(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178823
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】膜電極接合体用の触媒層、膜電極接合体、及び電気化学デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 4/86 20060101AFI20241218BHJP
H01M 4/96 20060101ALI20241218BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20241218BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20241218BHJP
C25B 1/02 20060101ALI20241218BHJP
C25B 11/054 20210101ALI20241218BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20241218BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20241218BHJP
【FI】
H01M4/86 B
H01M4/96 B
H01M12/08 K
C25B9/23
C25B1/02
C25B11/054
C25B11/03
H01M8/10 101
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097259
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100168273
【弁理士】
【氏名又は名称】古田 昌稔
(72)【発明者】
【氏名】古賀 功一
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 功彬
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 拓也
(72)【発明者】
【氏名】引地 巧
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
5H018
5H032
5H126
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA29
4K011AA30
4K021AA01
4K021DB19
4K021DB43
4K021DB53
4K021DC03
5H018AA06
5H018EE06
5H018HH01
5H018HH05
5H032AA01
5H032AS11
5H032AS12
5H032CC11
5H032EE15
5H032EE18
5H032HH04
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供する。
【解決手段】本開示の膜電極接合体用の触媒層は、複数の担体粒子11と、複数の担体粒子11に担持された複数の触媒粒子12と、複数の担体粒子11に接するように配置された複数の導電性粒子13と、担体粒子11及び導電性粒子13の少なくとも1つに付着したアイオノマー15と、を備え、導電性粒子13は、短軸及び長軸を有するとともに、相互に連通した複数の細孔13hを有する親水性の粒子である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の担体粒子と、
前記複数の担体粒子に担持された複数の触媒粒子と、
前記複数の担体粒子に接するように配置された複数の導電性粒子と、
前記担体粒子及び前記導電性粒子の少なくとも1つに付着したアイオノマーと、
を備え、
前記導電性粒子は、短軸及び長軸を有するとともに、相互に連通した複数の細孔を有する親水性の粒子である、
膜電極接合体用の触媒層。
【請求項2】
前記導電性粒子の前記複数の細孔のモード径は、前記複数の担体粒子、前記アイオノマー及び前記複数の導電性粒子によって形成される前記触媒層の一次細孔のモード径よりも小さい、
請求項1に記載の膜電極接合体用の触媒層。
【請求項3】
前記複数の担体粒子のモード径がXで表され、前記複数の導電性粒子の前記短軸の長さの平均値がAで表され、前記複数の導電性粒子の前記長軸の長さの平均値がBで表されるとき、A<X<Bが満たされる、
請求項1に記載の膜電極接合体用の触媒層。
【請求項4】
前記複数の担体粒子の質量に対する、前記複数の導電性粒子の質量の比率が25%以上である、
請求項1に記載の膜電極接合体用の触媒層。
【請求項5】
前記担体粒子がメソポーラス粒子であり、
前記触媒粒子が前記メソポーラス粒子の細孔の内部に配置されている、
請求項1に記載の膜電極接合体用の触媒層。
【請求項6】
前記導電性粒子がグラフェンメソスポンジを含む、
請求項1に記載の触媒層。
【請求項7】
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが請求項1に記載の触媒層を有する、
膜電極接合体。
【請求項8】
請求項7に記載の膜電極接合体を備えた、
電気化学デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、膜電極接合体用の触媒層、膜電極接合体、及び電気化学デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池などの電気化学デバイスには、アノード、電解質膜及びカソードを有する膜電極接合体が用いられる。膜電極接合体のアノード及びカソードは、それぞれ、触媒層を有する。触媒層には、電極触媒として、触媒粒子を担持したカーボン粒子が用いられる。触媒層において、電極触媒は、イオン伝導性を有するアイオノマーで覆われている。
【0003】
触媒粒子は、アイオノマーによって被毒されることがある。触媒粒子が被毒されると触媒粒子の活性が低下し、電気化学反応の効率が低下する。特許文献1に記載されているように、メソポーラスカーボン粒子の細孔の内部に触媒粒子を配置することによって、アイオノマーによる触媒粒子の被毒を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来技術においては、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、
複数の担体粒子と、
前記複数の担体粒子に担持された複数の触媒粒子と、
前記複数の担体粒子に接するように配置された複数の導電性粒子と、
前記担体粒子及び前記導電性粒子の少なくとも1つに付着したアイオノマーと、
を備え、
前記導電性粒子は、短軸及び長軸を有するとともに、相互に連通した複数の細孔を有する親水性の粒子である、
膜電極接合体用の触媒層を提供する。
【0007】
別の側面において、本開示は、
アノードと、
カソードと、
前記アノードと前記カソードとの間に配置された電解質膜と、
を備え、
前記カソードが上記本開示の触媒層を有する、
膜電極接合体を提供する。
【0008】
さらに別の側面において、本開示は、
上記本開示の膜電極接合体を備えた、
電気化学デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本開示の技術によれば、電気化学反応の効率を向上させることに適した触媒層を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1における固体高分子形燃料電池の概略断面図
【
図4】カソード触媒層109の作用を模式的に示す図
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の基礎となった知見等)
本発明者らが本開示に相到するに至った当時、燃料電池の触媒層における電気化学反応の効率を高めるためには、プロトン供給の観点から、触媒、水及びアイオノマーの三相界面をより多く形成することが重要であると考えられてきた。しかし、近年、アイオノマーと触媒との接触により触媒がアイオノマーに被毒され、効率が低下することが分かってきた。
【0012】
特許文献1に記載されているように、メソポーラスカーボン粒子の細孔の内部に触媒粒子を配置することでアイオノマーによる触媒の被毒を抑制できる。しかし、メソポーラスカーボン粒子は嵩高いので、メソポーラスカーボン粒子を用いると触媒層の厚さが増加する。触媒層の厚さが増加するとプロトン及び酸素の輸送距離が長くなり、触媒層のプロトン輸送抵抗及び酸素輸送抵抗が増加する。
【0013】
そうした状況下において、本発明者らは、電子顕微鏡による直接観察及び電気化学解析等により、酸素輸送抵抗の要因を詳細に解析した。その結果、プロトン輸送経路の形成のために使用された過剰なアイオノマー及び発電により生成した水が、触媒層の一次細孔を閉塞し、酸素が触媒に十分に輸送されていないことを把握した。
【0014】
本発明者らは、プロトン輸送経路及び排水経路の機能を併せ持つ材料を触媒層に導入できれば、上記課題を解決できることを着想し、本開示の主題を構成するに至った。
【0015】
以下、図面を参照しながら実施の形態を詳細に説明する。ただし、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、又は、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。
【0016】
添付図面及び以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0017】
(実施の形態1)
以下、
図1から
図4を用いて、実施の形態1を説明する。
【0018】
[1-1.構成]
図1は、実施の形態1における燃料電池101の概略断面図である。燃料電池101は、膜電極接合体113、アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111を備えている。アノードセパレータ106とカソードセパレータ111との間に膜電極接合体113が配置されている。燃料電池101は、例えば、固体高分子形燃料電池である。
【0019】
膜電極接合体113は、水素の精製を行う水素精製デバイスなどの他の電気化学デバイスにも使用されうる。
【0020】
膜電極接合体113は、アノード103、電解質膜102及びカソード108を有する。電解質膜102の一方の面にアノード103が接合されている。電解質膜102の他方の面にカソード108が接合されている。
【0021】
電解質膜102は、アノード103とカソード108との間に配置されている。電解質膜102は、プロトン伝導性を有する高分子材料で作られている。電解質膜102は、例えば、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、又は、炭化水素系の高分子材料でできた膜である。
【0022】
アノード103は、アノード触媒層104及びアノードガス拡散層105を有する。電解質膜102とアノードガス拡散層105との間にアノード触媒層104が配置されている。カソード108は、カソード触媒層109及びカソードガス拡散層110を有する。電解質膜102とカソードガス拡散層110との間にカソード触媒層109が配置されている。
【0023】
アノード触媒層104は、水素をプロトンに解離する電気化学反応を促進する機能を有する。アノード触媒層104は、電極触媒及びアイオノマーを有する。アノード触媒層104は、触媒粒子を担持したカーボン粒子及びアイオノマーを有していてもよい。
【0024】
アノードガス拡散層105は、アノード触媒層104に水素含有ガスを供給する機能、及び、アノード触媒層104から電子を受け取る機能を有する。アノードガス拡散層105は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。アノードガス拡散層105は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0025】
カソード触媒層109は、プロトンと酸素とから水を生成する電気化学反応を促進する機能を有する。カソード触媒層109の詳細な構造は後述する。
【0026】
カソードガス拡散層110は、カソード触媒層109に酸化剤ガスを供給する機能、及び、カソード触媒層109に電子を受け渡す機能を有する。カソードガス拡散層110は、ガス透過性及び導電性を有する材料によって構成されている。カソードガス拡散層110は、主たる材料として、例えば、導電性を有する多孔質体を有する。多孔質体としては、カーボンペーパーなどの炭素繊維集合体が挙げられる。
【0027】
アノードセパレータ106には、アノードガスの流路であるアノードガス流路107が設けられている。カソードセパレータ111には、カソードガスの流路であるカソードガス流路112が設けられている。アノードセパレータ106及びカソードセパレータ111は、それぞれ、カーボン、金属などの導電性材料で作られている。腐食を防止するために、樹脂膜、めっき膜などの耐食性を有する被膜が設けられていてもよい。
【0028】
図2は、カソード触媒層109の部分拡大断面図である。カソード触媒層109は、電極触媒10、導電性粒子13、及びアイオノマー15を有する。電極触媒10、導電性粒子13、及びアイオノマー15が相互に接している。電極触媒10は、粒子の形状を有する。電極触媒10の粒子は、担体粒子11及び複数の触媒粒子12を有する。複数の触媒粒子12が担体粒子11に担持されている。複数の担体粒子11、アイオノマー15及び複数の導電性粒子13によって、カソード触媒層109の一次細孔14が形成されている。
【0029】
アイオノマー15は、プロトン伝導性を有する電解質であり、電極触媒10を互いにプロトン伝導可能な状態に連結している。アイオノマー15は、担体粒子11に付着している。担体粒子11の表面の一部のみがアイオノマー15によって被覆されていてもよく、担体粒子11の表面の全部がアイオノマー15によって被覆されていてもよい。アイオノマー15は、導電性粒子13に付着していてもよい。
【0030】
アイオノマー15としては、スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料、炭化水素系の高分子材料などが挙げられる。スルホン酸基を有するパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子材料は、優れたプロトン伝導性を有するので、アイオノマー15に適している。
【0031】
電極触媒10において、担体粒子11は導電性を有する。担体粒子11は、例えば、中実又は多孔質の粒子である。中実の粒子は、典型的には、カーボン粒子である。中実のカーボン粒子としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどのカーボンブラックの粒子が挙げられる。中実のカーボン粒子の場合、その表面に触媒粒子12が担持される。
【0032】
多孔質の粒子は、相互に連通した複数の細孔を有する材料である。多孔質の粒子は、例えば、メソポーラス粒子である。メソポーラス粒子としては、メソポーラスカーボン粒子が挙げられる。メソポーラス粒子においては、細孔(メソ孔)の内部に触媒粒子12が配置される。メソポーラス粒子の細孔の内部に触媒粒子12を配置することによって、アイオノマー15による触媒粒子12の被毒を抑制することができる。
【0033】
中実の担体粒子11の形状は、例えば球状である。中実の担体粒子11は、例えば、10nm以上1μm以下の平均粒径を有する。多孔質の担体粒子11の形状は、例えば球状である。多孔質の担体粒子11は、例えば、100nm以上2μm以下の平均粒径を有する。
【0034】
担体粒子11の平均粒径は、複数(例えば、100個以上)の担体粒子11の直径の平均値である。担体粒子11の直径は、走査型電子顕微鏡(SEM)又は透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定されうる。電極触媒10のSEM像又はTEM像において、担体粒子11の面積を画像処理によって求める。求めた面積と等しい面積を有する円の直径を担体粒子11の直径とみなすことができる。
【0035】
触媒粒子12は、白金、白金合金などの貴金属を含む粒子でありうる。白金合金としては、白金と、コバルト、ニッケル、ルテニウム及びパラジウムからなる群より選ばれる少なくとも1種との合金が挙げられる。
【0036】
触媒粒子12は、ナノ粒子であってもよい。触媒粒子12は、例えば、1nm以上30nm以下の平均粒径を有する。触媒粒子12の平均粒径は、複数(例えば、100個以上)の触媒粒子12の直径の平均値である。触媒粒子12の直径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定されうる。電極触媒10のTEM像において、触媒粒子12の面積を画像処理によって求める。求めた面積と等しい面積を有する円の直径を触媒粒子12の直径とみなすことができる。
【0037】
導電性粒子13は、短軸及び長軸を有する多孔質かつ親水性の粒子である。導電性粒子13としての多孔質の粒子は、相互に連通した複数の細孔を有する。このような構造及び性質を有することにより、導電性粒子13は、吸水性を有する。吸水性を有する導電性粒子13は、カソード触媒層109の一次細孔14に滞留する水を毛管現象によって吸収することができる。また、相互に連通した細孔に水が吸収されることにより、導電性粒子13は、プロトン輸送経路として機能する。そのため、アイオノマー15の使用量を減らすことができる。特に、一次細孔14に偏析するアイオノマー15を減らすことができる。水及びアイオノマー15によって一次細孔14が閉塞されにくいので、プロトン輸送抵抗を抑制しながら、酸素輸送抵抗も低減できる。その結果、カソード触媒層109における電気化学反応の効率を高めることができる。
【0038】
導電性粒子13が親水性を有するとは、導電性粒子13の表面に親水性の官能基が付与されていることを意味する。親水性の官能基としては、ヒドロキシル基(-OH)、カルボキシル基(-COOH)、アミノ基(-NH2)、スルホ基(-SO3H)などが挙げられる。導電性粒子13に親水性を付与するために、導電性粒子13の原料に酸素プラズマ処理などの表面処理を施すことによって、親水性の官能基が表面に付与され、親水性を有する導電性粒子13が得られる。複数の種類の親水性の官能基が導電性粒子13の表面に付与されていてもよい。一般に、炭素繊維などの炭素材料の表面には、アルキル基が存在する。特別な処理を施さない場合、それらの炭素材料は疎水性を有する。プラズマ処理などの表面処理によって、アルキル基を親水性の官能基に置き換えることができる。
【0039】
導電性粒子13の表面における親水性の官能基の存在は、エネルギー分散型X線分析、赤外吸収分光分析、飛行時間型二次イオン質量分析などによって確かめることができる。
【0040】
図3は、導電性粒子13の拡大図である。導電性粒子13は、短軸及び長軸を有する。短軸及び長軸は、互いに直交する軸である。導電性粒子13の短軸に平行な方向を第1方向D1、導電性粒子13の長軸に平行な方向を第2方向D2、短軸と長軸との両方に垂直な方向を第3方向D3と定義する。
【0041】
第1方向D1における導電性粒子13の長さL1は、例えば0.02μm以上1μm以下であり、0.05μm以上0.5μm以下であることが望ましい。第2方向D2における導電性粒子13の長さL2は、例えば0.05μm以上2μm以下であり、0.1μm以上1μm以下であることが望ましい。長さL1を短軸の長さ、長さL2を長軸の長さとみなすことができる。
【0042】
第2方向D2における導電性粒子13の長さL2は、例えば、第1方向D1における導電性粒子13の長さL1の2倍以上である。長さL1に対する長さL2の倍率の上限値は特に限定されず、例えば100倍以下である。第3方向D3における導電性粒子13の長さL3は、例えば、第1方向D1における導電性粒子13の長さL1の2倍以上である。長さL1に対する長さL3の倍率の上限値は特に限定されず、例えば100倍以下である。
【0043】
導電性粒子13の上記の寸法は、任意の数(例えば、100個)の粒子に関する平均値であってもよい。
【0044】
導電性粒子13は、鱗片状又はシート状の形状を有していてもよい。この場合、導電性粒子13が上記した寸法関係を満たしやすい。
【0045】
導電性粒子13の形状及び寸法は、集束イオンビーム(FIB)装置と走査型電子顕微鏡(SEM)とを組み合わせた三次元SEM観察法によって特定可能である。すなわち、FIBによるエッチング加工とSEMによる観察とを細かく繰り返し、取得した像を再構築することによって、導電性粒子13の立体的な構造情報が得られる。導電性粒子13の立体的な構造情報から、導電性粒子13に外接する最小体積の直方体を特定する。直方体の最も短い辺が導電性粒子13の短軸に相当する。直方体の最も短い辺の長さは、短軸に平行な第1方向D1における導電性粒子13の長さL1に相当する。直方体の最も長い辺が導電性粒子13の長軸に相当する。直方体の最も長い辺の長さは、長軸に平行な第2方向D2における導電性粒子13の長さL2に相当する。最も短い辺と最も長い辺とに直交する辺が導電性粒子13の第3の軸に相当する。最も短い辺と最も長い辺とに直交する辺の長さは、第3の軸に平行な第3方向D3における導電性粒子13の長さL3に相当する。
【0046】
三次元SEMに代えて、以下の二次元観察法によって導電性粒子13の形状及び寸法を特定することも可能である。カソード触媒層109を水-エタノール混合物のような溶媒に溶かして溶液を調製し、溶液をガラス板などの基板上に薄く塗布して塗布膜を形成する。塗布膜を乾燥させた後、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置)又はTEM-EDX(透過型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分析装置)を用い、塗布膜を1又は複数の視野で観察する。例えば、親水性の官能基の有無に基づき、EDXによって導電性粒子13と担体粒子11とを区別することができる。SEM像又はTEM像から複数の導電性粒子11の短軸及び長軸の長さを測定する。SEM像又はTEM像において、導電性粒子11に外接する最小面積の長方形の短辺及び長辺を短軸及び長軸とみなすことができる。
【0047】
複数の導電性粒子13の複数の細孔13hのモード径は、カソード触媒層109の一次細孔14のモード径よりも小さい。このような構成によれば、導電性粒子13は、一次細孔14よりも大きい毛管圧を示すので、一次細孔14に滞留する水を容易に吸収することができる。この場合、水による一次細孔14の閉塞を更に抑制でき、プロトン輸送抵抗を抑制しながら、酸素輸送抵抗も低減できる。その結果、カソード触媒層109における電気化学反応の効率を更に高めることができる。
【0048】
導電性粒子13の複数の細孔13hのモード径は、ガス吸着法によって求めることができる。すなわち、細孔分布測定装置を用いて導電性粒子13の吸着等温線のデータを得る。吸着ガス種は窒素ガスである。吸着等温線をBJH(Barrett-Joyner-Halenda)法で解析することによって、細孔分布が得られる。細孔分布は、例えば、細孔の直径DとLog微分細孔体積との関係を示すグラフである。細孔分布から、細孔のモード径、すなわち、細孔分布において分布密度が最大値を示す細孔径を求めることができる。
【0049】
カソード触媒層109の一次細孔14のモード径は、カソード触媒層109を十分に乾燥させたのち、上記のガス吸着法によって求めることができる。
【0050】
複数の担体粒子11のモード径がXで表され、複数の導電性粒子13の短軸の長さL1の平均値がAで表され、複数の導電性粒子13の長軸の長さL2の平均値がBで表されるとき、A<X<Bが満たされてもよい。このような構成によれば、カソード触媒層109の嵩密度を高めることができ、カソード触媒層109を薄く形成することが可能になる。また、1つの導電性粒子13によって担体粒子11と担体粒子11とを接続できるので、プロトン輸送経路の屈曲度を小さくできる。この場合、カソード触媒層109のプロトン及び酸素の輸送距離を更に短くできるので、プロトン輸送抵抗を更に抑制しながら、酸素輸送抵抗を更に低減できる。その結果、カソード触媒層109における電気化学反応の効率を更に高めることができる。
【0051】
複数の担体粒子11のモード径Xは、上述の三次元SEM観察法又は二次元観察法によって求めることができる。例えば、三次元SEM観察法又は二次元観察法によって複数個(例えば、100個)の担体粒子11の直径を測定し、0.1μm区切りのヒストグラムを作成する。担体粒子11の直径は、体積が等しい球の直径又は面積が等しい円の直径である。ヒストグラムにおいて、最頻値をモード径とみなす。
【0052】
カソード触媒層109において、複数の担体粒子11の質量に対する、複数の導電性粒子13の質量の比率は、例えば25%以上である。このような構成によれば、導電性粒子13と導電性粒子13との接点を増やすことができるので、カソード触媒層109の内部に連通した排水経路及びプロトン輸送経路を増やすことができる。この場合、水による一次細孔14の閉塞を更に抑制できるので、プロトン輸送抵抗を抑制しながら、酸素輸送抵抗も低減できる。その結果、カソード触媒層109における電気化学反応の効率を更に高めることができる。なお、上記比率の上限値は特に限定されず、例えば65%以下であり、45%以下であることが望ましい。
【0053】
上記比率は、以下の方法によって求めることができる。すなわち、三次元SEM観察法によって、十分な体積領域について、複数の担体粒子11が占める体積V1及び複数の導電性粒子13が占める体積V2を求める。複数の担体粒子11が占める体積V1に担体粒子11の比重を乗ずることによって、複数の担体粒子11の質量M1が求められる。複数の導電性粒子13が占める体積V2に導電性粒子13の比重を乗ずることによって、複数の担体粒子11の質量M2が求められる。上記比率は、質量M1に対する質量M2の比率である。「十分な体積」は、例えば、100個以上の担体粒子11及び100個以上の導電性粒子13が含まれる体積領域を意味する。
【0054】
本実施の形態において、導電性粒子13は、メソポーラスカーボン粒子であってもよい。導電性粒子13は、グラフェンメソスポンジを含んでいてもよい。グラフェンメソスポンジは、グラフェンからなり、三次元方向に連通するメソ孔を有する多孔質炭素材料である。そのため、グラフェンメソスポンジは本実施の形態における導電性粒子13に適している。導電性粒子13は、例えば、グラフェンメソスポンジを粉砕及び/又は解砕することによって得られる。
【0055】
導電性粒子13には触媒粒子12が担持されていないことが望ましい。ただし、電極触媒10から脱落した触媒粒子12が導電性粒子13に付着していてもよい。つまり、「導電性粒子13が触媒粒子12を担持していない」とは、導電性粒子13に触媒粒子12を担持させるための処理が行われていないことを意味する。
【0056】
導電性粒子13は、例えば、以下の方法によって作製できる。
【0057】
まず、既知の方法によってグラフェンメソスポンジを作製する。例えば、アルミナナノ粒子などの無機ナノ粒子の粉末を成形して鋳型を作製する。次に、有機化合物を炭素源として用いたCVD法によって、鋳型上に炭素層を形成する。次に、酸又はアルカリ溶液を用いて鋳型を選択的に溶解及び除去して多孔質炭素材料を得る。得られた多孔質炭素材料を1500度から2000度の温度で熱処理する。これにより、グラフェンメソスポンジが得られる。
【0058】
得られたグラフェンメソスポンジを粉砕及び/又は解砕することによって、所望の寸法及び形状を有する導電性粒子13の粉末が得られる。
【0059】
[1-2.動作]
以上のように構成された燃料電池101について、
図1を用いて、以下その動作、作用を説明する。
【0060】
アノードガス流路107に水素含有ガスを供給する。カソードガス流路112に酸化剤ガスを供給する。酸化剤ガスは典型的には空気である。アノード103においては下記式(1)で表される電気化学反応にて、水素(H2)がプロトン(H+)と電子(e-)とに分かれる。プロトンは、電解質膜102を伝導してアノード103からカソード108に向かって移動する。電子は、外部回路を通じてアノード103からカソード108に向かって移動する。カソード108においては下記式(2)で表される電気化学反応にて、プロトン、酸素(O2)及び電子による電気化学反応にて水(H2O)が生成する。
【0061】
H2→2H++2e- (1)
4H++O2+2e-→2H2O(2)
【0062】
図4は、カソード触媒層109の作用を模式的に示す図である。カソード触媒層109に含まれた導電性粒子13は、電気化学反応によって生成した水を吸収する。導電性粒子13の働きによって、一次細孔14が閉塞しにくい。細い矢印で示すように、酸素ガスが一次細孔14を通過しやすいので、酸素輸送抵抗が低減する。太い矢印で示すように、水を吸収した導電性粒子13は、プロトン輸送経路として機能するので、プロトン輸送抵抗も低減される。その結果、カソード触媒層109における電気化学反応の効率を高めることができる。
【0063】
[1-3.効果等]
以上のように、本実施の形態において、導電性粒子13は、短軸及び長軸を有するとともに、相互に連通した複数の細孔13hを有する親水性の粒子である。このような構成によれば、水及びアイオノマー15によって一次細孔14が閉塞されにくいので、プロトン輸送抵抗を抑制しながら、酸素輸送抵抗も低減できる。その結果、カソード触媒層109における電気化学反応の効率を高めることができる。
【0064】
また、本実施の形態において、導電性粒子13の複数の細孔13hのモード径は、複数の担体粒子11、アイオノマー15及び複数の導電性粒子13によって形成される触媒層109の一次細孔14のモード径よりも小さくてもよい。このような構成によれば、導電性粒子13は、一次細孔14よりも大きい毛管圧を示すので、一次細孔14に滞留する水を容易に吸収することができる。
【0065】
また、本実施の形態において、複数の担体粒子11のモード径がXで表され、複数の導電性粒子13の短軸の長さの平均値がAで表され、複数の導電性粒子13の長軸の長さの平均値がBで表されるとき、A<X<Bが満たされてもよい。このような構成によれば、カソード触媒層109の嵩密度を高めることができ、カソード触媒層109を薄く形成することが可能になる。
【0066】
また、本実施の形態において、複数の担体粒子11の質量に対する、複数の導電性粒子13の質量の比率が25%以上であってもよい。このような構成によれば、導電性粒子13と導電性粒子13との接点を増やすことができるので、カソード触媒層109の内部に連通した排水経路及びプロトン輸送経路を増やすことができる。
【0067】
また、本実施の形態において、担体粒子11がメソポーラス粒子であってもよく、触媒粒子12がメソポーラス粒子の細孔の内部に配置されていてもよい。メソポーラス粒子の細孔の内部に触媒粒子12を配置することによって、アイオノマー15による触媒粒子12の被毒を抑制することができる。
【0068】
また、本実施の形態において、導電性粒子13がグラフェンメソスポンジを含んでいてもよい。グラフェンメソスポンジは導電性粒子13に適している。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本開示の技術は、二次電池、燃料電池、水素精製デバイスなどの電気化学デバイスに有用である。
【符号の説明】
【0070】
10 電極触媒
11 担体粒子
12 触媒粒子
13 導電性粒子
13h 細孔
14 一次細孔
15 アイオノマー
101 燃料電池
102 電解質膜
103 アノード
104 アノード触媒層
105 アノードガス拡散層
106 アノードセパレータ
107 アノードガス流路
108 カソード
109 カソード触媒層
110 カソードガス拡散層
111 カソードセパレータ
112 カソードガス流路
113 膜電極接合体