(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178857
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】海洋生分解性ポリエステル
(51)【国際特許分類】
C08G 63/16 20060101AFI20241218BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20241218BHJP
【FI】
C08G63/16 ZBP
C08L101/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097334
(22)【出願日】2023-06-13
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ムーンショット型研究開発事業、「生分解開始スイッチ機能を有する海洋分解性プラスチックの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橘 熊野
(72)【発明者】
【氏名】澤中 祐太
(72)【発明者】
【氏名】筒場 豊和
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美和
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 純子
(72)【発明者】
【氏名】平石 愛実
(72)【発明者】
【氏名】工藤 萌々香
(72)【発明者】
【氏名】粕谷 健一
【テーマコード(参考)】
4J029
4J200
【Fターム(参考)】
4J029AA03
4J029AB01
4J029AB04
4J029AC01
4J029AD01
4J029AD10
4J029BA03
4J029BA05
4J029CA02
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029HA01
4J029HB01
4J029KB03
4J200AA02
4J200AA04
4J200AA09
4J200BA19
4J200CA01
4J200DA01
4J200DA07
4J200DA09
4J200DA12
4J200DA21
4J200EA11
(57)【要約】
【課題】本発明は、ポリ(n-アルキレン n-アルキレンジカルボキシレート)等のポリエス
テルの海洋生分解性を制御する技術および同技術により海洋生分解性ポリエステルを開発することを課題とする。
【解決手段】本発明は、下記一般式(I)で表される構造を含む、海洋生分解性ポリエステ
ルを提供する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される構造を含む、海洋生分解性ポリエステル。
【化1】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
【請求項2】
xおよびyが、それぞれ独立して、2~100の整数である、請求項1に記載の海洋生分解性ポリエステル。
【請求項3】
xおよびyが、それぞれ独立して、2~45の整数である、請求項1に記載の海洋生分解性
ポリエステル。
【請求項4】
xおよびyが、それぞれ独立して、2~14の整数である、請求項1に記載の海洋生分解性
ポリエステル。
【請求項5】
mが2~100の整数である、請求項1に記載の海洋生分解性ポリエステル。
【請求項6】
数平均分子量(Mn)が10,000以下である、請求項1に記載の海洋生分解性ポリエステル。
【請求項7】
請求項1に記載の海洋生分解性ポリエステルを含む、海洋生分解性樹脂組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の海洋生分解性樹脂組成物で形成された成形品。
【請求項9】
下記一般式(I)で表される構造を含む海洋生分解性ポリエステルの製造方法であって、
x、yおよびmを制御することを含む、製造方法。
【化2】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
【請求項10】
下記一般式(I)で表される構造を含むポリエステルの海洋生分解性の制御方法であって
、
x、yおよびmを制御することを含む、制御方法。
【化3】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(n-アルキレン-n-アルキレンジカルボキシレート)等のポリエステルの
海洋生分解性の制御方法および海洋生分解性ポリエステル等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGsの観点から、環境負荷の少ない生分解性高分子、特に海洋中で分解する海洋生分解性高分子への注目がさらに高まってきている。海洋は流出した高分子材料の最終的な到達点であるため、海洋中で生分解性が発現することは生分解性高分子にとって重要なためである。しかしながら、生分解性高分子の生分解性は、環境に強く依存する。土壌中等で生分解性を示しても、海洋中で生分解性を示す高分子は少ない。これは、海洋では微生物が少なく、土壌中とは微生物菌叢が異なるため、微生物の付着・増殖、分解する酵素の産生が起こりにくいことが要因だと考えられている。
【0003】
生分解性高分子としてヒドロキシカルボン酸系の脂肪族ポリエステルがよく知られている。なかでも、長鎖メチレンを有するポリエステルは、ポリエチレン(PE)に匹敵する特性を示すため、PE代替プラスチックとして期待が高まっている(非特許文献1)。なお、メチレン鎖数は物性だけでなく生分解性にも影響する。
メチレン鎖数と生分解性との関係性に関して、以前に本発明者らは、脂肪族ポリエステルであるポリ(n-アルキレン-n-アルキレンジカルボキシレート)(PAAD)のメチレン鎖数
が長くなるほど、土壌環境中における生分解性が低下することを明らかにした(非特許文献2)。
一方、PAADの海洋生分解についてはほとんど調査されていないが、生分解性高分子として市販されているポリブチレンサクシネート(PBSu)でさえも、海洋中では分解しないとして知られている。
【0004】
他方、酵素加水分解性と分子量の関係性が、ポリ乳酸(PLA)では報告されており、低
分子量になるほど酵素加水分解性が高くなることが知られている(非特許文献3)。しかしながら、PAADの海洋生分解性と分子量に関する系統的な研究はこれまでに行われていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Ortmann, P.; Mecking, S. Long-Spaced Aliphatic Polyesters. Macromolecules 2013, 46 (18), 7213-7218.
【非特許文献2】Baba, T.; Tachibana, Y.; Suda, S.; Kasuya, K. Evaluation of Environmental Degradability Based on the Number of Methylene Units in Poly(Butylene n-Alkylenedionate). Polym. Degrad. Stab. 2017, 138, 18-26.
【非特許文献3】Tsuji, H.; Miyauchi, S. Enzymatic Hydrolysis of Poly(Lactide)s: Effects of Molecular Weight, l -Lactide Content, and Enantiomeric and Diastereoisomeric Polymer Blending. Biomacromolecules 2001, 2 (2), 597-604.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、海洋生分解性高分子への要求は高いが、海洋生分解性の制御技術は十分に確立されていない。
上記状況を鑑み、本発明は、ポリ(n-アルキレン-n-アルキレンジカルボキシレート)(PAAD)等のポリエステルの海洋生分解性を制御する技術および同技術により海洋生分解性
ポリエステルを開発することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。すなわち、海洋中で生分解性を発現可能なPAADを開発すべく、分子量が異なるPAADをメチレン鎖長ごとに調整し、その海洋生分解性を微生物酸素要求量(BOD)生分解性試験によって、系統的に評価すること
で、「PAADの海洋中における生分解へのメチレン鎖数および分子量依存性」を明らかにし、海洋生分解性ポリエステルの創出を可能とした。このような知見に基づき、本発明は完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨は以下に関する。
【0008】
[1] 下記一般式(I)で表される構造を含む、海洋生分解性ポリエステル。
【0009】
【0010】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
[2] xおよびyが、それぞれ独立して、2~100の整数である、[1]に記載の海洋生分解性ポリエステル。
[3] xおよびyが、それぞれ独立して、2~45の整数である、[1]に記載の海洋生分
解性ポリエステル。
[4] xおよびyが、それぞれ独立して、2~14の整数である、[1]に記載の海洋生分
解性ポリエステル。
[5] mが2~100の整数である、[1]に記載の海洋生分解性ポリエステル。
[6] 数平均分子量(Mn)が10,000以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の海洋生分解性ポリエステル。
[7] [1]~[6]のいずれかに記載の海洋生分解性ポリエステルを含む、海洋生分解性樹脂組成物。
[8] [7]に記載の海洋生分解性樹脂組成物で形成された成形品。
[9] 下記一般式(I)で表される構造を含む海洋生分解性ポリエステルの製造方法であ
って、
x、yおよびmを制御することを含む、製造方法。
【0011】
【0012】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
[10] 下記一般式(I)で表される構造を含むポリエステルの海洋生分解性の制御方法
であって、
x、yおよびmを制御することを含む、制御方法。
【0013】
【0014】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
【0015】
なお、本発明は、以下の構成を採用することも可能である。
[11]海洋生分解性樹脂組成物の製造における、[1]~[6]のいずれかに記載の海洋生分解性ポリエステルの使用。
[12][1]~[6]のいずれかに記載の海洋生分解性ポリエステルを配合することを含む、海洋生分解性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の方法によれば、PAAD等のポリエステルの海洋生分解性を制御することができる。また、本発明の海洋生分解性の制御技術により海洋生分解性ポリエステルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、横須賀市で採取された海水接種によるPAADの加水分解物のBOD生分解度曲線(30 ℃、10日)である。
図1のa~eは、各PAADの加水分解物のBOD生分解度曲線のグラフである。
【
図2】
図2は、横須賀市で採取された海水接種によるPAADのBOD生分解度曲線(30℃、60日)である。
図2のa~oは、各PAADのBOD生分解度曲線のグラフである。
【
図3】
図3は、PAADのBOD生分解速度およびBOD生分解度を示すグラフである。
図3のa~nは、各PAADのBOD生分解速度およびBOD生分解度のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について説明する。
<海洋生分解性ポリエステル>
本発明の一態様は、下記一般式(I)で表される構造を含む、海洋生分解性ポリエステル
(以下、「本発明の海洋生分解性ポリエステル」ということがある。)に関する。
【0019】
【0020】
(式中、
xは、1以上の整数を示し、
yは、0以上の整数を示し、
mは、2以上の整数を示す。)
【0021】
ここで、本発明の海洋生分解性ポリエステルの海洋生分解性とは、海洋条件において、生分解性高分子分解菌の加水分解酵素等の働きによって、生分解性樹脂が切断、低分子に断片化される性質を意味する。また、好ましくは、生分解性樹脂の海洋生分解性とは、海洋条件において、生分解性樹脂が切断、低分子に断片化され、無機化される性質であり得る。
海洋生分解性は、例えば、試料を海水に浸漬し、海水浸漬試験後の重量が初期重量から減少することで確認することができる。より具体的には、海洋生分解性は、例えば、海洋生分解性試験の生分解度(ASTM D6691-17)に規定される試験方法により確認することが
できる。
海洋生分解性の指標として、本発明の海洋生分解性ポリエステルは、海洋生分解性試験の生分解度(ASTM D6691-17)が、例えば、20%以上、30%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、または90%以上であることを意味する。生分解度の算出
方法は、実施例で用いた方法を使用できる。
【0022】
本発明では、海洋生分解性高分子を開発すべく鋭意研究を重ねたところ、PAADのメチレン鎖数と分子量の制御によって、海洋生分解性PAADの創出に成功した。
【0023】
PAADの生分解は次の二段階で進行する。
(第一段階) PAADが酵素によるエステル結合の加水分解を受け、低分子量の化合物(最
終的にジオールとジカルボン酸)を生成する。
(第二段階) 低分子量化された化合物を微生物が取り込み代謝することで生分解される
。
【0024】
後記実施例に示されるとおり、第一段階の低分子量の化合物の生成速度および生分解度は、PAADの初期分子量に影響される。そのため、低分子量のPAADを用いることで生分解性が促進されることが予測される。また、酵素加水分解では、酵素が高分子に吸着する必要があるが、高分子量体では疎水性が高まるため、吸着が阻害され加水分解性が低下する。その点でも、低分子量のPAADを用いることは生分解性付与に重要である。
【0025】
後記実施例に示されるとおり、第二段階の低分子量化された化合物の微生物による代謝速度は、PAADのメチレン鎖数に強く影響される。
【0026】
このように、本発明によれば、一般式(I)で表される構造を含む化合物であるPAADのメ
チレン鎖数xおよびyと、分子量(一般式(I)のメチレン鎖数xおよびy、ならびに重合度mを制御することで制御し得る)を制御することで、海洋生分解性ポリエステルを創出することができる。本発明の海洋生分解性ポリエステルにおいて、x、yおよびmを調整すること
により、使用する目的に応じて、所望の海洋生分解性を有する海洋生分解性ポリエステルを製造できる。
【0027】
一般式(I)中、xは、1以上の整数、yは、0以上の整数を示す。xおよびyの値が小さすぎ
ると、ポリエステルの所望の物性が得られない可能性があり、xおよびyの値が大きすぎると、ポリエステルの所望の海洋生分解性が得られない可能性がある。使用する目的に応じて、所望の海洋生分解性を発揮するようにxおよびyを調整する。
なお、xおよびyの値は、それぞれ独立して設定し得る。
本発明の効果を奏する限り限定されないが、
xの値としては、例えば、1以上の整数、2以上の整数、または4以上の整数であってよく、100以下の整数、45以下の整数、14以下の整数、または4以下の整数であってよく、これらの矛盾しない組み合わせであってよい。xの値は、例えば、1~100の整数、2~100の整
数、2~45の整数、2~14の整数、または2~4の整数であってよい。
yの値としては、例えば、0以上の整数、2以上の整数、または4以上の整数であってよく、100以下の整数、45以下の整数、または14以下の整数であってよく、これらの矛盾しな
い組み合わせであってよい。yの値は、例えば、0~100の整数、2~100の整数、2~45の整数、2~14の整数、または4~14の整数であってよい。
【0028】
また、一般式(I)中、mは、2以上の整数を示す。mの値が小さすぎると、ポリエステルの所望の物性が得られない可能性があり、mの値が大きすぎると、ポリエステルの所望の海
洋生分解性が得られない可能性がある。使用する目的に応じて、所望の海洋生分解性を発揮するようにmを調整する。本発明の効果を奏する限り限定されないが、mの値としては、例えば、2以上の整数、3以上の整数、または4以上の整数であってよく、100以下の整数、20以下の整数、10以下の整数、または7以下の整数であってよく、これらの矛盾しない組
み合わせであってよい。mの値は、例えば、2~100の整数、3~20の整数、4~10の整数、
または4~7の整数であってよい。
なお、x、yおよびmの値は、それぞれ独立して設定し得る。
【0029】
本発明の海洋生分解性ポリエステルの好ましい一態様として、海洋生分解性や使用性等に特に優れるとの観点から、xの値が2~4の整数、yの値が2~14の整数、mの値が2~20の
整数である海洋生分解性ポリエステルが挙げられる。
【0030】
本発明の海洋生分解性ポリエステルの分子量は、本発明の効果を奏する限り限定されないが、海洋生分解性の観点から、例えば、数平均分子量(Mn)であれば、300~30,000、3,000~20,000、または5,000~10,000であってよい。重量平均分子量(Mw)であれば、300~30,000、3,000~20,000、または5,000~10,000であってよい。分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー等により、測定することができる。
【0031】
本発明の海洋生分解性ポリエステルの好ましい一態様として、海洋生分解性に特に優れるとの観点から、数平均分子量(Mn)が10,000以下である海洋生分解性ポリエステルが挙げられる。
【0032】
一般式(I)で表される構造を含む化合物であるPAADの具体例としては、限定されないが
、例えば、PEAd:ポリ(エチレンアジペート)(一般式(I)において x = 2, y = 4 の
化合物),PBSu:ポリ(ブチレンサクシナート)(一般式(I)において x = 4, y = 2 の
化合物)、PBGl:ポリ(ブチレングルタレート)(一般式(I)において x = 4, y = 3 の
化合物)、PBAd:ポリ(ブチレンアジペート)(一般式(I)において x = 4, y = 4 の化
合物)、PBPi:ポリ(ブチレンピメレート)(一般式(I)において x = 4, y = 5 の化合
物)、PBSb:ポリ(ブチレンスベレート)(一般式(I)において x = 4, y = 6 の化合物
)、PBAz:ポリ(ブチレンアゼレート)(一般式(I)において x = 4, y = 7 の化合物)
、PBSe:ポリ(ブチレンセバセート)(一般式(I)において x = 4, y = 8 の化合物)、PBUd:ポリ(ブチレンウンデカンジオエート)(一般式(I)において x = 4, y = 9 の化合物)、PBDd:ポリ(ブチレンドデカンジオエート)(一般式(I)において x = 4, y = 10 の化合物)、PBTrd:ポリ(ブチレントリデカンジオエート)(一般式(I)において x = 4, y = 11 の化合物)、PBTed:ポリ(ブチレンテトラデカンジオエート)(一般式(I)に
おいて x = 4, y = 12 の化合物)、PBPd:ポリ(ブチレンペンタデカンジオエート)(
一般式(I)において x = 4, y = 13 の化合物)、およびPBHd:ポリ(ブチレンヘキサデカンジオエート)(一般式(I)において x = 4, y = 14 の化合物)等が挙げられる。
【0033】
<海洋生分解性ポリエステルの製造方法>
本発明のさらなる一態様は、上記一般式(I)で表される構造を含む海洋生分解性ポリエ
ステルの製造方法であって、x、yおよびmを制御することを含む、製造方法(以下、「本
発明の製造方法」ということがある。)に関する。なお、前記<海洋生分解性ポリエステル>の項において説明された事項は、本発明の製造方法の説明に全て適用される。
【0034】
本発明の製造方法は、一般式(I)におけるメチレン鎖数xおよびy、ならびに重合度mを制御することで、ポリエステルのメチレン鎖数および分子量を制御することを特徴とする。ポリエステルのメチレン鎖数および分子量、ならびに、x、yおよびmは、使用する目的に
応じて、所望の海洋生分解性を有する海洋生分解性ポリエステルが得られるように調整すればよい。x、yおよびmの数値の具体的範囲は、前記<海洋生分解性ポリエステル>の項
において説明されたものと同様である。
【0035】
一般式(I)におけるメチレン鎖数xおよびy、ならびに重合度mを制御し、ポリエステルのメチレン鎖数および分子量を調整する方法として、xおよびyについては、例えば、PAADの原料であるジカルボン酸として、所望のメチレン鎖数xおよびyを有するジカルボン酸を選択し、用いることで調整し得る。
mについては、PAADの重合条件(例えば、重合時間、温度、触媒量等)を調整すること
で調整し得る。重合条件の調整は、公知の方法に基づき行うことができる。また、市販のPAADを所望の重合度mとなるように加水分解する等して調整してもよい。また、分子量分
画によって所定の重合度nのPAADを調整してもよい。
【0036】
なお、本発明の製造方法は、ポリエステルのメチレン鎖数および分子量を調整すること以外は、高分子の通常の製造方法により実施することができる。高分子の製造方法は、微生物によるものでも、化学合成によるものであってもよい。
より具体的には、例えば、後記実施例に示されるように、モノマー原料となる所望のメチレン鎖数xを有するジオールと、yを有するジカルボン酸を、チタン酸触媒等の触媒を用いて、所望の重合度mを達成し得る条件で脱水重縮合すること等により一般式(I)で表される構造を含む海洋生分解性ポリエステルを合成することができる。脱水重縮合反応条件としては、限定されないが、例えば、200~280 ℃で、1~10時間の反応条件が挙げられる。
海洋生分解性ポリエステルの原料であるジカルボン酸および1,4-ブタンジオールは、市販品または化学合成されたものを用いることが可能である。
【0037】
<ポリエステルの海洋生分解性の制御方法>
本発明のさらなる一態様は、上記一般式(I)で表される構造を含むポリエステルの海洋
生分解性の制御方法であって、x、yおよびmを制御することを含む、制御方法(以下、「
本発明の制御方法」ということがある。)に関する。なお、前記<海洋生分解性ポリエステル>、<海洋生分解性ポリエステルの製造方法>の項において説明された事項は、本発明の制御方法の説明に全て適用される。
【0038】
本発明の制御方法は、一般式(I)におけるメチレン鎖数xおよびy、ならびに重合度mを制御することで、ポリエステルのメチレン鎖数および分子量を制御することを特徴とする。x、yおよびmを制御し、ポリエステルの分子量を調整する方法は、前記<海洋生分解性ポ
リエステルの製造方法>の項において説明された事項と同様である。すなわち、x、yおよびmは、使用する目的に応じて、所望の海洋生分解性を有する海洋生分解性ポリエステル
が得られるように調整すればよい。
【0039】
<海洋生分解性樹脂組成物>
本発明のさらなる一態様は、本発明の海洋生分解性ポリエステルを含む、海洋生分解性樹脂組成物(以下、「本発明の海洋生分解性樹脂組成物」ということがある。)に関する。なお、前記<海洋生分解性ポリエステル>、<海洋生分解性ポリエステルの製造方法>、<ポリエステルの海洋生分解性の制御方法>の項において説明された事項は、本発明の海洋生分解性樹脂組成物の説明に全て適用される。
【0040】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、本発明の海洋生分解性ポリエステルを含んでおり、海洋生分解性を有する組成物である。
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、1種類または2種類以上の海洋生分解性ポリエステルを含んでよい。
【0041】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物は、海洋生分解性ポリエステルのみからなってもよいが、必要により、生分解性樹脂組成物に通常使用される種々の添加剤等、例えば、生分解性樹脂の可塑剤、安定剤(抗酸化剤、熱安定剤、耐光安定剤等)、界面活性剤、滑剤、着色剤、充填剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、分散剤、分散助剤、離型剤等を含んでいてもよい。添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0042】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物における海洋生分解性ポリエステルの配合割合は、限定されないが、例えば、組成物全量に対して0.1~100重量%、1~99.9重量%、または10
~50重量%程度とすることができる。
【0043】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物における海洋生分解性ポリエステルは易分解性の結合で複数の海洋生分解性ポリエステルを連結することも可能で、このような態様の海洋生分解性ポリエステルの配合割合は、限定されないが、例えば、組成物全量に対して0.1~100重量%、1~99.9重量%、または10~50重量%程度とすることができる。
【0044】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物の形態は特に限定されず、粉末やペレット状、フィルム状の固体、親水性または親油性の液体・ゾル・ゲルに溶かした状態や分散させた状態であってよい。海洋生分解性樹脂組成物の製造は常法に基づき行うことができる。
【0045】
<成形品>
本発明のさらなる一態様は、本発明の海洋生分解性樹脂組成物で形成された成形品(以下、「本発明の成形品」ということがある。)に関する。なお、前記<海洋生分解性ポリエステル>、<海洋生分解性ポリエステルの製造方法>、<ポリエステルの海洋生分解性の制御方法>、<海洋生分解性樹脂組成物>の項において説明された事項は、本発明の成形品の説明に全て適用される。
【0046】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物を、成形加工することによりフィルム、シート等用途に適した形状の器具、容器、不織布等の成形品にすることができる。
【0047】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物からなるフィルムまたはシートを得る方法としては特に制限がなく、公知の成形方法によりフィルム状またはシート状に成形される。例えば、T-ダイ成形法、インフレーション成形法、カレンダー成形法、熱プレス成型法等により、フィルム状またはシート状に成形する方法が挙げられる。また、これらのフィルムやシートは少なくとも一方向に延伸されていてもよい。延伸法として特に制限はないが、ロール延伸法、テンター法、インフレーション法等が挙げられる。
【0048】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物からなる、用途に適した形状の成形品を得る方法としては、特に制限がなく、公知の方法で製造可能であり、例えば金型に押出成形や射出成形等を行う方法等が挙げられる。
【0049】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物の成形品の厚さは、その水崩壊性や生分解性を高めるために薄く成形することが好ましいが、強度や可とう性等を満足させるように自由に調整可能である。フィルムの好ましい厚みは、5~300 μmであり、10~100 μmがより好まし
い。シートや容器状の成形品の厚みとしては0.1~5mmが好ましく、より好ましくは0.2~2
mmである。
【0050】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物の不織布を得る方法としては特に制限がなく、公知の方法、例えば、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、湿式法等により製造される。すなわち、本発明の海洋生分解性樹脂組成物を紡糸した後、ウェブを形成し、該ウェブを公知の方法により結合することにより得られる。
【0051】
本発明の海洋生分解性樹脂組成物からなる成形品は、その用途は特に限定されないが、例えば、衛生用品を構成する部材(部品)、農園芸資材、土木建築資材、漁業用資材等として使用することができる。すなわち、本発明の海洋生分解性樹脂組成物を含有する素材を使用して衛生用品、農園芸資材、土木建築資材、漁業用資材等を製造することが可能である。
【0052】
衛生用品、農園芸資材、土木建築資材、漁業用資材等の製造法としては、本発明の海洋生分解性樹脂組成物を所望の形状に成形加工することによって製造できるし、さらにその成形品を公知のホットメルト接着あるいは熱接着等の方法により相互に接着、固定して製造することができる。
【0053】
前記衛生用品としては、例えば、使い捨て紙おむつ、失禁用パッド、生理用ナプキン等が挙げられる。
前記農園芸資材としては、例えば、マルチフィルム、育苗ポット、園芸テープ、果実栽培袋、杭、薫蒸シート、ビニールハウス用フィルム、肥料用被覆材等が挙げられる。
前記土木建築資材としては、例えば、植生ネット、植生ポット、立体網状体、土木繊維、杭、断熱材等が挙げられる。
前記漁業用資材としては、漁網、養殖用器材、釣具、係留ロープ、防舷材、シーアンカー、浮体等が挙げられる。
【実施例0054】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0055】
[材料および方法]
<試薬>
アジピン酸 (AdA)、アゼライン酸 (AzA)、CaCl2・2H2O、ドデカン二酸 (DdA)、FeCl3・6H2O、グルタル酸 (GlA)、KH2PO4、K2HPO4、NaCl、Na2HPO4・H2O、NH4Cl、MgSO4・7H2O、セバシン酸 (SeA)、コハク酸 (SuA)、コハク酸無水物、エタノールは富士フィルム和光純薬株式会社から購入した。HCl、NaOH、Na2SO4、NaHCO3、クロロホルム、重クロロホルム
(CDCl3)、重水(D2O)、重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)、酢酸エチル、トルエン
、p-トルエンスルホン酸一水和物、ヘキサン、無水THF は関東化学株式会社から購入した。L-アルギニン、ジクロロメタン、メタノール、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール (BD) はキシダ化学株式会社から購入した。ペンタデカン二酸 (PdA)、ピメリン酸 (PiA)、スベリン酸 (SbA)、テトラデカン二酸 (TedA)、トリデカン二酸 (TrdA)、ウンデカン二酸 (UdA)、アリルチオ尿素、4-ジメチルアミノピリジン (DMAP)、チタンテトライソプ
ロポキシドは東京化成工業株式会社から購入した。ヘキサデカン二酸 (HdA) はシグマア
ルドリッチジャパン合同会社から購入した。BD は 90 ℃, 240 Pa で減圧蒸留精製して用いた。その他の試薬は精製せずに使用した。
【0056】
<機器分析>
(核磁気共鳴法 (NMR))
NMR測定には、JNM-ECS400 NMR分光計 (日本電子株式会社)、およびJNM-ECA600 NMR分光
計 (日本電子株式会社) を用いた。内部標準としてテトラメチルシランを含むCDCl3, DMSO-d6,またはD2O (0.6 mL) のいずれかに試料 (1.0-5.0 mg) を溶解させ、1H NMR測定を行なった。
【0057】
(分子量測定)
合成したポリマーの分子量はサイズ排除クロマトグラフィーにより算出した。GPC測定
にはLC-4000システム (日本分光株式会社) を使用し、流速1.0 mL/min、温度40 ℃で測定した。検量線の作成には、東ソー株式会社製のTSK標準ポリスチレン (数平均分子量 = 2890000, 706000, 355000, 96400, 3.79×104, 10200, 2630, 433) を使用した。カラムはTSKgel guardcolumnMP (XL) とTSKgel MultiporeHXL-Mを連結して使用し、RI検出器を用いて検出した。サンプル溶液は、ポリマー (1.0-5.0 mg) をクロロホルム (1.0 mL) に溶解させて調製した。
【0058】
(分取GPCによる分子量分画)
ポリマーはMultiple Preparative HPLC LC-Forte/R (YMC光株式会社) を使用し、流速3.5 mL/minで分画した。カラムには GPC K-2001 Colum No. A601021とGPC K-2002 Colum No. A601022,GPC K-2004 Colum No. A702010を連結させたものを使用した。サンプル溶液は、サンプル (0.15-0.25 g) をクロロホルム (6.0 mL) に溶解させ、孔径 0.45 μmのメンブレンフィルターを用いて濾過することで調製した。
【0059】
<方法>
(海洋BOD生分解性試験)
神奈川県横須賀市にて採取された海水をメンブレンフィルターを用いて濾過した。濾過した海水にリン酸二水素カリウム (0.10 g/L) と塩化アンモニウム (0.5 g/L) を加えた
。一方、濾過した海水をメンブレンフィルターで吸引濾過し、フィルターを取り出して無機塩を添加した海水に懸濁させ、100倍濃縮海水を調製した。メジューム瓶に100倍濃縮海水 (1.0 mL)、5.0 g/L N-アリルチオ尿素 (200 μL) を添加し、濾過した海水にリン酸二水素カリウム (0.10 g/L) と塩化アンモニウム (0.5 g/L) を加えた海水で200 mLにメス
アップした。ブランクとして、炭素源となる試料を加えていないメジューム瓶を2本用意
した。二酸化炭素吸収剤容器にヤバシライムを適量加え、メジューム瓶上部に取り付けた。調製したメジューム瓶をBOD TESTERに設置して30 ℃の暗室下で撹拌し、定期的に圧力
変動値を測定した。
<ポリエステルの合成>
(PAADの合成)
[参考文献1]Baba, T.; Tachibana, Y.; Suda, S.; Kasuya, K. Evaluation of Environmental Degradability Based on the Number of Methylene Units in Poly(Butylene n-Alkylenedionate). Polym. Degrad. Stab. 2017, 138, 18-26.
[参考文献2]Tachibana, Y.; Tsutsuba, T.; Kageyama, K.; Kasuya, K. Biodegradability of Poly(Butylene n-Alkylenedionate)s Composed of Long-Methylene Chains as Alternative Polymers to Polyethylene. Polym. Degrad. Stab. 2021, 190, 109650.
【0060】
二口ナス型フラスコに1,4-ブタンジオール (BD) (1.1 eq.) とジカルボン酸 (DCA) を
加え、窒素気流下で昇温した。チタンテトライソプロポキシド (50 × 10-2 mol%) を加
え200 ℃で1-2時間撹拌した。反応後、チタンテトライソプロポキシド (50 × 10-2 mol%) を再び加え、減圧 (10-1Pa) しながら200-240 ℃ で1-5時間撹拌した。反応後、固体をクロロホルムに溶解させ、メタノールに滴下することで沈殿させた。沈殿物を吸引濾過し、減圧乾燥することでPAADを得た。その後、必要に応じてPAADにさらにチタンテトライソプロポキシドを加え再重合し、より高分子量のPAADを得た。また、異なる分子量のPAADを得るために、分取GPCによりPAADを所定の流出時間で分画した。
【0061】
PEAd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.28 (d, J = 4.4 Hz, 4H, -O-CH2-), 2.42-2.32 (m, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.72-1.63 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-) ppm.
【0062】
PBSu
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.18-4.07 (m, 4H, -O-CH2-), 2.63 (s, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.77-1.67 (m, 4H, -O-CH2-CH2-) ppm.
【0063】
PBGl
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.04 (m, 4H, -O-CH2-), 2.38 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.95 (q, J = 7.4 Hz, 2H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.74-1.68 (m, 4H, -O-CH2-CH2-) ppm.
【0064】
PBAd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.04 (m, 4H, -O-CH2-), 2.33 (t, J= 7.7 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.70 (q, J = 6.0 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.66 (q, J = 6.0 Hz, 4H,
-O-CH2-CH2-) ppm.
【0065】
PBPi
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.14-4.07 (m, 4H, -O-CH2-) 2.31 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.70 (q, J = 7.4 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.67-1.59 (m, 4H, -O-CH2-CH2-), 1.42-1.30 (m, 2H, -(C=O)-CH2-CH2-CH2-) ppm.
【0066】
PBSb
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.12-4.06 (m, 4H, -O-CH2-), 2.30 (t, J= 7.7 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.76-1.67 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.67-1.56 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.38-1.31 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-CH2-) ppm.
【0067】
PBAz
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.12-4.05 (m, 4H, -O-CH2-), 2.30 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.73-1.65 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.66-1.55 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.40-1.24 (m, 6H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)3-) ppm.
【0068】
PBSe
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.12-4.04 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.74-1.67 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.68-1.52 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.40-1.25 (m, 8H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)4-) ppm.
【0069】
PBUd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.05 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.76-1.67 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.67-1.52 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.38-1.23 (m, 10H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)5-) ppm.
【0070】
PBDd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.03 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.7 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.77-1.66 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.67-1.50 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.39-1.22 (m, 12H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)6-) ppm.
【0071】
PBTrd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.03 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.7 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.78-1.66 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.66-1.48 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.38-1.23 (m, 14H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)7-) ppm.
【0072】
PBTed
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.12-4.04 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.76-1.67 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.65-1.54 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.38-1.20 (m, 16H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)8-) ppm.
【0073】
PBPd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.13-4.04 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.75-1.67 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.66-1.54 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.37-1.20 (m, 18H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)9-) ppm.
【0074】
PBHd
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ 4.14-4.05 (m, 4H, -O-CH2-), 2.29 (t, J= 7.6 Hz, 4H, -(C=O)-CH2-), 1.75-1.67 (m, 4H, -(C=O)-CH2-CH2-), 1.68-1.55 (m, 4H, -O-CH2-CH2-),
1.37-1.20 (m, 20H, -(C=O)-CH2-CH2-(CH2)10-) ppm.
【0075】
[結果]
<PAADの分子量と生分解性の相関解明>
(PAADの分子量分画による低分子量PAADの調製)
PAADの生分解性に対する分子量依存性を評価するために分子量が異なるPAADを調製した。各PAADはDCAとジオールをチタン酸触媒で脱水重縮合することにより合成した。粗生成
物は再沈殿 (良溶媒:クロロホルム,貧溶媒:メタノール) により精製し、必要に応じて精製したサンプルを再度重合することで、より高分子量体のものを合成した。脱水重縮合では分子量制御が困難であり、特に低分子量成分にはモノマーなどが混入し、多分散度を調製して合成することが困難である。そこで、PAADの分子量調製には分取GPCも併用した
。本研究では分子量が異なるサンプルを複数用意したが、それらのサンプル名は数平均分子量 (Mn) の1/1000を接尾辞として用いてPAAD (Mn/1000) と表す。
【0076】
分子量を調製した各PAADの数平均分子量、多分散度、重合度を表1にまとめる。各サンプルのうち最大の分子量を持つサンプルの数平均分子量は2-3万程度であった。PBHdは他
のサンプルより低い1.3万程度の分子量であったが、多分散度が3.3であり、高分子量体も含んでいる。一方で、最小の分子量を持つサンプルは重合度がおよそ10未満、その次に大きい分子量を持つサンプルは重合度がおよそ20になるように調製した。
【0077】
【0078】
(BOD生分解性試験)
PAADの加水分解物であるDCA、BDのBOD生分解度曲線を
図1に示す.生分解期における最大の傾きから算出した生分解速度と10日後のBOD生分解度は
図3に示す。HdAとBD以外は誘導期が1日以内で終えており、一方、HdAとBDの誘導期はそれぞれ4日と3日であった。その後、いずれも、6日後にはBOD生分解度は定常期に達した。
【0079】
分子量が異なるPAADのBOD生分解性試験を60日間行った。
図2にサンプルごとのBOD生分解度曲線を、
図3に60日経過後の生分解度と生分解期における最大の傾きから算出した生分解速度を示す。表2に60日後のBOD生分解度を示す。PAADの分解速度は全体的に分子量
が低くなるほど速くなる傾向が観測された。BOD生分解度についても全体的に分子量が低
くなるほど高くなる傾向が観測された。
【0080】
【0081】
以上のとおり、各メチレン鎖長および分子量のPAADのBOD生分解試験の結果、低分子量
体が生分解されやすい傾向が観測された。また、メチレン鎖数が小さいほど生分解されやすい傾向が観測された。すなわち、生分解性はメチレン鎖数と分子量に依存していた。これらのことから、メチレン鎖数および分子量の制御によって、海洋生分解性を有するPAADを創出することに成功した。
本発明で提供するPAADは、ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリスチレン,エチレンビニルアセテート樹脂,ABS樹脂,AS樹脂等の代替の生分解性高分子として利用できるため
、それらが使用されている全ての製品に導入可能である。海洋生分解性を考慮すると、漁具等に好ましく適用することができる。
また、本発明で提供するPAADは、刺激応答性高分子の生分解性ユニットとして共重合体等にも利用可能である。