(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178777
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】カムクラッチ
(51)【国際特許分類】
F16D 41/07 20060101AFI20241218BHJP
F16C 19/52 20060101ALI20241218BHJP
F16C 19/50 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
F16D41/07 B
F16C19/52
F16C19/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097175
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003355
【氏名又は名称】株式会社椿本チエイン
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(74)【代理人】
【識別番号】100138254
【弁理士】
【氏名又は名称】澤井 容子
(72)【発明者】
【氏名】石原 悠真
(72)【発明者】
【氏名】経田 宏和
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA13
3J701AA24
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA83
3J701BA06
3J701BA34
3J701BA44
3J701BA45
3J701FA60
3J701GA60
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で許容アキシャル荷重の増大を図ることができ、小型化及び軽量化が実現可能なカムクラッチを提供すること。
【解決手段】本発明のカムクラッチ100においては、カム140及びローラ150を保持するケージリング130を、ローラ150の軸方向一端部における外輪側部分がケージリング130の外周面より径方向外方に突出する状態でローラ150を保持可能となるよう構成し、ローラ用のポケット部136bを、ローラ150の両端部がカム用のポケット部136aに保持されたカム140の軸方向両端面の各々より軸方向外方に突出する状態でローラ150を保持するように形成し、隣接するポケット部間に形成される柱部137を、内周面側の軸方向他端部がローラ用のポケット部136bの軸方向他端側の開口縁位置より軸方向内方側に位置されるように、形成する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸上に相対回転可能に設けられている外輪及び内輪と、前記外輪及び前記内輪の間において周方向に並ぶよう配置された複数のカム及び複数のローラと、前記複数のカムの各々に対応する複数のカム用のポケット部及び前記複数のローラの各々に対応する複数のローラ用のポケット部を有するケージリングと、前記複数のカムの各々を前記外輪及び前記内輪に接触するように付勢すると共に前記複数のローラを前記外輪または前記内輪に押し付けるよう付勢する環状のスプリングを備えたカムクラッチであって、
前記ケージリングは、前記ローラの軸方向一端部における外輪側部分が前記ケージリングの外周面より径方向外方に突出する状態で、前記ローラを保持可能となるよう構成され、
前記ローラ用のポケット部は、前記ローラの両端部が前記カム用のポケット部に保持された前記カムの軸方向両端面の各々より軸方向外方に突出する状態で、前記ローラを保持するように形成され、
隣接するポケット部間に形成される柱部は、内周面側の軸方向他端部が前記ローラ用のポケット部の軸方向他端側の開口縁位置より軸方向内方側に位置されるように、形成されていることを特徴とするカムクラッチ。
【請求項2】
前記外輪は、軸方向一端部に径方向内方に突出して周方向全周にわたって延びるよう形成され前記ローラの一端面に当接する外輪側ローラ当接部を有し、
前記内輪は、軸方向他端部に径方向外方に突出して周方向全周にわたって延びるよう形成され前記ローラの他端面に当接する内輪側ローラ当接部を有し、
前記ケージリングの一端部が前記外輪側ローラ当接部の内周面と前記内輪の外周面との間に配置されると共に、前記ケージリングの他端部が前記内輪側ローラ当接部の外周面と前記外輪の内周面との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項3】
前記外輪は、軸方向両端部に径方向内方に突出して周方向全周にわたって延びるよう形成され前記ローラの両端面にそれぞれ当接する外輪側ローラ当接部を有し、
前記内輪は、軸方向両端部の各々に径方向外方に突出して周方向全周にわたって延びるよう形成され前記ローラの両端面にそれぞれ当接する内輪側ローラ当接部を有し、
前記ケージリングの一端部及び他端部が、前記内輪側ローラ当接部の外周面と前記外輪側ローラ当接部の内周面との間に配置されることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【請求項4】
前記外輪側ローラ当接部が前記外輪に一体に形成された内方フランジ部により構成され、
前記内輪側ローラ当接部が前記内輪に一体に形成された外方フランジ部により構成されることを特徴とする請求項2または請求項3に記載のカムクラッチ。
【請求項5】
前記ローラは、C面取り形状またはR面取り形状の面取部を両端部に有し、
前記外輪側ローラ当接部のローラ接触面及び前記内輪側ローラ当接部のローラ接触面がテーパ状または断面円弧状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載のカムクラッチ。
【請求項6】
前記ケージリングは、樹脂材料で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のカムクラッチ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転トルクの伝達及び遮断を行うカムクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
カムクラッチとしては、内輪及び外輪の同心を保持して内輪と外輪との間に配置された複数のカムのすべてのものを同時に均等な荷重分担でかみ合わせると共に外輪または内輪に掛かるラジアル荷重を受けるために、内輪と外輪との間に複数のローラを配置した構成のものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のクラッチは、外輪及び内輪と、その外輪及び内輪との間に周方向に沿って配置される複数のスプラグ及び複数のローラと、各スプラグを周方向に沿って保持する保持器と、各スプラグを付勢する弾性部材とを備えている。
保持器は、一対の環状部と、環状部間を結ぶように軸方向へ伸びる柱部とを備え、周方向に隣り合う柱部間の空間によって、スプラグを収納するポケット部及びローラを収容するポケット部が構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
而して、上記のクラッチにおいては、ローラ及びカムをポケット部に収容したときに、ローラ及びカムの軸方向両端部の各々より外側に保持器の環状部が存在しており、これらの環状部によりローラ及びカムが軸方向に保持されることで、軸方向の相対的な移動が規制されるようになっている。
このため、上記のクラッチにおいては、アキシャル荷重をケージリングで受ける必要があるが、荷重に耐える剛性を確保することが難しいのが実情である。特に、ケージリングは、生産性や軽量化等を考慮して、樹脂材料で形成されることも少なくなく、樹脂製のケージリングである場合には、このような問題が顕著に生ずることとなる。
このような問題に対し、アキシャル荷重を受けるための部材を追加して配置することも考えられるが、そのために大きなスペースが必要となる。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであって、ケージリングの剛性を高めたり、別部材を配置したりすることなく、簡単な構造で許容アキシャル荷重の増大を図ることができ、小型化及び軽量化が実現可能なカムクラッチを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同軸上に相対回転可能に設けられている外輪及び内輪と、前記外輪及び前記内輪の間において周方向に並ぶよう配置された複数のカム及び複数のローラと、前記複数のカムの各々に対応する複数のカム用のポケット部及び前記複数のローラの各々に対応する複数のローラ用のポケット部を有するケージリングと、前記複数のカムの各々を前記外輪及び前記内輪に接触するように付勢すると共に前記複数のローラを前記外輪または前記内輪に押し付けるよう付勢する環状のスプリングを備えたカムクラッチであって、前記ケージリングは、前記ローラを軸方向一端部における外輪側部分が前記ケージリングの外周面より径方向外方に突出する状態で保持可能となるよう構成され、前記ローラ用のポケット部は、前記ローラを該ローラの両端部が前記カム用のポケット部に保持された前記カムの軸方向両端面の各々より軸方向外方に突出する状態で保持するように形成され、隣接するポケット部間に形成される柱部が、内周面側の軸方向他端部が前記ローラ用のポケット部の軸方向他端側の開口縁位置より軸方向内方側に位置されるように、形成された構成とすることにより、前記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0008】
本請求項1に係る発明によれば、ローラがケージリングにより保持された状態において、ローラの軸方向一端部における外輪側部分がケージリングの外周面より径方向外方に突出すると共にローラの軸方向他端部が柱部の軸方向他端部より外方に突出することで、ローラの両端部が内輪及び外輪に対して軸方向に接触可能となるので、外輪または内輪からのアキシャル荷重をローラで受けることが可能となる。このため、ケージリングの剛性を高めたりすることなく、簡単な構造で許容アキシャル荷重の増大を図ることができる。
また、ケージリングの軸方向における長さ領域内においてローラの両端面を軸方向に露出させることができるので、カムクラッチの軸方向寸法を大きくすることなしに、アキシャル荷重をローラで受けることが可能な構造を実現することができる。
さらにまた、ローラやカムとしては、形状等の大幅な変更を伴うことなく、既存のものを流用可能であるので、製造コストの上昇を抑制することができる。
【0009】
本請求項2に係る発明によれば、ケージリングの一端部を外輪側ローラ当接部の内周面と内輪の外周面との間に配置すると共にケージリングの他端部を内輪側ローラ当接部の外周面と外輪の内周面との間に配置し、外輪側ローラ当接部をローラの一端面に当接させると共に内輪側ローラ当接部をローラの他端面に当接させることで、外輪及び内輪との間のスペースを有効に利用してケージリングを配置することができる。このため、少ないスペースで、アキシャル荷重を確実にローラで受ける構造を実現することが可能となると共にカムクラッチの小型化を実現することが可能となる。
【0010】
本請求項3に係る発明によれば、外輪が外輪側ローラ当接部を軸方向両端部に有し、内輪が内輪側ローラ当接部を軸方向両端部に有することにより、ローラを軸方向に挟み込むよう内輪側ローラ当接部及び外輪側ローラ当接部をローラの両端面の各々に当接させることで、両方向のアキシャル荷重をローラで受けることが可能となる。
【0011】
本請求項4に係る発明によれば、外輪側ローラ当接部が外輪に一体に形成された内方フランジ部により構成され、内輪側ローラ当接部が内輪に一体に形成された外方フランジ部により構成されることで、カムクラッチ単体でアキシャル荷重を受けることが可能となる。このため、アキシャル荷重を受けるための別部材を配置することなく、簡単な構造で許容アキシャル荷重の増大を確実に図ることができる。
【0012】
本請求項5に係る発明によれば、ローラがC面取り形状またはR面取り形状の面取部を両端部に有し、外輪側ローラ当接部のローラ接触面及び前記内輪側ローラ当接部のローラ接触面をテーパ状または断面円弧状に形成することで、外輪及び内輪がローラに対し接触角をもって軸方向に当接する。このため、アキシャル荷重が作用したときにラジアル方向の分力が作用することで、ローラと外輪及び内輪とが転がり滑り接触するようになり、ドラッグトルクを低減させることが可能となる。
【0013】
本請求項6に係る発明によれば、ケージリングを樹脂材料により形成することで、ケージリングは製作が容易で軽量なものとなり、カムクラッチの軽量化を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチの一構成例を示す斜視図であって、外輪の一部を破断して示す図である。
【
図2】
図1に示すカムクラッチの軸方向中央位置における回転軸心に垂直な断面図である。
【
図6】
図5に示すケージリングの回転軸心に沿った断面図である。
【
図7】カム及びローラがケージリングに保持された状態を示す、回転軸心に沿った断面図である。
【
図8】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチの他の構成例を示す斜視図であって、外輪の一部を破断して示す図である。
【
図9】
図8に示すカムクラッチにおける回転軸心及びカムの揺動中心軸を含む平面で切断したときの断面の一部を示す図である。
【
図10】
図8に示すカムクラッチにおける回転軸心及びローラの中心軸を含む平面で切断した断面の一部を示す図である。
【
図11】本発明の第1実施形態に係るカムクラッチのさらに他の構成例における、回転軸心及びカムの揺動中心軸を含む平面で切断した断面の一部を示す図である。
【
図12】
図11に示すカムクラッチにおける回転軸心及びローラの中心軸を含む平面で切断したときの断面の一部を示す図である。
【
図13】本発明の第2実施形態に係るカムクラッチの一構成例を示す分解斜視図である。
【
図14】
図13に示すカムクラッチにおける回転軸心及びカムの揺動中心軸を含む平面で切断したときの断面の一部を示す図である。
【
図15】
図13に示すカムクラッチにおける回転軸心及びローラの中心軸を含む平面で切断したときの断面の一部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1実施形態]
図1乃至
図4に示すように、本発明の第1実施形態に係るカムクラッチ100は、同軸上に相対回転可能に設けられている外輪110及び内輪120と、外輪110と内輪120との間において外輪110及び内輪120と同軸上に配置されたケージリング130と、ケージリング130により保持され外輪110の内周面と内輪120の外周面との間の環状空間において周方向に並ぶよう配置された複数のカム140及び複数のローラ150と、複数のカム140の各々を外輪110及び内輪120に接触するように付勢すると共に複数のローラ150の各々を内輪120に押し付けるよう付勢する環状のスプリング160とを備える。
図1乃至
図4における符号Cは、回転軸心である。
【0016】
本実施形態における外輪110は、軸方向一端部に径方向内方に突出して周方向全周にわたって延びる内方フランジ部が一体に形成されており、この内方フランジ部により、ローラ150の一端面に当接する外輪側ローラ当接部115が構成されている。
【0017】
本実施形態における内輪120は、軸方向他端部に径方向外方に突出して周方向全周にわたって延びる外方フランジ部が一体に形成されており、この外方フランジ部により、外輪側ローラ当接部115との間でローラ150を軸方向に挟み込むようにローラ150の他端面に当接する内輪側ローラ当接部125が構成されている。
【0018】
本実施形態におけるケージリング130は、
図5及び
図6に示すように、大径筒状部131と、大径筒状部131の一端に段部132を介して軸方向に連続する小径筒状部133とを有し、軸方向の中央に段部132を有する2段円筒形状をなすように構成されている。
【0019】
ケージリング130には、複数のカム140の各々に対応する複数のカム用のポケット部136a及び複数のローラ150の各々に対応する複数のローラ用のポケット部136bが、大径筒状部131から小径筒状部133にかけて軸方向に延びると共に外周側から内周側に径方向に貫通するように、形成されている。
従って、カム用のポケット部136a及びローラ用のポケット部136bは、カム140及びローラ150の軸方向一端部が小径筒状部133の外周面より径方向外方に突出する状態で、カム140及びローラ150を収容可能に構成されている。このため、カム140及びローラ150をそれぞれ対応するカム用のポケット部136a及びローラ用のポケット部136bに収容したとき、軸方向一端面における外輪側部分が軸方向に露出されるようになっている。
【0020】
カム用のポケット部136a及びローラ用のポケット部136bは、カム140及びローラ150の周方向への移動及び軸方向への移動が規制されるように、径方向からの平面視にてカム140及びローラ150の四方を囲む形状に構成されている。
また、隣接するカム用のポケット部136aとローラ用のポケット部136bとの間に形成される柱部137のカム支持面及びローラ支持面は、カム140及びローラ150の内輪側への移動を規制する形状に形成されている。
【0021】
本実施形態においては、6つのローラ150が周方向に等間隔で配置されるように6つのローラ用のポケット部136bが形成され、6つのカム用のポケット部136aが、隣接するローラ150間にそれぞれ1つのカム140が位置されて6つのカム140が所定間隔で配置されるように、形成されている。
このカムクラッチ100においては、ローラ150を備えることで、ベアリングなどの他の部材を用いることなく、外輪110及び内輪120の同心が保持可能となると共にラジアル荷重が支持可能となっているが、ローラ150の数は、特に限定されるものではなく、少なくとも3つ以上であればよい。また、カム140の数及び配置パターンについても特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜変更することが可能である。
【0022】
ローラ用のポケット部136bは、
図7にも示すように、ローラ150の両端部がカム用のポケット部136aに収容されたカム140の軸方向両端面の各々より軸方向外方に突出する状態で、ローラ150を保持するように形成されている。
【0023】
複数のカム140の各々は、軸方向の中央にスプリング160と係合可能な溝部141を有している。
本実施形態においては、溝部141の底部は、偏芯した位置に凸部をなす傾斜形状となっており、スプリング160が溝部141の底部の凸部を押圧することでカム140を外輪110及び内輪120に接触する方向に揺動させるよう構成されている。
【0024】
複数のローラ150は、軸方向寸法がカム140の軸方向寸法より大きく構成され、軸方向の中央にスプリング160と係合可能な溝部151を有している。溝部151の外周縁部は面取りされており、スプリング160との引っ掛かりを防止している。
【0025】
スプリング160は、カム140及びローラ150の外輪側への移動を規制するように、カム140の溝部141及びローラ150の溝部151に掛け回され、ケージリング130の段部132に係止されている。
【0026】
而して、上記のカムクラッチ100においては、座ぐり状の凹部134がケージング130における大径筒状部131の他端側開口部に形成されている。凹部134は、
図6に示すように、底面がローラ用のポケット部136bの他端側開口端縁の軸方向位置より軸方向内方側に位置されるよう形成されており、これにより、柱部137における内周面側の軸方向他端部がローラ用のポケット部136bの軸方向他端側の開口縁位置より軸方向内方側に位置されている。このため、
図7に示すように、ローラ150をローラ用のポケット部136bに収容したときに、ローラ150の軸方向他端面における内輪側部分を軸方向に露出させ、外輪110及び内輪120がローラ150に対し軸方向に接触可能となっている。
このように、ケージリング130の軸方向における長さ領域内においてローラ150の両端面を軸方向に露出させることができるので、カムクラッチ100の軸方向寸法を大きくすることなしに、アキシャル荷重をローラ150で受けることが可能な構造を実現することが可能となっている。
【0027】
ケージリング130における小径筒状部133の一端部を、外輪側ローラ当接部115の内周面と内輪120の外周面との間に配置すると共に、ケージリング130における大径筒状部131の他端部を、内輪側ローラ当接部125の外周面と外輪110の内周面との間に配置することで、外輪側ローラ当接部115をローラ150の一端面に当接させると共に内輪側ローラ当接部125をローラ150の他端面に当接させている。これにより、外輪110及び内輪120との間のスペースを有効に利用して少ないスペースで、外輪110または内輪120からの一方向のアキシャル荷重をローラ150で受けることが可能となる。このため、ケージリング130の剛性を高めたり、アキシャル荷重を受けるための別部材を配置したりすることなく、簡単な構造で許容アキシャル荷重の増大が図られていると共にカムクラッチ100の小型化が図られている。また、カム140やローラ150としては、形状等の大幅な変更を伴うことなく、既存のものを流用可能であるので、製造コストの上昇を抑制することが可能である。
【0028】
以上のように、上記のカムクラッチ100においては、外輪110及び内輪120は、カム140やケージリング130に対しては軸方向に接触せずに、ローラ150に対してのみ軸方向に接触することで、アキシャル荷重をローラ150で受けることが可能となっている。このため、ケージリング130は、カム140及びローラ150の位置規制と保持が可能な程度の剛性を有するものであればよく、ケージリング130を樹脂材料で形成することが可能となる。ケージリング130を樹脂材料で形成することで、ケージリング130は製作が容易で軽量なものとなり、カムクラッチ100の軽量化を実現することが可能である。
【0029】
上記実施形態においては、アキシャル荷重をローラの平坦な端面で受ける構成について説明したが、アキシャル荷重を軸方向に対して傾斜する面で斜めに受ける構成としてもよい。
【0030】
図8は、本発明の第1実施形態に係るカムクラッチの他の構成例を示す斜視図であって、外輪の一部を破断して示す図、
図9は、
図8に示すカムクラッチを回転軸心及びカムの揺動中心軸を含む平面で切断したときの断面の一部を示す図、
図10は、
図8に示すカムクラッチを回転軸心及びローラの中心軸を含む平面で切断した断面の一部を示す図である。
このカムクラッチ100は、ローラ150の構成、外輪側ローラ当接部115及び内輪側ローラ当接部125の構成が異なることの他は、上記のカムクラッチ100と同一の構成を有し、便宜上、同一の構成部材については同一の符号を付してあり、説明を省略することとする。
【0031】
ローラ150は、軸方向外方に向かって小径となるよう構成されたC面取り形状の面取部152を両端部に有し、ケージリング130のローラ用のポケット部136bに収容されたときに、面取部152が軸方向に露出されるように構成されている。
【0032】
外輪110は、軸方向一端部に径方向内方に突出して周方向全周にわたって延びる内方フランジ部が一体に形成されており、この内方フランジ部により、ローラ150の一端面に当接する外輪側ローラ当接部115が構成されている。
本実施形態においては、外輪側ローラ当接部115におけるローラ接触面を構成する内面116が、軸方向一端側に向かうに従って内輪側に傾斜して延びるようテーパ状に形成されている。
【0033】
内輪120は、軸方向他端部に径方向外方に突出して周方向全周にわたって延びる外方フランジ部が一体に形成されており、この外方フランジ部により、外輪側ローラ当接部115との間でローラ150を軸方向に挟み込むようにローラ150の他端面に当接する内輪側ローラ当接部125が構成されている。
本実施形態においては、内輪側ローラ当接部125におけるローラ接触面を構成する内面126が、軸方向他端側に向かうに従って外輪側に傾斜して延びるようテーパ状に形成されている。
【0034】
このような構成のカムクラッチ100によれば、小径筒状部133の一端部を外輪側ローラ当接部115の内周面と内輪120の外周面との間に配置すると共に大径筒状部131の他端部を内輪側ローラ当接部125の外周面と外輪110の内周面との間に配置したときに、外輪110の外輪側ローラ当接部115及び内輪120の内輪側ローラ当接部125がローラ150に対し接触角をもって軸方向に当接する。このため、アキシャル荷重が作用したときにラジアル方向の分力が作用することで、ローラ150と外輪110及び内輪120とが転がり滑り接触するようになり、ドラッグトルクを低減させることが可能となる。
【0035】
また、
図11及び
図12に示すように、ローラ150の両端部における面取部152をR面取り形状に形成し、外輪側ローラ当接部115におけるローラ接触面及び内輪側ローラ当接部125におけるローラ接触面を断面円弧状に形成することによっても、上記と同様の効果を得ることが可能である。
【0036】
以上においては、ローラ当接部をフランジ部により構成することでローラ当接部を外輪及び内輪と一体に形成した構成について説明したが、外輪側ローラ当接部及び内輪側ローラ当接部は、外輪及び内輪と一体に形成されている必要はなく、ローラの端面に当接する別個の部材を軸方向の移動を禁止した状態で設けることで構成してもよい。
また、ケージリングを2段円筒状に形成した構成について説明したが、ケージリングの構成は、ローラをローラ用のポケット部に収容したときに、ローラの一方の端面における外輪側部分及び他方の端面における内輪側部分を軸方向に露出させるよう構成されていればよい。例えば、ケージリングを軸方向において厚みが均一な円筒状部材により構成し、ローラの一端面の外輪側部分を軸方向に露出させるように周方向の全周にわたって延びる段部を円筒状部材の一端部の外周面に形成すると共に、ローラの他端面の内輪側部分を軸方向に露出させるように座ぐり状の凹部を円筒状部材の他端側開口部に形成した構成としてもよい。
【0037】
[第2実施形態]
第1実施形態に係るカムクラッチは、一方向のアキシャル荷重をローラで受ける構成のものであるが、以下においては、両方向のアキシャル荷重をローラで受けることが可能に構成されたカムクラッチについて説明する。
【0038】
図13乃至
図15に示すように、第2実施形態に係るカムクラッチ100は、同軸上に相対回転可能に設けられている外輪110及び内輪120と、外輪110と内輪120との間において外輪110及び内輪120と同軸上に配置されたケージリング130と、ケージリング130により保持され外輪110の内周面と内輪120の外周面との間の環状空間において周方向に並ぶよう配置された複数のカム140及び複数のローラ150と、複数のカム140の各々を外輪110及び内輪120に接触するように付勢すると共に複数のローラ150の各々内輪120に押し付けるよう付勢する環状のスプリング160と、外輪110と内輪120との間においてローラ150の他端面に当接するよう配置された受け板117と、受け板117の軸方向の移動を規制する止め輪118とを備えている。
図13乃至
図15における符号Cは、回転軸心である。
【0039】
本実施形態における外輪110は、軸方向一端部に径方向内方に突出して周方向全周にわたって延びる内方フランジ部が一体に形成されており、この内方フランジ部により、ローラ150の一端面に当接する第1の外輪側ローラ当接部115aが構成されている。
外輪110の他端部における内周面には、周方向の全周にわたって延びる溝部が形成されており、この溝部に円環板状の止め輪118が内嵌されることで円環板状の受け板117が外輪110に対し軸方向に固定されている。本実施形態においては、受け板117及び止め輪118により、ローラ150の他端面に当接する第2の外輪側ローラ当接部115bが構成されている。
【0040】
本実施形態における内輪120は、軸方向両端部の各々に径方向外方に突出して周方向全周にわたって延びる外方フランジ部が一体に形成されており、一端側の外方フランジ部により、第2の外輪側ローラ当接部115bとの間でローラ150を軸方向に挟み込むようにローラ150の一端面に当接する第1の内輪側ローラ当接部125aが構成されている。また、他端側の外方フランジ部により、第1の外輪側ローラ当接部115aとの間でローラ150を軸方向に挟み込むようにローラ150の他端面に当接する第2の内輪側ローラ当接部125bが構成されている。
【0041】
ケージリング130は、上記の第1実施形態に係るカムクラッチ100におけるケージリング130と同一の構成を有し、ローラ150をローラ用のポケット部136bに収容したときに、ローラ150の一端面における外輪側部分及びローラ150の他端面における内輪側部分を軸方向に露出させるように構成されている。
【0042】
ケージリング130における小径筒状部133の一端部は、第1の内輪側ローラ当接部125aの外周面と第1の外輪側ローラ当接部115aの内周面との間に配置されると共に、大径筒状部131の他端部が、第2の内輪側ローラ当接部125bの外周面と第2の外輪側ローラ当接部115bを構成する受け板117の内周面との間に配置される。
これにより、第1の外輪側ローラ当接部115a及び第2の内輪側ローラ当接部125bをそれぞれ、ローラ150を軸方向に挟み込むように、ローラ150の一端面及び他端面に当接させ、第2の外輪側ローラ当接部115b及び第1の内輪側ローラ当接部125aをそれぞれ、ローラ150を軸方向に挟み込むように、ローラ150の他端面及び一端面に当接させている。
【0043】
このような構成とすることで、外輪110及び内輪120との間のスペースを有効に利用して少ないスペースで、外輪110または内輪120からの両方向のアキシャル荷重をローラ150で受けることが可能となっている。
【0044】
本実施形態においては、外輪における他端側ローラ当接部を受け板と止め輪とによって構成した例について説明したが、他端側ローラ当接部を内方フランジ部により構成することで他端側ローラ当接部を外輪と一体に形成した構成としてもよい。また、外輪における一端側ローラ当接部を止め輪により軸方向の移動を規制するように設けた受け板で構成することで外輪と別体に形成した構成としてもよい。内輪におけるローラ当接部についても同様であって、一端側ローラ当接部及び/または他端側ローラ当接部を止め輪により軸方向の移動を規制するように設けた受け板で構成することで内輪と別体に形成した構成としてもよい。
さらにまた、本実施形態においては、アキシャル荷重をローラの両端の平坦面で受ける構成について説明したが、第1実施形態に係るカムクラッチと同様に、アキシャル荷重を軸方向に対して傾斜する面で斜めに受ける構成としてもよい。
【0045】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
【符号の説明】
【0046】
100 ・・・ カムクラッチ
110 ・・・ 外輪
115 ・・・ 外輪側ローラ当接部
115a ・・・ 第1の外輪側ローラ当接部
115b ・・・ 第2の外輪側ローラ当接部
116 ・・・ 内面
117 ・・・ 受け板
118 ・・・ 止め輪
120 ・・・ 内輪
125 ・・・ 内輪側ローラ当接部
125a ・・・ 第1の内輪側ローラ当接部
125b ・・・ 第2の内輪側ローラ当接部
126 ・・・ 内面
130 ・・・ ケージリング
131 ・・・ 大径筒状部
132 ・・・ 段部
133 ・・・ 小径筒状部
134 ・・・ 凹部
136a ・・・ カム用のポケット部
136b ・・・ ローラ用のポケット部
137 ・・・ 柱部
140 ・・・ カム
141 ・・・ 溝部
150 ・・・ ローラ
151 ・・・ 溝部
152 ・・・ 面取部
160 ・・・ スプリング
C ・・・ 回転軸心