(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178917
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】MnZn系フェライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01F 1/34 20060101AFI20241218BHJP
C04B 35/38 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01F1/34 140
C04B35/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024087502
(22)【出願日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023097181
(32)【優先日】2023-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591067794
【氏名又は名称】JFEケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】菊地 孝宏
(72)【発明者】
【氏名】石原 真由
(72)【発明者】
【氏名】中村 由紀子
【テーマコード(参考)】
5E041
【Fターム(参考)】
5E041AB02
5E041AB19
5E041BD01
5E041CA02
5E041HB01
5E041HB03
5E041NN02
5E041NN06
5E041NN13
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】磁気特性に優れたMnZn系フェライトを提供する。
【解決手段】基本成分が、鉄:Fe2O3換算で51.0~54.0mol%、亜鉛:ZnO換算で15.5~21.0mol%、及びマンガン:残部であり、基本成分に対して、副成分が、Si:SiO2換算で10質量ppm以上25質量ppm未満、Ca:CaCO3換算で500質量ppm以上1500質量ppm以下、Nb:Nb2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、Bi:Bi2O3換算で50質量ppm以上700質量ppm以下、V:V2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、及びTi:TiO2換算で50質量ppm以上700質量ppm以下を含み、MnZn系フェライトに生じる全気孔の数に対して、結晶粒内に生じる気孔の数が20.0%以下であり、平均結晶粒径が16μm以上である、MnZn系フェライト。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本成分、副成分及び不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
前記基本成分が、それぞれFe2O3、ZnO、及びMnO換算での鉄、亜鉛、及びマンガンの合計を100mol%として、
鉄:Fe2O3換算で51.0mol%以上54.0mol%以下、
亜鉛:ZnO換算で15.5mol%以上21.0mol%以下、及び
マンガン:残部
であり、
前記基本成分に対して、前記副成分が、
Si:SiO2換算で10質量ppm以上25質量ppm未満、
Ca:CaCO3換算で500質量ppm以上1500質量ppm以下、
Nb:Nb2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、
Bi:Bi2O3換算で50質量ppm以上700質量ppm以下、
V:V2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、及び
Ti:TiO2換算で50質量ppm以上700質量ppm以下
を含み、
前記MnZn系フェライトに生じる全気孔の数に対して、結晶粒内に生じる気孔の数が20.0%以下であり、
平均結晶粒径が16μm以上である、MnZn系フェライト。
【請求項2】
以下の式(1)で求められるΔB[mT]の値が、100℃において220mT以上である、請求項1に記載のMnZn系フェライト。
ΔB=Bm-Br ・・・(1)
ただし、Bmは飽和磁束密度[mT]、Brは残留磁束密度[mT]である。
【請求項3】
周波数500kHz以上3MHz以下の範囲において、以下の式(2)及び式(3)で求められる規格化インピーダンスZnorm[Ω・mm-1]の最大値が30Ω・mm-1以上である、請求項1に記載のMnZn系フェライト。
Znorm=Z・c1/N2 ・・・(2)
c1=le/Ae ・・・(3)
ただし、Zはインピーダンス[Ω]、c1はコア定数[mm-1]、leは磁路長[mm]、Aeは断面積[mm2]、Nはコイルの巻き数[-]である。
【請求項4】
10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が9000以上、かつ500kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が4000以上で、かつキュリー温度が150℃以上である、請求項1に記載のMnZn系フェライト。
【請求項5】
焼結密度が5.00g/cm3以上である、請求項1に記載のMnZn系フェライト。
【請求項6】
請求項1に記載のMnZn系フェライトを製造する方法であって、
前記基本成分を混合して第1の混合物を得て、前記第1の混合物を仮焼して仮焼物を得る混合仮焼工程と、
前記仮焼物に前記副成分を添加及び混合して第2の混合物を得て、前記第2の混合物を粉砕して粉砕粉を得る混合粉砕工程と、
前記粉砕粉にバインダーを添加及び混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、
焼成温度が400℃から最高温度に達するまでの昇温速度が50℃/hr以上300℃/hr未満である条件下で前記成形体を焼成して、前記MnZn系フェライトを得る焼成工程と、
を有するMnZn系フェライトの製造方法。
【請求項7】
前記焼成工程における前記最高温度が1370℃以上1450℃以下である、請求項6に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気特性を改善したMnZn系フェライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軟磁性材料の一つとして代表的なMnZn系フェライトは、スイッチング電源における電源トランスやノイズ対策用部品として広く用いられている。特にノイズ対策部品として用いられるMnZn系フェライトには、高透磁率であることが求められ、エアコン、テレビ、パソコンなどのあらゆる電子機器において、不要な電気成分(ノイズ)を取り除く役割を担うコモン・モード・チョークとして利用されている。
【0003】
近年では車の電動化が進み、カーエレクトロニクス分野においてMnZn系フェライトが需要を伸ばしている。車載用途の場合、エンジンルームの周囲では温度が-40℃~150℃の幅広い温度範囲となるため、広い温度範囲で安定した特性を示すMnZn系フェライトが求められている。
【0004】
従来のMnZn系フェライトは、室温における飽和磁束密度が440mT程度、100℃における飽和磁束密度が250mT程度である。また、従来のMnZn系フェライトにおいて、100℃における飽和磁束密度と残留磁束密度との差であるΔBは、190mT程度であるため、高温になると損失が大きくなる。そのため、従来のMnZn系フェライトをノイズフィルタ用に使用すると、その使用環境下で発熱する。インバータやコンプレッサーなどが発するパルスノイズへの効果を考慮すると、高温でも安定して使用できるように、ΔBの値が高いMnZn系フェライトが求められている。
【0005】
さらに、ノイズフィルタ用コモン・モード・チョークとしての機能を果たすためには、取り除きたいノイズの周波数帯域において、そのノイズよりも十分に大きい規格化インピーダンスが必要となる。特に近年では、電気自動車の車載用半導体として炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)などのパワー半導体が導入され始めているが、これらパワー半導体は1MHz以上の高周波数帯域で大きなノイズを発生させる。したがって、パワー半導体と共に用いる場合は、高周波数帯域のノイズを除去できる高い規格化インピーダンスを示すMnZn系フェライトが求められている。
【0006】
MnZn系フェライトは、アモルファス金属などと比較して安価であることから、ノイズフィルタとして導入しやすい反面、Fe2+の含有量が多いことから、Fe3+-Fe2+間での電子の授受が起こりやすいため、比抵抗が0.1Ω・mオーダーと低い。比抵抗が低いため、使用する周波数帯域が高くなるにつれ、MnZn系フェライト内の渦電流による損失が急増し、初透磁率が低下する。初透磁率の低下に伴いインダクタンスが低下し、同時に規格化インピーダンスの最大値の低下、及び規格化インピーダンスが最大値をとる周波数の低周波数化を招く。そのため、高周波数帯域で高い規格化インピーダンスを得るためには、比抵抗が105Ω・m以上であってフェライトの中では高い比抵抗を有するNiZn系フェライトを用いるか、若しくはMnZn系フェライトのFe2+の量を減らして比抵抗を上昇させる必要があった。
【0007】
しかし、NiZn系フェライトを用いる場合、低周波数帯域における初透磁率が数百程度と低くコモン・モード・チョークには向かない。他方、MnZn系フェライトの場合、MnZn系フェライトのFe2+を減らすと磁気モーメントが減少して飽和磁束密度が低下するという問題点がある。そこで、比抵抗を上昇させる別の方法として、金属酸化物を微量添加する方法がある。主成分以外の金属酸化物は、導電性を示さず、結晶組織の中で粒界に偏析するため、金属酸化物を添加することで粒界抵抗が上昇して、MnZn系フェライトの比抵抗を上昇させることができる。
【0008】
特許文献1には、Nb2O5及びV2O5の添加により残留磁束密度が低減しΔBが向上する効果が得られることが示されている。また、特許文献2には、焼結体の強度を向上させる目的でZr、Nb、Co、Ti、Ta、V、Bi、Mo、Sn、Li、Mg、Alから選択させる一種以上の元素を含有したMnZn系フェライトが開示されている。特許文献3には、SiO2及びCaOを添加することにより、磁気損失及び電力損失を減少させたMnZn系フェライトが開示されている。特許文献4には、昇温速度を350℃/hr以上、昇温過程の酸素濃度を調整することで結晶粒径を大きくし、空孔が結晶粒内に残存しない高い初透磁率を有するMnZn系フェライトの製造方法が開示されている。さらに、特許文献5には、MnZn系フェライトに占める全ボイド(気孔)数に対する結晶粒内ボイド数が40%未満であるMnZn系フェライトが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6-283320号公報
【特許文献2】特開2014-080344号公報
【特許文献3】特開2001-342058号公報
【特許文献4】特開2009-173474号公報
【特許文献5】国際公開第2020/158333号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、高周波の規格化インピーダンスやΔBを向上させるため、金属酸化物を微量添加して比抵抗を上昇させると、10kHz程度の低周波数における初透磁率が低下してしまうという問題点がある。MnZn系フェライトをコモン・モード・チョークとして使用するためには、高初透磁率であることが必要であり、従来技術では、低周波数帯域の初透磁率の低下を押さえながら高周波数帯域の規格化インピーダンスやΔBの向上を図ることは解決されていない。
【0011】
特許文献1に記載の発明は、電源トランス用磁心として用いられるMnZn系フェライトに適用されており、高透磁率材として初透磁率には言及されていない。なお、一般に添加物を加え、比抵抗を上昇させると、10kHz程度の低周波数帯域における初透磁率は低下するため、Nb2O5及びV2O5のみの添加では十分な初透磁率が確保できず、ノイズ対策用フェライトとしては不向きといえる。また、特許文献2及び特許文献3に記載の発明は、いずれもΔBと規格化インピーダンスの向上を目的としたものではない。特許文献4では、具体的な粒内気孔の割合が示されておらず、350℃/hr以上の昇温速度の場合、粒内気孔の低減には限界があると考えられる。また、ΔBについての言及がなく、インピーダンスは150kHzにおける値のみ開示されており、150kHzよりも高周波数帯域におけるノイズ除去特性は保証されない。特許文献5では、結晶粒内の気孔低減には言及しているものの、電源トランス用磁心として用いられるMnZn系フェライトに適用されており、初透磁率については言及されていない。また、残留磁束密度を低減する添加物V2O5が含まれていないため、十分なΔBが得られずノイズフィルタとしては不適である。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑み開発されたもので、10~500kHzの広い周波数帯域における初透磁率が高く、100℃のような高温でもΔBが大きく、500kHz~3MHzの高周波数帯域における規格化インピーダンスの最大値が大きい、MnZn系フェライトと、その有利な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、以下の知見を得た。初透磁率は、磁区と呼ばれる同じ方向を向いた磁気モーメントが集合した領域の境界線である「磁壁」の移動しやすさを表す指標である。結晶粒径が大きければ磁区も大きくなり、結晶粒内の気孔が少なければ磁壁の移動を妨げるものがなくなるため、磁壁が移動しやすくなり、初透磁率が高くなる。したがって、低周波数帯域における初透磁率の低下を防ぐためには、MnZn系フェライトの結晶粒径を大きくし、かつ、結晶粒内の気孔をできるだけ少なくすることが重要である。このような結晶組織を得るためには、副成分の含有量を所定の範囲に制御し、かつ、焼成時の昇温速度を制御することが重要である。特に、結晶粒内の気孔を少なくするには昇温速度を遅くすることが重要である。昇温速度が速すぎると、焼結初期段階では粒界に在った気孔が、結晶粒成長に伴って粒内に取り込まれ、粒内の気孔として残る。
【0014】
上記の知見に基づき完成された本発明の要旨構成は次のとおりである。
【0015】
[1]基本成分、副成分及び不可避的不純物からなるMnZn系フェライトであって、
前記基本成分が、それぞれFe2O3、ZnO、及びMnO換算での鉄、亜鉛、及びマンガンの合計を100mol%として、
鉄:Fe2O3換算で51.0mol%以上54.0mol%以下、
亜鉛:ZnO換算で15.5mol%以上21.0mol%以下、及び
マンガン:残部
であり、
前記基本成分に対して、前記副成分が、
Si:SiO2換算で10質量ppm以上25質量ppm未満、
Ca:CaCO3換算で500質量ppm以上1500質量ppm以下、
Nb:Nb2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、
Bi:Bi2O3換算で50質量ppm以上700質量ppm以下、
V:V2O5換算で50質量ppm以上500質量ppm以下、及び
Ti:TiO2換算で50質量ppm以上700質量ppm以下
を含み、
前記MnZn系フェライトに生じる全気孔の数に対して、結晶粒内に生じる気孔の数が20.0%以下であり、
平均結晶粒径が16μm以上である、MnZn系フェライト。
【0016】
[2]以下の式(1)で求められるΔB[mT]の値が、100℃において220mT以上である、上記[1]に記載のMnZn系フェライト。
ΔB=Bm-Br ・・・(1)
ただし、Bmは飽和磁束密度[mT]、Brは残留磁束密度[mT]である。
【0017】
[3]周波数500kHz以上3MHz以下の範囲において、以下の式(2)及び式(3)で求められる規格化インピーダンスZnorm[Ω・mm-1]の最大値が30Ω・mm-1以上である、上記[1]又は[2]に記載のMnZn系フェライト。
Znorm=Z・c1/N2 ・・・(2)
c1=le/Ae ・・・(3)
ただし、Zはインピーダンス[Ω]、c1はコア定数[mm-1]、leは磁路長[mm]、Aeは断面積[mm2]、Nはコイルの巻き数[-]である。
【0018】
[4]10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が9000以上、かつ500kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が4000以上で、かつキュリー温度が150℃以上である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のMnZn系フェライト。
【0019】
[5]焼結密度が5.00g/cm3以上である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のMnZn系フェライト。
【0020】
[6]上記[1]~[5]のいずれか一項に記載のMnZn系フェライトを製造する方法であって、
前記基本成分を混合して第1の混合物を得て、前記第1の混合物を仮焼して仮焼物を得る混合仮焼工程と、
前記仮焼物に前記副成分を添加及び混合して第2の混合物を得て、前記第2の混合物を粉砕して粉砕粉を得る混合粉砕工程と、
前記粉砕粉にバインダーを添加及び混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、
前記造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、
焼成温度が400℃から最高温度に達するまでの昇温速度が50℃/hr以上300℃/hr未満である条件下で前記成形体を焼成して、前記MnZn系フェライトを得る焼成工程と、
を有するMnZn系フェライトの製造方法。
【0021】
[7]前記焼成工程における前記最高温度が1370℃以上1450℃以下である、上記[6]に記載のMnZn系フェライトの製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明のMnZn系フェライトは、10~500kHzの広い周波数帯域における初透磁率が高く、100℃のような高温でもΔBが大きく、500kHz~3MHzの高周波数帯域における規格化インピーダンスの最大値が大きい。このようなMnZn系フェライトは、高温かつ高周波数帯域に対応可能なコモン・モード・チョークとして使用できる。また、本発明のMnZn系フェライトの製造方法によれば、上記のような優れた磁気特性を有するMnZn系フェライトを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係るMnZn系フェライト及びその製造方法の実施形態を説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を具体化した一例であって、その具体例をもって本発明の構成を限定するものではない。
【0024】
[MnZn系フェライト]
本発明に係るMnZn系フェライトは、基本成分、副成分及び不可避的不純物からなり、Fe、Zn及びMnの酸化物を基本成分とする。なお、以下のmol%は基本成分中の組成比である。
【0025】
(主成分)
Fe:Fe2O3換算で51.0~54.0mol%
MnZn系フェライトに含有されるFeがFe2O3換算で51.0mol%未満である場合、室温における初透磁率及びキュリー温度が低下する。また、FeがFe2O3換算で51.0mol%未満の場合、Bmが低下して十分なΔBが得られない。したがって、MnZn系フェライトに含有されるFeは、Fe2O3換算で51.0mol%以上とし、52.0mol%以上であることが好ましく、52.5mol%以上であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるFeがFe2O3換算で54.0mol%を超える場合、室温における初透磁率が低下するため高透磁率材用途には不適となり、また損失成分が増え、相対損失係数tanδ/μiが大きくなる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるFeは、Fe2O3換算で54.0mol%以下とし、53.9mol%以下であることが好ましく、53.8mol%以下であることがより好ましい。
【0026】
Zn:ZnO換算で15.5~21.0mol%
MnZn系フェライトに含有されるZnがZnO換算で15.5mol%未満である場合、MnZn系フェライトの比抵抗が低下し、高周波数帯域における特性が不良となる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるZnは、ZnO換算で15.5mol%以上とし、16.0mol%以上であることが好ましく、18.0mol%以上であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるZnがZnO換算で21.0mol%を超える場合、MnZn系フェライトのBmが低下して、十分なΔBが得られない。したがって、MnZn系フェライトに含有されるZnは、ZnO換算で21.0mol%以下とし、20.8mol%以下であることが好ましく、20.7mol%以下であることがより好ましい。
【0027】
Mn:残部
本発明において、十分な初透磁率を得るという観点から、MnZn系フェライトに含まれる基本成分の残部はMnとする。例えば、フェライトに含まれる基本成分の残部をNiとすると、十分な初透磁率が得られない。なお、MnZn系フェライトに含有されるMnは、MnO換算で23.0mol%以上であることが好ましく、25.0mol%以上であることがより好ましく、26.0mol%以上であることがさらに好ましい。また、MnZn系フェライトに含有されるMnは、MnO換算で30.0mol%以下であることが好ましく、29.5mol%以下であることがより好ましく、29.3mol%以下であることがさらに好ましい。
【0028】
(副成分)
次に、副成分について説明する。なお、本発明では、副成分の含有量は基本成分に対する含有量とする。
【0029】
Si:SiO2換算で10質量ppm以上25質量ppm未満
SiO2は、結晶組織の中で粒界に偏析し、粒界の抵抗を向上させ、高周波数帯域の初透磁率や規格化インピーダンスを向上させる働きがある。MnZn系フェライトに含有されるSiがSiO2換算で10質量ppm未満である場合、高周波数帯域におけるMnZn系フェライトの初透磁率が不十分である。したがって、MnZn系フェライトに含有されるSiは、SiO2換算で10質量ppm以上とし、11質量ppm以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるSiがSiO2換算で25質量ppm以上の場合、異常粒成長を引き起こし、低周波数帯域におけるMnZn系フェライトの初透磁率を著しく低下させる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるSiは、SiO2換算で25質量ppm未満とし、23質量ppm以下であることが好ましく、20質量ppm以下であることがより好ましい。
【0030】
Ca:CaCO3換算で500~1500質量ppm
CaCO3は、結晶組織の中で粒界に偏析し、粒界の抵抗を向上させ、高周波数帯域の初透磁率や規格化インピーダンスを向上させる働きがある。MnZn系フェライトに含有されるCaがCaCO3換算で500質量ppm未満である場合、高周波数帯域におけるMnZn系フェライトの初透磁率が急激に降下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるCaは、CaCO3換算で500質量ppm以上とし、700質量ppm以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるCaがCaCO3換算で1500質量ppmを超える場合、異常粒成長を引き起こし、低周波数帯域におけるMnZn系フェライトの初透磁率を著しく低下させる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるCaは、CaCO3換算で1500質量ppm以下とし、1250質量ppm以下であることが好ましい。
【0031】
Nb:Nb2O5換算で50~500質量ppm
Nb2O5は、粒界に偏析し、Caと結合して、結晶粒内に残存しているCa2+を粒界に引き寄せることで粒界を高抵抗化させる。そのため、Nb2O5を含有することで渦電流損失を低減し、高周波数帯域の規格化インピーダンスを高く維持することができ、残留磁束密度を低減させることが可能となる。MnZn系フェライトに含有されるNbがNb2O5換算で50質量ppm未満である場合、上記の効果が十分に得られない。したがって、MnZn系フェライトに含有されるNbは、Nb2O5換算で50質量ppm以上とし、60質量ppm以上であることが好ましく、70質量ppm以上であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるNbがNb2O5換算で500質量ppmを超える場合、異常粒成長を起こし、MnZn系フェライトの比抵抗の低下及び初透磁率の低下を招く。したがって、MnZn系フェライトに含有されるNbは、Nb2O5換算で500質量ppm以下とし、400質量ppm以下であることが好ましく、350質量ppm以下であることがより好ましく、300質量ppm以下であることがさらに好ましく、200質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0032】
Bi:Bi2O3換算で50~700質量ppm
Bi2O3は結晶粒成長を促す効果があり、微量を添加することで室温の初透磁率を大幅に向上させることができる。しかし、MnZn系フェライトに含有されるBiがBi2O3換算で50質量ppm未満である場合、初透磁率を向上させる効果が十分に得られない。したがって、MnZn系フェライトに含有されるBiは、Bi2O3換算で50質量ppm以上とし、75質量ppm以上であることが好ましく、100質量ppm以上であることがより好ましく、150質量ppm以上であることがさらに好ましく、250質量ppm以上であることが最も好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるBiがBi2O3換算で700質量ppmを超える場合、異常粒成長を起こし、初透磁率の低下を招く。したがって、MnZn系フェライトに含有されるBiは、Bi2O3換算で700質量ppm以下とし、650質量ppm以下であることが好ましく、500質量ppm以下であることがより好ましい。
【0033】
V:V2O5換算で50~500質量ppm
V2O5は、比較的融点が低く、焼成時に液相を形成することで結晶の緻密化を促進し、焼結密度を向上させ飽和磁束密度を増大させる効果を有する。また、V2O5は、Nb2O5と同様に粒界近傍でCa-V結合を形成し、Ca2+を粒界に偏析させて粒界を高抵抗化させる。渦電流損失の低減により高周波数帯域の規格化インピーダンスを向上させ、残留磁束密度の低減をもたらす。なお、V2O5はNb2O5よりも残留磁束密度の低減に大きな効果をもたらす。加えて、液相焼結になることで粒界近傍の歪みが緩和されるので、粒界応力が低減して残留磁束密度が低減すると考えられる。MnZn系フェライトに含有されるVがV2O5換算で50質量ppm未満である場合、上記の効果が十分に得られない。したがって、MnZn系フェライトに含有されるVは、V2O5換算で50質量ppm以上とし、70質量ppm以上であることが好ましく、80質量ppm以上であることがより好ましく、90質量ppm以上であることがさらに好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるVがV2O5換算で500質量ppmを超える場合、MnZn系フェライトの比抵抗が上昇して、初透磁率が大きく低下する。したがって、MnZn系フェライトに含有されるVは、V2O5換算で500質量ppm以下とし、450質量ppm以下であることが好ましく、400質量ppm以下であることがより好ましく、350質量ppm以下であることがさらに好ましく、300質量ppm以下であることがさらに好ましく、250質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0034】
Ti:TiO2換算で50~700質量ppm
Tiは通常酸化物の形態で存在し、TiO2は、結晶粒内に固溶して、Fe3+-Fe2+間での電子の授受を妨げる働きをするため、MnZn系フェライト粒内の比抵抗を好適に向上させる効果がある。MnZn系フェライトにおいて、Nb2O5、Bi2O3、及びV2O5に加え、TiO2の添加による相乗効果によって、高い初透磁率、高いΔBの実現及び高周波数帯域における高規格化インピーダンスが好適に得られる。
【0035】
また、TiO2は、初透磁率の温度特性に影響を与える。MnZn系フェライトの初透磁率は、一般的に磁性が消失する温度であるキュリー温度の直下でピークをとり、これをプライマリーピークと呼ぶ。また、MnZn系フェライトの初透磁率は、キュリー温度よりも低く、結晶磁気異方性定数K1が0となる温度で出現するピークがあり、このピークをセカンダリーピークと呼ぶ。TiO2を50質量ppm以上添加することで、セカンダリーピークを低温側に好適に移動させることができる。したがって、MnZn系フェライトに含有されるTiは、TiO2換算で50質量ppm以上とし、55質量ppm以上であることが好ましく、75質量ppm以上であることがより好ましく、90質量ppm以上であることがさらに好ましく、100質量ppm以上であることが最も好ましい。一方、MnZn系フェライトに含有されるTiが700質量ppmを超える場合、セカンダリーピークが大きく低温側にずれるため、初透磁率の向上に寄与しない。したがって、MnZn系フェライトに含有されるTiは、TiO2換算で700質量ppm以下とし、650質量ppm以下であることが好ましく、600質量ppm以下であることがより好ましく、550質量ppm以下であることがさらに好ましく、500質量ppm以下であることが最も好ましい。
【0036】
一般的に高透磁率材は、室温付近(25℃付近)にセカンダリーピークが出現する組成を選択する。本発明に係るMnZn系フェライトにおいては、TiO2を添加してセカンダリーピークを10~15℃程度高温にずらし、セカンダリーピークを室温付近(25℃付近)にシフトさせることが好ましい。セカンダリーピークのシフトによって、MnZn系フェライトの高透磁率を維持しながら比抵抗を好適に向上させ、高周波数帯域における特性の改善及び残留磁束密度の低減といった効果を好適に得ることができる。
【0037】
(不可避的不純物)
本発明の組成は、基本成分と副成分以外は不可避的不純物からなる。不可避的不純物としてはP、B、S、Cl等を例示でき、これら不可避的不純物の合計含有量は500質量ppm以下に抑制する。
【0038】
(結晶粒内の気孔割合)
MnZn系フェライトに生じる全気孔の数に対する結晶粒内に生じる気孔の数、すなわち結晶粒内の気孔割合が20.0%を超える場合、初透磁率が十分に得られない。したがって、MnZn系フェライトに生じる全気孔の数に対して、結晶粒内に生じる気孔の数は20.0%以下とし、19.5%以下であることが好ましく、16.0%以下であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトの結晶粒内の気孔割合に下限はなく、0.0%としてもよい。
【0039】
なお、MnZn系フェライトの結晶粒内の気孔割合は以下のようにして求めることができる。MnZn系フェライトの試料の破面を研磨して、フッ硝酸による粒界部エッチングを行う。エッチングした破面について、光学顕微鏡を用いて200~500倍視野で観察する。得られた画像を解析し、結晶粒内に生じる気孔の総数を視野内の全残存気孔の総数で除すことで、結晶粒内の気孔割合を求めることができる。
【0040】
(結晶粒径)
MnZn系フェライトの平均結晶粒径が16μm未満の場合、磁壁の移動が抑制されるため、10kHz、23℃のμi’(初透磁率μiの実数部分)が低下する。したがって、MnZn系フェライトの平均結晶粒径は16μm以上とする。一方、MnZn系フェライトの平均結晶粒径が25μmを超えると、粒界比抵抗の低下によりインピーダンスが所望の値を満たさなくなる。したがって、MnZn系フェライトの平均結晶粒径は25μm以下であることが好ましい。
【0041】
なお、MnZn系フェライトの結晶粒径は以下のようにして求めることができる。MnZn系フェライトの試料を破断し、破断後の断面を光学顕微鏡で倍率400倍にて観察する。なお、この視野に含まれる結晶粒径の個数は1000~2000個である。観察された各結晶粒を真円と仮定して結晶粒径を計算し、その平均値を求める。結晶粒径の計算には、例えば画像解析ソフト「A像くん」(登録商標:旭化成エンジニアリング株式会社製)を使用してもよい。
【0042】
(ΔB)
MnZn系フェライトのΔB[mT]は、以下の式(1)で求められ、100℃において220mT未満であると、磁気飽和を起こしやすい。したがって、MnZn系フェライトのΔBは、100℃において220mT以上とし、221mT以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトのΔBは大きければ大きいほど好ましく、特に上限はない。なお、従来製造されているMnZn系フェライトは、一般に100℃における飽和磁束密度が250mT程度なので、ΔBは190mT程度である。
ΔB=Bm-Br ・・・(1)
ただし、Bmは飽和磁束密度[mT]、Brは残留磁束密度[mT]である。
【0043】
MnZn系フェライトの室温(r.t.)における飽和磁束密度は、大きな電流がフェライトコアを流れた際に磁気飽和するのを防ぐ観点から、450mT以上であることが好ましく、490mT以上がより好ましい。一方、MnZn系フェライトの飽和磁束密度は大きければ大きいほど好ましく、特に上限はない。
【0044】
なお、MnZn系フェライトの飽和磁束密度及び残留磁束密度は以下のようにして求めることができる。MnZn系フェライトからトロイダルコアを作製し、トロイダルコアの1次側に40ターン、2次側に20ターンの銅線を巻く。直流磁化特性試験装置を用い、磁化力Hを最大1200A/mとして、トロイダルコアの飽和磁束密度及び残留磁束密度を測定する。得られた飽和磁束密度及び残留磁束密度から、ΔBを求めることができる。
【0045】
(規格化インピーダンスZnorm)
本明細書において規格化インピーダンスとは、実測したインピーダンスを寸法及びコイルの巻き数で規格化した値とする。MnZn系フェライトの規格化インピーダンスZnorm[Ω・mm-1]は、周波数500kHz~3MHzの範囲において、以下の式(2)及び式(3)で求められる。MnZn系フェライトのZnormは、周波数1MHz付近における最大値が30Ω・mm-1以上であると、1MHz付近のノイズを除去することができる。したがって、MnZn系フェライトのZnormは、周波数500kHz~3MHzの範囲において、最大値が30Ω・mm-1以上であるものとし、40Ω・mm-1以上であることが好ましく、45Ω・mm-1以上であることがより好ましい。一方、Znormの最大値が50Ω・mm-1を超えると、500kHz未満における低周波のZnormが低下してしまい、ノイズが除去できなくなる場合がある。したがって、MnZn系フェライトのZnormは、周波数500kHz~3MHzの範囲において、最大値を50Ω・mm-1以下とするのが好ましい。なお、従来の高透磁率であるMnZn系フェライトは、高周波数帯域におけるインダクタンスが低いので、Znormの最大値は20Ω・mm-1程度である。
Znorm=Z・c1/N2 ・・・(2)
c1=le/Ae ・・・(3)
ただし、Zはインピーダンス[Ω]、c1はコア定数[mm-1]、leは磁路長[mm]、Aeは断面積[mm2]、Nはコイルの巻き数[-]である。なお、断面積はトロイダルコアの周方向に垂直な断面の面積とする。
【0046】
なお、MnZn系フェライトのZnormは以下のようにして求めることができる。LCRメータ(キーサイト社製4980A)を用いて、MnZn系フェライトの、23℃における1kHz~30MHzのインダクタンスLと品質係数Qを測定する。その値を基に初透磁率及びコア定数で規格化した規格化インピーダンスZnormを算出する。
【0047】
(初透磁率)
MnZn系フェライトのμi’(初透磁率μiの実数部分)は、インダクタンス成分によるノイズ除去の観点から、10kHz、23℃において9000以上、かつ500kHz、23℃において4000以上とするのが好ましい。また、MnZn系フェライトのμi’は、100kHz、23℃において4500以上であることがより好ましい。一方、MnZn系フェライトのμi’が過剰に高いと、1MHz以上のインピーダンスZが低下してノイズを取ることができない。したがって、10kHz、23℃におけるμi’は12000以下であることが好ましい。同様に、500kHz、23℃におけるμi’は5000以下であることが好ましい。
【0048】
なお、MnZn系フェライトのμi’は以下のようにして求めることができる。MnZn系フェライトからトロイダルコアを作製し、トロイダルコアに銅線を10ターン巻く。銅線を巻いたトロイダルコアを、LCRメータ(キーサイト社製4980A)を用いて、23℃、10kHz及び23℃、500kHzにおいて、インダクタンスLと品質係数Qを測定し、その値を基にμi’を計算する。
【0049】
(キュリー温度)
MnZn系フェライトのキュリー温度は、スイッチング動作による周囲環境の高温化の観点から、150℃以上とする。一方、MnZn系フェライトのキュリー温度に上限はないが、通常は250℃以下となる。なお、初透磁率μi’の温度変化から、MnZn系フェライトが強磁性から常磁性に変化する温度を求め、求めた温度をキュリー温度とする。
【0050】
(焼結密度)
MnZn系フェライトの焼結密度が5.00g/cm3以上であると、飽和磁束密度が向上し、高いΔBが得られる。したがって、MnZn系フェライトの焼結密度は5.00g/cm3以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトの焼結密度は大きければ大きいほど好ましく、特に上限はないが、通常は5.10g/cm3程度である。
【0051】
(比抵抗)
MnZn系フェライトの比抵抗が10Ω・cm以上であると、Znormが最大値をとる周波数がより高周波側にシフトし、当該最大値がより大きい値となる。したがって、MnZn系フェライトの比抵抗は10Ω・cm以上であることが好ましい。一方、MnZn系フェライトの比抵抗が50Ω・cm以下であると、高い初透磁率が好適に得られる。したがって、MnZn系フェライトの比抵抗は50Ω・cm以下であることが好ましい。なお、MnZn系フェライトの比抵抗は4端子法により求めることができる。
【0052】
[MnZn系フェライトの製造方法]
本発明に係るMnZn系フェライトの製造方法は、基本成分を混合して第1の混合物を得て、第1の混合物を仮焼して仮焼物を得る混合仮焼工程と、仮焼物に副成分を添加及び混合して第2の混合物を得て、第2の混合物を粉砕して粉砕粉を得る混合粉砕工程と、粉砕粉にバインダーを添加及び混合した後、造粒して造粒粉を得る造粒工程と、造粒粉を成形して成形体を得る成形工程と、焼成温度が400℃から最高温度に達するまでの昇温速度が50℃/hr以上300℃/hr未満である条件下で成形体を焼成して、MnZn系フェライトを得る焼成工程と、を有する。
【0053】
MnZn系フェライトの製造においては、まず上述した比率となるように、基本成分であるFe2O3、ZnO及びMnO粉末を秤量し、これらを十分に混合して第1の混合物とした後に、この第1の混合物を仮焼する(混合仮焼工程)。この際、不可避的不純物については、上述した範囲内に制限する。混合は、湿式ボールミルを用いて16時間程度行うのが好ましい。また、仮焼条件は特に限定されないが、例えば大気中で925℃、3時間としてよい。
【0054】
次に、得られた仮焼物に、本開示にて規定された含有量となるように副成分を所定の比率で加え、仮焼粉と混合して粉砕を行う(混合粉砕工程)。この工程にて、添加した成分の濃度に偏りがないよう粉末を充分に均質化し、同時に仮焼粉を目標の平均粒径の大きさまで微細化させ、粉砕粉とする。粉砕は、湿式ボールミルを用いて16時間行うことが好ましい。また、粉砕粉の平均粒径は1.15μm~1.25μmであることが好ましい。
【0055】
次いで、粉砕粉に、ポリビニルアルコール等の公知の有機物バインダーを加え、スプレードライ法等により造粒して造粒粉を得る(造粒工程)。その後、必要であれば粒度調整のための篩通し等の工程を経て、成形機にて圧力を加えて成形して成形体とする(成形工程)。
【0056】
次いで、成形体を焼成し、MnZn系フェライトを得る(焼成工程)。焼成工程において、400℃~最高温度までの昇温速度を50℃/hr以上300℃/hr未満とすることで、MnZn系フェライトに生じる全気孔数のうち、結晶粒内に生ずる気孔の数を20.0%以下とすることができる。また、焼成工程における400℃~最高温度までの昇温速度が50℃/hr未満の場合、焼結が進まず焼結密度の低下を招き、初透磁率が低下する。したがって、焼成工程における400℃~最高温度までの昇温速度は、50℃/hr以上とし、100℃/hr以上であることが好ましく、150℃/hr以上であることがより好ましい。一方、焼成工程における400℃~最高温度までの昇温速度が300℃/hr以上である場合、焼成前は粒界に在った気孔が、結晶粒成長に伴って粒内に取り込まれ、粒内の気孔として残る。したがって、焼成工程における400℃~最高温度までの昇温速度は、300℃/hr未満とし、250℃/hr以下であることが好ましく、200℃/hr以下であることがより好ましい。
【0057】
焼成工程において、400℃~最高温度まで一定の昇温速度とするよりも、400℃~1100℃、1100℃~最高温度までの二つの温度範囲に分け、それぞれの温度範囲において昇温速度を変えて焼成することがより好ましい。1100℃~最高温度までの昇温速度は、400℃~1100℃の昇温速度よりも遅くすることが好ましい。400℃~1100℃の昇温速度を速くすることで、焼結が促進され、焼結密度を上げることが可能となる。また、1100℃~最高温度までの昇温速度を、400℃~1100℃の昇温速度よりも遅くすることにより、急激な結晶粒成長を抑制し、粒界にあった気孔が急激な結晶粒成長により粒内に取り込まれるのを防ぐことができる。これにより、焼結密度が高く、結晶粒内の気孔割合を減らしたMnZn系フェライトを得ることが可能になる。
【0058】
焼成工程における最高温度が、1370℃以上であると、焼結密度を好適に得ることができる。したがって、焼成工程における最高温度は、1370℃以上であることが好ましい。一方、焼成工程における最高温度が高すぎると、Znの蒸発量が増大し、組成変動に大きく影響する。さらに、高温で焼成するほど結晶粒が大きく成長し、初透磁率は高くなるが粒内の渦電流が流れやすくなるため、渦電流損失が増大し、高周波数帯域における初透磁率や規格化インピーダンスが低下する。したがって、焼成工程における最高温度は、1450℃以下であることが好ましく、1385℃以下であることがさらに好ましい。
【0059】
また、焼成時間は、長いほど焼結密度が高まるため好ましい。したがって、焼成時間は2時間以上とするのが好ましい。一方、焼成時間が長すぎる場合、MnZn系フェライトの特性は向上するが、生産性などが低下する。さらに、長時間で焼成するほど結晶粒が大きく成長し、初透磁率は高くなるが粒内の渦電流が流れやすくなるため、渦電流損失が増大し、高周波数帯域における初透磁率や規格化インピーダンスが低下する。したがって、焼成時間は、実用的な範囲として12時間以下とすることが好ましく、4時間以下とすることがより好ましい。なお、焼成は窒素ガスと空気を適宜混合したガスを流した状態で行ってもよい。
【0060】
かくして得られたMnZn系フェライトは、従来のMnZn系フェライトでは不可能であった、10~500kHz程度の周波数帯域における初透磁率が高く、100℃のような高温でもΔBが大きく、500kHz~3MHzの高周波数帯域における規格化インピーダンスの最大値が大きいといった優れた磁気特性を同時に実現する。
【0061】
なお、本発明におけるMnZn系フェライトを製造する方法は、本明細書に記載のない限り、いずれも常法を用いることができる。
【実施例0062】
[実験例1]
含有する鉄、亜鉛及びマンガンをすべてFe2O3、ZnO及びMnOとして換算した場合に、Fe2O3、ZnO及びMnOの比率が表1に示すmol%となるように秤量した原料粉末を、湿式ボールミルを用いて16時間混合し、大気中で925℃、3時間の条件で仮焼した。次に、この仮焼粉に酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化バナジウム及び酸化チタンをそれぞれSiO2、CaCO3、Nb2O5、Bi2O3、V2O5、TiO2の換算で表1に示す含有量となるように添加し、湿式ボールミルで16時間粉砕を行った。かかる粉砕後、乾燥して得られた粉砕粉にポリビニルアルコール(PVA)を加え、篩に通して造粒し造粒紛とした。かかる造粒紛を、トロイダル状に成形し成形体とした後、この成形体をバッチ型焼成炉に導入し、400℃~最高温度までの昇温速度を120℃/hrとし、最高温度1370℃で2時間、窒素ガスと空気を適宜混合したガス流中で焼成し、外径30mm、内径19mm、高さ6mmの焼結体トロイダルコアとした。
【0063】
かくして得られたトロイダルコアに対し、23℃にてアルキメデス法により焼結密度を算出し、4端子法によって比抵抗を測定した。次いで、トロイダルコアに銅線を10ターン巻き、LCRメータ(キーサイト社製4980A)を用いて、23℃、10kHz及び23℃、500kHzにおいて、インダクタンスLと品質係数Qを測定し、その値を基にμi’を計算した。また、10kHzで-20~200℃の範囲でインダクタンスLと品質係数Qを測定し、これらの初透磁率の値から、強磁性から常磁性に変わる温度を求め、この温度をキュリー温度とした。また、23℃のときの1k~30MHzのインダクタンスLと品質係数Qを測定し、その値を基に初透磁率及びコア定数で規格化した規格化インピーダンスZ・c1/N2を算出した。
【0064】
また、得られたトロイダルコアに1次側40ターン、2次側20ターンの銅線を巻き、直流磁化特性試験装置を用い、磁化力Hを最大1200A/mとして、その飽和磁束密度及び残留磁束密度を測定した。測定結果から、飽和磁束密度と残留磁束密度との差としてΔBを算出した。
【0065】
次に、MnZn系フェライト(トロイダルコア)の結晶粒内の気孔割合を求めた。MnZn系フェライトの試料の破面を研磨して、フッ硝酸による粒界部エッチングを行った。エッチングした破面について、光学顕微鏡を用いて200~500倍視野で観察した。得られた画像を解析し、結晶粒内に生じる気孔の総数を視野内の全残存気孔の総数で除すことで、結晶粒内の気孔割合を求めた。また、各例の平均結晶粒径を以下のようにして測定した。MnZn系フェライトの試料を破断し、破断後の断面を光学顕微鏡で倍率400倍にて観察した。観察された各結晶粒を真円と仮定して結晶粒径を計算し、その平均値を求めた。結晶粒径の計算には、例えば画像解析ソフト「A像くん」(登録商標:旭化成エンジニアリング株式会社製)を使用した。なお、トロイダルコア中の不可避的不純物であるP、B、S、Clの合計含有量は500質量ppm以下であった。
【0066】
表1に示すように、Nb2O5、Bi2O3、V2O5及びTiO2の添加効果により初透磁率及び飽和磁束密度、ΔB、高周波数帯域における規格化インピーダンスの向上が見られる。
【0067】
【0068】
[実験例2]
含有する鉄、亜鉛及びマンガンをすべてFe2O3、ZnO及びMnOとして換算した場合に、Fe2O3、ZnO及びMnOの比率が52.7:20.7:26.6mol%となるように秤量した原料粉末を、湿式ボールミルを用いて16時間混合し、大気中で925℃、3時間の条件で仮焼した。次に、この仮焼粉に酸化ケイ素、酸化カルシウム、酸化ニオブ、酸化ビスマス、酸化バナジウム及び酸化チタンを、それぞれSiO2、CaCO3、Nb2O5、Bi2O3、V2O5及びTiO2の換算で13、1200、75、500、100、300質量ppmとなるように添加した。その後、実験例1と同様に粉砕、造粒、成形を行い、成形体をバッチ型焼成炉に導入し、400℃~最高温度までの昇温速度を表2に記載の速度とし、最高温度1370℃で2時間焼成することで焼結体トロイダルコアを得た。
【0069】
得られたトロイダルコアを、既述の方法及び手順を用いて、各項目を測定した。また、トロイダルコアの断面を研磨し、塩酸とフッ酸の混合溶液を用いてエッチングし、樹脂に埋め込んでから光学顕微鏡で結晶組織を観察した。400℃~最高温度までの昇温速度を変化させ、結晶組織や磁気特性に与える効果を調査した実施例の結果を表2に示す。なお、トロイダルコア中の不可避的不純物であるP、B、S、Clの合計含有量は500質量ppm以下であった。
【0070】
表2に示すように、400℃~最高温度までの昇温速度を300℃/hr未満にすると、300℃/hr以上の場合に比べ、結晶粒内に残る気孔の割合が低減し、高周波数帯域における規格化インピーダンスの特性を維持したまま初透磁率の向上が見られる。
【0071】
【0072】
[実験例3]
実験例2と同じ組成及び条件でフェライト造粒粉の作製及び成形を行い、成形体を得た。得られた成形体をバッチ型焼成炉に導入し、400℃~1100℃及び1100℃~1370℃の各温度範囲における昇温速度を表3に記載のようにして、最高温度1370℃で2時間焼成し、焼結体トロイダルコアを得た。得られたトロイダルコアについて、実験例2と同様の方法で各種特性を評価した。表3に評価結果を示す。
【0073】
No.2-2、No.2-3、No.3-1の結果から、1100℃で昇温速度を変えて2段階で昇温し、1100℃~1370℃における昇温速度を400℃~1100℃よりも遅くすることにより、平均結晶粒径を大きくし、結晶粒内の気孔割合を低くでき、焼結密度を上げることができる。その結果、Bmが高く、ΔBが大きく、高周波数帯域における規格化インピーダンスの特性を維持したまま高い初透磁率μi’(10kHz,23℃)が得られることがわかる。
【0074】
No.2-2、No.2-3、No.3-2の結果から、400℃~1370℃における昇温速度を350℃/hrにする場合、平均結晶粒径が小さくなり、結晶粒内の気孔割合も増大し、焼結密度も低くなる。その結果、Bmが低く、ΔBも小さく、初透磁率μi’(10kHz,23℃)も低くなることがわかる。
【0075】
No.3-2、No.3-3の結果から、400℃~1100℃における昇温速度を150℃/hrに変えると平均結晶粒径は変わらないものの、結晶粒内の気孔割合が低下し、焼結密度が上がり、Bm、ΔB、初透磁率μi’(10kHz,23℃)も改善することがわかる。No.3-1、No.3-4から、400℃~1100℃の昇温速度を400℃/hrに上げると、平均結晶粒径が小さくなり、結晶粒内の気孔割合も増大し、焼結密度も低くなる。その結果、Bmが低く、ΔBも小さくなることがわかる。
【0076】
本発明によれば、10~500kHzの広い周波数帯域における初透磁率が高く、100℃のような高温でもΔBが大きく、500kHz~3MHzの高周波数帯域における規格化インピーダンスの最大値が大きい、MnZn系フェライト及びその製造方法を提供することができる。