(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178773
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用
(51)【国際特許分類】
A61K 45/00 20060101AFI20241218BHJP
A61K 31/5377 20060101ALI20241218BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20241218BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20241218BHJP
A61P 7/10 20060101ALI20241218BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241218BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
A61K45/00
A61K31/5377
A61P43/00 111
A61P27/02
A61P7/10
A61P35/00
G01N33/53 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097168
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】504145320
【氏名又は名称】国立大学法人福井大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】沖 昌也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼村 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】稲谷 大
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084NA14
4C084ZA331
4C084ZA831
4C084ZB261
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC73
4C086GA07
4C086GA09
4C086GA12
4C086MA01
4C086MA04
4C086ZA33
4C086ZA83
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】
【課題】新たな異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用を提供する。
【解決手段】ヒストンアセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有する、異常血管新生の治療剤または予防剤を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒストンアセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有する、異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項2】
上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、HAT1、NAA60、GCN5、PCAF、TIP60、MOZ、MORF、HBO1、MOF、TAF1、TIFIIIC90、SRC1、SCR3、P600、CLOCK、NAT10、P300、CBP、および、BRD4からなる群より選択される1種以上の物質を標的とするものである、請求項1に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項3】
上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩である、請求項1に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【化1】
【請求項4】
上記異常血管新生は、虚血領域の形成、および/または、異常血管の形成である、請求項1に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項5】
上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生である、請求項1~4の何れか1項に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【請求項6】
異常血管新生の治療剤または予防剤を製造するための、ヒストンアセチル化酵素阻害剤の使用。
【請求項7】
異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物に、異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質を投与する投与工程と、
上記投与工程の後の上記非ヒトモデル生物において、(i)Ang2遺伝子の発現量と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量と、を測定する測定工程と、
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量と、対照発現量とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する判定工程と、を有する、異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【請求項8】
被験者から採取した生体試料において、(i)Ang2遺伝子の発現量と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量と、を測定する測定工程を有する、異常血管新生を診断するためのデータの取得方法。
【請求項9】
(i)Ang2遺伝子と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子と、を含む、異常血管新生を診断するためのマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用に関する。
【背景技術】
【0002】
血管新生は、生体内において、生理的状況下および病的状況下の両方において生じ得る。生理的状況下では、例えば、胎児期の組織(例えば、網膜)において正常血管新生が生じ、これによって正常な組織が形成される。一方、病的状況下では、例えば、疾患(例えば、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、および、血管新生緑内障)の患部において異常血管新生が生じ、これによって疾患が発症または悪化する。
【0003】
異常血管新生としては、例えば、虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成)を挙げることができる。
【0004】
虚血領域の形成と、異常血管の形成とは、単独で発生する場合もあれば、組み合わさって発生する場合もある。例えば、加齢黄斑変性、および、病的近視などにおいては、異常血管の形成が単独で発生する。一方、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、および、血管新生緑内障などにおいては、まず虚血領域が形成され、その後に異常血管が形成される。
【0005】
異常血管新生の治療剤として、現在、抗VEGF薬が用いられている(例えば、非特許文献1および2参照)。非特許文献1および2には、アフリベルセプト、ベバシズマブ、ラニビズマブ、および、ファリシマブを糖尿病黄斑浮腫の治療に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】N Eng J Med., 2015 March 26; 372(13): 1193-1203, "Aflibercept, Bevacizumab, or Ranibizumab for Diabetic Macular Edema"
【非特許文献2】Charles C Wykoff et al., Lancet., 2022 Feb 19; 399(10326): 741-755, "Efficacy, durability, and safety of intravitreal faricimab with extended dosing up to every 16 weeks in patients with diabetic macular oedema(YOSEMITE and RHINE): two randomised, double-masked, phase 3 trials"
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述のような従来技術は、異常血管新生の治療効果が十分ではないという問題点を有している。
【0008】
例えば、上述のような従来技術は、(i)異常血管新生を一時的に減少させる効果しかないため、頻回投与が必要になる懸念がある、(ii)正常血管新生、および、異常血管新生の両方に影響を与えるため、副作用の懸念がある、(iii)抗VEGF薬は血管新生を抑制するものであるため、虚血領域の形成に対する十分な治療効果が得られない懸念がある、などの点において改善の余地がある。
【0009】
本発明の一態様は、新たな異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、以下である:
〔1〕ヒストンアセチル化酵素阻害剤を有効成分として含有する、異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0011】
〔2〕上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、HAT1、NAA60、GCN5、PCAF、TIP60、MOZ、MORF、HBO1、MOF、TAF1、TIFIIIC90、SRC1、SCR3、P600、CLOCK、NAT10、P300、CBP、および、BRD4からなる群より選択される1種以上の物質を標的とするものである、〔1〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0012】
〔3〕上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩である、〔1〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0013】
【0014】
〔4〕上記異常血管新生は、虚血領域の形成、および/または、異常血管の形成である、〔1〕に記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0015】
〔5〕上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生である、〔1〕~〔4〕の何れかに記載の異常血管新生の治療剤または予防剤。
【0016】
〔6〕異常血管新生の治療剤または予防剤を製造するための、ヒストンアセチル化酵素阻害剤の使用。
【0017】
〔7〕異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物に、異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質を投与する投与工程と、
上記投与工程の後の上記非ヒトモデル生物において、(i)Ang2遺伝子の発現量と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量と、を測定する測定工程と、
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量と、対照発現量とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する判定工程と、を有する、異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法。
【0018】
〔8〕被験者から採取した生体試料において、(i)Ang2遺伝子の発現量と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量と、を測定する測定工程を有する、異常血管新生を診断するためのデータの取得方法。
【0019】
〔9〕(i)Ang2遺伝子と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つの遺伝子と、を含む、異常血管新生を診断するためのマーカー。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、新たな異常血管新生の治療剤または予防剤、および、その利用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】101は、本発明の実施例に係る異常血管新生の治療剤および予防剤の効果を示す像であり、102は、本発明の実施例に係る異常血管新生の治療剤および予防剤の効果を示すグラフである。
【
図2】201は、本発明の実施例に係る異常血管新生の治療剤および予防剤の効果を示す像であり、202は、本発明の実施例に係る異常血管新生の治療剤および予防剤の効果を示すグラフである。
【
図3】301~312は、本発明の実施例において、異常血管新生の発生過程および治癒過程における様々な遺伝子の発現量の変化を示すグラフである。
【
図4】401~410は、本発明の実施例において、異常血管新生の発生過程および治癒過程における様々な遺伝子の発現量の変化を示すグラフである。
【
図5】本発明の実施例において、異常血管新生の発生過程および治癒過程におけるVEGF-Aの発現量の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0023】
本発明は、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標3「すべての人に健康と福祉を」等の達成にも貢献することができる。
【0024】
〔1.本発明の技術思想〕
生体内では、生理的状況下では正常血管新生が生じ、病的状況下では異常血管新生が生じる。正常な生体を形成するためには、正常血管新生を生じさせつつ、異常血管新生を抑制する必要がある。
【0025】
本発明者は、異常血管新生を生じさせる病的状況を、正常血管新生を生じさせる生理的状況へ戻すことができる物質こそが、新たな異常血管新生の治療剤または予防剤として有用であるとの独自の仮説の下、研究を進めた。
【0026】
具体的に、本発明者は、エピジェネティックな発現制御を受ける遺伝子の発現を制御するタンパク質を標的とする物質が、異常血管新生を生じさせる病的状況を、正常血管新生を生じさせる生理的状況へ戻すことができる物質であるとの独自の仮説の下、新たな異常血管新生の治療剤および予防剤の候補物質をスクリーニングした。
【0027】
エピジェネティックな発現制御を受ける遺伝子の発現を制御するタンパク質としては、現在までに数多くのタンパク質が知られている。本発明者は、これらのタンパク質の中でも特にヒストンアセチル化酵素を標的とする物質が、新たな異常血管新生の治療剤および予防剤として有用であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0028】
〔2.異常血管新生の治療剤または予防剤〕
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、ヒストンアセチル化酵素(Histone Acetyl Transferase:HAT)阻害剤を有効成分として含有する。
【0029】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、(i)異常血管新生を根本的に治療または予防する効果を有するため、頻回投与の懸念がない、(ii)正常な血管新生に影響を与えないため、副作用の懸念がない、(iii)抗VEGF薬のような血管新生を抑制するものではないため、虚血領域の形成に対する十分な治療効果を有する、という利点を有する。
【0030】
ヒストンアセチル化酵素は、ヒストンに含まれる特定のリジン残基のアミノ基を、アセチル基に置換する酵素である。当該置換によって、DNAとヒストンとによって形成されているクロマチン構造が部分的に緩み、ヒストンがアセチル化された部位近傍の遺伝子が発現し易くなる。ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、上述の過程を阻害することにより、特定の遺伝子の発現を抑制する効果を生じる。したがって、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、エピジェネティックな発現制御を受ける遺伝子の発現に作用していると考えられる。
【0031】
本明細書において「治療剤」とは、治療効果をもたらす薬剤を意図する。上記治療効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0032】
(1)治療剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の重症度を低減する。
【0033】
(2)治療剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の重症度の増加、または進行を防止する。
【0034】
(3)治療剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の重症度の増加速度、または進行速度を低減する。
【0035】
本明細書において「予防剤」とは、予防効果をもたらす薬剤を意図する。上記予防効果とは、以下に例示される効果を意図するが、これらに限定されるものではない。
【0036】
(1)予防剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の発生を防止する、またはリスクを低減する。
【0037】
(2)予防剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の再発を防止する、またはリスクを低減する。
【0038】
(3)予防剤を投与しなかった場合と比較して、異常血管新生の兆候が生じることを防止する、またはリスクを低減する。
【0039】
なお、上記異常血管新生は、全身的なものであってもよいし、局所的なものであってもよい。
【0040】
上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、HAT1(正式名称:Histone Acetyltransferase 1)、NAA60(正式名称:N-Alpha-Acetyltransferase 60)、GCN5(正式名称:General Control Of Amino Acid Synthesis 5)、PCAF(正式名称:P300/CBP-Associated Factor)、TIP60(正式名称:Tat-Interactive Protein 60kDa)、MOZ(正式名称:Monocytic Leukemia Zinc Finger)、MORF(正式名称:Monocytic Leukemia Zinc Finger Protein-Related Factor)、HBO1(正式名称:Histone Acetyltransferase Binding To ORC1)、MOF(正式名称:Males Absent On The First)、TAF1(正式名称:TATA-Box Binding Protein Associated Factor 1)、TIFIIIC90(正式名称:Histone Acetyltransferase TIFIIIC90)、SRC1(正式名称:Steroid Receptor Coactivator 1)、SCR3(正式名称:Steroid Receptor Coactivator 3)、P600(正式名称:Histone Acetyltransferase P600)、CLOCK(正式名称:Histone Acetyltransferase CLOCK)、NAT10(正式名称:N-Acetyltransferase 10)、P300(正式名称:Histone Acetyltransferase P300)、CBP(正式名称:CREB-Binding Protein)、および、BRD4(正式名称:Bromodomain Protein 4)からなる群より選択される1種以上、好ましくは2種以上の物質、最も好ましくは3種以上の物質を標的とするものであることが好ましい。上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、P300、CBP、および、BRD4からなる群より選択される1種以上の物質、好ましくは2種以上の物質、最も好ましくは3種の物質を標的とするものであることが好ましい。当該構成であれば、異常血管新生を効果的に治療または予防することができる。
【0041】
上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩であることが好ましい。当該構成であれば、異常血管新生を効果的に治療または予防することができる。
【0042】
【0043】
上記化学式1にて示される化合物は、「ISOX DUAL」として市販されている化合物である、当該化合物は、P300、CBP、および、BRD4を標的とすることが知られている。
【0044】
上記誘導体および塩は、ヒストンアセチル化酵素に対する阻害活性を有するものであればよく、その構造は限定されない。特定の物質がヒストンアセチル化酵素に対する阻害活性を有するか否かは、公知の方法にしたがって判断することができる。例えば、特定の物質とヒストンアセチル化酵素とを混合した後、当該ヒストンアセチル化酵素によってヒストンに含まれる特定のリジン残基のアミノ基がアセチル基に置換されるか否かを調べればよい。当該試験において、ヒストンアセチル化酵素によって、ヒストンに含まれる特定のリジン残基のアミノ基がアセチル基に置換されていなければ、当該特定の物質はヒストンアセチル化酵素に対する阻害活性を有するものであると判断することができる。
【0045】
本明細書において、「誘導体」とは、特定の化合物に対して、当該化合物の分子内の一部が、他の官能基または他の原子と置換されることにより生じる化合物群を意図する。
【0046】
上記他の官能基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基、アリールアルキル基、アリールアルコキシ基、アリールアルキルチオ基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基、アリル基、アミノ基、置換アミノ基、シリル基、置換シリル基、シリルオキシ基、置換シリルオキシ基、アリールスルフォニルオキシ基、アルキルスルフォニルオキシ基、ニトロ基などが挙げられる。上記他の原子の例としては、炭素原子、水素原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ハロゲン原子などが挙げられる。
【0047】
本明細書において、「塩」とは、医薬品として被験体に投与することが生理学的に許容されうる塩であればよく、限定されない。上記塩の例としては、アルカリ金属塩(カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩など)、アンモニウム塩、有機塩基塩(トリメチルアミン塩、トリエチルアミン塩、ピリジン塩、ピコリン塩、ジシクロヘキシルアミン塩、N,N’-ジベンジルエチレンジアミン塩など)、有機酸塩(酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、蟻酸塩、トルエンスルホン酸塩、トリフルオロ酢酸塩など)、無機酸塩(塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、燐酸塩など)などが挙げられる。
【0048】
上記異常血管新生の種類は、限定されない。上記異常血管新生は、虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および/または、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成)であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を含む異常血管新生であってもよいし、異常血管の形成を含む異常血管新生であってもよいし、虚血領域の形成および異常血管の形成の両方を含む異常血管新生であってもよい。
【0049】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、従来の抗VEGF薬とは全く異なる作用機序を用いる薬であって、血管新生を抑制しない。それ故に、後述する実施例にも示すように、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、異常血管の形成のみならず、虚血領域の形成をも、治療および予防することができる。
【0050】
上記異常血管新生が発生する疾患は、限定されない。上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を伴う、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、異常血管の形成を伴い、かつ、虚血領域の形成を伴わない、加齢黄斑変性、または、病的近視に伴う異常血管新生であり得る。
【0051】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、上述した疾患に伴う異常血管新生を治療または予防することができる。更に、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、上述した疾患に起因する、血管透過性の亢進、および、虚血を治療または予防することができる。
【0052】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、任意の投与経路によって被験体に投与され得る。上記投与経路の例としては、非経口投与(例えば、点眼投与、結膜能内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与、腹腔内投与)、経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経静脈投与が挙げられる。したがって、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の剤型は、点眼剤、内服薬、外用薬、注射剤、吸入剤、点眼剤などであり得る。
【0053】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤および予防剤を100質量%とした場合に、0.00001質量%~100質量%であってもよく、0.0001質量%~100質量%であってもよく、0.001質量%~100質量%であってもよく、0.01質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~100質量%であってもよく、0.1質量%~95質量%であってもよく、0.1質量%~90質量%であってもよく、0.1質量%~80質量%であってもよく、0.1質量%~70質量%であってもよく、0.1質量%~60質量%であってもよく、0.1質量%~50質量%であってもよく、0.1質量%~40質量%であってもよく、0.1質量%~30質量%であってもよく、0.1質量%~20質量%であってもよく、0.1質量%~10質量%であってもよい。
【0054】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤が液体状である場合、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤に含有される有効成分の量は、特に限定されず、例えば、0.1μM~1mMであってもよく、1μM~500μMであってもよく、1μM~300μMであってもよく、10μM~150μMであってもよい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤は、上述した有効成分以外の成分を含有していてもよい。
【0056】
上記有効成分以外の成分は、特に限定されず、例えば、緩衝剤、pH調整剤、等張化剤、防腐剤、抗酸化剤、高分子量重合体、賦形剤、溶媒、抗菌剤などであり得る。
【0057】
上記緩衝剤としては、例えば、リン酸またはリン酸塩、ホウ酸またはホウ酸塩、クエン酸またはクエン酸塩、酢酸または酢酸塩、炭酸または炭酸塩、酒石酸または酒石酸塩、ε-アミノカプロン酸、トロメタモールが挙げられる。上記リン酸塩としては、例えば、リン酸ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウムが挙げられる。上記ホウ酸塩としては、例えば、ホウ砂、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウムが挙げられる。上記クエン酸塩としては、例えば、クエン酸ナトリウム、クエン酸二ナトリウム、クエン酸三ナトリウムが挙げられる。上記酢酸塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウムが挙げられる。上記炭酸塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。上記酒石酸塩としては、例えば、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウムが挙げられる。
【0058】
上記pH調整剤としては、例えば、塩酸、リン酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが挙げられる。
【0059】
上記等張化剤としては、例えば、イオン性等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム)、非イオン性等張化剤(例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マンニトール)が挙げられる。
【0060】
上記防腐剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、ベンザルコニウム臭化物、ベンゼトニウム塩化物、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノールが挙げられる。
【0061】
上記抗酸化剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェノール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、エリソルビン酸ナトリウム、没食子酸プロピル、亜硫酸ナトリウムが挙げられる。
【0062】
上記高分子量重合体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレングリコール、アテロコラーゲンが挙げられる。
【0063】
上記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、デンプン、結晶セルロースが挙げられる。
【0064】
上記溶媒としては、例えば、水、生理的食塩水、アルコールが挙げられる。
【0065】
上記抗菌剤としては、例えば、β-ラクタム系、アミノグリコシド系、テトラサイクリン系、リンコマイシン系、クロラムフェニコール系、マクロライド系、ケトライド系、ポリペプチド系、グリコペプチド系の抗生物質;ピリドンカルボン酸(キノロン)系、ニューキノロン系、オキサゾリジノン系、サルファ剤系の合成抗菌薬が挙げられる。
【0066】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤に含有される有効成分以外の成分の量は、特に限定されず、例えば、治療剤および予防剤を100質量%とした場合に、0質量%~99.99999質量%であってもよく、0質量%~99.9999質量%であってもよく、0質量%~99.999質量%であってもよく、0質量%~99.99質量%であってもよく、0質量%~99.9質量%であってもよく、5質量%~99.9質量%であってもよく、10質量%~99.9質量%であってもよく、20質量%~99.9質量%であってもよく、30質量%~99.9質量%であってもよく、40質量%~99.9質量%であってもよく、50質量%~99.9質量%であってもよく、60質量%~99.9質量%であってもよく、70質量%~99.9質量%であってもよく、80質量%~99.9質量%であってもよく、90質量%~99.9質量%であってもよい。
【0067】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の投与間隔は、限定されず、例えば、12時間に1回、1日間に1回、2日間に1回、3日間に1回、4日間に1回、5日間に1回、投与され得る。本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の投与期間は、限定されず、例えば、3日間、5日間、7日間、10日間、15日間、または、30日間であり得る。本発明の一実施形態に係る治療剤または予防剤は、異常血管新生を根本的に治療または予防できるので、過度の頻回投与を必要としない。
【0068】
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤の投与対象は、限定されず、例えば、ヒト、および、非ヒト動物(例えば、家畜、愛玩動物、および、実験動物)を挙げることができる。非ヒト動物としては、例えば、サル、チンパンジー、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、ウサギ、マウス、および、ラットを挙げることができる。
【0069】
〔3.ヒストンアセチル化酵素阻害剤の使用〕
上述した〔2.異常血管新生の治療剤または予防剤〕などで説明した事項に関しては、以下ではその説明を省略する。
【0070】
本発明の一実施形態に係る使用は、異常血管新生の治療剤または予防剤を製造するための、ヒストンアセチル化酵素阻害剤の使用である。
【0071】
上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、HAT1、NAA60、GCN5、PCAF、TIP60、MOZ、MORF、HBO1、MOF、TAF1、TIFIIIC90、SRC1、SCR3、P600、CLOCK、NAT10、P300、CBP、および、BRD4からなる群より選択される1種以上、好ましくは2種以上の物質、最も好ましくは3種以上の物質を標的とするものであることが好ましい。上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、P300、CBP、および、BRD4からなる群より選択される1種以上の物質、好ましくは2種以上の物質、最も好ましくは3種の物質を標的とするものであることが好ましい。
【0072】
上記ヒストンアセチル化酵素阻害剤は、下記化学式1にて示される化合物、その誘導体、または、その塩であることが好ましい。
【0073】
【0074】
上記異常血管新生の種類は、限定されない。上記異常血管新生は、虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および/または、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成)であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を含む異常血管新生であってもよいし、異常血管の形成を含む異常血管新生であってもよいし、虚血領域の形成および異常血管の形成の両方を含む異常血管新生であってもよい。
【0075】
上記異常血管新生が発生する疾患は、限定されない。上記異常血管新生は、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、加齢黄斑変性、糖尿病黄斑浮腫、病的近視、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障、に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、虚血領域の形成を伴う、網膜虚血性疾患、癌、未熟児網膜症、糖尿病黄斑浮腫、網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫、または、血管新生緑内障に伴う異常血管新生であり得る。上記異常血管新生は、異常血管の形成を伴い、かつ、虚血領域の形成を伴わない、加齢黄斑変性、または、病的近視に伴う異常血管新生であり得る。
【0076】
上記異常血管新生の治療剤または予防剤を製造する方法は、限定されず、当該分野において一般的に用いられている方法を用いればよい。例えば、上述した有効成分と、必要に応じて上述した有効成分以外の成分とを混合することによって、上記異常血管新生の治療剤または予防剤を製造すればよい。
【0077】
〔4.異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法〕
本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法は、異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物に、異常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質を投与する投与工程と、上記投与工程の後の上記非ヒトモデル生物において、(i)Ang2(正式名称:Angiopoietin 2)遺伝子の発現量と、(ii)Adm(正式名称:Adrenomedullin)遺伝子、Anxa2(正式名称:Annexin A2)遺伝子、Apln(正式名称:Apelin)遺伝子、Cd34(正式名称:Cluster of differentiation 34)遺伝子、Cxcr4(正式名称:C-X-C Motif Chemokine Receptor 4)遺伝子、Edn1(正式名称:Endothelin 1)遺伝子、Ednra(正式名称:Endothelin Receptor Type A)遺伝子、Eng(正式名称:Endoglin)遺伝子、Fn1(正式名称:Fibronectin 1)遺伝子、Hmox1(正式名称:Heme oxygenase 1)遺伝子、Itga1(正式名称:Integrin Subunit Alpha 1)遺伝子、Loxl2(正式名称:Lysyl Oxidase Like 2)遺伝子、Mcam(正式名称:Melanoma Cell Adhesion Molecule)遺伝子、Nr4a1(正式名称:Nuclear Receptor Subfamily 4 Group A Member 1)遺伝子、Serpine1(正式名称:Serpin Family E Member 1)遺伝子、Tnfrsf12a(正式名称:TNF Receptor Superfamily Member 12A)遺伝子、Acta2(正式名称:Actin Alpha 2)遺伝子、Anxa3(正式名称:Annexin A3)遺伝子、Thbs(正式名称:Thrombospondin 1)遺伝子、Cdh5(正式名称:Cadherin 5)遺伝子、および、Esm1(正式名称:Endothelial Cell Specific Molecule 1)遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つ(例えば、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも13個、少なくとも15個、少なくとも18個、少なくとも20個、または、21個)の遺伝子の発現量と、を測定する測定工程と、上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量と、対照発現量とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する判定工程と、を有する。
【0078】
上記異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物としては、限定されず、例えば、OIR(Oxygen-Induced Retinopathy)モデル生物(例えば、OIRモデルマウス)を用いることができる。当該OIRモデル生物は、生後間もない生物を、所望の期間、高濃度酸素条件下(例えば、75体積%の酸素条件下)に曝し、その後、当該生物を、所望の期間、大気条件下に曝すことによって作製することができる。当該OIRモデル生物の作製方法の詳細については、例えば、文献「Lois E. H. Smith et al., "Oxygen-Induced Retinopathy in the Mouse" Investigative Ophthalmology and Visual Science, January 1994, Vol.35, No.1, p101-111」に開示されている。また、上記異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物としては、当該非ヒトモデル生物から採取した、組織または細胞を用いることもできる。
【0079】
上記常血管新生の治療剤または予防剤の候補物質としては、限定されず、例えば、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。
【0080】
上記投与工程では、上記非ヒトモデル生物に上記候補物質を投与する。当該投与工程の具体的な構成は、限定されず、例えば、(i)非ヒトモデル生物自体に対して候補物質を投与(例えば、非経口投与(例えば、点眼投与、結膜能内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与、腹腔内投与)、経口投与、経皮投与、経粘膜投与、経静脈投与)してもよいし、(ii)非ヒトモデル生物から採取した組織または細胞を培養している培地に対して候補物質を添加してもよい。
【0081】
上記測定工程では、(i)Ang2遺伝子の発現量と、(ii)上述した21個の遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子の発現量と、を測定する。
【0082】
アンジオポエチン2、および、VEGF(vascular endothelial growth factor)は、血管の伸長に必要であることが知られている。後述する実施例に示すように、異常血管新生が発生すると、VEGFの発現量は増加する。しかしながら、当該VEGFの発現量の増加は、異常血管新生の治癒に伴って低下することはない。一方、異常血管新生が発生すると、上述した21個の遺伝子の発現量は増加する。当該21個の遺伝子の発現量の増加は、異常血管新生の治癒に伴って低下する。このことは、異常血管新生の治癒に、(i)VEGFが関与するシグナル伝達系(VEGF依存性シグナル伝達系)と、(ii)上述した21個の遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が関与するシグナル伝達系(VEGF非依存性シグナル伝達系)との両方が関与していることを示唆している。換言すれば、このことは、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤が、VEGF依存性シグナル伝達系とVEGF非依存性シグナル伝達系との両方によってその効果を発現していることを示唆している。それ故に、上記測定工程によれば、(i)および(ii)の2つの指標に基づいてスクリーニングを行うので、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤を効率よくスクリーニングすることができる。
【0083】
上記測定工程では、各遺伝子の発現量を、mRNAの発現量に基づいて測定してもよいし、タンパク質の発現量に基づいて測定してもよい。各遺伝子の発現量をmRNAの発現量に基づいて測定する場合、上記測定工程は、RT-PCR法、または、ノーザンブロット法などの公知の方法に基づいて行うことができる。各遺伝子の発現量をタンパク質の発現量に基づいて測定する場合、上記測定工程は、ELISA法、または、ウエスタンブロット法などの公知の方法に基づいて行うことができる。
【0084】
上記判定工程では、上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量と、対照発現量とを比較することによって、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であるか否かを判定する。
【0085】
上記対照発現量としては、例えば、異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物にて予め測定された各遺伝子の発現量、および/または、異常血管新生が発症していない非ヒトモデル生物にて予め測定された各遺伝子の発現量を用いることができる。
【0086】
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量を「A」とし、上記異常血管新生を発症した非ヒトモデル生物にて予め測定された各遺伝子の発現量を「B」とする。「A/B」の値が、例えば、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、または、0.1以下である場合、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であると判定することができる。「A/B」の値の下限値は、限定されず、例えば、0.001、または、0.01であってもよい。
【0087】
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量を「A」とし、上記異常血管新生を発症していない非ヒトモデル生物にて予め測定された各遺伝子の発現量を「C」とする。「A/C」の値が、例えば、0.5~1.5、0.6~1.4、0.7~1.3、0.8~1.2、0.9~1.1、または、略1.0である場合、上記候補物質が異常血管新生の治療剤または予防剤であると判定することができる。
【0088】
〔5.異常血管新生を診断するためのデータの取得方法、および、異常血管新生を診断するためのマーカー〕
本発明の一実施形態に係る異常血管新生を診断するためのデータの取得方法は、被験者から採取した生体試料において、(i)Ang2遺伝子の発現量と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つ(例えば、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも13個、少なくとも15個、少なくとも18個、少なくとも20個、または、21個)の遺伝子の発現量と、を測定する測定工程を有する。
【0089】
上記測定工程の具体的な構成は、上述した〔4.異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング方法〕における測定工程と同様であり得る。
【0090】
上記被験者から採取した生体試料は、限定されず、例えば、疾患の患部から採取した細胞または組織であり得る。
【0091】
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量と、対照発現量とを比較することによって、上記被験者が異常血管新生を患っているか否かを判定することができる。
【0092】
上記対照発現量としては、例えば、異常血管新生を発症した患者にて予め測定された各遺伝子の発現量、および/または、異常血管新生を発症していない健常者にて予め測定された各遺伝子の発現量を用いることができる。
【0093】
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量を「A」とし、上記異常血管新生を発症していない健常者にて予め測定された各遺伝子の発現量を「B」とする。「A/B」の値が、例えば、1.5以上、2.0以上、3.0以上、5.0以上、または、10.0以上である場合、上記被験者が異常血管新生を患っていると判定することができる。「A/B」の値の上限値は、限定されず、例えば、10.0、または、20.0であってもよい。
【0094】
上記測定工程にて測定された各遺伝子の発現量を「A」とし、上記異常血管新生を発症した患者にて予め測定された各遺伝子の発現量を「C」とする。「A/C」の値が、例えば、1.0以上である場合、上記被験者が異常血管新生を患っていると判定することができる。「A/C」の値の上限値は、限定されず、例えば、5.0、または、10.0であってもよい。
【0095】
以上のように、本発明の一実施形態に係る異常血管新生を診断するためのデータの取得方法では、22種類の遺伝子の発現量に基づいて、異常血管新生の診断を行うことができる。つまり、上記22種類の遺伝子は、異常血管新生を診断するためのマーカーとして使用し得る。
【0096】
それ故に、本発明の一実施形態に係る異常血管新生を診断するためのマーカーは(i)Ang2遺伝子と、(ii)Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子からなる群から選択される少なくとも1つ(例えば、少なくとも3個、少なくとも5個、少なくとも8個、少なくとも10個、少なくとも13個、少なくとも15個、少なくとも18個、少なくとも20個、または、21個)の遺伝子と、を含む。
【実施例0097】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
<1.薬剤のスクリーニング(腹腔内投与)>
異常血管新生を発症させたOIRモデルマウスに対して、様々な薬剤候補を腹腔内投与し、異常血管新生に対する効果を確認した。
【0099】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。その後、上記生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて飼育した。飼育条件を高酸素濃度から低酸素濃度へ切り替えることによって、網膜に、異常血管新生(虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成))を誘導した。
【0100】
上述したマウスに対して、生後12日齢(P12)から生後17日齢(P17)になるまでの5日間、1日あたり1回、様々な薬剤候補を腹腔内投与した。当該薬剤候補の1つとしてISOX DUAL(濃度:150μM)を用いた。対照試験として、薬剤候補を腹腔内投与しないマウスを準備した。
【0101】
生後17日齢になった時点で、上記マウスから網膜を採取し、当該網膜上の異常血管新生を、顕微鏡にて観察した。観察された像に基づいて、網膜全体の面積、虚血領域の面積、および、異常血管領域の面積を算出した。
【0102】
図1の101に網膜の像を示す。当該像から明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、ISOX DUALを投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。
【0103】
図1の102に、網膜全体の面積に対する異常血管領域の面積の割合、および、網膜全体の面積に対する虚血領域の面積の割合のグラフを示す。当該グラフから明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、ISOX DUALを投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。
【0104】
<2.ISOX DUALの硝子体内投与>
異常血管新生を発症させたOIRモデルマウスに対して、ISOX DUALを硝子体内投与し、異常血管新生に対する効果を確認した。
【0105】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。その後、上記生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて飼育した。飼育条件を高酸素濃度から低酸素濃度へ切り替えることによって、網膜に、異常血管新生(虚血領域の形成(換言すれば、血管が形成されない領域の形成)、および、異常血管の形成(換言すれば、無秩序に走行する血管の形成))を誘導した。
【0106】
上述したマウスに対して、生後12日齢(P12)の時点で1回、ISOX DUAL(濃度:10μM)を右目の硝子体内へ投与した。対照試験として、同じマウスに対して、生後12日齢(P12)の時点で1回、PBSを左目の硝子体内へ投与した。
【0107】
生後17日齢になった時点で、上記マウスから網膜を採取し、当該網膜上の異常血管新生を、顕微鏡にて観察した。観察された像に基づいて、網膜全体の面積、虚血領域の面積、および、異常血管領域の面積を算出した。
【0108】
図2の201に網膜の像を示す。当該像から明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、ISOX DUALを投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。
【0109】
図2の202に、網膜全体の面積に対する異常血管領域の面積の割合、および、網膜全体の面積に対する虚血領域の面積の割合のグラフを示す。当該グラフから明らかなように、対照試験のマウスでは、網膜上の広い範囲に、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察された。一方、ISOX DUALを投与したマウスでは、網膜上の狭い範囲にしか、虚血領域の形成と、異常血管の形成とが観察されなかった。
【0110】
<3.異常血管新生の発生および薬剤の作用効果に関係する遺伝子のスクリーニング>
異常血管新生の発生に伴って発現量が増加し、かつ、薬剤が効果を発揮するときに発現量が減少する遺伝子は、異常血管新生の治療剤または予防剤のスクリーニング、異常血管新生の診断、および、異常血管新生を診断するためのマーカーなどとして、極めて有用である。そこで、当該遺伝子をスクリーニングした。
【0111】
本試験では、(i)異常血管新生を発生させず、かつ、ISOX DUALを投与しないマウス(Control)、(ii)異常血管新生を発生させ、かつ、ISOX DUALを投与しないマウス(OIR)、および、(iii)異常血管新生を発生させ、かつ、ISOX DUALを投与するマウス(ISOX)を準備した。
【0112】
マウスを生後17日齢まで飼育し、当該マウスを上記(i)のマウス(Control)とした(n=2)。
【0113】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。その後、上記生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて、生後17日齢まで飼育し、当該マウスを上記(ii)のマウス(OIR)とした(n=2)。
【0114】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。当該マウスに対して、生後12日齢(P12)の時点で1回、ISOX DUAL(濃度:10μM)を硝子体内へ投与した。その後、当該生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて、生後17日齢まで飼育し、当該マウスを上記(iii)のマウス(ISOX)とした(n=2)。
【0115】
生後17日齢になった各マウスから網膜を採取し、市販のキットを用いて、当該網膜からmRNAを精製した。当該mRNAを、市販の装置(Affimetrix社製、GCS3000装置)を用いたマイクロアレイ解析に供し、発現量の変動が大きな遺伝子をスクリーニングした。
【0116】
より具体的に、発現量の変動が大きな遺伝子として、マウス(Control)とマウス(OIR)との間で発現量に1.5倍以上の変動があり、かつ、マウス(OIR)とマウス(ISOX)との間で発現量に1.5倍以上の変動がある遺伝子をスクリーニングした。
【0117】
試験結果を
図3および
図4に示す。
図3および
図4から明らかなように、Ang2遺伝子、Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子の発現量に有意な変動が観察された。
【0118】
<4.異常血管新生の治療および予防に関与するシグナル伝達経路の解析>
アンジオポエチン2、および、VEGF(vascular endothelial growth factor)は、血管の伸長に必要であることが知られている。そこで、異常血管新生の発生過程、および、異常血管新生の治癒過程において、VEGFの発現様式と、上述した<3.異常血管新生の発症、および、薬剤の作用効果に関係する遺伝子のスクリーニング>にてスクリーニングした遺伝子の発現様式とが一致するか、確認した。
【0119】
本試験では、(i)異常血管新生を発生させず、かつ、ISOX DUALを投与しないマウス(Control)、(ii)異常血管新生を発生させ、かつ、ISOX DUALを投与しないマウス(OIR)、および、(iii)異常血管新生を発生させ、かつ、ISOX DUALを投与するマウス(ISOX)を準備した。
【0120】
マウスを生後17日齢まで飼育し、当該マウスを上記(i)のマウス(Control)とした。
【0121】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。その後、上記生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて、生後17日齢まで飼育し、当該マウスを上記(ii)のマウス(OIR)とした。
【0122】
生後7日齢(P7)のマウスを、生後12日齢(P12)になるまで、5日間、75体積%の酸素条件下にて飼育した。当該マウスに対して、生後12日齢(P12)の時点で1回、ISOX DUAL(濃度:10μM)を硝子体内へ投与した。その後、当該生後12日齢(P12)のマウスを、大気条件下にて、生後17日齢まで飼育し、当該マウスを上記(iii)のマウス(ISOX)とした。
【0123】
生後17日齢になった各マウスから網膜を採取し、市販のキットを用いて、当該網膜からmRNAを精製した。当該mRNA、および、VEGF-Aに特異的なプライマーを用いたRT-qPCRによって、各マウスの網膜で発現しているVEGF-AのmRNAを定量した。
【0124】
図5に、各マウスにおけるVEGF-Aの発現量を示す。
図5に示すように、異常血管新生が発生すると、VEGF-Aの発現量は増加した(ConrolとOIRとを比較)。当該VEGF-Aの発現量の増加は、異常血管新生の治癒に伴って低下することはなかった(OIRとISOXとを比較)。
【0125】
一方、
図3および
図4に示すように、異常血管新生が発生すると、上述した21個の遺伝子(Adm遺伝子、Anxa2遺伝子、Apln遺伝子、Cd34遺伝子、Cxcr4遺伝子、Edn1遺伝子、Ednra遺伝子、Eng遺伝子、Fn1遺伝子、Hmox1遺伝子、Itga1遺伝子、Loxl2遺伝子、Mcam遺伝子、Nr4a1遺伝子、Serpine1遺伝子、Tnfrsf12a遺伝子、Acta2遺伝子、Anxa3遺伝子、Thbs遺伝子、Cdh5遺伝子、および、Esm1遺伝子)の発現量は増加した。当該21個の遺伝子の発現量の増加は、異常血管新生の治癒に伴って低下した。
【0126】
つまり、異常血管新生の発生過程、および、異常血管新生の治癒過程において、VEGF-Aの発現様式と、上述した21個の遺伝子の発現様式とは一致しなかった。このことは、異常血管新生の治癒に、(i)VEGFが関与するシグナル伝達系(VEGF依存性シグナル伝達系)と、(ii)上述した21個の遺伝子から選択される少なくとも1つの遺伝子が関与するシグナル伝達系(VEGF非依存性シグナル伝達系)との両方が関与していることを示唆している。換言すれば、このことは、本発明の一実施形態に係る異常血管新生の治療剤または予防剤が、VEGF依存性シグナル伝達系とVEGF非依存性シグナル伝達系との両方によってその効果を発現していることを示唆している。