる円偏光の向きを切替えることにより、焦点fの発散、集光を切り替えることができる。
【0041】
パンチャラトナム・ベリー相レンズ(PBレンズ)は、レンズによる屈折の強さ(凹凸レンズ)を切り替えることができるレンズであり、原理的にはアクティブにオンオフ切り替えができる。すなわち、液晶の配向ピッチを調整すればレンズの強さを調整できる。PBレンズを用いる場合、ディスプレイ11から出る光を円偏光にするため、例えば、偏光板13は、直線偏光子とλ/4板を組み合わせた円偏光板とする。円偏光板の上に、円偏光を逆の円偏光に切り替えることができる面分割偏光変換部材20を置くことで、左右の円偏光を切り替えることができる。
【0042】
本実施形態の現実拡張型表示装置によれば、面分割偏光変換部材20を用いて2つの虚像面を切替えることができる。これにより、面分割で距離が異なる2つの面を同時に見ることが可能であり、奥行きのある表示(3Dディスプレイ)を行うことができるので、ARにおける没入感を高めることや、スムーズな視点切り替えが可能になる。
【0043】
<実施形態2>
図13は、実施形態2に係る現実拡張型表示装置の構成を模式的に示す側面図である。実施形態2に係る現実拡張型表示装置は、いわゆるバードバス方式と呼ばれる光学系を備えるAR表示装置である。液晶レンズ50と凹面ハーフミラー60の間に偏光選択反射板61が配置されることにより、光利用効率も確保しながら画像が歪みにくいものとなっている。この構成では、虚像の距離を液晶レンズ50で切り替えることもできるが、ユーザーUの正面に配置される凹面ハーフミラー60及びユーザーUの目の下方に配置される凹面ミラー62の曲率を変えることで、それぞれの虚像Vの距離を変えることもできる。凹面ハーフミラー60及び凹面ミラー62の偏光選択反射板61と対向する面上には、λ/4板63が配置されている。
【0044】
なお、
図13の構成において、液晶レンズ50をなくし、凹面ミラー62の曲率を異なったものとするだけでも、2つの虚像距離を同時に実現することが可能である。
【0045】
<実施形態3>
実施形態3に係る現実拡張型表示装置は、ヘッドアップディスプレイ(Head-Up Display、略称:HUD)である。ヘッドアップディスプレイは、一般的にはフロントガラスやコンバイナーと呼ばれる半透過の面(球面やそれに近い自由曲面が用いられることが多い)を用いて、ディスプレイからの画像と現実の環境とを重ね合わせる。
図14は、実施形態3に係る現実拡張型表示装置の構成を模式的に示す側面図であり、乗用車のフロントガラスを用いたHUD向け光学系の構成を示している。フロントガラス80は球面に近い曲面であるので、画像を拡大する効果を若干有するが、それだけでは不十分なので、一般的にはその入射側に凹面ミラー62を備え、その組合せによって、元の画像を拡大する。
液晶レンズ50を置く位置はいくつか考えられるが、光学距離を拡大して、虚像の距離が決まることと、液晶レンズ50は環境光に重ねられない(環境光も拡大されてしまうので)ことから、フロントガラス80と凹面ミラー62の間や凹面ミラー62付近にあることが好ましい。
また、凹面ミラー62の前に液晶レンズ50を配置し、液晶レンズ50のレンズパワーを約2倍として使用することもできる。この場合、
図8に示すような屈折型液晶レンズであれば、直線偏光に応じてレンズパワーが変わるので、そのまま約2倍のレンズパワーを得ることができるが、例えば
図11に示すようなPBレンズ型の場合には、円偏光の向きが変わることなどを加味すると、
図15に示すように、λ/4板63を配置する。
図15は、実施形態3に係る現実拡張型表示装置における凹面ハーフミラー近傍の構成の別の例を模式的に示す側面図である。
このような構成で位相差λ/2の領域と位相差ゼロの領域(PBレンズを使用する場合は、位相差λ/4の領域と軸が直交する位相差λ/4の領域)とに分けることで、虚像V1、V2のように別の距離に画像が浮いて見えるので、状況に応じた虚像距離の使い方(使い分け)が可能である。
【0046】
<実施形態4>
図16は、現実拡張型表示装置により表示される画像の例を示す説明図であり、左側は元画像を示しており、右側は拡大画像を示している。
図17は、自動車に設置された現実拡張型表示装置の表示画像を現実の環境に重ねた状態の例を示す説明図である。現実拡張型表示装置は、現実の環境に対して画像を重ねて表示するため、以下のような表示上の特徴がある。
(1)
図16に示すように、現実拡張型表示装置による表示は、画像を映さない部分(黒表示とする部分)が大きくなりやすい。
(2)
図17に示すように、現実拡張型表示装置による表示は、画面の下側は虚像距離を近く、画面の上側は虚像距離を遠くして、現実の環境に画像を重ねるケースが多くなりやすい。
図17では、画面の上側には、奥の虚像V3として、現実の環境に重畳するAR画像が表示されている。画面の中央には、第一の手前の虚像V4として、自車の挙動に対応して生成されるAR画像が表示されている。画面の下側には、第二の手前の虚像V5として、メーター等のAR画像が表示されている。
【0047】
上記特徴のため、現実拡張型表示装置では、画面の上側は虚像を奥に固定し、画面の下側は虚像を手前に固定し、画面内の一部のみで虚像距離(虚像位置)の切り替えを行う使用方法が想定される。この場合、面分割偏光変換部材の少なくとも一部を液晶パネルで構成することにより虚像位置を切替可能としつつ、他の少なくとも一部を位相差板で構成して位相をλ/2ずらすことにより、虚像距離が奥と手前とで切り替わる部分と、虚像距離が固定される部分をそれぞれ設けることができる。
【0048】
図18は、実施形態4に係る現実拡張型表示装置が備える面分割偏光変換部材の構成を模式的に示す平面図である。
図18に示すように、面分割偏光変換部材120は、平面視において、第一の画像用の偏光を透過させる第一の透過部121と、第二の画像用の偏光を透過させる第二の透過部122と、第三の画像用の偏光を透過させる第三の透過部123とを有する。第一の透過部121には位相差板は設けられず、第二の透過部122には液晶パネルが設けられ、第三の透過部123には位相差板が設けられている。
図18の面分割偏光変換部材120の構成は、現実拡張型表示装置の表示画面の分割例に対応する。すなわち、第一の透過部121は、虚像を奥に固定する画面の上側に対応し、第二の透過部122は、虚像距離(虚像位置)の切り替えを行う画面の中央に対応し、第三の透過部123は、虚像を手前に固定する画面の下側に対応する。
【0049】
第三の透過部123は、位相差板を貼り合わせることで安価に形成することが可能である。一方で、第二の透過部122を構成する液晶パネルを大型化し、第三の透過部123についても液晶パネルで構成してもよい。液晶パネルとしては、電圧無印加で水平配向になる液晶を利用するものが好適に用いられる。いずれにせよ、第一の透過部121は、液晶パネルや位相差板の配置が不要であるため、画面の全面を虚像距離の切替え可能な面分割偏光変換部材に比べて、実施形態4の面分割偏光変換部材120は安価に作製することができる。
【0050】
<変形例1>
実施形態1及び2の現実拡張型表示装置は、面分割偏光変換部材と液晶レンズを1セット用いたものであるが、面分割偏光変換部材20と液晶レンズ50を複数セット備えていてもよい。複数セット(Nセット)用いることで、虚像面を2N面生成することができる。但し、駆動や後に説明する画像処理等が複雑になる。
面分割偏光変換部材20は原理的にはディスプレイ面に近い方が良い。これは、虚像Vの境界面が、ディスプレイ画像上できっちりと規定されるためである。面分割偏光変換部材20をディスプレイ面から離すと、境界部の画素は、2つの虚像面どちらにも含まれることがある。この境界部の問題は、後述する画像処理等を併用することで対処できる。
このように面分割偏光変換部材20と液晶レンズ50のセットを複数用いれば、2Nの虚像面を切替えることができるので、面分割で距離が異なる2N面を同時に見ることができ、奥行きのある表示(3Dディスプレイ)を見ることができ、VRとして没入感が高まったり、スムーズな視点切り替えが可能になる。
【0051】
<変形例2>
上述の実施形態では、電圧可変の液晶レンズを用いたが、UV硬化型液晶材料により、スタティックな(可変できない)液晶レンズ50を用いても良い。この場合、スタティックな液晶レンズ50を用いるため、虚像Vを電圧で動かすことはできないが、2つの虚像(実像のケースを含む)Vを面分割偏光変換部材20で切り替えることができる。安価に作製でき、液晶レンズ50は電気的配線が不要になり、電気配線はディスプレイ11側に集約されるメリットがある。
【符号の説明】
【0052】
10:表示パネル
11:ディスプレイ
13:偏光板
20、120:面分割偏光変換部材
21:変換部
22:無変換部
25:基板
26:液晶層
26a:液晶
40:レンズ(物理レンズ)
50:液晶レンズ
51:ガラス基板
52:フレネルレンズ
53:電極
54:液晶層
54a:液晶
60:凹面ハーフミラー
61:偏光選択反射板
62:凹面ミラー
63:λ/4板
64:ミラー
80:フロントガラス
121:第一の透過部
122:第二の透過部
123:第三の透過部
D1:ピント調節の距離
D2:輻輳の距離
I1、I2:3D画像
I2a:ぼかした画像
R:右目用の画像
RCP:右円偏光
RE:右目
L:左目用の画像
LCP:左円偏光
LE:左目
U:ユーザー(観察者)
V、V1、V2:虚像
V3:奥の虚像
V4:第一の手前の虚像
V5:第二の手前の虚像