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特開2024-178831車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御プログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178831
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 50/12 20120101AFI20241218BHJP
   B60W 30/188 20120101ALI20241218BHJP
   B60W 40/06 20120101ALI20241218BHJP
   B60K 28/10 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
B60W50/12
B60W30/188
B60W40/06
B60K28/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097274
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神尾 茂
(72)【発明者】
【氏名】劉 海博
(72)【発明者】
【氏名】河合 恵介
(72)【発明者】
【氏名】窪田 優
(72)【発明者】
【氏名】藤田 好隆
(72)【発明者】
【氏名】眞田 武尊
【テーマコード(参考)】
3D037
3D241
【Fターム(参考)】
3D037FA14
3D241BA70
3D241BB03
3D241BC01
3D241CC01
3D241CE05
3D241DC50A
3D241DC50B
(57)【要約】
【課題】踏み間違い防止制御を行う場合に車両の挙動が不安定となるのを抑制することができる。
【解決手段】車両制御装置(10)は、車両(100)の車輪が接触している段差の高さを推定する段差推定部(40)と、前記段差の高さに応じて、前記段差の乗り越えを制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う制御部(41)と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(100)の車輪が接触している段差の高さを推定する段差推定部(40)と、
前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う制御部(41)と、
を備えた車両制御装置(10)。
【請求項2】
前記制御部は、予め定めた許可条件を満たす場合に前記踏み間違い防止制御を行う
請求項1記載の車両制御装置。
【請求項3】
前記許可条件は、前記車両の速度が所定速度以下である、前記車両のアクセルのアクセル開度が所定アクセル開度より大きい、前記車両のブレーキのブレーキ油圧が所定閾値以下である、前記車両のパーキングブレーキがオフである、及び前記車両のシフトがパーキング及びニュートラル以外である、の少なくとも1つを含む
請求項2記載の車両制御装置。
【請求項4】
前記制御部は、路面の勾配に応じた前記所定アクセル開度を取得し、取得した前記所定アクセル開度に基づいて、前記許可条件を満たすか否かを判定する
請求項3記載の車両制御装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記許可条件を満たしてから所定時間以内の場合のみ前記踏み間違い防止制御を行う
請求項2~4の何れか1項に記載の車両制御装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記乗り越え制限制御として、前記車両を停止させるための第1のトルクと、前記段差に応じた第2のトルクと、路面の勾配に応じた第3のトルクと、に基づいて、踏み間違い制御用トルクを算出し、算出した踏み間違い制御用トルクを前記車輪に付与する制御を行う
請求項1記載の車両制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記低速乗り越え制御として、前記車両を所定速度で走行させるため第1のトルクと、前記段差に応じた第2のトルクと、路面の勾配に応じた第3のトルクと、に基づいて、踏み間違い制御用トルクを算出し、算出した踏み間違い制御用トルクを前記車輪に付与する制御を行う
請求項1記載の車両制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記車両のドライバーのアクセル操作量に応じたドライバー要求トルクと、前記踏み間違い防止制御用トルクと、のうちトルク値が小さい方のトルクを前記車輪に付与する
請求項6又は請求項7記載の車両制御装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記踏み間違い防止制御用トルクが異常値の場合、前記踏み間違い防止制御の実行を制限する
請求項6又は請求項7記載の車両制御装置。
【請求項10】
前記制御部は、前記第1のトルク及び前記第2のトルクの少なくとも一方が異常値の場合、前記踏み間違い防止制御の実行を制限する
請求項6又は請求項7記載の車両制御装置。
【請求項11】
前記制御部は、予め定めた制限条件を満たす場合に前記踏み間違い防止制御の実行を制限する
請求項1記載の車両制御装置。
【請求項12】
前記制限条件は、前記車両が停止している、前記車両のアクセルがオフである、前記車両のブレーキのブレーキ油圧が所定ブレーキ油圧より大きい、の少なくとも1つを含む
請求項11記載の車両制御装置。
【請求項13】
少なくとも1つのプロセッサが、
車両の車輪が接触している段差の高さを推定し、
前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う、
ことを含む処理を実行する車両制御方法。
【請求項14】
少なくとも1つのプロセッサに、
車両の車輪が接触している段差の高さを推定し、
前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う、
ことを含む処理を実行させる車両制御プログラム(23A)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両の走行を支援する車両の走行支援装置であって、車輪が接触したことを検出できる段差のうち、車両を停止させるための段差のことを車止め用の段差とした場合、車輪が接触した前記段差が前記車止め用の段差であるか否かを判定する判定処理を実施する段差判定部と、前記判定処理によって前記段差が前記車止め用の段差であると判定されたときには、車両の制動力の増大によって車両を停止させることを要求する停止要求制御を実施する制駆動力設定部と、を備える車両の走行支援装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-093761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が駐車する場合等のように、車輪が車止め等の段差に接触する場合、踏み間違いを防止するための踏み間違い防止制御が不適切な場合は、車両の挙動が不安定となる。
【0005】
本開示は、踏み間違い防止制御を行う場合に車両の挙動が不安定となるのを抑制することができる車両制御装置、車両制御方法、及び車両制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様に係る車両制御装置は、車両の車輪が接触している段差の高さを推定する段差推定部と、前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う制御部と、を備える。
【0007】
第2態様に係る車両制御方法は、少なくとも1つのプロセッサが、車両の車輪が接触している段差の高さを推定し、前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う、ことを含む処理を実行する。
【0008】
第3態様に係る車両制御プログラムは、少なくとも1つのプロセッサに、車両の車輪が接触している段差の高さを推定し、前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う、ことを含む処理を実行させる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、踏み間違い防止制御を行う場合に車両の挙動が不安定となるのを抑制することができる、という効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】車両の構成の模式図である。
図2】車両制御装置のハードウエア構成を示すブロック図である。
図3】センサ群の構成を示す図である。
図4】車両制御装置の機能構成を示すブロック図である。
図5】段差乗り越え制御のフローチャートである。
図6】トルク選択処理のフローチャートである。
図7】踏み間違い防止制御の許可判定処理のフローチャートである。
図8】踏み間違い防止制御の許可判定処理のフローチャートである。
図9】判定閾値マップデータについて説明するための図である。
図10】段差推定処理のフローチャートである。
図11】車輪が段差に接触した状態を示す図である。
図12A】車輪の回転中心軸の軌跡を示すグラフである。
図12B】軌跡角度を示すグラフである。
図13】片輪、両輪乗り上げ判定処理のフローチャートである。
図14】踏み間違い防止処理のフローチャートである。
図15】乗り越え制限制御のフローチャートである。
図16】車速、段差高さ、及び段差乗り越え制御の関係示す図である。
図17】監視安全制御処理のフローチャートである。
図18】監視安全制御処理のフローチャートである。
図19】勾配補正トルクマップデータについて説明するための図である。
図20】変形例に係る監視安全制御処理のフローチャートである。
図21】変形例に係るトルク選択処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本実施形態について説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては可能な限り同一の符号を付して、重複する説明は省略する。
【0012】
本実施形態に係る車両制御装置10は、車両100に搭載されるものであり、車両100の制御等を行うための装置として構成されている。車両制御装置10の説明に先立ち、図1を参照しながら車両100の構成について先ず説明する。
【0013】
車両100は、運転者の運転操作に基づいて走行する車両である。ただし、車輪が段差に接触した場合等においては、運転操作の一部(例えば制動)が、車両制御装置10によって自動的に行われることもある。車両100は、車体101と、車輪111、112、121、122と、回転電機150と、電池160と、を備えている。
【0014】
車体101は、車両100の本体部分であり、「ボディ」と称される部分である。車輪111は、車体101の前方左側部分に設けられた車輪であり、車輪112は、車体101の前方右側部分に設けられた車輪である。前輪である車輪111、112は、本実施形態では従動輪として設けられている。
【0015】
車輪121は、車体101の後方左側部分に設けられた車輪であり、車輪122は車体101の後右側部分に設けられた車輪である。後輪である車輪121、122は、本実施形態では駆動輪として設けられている。つまり、車輪121、122は、後述の回転電機150の駆動力によって回転し、車両100を走行させる。
【0016】
このように、本実施形態の車両100は、所謂「後輪駆動」の車両として構成されている。このような態様に換えて、車両100は、前輪駆動の車両として構成されていてもよく、四輪駆動の車両として構成されていてもよい。後者の場合、後輪を駆動するための回転電機150に加えて、前輪を駆動するための回転電機が別途設けられていてもよい。
【0017】
車輪121にはブレーキ装置131が設けられており、車輪122にはブレーキ装置132が設けられている。ブレーキ装置131、132はいずれも、油圧により車輪に制動力を加える制動装置である。このような制動装置は、駆動輪のみならず、従動輪である車輪111、112にも設けられていてもよい。ブレーキ装置131、132の動作は、後述のブレーキECU20によって制御される。
【0018】
回転電機150は、後述の電池160から電力の供給を受けて、車輪121、122を回転させるための駆動力、すなわち、車両100が走行するのに必要な駆動力を発生させる装置である。回転電機150は、一例として所謂「モータジェネレータ」である。回転電機150で生じた駆動力は、パワートレイン部140を介して車輪121、122のそれぞれに伝達され、車輪121、122を回転させる。なお、電池160と回転電機150との間における電力の授受は、電力変換器であるインバータを介して行われるのであるが、図1においては当該インバータの図示が省略されている。
【0019】
回転電機150は、車両100を加速するための駆動力を生じさせるほか、回生により車両100を減速させる制動力をも生じさせることができる。車両100の制動は、回転電機150によって行うこともできるし、先に述べたブレーキ装置131、132によって行うこともできる。
【0020】
電池160は、回転電機150に駆動用の電力を供給するための蓄電池である。本実施形態では、一例として電池160としてリチウムイオンバッテリーが用いられている。制動時において回転電機150で生じた回生電力は、不図示のインバータを介して電池160に供給され、電池160に充電される。
【0021】
車両100には、車両制御装置10とは別にブレーキECU20が設けられている。車両制御装置10及びブレーキECU20はいずれも、CPU、ROM、RAM等を有するコンピュータシステムとして構成されている。これらは、車両100に設けられたネットワークを介して、互いに双方向の通信を行うことができる。なお、車両制御装置10のハードウエア構成の詳細については後述する。
【0022】
ブレーキECU20は、車両制御装置10からの指示に応じて、ブレーキ装置131、132の動作を制御する処理を行う。
【0023】
なお、車両制御装置10及びブレーキECU20は、本実施形態のように2つの装置に分かれていなくてもよい。例えば、車両制御装置10に、ブレーキECU20の機能が統合されている態様としてもよい。後に説明する車両制御装置10の機能を実現するにあたっては、その具体的な装置構成は特に限定されない。
【0024】
図2は、車両制御装置10のハードウエア構成を示すブロック図である。図2に示すように、車両制御装置10は、制御部21を備える。制御部21は、一般的なコンピュータを含む装置で構成される。
【0025】
図2に示すように、制御部21は、CPU(Central Processing Unit)21A、ROM(Read Only Memory)21B、RAM(Random Access Memory)21C、及び入出力インターフェース(I/O)21Dを備える。そして、CPU21A、ROM21B、RAM21C、及びI/O21Dがバス21Eを介して各々接続されている。バス21Eは、コントロールバス、アドレスバス、及びデータバスを含む。
【0026】
また、I/O21Dには、通信部22、記憶部23、及び各種のセンサを含むセンサ群200が接続されている。
【0027】
通信部22はブレーキECU20及び回転電機150等の外部装置と通信を行うためのインターフェースである。
【0028】
記憶部23は、ハードディスク等の不揮発性の外部記憶装置で構成される。図2に示すように、記憶部23は、車両制御プログラム23A、トルクマップデータ23B、判定閾値マップデータ23C、及び勾配トルクマップデータ23D等を記憶する。
【0029】
CPU21Aは、コンピュータの一例である。ここでいうコンピュータとは、広義的なプロセッサを指し、汎用的なプロセッサ(例えば、CPU)、又は、専用のプロセッサ(例えば、GPU:Graphics Processing Unit、ASIC:Application Specific Integrated Circuit、FPGA:Field Programmable Gate Array、プログラマブル論理デバイス、等)を含むものである。
【0030】
なお、車両制御プログラム23Aは、不揮発性の非遷移的(non-transitory)記録媒体に記憶して、又はネットワークを介して配布して、車両制御装置10に適宜インストールすることにより記憶部23に記憶されてもよい。また、車両制御プログラム23Aは、所謂OTA(Over The Air)により適宜更新されてもよい。
【0031】
不揮発性の非遷移的記録媒体の例としては、CD-ROM(Compact Disc Read Only Memory)、光磁気ディスク、HDD(ハードディスクドライブ)、DVD-ROM(Digital Versatile Disc Read Only Memory)、フラッシュメモリ、メモリカード等が挙げられる。
【0032】
車両100には、各種の物理量を測定するためのセンサが多数設けられているのであるが、上記センサ群200には、図3に示すように、車輪速センサ201、加速度センサ202、電流センサ203、車外カメラ204、アクセルセンサ205、外部温度センサ206、勾配センサ207、ブレーキセンサ208、パーキングセンサ209、及びヨーレートセンサ210等が含まれる。
【0033】
車輪速センサ201は、車輪111等の単位時間あたりにおける回転数を測定するためのセンサである。車輪速センサ201は、4つの車輪111、112、121、122のそれぞれに対して個別に設けられているのであるが、図3においては、車輪速センサ201が単一のブロックとして模式的に描かれている。車輪速センサ201で測定された回転数を示す信号は、車両制御装置10へと送信される。車両制御装置10は、当該信号に基づいて、車両100の走行速度を把握することができる。
【0034】
加速度センサ202は、車両100の加速度を検出するためのセンサである。加速度センサ202は車体101に取り付けられている。加速度センサ202は、車体101の前後方向、左右方向、及び上下方向の各加速度に加えて、ピッチング、ローリング、及びヨーイングの各回転加速度をも検出することのできる、6軸加速度センサとして構成されている。
【0035】
加速度センサ202によって取得される加速度には、車両100の進行方向(つまり前後方向)に沿った加速度GXと、車両100の左右方向に沿った加速度Gyとが含まれる。加速度GXは「縦加速度」とも称されるものであり、加速度Gは「横加速度」とも称されるものである。これらはいずれも、例えば「0.5G」のように、重力加速度である「G」を単位とする数値として取得される。加速度センサ202により検出された各加速度を示す信号は、車両制御装置10へと送信される。
【0036】
電流センサ203は、回転電機150を流れる駆動用電流の値を検出するためのセンサである。電流センサ203により検出された駆動用電流の値を示す信号は、車両制御装置10へと入力される。車両制御装置10は、入力された駆動用電流の値に基づいて、回転電機150で生じている駆動力の大きさを判定することができる。
【0037】
車外カメラ204は、車両100の周囲を撮影するカメラであり、例えばCMOSカメラである。車外カメラ204により撮影された画像のデータは、車両制御装置10へと入力される。車両制御装置10は、当該画像を処理することにより、車両100の周囲における障害物(例えば車輪止めのような段差)の有無やその形状を把握することができる。
【0038】
なお、車両100の周囲の状況を検知するためのセンサとしては、車外カメラ204に加えて、もしくは車外カメラ204に換えて、他のセンサが設けられていてもよい。このようなセンサとしては、例えば、LIDARセンサやレーダー等が挙げられる。
【0039】
アクセルセンサ205は、アクセル操作量、すなわちアクセル開度を検出するセンサである。
【0040】
外部温度センサ206は、車両100の外部温度を検出するセンサである。
【0041】
勾配センサ207は、車両100が走行する路面の勾配を検出するセンサである。
【0042】
ブレーキセンサ208は、ブレーキ装置131、132のブレーキ油圧を検出するセンサである。
【0043】
パーキングセンサ209は、車両100のパーキングブレーキのオンオフを検出するセンサである。
【0044】
ヨーレートセンサ210は、ヨーレートを検出するためのセンサである。
【0045】
図4は、車両制御装置10のCPU21Aの機能構成を示すブロック図である。図4に示すように、CPU21Aは、機能的には、段差推定部40及び制御部41の各機能部を備える。
【0046】
段差推定部40は、車両100の4つの車輪111、112、121、122のうち少なくとも1つの車輪が接触している段差の高さを推定する。
【0047】
制御部41は、段差推定部40が推定した段差の高さに応じて、段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う。
【0048】
なお、制御部41は、予め定めた許可条件を満たす場合に踏み間違い防止制御を行うようにしてもよい。
【0049】
一例として、許可条件は、車両100の速度が所定速度以下である、車両100のアクセルのアクセル開度が所定アクセル開度より大きい、車両100のブレーキのブレーキ油圧が所定ブレーキ油圧以下である、車両100のパーキングブレーキがオフである、及び車両100のシフトがパーキング及びニュートラル以外である、の少なくとも1つを含むとしてもよい。
【0050】
また、制御部41は、路面の勾配に応じた所定アクセル開度を取得し、取得した所定アクセル開度に基づいて、許可条件を満たすか否かを判定するようにしてもよい。
【0051】
また、制御部41は、許可条件を満たしてから所定時間以内の場合のみ踏み間違い防止制御を行うようにしてもよい。
【0052】
また、制御部41は、乗り越え制限制御として、車両100を停止させるための第1のトルクと、段差に応じた第2のトルクと、路面の勾配に応じた第3のトルクと、に基づいて、踏み間違い制御用トルクを算出し、算出した踏み間違い制御用トルクを車輪に付与する制御を行うようにしてもよい。
【0053】
また、制御部41は、低速乗り越え制御として、車両100を所定速度で走行させるため第1のトルクと、段差に応じた第2のトルクと、路面の勾配に応じた第3のトルクと、に基づいて、踏み間違い制御用トルクを算出し、算出した踏み間違い制御用トルクを前記車輪に付与する制御を行うようにしてもよい。
【0054】
また、制御部41は、車両100のドライバーのアクセル操作量に応じたドライバー要求トルクと、踏み間違い防止制御用トルクと、のうちトルク値が小さい方のトルクを、4つの車輪111、112、121、122のうち段差に接触している車輪に付与するようにしてもよい。
【0055】
また、制御部41は、踏み間違い防止制御用トルクが異常値の場合、踏み間違い防止制御が実行されないように制限するようにしてもよい。
【0056】
また、制御部41は、第1のトルク及び第2のトルクの少なくとも一方が異常値の場合、踏み間違い防止制御が実行されないように制限するようにしてもよい。
【0057】
また、制御部41は、予め定めた制限条件を満たす場合に踏み間違い防止制御が実行されないように制限するようにしてもよい。
【0058】
一例として、制限条件は、車両100が停止している、車両100のアクセルがオフである、車両100のブレーキのブレーキ油圧が所定ブレーキ油圧より大きい、の少なくとも1つを含むとしてもよい。
【0059】
CPU21Aは、記憶部23に記憶された車両制御プログラム23Aを読み込んで実行することにより図4に示す各機能部として機能する。なお、車両制御プログラム23Aは、後述する図5の段差乗り越え制御処理、図6のトルク選択処理、及び図17、18の踏み間違い防止制御処理を含む。図5の段差乗り越え制御処理、図6のトルク選択処理、及び図17、18の踏み間違い防止制御処理は並行して実行される。
【0060】
次に、図5を参照して制御部21のCPU21Aで実行される段差乗り越え制御処理について説明する。図5に示した段差乗り越え制御処理は、所定時間毎、例えば10msec毎に繰り返し実行される処理である。
【0061】
ステップS200では、CPU21Aが、図7、8に示す踏み間違い防止制御の許可判定処理を実行する。なお、踏み間違い防止制御の許可判定処理の詳細については後述する。
【0062】
ステップS201では、CPU21Aが、図10に示す段差推定処理を実行する。なお、段差推定処理の詳細については後述する。
【0063】
ステップS202では、CPU21Aが、図14に示す踏み間違い防止制御処理を実行する。踏み間違い防止制御処理では、回転電機150に付与する踏み間違い防止制御用トルクTOが算出され、記憶部23に記憶される。記憶部23に記憶された踏み間違い防止制御用トルクTOは、段差乗り越え制御が実行される毎に逐次更新される。なお、踏み間違い防止制御処理の詳細については後述する。
【0064】
次に、図6を参照して制御部21のCPU21Aで実行されるトルク選択処理について説明する。図6に示したトルク選択処理は、所定時間毎、例えば10msec毎に繰り返し実行される処理である。
【0065】
ステップS300では、CPU21Aが、踏み間違い防止制御フラグXEXが1であるか否かを判定する。ここで、踏み間違い防止制御フラグXEXが1の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOによるトルク補正を実行中、具体的には、後述する図14のステップS1103の乗り越え制限制御又はステップS1105の低速乗り越え制御を実行中であることを示す。一方、踏み間違い防止制御フラグXEXが0の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOによるトルク補正を実行中ではない、すなわち、図14のステップS1103の乗り越え制限制御及びステップS1105の低速乗り越え制御の何れも実行中ではないことを示す。
【0066】
そして、踏み間違い防止制御フラグXEXが1の場合はステップS301へ移行し、踏み間違い防止制御フラグXEXが0の場合は本ルーチンを終了する。
【0067】
ステップS301では、CPU21Aが、車両100のドライバーのアクセル操作量に応じたドライバー要求トルクTACCを記憶部23から読み出すことにより取得する。ドライバー要求トルクTACCは、車両100のドライバーのアクセル操作量に応じたトルク値である。例えばアクセル操作量とトルク値との対応関係を示すトルクマップデータ23Bを記憶部23に予め記憶しておき、アクセルセンサ205から取得したアクセル操作量に対応するトルク値をトルクマップデータ23Bから取得し、これをドライバー要求トルクTACCとして記憶部23に記憶しておく。記憶部23に記憶されたドライバー要求トルクTACCは、ドライバーのアクセル操作量に応じて逐次更新される。
【0068】
ステップS302では、CPU21Aが、図5に示す段差乗り越え制御処理により算出された踏み間違い防止制御用トルクTO又は図17に示す監視安全制御により設定された踏み間違い防止制御用トルクTOを記憶部23から読み出すことにより取得する。
【0069】
ステップS303では、CPU21Aが、回転電機150に付与する最終トルクTMGを決定する。具体的には、ステップS301で取得したドライバー要求トルクTACC、及びステップS302で取得した踏み間違い防止制御用トルクTOのうち、トルク値が最小のトルクを最終トルクTMGとして決定する。この最終トルクTMGが車輪に付与される。このため、ドライバーがアクセルペダルを踏み間違えてアクセル操作量が過大となった場合でも、回転電機150に過大なトルクが付与されるのを抑制することができる。
【0070】
次に、図5のステップS200の踏み間違い防止制御の許可判定処理の詳細について、図7、8を参照して説明する。なお、図7は、踏み間違い防止制御を許可するか否かを判定する許可判定処理であり、図8は、踏み間違い防止制御を制限するか否かを判定する制限判定処理である。
【0071】
ステップS800では、CPU21Aが、車輪速センサ201から取得した車輪速に基づいて車両の走行速度(以下、車速と称する)を算出し、算出した車速が所定速度以下であるか否かを判定する。所定速度は、比較的低速の速度に設定され、本実施形態では、一例として所定速度は9kphに設定されるが、これに限られるものではない。そして、車速が所定速度以下の場合はステップS801へ移行し、車速が所定速度より速い場合は図8のステップS809へ移行する。
【0072】
ステップS801では、CPU21Aが、アクセル開度が所定アクセル開度より大きいか否かを判定する。所定アクセル開度は、判定閾値マップデータ23Cに基づいて、判定閾値として決定される。図14に判定閾値マップデータ23Cの一例を示す。図9に示すように、判定閾値マップデータ23Cは、許可判定処理用マップM1と、制限判定用マップM2を有する。図9の横軸が路面の勾配、縦軸が判定閾値であり、路面の勾配に応じて判定閾値が変化する。図9に示すように、許可判定処理用マップM1は、下り勾配が大き過ぎる領域及び上り勾配が大きすぎる領域では、判定閾値は最大値に設定される。また、下り勾配が大き過ぎる領域及び上り勾配が大きすぎる領域以外の領域のうち、勾配が下りから平坦の領域では、判定閾値は徐々に大きくなり、勾配が平坦の領域では判定閾値はほぼ一定である。また、勾配が平坦から上りの領域では、判定閾値は徐々に大きくなる。制限判定処理用マップM2は、勾配が下りからある程度の上りまでの領域では、判定閾値はほぼ0であり、その領域から更に上りの領域では、判定閾値は徐々に大きくなる。
【0073】
このように、判定閾値は、路面の勾配に応じて設定される。このため、ステップS801では、CPU21Aは、まずアクセル開度及び路面の勾配を取得する。アクセル開度は、アクセルセンサ205から取得できる。また、路面の勾配は、勾配センサ207から取得できる。次に、CPU21Aは、取得した路面の勾配に応じた判定閾値を許可判定処理用マップM1から取得する。そして、アクセル開度が判定閾値より大きいか否かを判定する。そして、アクセル開度が判定閾値より大きい場合はステップS802へ移行し、アクセル開度が判定閾値以下の場合は、図8のステップS809へ移行する。
【0074】
ステップS802では、CPU21Aが、ブレーキ油圧が所定閾値以下であるか否かを判定する。ブレーキ油圧は、ブレーキセンサ208から取得できる。所定閾値は、ブレーキ油圧が所定閾値以下であれば車両100のブレーキがオフであると判定できる値に設定される。そして、ブレーキ油圧が所定閾値以下の場合、すなわち車両100のブレーキがオフである場合は、ステップS803へ移行し、ブレーキ油圧が所定閾値より大きい場合、すなわち車両100のブレーキがオンである場合は、図8のステップS809へ移行する。
【0075】
ステップS803では、CPU21Aが、車両100のパーキングブレーキがオフであるか否かを判定する。パーキングブレーキがオフであるか否かは、パーキングセンサ209から取得できる。そして、パーキングブレーキがオフである場合は、ステップS804へ移行し、パーキングブレーキがオンの場合は、図8のステップS809へ移行する。
【0076】
ステップS804では、CPU21Aが、車両100のシフトレバーがパーキング及びニュートラル以外のモードであるか否かを判定する。すなわち、シフトレバーがドライブ又はリバース等の車両100が走行可能なモードであるか否かを判定する。そして、車両100のシフトレバーがパーキング及びニュートラル以外のモードである場合はステップS805へ移行し、車両100のシフトレバーがパーキング及びニュートラル以外のモードでない場合は図8のステップS809へ移行する。
【0077】
ステップS805では、CPU21Aが、踏み間違い防止制御を許可する時間のカウンタであるCXHUMIが所定時間以下であるか否かを判定する。本実施形態では、一例として所定時間は1秒に設定されるが、これに限られるものではない。そして、カウンタCXHUMIが所定時間以下の場合はステップS806へ移行し、カウンタCXHUMIが所定時間を越えている場合は、図8のステップS809へ移行する。
【0078】
ステップS806では、CPU21Aが、前回踏み間違い防止制御の実行が制限されてから経過した時間をカウントするためのカウンタであるCRETRYが所定時間以上であるか否かを判定する。本実施形態では、一例として所定時間は30秒に設定されるが、これに限られるものではない。そして、カウンタCRETRYが所定時間以上の場合はステップS807へ移行し、カウンタCXHUMIが所定時間未満の場合は、図8のステップS809へ移行する。
【0079】
ステップS807では、踏み間違い防止制御の実行を許可するか否かを示すフラグであるXHUMIを1に設定する。XHUMIが1の場合は、踏み間違い防止制御の実行を許可することを示す。一方、XHUMIが0の場合は、踏み間違い防止制御の実行を制限することを示す。
【0080】
ステップS808では、CPU21Aが、カウンタCXHUMIを次式によりインクリメントする。
【0081】
CXHUMI=CXHUMI+1 ・・・(1)
【0082】
図8のステップS809では、CPU21Aが、フラグXHUMIが1であるか否かを判定する。すなわち、踏み間違い防止制御の実行が許可された状態であるか否かを判定する。そして、フラグXHUMIが1である場合、すなわち、踏み間違い防止制御の実行が許可された状態である場合は、ステップS810へ移行する。一方、フラグXHUMIが0である場合、すなわち、踏み間違い防止制御の実行が制限された状態である場合は、ステップS815へ移行する。
【0083】
ステップS810では、CPU21Aが、アクセル開度が0%であるか否かを判定する。そして、アクセル開度が0%である場合はステップS811へ移行し、アクセル開度が0%でない場合は、ステップS816へ移行する。
【0084】
ステップS811では、CPU21Aが、車速が0kphであるか否かを判定する。そして、車速が0kphである場合はステップS812へ移行し、車速が0kphでない場合はステップS816へ移行する。
【0085】
ステップS812では、CPU21Aが、ブレーキ油圧が所定閾値より大きいか否かを判定する。そして、ブレーキ油圧が所定閾値より大きい場合、すなわちブレーキがオンである場合はステップS813へ移行し、ブレーキ油圧が所定閾値以下の場合、すなわちブレーキがオフである場合はステップS816へ移行する。
【0086】
ステップS813では、CPU21Aが、フラグXHUMIを0に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御の実行を制限する。
【0087】
ステップS814では、CPU21Aが、カウンタCRETRYを0に設定する。すなわち、カウンタCRETRYをリセットする。
【0088】
ステップS815では、CPU21Aが、カウンタCRETRYを次式によりインクリメントする。
【0089】
CRETRY=CRETRY+1 ・・・(2)
【0090】
ステップS816では、CPU21Aが、ドライバーの段差乗り越え要求がオンであるか否かを判定する。ドライバーの段差乗り越え要求がオンであるか否かの判定は、例えば解除スイッチを設けて、解除スイッチをドライバーがオンにしたか否かで判定してもよい。また、ドライバーが方向指示器を操作したか否かによりドライバーの段差乗り越え要求がオンであるか否かを判定してもよい。ドライバーが方向指示器を操作した場合は、例えば段差がある路肩に車両100を乗り上げる意思があると考えられるためである。そして、ドライバーの段差乗り越え要求がオンである場合はステップS818へ移行し、ドライバーの段差乗り越え要求がオフである場合はステップS817へ移行する。
【0091】
ステップS817では、CPU21Aが、カウンタCXHUMIが所定時間を越えたか否かを判定する。所定時間は、本実施形態では、一例として10秒に設定されるが、これに限られるものではない。そして、カウンタCXHUMIが所定時間を越えた場合はステップS818へ移行し、カウンタCXHUMIが所定時間以下の場合は本ルーチンを終了する。
【0092】
ステップS818では、CPU21Aが、フラグXHUMIを0に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御の実行を制限する。
【0093】
ステップS819では、CPU21Aが、カウンタCXHUMIを0に設定する。すなわち、カウンタCXHUMIをリセットする。
【0094】
このように、アクセル操作がされてから1秒が経過するまでは踏み間違い防止制御の実行の許可を受け付ける。また、アクセルオフ等により車両100が停止していると判定した場合に、踏み間違い防止制御の実行を制限する。例えば車輪が穴に嵌まってしまい脱出したい場合、又は、車両前方に障害物があり、どうしても乗り越えたい場合、路肩の段差にどうしても乗り越えて縦列駐車をしたい場合等、ドライバーがどうしても乗り越えたい場合は踏み間違い防止制御の実行を制限してアクセル操作によるトルクの制御を復活させる。
【0095】
なお、アクセル操作がオフで踏み間違い防止制御の実行が制限された後、アクセルを再度踏み込んだことを検出した場合は、ドライバーが解除を望んでいるとみなして、再度踏み間違い防止制御の実行を制限するようにしてもよい。
【0096】
次に、図5のステップS201の段差推定処理の詳細について、図10を参照して説明する。
【0097】
ステップS900では、CPU21Aが、フラグXHUMIが1であるか否か、すなわち、踏み間違い防止制御の実行が許可されているか否かを判定する。そして、フラグXHUMIが1である場合、すなわち踏み間違い防止制御が許可されている場合はステップS901へ移行し、フラグXHUMIが0である場合、すなわち踏み間違い防止制御の実行が制限されている場合は本ルーチンを終了する。
【0098】
ステップS901では、CPU21Aが、段差の高さhの最大値hmaxを算出する。具体的には、まず、垂直荷重Fzを算出する。垂直荷重Fzは、従動輪である車輪111、112に対し、下方側に向かって加えられる力のことである。垂直荷重Fzは、車輪111、112のそれぞれが受ける力の合計値として次式により算出される。
【0099】
・・・(3)
【0100】
上記(3)式の右辺第1項にある「m」は車両100の重量である。「g」は重力加速度である。「l」は車両100のホイールベースの長さである。「lr」は、車両100の重心から後輪(車輪121、122)の回転中心軸までの、前後方向に沿った長さである。「G」は車両100の進行方向、すなわち前後方向に沿った加速度である。「hcg」は、路面から車両100の重心までの高さである。上記(3)式の右辺第1項は、車両100が走行する際の動荷重として車輪111、112のそれぞれに加えられる力の、下方側に向かう方向の成分を表している。
【0101】
上記(3)式の右辺第2項にある「d」は、車両100のダンパー(不図示)の減衰係数である。「Vspd」は、車両100の前後方向に沿った走行速度である。Vspdは、例えば車輪速センサ201からの信号に基づいて算出することができる。「θold」は、前回の制御周期において算出された軌跡角度θの値である。図15の処理が最初に実行される際には、θoldの値として例えば0が用いられる。上記(3)式の右辺第2項は、ダンパーの伸縮に伴って車輪111、112のそれぞれに加えられる力、を表している。
【0102】
次に、軌跡角度θを算出する。ここで、軌跡角度θについて説明する。「軌跡角度」とは、車輪111等の回転中心軸の軌跡が路面に対してなす角度、のことである。
【0103】
図11には、車輪111が路面RDの上にある状態が模式的に描かれている。路面RDには、車輪止めである段差STが設けられており、車輪111の一部が段差STに接触した状態となっている。図11の状態から、車両100が右側(つまり段差ST側)に向かって更に進行しようとした場合には、車輪111は段差STに乗り上げることとなる。
【0104】
図12Aにおいて実線で示されているグラフは、車両100が上記のように右側に向かって進行した場合における、車両100の走行距離(横軸)と、車輪111の回転中心軸AXの高さ(縦軸)と、の関係を表している。当該グラフは、車両100の走行中における回転中心軸AXの軌跡を表すもの、ということができる。図12Aに示されるθは、車輪111等の回転中心軸AXの軌跡が路面に対してなす角度であり、車両100がX1の位置にあるときにおける軌跡角度を表している。このような軌跡角度θは、車両100の各位置に対応して定義することができる。
【0105】
なお、「軌跡角度」とは、先に述べたように、車輪111等の回転中心軸AXの軌跡が路面に対してなす角度、のことであるが、ここでいう「回転中心軸AXの軌跡」とは、車両100をその左右方向(車幅方向)に沿って見た場合における、回転中心軸AXの軌跡のことである。なお、図12Aのグラフに示されるような回転中心軸AXの軌跡は、同図において一点鎖線で示される段差STの形状、をある程度反映させたものとなる。両者の形状が互いに異なるのは、車輪111が剛体ではなく、段差STに当たることで車輪111が変形するからである。
【0106】
軌跡角度θは、次式により算出することができる。
【0107】
・・・(4)
【0108】
上記(4)式の右辺にある「Tmg」は、回転電機150のトルクであり、「R」は車輪111の動半径である。「Tmg/R」は、車両100の駆動輪が路面に加えている駆動力を示す。回転電機150のトルクTmgは、例えば回転電機150を流れる駆動用電流の値を電流センサ203によって取得し、取得した駆動用電流の大きさに基づいてトルクを算出することで取得することができる。
【0109】
次に、軌跡角度θから車輪111が理想の円盤である場合の軌跡角度θ’を次式により算出する。
【0110】
・・・(5)
【0111】
ここで、Lは車輪111の接地長さである。接地長さLは、図12A、12Bにおける乗り上げ距離(x2-x1)である。図12Bのグラフには、図12Aのように車両100が段差STを乗り越える際における、軌跡角度θの変化の例が示されている。
【0112】
図12A、12Bに示される「X1」は、車輪111等が段差STに接触した時点の車両100の位置である。また、図12A、12Bに示される「X2」は、車輪111等が路面から離れた時点の車両100の位置である。当該位置は、図12Aのグラフにおける変曲点に対応する位置であり、図12Bのグラフにおけるピーク値に対応する位置である。
【0113】
「乗り上げ距離」とは、X1からX2までの距離、すなわち、車輪111等が段差STに接触してから、車輪111等が路面から離れるまで、の間に車両100が走行する距離である。換言すれは、「乗り上げ距離」とは、軌跡角度θが増加し始めてから減少し始めるまでの期間において、車両100が走行した距離、ということもできる。
【0114】
このように定義される乗り上げ距離は、平坦な路面RDの上に車両100が停車しているときにおいて、車輪111等のうち路面RDに接触している部分の前後方向に沿った長さ(図11におけるL1)と相関がある。このため、車輪111等の空気圧が低くなる程、図11に示されるL1は長くなり、図12A、12Bに示される乗り上げ距離も長くなる傾向がある。
【0115】
段差STの高さhは、車輪111が理想の円盤である場合は、次式により算出することができる。
【0116】
・・・(6)
【0117】
ここで、上記(6)式のθを、軌跡角度θの最大値であるθmaxとした場合、段差STの高さの最大値hmaxを算出することができる。
【0118】
軌跡角度θmaxは、次式により算出することができる。
【0119】
θmax=κ×L ・・・(7)
【0120】
ここで、κは、軌跡角度θの変化率であり、次式により算出することができる。
【0121】
・・・(8)
【0122】
ここで、fileter()は、高周波数成分を減衰させるフィルタ処理を行う関数であり、軌跡角度θの変化量をなまらせる、すなわち緩やかにする機能を有する関数である。また、Vは車速である。
【0123】
以上より、段差STの高さの最大値hmaxは、次式により算出することができる。
【0124】
・・・(9)
【0125】
なお、以下では、段差STの高さの最大値hmaxを単に段差STの高さhと称する。
【0126】
ステップS902では、CPU21Aが、図13に示す片輪及び両輪乗り上げ判定処理を実行する。
【0127】
図13に示すように、ステップS1000では、CPU21Aが、図10のステップS901で算出した段差高さhが所定高さ以下であるか否かを判定する。所定高さは、本実施形態では、一例として2cmに設定されるが、これに限られるものではない。そして、段差高さhが所定高さ以下である場合はステップS1001へ移行し、段差高さhが所定高さより高い場合はステップS1002へ移行する。
【0128】
ステップS1001では、片輪が段差STを乗り越えようとしている状態なのか、両輪が段差STを乗り越えようとしている状態なのかを示すフラグXKATARINを0に設定する。フラグXKATARINが0の場合は、両輪が段差STを乗り越えようとしている状態を示し、フラグXKATARINが1の場合は、片輪が段差STを乗り越えようとしている状態を示す。
【0129】
ステップS1002では、CPU21Aが、横G比例値δを次式により算出する。
【0130】
・・・(10)
【0131】
ここで、Gは、横G、すなわち、車両100の左右方向に沿った加速度であり、加速度センサ202から取得できる。Kは予め定めた係数である。また、Vは、車速である。また、rはヨーレートであり、ヨーレートセンサ210から取得できる。また、constは分母がゼロとなるのを防止するための予め定めた係数である。
【0132】
片輪が段差STの乗り上げた場合、両輪が乗り上げた場合と比較して車両100がより傾くため、横Gとして検出される。また、車両100の旋回時に発生する横G分をキャンセルするために、横Gと、ヨーレートrから算出した横Gとを比較した横G比例値δに基づいて、片輪が段差STを乗り越えようとしているのか、両輪が段差STを乗り越えようとしているのかを判定する。
【0133】
ステップS1003では、CPU21Aが、ステップS1002で算出した横G比例値δの絶対値が所定値より大きいか否かを判定する。そして、横G比例値δの絶対値が所定値より大きい場合はステップS1004へ移行し、横G比例値δの絶対値が所定値以下の場合は、ステップS1001へ移行する。
【0134】
ステップS1004では、CPU21Aが、フラグXKATARINを1に設定する。
【0135】
図10に戻って、ステップS903では、CPU21Aが、フラグXKATARINが0であるか否かを判定する。すなわち、両輪が段差STを乗り越えようとしている状態なのか否かを判定する。そして、フラグXKATARINが0の場合は本ルーチンを終了し、フラグXKATARINが1の場合は、ステップS904へ移行する。
【0136】
ステップS904では、CPU21Aが、段差STの高さhを次式により2倍とする。すなわち、片輪が段差STを乗り越えようとしている場合は、段差STの高さhを2倍に設定する。
【0137】
h=h×2 ・・・(11)
【0138】
次に、図5のステップS202の踏み間違い防止制御の詳細について、図14を参照して説明する。なお、以下では、シフトがDレンジ(前進)の場合について説明する。
【0139】
ステップS1100では、CPU21Aが、フラグXHUMIが1であるか否かを判定する。すなわち、踏み間違い防止制御の実行が許可されているか否かを判定する。そして、フラグXHUMIが1である場合、すなわち踏み間違い防止制御の実行が許可されている場合はステップS1101へ移行し、フラグXHUMIが0の場合、すなわち踏み間違い防止制御の実行が制限されている場合はステップS1108へ移行する。
【0140】
ステップS1101では、CPU21Aが、車速が所定速度以下であるか否かを判定する。所定速度は、車両100が低速で走行していると判定可能な速度に設定され、本実施形態では、一例として1kphに設定されるが、これに限られるものではない。
【0141】
そして、車速が所定速度以下である場合はステップS1102へ移行し、車速が所定速度を越えている場合はステップS1104へ移行する。
【0142】
ステップS1102では、CPU21Aが、段差STの高さhが第1所定高さより高いか否かを判定する。第1所定高さは、本実施形態では、一例として13.5cmに設定されるが、これに限られるものではない。そして、段差STの高さhが第1所定高さより高い場合はステップS1103へ移行し、段差STの高さhが第1所定高さ以下の場合はステップS1104へ移行する。
【0143】
ステップS1103では、CPU21Aが、図15に示す乗り越え制限制御を実行する。
【0144】
図15に示すように、ステップS1200では、CPU21Aが、目標車速を設定する。目標車速は、本実施形態では、一例として0kphに設定されるが、これに限られるものではない。
【0145】
ステップS1201では、CPU21Aが、車速がステップS1200で設定した目標車速となるようにPIフィードバック制御を行うためのフィードバック駆動トルクTfb(第1のトルク)を次式により算出する。
【0146】
・・・(12)
【0147】
ここで、Kpは、比例ゲインである。Kiは、積分ゲインである。また、Tfbは予め定めた上限値と下限値との間に制限される。
【0148】
ステップS1202では、CPU21Aが、段差STの高さhに応じた負荷トルクを打ち消す段差補正トルクTL(第2のトルク)を設定する。ここで、TLは、目標車速が0kphの場合は、0に設定される。
【0149】
ステップS1203では、CPU21Aが、踏み間違い防止制御用トルクTOを次式により算出する。
【0150】
TO=Tfb+TL+TU ・・・(13)
【0151】
ここで、TUは、路面の勾配に応じて設定されるトルク(第3のトルク)であり、勾配とトルクTUとの対応関係を予め定めた勾配トルクマップデータ23Dを用いて取得することができる。
【0152】
なお、図15の乗り越え制限制御は、シフトがRレンジ(後退)の場合もシフトがDレンジの場合と同様に実行される。
【0153】
図14に戻って、ステップS1104では、CPU21Aが、段差STの高さhが第2所定高さより高いか否かを判定する。第2所定高さは、第1所定高さよりも低い高さに設定され、本実施形態では、一例として6.5cmに設定されるが、これに限られるものではない。そして、段差STの高さhが第2所定高さより高い場合はステップS1105へ移行し、段差STの高さhが第2所定高さ以下の場合はステップS1108へ移行する。
【0154】
ステップS1105では、CPU21Aが、低速乗り越え制御を実行する。低速乗り越え制御は、基本的に図15の乗り越え制限制御と同様であるが、ステップS1200とS1202の処理が異なる。
【0155】
まず、ステップS1200で設定する目標車速が異なる。低速乗り越え制御では、目標車速は例えば1kphに設定されるが、これに限られるものではない。
【0156】
また、ステップS1202では、段差補正トルクTLを次式により算出する。
【0157】
TL=R×Fz×tan(θ) ・・・(14)
【0158】
なお、シフトがRレンジ(後退)の場合における低速乗り越え制御は、ステップS1200において目標車速を-1kphに設定する以外の処理についてはシフトがDレンジの場合と同様である。
【0159】
図14に戻って、ステップS1106では、CPU21Aが、段差乗り越え制御フラグXEXを1に設定する。段差乗り越え制御フラグXEXが1の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOによるトルク補正を実行中、すなわち、ステップS1103の乗り越え制限制御又はステップS1105の低速乗り越え制御を実行中であることを示す。一方、トルク補正実行フラグXEXが0の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOによるトルク補正を実行中ではない、すなわち、ステップS1103の乗り越え制限制御及びステップS1105の低速乗り越え制御の何れも実行中ではないことを示す。
【0160】
ステップS1107では、CPU21Aが、ドライバーに警告する処理を実行する。具体的には、例えば「ペダルを戻して車両を停車してください。」等のメッセージをメーターに表示させたり、メッセージを音声でスピーカーから出力させたりする。
【0161】
図16には、車速と段差高さhと段差乗り越え制御との関係を示した。図16に示すように、車速が第1速度(1kph)以下で且つ段差高さhが第1所定高さより高い場合は、乗り越え制限制御を行う。また、車速が第2速度(9kph)より速い場合、又は、段差高さhが第2所定高さ以下の場合は、ドライバーの要求で段差を乗り越える制御を行う。また、車速が9kph以下の場合において、段差高さhが第2所定高さより高く且つ第1の所定高さ以下の場合と、車速が1kphより速く且つ9kph以下の場合において、段差高さhが第1所定高さより高い場合は、1kphで段差を乗り越える低速乗り越え制御を行う。
【0162】
このように、段差高さhに応じて、段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う。これにより、踏み間違い防止制御を行う場合に車両の挙動が不安定となるのを抑制することができる。
【0163】
次に、図17、18を参照して制御部21のCPU21Aで実行される監視安全制御処理について説明する。図17、18に示した監視安全制御処理は、所定時間毎、例えば10msec毎に繰り返し実行される処理である。
【0164】
ステップS1300では、CPU21Aが、異なる装置で取得された路面の勾配Aと勾配Bとの差の絶対値が所定値以下であるか否かを判定する。ここで、勾配Aは、例えば車両制御装置10の勾配センサ207から取得した路面の勾配である。また、勾配Bは、例えば車両制御装置10以外の装置、例えば車両100が横滑りするのを防止するための図示しないVSC(Vehicle Stability Control)装置等の他の装置から取得した勾配である。同じ車両100を制御する車両制御装置10で取得した路面の勾配A及び図示しないVSC装置の各々で取得した路面の勾配Bは一致するのが通常であるが、例えば車両制御装置10に異常が発生した場合は、両者が一致しないこともあり得る。
【0165】
そこで、ステップS1300では、CPU21Aは、勾配センサ207から勾配Aを取得すると共に、図示しないVSC装置から勾配Bを取得する。そして、勾配Aと勾配Bとの差の絶対値が所定値以下であるか否かを判定する。そして、勾配Aと勾配Bとの差の絶対値が所定値以下である場合、すなわち正常の場合は、ステップS1301へ移行する。一方、勾配Aと勾配Bとの差の絶対値が所定値より大きい場合、すなわち異常が発生している場合は、ステップS1305へ移行する。
【0166】
ステップS1301では、CPU21Aが、ステップS1300で取得した勾配Aに対応する勾配補正トルクTupを取得する。具体的には、勾配Aと勾配補正トルクTupとの対応関係を表す勾配補正トルクマップデータ23Eを参照して、勾配Aに対応すると勾配補正トルクTupを取得する。図19に示すように、勾配補正トルクマップデータ23Eは、勾配Aが大きくなるに従って、すなわち上り勾配がきつくなるに従って勾配補正トルクTupが大きくなり、勾配Aが小さくなるに従って、すなわち下り勾配がきつくなるに従って勾配補正トルクTupが小さくなるような対応関係を表すデータである。
【0167】
ステップS1302では、CPU21Aが、車輪速センサ201から取得した車輪速に基づいて算出した車速が所定速度以下であるか否かを判定する。所定速度は、図8のステップS800と同様に、比較的低速の速度に設定され、本実施形態では、一例として9kphに設定されるが、これに限られるものではない。そして、車速が所定速度以下の場合はステップS1303へ移行し、車速が所定速度より速い場合はステップS1306へ移行する。
【0168】
ステップS1303では、CPU21Aが、図15のステップS1203で算出された踏み間違い防止制御用トルクTOが正常値であるか否かを判定する。ここで、踏み間違い防止制御用トルクTOが正常値であるとは、シフトレバーがDレンジ(前進)の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOが下限値(Tup-α)以上の場合をいい、シフトレバーがRレンジ(後退)の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOが上限値(Tup+α)以下の場合をいう。
【0169】
一方、踏み間違い防止制御用トルクTOが異常値であるとは、シフトレバーがDレンジの場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOが下限値(Tup-α)より小さい場合をいい、シフトレバーがRレンジ(後退)の場合は、踏み間違い防止制御用トルクTOが上限値(Tup+α)より大きい場合をいう。
【0170】
ここで、所定値αは、本実施形態では一例として0.1Gに設定されるが、これに限られるものではない。そして、踏み間違い防止制御用トルクTOが正常値である場合、すなわちシフトレバーがDレンジで且つ踏み間違い防止制御用トルクTOが下限値(Tup-α)以上の場合、又は、シフトレバーがRレンジで且つ踏み間違い防止制御用トルクTOが上限値(Tup+α)以下の場合はステップS1304へ移行する。
【0171】
一方、踏み間違い防止制御用トルクTOが異常値である場合、すなわちシフトレバーがDレンジで且つ踏み間違い防止制御用トルクTOが下限値(Tup-α)より小さい場合、又は、シフトレバーがRレンジで且つ踏み間違い防止制御用トルクTOが上限値(Tup+α)より大きい場合はステップS1305へ移行する。
【0172】
ステップS1304では、CPU21Aが、踏み間違い防止制御トルクTOが異常値である状態が継続している時間をカウントするためのカウンタCfを0にリセットする。
【0173】
ステップS1305では、CPU21Aが、カウンタCfを次式によりインクリメントする。
【0174】
Cf=Cf+1 ・・・(14)
【0175】
ステップS1306では、CPU21Aが、ステップS1304と同様に、カウンタCfを0にリセットする。
【0176】
ステップS1307では、CPU21Aが、踏み間違い防止制御用トルクTOを、取り得る値の最大値に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御用トルクTOを、図6のトルク選択処理で踏み間違い防止制御用トルクTOが選択されない値に設定する。このように、車速の絶対値が所定速度を越えている場合は、踏み間違い防止制御の実行を制限する。
【0177】
ステップS1308では、CPU21Aが、カウンタCfが所定時間以下であるか否かを判定する。ここで、本実施形態では一例として所定値は0.5秒に相当する値に設定されるが、これに限られるものではない。そして、カウンタCfが所定値以下である場合は、図18のステップS1310へ移行し、カウンタCfが所定値より大きい場合は、ステップS1309へ移行する。
【0178】
ステップS1309では、CPU21Aが、ステップS1307と同様に、踏み間違い防止制御用トルクTOを、取り得る値の最大値に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御用トルクTOを、図6のトルク選択処理で踏み間違い防止制御用トルクTOが選択されない値に設定する。これにより、踏み間違い防止制御の実行が制限される。なお、さらに回転電機150を停止させてもよいし、異常が発生していることをドライバーに警告するようにしてもよい。
【0179】
図18のステップS1310では、CPU21Aが、ステップS1302と同様に、車輪速センサ201から取得した車輪速に基づいて算出した車速が所定速度以下であるか否かを判定する。そして、車速が所定速度以下の場合はステップS1311へ移行し、車速が所定速度より速い場合はステップS1321へ移行する。
【0180】
ステップS1311では、CPU21Aが、図15のステップS1202で算出された段差補正トルクTLが正常値であるか否かを判定する。ここで、段差補正トルクTLが正常値であるとは、シフトレバーがDレンジ(前進)の場合は、段差補正トルクTLが所定値α以下の場合をいい、シフトレバーがRレンジ(後退)の場合は、段差補正トルクTLが所定値-α以上の場合をいう。所定値αは、前述したように本実施形態では一例として0.1Gに設定されるが、これに限られるものではない。
【0181】
一方、段差補正トルクTLが異常値であるとは、シフトレバーがDレンジの場合は、段差補正トルクTLが所定値αより大きい場合をいい、シフトレバーがRレンジ(後退)の場合は、段差補正トルクTLが所定値-αより小さい場合をいう。
【0182】
そして、段差補正トルクTLが正常値である場合、すなわちシフトレバーがDレンジで且つ段差補正トルクTLが所定値α以下の場合、又は、シフトレバーがRレンジで且つ段差補正トルクTLが所定値-α以上の場合はステップS1312へ移行する。
【0183】
一方、段差補正トルクTLが異常値である場合、すなわちシフトレバーがDレンジで且つ段差補正トルクTLが所定値αより大きい場合、又は、シフトレバーがRレンジで且つ段差補正トルクTLが所定値-αより小さい場合はステップS1313へ移行する。
【0184】
ステップS1312では、CPU21Aが、段差補正トルクTLが異常値である状態が継続している時間をカウントするためのカウンタCfupTLを0にリセットする。
【0185】
ステップS1313では、CPU21Aが、カウンタCfupTLを次式によりインクリメントする。
【0186】
CfupTL=CfupTL+1 ・・・(15)
【0187】
ステップS1314では、CPU21Aが、カウンタCfupTLが所定値以下であるか否かを判定する。ここで、本実施形態では一例として所定値は0.5秒に設定されるが、これに限られるものではない。そして、カウンタCfupTLが所定値以下である場合は、ステップS1316へ移行し、カウンタCfupTLが所定値より大きい場合は、ステップS1315へ移行する。
【0188】
ステップS1315では、CPU21Aが、図7のステップS1307と同様に、踏み間違い防止制御用トルクTOを、取り得る値の最大値に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御トルクTOを、図6のトルク選択処理で踏み間違い防止制御トルクTOが選択されない値に設定する。これにより、踏み間違い防止制御の実行が制限される。なお、さらに回転電機150を停止させてもよいし、異常が発生していることをドライバーに警告するようにしてもよい。
【0189】
ステップS1316では、CPU21Aが、図15のステップS1201で算出されたフィードバック駆動トルクTfbが正常値であるか否かを判定する。ここで、フィードバック駆動トルクTfbが正常値であるとは、シフトレバーがDレンジ(前進)の場合は、フィードバック駆動トルクTfbが所定値α以下の場合をいい、シフトレバーがRレンジ(後退)の場合は、フィードバック駆動トルクTfbが所定値-α以上の場合をいう。所定値αは、前述したように本実施形態では一例として0.1Gに設定されるが、これに限られるものではない。
【0190】
一方、フィードバック駆動トルクTfbが異常値であるとは、シフトレバーがDレンジの場合は、フィードバック駆動トルクTfbが所定値αより大きい場合をいい、シフトレバーがRレンジ(後退)の場合は、フィードバック駆動トルクTfbが所定値-αより小さい場合をいう。
【0191】
そして、フィードバック駆動トルクTfbが正常値である場合、すなわちシフトレバーがDレンジで且つフィードバック駆動トルクTfbが所定値α以下の場合、又は、シフトレバーがRレンジで且つフィードバック駆動トルクTfbが所定値-α以上の場合はステップS1317へ移行する。
【0192】
一方、フィードバック駆動トルクTfbが異常値である場合、すなわちシフトレバーがDレンジで且つフィードバック駆動トルクTfbが所定値αより大きい場合、又は、シフトレバーがRレンジで且つフィードバック駆動トルクTfbが所定値-αより小さい場合はステップS1318へ移行する。
【0193】
ステップS1317では、CPU21Aが、フィードバック駆動トルクTfbが異常値である状態が継続している時間をカウントするためのカウンタCfupTfbを0にリセットする。
【0194】
ステップS1318では、CPU21Aが、カウンタCfupTfbを次式によりインクリメントする。
【0195】
CfupTfb=CfupTfb+1 ・・・(16)
【0196】
ステップS1319では、CPU21Aが、カウンタCfupTfbが所定値以下であるか否かを判定する。ここで、本実施形態では一例として所定値は0.5秒に設定されるが、これに限られるものではない。そして、カウンタCfupTfbが所定値以下である場合は、本ルーチンを終了し、カウンタCfupTfbが所定値より大きい場合は、ステップS1320へ移行する。
【0197】
ステップS1320では、CPU21Aが、ステップS1315と同様に、踏み間違い防止制御用トルクTOを、取り得る値の最大値に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御トルクTOを、図6のトルク選択処理で踏み間違い防止制御トルクTOが選択されない値に設定する。これにより、踏み間違い防止制御の実行が制限される。なお、さらに回転電機150を停止させてもよいし、異常が発生していることをドライバーに警告するようにしてもよい。
【0198】
ステップS1321では、CPU21Aが、ステップS1312と同様に、カウンタCfupTLを0にリセットする。
【0199】
ステップS1322では、CPU21Aが、ステップS1317と同様に、カウンタCfupTfbを0にリセットする。
【0200】
ステップS1323では、CPU21Aが、ステップS1315と同様に、踏み間違い防止制御用トルクTOを、取り得る値の最大値に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御トルクTOを、図6のトルク選択処理で踏み間違い防止制御トルクTOが選択されない値に設定する。このように、車速の絶対値が所定速度を越えている場合は、踏み間違い防止制御の実行を制限する。
【0201】
なお、本実施形態では、図17のステップS1301~S1309及び図18のステップS1310~S1323の処理を全て実行する場合について説明したが、図17のステップS1301~S1309の処理のみ実行し、図18のステップS1310~S1323の処理を省略してもよい。
【0202】
このように、踏み間違い防止制御トルクTOが異常値の状態が所定時間を越えて継続された場合は、踏み間違い防止制御トルクTOを最大値に設定し、踏み間違い防止制御の実行を制限する。また、段差補正トルクTL及びフィードバック駆動トルクTfbについても同様に、異常値の状態が所定時間を越えて継続された場合は、踏み間違い防止制御トルクTOを最大値に設定し、踏み間違い防止制御の実行を制限する。これにより、何らかの異常が発生している場合いは踏み間違い防止制御が実行されないようにするため、車両100の挙動が不安定になるのを防ぐことができる。
【0203】
次に、監視安全制御の変形例について説明する。
【0204】
図20は、変形例に係る監視安全制御のフローチャートである。図20に示す監視安全制御は、図17に示す監視安全制御のステップS1307に代えてステップS1307Aが、ステップS1309に代えてステップS1309Aが実行されると共に、ステップS1308の判定が肯定判定の場合にステップS1309Bが実行される点が異なる。その他の処理は図17の踏み間違い防止制御と同一であるため説明を省略する。
【0205】
ステップS1307Aでは、CPU21Aが、踏み間違い防止制御の実行を制限するか否かを示す踏み間違い防止制御フラグXFUSAを1に設定する。踏み間違い防止制御フラグXFUSAが1の場合は、踏み間違い防止制御の実行を制限することを示す。一方、踏み間違い防止制御フラグXFUSAが0の場合は、踏み間違い防止制御の実行を許可することを示す。すなわち図20の踏み間違い防止制御では、ステップS1302で車速の絶対値が所定速度より大きいと判定された場合に、踏み間違い防止制御の実行を制限する。
【0206】
また、ステップS1308でカウンタCfが所定値を越えたと判定された場合、すなわち踏み間違い防止制御トルクTOが異常値である状態が所定時間を越えて継続した場合は、ステップS1309Aで踏み間違い防止制御フラグXFUSAを1に設定する。すなわち、踏み間違い防止制御の実行を制限する。一方、ステップS1308でカウンタCfが所定値以下の場合、すなわち踏み間違い防止制御トルクTOが正常値である場合は、ステップS1309Bで踏み間違い防止制御フラグXFUSAを0に設定する。すなわち踏み間違い防止制御を許可する。
【0207】
次に、図20の踏み間違い防止制御に対応したトルク選択処理について図21を参照して説明する。
【0208】
図21のトルク選択処理は、図6のトルク選択処理にステップS250が追加された処理である。その他の処理は図6の処理と同一であるので説明を省略する。
【0209】
ステップS250では、CPU21Aが、踏み間違い防止制御フラグXFUSAが0であるか否かを判定する。すなわち、踏み間違い防止制御が許可されているか否かを判定する。そして、踏み間違い防止制御フラグXFUSAが0の場合、すなわち踏み間違い防止制御が許可されている場合はステップS300へ移行する。一方、踏み間違い防止制御フラグXFUSAが1の場合、すなわち踏み間違い防止制御の実行が制限されている場合は、本ルーチンを終了する。
【0210】
以上説明したように、本実施形態では、段差の高さに応じて、段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う。これにより、踏み間違い防止制御を行う場合に車両の挙動が不安定となるのを抑制することができる。
【0211】
なお、本開示は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0212】
上記実施の形態で説明した車両制御装置10の構成(図2参照)は一例であり、本開示の主旨を逸脱しない範囲内において不要な部分を削除したり、新たな部分を追加したりしてもよいことは言うまでもない。
【0213】
また、上記実施の形態で説明した車両制御プログラム23Aの処理の流れ(図5、6、17、18参照)も一例であり、本開示の主旨を逸脱しない範囲内において不要なステップを削除したり、新たなステップを追加したり、処理順序を入れ替えたりしてもよいことは言うまでもない。
【0214】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の装置及びその手法は、専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成する専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の装置及びその手法は、コンピュータプログラムを実行するプロセッサと一つ以上のハードウエア論理回路との組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【0215】
本開示の技術に関して、以下の付記を開示する。
【0216】
<付記>
(付記1)
車両の車輪が接触している段差の高さを推定する段差推定部と、
前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う制御部と、
を備えた車両制御装置。
(付記2)
前記制御部は、予め定めた許可条件を満たす場合に前記踏み間違い防止制御を行う
付記1記載の車両制御装置。
(付記3)
前記許可条件は、前記車両の速度が所定速度以下である、前記車両のアクセルのアクセル開度が所定アクセル開度より大きい、前記車両のブレーキのブレーキ油圧が所定閾値以下である、前記車両のパーキングブレーキがオフである、及び前記車両のシフトがパーキング及びニュートラル以外である、の少なくとも1つを含む
付記2記載の車両制御装置。
(付記4)
前記制御部は、路面の勾配に応じた前記所定アクセル開度を取得し、取得した前記所定アクセル開度に基づいて、前記許可条件を満たすか否かを判定する
付記3記載の車両制御装置。
(付記5)
前記制御部は、前記許可条件を満たしてから所定時間以内の場合のみ前記踏み間違い防止制御を行う
付記2~4の何れか1項に記載の車両制御装置。
(付記6)
前記制御部は、前記乗り越え制限制御として、前記車両を停止させるための第1のトルクと、前記段差に応じた第2のトルクと、路面の勾配に応じた第3のトルクと、に基づいて、踏み間違い制御用トルクを算出し、算出した踏み間違い制御用トルクを前記車輪に付与する制御を行う
付記1~5の何れか1項に記載の車両制御装置。
(付記7)
前記制御部は、前記低速乗り越え制御として、前記車両を所定速度で走行させるため第1のトルクと、前記段差に応じた第2のトルクと、路面の勾配に応じた第3のトルクと、に基づいて、踏み間違い制御用トルクを算出し、算出した踏み間違い制御用トルクを前記車輪に付与する制御を行う
付記1~5の何れか1項に記載の車両制御装置。
(付記8)
前記制御部は、前記車両のドライバーのアクセル操作量に応じたドライバー要求トルクと、前記踏み間違い防止制御用トルクと、のうちトルク値が小さい方のトルクを前記車輪に付与する
付記6又は付記7記載の車両制御装置。
(付記9)
前記制御部は、前記踏み間違い防止制御用トルクが異常値の場合、前記踏み間違い防止制御の実行を制限する
付記6~8の何れか1項に記載の車両制御装置。
(付記10)
前記制御部は、前記第1のトルク及び前記第2のトルクの少なくとも一方が異常値の場合、前記踏み間違い防止制御の実行を制限する
付記6~9の何れか1項に記載の車両制御装置。
(付記11)
前記制御部は、予め定めた制限条件を満たす場合に前記踏み間違い防止制御の実行を制限する
付記1~10の何れか1項に記載の車両制御装置。
(付記12)
前記制限条件は、前記車両が停止している、前記車両のアクセルがオフである、前記車両のブレーキのブレーキ油圧が所定ブレーキ油圧より大きい、の少なくとも1つを含む
付記11記載の車両制御装置。
(付記13)
少なくとも1つのプロセッサが、
車両の車輪が接触している段差の高さを推定し、
前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う、
ことを含む処理を実行する車両制御方法。
(付記14)
少なくとも1つのプロセッサに、
車両の車輪が接触している段差の高さを推定し、
前記段差の高さに応じて、前記段差を乗り越えないように制限する乗り越え制限制御と、所定速度以下で前記段差を乗り越える低速乗り越え制御と、の何れかの踏み間違い防止制御を行う、
ことを含む処理を実行させる車両制御プログラム。
【符号の説明】
【0217】
10 車両制御装置、21 制御部、23A 車両制御プログラム、40 段差推定部、41 制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21