(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178813
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】基板チャック、リソグラフィ装置、および物品製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/027 20060101AFI20241218BHJP
G03F 7/20 20060101ALI20241218BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20241218BHJP
B29C 59/02 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01L21/30 502D
G03F7/20 521
H01L21/68 P
B29C59/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097242
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003281
【氏名又は名称】弁理士法人大塚国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井本 浩平
【テーマコード(参考)】
2H197
4F209
5F131
5F146
【Fターム(参考)】
2H197AA05
2H197CD02
2H197CD05
2H197CD06
2H197CD07
2H197CD35
2H197CD44
2H197DA03
2H197DB31
2H197HA03
4F209AA44
4F209AF01
4F209AG05
4F209AH33
4F209AR12
4F209PA02
4F209PB01
4F209PH01
4F209PN09
4F209PN13
4F209PQ20
5F131AA02
5F131AA03
5F131AA32
5F131AA33
5F131BA13
5F131CA18
5F131EA02
5F131EA22
5F131EA23
5F131EB02
5F131EB04
5F146AA31
(57)【要約】
【課題】基板の形状補正のさらなる高精度化に有利な技術を提供する。
【解決手段】基板チャックは、基板保持面において、隔壁によって同心円状に仕切られた、第1吸着領域と該第1吸着領域の内周側に形成された第2吸着領域とを含む、複数の吸着領域と、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域との下の、前記基板チャックの内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより前記基板保持面を変位させるように構成された圧力空間とを有する。前記第1吸着領域の外周側隔壁の高さは、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域とを仕切る内周側隔壁よりも低く、前記圧力空間の外周側端部の半径が、前記外周側隔壁の中立半径以下である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を基板保持面に吸着して保持する基板チャックであって、
前記基板保持面において、隔壁によって同心円状に仕切られた、第1吸着領域と該第1吸着領域の内周側に形成された第2吸着領域とを含む、複数の吸着領域と、
前記第1吸着領域と前記第2吸着領域との下の、前記基板チャックの内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより前記基板保持面を変位させるように構成された圧力空間と、を有し、
前記第1吸着領域の外周側隔壁の高さは、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域とを仕切る内周側隔壁よりも低く、
前記圧力空間の外周側端部の半径が、前記外周側隔壁の中立半径以下である、
ことを特徴とする基板チャック。
【請求項2】
前記圧力空間の中立半径が、前記内周側隔壁の中立半径以下である、ことを特徴とする請求項1に記載の基板チャック。
【請求項3】
前記圧力空間の前記外周側端部の半径が、前記内周側隔壁の中立半径以上である、ことを特徴とする請求項1に記載の基板チャック。
【請求項4】
前記第2吸着領域を更に同心円状に仕切る中央隔壁を更に有する、ことを特徴とする請求項1に記載の基板チャック。
【請求項5】
前記中央隔壁の中立半径が、前記圧力空間の内周側端部の半径以下である、ことを特徴とする請求項4に記載の基板チャック。
【請求項6】
前記第2吸着領域に形成された、前記基板を支持するための複数の突起部を更に有することを特徴とする請求項1に記載の基板チャック。
【請求項7】
原版のパターンを基板に転写するリソグラフィ装置であって、
前記基板を基板保持面に吸着して保持する基板チャックと、
前記基板チャックの基板保持面の形状を制御して、前記基板チャックによって保持された前記基板を変形させる制御部と、
を備え、
前記基板チャックは、
前記基板保持面において、隔壁によって同心円状に仕切られた、第1吸着領域と該第1吸着領域の内周側に形成された第2吸着領域とを含む、複数の吸着領域と、
前記第1吸着領域と前記第2吸着領域との下の、前記基板チャックの内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより前記基板保持面を変位させるように構成された圧力空間と、を有し、
前記第1吸着領域の外周側隔壁は、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域とを仕切る内周側隔壁よりも低く、
前記圧力空間の外周側端部の半径が、前記外周側隔壁の中立半径以下であり、
前記制御部は、前記第1吸着領域、前記第2吸着領域、および前記圧力空間の圧力を個別に制御することにより、前記基板を変形させる、
ことを特徴とするリソグラフィ装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記基板の歪み情報に基づいて、前記第1吸着領域および前記圧力空間の圧力を個別に制御する、ことを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィ装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記圧力空間の圧力印加に続いて、前記第1吸着領域の圧力印加を行う、ことを特徴とする請求項8に記載のリソグラフィ装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1吸着領域の圧力印加に続いて、前記圧力空間の圧力印加を行う、ことを特徴とする請求項8に記載のリソグラフィ装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記第2吸着領域に負圧を印加した状態で前記圧力空間に圧力を印加した後、前記第2吸着領域の負圧印加をいったん解き、その後、再び前記第2吸着領域の負圧印加を行う、ことを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィ装置。
【請求項12】
前記リソグラフィ装置は、前記原版である型を用いて基板の上のインプリント材にパターン形成を行うインプリント処理を行うインプリント装置として構成されている、ことを特徴とする請求項7に記載のリソグラフィ装置。
【請求項13】
前記インプリント処理は、前記インプリント材と前記型とが接触した状態で前記インプリント材を硬化させる硬化工程を含み、
前記制御部は、前記硬化工程が完了する前に、前記第1吸着領域、前記第2吸着領域、および前記圧力空間の圧力制御を完了させる、ことを特徴とする請求項12に記載のリソグラフィ装置。
【請求項14】
前記インプリント処理は、前記インプリント材と前記型とが接触した状態で前記インプリント材を硬化させる硬化工程を含み、
前記インプリント装置は、前記基板に形成された複数のショット領域のそれぞれに前記インプリント処理を行うように構成され、
前記制御部は、各ショット領域の前記インプリント処理において、前記硬化工程が完了する前に、前記第2吸着領域の負圧印加を一時的に解く、
ことを特徴とする請求項12に記載のリソグラフィ装置。
【請求項15】
請求項7から14のいずれか1項に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記パターンが形成された基板を加工する工程と、
を有し、前記加工された基板から物品を製造する、ことを特徴とする物品製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板チャック、リソグラフィ装置、および物品製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやMEMSなどの物品を製造する方法として、フォトリソグラフィ技術が知られている。フォトリソグラフィ技術では、型に形成されたパターンを基板上の領域(ショット領域)に転写する。この転写において、パターンとショット領域の位置および形状を合わせることが重要である。引用文献1には、特に歪みが大きい傾向にある基板の外周部付近において、基板チャックの基板保持面上に隔壁を構成し、隔壁によって仕切られた空間の圧力を個別に制御することにより基板の歪み形状の補正を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
半導体デバイスの高集積化に伴い、回路パターンの多層化が進んでいる。多層化された基板では、成膜時に発生した膜歪み等の蓄積により多様な形状の反りが生じうる。特許文献1に開示された技術によれば、基板の外周部付近での急峻な歪み形状の補正を行うことは可能である。しかし、特許文献1に開示された技術は、緩やかな歪み形状を補正することには適していない。
【0005】
本発明は、基板の形状補正のさらなる高精度化に有利な技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によれば、基板を基板保持面に吸着して保持する基板チャックであって、前記基板保持面において、隔壁によって同心円状に仕切られた、第1吸着領域と該第1吸着領域の内周側に形成された第2吸着領域とを含む、複数の吸着領域と、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域との下の、前記基板チャックの内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより前記基板保持面を変位させるように構成された圧力空間と、を有し、前記第1吸着領域の外周側隔壁の高さは、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域とを仕切る内周側隔壁よりも低く、前記圧力空間の外周側端部の半径が、前記外周側隔壁の中立半径以下である、ことを特徴とする基板チャックが提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、基板の形状補正のさらなる高精度化に有利な技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】基板が載置された状態の基板チャックの平面図。
【
図3】基板を取り去った状態の基板チャックの平面図。
【
図7】中空部による基板変形方法を説明するための図。
【
図8】中空部による基板変形方法を説明するための図。
【
図9】中空部による基板変形方法を説明するための図。
【0009】
各図は模式図であり、必ずしも実際の縮尺通りに描かれてはいないことを理解されたい。図中のいくつかの要素の寸法は、本開示の実施形態の理解を助けるために、他の要素に対して誇張されている場合がある。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0011】
本開示は、基板にパターンまたは膜を形成するリソグラフィ装置に関するものである。リソグラフィ装置には、インプリント装置、膜形成装置(平坦化装置)、露光装置等がある。インプリント装置は、基板の上に供給されたインプリント材に型(原版)を接触させた状態でインプリント材を硬化させることによって基板の上にパターン形成を行う装置である。膜形成装置は、基板の上に供給された硬化性組成物に平坦テンプレートを接触させた状態で硬化性組成物を硬化させることによって基板の上に平坦な膜を形成する装置である。露光装置は、原版のパターンを、投影光学系を介して基板に転写する装置である。例えば、露光装置は、基板の上に塗布されたフォトレジストを露光マスクである原版(レチクル)を介して露光することによって該フォトレジストに原版のパターンに対応する潜像を形成する。以下では、具体例を提供するため、リソグラフィ装置がインプリント装置として構成される例を説明する。
【0012】
図1は、実施形態におけるインプリント装置1の概略図である。本明細書および図面においては、水平面をXY平面とするXYZ座標系において方向が示される。一般には、被露光基板である基板5はその表面が水平面(XY平面)と平行になるように基板ステージ6の上に置かれる。よって以下では、基板5の表面に沿う平面内で互いに直交する方向をX軸およびY軸とし、X軸およびY軸に垂直な方向をZ軸とする。また、以下では、XYZ座標系におけるX軸、Y軸、Z軸にそれぞれ平行な方向をX方向、Y方向、Z方向といい、X軸まわりの回転方向、Y軸まわりの回転方向、Z軸まわりの回転方向をそれぞれθX方向、θY方向、θZ方向という。
【0013】
まず、実施形態に係るインプリント装置の概要について説明する。インプリント装置は、基板上に供給されたインプリント材を型と接触させ、インプリント材に硬化用のエネルギーを与えることにより、型の凹凸パターンが転写された硬化物のパターンを形成する装置である。
【0014】
インプリント材としては、硬化用のエネルギーが与えられることにより硬化する硬化性組成物(未硬化状態の樹脂と呼ぶこともある)が用いられる。硬化用のエネルギーとしては、電磁波、熱等が用いられうる。電磁波は、例えば、その波長が10nm以上1mm以下の範囲から選択される光、例えば、赤外線、可視光線、紫外線などでありうる。硬化性組成物は、光の照射により、あるいは、加熱により硬化する組成物でありうる。これらのうち、光の照射により硬化する光硬化性組成物は、少なくとも重合性化合物と光重合開始剤とを含有し、必要に応じて非重合性化合物または溶剤を更に含有してもよい。非重合性化合物は、増感剤、水素供与体、内添型離型剤、界面活性剤、酸化防止剤、ポリマー成分などの群から選択される少なくとも一種である。インプリント材は、インプリント材供給装置(
図1の供給部8)により、液滴状、或いは複数の液滴が繋がってできた島状又は膜状となって基板上に配置されうる。インプリント材の粘度(25℃における粘度)は、例えば、1mPa・s以上100mPa・s以下でありうる。基板の材料としては、例えば、ガラス、セラミックス、金属、半導体、樹脂等が用いられうる。必要に応じて、基板の表面に、基板とは別の材料からなる部材が設けられてもよい。基板は、例えば、シリコンウエハ、化合物半導体ウエハ、石英ガラスである。
【0015】
インプリント装置1は、光を照射する照射部2と、モールド3を保持するモールド保持部4と、基板5を保持する基板チャック7と、基板チャック7を搭載して移動する基板ステージ6とを備えうる。インプリント装置1は更に、インプリント材を供給する供給部8と、アライメント光学系9と、制御部14を備えうる。
【0016】
照射部2から射出された光は、光学部品10で反射され、モールド3を透過して、基板5上のインプリント材に到達する。光学部品10は、照射部2から射出された光をインプリント処理に適切な光に調整するための光学素子を含みうる。
【0017】
モールド3は、外周形状が矩形でありうる。モールド3は、基板5に対向する面に3次元状に形成されたパターン部3aを有する。モールド3の材質は、石英ガラス等の紫外線を透過させることが可能な材料である。
【0018】
モールド保持部4は、ベース定盤11により支柱12を介して支持されたブリッジ定盤13に固定されている。基板ステージ6は、ベース定盤11に固定されている。モールド保持部4は、真空吸着または静電力によってモールド3を保持するモールド保持機構41と、モールド保持機構41をZ方向に移動させるモールド移動機構42とを含みうる。モールド保持機構41及びモールド移動機構42は、照射部2からの光が基板5上のインプリント材に照射されるように、中心部(内側)に開口を有する。モールド移動機構42は、例えば、ボイスコイルモータ、エアシリンダ等のアクチュエータを含みうる。モールド移動機構42は、基板上のインプリント材にモールド3を接触させたり、基板上のインプリント材からモールド3を引き離したりするために、モールド保持機構41(モールド3)をZ方向に移動させる。モールド移動機構42は、Z方向だけではなく、X方向やY方向にモールド保持機構41の位置を調整する機能を有するように構成されていてもよい。更に、モールド移動機構42は、モールド保持機構41のθZ方向の位置を調整する機能やモールド保持機構41の傾き(すなわち、θXおよびθY方向の位置)を調整するためのチルト機能を有するように構成されていてもよい。
【0019】
モールド保持部4は、モールド変形機構43を更に備えうる。モールド変形機構43は、モールド3の側面に外力または変位を与えることによりモールド3(パターン部3a)の形状を補正する。モールド変形機構43は、例えば、複数のアクチュエータを含み、モールド3の各側面の複数箇所を加圧するように構成される。
【0020】
基板ステージ6は、基板チャック7と、基板チャック7を駆動するステージ駆動部61と、基板チャック7およびステージ駆動部61を搭載する定盤62とを含みうる。モールド3と基板5上のインプリント材とを接触させる際の基板5とモールド3との位置合わせは、基板ステージ6により、基板5をX方向およびY方向に移動させることにより行われうる。基板チャック7は、例えば、真空吸着あるいは静電作用によって基板5を基板保持面に吸着して保持する。ステージ駆動部61は、基板チャック7を機械的に保持して、基板チャック7をX方向およびY方向に駆動する。ステージ駆動部61には、例えばリニアモータが用いられうる。ステージ駆動部61は、粗動駆動系および微動駆動系を含む複数の駆動系によって構成されてもよい。ステージ駆動部61は、基板5をZ方向に駆動する駆動機能、基板5のθZ方向の位置を調整する位置調整機能、および、基板5の傾き(すなわち、θXおよびθY方向の位置)を調整するチルト機能を有していてもよい。
【0021】
基板ステージ6の位置の計測には、例えば、基板ステージ6に設けられたスケールと、ステージ駆動部61に設けられたヘッド(光学機器)とを含むエンコーダシステムが用いられうるが、それに限定されない。例えば、基板ステージ6の位置の計測には、レーザ干渉計と、ステージ駆動部61に設けられた反射鏡とを含む干渉計システムが用いられてもよい。
【0022】
供給部8は、基板5上にインプリント材を供給する。供給部8から基板5上に供給されるインプリント材は、半導体デバイスの製造工程における各種条件によって適宜選択されうる。また、供給部8の吐出口から吐出されるインプリント材の位置や量は、基板上のインプリント材に形成されるパターンの厚さやパターンの密度などを考慮して適宜決定されうる。基板上に供給されたインプリント材を、モールド3に形成されたパターンに十分に充填させるために、モールド3とインプリント材とを接触させた状態で一定の時間を経過させてもよい。
【0023】
アライメント光学系9は、基板5に形成されたアライメントマークとモールド3に形成されたアライメントマークとのXおよびY方向の位置ずれを計測する。計測された位置ずれに基づいて、基板ステージ6の位置が調整されうる。
【0024】
インプリント装置1は、基板5の上面までの距離を計測する高さ計測装置(不図示)を更に備えていてもよい。高さ計測装置は、インプリント装置1の外部装置であってもよい。その場合、高さ計測装置で計測されたデータがインプリント装置1に伝送され、制御部14のメモリに記憶されうる。
【0025】
制御部14は、例えば、CPUやメモリ等を含むコンピュータによって構成される。制御部14は、メモリに格納されたプログラムに従ってインプリント装置1の動作を統括的に制御する。
【0026】
図2、
図3、
図4を参照して、基板チャック7の構成を説明する。
図2は、基板5およびそれを保持する基板チャック7をZ軸上方から見た平面図である。
図3は、
図2から基板5を取り去ることで基板保持面が露出した基板チャック7の平面図である。
図4は、
図2に示されたA-A’線に沿う断面図である。
【0027】
図3に示されるように、基板チャック7の基板5の載置面(基板保持面)には、外周側隔壁7aと、外周側隔壁7aの内周側に形成された内周側隔壁7bとが形成されている。また、基板保持面の内周側隔壁7bの内周側の領域には、基板5を支持するための複数の突起部7cが形成されている。外周側隔壁7aと内周側隔壁7bは、基板の形状に応じて、同心状に配置される。ここでは、基板5が円形であることが想定されているため、外周側隔壁7aと内周側隔壁7bとは同心円状に配置されている。
【0028】
(基板チャック7の断面の構成)
図4に示されるように、基板チャック7の基板載置面(基板保持面)において、外周側隔壁7aの高さ(Z方向の位置)は、複数の突起部7cおよび内周側隔壁7bよりも低い。一例において、外周側隔壁7aと、複数の突起部7cおよび内周側隔壁7bとの高さの差は、1~10μmでありうる。
図4では、外周側隔壁7aと、複数の突起部7cおよび内周側隔壁7bとの高さの差がデフォルメして描かれていることに留意されたい。
【0029】
基板チャック7は、基板保持面において基板5を吸着(吸引)するための、複数の吸着領域を有しうる。複数の吸着領域は、隔壁によって同心状に仕切られた、外周側吸着領域7d(第1吸着領域)と、外周側吸着領域7dの内周側に形成された内周側吸着領域7e(第2吸着領域)とを含みうる。外周側吸着領域7dは、外周側隔壁7aと内周側隔壁7bとに囲まれた空間に形成される。内周側吸着領域7eは、内周側隔壁7bよりも内周側にて複数の突起部7cを有する空間に形成される。
【0030】
また、本実施形態において、基板チャック7の内部には、円板状の空間である中空部7fが形成されている。中空部7fは、外周側吸着領域7dと内周側吸着領域7eとの下の、基板チャック7の内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより基板保持面を変位させるように構成された圧力空間である。一例において、中空部7fは、外周側隔壁7aおよび内周側隔壁7bと同心円状に形成される。中空部7fへ圧力を印加することにより基板チャック7を変形させ、該変形を基板5に伝達して、基板5を変形させることを狙いとしている。
【0031】
しかし、
図4に示されるように、外周側吸着領域7dにおいては、基板5は基板チャック7によって支持されていないため、中空部7fへの圧力印加による基板チャック7の変形を基板5に伝達することができない。本実施形態では、効率的に中空部7fの変形を基板5に伝達させるため、中空部7fの外周側端部の半径を、外周側隔壁7aの中立半径以下とする。具体的には、中空部7fの外周端の半径である中空部外径7faが、外周側隔壁7aの中立半径である外周側隔壁径7aa以下となるように、中空部7fが配置される。
【0032】
(基板5の吸着方法)
図5に示されるように、基板5の基板チャック7への真空吸着は、内周側吸着領域7eを真空にすることにより実現される。
図5において、濃いハッチング(クロスハッチング)で示された内周側吸着領域7eは、内周側隔壁7bよりも内側にある複数の突起部7cが配置された領域と、基板チャック7を下側まで貫通する排気経路(流路)とを含みうる。
【0033】
外周側隔壁7aの高さ(Z方向の位置)は、複数の突起部7cおよび内周側隔壁7bより低い。
図6において、内周側隔壁7bと外周側隔壁7aとに囲まれた空間である、斜めハッチングで示された外周側吸着領域7dによっても、基板5を吸着することができる。外周側吸着領域7dも基板チャック7を貫通する排気経路(流路)を持つ。
【0034】
中空部7fも、基板チャック7を下側まで貫通する流路を持つ。外周側吸着領域7d、内周側吸着領域7e、中空部7fはそれぞれ、流路を介して不図示の圧力制御部(真空装置)に接続され、各空間の圧力が個別に制御されうる。なお、これらの流路は、基板チャック7の下側から圧力制御部に接続されてもよいし、基板チャック7の別の面を貫通して圧力制御部に接続されてもよい。
【0035】
内周側隔壁7bよりも内周側に、内周側吸着領域7eを更に同心円状に仕切る不図示の中央隔壁が設けられてもよい。この中央隔壁によって、内周側吸着領域7eは更に複数の領域に分割される。中央隔壁によって形成された複数の領域もそれぞれ、圧力制御部に接続され、各空間の圧力が個別に制御されうる。中央隔壁は中空部7fの内周側端部よりも内側に配置されることが好ましい。一例において、中央隔壁の中立半径が、中空部7fの内周側端部の半径以下である。
【0036】
内周側吸着領域7eに配置される複数の突起部7cのそれぞれは、例えば直径5mm以下のピン状の突起であって、隔壁のような領域に仕切る形状ではない。該突起の上端面形状は、円形状でもよいし、矩形形状でもよい。
【0037】
(中空部による基板変形方法)
制御部14は、基板チャック7の基板保持面の形状を制御して、基板チャック7によって保持された基板5を変形させる。以下、中空部7fによる基板5の変形方法を説明する。上記したように、中空部7fも、基板チャック7を貫通する流路を持ち、この流路が不図示の圧力制御部に接続される。中空部7fの流路は、
図6に示されるように基板チャック7の下面を貫通して圧力制御部に接続されてもよいし、基板チャック7の別の面を貫通して圧力制御部に接続されてもよい。制御部14は、圧力制御部を制御することにより、中空部7fの内部の圧力を制御する。
【0038】
例えば、
図7に示されるように、中空部7fを排気して圧力を下げることにより、基板載置面が凹むように基板チャック7を変形させることができる。逆に、中空部7fを加圧することにより、基板載置面が上凸形状になるように基板チャック7を変形させることができる。基板5は基板チャック7の変形に応じて曲げ変形しうる。一例において、基板5は、位置7gを起点として変形しうる。
図7では、便宜的に、位置7gにおいて基板5が折れるように変形しているが、実際には曲線状に変形しうる。
【0039】
基板5が曲げ変形すると、板の曲げ理論において、傾斜した上表面と下表面のそれぞれにX方向に正負逆となるタンジェント成分で位置がずれる。このように、基板5の上表面の位置がずれることで、パターン部3aとの重ね合わせ精度に差分ずれが生じる。この重ね合わせの差分ずれを、既知の重ね合わせ誤差に対して相殺されるように適用することで、重ね合わせ精度を改善することができる。
【0040】
次に
図8を参照して、外周側吸着領域7dによって基板5に変形を付加する場合について説明する。
図8では、外周側吸着領域7dを加圧(陽圧)することにより、基板5が上方に跳ね上がる変形をさせている。基板5は、内周側吸着領域7eによって内周側隔壁7bの位置まで吸着保持されている。このため、外周側吸着領域7dの加圧により基板5は、
図8に示された位置7hを起点に変形する。
図8の例のように、中空部7fを減圧(負圧)とし、外周側吸着領域7dを加圧(陽圧)する場合、基板5は波型に変形しうる。
【0041】
重ね合わせの補正においては、中空部7fによる基板変形の起点となる位置7gと、外周側吸着領域7dによる基板変形の起点となる位置7hとが分離されていることが望ましい。また、一例として、
図9に、中空部7fを陽圧、外周側吸着領域7dを負圧にした場合の基板5の変形例を示す。位置7gよりも外周側の基板5の変形は
図8と逆位相となることが分かる。
【0042】
図4を参照して説明したように、本実施形態では、中空部外径7faが外周側隔壁径7aa以下となるように中空部7fが配置される。更に、中空部7fの凹凸変形が最大となるように、中空部7fの中立半径7fbが内周側隔壁7bの中立半径7bb以下であることが望ましい。中空部7fの中立半径7fbと内周側隔壁7bの中立半径7bbが同じであれば、基板5の変形は最大となる。中空部7fの中立半径7fbが内周側隔壁7bの中立半径7bbよりも小さい場合には、基板を保持する領域で変形の最大点を設定することができる。
【0043】
ただし、中空部7fの外径7faが内周側隔壁7bの中立半径7bb未満になると、基板5は、基板変形の起点となる位置7gと位置7hとの間の位置で別の変曲点を持つことになる。このような配置の場合、基板5の曲げ変形によって生成できる重ね合わせ差分が高次の非線形差分曲線となるため、重ね合わせ誤差の補正には不適となる。したがって、中空部7fの外周側端部の半径(外径7fa)が、内周側隔壁7bの中立半径以上(7fa≧7bb)であることが望ましい。
【0044】
なお、中空部7fの圧力印加と外周側吸着領域7dの圧力印加を行う順序には特段の限定はない。上記で例示したように、中空部7fの圧力印加に続いて外周側吸着領域7dの圧力印加を行うようにしてもよいし、外周側吸着領域7dの圧力印加に続いて中空部7fの圧力印加を行うようにしてもよい。
【0045】
中空部7fと外周側吸着領域7dを用いた重ね合わせ補正では、制御部14は、予め得られた歪み情報に基づいて、歪みが最小化されるように中空部7fと外周側吸着領域7dそれぞれの圧力を制御する。歪み情報は、事前に取得した基板5の下地パターンの歪み情報と、基板5のZ方向の高さ分布情報から換算される歪み情報とのうちのいずれかでありうる。歪み情報は、基板5がインプリント装置1に搬入される前に取得されてもよいし、インプリント装置1に配置された不図示の歪計測センサを用いて取得されてもよい。
【0046】
中空部7fおよび外周側吸着領域7dそれぞれの圧力制御は、ショット領域(インプリント領域)においてインプリント材を硬化させる硬化工程が完了する前に完了しておくことが望ましい。ただし、生産性向上のために、中空部7fおよび外周側吸着領域7dそれぞれの圧力制御と硬化工程とが並行して実施されてもよい。その場合、インプリント材が完全に硬化する前に圧力制御が完了することが望ましい。
【0047】
中空部7fへの圧力印加によって基板チャック7が変形する際、基板チャック7と基板5との間の摩擦力によって、基板チャック7表面のX方向の伸縮変形に引きずられて、基板5も伸縮変形されて基板5に不要な歪みが生じうる。この不要な歪みへの対応として、中空部7fが所望の圧力に到達した後に、基板5の歪みを解放すべく内周側吸着領域7eの圧力をいったん緩めてから再度所望の圧力に戻す「歪解放」制御を行ってもよい。歪解放を行うため、制御部14は、例えば、内周側吸着領域7eに負圧を印加した状態で中空部7fに所望の圧力を印加した後、内周側吸着領域7eの負圧印加をいったん解き、その後、再び内周側吸着領域7eの負圧印加を行う。この歪解放が実施された後に硬化工程が実施されることが望ましい。
【0048】
基板5は、
図10に示すように複数のショット領域を有し、複数のショット領域のそれぞれに対してインプリント処理が実施される。重ね合わせ誤差の補正のための中空部7fおよび外周側吸着領域7dそれぞれの圧力制御は、全てのショット領域で共通の圧力制御値で行われうる。ただし、ショット領域毎に重ね合わせ誤差が異なる場合があるため、ショット領域毎に異なる圧力制御値で圧力制御が行われてもよい。
【0049】
図10に示される第1ショット領域15において、中空部7fと外周側吸着領域7dとを所望の圧力に制御して硬化工程が行われた後、次のショット領域(第2ショット領域)をインプリント処理する場面を考える。この場合、中空部7fおよび外周側吸着領域7dの圧力を第1ショット領域15のときとは異なる圧力に制御すると、第2ショット領域に不要な歪みが生じうる。この対策として、制御部14は、第2ショット領域の硬化工程が完了する前に、内周側吸着領域7eの負圧印加を一時的に解くようにしてもよい。あるいは、制御部は、第2ショット領域の硬化工程が完了する前に、中空部7fの圧力を初期値に戻すようにしてもよい。あるいは、制御部14は、第2ショット領域の硬化工程が完了する前に、内周側吸着領域7eの負圧印加を一時的に解くこと、および、中空部7fの圧力を初期値に戻すことの療法を行うようにしてもよい。これにより、基板5の不要な歪みを解放することができ、重ね合わせ誤差の補正精度を改善することができる。
【0050】
<物品製造方法の実施形態>
本発明の実施形態における物品製造方法は、例えば、半導体デバイス等のマイクロデバイスや微細構造を有する素子等の物品を製造するのに好適である。本実施形態の物品製造方法は、上記のリソグラフィ装置(露光装置やインプリント装置、描画装置など)を用いて基板に原版のパターンを転写する工程と、かかる工程でパターンが転写された基板を加工する工程とを含む。更に、かかる製造方法は、他の周知の工程(酸化、成膜、蒸着、ドーピング、平坦化、エッチング、レジスト剥離、ダイシング、ボンディング、パッケージング等)を含む。本実施形態の物品製造方法は、従来の方法に比べて、物品の性能・品質・生産性・生産コストの少なくとも1つにおいて有利である。
【0051】
本明細書の開示は、少なくとも以下の基板チャック、リソグラフィ装置、および物品製造方法を含む。
(項目1)
基板を基板保持面に吸着して保持する基板チャックであって、
前記基板保持面において、隔壁によって同心円状に仕切られた、第1吸着領域と該第1吸着領域の内周側に形成された第2吸着領域とを含む、複数の吸着領域と、
前記第1吸着領域と前記第2吸着領域との下の、前記基板チャックの内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより前記基板保持面を変位させるように構成された圧力空間と、を有し、
前記第1吸着領域の外周側隔壁の高さは、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域とを仕切る内周側隔壁よりも低く、
前記圧力空間の外周側端部の半径が、前記外周側隔壁の中立半径以下である、
ことを特徴とする基板チャック。
(項目2)
前記圧力空間の中立半径が、前記内周側隔壁の中立半径以下である、ことを特徴とする項目1に記載の基板チャック。
(項目3)
前記圧力空間の前記外周側端部の半径が、前記内周側隔壁の中立半径以上である、ことを特徴とする項目1または2に記載の基板チャック。
(項目4)
前記第2吸着領域を更に同心円状に仕切る中央隔壁を更に有する、ことを特徴とする項目1から3のいずれか1項目に記載の基板チャック。
(項目5)
前記中央隔壁の中立半径が、前記圧力空間の内周側端部の半径以下である、ことを特徴とする項目4に記載の基板チャック。
(項目6)
前記第2吸着領域に形成された、前記基板を支持するための複数の突起部を更に有することを特徴とする項目1から5のいずれか1項目に記載の基板チャック。
(項目7)
原版のパターンを基板に転写するリソグラフィ装置であって、
前記基板を基板保持面に吸着して保持する基板チャックと、
前記基板チャックの基板保持面の形状を制御して、前記基板チャックによって保持された前記基板を変形させる制御部と、
を備え、
前記基板チャックは、
前記基板保持面において、隔壁によって同心円状に仕切られた、第1吸着領域と該第1吸着領域の内周側に形成された第2吸着領域とを含む、複数の吸着領域と、
前記第1吸着領域と前記第2吸着領域との下の、前記基板チャックの内部に形成され、負圧または正圧が印加されることにより前記基板保持面を変位させるように構成された圧力空間と、を有し、
前記第1吸着領域の外周側隔壁は、前記第1吸着領域と前記第2吸着領域とを仕切る内周側隔壁よりも低く、
前記圧力空間の外周側端部の半径が、前記外周側隔壁の中立半径以下であり、
前記制御部は、前記第1吸着領域、前記第2吸着領域、および前記圧力空間の圧力を個別に制御することにより、前記基板を変形させる、
ことを特徴とするリソグラフィ装置。
(項目8)
前記制御部は、前記基板の歪み情報に基づいて、前記第1吸着領域および前記圧力空間の圧力を個別に制御する、ことを特徴とする項目7に記載のリソグラフィ装置。
(項目9)
前記制御部は、前記圧力空間の圧力印加に続いて、前記第1吸着領域の圧力印加を行う、ことを特徴とする項目8に記載のリソグラフィ装置。
(項目10)
前記制御部は、前記第1吸着領域の圧力印加に続いて、前記圧力空間の圧力印加を行う、ことを特徴とする項目8に記載のリソグラフィ装置。
(項目11)
前記制御部は、前記第2吸着領域に負圧を印加した状態で前記圧力空間に圧力を印加した後、前記第2吸着領域の負圧印加をいったん解き、その後、再び前記第2吸着領域の負圧印加を行う、ことを特徴とする項目7から10のいずれか1項目に記載のリソグラフィ装置。
(項目12)
前記リソグラフィ装置は、前記原版である型を用いて基板の上のインプリント材にパターン形成を行うインプリント処理を行うインプリント装置として構成されている、ことを特徴とする項目7から11のいずれか1項目に記載のリソグラフィ装置。
(項目13)
前記インプリント処理は、前記インプリント材と前記型とが接触した状態で前記インプリント材を硬化させる硬化工程を含み、
前記制御部は、前記硬化工程が完了する前に、前記第1吸着領域、前記第2吸着領域、および前記圧力空間の圧力制御を完了させる、ことを特徴とする項目12に記載のリソグラフィ装置。
(項目14)
前記インプリント処理は、前記インプリント材と前記型とが接触した状態で前記インプリント材を硬化させる硬化工程を含み、
前記インプリント装置は、前記基板に形成された複数のショット領域のそれぞれに前記インプリント処理を行うように構成され、
前記制御部は、各ショット領域の前記インプリント処理において、前記硬化工程が完了する前に、前記第2吸着領域の負圧印加を一時的に解く、
ことを特徴とする項目12または13に記載のリソグラフィ装置。
(項目15)
項目7から14のいずれか1項目に記載のリソグラフィ装置を用いて基板にパターンを形成する工程と、
前記パターンが形成された基板を加工する工程と、
を有し、前記加工された基板から物品を製造する、ことを特徴とする物品製造方法。
【0052】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【符号の説明】
【0053】
1:インプリント装置、2:照射部、3:モールド、4:モールド保持部、5:基板、6:基板ステージ、7:基板チャック、7a:外周側隔壁、7b:内周側隔壁、7c:複数の突起部、7f:中空部(圧力空間)