(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024178995
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】箸
(51)【国際特許分類】
A47G 21/10 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
A47G21/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097466
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】399048917
【氏名又は名称】日立グローバルライフソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】網野 梓
(72)【発明者】
【氏名】林 正二
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 功一
(72)【発明者】
【氏名】伊奈 深雪
(72)【発明者】
【氏名】京谷 浩平
【テーマコード(参考)】
3B115
【Fターム(参考)】
3B115AA00
3B115BA04
3B115DC01
3B115DC03
(57)【要約】
【課題】食品の摂取者に対して忌避感を与えることなく、摂食された食品の具体的なテクスチャを把握することの可能な箸を提供する。
【解決手段】一対の棒状部材を備えた箸であって、前記棒状部材の先端部分が閉じて食品を挟持したときの荷重を測定する荷重測定手段と、前記棒状部材の相対関係を計測する相対関係計測手段と、を有する。望ましくは、前記箸は、前記荷重測定手段が測定した荷重、及び、前記相対関係計測手段が計測した相対関係、に基づいて、前記棒状部材による把持力、前記食品の重量、及び、前記先端部分どうしの先端距離を演算する演算部をさらに有する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の棒状部材を備えた箸であって、
前記棒状部材の先端部分が閉じて食品を挟持したときの荷重を測定する荷重測定手段と、
前記棒状部材の相対関係を計測する相対関係計測手段と、を有することを特徴とする箸。
【請求項2】
請求項1に記載の箸において、
前記荷重測定手段が測定した荷重、及び、前記相対関係計測手段が計測した相対関係、に基づいて、前記棒状部材による把持力、前記食品の重量、及び、前記先端部分どうしの先端距離を演算する演算部をさらに有することを特徴とする箸。
【請求項3】
請求項2に記載の箸において、
前記棒状部材の姿勢を検出する姿勢検出手段をさらに有し、
前記荷重測定手段は、前記先端部分が閉じる方向である第1軸方向の前記把持力と、前記棒状部材の長手方向及び前記第1軸方向に略垂直な方向である第2軸方向の力と、を測定し、
前記演算部は、前記姿勢検出手段が検出した姿勢を用いて、前記第2軸方向の力を補正して前記食品の重量を演算することを特徴とする箸。
【請求項4】
請求項2に記載の箸において、
1対の前記棒状部材の後部を連結するとともに、中心の回動軸により前記棒状部材を回動可能とする回動部をさらに備え、
前記相対関係計測手段は、前記棒状部材の回動角度を計測する回動角度計測手段であり、
前記演算部は、前記回動角度計測手段が計測した回動角度に基づき、前記先端距離を演算することを特徴とする箸。
【請求項5】
請求項2に記載の箸において、
前記把持力、前記重量及び前記先端距離の情報を端末装置へ送信する通信部をさらに有し、
前記端末装置が、前記通信部から受信した情報に基づいて、前記食品の属性を推定することを特徴とする箸。
【請求項6】
請求項5に記載の箸において、
前記端末装置は、
前記把持力、前記重量及び前記先端距離の3つのパラメータのうち、少なくとも2つで前記食品のテクスチャを分類するテーブルを予め有し、
前記情報と前記テーブルを参照することで、前記食品の属性を推定することを特徴とする箸。
【請求項7】
請求項2に記載の箸において、
前記演算部は、前記把持力、前記重量及び前記先端距離の情報に基づいて、前記食品の属性を推定することを特徴とする箸。
【請求項8】
請求項2に記載の箸において、
前記食品又は人体が接触したことを検知する接触検知手段をさらに備え、
前記演算部は、前記接触検知手段による検知情報をトリガとして、前記把持力、前記重量及び前記先端距離を演算することを特徴とする箸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、箸に関する。
【背景技術】
【0002】
食事中の行動、特に、摂食したメニュー、摂食の順序やペース等の把握のため、様々なセンシングシステムが提案されている。例えば、特許文献1には、食事用具である箸に、カメラや重量計等を設け、食品の種類や重量等を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、食事中のカメラによる撮影は、食品の摂取者によっては忌避感を与える可能性がある。一方、食品の重量を検出するだけでは、摂取された食品の具体的なテクスチャ(柔らかさ、摩擦、密度等)を把握することは困難である。
【0005】
本発明の目的は、食品の摂取者に対して忌避感を与えることなく、摂食された食品の具体的なテクスチャを把握することの可能な箸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたものであり、一対の棒状部材を備えた箸であって、前記棒状部材の先端部分が閉じて食品を挟持したときの荷重を測定する荷重測定手段と、前記棒状部材の相対関係を計測する相対関係計測手段と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、食品の摂取者に対して忌避感を与えることなく、摂食された食品の具体的なテクスチャを把握することの可能な箸を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る食事用具である箸の全体構成を示す図。
【
図2】箸の一部(食品挟持部)を長手方向に引き抜いた状態を示す図。
【
図3】本実施形態に係る食事行動センシングシステムの構成を示す機能ブロック図。
【
図4】先端距離と把持力の2つのパラメータで食品のテクスチャを分類するテーブルの一例。
【
図5】先端距離と重量の2つのパラメータで食品のテクスチャを分類するテーブルの一例。
【
図6】把持力と重量の2つのパラメータで食品のテクスチャを分類するテーブルの一例。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0010】
まず、本実施形態に係る食事用具である箸の構造を、
図1及び
図2に基づき説明する。
図1は、本実施形態に係る食事用具である箸の全体構成を示す図であり、
図2は、箸の一部(食品挟持部)を長手方向に引き抜いた状態を示す図である。
【0011】
図1に示すように、箸100は、一対の棒状部材で構成され、それぞれの棒状部材は、食品の摂取者の手指等によって把持される把持部1R,1Lと、食品を挟持する食品挟持部2R,2Lと、把持部1R,1Lと食品挟持部2R,2Lの間に設けられて互いを連結する連結部3R,3Lと、を備える。
【0012】
把持部1R,1Lには、演算部20と、後述の端末装置101と通信するための通信部22と、棒状部材の姿勢を検出する姿勢検出手段12と、これらを駆動するためのバッテリ23と、が内蔵されている。姿勢検出手段12には、加速度センサ、角速度センサ、地磁気センサ等のうちのいずれか、又は、これらを組み合わせたものが用いられる。なお、演算部20、通信部22、姿勢検出手段12及びバッテリ23は、把持部1R,1Lのうちのどちらか一方に内蔵されても良いし、分散して内蔵されても良い。把持部1R,1Lは、摂取者が食事の際に把持する部分であるため、その表面は、滑らかかつ適度な摩擦のある材質や形状が望ましい。
【0013】
食品挟持部2R,2Lは、食品又は人体(主に口)が接触したことを検知する接触検知手段11を備えている。接触検知手段11として静電容量センサが用いられる場合、食品挟持部2R,2Lの材質は、導電性の素材(例えば金属製)が望ましい。演算部は、接触検知手段11の測定値を監視し、所定の変化があった場合に、食品挟持部2R,2Lが皿等の上の食品から離間したこと、食品挟持部2R,2Lが摂取者の口に接触したこと、等の検知が可能である。なお、口に接触した場合は、食品に接触した場合と比べて、静電容量の変化がより大きくなるため、異なる閾値を設けることで、接触対象を区別できる。
【0014】
連結部3R,3Lは、棒状部材の先端部分(食品挟持部2R,2L)が閉じて食品を挟持したときの荷重を測定する荷重測定手段13として、例えばロードセルを有する。荷重測定手段13は、棒状部材の先端部分が閉じる方向(第1軸方向:
図1の矢印A1)の力である把持力だけでなく、棒状部材の長手方向及び第1軸方向に略垂直な方向(第2軸方向:
図1の矢印A2)の力も、測定が可能である。さらに、連結部3R,3Lは、
図2に示すように、把持部1R,1Lの先端に対して固定され、食品挟持部2R,2Lの後端に対しては着脱が可能となっている。具体的には、食品挟持部2R,2Lの後端側に形成された突起を、連結部3R,3Lの先端側に形成されたスリットに対して、所定の力で押し込むことで、突起とスリットが係合して装着される。なお、荷重測定手段13は、連結部3R,3Lのうちどちらか一方のみが有していても良い。
【0015】
また、本実施形態に係る箸100は、1対の把持部1R,1Lの後部を連結するとともに、中心の回動軸4により把持部1R,1Lを回動可能とする回動部5をさらに備える。回動部5は、摂取者の使い勝手を向上させるため、把持部1R,1Lが互いに離間する向きに回動するように付勢する機構を有するのが望ましい。さらに、回動部5は、棒状部材の相対関係を計測する相対関係計測手段14として、把持部1R,1Lの回動角度を計測する回動角度計測手段(図示せず)を有している。回動角度計測手段には、ロータリーエンコーダ、ポテンショメータ等が用いられる。回動角度計測手段の計測値は、演算部20に送られ、演算部20が、計測された回動角度と、棒状部材の既知の長さに基づいて、棒状部材の先端部分どうしの先端距離(
図1の矢印C)を演算する。
【0016】
なお、相対関係計測手段14には、回動角度計測手段以外のものが用いられても良い。例えば、相対関係計測手段14として、先端距離を直接計測する光学センサが、食品挟持部2R,2Lに設けられても良い。
【0017】
図3は、本実施形態に係る食事行動センシングシステムの構成を示す機能ブロック図である。
図3に示すように、食事行動センシングシステムは、前述した箸100と、端末装置101と、により構成される。
【0018】
箸100は、センサ部10と、センサ情報記憶部21と、演算部20と、通信部22と、バッテリ23と、を備える。センサ部10には、前述した、接触検知手段11と、姿勢検出手段12と、荷重測定手段13と、相対関係計測手段14と、が含まれる。センサ情報記憶部21には、センサ部10が取得した情報が、演算部20によって記録される。演算部20は、センサ部10の各センサから入力された情報に基づいて所定の演算を行うものであり、マイコン等の比較的消費電力の少ないコントローラが望ましい。なお、演算部20は、図示しない時間計測手段を備えており、食事が開始されてからの時間も演算でき、食事開始時刻や食事終了時刻も演算し、センサ情報記憶部21に記録することが可能である。
【0019】
また、演算部20は、荷重測定手段13が測定した荷重、及び、相対関係計測手段14が計測した相対関係、に基づいて、棒状部材による把持力、食品の重量、及び、食品の大きさ(棒状部材の先端部分どうしの先端距離)を演算する。ここで、棒状部材による把持力は、荷重測定手段13が測定する第1軸方向の力が、そのまま用いられる。一方、食品の重量は、荷重測定手段13が測定する第2軸方向の力を、姿勢検出手段12が検出した姿勢の情報を用いて、演算部20が補正することにより、演算される。ただし、棒状部材の長手方向が水平状態にある場合は、第2軸方向が重力方向と一致するため、補正は不要となる。また、食品の重量等の演算は、接触検知手段11による検知情報をトリガとして、1口(1回の摂食)ごとに行われる。なお、1口の動作は、前述のように、接触検知手段11の測定値を監視することで、判定することが可能である。
【0020】
通信部22は、1口ごとに、把持力、重量及び先端距離の情報を端末装置101に送信するものである。通信部22は、Bluetooth(登録商標)や無線LANのような無線通信が可能であり、一定の時間間隔にて情報を送受信する。バッテリ23は、センサ部10の各センサ、演算部20及び通信部22を駆動するべく電源を供給する。なお、バッテリ23は、繰り返しの使用が想定されるため充電池が望ましいが、乾電池であっても良い。
【0021】
端末装置101は、箸100から受信した情報に基づいて、1口ごとの食品の属性を推定し、出力するものであり、例えば食品の摂取者が使用するスマートフォン等のタブレット端末である。
図3に示すように、端末装置101は、通信部32と、食品属性データベース34と、制御部30と、食事情報記憶部31と、表示部33と、を備える。
【0022】
通信部32は、箸100の通信部22からの情報を受信するものである。食品属性データベース34には、把持力、重量及び先端距離の3つのパラメータのうち、少なくとも2つで食品のテクスチャを分類するテーブルが、予め格納されている。制御部30は、通信部22を介して箸100から受信した、把持力、重量及び先端距離の情報と、食品属性データベース34内のテーブルを参照することで、1口ごとに摂取された食品の属性を推定する。食事情報記憶部31は、制御部30によって推定された食品の属性を、1口ごとに記録する。表示部33は、制御部30によって推定された情報や、食事情報記憶部31に記録された情報に基づいて、摂取された食品の進捗をダッシュボード等に表示する。表示部33には、摂取する食品の量が多過ぎたり少な過ぎたりした場合や、同じ属性のものを偏って摂取している場合等に、摂食者への注意喚起やアドバイスをするメッセージが表示されても良い。また、制御部30は、通信部22を介して箸100から受信した食事時間情報も用いて、食事する時間帯の変化や、摂取のペースの異常を、を表示部33に表示させても良い。
【0023】
以下、制御部30が、テーブルを参照して、食品の属性を推定する方法の具体例を説明する。
【0024】
図4は、先端距離と把持力の2つのパラメータで食品のテクスチャを分類するテーブルの一例である。先端距離が広く、把持力が大きい場合、掴みにくい食品(例えば塊の肉)であると推定できる。先端距離が広く、把持力が小さい場合、摩擦が大きい食品(例えば麩)であると推定できる。先端距離が狭く、把持力が大きい場合、摩擦が小さい食品(例えば小さな蒟蒻)であると推定できる。先端距離が狭く、把持力が小さい場合、引っ掛けて持つ麺類のような食品であると推定できる。ただし、先端距離を問わず、把持力が小さい場合は、摂取者が食品を突き刺している可能性もある。このように、
図4のテーブルを用いると、主に食品の摩擦や摂取者の持ち方に関する分類が可能である。
【0025】
図5は、先端距離と重量の2つのパラメータで食品のテクスチャを分類するテーブルの一例である。先端距離が広く、重量が重い場合、量の多い食品であると推定できる。先端距離が広く、重量が軽い場合、密度が低い食品(例えば刻んだキャベツ)であると推定できる。先端距離が狭く、重量が重い場合、密度が高い食品(例えば芋やトマト)であると推定できる。先端距離が狭く、重量が軽い場合、量の少ない食品であると推定できる。このように、
図5のテーブルを用いると、主に食品の量や密度に関する分類が可能である。
【0026】
図6は、把持力と重量の2つのパラメータで食品のテクスチャを分類するテーブルの一例である。把持力が大きく、重量が重い場合、量の多い食品であると推定できる。把持力が大きく、重量が軽い場合、摩擦が小さい食品であるか、摂取者の持ち方が異常である(例えば箸を使って肉を切ろうとしている)と推定できる。把持力が小さく、重量が重い場合、引っ掛けて持つ麺類のような食品であるか、摂取者が食品を突き刺していると推定できる。把持力が小さく、重量が軽い場合、量の少ない食品であると推定できる。このように、
図6のテーブルを用いると、主に食品の量や摂取者の持ち方に関する分類が可能である。
【0027】
以上述べた
図4~
図6のテーブルは、単独で推定に用いられても良いし、複数を組み合わせて推定に用いられても良い。
【0028】
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、前述の実施形態では、箸100から送信される把持力、重量及び先端距離の情報に基づいて端末装置101が食品の属性を推定したが、食品の属性の推定も箸100の演算部20が実行しても良い。また、食品属性データベース34は、食品の摂取者が使用する端末装置101でなく、箸100と通信接続されるサーバ等に格納されていても良い。
【符号の説明】
【0029】
1R,1L…把持部、2R,2L…食品挟持部、3R,3L…連結部、4…回動軸、5…回動部、10…センサ部、11…接触検知手段、12…姿勢検出手段、13…荷重測定手段、14…相対関係計測手段、20…演算部、21…センサ情報記憶部、22…通信部、23…バッテリ、30…制御部、31…食事情報記憶部、32…通信部、33…表示部、34…食品属性データベース、100…箸、101…端末装置