(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178792
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】自己反応性T細胞の検出方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/06 20060101AFI20241218BHJP
C12Q 1/04 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C12N15/06
C12Q1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097210
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100181722
【弁理士】
【氏名又は名称】春田 洋孝
(72)【発明者】
【氏名】田中 ゆり子
(72)【発明者】
【氏名】近藤 元就
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ08
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR32
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS36
(57)【要約】
【課題】自己免疫疾患の障害臓器内で活性化される自己反応性T細胞の検出方法を提供する。
【解決手段】組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物に由来するT細胞と腫瘍細胞とを融合してT細胞ハイブリドーマを作製するT細胞ハイブリドーマ作製工程、作製した前記T細胞ハイブリドーマを免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器に移入するT細胞ハイブリドーマ移入工程、前記組織・臓器からT細胞ハイブリドーマを回収するT細胞ハイブリドーマ回収工程、及び回収した前記T細胞ハイブリドーマのインターロイキン2遺伝子発現量を定量するT細胞ハイブリドーマ検出工程を含む、自己反応性T細胞の検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物に由来するT細胞と腫瘍細胞とを融合してT細胞ハイブリドーマを作製するT細胞ハイブリドーマ作製工程、
作製した前記T細胞ハイブリドーマを免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器に移入するT細胞ハイブリドーマ移入工程、
前記組織・臓器からT細胞ハイブリドーマを回収するT細胞ハイブリドーマ回収工程、及び
回収した前記T細胞ハイブリドーマのインターロイキン2遺伝子発現量を定量するT細胞ハイブリドーマ検出工程
を含む、自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項2】
前記免疫不全非ヒト哺乳動物がRag1遺伝子及びRag2遺伝子の一方又は両方をホモ欠損する非ヒト哺乳動物である、請求項1に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項3】
前記組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物に由来するT細胞が頸部リンパ節T細胞である、請求項1又は2に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項4】
前記組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、請求項1又は2に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項5】
前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器が外分泌腺組織である、請求項1又は2に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項6】
前記免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器がオルガノイドである、請求項1又は2に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項7】
前記免疫不全非ヒト哺乳動物が免疫不全異種間キメラ哺乳動物である、請求項1又は2に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の自己反応性T細胞の検出方法によって検出された、自己反応性T細胞ハイブリドーマ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自己反応性T細胞の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シェーグレン症候群(Sjogren’s Syndrome,略称:SS)は、外分泌腺に慢性的に炎症が起こりドライアイやドライマウスなどの機能障害を呈し、全身性エリテマトーデス(Systemic Lupus Erythematosus,略称:SLE)などの全身性自己免疫疾患や悪性リンパ腫を続発することもある、難治性自己免疫疾患である。我が国では約10万人のSS患者が存在するが、SS特異的な治療法は確立されていない。
【0003】
SSの病態形成にはT細胞が中心的な役割を果たしていることがよく知られている。非特許文献1には、T細胞の分化に必要な遺伝子発現を調節する転写制御因子であるSATB1(Special AT-rich sequence Binding protein-1)を血球系細胞特異的に欠損するマウス(血球系細胞特異的SATB1欠損マウス、SATB1コンディショナルノックアウトマウス)では、生後早期(4週齢)からシェーグレン症候群用病態を呈すること、血球系細胞特異的SATB1欠損マウスにおける唾液の減少には、頸部リンパ節に集積するT細胞が重要であることが開示されている。
【0004】
特許文献1には、自己免疫疾患のひとつである多発性硬化症(Multiple Sclerosis,略称:MS)は、自己反応性T細胞が引き金となる疾患であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Tanaka, Y.,外7名、“SATB1 Conditional Knockout Results in Sjogren’s Syndrome in Mice”、The Journal of Immunology、2017年、第199巻、第12号、p.4016-4022
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
病原性を持つT細胞(病原性T細胞)(「自己反応性T細胞」ともいう。)は、どのような自己抗原と反応するT細胞なのかは不明である。一般に1つのT細胞が発現するT細胞受容体は1種類の抗原ペプチドしか認識しないため、血球系細胞特異的SATB1欠損マウスの頸部リンパ節には、自己抗原と反応する自己反応性T細胞及び反応しないT細胞が含まれ得る。そのため、血球系細胞特異的SATB1欠損マウスの頸部リンパ節のT細胞から、自己反応性T細胞を検出する手段が求められている。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて成されたものであり、自己免疫疾患の障害臓器内で活性化される自己反応性T細胞の検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねたところ、シェーグレン症候群モデルマウス由来のリンパ節T細胞と自律増殖能を持つ胸腺腫細胞株を細胞融合させて樹立したT細胞ハイブリドーマを免疫不全マウスの唾液腺に直接注入し、数日後、唾液腺から回収したT細胞ハイブリドーマにおけるインターロイキン2遺伝子の発現亢進を調べたところ、唾液腺組織に反応して活性化する自己反応性T細胞ハイブリドーマを検出できることを知得し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下の態様を含む。
【0010】
[1]組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物に由来するT細胞と腫瘍細胞とを融合してT細胞ハイブリドーマを作製するT細胞ハイブリドーマ作製工程、
作製した前記T細胞ハイブリドーマを免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器に移入するT細胞ハイブリドーマ移入工程、
前記組織・臓器からT細胞ハイブリドーマを回収するT細胞ハイブリドーマ回収工程、及び
回収した前記T細胞ハイブリドーマのインターロイキン2遺伝子発現量を定量するT細胞ハイブリドーマ検出工程
を含む、自己反応性T細胞の検出方法。
[2]前記免疫不全非ヒト哺乳動物がRag1遺伝子及びRag2遺伝子の一方又は両方をホモ欠損する非ヒト哺乳動物である、[1]に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
[3]前記組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物に由来するT細胞が頸部リンパ節T細胞である、[1]又は[2]に記載の自己反応性T細胞の検出方法。
[4]前記組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患がシェーグレン症候群である、[1]~[3]のいずれかに記載の自己反応性T細胞の検出方法。
[5]前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器が外分泌腺組織である、[1]~[4]のいずれかに記載の自己反応性T細胞の検出方法。
[6]前記免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器がオルガノイドである、[1]~[5]のいずれかに記載の自己反応性T細胞の検出方法。
[7]前記免疫不全非ヒト哺乳動物が免疫不全異種間キメラ哺乳動物である、[1]~[6]のいずれかに記載の自己反応性T細胞の検出方法。
[8][1]~[7]のいずれかの自己反応性T細胞の検出方法によって検出された、自己反応性T細胞ハイブリドーマ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、自己免疫疾患の障害臓器内で活性化される自己反応性T細胞の検出方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、従来の自己反応性T細胞の検出方法を説明する概要図である。
【
図2】
図2は、本発明の自己反応性T細胞の検出方法を説明する概要図である。
【
図3】
図3は、T細胞ハイブリドーマの作製方法の一例を説明する概要図である。
【
図4】
図4は、実験例1の定量RT-PCRによるIL-2 mRNAの定量結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
RAG2ノックアウトマウス(Rag2-/-マウス)は、Rag2(recombination activating gene 2)を欠くため、T細胞及びB細胞の受容体の再構成ができず、T細胞、B細胞及びNKT(natural killer T)細胞を完全に欠く免疫不全マウスである。
【0014】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0015】
[自己反応性T細胞の検出方法]
図2に説明する本実施形態に係る自己反応性T細胞の検出方法は、T細胞ハイブリドーマ104をRag2
-/-マウス106の唾液腺101に注入し、数日後(
図2では6日後)、唾液腺101を摘出してT細胞ハイブリドーマ104を分離し、Rag2
-/-マウス106の唾液腺101中で活性化したT細胞ハイブリドーマを検出するものである。
【0016】
本発明の自己反応性T細胞の検出方法の一実施形態は、T細胞ハイブリドーマ作製工程、T細胞ハイブリドーマ移入工程、T細胞ハイブリドーマ回収工程、及びT細胞ハイブリドーマ検出工程を含む。
【0017】
<T細胞ハイブリドーマ作製工程>
T細胞ハイブリドーマ作製工程は、組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物に由来するT細胞と腫瘍細胞とを融合してT細胞ハイブリドーマを作製する工程である。
【0018】
前記組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患は、特に限定されないが、例として、シェーグレン症候群、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、アジソン病、多発性筋炎、全身性強皮症、糸球体腎炎、バセドウ病、関節リウマチ、橋本甲状腺炎、1型糖尿病、及び血管炎が挙げられる。前記組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患としては、これらの中でも、シェーグレン症候群、多発性硬化症、及び全身性エリテマトーデスが好ましく、シェーグレン症候群がより好ましい。
【0019】
前記組織・細胞障害が生じる組織又は細胞は、特に限定されないが、シェーグレン症候群においては、例えば唾液腺及び涙腺等の外分泌腺が挙げられ、多発性硬化症においては、例えば中枢神経系が挙げられ、全身性エリテマトーデスにおいては、例えば皮膚、関節、血管、及び腎臓が挙げられ、1型糖尿病においては、例えば膵臓β細胞が挙げられ、関節リウマチにおいては、例えば関節が挙げられる。
【0020】
前記哺乳動物は、特に限定されないが、例えばヒト又は非ヒト哺乳動物が挙げられる。前記非ヒト哺乳動物は、特に限定されないが、メガネザル、オナガザル、テナガザル、クモザル、オマキザル、サキ、キツネザル、コビトキツネザル、インドリ、イタチキツネザル、アイアイ、ガラゴ、ロリス、チンパンジー、ゴリラ、及びオランウータン等のヒト以外の霊長類、マウス、ラット、及びモルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ、クマ、アライグマ、イタチ、及びアシカ等の食肉目動物、ウマ、バク、及びサイ等の奇蹄目動物、ラクダ、イノシシ、シカ、ウシ、キリン、カバ、シロナガスクジラ、マッコウクジラ、及びイルカ等の鯨偶蹄目動物、並びにウサギ及びナキウサギ等のウサギ目動物が例示される。
【0021】
前記T細胞は、特に限定されないが、リンパ節T細胞が好ましい。組織・細胞障害を生じる組織近傍のリンパ節には、組織・細胞障害を誘導する病原性T細胞が多く存在しているからである。
【0022】
前記T細胞は、そのまま腫瘍細胞と融合してハイブリドーマを作製してもよいが、免疫不全非ヒト哺乳動物の臓器又は組織に移入して濃縮した後、腫瘍細胞と融合してハイブリドーマを作製してもよい。
【0023】
前記腫瘍細胞は、特に限定されないが、T細胞との融合の容易さから、胸腺腫細胞が好ましい。
【0024】
T細胞と腫瘍細胞とを融合する方法は、特に限定されず、従来公知の方法、例えばポリエチレングリコールを使うポリエチレングリコール法(PEG法)や電流を使った電気融合法を採用することができる。融合前の細胞が2倍体である場合、融合直後のハイブリドーマは4倍体となるが、培養しているうちに安定化され、融合前の2種類の細胞の性質を持った1つの細胞になる。
【0025】
作製したT細胞ハイブリドーマがT細胞としての性質を有していることは、例えばCD4、CD8及びT細胞受容体β(TCRβ)の発現によって確認できる。より具体的には、例えばTCRβ陽性かつCD4及びCD8の少なくとも一方が陽性であることを確認することが好ましい。
【0026】
図3を参照しながらT細胞ハイブリドーマ作製工程の一例を説明する。この例では、組織・細胞障害を伴う自己免疫疾患を発症している哺乳動物として、血球系細胞特異的SATB1欠損マウスを、T細胞としてリンパ節T細胞を、腫瘍細胞として胸腺腫細胞を用いる。
血球系細胞特異的SATB1欠損マウス107から頸部リンパ節108を採取し、頸部リンパ節108からリンパ節T細胞を分離する。頸部リンパ節T細胞+胸腺腫細胞109をPEG法で融合してT細胞ハイブリドーマ104を得る。
【0027】
<T細胞ハイブリドーマ移入工程>
前記T細胞ハイブリドーマ移入工程は、作製した前記T細胞ハイブリドーマを免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器に移入する工程である。
【0028】
免疫不全非ヒト哺乳動物は、特に限定されないが、Rag1遺伝子及びRag2遺伝子の一方又は両方がホモ欠損する非ヒト動物が好ましい。ここで、前記非ヒト哺乳動物は、特に限定されないが、メガネザル、オナガザル、テナガザル、クモザル、オマキザル、サキ、キツネザル、コビトキツネザル、インドリ、イタチキツネザル、アイアイ、ガラゴ、ロリス、チンパンジー、ゴリラ、及びオランウータン等のヒト以外の霊長類、マウス、ラット、及びモルモット等の齧歯類、イヌ、ネコ、クマ、アライグマ、イタチ、及びアシカ等の食肉目動物、ウマ、バク、及びサイ等の奇蹄目動物、ラクダ、イノシシ、シカ、ウシ、キリン、カバ、シロナガスクジラ、マッコウクジラ、及びイルカ等の鯨偶蹄目動物、並びにウサギ及びナキウサギ等のウサギ目動物が例示される。
前記免疫不全非ヒト哺乳動物は、また、免疫不全異種間キメラ哺乳動物であってもよい。
【0029】
前記免疫不全非ヒト哺乳動物の前記自己免疫疾患により障害を受ける組織・臓器は、例えば組織又は臓器のオルガノイドであってもよい。
【0030】
<T細胞ハイブリドーマ回収工程>
T細胞ハイブリドーマ回収工程は、前記組織・臓器からT細胞ハイブリドーマを回収する工程である。
前記組織・臓器からT細胞ハイブリドーマを回収する方法は特に限定されないが、例えば前記組織又は前記臓器を酵素処理によって前記組織又は前記臓器の細胞をばらばらにした後、T細胞ハイブリドーマを密度遠心勾配、フローサイトメトリー等の手段によって回収する方法が挙げられる。
【0031】
<T細胞ハイブリドーマ検出工程>
T細胞ハイブリドーマ検出工程は、回収した前記T細胞ハイブリドーマのインターロイキン2(IL-2)遺伝子発現量を定量して、IL-2遺伝子発現量が有意に高水準であるT細胞ハイブリドーマを自己反応性T細胞ハイブリドーマとして検出する工程である。
【0032】
T細胞ハイブリドーマのIL-2遺伝子発現量は、例えば定量的逆転写PCR(RT-qPCR,reverse transcription quantitative PCR)によって定量することが好ましい。対照としては、組織又は臓器に注入していない未刺激のT細胞ハイブリドーマを用いることが好ましい。さらに、汎用刺激、例えばPhorbol 12-myristate 13-acetate(PMA)とIonomycinによって刺激したT細胞ハイブリドーマを参照用に用いることも好ましい。
【0033】
[自己反応性T細胞ハイブリドーマ]
本発明の別の実施形態は、上述した自己反応性T細胞の検出方法によって検出された自己反応性T細胞ハイブリドーマである。
【0034】
[作用効果]
図1に示す従来の自己反応性T細胞の検出方法は、唾液腺101から唾液腺抽出液102を調製して抗原提示細胞103と接触させ、抗原提示細胞103の存在下でT細胞ハイブリドーマ104を培養し、活性化したT細胞ハイブリドーマを検出するものであった。
従来の自己反応性T細胞の検出方法は二次元の状態で病原性T細胞の反応性を判定していたが、本実施形態の自己反応性T細胞の検出方法は生体内において臓器の形状を保った三次元状態で病原性T細胞の反応性を調べることができる。
【実施例0035】
以下では実施例によって本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は後述する実験例に限定されるものではない。
【0036】
[作製例1]血球系細胞特異的SATB1欠損マウス(SATB1 cKOマウス)の作製
参考文献1(Tanaka et al., 2016)に記載の方法によりSATB1fl/fl Vav-Cre+マウスを作製し、これをSATB1 cKOマウスとして用いた。
【0037】
[実験例1]自己反応性T細胞の検出
1.病原性T細胞ハイブリドーマの作製
(1)T細胞の準備
a)血球系細胞特異的SATB1欠損マウスの頸部リンパ節を採取し、採取した頸部リンパ節から単離した頸部リンパ節T細胞をThy1.2抗体(T細胞表面抗原を認識する抗体)で標識して、BD FACSAria Fusionセルソーター(BD Biosciences)を用いて分離した。
b)分離した頸部リンパ節T細胞をRag2-/-マウスに静脈注射で移入し、唾液腺炎を発症させた。
c)bのRag2-/-マウスの頸部リンパ節を採取し、丸ごとすりつぶしたリンパ節細胞を細胞融合に用いるT細胞(頸部リンパ節T細胞)とした。病原性T細胞を濃縮する目的で、再度Rag2-/-マウスに移入した。
【0038】
2.T細胞ハイブリドーマの作製
(1)1日目の実験操作
a)上記の頸部リンパ節T細胞(1×107個)とマウスリンパ腫BW5147細胞(1×107個)のそれぞれをFALCON 50mL遠心分離用コニカルチューブ(Corning,#352098;以下、単に「FALCONチューブ」ともいう。)に移した。
b)それぞれのFALCONチューブを、室温下、1,500rpmで5分間遠心した。
c)遠心後、それぞれのFALCONチューブ内の上清を捨てた。
d)上清を捨てた後、それぞれのFALCONチューブにRPMI1640培地(FCS-)を5mL加え、混合した。
e)細胞数を計測した。
f)同数のマウスリンパ腫BW5147細胞及び頸部リンパ節T細胞を1つのFALCONチューブに入れた。
g)FALCONチューブを、室温下、1,500rpmで5分間遠心した。
h)遠心後、FALCONチューブ内の上清を捨てた。
i)50%w/v PEG(50%w/vポリエチレングリコール6,000(Hampton Research,#HR2-533))1mLを加え、37℃のウォーターバスで1分間インキュベートした。
j)さらに1分間、1mLピペット(ガラス製)でかき混ぜた。
k)上記FALCONチューブにRPMI1640培地(FCS-)2mLを加え、10mLピペットで2分間混合した。
l)上記FALCONチューブにRPMI1640培地(FCS-)7mLを加え、10mLピペットで2分間混合した。
m)上記FALCONチューブにRPMI1640培地(FCS-)30mLを加え、10mLピペットで混合した(トータル40mL)。
n)上記FALCONチューブを、室温下、1,500rpmで5分間遠心した。
o)細胞数が1×106個/mLになるように、上記FALCONチューブにRPMI1640培地(10%FCS含有)を加えた。
p)細胞分散液を、96ウェルマイクロプレート(丸底,コーニング,#3799)に100μL/ウェルとなるように播いた。
q)CO2インキュベータを用いて、5%CO2濃度、37℃、24時間インキュベートした。
【0039】
(2)2日目以降の実験操作
a)50×HATサプリメント(Thermo Fischer Scientific,#21060017)2mLとRPMI1640培地(10%FCS含有)48mLとを混合して2×HAT培地を調製した。
b)インキュベート後の96ウェルマイクロプレートに上記2×HAT培地を100μL/ウェルで加えた。
c)CO2インキュベータを用いて、5%CO2濃度、37℃でインキュベートした。
d)インキュベート中、3日に1回、ウェルあたり培地200μLから100μLを除去し、新鮮な2×HAT培地を100μL加えた。これを1週間継続した。
e)100×HTサプリメント(Thermo Fischer Scientific,#11067030)1mLとRPMI1640培地(10%FCS含有)49mLとを混合して2×HT培地を調製した。
f)96ウェルマイクロプレートの培地を2×HAT培地から2×HT培地に置換した。
【0040】
3.T細胞ハイブリドーマのスクリーニング
a)作製したT細胞ハイブリドーマの一部を採取し、CD4、CD8及びT細胞受容体β(TCRβ)の発現をフローサイトメトリーでチェックした。
c)TCRβ陽性かつCD4及びCD8の少なくとも一方が陽性であるT細胞ハイブリドーマ、すなわち以下のいずれかに当てはまるT細胞ハイブリドーマを選別した。
TCRβ+CD4+
TCRβ+CD8+
TCRβ+CD4+CD8+
d)選別されたT細胞ハイブリドーマは、クローニングを行い、モノクローナルな細胞として保存した。
【0041】
4.T細胞ハイブリドーマの自己抗原反応性の解析
(1)T細胞ハイブリドーマの活性化
a)選別及び保存したT細胞ハイブリドーマをRag2-/-マウスの左右の唾液線に注射器を用いて直接投与した。具体的には次のとおりである。Rag2-/-マウスに麻酔をかけた後、仰向けに寝かせ、局所をポビドンヨード液で消毒し、喉部正中をはさみで切開して、左右の唾液腺(顎下腺)の位置を確認した。T細胞ハイブリドーマのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)分散液(8×105個/20μL)を30Gの針を付けた注射器で左右それぞれの唾液腺内に注入し、切開創を縫合した。
b)T細胞ハイブリドーマを唾液腺に注入してから6日後にマウスを取殺し、唾液腺を取り出した。
c)取り出した唾液腺を酵素処理して組織細胞をばらばらにした後、Percoll II PLUS(GE HealthCare)を用いて密度勾配遠心法により唾液腺組織内のリンパ球分画を分離した。この画分に注入したT細胞ハイブリドーマが含まれている。
【0042】
(2)T細胞ハイブリドーマのIL-2遺伝子発現解析
a)単離したT細胞ハイブリドーマから全RNAを抽出し、定量的逆転写PCR(RT-qPCR,reverse transcription quantitative PCR)によってインターロイキン2(IL-2)の発現をmRNAレベルで解析した。
d)比較のため、無刺激のT細胞ハイブリドーマ及び汎用刺激(48well flat bottom plate(FALCON,#353078)中でT細胞ハイブリドーマをPMA(Phorbol 12-myristate 13-acetate,Sigma-Aldrich #P1585)10ng/mlとIonomysin(Sigma-Aldrich #I9657)1μMで37°C、4時間刺激)を与えたT細胞ハイブリドーマについても、RT-qPCRによるIL-2発現解析を行った。
装置:ABI 7500 fast system (Applied Biosystems)
使用プライマー IL-2:TaqMan gene expression assay primer Mm00434256_m1 (Applied Biosystems)、内在性コントロール HPRT :TaqMan gene expression assay primer Mm00446968_m1 (Applied Biosystems)
反応条件:TaqMan gene expression assay kitを使用
【0043】
5.結果
図4に、無刺激T細胞ハイブリドーマ、唾液線移入T細胞ハイブリドーマ、及び汎用刺激T細胞ハイブリドーマのIL-2 mRNA量(IL-2遺伝子発現量)を示す。
図4示す結果は、血球系細胞特異的SATB1欠損マウスのリンパ節T細胞に由来するT細胞ハイブリドーマがRag2
-/-マウスの唾液腺中の自己抗原に反応して活性化されたことを示唆する。
【0044】
[参考文献一覧]
参考文献1:Kondo, M., Y. Tanaka, T. Kuwabara, T. Naito, T. Kohwi-Shigematsu, and A. Watanabe. 2016. SATB1 plays a critical role in establishment of immune tolerance. J. Immunol. 196: 563-572.
【0045】
[登録商標]
“FALCON”及び“ファルコン”はコーニング インコーポレイテッドの日本国における登録商標である(商標登録第1458331号、商標登録第1458332号)。
“EASYSEP”はステムセル テクノロジーズ カナダ インコーポレイテッドの日本国における登録商標である(商標登録第5540296号)。
“GIBCO”はライフ テクノロジーズ コーポレーションの日本国における登録商標である(商標登録第4891372号)。
“FACSAria”はベクトン・ディッキンソン・アンド・カンパニーの日本国における登録商標である(商標登録第4703652号)。
自己免疫疾患の障害臓器内で活性化されるT細胞を同定する本発明の方法は、自己免疫疾患の新たな診断や治療法の開発につながる可能性が高い技術である。より具体的には、本発明の方法によって検出された自己反応性T細胞ハイブリドーマを、自己免疫疾患の治療方法、治療薬、又は診断方法を開発するために利用することができる。