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特開2024-178944電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法
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  • 特開-電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法 図1
  • 特開-電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法 図2
  • 特開-電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法 図3
  • 特開-電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178944
(43)【公開日】2024-12-25
(54)【発明の名称】電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20241218BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241218BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20241218BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024095891
(22)【出願日】2024-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2023097002
(32)【優先日】2023-06-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】菊池 希実
(72)【発明者】
【氏名】山田 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】石野 雄太
(72)【発明者】
【氏名】得田 大翔
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA12
5H050AA14
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA10
5H050DA11
5H050EA08
5H050EA24
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】引張強度が高く、抵抗が低い電極合剤シート、それを用いた電極及び二次電池、並びに、電極合剤シートの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料と、前記炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを含み、SEM-EDX分析によって得られる炭素組成分布の2000倍の視野の画像において、界面長/炭素検出量で示される値Xが2300以下である電極合剤シート。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料と、前記炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを含み、
SEM-EDX分析によって得られる炭素組成分布の2000倍の視野の画像において、界面長/炭素検出量で示される値Xが2300以下である電極合剤シート。
【請求項2】
値Xが300以上2000以下である請求項1記載の電極合剤シート。
【請求項3】
前記電極合剤シートに対する前記ポリテトラフルオロエチレン及び前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂の合計含有量が0.1質量%以上10質量%以下である請求項1又は2記載の電極合剤シート。
【請求項4】
前記炭素材料が導電助剤である請求項1又は2記載の電極合剤シート。
【請求項5】
前記炭素材料以外の電極活物質が正極活物質である請求項1又は2記載の電極合剤シート。
【請求項6】
前記正極活物質の含有量が前記電極合剤シートに対し、92%以上99質量%以下である請求項5記載の電極合剤シート。
【請求項7】
請求項1又は2記載の電極合剤シートを含む電極。
【請求項8】
請求項7記載の電極を備える二次電池。
【請求項9】
ポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを混合する工程(1)、及び、
工程(1)で得られた混合物と炭素材料とを混合する工程(2)
を含む電極合剤シートの製造方法。
【請求項10】
工程(1)において、剪断力により前記ポリテトラフルオロエチレンのフィブリルを発生させる請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
工程(2)の混合を、工程(1)より低い剪断力により行う請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
工程(1)で混合する成分がいずれも粉末であり、工程(1)が液体媒体の不存在下に実施される請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項13】
工程(2)における処理温度が工程(1)における処理温度よりも低い請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項14】
工程(1)と工程(2)は同一装置を用いて行われる請求項9又は10記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極合剤シート、電極、二次電池、及び、電極合剤シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池等の二次電池は、高電圧、高エネルギー密度で、自己放電が少ない、メモリー効果が少ない、超軽量化が可能である、等の理由から、ノート型パソコン、携帯電話、スマートフォン、タブレットパソコン、ウルトラブック等小型で携帯に適した電気・電子機器等に用いられるとともに、更には、自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等に至るまでの広範な電源として実用化されつつある。二次電池には、更なる高エネルギー密度化が求められており、電池特性の更なる改善が求められている。
【0003】
特許文献1には、電極合材中のポリテトラフルオロエチレンの分布を制御した電極が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2022/163186号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、引張強度が高く、抵抗が低い電極合剤シート、それを用いた電極及び二次電池、並びに、電極合剤シートの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示(1)は、ポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料と、前記炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを含み、
SEM-EDX分析によって得られる炭素組成分布の2000倍の視野の画像において、界面長/炭素検出量で示される値Xが2300以下である電極合剤シートである。
【0007】
本開示(2)は、値Xが300以上2000以下である本開示(1)記載の電極合剤シートである。
【0008】
本開示(3)は、前記電極合剤シートに対する前記ポリテトラフルオロエチレン及び前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂の合計含有量が0.1質量%以上10質量%以下である本開示(1)又は(2)記載の電極合剤シートである。
【0009】
本開示(4)は前記炭素材料が導電助剤である本開示(1)~(3)のいずれかに記載の電極合剤シートである。
【0010】
本開示(5)は前記炭素材料以外の電極活物質が正極活物質である本開示(1)~(4)のいずれかに記載の電極合剤シートである。
【0011】
本開示(6)は前記正極活物質の含有量が前記電極合剤シートに対し、92%以上99質量%以下である本開示(5)記載の電極合剤シートである。
【0012】
本開示(7)は本開示(1)~(6)のいずれかに記載の電極合剤シートを含む電極である。
【0013】
本開示(8)は本開示(7)記載の電極を備える二次電池である。
【0014】
本開示(9)はポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを混合する工程(1)、及び、
工程(1)で得られた混合物と炭素材料とを混合する工程(2)
を含む電極合剤シートの製造方法である。
【0015】
本開示(10)は工程(1)において、剪断力により前記ポリテトラフルオロエチレンのフィブリルを発生させる本開示(9)記載の製造方法である。
【0016】
本開示(11)は工程(2)の混合を、工程(1)より低い剪断力により行う本開示(9)又は(10)記載の製造方法である。
【0017】
本開示(12)は工程(1)で混合する成分がいずれも粉末であり、工程(1)が液体媒体の不存在下に実施される本開示(9)~(11)のいずれかに記載の製造方法である。
【0018】
本開示(13)は工程(2)における処理温度が工程(1)における処理温度よりも低い本開示(9)~(12)のいずれかに記載の製造方法である。
【0019】
本開示(14)は工程(1)と工程(2)は同一装置を用いて行われる本開示(9)~(13)のいずれかに記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本開示によれば、引張強度が高く、抵抗が低い電極合剤シート、それを用いた電極及び二次電池、並びに、電極合剤シートの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】SEM-EDX分析で得られるスペクトルデータの一例を示す図である。
図2】SEM-EDX分析で得られた、電極合剤シートの炭素組成分布の2000倍の視野の画像の一例を示す図である。
図3】SEM-EDX分析で得られた画像を二値化して得られた画像の一例を示す図である。
図4】界面長の算出方法を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本開示を具体的に説明する。
【0023】
本開示は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、炭素材料と、上記炭素材料以外の電極活物質及び/又は上記PTFE以外のフッ素樹脂とを含み、SEM-EDX分析によって得られる炭素組成分布の2000倍の視野の画像において、界面長/炭素検出量で示される値Xが2300以下である電極合剤シートを提供する。
【0024】
本開示の電極合剤シートは、値Xを2300以下とすることで、電極合剤シートの引張強度が向上し、抵抗を抑えることができる。これは炭素材料の周囲に位置するPTFEのフィブリルの分散状態や形状が適切に制御されるためと考えられる。
引張強度を一層高く、抵抗を一層低くできる点で、値Xは2000以下であることが好ましく、1800以下であることがより好ましく、1500以下であることが更に好ましく、1300以下であることが更により好ましく、また、300以上であることが好ましく、450以上であることがより好ましく、750以上であることが更に好ましい。
【0025】
値Xは、以下の方法により求める。
<測定サンプル>
電極合剤シートを1cm×1cm(厚みは任意)のサイズで切り出し、測定サンプルとする。電極から測定サンプルを作製する場合は、電極合剤を含む表面を上記サイズで切り出し、測定サンプルとする。
<界面長(pix)>
(i)測定サンプル毎に、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)分析で炭素組成分布の2000倍の視野、加速電圧3000V、画像サイズ1280×960で3箇所の画像を取得する。画像の取得箇所は、例えば1箇所目は測定サンプルの中心を取得し、2箇所目、3箇所目は測定サンプルの中心から左右に2mmずらした地点で画像を取得する。画像の取得には、例えば日立ハイテク社製SU8000を用いることができる。
(ii)(i)で得られた画像の二値化処理を行う。1サンプルに付きN=3で取得した画像を画像毎に0~255段階の輝度で区分し、画像毎に大津の二値化法を用いて閾値を求める。その後、画像毎の二値化閾値の平均値を算出し、サンプルの平均閾値を算出する。平均閾値を用いて、再度、各二値化前の画像を二値化する。
なお、大津の二値化法とは、濃淡ヒストグラムを描いたときに得られる2山のピークの分離度がもっとも高くなる点を輝度の閾値とする二値化閾値の算出方法である。
(iii)(ii)で得られた画像において、ピクセル間の要素の差分が0でない要素数をカウントした数値を各画像の界面長とする。
<炭素検出量(cps/eV)>
上記の(i)の画像データと同時に得られるスペクトルデータより、各画像の炭素検出量を算出する。上記スペクトルデータとしては、SEM-EDXで測定した際に得られる横軸X線のエネルギー[keV]、縦軸X線強度[cps/eV]のスペクトルデータを用いる。図1に、スペクトルデータの一例を示す。上記スペクトルデータから、炭素の固有エネルギーである0.27keV付近で発現しているピークの縦軸の最大値を読み取り、読み取った値を炭素検出量とする。
<界面長÷炭素検出量(値X)>
画像毎に算出した界面長、炭素検出量から界面長÷炭素検出量を1サンプルごとに3点算出し、N=3の平均値を各サンプルの界面長÷炭素検出量(値X)とする。
【0026】
上記界面長の算出方法を、図面を参照して具体的に説明する。
SEM-EDX分析で得られた、電極合剤シートの炭素組成分布の2000倍の視野の画像の一例を図2に示す。
図2の画像を上記の方法にて二値化処理することで、図3の画像が得られる。
この二値化画像において、ピクセル間の要素の差分が0でない要素数をカウントし、界面長とする。
ここで、ピクセル間の要素の差分が0でないとは、図4に示すように、隣り合うピクセル(マス)の色(白又は黒)が異なっている状態をいう。このような、色の異なるピクセルと接している辺(図中の斜線で示した辺)を、ピクセル間の要素の差分が0でない要素としてカウントする。図4において、当該要素の数は21であり、界面長は21である。
【0027】
本開示の電極合剤シートは、PTFEを含む。上記PTFEは、テトラフルオロエチレン(TFE)の単独重合体であってもよいし、TFEに基づく重合単位(TFE単位)と、変性モノマーに基づく重合単位(以下「変性モノマー単位」とも記載する)とを含む変性PTFEであってもよい。上記変性PTFEは、99.0質量%以上のTFE単位と、1.0質量%以下の変性モノマー単位とを含むものであってもよい。また、上記変性PTFEは、TFE単位及び変性モノマー単位のみからなるものであってもよい。
上記PTFEとしては、結着力、シート強度及び柔軟性が向上する点で、上記変性PTFEが好ましい。
【0028】
上記変性PTFEは、結着力、シート強度及び柔軟性が向上する点で、変性モノマー単位の含有量が全重合単位に対し0.00001~1.0質量%の範囲であることが好ましい。変性モノマー単位の含有量の下限としては、0.0001質量%がより好ましく、0.001質量%が更に好ましく、0.005質量%が更により好ましく、0.010質量%が殊更に好ましい。変性モノマー単位の含有量の上限としては、0.90質量%が好ましく、0.80質量%がより好ましく、0.50質量%が更に好ましく、0.40質量%が更により好ましく、0.30質量%が更により好ましい。
本明細書において、上記変性モノマー単位とは、PTFEの分子構造の一部分であって変性モノマーに由来する部分を意味する。
【0029】
上述した各重合単位の含有量は、NMR、FT-IR、元素分析、蛍光X線分析を単量体の種類によって適宜組み合わせることで算出できる。
【0030】
上記変性モノマーとしては、TFEとの共重合が可能なものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕等のパーフルオロオレフィン;トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン〔VDF〕等の水素含有フルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン〔CTFE〕等のパーハロオレフィン;パーフルオロビニルエーテル:パーフルオロアリルエーテル;(パーフルオロアルキル)エチレン、エチレン等が挙げられる。また、用いる変性モノマーは1種であってもよいし、複数種であってもよい。
【0031】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては特に限定されず、例えば、下記一般式(A):
CF=CF-ORf (A)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるパーフルオロ不飽和化合物等が挙げられる。本明細書において、上記「パーフルオロ有機基」とは、炭素原子に結合する水素原子が全てフッ素原子に置換されている有機基を意味する。上記パーフルオロ有機基は、エーテル酸素を有していてもよい。
【0032】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、例えば、上記一般式(A)において、Rfが炭素数1~10のパーフルオロアルキル基であるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)〔PAVE〕が挙げられる。上記パーフルオロアルキル基の炭素数は、好ましくは1~5である。
【0033】
上記PAVEにおけるパーフルオロアルキル基としては、例えば、パーフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基等が挙げられる。
【0034】
上記パーフルオロビニルエーテルとしては、更に、上記一般式(A)において、Rfが炭素数4~9のパーフルオロ(アルコキシアルキル)基であるもの、Rfが下記式:
【0035】
【化1】
【0036】
(式中、mは、0又は1~4の整数を表す。)で表される基であるもの、Rfが下記式:
【0037】
【化2】
【0038】
(式中、nは、1~4の整数を表す。)で表される基であるもの等が挙げられる。
【0039】
(パーフルオロアルキル)エチレン〔PFAE〕としては特に限定されず、例えば、(パーフルオロブチル)エチレン〔PFBE〕、(パーフルオロヘキシル)エチレン等が挙げられる。
【0040】
パーフルオロアリルエーテルとしては、例えば、一般式(B):
CF=CF-CF-ORf (B)
(式中、Rfは、パーフルオロ有機基を表す。)で表されるフルオロモノマーが挙げられる。
【0041】
上記Rfは、炭素数1~10のパーフルオロアルキル基又は炭素数1~10のパーフルオロアルコキシアルキル基が好ましい。上記パーフルオロアリルエーテルとしては、CF=CF-CF-O-CF、CF=CF-CF-O-C、CF=CF-CF-O-C、及び、CF=CF-CF-O-Cからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、CF=CF-CF-O-C、CF=CF-CF-O-C、及び、CF=CF-CF-O-Cからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましく、CF=CF-CF-O-CFCFCFが更に好ましい。
【0042】
上記変性モノマーとしては、延伸性、結着力及び合剤シートの柔軟性が向上する点で、PAVE、HFP、VDF及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)〔PMVE〕、HFP、VDF及びCTFEからなる群より選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0043】
上記PTFEは、コアシェル構造を有していてもよい。コアシェル構造を有するPTFEとしては、例えば、粒子中に高分子量のPTFEのコアと、より低分子量のPTFE又は変性PTFEのシェルとを含む変性PTFEが挙げられる。このような変性PTFEとしては、例えば、特表2005-527652号公報に記載されるPTFEが挙げられる。
【0044】
一般的に販売されているPTFEとして、例えば、ダイキン工業社製のF-104、F-106、F-107、F-104C、F-121、F-201、F-205、F-208、F-302等、Chemours社製の60X、601X、602X、605XTX、613AX、62X、62NX、62XTX、640XTX、641XTX、650XTX、669X、669NX、6CX、6CNX、CFP6000X、6J、6CJ、62J、640J、641J等、3M社製のTF2029、TF2025Z、TF2053Z、TF2073Z、TF2001Z、TF2071USZ、TF2072Z等、AGC社製のCD145、CD123、CD126E、CD097、CD084E、CD086EL、CD086EH、CD090E、CD122E、CD141E、CD127E等、Solvay社製のDF681F、DF680F、DF330F、DF291F、DF230F、DF210F、DF132F、DF130F、DF120Fが挙げられる。
【0045】
上記PTFEは、強度に一層優れる合剤シートを形成することができる点で、吸熱ピーク温度が320℃以上であることが好ましく、325℃以上であることがより好ましく、330℃以上であることが更に好ましく、335℃以上であることが更により好ましく、340℃以上であることが更により好ましく、342℃以上であることが更により好ましく、344℃以上であることが特に好ましい。上記吸熱ピーク温度は、また、350℃以下であることが好ましい。
上記吸熱ピーク温度は、300℃以上の温度に加熱した履歴がないPTFEについて10℃/分の昇温速度で示差走査熱量測定〔DSC〕を行って得られた融解熱曲線における極小点に対応する温度である。1つの融解ピーク中に極小点が2つ以上ある場合は、それぞれを吸熱ピーク温度とする。
【0046】
上記PTFEは、示差走査熱量計〔DSC〕を用いて10℃/分の速度で昇温したときの融解熱曲線において、333~347℃の範囲に1つ以上の吸熱ピークが現れ、上記融解熱曲線から算出される290~350℃の融解熱量が62mJ/mg以上であることが好ましい。
【0047】
上記PTFEは、標準比重(SSG)が2.280以下であることが好ましく、2.250以下であることがより好ましく、2.220以下であることが更に好ましく、2.200以下であることが更により好ましく、2.190以下であることが更により好ましく、2.180以下であることが殊更に好ましく、2.170以下であることが特に好ましい。
上記SSGは、また、2.130以上であることが好ましい。
上記SSGは、ASTM D 4895 89に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定する。
【0048】
本開示の電極合剤シートにおいて、上記PTFEの少なくとも一部がフィブリル化していることが好ましい。
【0049】
上記PTFEの含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0050】
本開示の電極合剤シートは、炭素材料を含む。上記炭素材料としては、導電助剤、炭素系の負極活物質等が挙げられる。なかでも導電助剤が好ましい。
上記炭素材料の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは92質量%以下である。
【0051】
上記導電助剤としては特に限定されないが、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス、カーボンナノチューブ、フラーレン、VGCF等の無定形炭素等の炭素材料が挙げられる。なお、これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0052】
上記導電助剤の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0053】
上記炭素系の負極活物質としては、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素、熱分解気相成長炭素、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維、天然黒鉛及び、難黒鉛化性炭素等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物等を挙げることができる。
【0054】
上記炭素系の負極活物質の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは92質量%以下である。
【0055】
本開示の電極合剤シートは、上記炭素材料以外の電極活物質及び/又は上記PTFE以外のフッ素樹脂(以下、他のフッ素樹脂ともいう。)を含む。
上記炭素材料以外の電極活物質及び/又は上記PTFE以外のフッ素樹脂の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは96質量%以下、更に好ましくは92質量%以下である。
【0056】
上記炭素材料以外の電極活物質としては、正極活物質、炭素系以外の負極活物質等が挙げられる。なかでも正極活物質が好ましい。
【0057】
上記正極活物質としては、電気化学的にアルカリ金属イオンを吸蔵・放出可能なものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属と少なくとも1種の遷移金属を含有する物質が好ましい。具体例としては、アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物、アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物等が挙げられる。なかでも、正極活物質としては、特に、高電圧を産み出すアルカリ金属含有遷移金属複合酸化物が好ましい。上記アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられ、リチウムイオンが好ましい。
【0058】
上記アルカリ金属含有遷移金属複合酸化物としては、例えば、
式:MMn2-b
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0.9≦a;0≦b≦1.5;MはFe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・マンガンスピネル複合酸化物(リチウム・マンガンスピネル複合酸化物等)、
式:MNi1-c
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦c≦0.5;MはFe、Co、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・ニッケル複合酸化物(リチウム・ニッケル複合酸化物等)、又は、
式:MCo1-d
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり;0≦d≦0.5;MはFe、Ni、Mn、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種の金属)で表されるアルカリ金属・コバルト複合酸化物(リチウム・コバルト複合酸化物等)が挙げられる。
上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLi又はNaであり、更に好ましくはLiである。
【0059】
なかでも、エネルギー密度が高く、高出力な二次電池を提供できる点から、MCoO、MMnO、MNiO、MMn、MNi0.8Co0.15Al0.05、又はMNi1/3Co1/3Mn1/3等が好ましく、下記一般式で表される化合物であることが好ましい。
MNiCoMn
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはFe、Cu、Zn、Al、Sn、Cr、V、Ti、Mg、Ca、Sr、B、Ga、In、Si及びGeからなる群より選択される少なくとも1種を示し、(h+i+j+k)=1.0、0≦h≦1.0、0≦i≦1.0、0≦j≦1.5、0≦k≦0.2である。)
【0060】
上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、例えば、下記一般式:
(PO
(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、MはV、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni及びCuからなる群より選択される少なくとも1種を示し、0.5≦e≦3、1≦f≦2、1≦g≦3である。)で表される化合物が挙げられる。上記において、Mは、好ましくは、Li、Na及びKからなる群より選択される1種の金属であり、より好ましくはLi又はNaであり、更に好ましくはLiである。すなわち、上記アルカリ金属含有遷移金属リン酸化合物としては、リチウム含有遷移金属リン酸化合物が好ましい。
【0061】
上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物の遷移金属としては、V、Ti、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu等が好ましく、具体例としては、例えば、LiFePO、LiFe(PO、LiFeP等のリン酸鉄類、LiCoPO等のリン酸コバルト類、これらのリチウム遷移金属リン酸化合物の主体となる遷移金属原子の一部をAl、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Li、Ni、Cu、Zn、Mg、Ga、Zr、Nb、Si等の他の元素で置換したもの等が挙げられる。上記リチウム含有遷移金属リン酸化合物としては、オリビン型構造を有するものが好ましい。
【0062】
その他の正極活物質としては、リチウム・ニッケル系複合酸化物が挙げられる。上記リチウム・ニッケル系複合酸化物としては、下記一般式:
LiNi1-x
(式中、xは、0.01≦x≦0.7、yは、0.9≦y≦2.0であり、Mは金属原子(但しLi及びNiを除く)を表す)で表される正極活物質が好ましい。
【0063】
その他の正極活物質としては、MFePO、MNi0.8Co0.2、M1.2Fe0.4Mn0.4、MNi0.5Mn1.5、MV、MMnO等も挙げられる。特に、MMnO、MNi0.5Mn1.5等の正極活物質は、4.4Vを超える電圧や、4.6V以上の電圧で二次電池を作動させた場合であっても、結晶構造が崩壊しない点で好ましい。従って、上記に例示した正極活物質を含む正極材を用いた二次電池等の電気化学デバイスは、高温で保管した場合でも、残存容量が低下しにくく、抵抗増加率も変化しにくい上、高電圧で作動させても電池性能が劣化しないことから、好ましい。
【0064】
その他の正極活物質として、MMnOとMM(式中、Mは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、Co、Ni、Mn、Fe等の遷移金属)との固溶体材料等も挙げられる。
【0065】
上記固溶体材料としては、例えば、一般式Mx[Mn(1-y) ]Oで表わされるアルカリ金属マンガン酸化物が挙げられる。ここで式中のMは、Li、Na及びKからなる群より選択される少なくとも1種の金属であり、Mは、M及びMn以外の少なくとも一種の金属元素からなり、例えば、Co,Ni,Fe,Ti,Mo,W,Cr,Zr及びSnからなる群より選択される一種又は二種以上の元素を含んでいる。また、式中のx、y、zの値は、1<x<2、0≦y<1、1.5<z<3の範囲である。中でも、Li1.2Mn0.5Co0.14Ni0.14のようなLiMnOをベースにLiNiOやLiCoOを固溶したマンガン含有固溶体材料は、高エネルギー密度を有するアルカリ金属イオン二次電池を提供できる点から好ましい。
【0066】
また、正極活物質にリン酸リチウムを含ませると、連続充電特性が向上するので好ましい。リン酸リチウムの使用に制限はないが、前記の正極活物質とリン酸リチウムを混合して用いることが好ましい。使用するリン酸リチウムの量は上記正極活物質とリン酸リチウムの合計に対し、下限が、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、上限が、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
【0067】
また、上記正極活物質の表面に、これとは異なる組成の物質が付着したものを用いてもよい。表面付着物質としては酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ホウ素、酸化アンチモン、酸化ビスマス等の酸化物、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩、炭酸リチウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、炭素等が挙げられる。
【0068】
上記正極活物質は単独で用いてもよく、異なる組成の2種以上を、任意の組み合わせ又は比率で併用してもよい。この場合の好ましい組み合わせとしては、LiCoOとLiNi0.33Co0.33Mn0.33等の三元系との組み合わせ、LiCoOとLiMn若しくはこのMnの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせ、あるいは、LiFePOとLiCoO若しくはこのCoの一部を他の遷移金属等で置換したものとの組み合わせが挙げられる。
【0069】
上記正極活物質の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上、最も好ましくは92質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは97質量%以下である。
【0070】
上記炭素系以外の負極活物質としては、リチウム金属、ケイ素及びケイ素合金等のシリコン含有化合物、LiTi12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物等を挙げることができる。
【0071】
上記炭素系以外の負極活物質は、ケイ素を構成元素に含むことが好適である。ケイ素を構成元素に含むものとすることで、高容量な電池を作製することができる。
【0072】
ケイ素を含む材料としては、ケイ素粒子、ケイ素の微粒子がケイ素系化合物に分散した構造を有する粒子、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される酸化ケイ素粒子、又はこれらの混合物が好ましい。これらを使用することで、より初回充放電効率が高く、高容量でかつサイクル特性に優れたリチウムイオン二次電池用負極合剤が得られる。
【0073】
本開示における酸化ケイ素とは、非晶質のケイ素酸化物の総称であり、不均化前の酸化ケイ素は、一般式SiOx(0.5≦x≦1.6)で表される。xは0.8≦x<1.6が好ましく、0.8≦x<1.3がより好ましい。この酸化ケイ素は、例えば、二酸化ケイ素と金属ケイ素との混合物を加熱して生成した一酸化ケイ素ガスを冷却・析出して得ることができる。
【0074】
上記炭素材料以外の負極活物質の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは5質量%以上、特に好ましくは8質量%以上であり、また、好ましくは97質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0075】
上記他のフッ素樹脂としては、上述した必須成分としてのPTFEとは異なるPTFE(以下、他のPTFEともいう。)、溶融加工可能なフッ素樹脂等が挙げられる。引張強度を一層高く、抵抗を一層低くできる点で、上記他のPTFEが好ましい。
【0076】
上記他のPTFEとしては、上述した必須成分としてのPTFEと組成及び/又は物性の異なるPTFEが挙げられる。
【0077】
組成の異なるPTFEとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)と共重合可能な変性モノマーの種類及び/又はその変性モノマーに基づく重合単位(変性モノマー単位)の含有量が異なるPTFEが挙げられる。
【0078】
上記必須成分としてのPTFEと上記組成の異なるPTFEとの組み合わせは、例えば、TFEのホモポリマーと変性PTFEとの組み合わせであってもよいし、変性モノマーの種類が異なる2種以上の変性PTFEの組み合わせであってもよいし、同じ変性モノマー単位を有しており、その変性モノマー単位の含有比率が異なる2種以上のPTFEの組み合わせであってもよい。「変性モノマー単位の含有比率が異なる」とは、全重合単位中の変性モノマー単位の含有比率(質量%の数値)の差が0.005以上であることを意味する。上記含有比率の差としては0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上が更に好ましく、また、0.80以下が好ましく、0.60以下がより好ましく、0.40以下が更に好ましい。
【0079】
上記組み合わせとしては、テトラフルオロエチレン(TFE)のホモポリマーと、変性PTFEとの組み合わせが特に好ましい。
【0080】
TFEのホモポリマーとは、全重合単位に対する変性モノマー単位の含有量が0.0001質量%未満のものを指す。
【0081】
上記組成の異なるPTFEとしての変性PTFEとしては、上述した必須成分としてのPTFEについて説明した変性PTFEと同様のものが挙げられる。
【0082】
上記他のPTFEは、上記必須成分としてのPTFEと標準比重(SSG)が異なるPTFEであってもよい。「SSGが異なる」とは、SSGの差が0.005以上であることを意味する。上記SSGの差としては0.010以上が好ましく、0.015以上がより好ましく、0.020以上が更に好ましく、また、0.050以下が好ましく、0.040以下がより好ましく、0.030以下が更に好ましい。
【0083】
上記他のPTFEは、上記必須成分としてのPTFEと押出圧力が異なるPTFEであってもよい。「押出圧力が異なる」とは、押出圧力の差が5MPa以上であることを意味する。上記押出圧力の差としては10MPa以上が好ましく、15MPa以上がより好ましく、20MPa以上が更に好ましく、また、35MPa以下が好ましく、30MPa以下がより好ましく、25MPa以下が更に好ましい。
上記押出圧力は、以下の方法により測定する。
下記ペースト押出における押出操作の後半において、圧力が平衡状態になったときの荷重(N)をシリンダー断面積で除した値を押出圧力(MPa)とする。
(ペースト押出)
PTFE粉末60gと押出助剤としての炭化水素油(商品名:アイソパーG(登録商標)、エクソンモービル社製)12.3gとをポリエチレン容器中で3分間混合する。室温(25±2℃)で押出機のシリンダーに上記混合物を充填し、シリンダーに挿入したピストンに0.47MPaの負荷をかけて1分間保持する。次にラム速度20mm/minでオリフィスから押出する。オリフィスの断面積に対するシリンダーの断面積の比は200である。
【0084】
上記溶融加工可能なフッ素樹脂としては、テトラフルオロエチレン[TFE]/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)[PAVE]共重合体[PFA]、TFE/ヘキサフルオロプロピレン[HFP]共重合体[FEP]、エチレン[Et]/TFE共重合体[ETFE]、Et/TFE/HFP共重合体[EFEP]、ポリクロロトリフルオロエチレン[PCTFE]、クロロトリフルオロエチレン[CTFE]/TFE共重合体、CTFE/TFE/PAVE共重合体、Et/CTFE共重合体、ポリフッ化ビニル[PVF]、ポリフッ化ビニリデン[PVdF]、フッ化ビニリデン[VdF]/TFE共重合体、VdF/HFP共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/HFP/(メタ)アクリル酸共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/ペンタフルオロプロピレン共重合体、VdF/PAVE/TFE共重合体、TFE/パーフルオロアルキルアリルエーテル共重合体等が挙げられる。上記パーフルオロアルキルアリルエーテルは、CF=CFCF-O-Rf(Rfは炭素数1~5のパーフルオロアルキル基)で表される単量体である。
なかでも、ポリフッ化ビニリデン[PVdF]が好ましい。
【0085】
本明細書において、溶融加工可能であるとは、押出機及び射出成形機等の従来の加工機器を用いて、ポリマーを溶融して加工することが可能であることを意味する。
上記溶融加工可能なフッ素樹脂は、メルトフローレート(MFR)が0.1g/10分以上であることが好ましく、0.5g/10分以上であることがより好ましく、また、100g/10分以下であることが好ましく、50g/10分以下であることがより好ましい。
本明細書において、MFRは、ASTM D1238に従って、メルトインデクサーを用いて、フルオロポリマーの種類によって定められた測定温度(例えば、PFAやFEPの場合は372℃、ETFEの場合は297℃)、荷重(例えば、PFA、FEP及びETFEの場合は5kg)において内径2mm、長さ8mmのノズルから10分間あたりに流出するポリマーの質量(g/10分)として得られる値である。
【0086】
上記必須成分としてのPTFEと上記他のフッ素樹脂との質量比(PTFE/他のフッ素樹脂)は、1/99以上であることが好ましく、5/95以上であることがより好ましく、10/90以上であることが更に好ましく、15/85以上であることが更により好ましく、20/80以上であることが特に好ましく、また、99/1以下であることが好ましく、95/5以下であることがより好ましく、90/10以下であることが更に好ましく、85/15以下であることが更により好ましく、80/20以下であることが特に好ましい。
【0087】
上記必須成分としてのPTFE及び上記他のフッ素樹脂の合計含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
【0088】
本開示の電極合剤シートは、PTFEと、導電助剤である炭素材料と、正極活物質とを含むことが特に好ましい。当該電極合剤シートは、正極合剤シートであってよい。本形態におけるPTFE、導電助剤及び正極活物質としては、上述したものを用いることができる。
上記形態におけるPTFEの含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上であり、また、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。
上記形態における炭素材料(導電助剤)の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、更に好ましくは1質量%以上であり、また、好ましくは30質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは5質量%以下である。
上記形態における正極活物質の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは50質量%以上、より好ましくは60質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは75質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、更に好ましくは97質量%以下である。
【0089】
本開示の電極合剤シートでは、上記必須成分としてのPTFE及び上記他のフッ素樹脂(存在する場合)がバインダーとして作用するが、他のバインダーを更に含んでもよい。
上記他のバインダーとしては特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、キトサン、アルギン酸、ポリアクリル酸、ポリイミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子;SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴム、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物;EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体又はその水素添加物等の熱可塑性エラストマー状高分子;シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α-オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子;アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0090】
上記他のバインダーの含有量は、通常、上記電極合剤シートに対し、0.01~3質量%である。
【0091】
本開示の電極合剤シートは、更に、固体電解質を含んでもよい。すなわち、本開示の電極合剤シートは、電極活物質及び固体電解質を含む固体電池用の電極合剤シートであってもよい。
【0092】
上記固体電解質は、硫化物系固体電解質であっても、酸化物系固体電解質であってもよい。特に、硫化物系固体電解質を使用する場合、シートの柔軟性が向上するという利点がある。
【0093】
上記硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、LiS-P、LiS-P、LiS-P-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiI-LiS-SiS-P、LiS-SiS-LiSiO、LiS-SiS-LiPO、LiPS-LiGeS、Li3.40.6Si0.4、Li3.250.25Ge0.76、Li4-xGe1-x(X=0.6~0.8)、Li4+yGe1-yGa(y=0.2~0.3)、LiPSCl、LiCl、Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)、Li10SnP12等から選択されるいずれか、又は2種類以上の混合物を使用することができる。
【0094】
上記硫化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する硫化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、電気化学デバイスが高エネルギー密度を有するという点で特に好ましいものである。
【0095】
上記酸化物系固体電解質は、酸素原子(O)を含有し、かつ、周期律表第1族又は第2族に属する金属のイオン伝導性を有し、かつ、電子絶縁性を有する化合物が好ましい。
【0096】
具体的な化合物例としては、例えば、LixaLayaTiO〔xa=0.3~0.7、ya=0.3~0.7〕(LLT)、LixbLaybZrzbbb mbnb(MbbはAl,Mg,Ca,Sr,V,Nb,Ta,Ti,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxbは5≦xb≦10を満たし、ybは1≦yb≦4を満たし、zbは1≦zb≦4を満たし、mbは0≦mb≦2を満たし、nbは5≦nb≦20を満たす。)、Lixcyccc zcnc(MccはC,S,Al,Si,Ga,Ge,In,Snの少なくとも1種以上の元素でありxcは0≦xc≦5を満たし、ycは0≦yc≦1を満たし、zcは0≦zc≦1を満たし、ncは0≦nc≦6を満たす。)、Lixd(Al,Ga)yd(Ti,Ge)zdSiadmdnd(ただし、1≦xd≦3、0≦yd≦2、0≦zd≦2、0≦ad≦2、1≦md≦7、3≦nd≦15)、Li(3-2xe)ee xeeeO(xeは0以上0.1以下の数を表し、Meeは2価の金属原子を表す。Deeはハロゲン原子又は2種以上のハロゲン原子の組み合わせを表す。)、LixfSiyfzf(1≦xf≦5、0<yf≦3、1≦zf≦10)、Lixgygzg(1≦xg≦3、0<yg≦2、1≦zg≦10)、LiBO-LiSO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiBaLaTa12、LiPO(4-3/2w)(wはw<1)、LISICON(Lithium super ionic conductor)型結晶構造を有するLi3.5Zn0.25GeO、ペロブスカイト型結晶構造を有するLa0.51Li0.34TiO2.94、La0.55Li0.35TiO、NASICON(Natrium super ionic conductor)型結晶構造を有するLiTi12、Li1+xh+yh(Al,Ga)xh(Ti,Ge)2-xhSiyh3-yh12(ただし、0≦xh≦1、0≦yh≦1)、ガーネット型結晶構造を有するLiLaZr12(LLZ)等が挙げられる。また、LLZに対して元素置換を行ったセラミックス材料も知られている。例えば、LLZに対して、一部をAlで置換したLi6.24LaZrAl0.2411.98、Li6.25Al0.25LaZr12や、Taで置換したLi6.6LaZr1.6Ta0.412、Nbで置換したLi6.75LaZr1.75Nb0.2512等が挙げられる。他にはLLZに対して、Mg(マグネシウム)とA(Aは、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)、Ba(バリウム)から構成される群より選択される少なくとも1つの元素)との少なくとも一方の元素置換を行ったLLZ系セラミックス材料も挙げられる。また、Li、P及びOを含むリン化合物も望ましい。例えばリン酸リチウム(LiPO)、リン酸リチウムの酸素の一部を窒素で置換したLiPON、LiPOD(Dは、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Ta、W、Pt、Au等から選ばれた少なくとも1種)等が挙げられる。また、LiAON(Aは、Si、B、Ge、Al、C、Ga等から選ばれた少なくとも1種)等も好ましく用いることができる。具体例として、例えば、LiO-Al-SiO-P-TiO-GeO、LiO-Al-SiO-P-TiO等が挙げられる。
【0097】
上記酸化物系固体電解質は、リチウムを含有するものであることが好ましい。リチウムを含有する酸化物系固体電解質は、リチウムイオンをキャリアとして使用する固体電池に使用されるものであり、高エネルギー密度を有する電気化学デバイスという点で特に好ましいものである。
【0098】
上記酸化物系固体電解質は、結晶構造を有する酸化物であることが好ましい。結晶構造を有する酸化物は、良好なLiイオン伝導性という点で特に好ましいものである。結晶構造を有する酸化物としては、ペロブスカイト型(La0.51Li0.34TiO2.94等)、NASICON型(Li1.3Al0.3Ti1.7(PO等)、ガーネット型(LiLaZr12(LLZ)等)等が挙げられる。なかでも、NASICON型が好ましい。
【0099】
酸化物系固体電解質の体積平均粒子径は特に限定されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.03μm以上であることがより好ましい。上限としては、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。なお、酸化物系固体電解質粒子の平均粒子径の測定は、以下の手順で行う。酸化物系固体電解質粒子を、水(水に不安定な物質の場合はヘプタン)を用いて20mlサンプル瓶中で1質量%の分散液を希釈調整する。希釈後の分散試料は、1kHzの超音波を10分間照射し、その直後に試験に使用する。この分散液試料を用い、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA-920(HORIBA社製)を用いて、温度25℃で測定用石英セルを使用してデータ取り込みを50回行い、体積平均粒子径を得る。その他の詳細な条件等は必要によりJISZ8828:2013「粒子径解析-動的光散乱法」の記載を参照する。1水準につき5つの試料を作製しその平均値を採用する。
【0100】
上記固体電解質の含有量は、上記電極合剤シートに対し、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に20質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0101】
本開示の電極合剤シートは、厚みが300μm以下であることが好ましく、250μm以下であることがより好ましく、200μm以下であることが更に好ましく、180μm以下であることが更により好ましく、150μm以下であることが特に好ましく、また、10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることが更に好ましい。
【0102】
本開示の電極合剤シートは、引張強度が0.10N/mm以上であることが好ましく、0.15N/mm以上であることがより好ましく、0.20N/mm以上であることが更に好ましく、0.25N/mm以上であることが更により好ましく、0.30N/mm以上であることが特に好ましく、また、1.5N/mm以下であってよく、1.0N/mm以下であってもよい。
上記引張強度は、下記方法により測定する。
電極合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製する。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下にて測定する。チャック間距離は40mmとする。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を引張強度とする。
【0103】
本開示の電極合剤シートは、抵抗値が200Ω・cm未満であることが好ましく、150Ω・cm未満であることがより好ましく、100Ω・cm以下であることが更に好ましく、80Ω・cm以下であることが更により好ましく、50Ω・cm以下であることが特に好ましく、また、0.1Ω・cm以上であってよい。
上記抵抗値は、下記方法により測定する。
電極合剤シートを、四端子四探針法(三菱化学アナリテック製:ロレスターGP(MCP-T610))を用いて合剤層の表面抵抗率(Ω/□)を測定する。測定後、合剤層の厚みを乗算し、電極合剤シートの体積抵抗率(Ω・cm)とする。合剤層の厚みは、マイクロゲージを用いて、電極合剤シート中の3点を測定した平均値を用いる。
【0104】
本開示の電極合剤シートは、例えば、PTFEと、炭素材料以外の電極活物質及び/又は上記PTFE以外のフッ素樹脂(他のフッ素樹脂)とを混合する工程(1)、及び、工程(1)で得られた混合物と炭素材料とを混合する工程(2)を含む電極合剤シートの製造方法によって得られる。
本開示はまた、当該製造方法に関する。
炭素材料を後入れすることにより、フィブリルを発生させる剪断力による炭素材料の損傷を軽減することができ、導電パスが損なわれにくく抵抗が抑制されると考えられる。
【0105】
上記工程(1)におけるPTFE、炭素材料以外の電極活物質及び他のフッ素樹脂は、本開示の電極合剤シートで説明したものと同様である。固体電解質を用いる場合は、工程(1)で混合することが好ましい。
上記工程(1)で混合する成分は、粉末の形態であることが好ましい。
上記工程(1)では、炭素材料を混合しないことが好ましい。
【0106】
上記工程(1)は、液体媒体の不存在下に実施することが好ましい。
【0107】
上記工程(1)における混合方法としては、1軸混練機、2軸混練機、ミックスマラー、高速撹拌ミキサー、プラネタリーミキサー、ジェットミル等を用いて混合する方法が挙げられる。上記工程(1)において、混合条件は、回転数と混合時間を適宜設定すればよい。例えば、回転数は、10000rpm以下とすることが好適である。好ましくは500rpm以上、より好ましくは1000rpm以上、更に好ましくは1500rpm以上であり、また、好ましくは8000rpm以下、より好ましくは6000rpm以下、更に好ましくは5000rpm以下である。上記の範囲を下回ると、混合に時間がかかることとなり生産性に悪影響を与える。また上記の範囲を上回ると、フィブリル化が過度に進行し、強度および柔軟性の劣る電極合剤シートとなるおそれがある。例えば、混合時間は、60分以下とすることが好適である。好ましくは1分以上、より好ましくは2分以上、更に好ましくは3分以上であり、また、好ましくは30分以下、より好ましくは20分以下、更に好ましくは10分以下の範囲である。
【0108】
上記工程(1)では、剪断力により上記PTFEのフィブリルを発生させることが好ましい。
【0109】
上記工程(1)において、処理温度は適宜設定すればよい。例えば、処理温度は、好ましくは150℃以下であり、より好ましくは120℃以下であり、更に好ましくは100℃以下であり、また、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。
【0110】
上記工程(1)では、各材料を混合した後、バルク状に成形してもよい。バルク状に成形する具体的な方法として、押出成形、プレス成形等が挙げられる。また、「バルク状」とは、特に形状が特定されるものではなく、1つの塊状になっている状態であればよく、ロッド状、シート状、球状、キューブ状等の形態が含まれる。
【0111】
上記製造方法において、工程(1)の終了後は、炭素材料以外の電極活物質及び他のフッ素樹脂のいずれをも新たに添加しないことが好ましい。
【0112】
上記工程(2)では、上記工程(1)で得られた混合物と、炭素材料とを混合する。このように、炭素材料以外の電極活物質や他のフッ素樹脂よりも後に炭素材料を混合することにより、値Xを上述した範囲内に容易に調整することができ、引張強度が高く、抵抗が低い電極合剤シートを製造することができる。
【0113】
上記工程(2)における炭素材料は、本開示の電極合剤シートで説明したものと同様である。
【0114】
上記工程(2)は、液体媒体の不存在下に実施することが好ましい。
【0115】
上記工程(2)における混合方法としては、上記工程(1)の混合方法に加えて、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機等を用いて混合する方法が挙げられる。
【0116】
上記工程(2)の混合は、上記工程(1)より低い剪断力により行うことが好ましい。このように混合することで、値Xを上述した範囲内に一層容易に調整することができ、引張強度が一層高く、抵抗が一層低い電極合剤シートを製造することができる。
工程(2)における剪断力は、上記工程(1)より低い剪断力を付加し得る装置を用いたり、加工時間、装置の回転速度、投入量、処理温度のいずれか又は複数を上記工程(1)よりも低く設定したりすることにより、上記工程(1)より低い範囲に調整することができる。
【0117】
上記工程(2)において、混合条件は、上記工程(1)より低い剪断力を付加し得るものであればよく、W型混合機、V型混合機、ドラム型混合機、リボン混合機、円錐スクリュー型混合機等といった、強い剪断力を付加しない機構を持つ加工装置を用いることができる。また、上記工程(1)で用いることができる加工装置においても、加工時間、回転速度、投入量、処理温度のいずれか又は複数を、上記工程(1)よりも低く設定することで、剪断力を弱めながらも材料を混合し分散させることが出来る。
加工時間は、上記工程(1)よりも短いことが好ましく、上記工程(1)を基準として、好ましくは0.9倍以下、より好ましくは0.8倍以下、更に好ましくは0.6倍以下であり、また、好ましくは0.1倍以上、より好ましくは0.2倍以上、更に好ましくは0.3倍以上の範囲である。
回転速度は、上記工程(1)よりも低いことが好ましく、上記工程(1)を基準として、好ましくは0.9倍以下、より好ましくは0.8倍以下、更に好ましくは0.7倍以下であり、また、好ましくは0.01倍以上、より好ましくは0.05倍以上、更に好ましくは0.1倍以上、更により好ましくは0.2倍以上の範囲である。
投入量は、上記工程(1)よりも少ないことが好ましく、上記工程(1)を基準として、好ましくは0.9倍以下、より好ましくは0.8倍以下、更に好ましくは0.6倍以下であり、また、好ましくは0.2倍以上、より好ましくは0.3倍以上、更に好ましくは0.4倍以上の範囲である。
処理温度は、上記工程(1)よりも低いことが好ましく、上記工程(1)を基準として、好ましくは10℃低い温度以下、より好ましくは20℃低い温度以下、更に好ましくは30℃低い温度以下であり、また、好ましくは200℃低い温度以上、より好ましくは150℃低い温度以上、更に好ましくは100℃低い温度以上の範囲である。
上記工程(2)は、上記工程(1)と同一装置を用いて行うことが好ましく、特に、上記工程(1)と同一装置を用いて、回転速度と加工時間を変更することが好ましい。
【0118】
上記製造方法は、更に、上記工程(2)で得られた電極合剤をシート状に圧延する工程(3)を含むことが好ましい。
【0119】
上記工程(3)における具体的な圧延方法としては、ロールプレス機、平板プレス機、カレンダーロール機等を用いて圧延する方法が挙げられる。
その中でも、金属ロールが対向して配置されているロールプレス機および、さらに複数の金属ロールが配置されているカレンダーロール機が好ましい。
その際に、金属ロール対の速度に速度差があるものが好ましい。下流側ロールの搬送速度は、上流側ロールの搬送速度を基準として、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.3倍以上、更に好ましくは1.5倍以上の範囲である。上限は特に設けないが、上流側ロールは、停止させずに低速でも動かすことが好ましい。
【0120】
また、上記工程(3)の後に、得られた圧延シートに、より大きい荷重を加えて、更に薄いシート状に圧延する工程(4)を実施してもよいし、工程(4)を繰り返し実施してもよい。このように、圧延シートを一度に薄くするのではなく、段階に分けて少しずつ圧延することで柔軟性がより良好となる。工程(4)の回数としては、2回以上10回以下が好ましく、3回以上9回以下がより好ましい。具体的な圧延方法としては、例えば、2つあるいは複数のロールを回転させ、その間に圧延シートを通すことによって、より薄いシート状に加工する方法等が挙げられる。
また、上記工程(3)及び(4)において、処理温度は適宜設定すればよい。例えば、処理温度は、好ましくは250℃以下であり、より好ましくは200℃以下であり、更に好ましくは180℃以下であり、また、好ましくは30℃以上であり、より好ましくは40℃以上であり、更に好ましくは50℃以上である。材料を加温することで柔軟になり、より加工性が向上する。
【0121】
本開示の電極合剤シートは、二次電池用の電極合剤シートとして使用することができる。負極、正極のいずれとすることもできる。特に、上記電極合剤シートは、リチウムイオン二次電池に好適である。
【0122】
本開示は、上述した本開示の電極合剤シートを含む電極も提供する。本開示の電極は、引張強度が高く、抵抗が低い。
【0123】
本開示の電極は、上述した本開示の電極合剤シート、及び、集電体を含むものであってもよい。
【0124】
本開示の電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。
【0125】
上記正極は、集電体と、上記正極活物質を含む電極合剤シートとから構成されることが好適である。正極用集電体の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼、ニッケル等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特にアルミニウム又はその合金が好ましい。
【0126】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0127】
また、集電体の表面に導電助剤が塗布されていることも、集電体と正極活物質層の電気接触抵抗を低下させる観点で好ましい。導電助剤としては、炭素や、金、白金、銀等の貴金属類が挙げられる。
【0128】
正極の製造は、常法によればよい。例えば、電極合剤シートと集電体とを接着剤を介して積層し、真空乾燥する方法等が挙げられる。
【0129】
正極合剤シートの密度は、好ましくは2.80g/cm以上、より好ましくは3.00g/cm以上、更に好ましくは3.20g/cm以上であり、また、好ましくは3.80g/cm以下、より好ましくは3.75g/cm以下、更に好ましくは3.70g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0130】
上記負極は、集電体と、上記負極活物質を含む電極合剤シートとから構成されることが好適である。負極用集電体の材質としては、銅、ニッケル、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属、又は、その合金等の金属材料;カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が挙げられる。なかでも、金属材料、特に銅、ニッケル、又はその合金が好ましい。
【0131】
集電体の形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が挙げられ、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。これらのうち、金属箔が好ましい。なお、金属箔は適宜メッシュ状に形成してもよい。金属箔の厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また、通常1mm以下、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下である。金属箔がこの範囲よりも薄いと集電体として必要な強度が不足する場合がある。逆に、金属箔がこの範囲よりも厚いと取り扱い性が損なわれる場合がある。
【0132】
負極の製造は、常法によればよい。例えば、上記電極合剤シートと集電体とを接着剤を介して積層し、真空乾燥する方法等が挙げられる。
【0133】
負極合剤の密度は、好ましくは1.3g/cm以上、より好ましくは1.4g/cm以上、更に好ましくは1.5g/cm以上であり、また、好ましくは2.0g/cm以下、より好ましくは1.9g/cm以下、更に好ましくは1.8g/cm以下の範囲である。この範囲を上回ると集電体/活物質界面付近への電解液の浸透性が低下し、特に高電流密度での充放電特性が低下し高出力が得られない場合がある。また下回ると活物質間の導電性が低下し、電池抵抗が増大し高出力が得られない場合がある。
【0134】
本開示は、上述した本開示の電極を備える二次電池も提供する。
【0135】
上記二次電池は、電解液を使用する二次電池であってもよく、固体二次電池であってもよい。
なお、本明細書において、固体二次電池は、固体電解質を含む二次電池であればよく、電解質として固体電解質及び液体成分を含む半固体二次電池であってもよいし、電解質として固体電解質のみを含む全固体二次電池であってもよい。
【0136】
上記電解液を使用する二次電池は、公知の二次電池において使用される電解液、セパレータ等を使用することができる。以下、これらについて詳述する。
【0137】
上記電解液としては、非水電解液が好ましく用いられる。非水電解液としては、公知の電解質塩を公知の電解質塩溶解用有機溶媒に溶解したものが使用できる。
【0138】
上記電解質塩溶解用有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の公知の炭化水素系溶媒;フルオロエチレンカーボネート、フルオロエーテル、フッ素化カーボネート等のフッ素系溶媒の1種若しくは2種以上が使用できる。
【0139】
上記電解質塩としては、リチウム塩を使用できる。上記リチウム塩としては、例えばLiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、LiN(SOCF、LiN(SO等が挙げられ、サイクル特性が良好な点から特にLiPF、LiBF、LiN(SOCF、LiN(SO又はこれらの組合せが好ましい。
【0140】
上記電解質塩の濃度は、0.8モル/リットル以上、更には1.0モル/リットル以上であることが好ましい。上限は電解質塩溶解用有機溶媒にもよるが、通常2.0モル/リットル以下である。
【0141】
上記電解液を使用する二次電池は、更に、セパレータを備えることが好ましい。上記セパレータの材質や形状は、電解液に安定であり、かつ、保液性に優れていれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。なかでも、上記電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0142】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。ポリプロピレン/ポリエチレン2層フィルム、ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン3層フィルム等、これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。なかでも、上記セパレータは、電解液の浸透性やシャットダウン効果が良好である点で、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを原料とする多孔性シート又は不織布等であることが好ましい。
【0143】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上が更に好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下が更に好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、電解液電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0144】
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状若しくは繊維形状のものが用いられる。
【0145】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01~1μm、厚さが5~50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製のバインダーを用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フィブリル性樹脂をバインダーとして多孔層を形成させることが挙げられる。
【0146】
外装ケースの材質は用いられる電解質に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0147】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0148】
上記電解液を使用する二次電池の形状は任意であり、例えば、円筒型、角型、ラミネート型、コイン型、大型等の形状が挙げられる。なお、正極、負極、セパレータの形状及び構成は、それぞれの電池の形状に応じて変更して使用することができる。
【0149】
上記固体二次電池は、全固体二次電池であることが好ましい。上記固体二次電池は、リチウムイオン電池であることが好ましく、硫化物系全固体二次電池であることも好ましい。
【0150】
上記固体二次電池は、正極、負極、並びに、当該正極及び当該負極の間に介在する固体電解質層を備えることが好ましい。
【0151】
上記固体電解質層に用いられる固体電解質としては、上述した本開示の電極合剤シートに使用することが可能な固体電解質と同様のものが挙げられる。
【0152】
上記固体二次電池は、正極及び負極の間にセパレータを備えていてもよい。上記セパレータとしては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン等の多孔膜;及びポリプロピレン等の樹脂製の不織布、ガラス繊維不織布等の不織布等を挙げることができる。
【0153】
上記固体二次電池は、更に電池ケースを備えていてもよい。上記電池ケースの形状としては、上述した正極、負極、固体電解質層等を収納できるものであれば特に限定されるものではないが、具体的には、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等を挙げることができる。
【0154】
上記固体二次電池は、例えば、正極、固体電解質層シート、負極を順に積層し、プレスすることにより製造することができる。
【0155】
以上、実施形態を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。
【実施例0156】
次に実施例を挙げて本開示を更に詳しく説明するが、本開示はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0157】
PTFE-1~PTFE-2は、以下の方法で作製し、分析した。
【0158】
<平均一次粒子径>
PTFE水性分散液を水で固形分濃度が0.15質量%になるまで希釈し、得られた希釈ラテックスの単位長さに対する550nmの投射光の透過率と、透過型電子顕微鏡写真により定方向径を測定して決定した数基準長さ平均一次粒子径とを測定して、検量線を作成した。この検量線を用いて、各試料の550nmの投射光の実測透過率から平均一次粒子径を決定した。
【0159】
<ポリマー固形分濃度>
PTFE水性分散液1gを、送風乾燥機中で150℃、60分の条件で乾燥し、水性分散液の質量(1g)に対する、加熱残分の質量の割合を百分率で表した値を採用した。
【0160】
<変性モノマーの含有量>
CTFE含有量は、PTFE粉末又は組成物をプレス成形することで薄膜ディスクを作製し、薄膜ディスクをFT-IR測定した赤外線吸光度から、957cm-1における吸光度/2360cm-1における吸光度の比に0.58を乗じて求めた。
【0161】
<標準比重(SSG)>
ASTM D4895 89に準拠して成形されたサンプルを用い、ASTM D 792に準拠した水置換法により測定した。
【0162】
国際公開第2021/045228号の合成例1に記載された方法により白色固体Aを得た。
【0163】
作製例1
攪拌翼と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水3480g、パラフィンワックス100g、及び白色固体A5.3gを仕込み、70℃に加温しながらオートクレーブ内を窒素ガスで置換して酸素を除いた。TFEを圧入して系内圧力を0.78MPaGとし、攪拌しながら系内温度を70℃に保った。次いで、水20gに過硫酸アンモニウム15.0mgを溶解した水溶液をTFEで圧入し、重合反応を開始した。重合反応の進行に伴い系内圧力が低下するがTFEを追加して系内温度を70℃、系内圧力を0.78MPaGに維持した。
重合開始からTFEが400g消費された時点で、ラジカル捕捉剤としてヒドロキノン18.0mgを水20gに溶解した水溶液をTFEで圧入した。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から約1200gになった時点で撹拌及びTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了した。水性分散液を取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の平均一次粒子径は310nm、固形分濃度は25.3質量%であった。
【0164】
得られたPTFE水性分散液を固形分濃度13質量%まで希釈し、容器内で撹拌しながらPTFEを凝固させた後、水と濾別し、PTFE湿潤粉末を得た。
得られたPTFE湿潤粉末を180℃で18時間乾燥して、PTFE-1を得た。
得られたPTFE-1のSSGは2.156であった。
【0165】
作製例2
攪拌翼と温度調節用ジャケットを備えた内容量6リットルのステンレススチール製オートクレーブに、脱イオン水3580g、パラフィンワックス100g、及び白色固体A5.4gを仕込み、80℃に加温しながらオートクレーブ内を窒素ガスで置換して酸素を除いた。CTFE1.20gを加えた後、更にTFEを圧入して系内圧力を0.78MPaGとし、攪拌しながら系内温度を80℃に保った。次いで、水20gにジコハク酸パーオキサイド360mgを溶解した水溶液と、水20gに過硫酸アンモニウム10mgを溶解した水溶液をTFEで圧入し、重合反応を開始した。重合反応の進行に伴い系内圧力が低下するがTFEを追加して系内温度を80℃、系内圧力を0.78MPaGに維持した。重合開始からTFEが1530g消費された(転化率90%)時点で、CTFE4.2gをTFEで圧入した。重合はその後も継続し、TFEの重合量が重合開始から約1700gになった時点で撹拌及びTFEの供給を止め、直ちに系内のガスを放出して常圧とし、重合反応を終了した。水性分散液を取り出し、冷却後、パラフィンワックスを分離し、PTFE水性分散液を得た。得られたPTFE水性分散液の平均一次粒子径は241nm、固形分濃度は32.0質量%であった。
【0166】
得られたPTFE水性分散液を固形分濃度13質量%にまで希釈して、撹拌機付きの容器内で激しく攪拌し凝固させた後、水と濾別し、PTFE湿潤粉末を得た。
得られたPTFE湿潤粉末を145℃で18時間乾燥し、PTFE-2を得た。
得られたPTFE-2のCTFE含有量は0.23質量%、SSGは2.170であった。
【0167】
下記の手順で実施例及び比較例の合剤シート作製及び合剤シート評価を行った。組成比は表1に記載した値に調整した。
(電極合剤シートの作製)
(実施例1)
[工程1]
正極活物質AとPTFE-1を秤量し60℃の恒温槽にて十分に昇温させた。その後、高速撹拌ミキサーに投入し、羽の回転速度を6850rpmで1分間撹拌処理することでせん断力を与え、多くのフィブリルが発生した混合物を得た。
[工程2]
25℃に冷却した後、得られた混合物に炭素材料として導電助剤ABを加え、1500rpmで1分間処理することで、混合物に炭素材料を分散させ、電極合剤を得た。
[工程3]
異周速で回転可能なロール圧延機に電極合剤を投入し、電極合剤シートを得た(温度:60℃、左ロール回転速度:1m/min、右ロール回転速度:0.8m/min)。
[工程4]
得られた合剤シートを再度同様に圧延機に投入し、圧延することでよりシート強度が強い電極合剤シートを得た。
その後、ロールプレス機に電極合剤シートを投入し、ギャップを調整した。最終的な合剤シートの厚みは80μmになるように調整した。
【0168】
(実施例2)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の回転速度を1900rpm、処理時間を3分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0169】
(実施例3)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の回転速度を4300rpm、処理時間を3分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0170】
(実施例4)
表1記載の材料構成に変更した以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0171】
(実施例5)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の回転速度を3000rpm、処理時間を10分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0172】
(実施例6)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の回転速度を3000rpm、処理時間を20分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0173】
(実施例7)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の処理時間を3分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0174】
(実施例8)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の処理時間を3分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0175】
(実施例9)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の回転速度を4300rpm、処理時間を3分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0176】
(実施例10)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の処理時間を3分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0177】
(実施例11)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の回転速度を1500rpm、処理時間を10分間にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0178】
(実施例12)
[工程1]において、炭素以外の活物質として酸化シリコンを用い、PTFE-1の量を1質量%、PTFE-2の量を1質量%、処理時間を3分間にし、また[工程2]において炭素材料にグラファイトを用いた以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0179】
(実施例13)
表1記載の材料構成に変更し、[工程1]の処理時間を3分間に変更し、[工程3]の処理温度を140℃にした以外は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0180】
(比較例1)
[工程1]
正極活物質AとPTFE-1と炭素材料として導電助剤ABを秤量し60℃の恒温槽にて十分に昇温させた。その後、高速撹拌ミキサーに投入し、羽の回転速度を6850rpmで1分間撹拌処理することでせん断力を与え、多くのフィブリルが発生した混合物を得た。
[工程2]
25℃に冷却した後、得られた混合物を1500rpmで1分間処理し、電極合剤を得た。
[工程3][工程4]は実施例1と同様にして、合剤シートを作製した。
【0181】
(フィブリルの発生有無の確認方法)
[工程1]後の混合物をSEM観察(倍率7000倍)し、フィブリルの発生を確認した。実施例1~12において、複数のフィブリルがPTFEより発生している様子を観察することができた。
【0182】
(値Xの測定)
<測定サンプル>
電極合剤シートを1cm×1cm(厚みは任意)のサイズで切り出し、測定サンプルとした。
<界面長(pix)>
(i)測定サンプル毎に、SEM-EDX(走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法)分析で炭素組成分布の2000倍の視野、加速電圧3000V、画像サイズ1280×960で3箇所の画像を取得した。画像の取得箇所は、1箇所目は測定サンプルの中心を取得し、2箇所目、3箇所目は測定サンプルの中心から左右に2mmずらした地点で画像を取得した。画像の取得には、日立ハイテク社製SU8000を用いた。
(ii)(i)で得られた画像の二値化処理を行った。1サンプルに付きN=3で取得した画像を画像毎に0~255段階の輝度で区分し、画像毎に大津の二値化法を用いて閾値を求めた。その後、画像毎の二値化閾値の平均値を算出し、サンプルの平均閾値を算出した。平均閾値を用いて、再度、各二値化前の画像を二値化した。
(iii)(ii)で得られた画像において、ピクセル間の要素の差分が0でない要素数をカウントした数値を各画像の界面長とした。
<炭素検出量(cps/eV)>
上記の(i)の画像データと同時に得られるスペクトルデータより、各画像の炭素検出量を算出した。上記スペクトルデータとしては、SEM-EDXで測定した際に得られる横軸X線のエネルギー[keV]、縦軸X線強度[cps/eV]のスペクトルデータを用いた。上記スペクトルデータから、炭素の固有エネルギーである0.27keV付近で発現しているピークの縦軸の最大値を読み取り、読み取った値を炭素検出量とした。
<界面長÷炭素検出量(値X)>
画像毎に算出した界面長、炭素検出量から界面長÷炭素検出量を1サンプルごとに3点算出し、N=3の平均値を各サンプルの界面長÷炭素検出量(値X)とした。
結果を表2に示す。
【0183】
(電極合剤シートの強度測定)
上記電極合剤シートを切り出し4mm幅の短冊状の試験片を作製した。引張試験機(島津製作所社製AGS-100NX)を使用して、100mm/分の条件下、にて測定した。チャック間距離は40mmとした。破断するまで変位を与え、測定した結果の最大応力を各サンプルの強度とした。
結果を表2に示す。
【0184】
(電極合剤シートの抵抗測定)
上記電極合剤シートを5cm角サンプルに切り出し、四端子四探針法(三菱化学アナリテック製:ロレスターGP(MCP-T610))を用いて合剤層の表面抵抗率(Ω/□)を測定した。測定後、合剤層の厚みを乗算し、電極合剤シートの体積抵抗率(Ω・cm)とした。合剤層の厚みは、マイクロゲージを用いて、電極合剤シート中の3点を測定した平均値を用いた。
体積抵抗の測定値に基づき下記の様に評価した。
A:100Ωcm未満
B:100Ωcm以上~150Ωcm未満
C:150Ωcm以上~200Ωcm未満
D:200Ωcm以上
結果を表2に示す。
【0185】
【表1】
【0186】
【表2】
【0187】
表中の略号は以下のとおりである。
正極活物質A:Li(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O
正極活物質B:Li(Ni0.8Mn0.1Co0.1)O
AB:Denka社製アセチレンブラックLi-100
SuperP Li:Imerys社製カーボンブラック
PVdF-1:アクリル酸官能基を有する変性PVdF(D50=2.0μm)

図1
図2
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-12-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料と、前記炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを含む電極合剤シートであって
前記ポリテトラフルオロエチレンの含有量が前記電極合剤シートに対して0.1質量%以上であり、
SEM-EDX分析によって得られる炭素組成分布の2000倍の視野の画像において、界面長/炭素検出量で示される値Xが2300以下である電極合剤シート。
【請求項2】
値Xが300以上2000以下である請求項1記載の電極合剤シート。
【請求項3】
前記電極合剤シートに対する前記ポリテトラフルオロエチレン及び前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂の合計含有量が0.1質量%以上10質量%以下である請求項1又は2記載の電極合剤シート。
【請求項4】
前記炭素材料が導電助剤である請求項1又は2記載の電極合剤シート。
【請求項5】
前記炭素材料以外の電極活物質が正極活物質である請求項1又は2記載の電極合剤シート。
【請求項6】
前記正極活物質の含有量が前記電極合剤シートに対し、92%以上99質量%以下である請求項5記載の電極合剤シート。
【請求項7】
請求項1又は2記載の電極合剤シートを含む電極。
【請求項8】
請求項7記載の電極を備える二次電池。
【請求項9】
ポリテトラフルオロエチレンと、炭素材料以外の電極活物質及び/又は前記ポリテトラフルオロエチレン以外のフッ素樹脂とを混合する工程(1)、及び、
工程(1)で得られた混合物と炭素材料とを混合する工程(2)
を含み、
工程(1)で混合する成分がいずれも粉末であり、工程(1)が液体媒体の不存在下に実施される電極合剤シートの製造方法。
【請求項10】
工程(1)において、剪断力により前記ポリテトラフルオロエチレンのフィブリルを発生させる請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
工程(2)の混合を、工程(1)より低い剪断力により行う請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項12】
工程(2)における処理温度が工程(1)における処理温度よりも低い請求項9又は10記載の製造方法。
【請求項13】
工程(1)と工程(2)は同一装置を用いて行われる請求項9又は10記載の製造方法。