(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178785
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】ホログラム記録方法、ホログラム再生方法およびホログラフィ装置
(51)【国際特許分類】
G03H 1/04 20060101AFI20241218BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
G03H1/04
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097200
(22)【出願日】2023-06-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】角江 崇
(72)【発明者】
【氏名】植山 恭帆
(72)【発明者】
【氏名】下馬場 朋禄
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 智義
【テーマコード(参考)】
2H088
2K008
【Fターム(参考)】
2H088EA37
2H088EA42
2H088EA47
2H088EA48
2H088HA11
2H088HA18
2H088HA20
2H088HA21
2H088HA24
2H088HA28
2H088MA10
2K008AA06
2K008BB06
2K008EE01
2K008HH01
(57)【要約】
【課題】インコヒーレント光を利用して簡単な方法でホログラムの多重記録、再生を可能とするホログラム記録方法、ホログラム再生方法およびホログラフィ装置を提供する。
【解決手段】インコヒーレント光によるホログラム記録方法であって、イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して記録する。
【選択図】
図19
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インコヒーレント光によるホログラム記録方法であって、
イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して記録することを特徴とするホログラム記録方法。
【請求項2】
前記位相変調パターンのみを平行移動させることを特徴とする請求項1に記載のホログラム記録方法。
【請求項3】
液晶型の位相変調手段上における表示を切り替えることにより、前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴とする請求項2に記載のホログラム記録方法。
【請求項4】
前記ホログラムに記録された干渉縞に重ならない位置に、次の干渉縞が配置されるように前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴とする請求項2または3に記載のホログラム記録方法。
【請求項5】
インコヒーレント光によるホログラム記録方法により、イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、1枚のホログラムの異なる位置に空間分割して記録された複数の干渉縞から再生像を再生するホログラム再生方法であり、
前記ホログラムの画素値から全ての画素値の平均を引くとともに、前記ホログラムにおいて干渉縞のある部分を切り取り再生することを特徴とするホログラム再生方法。
【請求項6】
前記ホログラムに空間分割して記録された干渉縞の位置に応じて前記再生像を平行移動させることを特徴とする請求項5に記載のホログラム再生方法。
【請求項7】
インコヒーレント光による自己干渉を可能とする光学系と、前記自己干渉により形成される干渉縞を有するホログラムを記録するイメージセンサと、を備えるホログラフィ装置であって、
前記光学系の中心光軸に対して位相変調パターンを平行移動させる位相変調手段を有していることを特徴とするホログラフィ装置。
【請求項8】
液晶型の前記位相変調手段上における表示を切り替えることにより、前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴とする請求項7に記載のホログラフィ装置。
【請求項9】
前記位相変調手段は、前記イメージセンサに記録された干渉縞に重ならない位置に、次の干渉縞が配置されるように前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴とする請求項7または8に記載のホログラフィ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インコヒーレント光によるホログラム記録方法、ホログラム再生方法およびホログラフィ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィとは、光の干渉現象を利用して3次元物体からの光波をホログラムに記録・再生する技術である。従来、ホログラムを記録する際、光波の干渉性を高めるためにコヒーレント光が用いられてきたが、レーザ等のコヒーレント光を発するコヒーレント光源は高価であるばかりか、コヒーレント光を用いてイメージセンサ上で撮影されたホログラムから計算機内で再生像を再生するデジタルホログラフィにおいては、コヒーレント光の干渉性の高さから再生像にスペックルと呼ばれる斑点状のノイズが発生し、撮影対象が大きく制限されてしまうという問題がある。
【0003】
そこで、近年、撮影対象の制限をなくすために、LEDやハロゲンランプ等の安価なインコヒーレント光源を用いて、インコヒーレント光の自己干渉を利用することによりイメージセンサ上でホログラムを撮影し、当該ホログラムから計算機内で再生像を再生するインコヒーレントデジタルホログラフィの研究が進められている。
【0004】
特許文献1に示されるように、インコヒーレントデジタルホログラフィにおいては、再生像の画質を向上させるために、再生像から直接光や共役光といった不要光を除去する技術である位相シフト法が確立されている。詳しくは、特許文献1のデジタルホログラフィ装置では、単一光路において直交する2つの方向成分のうち一方の方向成分の位相を空間的に線形に変調させることで、当該一方の方向成分に複数種類の位相シフト量を生じさせている。詳しくは、例えば偏光子アレイを用いてイメージセンサに入射する物体光の一部である波面変調光に対する位相変調光の位相シフト量に空間的かつ周期的に変化する分布を生じさせ、イメージセンサにおける撮像面の画素毎に位相シフト量の異なる複数の干渉縞を有するホログラムを記録し、再生装置において、並列位相シフト法により位相シフト量の異なる複数の干渉縞を用いて再生像を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015-1726号公報(第13頁~第14頁、第9図~第11図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のデジタルホログラフィ装置においては、単一光路を用いてイメージセンサによる1回の撮影において、位相シフト量が異なる複数種類の干渉縞を空間分割多重記録することができるため、イメージセンサを用いて3次元物体情報を含むホログラムを動画撮影することが可能であるが、偏光子アレイの各偏光領域を撮像面の各画素に対応させる必要があり、光学系の設計に非常に高い精度が求められるという問題があった。加えて、特許文献1のデジタルホログラフィ装置においては、位相シフト量が異なる複数種類の干渉縞が重畳した状態で記録されたホログラムから再生像を再生するため、多数の干渉縞を処理する場合にはその計算時間が膨大となってしまうという問題もあった。
【0007】
本発明は、このような課題に着目してなされたもので、インコヒーレント光を利用して簡単な方法でホログラムの多重記録、再生を可能とするホログラム記録方法、ホログラム再生方法およびホログラフィ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のホログラム記録方法は、
インコヒーレント光によるホログラム記録方法であって、
イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して記録することを特徴としている。
この特徴によれば、イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、相関性を持たせた状態で干渉縞を平行移動させることでき、簡単に1枚のホログラムに複数の干渉縞を空間分割して記録することができる。そのため、イメージセンサの性能を超える速度でのインコヒーレント光によるホログラムの高速撮影が可能となる。
【0009】
前記位相変調パターンのみを平行移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、位相変調パターンを平行移動させることにより、干渉縞を高精度で平行移動させることができる。
【0010】
液晶型の位相変調手段上における表示を切り替えることにより、前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、液晶型の位相変調手段上に表示される位相変調パターンの切り替えにより位相変調パターンを高速かつ高精度に平行移動させることができる。
【0011】
前記ホログラムに記録された干渉縞に重ならない位置に、次の干渉縞が配置されるように前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、再生像の形成に必要な干渉縞を保護しながら、1枚のホログラムにより多くの干渉縞を空間分割して記録することができる。
【0012】
本発明のホログラム再生方法は、
インコヒーレント光によるホログラム記録方法により、イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、1枚のホログラムの異なる位置に空間分割して記録された複数の干渉縞から再生像を再生するホログラム再生方法であり、
前記ホログラムの画素値から全ての画素値の平均を引くとともに、前記ホログラムにおいて干渉縞のある部分を切り取り再生することを特徴としている。
この特徴によれば、ホログラムにおける直接光成分を低減して干渉縞のコントラストを強められるとともに、ホログラムにおけるノイズ成分を効率的に除去することができる。
【0013】
前記ホログラムに空間分割して記録された干渉縞の位置に応じて前記再生像を平行移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、1枚のホログラムに干渉縞が平行移動されて記録されることによって生じる再生像の位置ずれを補正することができる。
【0014】
本発明のホログラフィ装置は、
インコヒーレント光による自己干渉を可能とする光学系と、前記自己干渉により形成される干渉縞を記録するイメージセンサと、を備えるホログラフィ装置であって、
前記光学系の中心光軸に対して位相変調パターンを平行移動させる位相変調手段を有していることを特徴としている。
この特徴によれば、イメージセンサによる1回の撮影において、光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、相関性を持たせた状態で干渉縞を平行移動させることでき、簡単に1枚のホログラムに複数の干渉縞を空間分割して記録することができる。そのため、イメージセンサの性能を超える速度でのインコヒーレント光によるホログラムの高速撮影が可能となる。
【0015】
液晶型の前記位相変調手段上における表示を切り替えることにより、前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、液晶型の位相変調手段上に表示される位相変調パターンの切り替えにより位相変調パターンを高速かつ高精度に平行移動させることができる。
【0016】
前記位相変調手段は、前記イメージセンサに記録された干渉縞に重ならない位置に、次の干渉縞が配置されるように前記位相変調パターンを平行移動させることを特徴としている。
この特徴によれば、再生像の形成に必要な干渉縞を保護しながら、1枚のホログラムにより多くの干渉縞を空間分割して記録することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態におけるFISCHを使用した光学系によるホログラフィ装置を示す概略図である。
【
図2】インコヒーレント光の自己干渉による干渉縞の発生原理を示す図である。
【
図3】インコヒーレントデジタルホログラフィにおける再生光学系の概略図である。
【
図4】(a)は、実施例における検証実験に使用したピンホールであり、(b)は、同じく解像力テストチャートである。
【
図5】(a)は、ピンホールの撮影により得られたホログラムであり、(b)は、(a)のホログラムにおいて干渉縞が現れている枠部分を拡大した図であり、(c)は、(a)のホログラムに対してフーリエ変換を行って再生された再生像である。
【
図6】(a)は、解像力テストチャートの撮影により得られたホログラムであり、(b)は、(a)のホログラムにおいて干渉縞が現れている枠部分を拡大した図であり、(c)は、(a)のホログラムに対してフーリエ変換を行って再生された再生像である。
【
図7】点光源からの光波の伝搬を簡略化して示す図である。
【
図8】(a)~(d)は、ピンホールを撮影したホログラムの再生において画質向上処理を行った結果を示す図である。
【
図9】(a)~(d)は、解像力テストチャートを撮影したホログラムの再生において画質向上処理を行った結果を示す図である。
【
図10】
図9(a)~(d)における直線で示される画素列の画素値分布をグラフ化した図である。
【
図11】光学系の中心光軸に対して位相変調パターンを平行移動させたときの光波の伝搬を簡略化して示す図である。
【
図12】撮影対象として使用したOHPシートを示す図である。
【
図13】(a)は、検証に使用した位相変調パターンの平行移動前の位相分布を示す図であり、(b)は、平行移動後の位相分布を示す図である。
【
図14】(a)は、位相変調パターンを平行移動させない場合のホログラムであり、(b)は、(a)のホログラムにおいて干渉縞が現れている枠部分を拡大した図であり、(c)は、(a)のホログラムから再生された再生像である。
【
図15】(a)は、位相変調パターンを平行移動させた場合のホログラムであり、(b)は、(a)のホログラムにおいて干渉縞が現れている枠部分を拡大した図であり、(c)は、(a)のホログラムから再生された再生像である。
【
図16】
図14(c)における直線(1)部分、
図15(c)における直線(3)部分の画素列の画素値分布をグラフ化した図である。
【
図17】
図14(c)における直線(2)部分、
図15(c)における直線(4)部分の画素列の画素値分布をグラフ化した図である。
【
図18】インコヒーレント光を使用したホログラムの空間分割多重記録の検証におけるSLM上に表示される位相変調パターンの制御の一例を示す図である。
【
図19】(a)は、位相変調パターンを平行移動させた場合のホログラムであり、(b)は、(a)のホログラムにおける干渉縞(1)から再生された再生像であり、(c)は、(a)のホログラムにおける干渉縞(2)から再生された再生像である。
【
図20】
図19(b)における直線(1)部分、
図19(c)における直線(3)部分の画素列の画素値分布をグラフ化した図である。
【
図21】
図19(b)における直線(2)部分、
図19(c)における直線(4)部分の画素列の画素値分布をグラフ化した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明者らは、試行錯誤の研究の末、インコヒーレント光による自己干渉を可能とする光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、相関性を持たせた状態で干渉縞を平行移動させることできるという知見を得た。そして、この知見を基に、イメージセンサによる1回の撮影において、インコヒーレント光による自己干渉を可能とする光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させ、1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して記録することにより、1回の撮影で1枚のホログラムに従来の複数回分の撮影で得られていた干渉縞を持たせることができ、さらにはイメージセンサの性能を超える速度でのインコヒーレント光によるホログラムの高速撮影を行うことが可能となった。
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。ただし、本発明は多くの異なる形態により実施することが可能であり、以下に示す実施形態や実施例の例示に限定されるものではない。
【0020】
本実施形態においては、白熱電球、LED、ハロゲンランプ、蛍光灯等の光源から発せられるインコヒーレント光を用いたイメージセンサによる1回の撮影で、インコヒーレント光による自己干渉を利用して物体光、直接光、共役光を分離して撮影が可能なフーリエインコヒーレントシングルチャネルホログラフィ(FISCH)を使用した光学系(
図1参照)を利用する。なお、「自己干渉」とは、同じ光源から発せられた光波の光路差が短いという特徴を活かして光波を干渉させることである。
【0021】
また、本実施形態において、ホログラム(干渉縞)の記録に使用される光学系は、インコヒーレント光による自己干渉を可能とするものであれば、FISCHを使用した光学系に限らず、例えばフレネルインコヒーレント自己相関ホログラフィ(FINCH)や符号化開口相関ホログラフィ(COACH)等の他の技術を使用した光学系であってもよい。
【0022】
ここで、インコヒーレント光の自己干渉による干渉縞の発生原理について、
図2を用いて説明する。
図2に示されるように、撮影対象となる物体(被写体)を点光源の集合と考えたとき、まず、点光源から発せられた球面波は第1偏光子を通過することにより偏光方向が揃えられた後、複屈折素子へと入射する。複屈折素子の進相軸と遅相軸は、s偏光成分(実線矢印参照)とp偏光成分(点線矢印参照)に対してそれぞれ平行になるように配置されており、第1偏光子を通過することで偏光方向が揃えられた光波1,2が複屈折素子を通過することにより、s偏光成分とp偏光成分との間で位相差が生じ、偏光方向の直交する2つの光波1,2に分離される。このとき、分離された2つの光波1,2は、偏光方向が直交しているため、両者の間で干渉は起こらないが、第2偏光子を通過することにより偏光方向が揃えられた結果、自己干渉が起こりイメージセンサ上で干渉縞が形成される。なお、
図2における第1偏光子および第2偏光子の透過軸は、複屈折素子の進相軸と遅相軸のそれぞれに対して45度傾いた状態である。
【0023】
なお、インコヒーレント光の場合、異なる点光源から発せられた光波同士では干渉縞が形成されず、同じ点光源から発せられた光波のみで自己干渉が起こり、干渉縞が形成される。すなわち、イメージセンサ上では、各点光源から発せられた光波によりそれぞれ干渉縞が形成され、それらを足し合わせたものがホログラムとして記録される。
【0024】
本実施形態におけるホログラフィ装置について、
図1を用いて説明する。
図1に示されるように、ホログラフィ装置は、FISCHを使用した光学系を利用しており、インコヒーレント光を発する白色光源と、被写体としての透過型撮影対象と、特定波長のみを透過させるバンドパスフィルタと、第1偏光子と、レンズL
0と、位相変調手段としての空間位相変調器(SLM)と、ミラーと、ビームスプリッタと、2つのレンズL
2と、第2偏光子と、ホログラム(干渉縞)を記録するイメージセンサと、から主に構成されている。なお、2枚のレンズL
2は、後述する焦点距離f
2が同一のレンズである。また、本実施形態においては、SLMが
図2の複屈折素子と同じ機能を奏する。
【0025】
本実施形態における位相変調手段は、SLMや液晶ディスプレイ(LCD)のような電気的制御が可能な液晶型を用いることで、焦点距離に応じた位相変調パターンの構成に容易に変更可能であることに加え、位相変調手段上における位相変調パターンの表示を切り替えることにより、光学系における中心光軸に対して位相変調パターンを高速かつ高精度で平行移動させることができる。また、位相変調手段上における位相変調パターンの表示の切り替えにより位相変調パターンを平行移動させることができるため、位相変調手段を機械的に平行移動させる必要がなく、ホログラフィ装置を簡素に構成することができる。
【0026】
本実施形態においては、FISCHを使用した光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、相関性を持たせた状態で干渉縞を平行移動させることできる。なお、被写体を平行移動させた場合、被写体の移動距離が僅かであっても干渉縞の移動距離が大きくなってしまい制御が難しいのに対し、位相変調パターンを平行移動させた場合、位相変調パターンの移動距離と干渉縞の移動距離が略同じになる。このことから、位相変調パターンのみを平行移動させることにより、干渉縞が現れる位置の制御性を向上させることができる。
【0027】
また、インコヒーレント光による自己干渉を利用する場合、イメージセンサ上での干渉縞の形成が難しいことから、光学系の中心光軸を可能な限り合わせておくことが好ましい。光学系の中心光軸を合わせる手順の一例としては、まず、SLMとミラーのみを配置した状態で水平に調整したレーザ光源をSLMに入射させ、SLMとミラーの角度を調整するとともに、照射されるレーザを光学系の中心光軸として設定する。次に、ビームスプリッタを配置してSLMからイメージセンサまでの光路を確保し、焦点距離に応じて各レンズを配置し、レンズの中心に光学系の中心光軸として設定したレーザが通過するように位置を調整する。最後に、第1偏光子、第2偏光子、バンドパスフィルタ、透過型撮影対象(被写体)、白色光源を配置する。
【0028】
また、
図1に示されるように、光学系を構成する各素子の位置関係、詳しくは透過型撮影対象とレンズL
0の距離z
s、レンズL
0の焦点距離f
0、SLMに表示されたフレネルレンズL
1(位相変調パターン)の焦点距離f
1、レンズL
2の焦点距離f
2、レンズL
0とSLMまでの距離d
0、レンズL
2とイメージセンサまでの距離d
2は、所定の位置関係となるように配置する。なお、
図1においては、透過型撮影対象がz
s=f
0の位置関係となるように配置されている。
【0029】
次いで、ホログラフィ装置における光波の伝搬について、
図1を用いて説明する。
図1に示されるように、ホログラフィ装置において、白色光源から発せられた光波は、透過型撮影対象を透過した後、バンドパスフィルタを通過することにより、特定波長のみが透過され光波の単色性が高められ、さらに第1偏光子を通過することにより、偏光方向が揃えられる。偏光方向が揃えられた光波は、レンズL
0を通過する際に位相が変化する。なお、レンズL
0は、凸レンズであり、その位相変換作用により平面波の入射光が所定の焦点距離の位置に集光されSLMに入射する。SLMに入射した光波は、偏光方向によって2つの光波に分離される。詳しくは、SLMに所定の焦点距離の位相変調パターンを表示しておくことにより、SLMはs偏光の光波に対してはフレネルレンズとして、p偏光の光波にはミラー(平面鏡)として作用する(
図1右下の「SLMでの変調」を参照)。SLMで変調されたs偏光の光波と、SLMで変調されなかったp偏光の光波は、適切な角度で配置されたミラーに反射され再びSLMに入射する。そして、2つの光波は、ビームスプリッタにより確保されたイメージセンサまでの光路においてレンズL
2、第2偏光子、レンズL
2の順に通過してイメージセンサに達し、イメージセンサ上において自己干渉により干渉縞を形成する。
【0030】
ここで、後述する実施例のように1mm×1.5mmのサイズの撮影対象(
図4(b)および
図12参照)について、コヒーレント光を利用してイメージセンサに干渉縞を記録した場合、干渉縞がホログラム全体に現れるのに対し、本実施形態のように、インコヒーレント光による自己干渉を利用してイメージセンサに干渉縞を記録した場合、干渉縞はホログラムの一部分にしか現れない(
図5~
図7等を参照)。すなわち、本実施形態のように、インコヒーレント光による自己干渉を利用してイメージセンサに干渉縞を記録した場合、コヒーレント光を利用してイメージセンサに干渉縞を記録した場合と比べて、ホログラムに干渉縞が小さいサイズで記録される。また、撮影対象の情報は、干渉縞として記録されることから、ホログラムの干渉縞以外の部分は再生像におけるノイズの原因となる。また、発明者らにより、位相変調パターンを平行移動させたとき、ホログラムの干渉縞が僅かに変化することが確認されている。
【0031】
これらのことから、インコヒーレント光による自己干渉を利用して1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して記録する際には、ホログラムに先に記録された干渉縞に重ならない位置に、次の干渉縞が配置されるように平行移動させることにより、再生像の形成に必要な干渉縞を保護しながら、1枚のホログラムにより多くの干渉縞を空間分割して記録することができる。このように、本実施形態においては、インコヒーレント光による自己干渉を利用したときの干渉縞の特性を利用することにより、1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して重なりなく記録しやすくなっている。
【0032】
次いで、本実施形態におけるホログラム記録方法により得られたホログラムの再生方法について説明する。
【0033】
FISCHを使用した光学系により記録されたホログラムは、単に全ての点光源による寄与の総和であると考えられ、物体光が逆フーリエ変換された形で含まれていることから、ホログラムの再生にはフーリエ変換を行う必要がある。フーリエ変換を行うため、再生像には物体像の他に、物体像と同じ共役像が点対称の位置に現れ、直接光成分は画像の中心に現れるため、物体光の成分と分離可能であり、直接光による画質の低下が抑制できる。なお、本実施形態のように、ホログラフィ装置における透過型撮影対象とレンズL0の距離zsとレンズL0の焦点距離f0が同じ平面(zs=f0)に対してはフーリエ変換をするだけで再生像が得られるが、zs≠f0の場合には、透過型撮影対象とレンズL0の距離zsでの回折積分を用いることによって再生像が得られる。
【0034】
図3に示されるように、インコヒーレントデジタルホログラフィにおける再生光学系では、レンズL
rのフーリエ変換作用を利用して再生像を得ている。レンズL
rのフーリエ変換作用とは、前側焦点面における光波の分布をフーリエ変換したものが後側焦点面における光波の分布として現れることである。また、
図3は、焦点面から距離z
rの位置に物体像と共役像のそれぞれが点対称に現れることを示している。これらのことから、再生面を調節したい場合には、角スペクトル法を用いて適切にホログラムからの再生光の伝搬計算を行うことにより、任意の位置における再生像が得られる。
【0035】
また、本実施形態においては、ホログラム再生方法として、インコヒーレント光による自己干渉を利用したホログラム記録方法により、1枚のホログラムの異なる位置に空間分割して記録された複数の干渉縞から再生される再生像の画質を向上させるために、ホログラムの画素値から全ての画素値の平均を引くとともに、ホログラムにおいて干渉縞のある部分のみを切り取り再生を行う。これにより、ホログラムにおける直接光成分を低減して干渉縞のコントラストを強められるとともに、ホログラムにおけるノイズ成分を効率的に除去することができる。
【0036】
また、本実施形態においては、ホログラム再生方法として、1枚のホログラムに記録された複数の干渉縞から再生される再生像は、干渉縞を平行移動させた距離に応じて平行移動することから、ホログラムに空間分割して記録された干渉縞の位置に応じて再生像を平行移動させることにより、再生像の位置ずれを補正して基準となる位置に再生することができる。
【実施例0037】
ここで、上記実施形態に係る実施例のホログラフィ装置について、以下具体的に説明する。
【0038】
本実施例におけるFISCHを使用した光学系(
図1参照)を構成する各素子の位置関係を表1に示す。
【0039】
【0040】
本実施例における光学系に使用したSLM(HOLOEYE社製 PLUTO-2.1 SLM)は、画素数1920×1080、画素間隔8.00μmである。また、本実施例における光学系に使用したイメージセンサ(Baumer社製 TXG50)は、画素数2448×2050、画素間隔3.45μmである。また、本実施例における光学系に使用したバンドパスフィルタA(Edmund Optics社製 蛍光用BPF86365)は、中心透過波長525nm、バンド幅15nmであり、バンドパスフィルタB(Edmund Optics社製 蛍光用BPF86995)は、中心透過波長640nm、バンド幅14nmである。また、白色光源としては、ケイエイブル社製のLUXYR-LED PICOを使用した。
【0041】
[検証実験]
まず、本実施例における光学系を使用して、
図4(a)に示されるピンホール(ピンホール径0.3mm)および
図4(b)に示される解像力テストチャート(Edmund Optics社製 NegativeNBS 1963A)を撮影対象として撮影を行い、FISCHを使用した光学系を用いた撮影が可能であるか検証を行う。詳しくは、ピンホールを撮影することにより、撮影対象が最も基本的な1つの点光源であった場合のホログラムを記録できるか検証を行う。また、解像力テストチャート上の1mm×1.5mmのサイズの文字「6」を撮影することにより、撮影対象が点光源の集合とみなせる場合のホログラムを記録できるか検証を行う。
【0042】
なお、本実施例においては、ピンホールの撮影にはバンドパスフィルタA、解像力テストチャートの撮影にはバンドパスフィルタBを使用して撮影を行った。また、撮影対象はレンズL0の焦点距離f0の位置に配置した。
【0043】
図5(a)のホログラムおよびその拡大図である
図5(b)に示されるように、ピンホールの撮影により得られたホログラムの一部分に干渉縞が小さいサイズで現れていることが確認できる。また、
図5(c)の再生像に示されるように、再生像には輝点が2つ現れていることが確認できる。なお、本実施例においては、ホログラムから再生像を得るためのフーリエ変換後、中心の直接光による画素値が大きすぎて物体像が見えないことがあったため、物体像が見えるように閾値を設定し、閾値以上の画素値は全て閾値に揃える処理をした後、再生像の再生を行っている。
【0044】
ここで、FISCHを使用した光学系における点光源からの光波の伝搬について説明する。
図7に示されるように、レンズL
0の焦点面に置かれた点光源から出た光波は、レンズL
0により平行光となった後、SLMに入射することにより偏光方向によって2つの光波に分離される。その後、ミラーで反射された2つの光波は、再びSLMに入射することで変調されて平行光となり、SLMからイメージセンサまでの光路に配置される2つのレンズL
2をそれぞれ通過することにより、最終的には平行光として異なる角度でイメージセンサ上に入射して干渉縞を形成する。また、2つの光波は、イメージセンサのセンサ面に対して0度以外の入射角度でそれぞれ入射し、いわゆるオフアクシスホログラムのような状態となることによって、物体光を直接光、共役光から分離して再生することができるものと推測される。また、イメージセンサ上に干渉縞ができる範囲は、イメージセンサ上で2つの光波が重なっている領域面に限定される。さらに、2つの光波の光路長差が使用した光源のコヒーレンス長を超えない範囲で干渉が起きるという条件もあるため、光路長差が最も小さくなる場所を中心として、
図5(b)に示されるように、円形の範囲(点線部分参照)のみ一部分に点光源の干渉縞が小さいサイズで現れたものと推測される。
【0045】
図6(a),(b)に示されるように、解像力テストチャートの撮影により得られたホログラムには、上述したピンホールの撮影と同様に、ホログラムの一部分に干渉縞が小さいサイズで現れていることが確認できる。撮影対象である解像力テストチャートの文字「6」が点光源の集合であると考えると、ホログラムは点光源の位置に応じた干渉縞の重ね合わせであると考えられるため、ピンホールの撮影において現れた干渉縞(
図5(b)参照)よりも広範囲に干渉縞が現れている。また、
図6(c)に示されるように、再生時にフーリエ変換を行うため、再生像には物体像と同じ共役像が点対称の位置に現れ、直接光成分が中心に現れていることが確認できる。
【0046】
[再生像の画質向上処理]
上述した検証実験において、記録されたホログラムでは干渉縞が一部分にしか現れていなかった。撮影対象の情報は干渉縞として記録されるため、干渉縞以外の部分は再生像のノイズの原因となる。また、インコヒーレント光の自己干渉を利用する場合には、イメージセンサ上で光強度が低くなるため、干渉縞のコントラストが弱まってしまう。これらの問題を解決し、再生像の画質を向上させるために、上述した検証実験により得られたホログラムに対し、イメージセンサに記録されたホログラムの画素値からすべての画素値の平均値を引く処理(以下、「画質向上処理A」という。)を行うとともに、干渉縞のある部分のみを切り取る処理(以下、「画質向上処理B」という。)を行った。
【0047】
図8(b)および
図9(b)に示されるように、画質向上処理Aのみを行った再生像は、処理なしの再生像(
図8(a)および
図9(a)参照)と比べて、ノイズおよび中心の直接光が低減できていることが確認できる。これは、画質向上処理Aを行うことにより、ホログラム上の直接光成分が小さくなり、干渉縞のコントラストが強まったためであると推測される。
【0048】
図8(c)および
図9(c)に示されるように、画質向上処理Bのみを行った再生像は、処理なしの再生像と比べて、ノイズが除去できており、特に中心から同心円状に広がっていたノイズが大幅に除去できていることが確認できる。これは、画質向上処理Bを行うことにより、ホログラムにおいてノイズの原因となっていた干渉縞以外の部分が除去され、再生像の画質が向上されたためであると推測される。
【0049】
さらに、
図8(d)および
図9(d)に示されるように、画質向上処理A,Bの両方を行った再生像は、ノイズが除去された上に、物体光成分をよりはっきりと再生できていることが確認できる。
【0050】
ここで、再生像の画質について評価を行うため、
図9(a)~(d)における直線で示した部分における画素列の画素値分布をグラフ化した結果を
図10に示す。
図10に示されるように、処理なしの再生像(
図9(a)参照)と画質向上処理Aのみを行った再生像(
図9(b)参照)を比較すると、ノイズを低減できている部分もあるが、逆にノイズが大きくなってしまっている部分もあることが確認できる。これは、画質向上処理Aにより干渉縞のコントラストが強くなるとともに、ノイズのコントラストも強くなったためであると推測される。
【0051】
また、処理なしの再生像(
図9(a)参照)と画質向上処理Bのみを行った再生像(
図9(c)参照)を比較すると、ノイズの低減が画素値の変化として現れていることが確認できる。
【0052】
さらに、画質向上処理Bのみを行った再生像(
図9(c)参照)と画質向上処理A,Bの両方を行った再生像(
図9(d)参照)を比較すると、物体光の表れている画素の画素値が大きくなり、コントラストが強くなっていることが確認できる。これらのことから、本実施例のFISCHを使用した光学系により撮影したホログラムに対して画質向上処理A,Bの両方を行うことにより、再生像上の直接光やノイズを低減して、効果的に画質を向上させることができる。
【0053】
[FISCHを用いたホログラムの空間分割多重記録]
本実施例のFISCHを使用した光学系では、光波を2つに分けるためにSLMを使用しているため、SLM上に表示される位相変調パターン(フレネルレンズパターン)をシフトさせる、すなわち光学系の中心光軸に対して位相変調パターンを平行移動させることにより、ホログラムの干渉縞を平行移動させて、インコヒーレント光を用いたホログラムの空間分割多重記録を行う。
【0054】
図11に示されるように、SLM上で変調されていない光波(点線矢印参照)は、位相変調パターンを平行移動する前と後で、同じ光路をたどることが確認できる。一方、SLM上で変調された光波(実線矢印参照)と平行移動したフレネルレンズ(位相変調パターン)によって変調された光波(鎖線矢印参照)は、イメージセンサに対して光軸が平行移動していることが確認できる。その結果、干渉縞が現れる位置がイメージセンサ上で平行移動される。位相変調パターンの平行移動距離に対して、干渉縞がどの程度平行移動するかは、光学系を構成する各素子の位置関係や撮影対象の位置によって変化する。
【0055】
SLM上に表示される位相変調パターンを平行移動させることで、干渉縞をホログラム上の任意の場所に平行移動できることを検証するため、上述した検証実験と同じFISCHを使用した光学系を使用したホログラフィ装置を用いて、
図12に示される「T」を印字したOHPシートを撮影対象として、上述したバンドパスフィルタBを使用して撮影を行った。また、SLM上に表示される平行移動後の位相変調パターンは、
図13(b)に示されるように、
図13(a)の位置から480画素左に平行移動したものを使用している。なお、SLM上での480画素は、SLMの画素間隔が8.00μmであることから、平行移動距離は8.00μm×480=3.84mmである。
【0056】
図14(a),(b)と
図15(a),(b)を比べると、SLM上に表示される位相変調パターンを平行移動させたことにより、干渉縞のできる位置も平行移動していることが確認できる。なお、イメージセンサの画素間隔が3.45μmであり、干渉縞の位置が約1000画素だけ平行移動していることから距離にして、約3.45mmの平行移動が行われていることとなる。すなわち、本実施例において、SLM上に表示される位相変調パターンの平行移動距離とホログラム上における干渉縞の移動距離との差は約0.39mmと小さいことが確認できる。
【0057】
図14(c)および
図15(c)に示されるように、再生像には画質に略差がない。なお、再生像の再生においては、上述した画質向上処理A,Bの両方を行っている。
【0058】
また、
図16の直線(1),(3)の画素値分布のピークの画素は略同じであるのに対し、
図17の直線(2)の画素値分布のピークの画素に比べ、直線(4)の画素値分布のピークの画素は、左に25画素程度平行移動している、すなわち再生像が左右方向に平行移動していることが確認できる。これは、SLM上に表示される位相変調パターンが平行移動したことによって、レンズと撮影対象の位置関係が変化したためであると推測される。
【0059】
これらのことから、SLM上に表示される位相変調パターンを平行移動させることにより、再生像の画質に略影響なく、ホログラム上において干渉縞を平行移動可能であることが確認できた。また、本実施例の手法により撮影した場合、干渉縞を平行移動した方向や距離に応じて再生像自体も所定方向に所定距離平行移動することから、ホログラムの再生後、再生像を平行移動して基準となる位置に戻す調整を行うことが好ましい。
【0060】
次いで、インコヒーレント光を使用したホログラムの空間分割多重記録の検証を行う。本実施例においては、FISCHを使用した光学系を用いたホログラフィ装置(
図1参照)のSLMに接続されるコンピュータにより、SLM上に表示される位相変調パターンを制御する。詳しくは、イメージセンサ(カメラ)の露光時間Tの間にn種類のフレネルレンズパターン(位相変調パターン)をT/nの時間ずつ表示させるように切り替え制御する(
図18参照)。これにより、SLM上に表示されるフレネルレンズパターンの中心が適切に平行移動されていれば、露光時間Tの間にn種類の干渉縞をそれぞれ1枚のホログラムの空間的に異なる位置で撮影することができる。また、n種類の干渉縞が空間分割多重記録された1枚のホログラムから、これらの干渉縞を切り取り、再生することにより1枚のホログラムからn枚の再生像を得ることができる。
【0061】
ここで、イメージセンサの露光時間を1秒間として、SLM上にn=2種類のフレネルレンズパターンを表示し、静止した撮影対象(上述した「T」を印字したOHPシート)の空間分割多重記録を行った結果を
図19に示す。なお、再生像の再生においては、上述した画質向上処理A,Bの両方を行っている。
図19(a)に示されるように、1枚のホログラムに平行移動した2つの干渉縞(1),(2)が記録されていることが確認できる。また、
図19(b),(c)に示されるように、上記干渉縞(1),(2)から再生された再生像には、「T」の印字が再生されていることが確認できる。
【0062】
以上、説明したように、FISCHを使用した光学系を用いたホログラフィ装置において、SLM上の位相変調パターンを制御(平行移動)することで簡単にホログラムの空間分割多重記録を行うことができる。なお、ホログラムに空間分割多重記録された複数の干渉縞から再生される複数の再生像を利用して再生像(静止画)の画質の改善や視野の拡大等が可能である。
【0063】
また、本実施例により実証されたホログラムの空間分割多重記録により、イメージセンサの性能(フレームレート)を超える速度でのインコヒーレント光によるホログラムの高速撮影が可能となることが示され、これは動的物体の撮影、すなわち動画撮影への応用が可能である。
【0064】
なお、
図19(b),(c)に示されるように、本実施例のホログラムの空間分割多重記録においては、
図14および
図15に示される干渉縞を平行移動させた場合の撮影結果と比べて、再生像の輝度が低下している。また、
図19(b)の直線(1)部分と
図19(c)の直線(3)部分の画素列における画素値分布を示す
図20のグラフ、および
図19(b)の直線(2)部分と
図19(c)の直線(4)部分の画素列の画素値分布を示す
図21のグラフと、
図16および
図17のグラフを比べても、画素値が低下している。このような再生像の画質の低下は、露光時間の減少によって干渉縞のコントラストが弱まったことにより、直接光やノイズが物体光に与える影響が大きくなったためであると推測される。このことから、ホログラフィ装置を構成する光学系における各素子の位置を変更する、インコヒーレント光源の種類を変更する等のシステムの再設計を行い、干渉縞のコントラストを強めることにより、画質を向上させることが可能である。
【0065】
また、本実施例においては、透過型撮影対象を用いたインコヒーレント光によりホログラムの空間分割多重記録について説明したが、反射型撮影対象(反射型物体)を用いたインコヒーレント光によりホログラムの空間分割多重記録も可能である。さらに、撮影対象は、2次元物体に限らず、3次元物体でも可能である。
【0066】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0067】
例えば、インコヒーレント光は、白熱電球、ハロゲンランプ、蛍光灯、LED等の光源から発せられるものに限らず、太陽光等の自然光であってもよい。
【0068】
また、ホログラムの空間分割多重記録における多重数に制限はなく、ホログラムの大きさと、干渉縞の大きさとのバランスにより適宜設計することができる。なお、前記実施例では、1mm×1.5mmのサイズの撮影対象を用いた態様について説明したが、撮影対象のサイズは自由に選択されてよく、撮像対象のサイズが大きくなれば、ホログラムに記録される干渉縞の大きさも大きくなる。また、イメージセンサのサイズが大きくなれば、ホログラムの大きさも大きくなる。
[産業上の利用可能性]
【0069】
本発明は、インコヒーレント光による自己干渉を可能とする光学系における中心光軸に対して被写体および位相変調パターンの少なくとも一方を平行移動させることにより、イメージセンサによる1回の撮影において、1枚のホログラムの異なる位置に複数の干渉縞を空間分割して記録でき、複数の干渉縞から再生される複数の再生像を利用して静止画を精度良く得られるとともに、イメージセンサの性能を超える速度でのインコヒーレント光によるホログラムの高速撮影を行うことが可能となることから、動的物体の撮影、すなわち動画撮影に応用でき産業上の利用可能性がある。また、安価な光源から発せられるインコヒーレント光を用いて多くの撮影対象を高速で記録・再生することが可能となり、ホログラフィ装置の低コスト化を実現できる。