(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178958
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】飼料添加物の製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
A23N 17/00 20060101AFI20241219BHJP
A23K 50/10 20160101ALI20241219BHJP
A23K 50/20 20160101ALI20241219BHJP
A23K 50/30 20160101ALI20241219BHJP
A23K 10/37 20160101ALI20241219BHJP
【FI】
A23N17/00 Z
A23K50/10
A23K50/20
A23K50/30
A23K10/37
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097375
(22)【出願日】2023-06-14
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 香蘭産業株式会社の代表取締役である佐々木照は、有限会社上野牧場の代表取締役である上野一夫、上野一夫の知人である箭内利光らと発明した飼料添加物の製造装置および製造方法について、令和4年度東日本産直ビーフ研究会通常総会において、アートホテル(千葉県成田市小菅700)の会議室にて公開した。
(71)【出願人】
【識別番号】591111400
【氏名又は名称】香蘭産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104237
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 秀昭
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 照
(72)【発明者】
【氏名】上野 一夫
(72)【発明者】
【氏名】箭内 利光
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
4B061
【Fターム(参考)】
2B005BA02
2B005BA05
2B005EA02
2B005EA11
2B005LB01
2B150AA01
2B150AB05
2B150BA04
2B150BD01
2B150CA08
2B150DD31
4B061AA01
4B061DA03
4B061DB01
4B061DB22
4B061DB31
(57)【要約】
【課題】肉牛の肉質等級向上に優れた効能を発揮する飼料添加物の製造装置および製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】植物原料を投入する内部が、底側で空気を供給する給気室101と、その上側で前記植物原料が充填され、該植物原料に着火した最上層から最下層に向けて燻し焼き炭化が順次進行する炭化室102と、に区画された容器本体11と、給気室101に外部の空気を内部に自然に取り込み可能な通気口20と、通気口20を開閉可能なシャッター22と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネの籾殻を主とする植物原料から食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する装置であって、
前記植物原料を投入する内部が、底側で空気を供給する給気室と、その上側で前記植物原料が充填され、該植物原料に着火した最上層から最下層に向けて燻し焼き炭化が順次進行する炭化室と、に区画された容器本体と、
前記容器本体の前記給気室側の周壁に開設され、外部の空気を内部に自然に取り込み可能な通気口と、
前記通気口を、空気を取り込み可能な開状態と、空気の取り込みを停止する閉状態と、に開閉可能なシャッターと、
前記シャッターを、前記植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達するまで前記開状態に維持し、前記植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達したとき、当該部位の炭化熱に起因して前記閉状態とする開閉機構と、を備え、
前記開閉機構により前記シャッターが閉状態となり、前記植物原料の燻し焼き炭化が終了したとき、該燻し焼き炭化の過程で発生していた燻煙中の成分を自然に含有した燻炭として、食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物が生成される構成であることを特徴とする飼料添加物製造装置。
【請求項2】
前記容器本体で前記炭化室の少なくとも下部に、周壁が下方へ向かって漸次縮径するテーパー部が形成され、
前記容器本体の内部で前記テーパー部の下側途中ないし下方に、前記給気室と前記炭化室とを区画するロストルが略水平に配置されたことを特徴とする請求項1に記載の飼料添加物製造装置。
【請求項3】
前記容器本体における前記テーパー部の下方に、該テーパー部の下端と同一径で垂下する本体下小径部が形成され、
前記本体下小径部の途中に、前記ロストルが配置されると共に、該ロストルの下側に前記通気口が開設され、
前記開閉機構は、前記シャッターを前記容器本体の内側から支えて前記通気口を開状態とし、前記植物原料の炭化熱により少なくとも一部が焼失すると、前記シャッターの支えが外れて前記通気口を閉状態とする支持部を備えることを特徴とする請求項2に記載の飼料添加物製造装置。
【請求項4】
前記容器本体の天側に設けられ、前記炭化室で生じる燻煙を自然排気するための煙突を備え、
前記煙突は、基端側から先端側に向かって直線状に連なる複数の長筒部を有して成り、
前記複数の長筒部のうち最も基端側の長筒部は、前記容器本体の天側に対して回動可能に支持され、前記煙突全体の水平面に対する傾斜角度を調整可能であり、
前記複数の長筒部のうち使用する長筒部の数の選択により、前記煙突全体の長さを調整可能であることを特徴とする請求項3に記載の飼料添加物製造装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の飼料添加物製造装置を使用して食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する方法であって、
前記炭化室に充填した前記植物原料を、着火した天側の最上層から底側の下層に向けて燻し焼きを順次進行させ、灰化させない温度条件下で炭化させつつ、炭化の過程で生じた燻煙中に含まれる成分を自然に含有させた燻炭とする燻燃工程と、
前記植物原料の炭化が最下層まで到達したとき、当該部位の炭化熱に起因して前記シャッターが閉状態となり、前記通気口からの空気の導入が停止して消火する消火工程と、を含むことを特徴とする飼料添加物製造方法。
【請求項6】
前記燻燃工程における前記炭化室内の最高温度が500℃以下となるように、前記通気口による送気条件および前記煙突による排気条件を予め設定することを特徴とする請求項5に記載の飼料添加物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イネの籾殻を主とする植物原料から食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、水稲栽培では収穫される米から約20%重量の籾殻が発生するが、籾殻の有効な用途は開発されておらず、通常はそのまま家畜の飼料に用いたり、水田の片隅で籾殻の山に煙突を立てて焼く野焼きにより燻炭としてから土壌に還元していた。しかし、籾殻をそのまま飼料として用いる場合、籾殻に元来含まれているミネラル等の成分が吸収し難いものであり、栄養価も高くなかった。また、籾殻を野焼きして燻炭を製造する場合、雨が降ると不完全な燃焼となり、良質な燻炭を作ることができず、また、野焼きは風が吹くと危険であり、廃棄物処理法の改正により制限されるに至っている。
【0003】
そこで、本件出願人である香蘭産業株式会社は、籾殻から手間なく安全に、かつ確実に燻炭を作るための燻燃器(登録商標)を既に開発している(例えば特許文献1参照)。かかる燻燃器は、籾殻を略円筒型の燻し焼き窯内に充填し、底側から空気を供給すると共に天側から排気しつつ、籾殻の最上層から下層に向けて燻し焼きにして炭化し、炭化が籾殻の最下層まで達したら消火することにより、特別な温度制御を行わなくても、簡易な構成で良質な燻炭を製造できるものであった。ここで得られた燻炭は、主に植物成長調整剤や土壌改良剤として使用されていた。
【0004】
また、籾殻の燻炭に限らず植物素材を原料とする燻炭には、整腸作用や胃袋を活性化する効能があることが知られており、燻炭は、家畜の飼料やその添加物のみならず、動物用医薬品としても用いられている(例えば非特許文献1参照)。かかる動物用医薬品は、例えば広葉樹の樹皮を原料として、これを厳密な温度制御下での熱処理によって炭化させてから細かく裁断し、別に採取した木酢液と混合して調整されたものであった(例えば非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】“商品情報,動物用医薬品,ネッカリッチ粉剤”、[online]、宮崎みどり製薬株式会社、[2022年7月15日検索]、インターネット[URL;http://www.midori-mm.co.jp/showcase/index.html]
【非特許文献2】“ネッカリッチができるまで”、[online]、宮崎みどり製薬株式会社、[2022年7月15日検索]、インターネット[URL;http://www.midori-mm.co.jp/nekkarich/fabrication.html]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前述した燻炭を、家畜の飼料やその添加物、動物用医薬品として利用する畜産農家にとっては、例えば肉牛の出荷までの肥育における成長促進が重要な課題であった。そのため、燻炭は、肉牛のほか、豚や鶏等の食用動物(家畜類)でも成長促進を目的として利用されてきたが、本件出願の発明者が経営する牧場において、肉牛の飼料に燻炭を混ぜて与えたところ、周知の成長促進の効能とは別に、肉質の等級が良くなった例に接する機会があった。
【0008】
そこで、本件出願人らが燻炭の新たな用途について研究を重ねたところ、特にイネの籾殻を主とする植物原料を用いて、前述の燻燃器によって製造した燻炭を飼料に加えて肉牛を飼育したところ、肉牛の肉質等級を格段に向上させることができることが判明した。ここで例えば、前述した野焼きの燻炭や従来公知の動物用医薬品を利用して肉牛を飼育しても、そもそも野焼きの燻炭では品質が安定せず、動物用医薬品は市価が高くコストが嵩むことになる。
【0009】
また、既存の燻燃器(登録商標)を利用して、食用動物の飼料添加物としての新たな用途に向けて燻炭を増産するためには、例えば燻燃器の大型化が必須となる等、新たな課題が生じていた。このように、燻燃器を従来の単に燻炭製造のための装置としてではなく、飼料添加物の製造装置や、この装置を利用した飼料添加物の製造方法として捉えた場合における新たな課題の解決のための改良も希求されていた。
【0010】
本発明は、以上のような従来の技術の有する問題点に着目してなされたものであり、食用動物の飼料添加物として燻炭を利用するに際して、肉質等級向上に優れた効能を発揮する飼料添加物として燻炭を、コスト高を招くことなく、確実に効率良く容易に製造することができる飼料添加物の製造装置および製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述した課題に鑑みて鋭意検討の結果、燻炭に関する新たな用途を見出し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
すなわち、イネの籾殻を主とする植物原料から食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する装置であって、
前記植物原料を投入する内部が、底側で空気を供給する給気室と、その上側で前記植物原料が充填され、該植物原料に着火した最上層から最下層に向けて燻し焼き炭化が順次進行する炭化室と、に区画された容器本体と、
前記容器本体の前記給気室側の周壁に開設され、外部の空気を内部に自然に取り込み可能な通気口と、
前記通気口を、空気を取り込み可能な開状態と、空気の取り込みを停止する閉状態と、に開閉可能なシャッターと、
前記シャッターを、前記植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達するまで前記開状態に維持し、前記植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達したとき、当該部位の炭化熱に起因して前記閉状態とする開閉機構と、を備え、
前記開閉機構により前記シャッターが閉状態となり、前記植物原料の燻し焼き炭化が終了したとき、該燻し焼き炭化の過程で発生していた燻煙中の成分を自然に含有した燻炭として、食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物が生成される構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る飼料添加物の製造装置および製造方法によれば、肉質等級向上に優れた効能を発揮する飼料添加物として燻炭を、コスト高を招くことなく、確実に効率良く容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る飼料添加物製造装置の全体構成を概略的に示す正面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る飼料添加物製造装置の全体構成を概略的に示す側面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る飼料添加物製造装置の容器本体を示す縦断面図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る飼料添加物製造装置のシャッターの開閉機構を示す斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る飼料添加物製造装置の煙突を示す平面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る飼料添加物製造装置の容器本体の各種変形例を示す正面図である。
【
図7】本発明の実施形態に係るヨシ灰製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【
図8】本発明の実施形態に係る飼料添加物に含まれる燻液の成分分析の結果の一例を示す図表である。
【
図9】本発明の実施形態に係る飼料添加物を混合する市販の飼料の一例の成分量および原材料を示す図表である。
【
図10】本発明の実施形態に係る飼料添加物を混合する市販の飼料の一例の成分量および原材料を示す図表である。
【
図11】本発明の実施形態に係る飼料添加物を混合する市販の飼料の一例の成分量および原材料を示す図表である。
【
図12】本発明の実施形態に係る飼料添加物を混合する市販の飼料の一例の成分量および原材料を示す図表である。
【
図13】肉牛の肉質等級の格付けにおける歩留等級の判別を示す格付表である。
【
図14】肉牛の肉質等級の格付けにおける脂肪交雑の判別を示す格付表である。
【
図15】肉牛の肉質等級の格付けにおける肉の色沢の判別を示す格付表である。
【
図16】肉牛の肉質等級の格付けにおける肉の締まりおよびきめの判別を示す格付表である。
【
図17】肉牛の肉質等級の格付けにおける脂肪の色沢と質の判別を示す格付表である。
【
図18】本発明の実施形態に係る肉牛の肥育方法に関する試験の結果の一例を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面に基づいて、本発明を代表する食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物の製造装置および製造方法、並びに飼料添加物および飼料、これらを用いた肉牛の肥育方法について順に説明する。ここで食用動物とは、例えば牛、水牛、鹿、羊、山羊、馬、豚、猪等の哺乳類の他、鶏、ウズラ、アヒル、キジ、ダチョウ等の鳥類、それにマグロ、チョウザメ等の魚類、食用蛙等の両生類のうち、食用に供されるものを広く含む概念であるが、以下、肉牛を代表して説明する。なお、以下に説明する実施形態で示される構成要素、形状、数値等は、何れも本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0015】
<飼料添加物製造装置10について>
図1から
図6は、本実施形態に係る飼料添加物製造装置10を示している
本実施形態に係る飼料添加物製造装置10は、イネの籾殻を主とするイネ科の植物原料から食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する装置である。なお、各図に示した構成要素の相対的な寸法関係や形状等は、適宜設計変更されるものであり実際のものとは異なる場合がある。
【0016】
本実施形態における「植物原料」とは、主としてイネの籾殻(もみがら)であるが、籾殻以外にもイネ科の植物として、例えば、タケ、ヨシ(葦)等を乾燥させて細かく切断したもの、あるいはおが屑や落葉等を混ぜても良い。なお、籾殻とは、籾(籾米)の最も外側にある皮の部分のことであり、籾殻の成分は、セルロース、ヘミセルロース、リグニン等の難分解性有機物が大半であることが知られている。
【0017】
また、本実施形態における「飼料添加物」とは、例えば牛の飼料に対して肉質等級の向上の用途に供することを目的として添加される物である。ここで「飼料」とは、例えば牛の栄養に供することを目的として使用される物であり、従来公知の飼料であれば、栄養価により分類される粗飼料、濃厚飼料、あるいは混合の仕方により分類される単体飼料、混合飼料、配合飼料の別を問わない。なお、本実施形態における飼料添加物は、前述した食用動物の他、養殖魚、さらには食用に供さない犬や猫等のペット、観賞魚に供しても構わない。
【0018】
<<容器本体11>>
図1に示すように、飼料添加物製造装置10は、植物原料を投入する内部が、底側の給気室101と、その上側で植物原料が充填され、該植物原料に着火した最上層から最下層に向けて燻し焼き炭化が順次進行する炭化室102と、に区画された容器本体11を備えている。このような容器本体11を主要部とする飼料添加物製造装置10は、基本的な構成は燻燃器(登録商標,香蘭産業株式会社)と称される装置とほぼ同等であるが、本発明である飼料添加物製造装置10は、食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造するという新たな知見に基づく装置である。なお、燻燃とは、炎をたてずに煙らせながら燃やすこと、すなわち一般用語法の燻べると同義である。
【0019】
容器本体11は、全体的には縦型の円筒形状であり、例えばステンレスあるいは鉄等の金属材で形成されている。詳しく言えば容器本体11は、その主要部を成す本体寸胴部110と、本体下逆円錐台部111と、本体下小径部112と、本体上円錐台部113と、本体上小径部114と、を備えている。後述するが容器本体11の内部は、本体下小径部112の途中に略水平に配置されたロストル12によって、底側の給気室101と、その上側の炭化室102と、に区画されている。
【0020】
図1に示すように、本体寸胴部110は、容器本体11で最大外径の寸胴に形成されている。この本体寸胴部110より下方、言い換えれば、容器本体11の炭化室102の下部には、周壁が下方へ向かって漸次縮径するテーパー部として本体下逆円錐台部111が形成されている。また、本体下逆円錐台部111の下方には、本体下逆円錐台部111の下端開口と同一径で延出した本体下小径部112が形成されている。
【0021】
本体下小径部112の下端開口は、別体として構成された底蓋115によって閉じられている。底蓋115は、例えば金属製の円盤状に形成され、一端が本体下小径部112の下端開口の周縁に蝶番を介して連結され、他端を含む複数箇所に設けたフック等の固定具(図示せず)により密閉状態に固定することができるように構成されている。なお、底蓋115の内側に、本体下小径部112の下半側に嵌まり込む円筒部115aを設けて、この円筒部の上端開口にロストル12を固定するように構成しても良い。ここで円筒部115aは、その内外が給気室101として連通するように例えば多数の孔を備える等、通気性に優れた構造となっている。
【0022】
また、本体寸胴部110より上方、言い換えれば、容器本体11の炭化室102の上部には、周壁が下方へ向かって漸次拡径する本体上円錐台部113が形成されている。本体上円錐台部113の上方には、本体上円錐台部113の上端開口と同一径で延出した本体上小径部114が形成されている。ここで本体上円錐台部113は、前述の本体下逆円錐台部111と上下逆の同形状に図示したが、本体下逆円錐台部111と本体上円錐台部113のテーパー角度や、本体下小径部112と本体上小径部114の外径は、それぞれ異なるように構成しても良い。
【0023】
本体上小径部114の上端開口は、別体として構成された天蓋116によって閉じられている。天蓋116は、例えば金属製の円盤状に形成され、本体上小径部114の上端開口の周縁上に載置した状態で、周方向の複数箇所に設けたフック等の固定具(図示せず)によって密閉状態に固定することができるように構成されている。なお、天蓋116は、本体上小径部114および本体上円錐台部113と分離不能な一体構造として、本体上円錐台部113の下端開口を、本体寸胴部110の上端開口に対して開閉可能に接続するように構成しても良い。また、天蓋116の上側には、後述する煙突30が設けられている。
【0024】
容器本体11の大きさは、一度に多く飼料添加物をまとめて製造できる大型の容量として、例えば高さ500~1000Lの寸法が適している。本実施形態では、容器本体11の内部のうち植物原料を充填する炭化室102は、下から順に、後述するロストル12より上方となる本体下小径部112の上半分と、本体下逆円錐台部111と、本体寸胴部110と、本体上円錐台部113と、が該当し、これらの容積の合計が容器本体11の実質的な容量となる。よって、本体下小径部112の下半分と、本体上小径部114とは、実質的な容量には含まれないが、本体上小径部114まで植物原料を適宜充填しても構わない。
【0025】
容器本体11の各部位の具体的な寸法としては、例えば実質的な容量を1000Lとした場合は、容器全体の最大径である本体寸胴部110の直径は約100cm、本体下逆円錐台部111と本体上円錐台部113の最大径は約100cmで最小径は約60cm、本体下小径部112と本体上小径部114の直径は60cmとなる。また、本体寸胴部110の高さは約110cm、本体下逆円錐台部111と本体上円錐台部113の高さは約20cmとなる。また、本体下小径部112の高さは約20cmとして、その上半部の約10cm相当の部分が実質的な容量の一部となる。なお、本体上小径部114は、実質的な容量に含まれないが、高さは約10cmにすると良い。
【0026】
容器本体11の実質的な容量を成す部位の高さの合計は、下から順に本体下小径部112の上半部の高さ約10cmと、本体下逆円錐台部111の高さ約20cmと、本体寸胴部110の高さ約110cmと、本体上円錐台部113の高さ約20cmと、の合計の160cmとなる。ここで容器本体11の実質的な容量を成す部位の合計高さ約160cmと、容器本体11の実質的な容量の主要部を成す本体寸胴部110の直径約100cmとの比率は、1.6:1となる。かかる容器本体11高さと直径の比率は、容器本体11全体が何れの大きさであっても、燃焼継続上好ましいことが発明者らによって確かめられている。なお、本実施形態で容器本体11の実質的な容量を1000Lとしたのは、田圃の単位である一反から通常生じる籾殻の量が1000Lであることを考慮したものである。
【0027】
容器本体11において、特に重要な部位は、底側を搾るような形状とする本体下逆円錐台部111である。本体下逆円錐台部111は、炭化室102で植物原料が燻し焼きされている部分(燻し焼き層)が下方へ向かって進行するに従い、当該部分の断面積を徐々に狭くするための部位である。このような本体下逆円錐台部111によれば、特に焼け残りが生じやすい植物原料の下層部分においても、その断面積の全域に亘り確実に燻し焼きにすることができる。これにより、植物原料の下層部分における未炭化部分の発生を防止して、充填した全ての植物原料を確実に燻炭とすることができる。
【0028】
本体下逆円錐台部111におけるテーパーの傾斜角度や長さは、炭化室102の容量をできるだけ大きく確保しながらも、植物原料の焼け残りが生じない寸法に定められている。本実施形態のような比較的大容量(1000L)の容器本体11にあっては、前述した各部位の具体的な寸法に基づき、本体下逆円錐台部111におけるテーパー角度θ1は約45度、縦断面の長さは約28cmとなる。かかる寸法の本体下逆円錐台部111によれば、1000L相当の全ての植物原料を確実に最下層まで燻炭とすることができることが、発明者らの実験により確かめられている。
【0029】
仮に、容器本体11の底側が、従来の燻燃器と同様に寸胴で水平な底面の形状である場合、容器本体11全体の容量が大きくなるほど、植物原料の最下層までの燻し焼きの進行が安定しない虞があった。なお、テーパー部である本体下逆円錐台部111は、必ずしも炭化室102の底側だけでなく、炭化室102の途中や上部から設けるように構成しても良い。これについては、後述する本実施形態の変形例として説明する。また、容器本体11において本体上円錐台部113の形状にも特徴があるが、これについても後述する。
【0030】
このような容器本体11は、その中心軸が略鉛直方向に延びる状態で、地面ないし床面である設置面上に、例えば支持機構13を介して設置される。支持機構13は、容器本体11の外周面の両側に突設された一対の支軸を掛止することにより、容器本体11を設置面より上方に支持可能なものである。この支持機構13は、植物原料の充填作業や燻炭の取り出し作業の際は、前記一対の支軸を揺動中心として揺動可能に容器本体11を支持し、燻し焼きの際は、前記揺動が抑止されるように容器本体11を支持する。
【0031】
容器本体11では、飼料添加物である燻炭を、本体下小径部112の下端開口より底蓋115を開けて取り出し可能であり、容器本体11は、前述したように支持機構13によって、設置面より上方に支持されていれば、燻炭の取り出し作業を容易に行うことができる。なお、支持機構13を設けずに、設置面上に容器本体11を直接載置しても良いが、この場合は、容器本体11の接地面となる底蓋115が、小径で面積が小さく安定性に欠けるため、転倒防止のために容器本体11を周囲から支える構造を備えると良い。また、本体下小径部112の下端開口より燻炭を取り出す際は、容器本体11を横倒しすることになる。
【0032】
<<ロストル12>>
容器本体11の内部の空間は、ロストル12によって、底側の給気室101と、その上側で全体の主要部を占める炭化室102と、に区画されている。ロストル12とは、例えば金属線材を格子状に組み合わせたり、金属板に多数の孔を開けたパンチングメタル等のように通気性に優れた耐熱性の板材である。ロストル12は、容器本体11の内部の底側に配置されるが、本実施形態では、本体下小径部112の途中である高さ方向の中間位置に略水平に配置されている。ここでロストル12の位置は、本体下逆円錐台部111(テーパー部)の下側途中ないし下方であれば足り、他に例えば、本体下逆円錐台部111と本体下小径部112との境に配置しても良い。
【0033】
ロストル12は、容器本体11の内部の底側で、略水平に配置されて取り外し可能に固定される。本実施形態では、前述したように、例えば底蓋115の内側に、本体下小径部112の下半側に嵌まり込む円筒部115aを設けて、この円筒部の上端開口にロストル12を取り外し可能に固定すると良い。あるいは、例えば容器本体11の上側を、本体上円錐台部113の下端開口から本体寸胴部110の上端開口に対して開閉可能に接続するように構成した場合、本体寸胴部110の上端開口を開けた状態で内部にロストル12を入れて略水平に配置しても良い。この場合は、ロストル12を配置する位置の内周面には、周方向に並ぶ複数の固定台等のストッパを設けることになる。
【0034】
ロストル12の下側の給気室101は、炭化室102において植物原料の燻し焼きに必要な空気(酸素)を供給するための空間であり、給気室101の周壁の一端側には、外部から給気室101に通じる通気口20が開設されている。一方、ロストル12の上側の炭化室102は、植物原料が充填されて、この植物原料に着火した最上層から最下層に向けて燻し焼き炭化が順次進行する空間である。本実施形態では、容器本体11の内部のうち容積的には炭化室102が大部分を占めるが、このような容積の比率であっても、給気室101から炭化室102に必要十分な空気が供給されて炭化が最適に進行することが発明者らの実験によって確かめられている。
【0035】
<<通気口20>>
容器本体11で給気室101側の周壁には、外部の空気を内部に自然に取り込み可能な通気口20が開設されている。通気口20は、給気室101およびロストル12を経由して、炭化室102内に空気を自然送気する役目を担っている。ここで通気口20は、容器本体11の給気室101に連通する位置に配置されるが、必ずしもロストル12の直下である必要はない。なお、
図1および
図2では、次述するフード部21の外郭が、ロストル12を上下に跨いで設けられているが、フード部21の基端口が給気室101側の周壁に連通する箇所では、ロストル12より上側は塞がれ、ロストル12より下側が開口している。
【0036】
詳しく言えば、通気口20の開設箇所には、本体下小径部112の周壁より外側に突出するフード部21が設けられており、このフード部21の先端側に通気口20が開設されている。フード部21は、例えば略角筒状に形成され、通気口20も略四角形に開設されているが、通気口20やフード部21の具体的な形状は、適宜定め得る設計事項である。また、通気口20(フード部21)の具体的な配置も、給気室101側に少なくとも連通する位置であれば良い。
【0037】
さらに、通気口20の具体的な開口面積も、燻し焼きによる炭化効率に照らして適宜定め得る設計事項である。本実施形態における通気口20の寸法は、前述した容器本体11の容量(1000L)に応じて、例えば縦方向(高さ)は7cm、横方向(幅)は15cmに設定されている。このような通気口20の具体的な寸法は、植物原料を燻し焼きする際の最高温度が500℃以下となるように、発明者らの実験データの結果に基づき定めたものである。
【0038】
<<シャッター22>>
図2に示すように、通気口20は、シャッター22により開閉される。シャッター22は、通気口20から空気を取り込み可能な開状態と、通気口20から空気の取り込みを停止する閉状態と、に開閉可能に構成されている。シャッター22は、通気口20を塞ぐ大きさの板状であり、例えばステンレスあるいは鉄等の金属板で形成されている。シャッター22は、フード部21の突端に設けられており、例えばフード部21の上端辺側に、上端縁が水平な回転軸により回動可能に取り付けられている。
【0039】
シャッター22を、フード部21の左右端辺および下端辺から手前に離間させた開状態にすると通気口20が開き、容器本体11の給気室101に空気が自然送気される。一方、シャッター22を、フード部21の突端における左右端辺および下端辺に当接させた閉状態にすると通気口20が塞がり、容器本体11の給気室101に空気が自然送気されない状態となる。このようなシャッター22は、開閉機構23によって開状態に静止支持されるように構成されている。なお、
図4に示すように、シャッター22の外面側には取手27が設けられ、また内面側には、後述する掛止棒24の先端が当接する座台28が設けられている。
【0040】
<<開閉機構23>>
図4に示すように、シャッター22は、開閉機構23によって、炭化室102で植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達するまで前記開状態に維持され、植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達したとき、当該部位の炭化熱に起因して閉状態となる。開閉機構23は、シャッター22を容器本体11の内側から支える「支持部」として掛止棒24および可燃棒25と、これらをロストル12の上面に載置するガイドレール26と、を備えている。ガイドレール26は、上面側が開口した略コ字形の断面形状であり、金属材から形成されている。ガイドレール26は、ロストル12の上面で、その半径方向に延びる状態に載置され、前端は本体下小径部112の周壁にある小窓状の開口を通じて、フード部21内に連通して通気口20を臨む一方、ロストル12の中心側に向かう後端は立壁状に閉じられている。
【0041】
掛止棒24および可燃棒25は、互いに直線状に連なるように連結可能であり、ガイドレール26の内側に挿入されてロストル12上に位置決めされる。掛止棒24は、つっかえ棒として十分な強度を備えた不燃性の金属材から成る。掛止棒24の基端は、可燃棒25の先端に同軸上に連結されており、掛止棒24の先端は、通気口20より外側に突出して、シャッター22の内面側に設けられた座台28に当接させる。これにより、シャッター22は、掛止棒24および可燃棒25を介して、通気口20の外側に持ち上げられた開状態に保持される。
【0042】
可燃棒25も、つっかえ棒として十分な強度を備えたものであるが、例えば割り箸や竹串等のように、燻し焼き炭化の熱によって焼失(屈撓あるいは焼折を含む)する可燃性の材質から成る。可燃棒25の基端は、ガイドレール26の終端の立壁に当接される。かかる状態で、可燃棒25の先端に連結された掛止棒24によって、前述したようにシャッター22は開状態に保持される。可燃棒25の長さは、掛止棒24と相俟って、ガイドレール26ないしフード部21内に通してシャッター22を支えたときに、通気口20から十分に離して空気を流入させることができる程度で足りる。
【0043】
そして、炭化室102における燻し焼き炭化が植物原料の最下層に到達して、可燃棒25が炭化熱によって焼失(屈撓ないし焼折を含む)すると、シャッター22の掛止が解除されて通気口20を塞ぐ閉状態となる。すなわち、シャッター22の開閉機構23によれば、容器本体11の給気室101に、炭化室102内の植物原料を燻し焼き炭化するのに適量の空気を自然送気した後、燻し焼き炭化が植物原料の最下層に到達すると、自然送気を自動的に停止して燻炭を消火するように構成されている。また、可燃棒25の焼失に伴うシャッター22の閉じ動作と、通気口20の密閉を確実にするため、シャッター22を、図示省略したコイルバネ等の付勢手段によって、通気口20を閉じる方向へ付勢すると良い。
【0044】
なお、シャッター22の他の構成として、例えば、容器本体11の周壁に直接開設した通気口の外側で、上下方向にスライドさせて開閉可能に構成しても良い。この場合のシャッターは、容器本体11の周壁と略同じ曲率の湾曲板状に形成し、通気口の両側に、シャッターの両側端縁が摺動自在に嵌まるガイドを設けることになる。また、前述の掛止棒24および可燃棒25、それにガイドレール26は、同様の構成で足り、掛止棒24の先端が通気口20から突出してシャッターの下端縁を上に載せて支えることになる。かかるシャッターは、容器本体11の容量が大きい場合は、それに伴い開口部と共に大きくなり開閉時の摺動抵抗が増す虞がある。
【0045】
<<煙突30>>
図1に示すように、容器本体11の天蓋116には、炭化室102で生じた燻煙を自然排気するための煙突30が設けられている。天蓋116には、煙突30を取り付けるために、略円筒型に突出した煙突取付部117が設けられている。煙突30は、全体的には長手方向に延びた円筒形の管体であり、例えばステンレス鋼あるいは鉄等の金属材で形成されている。煙突30は、本来の機能である空気吸引力により前記炭化室102で生じる燻煙を自然排気する役目のほか、内部を通過する燻煙を高効率に冷却して燻液(籾酢液)を結露生成させる役目も果たすものである。
【0046】
図5に示すように、煙突30は、前記煙突取付部117に接続される略L字型のエルボ31と、該エルボ31の先端側に接続される略T字型のチーズ32と、該チーズ32の両端のうち一端側に接続される長筒部33と、該長筒部33の先端側に接続される略T字型のトップ34と、からなる。エルボ31は、略L字型の円筒状に形成されている。エルボ31の一端側は、天蓋116の中心からずれた部位にある煙突取付部117の内周面に嵌まる状態で取り外し可能に接続されている。煙突取付部117内において天蓋116は開口しているので、煙突30は容器本体11の内部に連通されることになる。
【0047】
チーズ32は、略T字型の円筒状に形成されている。チーズ32の基端側は、エルボ31の他端側の外周面に被さる状態で取り外し可能に接続されている。チーズ32の先端側の両端のうち一端側は上向きに配置され、この一端側の内周面には、長筒部33の基端側が嵌まる状態で取り外し可能に接続されている。チーズ32の先端側の両端のうち他端側は下向きに配置され、この他端側は通常は閉じられているが、開閉可能にしたり、あるいは滴下孔を開設することにより、燻液(籾酢液)を取り出せるように構成すると良い。この場合、チーズ32の他端側の下方には、滴下した燻液(籾酢液)を回収する缶等の容器を取り付けると良い。
【0048】
長筒部33は、煙突30の主要部をなし、長手方向に延びる円筒状に形成されている。長筒部33の基端側が、前述したようにチーズ32の両端の一端側に接続されている。ここでチーズ32は、その基端側が接続されたエルボ31の他端側に対して回転可能である。よって、長筒部33をチーズ32と共に、エルボ31の他端側を中心に回転させれば、長筒部33を任意の角度に自在に傾斜させることができる。すなわち、長筒部33の傾斜角度、言い換えれば煙突30の先端(トップ34)の設置面からの高さを、無段階に調整することができるように構成されている。
【0049】
トップ34は、煙突30内部への風の吹き込みを防止するものであり、前述した空気吸引力の持続性および安定性を増進する機能のほか、煙突30の内壁を冷却する役目も果たしている。トップ34は、略T字型の円筒状に形成されている。トップ34の基端側は、長筒部33の先端側の内周面に嵌まる状態で取り外し可能に接続されている。また、長筒部33は、1本とは限らず、所定長さにユニット化されたもの同士を長手方向に繋ぎ合わせても良い。本実施形態では、例えば2本の長筒部33を連結した状態を示している。
【0050】
複数の長筒部33をつなぎ合わせる場合は、上側に位置する長筒部33の基端側が、下側に位置する長筒部33の先端側の内周に嵌り込むようにする。このように煙突30の各パーツの端部開口は、下側に位置する方が上側に位置する方を外側から囲むように重なり合う状態で接続されている。従って、各パーツの接続箇所の隙間より燻液(籾酢液)等が外部に漏れる虞はない。
【0051】
また、
図1に示すように、煙突30の長筒部33は、支柱35を介して設置面(例えば地面等の水平面)上に支持され、所定の傾斜角度に維持される。ここで支柱35は、長筒部33の長手方向における途中の部位と容器本体11の設置面の間に立設されて、長筒部33を支持する例えば棒状の部材である。支柱35は、長筒部33の長手方向において支える位置により、長筒部33を所望の傾斜角度(高さ)に保持できるが、伸縮自在に構成しても良い。
【0052】
煙突30の具体的な寸法は、前述した煙突30の本来の機能を発揮し得る範囲で、適宜定め得る設計事項である。本実施形態において煙突30の主要部を成す長筒部33は、外径は12cm、長さは90cmに設定されている。よって、長筒部33を1つ増やす毎に、煙突30の全長は約90cmずつ長くなる。また、煙突30(長筒部33)の傾斜角度は、水平面から20~40度の範囲内で、その都度、適宜設定すると良い。
【0053】
<飼料添加物製造方法について>
次に、前記飼料添加物製造装置10を用いた飼料添加物の製造方法について説明する。
図7は、本実施形態に係る飼料添加物の製造方法を示すフローチャートである。
本実施形態では、植物原料としてイネの籾殻を使用する。籾殻は、予め十分に乾燥させておく。この籾殻全体の含水率は、例えば10~35重量%にすることが望ましく、最適値は15~25重量%である。このように、植物原料全体の含水率を10~35重量%とするのは、10%重量未満では、燻液(籾酢液)の回収量が少なくなる虞があり、35重量%を超過すると、含有水分によって燻し焼きが鎮火中断する虞があるからである。
【0054】
なお、植物原料は籾殻だけでなく、例えば、稲藁、タケ、ヨシ等の別のイネ科の植物を適宜混合(例えば乾重量の1割以下)したものを使用することも可能である。これらの稲藁等の植物の稈部分を籾殻に混合して使用する場合には、燻し焼き時の空気の流通性を確保するために、植物の稈部分を予め例えば3cm以下に切断しておくことが望ましい。また、植物原料の含水率を調整するために、植物原料に、おが屑や落葉を混合することも可能である。
【0055】
図7は、飼料添加物の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
最初に作業者は、前述した飼料添加物製造装置10を所定の状態にセットする(S101)。先ず、容器本体11を、支持機構13を介して設置面上に、中心軸が略鉛直方向に延びる水平な状態に設置する。このとき、植物原料の充填作業を行うスペース、および煙突30を傾斜させて支持するためのスペースも確保しておく。かかる状態の容器本体11の内部に、底側の給気室101と上側の炭化室102とに区画するロストル12を固定する。
【0056】
ロストル12は、底蓋115の内側に設けた円筒部115aの上端開口に固定する場合、かかる固定した状態で底蓋115を閉じれば、そのまま本体下小径部112の途中である高さ方向の中間位置に略水平に配置される。あるいは、本体上円錐台部113を本体寸胴部110の上端開口に開閉可能に接続する場合、本体上円錐台部113を開けた状態で、容器本体11の内部に入れたロストル12を、前述した本体下小径部112の中間位置に略水平に配置するようにしても良い。
【0057】
次いで、シャッター22と、その開閉機構23をセットする。すなわち、
図4に示すように、掛止棒24の基端に可燃棒25の先端を連結して、これをガイドレール26内に挿入する。このとき、可燃棒25の基端は、ガイドレール26の後端の立壁に突き当てた状態とし、掛止棒24の先端は、ガイドレール26の前端開口より前方へ突出させる。かかる状態でガイドレール26を、シャッター22を開状態にして通気口20よりフード部21内に挿入して、ロストル12の直ぐ上側で本体下小径部112の周壁にある小窓状の開口より奥まで差し込み、ロストル12上に水平に載せた状態とする。
【0058】
続いて、シャッター22を降ろして、シャッター22の内面側の座台28に掛止棒24の先端を当接させる。これにより、シャッター22は、可燃棒25および掛止棒24を介して、通気口20の外側に持ち上げられた開状態に保持される。ここでシャッター22の上端縁は、回動自在に懸下されており、シャッター22の下端縁は、その自重(および付勢手段)により常に通気口20を閉じる方向に付勢されている。従って、後述するように可燃棒25が焼失すれば、つっかえ棒が外れた状態となり、シャッター22は通気口20を即座に遮蔽する。
【0059】
次に、作業者は、植物原料を容器本体11の炭化室102内に充填する(S102)。すなわち、天蓋116を本体上円錐台部113から取り外して、本体上小径部114の上端開口より、ロストル12を底面として仕切られた炭化室102内に、植物原料である籾殻を充填する。このとき、作業者は、支持機構13によって中空支持されている容器本体11を、必要に応じて傾斜させることにより、容易に植物原料の充填作業を行うことができる。炭化室102内に適量の植物原料を充填した後に、その最上層(上面)は平らに均す。
【0060】
図3に示すように、植物原料Mの最下層(底面)の位置は、ロストル12上の位置となる。一方、植物原料Mの最上層(上面)の位置は、その充填量によって、本体円筒部110に留める場合と、本体円筒部110を超えて本体上円錐台部113まで達する場合(
図3参照)がある。容器本体11の上側部分に本体上円錐台部113を設けたことにより、炭化室102において、天蓋116と植物原料の最上層の間に、周壁が下方へ向かって漸次拡径する閉鎖空間を確保することができる。
【0061】
従って、本体円筒部110を超えて本体上円錐台部113の途中に達するまで植物原料を充填すれば、着火する植物原料の最上層の表面積を狭くすることができる。本実施形態では、容器本体11の実質的な容量が1000Lと大きいため、植物原料Mの最上層(上面)の位置が、本体上円錐台部113の上端(本体上小径部114の下端との境)まで達するように充填すると良い。
【0062】
続いて、作業者は、容器本体11の炭化室102内に充填された植物原料の最上層面に、灯油や灯油を染み込ませた籾殻等の燃焼補助材を必要に応じて散布し、種火を投入して植物原料の最上層面に着火する(S103)。ここで植物原料の最上層面に燃焼補助材を散布する場合には、表面全体にむらなく均一に散布する。植物原料の最上層面の全域に亘って炎が広がったことを目視確認したら、取り外していた天蓋116を、本体上円錐台部113の上端開口に載せて塞ぐ。
【0063】
容器本体11の上部も略円筒型とした従来の燻燃器では、植物原料の着火の不完全性に起因して、後述する燻し焼き炭化の終了時に、炭化室102の天側周端部位に植物原料が未炭化のまま残ってしまうことがあった。植物原料を余すことなく燻炭とするためには、炭化室102内に充填された植物原料の最上層面の全範囲で確実に燃焼させて、充填されている全ての植物原料において余すことなく層順次に燻し焼き炭化を継続できるようにする必要がある。
【0064】
本実施形態では、容器本体11の本体円筒部110と天蓋116の間に、本体上円錐台部113を設けており、本体円筒部110を超えて本体上円錐台部113の上端に達するまで植物原料を充填すれば、着火する植物原料の最上層面の表面積を狭くすることができる。従って、種火により燃焼を広げなければならない範囲も狭くなるので、容易に植物原料の最上層面の全域を燃焼させることができる。これにより、後述する燻燃の開始ないし初期段階において、未燃焼の部分あるいは燃焼しても鎮火してしまう部分の発生を防止でき、充填した全ての植物原料を確実に燻炭とすることができる。
【0065】
ここで、本体上円錐台部113のテーパー角度θ2(
図3参照)が鋭角過ぎると、本体上円錐台部113と本体円筒部110の境界付近に未炭化部分が生じる虞がある。逆に、本体上円錐台部113のテーパー角度θ2が大き過ぎると、植物原料の天面の表面積を狭めるためには、本体上円錐台部113の高さ寸法を大きくする必要があるので、装置全体の高さが限られた範囲内では植物原料の充填容量が少なくなってしまう。このため、本体上円錐台部113のテーパー角度θ2は、40~50度の範囲内に設定することが望ましい。
【0066】
植物原料の着火後に、作業者は、天蓋116を閉じてから煙突30をセットする(S104)。すなわち、
図5に示すように、天蓋116にある煙突取付部117にエルボ31を接続し、エルボ31にチーズ32を接続する。そして、チーズ32の両端のうち一端側に長筒部33を接続する。ここで長筒部33の数は適宜選択することが可能であり、
図1に示す例では、2本を繋ぎ合わせているが、実際には3本を繋ぎ合わせて全長を約270cmに設定すると良いことが実験により確かめられている。また、最も基端側の長筒部33をチーズ32と共に、エルボ31の他端側を中心に回転させることにより、煙突30全体の傾斜角度を調整することができ、所望の傾斜角度に傾けた状態で支柱35によって設置面上に支持する。
【0067】
このような煙突30をセットにおいて、煙突30(長筒部33)の傾斜角度は、後述する燻燃工程における最高温度が500℃以下となるように設定すると良い。そのための煙突30の傾斜角度は、水平面から30度が適している。炭化温度を500℃以下とすることにより、前述した容量(1000L)の容器本体11の炭化室102において、最も効率良く植物原料の燻し焼きを進行させることができることが、発明者らの数多の実験により確かめられている。
【0068】
また、容器本体11の炭化室102における燻燃工程の最高温度は、前記通気口20の開口面積によっても影響される。この通気口20の開口面積は、前述したように予め最適な大きさに設計されている。また、シャッター22の他の構成として、前述したように、容器本体11の周壁に直接開設した通気の開口面積を調整可能なスライド式としても良い。あるいは、通気口20を開閉するシャッター22とは別に、通気口20自体の面積を調整可能なスライド板等をフード部21に設けても良い。その他、フード部21の基端が容器本体11の周壁に開口する面積を調整可能に構成して、シャッター22の開閉とは別に、フード部21内の開口面積を適宜調整できるように構成しても良い。
【0069】
なお、煙突30のセットは、前述した植物原料の着火前に済ましておく方法もある。すなわち、植物原料の着火時に、天蓋116の一端側を上に持ち上げるようにずらして、本体上小径部114の上端開口との間に略円環型の隙間を作り、この隙間から種火を投入して植物原料の最上層面に着火するようにしても良い。このような場合には、上にずらした天蓋116と本体上小径部114本体の上端開口との間の隙間を維持するために、この隙間に挟み込む補助的な治具を用意しておくと良い。着火後に、挟み込んでいた治具を引き抜くことによって、天蓋116は閉じられる。ここで前記隙間の幅は、煙突30のセット状態に影響を及ぼさず、天蓋116を閉じた時に元通りに戻る程度とする。
【0070】
その後における植物原料の最上層面の燃焼は、容器本体11の天蓋116を閉じた後も、しばらくの間は植物原料の最上層面と天蓋116との間の本体上円錐台部113内にある空気中の酸素を消費しながら継続する。そして、空気中の酸素を消費すると燃焼が終了して、植物原料の燻燃工程である燻し焼きが開始される(S105)。
【0071】
植物原料の燻し焼きが開始されると、植物原料のうち燻し焼きされている部分(燻し焼き層)は、その底側からの空気供給に応じて、植物原料の最上層から最下層へと順次進んでいく。酸素を含んだ適量の空気は、通気口20から給気室101内に自然送気され、ロストル12を通して、未だ燻し焼きされていない下層の植物原料の間を通過し、燻し焼き層に供給されて消費される。そして、燻し焼き層の熱と、底側から供給される空気との相互作用によって、燻し焼き層の直下の植物原料層の燻し焼き炭化が開始され、このサイクルの繰り返しによって、植物原料の燻し焼き層が最下層へと順に移動する。
【0072】
植物原料の燻し焼き層において生じた燻煙は、当該位置よりも上層の既に燻炭となった層(炭化時燻炭層)の間を上昇して煙突30内に誘導され、煙突30から自然排気される。植物原料の燻し焼き炭化において、燻炭層は、下層の植物原料の燻し焼き層からの燻煙の保護作用によって灰化が防止されるので、燻炭のまま留まることとなる。このように、植物原料の燻し焼き層が最上層から最下層へと移動しながら継続する。そして、植物原料の燻し焼き層が、ロストル12上の最下層まで中断することなく到達する。
【0073】
特に本実施形態では、容器本体11の炭化室102において、植物原料の最下層の位置は、ロストル12上の位置となるが、その上側に位置する炭化室102の下部には、周壁が下方へ向かって漸次縮径する本体下逆円錐台部111を設けている。このような本体下逆円錐台部111によれば、焼け残りが生じやすい植物原料の下層部分においても、その断面積の全域に亘り確実に燻し焼きすることができる。従って、植物原料の下層部分における未炭化部分の発生を防止して、充填した全ての植物原料を従来の燻燃器よりも確実に炭化させることができる。
【0074】
ここで、本体下逆円錐台部111のテーパー角度θ1(
図3参照)が鋭角過ぎると、本体円筒部110と本体下逆円錐台部111の境界付近に未炭化部分を生じてしまう虞がある。逆に、本体下逆円錐台部111のテーパー角度θ1が大き過ぎると、従来の燻燃器と同様に容器本体の底側も寸胴に近い形状となり、容器本体11全体の容量が大きくなるほど、植物原料の最下層までの燻し焼きの進行が安定しない。このため、本体下逆円錐台部111のテーパー角度θ1は、40~50度の範囲内に設定することが望ましい。本実施形態では、容器本体11の容量(1000L)に応じて、本体下逆円錐台部111のテーパー角度θ1を約45度とする。
【0075】
燻し焼きによって熱せられて植物原料中から揮発した成分(燻液成分と共にタール成分等も含むもの)は、炭化時の燻煙に混合されて上昇する。この燻煙中に含まれる成分は、燻炭を通過する過程で燻炭中に自然に含有される。炭化室102の上端まで到達した残りの燻煙は、煙突30内に誘導され、煙突30の長筒部33内で冷却されて結露し、必要に応じて滴下採集される。なお、採集された燻液(籾酢液)からは、必要に応じてタール成分等が除去分離される。特に500℃以下の炭化では、タール成分の揮発除去効果が高いと考えられる。
【0076】
このような燻燃行程において、燻液成分およびタール成分が適度に揮発除去されると共に、ケイ酸成分が非晶質構造のまま豊富に残留した燻炭が得られる。本実施形態によって得られる燻炭である飼料添加物は、アルカリ性ではなく弱酸性から略中性であって、pH値のばらつきの少ない(再現安定性の高い)ものである。このような飼料添加物は、食用動物である肉牛の飼料に加えて肉質等級を向上させる用途を含め、様々な用途に使用可能な価値が高いものである。
【0077】
植物原料の最下層が燻し焼き炭化されることによって、燻燃工程は終了するが、燻し焼き炭化が植物原料の最下層に到達すると、当該部位の炭化熱に起因してシャッター22が閉状態となり、通気口20からの空気の導入が停止して消火する消火工程に移行する(S106)。すなわち、植物原料の最下層における炭化熱によって、可燃棒25が焼失(屈撓ないし焼折を含む)すると、シャッター22の掛止が解除されて、シャッター22は、その自重(および付勢手段)により通気口20を塞ぐ閉状態となる。
【0078】
これにより、容器本体11の給気室101に空気が自然送気されなくなる。よって、炭化室102内の燻炭を自動的に消火することができる。本実施形態の容器本体11の容量であれば、着火からおよそ数日間で消火工程まで終了する。なお、燻炭の消火の際には、通気口20がシャッター22によって塞がれることに加えて、作業者は、煙突30を天蓋116の煙突取付部117から取り外して、この煙突取付部117も閉鎖することが望ましい。通気口20と共に煙突取付部117も閉鎖することにより、消火にかかる時間を短縮することができる。
【0079】
本実施形態における燻燃工程では、前述した煙突30の傾斜角度(排気条件)および通気口20の開口面積(送気条件)の設定によって、炭化室102内の最高温度が500℃以下の低温燻し焼き環境を維持することができる。つまり、送気に関しては、高温炭化を生じるような過剰な空気供給がなされることなく、植物原料の燻し焼きをゆっくりじっくりと継続するのに適量な空気の自然送気がなされる。また、排気に関しては、高温炭化を生じるような過剰な高速排気がなされることなく、植物原料の燻し焼きをゆっくりじっくりと継続するのに適量な自然排気がなされる。
【0080】
これにより、燻燃工程において、同時に燻し焼きされる植物原料層を薄くして、燻し焼き層全体の時間当たりの発熱量の増加を抑制し、かつ燻し焼きが途中で途絶えることのない送気と排気の循環を実現できるので、燻炭化時の燻し焼き温度を従来よりも低温に、かつ安定して保持したまま継続させることができる。また、本実施形態の飼料添加物製造装置10では、炭化室102に充填した植物原料のおよそ6~8割の容量の燻炭(飼料添加物)を得ることができる。
【0081】
消火工程の終了後は、例えば数日間そのまま放置して、完全に自然消火してから煙突33および天蓋116を外し、通気口20のシャッター22を開いて、掛止棒24や燃え残った可燃棒25、それにガイドレール26を抜き取る。その後、底蓋115を外して、容器本体11の底側から燻炭(飼料添加物)を取り出す(S107)。なお、植物原料の燻し焼き炭化の際に、容器本体11は静止しており、植物原料を流動させないので、籾殻を主とした燻炭(飼料添加物)は、籾殻の容姿がほぼそのまま残ったものとなる。
【0082】
容器本体11から取り出した燻炭(飼料添加物)は、例えばトランスバックあるいはフレコンバッグ(フレキシブルコンテナバッグ)等と称される、粉末や粒状物の荷物を保管ないし運搬するための梱包袋に詰めて常温下で保管して、後述するように飼料添加物として使用することになる。なお、梱包袋は、その投入口を密閉できる構造を備え、防湿・粉漏れ防止の効果に優れた素材のものを用いると良い。
【0083】
<飼料添加物製造装置10の変形例>
図6は、本実施形態の飼料添加物製造装置10の各種変形例を示している。
飼料添加物製造装置10の容器本体11は、
図1に示したように、炭化室102の下部の周壁が下方へ向かって漸次縮径するテーパー部(本体下逆円錐台部111)を備えているが、このテーパー部の具体的な形状として様々なタイプが考えられる。すなわち、
図1に示した容器本体11では、その下部と上部における本体下逆円錐台部111と本体上円錐台部113が、互いに上下逆の同形状に形成されているが、本体下逆円錐台部111と本体上円錐台部113のテーパー角度や高さを、それぞれ異なるように構成しても良い。
【0084】
図6(a)に示す容器本体11Aでは、本体上円錐台部113よりも本体下逆円錐台部111の方がテーパー角度が大きく、よって、本体上円錐台部113よりも本体下逆円錐台部111aの方が高さ(縦断面の長さ)が大きくなっている。
図6(b)に示す容器本体11Bでは、本体上円錐台部113の下方に本体寸胴部110はなく、直ぐに周壁が下方へ向かって漸次縮径する本体下逆円錐台部111bとなっている。
【0085】
図6(c)に示す容器本体11Cでは、本体上円錐台部113もなく、容器本体11Cの上端は略水平な天面を成し、この上端より直ぐに周壁が下方へ向かって漸次縮径する本体下逆円錐台部111cとなっている。すなわち、容器本体11Cでは、炭化室102の下部だけでなく上部からテーパー部として形成されている。
図6(d)に示す容器本体11Dでは、本体上円錐台部113がなく、容器本体11Dの上端は略水平な天面を成し、この下方には本体寸胴部110が続き、本体寸胴部110の下方に本体下逆円錐台部111が形成されている。
【0086】
このような容器本体11A~11Dの具体的な形状は、実質的な容量等に応じて適宜定められる選択事項であり、何れのテーパー部の形状であっても、炭化室102における植物原料の下層部分における未炭化部分の発生を防止するという観点から設計される。また、各容器本体11A~11Dにおけるロストル12の位置は、それぞれのテーパー部の下側途中ないし下方であれば良い。なお、各容器本体11,11A~11Dは、何れの形状ないし大きさであっても、その実質的な容量を成す部位の高さと直径(内径)の比率は、例えば1~2:1のように極端にかけ離れていないものが燃焼継続上好ましい。
【0087】
<燻炭(飼料添加物)の詳細>
次に、前述した飼料添加物製造装置10を用いた飼料添加物の製造方法により製造された燻炭(飼料添加物)について説明する。燻炭(飼料添加物)自体の構成は、多孔質構造であり通気性が良く、可溶性に優れた非晶質のケイ酸を高濃度に含有していることは、従来より知られている。燻炭(飼料添加物)がケイ酸を多く含むのは、籾殻の固い殻が主にケイ素からできていることに由来しており、窒素成分やカリ成分は少なく、微量要素である銅、マンガン、鉄、カリウム等のミネラル成分も含んでいる。
【0088】
燻炭(飼料添加物)は、前述した燻燃行程により、タール成分は適度に揮発除去され、ケイ酸成分は高温で結晶化することなく非晶質構造の可溶性のまま豊富に残留し、前記ミネラル成分も溶出しやすい状態となっている。さらに、燻炭(飼料添加物)は、前述した燻燃工程で生じた燻煙中に含まれる成分を自然に含有している。ここで燻煙中の主たる成分は、燻液(籾酢液)の成分そのものであり、燻液(籾酢液)の成分分析を出願人らが行った結果、
図8に示した含有成分とその含有率が判明した。
【0089】
<<燻液(籾酢液)の採取>>
出願人らの分析試験では、飼料添加物製造装置10として、容器本体11の容量が1000Lのものを使用した。植物原料は、全てイネの籾殻を用いて燻炭(飼料添加物)を製造し、その過程で得られた燻液(籾酢液)を煙突30から容器に回収し、分析用試料として約100mlを採取した。なお、植物原料(籾殻)の燻燃工程における最高温度は500℃以下となるように設定した。
【0090】
<<含有成分の測定>>
採取した燻液(籾酢液)の有機成分をジエチルエーテルで抽出し、このうち主な成分をガスクロマトグラフ質量分析計を用いて同定した。また、ジエチルエーテル抽出物に含まれる成分の種類と量を、ガスクロマトグラフを用いて分析した。かかる分析の結果、燻液(籾酢液)の抽出物に含まれる成分のうち、ガスクロマトグラフで同定した化合物名と、その含有率(%)を、
図8に示す。
【0091】
図8に示すように、燻液(籾酢液)の抽出物に含まれる成分の種類と、その含有率の特徴として、酢酸の含有率(41.17%)が最も高く、次にアセトンの含有率(25.85%)が高く、次いでp,m-クレゾールの含有率(15.01%)が高い値を示している。また、牛の第一胃内の細菌の発酵作用によるメタン産生を抑制可能なプロピオン酸が、2.20%と比較的多く含まれていることが特徴である。含有成分を全体的に見れば、有機酸類として、酢酸、酢酸メチル、プロピオン酸、ブチル酸の4成分だけで、全体の43.71%を占めている。また、フェルール類として、グアイアコール、o-クレゾール、エチルグアイアコール、p,m-クレゾール、4-アセチル-メトキシフェノールの5成分で、全体の16.82%を占めている。
【0092】
このような燻液(籾酢液)の成分分析の結果は、1回のみならず、異なる天候ないし気温の条件下で複数回行っても、ほぼ同様な結果が得られることも確かめられた。また、成分分析の結果により判明した燻液(籾酢液)の有機成分が、ほぼそのままの割合で燻炭(飼料添加物)に含有されているものと推測される。さらに、野焼きの燻炭の場合は、一般にアルカリ性(pH9~10)であるが、本発明の燻炭(飼料添加物)のpH値は、中性から弱酸性(pH6~7)でばらつきが少ない(再現安定性の高い)ことも確かめられている。これは、前述の有機酸類の割合が比較的高いことが理由と考えられる。
【0093】
<燻炭(飼料添加物)を含有した飼料>
次に、前述した飼料添加物を含有した飼料について説明する。
食用動物である肉牛の一般的な固形飼料は、大きく分けて粗飼料と配合飼料の2種類に分類され、生後から育成期間に合わせてそれぞれ所定の割合で給与される。粗飼料は、容積が大きく粗繊維が多く含まれるものであり、例えば、イネ科のチモシーヘイ、オーツヘイ等の牧草類の干し草の他、稲ワラ、麦ワラ、ビール粕等が該当する。配合飼料は、容積が比較的小さい割りに栄養価が高いものであり、例えば、トウモロコシ、マイロ、麦、ふすま等の種々の原料を配合して調製されたものであり、多くの種類が市販されている。
【0094】
本実施形態における粗飼料は、チモシーヘイ、オーツヘイ、稲ワラ、麦ワラ、ビール粕等を適宜混合したものである。また、本実施形態における配合飼料は、肉牛の成長に合わせて、市販のモーレット(商品名)、バリュービーフ前期(商品名)、バリュービーフ後期(商品名)、バリュービーフ仕上(商品名)を使用している。これらの配合飼料は、何れもJA全農北日本くみあい飼料株式会社により製造販売されたものである。
【0095】
図9は、モーレットの品質に関する表示の基準となるべき事項の一例を示している。モーレットは、一般に、ほ乳期仔牛、生後概ね3月以内の牛、生後概ね3ヵ月齢を超えて6ヵ月齢以内に給与されるものである。
【0096】
図10は、バリュービーフ前期の品質に関する表示の基準となるべき事項の一例を示している。バリュービーフ前期は、一般に、生後概ね6ヵ月齢を超えた肥育牛に給与されるものである。
【0097】
図11は、バリュービーフ後期の品質に関する表示の基準となるべき事項の一例を示している。バリュービーフ後期も、一般に、生後概ね6ヵ月齢を超えた肥育牛に給与されるものである。バリュービーフ後期では、穀類のうちトウモロコシを増やし大麦等を加えている。
【0098】
図12は、バリュービーフ仕上の品質に関する表示の基準となるべき事項の一例を示している。バリュービーフ仕上も、一般に、生後概ね6ヵ月齢を超えた肥育牛に給与されるものである。バリュービーフ仕上では、他の配合飼料に比べてタンパク質の割合が高められている。
【0099】
もちろん、配合飼料は、前述した市販品に限定されるものではない。また、粗飼料も加工された市販品を使用しても良いが、原料である牧草を栽培ないし購入したものを、独自に乾燥させたり配合して用いることもできる。何れの粗飼料ないし配合飼料についても、肉牛が各育成段階で1日に自由摂食する重量に対し1頭辺りの分量として、前述の燻炭(飼料添加物)を3~9gの割合で混合して得られたものが、肉質等級向上用の飼料となる。
【0100】
ここで発明者らの研究によれば、燻炭(飼料添加物)の量が3g未満では、肉牛の肉質等級を向上させる効果が顕著に得られないことが確かめられている。また、燻炭(飼料添加物)の量が9gを超えても、3~9gの割合で混合した場合と比べて、肉質等級を向上させる効果に大差はないが、牛の嗜好性に影響を及ぼして餌の摂食率が低下する虞があって好ましくないことが確かめられている。
【0101】
このような肉質等級向上用の飼料を肉牛に給与することにより、一般的な固形飼料の給与と比較して、肉牛の肉質等級を向上させることができるという特有な効果が発明者らによって確かめられている。なお、固形飼料に燻炭(飼料添加物)を混合する割合は、肉牛1頭当り摂食量に関わらず、例えば元になる固形飼料のうち3重量%以上かつ9重量%未満となるように予め一律に調整しても良い。
【0102】
<肉牛の肥育方法>
次に、前述した飼料添加物を含有した飼料の給与による肉牛の肥育方法について説明する。肉牛に対する給与は、仔牛の人工哺乳の離乳後に開始され、一般に生後3ヶ月齢から出荷までの期間を、初期、前期、後期、仕上期に分けて、それぞれの育成段階毎に固形飼料の具体的な種類や量を異ならせている。
【0103】
仔牛の生後3~6ヵ月齢の「初期」では、1日に1頭当り、粗飼料を1~2kg程度、配合飼料のモーレットを2~3kgほど給与する。これらの固形飼料中に、燻炭(飼料添加物)を例えば1頭あたり3~9gの範囲内で一定量を混合する。このように、燻炭(飼料添加物)を含む飼料は、餌やり早々に給与を開始すると良い。なお、固形飼料の量は、仔牛が自由採食できる範囲に適宜調整し、通常は朝夕の2回に分けて給与する。ここで一日における最初の給与となる朝1回の給与分にだけ、燻炭(飼料添加物)を混合すると良い。
【0104】
次いで、仔牛の生後7~11ヵ月齢の「前期」は、内臓をしっかりしたものにし、骨格を作り上げ、筋肉を付けていくといった目的のために、粗飼料を中心とした飼料を給与する。また、粗飼料と共に配合飼料の量も徐々に増やしていく。例えば1日に1頭当り、粗飼料を4~6kg程度、配合飼料のバリュービーフ前期を2~6kgほど給与する。これらの固形飼料中に、燻炭(飼料添加物)を例えば1頭あたり3~9gの範囲内で一定量を混合する。
【0105】
この前期における固形飼料の重量は、日々増やすことになるが、自由採食できる範囲に適宜調整し、通常は朝夕の2回に分けて給与する。なお、前期においても、朝夕2回の給与のうち朝1回給与する分にだけ、燻炭(飼料添加物)を混合すると良い。なお、固形飼料に混合する燻炭(飼料添加物)の量は、必ずしも3~9gの範囲で一律とは限らず、前述した初期より給与量が増えた分を換算して、初期と同様な重量%となるように調整しても良い。
【0106】
続いて、牛の生後12~23ヵ月齢の「後期」は、肉牛の筋肉中に脂肪を貯める時期であり、粗飼料は徐々に減らしつつ、配合飼料の割合を高めていく。例えば1日に1頭当り、粗飼料は4kg程から徐々に減らし、一方、配合飼料のバリュービーフ後期は8~12kgと徐々に増やして給与する。これらの固形飼料中に、燻炭(飼料添加物)を例えば1頭あたり3~9gの範囲内で一定量を混合する。
【0107】
この後期における固形飼料の量も、自由採食できる範囲に適宜調整し、通常は朝夕の2回に分けて給与する。なお、後期においても、朝夕2回の給与のうち朝1回給与する分にだけ、燻炭(飼料添加物)を混合するようにしても良い。ここでも固形飼料に混合する燻炭(飼料添加物)の量は、必ずしも3~9gの範囲で一律とは限らず、前述の前期より給与量が増えた分を換算して、前期と同様な重量%となるように調整しても良い。
【0108】
その後、牛の生後24~27ヵ月齢の3ヶ月間の「仕上期」は、肉牛としての出荷前の最後の期間であり、霜降り状の脂肪を付けるために、粗飼料は余り与えず、配合飼料を最大限まで与える。例えば1日に1頭当り、粗飼料は1kg程で足り、配合飼料のバリュービーフ仕上を12kgほど給与する。これらの固形飼料中に、燻炭(飼料添加物)を例えば1頭あたり3~9gの範囲内で一定量を混合する。
【0109】
この仕上期における固形飼料の量も、自由採食できる範囲に適宜調整し、通常は朝夕の2回に分けて給与する。なお、仕上期においても、朝夕2回の給与のうち朝1回給与する分にだけ、燻炭(飼料添加物)をまとめて混合するようにしても良い。ここでも固形飼料に混合する燻炭(飼料添加物)の量は、必ずしも3~9gの範囲で一律とは限らず、前述の後期より給与量が増減した分を換算して、直近の後期を含めて全期間で同様な重量%となるように調整しても良い。
【0110】
<肉牛の肥育試験>
次に、本発明に係る飼料と、市販の飼料とを用いて、本発明における肉質等級向上の効果を調査するために行った肥育試験について説明する。本肥育試験では、外観観察により異常がみられなかった交雑牛(牝)を供試した。供試牛は、導入時の体重を基に無作為に選び、1グループ5頭ずつの燻炭使用群と対照群とに分類した。
【0111】
発明者らの所有する一般的な牛舎内において、燻炭使用群では、前述した燻炭(飼料添加物)を含有した飼料の給与による肉牛の肥育方法を実施した。すなわち、肥育期間を、初期、前期、後期、仕上期に分けて、各期における粗飼料ないし配合飼料に、朝一回の給与の際に燻炭(飼料添加物)を1頭あたり3~9gの範囲内で一定量を混合して給与した。一方の対照群では、各期における粗飼料ないし配合飼料だけの標準的な肥育を実施した。なお、どちらの群も飲水に関しては、一般的な飲水器により自由に摂取させた。
【0112】
燻炭使用群および対照群では、ともに出荷までの飼育期間中は、何れの個体にも一般状態に異常は認められず、増体、飼料摂取量、および飼料要求率にも、互いの比較においても大きな変動は認められなかった。各群における供試牛10頭は、前述した仕上期を経て同一日に肉牛として出荷され、屠殺の前後に所定の検査に付された後、体から皮や頭足や内臓が取り除かれた枝肉とされ、中央から左右2つに切り分けられた状態で格付けが行われた。なお、何れの供試牛も出荷日における月齢は、26ヶ月代に相当する。
【0113】
<<肉質等級の格付け>>
格付け(正式には「枝肉取引規格」)とは、社団法人日本食肉格付協会が全国共通の基準に沿って行うランク付けである。前記枝肉は、肉質の良し悪しを所定の規格を適用した判定を受け、格付けされる。ここで所定の規格の適用については、「歩留」および「肉質」のそれぞれについて等級の格付を行い、「歩留」はアルファベット、「肉質」は数字として連記して表示される。なお、枝肉に瑕疵があった場合、その状況を所定の種類区分により等級の表示に付記するが、供試牛10頭については何れも瑕疵がなかったため、瑕疵の説明は省略する。
【0114】
先ず「歩留」の等級は、枝肉から得られる部分肉の重量を3等級(A,B,C)で表したものである。この歩留の等級は、歩留基準値と称される数値を所定の計算式に当てはめ、算出された数値と
図13に示す格付表を照合することで決定される。なお、前述した規定に関わらず、枝肉が予め定められた条件に該当する場合には、1等級下に格付けされる場合があるが、供試牛10頭については何れも該当しなかった。
【0115】
また「肉質」の等級は、「脂肪交雑(霜降り)」、「肉の色沢」、「肉の締まり及びきめ」、「脂肪の色沢と質」の4項目から決定されるが、これらの項目別の等級のうち、最も低い等級に格付けされるように定められている。
【0116】
1)脂肪交雑(霜降り)の等級は、枝肉のロース芯部分に含まれる脂肪分(サシ)の蓄積具合から判定される。ここでの判定は、B(ビーフ)・M(マーブリング)・S(スタンダード)と称される12段階のチャート(通称B. M. S.)を基準として等級が判定される。具体的には
図14に示すように、B. M. S.がNo.8~No.12の場合、霜降りがかなり多いものとして等級「5」、B. M. S.がNo.5~No.7の場合、霜降りがやや多いものとして等級「4」、B. M. S.がNo.3~No.4の場合、霜降りが標準のものとして等級「3」、B. M. S.がNo.2の場合、霜降りがやや少ないものとして等級「2」、B. M. S.がNo.1の場合、霜降りがほとんどないものとして等級「1」と判定される。
【0117】
2)肉の色沢の等級は、枝肉の色を評価する基準と光沢のバランスによって判定される。ここでの判定は、B(ビーフ)・C(カラー)・S(スタンダード)と称される7段階のチャート(通称B. C. S.)を基準として等級が判定される。具体的には
図15に示すように、 B. C. SがNo.3~No.5の場合、肉色と光沢がかなり良いものとして等級「5」、B. C. SがNo.2~No.6の場合、肉色と光沢がやや良いものとして等級「4」、B. C. SがNo.1~No.6の場合、肉色と光沢が標準のものとして等級「3」、B. C. SがNo.1~No.7の場合、肉色と光沢が標準に準ずるものとして等級「2」、B. C. Sが等級5~2以外の場合、肉色と光沢が劣るものとして等級「1」と判定される。
【0118】
3)肉の締まり及びきめの等級は、枝肉の保水力を示す締まり、および生地のきめ細かさ等を元に判定される。ここでの判定は肉眼によって行われ、具体的には
図16に示すように、 かなり良いものは等級「5」、やや良いものは等級「4」、標準のものは等級「3」、標準に準ずるものは等級「2」、劣るものは等級「1」と判定される。
【0119】
4)脂肪の色沢と質の等級は、脂肪の色を評価する基準と脂肪の光沢と質のバランスによって判定される。ここでの判定は、B(ビーフ)・F(ファット)・S(スタンダード)と称される7段階のチャート(通称B. F. S.)を基準として等級が判定される。具体的には
図17に示すように、B. F. SがNo.1~No.4の場合、脂肪の色沢と質がかなり良いものとして等級「5」、B. F. SがNo.1~No.5の場合、脂肪の色沢と質がやや良いものとして等級「4」、B. F. SがNo.1~No.6の場合、脂肪の色沢と質が標準のものとして等級「3」、B. F. SがNo.1~No.7の場合、脂肪の色沢と質が標準に準ずるものとして等級「2」、B. F. Sが等級5~2以外の場合、脂肪の色沢と質が劣るものとして等級「1」と判定される。
【0120】
そして、肉質等級の最終判断は、先述した1)~4)の全4項目の審査結果から、最も低いランクのものを「肉質等級」として定める。例えば脂肪交雑(霜降り)の等級がランク3で、他は全てランク5だとしても、この牛肉の肉質等級は「3」と決定される。すなわち、肉質等級「5」の称号を得るには、全4項目の全てにおいて最高ランクの5とならなければならない。
【0121】
<<肥育試験の結果>>
図18は、肥育後の供試牛10頭の枝肉について、前述した格付けを行った結果を示している。格付けは、「歩留」に関する3等級(A,B,C)に、「肉質」に関する5段階のランク付けを付加したものであり、A5ランクが最も上質であり、C1ランクが最も低質となる。この格付けを参考にして、例えば卸売業者は枝肉を買い取り、さらに加工して一般の精肉店等に販売することになる。
【0122】
図18から明らかなように、燻炭使用群の格付けは、供試牛5頭のうち、A5ランクが1頭、A4ランクが4頭という結果となった。これに対して、対照群の格付けは、供試牛5頭のうち、最高でもB2ランクが2頭、B3ランクが1頭、C2ランクが1頭、C3ランクが1頭という結果となった。
【0123】
このような結果から、前述した燻炭(飼料添加物)を含有した飼料を給与することにより、肉牛の肉質等級向上の効果を奏することが新たに明らかとなり、肉牛の商品価値を高めることが可能となった。なお、各供試牛の出荷時の重量は、それぞれ個体差があるが、本肥育試験の期間中における増加体重については、若干の違いはあるものの大きな差は見られなかった。
【0124】
前述した飼料添加物製造装置10によれば、植物原料の最上層面から着火するため、上層の燻炭の中を植物原料の燻し焼き層において生じた燻煙は、当該位置よりも上層の既に燻炭となった層(炭化時燻炭層)の間を通るので、燻炭は燻煙中の成分によりpHが6.5~7.0になる。例えばpH6.5の燻炭は、牛の第一胃内でメタン生成を抑えるプロピオン酸を作る細菌等の有効な微生物の生育に適しており、当該微生物の増殖を促すことができる。また、前述したように燻煙には、プロピオン酸が2.20%と比較的多く含まれている。
【0125】
詳しく言えば、牛の第一胃は、微生物の働きで飼料を分解および発酵する。かかる過程でメタンが生成されると共に、牛のエネルギー源となるプロピオン酸が発生する。ここでプロピオン酸が多くなるほど、メタンの発生は抑えられることが知られている。また、メタンは牛のエネルギーとはならない。そのため、牛等の反芻動物は、メタンの生成で餌から摂取したエネルギーのかなりの割合を浪費している。この分をプロピオン酸の生成に向けられれば、より少ない飼料で牛を飼育することも可能である。
【0126】
以上より、牛にプロピオン酸をより多く与えることによって、メタンガスの発生は抑制され、飼料効率が良くなり、その結果として枝肉の状態が良くなって肉質が向上すると考えられる。なお、反芻動物から発生するメタンは、全世界で年間約20億トンと推定され、全世界で発生している温室効果ガスの約4%を占めるため、地球温暖化の原因のひとつと考えられている。よって、牛のメタン産生量の削減は、前述した肉質の向上だけでなく、地球温暖化の緩和の面での効果もあると考えられる。
【0127】
また、飼料添加物である燻炭の効果として、前述した肉牛の肉質等級向上だけでなく、糞尿中の悪臭や口臭も抑制することができる。さらに、牛だけでなく、豚や鶏に摂食させた場合にも、これらの糞尿の悪臭を抑制することができることが確かめられている。その理由としては、燻炭が動物体内における善玉菌を増加させることにより、善玉菌が飼料の消化や吸収の手助けし(整腸作用)、動物の食欲増進、成育、健康維持、免疫力の向上等の効果をもたらすためと考えられる。
【0128】
その他、燻炭を食用動物の糞尿に混ぜることにより、直接的に糞尿の臭いを低減することもできる。このような消臭効果は、燻炭の多孔質構造による大きな表面積により、有機物や窒素等を吸着しやすいためと推測される。従って、燻炭は畜舎の消臭効果に役立つものとなる。さらに、燻炭は、魚介類や海老等の養殖場における水質改善の資材としても活用することができる。
【0129】
[本発明の構成と作用効果]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に限定されるものではない。前述した実施形態から導かれる本発明について、以下に説明する。
【0130】
先ず、本発明は、イネの籾殻を主とする植物原料から食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する装置10であって、
前記植物原料を投入する内部が、底側で空気を供給する給気室101と、その上側で前記植物原料が充填され、該植物原料に着火した最上層から最下層に向けて燻し焼き炭化が順次進行する炭化室102と、に区画された容器本体11と、
前記容器本体11の前記給気室101側の周壁に開設され、外部の空気を内部に自然に取り込み可能な通気口20と、
前記通気口20を、空気を取り込み可能な開状態と、空気の取り込みを停止する閉状態と、に開閉可能なシャッター22と、
前記シャッター22を、前記植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達するまで前記開状態に維持し、前記植物原料の燻し焼き炭化が最下層に到達したとき、当該部位の炭化熱に起因して前記閉状態とする開閉機構23と、を備え、
前記開閉機構23により前記シャッター22が閉状態となり、前記植物原料の燻し焼き炭化が終了したとき、該燻し焼き炭化の過程で発生していた燻煙中の成分を自然に含有した燻炭として、食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物が生成される構成であることを特徴とする。
【0131】
このような飼料添加物製造装置10によれば、食用動物の飼料添加物として燻炭を有効に利用するに際して、より良質な飼料添加物として燻炭を、簡易な構成でもって特別な動力源を必要とすることなく、確実に効率良く製造することができる。
【0132】
また、本発明では、前記容器本体11で前記炭化室102の少なくとも下部に、周壁が下方へ向かって漸次縮径するテーパー部111が形成され、
前記容器本体11の内部で前記テーパー部111の下側途中ないし下方に、前記給気室101と前記炭化室102とを区画するロストル12が略水平に配置されたことを特徴とする。
【0133】
このような構成によれば、植物原料の下層部分における未炭化部分の発生を防止することが可能となり、充填した全ての植物原料を従来の燻燃器よりも確実に炭化させることができる。
【0134】
また、本発明では、前記容器本体11における前記テーパー部111の下方に、該テーパー部111の下端と同一径で垂下する本体下小径部112が形成され、
前記本体下小径部112の途中に、前記ロストル12が配置されると共に、該ロストル12の下側に前記通気口20が開設され、
前記開閉機構23は、前記シャッター22を前記容器本体11の内側から支えて前記通気口20を開状態とし、前記植物原料の炭化熱により少なくとも一部が焼失すると、前記シャッター22の支えが外れて前記通気口20を閉状態とする支持部を備えることを特徴とする。
【0135】
このような構成によれば、容器本体11における燻し焼き炭化に最適な空気の導入と、この炭化の終了後における燻し焼きの消火とを、それぞれ容易かつ確実に行うことが可能となる。
【0136】
また、本発明は、前記容器本体11の天側に設けられ、前記炭化室102で生じる燻煙を自然排気するための煙突30を備え、
前記煙突30は、基端側から先端側に向かって直線状に連なる複数の長筒部33を有して成り、
前記複数の長筒部33のうち最も基端側の長筒部33は、前記容器本体11の天側に対して回動可能に支持され、前記煙突30全体の水平面に対する傾斜角度を調整可能であり、
前記複数の長筒部33のうち使用する長筒部33の数の選択により、前記煙突30全体の長さを調整可能であることを特徴とする。
【0137】
このような構成によれば、煙突30における長筒部33の数の選択や全体的な傾斜角度の調整によって、容器本体11における排気条件を最適な条件に容易に設定することが可能となり、いっそう効率良く肉質等級向上の効果が高い燻炭を得ることができる。
【0138】
また、本発明は、前述の飼料添加物製造装置10を使用して食用動物の肉質等級向上用の飼料添加物を製造する方法であって、
前記炭化室102に充填した前記植物原料を、着火した天側の最上層から底側の下層に向けて燻し焼きを順次進行させ、灰化させない温度条件下で炭化させつつ、炭化の過程で生じた燻煙中に含まれる成分(籾酢液の原料)を自然に含有させた燻炭とする燻燃工程と、
前記植物原料の炭化が最下層まで到達したとき、当該部位の炭化熱に起因して前記シャッター22が閉状態となり、前記通気口20からの空気の導入が停止して消火する消火工程と、を含むことを特徴とする。
【0139】
このような飼料添加物製造方法によれば、食用動物の飼料添加物として燻炭を有効に利用するに際して、より良質な飼料添加物として燻炭を、従来の燻燃器と比べてもコスト高を招くことなく、確実に効率良く製造することができる。
【0140】
また、本発明は、前記燻燃工程における前記炭化室102内の最高温度が500℃以下となるように、前記通気口20による送気条件および前記煙突30による排気条件を予め設定することを特徴とする。
【0141】
これにより、植物原料を燻し焼き炭化させる際に、灰化することを防止することができ、従来よりもpH値のばらつきが少なく、肉質等級向上の効果に優れた燻炭を得ることができる。
【0142】
以上、本発明の実施形態を図面によって説明してきたが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0143】
本発明である飼料添加物の製造装置および製造方法は、畜産業界において有効利用することができる。
【符号の説明】
【0144】
10…飼料添加物製造装置
11…容器本体
101…給気室
102…炭化室
111…本体下逆円錐台部
112…本体下小径部
113…本体上円錐台部
114…本体上小径部
115…底蓋
116…天蓋
12…ロストル
13…支持機構
20…通気口
21…フード部
22…シャッター
23…開閉機構
30…煙突
31…エルボ
32…チーズ
33…長筒部
34…トップ
35…支柱