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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178991
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】温度測定装置及び温度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/00 20220101AFI20241219BHJP
   G01J 5/06 20220101ALI20241219BHJP
   G01J 5/08 20220101ALI20241219BHJP
【FI】
G01J5/00 101Z
G01J5/06
G01J5/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097459
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】林 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】倉持 尚史
【テーマコード(参考)】
2G066
【Fターム(参考)】
2G066AC11
2G066BA23
(57)【要約】
【課題】赤外線センサーを用いて運転中の玉軸受の鋼球の温度測定を正確に行なうことができる温度測定装置及び温度測定方法を提供する。
【解決手段】温度測定装置20は、内輪2と、外輪3と、鋼球である玉4と、を備える玉軸受1の玉4の温度を測定する温度測定装置であって、玉4から回転軸線H方向に離れて位置し、玉4から入射する赤外線を検知する赤外線センサー27と、赤外線センサー27と玉4との間に位置する偏光フィルター23と、を備え、偏光フィルター23は、玉軸受1のうち赤外線センサー27に近い側の口元31を通じて玉軸受1の外部から玉4の表面に入射する赤外線R9のすべてを通過させるように配置されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、鋼球である玉と、を備える玉軸受の前記玉の温度を測定する温度測定装置であって、
前記玉から回転軸線方向に離れて位置し、前記玉から入射する赤外線を検知する赤外線センサーと、
前記赤外線センサーと前記玉との間に位置する偏光フィルターと、を備え、
前記偏光フィルターは、
前記玉軸受の前記赤外線センサー側の口元を通じて前記玉軸受の外部から前記玉の表面に入射する赤外線のすべてを通過させるように配置されている、温度測定装置。
【請求項2】
内輪と、外輪と、鋼球である玉と、を備える玉軸受の前記玉の温度を測定する温度測定装置であって、
前記玉から回転軸線方向に離れて位置し、前記玉から入射する赤外線を検知する赤外線センサーと、
前記赤外線センサーと前記玉との間に位置する偏光フィルターと、を備え、
前記偏光フィルターは、
前記玉の表面から前記内輪及び前記外輪に交差せずに前記赤外線センサー側に引き出される仮想半直線のすべてに交差するように配置されている、温度測定装置。
【請求項3】
前記偏光フィルターは、前記内輪及び前記外輪に近接し前記玉軸受の前記赤外線センサー側の口元を塞ぐように配置されている、請求項1又は2に記載の温度測定装置。
【請求項4】
内輪と、外輪と、鋼球である玉と、を備える玉軸受の前記玉の温度を赤外線センサーで測定する温度測定方法であって、
前記赤外線センサーには、前記玉から放射された放射赤外線と、前記玉軸受の外部から前記玉の表面に入射して前記玉の表面で反射された外来赤外線と、が入射し、
すべての前記外来赤外線が、前記玉の表面に入射する前に偏光フィルターを通過する、温度測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度測定装置及び温度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、赤外線カメラを用いて対象物の温度を測定する温度測定方法が知られている。この測定方法では、赤外線カメラの赤外線センサーによって対象物の赤外線イメージが取得され、対象物が放射する赤外線の強度に基づいて対象物の温度が取得される。ここで、対象物から赤外線センサーに入射する赤外線には、対象物が放射する赤外線のみならず、対象物で反射された周囲からの赤外線も含まれるので、反射に係る赤外線の割合が高い場合には正確な温度測定ができない。従って、対象物の赤外線の反射率が高い(放射率が低い)場合には、当該対象物の表面に黒体塗装を施して反射率を低下させるといった対策が考えられる(例えば、下記の非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】”技術情報”、[online]、株式会社ビジョンセンシング、[令和5年3月30日検索]、インターネット<URL:https://www.vision-sensing.jp/tech_kiso_0070.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
赤外線センサーを用いた温度測定において、玉軸受の玉を対象物とし、この玉が鋼球である場合を考える。鋼球は金属表面をもち反射率が高い(放射率が低い)ので、正確な温度測定を行なうために前述のように黒体塗装を鋼球に施すことも考えられる。しかしながら、玉軸受の鋼球は、滑らかに回転するための高い精度が要求されるので、鋼球表面に塗装を施すなどの対策を行うことはできない。そこで、本発明は、赤外線センサーを用いて運転中の玉軸受の鋼球の温度測定を正確に行なうことができる温度測定装置及び温度測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の要旨は以下の〔1〕~〔4〕に存する。
【0006】
〔1〕 内輪と、外輪と、鋼球である玉と、を備える玉軸受の前記玉の温度を測定する温度測定装置であって、前記玉から回転軸線方向に離れて位置し、前記玉から入射する赤外線を検知する赤外線センサーと、前記赤外線センサーと前記玉との間に位置する偏光フィルターと、を備え、前記偏光フィルターは、前記玉軸受の前記赤外線センサー側の口元を通じて前記玉軸受の外部から前記玉の表面に入射する赤外線のすべてを通過させるように配置されている、温度測定装置。
【0007】
この温度測定装置によれば、玉軸受の外部からの赤外線は、すべて偏光フィルターを通過し偏光して玉の表面に入射する。偏光光の反射率は自然光に比較して低いので、玉の表面で反射して赤外線センサーに向かう外部からの赤外線は低減される。その結果、玉の表面で反射される外部からの赤外線が低減され、玉の温度測定を正確に行なうことができる。
【0008】
〔2〕 内輪と、外輪と、鋼球である玉と、を備える玉軸受の前記玉の温度を測定する温度測定装置であって、前記玉から回転軸線方向に離れて位置し、前記玉から入射する赤外線を検知する赤外線センサーと、前記赤外線センサーと前記玉との間に位置する偏光フィルターと、を備え、前記偏光フィルターは、前記玉の表面から前記内輪及び前記外輪に交差せずに前記赤外線センサー側に引き出される仮想半直線のすべてに交差するように配置されている、温度測定装置。
【0009】
この温度測定装置によれば、内輪及び外輪を避けて玉の表面に入射する赤外線は、すべて、玉の表面に入射する前に偏光フィルターを通過し偏光する。偏光光の反射率は自然光に比較して低いので、玉の表面で反射して赤外線センサーに向かう赤外線は低減される。その結果、玉の表面で反射される外部からの赤外線が低減され、玉の温度測定を正確に行なうことができる。
【0010】
〔3〕 前記偏光フィルターは、前記内輪及び前記外輪に近接し前記玉軸受の前記赤外線センサー側の口元を塞ぐように配置されている、〔1〕又は〔2〕に記載の温度測定装置。
【0011】
〔4〕 内輪と、外輪と、鋼球である玉と、を備える玉軸受の前記玉の温度を赤外線センサーで測定する温度測定方法であって、前記赤外線センサーには、前記玉から放射された放射赤外線と、前記玉軸受の外部から前記玉の表面に入射して前記玉の表面で反射された外来赤外線と、が入射し、すべての前記外来赤外線が、前記玉の表面に入射する前に偏光フィルターを通過する、温度測定方法。
【0012】
この温度測定方法によれば、玉軸受の外部から玉の表面に入射して反射され赤外線センサーに入射する外来赤外線は、すべて、玉の表面に入射する前に偏光フィルターを通過し偏光する。偏光光の反射率は自然光に比較して低いので、玉の表面で反射して赤外線センサーに向かう外部からの赤外線は低減される。その結果、玉の表面で反射される外部からの赤外線が低減され、玉の温度測定を正確に行なうことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、赤外線センサーを用いて運転中の玉軸受の鋼球の温度測定を正確に行なうことができる温度測定装置及び温度測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の温度測定装置及び温度測定方法が用いられる玉軸受の、回転軸線を含む断面における断面図である。
図2】温度測定装置及び玉軸受の、回転軸線Hを含む断面を取った断面図である。
図3】(a),(b)は、回転軸線を含む断面を取った玉軸受の断面図である。
図4】回転軸線を含む断面を取った玉軸受の断面図である。
図5】偏光光の入射角と反射率との関係を示すグラフである。
図6】(a)~(c)は、本発明者らによる実験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら本発明に係る温度測定装置及び温度測定方法の実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は、本実施形態の温度測定装置及び温度測定方法の対象である玉軸受1を示し、当該玉軸受1の回転軸線Hを含む断面における断面図である。玉軸受1は、例えば深溝玉軸受である。以下の説明において、断りなく「軸方向」、「径方向」、「周方向」というときには、それぞれ、玉軸受1の回転軸線方向、回転径方向、回転周方向を意味するものとする。各図中において、軸方向を矢印Aで、径方向を矢印Rで、周方向を矢印Cで示す場合がある。
【0017】
図1に示されるように、玉軸受1は、内輪2、外輪3、複数の玉4、保持器5、及び一対のシール6を備えている。内輪2は円環状の部材であり、内輪2の外周面には、周方向に延びる内輪軌道面2a及び一対のシール溝2bが設けられている。外輪3は、内輪2と同心の円環状の部材であり、外輪3の内周面には、周方向に延びる外輪軌道面3a及び一対のシール溝3bが設けられている。
【0018】
複数の玉4は、それぞれ球形状をなし、内輪2の内輪軌道面2aと外輪3の外輪軌道面3aとの間に挟み込まれ、保持器5に保持された状態で周方向に1列に並ぶように配置されている。保持器5は、内輪2と外輪3との間に当該内輪2及び外輪3と同心で配置された環状の部材である。保持器5は、複数の玉4をそれぞれ転動自在に保持するとともに玉4同士の周方向間隔を規制する。保持器5に保持された各玉4は、例えば周方向に等ピッチで並んでいる。内輪2、外輪3、及び玉4の各材料としては、軸受鋼、特殊熱処理がされた鋼材、ステンレス、などの、軸受に使用可能な鋼材全般が採用され得る。シール6は、玉軸受1の内部の空間を塞ぐ円環状の部材である。例えば、シール6は非接触式シールであり、シール6の外周側端部6aが外輪3のシール溝3bに嵌め込まれ、内周側端部6bが内輪2のシール溝2b内に接触しないように差し込まれている。一対のシール6,6は、互いに同じ構成をなしている。
【0019】
玉4は、玉軸受1の焼付きのメカニズムに最も関連する部品であるので、例えば、試験や研究の目的で回転中における玉4の温度測定がされる場合がある。本実施形態の温度測定装置及び温度測定方法は、玉軸受1の玉4の温度を測定するものである。本実施形態における玉4は鋼球である。図2は、本実施形態の温度測定装置20及び玉軸受1の、回転軸線Hを含む断面を取った断面図である。
【0020】
温度測定装置20は、玉4の赤外線イメージを撮像する赤外線カメラ21と、玉4と赤外線カメラ21との間に位置する偏光フィルター23と、を備えている。温度測定装置20は、例えばフレーム等(図示せず)を備え、当該フレーム等に玉軸受1、赤外線カメラ21、及び偏光フィルター23が固定されることで各部の互いの位置関係が維持されてもよい。また、温度測定装置20は、赤外線カメラ21に接続されるコンピューター25を更に備えている。
【0021】
赤外線カメラ21は、玉4から軸方向に離れた位置で玉4に向けた姿勢で設置される。赤外線カメラ21には、玉4から入射する赤外線を検知し玉4の赤外線イメージを取得するための赤外線センサー27が内蔵されている。図2の例では、赤外線カメラ21の光軸Dは、玉軸受1の回転軸線Hに平行であり、玉4の中心の軌道に交差している。但し、玉4を撮像可能であれば、光軸Dが、玉軸受1の回転軸線Hに対してある程度傾いていてもよく、玉4の中心の軌道からある程度ずれていてもよい。赤外線カメラ21としては、例えば、赤外線ハイスピードカメラが採用される。玉軸受1は、シール6が除去され玉4が外部に露出した状態とされる。従って、玉4は、玉軸受1の赤外線センサー27側の口元31を通じて赤外線センサー27から見通すことができる。
【0022】
コンピューター25は、赤外線カメラ21を制御するとともに、赤外線カメラ21から入力された電気信号を処理する。そして、コンピューター25は、赤外線センサー27に入射する赤外線の強度に基づいて、玉軸受1の赤外線イメージ情報を得る。また、赤外線強度と温度との相関関係に基づいて、玉4の温度を認識する。コンピューター25は、測定された玉4の温度をディスプレイ表示するなどしてユーザに提示してもよい。
【0023】
偏光フィルター23は、軸方向を厚み方向とする板状をなす。偏光フィルター23は、測定対象である玉4に近接して配置されており、より具体的には、玉軸受1に対し軸方向に僅かな隙間をあけて位置し、玉軸受1の口元31に近接して配置されている。赤外線センサー27側から軸方向の視線で見て、偏光フィルター23は口元31を完全に覆い隠している。すなわち、偏光フィルター23は、口元31に沿った円環状をなしており、口元31よりも広い径方向幅をもち、口元31から外周側及び内周側の両方にはみ出している。偏光フィルター23は、内輪2の内周面から外輪3の外周面まで亘る径方向幅で存在してもよい。偏光フィルター23は、赤外線領域に直線偏光の効果を持つフィルターであればよい。偏光フィルター23は、ワイヤーグリッド方式のものであってもよく、張り合わせ式のシート式の偏光シートであってもよい。
【0024】
温度測定装置20による温度測定中はシール6が除去されているので、図3(a)に示されるように、口元31を通じて玉軸受1の外部から玉4の表面に入射する赤外線R9が存在する。このような赤外線R9を偏光することを目的として、偏光フィルター23が存在している。
【0025】
偏光フィルター23の配置についてより詳細に説明する。偏光フィルター23は、上記のような赤外線R9のすべてを通過させるように配置されている。図3(a)に例示される断面形状の玉軸受1においては、最も内周側から入射し得る赤外線R9の光路R9aは、内輪2の口元縁部31aを通り玉4の表面に接する直線で表される。また、最も外周側から入射し得る赤外線R9の光路R9bは、外輪3の口元縁部31bを通り玉4の表面に接する直線で表される。従って、玉軸受1の外部から玉4の表面に入射する赤外線R9のすべてが偏光フィルター23を通過するためには、偏光フィルター23が、光路R9aと光路R9bとの両方に交差するような径方向幅及び位置で配置されればよい。
【0026】
また、偏光フィルター23の配置について次のような説明も可能である。図3(b)に示されるように、回転軸線Hを含む断面内で、玉4の表面の任意の位置から内輪2及び外輪3に交差せずに赤外線センサー27側に引き出される仮想半直線Lを考える。偏光フィルター23は、このような仮想半直線Lのすべてに交差するように配置されている。図3(b)に例示される断面形状の玉軸受1においては、上記の仮想半直線Lのうち最も内周側に引き出される半直線Laは、内輪2の口元縁部31aを通り玉4の表面に接する半直線で表される。また、最も外周側に引き出される半直線Lbは、外輪3の口元縁部31bを通り玉4の表面に接する半直線で表される。従って、偏光フィルター23が仮想半直線Lのすべてに交差するためには、偏光フィルター23が、半直線Laと半直線Lbとの両方に交差するような径方向幅及び位置で配置されればよい。
【0027】
なお、内輪2の断面形状によっては、上記半直線Laは、口元縁部31aを通るものであるとは限らない。例えば、半直線Laが内輪2の外径面とシール溝2bとの角部を通る場合もある。同様に、上記半直線Lbは、口元縁部31bを通るものであるとは限らず、例えば、半直線Lbが外輪3の内径面とシール溝3bとの角部を通る場合もある。
【0028】
上記のような配置の条件を効率的に満足するために、偏光フィルター23は、内輪2及び外輪3の軸方向の端面に対し軸方向に僅かな隙間をあけて近接して配置され、口元31を塞ぐように配置されている。偏光フィルター23と、内輪2及び外輪3と、の間の軸方向の隙間は、より小さい方が好ましい。但し、偏光フィルター23が内輪2又は外輪3の回転を阻害しないためのクリアランスを確保する必要がある。すなわち、偏光フィルター23は軸方向に最低限の上記クリアランス分の隙間をあけて内輪2及び外輪3に近接して配置されることが好ましい。
【0029】
以上のような温度測定装置20で得られる作用効果について説明する。
【0030】
前述の通り、赤外線カメラ21の赤外線センサー27は玉4から入射する赤外線を検知する。図4に示されるように、玉4から赤外線センサー27に入射する赤外線には、玉4から放射された放射赤外線R1と、玉4以外に由来する外来赤外線R2と、が含まれている。外来赤外線R2は、玉軸受1の外部から玉4の表面に入射し、玉4の表面で反射されて赤外線センサー27に入射されるものである。すなわち、赤外線センサー27には、上記のような放射赤外線R1と外来赤外線R2とが入射し、これらが合わさって赤外線センサー27で検知される。玉4の正確な温度測定のためには、ノイズである外来赤外線R2を低減することが必要である。玉4は鋼球であるので、反射率が大きく、放射赤外線R1に対する外来赤外線R2が大きくなる傾向にある。外来赤外線R2を低減する手法として黒体塗装を玉4に施すことなども考えられるが、玉軸受1の玉4には、滑らかに回転するための高い精度が要求されるので、塗装などの対策を行うことはできない。
【0031】
また、外来赤外線R2には赤外線センサー27に由来するものも含まれる。すなわち、玉4は球体であるので、赤外線センサー27が発する赤外線が入射角0°で入射する点が玉4の表面上に必ず存在する。そうすると、赤外線センサー27から発し上記の点で反射された赤外線は、外来赤外線R2の一部として赤外線センサー27に再び入射する。赤外線センサー27は、赤外線のエネルギーを吸収するという性質により非常に低温であるので、赤外線センサー27に由来する外来赤外線R2は特に大きいノイズになり得る。
【0032】
この対策として、温度測定装置20は、前述のように配置された偏光フィルター23を備えている。偏光フィルター23の存在により、玉軸受1の外部から口元31を通じて玉4の表面に入射する赤外線は、すべて、偏光フィルター23を通過する。よって、外来赤外線R2はすべて、玉4の表面に入射する前に偏光フィルター23を通過する。偏光フィルター23で偏光された外来赤外線R2は、玉4の表面に入射して反射され、再び偏光フィルター23を通過して赤外線センサー27に入射する。すなわち、偏光フィルター23は、玉軸受1の外部から玉4の表面に入射し玉4の表面で反射されて赤外線センサー27に入射する外来赤外線R2のすべてを、玉4の表面に入射する前に通過させるものである。
【0033】
ここで、フルネル係数やスネルの法則を利用して偏光光の入射角と反射率との関係を求めると、図5のようなグラフが得られる。赤外線センサー27による玉4の温度測定において問題になり得る外来赤外線R2は、入射角0°付近のものである。図5によれば、入射角0°付近においては、p偏光及びs偏光の反射率はともに最大でも20%程度であるので、偏光光の反射率は最大でも20%程度に抑えられることが判る。
【0034】
偏光フィルター23を備える温度測定装置20では、赤外線センサー27由来の外来赤外線R2も含め、外来赤外線R2が玉4の表面に入射する前に偏光フィルター23を1回目に通過し偏光光となる。これにより、外来赤外線R2が偏光フィルター23を通過する前の自然光である場合に比較して、玉4の表面で反射される外来赤外線R2は低減される。またその後、外来赤外線R2は偏光フィルター23を2回目に通過することで更に減衰して赤外線センサー27に入射する。その結果、赤外線センサー27に入射する外来赤外線R2が低減される。一方、玉4から放射された放射赤外線R1は、偏光フィルター23を1回だけ通過する際に非偏光光がカットされて減衰し、赤外線センサー27に入射する。従って、温度測定装置20及び上記温度測定方法によれば、放射赤外線R1に対する外来赤外線R2が低減され、放射赤外線R1の放射率が外来赤外線R2に対して相対的に高くなり、その結果、鋼球である玉軸受1の玉4の温度測定を正確に行なうことができる。
【0035】
図6は、本発明者らによる実験の結果を示す。図6(a)は、60℃に恒温された鋼球を赤外線カメラで温度測定し、測定値が60℃になるように合わせ込んだ放射率を示すものである。グラフG1は鋼球の温度を直接測定した場合の放射率であり、グラフG2は鋼球の直近に配置した偏光フィルターを通して鋼球の温度を測定した場合の放射率である。グラフG1とグラフG2との比較によれば、偏光フィルターの存在により、赤外線カメラに入射する赤外線が0.42から0.45に増加したことが判る。
【0036】
また、図6(b)は、60℃に恒温された他のサンプルを同様に測定した結果である。このサンプルは極めて高い放射率をもつものであり、サンプルの表面で反射される赤外線の影響は極めて小さいと考えてよい。グラフG3は上記サンプルの温度を直接測定した場合の放射率であり、グラフG4はサンプルの直近に配置した偏光フィルターを通してサンプルの温度を測定した場合の放射率である。
【0037】
グラフG3とグラフG4との比較によれば、赤外線カメラに入射する赤外線は、偏光フィルターを通過することにより0.92から0.61に減衰することが判る。このような偏光フィルター通過による減衰率を勘案して図6(a)のグラフG1,G2の放射率を補正すると、それぞれ、図6(c)のグラフG11,G12ようになる。すなわち、グラフG11,G12には、鋼球から赤外線センサーに向かう赤外線が偏光フィルターを通過することによる影響が除去され、外部から鋼球に向かう赤外線が偏光フィルターを通過することによる影響が反映されていると考えてよい。
【0038】
グラフG11に示されるように、鋼球を直接測定した場合には放射率が0.42といった低いものであるので、正確な温度測定は難しい。これに比較して、グラフG12に示されるように、鋼球の直近に偏光フィルターを配置した場合には、放射率が0.68に向上するといった効果が得られる。この0.68といった放射率であれば、比較的高精度に鋼球の温度測定が可能である。よって、本実施形態の温度測定装置20では、偏光フィルター23の存在により前述の作用効果が得られることが確認された。
【0039】
本発明は、上述した実施形態を始めとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した様々な形態で実施することができる。また、上述した実施形態に記載されている技術的事項を利用して変形例を構成することも可能である。各実施形態等の構成を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0040】
例えば、実施形態の温度測定方法では、玉軸受1の外部から口元31を通じて玉4の表面に入射する赤外線のすべてを偏光フィルター23に通過させている。本発明の温度測定方法では、玉軸受1の外部から口元31を通じて玉4の表面に入射する赤外線のうち、少なくとも玉4の表面で反射されて最終的に赤外線センサー27に入射するものを、すべて、玉4の表面に入射する前に偏光フィルター23に通過させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0041】
1…玉軸受、2…内輪、3…外輪、4…玉、20…温度測定装置、23…偏光フィルター、27…赤外線センサー、31…口元、L…仮想半直線、R1…放射赤外線、R2…外来赤外線、R9…赤外線。
図1
図2
図3
図4
図5
図6