(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017877
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】電気式脱イオン水製造装置および電気式脱イオン水製造装置用の枠体
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20240201BHJP
B01D 61/46 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022120814
(22)【出願日】2022-07-28
(71)【出願人】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 賢治
【テーマコード(参考)】
4D006
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA17
4D006HA42
4D006JA08A
4D006JA08B
4D006JA30C
4D006MA03
4D006MA13
4D006MA14
4D006PA01
4D006PB02
4D061DA01
4D061DB13
4D061EA09
4D061EB01
4D061EB04
4D061EB13
4D061EB19
4D061FA08
(57)【要約】
【課題】脱塩室に充填されているイオン交換体の偏りや脱塩室を区画するイオン交換膜の変形を防ぎつつ、大流量で被処理水を安定して処理できる電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)を提供する。
【解決手段】貫通する開口を有する枠体43と、開口内に充填されたイオン交換体と、を有し、開口の両端をそれぞれ塞ぐように配置された1対のイオン交換膜32,33によって区画されている脱塩室23を備えるEDI装置1において、枠体43の開口は相互に分離した複数の開口部63からなり、開口部63の各々は100mmを超えて240mm未満である幅Wを有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通する開口を有する枠体と、前記開口内に充填されたイオン交換体と、を有し、前記開口の両端をそれぞれ塞ぐように配置された1対のイオン交換膜によって区画されている脱塩室を備える電気式脱イオン水製造装置であって、
前記開口は相互に分離した複数の開口部からなり、前記開口部の各々は100mmを超えて240mm未満である幅を有する、電気式脱イオン水製造装置。
【請求項2】
前記脱塩室を区画する前記イオン交換膜を介して前記脱塩室に隣接して配置された濃縮室をさらに備え、
前記濃縮室には、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混合した状態で充填されている、請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項3】
前記開口部の各々は略長方形であって前記開口部の前記幅は前記開口部の短辺の長さである、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項4】
前記開口部の前記幅は、前記脱塩室における水の流れ方向と前記枠体の厚さ方向とに直交する方向に沿った前記開口部の長さである、請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
前記電気式脱イオン水製造装置の使用状態における上下方向と前記枠体の厚さ方向とに直交する方向である横幅方向に沿って前記枠体に前記複数の開口部が配置する、請求項4に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
前記脱塩室における水の流れ方向に沿った前記開口部の長さは、前記開口部の前記幅よりも長い、請求項5に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
前記横幅方向に沿った前記枠体の長さが500mm以上1000mm以下である、請求項6に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項8】
前記電気式脱イオン水製造装置の使用状態における上下方向での前記枠体の長さより、前記横幅方向に沿った前記枠体の長さが長い、請求項5に記載の電気式脱イオン水製造装置。
【請求項9】
電気式脱イオン水製造装置において用いられ、イオン交換体の充填に用いられる貫通する開口を有する枠体において、
前記開口は相互に分離した複数の開口部からなり、前記開口部の各々は100mmを超えて240mm未満である幅を有することを特徴とする、枠体。
【請求項10】
前記開口部は略長方形であり、
前記枠体に、前記複数の開口部に供給される水が流れる流路を構成する第1の貫通孔と、前記複数の開口部から排出される水が流れる流路を構成する第2の貫通孔と、が設けられ、
前記複数の開口部の各々の短辺の一方において当該開口部の内壁に形成されたスリットとして、前記第1の貫通孔に連通する第1の内部流路が形成され、
前記複数の開口部の各々の短辺の他方において当該開口部の内壁に形成されたスリットとして、前記第2の貫通孔に連通する第2の内部流路が形成されている、請求項9に記載の枠体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置と、電気式脱イオン水製造装置に用いられる枠体とに関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水から脱イオン水を生成する装置の1つとして、電気式脱イオン水製造装置(EDI(Electrodeionization)装置ともいう。以下、電気式脱イオン水製造装置のことをEDI装置とも称する)がある。EDI装置は、電気泳動と電気透析とを組み合わせた装置であって、陽極を備える陽極室と陰極を備える陰極室との間に濃縮室を介して1以上の脱塩室を配置した構成を有する。そして相互に隣接するこれらの室(すなわち陽極室、濃縮室、脱塩室及び陰極室)の間はイオン交換膜で区画されている。脱塩室にはイオン交換樹脂などのイオン交換体が充填されるとともに被処理水が供給される。陽極室、濃縮室及び陰極室にもイオン交換体が充填されていることが好ましい。EDI装置では、陽極と陰極との間に直流電圧を印加することにより被処理水の脱塩処理とイオン交換体の再生処理とが同時に進行する。EDI装置は、イオン交換体の再生のための薬品を必要としない、という利点を有する。
【0003】
EDI装置は、少なくとも濃縮室と脱塩室とがイオン交換膜を介して繰り返して配置された構造とすることができるから、貫通する開口を有する複数の枠体(スペーサーなどとも呼ばれる)を使用し、イオン交換膜を挟みながら枠体を積層することで濃縮室と脱塩室を構成することができる。このような枠体は、板状部材にその両方の表面を貫通する開口を形成した形状であるとみなすことができ、板状部材に開口を設けて枠体としたと仮定してその板状部材における厚さが枠体の厚さであるということができる。脱塩室を構成する枠体を積層するたびに、その枠体の開口には脱塩室用のイオン交換体が充填される。このように構成されたEDI装置は、陽極から陰極に向かう方向が水平方向であって、枠体の厚さ方向に積層された複数の枠体の開口が1つの筒状の空間を形成しこの空間の両端に陽極と陰極とが配置されるような姿勢で使用される。この姿勢では、複数の枠体の開口によって形成される上述した筒状の空間は、枠体間に介在するイオン交換膜によって区画されることなり、区画されることによって形成された小空間がそれぞれ濃縮室や脱塩室となる。枠体を積層して構成されたEDI装置では、複数の脱塩室に対して並列に被処理水が供給される。以下の説明において、枠体や枠体に設けられる開口、開口部について上下方向というときは、その枠体を備えるEDI装置の使用状態における上下方向を指すものとする。そして上下方向にも枠体の厚さ方向にも直交する方向を横幅方向と呼ぶことにする。
【0004】
またEDI装置では、枠体の開口にイオン交換樹脂を充填して脱塩室を構成した場合に脱塩室内でイオン交換樹脂が移動したり圧縮したりするのを防ぎ、さらにイオン交換体の変形などを防ぐために、枠体に大きな開口を1つ設けるのではなく、枠体におけるそのような大きな開口を分割して、上下方向に延びた細長い開口部が横幅方向に複数個並ぶようにする手法が提案されている(例えば、特許文献1,2参照)。特許文献3は、枠体の大きな開口内にハニカム状の区画部材を配置して区画部材によって形成された小室内にイオン交換体を充填することを開示し、特許文献4は、枠体の大きな開口を格子状に分割して各格子によって形成される小室の内部にイオン交換体を充填することを開示している。
【0005】
脱塩室をさらに中間イオン交換膜で仕切って、陽極側の第1小脱塩室と陰極側の第2小脱塩室に分割し、被処理水がこれらの小脱塩室を順次通水するように構成されたEDI装置もある。このようなEDI装置も枠体とイオン交換膜とを交互に積層することで組み立てることができ、その場合、各小脱塩室は小脱塩室用の枠体とその枠体の開口を覆うように枠体の両側に配置されているイオン交換膜と開口内に充填されているイオン交換体とによって構成されることになる。特許文献5は、各小脱塩室を構成する枠体の開口を複数の開口部に分割することを開示し、特許文献6は、陽極側の第1小脱塩室を構成する枠体の開口を複数の開口部に分割することを開示している。
【0006】
近年、半導体装置製造の分野などにおいて高純度の水が大量に必要とされるようになってきている。イオン交換体の再生のための薬品が不要であるという特徴から、高純度の水を大量に製造する用途のために、1台で大量の水を処理可能な大型のEDI装置、すなわち大流量のEDI装置の需要も高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭61-107906号公報
【特許文献2】特公平7-16587号公報
【特許文献3】特開2002-136971号公報
【特許文献4】特開2006-218382号公報
【特許文献5】特開2001-239270号公報
【特許文献6】特開2011-576号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
EDI装置では、イオン交換体が充填された脱塩室に被処理水を通水するときに適切な空間速度(SV)には上限があり、EDI装置において被処理水の流量を大きくするためにはEDI装置内に充填されるイオン交換体の総量を増やす必要がある。ここで、貫通する開口を有する枠体と、開口内に充填されたイオン交換体と、を有し、開口の両端をそれぞれ塞ぐように配置された1対のイオン交換膜によって区画されている脱塩室をセルと呼ぶことにする。大流量のEDI装置を構成するための方法として、脱塩室の数を増やす、すなわち積層されるセルの数を増やす方法と、セルを大きくしてその開口を大きくする方法とがあり、これらの方法の少なくとも一方が採用される。しかしながら、セルの積層数を大きくするとEDI装置の運転電圧が上昇するから、セルの積層数には実用上、上限がある。一方でセルの大型化を図る場合、特許文献1-5に記載されるようにセルの開口を複数の開口部に分割する場合には、これらの特許文献では開口部の幅は例えば40~50mm以下程度が好ましいとされているので、セルに設けられる開口部の数が多くなる。そしてこの場合、多数の開口部の各々に対してイオン交換樹脂などであるイオン交換体を適正量充填する必要があるのでEDI装置を組み立てるときの作業性が低下する。また、枠体に設けられる開口部の数が増えると、開口部の相互間を仕切る梁状の部分が枠体の寸法全体に占める割合を無視できなくなり、枠体をさらに大きくする必要が生じる。セルを大型化する際に上下方向に大きくすると通水差圧が大きくなりすぎたり、脱塩性能に影響が及んだりすることがあるので、セルは、EDI装置の運転時の姿勢を基準として、横幅方向に大きくする必要がある。
【0009】
本発明の目的は、充填されているイオン交換体の偏りやイオン交換膜の変形を防ぎつつ、大流量で被処理水を安定して処理できるEDI装置と、そのようなEDI装置で使用される枠体とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に基づくEDI装置(電気式脱イオン水製造装置)は、貫通する開口を有する枠体と、開口内に充填されたイオン交換体と、を有し、開口の両端をそれぞれ塞ぐように配置された1対のイオン交換膜によって区画されている脱塩室を備えるEDI装置であって、開口は相互に分離した複数の開口部からなり、開口部の各々は100mmを超えて240mm未満である幅を有する。
【0011】
本発明に基づく枠体は、EDI装置において用いられ、イオン交換体の充填に用いられる貫通する開口を有する枠体において、開口は相互に分離した複数の開口部からなり、開口部の各々は100mmを超えて240mm未満である幅を有することを特徴とする。
【0012】
本発明において、枠体に形成される開口部の各々の幅は、105mm以上200mm以下であることが好ましく、110mm以上180mm以下であることがより好ましく、120mm以上160mm以下であることがさらに好ましい。本発明において「開口部の幅」とは、開口部の各々が略長方形に形成されるときは、例えばその短辺の長さである。本発明に基づくEDI装置は、イオン交換膜を挟んで枠体をその厚さ方向に多数積層することにより脱塩室と濃縮室が交互に配置するように構成されたものとすることができ、その場合、脱塩室における水の流れ方向は、通常、EDI装置の使用状態における上下方向とされる。脱塩室において上下方向に沿って水が流れるようにした場合には、水の流れの方向に直交する方向での開口部の長さ、すなわち上述の横幅方向での開口部の長さを本発明における「開口部の幅」と規定してもよい。横幅方向での長さを開口部の幅とする場合、枠体に形成される複数の開口部は、相互に横幅方向に並ぶように配置されるようにすることができ、さらには、開口部の幅よりも開口部の上下方向での長さを長くすることができる。
【0013】
大流量のEDI装置に用いられる脱塩室においてその通水差圧を小さくするためには、横幅方向に長く枠体を形成することが有効である。機械的強度なども考慮して、横幅方向に沿った枠体の長さをaとして、例えばaを500mm以上1000mm以下とすることができる。あるいは、上下方向での枠体の長さをbとして、a>b、すなわちa/b>1とすることが好ましい。より好ましくはa/b>1.2であり、さらに好ましくはa/b>1.5である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、充填されているイオン交換体の偏りやイオン交換膜の変形を防ぎつつ、大流量で被処理水を安定して処理できるEDI装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の一形態のEDI装置を示す概略断面図である。
【
図3】別の実施形態のEDI装置の構成を示す概略断面図である。
【
図4】従来技術による一般的な枠体を示す正面図である。
【
図5】本発明において使用される枠体の構成の例を示す正面図である。
【
図6】被処理水の流れの例を示す概略正面図である。
【
図8】実施例1~3、比較例1のEDI装置の要部を示す図である。
【
図9】実施例4のEDI装置の要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施の一形態のEDI装置を示している。図示されるEDI装置10は、陽極11を設けた陽極室21と陰極12を設けた陰極室25との間に、陽極11の側から、それぞれイオン交換膜を挟んで濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24を配置したものであり、このうち、脱塩室23と濃縮室24はこの順で繰り返し設けられてよい。この繰り返しの単位、すなわち1個の脱塩室23とそれに隣接する1個の濃縮室24とからなるものをセルペアと呼ぶ。したがって、EDI装置10は、陽極室21、濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24、脱塩室23、濃縮室24、…、濃縮室24、陰極室25という構成を有する。陽極室21と濃縮室22の間にはカチオン交換膜31が介在し、濃縮室22と脱塩室23の間にはアニオン交換膜32が介在し、濃縮室24と陰極室25の間にはアニオン交換膜34が介在する。そして、脱塩室23に対して陽極11の側で隣接する濃縮室24とその脱塩室23との間にはアニオン交換膜32が介在し、脱塩室23に対して陰極12の側で隣接する濃縮室24とその脱塩室23との間にはカチオン交換膜33が介在する。その結果、脱塩室23は、陽極11側のアニオン交換膜32と陰極12側のカチオン交換膜33で区画されていることになる。
【0017】
脱塩室23には、イオン交換体としてイオン交換樹脂が充填されている。EDI装置10の運転時に陽極11と陰極12との間に印加すべき直流電圧を低くするために、陽極室21、濃縮室22,24及び陰極室25にもイオン交換樹脂などのイオン交換体が充填されていることが好ましい。脱塩室23は、被処理水が供給されて脱イオン水を処理水として排出する。陽極室21及び陰極室25は、電極室供給水が供給されて電極水を排出する。濃縮室22,24は、濃縮室供給水が供給されて濃縮水を排出する。
【0018】
濃縮室22,24にイオン交換樹脂を充填する場合、充填されるイオン交換樹脂にカチオン交換樹脂が含まれている方がEDI装置10の運転電圧を小さくすることができるとともに運転電圧が安定し、かつ、ホウ素の除去率が向上する。その一方で濃縮室22,24にカチオン交換樹脂のみを充填させた場合、被処理水や濃縮室22,24に供給される水にカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分が含まれているときに運転電圧の上昇が起こるおそれがある。これらのことから、濃縮室22,24にはアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とをそれらが混合した状態で充填することが好ましい。アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して濃縮室22,24に充填する場合、アニオン交換樹脂の見かけの体積をAとし、カチオン交換樹脂の見かけの体積をCとして、これらのイオン交換樹脂の混合比率A:Cは20:80から60:40の間にあることが好ましく、20:80から50:50の間にあることがより好ましい。なお、AとCとの比は、濃縮室22,24にイオン交換樹脂を充填した後においても、充填されたイオン交換樹脂を濃縮室22,24から取り出してアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とに分離し、分離されたアニオン交換樹脂の見かけの体積と分離されたカチオン交換樹脂の見かけの体積とをそれぞれ測定することによって決定することができる。
【0019】
このEDI装置10は、各々が開口を有する複数の枠体41~45をそれらの相互間にイオン交換膜を挟みながら積層した構成を有する。陽極11及び陰極12は、枠体41~45の積層方向の両端に位置して枠体41~45の開口を介して相互に向かい合っている。陽極室21、濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24及び陰極室25は、それぞれ、枠体41,42,43,44,45によって構成されている。陽極11は押さえ板48を介して枠体41に固定され、陰極12は押さえ板49を介して枠体45に固定されている。陽極室21を構成する枠体41と濃縮室22を構成する枠体42とが隣接しているが、これらの枠体41,42の開口がカチオン交換膜31によって分離されて、陽極室21と濃縮室22とが相互に区画されている。同様に、隣接する枠体42と枠体43の間にはアニオン交換膜32が配置し、隣接する枠体43と枠体44の間にはカチオン交換膜33が配置し、隣接する枠体44と枠体45の間にはアニオン交換膜34が配置している。
【0020】
図1では、複数の脱塩室23に被処理水を供給する流路51、複数の濃縮室22,24に濃縮室供給水を供給する流路52、複数の脱塩室23から脱イオン水を回収する流路53、及び複数の濃縮室22.24から濃縮水を回収する流路54が、枠体41~45の外部に描かれている。しかしながら流路51~54の各々は陽極11から陰極12に向かう方向と平行に延びるので、実際には、隣接する枠体42~44の間で連通するように少なくとも枠体42~44を貫通するものとして設けられている。
図2は、
図1に示すEDI装置10の分解斜視図であるが、
図2には、流路51~54は描かれていない。
【0021】
このようにイオン交換膜を介在させつつ枠体を順次積層して濃縮室22,24や脱塩室23を形成することにより、EDI装置10を容易に製造することができる。枠体を積層するときは、開口を上向きにして枠体を積層する。各室(陽極室21、濃縮室22、脱塩室23、濃縮室24及び陰極室25)にイオン交換樹脂を充填するときは、その室を構成する枠体を積層した上で、その枠体の開口にイオン交換樹脂を充填し、その後、イオン交換膜を介在させて次の枠体をその上に載せればよい。
【0022】
図1に示すEDI装置10を運転して脱イオン水を製造するときは、陽極11から陰極12に向かう方向が水平方向となるように、そして、陽極室21、濃縮室22,24、脱塩室23及び陰極室25のそれぞれの内部での水の流れ方向が上下方向となるように、EDI装置10の姿勢が定められる。この姿勢では、各枠体41~45が直立してそれらの開口が水平方向を向く。そして、濃縮室22,24に濃縮室供給水を供給し、陽極室21と陰極室25に電極室供給水を供給し、陽極11と陰極12の間に直流電圧を印加しながら脱塩室23に被処理水を供給することにより、脱塩室23内で被処理水の脱塩処理とイオン交換樹脂の再生処理とが同時に進行して、脱塩室23から脱イオン水を得ることができる。
【0023】
図3は、別の実施形態のEDI装置10を示している。このEDI装置10は、
図1に示すEDI装置10の脱塩室23を陽極11側の第1小脱塩室26と陰極12側の第2小脱塩室27とに分割したものであり、第1小脱塩室26と第2小脱塩室27の間は中間イオン交換膜35で仕切られている。第1小脱塩室26と第2小脱塩室27のいずれにもイオン交換樹脂が充填される。被処理水は第1小脱塩室26に供給され、第1小脱塩室から排出された被処理水が次に第2小脱塩室27に供給され、第2小脱塩室27から脱イオン水が処理水として排出される。第1小脱塩室から排出された被処理水を第2小脱塩室27に供給するために、流路55,56が設けられている。
図3に示すEDI装置10でも第1小脱塩室26及び第2小脱塩室27は、それぞれ、枠体46,47によって構成されている。枠体46,47は、
図1に示すEDI装置10における枠体43と同様のものである。
図3では流路55,56は枠体42,44,46,47の外部に描かれているが、実際には流路55,56は、流路51~54と同様に、隣接する枠体42,44,46,47の間で連通するように少なくとも枠体42,44,46,47を貫通するものとして設けられている。なお、中間イオン交換膜35を介して第1小脱塩室26と第2小脱塩室27とが隣接するEDI装置10では、第1小脱塩室26と第2小脱塩室27と濃縮室24とによってセルペアが構成される。
【0024】
次に、本発明に基づくEDI装置10において脱塩室23あるいは小脱塩室26,27を構成する枠体43,46,47について説明する。枠体43と枠体46,47は、流路55,56に対応する貫通孔が設けられているかどうかの点で異なるので、ここでは、枠体43について説明するが、枠体43を説明する前に、従来から用いられている一般的な枠体を説明する。
図4は、
図1に示すEDI装置10と同様にイオン交換膜を挟んで枠体を積層して構成されるこれまでのEDI装置において一般的に用いられている枠体90を示している。枠体90は、板状の部材に開口60を設けたものである。枠体90の外周形状は、頂点を丸めた長方形であり、開口60は、枠体90を構成する板状の部材の両方の表面を貫通するように、枠体90のほぼ中央部に設けられている。板状の部材としての厚さ方向を枠体の厚さ方向と呼ぶ。枠体90において枠体90の外周と開口60との間には、上述した流路51~54をそれぞれ構成する貫通孔71~74が設けられている。
【0025】
脱塩室23として使用されるとき、被処理水は枠体90の開口60とその両端を塞ぐように配置されたイオン交換膜とによって区画される空間を、枠体90の厚さ方向とは直交する方向である上下方向に流される。イオン交換樹脂が充填されている脱塩室内での被処理水の流れを一様なものとし、かつ通水差圧を小さくするために、開口60は、上下方向よりも横幅方向が長い略長方形の形状を有する。そして、被処理水が流れる流路51に対応する貫通孔71と開口60の上辺または下辺の一方の辺とを接続する内部流路61が設けられている。内部流路61は、被処理水を流路51から開口60に導くものであって、貫通孔71から見て、開口60の上辺または下辺の一方の辺の全長にわたって被処理水を供給できるように、扇形に拡がって形成されている。内部流路61が開口60に接続する位置では内部流路61は、開口60の壁面に形成されたスリットとして形成されて内部流路61が開口60に対して連通している。同様に、脱塩室から脱イオン水を回収するために、脱イオン水が流れる流路53に対応する貫通孔73と開口60の上辺または下辺の他方の辺とを接続する内部流路62が設けられている。
【0026】
脱塩室23における被処理水の流れ方向(すなわち上下方向)に沿う開口60の長さをLとし、横幅方向での開口の長さを幅Wとすれば、開口60は横幅方向に長いので、
図4に示した一般的な枠体90ではW>Lが成立する。そのため、枠体90の外形としても横幅方向の長さをa、上下方向の長さをbとすれば、一般的にはa>bが成り立っている。脱塩室23に大流量で被処理水を流すEDI装置では、幅Wは、例えば300mmから800mm程度と大きくなり、枠体90自体の幅aも例えば500mmから1000mm程度となる。このような一般的な枠体90では、開口60が大きいので、EDI装置10において使用したときに脱塩室23を区画するためのイオン交換膜の変形が大きくなり、通水差圧の増加や運転電圧の上昇などが起こることがある。このような課題を解決するために、背景技術の欄で述べたように開口60を多数の区画、典型的には細長い多数の区間に分割することも知られているが、そのように分割した場合には、脱塩室にイオン交換体を充填する作業効率が低下する。
【0027】
そこで本発明に基づくEDI装置10では、
図1に示すようにEDI装置10が構成されているとして、脱塩室23へのイオン交換体の充填の作業性を大きく損ねることなく、イオン交換膜の変形やイオン交換体の偏り、通水差圧の上昇を抑えることができる枠体43を使用する。枠体43は、
図4に示した一般的な枠体90の開口60を複数の相互に分離した開口部63に分割したものである。
図5は、枠体43の構成例を示している。
図5において、(a)は
図4の枠体90の開口60を2個の開口部63に分割して得られる枠体43を示し、(b)は開口60を3個の開口部63に分割したものを示し、(c)は開口60を4個の開口部63に分割したものを示し、(d)は開口60を5個の開口部63に分割したものを示している。いずれの場合も枠体43において開口部63の形状は略長方形であり、複数の開口部63は、横幅方向に並んでいる。
図4に示した一般的な枠体90に設けられていた内部流路61,62は枠体43においてもそのまま存在しているから、枠体43の各開口部63に対して被処理水が均等に供給され、かつ、脱塩処理によって生じた脱イオン水は各開口部63から均等に回収される。
図5の(a)~(d)に示すいずれの枠体43においても、被処理水の流れ方向に沿う開口部63の長さLは、
図4に示す一般的な枠体90での開口60の長さLと同じである。
【0028】
被処理水の流れ方向に直交する方向での各開口部63の長さを幅Wとすると、Wは、100mmを超えて240mm未満である。幅Wは、105mm以上200mm以下であることが好ましく、110mm以上180mm以下であることがより好ましく、120mm以上160mm以下であることがさらに好ましい。複数の開口部63に分割する前の開口60の幅W(
図4に示す枠体90での開口部60の幅W)は、W>Lを満たしていたが、各開口部63においてはW<Lとなっていてもよく、むしろW<Lである方が好ましい。
図5において(a)~(e)に示すいずれの枠体43においても、W<Lとなっている。枠体43の外周寸法は
図4に示した枠体90とほぼ同じである。したがって、枠体43の横幅方向での長さaは例えば500mm以上1000mm以下であり、好ましくは650以上800mm以下である。また枠体の上下方向の長さbは横幅方向の長さaよりも小さいこと、すなわちa/b>1であることが好ましい。a/bは、a/b>1.2であることがより好ましく、a/b>1.5であることがさらに好ましい。
【0029】
次に、枠体43における水の流れを説明する。
図5に示した各枠体43では、複数個設けられている開口部63に対し、貫通孔71から内部流路61を介して被処理水が並列に供給され、各開口部63において脱塩処理が行われて得られる脱イオン水も、複数の開口部63から内部流路62を介して貫通孔72に並列に集められている。枠体43における開口部63の数が3個であるとすれば、枠体43では
図6(a)に示すよう水が流れることになる。しかしながら、通水差圧の上昇を無視できる場合には、
図6(b)に示すように、1つの枠体43に形成される複数の開口部63に対して直列に水が流れるようにすることもできる。
【0030】
本発明に基づくEDI装置10は、脱塩室23において大流量で被処理水の脱塩処理を行なおうとして脱塩室23を構成する枠体43に形成される開口60(
図4参照)が大きくなるときに、通水差圧の上昇やイオン交換膜の変形を防ぐためのものであり、開口60を複数の開口部63(
図5参照)に分割し、かつ、開口部63における幅の下限と上限を規定するものである。
図5(a)~(d)に示すものについては、開口部63の幅Wとは、その開口部63において横幅方向での開口部63の長さである。しかしながら、通水差圧の上昇とイオン交換膜の変形とを防ぐことができるのであれば、水の流れに沿った開口部63の長さを開口部63の幅とし、この幅が100mmを超えて240mm未満であるようにすることができる。
図7に示す枠体43は、
図4に示す枠体90の開口60を上下方向に2分割してそれぞれを開口部63としたものである。
図7に示す場合は、上側の開口部63を通った水が下側の開口部63に供給される必要があるから、2つの開口部63の間には、両方の開口部63に連通するスリット部64が複数設けられている。
図7に示す枠体43では、略長方形である開口部63の短辺の長さ、すなわち開口部63における上下方向での長さを開口部63の幅Dとしている。幅Dは、100mmを超えて240mm未満である。開口部63の横幅方向での長さをCとすれば、C>Dとなっている。
【0031】
図5に示した場合も
図7に示した場合も考慮すれば、本発明に基づくEDI装置では、開口部の幅は、脱塩室における水の流れ方向に直交する方向に沿った開口部の長さであってもよいし、開口部が略長方形であるときにはその短辺の長さであってもよい。いずれにせよ、開口部の幅は100mmを超えて240mm未満である。
【実施例0032】
次に、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。
【0033】
[実施例1~3、比較例1]
それぞれ
図3に示す構造を有して開口幅Wが異なる4台のEDI装置10を組み立て、それらをそれぞれ実施例1~3、比較例1のEDI装置とした。各EDI装置10でのセルペア数を7とした。脱塩室は中間イオン交換膜35を介して陽極11側の第1小脱塩室26と陰極12側の第2小脱塩室27とからなる。ただし、
図3に示すものとは異なり、実施例1~3、比較例1のEDI装置30では、中間イオン交換膜35を挟んで相互に隣接する第1小脱塩室26における水の流れ方向と第2小脱塩室27における水の流れ方向とが向流の関係となるようにした。被処理水はまず第1小脱塩室26に供給され、第1小脱塩室26を通過した被処理水が第2小脱塩室27に供給される。これらの小脱塩室26,27を構成するために用いられる枠体46,47は、いずれも横幅方向の長さaが655mmであり、イオン交換樹脂が充填されるべき開口が横幅方向において複数の開口部63に分割されているものである。また、各EDI装置10では、濃縮室24を介して第1小脱塩室26及び第2小脱塩室27を7組設けた。開口を開口部63に分割するときの分割数を変えることにより、枠体46,47における開口幅Wを、比較例1のEDI装置10では240mmとし、実施例1のEDI装置10では160mmとし、実施例2のEDI装置10では120mmとし、実施例3のEDI装置10では96mmとした。
【0034】
図8は、実施例1~3、比較例1で用いたEDI装置10の要部を示す図であり、隣接する2つの小脱塩室26,27とそれらに隣接する濃縮室22,24に対してどのようにイオン交換樹脂を充填したかを示している。陽極11側の第1小脱塩室26と陰極12側の第2小脱塩室27とを区画する中間イオン交換膜35にはアニオン交換膜(AEM)が用いられている。第1小脱塩室26にはアニオン交換樹脂(AER)が単床で充填され、アニオン交換膜(AEM)32を介して第1小脱塩室26に隣接する濃縮室22にもアニオン交換樹脂が単床で充填されている。第2小脱塩室27は、被処理水の流れに関して入口側と出口側との2つの領域に区分されており、入口側の領域にはカチオン交換樹脂(CER)が充填され、出口側の領域にはアニオン交換樹脂が充填されている。すなわち、第2小脱塩室27では、カチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂とが複床で充填されている。また、カチオン交換膜(CEM)33と第2小脱塩室27内のアニオン交換樹脂とが接触する界面にはアニオン交換膜37が設けられている。カチオン交換膜33を介して第2小脱塩室27に隣接する濃縮室24にもアニオン交換樹脂が単床で充填されている。
【0035】
濃縮室22,24の各々に濃縮室供給水を供給し、第1小脱塩室26に被処理水を供給し、運転条件(各室における通水の空間速度(SV)、印加電流、供給される水の水質)が同一になるようにして実施例1~3、比較例1の計4台のEDI装置10を並列に運転する通水試験を行った。運転開始から1500時間経過した時点での印加した直流電圧(印加電圧)、通水差圧を測定し、また、その直後に運転を停止してEDI装置10を解体し、イオン交換膜の変形量を目視で観察した。
【0036】
印加電圧に関して、印加電圧として運転に好適な値であることを「A」とし、運転には支障のない値であることを「B」とし、印加電圧が高すぎて運転に適さないことを「C」と区分した。通水差圧に関して、運転時の通水差圧として好適な値であることを「A」とし、運転には支障のない値であることを「B」とし、通水差圧が高すぎて運転に適さないことを「C」と区分した。イオン交換膜の変形量に関し、大きな変形が見られず良好な運転を継続できると考えらえるものを「A」とし、変形はあるものの運転の継続には支障がないと考えられるものを「B」とし、大きな変形があって運転の継続には適さないものを「C」と区分した。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
開口部63の幅Wが240mmである比較例1のEDI装置10では、イオン交換膜の変形が大きく、また印加電圧の上昇や通水差圧の上昇が見られた。特に、運転開始から一貫して印加電圧が上昇する傾向にあった。開口部63の幅Wが240mmではない実施例1~3のEDI装置10では、運転開始から1500時間経過した時点において印加電圧は安定していた。通水差圧に関し、開口部63の幅Wが96mmである実施例3のEDI装置10は、幅Wがそれぞれ160mm及び120mmである実施例1,2のEDI装置10に比べ、高めの値を示した。イオン交換膜の変形量は開口部63の幅Wが120mm以下であるときに特に小さくなった。実施例1~3、比較例1の結果から、印加電圧、通水差圧及びイオン交換膜の変形量の観点から、開口部63の幅Wは、100mmを超えて240mm未満でとすべきことが分かった。なお、イオン交換膜に大きな変形が見られないときは、充填されているイオン交換樹脂における偏りも認められなかった。
【0039】
[実施例4]
実施例2のEDI装置10において、濃縮室22,24に対してアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填したもの、すなわち、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混床で充填したものを作製した。混床で充填するに際し、アニオン交換樹脂の見かけの体積Aとカチオン交換樹脂の見かけの体積Kとの比A:Kを1:1とした。
図9は、実施例4のEDI装置10の要部を示している。実施例2のEDI装置10と実施例4のEDI装置10は、濃縮室22,24に対し実施例2ではアニオン交換樹脂が単床で充填されるのに対して実施例4ではアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で充填される点を除けば、同一構成、同一サイズである。特にこれらのEDI装置10は、いずれもセルペア数が7であって開口部63の幅Wが120mmであり、セル幅aが655mmである。
【0040】
ホウ素濃度が10ppbである同一の被処理水を供給し空間速度や電流密度などの運転条件を同一にして実施例2,4のそれぞれのEDI装置10を運転し、ホウ素除去性能と運転電圧について比較評価を行った。被処理水にはカルシウムやマグネシウムなどの硬度成分は含まれておらず、電流密度は1.1A/dm2であった。運転開始から200時間後の運転電圧とホウ素除去率を表2に示し、運転開始から2000時間後の運転電圧とホウ素除去率を表3に示す。実施例2,4のEDI装置10のセルペア数はいずれも7であるが、EDI装置において大流量で被処理水を処理する場合には運転電圧が許容できる範囲内でセルペア数を増やすこととなるので、大流量での処理のためにセルペア数を50としたときに想定される運転電圧を「大型化を想定した換算電圧」として表中に示している。なお、EDI装置を駆動するために用いられる直流電源の仕様により、運転電圧の上限は一般に600Vとされている。
【0041】
【0042】
【0043】
表2及び表3に示すように、アニオン交換樹脂のみが濃縮室22,24に充填される実施例2では、運転開始からの時間経過に応じて運転電圧が上昇しホウ素除去率が低下する傾向が見られたのに対し、アニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混床で濃縮室22,24に充填される実施例4では、運転電圧が安定し、ホウ素除去率も維持されていた。特にホウ素除去性能は、実施例2に比べ実施例4の方が良好であった。濃縮室がその陽極側に位置するカチオン交換膜と陰極側に位置するアニオン交換膜によって区画されているとして、運転中のEDI装置においては、濃縮室に対してカチオン交換膜を介して水素イオン(H+)が移動してくる。濃縮室にカチオン交換樹脂が存在するときは移動してきた水素イオンは濃縮室内を移動するが、濃縮室内にアニオン交換樹脂しか存在しないときは、濃縮室内において水素イオンはカチオン交換膜の近傍の領域に滞留し、その領域におけるpHが低下する。一方、脱塩室から濃縮室内に移動してきたホウ素成分は、ホウ酸を含むアニオンの形態で濃縮室中のアニオン交換樹脂に捕捉され、濃縮室内を陽極方向に移動しカチオン交換膜の近傍の領域で濃縮する。ホウ素を含むアニオンがカチオン交換膜の近傍の領域で濃縮するときにこの領域のpHが低いと、ホウ素を含むアニオンがホウ素を含む中性分子となり、中性分子であるのでカチオン交換膜を移動できて脱塩室にリークする。このホウ素成分の脱塩室へのリークは、濃縮室内においてホウ素を含むアニオンは移動できるが水素イオンの移動が起こりにくいことが原因であるので、濃縮室に対してアニオン交換樹脂だけでなくカチオン交換樹脂を混在させることで抑制される。これが、濃縮室22,24にカチオン交換樹脂が存在する方がホウ素除去性能が高いことの理由であると考えられる。
【0044】
表2及び表3に示される結果から、EDI装置を長期間にわたって安定して運転しホウ素の除去性能(脱塩性能)を維持するためには、濃縮室22,24にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とが混合して充填されていることが好ましいことが分かった。また、濃縮室22,24にアニオン交換樹脂とカチオン交換樹脂とを混合して充填することにより、運転電圧を低くできて消費電力を抑えられることも分かった。