(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178808
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】タイヤの摩耗状態の予測方法
(51)【国際特許分類】
B60C 11/24 20060101AFI20241218BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20241218BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20241218BHJP
G06F 30/23 20200101ALI20241218BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20241218BHJP
【FI】
B60C11/24 Z
B60C19/00 H
B60C19/00 Z
G06F30/15
G06F30/23
G06F111:10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097235
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】彌榮 洋一
【テーマコード(参考)】
3D131
5B146
【Fターム(参考)】
3D131BC55
3D131LA34
5B146AA05
5B146DJ01
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】 所定の距離を走行した後のタイヤの摩耗状態を短時間で予測することが可能な方法を提供する。
【解決手段】 タイヤの摩耗状態を予測するための方法である。この方法は、タイヤを予め定められた条件で走行させて、タイヤの走行距離に関する第1データ及び走行距離でのタイヤの摩耗に関する第2データを含むデータを、時系列的に順次取得する工程と、取得されたデータを用いて、第1データと第2データとの関係を近似する近似式Hを求める工程であって、近似式Hを、データが追加取得されるごとに更新する工程と、更新後の近似式H2と、更新前の近似式H1との差Dが予め定められた範囲内になったときに、更新後の近似式H2を用いて、タイヤがすでに走行した距離を超える走行距離Pでの摩耗状態を計算する工程とを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの摩耗状態を予測するための方法であって、
前記タイヤを予め定められた条件で走行させて、前記タイヤの走行距離に関する第1データ及び前記走行距離での前記タイヤの摩耗に関する第2データを含むデータを、時系列的に順次取得する工程と、
取得された前記データを用いて、前記第1データと前記第2データとの関係を近似する近似式を求める工程であって、前記近似式を、前記データが追加取得されるごとに更新する工程と、
更新後の近似式と、更新前の近似式との差が予め定められた範囲内になったときに、前記更新後の近似式を用いて、前記タイヤがすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態を計算する工程と、
を含む
タイヤの摩耗状態の予測方法。
【請求項2】
前記第2データは、前記タイヤの摩耗エネルギーを含む、請求項1に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
【請求項3】
前記第2データは、前記タイヤの摩耗量を含む、請求項1に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
【請求項4】
タイヤの摩耗状態を予測するための方法であって、
前記タイヤをモデリングしたタイヤモデルをコンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを予め定められた条件で走行させて、前記タイヤモデルの摩耗を進展させながら、前記タイヤモデルの走行距離に関する第1データ及び前記走行距離での前記タイヤモデルの摩耗に関する第2データを含むデータを、時系列的に順次計算する工程と、
前記コンピュータが、計算された前記データを用いて、前記第1データと前記第2データとの関係を近似する近似式を求める工程であって、前記近似式を、前記データが追加計算されるごとに更新する工程と、
前記コンピュータが、更新後の近似式と、更新前の近似式との差が予め定められた範囲内になったときに、前記更新後の近似式を用いて、前記タイヤモデルがすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態を計算する工程と、
を含む
タイヤの摩耗状態の予測方法。
【請求項5】
前記第2データは、前記タイヤモデルの摩耗エネルギーを含む、請求項4に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
【請求項6】
前記第2データは、前記タイヤモデルの摩耗量を含む、請求項4に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの摩耗状態の予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤの摩耗状態を予測するための方法が種々提案されている(例えば、下記特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、タイヤの耐摩耗性能を評価する際に、所定の距離まで走行した後のタイヤの摩耗状態が取得される場合がある。この場合、例えば、タイヤを所定の距離まで実際に走行させる摩耗試験や、タイヤモデルを用いた摩耗進展シミュレーションを行うことが考えられるが、いずれも多くの時間を要するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、所定の距離を走行した後のタイヤの摩耗状態を短時間で予測することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤの摩耗状態を予測するための方法であって、前記タイヤを予め定められた条件で走行させて、前記タイヤの走行距離に関する第1データ及び前記走行距離での前記タイヤの摩耗に関する第2データを含むデータを、時系列的に順次取得する工程と、取得された前記データを用いて、前記第1データと前記第2データとの関係を近似する近似式を求める工程であって、前記近似式を、前記データが追加取得されるごとに更新する工程と、更新後の近似式と、更新前の近似式との差が予め定められた範囲内になったときに、前記更新後の近似式を用いて、前記タイヤがすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態を計算する工程と、を含むタイヤの摩耗状態の予測方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明のタイヤの摩耗状態の予測方法は、上記の工程を採用することにより、所定の距離走行した後のタイヤの摩耗状態を短時間で予測することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】タイヤの摩耗状態の予測方法を実行するためのコンピュータの一例を示す斜視図である。
【
図2】摩耗状態が予測されるタイヤの一例を示す断面図である。
【
図3】本実施形態のタイヤの摩耗状態の予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図5】第1データ(走行距離指数)と第2データ(摩耗指数)との関係を示すグラフである。
【
図6】
図5から新たなデータが追加取得されたときのグラフである。
【
図7】本発明の他の実施形態のタイヤの摩耗状態の予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】タイヤモデル及び路面モデルの一例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0010】
本実施形態のタイヤの摩耗状態の予測方法(以下、「予測方法」ということがある。)は、タイヤのトレッド部の摩耗状態が計算される。本実施形態の予測方法では、コンピュータが用いられる。
【0011】
[コンピュータ]
図1は、タイヤの摩耗状態の予測方法を実行するためのコンピュータ1の一例を示す斜視図である。コンピュータ1は、例えば、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の予測方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。したがって、コンピュータ1は、タイヤの摩耗状態を予測するための装置として構成される。
【0012】
[タイヤ]
図2は、摩耗状態が予測されるタイヤ2の一例を示す断面図である。本実施形態のタイヤ2は、乗用車用の空気入りタイヤが例示されるが、特に限定されない。タイヤ2は、例えば、トラック・バスなどの重荷重用タイヤ、及び、エアレスタイヤ等、他のカテゴリーのタイヤであってもよい。
【0013】
本実施形態のタイヤ2には、トレッド部2aからサイドウォール部2bを経てビード部2cのビードコア5に至るカーカス6と、このカーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2aの内部に配されるベルト層7とが設けられている。本実施形態のトレッド部2aの外面2Sには、トレッドパターンが設けられている。
【0014】
トレッド部2aには、ベルト層7の外側に配されるトレッドゴム8が設けられている。トレッドゴム8(トレッド部2a)には、タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝9が設けられている。これにより、トレッドゴム8は、周方向溝9で区分された複数の陸部10が設けられる。
【0015】
本実施形態の周方向溝9は、一対のクラウン周方向溝9a、9aと、一対のショルダー周方向溝9b、9bとが含まれる。一対のクラウン周方向溝9a、9aは、タイヤ赤道Cのタイヤ軸方向の両外側に配置されている。一対のショルダー周方向溝9b、9bは、クラウン周方向溝9aとトレッド端2tとの間に配置されている。なお、周方向溝9は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、一部の周方向溝9が省略されてもよいし、他の周方向溝9がさらに設けられてもよい。
【0016】
本明細書において、「トレッド端2t」とは、タイヤ2が空気入りタイヤの場合、正規状態のタイヤ2に、正規荷重を負荷してキャンバー角0°で平面に接地させたときの最もタイヤ軸方向外側の接地位置として特定される。正規状態とは、タイヤ2が正規リム11にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填された無負荷の状態である。本明細書では、特に断りがない場合、タイヤ各部の寸法等は、正規状態で測定された値で示される。
【0017】
「正規リム」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムである。したがって、正規リムは、例えば、JATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0018】
「正規内圧」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧である。したがって、正規内圧は、例えば、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0019】
「正規荷重」とは、タイヤ2が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重である。したがって、正規荷重は、例えば、JATMAであれば "最大負荷能力" 、TRAであれば表 "TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY" である。
【0020】
本実施形態の陸部10には、クラウン陸部10a、一対のミドル陸部10b、10b、及び、一対のショルダー陸部10c、10cが含まれる。クラウン陸部10aは、一対のクラウン周方向溝9a、9a間で区分されている。一対のミドル陸部10b、10bは、クラウン周方向溝9aとショルダー周方向溝9bとで区分されている。一対のショルダー陸部10c、10cは、ショルダー周方向溝9bとトレッド端2tとで区分されている。なお、陸部10は、このような態様に限定されるわけではなく、例えば、一部の陸部10が省略されてもよいし、他の陸部10がさらに設けられてもよい。また、各陸部10には、例えば、周方向溝9と交差する方向に延びる横溝(図示省略)等が設けられてもよい。
【0021】
カーカス6は、少なくとも1枚以上、本実施形態では1枚のカーカスプライ6Aで構成される。カーカスプライ6Aは、タイヤ赤道Cに対して、例えば75~90度の角度で配列されたカーカスコード(図示省略)を有している。
【0022】
ベルト層7は、ベルトコード(図示省略)を、タイヤ周方向に対して、例えば10~35度の角度で傾けて配列した内、外2枚のベルトプライ7A、7Bを含んで構成されている。これらのベルトプライ7A、7Bは、ベルトコードが互いに交差する向きに重ね合わされている。
【0023】
[タイヤの摩耗状態の予測方法(第1実施形態)]
ところで、タイヤ2の耐摩耗性能を評価する際に、所定の距離まで走行した後のタイヤ2の摩耗状態が取得される場合がある。所定の距離は、評価される摩耗状態に応じて適宜設定され、例えば、3万~5万kmに設定されうる。摩耗状態の取得には、例えば、タイヤ2を所定の距離まで実際に走行させる摩耗試験や、タイヤ2をモデリングしたタイヤモデルを用いて摩耗進展シミュレーションが行われている。しかしながら、いずれも多くの時間を要するという問題がある。
【0024】
発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、走行距離の増加に伴って、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れることを知見した。そして、この傾向が現れたときに、タイヤ2の走行距離に関する第1データと、走行距離でのタイヤの摩耗に関する第2データとの関係を示す近似式が取得されることで、既に走行した距離を超える所定の距離までタイヤ2を走行させなくても、当該所定の距離での摩耗状態を計算できることを見出した。
【0025】
本実施形態の予測方法では、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れたときの近似式を取得して、所定の距離を走行した後のタイヤ2の摩耗状態が短時間で予測されうる。
図3は、本実施形態のタイヤ2の摩耗状態の予測方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0026】
[タイヤを所定の条件で走行]
本実施形態の予測方法では、先ず、タイヤ2(
図2に示す)を予め定められた条件で走行させる(工程S1)。タイヤ2は、適宜走行されうる。本実施形態では、タイヤ2の走行(転動)に、従来の摩耗試験に用いられるドラム試験機が用いられる。
【0027】
図4は、ドラム試験機12を概念的に示す斜視図である。ドラム試験機12は、タイヤ2を走行させるためのドラム13と、タイヤ2を支持するための支持体14とを含んで構成されている。このようなドラム試験機12により、予め定められた条件に基づいて、タイヤ2を走行させることができる。なお、タイヤ2の走行に、ドラム試験機12が用いられる態様に限定されるわけではなく、例えば、車両(図示省略)が用いられてもよい。
【0028】
タイヤ2を走行させる条件には、タイヤ2の走行距離の増加に伴って、タイヤ2の摩耗に一定の傾向を現すことができれば、適宜設定される。本実施形態のようにドラム試験機12が用いられる場合、条件の一例として、タイヤ2の装着条件、タイヤ2の荷重負荷条件、及び、ドラム試験機12での走行速度等が挙げられる。装着条件には、例えば、上記の正規状態とするための条件(正規リム11、正規内圧)が含まれる。荷重負荷条件には、例えば、上記の正規荷重が含まれる。走行速度は、例えば、一定(例えば、60km/h)に設定される。
【0029】
また、タイヤ2の走行に車両(図示省略)が用いられる場合、条件の一例として、タイヤ2の装着条件、車両の種類、車両の走行速度、及び、走行コース等が挙げられる。装着条件には、例えば、上記の正規状態とするための条件が含まれる。車両の種類には、例えば、乗用車(排気量:2000cc)等が挙げられるが、タイヤ2のカテゴリー等に応じて、例えば、トラック又はバス等であってもよい。走行速度には、例えば、車両の平均時速(例えば、60km/h)が設定される。走行コースは、例えば、車両の走行条件(自由転動、制動、駆動及び旋回の発生頻度)や走行速度を一定に維持することが可能なサーキットコースが設定されるのが好ましい。なお、走行コースは、サーキットコースに限定されるわけではなく、例えば、経路が予め定められた公道(高速道路、山岳路及び一般道を含む)であってもよい。
【0030】
このように、本実施形態では、一定の条件下でタイヤ2が走行されることで、タイヤ2の走行距離の増加に伴って、タイヤ2の摩耗に一定の傾向を現すことが可能となる。
【0031】
[第1データ及び第2データを含むデータを時系列的に取得]
次に、本実施形態の予測方法では、タイヤ2の走行距離に関する第1データ及び走行距離でのタイヤ2の摩耗に関する第2データを含むデータが、時系列的に順次取得される(工程S2)。
【0032】
第1データは、タイヤ2の走行距離に関するものであれば、特に限定されない。第1データは、タイヤ2の実際の走行距離(km)であってもよいし、実際の走行距離を予め定められた間隔で割った指数(以下、「走行距離指数」ということがある。)であってもよい。間隔は、例えば、50~500km(本例では、100km)に設定されうる。本実施形態の第1データには、走行距離指数が用いられる。
【0033】
第2データは、走行距離でのタイヤ2の摩耗に関するものであれば、適宜設定されうる。本実施形態の第2データには、タイヤ2の摩耗量や、摩耗指数が含まれるのが好ましい。本実施形態の第2データは、走行距離指数(本例では、100km)ごとに測定されたタイヤ2の摩耗指数として特定されるが、特に限定されるわけではない。例えば、走行状況等に応じて、互いに異なる走行距離指数(例えば、50kmや、200kmなど)ごとに、摩耗指数が取得されてもよいし、走行距離指数ごとに累積された摩耗指数の累積値であってもよい。摩耗指数は、従来の手順で測定された摩耗量を用いて、適宜取得されうる。本実施形態の摩耗指数は、走行距離指数までの総走行距離を、走行距離指数までの総摩耗量で除したときの値として特定される。
【0034】
第2データ(本例では、摩耗指数)は、
図2に示したトレッド部2aの任意の位置において測定されうる。本実施形態では、複数の陸部10(本例では、クラウン陸部10a、一対のミドル陸部10b、10b及びショルダー陸部10c、10c)のうち、少なくとも1つの陸部10において、第2データが測定される。各陸部10の第2データは、タイヤ周方向の任意の位置での測定値であってもよいし、タイヤ周方向の複数箇所でそれぞれ測定された測定値を平均した値であってもよい。
【0035】
本実施形態では、工程S2において、第1データ(走行距離指数)及び第2データ(摩耗指数)を含むデータが1つ取得されるたびに(本例では、タイヤ2が100km走行するたびに)、次の工程S3が実施される。そして、工程S2が繰り返し実施されることで、第1データ(走行距離指数)及び第2データ(摩耗指数)を含むデータが、時系列的に順次取得される。取得されたデータは、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0036】
[第1データと第2データとの近似式を求める]
次に、本実施形態の予測方法では、取得されたデータを用いて、第1データと第2データとの関係を近似する近似式が求められる(工程S3)。本実施形態では、コンピュータ1(
図1に示す)によって近似式が求められているが、例えば、オペレータ等によって近似式が求められてもよい。
【0037】
図5は、第1データ(走行距離指数)と第2データ(摩耗指数)との関係を示すグラフである。
図5には、走行距離指数が1~13のときの摩耗指数がそれぞれ示されている。このグラフでは、走行距離指数が1~8のときの摩耗指数が増減を繰り返しているが、それ以降(走行距離指数が9~13)の摩耗指数が略一定の割合で減少している。このように、走行距離指数(走行距離)の増加に伴って、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れている。
【0038】
近似式Hは、第1データ(走行距離指数)と第2データ(摩耗指数)との関係を、線形近似することで求められてもよいし、曲線近似すること求められてもよい。本実施形態の近似式Hは、増減の大きさにバラツキがある第2データ(摩耗指数)に適切に近似させるために、曲線近似することで求められるのが好ましい。このような近似式Hは、例えば、市販の数値解析ソフトウェア(例えば、The MathWorks 社製の「MATLAB」など)によって容易に求められる。
【0039】
本実施形態では、工程S2において、第1データ(走行距離指数)及び第2データ(摩耗指数)を含むデータが1つ取得されるたびに(本例では、タイヤ2が100km走行するたびに)、1つの近似式Hを求める工程S3が実施される。本実施形態では、新たなデータが取得されるたびに、これまで取得されたデータを用いて、第1データと第2データとの関係に近似する近似式Hが求められる。そして、工程S2及び工程S3が繰り返し実施されることで、第1データ及び第2データを含むデータが追加取得されるごとに、近似式Hが更新(追加取得)されうる。これにより、実際のタイヤ2の摩耗の傾向をより精度よく表すように、近似式Hが逐次更新されうる。
【0040】
図6は、
図5から新たなデータが追加取得されたときのグラフである。
図6には、更新後の近似式H2と、更新前の近似式H1とが示されている。
【0041】
更新後の近似式H2は、工程S2において、今回の工程S2までに取得されたデータ(
図6では、走行距離指数が1~14)について、第1データと第2データとの関係に近似している。一方、更新前の近似式H1は、前回の工程S2までに取得されたデータ(
図6では、走行距離指数が1~13)について、第1データと第2データとの関係に近似している。これらの近似式H1、H2は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0042】
[更新前後の近似式の差が所定の範囲内か判断]
次に、本実施形態の予測方法では、更新後の近似式H2と、更新前の近似式H1との差が予め定められた範囲内であるか否かが判断される(工程S4)。本実施形態では、コンピュータ1(
図1に示す)によって判断がなされているが、オペレータ等によって判断されてもよい。
【0043】
本実施形態では、今回の工程S2までに取得されたデータ(走行距離指数が1~14)を用いた更新後の近似式H2と、前回の工程S2までに取得されたデータ(走行距離指数が1~13)を用いた更新前の近似式H1との差が所定の範囲内であるか否かが判断されるが、このような態様に限定されない。例えば、更新後の近似式H2と、前々回の工程S2までに取得されたデータ(走行距離指数が1~12)を用いた更新前の近似式(図示省略)との差が所定の範囲内であるか否かが、さらに判断されてもよい。
【0044】
更新後の近似式H2と更新前の近似式H1との差(以下、「近似式の差」ということがある。)が、予め定められた範囲内であるか否かは、適宜判断されうる。本実施形態では、更新後の近似式H2で予測される第2データ(摩耗指数)と、更新前の近似式H1で予測される第2データ(摩耗指数)との差Dが、予め定められた範囲内であるか否かが判断される。
【0045】
第2データ(摩耗指数)の差Dは、所定の走行距離指数において特定されうる。本実施形態において、第2データの差Dが特定される走行距離指数は、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離(
図6において、走行距離指数Pで示される所定の距離)で特定される。これにより、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離にて予測された第2データ(摩耗指数)に基づいて、近似式の差(第2データの差D)が求められる。
【0046】
第2データの差Dが特定される走行距離指数は、例えば、タイヤ2がすでに走行した距離(例えば、
図6において、走行距離指数「14」)で特定されてもよい。これにより、タイヤ2が実際に走行した走行距離にて予測された第2データ(摩耗指数)に基づいて、近似式の差(第2データの差D)が求められる。
【0047】
近似式の差(第2データの差D)の判断に用いられる範囲は、タイヤ2の摩耗状態の予測精度に応じて適宜設定されうる。本実施形態では、第2データ(摩耗指数)の最大値の±5%の範囲が設定されうる。
【0048】
工程S4において、近似式の差(第2データの差D)が上記の範囲内であると判断された場合(工程S4で「Yes」)、更新後の近似式H2で予測される第2データと、更新前の近似式H1で予測される第2データとが略一致している。この場合、これらの近似式H1、H2は、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れたときに取得されていると判断され、次の工程S5が実施されうる。
【0049】
工程S4において、近似式の差(第2データの差D)が上記の範囲外であると判断された場合(工程S4で「No」)、更新後の近似式H2で予測される第2データと、更新前の近似式H1で予測される第2データとが乖離している。この場合、少なくとも更新前の近似式H1は、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れたときに取得されていないと判断され、工程S2~工程S4が再度実施される。これにより、第1データ及び第2データを含む新たなデータを用いて近似式Hが更新されるため、実際のタイヤ2の摩耗の傾向をより精度よく表すように、近似式H(更新後の近似式H2を含む)が逐次更新される。したがって、本実施形態の予測方法では、近似式の差(第2データの差D)を上記の範囲内にすることができ、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れたときに、近似式H1、H2を取得することが可能となる。
【0050】
[摩耗状態を計算]
次に、本実施形態の予測方法では、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態が計算される(工程S5)。本実施形態では、コンピュータ1(
図1に示す)によって摩耗状態が計算されているが、例えば、オペレータ等によって摩耗状態が計算されてもよい。また、本実施形態の工程S5において、タイヤ2の走行が終了されている。
【0051】
本実施形態では、工程S3で求められた近似式Hを用いて、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態が計算される。上述したように、工程S4での判断が肯定的(Yes)である場合、更新前の近似式H1及び更新後の近似式H2は、タイヤ2の摩耗に一定の傾向が現れたときに取得されている。このため、これらの近似式H1、H2のうち、どちらの近似式が用いられても、摩耗状態が精度よく計算されうるが、本実施形態では、実際のタイヤ2の摩耗の傾向を精度よく表すように更新された近似式(更新後の近似式H2)が用いられる。これにより、本実施形態の予測方法では、タイヤ2の摩耗状態がより精度よく計算されうる。
【0052】
図6に示されるように、第2データとして、各走行距離指数での摩耗指数が特定される場合、工程S5では、1~Pの各走行距離指数において、更新後の近似式H2で予測された第2データ(摩耗指数)の合計値が求められる。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤ2が走行したときの総摩耗指数が取得されうる。なお、第2データとして、走行距離指数ごとに摩耗指数の累積値が特定される場合には、更新後の近似式H2に、走行距離指数Pが代入される。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤ2が走行したときの総摩耗指数が取得されうる。
【0053】
走行距離指数Pは、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離であれば特に限定されない。本実施形態の走行距離指数Pは、上述の所定の距離(3万~5万km)に設定される。
【0054】
このように、本実施形態の予測方法では、摩耗の傾向が現れた段階で更新された近似式F2を用いて、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離(本例では、走行距離指数P)での摩耗状態を精度良く計算することができる。したがって、本実施形態では、当該走行距離までタイヤ2を走行させなくても、当該走行距離での摩耗状態を計算することができるため、タイヤ2の摩耗状態を短時間で予測することが可能となる。予測された摩耗状態(本例では、総摩耗指数)は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0055】
[タイヤの摩耗状態を評価]
次に、本実施形態の予測方法では、予測されたタイヤ2の摩耗状態が、良好か否かが評価される(工程S6)。摩耗状態は、コンピュータ1(
図1に示す)によって評価されてもよいし、オペレータ等によって評価されてもよい。
【0056】
摩耗状態は、適宜評価されうる。本実施形態では、予測された総摩耗指数が予め定められた閾値以下である場合に、摩耗状態が良好であると判断されうる。閾値は、タイヤ2に求められる耐摩耗性能に応じて、適宜設定されうる。
【0057】
工程S6において、予測された摩耗状態が良好であると判断された場合(工程S6で「Yes」)、タイヤ2が、耐摩耗性能の基準を満たしている。この場合、タイヤ2の製造及び生産が行われる(工程S7)。一方、工程S6において、予測された摩耗状態が良好でないと判断された場合(工程S6で「No」)、タイヤ2が、上記の基準を満たしていない。このため、
図2に示したタイヤ2の構造や、トレッドゴム8の配合を改善した新たなタイヤ2が試作され(工程S8)、工程S1~工程S6が再度実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、耐摩耗性能に優れたタイヤ2を確実に製造及び生産することが可能となる。
【0058】
[タイヤの摩耗状態の予測方法(第2実施形態)]
これまでの実施形態では、第2データとして、タイヤ2の摩耗指数が含まれる態様が例示されたが、このような態様に限定されない。第2データは、タイヤ2の摩耗エネルギーが含まれてもよい。
【0059】
この実施形態の第2データは、
図5及び
図6に示した走行距離指数(本例では、100kmの間隔)ごとに測定されたタイヤ2の摩耗エネルギーとして特定されるが、特に限定されるわけではなく、例えば、走行距離指数ごとに累積された摩耗エネルギーの累積値であってもよい。摩耗エネルギーの測定には、例えば、特許文献(特開2023-042390号公報)に記載の摩耗エネルギー試験機等が用いられる。
【0060】
この実施形態では、これまでの実施形態と同様に、取得されたデータを用いて近似式Hが求められ(工程S3)、更新後の近似式H2と、更新前の近似式H1との差が予め定められた範囲内であるか否かが判断される(工程S4)。そして、工程S4において、近似式の差が予め定められた範囲内であると判断された場合(工程S4で「Yes」)、タイヤ2がすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態が計算される(工程S5)。
【0061】
この実施形態のように、第2データとして、各走行距離指数での摩耗エネルギーが特定される場合、工程S5では、走行距離指数が1~Pの範囲において、更新後の近似式H2が積分される。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤ2が走行したときの総摩耗エネルギーが取得されうる。なお、第2データとして、走行距離指数ごとに摩耗エネルギーを累積した累積値が特定される場合には、更新後の近似式H2に、走行距離指数Pが代入される。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤ2が走行したときの総摩耗エネルギーが取得されうる。
【0062】
そして、総摩耗エネルギーに、トレッドゴム8(
図2に示す)の摩耗指数が乗じられることで、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤ2が走行したときの総摩耗量が取得されうる。ここで、トレッドゴム8の摩耗指数は、トレッドゴム8の摩耗量と、トレッドゴム8の摩耗エネルギーとの関係を示すものである。このような摩耗指数は、例えば、特許文献(特開2019-218021号公報)に記載されるように、室内摩耗試験機(ランボーン摩耗試験機等)を用いた摩耗試験によって取得されうる。
【0063】
この実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、予測されたタイヤの摩耗状態が、良好か否かが評価される(工程S6)。そして、良好と判断された場合には、タイヤ2の製造及び生産が行われる(工程S7)。一方、良好でないと判断された場合には、タイヤ2の構造や、トレッドゴム8の配合を改善した新たなタイヤ2が試作され(工程S8)、工程S1~工程S6が再度実施される。これにより、この実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、耐摩耗性能に優れたタイヤ2を確実に製造及び生産することが可能となる。
【0064】
[タイヤの摩耗状態の予測方法(第3実施形態)]
これまでの実施形態では、
図2に示したタイヤ2を所定の条件で走行させて、第1データ及び第2データを含むデータが、時系列的に順次取得されたが、このような態様に限定されない。例えば、タイヤ2をモデリングしたタイヤモデルを所定の条件で走行させて、タイヤモデルの摩耗を進展させながら、第1データ及び第2データを含むデータが、時系列的に順次取得されてもよい。
図7は、本発明の他の実施形態のタイヤ2の摩耗状態の予測方法の処理手順を示すフローチャートである。この実施形態の予測方法には、コンピュータ1(
図1に示す)が用いられる。
【0065】
[タイヤモデルを入力]
この実施形態の予測方法では、先ず、タイヤ2(
図2に示す)をモデリングしたタイヤモデルが、コンピュータ1に入力される(工程S11)。
図8は、タイヤモデル22及び路面モデル31の一例を示す斜視図である。
図9は、タイヤモデル22の一例を示す断面図である。なお、
図8のタイヤモデル22は、簡略化して示されており、トレッドパターンや要素F(i)等が省略されている。
【0066】
図9に示されるように、本実施形態の工程S11では、
図2に示したタイヤ2に関する情報に基づいて、タイヤ2が、数値解析法により取り扱い可能な有限個の要素F(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S11では、タイヤモデル22が設定される。数値解析法としては、例えば、有限要素法、有限体積法、差分法又は境界要素法が適宜採用される。本実施形態では、有限要素法が採用される。
【0067】
要素F(i)には、例えば、4面体ソリッド要素、5面体ソリッド要素、又は、6面体ソリッド要素などが用いられる。各要素F(i)は、複数の節点32を有している。さらに、各要素F(i)は、節点32、32間をつなぐ直線状の辺33が設けられている。このような各要素F(i)には、要素番号、節点32の番号、及び、節点32の座標値などの数値データが定義される。さらに、各要素F(i)には、
図2に示したタイヤ部材(トレッドゴム8など)の材料特性(例えば密度、ヤング率、減衰係数、損失正接(tanδ)、及び/又は、複素弾性率E*等)などの数値データが定義される。
【0068】
タイヤモデル22には、カーカスプライ6A(
図2に示す)をモデリングしたカーカスプライモデル26A、及び、ベルトプライ7A、7B(
図2に示す)をそれぞれモデリングしたベルトプライモデル27A、27Bが設定される。
【0069】
さらに、タイヤモデル22には、トレッドゴム8(
図2に示す)をモデリングしたトレッドゴムモデル28が設定される。トレッド部22a(トレッドゴムモデル28)の外面22Sには、
図2に示したトレッドパターンが再現されている。
【0070】
本実施形態のトレッド部22a(トレッドゴムモデル28)には、
図2に示したトレッド部2a(トレッドゴム8)と同様に、周方向溝29と陸部30とが設けられている。周方向溝29は、一対のクラウン周方向溝29a、29aと、一対のショルダー周方向溝29b、29bとが含まれる。陸部30には、クラウン陸部30a、一対のミドル陸部30b、30b、及び、一対のショルダー陸部30c、30cが含まれる。タイヤモデル22は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0071】
[路面モデルを入力]
次に、本実施形態の予測方法では、路面(図示省略)をモデリングした路面モデル31(
図8に示す)が、
図1に示したコンピュータ1に入力される(工程S12)。工程S12では、路面に関する情報に基づいて、路面が、数値解析法(本実施形態では、有限要素法)により取り扱い可能な有限個の要素G(i)(i=1、2、…)を用いて離散化される。これにより、工程S12では、路面モデル31が設定される。
【0072】
要素G(i)は、変形不能に設定された剛平面要素からなる。要素G(i)には、複数の節点34が設けられている。さらに、要素G(i)は、要素番号や、節点34の座標値等の数値データが定義される。
【0073】
本実施形態では、路面モデル31として、平滑な表面を有するものが例示されたが、必要に応じて、アスファルト路面のような微小凹凸、不規則な段差、窪み、うねり、又は、轍等の実走行路面に近似した凹凸などが設けられても良い。路面モデル31は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0074】
[タイヤモデルを所定の条件で走行]
次に、本実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、タイヤモデル22を予め定められた条件で走行させて、タイヤモデル22の摩耗を進展させる(工程S13)。タイヤモデル22を走行させる条件には、タイヤモデル22の走行距離の増加に伴う摩耗の進展により、タイヤモデル22の摩耗に一定の傾向を現すことができれば、適宜設定される。条件の一例としては、タイヤモデル22の装着条件、タイヤモデル22の荷重負荷条件、及び、タイヤモデル22の走行速度が挙げられる。装着条件には、例えば、上記の正規状態とするための条件(正規リム11、正規内圧)が含まれる。荷重負荷条件には、上記の正規荷重が含まれる。走行速度は、例えば、一定(例えば、60km/h)に設定される。
【0075】
この実施形態の工程S13では、特許文献(特開2019-91302号公報)に記載の手順と同様に、タイヤモデル22を路面モデル31に走行(転動)させた状態が計算される。なお、タイヤモデル22の走行は、上記の条件に基づいて計算される。そして、工程S13では、
図9に示したトレッド部22a(トレッドゴムモデル28)の各節点32で計算された摩耗エネルギーに基づいて、トレッド部22aの各節点32の移動が計算される。これにより、工程S13では、タイヤモデル22(トレッド部22a)の摩耗が進展する状態が計算されうる。
【0076】
このように、この実施形態では、一定の条件下でタイヤモデル22の走行及び摩耗進展が計算されるため、タイヤモデル22の走行距離の増加に伴って、タイヤモデル22の摩耗に一定の傾向を現すことが可能となる。
【0077】
[第1データ及び第2データを含むデータを時系列的に取得]
次に、この実施形態の予測方法では、タイヤモデル22の走行距離に関する第1データ及び走行距離でのタイヤモデル22の摩耗に関する第2データを含むデータが、時系列的に順次取得される(工程S14)。
【0078】
第1データは、タイヤモデル22の走行距離に関するものであれば、特に限定されない。第1データは、タイヤモデル22が路面モデル31を走行した走行距離(km)であってもよいし、走行距離を予め定められた間隔で割った指数(走行距離指数)であってもよい。間隔は、これまでの実施形態と同様に、例えば、50~500km(本例では、100km)に設定されうる。この実施形態の第1データには、走行距離指数が用いられる。
【0079】
第2データは、走行距離でのタイヤモデル22の摩耗に関するものであれば、適宜設定されうる。本実施形態の第2データには、タイヤモデル22の摩耗エネルギーが含まれる。本実施形態の第2データは、走行距離指数(本例では、100km)ごとに計算されたタイヤモデル22の摩耗エネルギーとして特定されるが、特に限定されるわけではない。例えば、互いに異なる走行距離指数(例えば、50kmや、200kmなど)ごとに、摩耗エネルギーが取得されてもよいし、走行距離指数ごとに累積された摩耗エネルギーの累積値であってもよい。摩耗エネルギーは、工程S13において、タイヤモデル22の摩耗を進展させる際に計算されうる。
【0080】
本実施形態では、工程S14において、第1データ(走行距離指数)及び第2データ(摩耗エネルギー)を含むデータが1つ計算されるたびに(本例では、タイヤモデル22が100km走行するたびに)、次の工程S15が実施される。そして、工程S14が繰り返し実施されることで、第1データ(走行距離指数)及び第2データ(摩耗エネルギー)を含むデータが、時系列的に順次計算される。計算されたデータは、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0081】
[第1データと第2データとの近似式を求める]
次に、この実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、計算されたデータを用いて、第1データと第2データとの関係を近似する近似式を求める(工程S15)。この実施形態の工程S15では、これまでの実施形態と同様の手順で、近似式H(例えば、
図5及び
図6に示す)が求められる。
【0082】
この実施形態では、これまでの実施形態と同様に、工程S14において、第1データ及び第2データとを含むデータが1つ計算されるたびに(本例では、タイヤモデル22が100km走行するたびに)、1つの近似式Hを求める工程S15が実施される。この実施形態では、新たなデータが計算されるたびに、これまで取得されたデータを用いて、第1データと第2データとの関係に近似する近似式Hが求められる。そして、工程S14及び工程S15が繰り返し実施されることで、第1データ及び第2データを含むデータが追加計算されるごとに、近似式Hが更新されうる。これにより、タイヤモデル22(実際のタイヤ2)の摩耗の傾向をより精度よく表すように、近似式Hが逐次更新されうる。近似式Hは、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0083】
[更新前後の近似式の差が所定の範囲内か判断]
次に、この実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、更新後の近似式と、更新前の近似式との差が予め定められた範囲内であるか否かを判断する(工程S16)。この実施形態では、これまでの実施形態と同様の手順に基づいて、近似式の差(すなわち、更新後の近似式と更新前の近似式との差)が、上記の範囲内であるか否かが判断される。
【0084】
工程S16において、近似式の差(
図6に示した第2データの差D)が上記の範囲内であると判断された場合(工程S16で「Yes」)、次の工程S17が実施されうる。一方、工程S16において、近似式の差(第2データの差D)が上記の範囲外であると判断された場合(工程S16で「No」)、工程S13~工程S16が再度実施されうる。これにより、第1データ及び第2データを含む新たなデータを用いて近似式Hが更新されるため、タイヤモデル22(実際のタイヤ2)の摩耗の傾向をより精度よく表すように、近似式Hが逐次更新される。したがって、タイヤモデル22の摩耗に一定の傾向が現れたときに、近似式H1、H2を取得することが可能となる。
【0085】
[摩耗状態を計算]
次に、この実施形態の予測方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、タイヤモデル22がすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態を計算する(工程S17)。工程S17では、工程S15で求められた近似式H(例えば、
図6に示す)を用いて、タイヤモデル22がすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態が計算される。また、本実施形態の工程S17において、タイヤモデル22の走行が終了されている。
【0086】
この実施形態では、これまでの実施形態と同様に、更新前の近似式H1及び更新後の近似式H2のうち、実際のタイヤモデル22の摩耗の傾向を精度よく表すように更新された更新後の近似式H2が用いられる。これにより、この実施形態の予測方法では、摩耗状態がより精度よく計算されうる。
【0087】
この実施形態のように、第2データとして、走行距離指数ごとに摩耗エネルギーが計算される場合、工程S17では、走行距離指数が1からPまでの範囲において、更新後の近似式H2が積分される。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤモデル22が走行したときの総摩耗エネルギーが取得されうる。なお、第2データとして、走行距離指数ごとに摩耗エネルギーを累積した累積値が特定される場合には、更新後の近似式H2に、走行距離指数Pが代入される。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤモデル22が走行したときの総摩耗エネルギーが取得されうる。
【0088】
そして、総摩耗エネルギーに、実際のトレッドゴム8(
図2に示す)の摩耗指数が乗じられることで、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤモデル22が走行したときの総摩耗量が計算されうる。
【0089】
このように、この実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、摩耗の傾向が現れた段階で更新された近似式Hを用いて、タイヤモデル22がすでに走行した距離を超える走行距離(本例では、走行距離指数P)での摩耗状態を精度良く計算することができる。したがって、この実施形態では、当該走行距離までタイヤモデル22を走行させなくても、当該走行距離での摩耗状態を計算することができるため、タイヤ2(タイヤモデル22)の摩耗状態を短時間で予測することが可能となる。予測された摩耗状態(本例では、総摩耗量)は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0090】
[タイヤの摩耗状態を評価]
次に、この実施形態の予測方法では、予測されたタイヤモデル22(タイヤ2)の摩耗状態が、良好か否かが評価される(工程S18)。摩耗状態は、コンピュータ1(
図1に示す)によって評価されてもよいし、オペレータ等によって評価されてもよい。
【0091】
摩耗状態は、適宜評価されうる。本実施形態では、予測された総摩耗量が予め定められた閾値以下である場合に、摩耗状態が良好であると判断されうる。閾値は、
図2に示したタイヤ2に求められる耐摩耗性能に応じて、適宜設定されうる。
【0092】
工程S18において、予測された摩耗状態が良好であると判断された場合(工程S18で「Yes」)、タイヤモデル22は、耐摩耗性能の基準を満たしている。この場合、タイヤモデル22の設計因子に基づいて、タイヤ2(
図2に示す)の製造及び生産が行われる(工程S19)。一方、工程S18において、予測された摩耗状態が良好でないと判断された場合(工程S18で「No」)、上記の基準を満たしていない。このため、タイヤ2の構造や設計因子が変更され(工程S20)、工程S11~工程S18が再度実施される。これにより、本実施形態の予測方法では、耐摩耗性能に優れたタイヤ2を確実に製造及び生産することが可能となる。
【0093】
[タイヤの摩耗状態の予測方法(第4実施形態)]
これまでの実施形態(第3実施形態)では、第2データとして、タイヤモデル22の摩耗エネルギーが含まれる態様が例示されたが、このような態様に限定されない。第2データは、タイヤモデル22の摩耗量や、摩耗指数が含まれてもよい。
【0094】
この実施形態の第2データは、走行距離指数(本例では、100kmの間隔)ごとに測定されたタイヤモデル22の摩耗量として特定されるが、特に限定されるわけではなく、例えば、走行距離指数ごとに累積された摩耗量の累積値であってもよい。摩耗量は、タイヤモデル22の摩耗進展量(節点32の移動量)に基づいて計算されうる。
【0095】
この実施形態では、これまでの実施形態と同様に、取得されたデータを用いて近似式Hが求められ(工程S15)、更新後の近似式H2と、更新前の近似式H1との差が予め定められた範囲内であるか否かが判断される(工程S16)。そして、工程S16において、近似式の差が予め定められた範囲内であると判断された場合(工程S16で「Yes」)、タイヤモデル22がすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態が計算される(工程S17)。
【0096】
この実施形態のように、第2データとして、各走行距離指数での摩耗量が計算される場合、工程S17では、1~Pの各走行距離指数において、更新後の近似式H2で予測された第2データ(摩耗量)の合計値が求められる。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤモデル22が走行したときの総摩耗量が取得される。なお、第2データとして、走行距離指数ごとに摩耗量の累積値が計算される場合には、更新後の近似式H2に、走行距離指数Pが代入される。これにより、走行距離指数Pが示す走行距離まで、新品時のタイヤモデル22が走行したときの総摩耗量が取得される。
【0097】
この実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、予測されたタイヤモデルの摩耗状態が、良好か否かが評価される(工程S18)。そして、良好と判断された場合に、タイヤモデル22の設計因子に基づいて、タイヤ2(
図2に示す)の製造及び生産が行われる(工程S19)。一方、良好でないと判断された場合には、タイヤモデル22の設計因子が変更され(工程S20)、工程S11~工程S18が再度実施される。これにより、この実施形態の予測方法では、これまでの実施形態と同様に、耐摩耗性能に優れたタイヤ2を確実に製造及び生産することが可能となる。
【0098】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【0099】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0100】
[本発明1]
タイヤの摩耗状態を予測するための方法であって、
前記タイヤを予め定められた条件で走行させて、前記タイヤの走行距離に関する第1データ及び前記走行距離での前記タイヤの摩耗に関する第2データを含むデータを、時系列的に順次取得する工程と、
取得された前記データを用いて、前記第1データと前記第2データとの関係を近似する近似式を求める工程であって、前記近似式を、前記データが追加取得されるごとに更新する工程と、
更新後の近似式と、更新前の近似式との差が予め定められた範囲内になったときに、前記更新後の近似式を用いて、前記タイヤがすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態を計算する工程と、
を含む
タイヤの摩耗状態の予測方法。
[本発明2]
前記第2データは、前記タイヤの摩耗エネルギーを含む、本発明1に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
[本発明3]
前記第2データは、前記タイヤの摩耗量を含む、本発明1又は2に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
[本発明4]
タイヤの摩耗状態を予測するための方法であって、
前記タイヤをモデリングしたタイヤモデルをコンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記タイヤモデルを予め定められた条件で走行させて、前記タイヤモデルの摩耗を進展させながら、前記タイヤモデルの走行距離に関する第1データ及び前記走行距離での前記タイヤモデルの摩耗に関する第2データを含むデータを、時系列的に順次計算する工程と、
前記コンピュータが、計算された前記データを用いて、前記第1データと前記第2データとの関係を近似する近似式を求める工程であって、前記近似式を、前記データが追加計算されるごとに更新する工程と、
前記コンピュータが、更新後の近似式と、更新前の近似式との差が予め定められた範囲内になったときに、前記更新後の近似式を用いて、前記タイヤモデルがすでに走行した距離を超える走行距離での摩耗状態を計算する工程と、
を含む
タイヤの摩耗状態の予測方法。
[本発明5]
前記第2データは、前記タイヤモデルの摩耗エネルギーを含む、本発明4に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
[本発明6]
前記第2データは、前記タイヤモデルの摩耗量を含む、本発明4又は5に記載のタイヤの摩耗状態の予測方法。
【符号の説明】
【0101】
H1 更新後の近似式
H2 更新前の近似式