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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179005
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】極低温冷凍機
(51)【国際特許分類】
   F25B 9/14 20060101AFI20241219BHJP
【FI】
F25B9/14 530Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097479
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 潤
(57)【要約】
【課題】極低温冷凍機から発生する磁気ノイズを低減する。
【解決手段】極低温冷凍機10は、膨張機モータ40と、膨張機モータ40に接続された減速機41と、減速機41を囲む磁気シールド54と、を備える。磁気シールド54は、膨張機モータ40および減速機41を囲んでもよい。極低温冷凍機10は、磁気シールド54の外に配置された相手部品をさらに備え、減速機41は、磁気シールド54の外へと延出し、磁性材料で形成された出力軸41aを備え、出力軸41aは、相手部品とキー結合されてもよい。出力軸41aと相手部品を結合するキーが、非磁性材料で形成されていてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁モータと、
前記電磁モータに接続された減速機と、
前記減速機を囲む磁気シールドと、を備えることを特徴とする極低温冷凍機。
【請求項2】
前記磁気シールドは、前記電磁モータおよび前記減速機を囲むことを特徴とする請求項1に記載の極低温冷凍機。
【請求項3】
前記極低温冷凍機は、前記磁気シールドの外に配置された相手部品をさらに備え、
前記減速機は、前記磁気シールドの外へと延出し、磁性材料で形成された出力軸を備え、
前記出力軸は、前記相手部品とキー結合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の極低温冷凍機。
【請求項4】
前記出力軸と前記相手部品を結合するキーが、非磁性材料で形成されていることを特徴とする請求項3に記載の極低温冷凍機。
【請求項5】
前記キーを受けるキー溝が、前記出力軸上でその先端から前記磁気シールドに向けて形成されており、
前記キー溝の深さが、前記出力軸の前記先端で前記キー溝の幅の60%以下であることを特徴とする請求項4に記載の極低温冷凍機。
【請求項6】
前記キーを受けるキー溝が、前記出力軸上でその先端よりも前記磁気シールドに近い位置から前記磁気シールドに向けて形成されていることを特徴とする請求項4に記載の極低温冷凍機。
【請求項7】
前記出力軸と前記相手部品を結合するキーが、磁性材料で形成され、
前記キーを受けるキー溝が、前記出力軸に形成されており、
前記出力軸からの前記キーの径方向突出高さが、前記出力軸の先端で、前記出力軸の径の7%以下であることを特徴とする請求項3に記載の極低温冷凍機。
【請求項8】
前記出力軸と前記相手部品を結合するキーが、磁性材料で形成され、
前記キーを受けるキー溝が、前記出力軸上でその先端よりも前記磁気シールドに近い位置から前記磁気シールドに向けて形成されていることを特徴とする請求項3に記載の極低温冷凍機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷凍機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機の膨張機において、減速機を介して駆動モータを圧力制御バルブに接続する構成が知られている。このような極低温冷凍機の主な用途の一つとして、超伝導磁石の冷却がある。超伝導磁石により作られる強い静磁場は、例えば磁気共鳴イメージング(MRI)に利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-59646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上述の極低温冷凍機について検討し、以下の課題を認識した。歯車や軸など減速機の回転部品には、十分な強度を確保するために、浸炭、窒化など表面硬化処理が施された鋼材が用いられることが多い。こうした鋼材は磁性材料であるから、高磁場環境で回転するとき磁気ノイズを発生させうる。磁気ノイズは、MRIによる撮像に悪影響を及ぼしうる。
【0005】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、極低温冷凍機から発生する磁気ノイズを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある態様によると、極低温冷凍機は、電磁モータと、電磁モータに接続された減速機と、減速機を囲む磁気シールドと、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、極低温冷凍機から発生する磁気ノイズを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図2】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図3】実施の形態に係る極低温冷凍機を概略的に示す図である。
図4】実施の形態に係るコールドヘッドの運動変換機構の要部の分解斜視図を概略的に示す図である。
図5図5(a)から図5(f)は、キー結合の設計例を概略的に示す図である。
図6図6(a)から図6(f)は、キー結合の設計例を概略的に示す図である。
図7】キー結合の設計例を概略的に示す図である。
図8図5(a)から図5(f)、図6(a)から図6(f)、および図7に示されるキー結合の設計例について磁気ノイズの解析結果を示すグラフである。
図9】実施の形態に係り、磁気ノイズの寸法依存性を示すグラフである。
図10】実施の形態に係り、磁気ノイズの寸法依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0010】
図1から図3は、実施の形態に係る極低温冷凍機10を概略的に示す図である。図1には極低温冷凍機10のコールドヘッドの外観が示され、図2にはコールドヘッドの低温部の内部構造が示される。図3にはコールドヘッドの駆動部の内部構造が示される。極低温冷凍機10は通例、図示しない真空容器に、低温部が真空容器内に配置され駆動部が真空容器外の周囲環境(例えば室温大気圧環境)に配置されるようにして設置される。極低温冷凍機10は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機である。
【0011】
極低温冷凍機10は、圧縮機12と、膨張機14とを備える。圧縮機12は、極低温冷凍機10の作動ガスを膨張機14から回収し、回収した作動ガスを昇圧して、再び作動ガスを膨張機14に供給するよう構成されている。圧縮機12と膨張機14により極低温冷凍機10の冷凍サイクルが構成され、それにより極低温冷凍機10は所望の極低温冷却を提供することができる。膨張機14は、コールドヘッドともしばしば称される。作動ガスは、冷媒ガスとも称され、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。理解のために、作動ガスの流れる方向を図1に矢印で示す。
【0012】
なお、一般に、圧縮機12から膨張機14に供給される作動ガスの圧力と、膨張機14から圧縮機12に回収される作動ガスの圧力は、ともに大気圧よりかなり高く、それぞれ第1高圧及び第2高圧と呼ぶことができる。説明の便宜上、第1高圧及び第2高圧はそれぞれ単に高圧及び低圧とも呼ばれる。典型的には、高圧は例えば2~3MPaである。低圧は例えば0.5~1.5MPaであり、例えば約0.8MPaである。理解のために、作動ガスの流れる方向を矢印で示す。
【0013】
膨張機14は、冷凍機シリンダ16と、ディスプレーサ組立体(以下では単にディスプレーサと呼ぶこともある)18と、冷凍機ハウジング(以下、単にハウジングとも呼ぶ)20とを備える。冷凍機シリンダ16は、ディスプレーサ18の直線往復運動をガイドするとともに、ディスプレーサ18との間に作動ガスの膨張空間としての膨張室(32、34)を形成する。冷凍機シリンダ16は冷凍機ハウジング20に固定され、それにより、膨張機14の筐体が構成され、ディスプレーサ18を収容する気密空間が冷凍機シリンダ16内に形成される。
【0014】
本書では、極低温冷凍機10の構成要素間の位置関係を説明するために、便宜上、ディスプレーサの軸方向往復動の上死点に近い側を「上」、下死点に近い側を「下」と表記することとする。上死点は膨張空間の容積が最大となるディスプレーサの位置であり、下死点は膨張空間の容積が最小となるディスプレーサの位置である。極低温冷凍機10の運転時には軸方向上方から下方へと温度が下がる温度勾配が生じるので、上側を高温側、下側を低温側と呼ぶこともできる。
【0015】
冷凍機シリンダ16は、第1シリンダ16a、第2シリンダ16bを有する。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2シリンダ16bが第1シリンダ16aよりも小径である。第1シリンダ16aと第2シリンダ16bは同軸に配置され、第1シリンダ16aの下端が第2シリンダ16bの上端に剛に連結されている。
【0016】
ディスプレーサ組立体18は、互いに連結された第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bを備え、これらは一体に移動する。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは、一例として、円筒形状を有する部材であり、第2ディスプレーサ18bが第1ディスプレーサ18aよりも小径である。第1ディスプレーサ18aと第2ディスプレーサ18bは同軸に配置されている。
【0017】
第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに収容され、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに収容されている。第1ディスプレーサ18aは、第1シリンダ16aに沿って軸方向に往復移動可能であり、第2ディスプレーサ18bは、第2シリンダ16bに沿って軸方向に往復移動可能である。
【0018】
図2に示されるように、第1ディスプレーサ18aは、第1蓄冷器26を収容する。第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの筒状の本体部の中に、例えば銅などの金網またはその他適宜の第1蓄冷材を充填することによって形成されている。第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は第1ディスプレーサ18aの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第1ディスプレーサ18aの上蓋部および下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第1蓄冷材が第1ディスプレーサ18aに収容されてもよい。
【0019】
同様に、第2ディスプレーサ18bは、第2蓄冷器28を収容する。第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの筒状の本体部の中に、例えばビスマスなどの非磁性蓄冷材、HoCuなどの磁性蓄冷材、またはその他適宜の第2蓄冷材を充填することによって形成されている。第2蓄冷材は粒状に成形されていてもよい。第2ディスプレーサ18bの上蓋部および下蓋部は第2ディスプレーサ18bの本体部とは別の部材として提供されてもよく、第2ディスプレーサ18bの上蓋部の下蓋部は、締結、溶接など適宜の手段で本体に固定され、それにより第2蓄冷材が第2ディスプレーサ18bに収容されてもよい。
【0020】
ディスプレーサ18は、上部室30、第1膨張室32、第2膨張室34を冷凍機シリンダ16の内部に形成する。極低温冷凍機10によって冷却すべき所望の物体または媒体との熱交換のために、膨張機14は、第1冷却ステージ33と第2冷却ステージ35を備える。上部室30は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部と第1シリンダ16aの上部との間に形成される。第1膨張室32は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部と第1冷却ステージ33との間に形成される。第2膨張室34は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部と第2冷却ステージ35との間に形成される。第1冷却ステージ33は、第1膨張室32を取り囲むように第1シリンダ16aの下部に固着され、第2冷却ステージ35は、第2膨張室34を取り囲むように第2シリンダ16bの下部に固着されている。
【0021】
第1蓄冷器26は、第1ディスプレーサ18aの上蓋部に形成された作動ガス流路36aを通じて上部室30に接続され、第1ディスプレーサ18aの下蓋部に形成された作動ガス流路36bを通じて第1膨張室32に接続されている。第2蓄冷器28は、第1ディスプレーサ18aの下蓋部から第2ディスプレーサ18bの上蓋部へと形成された作動ガス流路36cを通じて第1蓄冷器26に接続されている。また、第2蓄冷器28は、第2ディスプレーサ18bの下蓋部に形成された作動ガス流路36dを通じて第2膨張室34に接続されている。
【0022】
第1膨張室32、第2膨張室34と上部室30との間の作動ガス流れが、冷凍機シリンダ16とディスプレーサ18との間のクリアランスではなく、第1蓄冷器26、第2蓄冷器28に導かれるようにするために、第1シール38a、第2シール38bが設けられていてもよい。第1シール38aは、第1ディスプレーサ18aと第1シリンダ16aとの間に配置されるように第1ディスプレーサ18aの上蓋部に装着されてもよい。第2シール38bは、第2ディスプレーサ18bと第2シリンダ16bとの間に配置されるように第2ディスプレーサ18bの上蓋部に装着されてもよい。
【0023】
図3に示されるように、冷凍機ハウジング20は、下部開口21を有するハウジング本体22と、下部開口21を塞ぐ下部カバー24とを備える。下部開口21は、ハウジング本体22の下面に形成されている。ハウジング本体22と下部カバー24によって形成されるハウジング内部容積20aは、図示されるように、圧縮機12の低圧側に接続され、低圧に維持されてもよい。冷凍機ハウジング20は、ステンレス鋼、アルミニウム合金などの非磁性材料で形成されている。
【0024】
下部カバー24は、ハウジング内部容積20aと冷凍機シリンダ16内のディスプレーサ収容空間(上部室30)とを仕切る。下部カバー24は全体として円板状の形状を有し、より具体的には、上側の大径部と下側の小径部とを有する。第1シール部材25aが冷凍機シリンダ16の内部容積の気密性を保持するために下部カバー24と冷凍機シリンダ16との間に設けられ、第2シール部材25bがハウジング内部容積20aの気密性を保持するために下部カバー24とハウジング本体22との間に設けられている。図示されるように、第1シール部材25aは、下部カバー24の小径部に装着され、第2シール部材25bは、下部カバー24の大径部に装着されていてもよい。
【0025】
下部カバー24は下部開口21に取り外し可能に嵌め込まれ、冷凍機シリンダ16の上部フランジ部がハウジング本体22にボルト等の締結部材により締結される。こうして、下部カバー24は、ハウジング本体22と冷凍機シリンダ16の上部フランジ部との間に挟み込まれている。下部カバー24は、ハウジング本体22に対し締結による固定はされていない。ただし、ハウジング本体22と下部カバー24がボルト等の締結部材により締結した構造が採用されてもよい。
【0026】
また、膨張機14は、膨張機モータ40と、減速機41と、ロータリーバルブ42と、運動変換機構43とを備える。膨張機モータ40と減速機41は、冷凍機ハウジング20ではなく、後述の磁気シールド54に格納されている。ロータリーバルブ42と運動変換機構43は、磁気シールド54の外に配置され、冷凍機ハウジング20に収容されている。
【0027】
膨張機モータ40は、ディスプレーサ18およびロータリーバルブ42の駆動源として膨張機14に設けられている。膨張機モータ40は、適宜の電磁モータであってもよく、モータ回転軸40aを一定の回転速度で回転させるように構成され、またはモータ回転軸40aの回転速度を可変に制御可能としてもよい。
【0028】
減速機41は、膨張機モータ40をロータリーバルブ42および運動変換機構43に接続する。膨張機モータ40のモータ回転軸40aが減速機41の入力軸に接続されており、モータ回転軸40aの回転が減速機41によって予め定められた減速比で減速され、減速機41の出力軸41aから出力される。減速機41は、例えば、撓み噛合い式減速装置、偏心揺動型減速装置、単純遊星歯車装置、直交軸歯車装置、平行軸歯車装置など、任意の減速機構を適宜採用することができる。また、減速機41は、歯車により減速を行うものに限定されることもなく、例えばトラクションドライブでもよい。極低温冷凍機10の駆動部に減速機41を組み込むことによって、膨張機モータ40の小型化が可能となる。
【0029】
ロータリーバルブ42は、圧縮機12の高圧側と低圧側を交互に冷凍機シリンダ16(つまり、上部室30、第1膨張室32および第2膨張室34)に接続し、冷凍機シリンダ16の吸気と排気とを周期的に切り替えるように構成されている。
【0030】
ロータリーバルブ42は、バルブロータ42aとバルブステータ42bを備え、バルブロータ42aは、バルブステータ42bに対し摺動しながら回転するようにバルブステータ42bと接触している。バルブロータ42aがハウジング本体22に対し回転可能に支持され、バルブステータ42bがハウジング本体22に対し回転不能に支持されている。バルブステータ42bとハウジング本体22との間には、バルブロータ42aの回転軸の方向にバルブステータ42bをバルブロータ42aに向かって押し付けるためのスプリングなどの弾性体が介在してもよい。
【0031】
冷凍機ハウジング20にはロータリーバルブ42を上部室30に接続するハウジング内部流路20bが形成されており、ロータリーバルブ42のバルブロータ42aとバルブステータ42bにはハウジング内部流路20bを圧縮機12の高圧側とハウジング内部容積20aに交互に接続するようにバルブ内部流路が形成されている。バルブ内部流路にはさまざまな公知の形態を採用することができ、ここでは詳述しない。
【0032】
運動変換機構43は、減速機41の出力軸41aの回転をロータリーバルブ42に伝達するとともにディスプレーサ18の直線往復動に変換するように、膨張機モータ40をロータリーバルブ42とディスプレーサ18に連結するように構成されている。運動変換機構43の一例は後述する。出力軸41aの一回転が運動変換機構43を介してディスプレーサ18の一往復をもたらし、それにより作動ガスの膨張空間の容積が周期的に変化する。同時に、出力軸41aの一回転が運動変換機構43を介してロータリーバルブ42の一回転をもたらし、それにより作動ガスの膨張空間の圧力が周期的に変化する。
【0033】
図4は、実施の形態に係るコールドヘッドの運動変換機構43の要部の分解斜視図を概略的に示す図である。運動変換機構43は、この実施の形態ではスコッチヨークであり、クランクピン44aを有するクランク44と、スコッチヨーク軸45と、クランクピン軸受46とを備える。スコッチヨーク軸45は、スコッチヨーク板45aと、上部ロッド45bと、下部ロッド45cとを備える。スコッチヨーク軸45は、例えばステンレス鋼など金属材料で形成されてもよい。
【0034】
クランク44は、減速機41の出力軸41aに固定される。出力軸41aは、キー41bによりクランク44とキー結合されている。キー41bは、特定形状のものには限られない。キー41bは、例えば、平行キー、半月キー、滑りキー、またはDカットなど、適宜のキー形状を有してもよい。また、クランクピン44aは、出力軸41aから偏心した位置で出力軸41aと平行に延在する。クランクピン44aは、クランク44に対して出力軸41aとは反対側に向かってクランク44から延出している。
【0035】
スコッチヨーク板45aは、横長窓47を有する矩形の板状部材である。横長窓47は、軸方向および減速機41の出力軸41aに垂直な方向に延在する。この横長窓47にクランクピン軸受46が転動可能に配置される。クランクピン軸受46は例えば、ころ軸受であってもよい。クランクピン軸受46の中心には、クランクピン44aと係合する係合孔46aが形成されており、クランクピン44aが係合孔46aを貫通する。
【0036】
スコッチヨーク板45aに対してクランク44と反対側には、ロータリーバルブ42のバルブロータ42aがその中心軸を出力軸41aと一致させて配置されており、係合孔46aを貫通したクランクピン44aの先端はバルブロータ42aに固定される。
【0037】
上部ロッド45bは、スコッチヨーク板45aの上枠中央から上方に延出し、下部ロッド45cは、スコッチヨーク板45aの下枠中央から下方に延出し、これらロッドは同軸に配置されている。スコッチヨーク板45aと上部ロッド45bは冷凍機ハウジング20に収容され、下部ロッド45cは下部カバー24を貫通して冷凍機ハウジング20外に延出している。下部ロッド45cの先端は冷凍機シリンダ16内でディスプレーサ18に連結されている。
【0038】
第1摺動軸受48aが上部ロッド45bとハウジング本体22との間に設けられ、第2摺動軸受48bが下部ロッド45cと下部カバー24との間に設けられている。ハウジング本体22はその上部に上部ロッド45bを受け入れる凹部を有しており、第1摺動軸受48aはこの凹部に配置され、上部ロッド45bを軸方向に摺動可能に支持する。下部カバー24は中心部に貫通穴を有しており、第2摺動軸受48bはこの貫通穴に配置され、下部ロッド45cを軸方向に摺動可能に支持する。第2摺動軸受48bには、例えばスリッパーシールやクリアランスシールといったシール部が設けられ、気密に構成されており、そのためハウジング内部容積20aは上部室30から隔離されている。ハウジング内部容積20aと上部室30との直接のガス流通はない。
【0039】
ディスプレーサ18に連結される下部ロッド45cの先端には、固定ピン49によりカラー部50が固定されている。カラー部50は、ディスプレーサ組立体18の先端に連結される短筒状の部材である。下部ロッド45cの先端およびカラー部50には、軸方向に直交する方向に貫通穴が形成され、この貫通穴に固定ピン49が嵌め込まれることでカラー部50が下部ロッド45cと固定される。
【0040】
第1ディスプレーサ18aは、蓋部52aと本体部52bを有する。蓋部52aは、第1ディスプレーサ18aの上蓋であり、円板状の形状を有する。蓋部52aは、例えばアルマイト処理されたアルミニウム合金など、金属材料またはその他の材料で形成される。本体部52bは、円筒状の形状を有し、その内部に蓄冷器を有する。本体部52bは、合成樹脂材料またはその他の材料で形成され、例えばベークライトなどのフェノール樹脂で形成されてもよい。蓋部52aと本体部52bの上端部とを軸方向に貫通して上述の作動ガス流路36aが形成されている。上述の第1シール38aは、蓋部52aと本体部52bそれぞれの最外周部でこれらの間に挟み込まれてもよい。蓋部52aと本体部52bは、例えばボルトなどの締結部材を用いて、または例えば接着など他の方法により、互いに固定される。
【0041】
蓋部52aの中心部には、下部ロッド45cの先端およびカラー部50を受け入れる貫通穴が形成されている。カラー部50はその下端部に径方向外側に広がる鍔部を有し、この鍔部が第1ディスプレーサ18aの蓋部52aと本体部52bに挟み込まれることで下部ロッド45cおよびカラー部50が第1ディスプレーサ18aに連結される。このようにして、ディスプレーサ18は、スコッチヨーク軸45に取り付けられる。
【0042】
したがって、膨張機モータ40が駆動されモータ回転軸40aが回転すると、減速機41を介して出力軸41aが回転する。膨張機モータ40の回転は減速機41によって減速され、ロータリーバルブ42および運動変換機構43へと伝達される。すなわち、膨張機モータ40の出力トルクが減速機41によって増幅され、増幅されたトルクでロータリーバルブ42および運動変換機構43が駆動される。減速機41の出力軸41aの回転により、クランクピン44aと係合したクランクピン軸受46は、円を描くように回転する。このときクランクピン軸受46は、スコッチヨーク板45aの横長窓47を往復移動し、それとともにスコッチヨーク軸45およびディスプレーサ18が軸方向に往復運動する。このようにして、膨張機モータ40は、ディスプレーサ18の軸方向往復動を駆動するとともに、これと同期してロータリーバルブ42を回転させる。
【0043】
このようにして、同期した容積変動と圧力変動が膨張空間にもたらされ、極低温冷凍機10の冷凍サイクルが構成され、それにより極低温冷凍機10は所望の極低温冷却を提供することができる。第1冷却ステージ33は、第1冷却温度に冷却され、第2冷却ステージ35は、第1冷却温度より低い第2冷却温度に冷却されることができる。第1冷却温度は、例えば、約10K~約100Kの範囲、または約20K~約40Kの範囲にあってもよい。第2冷却温度は、例えば、約20K以下、または約10K以下、または約1K~約4Kの範囲にあってもよい。
【0044】
また、膨張機14は、磁気シールド54を備える。磁気シールド54は、例えば鉄材などの磁性材料で形成されている。磁気シールド54は、膨張機モータ40および減速機41を囲むケースであり、膨張機モータ40の全体と減速機41の大部分(すなわち、出力軸41aを除く減速機41の残部)とが磁気シールド54内に収容されている。磁気シールド54は、ハウジング内部容積20aの気密性を保持するように、冷凍機ハウジング20に気密接続されている。磁気シールド54は、ハウジング本体22の側面に取り付けられている。
【0045】
実施の形態に係る極低温冷凍機10の冷却対象物の一例として、超伝導磁石がある。超伝導磁石は一般に強い磁場を発生させるために用いられる。このため、極低温冷凍機10を超伝導磁石の冷却用に使用すると、極低温冷凍機10およびその駆動部も超伝導磁石が発生する磁場にさらされることになる。
【0046】
しかしながら、極低温冷凍機10には磁気シールド54が設けられている。磁気シールド54は、超伝導磁石の強磁場を遮蔽することができる。膨張機モータ40は、磁気シールド54の中に配置されているので、超伝導磁石の強磁場にさらされない。強磁場による膨張機モータ40への悪影響(例えば、定格トルクの低減など)を防ぐことができ、ひいては極低温冷凍機10の冷凍能力の低下も防がれる。
【0047】
歯車や軸など減速機41の回転部品には、十分な強度を確保するために、浸炭、窒化など表面硬化処理が施された鋼材が用いられることが多い。こうした鋼材は磁性材料であるから、高磁場環境で回転するとき磁気ノイズ(回転の周波数をもつ磁場の変動成分)を発生させうる。超伝導磁石により作られる強い静磁場は、例えば磁気共鳴イメージング(MRI)に利用されうる。減速機41が発生させる磁気ノイズが周囲に広く伝播された場合には、磁気ノイズがMRIによる撮像に悪影響を及ぼしうる。
【0048】
しかしながら、磁気シールド54によって膨張機モータ40だけでなく減速機41も覆われている。したがって、減速機41が発生させうる磁気ノイズを磁気シールド54によって遮蔽し、磁気シールド54の外部への伝播を防止しまたは低減することができる。
【0049】
この実施の形態では、極低温冷凍機10は、磁気シールド54の外に配置された相手部品(例えば運動変換機構43)を備える。減速機41の出力軸41aは、磁気シールド54の外へと延出し、磁性材料(鉄材、例えばSS400などの炭素鋼)で形成されている。出力軸41aは、相手部品とキー結合されている。この例では、図4に示されるように、出力軸41aは、キー41bによりクランク44とキー結合されている。
【0050】
出力軸41aは磁気シールド54によって覆われていないため、その回転により発生しうる磁気ノイズは、周囲に伝播しうる。とくに、キー構造によって出力軸41aの形状の回転対称性が崩されているため、この形状に基づく相応の磁気ノイズが発生し伝播することが懸念される。ひとつの対策として、膨張機モータ40および減速機41と同様に、減速機41の出力軸41aとともに、出力軸41aと接続される相手部品も、磁気シールド54で囲むことが考えられる。しかし、これは磁気シールド54の大型化を招き、さらには、超伝導磁石の強磁場下で不所望の強い電磁力がこの大型化された磁気シールドに作用しうるというデメリットが生じうる。
【0051】
既存設計では典型的に、キー41bもまた、出力軸41aと同様に、磁性材料で形成されている。本発明者の検討によると、出力軸41aおよびキー41bが強磁場環境で回転するときキー41bの先端に比較的大きな磁気飽和領域が発生しうる。出力軸41aおよびキー41bの回転に伴いこの磁気飽和領域も回転し、これが磁気ノイズの原因となっている。したがって、キー41bの先端での磁気飽和領域を小さくすることが磁気ノイズの低減につながるものと考えられる。本書では、このような着眼に基づいて、磁気ノイズを低減するためのいくつかの解決策を以下に提案する。
【0052】
図5(a)から図5(f)、図6(a)から図6(f)、および図7は、キー結合の設計例を概略的に示す図である。図5(a)から図5(f)、および図6(a)から図6(f)には、出力軸41aおよびキー41bの上面図、正面図(出力軸41aの先端を示す)、および断面図(出力軸41aの中心軸を含む鉛直断面)が示されている。図7には、出力軸41aおよびキー41bの斜視図が示されている。図8は、図5(a)から図5(f)、図6(a)から図6(f)、および図7に示されるキー結合の設計例について磁気ノイズの解析結果を示すグラフである。
【0053】
図5(a)に示されるケース1は、比較例として、既存設計でのキー結合の典型例を示す。1本のキー41bが出力軸41aに形成されたキー溝に嵌め込まれている。出力軸41aは、例えば10mm以上30mm以下の直径を有する。キー41bは、基準長さL0(例えば25mm)、基準幅W0(例えば4mm)、および基準高さH0(例えば4mm)を有する。出力軸41aは上述のように磁性材料で形成されている。キー41bは、出力軸41aと同様に、磁性材料で形成されている(図5(a)では、磁性キー41bmと表記している。)。キー溝は、出力軸41aの先端58から基部59に向けて(つまり、図4に示されるように、磁気シールド54に向けて)、出力軸41aの側面に形成されている。キー溝は、基準深さD0(例えば2.5mm)を有する。
【0054】
図5(b)に示されるケース2は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース1と異なる(図5(b)では、非磁性キー41bnと表記している。)。キー41bを形成する非磁性材料は、例えば、ステンレス鋼(例えば、SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼)である。あるいは、キー41bは、アルミニウムまたはアルミニウム合金、真鍮など、他の非磁性金属材料で形成されてもよいし、または、エンジニアリングプラスチックなどの合成樹脂材料といった他の非磁性材料で形成されてもよい。出力軸41aおよびキー41bの寸法などその他の特徴については、ケース2はケース1と同様である。
【0055】
図5(c)に示されるケース3は、磁性キー41bmに複数の貫通穴56が形成されている点で、ケース1と異なる。貫通穴56は、出力軸41aの径方向に沿って磁性キー41bmを貫通している。出力軸41aおよびキー41bの寸法などその他の特徴については、ケース3はケース1と同様である。
【0056】
図5(d)に示されるケース4は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース1と異なる(図5(d)では、非磁性キー41bnと表記している。)。また、キー41bおよびこれを受けるキー溝は、ケース1での基準長さL0に比べて短い第1長さL1(例えば12mm)を有する。その他の特徴については、ケース4はケース1と同様である。
【0057】
図5(e)に示されるケース5は、2本の磁性キー41bmが用いられている点で、ケース1と異なる。出力軸41aには対向する2本のキー溝が形成され、各磁性キー41bmが対応するキー溝に嵌め込まれている。その他の特徴については、ケース5はケース1と同様である。
【0058】
図5(f)に示されるケース6は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース5と異なる(図5(f)では、非磁性キー41bnと表記している。)。その他の特徴については、ケース6はケース5と同様である。よって、ケース6においても、2本のキー41bが用いられ、出力軸41aに対向する2本のキー溝が形成され、各キー41bが対応するキー溝に嵌め込まれている。
【0059】
図6(a)に示されるケース7は、磁性キー41bmおよびこれを受けるキー溝の寸法がケース1と異なる。磁性キー41bmは、第1幅W1(例えば3mm)および第1高さH1(例えば3mm)を有する。第1幅W1は、ケース1での基準幅W0より短く、第1高さH1は、ケース1での基準高さH0より低い。磁性キー41bmの長さはケース1とケース7で等しい。また、キー溝は、ケース1での基準深さD0に比べて浅い第1深さD1(例えば1.8mm)を有する。その他の特徴については、ケース7はケース1と同様である。
【0060】
図6(b)に示されるケース8は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース7と異なる(図6(b)では、非磁性キー41bnと表記している。)。出力軸41aおよびキー41bの寸法などその他の特徴については、ケース8とケース7で共通である。よって、ケース8においても、キー41bは、第1幅W1および第1高さH1を有し、キー溝は、第1深さD1を有する。
【0061】
図6(c)に示されるケース9は、磁性キー41bmの高さがケース1と異なる。磁性キー41bmは、ケース1での基準高さH0に比べて低い第2高さH2(例えば3.2mm)を有する。その他の特徴については、ケース9はケース1と同様である。キー溝の深さがケース9とケース1で同じであるため、ケース9では、出力軸41aからの磁性キー41bmの径方向突出高さ(すなわち、H2-D0)が、ケース1での磁性キー41bmの径方向突出高さ(すなわち、H0-D0)に比べて小さくなっている。
【0062】
図6(d)に示されるケース10は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース1と異なる(図6(d)では、非磁性キー41bnと表記している。)。また、キー溝は、ケース1での基準深さD0に比べて浅い第2深さD2(例えば1.5mm)を有する。その他の特徴については、ケース10はケース1と同様である。
【0063】
図6(e)に示されるケース11は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース1と異なる(図6(e)では、非磁性キー41bnと表記している。)。また、キー溝は、ケース1での基準深さD0に比べて浅い第3深さD3(例えば1.0mm)を有する。第3深さD3は、ケース10での第2深さD2よりも浅い。その他の特徴については、ケース11はケース1と同様である。
【0064】
図6(f)に示されるケース12は、キー41bが非磁性材料で形成されている点で、ケース1と異なる(図6(f)では、非磁性キー41bnと表記している。)。また、キー溝は、出力軸41aの先端58から形成されるのではなく、出力軸41a上でその先端58よりも基部59(つまり磁気シールド54)に近い溝開始位置60から、出力軸41aの基部59に向けて形成されている。キー41bおよびキー溝の長さは、出力軸41aの先端58から溝開始位置60までの長さの分だけ、ケース1での基準長さL0よりも短くなっている(第2長さL2)。その他の特徴については、ケース12はケース1と同様である。
【0065】
図7に示されるケース13は、磁性キー41bmの形状についてケース1と異なる。磁性キー41bmは、出力軸41aの先端58側と基部59側とで形状が異なっている。具体的には、磁性キー41bmは、基部59側に比べて先端58側で高さが低くなっていて、出力軸41aの軸方向に先端58から離間長さAの位置に段部61を有する。磁性キー41bmの先端58側での高さH3は、出力軸41aからの磁性キー41bmの径方向突出高さが実質的にゼロとなるように定められている。その結果、出力軸41aの先端58は、磁性キー41bmと組み合わされて,実質的に円形となっている。キー溝の寸法などその他の特徴については、ケース13はケース1と同様である。
【0066】
なお、磁性キー41bmの先端58側の部分は、磁性キー41bmから分離された別部品として用意され、出力軸41aの先端58側でキー溝に嵌め込まれてもよい。この別部品は、磁性キー41bmと同様に、磁性材料で形成されている。
【0067】
図8には、図5(a)から図5(f)、図6(a)から図6(f)、および図7に示されるケース1からケース13のそれぞれについて、規格化磁気ノイズ振幅が示されている。規格化磁気ノイズ振幅は、本発明者によるシミュレーションにより導出されたものであり、ケース1についての磁気ノイズの振幅に対するケース2からケース13それぞれについての磁気ノイズの振幅の比を表す。
【0068】
図8から理解されるように、ケース2、ケース4、およびケース8からケース13では、比較例であるケース1に比べて規格化磁気ノイズ振幅が小さく、すなわち、磁気ノイズが低減されている。例えば、ケース2、ケース4、ケース9、ケース10では、規格化磁気ノイズ振幅がケース1に比べて40%程度にまで低減されている。また、ケース8、ケース11、ケース12、ケース13では、規格化磁気ノイズ振幅がケース1に比べて20%程度にまで低減されている。一方、ケース3では、磁気ノイズはケース1と同程度であり、ケース5からケース7では、磁気ノイズはケース1を上回っている。
【0069】
したがって、磁気ノイズを低減するためには、出力軸41aと相手部品を結合するキー41bが非磁性材料で形成されていることが有効である(ケース2、ケース4、ケース8、ケース10、ケース11、ケース12)。キー41bを形成する材料を磁性材料から非磁性材料に変更したことにより、キー41bの先端に発生しうる磁気飽和領域が小さくなり、そのため磁気ノイズ振幅が小さくなっている。
【0070】
また、キー41bが非磁性材料が形成されている場合には、キー溝の深さを比較的浅くすることも、磁気ノイズの低減に有効である。具体的には、例えば、キー溝の深さは、出力軸41aの先端58でキー溝の幅(つまりキー41bの幅)の60%以下であってもよい(ケース8、ケース10、ケース11)。ケース8では、D1/W1=0.6(=1.8/3)であり、ケース10では、D2/W0=0.375(=1.5/4)であり、ケース11では、D3/W0=0.25(=1/4)である。このようにキー溝の深さを比較的浅くすることにより、出力軸41aの先端58の形状の回転対称性が改善され、磁気ノイズの低減に役立ちうる。この場合、出力軸41aと相手部品とのキー結合を確実にするために、キー溝の深さは、キー溝の幅の3%以上とすることが好ましい。
【0071】
なお、キー41bが非磁性材料が形成されているケースのなかで、ケース6では、ケース1を上回る磁気ノイズが発生しうる。ケース6では、対向する2つのキー溝が出力軸41aに形成されている(出力軸41aの先端58から見て、0時と6時の位置に溝が形成されている)。外部磁場が出力軸41aの中心軸と直交する方向に作用する状況を考える。出力軸41aが回転するとき、外部磁場がこれら2つの溝と直交する第1回転位置と、そこから90度回転した第2回転位置とが交互に繰り返される。第1回転位置での2つの溝間の距離は、第2回転位置での出力軸41aの上下寸法(つまり出力軸41aの直径)に比べて短い。そうすると、磁気抵抗のために、第1回転位置で外部磁場により2つの溝間に働く磁束密度が、第2回転位置で出力軸41aに働く磁束密度に比べて小さくなる。このような磁束密度の周期的変動が出力軸41aの回転により発生するため、磁気ノイズが比較的大きくなるものと考えられる。したがって、磁気ノイズの低減のためには、出力軸41aに設けるキー41bの本数は、2本ではなく、1本が好ましいことが示唆される。
【0072】
磁気ノイズを低減する他の対策として、キー41bを受けるキー溝が、出力軸41a上でその先端58よりも基部59(または磁気シールド54)に近い溝開始位置60から基部59(磁気シールド54)に向けて形成されていてもよい(ケース12、ケース13)。このようにすれば、出力軸41aの先端58にキー溝が形成されないので、出力軸41aの先端58の形状の回転対称性が改善される。好ましくは、出力軸41aの先端58を実質的に円形とすることができる。これにより、出力軸41aの先端58での磁気飽和領域を小さくすることができ、その回転に起因する磁気ノイズを低減することができる。
【0073】
この対策は、キー41bが非磁性材料で形成されている場合(ケース12)だけでなく、キー41bが磁性材料で形成されている場合にも、有効である。したがって、ケース12において、非磁性キー41bnに代えて、磁性キー41bmが使用されてもよい。言い換えれば、出力軸41aと相手部品を結合するキー41bが、磁性材料で形成され、キー41bを受けるキー溝が、出力軸41a上でその先端58よりも磁気シールド54に近い位置から磁気シールド54に向けて形成されていてもよい。
【0074】
図9は、実施の形態に係り、磁気ノイズの寸法依存性を示すグラフである。図9には、規格化磁気ノイズ振幅と離間長さAとの関係が示されている。離間長さAは、出力軸41aの軸方向における出力軸41aの先端58からキー41b(またはキー溝)までの距離に相当する。ケース12について言えば、離間長さAは、出力軸41aの先端58から溝開始位置60までの出力軸41aの軸方向における距離を表す。ケース13では、離間長さAは、出力軸41aの先端58からキー41bの段部61までの出力軸41aの軸方向における距離を表す。図9には、キー溝の幅が基準幅W0(例えば4mm)の場合についての解析結果が示されるが、キー溝の幅が異なる値の場合にも解析結果は同様の傾向を示すことが確認されている。
【0075】
図9に示されるように、規格化磁気ノイズ振幅は、離間長さAが大きくなるほど減少することがわかる。図9において符号62で示すように、離間長さAが3.9mmのとき(つまり、離間長さAがキー溝幅W0と同程度のとき)、規格化磁気ノイズ振幅は0.5となり、ケース1に比べて半減させることができる。したがって、離間長さAをキー溝幅(またはキー41bの幅)よりも大きくすることにより、規格化磁気ノイズ振幅を実用上十分に低減されると評価することができる。
【0076】
図10は、実施の形態に係り、磁気ノイズの寸法依存性を示すグラフである。図10には、規格化磁気ノイズ振幅と出力軸41aからのキー41bの径方向突出高さとの関係が示されている。図において縦軸は規格化磁気ノイズ振幅を表し、横軸は、規格化径方向突出高さ、すなわち、出力軸41aの直径に対するキー41bの径方向突出高さの比を表す。キー41bの径方向突出高さは、出力軸41aの先端58で測定される。
【0077】
図10に示されるように、規格化磁気ノイズ振幅は、出力軸41aからのキー41bの径方向突出高さが小さくなるほど減少することがわかる。図10には、比較例としてのケース1、ケース9、およびケース13が示されている。ケース1では、規格化径方向突出高さが約0,125であるのに対して、ケース9では約0.06(つまり約6%)であり、ケース13ではゼロである。
【0078】
図10において符号64で示すように、規格化径方向突出高さが約0.07(つまり約7%)のとき、規格化磁気ノイズ振幅は0.5となり、ケース1に比べて半減させることができる。したがって、規格化径方向突出高さを7%以下とすることにより、規格化磁気ノイズ振幅を実用上十分に低減されると評価することができる。言い換えれば、出力軸41aと相手部品を結合するキー41bが、磁性材料で形成され、キー41bを受けるキー溝が、出力軸41aに形成され、出力軸41aからのキー41bの径方向突出高さが、出力軸41aの先端58で、出力軸41aの径の7%以下であってもよい。
【0079】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。ある実施の形態に関連して説明した種々の特徴は、他の実施の形態にも適用可能である。組合せによって生じる新たな実施の形態は、組み合わされる実施の形態それぞれの効果をあわせもつ。
【0080】
上述の実施の形態では、減速機41の出力軸41aが相手部品とキー結合される場合を例として説明しているが、出力軸41aと相手部品とは、例えばスプライン結合など他の方式で結合されてもよい。
【0081】
上述の実施の形態では、磁気シールド54は、膨張機モータ40と減速機41の両方を囲んでいるが、これに代えて、減速機41のみを囲んでもよい。膨張機モータ40への外部磁場の影響が小さいと評価される場合、または、膨張機モータ40が発生させる磁気ノイズが小さいと評価される場合には、膨張機モータ40は、磁気シールド54の外に配置されてもよい。
【0082】
上述の実施の形態では、極低温冷凍機10がGM冷凍機である場合を例として説明しているが、実施の形態に係る極低温冷凍機はGM冷凍機に限られない。本発明は、膨張機の駆動に電磁モータを用いるタイプの極低温冷凍機であれば適用でき、例えばソルベイ冷凍機、パルス管冷凍機など他の形式の極低温冷凍機にも適用できる。
【0083】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0084】
10 極低温冷凍機、 40 膨張機モータ、 41 減速機、 41a 出力軸、 41b キー、 42 ロータリーバルブ、 43 運動変換機構、 44 クランク、 54 磁気シールド。
図1
図2
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図8
図9
図10