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特開2024-178843電力系統制御装置、電力系統制御システム、及び電力系統制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178843
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】電力系統制御装置、電力系統制御システム、及び電力系統制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20241218BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J13/00 301A
H02J13/00 311R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097302
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】望月 亮太
(72)【発明者】
【氏名】谷津 昌洋
(72)【発明者】
【氏名】上野 真太郎
【テーマコード(参考)】
5G064
5G066
【Fターム(参考)】
5G064AC09
5G064CB08
5G064DA03
5G064DA05
5G066AA01
5G066AA02
5G066AA03
5G066AA09
5G066AD00
5G066AE09
(57)【要約】
【課題】所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統に係る制御対象機器の操作を可及的に抑制可能な電力系統制御装置を提供する。
【解決手段】電力系統制御装置11は、電力系統10に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器21の操作を含む制御を行う。電力系統制御装置11は、制御計画に従って制御対象機器21の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定する制約条件スケジュール設定部43と、前記設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力する制御アクション演算部47と、を備える。制約条件スケジュール設定部43は、所定の期間に属する予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて制約条件を設定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力系統に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器の操作を含む制御を行う電力系統制御装置であって、
前記制御計画に従って前記制御対象機器の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定する制約条件設定部と、
前記制約条件設定部により設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力する制御アクション演算部と、
を備え、
前記制約条件設定部は、所定の期間に属する前記予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて前記制約条件を設定する
ことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記制約条件設定部は、
予測断面に係る系統状態と、実時間断面に係る系統状態と、の相違に基づく予測誤差が生じた旨の判定が下された場合に、当該予測誤差の補償を考慮して前記制約条件を設定する
ことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の電力系統制御装置であって、
前記制約条件設定部は、
予測断面に係る系統状態と、実時間断面に係る系統状態と、の相違に基づく予測誤差が生じた旨の判定が下された場合に、前記予測制御アクションに係る上限値及び下限値により規定される制御域を拡張補正することにより、前記予測誤差の補償を考慮した前記制約条件の設定を行う
ことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電力系統制御装置であって、
前記制約条件設定部は、
前記制御域の拡張補正を行うに際し、前記制御アクションに係る計測値及び予測値間の差分の大きさに基づいて、当該差分が大きいほど当該拡張補正の量を増大させる
ことを特徴とする電力系統制御装置。
【請求項5】
電力系統に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器の操作を含む制御を行う電力系統制御装置を備える電力系統制御システムであって、
前記電力系統制御装置は、
前記制御計画に従って前記制御対象機器の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定する制約条件設定部と、
前記制約条件設定部により設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力する制御アクション演算部と、
を備え、
前記制約条件設定部は、所定の期間に属する前記予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて前記制約条件を設定する
ことを特徴とする電力系統制御システム。
【請求項6】
電力系統に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器の操作を含む制御を行う電力系統制御装置に用いられる電力系統制御方法であって、
前記制御計画に従って前記制御対象機器の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定するステップと、
前記設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力するステップと、を有し、
前記制約条件を設定するステップでは、所定の期間に属する前記予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて前記制約条件を設定する
ことを特徴とする電力系統制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力系統の安定化制御を行う電力系統制御装置、電力系統制御システム、及び電力系統制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の安定化制御は、電力系統の電源品質を良好に保つ上で重要な技術要素である。近年の再生可能エネルギーの増加によって電力系統の不確実性は増してきており、それに伴って運用者によって適切な制御方策を立案することは困難さを増している。
【0003】
そこで、従来、電力系統の将来の状態を予測し、予測した将来の状態に対して最適潮流計算を適用することにより、制御スケジュールを立案すると共に、実時間においてオンライン解析を行うことを通じて、電圧安定性の保持と送電ロスの低減とを両立させる試みがなされている。
【0004】
この点に関し、特許文献1に係る電力系統制御技術では、電力系統の将来の状態を複数予測し、予測した複数の将来の状態のそれぞれに対応する複数の制御スケジュールを立案すると共に、立案した複数の制御スケジュールのうち、実時間での計測値を参照することで制御アクションとして採用すべきひとつの制御スケジュールを設定する。
特許文献1に係る電力系統制御技術によれば、予測結果が局所的に外れた場合でも、予測ずれに伴う影響を回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2023-4593号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に係る電力系統制御技術では、立案した複数の制御スケジュールのうち、実時間での計測値を参照することで制御アクションとして採用すべきひとつの制御スケジュールを設定するため、ある程度の長さの所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合に、電力系統に係る制御対象機器の操作が断片的に過大になる懸念がある点で改良の余地があった。
【0007】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統に係る制御対象機器等操作を可及的に抑制可能な電力系統制御装置、電力系統制御システム、及び電力系統制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明に係る電力系統制御装置は、
電力系統に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器の操作を含む制御を行う電力系統制御装置であって、
前記制御計画に従って前記制御対象機器の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定する制約条件設定部と、
前記制約条件設定部により設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力する制御アクション演算部と、
を備え、
前記制約条件設定部は、所定の期間に属する前記予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて前記制約条件を設定することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統に係る制御対象機器の操作を可及的に抑制することができる。
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態で詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る電力系統制御システムの概要を機能的に表す概略構成図である。
図2】本発明の実施形態に係る電力系統制御装置に備わる制御アクション演算部により求められる予測制御アクションの具体例を表す説明図である。
図3図3に示す予測制御アクション(予測時間に対する変圧器タップ位置の経時変化特性)を第1上限値及び第1下限値と共に表す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係る電力系統制御装置の動作説明に供するフローチャート図である。
図5】本発明の第1変形例に係る電力系統制御装置に備わる制御アクション演算部により求められる予測制御アクションの具体例を表す説明図である。
図6A】本発明の第1変形例に係る電力系統制御装置の動作説明に供するフローチャート図である。
図6B】本発明の第1変形例に係る電力系統制御装置の動作説明に供するフローチャート図である。
【発明の実施の形態】
【0011】
本発明の実施形態に係る電力系統制御装置、電力系統制御システム、及び電力系統制御方法について、適宜の図面を参照しながら詳細に説明する。
本発明の実施形態(実施例)に係る電力系統制御装置、電力系統制御システムの説明において、共通の機能を有する構成要素には共通の符号を付し、その重複した説明を省略する。
【0012】
〔電力系統制御システム1の概略構成〕
はじめに、本発明の実施形態に係る電力系統制御システム1の概略構成について、図1を参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る電力系統制御システム1の概要を機能的に表す概略構成図である。
【0013】
本発明の実施形態に係る電力系統制御システム1は、図1に示すように、電力系統10と電力系統制御装置11との間を、インターネットや専用通信線等の通信媒体13を介してデータ交換可能に電子的に接続して構成されている。
【0014】
〔電力系統10の構成〕
電力系統10とは、発電設備、送電設備、変電設備、需要設備等からなる、電力の発電から消費に至るまでに関連する設備全体を含む概念である。具体的には、電力系統10は、制御対象機器21及び計測機器23を含んで構成されている。
【0015】
制御対象機器21とは、電力系統10に属する調相設備、発電機、変換器、蓄電池、需要家設備等の出力変更が可能な機器、及び、タップ付き変圧器、遮断機、開閉器等の設備状態が変更可能な機器全般を含む概念である。制御対象機器21は、電力系統制御装置11から送られてくる制御指令に従う操作を行うか、又は、人手による指示に従う操作を行う役割を果たす。
【0016】
計測機器23とは、電力系統10に属する発電機の出力状態、送変電設備の潮流状態、制御対象機器21の設備状態を計測する機器である。計測機器23は、電力系統10における所定の測定箇所に設けられ、制御対象機器21に係る潮流値や、負荷の有効電力値及び無効電力値を含む系統設備の計測値を含む電力系統10に係る計測値を出力する役割を果たす。
【0017】
〔電力系統制御装置11の構成〕
電力系統制御装置11には、図1に示すように、気象情報提供事業者の管理下にある気象情報サーバ15が、通信媒体17を介してデータ交換可能に電子的に接続されている。気象情報サーバ15には、時々刻々と変化する各地の気象情報(少なくとも気温、湿度、風速、日射量を含む、過去及び将来のデータ)が蓄積されている。
【0018】
電力系統制御装置11は、電力系統10の電源品質を良好に保つための制御機能を有する。こうした制御機能を果たすために、電力系統制御装置11は、例えば、CPU、メモリ、ハードディスク・SSD等の記憶装置、及び、通信機能を備えたサーバ(いずれも不図示)を用いて構成されている。
【0019】
電力系統制御装置11では、CPUがメモリに記憶された制御プログラムに従って本発明に係る所定の処理を行うことにより、図1に示すように、計測値取得部31、現在系統作成部33、気象情報取得部35、需要予測部37、予測系統作成部39、予測制御アクション演算部41、制約条件スケジュール設定部43、制約条件スケジュール保存部45、制御アクション演算部47、及び、制御適用部49としての各機能が実現されるように構成されている。
なお、制約条件スケジュール保存部45は、前記記憶装置により実現される機能部である。
【0020】
計測値取得部31は、計測機器23が出力した電力系統10に係る計測値を、通信媒体13を介して取得する。なお、電力系統10に係る計測値は、計測機器23によって直接計測されたデータであってもよいし、電力事業者によって加工されたデータであってもよい。
計測値取得部31により取得した計測値は予測系統作成部39に送られる。
【0021】
現在系統作成部33は、計測値取得部31により取得した実時間での電力系統10に係る計測値に基づいて、現在の系統状態を推定し、推定した系統断面を現在系統として作成する。
【0022】
気象情報取得部35は、気象情報サーバ15に蓄積されている気象情報(天気予報データを含む)を、通信媒体17を介して取得する。気象情報取得部35により取得した気象情報は需要予測部37に送られる。
【0023】
需要予測部37は、気象情報取得部35により取得した気象情報に基づいて、将来における時系列上の複数の各時間帯毎の需要予測値を算出する。需要予測部37により算出した複数の各時間帯毎の需要予測値は予測系統作成部39に送られる。
【0024】
予測系統作成部39は、計測値取得部31により取得された電力系統10に係る計測値に基づいて、将来の各時間帯における発電計画値を作成する。
次いで、予測系統作成部39は、作成した将来の各時間帯における発電計画値、現在系統作成部33により作成された現在系統、及び需要予測部37により算出された将来の各時間帯における需要予測値に基づいて、現在系統に対し、将来の各時間帯における需要予測値及び発電計画値を適用する。
その後、予測系統作成部39は、前記適用後の現在系統を参照して潮流計算を実行することにより、将来の各時間帯における予測系統を作成する。
【0025】
予測制御アクション演算部41は、予測系統作成部39により作成した将来の各時間帯における予測系統に対して最適潮流計算を実行する。この最適潮流計算では、母線電圧の上下限値やブランチ潮流の上限値、制御対象機器21の操作可否や制御可能量といった制約条件を満たしながら、例えば、電圧安定性を保持し、かつ運用コストを低減するなどの所定の目的を最適化する運用状態を決定する。
【0026】
本実施形態では、前記最適潮流計算に用いる制御対象機器21の制約条件として、設備データベース(不図示)に予め定義された制御対象機器21の運用上の制約条件を用いることとする。
最適潮流計算実行後、予測制御アクション演算部41は、最適化前後での系統断面の差分から予測制御アクションを算出する。ここでは例として、操作可能な制御対象機器21として変圧器及び調相機器を例示し、変圧器タップ位置及び調相機器投入容量を、予測制御アクションとして出力するものとする。
【0027】
制約条件スケジュール設定部43は、予測制御アクション演算部41により算出した予測制御アクションに基づいて、所定の制御対象期間(例えば8時間等の比較的長い期間)に含まれる操作期間及び無操作期間(詳しくは後記する)の各々に関する制御対象機器21の制約条件スケジュールを設定する。
制約条件スケジュール設定部43は、本発明の「制約条件設定部」に相当する。
制約条件スケジュール設定部43による制約条件スケジュールの設定について、詳しくは後記する。
制約条件スケジュール設定部43により設定された制約条件スケジュールは制約条件スケジュール保存部45に送られる。
これを受けて制約条件スケジュール保存部45は、前記制約条件スケジュールを、記憶装置の所定のアドレスに保存する。
【0028】
制御アクション演算部47は、現在系統作成部33により作成された現在系統に対し、制約条件スケジュール保存部45から読み出した(現在時刻に対応する)注目予測時刻に係る制約条件スケジュールを適用した上で、例えば、電圧安定性を保持し、かつ運用コストを低減可能な制御アクションを最適潮流計算により求める。制御アクションとしては、例えば、変圧器のタップ位置切り替えや調相機器の入切制御といった離散値の指令をあげることができる。これにより、電力系統10に係る電圧制御、無効電力制御を行うことができる。
制御アクション演算部47により求められた制御アクションは制御適用部49に送られる。
【0029】
制御適用部49は、制御アクション演算部47により求められた制御アクションに基づいて、電力系統10に適用するための制御指令を生成する。
制御適用部49により生成された電力系統10に係る制御指令は、通信媒体13を介して電力系統10に属する制御対象機器21に送られる。
【0030】
〔用語の定義〕
ここで、本明細書で用いる主要な用語の定義について、図2図3を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態に係る電力系統制御装置に備わる制御アクション演算部により求められる予測制御アクションの具体例を表す説明図である。図3は、図2に示す制御アクション(変圧器タップ位置の経時変化特性)を第1上限値及び第1下限値(制約条件)と共に表す説明図である。
【0031】
本明細書において「操作」とは、電力系統10に属する制御対象機器21の操作を意味する。制御対象機器21の「操作」の例としては、変圧器のタップ位置切り替え、調相機器の投入・切離などの制御アクションをあげることができる。
本明細書において「無操作期間」とは、原則として、制御対象機器21の操作が行われていない期間を意味する。本実施形態における「無操作期間」の例としては、図2に示す予測制御アクション(予測時間に対する変圧器タップ位置の経時変化特性)に関し、時系列的に連なる個々の予測時間(予測断面)において同じ予測値が連続して現れる期間を無操作期間(図2参照)と定義する。また、時系列的に連なる個々の予測時間(予測断面)において同じ予測値が連続して現れる中、ひとつの予測断面において逸脱値(図2のTp1、Tp2、Tp3参照)が出現する期間であっても、この逸脱値を局所的な最適化制御や数値計算の過程で生じる微小な偏差に起因するものであるとみなし、この逸脱値を無効化することで当該期間を無操作期間と定義(図2参照)しても構わない。
本明細書において「操作期間」とは、原則として、制御対象機器21の操作が行われている期間を意味する。本実施形態における「操作期間」の例としては、図2に示す予測制御アクション(変圧器タップ位置の経時変化特性)に関し、時系列的に連なる個々の予測時間(予測断面)において相互に異なる予測値が連続して現れる(制御アクションの予測値が時系列的に連続して変化する)期間、要するに、無操作期間と無操作期間の間に存する期間を操作期間と定義する。
本明細書において「注目操作期間」とは、制御アクションの予測値が時系列的に連続して変化する「操作期間」が複数存する場合において、注目しているひとつの「操作期間」を意味する。
本明細書において「注目無操作期間」とは、制御アクションの予測値が時系列的に連続して変化する「無操作期間」が複数存する場合において、注目しているひとつの「無操作期間」を意味する。
「無操作期間」、「操作期間」、「注目操作期間」及び「注目無操作期間」は、本発明の「所定の期間」に相当する。
本明細書において「制約条件」とは、例えば、「注目操作期間」又は「注目無操作期間」に属する制御アクションに対して適用される、制御アクションのダイナミックレンジ(制御域)を規定する条件を意味する。
本明細書において「制約条件スケジュール」とは、個々の「制約条件」を時系列に沿って並べた「制約条件」の集合を意味する。
本明細書において「制御スケジュール」とは、個々の制御アクションを時系列に沿って並べた制御アクションの集合を意味する。「制御スケジュール」は、本発明の「制御計画」に相当する。
本明細書において「予測誤差」とは、予測断面に係る系統状態と、実時間断面に係る系統状態と、の相違に起因して生じる制御アクションの誤差を意味する。
本明細書において「補正開始時刻」とは、例えば、予測誤差が生じた(制御アクションの補正を要する)旨の判定が下された時点の時刻をいう。
【0032】
〔制約条件スケジュールの設定例〕
次に、本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11に備わる制約条件スケジュール設定部43による制約条件スケジュールの設定例について、図2図3を参照して説明する。
制約条件スケジュール設定部43は、図2に例示する予測制御アクションに基づいて、操作期間・無操作期間毎の各々に関する制御対象機器21の制約条件スケジュールを設定する。
制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が無操作期間に属する場合、つまり、注目予測時刻tにおける制御対象機器21が無操作状態にある場合には、制約条件スケジュール設定部43は、制御対象機器21を操作不可(無操作)である旨の制約条件スケジュールを設定する。
【0033】
ただし、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が無操作期間に属する場合において、制約条件スケジュール設定部43は、次の(式1)に従って得られる、制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る第1上限値及び第1下限値を用いて、制約条件スケジュールを設定(図3参照)しても構わない。
Uu(t)=Lu(t)=Vsc(t) (式1)
(式1)において、Uuは制御アクションの上限値、Uu(t)は注目予測時刻tでの制御アクションの上限値、Luは制御アクションの下限値、Lu(t)は注目予測時刻tでの制御アクションの下限値、Vscは制御アクションの予測値、Vsc(t)は注目予測時刻tでの制御アクションの予測値をそれぞれ表す。
【0034】
一方、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が操作期間に属する場合において、制約条件スケジュール設定部43は、次の(式2)、(式3)に従って得られる、制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る第1上限値及び第1下限値を用いて、制約条件スケジュールを設定(図3参照)しても構わない。
Uu(t)=Vsc(tmax) (式2)
Lu(t)=Vsc(tmin) (式3)
(式2)、(式3)において、tmax は個々の操作期間内において予測値が最大となる時刻、tmin は個々の操作期間内において予測値が最小となる時刻、Vsc(tmax)は注目予測時刻tmax での制御アクションの予測値(第1上限値)、Vsc(tmin)は注目予測時刻tmin での制御アクションの予測値(第1下限値)をそれぞれ表す。
【0035】
なお、制御対象機器21として、例えば、予測制御アクションがON/OFFの二値データで表現される調相機器を採用したケースでは、予測制御アクションに係る上限値及び下限値を設定することは難しい。こうしたケースでは、制約条件スケジュール設定部43は、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が無操作期間に属する場合、制御対象機器21(調相機器)を操作不可に設定する一方、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が操作期間に属する場合、制御対象機器21(調相機器)を操作可(ただし、適宜の制約条件付き)に設定する構成を採用しても構わない。
【0036】
〔本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11の動作〕
次に、本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11(図1参照)の動作について、図4を参照して説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11の動作説明に供するフローチャート図であって、電力系統制御装置11に備わる複数の機能部のうち、制御アクション演算部47による演算処理の流れを示す。
【0037】
図4に示すステップS101において、制御アクション演算部47は、現在系統作成部33により作成された現在系統に対し、制約条件スケジュール保存部45から読み出した注目予測時刻に係る初期設定された制約条件スケジュールを適用した上で、要するに、(現在時刻に相当する)注目予測時刻に係る初期設定された制約条件を実時間断面に適用した上で、最適潮流計算を実行する。ここで、実時間断面とは、現在の系統状態(現在の送配電設備における負荷の電力消費状態)を意味する。
【0038】
ステップS102において、制御アクション演算部47は、ステップS101の最適潮流計算が収束したか否かの判定を行う。ステップS102の判定の結果、制御アクション演算部47は、最適潮流計算が収束した旨の判定が下された場合(ステップS102のYES)、処理の流れを次のステップS103へ進ませる一方、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下された場合(ステップS102のNO)、処理の流れをステップS105へとジャンプさせる。
【0039】
ステップS103において、制御アクション演算部47は、最適化断面に対する電圧安定性評価を実行する。電圧安定性評価には様々な手法があるが、ここでは例として一般的な評価手法であるPVカーブを用いた電圧安定性評価を行う。
PVカーブとは、負荷の大きさをパラメータとし、負荷の大きさが変化した際の母線電圧の大きさの変化を描いた特性曲線である。PVカーブにおいて、現在の電力系統の運転点における負荷の大きさと、電圧崩壊が発生する点における負荷の大きさの差分を負荷余裕とし、負荷余裕値が大きいほど電圧安定性が高いと判断する。
【0040】
ステップS104において、制御アクション演算部47は、電圧安定性が十分か否かの判定を行う。この判定は、例えば、PVカーブにおける負荷余裕値が所定の閾値(電圧安定性が高いとみなせる適宜の設定値)を超えるか否かを判定することで遂行すればよい。
ステップS104の判定の結果、制御アクション演算部47は、電圧安定性が十分である旨の判定が下された場合(ステップS104のYES)、立案した制御アクションの採用を決定し、処理の流れをステップS110へとジャンプさせる一方、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(ステップS104のNO)、処理の流れを次のステップS105へ進ませる。
【0041】
ステップS105において、ステップS102の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS104の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合に、制御アクション演算部47は、予め定義された制御対象機器21の運用上の制約条件を適用して最適潮流計算を実行する。
【0042】
ステップS106において、制御アクション演算部47は、ステップS105の最適潮流計算が収束したか否かの判定を行う。ステップS106の判定の結果、制御アクション演算部47は、最適潮流計算が収束した旨の判定が下された場合(ステップS106のYES)、処理の流れを次のステップS107へ進ませる一方、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下された場合(ステップS106のNO)、処理の流れをステップS109へジャンプさせる。
【0043】
ステップS107において、制御アクション演算部47は、ステップS103に準じた手法を用いて最適化断面に対する電圧安定性評価を実行する。
【0044】
ステップS108において、制御アクション演算部47は、ステップS104に準じた判定手法を用いて電圧安定性が十分か否かの判定を行う。
ステップS108の判定の結果、制御アクション演算部47は、電圧安定性が十分である旨の判定が下された場合(ステップS108のYES)、立案した制御アクションの採用を決定し、処理の流れをステップS110へとジャンプさせる一方、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(ステップS108のNO)、処理の流れを次のステップS109へ進ませる。
【0045】
ステップS109において、ステップS106の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS108の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合に、制御アクション演算部47は、解析エラーが生じたとみなす。
【0046】
ステップS110において、制御アクション演算部47は、ステップS104又はステップS108においてその採用が決定された制御アクションを出力し、その後、一連の制御アクション演算処理の流れを終了させる。ただし、解析エラーが生じた場合(ステップS109参照)には、制御アクション演算部47は、解析エラーが生じた旨を出力する。
【0047】
なお、制御アクション演算部47より出力された制御アクションは制御適用部49に送られる。これを受けて制御適用部49は、通信媒体13を介して、前記制御アクションを含む制御指令を電力事業者宛に送信する。これを受けて電力事業者は、受信した制御指令に基づいて電力系統10に属する所定の制御対象機器21を操作させることになる。
【0048】
本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11によれば、制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)は、所定の期間に属する予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて制約条件を設定するため、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統10に係る制御対象機器21の操作を可及的に抑制することができる。
【0049】
また、本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11によれば、制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)は、予測断面に係る系統状態と、実時間断面に係る系統状態と、の相違に基づく予測誤差が生じた旨の判定が下された場合(ステップS102、ステップS104のNO参照)に、当該予測誤差の補償を考慮して制約条件を設定(ステップS105等の処理参照)するため、予測誤差が生じた場合でも、かかる予測誤差に伴う影響を可及的に抑制することができる。
【0050】
さらに、本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11によれば、操作期間(所定の期間)において時系列的に連なる制御アクションの予測値の推移に基づいて制御の傾向を把握し、把握した制御の傾向を活用して適切な制御アクションに係る制御域を設定するため、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統10に係る制御対象機器21の操作を可及的に抑制することができる。
【0051】
〔第1変形例に係る電力系統制御装置11xの構成〕
次に、第1変形例に係る電力系統制御装置11xの構成について、図1及び図5を参照して説明する。
図5は、制御アクション(変圧器タップ位置の経時変化特性)に係る制御域(制約条件)を、第2上限値及び第2下限値を用いて規定した状態を表す説明図である。
本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11と、第1変形例に係る電力系統制御装置11xとは、一部の機能部(制約条件スケジュール設定部43)を除き、その他の機能部の構成は共通である。
そこで、一部の機能部(制約条件スケジュール設定部43)の相違部分に注目して説明することで、第1変形例に係る電力系統制御装置11xの構成説明に代えることとする。
【0052】
本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11に備わる制約条件スケジュール設定部43では、ある制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る予測値に対応する予測時刻が注目操作期間に属する場合に、該注目操作期間内において最大/最小となるそれぞれの予測値を、制御アクションに係る第1上限値及び第1下限値として用い、当該第1上限値及び第1下限値によって制御アクションに係る制御域を規定することにより、制約条件スケジュールを設定(図2C参照)している。
これに対し、第1変形例に係る電力系統制御装置11xに備わる制約条件スケジュール設定部43xでは、ある制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る予測値に対応する予測時刻が注目無操作期間又は注目操作期間のいずれかに属する場合、当該属している期間内における予測値に対して所定の余裕値Valを加算/減算した値を、制御アクションに係る第2上限値及び第2下限値として用い、当該第2上限値及び第2下限値によって制御アクションに係る制御域を規定することにより、制約条件スケジュールを設定(図5参照)している。
【0053】
詳しく述べると、第1変形例に係る制約条件スケジュール設定部43xは、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が無操作期間に属する場合、次の(式4)、(式5)に従って得られる、制御アクションに係る第2上限値及び第2下限値を用いて、制約条件スケジュールを設定(図5参照)する。
Uu(t)=Vsc(t)+Val (式4)
Lu(t)=Vsc(t)-Val (式5)
(式4)、(式5)において、Valは制御アクションに係る予測値に対する所定の余裕値を表す。余裕値Valとしては、特に限定されないが、例えば、制御アクション(制御対象機器21に係る制御量)の最小単位を設定すればよい。
ただし、注目予測時刻tでの制御アクションの予測値Vsc(t)が、設備データベースに予め定義された制御対象機器21の運用上の制約条件(上限値及び下限値)を逸脱しているケースでは、前記所定の余裕値Valはゼロ(Val=0)に設定するものとする。
【0054】
一方、第1変形例に係る制約条件スケジュール設定部43xは、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が操作期間に属する場合、次の(式6)、(式7)に従って得られる、制御アクションに係る第2上限値及び第2下限値を用いて、制約条件スケジュールを緩和する設定(図5参照)を行う。
Uu(t)=Vsc(tmax)+Val (式6)
Lu(t)=Vsc(tmin)-Val (式7)
ただし、注目操作期間内において予測値が最大となる時刻tmaxでの制御アクションの予測値Vsc(tmax)、又は、注目操作期間内において予測値が最小となる時刻tminでの制御アクションの予測値Vsc(tmin)のいずれかが、設備データベースに予め定義された制御対象機器21の運用上の制約条件(上限値及び下限値)を逸脱しているケースでは、前記所定の余裕値Valは値ゼロ(Val=0)に設定するものとする。
【0055】
なお、制御対象機器21として、例えば、予測制御アクションがON/OFFの二値データで表現される調相機器を採用したケースでは、予測制御アクションに係る上限値及び下限値を設定することは難しい。こうしたケースでは、第1変形例に係る制約条件スケジュール設定部43xは、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が無操作期間に属する場合、制御対象機器21(調相機器)を操作不可に設定する一方、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が操作期間に属する場合、制御対象機器21(調相機器)を操作可(ただし、適宜の制約条件付き)に設定する構成を採用しても構わない。
【0056】
〔第1変形例に係る電力系統制御装置11xの動作〕
次に、第1変形例に係る電力系統制御装置11x(図1参照)の動作について、図6A図6Bを参照して説明する。
図6A図6Bは、本発明の第1変形例に係る電力系統制御装置11xの動作説明に供するフローチャート図であって、電力系統制御装置11xに備わる複数の機能部のうち、制御アクション演算部47xによる演算処理の流れを示す。
【0057】
図6Aに示すステップS201において、制御アクション演算部47xは、現在系統作成部33により作成された現在系統に対し、制約条件スケジュール保存部45から読み出した注目予測時刻に係る初期設定された制約条件スケジュールを適用した上で、要するに、(現在時刻に相当する)注目予測時刻に係る初期設定された制約条件スケジュールを実時間断面に適用した上で、最適潮流計算を実行する。
【0058】
ステップS202において、制御アクション演算部47xは、ステップS201の最適潮流計算が収束したか否かの判定を行う。ステップS202の判定の結果、制御アクション演算部47xは、最適潮流計算が収束した旨の判定が下された場合(ステップS202のYES)、処理の流れを次のステップS203へ進ませる一方、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下された場合(ステップS202のNO)、処理の流れをステップS205へとジャンプさせる。
【0059】
ステップS203において、制御アクション演算部47xは、最適化断面に対する電圧安定性評価を実行する。ここでは例として一般的な評価手法である前記PVカーブを用いた電圧安定性評価を行う。
【0060】
ステップS204において、制御アクション演算部47xは、電圧安定性が十分か否かの判定を行う。この判定は、前記と同様に、PVカーブにおける負荷余裕値が所定の閾値(電圧安定性が高いとみなせる適宜の設定値)を超えるか否かを判定することで遂行すればよい。
ステップS204の判定の結果、制御アクション演算部47xは、電圧安定性が十分である旨の判定が下された場合(ステップS204のYES)、立案した制御アクションの採用を決定し、処理の流れをステップS110へとジャンプさせる一方、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(ステップS204のNO)、処理の流れを次のステップS205へ進ませる。
【0061】
ステップS205において、ステップS202の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS204の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(要するに、予測誤差が生じたとみなされる場合)に、制御アクション演算部47xは、予測制御アクション演算部41により算出した予測制御アクションに基づき初期設定された制約条件スケジュールに対し所定の余裕値Valを適用(図5参照)することで緩和された制約条件を実時間断面に適用して最適潮流計算を実行する。
【0062】
ステップS206において、制御アクション演算部47xは、ステップS205の最適潮流計算が収束したか否かの判定を行う。
ステップS206の判定の結果、制御アクション演算部47xは、最適潮流計算が収束した旨の判定が下された場合(ステップS206のYES)、処理の流れを次のステップS207へ進ませる一方、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下された場合(ステップS206のNO)、処理の流れをステップS209へとジャンプさせる。
【0063】
ステップS207において、制御アクション演算部47xは、ステップS203に準じた手法を用いて最適化断面に対する電圧安定性評価を実行する。
【0064】
ステップS208において、制御アクション演算部47xは、ステップS204に準じた判定手法を用いて電圧安定性が十分か否かの判定を行う。
ステップS208の判定の結果、制御アクション演算部47xは、電圧安定性が十分である旨の判定が下された場合(ステップS208のYES)、立案した制御アクションの採用を決定し、処理の流れをステップS110へとジャンプさせる一方、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(ステップS208のNO)、処理の流れを次のステップS209へ進ませる。
【0065】
ステップS209において、ステップS206の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS208の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(要するに、緩和された制約条件を適用してもまだ予測誤差を補償できない場合)に、制御アクション演算部47xは、予め定義された制御対象機器21の運用上の制約条件を適用して最適潮流計算を実行する。
【0066】
ステップS210において、制御アクション演算部47xは、ステップS209の最適潮流計算が収束したか否かの判定を行う。
ステップS210の判定の結果、制御アクション演算部47xは、最適潮流計算が収束した旨の判定が下された場合(ステップS210のYES)、処理の流れを次のステップS211へ進ませる一方、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下された場合(ステップS210のNO)、処理の流れをステップS213へとジャンプさせる。
【0067】
ステップS211において、制御アクション演算部47xは、ステップS203に準じた手法を用いて最適化断面に対する電圧安定性評価を実行する。
【0068】
ステップS212において、制御アクション演算部47xは、ステップS204に準じた判定手法を用いて電圧安定性が十分か否かの判定を行う。
ステップS212の判定の結果、制御アクション演算部47xは、電圧安定性が十分である旨の判定が下された場合(ステップS212のYES)、立案した制御アクションの採用を決定し、処理の流れをステップS110へとジャンプさせる一方、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(ステップS212のNO)、処理の流れを次のステップS213へ進ませる。
【0069】
ステップS213において、ステップS210の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS212の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合に、制御アクション演算部47xは、解析エラーが生じたとみなす。
【0070】
ステップS110において、制御アクション演算部47xは、ステップS204、ステップS208、又はステップS212においてその採用が決定された制御アクションを出力し、その後、一連の制御アクション演算処理の流れを終了させる。ただし、解析エラーが生じた場合(ステップS213参照)には、制御アクション演算部47xは、解析エラーが生じた旨を出力する。
【0071】
なお、制御アクション演算部47xより出力された制御アクションは制御適用部49に送られる。これを受けて制御適用部49は、通信媒体13を介して、前記制御アクションを含む制御指令を電力事業者宛に送信する。これを受けて電力事業者は、受信した制御指令に基づいて電力系統10に属する所定の制御対象機器21を操作させることになる。
【0072】
第1変形例に係る電力系統制御装置11xによれば、制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)は、予測断面に係る系統状態と、実時間断面に係る系統状態と、の相違に基づく予測誤差が生じた旨の判定が下された場合(ステップS202、ステップS204のNO参照)に、当該予測誤差の補償を考慮して緩和された制約条件を設定(ステップS205等の処理参照)するため、予測誤差が生じた場合でも、かかる予測誤差に伴う影響を可及的に抑制することができる。
【0073】
また、第1変形例に係る電力系統制御装置11xによれば、ある制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る予測値に対応する予測時刻が注目無操作期間又は注目操作期間のいずれかに属する場合に、当該属している期間内における予測値に対して所定の余裕値Valを加算/減算した値を、制御アクションに係る第2上限値及び第2下限値として用い、当該第2上限値及び第2下限値によって制御アクションに係る制御域を規定することにより制約条件スケジュールを設定(図5参照)するため、前記電力系統制御装置11と比べて、制御アクションに係る制約条件を緩和することができる。
要するに、第1変形例に係る電力系統制御装置11xによれば、実時間での解析において予測誤差が生じて、最適潮流計算が未収束となるか、電圧安定性が不十分であると判定された場合であっても、ある程度の長さを呈する所定の期間において制御の傾向を把握し、把握した制御の傾向を活用して適切な制御アクションに係る制御域(緩和された制約条件)を設定するため、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統に係る制御対象機器21の操作を可及的に抑制することができる。
【0074】
〔第2変形例に係る電力系統制御装置11yの構成〕
次に、第2変形例に係る電力系統制御装置11yの構成について、図1を参照して説明する。
本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11と、第2変形例に係る電力系統制御装置11yとは、一部の機能部(制約条件スケジュール設定部43)を除き、その他の機能部の構成は共通である。
そこで、一部の機能部(制約条件スケジュール設定部43)の相違部分に注目して説明することで、第2変形例に係る電力系統制御装置11yの構成説明に代えることとする。
【0075】
本発明の実施形態に係る電力系統制御装置11に備わる制約条件スケジュール設定部43では、ある制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る予測値に対応する予測時刻が注目操作期間に属する場合に、該注目操作期間内において最大/最小となるそれぞれの予測値を、制御アクションに係る第1上限値及び第1下限値として用い、当該第1上限値及び第1下限値によって制御アクションに係る制御域(制約条件)を規定することにより、制約条件スケジュールを設定(図2C参照)している。
これに対し、第2変形例に係る電力系統制御装置11yに備わる制約条件スケジュール設定部43yでは、ある制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る予測値に対応する予測時刻が注目無操作期間又は注目操作期間のいずれかに属する場合、当該属している期間における制約条件(第1上限値/第1下限値)について、補正開始時刻tasでの計測値及び予測値間の差分Vdfを加算/減算することで制約条件(第1上限値/第1下限値)に係る拡張補正を行うことにより、制約条件スケジュールを設定している。
【0076】
詳しく述べると、第2変形例に係る制約条件スケジュール設定部43yは、制御アクションに係る予測値に対応する予測時刻が、無操作期間又は操作期間のいずれかに属する場合、次の(式8)、(式9)に従って得られる、拡張補正された制約条件(第1上限値/第1下限値)に従う制約条件スケジュールを設定する。
Uu(t)=Usc(t)+〔Vnw(tas)-Vsc(tas)〕 (式8)
Lu(t)=Lsc(t)-〔Vnw(tas)-Vsc(tas)〕 (式9)
(式8)、(式9)において、Uu(t)は注目予測時刻tでの制御アクションの補正後上限値、Usc(t)は注目予測時刻tでの制約条件(予測上限値:第1上限値)、Vnw(tas)は補正開始時刻tasでの制御アクションの計測値、Vsc(tas)は補正開始時刻tasでの制御アクションの予測値、Lu(t)は注目予測時刻tでの制御アクションの補正後下限値、Lsc(t)は注目予測時刻tでの制約条件(予測下限値:第1下限値)をそれぞれ表す。
【0077】
ただし、注目予測時刻tでの制御アクションの補正後上限値Uu(t)/補正後下限値Lu(t)のいずれかが、設備データベースに予め定義された制御対象機器21の運用上の制約条件(上限値及び下限値)を逸脱しているケースでは、前記制約条件(第1上限値/第1下限値)の拡張補正を行うことなく、当該制約条件(第1上限値/第1下限値)をそのまま適用するものとする。
【0078】
〔第2変形例に係る電力系統制御装置11yの動作〕
次に、第2変形例に係る電力系統制御装置11y(図1参照)の動作について、第1変形例に係る電力系統制御装置11xの動作(図6A参照)と対比して説明する。
【0079】
第1変形例に係る電力系統制御装置11xでは、図6Aに示すステップS205において、ステップS202の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS204の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(要するに、予測誤差が生じたとみなされる場合)に、制御アクション演算部47xは、予測制御アクション演算部41により算出した予測制御アクションに基づき初期設定された制約条件スケジュールに対し所定の余裕値Valを適用(図5参照)することで緩和された制約条件を実時間断面に適用して最適潮流計算を実行する。
【0080】
これに対し、第2変形例に係る電力系統制御装置11yでは、図6Aに示すステップS205において、ステップS202の判定の結果、最適潮流計算が未収束である旨の判定が下されるか、ステップS204の判定の結果、電圧安定性が十分ではない旨の判定が下された場合(要するに、予測誤差が生じたとみなされる場合)に、制御アクション演算部47yは、初期設定された制約条件スケジュールのうち、(現在時刻に相当する)注目予測時刻tに係る制約条件(第1上限値/第1下限値)について、(予測誤差が生じた旨の判定を下した時刻である)補正開始時刻tasでの計測値及び予測値間の差分Vdfを加算/減算することで制約条件(第1上限値/第1下限値)に係る拡張補正を行う。
その後、制御アクション演算部47yは、当該拡張補正された制約条件(第1上限値+α/第1下限値-α:α=〔Vnw(tas)-Vsc(tas)〕)を実時間断面に適用した上で、最適潮流計算を実行する。
【0081】
第2変形例に係る電力系統制御装置11yによれば、制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)は、予測断面に係る系統状態と、実時間断面に係る系統状態と、の相違に基づく予測誤差が生じた旨の判定が下された場合(ステップS202、ステップS204のNO参照)に、当該予測誤差の補償を考慮して制約条件を設定〔制約条件(第1上限値/第1下限値により規定される制御域)に係る拡張補正〕するため、予測誤差が生じた場合でも、かかる予測誤差に伴う影響を可及的に抑制することができる。
【0082】
また、第2変形例に係る電力系統制御装置11yによれば、制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)は、前記制約条件(第1上限値/第1下限値により規定される制御域)の拡張補正を行うに際し、制御アクションに係る計測値及び予測値間の差分(補正開始時刻tasでの計測値及び予測値間の差分Vdf)の大きさに基づいて、当該差分Vdfが大きいほど当該拡張補正の量を増大させるため、予測誤差が生じた場合でも、かかる予測誤差に伴う影響を可及的に抑制する効果を一層高めることができる。
【0083】
さらに、第2変形例に係る電力系統制御装置11yによれば、ある制御アクション(変圧器タップ位置切替え)に係る予測値に対応する予測時刻が注目無操作期間又は注目操作期間のいずれかに属する場合に、当該属している期間における制約条件(第1上限値/第1下限値)について、(予測誤差が生じた旨の判定を下した時刻である)補正開始時刻tasでの計測値及び予測値間の差分Vdfを加算/減算することで制約条件(第1上限値/第1下限値)に係る拡張補正を行うことにより、制約条件スケジュールを設定するため、前記電力系統制御装置11、11xと比べて、計測値及び予測値間の差分Vdf、すなわち、予測誤差の補償を考慮した電力安定化制御を実現することができる。
【0084】
〔本発明に係る電力系統制御システム1の構成・作用効果〕
本発明に係る電力系統制御システム1は、電力系統10に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器21の操作を含む制御を行う電力系統制御装置11を備える電力系統制御システム1が前提となる。
前記電力系統制御装置11は、前記制御計画に従って前記制御対象機器21の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定する制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)と、制約条件スケジュール設定部43により設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力する制御アクション演算部47と、を備え、制約条件スケジュール設定部43は、所定の期間に属する予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて制約条件を設定する。
本発明に係る電力系統制御システム1によれば、制約条件スケジュール設定部43(制約条件設定部)は、所定の期間に属する予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて制約条件を設定するため、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統10に係る制御対象機器21の操作を可及的に抑制することができる。
【0085】
〔本発明に係る電力系統制御方法の構成・作用効果〕
本発明に係る電力系統制御方法は、電力系統10に係る将来の系統状態を予測し、当該予測した将来の系統状態に基づいて制御計画を立案し、当該立案した制御計画に従って制御対象機器21の操作を含む制御を行う電力系統制御装置11に用いられる電力系統制御方法が前提となる。
本発明に係る電力系統制御方法は、前記制御計画に従って制御対象機器21の時系列的な操作可否並びに予測制御アクションに係る上限値及び下限値を含む制約条件を設定するステップと、前記設定された制約条件を実時間断面に適用することにより、実時間に係る制御アクションを出力するステップと、を有し、前記制約条件を設定するステップでは、所定の期間に属する予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて制約条件を設定する。
本発明に係る電力系統制御方法によれば、前記制約条件を設定するステップでは、所定の期間に属する予測制御アクションに係る制御の傾向に基づいて制約条件を設定するため、所定の期間を時系列的に俯瞰してみた場合でも、電力系統10に係る制御対象機器21の操作を可及的に抑制することができる。
【0086】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨又はその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0087】
また、ここで説明した実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができ、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。さらに、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 電力系統制御システム
10 電力系統
11 実施形態に係る電力系統制御装置
11x 第1変形例に係る電力系統制御装置
11y 第2変形例に係る電力系統制御装置
21 制御対象機器
23 計測機器
31 計測値取得部
33 現在系統作成部
35 気象情報取得部
37 需要予測部
39 予測系統作成部
41 予測制御アクション演算部
43 実施形態に係る制約条件スケジュール設定部(制約条件設定部)
43x 第1変形例に係る制約条件スケジュール設定部(制約条件設定部)
43y 第2変形例に係る制約条件スケジュール設定部(制約条件設定部)
45 制約条件スケジュール保存部
47 実施形態に係る制御アクション演算部
47x 第1変形例に係る制御アクション演算部
47y 第2変形例に係る制御アクション演算部
49 制御適用部
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B