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特開2024-178850化合物、酵素活性測定用試薬、酵素活性測定用キット、及び酵素活性測定方法
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  • 特開-化合物、酵素活性測定用試薬、酵素活性測定用キット、及び酵素活性測定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178850
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】化合物、酵素活性測定用試薬、酵素活性測定用キット、及び酵素活性測定方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 229/36 20060101AFI20241218BHJP
   C07D 215/233 20060101ALI20241218BHJP
   A61K 31/47 20060101ALI20241218BHJP
   A61K 31/136 20060101ALI20241218BHJP
   A61K 31/196 20060101ALI20241218BHJP
   A61P 25/18 20060101ALI20241218BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20241218BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20241218BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20241218BHJP
   C12Q 1/26 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
C07C229/36
C07D215/233 CSP
A61K31/47
A61K31/136
A61K31/196
A61P25/18
A61P25/00
A61P21/00
A61P35/00
C12Q1/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097318
(22)【出願日】2023-06-13
(71)【出願人】
【識別番号】599055382
【氏名又は名称】学校法人東邦大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 達弥
(72)【発明者】
【氏名】福島 健
(72)【発明者】
【氏名】小野里 磨優
【テーマコード(参考)】
4B063
4C086
4C206
4H006
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QQ23
4B063QR41
4B063QS28
4B063QX02
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC28
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA02
4C086ZA18
4C086ZA22
4C086ZB26
4C206AA02
4C206AA03
4C206FA31
4C206MA01
4C206MA04
4C206NA14
4C206ZA02
4C206ZA18
4C206ZA22
4C206ZB26
4H006AA01
4H006AA03
4H006AB80
4H006AB81
4H006AC22
4H006AC80
4H006BR10
4H006BS10
4H006BU30
4H006BU46
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本発明の目的は、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を良好に評価することができる新規化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法を提供することである。
【解決手段】本実施形態は、式(1)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物である。

(R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化1】
(式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
【請求項2】
下記式(1-D)及び(1-L)のいずれかで表される、請求項1に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化2】
(式(1-D)及び(1-L)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
【請求項3】
下記式のいずれかで表される、請求項1に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化3】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物を含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬。
【請求項5】
請求項4に記載のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬を少なくとも含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット。
【請求項6】
請求項1~3のいずれか1項に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物を用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することを含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法。
【請求項7】
アミノ酸酸化酵素のスクリーニングにおいて用いられる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングにおいて用いられる、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
下記式(2)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化4】
(式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
【請求項10】
下記式のいずれかで表される、請求項9に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化5】
【請求項11】
請求項9又は10に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物の蛍光を検出することを含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法。
【請求項12】
アミノ酸酸化酵素のスクリーニングにおいて用いられる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングにおいて用いられる、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ酸酸化酵素の酵素活性の測定に好適な化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
D-アミノ酸酸化酵素(以下、「DAO」と称することがある。)及びL-アミノ酸酸化酵素(以下、「LAO」と称することがある。)は共に重要な酵素である。DAOは、統合失調症や筋委縮性側索硬化症(ALS)などとの関連が示唆され、DAO阻害剤がそれらの治療薬として開発されている。LAOは、ヘビ毒LAOが、がん細胞選択的に細胞死を引き起こすことから、LAOを用いた新たな抗がん療法が研究されている。そのため、DAO及びLAOの活性研究や酵素活性阻害剤の探索に用いることができるプローブ分子が強く求められている。
【0003】
従来、これらの酵素活性の測定には、2段階反応による方法が用いられてきた。1段階目の反応として、D-アミノ酸又はL-アミノ酸を前記酵素により反応させる。2段階目の反応は、1段階目の反応で生じた過酸化水素を、ペルオキシダーゼ及び発色又は発蛍光基質と反応させる。これにより生じた発色又は蛍光を用いてDAOやLAOの酵素活性を測定することができる。
【0004】
しかしながら、この方法は煩雑であり、また、ペルオキシダーゼを用いる酵素反応を伴うために、ペルオキシダーゼの活性を阻害する物質やペルオキシダーゼにより分解してしまう化合物の場合には、LAOやDAOに対する阻害活性を評価することができず、新たな酵素活性阻害剤のスクリーニングができないという問題がある。また、ペルオキシダーゼは細胞内に移行しないため、細胞内での酵素活性イメージング研究への展開ができないという問題もある。
【0005】
一方、非特許文献1では、キヌレニン(以下、「KYN」と称することがある。)を用いることで、LAOやDAOとの反応により蛍光物質であるキヌレン酸が生成することが報告されている。前記報告によれば、1段階の酵素反応でLAOやDAOの酵素活性を測定し得る。
【0006】
しかしながら、前記キヌレン酸は弱蛍光であるために、亜鉛イオンを添加し、強蛍光の錯体形成反応が必要である。また、亜鉛イオンを添加し、錯体を形成させ、強蛍光とすることはできるものの、細胞内の亜鉛は蛍光錯体の形成に十分な濃度ではなく、2段階反応の場合と同様に、細胞内での酵素活性イメージング研究への展開への障害がある。
【0007】
そこで、酵素反応後に十分な蛍光を発することができ、複雑な2段階反応を用いることなく、1段階反応でLAO又はDAOの酵素活性を評価することができるプローブ分子の開発が求められ、特許文献1では、そのようなプローブ分子として、所定の構造式(1)及び(2)のいずれかで表されることを特徴とする化合物(MeS-D-KYN又はMeS-L-KYN)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2023-22662号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Song Y,Ogaya T,Ishii K,Ichiba H,Iizuka H,Fukushima T.J Health Sci 2010; 56,341-346.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述の通り、特許文献1には、1段階反応でLAO又はDAOの酵素活性を評価することができるプローブ分子として、所定の構造式(1)又は(2)で表される化合物(MeS-D-KYN又はMeS-L-KYN)が開示されているが、LAO又はDAOの酵素活性研究、酵素阻害剤の研究又は酵素活性イメージング研究などへの展開を考慮すると、さらに検出感度に優れた新規化合物の開発が求められる。
【0011】
そこで、本発明の目的は、アミノ酸酸化酵素(D-アミノ酸酸化酵素又はL-アミノ酸酸化酵素)の酵素活性を良好に評価することができる新規化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記目的を達成するべく鋭意検討を行った結果、式(1)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物を用いることにより、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を高い蛍光強度で検出することができることを知見し、本発明に至った。
【0013】
そこで、本発明の態様例は、以下の通りである。
(1) 下記式(1)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化1】
(式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
(2) 下記式(1-D)及び(1-L)のいずれかで表される、(1)に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化2】
(式(1-D)及び(1-L)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
(3) 下記式のいずれかで表される、(1)に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化3】
(4) (1)~(3)のいずれか1つに記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物を含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬。
(5) (1)~(3)のいずれか1つに記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物或いは(4)に記載のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬を少なくとも含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット。
(6) (1)~(3)のいずれか1つに記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物、(4)に記載のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、又は(5)に記載のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キットを用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することを含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法。
(7) アミノ酸酸化酵素のスクリーニングにおいて用いられる、(6)に記載の方法。
(8) アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングにおいて用いられる、(6)に記載の方法。
(9) 下記式(2)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化4】
(式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
(10) 下記式のいずれかで表される、(9)に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物:
【化5】
(11) (9)又は(10)に記載の化合物又はその塩若しくは溶媒和物の蛍光を検出することを含む、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法。
(12) アミノ酸酸化酵素のスクリーニングにおいて用いられる、(11)に記載の方法。
(13) アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングにおいて用いられる、(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を良好に評価することができる新規化合物、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット、及びアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、実施例の化合物3a~3d及び比較化合物(MeS-KYNA)について測定した蛍光量子収率を示すグラフである。
図2図2は、実施例の化合物3bの相対蛍光強度を示すグラフである。
図3図3は、実施例の化合物3bを用いた場合における、DAO又はLAO濃度(酵素活性)と蛍光強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(化合物)
本実施形態に係る化合物は、下記式(1)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物である:
【化6】
(式(1)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
【0017】
本実施形態に係る化合物は、アミノ酸酸化酵素の酵素活性の蛍光プローブとして用いることができ、当該酵素活性の検出・測定に良好に用いることができる。本実施形態に係る化合物は、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定するための酵素活性測定用試薬として好適に用いることができる。本実施形態に係る化合物は、ラセミ体であってもよく、鏡像異性体(D体又はL体)であってもよい。
【0018】
本実施形態に係る化合物は、塩形態で存在し得る。塩としては、特に制限されるものではないが、例えば、硫酸塩、塩酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩、コハク酸塩、ナトリウム塩、又はカリウム塩などが挙げられる。
【0019】
本実施形態に係る化合物は、溶媒和形態及び非溶媒和形態で存在し得る。用語「溶媒和物」は、例えば、水素結合による、本実施形態に係る化合物と1つ以上の溶媒分子との物理的な会合を意味する。溶媒和物中の溶媒分子は、規則的な配列及び/又は非規則的な配列で存在し得る。溶媒和物は、化学量論量又は非化学量論量のどちらか一方の溶媒分子を含むことができる。「溶媒和物」は、溶液相と分離可能な溶媒和物の両方を包含する。本実施形態に係る化合物は、水(すなわち、水和物)又は一般有機溶媒との溶媒和物を形成することができる。溶媒和の方法は、一般に、当分野で公知である。
【0020】
式(1)において、C~Cアルキル基は、炭素数が1~4個のアルキル基を意味し、アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。C~Cアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基などが挙げられる。
【0021】
本実施形態に係る化合物は、好ましくは、下記式(1-D)及び(1-L)のいずれかで表される、化合物又はその塩若しくは溶媒和物である:
【化7】
(式(1-D)及び(1-L)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
【0022】
式(1-D)及び(1-L)において、C~Cアルキル基は、炭素数が1~4個のアルキル基を意味し、アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。C~Cアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基などが挙げられる。
【0023】
式(1-D)又は(1-L)で表される化合物は、光学活性体である。本明細書における光学活性体とは、ラセミ体ではない(non-racemic)という意味で使用する。本実施形態に係る光学活性体は、式(1-D)で表されるD体又は式(1-L)で表されるL体であり、D体又はL体のいずれか一方の光学異性体比率は90%以上であることが好ましい。本実施形態に係る化合物として光学活性体を用いることにより、DAO又はLAOの酵素活性を直接的に検出・測定することができるため、検出感度を向上することができる。
【0024】
本実施形態に係る化合物は、より好ましくは、下記式のいずれかで表される、化合物又はその塩若しくは溶媒和物である:
【化8】
【0025】
本実施形態に係る化合物は、下記式(2)で表される化合物又はその塩若しくは溶媒和物である:
【化9】
(式(2)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素原子又はC~Cアルキル基である)。
【0026】
本実施形態に係る化合物は、アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定において検出対象としての蛍光体として採用することができ、当該酵素活性の検出・測定に良好に用いることができる。また、強い蛍光強度を有するため、生体内物質などの物質の標識に用いることも可能である。
【0027】
式(2)において、C~Cアルキル基は、炭素数が1~4個のアルキル基を意味し、アルキル基は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。C~Cアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基などが挙げられる。
【0028】
本実施形態に係る化合物は、好ましくは、下記式のいずれかで表される、化合物又はその塩若しくは溶媒和物である:
【化10】
【0029】
本実施形態に係る化合物の製造方法としては、特に制限はなく、公知の化学合成方法を適宜選択することができ、例えば、後述する[実施例]の項目に記載の方法などで製造することができる。
【0030】
なお、後述する[実施例]の項目に記載の方法は一例である。また、化学合成における反応温度や反応時間などの反応条件や、用いる化合物及びその使用量、溶媒、精製方法などは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0031】
得られた化合物が式(1)又は式(2)で表される構造を有するか否かは、適宜選択した各種の分析方法により確認することができる。分析方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、質量分析法、紫外分光法、赤外分光法、プロトン核磁気共鳴分光法、炭素13核磁気共鳴分光法、元素分析法などが挙げられる。分析方法は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、前記各分析方法による測定値には、多少の誤差が生じることがあるが、当業者であれば、化合物が式(1)又は式(2)で表される構造を有することは容易に同定することが可能である。
【0032】
(アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬)
本実施形態のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用試薬は、本実施形態に係る化合物(式(1)の化合物)を少なくとも含む。本実施形態に係る酵素活性測定用試薬は、本実施形態に係る化合物に加え、必要に応じて添加剤を更に含み得る。
【0033】
後述する[実施例]の項目にて示されるように、式(1)で表される化合物は、アミノ酸酸化酵素の活性測定に用いることができる。また、式(1-D)で表される化合物は、D-アミノ酸酸化酵素(EC番号:1.4.3.3)の活性測定に用いることができ、式(1-L)で表される化合物は、L-アミノ酸酸化酵素(EC番号:1.4.3.2)の活性測定に用いることができる。DAO及びLAOの由来の種としては、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、DAO及びLAOは天然物から取得したものであってもよいし、生合成などにより合成したものであってもよい。
【0034】
本実施形態の式(1-D)の化合物はD-アミノ酸酸化酵素と反応することにより、式(1-L)で表される化合物はL-アミノ酸酸化酵素と反応することにより、蛍光を発する化合物(蛍光物質)が生成される。前記蛍光を測定することにより、各酵素の活性を評価することができる。本実施形態に係る化合物(式(1)で表される化合物)は、蛍光物質(式(2)で表される化合物)の前駆体であり得る。
【0035】
本実施形態に係る酵素活性測定用試薬は、本実施形態に係る化合物から実質的に構成されていてもよいし、本実施形態に係る化合物に加えて、添加剤を更に含んで構成されていてもよい。
【0036】
本明細書において、「~から実質的に構成される」とは、本実施形態に係る化合物以外は、不純物であることを意味することが好ましく、具体的には、本実施形態に係る化合物の試薬中の含有量が、95質量%以上であることを意味することが好ましく、96質量%以上であることを意味することが好ましく、97質量%以上であることを意味することが好ましく、98質量%以上であることを意味することが好ましく、99質量%以上であることを意味することが好ましく、99.5質量%以上であることを意味することが好ましい。
【0037】
添加剤としては、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。添加剤としては、例えば、安定化剤などが挙げられる。添加剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
本実施形態に係る酵素活性測定用試薬によれば、複雑な2段階反応を用いることなく、迅速かつ簡易にアミノ酸酸化酵素の酵素活性を効率的に測定することができる。
【0039】
(アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キット)
本実施形態のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定用キットは、本実施形態に係る化合物(式(1)で表される化合物)又は本実施形態に係る酵素活性測定用試薬を少なくとも含む。本実施形態に係る酵素活性測定用キットは、本実施形態に係る化合物又は酵素活性測定用試薬に加え、必要に応じてその他の材料を含み得る。その他の材料は、酵素活性測定に必要なものを意味し、例えば、溶媒、溶解補助剤、ビタミン、補酵素、pH調整剤、緩衝剤、ラジカル捕捉剤、等張化剤が挙げられる。その他の成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0040】
本実施形態に係る酵素活性測定用キットにおいて、本実施形態に係る化合物又は本実施形態に係る酵素活性測定用試薬と、その他の材料とは、別々の容器に分けられており、使用時にそれぞれを混合する態様であることが好ましい。また、その他の材料についても、それぞれが別々の容器に分けられていてもよく、また、それらの少なくとも2つが混合されて同じ容器に入れられていてもよい。
【0041】
本実施形態に係る酵素活性測定用キットによれば、複雑な2段階反応を用いることなく、迅速かつ簡易にアミノ酸酸化酵素の酵素活性を効率的に測定することができる。
【0042】
(アミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法)
本実施形態のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法は、本実施形態に係る化合物(式(1)で表される化合物)、本実施形態に係る酵素活性測定用試薬、又は本実施形態に係る酵素活性測定用キットを用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する工程を少なくとも含む。本実施形態に係る酵素活性測定方法は、必要に応じて更にその他の工程を含んでもよい。
【0043】
本実施形態における測定工程は、本実施形態に係る化合物を用いてアミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する工程である。
【0044】
測定工程における反応液の組成は、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0045】
例えば、D-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する場合には、D-アミノ酸酸化酵素、フラビンアデニンジヌクレオチド、牛血清アルブミン、グルタチオン、及び本実施形態に係る化合物を含む反応液とすることができる。また、L-アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定する場合には、L-アミノ酸酸化酵素、牛血清アルブミン、グルタチオン、及び本実施形態に係る化合物を含む反応液とすることができる。
【0046】
反応液における各成分の量は、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0047】
反応条件は、特に制限されるものではなく、アミノ酸酸化酵素の酵素活性などに応じて適宜選択することができ、例えば、37℃、60分間などが挙げられる。
【0048】
反応後の反応液の蛍光を測定することにより、アミノ酸酸化酵素の酵素活性を測定することができる。蛍光の測定は、例えば、公知の装置を用いることができ、励起波長340nm、蛍光波長418nmにて行うことができる。
【0049】
その他の工程は、特に制限されるものではなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0050】
本実施形態のアミノ酸酸化酵素の酵素活性測定方法は、公知の他の方法と組み合わせて行うこともできる。
【0051】
本実施形態に係る酵素活性測定方法によれば、複雑な2段階反応を用いることなく、迅速かつ簡易にアミノ酸酸化酵素の酵素活性を効率的に測定することができる。また、D-アミノ酸酸化酵素及びL-アミノ酸酸化酵素の活性を選択的に測定することができる。また、酵素反応により生じる蛍光波長は可視領域にあるため、蛍光イメージング研究にも適用可能である。
【0052】
本実施形態に係る酵素活性測定方法は、例えば、アミノ酸酸化酵素、特に高い酵素活性を有するアミノ酸酸化酵素のスクリーニング、アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングなどにおいて好適に用いることができる。
【0053】
アミノ酸酸化酵素のスクリーニングとしては、例えば、抗がん療法などに利用できる活性が高いL-アミノ酸酸化酵素のスクリーニングなどが挙げられる。スクリーニングは、活性測定の対象となるL-アミノ酸酸化酵素を上記した反応液に含有させて反応を行うことにより実施することができる。活性測定の対象となるL-アミノ酸酸化酵素は、天然物由来のものであってもよいし、生合成などにより合成したものであってもよい。
【0054】
アミノ酸酸化酵素の酵素活性阻害剤のスクリーニングとしては、例えば、統合失調症やALSなどの治療薬に利用できる阻害活性が高い物質(以下、「候補物質」と称することがある。)のスクリーニングなどが挙げられる。スクリーニングは、候補物質を上記した反応液に含有させて反応を行うことにより実施することができる。候補物質としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、天然物由来のものであってもよいし、化学合成や生合成などにより合成したものであってもよい。
【実施例0055】
以下に本実施形態の試験例及び製造例を説明するが、本発明は、これらの試験例及び製造例に何ら限定されるものではない。
【0056】
[実験例1:強蛍光キヌレン酸化合物の探索]
より強い蛍光を発するキヌレン酸誘導体の探索を行った。
【0057】
(フェニル置換キヌレン酸化合物の合成)
スキームS1:フェニル置換キヌレン酸化合物(蛍光体)の合成経路
【化11】
【0058】
化合物1:エチル6-ブロモキヌレネート(Ethyl 6-bromokynurenate)
【化12】
【0059】
MeOH(100mL)に溶解した4-ブロモアニリン(39.7mmol)の溶液にアセチレンジカルボン酸ジエチル(40.1mmol)をゆっくり加え、混合物を65℃で0.5時間撹拌した。溶媒を減圧留去した。残渣をジフェニルエーテル(100mL)に再溶解し、250℃にて1時間加熱した。溶液を室温に冷却し、ヘキサン(200mL)で希釈して沈殿させた。沈殿物を濾過し、ヘキサンで洗浄し、熱エタノールから再結晶して、化合物1を灰色の結晶性固体として得た(収率53%)。
【0060】
m/z 295.99402 (calced for [M+H] 295.99223); m.p. 246-251℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.21 (s, 1H, OH), 8.14 (d, J = 2.1 Hz, 1H, ArH), 7.90-7.83 (m, 2H, ArH), 6.68 (s, 1H, ArH), 4.41 (q, J = 7.1 Hz, 2H, OCH2CH3), 1.35 (t, J = 7.1 Hz, 3H, OCH2CH3); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 176.3, 161.9, 138.9, 138.1, 135.3, 127.2, 126.8, 122.1, 116.9, 110.4, 62.7, 13.9.
【0061】
化合物2:6-ブロモキヌレン酸(6-Bromokynurenic acid)(Br-KYNA)
【化13】
【0062】
化合物1(10.0mmol)と水酸化カリウム(45.0mmol)を50%水/エタノール(40mL)に溶解し、2時間室温で攪拌した。この溶液を2M塩酸で酸性化し、化合物2を析出させた。沈殿物をろ過し、水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、淡いオレンジ色の固体を得た(収率89%)。
【0063】
m/z 267.96456 (calced for [M+H] 267.96093); m.p. 283-286℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.16 (s, 1H, OH), 8.14 (d, J = 2.3 Hz, 1H, ArH), 7.91 (d, J = 8.9 Hz, 1H, ArH), 7.86-7.83 (m, 1H, ArH), 6.65 (s, 1H, ArH); 13C-NMR (101 MHz, 5% NaOD-D2O) δ 174.9, 172.8, 156.7, 147.4, 132.5, 129.4, 127.4, 125.4, 116.9, 107.1.
【0064】
化合物3a:6-フェニルキヌレン酸(6-Phenylkynurenic acid)(Ph-KYNA)
【化14】
【0065】
化合物2(Br-KYNA)(1.02mmol)、フェニルボロン酸(1.14mmol)、炭酸カリウム(2.05mmol)を水(50mL)に溶解した。触媒量(約5mg)の酢酸パラジウムを添加し、3時間攪拌した。その溶液を1M塩酸で酸性化し、得られた沈殿物を濾過、水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、白色固体を得た(収率96%)。
【0066】
m/z 266.07989 (calced for [M+H] 266.08172); m.p. 271-273℃; 1H-NMR (400 MHz, 5% NaOD-D2O) δ 7.98 (s, 1H, ArH), 7.48 (s, 2H, ArH), 7.32 (d, J = 7.3 Hz, 2H, ArH), 7.07 (t, J = 7.7 Hz, 2H, ArH), 6.97 (t, J = 7.3 Hz, 1H, ArH), 6.53 (s, 1H, ArH); 13C-NMR (101 MHz, 5% NaOD-D2O) δ 175.0, 174.0, 156.4, 148.2, 140.0, 135.5, 129.1, 128.6, 128.1, 127.5, 126.8, 126.3, 120.7, 106.9.
【0067】
化合物3b:6-(2-メチルフェニル)キヌレン酸(6-(2-Methylphenyl)kynurenic acid)(2-MePh-KYNA)
【化15】
【0068】
化合物2(Br-KYNA)(2.00mmol)、2-メチルフェニルボロン酸(2.19mmol)、炭酸カリウム(10.6mmol)を水(50mL)に溶解させた。この溶液に酢酸パラジウム(10.3μmol)を加え、1時間加熱還流下で反応させた。得られた反応溶液を1M HClで酸性化し、沈殿物を濾過し、水で洗浄し、減圧下で乾燥させ、白色固体を得た(収率85%)。
【0069】
m/z 280.09846 (calced for [M+H] 280.09737); m.p. 255-259℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.06 (s, 1H, OH), 8.01 (d, J = 8.7 Hz, 1H, ArH), 7.96 (d, J = 2.1 Hz, 1H, ArH), 7.71 (dd, J = 8.7, 2.3 Hz, 1H, ArH), 7.32-7.23 (m, 4H, ArH), 6.66 (s, 1H, ArH), 2.23 (s, 3H, CH3); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 177.6, 163.8, 140.4, 139.8, 139.0, 136.8, 134.8, 133.5, 130.5, 129.7, 127.6, 126.1, 125.6, 124.3, 119.6, 109.8, 20.2.
【0070】
化合物3c:6-(4-メチルフェニル)キヌレン酸(6-(4-Methylphenyl)kynurenic acid)(4-MePh-KYNA)
【化16】
【0071】
化合物2(Br-KYNA)(1.00mmol)、4-メチルフェニルボロン酸(1.32mmol)、炭酸カリウム(2.34mmol)を水(50mL)に溶解させた。その溶液に、触媒量(約5mg)の酢酸パラジウムを加え、その後1時間攪拌した。得られた溶液を1M HClで酸性化し、沈殿物を濾過し、水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、白色固体(収率100%)を得た。
【0072】
m/z 280.09906 (calced for [M+H] 280.09737); m.p. 274-278℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.03 (s, 1H, OH), 8.24 (t, J = 1.1 Hz, 1H, ArH), 7.99 (s, 2H, ArH), 7.61 (d, J = 8.2 Hz, 2H, ArH), 7.27 (d, J = 8.2 Hz, 2H, ArH), 6.62 (s, 1H, ArH), 2.32 (s, 3H, CH3); 13C-NMR (101 MHz, 10% METHAOL-D4/PYRIDINE-D5) δ 179.8, 165.5, 148.9, 142.1, 139.9, 137.4, 131.4, 130.0, 127.0, 127.0, 124.0, 123.1, 120.0, 110.7, 20.7.
【0073】
化合物3d:6-(3,5-ジメチルフェニル)キヌレン酸(6-(3,5-Dimethylphenyl)kynurenic acid)(3,5-diMePh-KYNA)
【化17】
【0074】
化合物2(Br-KYNA)(0.996 mmol)、3,5-ジメチルフェニルボロン酸(1.04mmol)及び炭酸カリウム(2.76mmol)を水(50mL)に溶解させた。触媒量(約5mg)の酢酸パラジウムを溶液に加え、還流下で1時間撹拌した後、1M HClで酸性化した。沈殿物を濾過し、水で洗浄し、減圧下で乾燥させて、淡黄色固体を得た(収率89%)。
【0075】
m/z 294.11384 (calced for [M+H] 294.11302); m.p. 273-275℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.06 (s, 1H, OH), 8.27 (t, J = 1.4 Hz, 1H, ArH), 8.01 (d, J = 1.4 Hz, 2H, ArH), 7.33 (s, 2H, ArH), 7.01 (s, 1H, ArH), 6.65 (s, 1H, ArH), 2.35 (s, 6H, CH3); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 163.7, 139.1, 138.1, 135.8, 131.2, 129.1, 124.5, 121.7, 21.0
【0076】
[評価]
(フェニル置換キヌレン酸化合物の蛍光量子収率の測定)
各フェニル置換キヌレン酸化合物溶液(化合物3a~3d)(DMSO溶液、10mM)10μLをPBSで10μMに希釈し、試料溶液とした。これらの溶液を測定して、各キヌレン酸化合物のPBS中での蛍光量子収率(ΦKYNA)を10μM硫酸キニーネ(50mM硫酸溶液)の蛍光量子収率(ΦQuinine)に対する相対蛍光量子収率として算出した。
【0077】
相対蛍光量子収率の算出に用いた式は以下の通りである。ΦQuinineの値は0.55として算出した。
【0078】
【数1】
FL_area:キヌレン酸化合物又は硫酸キニーネの350nmで励起された蛍光スペクトル下の面積
A:350nmにおけるキヌレン酸化合物又はキニーネの吸光度
DMSO:ジメチルスルホキシド
PBS:リン酸緩衝生理食塩水
【0079】
各化合物3a~3dについて蛍光量子収率を測定した結果を図1に示す。また、比較として、下記式で表される化合物(MeS-KYNA)について蛍光量子収率を測定した結果も合わせて図1に示す。なお、当該化合物は、特許文献1(特開2023-22662号公報)に記載の方法により合成したものを用いた。
【化18】
【0080】
図1に示されるように、化合物3a~3dのフェニル置換キヌレン酸化合物の蛍光量子収率は、MeS-KYNAよりも高い数値を示した。
【0081】
[実施例2:フェニル置換キヌレニン化合物の合成]
実施例1において、最も強い蛍光を示した化合物3bのキヌレン酸誘導体の前駆体となる、本実施形態に係る化合物としての2-MePh-D,L-KYN(2-MePh-D-KYN又は2-MePh-L-KYN)を下記の方法により合成した。
【0082】
(2-MePh-D,L-KYNの合成)
スキームS2:2-MePh-D,L-KYNの合成経路
【化19】
【0083】
化合物4:1-(2-アミノ-5-ブロモフェニル)-2-クロロエタン-1-オン(1-(2-Amino-5-bromophenyl)-2-chloroethan-1-one)
【化20】
【0084】
4-ブロモアニリン(66.3mmol)のトルエン(72mL)溶液に、三塩化ホウ素(約1M、ジクロロメタン溶液、72mL)、無水塩化アルミニウム(75.1mmol)及びクロロアセトニトリル(5mL)を室温で添加した。その後、混合物をアルゴン雰囲気下、還流温度で16時間加熱した。反応液を室温まで冷却した後、0.5M 塩酸(100mL)を添加した。目的化合物をクロロホルム(200mL×3)へ抽出した。次に、有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、乾燥材を濾過後、溶媒を留去した。残留物にトルエン(50mL)及びヘキサン(200mL)を加え、固化させた。上澄みを廃棄し、残った固体を減圧下で乾燥させ、化合物4を茶色固体として得た(収率14%)。
【0085】
m/z 247.95136 (calced for [M+H] 247.94778); m.p. 129-132℃; 1H-NMR (400 MHz, CHLOROFORM-D) δ 7.72 (d, J = 2.3 Hz, 1H, ArH), 7.36 (dd, J = 8.8, 2.2 Hz, 1H, ArH), 6.60 (d, J = 8.9 Hz, 1H, ArH), 6.35 (s, 2H, NH2), 4.64 (s, 2H, CH2); 13C-NMR (101 MHz, CHLOROFORM-D) δ 191.6, 149.9, 137.9, 132.7, 119.3, 116.2, 106.8, 46.3.
【0086】
化合物5:2-アセタミド-4-(2-アミノ-5-ブロモフェニル)-4-オキソブタン酸(2-Acetamido-4-(2-amino-5-bromophenyl)-4-oxobutanoic acid)
【化21】
【0087】
化合物4(37.1mmol)、アセトアミドマロン酸ジエチル(38.0mmol)、ナトリウムエトキシド(77.6mmol)、ヨウ化ナトリウム(3.96mmol)及び1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(3mL)をエタノール(100mL)に溶解させた。溶液を還流下で3時間撹拌し、分液ロートに移し、飽和重曹水(100mL)を添加、クロロホルム(100mL×3)へ抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、乾燥材をろ過除去後、溶媒を減圧下で蒸発させた。残渣をクロマトグラフィー(シリカゲル、50%酢酸エチルAcOEt/ヘキサン)で粗精製し、粗中間体及び水酸化ナトリウム(103mmol)を水(100mL)に溶解させた。混合物を30分間加熱還流し、その後氷酢酸(10mL)を加えた、さらに1.5時間加熱還流した。反応後、混合物を分液ロートに移し、酢酸エチル(100mL×4)へ抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、乾燥材をろ過除去後、溶媒を減圧下で蒸発させた。残渣をクロマトグラフィー(ODSカラム、酢酸/水/メタノール[0.1:50:50])で精製し、さらに熱水より再結晶して、化合物5(収率9.5%)を得た。
【0088】
m/z 329.01680 (calced for [M+H] 329.01369); m.p. 177-180℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.59 (s, 1H, CO2H), 8.11 (d, J = 8.0 Hz, 1H, ArH), 7.84 (d, J = 2.3 Hz, 1H, ArH), 7.36 (dd, J = 8.9, 2.3 Hz, 1H, ArH), 7.32 (s, 2H, NH2), 6.75 (d, J = 8.9 Hz, 1H, NHAc), 4.70-4.65 (m, 1H, α-CH2), 3.35-3.33 (m, 2H, β-CH2), 1.81 (s, 3H, Ac); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 197.5, 173.1, 169.1, 150.2, 136.8, 132.9, 119.4, 117.5, 104.6, 48.0, 40.3, 22.4.
【0089】
化合物6:2-アセタミド-4-(4-アミノ-2’-メチル-[1,1’-ビフェニル]-3-イル)-4-オキソブタン酸(2-Acetamido-4-(4-amino-2'-methyl-[1,1'-biphenyl]-3-yl)-4-oxobutanoic acid)
【化22】
【0090】
化合物5(2.09mmol)、2-メチルフェニルボロン酸(2.24mmol)及び炭酸カリウム(4.20mmol)を50%水/メタノール(20mL)に溶解し、触媒量(約5mg)の酢酸パラジウムを溶液に添加した。混合物を室温1時間、還流温度でさらに2時間撹拌した。反応液を塩酸で酸性pHに調整し、ODSクロマトグラフィーカラム(移動相として水/メタノール[1:1])で精製した。カラム後、目的画分を濃縮し、化合物6を白色固体として得た(収率59%)。
【0091】
m/z 341.14693 (calced for [M+H] 341.15013); m.p. 177-180℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 12.55 (s, 1H, CO2H), 8.10 (d, J = 7.8 Hz, 1H, AcNH), 7.64 (d, J = 2.1 Hz, 1H, ArH), 7.29-7.24 (m, 4H, ArH), 7.23-7.21 (m, 2H, NH2), 7.21-7.18 (m, 1H, ArH), 6.84 (d, J = 8.7 Hz, 1H, NHAc), 4.74-4.69 (m, 1H, α-CH), 3.43-3.33 (m, 2H, β-CH2), 2.26 (s, 3H, PhCH3), 1.81 (s, 3H, Ac); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 198.3, 173.2, 169.1, 150.1, 140.8, 135.2, 134.8, 131.2, 130.3, 129.5, 127.3, 126.8, 126.0, 116.9, 115.9, 48.0, 40.3, 22.4, 20.4.
【0092】
5-(2-メチルフェニル)-D,L-キヌレニン(5-(2-Methylphenyl)-D, L-kynurenine)(2-MePh-D,L-KYN)
【化23】
【0093】
化合物6(1.11mmol)、D-アミノアシラーゼ(105mg)及び塩化コバルト6水和物(12.7mg)を50mLのリン酸緩衝液(0.1M,pH8.4)に溶解し、37℃にて185時間攪拌した。次に、得られた溶液をクロマトグラフィー(ODS、酢酸/水/メタノール、0.1:50:50)にて精製し、2-MePh-D-KYNと化合物6のL-異性体を含むフラクションを得た。前者を濃縮し、水で再結晶し、純粋な2-MePh-D-KYNを淡黄色固体として得た(収率45%)。後者を濃縮乾固し、50mLのリン酸緩衝液(0.1M、pH8.4)に溶解し、アシラーゼI(101mg)及び塩化コバルト6水和物(12.1mg)を加え、45℃で18時間撹拌した。その後、2-MePh-D-KYNと同様の方法で精製し、2-MePh-L-KYNを得た(収率51%)。
【0094】
[2-MePh-D-KYN]:m/z 299.13497 (calced for [M+H] 299.13957); m.p.214-216℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 7.60 (d, J = 2.1 Hz, 1H, ArH), 7.28-7.19 (m, 7H, ArH and NH2), 6.84 (d, J = 8.7 Hz, 1H, ArH), 3.63 (dd, J = 8.6, 3.5 Hz, 1H, α-CH), 3.52 (dd, J = 17.9, 3.7 Hz, 1H, β-CH2), 3.29 (dd, J = 17.9, 8.5 Hz, 1H, β-CH2), 2.25 (s, 3H, CH3); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 199.3, 169.2, 150.0, 140.7, 135.1, 134.8, 131.0, 130.3, 129.4, 127.3, 126.7, 126.0, 116.8, 116.1, 49.9, 20.3;
[2-MePh-L-KYN]:m/z 299.14318 (calced for [M+H] 299.13957); m.p.214-215℃; 1H-NMR (400 MHz, DMSO-D6) δ 7.60 (d, J = 2.1 Hz, 1H, ArH), 7.29-7.17 (m, 7H, ArH and NH2), 6.84 (d, J = 8.5 Hz, 1H, ArH), 3.61 (dd, J = 8.6, 3.5 Hz, 1H, α-CH), 3.52 (dd, J = 17.7, 3.5 Hz, 1H, β-CH2), 3.27 (q, J = 8.8 Hz, 1H, β-CH2), 2.25 (s, 3H, CH3); 13C-NMR (101 MHz, DMSO-D6) δ 199.4, 169.1, 150.0, 140.7, 135.1, 134.8, 131.0, 130.3, 129.4, 127.3, 126.7, 126.0, 116.8, 116.1, 49.9, 20.3.
【0095】
[評価]
(2-MePh-KYNプローブを用いた酵素アッセイ法の一般的手順)
<DAOアッセイ法>
FAD溶液(10mM,10μL)、BSA溶液(20mg/mL,10μL)、GSH溶液(1mM,10μL)、及びpkDAO溶液(溶媒:0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3),10μL)を、450μLのアッセイバッファー(0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3),450μL)に加えて混合液を調製し、37℃で15分間プレインキュベートした。その後、2-MePh-D-KYN溶液(溶媒:0.1M Tris-HCl緩衝液(pH8.3),10mM,10μL)を混合液に添加し、37℃で60分間インキュベートした。得られた溶液を加熱(95℃で5分間)し、沈殿したタンパク質を遠心分離(1800×g、5分)により除去した。上清0.5mLを水1.5mLで希釈し、その一定量を1cm角の石英セルに移し、励起波長340nm、蛍光波長418nmで蛍光測定を実施した。
【0096】
<LAOアッセイ法>
2-MePh-D-KYNの代わりに2-MePh-L-KYNを用い、且つpkDAOの代わりにsvLAOを用いたこと以外は、上記DAOアッセイ法と同様の方法でLAO活性を測定した。
【0097】
FAD;フラビンアデニンジヌクレオチド
BSA;牛血清アルブミン
GSH;グルタチオン
Tris-HCl;トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩
pkDAO;D-アミノ酸酸化酵素(ブタ腎由来)
svLAO;L-アミノ酸酸化酵素(ヒガシダイヤガラガラヘビ由来)
【0098】
得られた蛍光強度について、比較対象のMeS-D-KYN又はMeS-L-KYNの蛍光強度(励起波長364nm、蛍光波長450nm)に対する2-MePh-D-KYN又は2-MePh-L-KYNの相対蛍光強度(励起波長340nm、蛍光波長418nm)の相対値を図2に示す。
【0099】
図2の結果から、新規蛍光プローブとしての2-MePh-D-KYN及び2-MePh-L-KYNは、それぞれ、MeS-D-KYN及びMeS-L-KYNと比べて、DAOを約60倍、LAOを約5倍の感度で検出可能であった。したがって、本願化合物は、検出感度に優れていることが確認された。
【0100】
<検量線作成・直線性確認>
試料溶液としての各種濃度のpkDAO溶液(0.50、1.0、2.5、5.0U/mL)又はsvLAO溶液(0.025、0.050、0.075、0.10U/mL)を用い、2-MePh-KYNプローブを用いた酵素アッセイ法の一般的手順に記載の手順で蛍光測定を行い、検量線を作成した。
【0101】
結果を図3に示す。図3に示されるように、酵素活性と蛍光強度との間には、高い直線関係が見られた(R2=0.9987又は0.9934)。
【0102】
本明細書中に記載した数値範囲の上限値及び/又は下限値は、それぞれ任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。例えば、数値範囲の上限値及び下限値を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、数値範囲の上限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができ、また、数値範囲の下限値同士を任意に組み合わせて好ましい範囲を規定することができる。
【0103】
この記載した開示に続く特許請求の範囲は、本明細書においてこの記載した開示に明示的に組み込まれ、各請求項は個別の実施形態として独立している。本開示は独立請求項をその従属請求項によって置き換えたもの全てを含む。さらに、独立請求項及びそれに続く従属請求項から誘導される追加的な実施形態も、この記載した明細書に明示的に組み込まれる。
図1
図2
図3