(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024179031
(43)【公開日】2024-12-26
(54)【発明の名称】レーザ加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20241219BHJP
B23K 26/70 20140101ALI20241219BHJP
G02B 26/10 20060101ALN20241219BHJP
【FI】
B23K26/00 Q
B23K26/70
B23K26/00 M
G02B26/10 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023097520
(22)【出願日】2023-06-14
(71)【出願人】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
(72)【発明者】
【氏名】荻原 孝文
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛志
【テーマコード(参考)】
2H045
4E168
【Fターム(参考)】
2H045AG06
2H045BA12
4E168AE01
4E168CA06
4E168CA15
4E168CB03
4E168CB07
4E168DA43
4E168EA17
4E168EA24
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】対物レンズ部の光出射面の汚れの状態を確実に把握することができるレーザ加工装置を提供する。
【解決手段】レーザ加工装置1は、対象物Wを支持する支持部7と、レーザ光Lを出射する光源81と、測距光を出射する光源と、レーザ光L及び測距光を対象物W側に透過させる対物レンズ部と、対象物Wによって反射されて対象物W側から対物レンズ部を透過した測距光の反射光を検出する光検出部と、光検出部による検出結果に基づいて、対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報を取得する処理部と、を備える。測距光の光軸及び反射光の光軸の少なくとも一方は、対物レンズ部の光出射面において、対物レンズ部の光軸から所定方向にオフセットしている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を支持する支持部と、
加工光を出射する第1光源と、
非加工光を出射する第2光源と、
前記加工光及び前記非加工光を前記対象物側に透過させる対物レンズ部と、
前記対象物によって反射されて前記対象物側から前記対物レンズ部を透過した前記非加工光の反射光を検出する光検出部と、
前記光検出部による検出結果に基づいて、前記対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報を取得する処理部と、を備え、
前記非加工光の光軸及び前記反射光の光軸の少なくとも一方は、前記対物レンズ部の前記光出射面において、前記対物レンズ部の光軸から所定方向にオフセットしている、レーザ加工装置。
【請求項2】
前記非加工光の前記光軸は、前記対物レンズ部の前記光出射面において、前記対物レンズ部の前記光軸から前記所定方向における一方の側にオフセットしており、
前記反射光の前記光軸は、前記対物レンズ部の前記光出射面において、前記対物レンズ部の前記光軸から前記所定方向における他方の側にオフセットしている、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記所定方向は、前記対象物に照射される前記加工光が前記対象物に対して相対的に移動する方向である、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記処理部は、前記光検出部による検出結果に基づいて、前記対象物が有する所定面の高さに関する情報を取得する、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記処理部は、前記汚れに関する前記情報を表示するディスプレイを含む、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記対物レンズ部は、
前記加工光を前記対象物に集光する少なくとも一つのレンズと、
前記少なくとも一つのレンズを保持している鏡筒と、
前記鏡筒に対して着脱可能であり、前記光出射面を有する保護カバーと、を含む、請求項1に記載のレーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物を支持する支持部と、加工光を出射する光源と、光源から出射された加工光を調整するレーザ光調整部及びレーザ光調整部によって調整された加工光を対象物に集光する対物レンズ部を有するレーザ加工ヘッドと、レーザ加工ヘッドを移動させる移動部と、を備えるレーザ加工装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。このようなレーザ加工装置は、ウェハを分割するダイシング加工、ウェハを薄化するスライシング加工、ウェハから外周部を除去するトリミング加工等、様々な用途に利用し得る点で、極めて有効である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したようなレーザ加工装置では、レーザ加工ヘッドにおいて加工光を対象物に集光する対物レンズ部の光出射面に汚れが付着する場合がある。そのような場合に対物レンズ部の光出射面の汚れの状態を把握することは、加工品質の低下を防止する上で、極めて重要である。
【0005】
そこで、本発明は、対物レンズ部の光出射面の汚れの状態を確実に把握することができるレーザ加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ加工装置は、[1]「前記対象物を支持する支持部と、加工光を出射する第1光源と、非加工光を出射する第2光源と、前記加工光及び前記非加工光を前記対象物側に透過させる対物レンズ部と、前記対象物によって反射されて前記対象物側から前記対物レンズ部を透過した前記非加工光の反射光を検出する光検出部と、前記光検出部による検出結果に基づいて、前記対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報を取得する処理部と、を備え、前記非加工光の光軸及び前記反射光の光軸の少なくとも一方は、前記対物レンズ部の前記光出射面において、前記対物レンズ部の光軸から所定方向にオフセットしている、レーザ加工装置」である。
【0007】
上記[1]に記載のレーザ加工装置では、第2光源から出射された非加工光が対物レンズ部を透過して対象物に照射され、対象物によって反射された非加工光の反射光が対物レンズ部を透過して光検出部によって検出される。このとき、非加工光の光軸及び反射光の光軸の少なくとも一方が、対物レンズ部の光出射面において、対物レンズ部の光軸から所定方向にオフセットしている。ここで、加工光の照射によって対象物の加工が実施される際には、対物レンズ部の光出射面の中央領域(光軸を含む中央領域)に比べ、対物レンズ部の光出射面の周囲領域(中央領域を包囲する周囲領域)に汚れが付着しやすい(これは、本発明者らが見出した知見である)。そのため、上述したように非加工光の反射光を検出することで、対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報を取得することができる。よって、上記[1]に記載のレーザ加工装置によれば、対物レンズ部の光出射面の汚れの状態を確実に把握することができる。
【0008】
本発明のレーザ加工装置は、[2]「前記非加工光の前記光軸は、前記対物レンズ部の前記光出射面において、前記対物レンズ部の前記光軸から前記所定方向における一方の側にオフセットしており、前記反射光の前記光軸は、前記対物レンズ部の前記光出射面において、前記対物レンズ部の前記光軸から前記所定方向における他方の側にオフセットしている、上記[1]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[2]に記載のレーザ加工装置によれば、対物レンズ部の光出射面の汚れの状態が非加工光及び反射光のそれぞれに反映されやすくなるため、対物レンズ部の光出射面の汚れの状態をより確実に把握することができる。
【0009】
本発明のレーザ加工装置は、[3]「前記所定方向は、前記対象物に照射される前記加工光が前記対象物に対して相対的に移動する方向である、上記[1]又は[2]に記載のレーザ加工装置」であってもよい。加工光の照射によって対象物の加工が実施される際に、例えば、対象物に照射される加工光が対象物に対して相対的に移動する方向が一定であると、対物レンズ部の光出射面の周囲領域のうち当該方向における対物レンズ部の光軸の両側の部分に特に汚れが付着しやすい(これは、本発明者らが見出した知見である)。したがって、当該[3]に記載のレーザ加工装置によれば、対物レンズ部の光出射面の汚れの状態をより確実に把握することができる。
【0010】
本発明のレーザ加工装置は、[4]「前記処理部は、前記光検出部による検出結果に基づいて、前記対象物が有する所定面の高さに関する情報を取得する、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[4]に記載のレーザ加工装置によれば、同一の第2光源及び光検出部を用いて、対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報、及び対象物の所定面の高さに関する情報を取得することができる。
【0011】
本発明のレーザ加工装置は、[5]「前記処理部は、前記汚れに関する前記情報を表示するディスプレイを含む、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[5]に記載のレーザ加工装置によれば、対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報をオペレータに確実に報知することができる。
【0012】
本発明のレーザ加工装置は、[6]「前記対物レンズ部は、前記加工光を前記対象物に集光する少なくとも一つのレンズと、前記少なくとも一つのレンズを保持している鏡筒と、前記鏡筒に対して着脱可能であり、前記光出射面を有する保護カバーと、を含む、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載のレーザ加工装置」であってもよい。当該[6]に記載のレーザ加工装置によれば、対物レンズ部の光出射面の汚れに関する情報に基づいて、汚れが付着した光出射面を有する保護カバーを新たな保護カバーに交換することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、対物レンズ部の光出射面の汚れの状態を確実に把握することができるレーザ加工装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態のレーザ加工装置の斜視図である。
【
図2】
図1に示されるレーザ加工装置の一部分の正面図である。
【
図3】
図1に示されるレーザ加工ヘッドの正面図である。
【
図4】
図1に示されるレーザ加工ヘッドの側面図である。
【
図5】
図4に示されるレーザ加工ヘッドの構成図である。
【
図6】
図5に示される対物レンズ部の分解斜視図である。
【
図8】
図7に示される測距部の一部分の構成図である。
【
図9】
図7に示される測距部における測距光及び反射光の光路を示す図である。
【
図10】
図5に示される対物レンズ部の光出射面の状態を示す模式図である。
【
図11】
図5に示される対物レンズ部の光出射面の状態を示す写真図である。
【
図12】Z値ごとに測距光の反射光の輝度値を示す表である。
【
図13】アブレーション本数ごとに各種結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
[レーザ加工装置の構成]
【0016】
図1に示されるように、レーザ加工装置1は、複数の移動機構5,6と、支持部7と、一対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと、光源ユニット8と、制御部9と、を備えている。以下、第1方向をZ方向、第1方向に垂直な第2方向をX方向、第1方向及び第2方向の両方向に垂直な第3方向をY方向という。本実施形態では、Z方向は鉛直方向であり、X方向及びY方向は水平方向である。
【0017】
移動機構5は、固定部51と、移動部53と、取付部55と、を有している。固定部51は、装置フレーム1aに取り付けられている。移動部53は、固定部51に設けられたレールに取り付けられており、Y方向に沿って移動することができる。取付部55は、移動部53に設けられたレールに取り付けられており、X方向に沿って移動することができる。
【0018】
移動機構6は、固定部61と、一対の移動部63,64と、一対の取付部65,66と、を有している。固定部61は、装置フレーム1aに取り付けられている。一対の移動部63,64のそれぞれは、固定部61に設けられたレールに取り付けられており、それぞれが独立して、Y方向に沿って移動することができる。取付部65は、移動部63に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。取付部66は、移動部64に設けられたレールに取り付けられており、Z方向に沿って移動することができる。
【0019】
支持部7は、移動機構5の取付部55に設けられた回転軸に取り付けられており、Z方向に平行な軸線を中心線として回転することができる。支持部7は、対象物Wを支持する。対象物Wは、例えばウェハである。
【0020】
図1及び
図2に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、移動機構6の取付部65に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Aは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物Wにレーザ光(加工光)Lを照射する。レーザ加工ヘッド10Bは、移動機構6の取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bは、Z方向において支持部7と対向した状態で、支持部7に支持された対象物Wにレーザ光Lを照射する。
【0021】
図1に示されるように、光源ユニット8は、一対の光源(第1光源)81,82を有している。一対の光源81,82は、装置フレーム1aに取り付けられている。一対の光源81,82のそれぞれは、レーザ光Lを出射する。光源81の出射部81aから出射されたレーザ光Lは、光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Aに導光される。光源82の出射部82aから出射されたレーザ光Lは、別の光ファイバ2によってレーザ加工ヘッド10Bに導光される。
【0022】
制御部9は、レーザ加工装置1の各部(複数の移動機構5,6、一対のレーザ加工ヘッド10A,10B、及び光源ユニット8等)を制御する。制御部9は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。制御部9では、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)が、プロセッサによって実行され、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信が、プロセッサによって制御される。これにより、制御部9は、各種機能を実現する。制御部9は、ディスプレイ91を有している。ディスプレイ91は、各種の情報を表示する。ディスプレイ91は、オペレータによる指示の入力を受け付けるタッチパネルとして構成されていてもよい。
【0023】
以上のように構成されたレーザ加工装置1は、ウェハを分割するダイシング加工、ウェハを薄化するスライシング加工、ウェハから外周部を除去するトリミング加工等、様々な用途に利用され得る。ここで、レーザ加工装置1よる加工の一例について説明する。当該加工の一例は、ウェハである対象物Wを複数のチップに切断するために、格子状に設定された複数のラインのそれぞれに沿って対象物Wの内部に改質領域を形成する例(すなわち、ダイシング加工の前半部分の一例)である。
【0024】
まず、対象物Wを支持している支持部7がZ方向において一対のレーザ加工ヘッド10A,10Bと対向するように、移動機構5が、X方向及びY方向のそれぞれに沿って支持部7を移動させる。続いて、対象物Wにおいて一方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0025】
続いて、一方向に延在する一のライン上に、レーザ加工ヘッド10Aから出射されるレーザ光L(以下、「レーザ加工ヘッド10Aのレーザ光L」という)の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、一方向に延在する他のライン上に、レーザ加工ヘッド10Bから出射されるレーザ光L(以下、「レーザ加工ヘッド10Bのレーザ光L」という)の集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物Wの内部にレーザ加工ヘッド10Aのレーザ光Lの集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物Wの内部にレーザ加工ヘッド10Bのレーザ光Lの集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0026】
続いて、光源81がレーザ光Lを出射してレーザ加工ヘッド10Aが対象物Wにレーザ光Lを照射すると共に、光源82がレーザ光Lを出射してレーザ加工ヘッド10Bが対象物Wにレーザ光Lを照射する。それと同時に、一方向に延在する一のラインに沿ってレーザ加工ヘッド10Aのレーザ光Lの集光点が相対的に移動し且つ一方向に延在する他のラインに沿ってレーザ加工ヘッド10Bのレーザ光Lの集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物Wにおいて一方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物Wの内部に改質領域を形成する。
【0027】
続いて、対象物Wにおいて一方向と直交する他方向に延在する複数のラインがX方向に沿うように、移動機構5が、Z方向に平行な軸線を中心線として支持部7を回転させる。
【0028】
続いて、他方向に延在する一のライン上にレーザ加工ヘッド10Aのレーザ光Lの集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、他方向に延在する他のライン上にレーザ加工ヘッド10Bのレーザ光Lの集光点が位置するように、移動機構6が、Y方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。続いて、対象物Wの内部にレーザ加工ヘッド10Aのレーザ光Lの集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Aを移動させる。その一方で、対象物Wの内部にレーザ加工ヘッド10Bのレーザ光Lの集光点が位置するように、移動機構6が、Z方向に沿ってレーザ加工ヘッド10Bを移動させる。
【0029】
続いて、光源81がレーザ光Lを出射してレーザ加工ヘッド10Aが対象物Wにレーザ光Lを照射すると共に、光源82がレーザ光Lを出射してレーザ加工ヘッド10Bが対象物Wにレーザ光Lを照射する。それと同時に、他方向に延在する一のラインに沿ってレーザ加工ヘッド10Aのレーザ光Lの集光点が相対的に移動し且つ他方向に延在する他のラインに沿ってレーザ加工ヘッド10Bのレーザ光Lの集光点が相対的に移動するように、移動機構5が、X方向に沿って支持部7を移動させる。このようにして、レーザ加工装置1は、対象物Wにおいて一方向と直交する他方向に延在する複数のラインのそれぞれに沿って、対象物Wの内部に改質領域を形成する。
【0030】
なお、上記加工の一例では、一対の光源81,82のそれぞれは、例えばパルス発振方式によって、対象物Wに対して透過性を有するレーザ光Lを出射する。そのようなレーザ光Lが対象物Wの内部に集光されると、レーザ光Lの集光点に対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物Wの内部に改質領域が形成される。改質領域は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。
【0031】
パルス発振方式によって出射されたレーザ光Lが対象物Wに照射され、対象物Wに設定されたラインに沿ってレーザ光Lの集光点が相対的に移動させられると、複数の改質スポットがラインに沿って1列に並ぶように形成される。一つの改質スポットは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域は、1列に並んだ複数の改質スポットの集合である。隣り合う改質スポットは、対象物Wに対するレーザ光Lの集光点の相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
[レーザ加工ヘッドの構成]
【0032】
図2、
図3及び
図4に示されるように、レーザ加工ヘッド10Aは、筐体11と、入射部12と、レーザ光調整部13と、対物レンズ部14と、を備えている。
【0033】
筐体11は、第1壁部21及び第2壁部22、第3壁部23及び第4壁部24、並びに、第5壁部25及び第6壁部26を有している。第1壁部21及び第2壁部22は、X方向において互いに対向している。第3壁部23及び第4壁部24は、Y方向において互いに対向している。第5壁部25及び第6壁部26は、Z方向において互いに対向している。
【0034】
第3壁部23と第4壁部24との距離は、第1壁部21と第2壁部22との距離よりも小さい。第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも小さい。なお、第1壁部21と第2壁部22との距離は、第5壁部25と第6壁部26との距離と等しくてもよいし、或いは、第5壁部25と第6壁部26との距離よりも大きくてもよい。
【0035】
レーザ加工ヘッド10Aでは、第1壁部21は、移動機構6の固定部61とは反対側に位置しており、第2壁部22は、固定部61側に位置している。第3壁部23は、移動機構6の取付部65側に位置しており、第4壁部24は、取付部65とは反対側であってレーザ加工ヘッド10B側に位置している。第5壁部25は、支持部7とは反対側に位置しており、第6壁部26は、支持部7側に位置している。
【0036】
筐体11は、第3壁部23が移動機構6の取付部65側に配置された状態で筐体11が取付部65に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部65は、ベースプレート65aと、取付プレート65bと、を有している。ベースプレート65aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート65bは、ベースプレート65aにおけるレーザ加工ヘッド10B側の端部に立設されている。筐体11は、第3壁部23が取付プレート65bに接触した状態で、台座27を介してボルト28が取付プレート65bに螺合されることで、取付部65に取り付けられている。台座27は、第1壁部21及び第2壁部22のそれぞれに設けられている。筐体11は、取付部65に対して着脱可能である。
【0037】
入射部12は、第5壁部25に配置されている。入射部12は、筐体11内にレーザ光Lを入射させる。入射部12は、X方向においては第1壁部21側に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における入射部12と第1壁部21との距離は、X方向における入射部12と第2壁部22との距離よりも小さく、Y方向における入射部12と第4壁部24との距離は、X方向における入射部12と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0038】
入射部12には、光ファイバ2の出射端部2aが接続されている。具体的には、入射部12は、第5壁部25に形成された孔25aを含む部分である。第5壁部25には、取付部25bが設けられている。取付部25bには、出射端部2aの本体部分2bがボルト等によって取り付けられている。この状態で、出射端部2aの先端部分2cが孔25aを通っている。これにより、光ファイバ2の出射端部2aは、入射部12に対して着脱可能である。第5壁部25と本体部分2bとの間には、カバー25cが配置されている。カバー25cは、孔25aと先端部分2cとの間に形成された隙間を覆っている。一例として、出射端部2aにおいては、戻り光を抑制するアイソレータが本体部分2b内に配置されており、レーザ光Lをコリメートするコリメータレンズが先端部分2c内に配置されている。なお、入射部12は、光ファイバ2の出射端部2aが接続可能となるように構成されたコネクタ等であってもよい。
【0039】
レーザ光調整部13は、筐体11内に配置されている。レーザ光調整部13は、入射部12から入射したレーザ光Lを調整する。レーザ光調整部13は、筐体11内において、仕切壁部29に対して第4壁部24側に配置されている。レーザ光調整部13は、仕切壁部29に取り付けられている。仕切壁部29は、筐体11内に設けられており、筐体11内の領域を第3壁部23側の領域と第4壁部24側の領域とに仕切っている。仕切壁部29は、筐体11の一部分として構成されている。レーザ光調整部13が有する各構成は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。仕切壁部29は、レーザ光調整部13が有する各構成を支持する光学ベースとして機能している。
【0040】
対物レンズ部14は、第6壁部26に配置されている。具体的には、対物レンズ部14は、第6壁部26に形成された孔26a(
図5参照)を通った状態で、第6壁部26に配置されている。対物レンズ部14は、レーザ光調整部13によって調整されたレーザ光Lを集光しつつ筐体11外に出射する。対物レンズ部14は、X方向においては第2壁部22側に片寄っており、Y方向においては第4壁部24側に片寄っている。つまり、X方向における対物レンズ部14と第2壁部22との距離は、X方向における対物レンズ部14と第1壁部21との距離よりも小さく、Y方向における対物レンズ部14と第4壁部24との距離は、X方向における対物レンズ部14と第3壁部23との距離よりも小さい。
【0041】
図5に示されるように、レーザ光調整部13は、反射部31と、アッテネータ32と、反射部33と、を有している。反射部31、アッテネータ32及び反射部33は、X方向に沿って延在する第1直線SL1上に配置されている。反射部31は、Z方向において入射部12と対向している。すなわち、反射部31は、Z方向において光ファイバ2の出射端部2aと対向している。反射部31は、入射部12から入射したレーザ光Lを第2壁部22側に反射する。アッテネータ32は、反射部31によって反射されたレーザ光Lの出力を調整する。反射部33は、アッテネータ32によって出力が調整されたレーザ光Lを第6壁部26側に反射する。各反射部31,33は、例えば、ミラー又はプリズムである。
【0042】
レーザ光調整部13は、ビームエキスパンダ34と、反射部35と、を更に有している。反射部33、ビームエキスパンダ34及び反射部35は、Z方向に沿って延在する第2直線SL2上に配置されている。ビームエキスパンダ34は、反射部33によって反射されたレーザ光Lの径を拡大する。反射部35は、ビームエキスパンダ34で径が拡大されたレーザ光Lを第1壁部21側且つ第5壁部25側に反射する。反射部35は、例えば、ミラー又はプリズムである。
【0043】
レーザ光調整部13は、空間光変調器36と、結像光学系37と、を更に有している。空間光変調器36、結像光学系37及び対物レンズ部14は、Z方向に沿って延在する第3直線SL3上に配置されている。空間光変調器36は、反射部35によって反射されたレーザ光Lを変調しつつ第6壁部26側に反射する。空間光変調器36は、反射型の空間光変調器である。空間光変調器36は、例えば、LCOS(Liquid Crystal on Silicon)-SLM(Spatial Light Modulator)である。結像光学系37は、空間光変調器36の反射面36aと対物レンズ部14の入射瞳面14aとが結像関係にある両側テレセントリック光学系を構成している。結像光学系37は、複数のレンズによって構成されている。
【0044】
第1直線SL1、第2直線SL2及び第3直線SL3は、Y方向に垂直な同一平面上に位置している。第2直線SL2は、第3直線SL3に対して第2壁部22側に位置している。レーザ加工ヘッド10Aでは、Z方向に沿って入射部12から筐体11内に入射したレーザ光Lは、反射部31によって反射されて、第1直線SL1上を進行する。第1直線SL1上を進行したレーザ光Lは、反射部33によって反射されて、第2直線SL2上を進行する。第2直線SL2上を進行したレーザ光Lは、反射部35及び空間光変調器36によって順次に反射されて、第3直線SL3上を進行する。第3直線SL3上を進行したレーザ光Lは、Z方向に沿って対物レンズ部14から筐体11外に出射される。
【0045】
レーザ加工ヘッド10Aは、ダイクロイックミラー15と、観察部16と、測距部100と、駆動部18と、回路部19と、を更に備えている。
【0046】
ダイクロイックミラー15は、第3直線SL3上において、結像光学系37と対物レンズ部14との間に配置されている。つまり、ダイクロイックミラー15は、筐体11内において、レーザ光調整部13と対物レンズ部14との間に配置されている。ダイクロイックミラー15は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。ダイクロイックミラー15は、レーザ光Lを透過させる。ダイクロイックミラー15は、非点収差を抑制する観点では、例えば、キューブ型、又は、ねじれの関係を有するように配置された2枚のプレート型が好ましい。
【0047】
観察部16は、筐体11内において、第3直線SL3に対して第1壁部21側に配置されている。つまり、観察部16は、X方向においては、対物レンズ部14に対して第1壁部21側に配置されている。観察部16は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。観察部16は、対象物Wの表面(例えば、レーザ光Lが入射する側の表面)を観察するための観察光L10(例えば、可視光)を対象物Wの表面に照射し、対象物Wの表面によって反射された観察光L10を検出する。
【0048】
本実施形態では、観察部16から出射された観察光L10は、ビームスプリッタ20及びダイクロイックミラー15によって順次に反射され、対物レンズ部14を透過して筐体11外に出射され、対象物Wの表面に照射される。対象物Wの表面によって反射された観察光L10は、対物レンズ部14を透過して筐体11内に入射し、ダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20を順次に反射され、観察部16に入射する。なお、ビームスプリッタ20は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。
【0049】
測距部100は、筐体11内において、第3直線SL3に対して第1壁部21側に配置されている。つまり、測距部100は、X方向においては、対物レンズ部14に対して第1壁部21側に配置されている。測距部100は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。測距部100は、対象物Wの表面(例えば、レーザ光Lが入射する側の表面)と対物レンズ部14との距離を測定するための測距光L20(例えば、レーザ光)を対象物Wの表面に照射し、対象物Wの表面によって反射された測距光L20を検出する。
【0050】
本実施形態では、測距部100から出射された測距光L20は、ビームスプリッタ20を透過してダイクロイックミラー15によって反射され、対物レンズ部14を透過して筐体11外に出射され、対象物Wの表面に照射される。対象物Wの表面によって反射された測距光L20は、対物レンズ部14を透過して筐体11内に入射し、ダイクロイックミラー15によって反射されてビームスプリッタ20を透過し、測距部100に入射する。なお、レーザ光L、測距光L20及び観察光L10のそれぞれの波長は、互いに異なっている(少なくともそれぞれの中心波長が互いにずれている)。
【0051】
駆動部18は、第4壁部24側において仕切壁部29に取り付けられている。駆動部18は、例えば圧電素子の駆動力によって、第6壁部26に配置された対物レンズ部14をZ方向に移動させる。
【0052】
図3及び
図5に示されるように、回路部19は、筐体11内において、仕切壁部29に対して第3壁部23側に配置されている。つまり、回路部19は、筐体11内において、レーザ光調整部13、測距部100及び観察部16に対して第3壁部23側に配置されている。回路部19は、仕切壁部29から離間している。回路部19は、例えば、複数の回路基板である。回路部19は、測距部100から出力された信号及び空間光変調器36に入力する信号を処理する。回路部19は、測距部100から出力された信号に基づいて駆動部18を制御する。一例として、回路部19は、測距部100から出力された信号に基づいて、対象物Wの表面と対物レンズ部14との距離が一定に維持されるように(すなわち、対象物Wの表面とレーザ光Lの集光点との距離が一定に維持されるように)、駆動部18を制御する。
【0053】
なお、仕切壁部29には、観察部16、測距部100、駆動部18及び空間光変調器36のそれぞれと回路部19とを電気的に接続するための配線が通る切欠き、孔等(図示省略)が形成されている。また、筐体11には、回路部19と制御部9とを電気的に接続するための配線等が接続されるコネクタ(図示省略)が設けられている。
【0054】
レーザ加工ヘッド10Bは、レーザ加工ヘッド10Aと同様に、筐体11と、入射部12と、レーザ光調整部13と、対物レンズ部14と、ダイクロイックミラー15と、観察部16と、測距部100と、駆動部18と、回路部19と、を備えている。ただし、レーザ加工ヘッド10Bの各構成は、
図2に示されるように、一対の取付部65,66間の中点を通り且つY方向に垂直な仮想平面に関して、レーザ加工ヘッド10Aの各構成と面対称の関係を有するように、配置されている。
【0055】
例えば、レーザ加工ヘッド10Aの筐体11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10B側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部65に取り付けられている。これに対し、レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第4壁部24が第3壁部23に対してレーザ加工ヘッド10A側に位置し且つ第6壁部26が第5壁部25に対して支持部7側に位置するように、取付部66に取り付けられている。
【0056】
レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付部66側に配置された状態で筐体11が取付部66に取り付けられるように、構成されている。具体的には、次のとおりである。取付部66は、ベースプレート66aと、取付プレート66bと、を有している。ベースプレート66aは、移動部63に設けられたレールに取り付けられている。取付プレート66bは、ベースプレート66aにおけるレーザ加工ヘッド10A側の端部に立設されている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、第3壁部23が取付プレート66bに接触した状態で、取付部66に取り付けられている。レーザ加工ヘッド10Bの筐体11は、取付部66に対して着脱可能である。
[対物レンズ部の構成]
【0057】
図6に示されるように、対物レンズ部14は、複数のレンズ141と、鏡筒142と、保護カバー143と、ナット144と、を有している。
図6では、一つのレンズ141のみが表れているが、実際には、複数のレンズ141がZ方向に沿って配列されている。複数のレンズ141は、対物レンズ部14の光軸Aを決定しており、レーザ光Lを対象物Wに集光する。鏡筒142は、複数のレンズ141を保持している。保護カバー143は、光透過プレート143aと、フレーム143bと、を有している。光透過プレート143aは、フレーム143bによって保持されている。保護カバー143は、鏡筒142の一端部(各レーザ加工ヘッド10A,10Bに取り付けられた状態では、Z方向における鏡筒142の下端部)に配置されている。ナット144は、フレーム143bがナット144と鏡筒142の一端部との間に配置された状態で、鏡筒142の一端部に螺合されている。これにより、保護カバー143は、鏡筒142に対して着脱可能である。本実施形態では、光透過プレート143aにおけるレンズ141とは反対側の表面が、対物レンズ部14の光出射面14bとなっている。つまり、保護カバー143が光出射面14bを有している。なお、対物レンズ部14は、少なくとも一つのレンズ141を有していればよい。また、Z方向から見た場合における光透過プレート143aの形状(すなわち、光出射面14bの形状)は、
図6に示される例ではオーバル状であるが、これに限定されず、例えば円形状であってもよい。
【0058】
後述するように光出射面14bに汚れが付着したり、或いは、光出射面14bに傷が付いたりして、保護カバー143が交換される場合、光透過プレート143aの厚さの変化に起因してレーザ光Lに生じる球面収差量が変化し、加工品質が低下するおそれがある。そこで、レーザ加工装置1では、光透過プレート143aの厚さの変化に起因してレーザ光Lに生じる球面収差量の変化をキャンセルするための補正パターンが、空間光変調器36によってレーザ光Lに付与されてもよい。当該補正パターンは、光透過プレート143aの厚さに応じて準備されてもよいし、或いは、所定の光透過プレート143a(例えば、出荷時の光透過プレート143a)の厚さと新たな光透過プレート143aの厚さとの差に応じて準備されてもよい。そのようにして準備された補正パターンは、制御部9によって予め記憶されてもよい。
[測距部の構成]
【0059】
図7に示されるように、測距部100は、光源(第2光源)101と、コリメートレンズ102と、ハーフミラー103と、結像レンズ105と、反射型グレーティング106と、光検出部107と、を有している。以下、測距部100から出射された測距光L20(
図5参照)を「測距光L21」といい、対象物Wの表面Waによって反射された測距光L20(
図5参照)の反射光を「反射光L22」という。なお、
図7では、各構成が模式的に示されている。例えば、対物レンズ部14は、実際には、
図6に示される構成を有しているが、
図7では、一つのレンズとして示されている。この点については、後述する
図8及び
図9においても同様である。また、
図7では、測距部100とダイクロイックミラー15との間に配置されたビームスプリッタ20の図示が省略されている。
【0060】
光源101は、レーザ光である測距光(非加工光)L21を出射する。光源101は、例えば、レーザダイオードである。本実施形態では、光源101は、Z方向に沿って下側に測距光L21を出射する。コリメートレンズ102は、光源101から出射された測距光L21をコリメートする。
【0061】
ハーフミラー103は、コリメートレンズ102によってコリメートされた測距光L21をダイクロイックミラー15側に反射し、ダイクロイックミラー15側から入射した反射光L22を結像レンズ105側に透過させる。本実施形態では、ハーフミラー103は、Z方向に沿って上側から入射した測距光L21をX方向に沿って一方の側に反射し、反射光L22をX方向に沿って一方の側から他方の側に透過させる。
【0062】
ダイクロイックミラー15は、ハーフミラー103によって反射された測距光L21を対物レンズ部14側に反射し、対物レンズ部14側から入射した反射光L22をハーフミラー103側に反射する。本実施形態では、ダイクロイックミラー15は、X方向に沿って他方の側から入射した測距光L21をZ方向に沿って下側に反射し、Z方向に沿って下側から入射した反射光L22をX方向に沿って他方の側に反射する。
【0063】
対物レンズ部14は、ダイクロイックミラー15によって反射された測距光L21を集光しつつ対象物W側に透過させ、対象物Wの表面Waによって反射された反射光L22をダイクロイックミラー15側に透過させる。本実施形態では、対物レンズ部14は、測距光L21をZ方向に沿って上側から下側に透過させ、反射光L22をZ方向に沿って下側から上側に透過させる。対物レンズ部14は、レーザ光L及び測距光L21を対象物W側に透過させる。
【0064】
結像レンズ105は、ダイクロイックミラー15によって反射されてハーフミラー103を透過した反射光L22を反射型グレーティング106側に透過させる。本実施形態では、結像レンズ105は、反射光L22をX方向に沿って一方の側から他方の側に透過させる。結像レンズ105は、対物レンズ部14による測距光L21又は反射光L22の集光位置における像を結像位置に結像する。測距光L21が対物レンズ部14によって空気中に集光される場合の集光点に対して対物レンズ部14とは反対側に対象物Wの表面Waが位置している場合には、当該集光位置が測距光L21に現れる。測距光L21が対物レンズ部14によって空気中に集光される場合の集光点上に対象物Wの表面Waが位置している場合には、当該集光位置が測距光L21と反射光L22との境界部に現れる。測距光L21が対物レンズ部14によって空気中に集光される場合の集光点に対して対物レンズ部14側に対象物Wの表面Waが位置している場合には、当該集光位置が反射光L22に現れる。なお、結像レンズ105は、一つのレンズによって構成されていてもよいし、複数のレンズによって構成されていてもよい。
【0065】
反射型グレーティング106は、結像レンズ105を透過した反射光L22を光検出部107側に反射する。反射型グレーティング106は、例えば、ブレーズドグレーティングである。本実施形態では、反射型グレーティング106は、X方向に沿って一方の側から入射した反射光L22をZ方向に沿って上側に反射する。反射型グレーティング106は、結像レンズ105と光検出部107との間において反射光L22の光路を調整する(詳細については後述する)。
【0066】
光検出部107は、反射型グレーティング106によって反射された反射光L22を検出する。つまり、光検出部107は、対象物Wによって反射されて対象物W側から対物レンズ部14を透過した反射光L22を検出する。光検出部107は、例えば、X方向に沿って配列された複数の光検出チャネルを有する1次元のフォトダイオードアレイである。光検出部107の受光面107aは、反射型グレーティング106側に向いており、所定面S上に位置している。本実施形態では、受光面107aは、下側に向いており、Z方向に垂直な所定面S上に位置している。なお、光検出部107は、X方向に沿って配列された複数の光検出チャネルを有するものであれば、2次元のフォトダイオードアレイ等であってもよい。
【0067】
図8に示されるように、対物レンズ部14は、測距光L21の光軸A1が対物レンズ部14の光軸Aからオフセットした状態(すなわち、光軸A1が光軸Aから離れた状態)で、測距光L21を対象物W側に透過させる。対物レンズ部14に入射する測距光L21の光軸A1は、対物レンズ部14の光軸Aに平行である。対物レンズ部14から出射された測距光L21の光軸A1は、対物レンズ部14によって集光された測距光L21の集光点Pが対物レンズ部14の光軸A上に位置するように傾斜している。ここでは、対物レンズ部14に入射する測距光L21の光軸A1は、対物レンズ部14の光軸AからX方向(所定方向)における一方の側にオフセットしている。
【0068】
これにより、
図7及び
図8に示されるように、対象物Wの表面Waの高さに応じて、対物レンズ部14を透過する反射光L22の光路が変化し、その結果、対象物Wの表面Waの高さに応じて、光検出部107の受光面107aにおける反射光L22の入射位置が変化する。したがって、光検出部107の受光面107aにおける反射光L22の入射位置に基づいて(すなわち、反射光L22が入射した光検出チャネルの位置に基づいて)、対象物Wの表面Waの高さを測定することができる。なお、対象物Wの表面Waの高さとは、対物レンズ部14の光軸Aに平行な方向(ここでは、Z方向)における対象物Wの表面Waの位置であり、例えば、対物レンズ部14と対象物Wの表面Waとの間の距離に対応する。
【0069】
一例として、対象物Wの表面Waが測距光L21の集光点P(測距光L21が対物レンズ部14によって空気中に集光される場合の集光点)と一致している状態では、反射光L22Lの光路は、対物レンズ部14の光軸Aに関して測距光L21の光路と対称の関係を有するものとなる。対象物Wの表面Waが測距光L21の集光点Pよりも対物レンズ部14側に位置している状態では、反射光L22Mの光路は、反射光L22LよりもX方向における一方の側において反射されたものとなる。対象物Wの表面Waが測距光L21の集光点Pよりも更に対物レンズ部14側に位置している状態では、反射光L22Hの光路は、反射光L22MよりもX方向における一方の側において反射されたものとなる。
【0070】
ここで、
図8に示されるように、反射光L22の収束及び発散状態も、対象物Wの表面Waの高さに応じて変化することから、結像レンズ105による反射光L22の結像位置も、対象物Wの表面Waの高さに応じて変化する。そのため、反射光L22の光路を調整する反射型グレーティング106が測距部100に設けられていないと、光検出部107の受光面107aにおける反射光L22のスポットサイズが、対象物Wの表面Waの高さに応じて大きく変化し、その結果、対象物Wの表面Waの高さの測定精度が劣化するおそれがある。また、光検出部107の受光面107aが、結像レンズ105による反射光L22の結像位置に合うように傾斜させられても、受光面107aに対する反射光L22の入射角が大きくなって、受光面107aによって反射光L22の一部が反射されたり、受光面107aにおける反射光L22のスポットサイズが大きくなったりし、その結果、対象物Wの表面Waの高さの測定精度が劣化するおそれがある。
【0071】
例えば、対物レンズ部14の焦点距離をf1とし、結像レンズ105の焦点距離をf2とし、対物レンズ部14の光軸Aに平行な方向における対象物Wの表面Waの高さの差をΔZとし、結像レンズ105の光軸に平行な方向における反射光L22の結像位置の差をΔXとすると、反射型グレーティング106が測距部100に設けられていない場合には、ΔX/ΔZ=4(f2/f1)2の関係が成立する。つまり、対物レンズ部14の焦点距離f1が小さくなると、反射光L22の結像位置の差ΔXが大きくなり、受光面107aにおける反射光L22のスポットサイズが大きくなる。上述したように、対象物Wの内部に改質領域を形成する場合には、対物レンズ部14の開口数が大きくなり、対物レンズ部14の焦点距離f1が小さくなるから、対象物Wの表面Waの高さの測定精度が劣化するのを抑制するための対策を実施することは、特に重要である。
【0072】
その対策として、
図7に示されるように、反射光L22の光路を調整する反射型グレーティング106が測距部100に設けられている。反射型グレーティング106は、反射型グレーティング106への反射光L22の入射位置に応じた光路長を反射光L22に発生させることで、反射光L22の光路を調整する。
【0073】
また、結像レンズ105を透過した反射光L22の光路(反射光L22の主光線の光路)は、対象物Wの表面Waの高さに応じて所定平面(ここでは、Y方向に垂直な平面)に沿って変化する。そこで、反射型グレーティング106は、複数の溝が当該所定平面に垂直な方向(ここでは、Y方向)に沿って延在するように、配置されている。更に、反射型グレーティング106は、結像レンズ105から結像位置までの光路長が長い反射光L22ほど、結像レンズ105から離れた位置において反射型グレーティング106によって反射されるように、配置されている。
【0074】
これにより、結像レンズ105から結像位置までの光路長が長い反射光L22ほど、結像レンズ105から光検出部107の受光面107aに至る反射光L22の光路長が長くなる。例えば、結像レンズ105から光検出部107の受光面107aに至る反射光L22Mの光路長は、結像レンズ105から光検出部107の受光面107aに至る反射光L22Lの光路長よりも長い。結像レンズ105から光検出部107の受光面107aに至る反射光L22Hの光路長は、結像レンズ105から光検出部107の受光面107aに至る反射光L22Mの光路長よりも長い。
【0075】
ただし、結像レンズ105によって結像されて反射型グレーティング106によって反射された反射光L22には、非点収差が生じる。具体的には、Y方向において結像される反射光L22の結像位置は、X方向において結像される反射光L22の結像位置よりも、光検出部107の受光面107aが位置する所定面Sから離れる。測距部100では、X方向において結像される反射光L22の結像位置が、光検出部107の受光面107aが位置する所定面Sに近付くように、反射型グレーティング106が反射光L22の光路を調整する。
【0076】
このように、反射型グレーティング106は、光検出部107に入射する反射光L22の入射方向(ここでは、Z方向)に垂直な少なくとも一方向(ここでは、X方向)において結像される反射光L22の結像位置が、当該入射方向に垂直な所定面Sに近付くように、反射光L22の光路を調整する。なお、反射型グレーティング106は、光検出部107の受光面107aに平行且つ上述した一方向(ここでは、X方向)に垂直な方向(ここでは、Y方向)に沿って延在する複数の溝を有している。また、光検出部107は、上述した一方向(ここでは、X方向)に平行な方向に沿って配列された複数の光検出チャネルを有している。
【0077】
ここで、「光検出部107に入射する反射光L22の入射方向」とは、基準となる反射光L22(例えば、反射光L22L)の入射方向を意味する。また、「反射光L22の結像位置が、光検出部107に入射する反射光L22の入射方向に垂直な所定面Sに近付くように」とは、反射型グレーティング106が測距部100に設けられていない場合に比べて、反射光L22の結像位置が所定面Sに近付くことを意味する。つまり、光検出部107に入射する反射光L22の入射方向における反射光L22の結像位置の差が、所定面Sを含む領域で、上述したΔX未満(好ましくは、ΔXの10%未満)となることを意味する。
【0078】
また、対物レンズ部14及び結像レンズ105は、結像レンズ105から出射される反射光L22の光路(反射光L22の主光線の光路)の方向が一定となるように構成されている。本実施形態では、
図9の(a)に示されるように、対物レンズ部14と結像レンズ105との間の光路長が、対物レンズ部14の焦点距離f1と結像レンズ105の焦点距離f2との和となっている。つまり、対物レンズ部14の結像レンズ105側の焦点位置と結像レンズ105の対物レンズ部14側の焦点位置とが一致している。これにより、対象物Wの表面Waの高さが変化しても、結像レンズ105から出射される反射光L22の光路の方向が一定となり、その結果、
図9の(b)に示されるように、対象物Wの表面Waの高さと、光検出部107において反射光L22が入射する光検出チャネルの位置とが、線形な関係となる。なお、
図9の(a)では、光源101、コリメートレンズ102、ハーフミラー103、ダイクロイックミラー15及びビームスプリッタ20等の図示が省略されている。
【0079】
また、
図9の(b)に示されるように、光検出部107の受光面107aにおける反射光L22の像は、上述した一方向(所定面Sに近付くように反射光L22を結像する一方向)に垂直な方向(ここでは、Y方向)を長手方向とする長尺状(ここでは、楕円形状)を呈している。これにより、反射光L22の像の長手方向への光検出部107の受光面107aのずれが許容され、各構成の配置の精度が緩和される。なお、光検出部107の受光面107aにおける反射光L22の像が、上述した一方向に垂直な方向を長手方向とする長尺状を呈するのは、上述したように、結像レンズ105によって結像されて反射型グレーティング106によって反射された反射光L22に非点収差が生じるからである。
【0080】
以上のように構成された測距部100では、次のように、反射光L22が検出される。
図7に示されるように、光源101から出射された測距光L21は、コリメートレンズ102によってコリメートされる。コリメートされた測距光L21は、ハーフミラー103によって反射されてビームスプリッタ20(
図5参照)を透過し、ダイクロイックミラー15によって反射されて対物レンズ部14に入射する。対物レンズ部14に入射した測距光L21は、対物レンズ部14によって集光され、対象物Wの表面Waに照射される。対象物Wの表面Waによって反射された反射光L22は、対物レンズ部14を透過し、ダイクロイックミラー15によって反射される。ダイクロイックミラー15によって反射された反射光L22は、ビームスプリッタ20(
図5参照)及びハーフミラー103を順次に透過し、結像レンズ105によって結像されると共に、反射型グレーティング106によって反射される。反射型グレーティング106によって反射された反射光L22は、光検出部107に入射して光検出部107によって検出される。
[対物レンズ部の光出射面の汚れの状態の把握]
【0081】
レーザ加工装置1では、各レーザ加工ヘッド10A,10Bにおいて対物レンズ部14の光出射面14bに汚れが付着する場合がある。そのような場合に対物レンズ部14の光出射面14bの汚れの状態を把握することは、加工品質の低下を防止する上で、極めて重要である。
【0082】
図10の(a)は、対物レンズ部14の光出射面14bに汚れが付着していない状態を示す模式図であり、
図10の(b)は、対物レンズ部14の光出射面14bに汚れ(ドットで図示)が付着している状態を示す模式図である。
図10の(a)及び(b)に示されるように、レーザ光Lの照射によって対象物Wの加工が実施される際には、対物レンズ部14の光出射面14bの中央領域(光軸Aを含む中央領域)に比べ、対物レンズ部14の光出射面14bの周囲領域(中央領域を包囲する周囲領域)に汚れが付着しやすい。そして、対象物Wに照射されるレーザ光Lが対象物Wに対して相対的に移動する方向(以下、「加工方向」という)が一定であると、
図10の(b)に示されるように、対物レンズ部14の光出射面14bの周囲領域のうち加工方向における光軸Aの両側の部分に特に汚れが付着しやすい。本実施形態では、加工方向がX方向であるため、対物レンズ部14の光出射面14bの周囲領域のうちX方向における対物レンズ部14の光軸Aの両側の部分に特に汚れが付着している。これは、レーザ光Lの照射によって対象物Wから発せられた飛散物が対物レンズ部14の進行方向(対象物Wに対する相対的な進行方向)の後側に流れるためと推測される。
【0083】
ここで、レーザ加工装置1では、
図10の(a)及び(b)に示されるように、測距光L21の光軸A1が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸AからX方向における一方の側にオフセットしており、反射光L22の光軸A2(光軸A2
L,A2
M,A2
H)が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸AからX方向における他方の側にオフセットしている。そのため、測距部100の光検出部107に入射する反射光L22の光量が、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れの状態に応じて変化する。具体的には、対物レンズ部14の光出射面14bに汚れが付着するほど、光検出部107に入射する反射光L22の光量が低下する。
【0084】
そこで、レーザ加工装置1では、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とが、処理部として機能し、光検出部107による検出結果に基づいて、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する。つまり、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部が、光検出部107による検出結果に基づいて、対象物Wの表面(所定面)Waの高さに関する情報だけでなく、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する。なお、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する場合には、対象物Wとして所定のミラーウェハを用い、所定の条件で測距光L21の出射及び反射光L22の検出を実施することが好ましい。
【0085】
本実施形態では、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部が、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報をディスプレイ91に表示させる。一例として、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部は、光検出部107によって検出される反射光L22の輝度値が所定値以下となった場合に、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れが加工品質を低下させるレベルに達した旨をディスプレイ91に表示させる。上述したように、対物レンズ部14では、光出射面14bを有する保護カバー143が鏡筒142に対して着脱可能である。したがって、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部は、光検出部107によって検出される反射光L22の輝度値が所定値以下となった場合に、保護カバー143の交換が必要である旨をディスプレイ91に表示させてもよい。
【0086】
図11の(a)は、アブレーション本数が0本の場合における対物レンズ部14の光出射面14bの状態を示す写真図であり、
図11の(b)は、アブレーション本数が1000本の場合における対物レンズ部14の光出射面14bの状態を示す写真図である。ここで、アブレーション本数とは、レーザ光Lの集光点を対象物Wの表面Waに位置させた状態で、対象物Wの表面Waをアブレーションさせることが可能な条件で、レーザ光Lの集光点をX方向に沿って相対的に往復移動させた回数(一往復で二回)である。
図11の(a)に示されるように、アブレーション本数が0本の場合には、対物レンズ部14の光出射面14bに汚れが付着していなかったのに対し、
図11の(b)に示されるように、アブレーション本数が1000本の場合には、対物レンズ部14の光出射面14bの周囲領域のうちX方向における光軸Aの両側の部分に汚れが付着した。
【0087】
図12は、条件1及び条件2での反射光L22の輝度値を示す表である。ここで、条件1とは、
図11の(a)に示されるアブレーション本数が0本の場合に対応する条件であり、条件2とは、
図11の(b)に示されるアブレーション本数が1000本の場合に対応する条件である。
図12に示されるように、条件2での反射光L22の輝度値は、Z値がいずれの場合にも、条件1での反射光L22の輝度値に対して大きく低下した。このことからも、光検出部107による検出結果に基づいて、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得し得ることが分かる。なお、Z値とは、対象物Wに対する対物レンズ部14の位置を示す値である。「Z値:0」は、レーザ光Lの集光点が対象物Wの表面Waに位置している状態での対物レンズ部14の位置を示す。「Z値:負の値」は、「Z値:0」の位置を基準として対物レンズ部14が対象物Wから離れた位置を示し、「Z値:正の値」は、「Z値:0」の位置を基準として対物レンズ部14が対象物Wに近づいた位置を示す。
[作用及び効果]
【0088】
レーザ加工装置1では、光源101から出射された測距光L21が対物レンズ部14を透過して対象物Wに照射され、対象物Wによって反射された反射光L22が対物レンズ部14を透過して光検出部107によって検出される。このとき、測距光L21の光軸A1及び反射光L22の光軸A2の両方が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸AからX方向にオフセットしている。ここで、レーザ光Lの照射によって対象物Wの加工が実施される際には、対物レンズ部14の光出射面14bの中央領域に比べ、対物レンズ部14の光出射面14bの周囲領域に汚れが付着しやすい(これは、本発明者らが見出した知見である)。そのため、上述したように反射光L22を検出することで、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得することができる。よって、レーザ加工装置1によれば、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れの状態を確実に把握することができる。
【0089】
レーザ加工装置1では、測距光L21の光軸A1が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸AからX方向における一方の側にオフセットしており、反射光L22の光軸A2が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸AからX方向における他方の側にオフセットしている。これにより、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れの状態が測距光L21及び反射光L22のそれぞれに反映されやすくなるため、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れの状態をより確実に把握することができる。
【0090】
レーザ加工装置1では、測距光L21の光軸A1及び反射光L22の光軸A2の両方が対物レンズ部14の光軸AからオフセットしているX方向が、対象物Wに照射されるレーザ光Lが対象物Wに対して相対的に移動する方向、すなわち、加工方向である。レーザ光Lの照射によって対象物Wの加工が実施される際に、例えば、対象物Wに照射されるレーザ光Lが対象物Wに対して相対的に移動する方向が一定であると、対物レンズ部14の光出射面14bの周囲領域のうち当該方向における対物レンズ部14の光軸Aの両側の部分に特に汚れが付着しやすい(これは、本発明者らが見出した知見である)。したがって、測距光L21の光軸A1及び反射光L22の光軸A2の両方を対物レンズ部14の光軸Aから加工方向にオフセットさせることで、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れの状態をより確実に把握することができる。
【0091】
レーザ加工装置1では、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部が、光検出部107による検出結果に基づいて、対象物Wが有する表面Waの高さに関する情報を取得する。これにより、同一の光源101及び光検出部107を用いて、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報、及び対象物Wの表面Waの高さに関する情報を取得することができる。
【0092】
レーザ加工装置1では、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部が、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報をディスプレイ91に表示させる。これにより、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報をオペレータに確実に報知することができる。
【0093】
レーザ加工装置1では、対物レンズ部14において、光出射面14bを有する保護カバー143が鏡筒142に対して着脱可能である。これにより、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報に基づいて、汚れが付着した光出射面14bを有する保護カバー143を新たな保護カバー143に交換することができる。
【0094】
ここで、光検出部107によって検出される反射光L22の輝度値(すなわち、光検出部107に入射する反射光L22の光量)に基づいて対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得することの優位性について説明する。
図13は、アブレーション本数ごとに各種結果を示す表である。
【0095】
図13において、「アブレーション本数」とは、レーザ光Lの集光点を対象物Wの表面Waに位置させた状態で、対象物Wの表面Waをアブレーションさせることが可能な条件で、レーザ光Lの集光点をX方向に沿って相対的に往復移動させた回数(一往復で二回)である。
図13において、「亀裂量」、「レーザ透過率」、「収差補正無しの場合の打痕の有無」、「収差補正有りの場合の打痕の有無」及び「輝度値」のそれぞれの結果は、上述の各「アブレーション本数」でアブレーション加工を実施した後の対物レンズ部14を用いた場合における結果である。
【0096】
「亀裂量」とは、レーザ光Lの集光点を対象物Wの内部に合わせてレーザ光Lを対象物Wに照射した場合に、対象物Wにおいて改質領域からレーザ光Lの入射側とは反対側に延びた亀裂の長さの平均値である。「レーザ透過率」とは、「レーザ光Lの元出力(光源81又は光源82から出射された直後のレーザ光Lの出力)」に対する「対物レンズ部14から出射された直後のレーザ光Lの出力」の割合である。「収差補正無しの場合の打痕の有無」とは、空間光変調器36によってレーザ光Lに収差補正を施さなかった場合に、対象物Wにおけるレーザ光Lの入射側とは反対側の表面にレーザ光Lの照射による打痕が生じたか否かを示すものである。「収差補正有りの場合の打痕の有無」とは、空間光変調器36によってレーザ光Lに収差補正を施した場合に、対象物Wにおけるレーザ光Lの入射側とは反対側の表面にレーザ光Lの照射による打痕が生じたか否かを示すものである。「収差補正無しの場合の打痕の有無」及び「収差補正有りの場合の打痕の有無」のそれぞれにおいて、左欄は、レーザ光Lのパルスエネルギーが10μjの場合の結果を示し、中欄は、レーザ光Lのパルスエネルギーが5.3μjの場合の結果を示し、右欄は、レーザ光Lのパルスエネルギーが3.75μjの場合の結果を示す。「輝度値」とは、光検出部107によって検出される反射光L22の輝度値である。
【0097】
図13に示されるように、「アブレーション本数」がいずれの場合にも、「亀裂量」、「レーザ透過率」、「収差補正無しの場合の打痕の有無」及び「収差補正有りの場合の打痕の有無」には、顕著な差が現れなかった。それに対し、「輝度値」には、顕著な差が現れた。このことから、光検出部107によって検出される反射光L22の輝度値(すなわち、光検出部107に入射する反射光L22の光量)に基づいて対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得することが極めて有効であることが分かる。
[変形例]
【0098】
本発明は、上述した実施形態に限定されない。例えば、対物レンズ部14の光出射面14bは、保護カバー143の光出射面に限定されない。一例として、対物レンズ部14に保護カバー143及びナット144が設けられておらず、複数のレンズ141のうちZ方向における鏡筒142の下端部に配置されたレンズ141の光出射面が対物レンズ部14の光出射面14bであってもよい。
【0099】
上述した実施形態では、測距光L21の光軸A1及び反射光L22の光軸A2の両方が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸AからX方向にオフセットしてたが、測距光L21の光軸A1及び反射光L22の光軸A2の少なくとも一方が、対物レンズ部14の光出射面14bにおいて、対物レンズ部14の光軸Aから所定方向にオフセットしていればよい。
【0100】
対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得するために、測距光L21以外の非加工光が用いられてもよい。一例として、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得するために専ら用いられる光源及び光検出部がレーザ加工装置1に設けられていてもよい。
【0101】
対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する処理部は、各レーザ加工ヘッド10A,10Bの回路部19と制御部9とによって構成される処理部に限定されない。一例として、対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する処理部は、回路部19及び制御部9の一方であってもよい。対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する処理部は、当該情報をディスプレイ91に表示させることに代えて、或いは、当該情報をディスプレイ91に表示させることに加えて、当該情報を音声等によってオペレータに報知する報知部を有していてもよい。対物レンズ部14の光出射面14bの汚れに関する情報を取得する処理部は、当該情報をレーザ加工装置1以外の外部装置に出力してもよい。
【0102】
対象物Wの表面Waは、対象物Wにおけるレーザ光Lの入射側の表面に限定されず、対象物の様々な面を被測定面とすることが可能である。測距部100では、各面によって反射された反射光が互いに空間的に分離されるためである。
【0103】
上記実施形態では、ダイクロイックミラー15が、レーザ光Lを透過させ且つ測距光L21及び反射光L22を反射したが、ダイクロイックミラー15に代えて、測距光L21及び反射光L22透過させ且つレーザ光Lを反射する光学素子が用いられてもよい。
【0104】
上記実施形態では、反射光L22の光路を調整する光路調整部として、結像レンズ105と光検出部107との間に配置された反射型グレーティング106が用いられたが、反射光L22の結像位置が所定面Sに近付くように反射光L22の光路を調整できるものであれば、他の構成であってもよい。そのような構成の例としては、空間光変調器、デジタルミラーデバイス、透過型グレーティング、プリズム等がある。光検出部107の受光面107aにおける反射光L22の像が、一方向(所定面Sに近付くように反射光L22を結像する一方向)に垂直な方向を長手方向とする長尺状を呈するように、シリンドリカルレンズが設けられてもよい。
【0105】
測距光L21が対物レンズ部14を透過する際に、測距光L21の光軸A1が対物レンズ部14の光軸Aからオフセットする距離は、調整可能であってもよい。一例として、
図7に示されるハーフミラー103の位置を調整することで、測距光L21の光軸A1が対物レンズ部14の光軸Aからオフセットする距離を調整することができる。当該距離を調整することで、対象物Wの表面Waの高さの測定レンジ、及び、光検出部107における検出感度を調整できる。
【0106】
上記実施形態では、光検出部107の受光面107aが所定面S上に位置していたが、光検出部107の受光面107aは、所定面Sに沿うように位置していればよい。例えば、光検出部107の受光面107aと所定面Sとが角度を成していても、当該角度が5°未満であれば、対象物Wの表面Waの高さを十分に精度良く測定できる。
【0107】
上記実施形態では、所定面Sが、光検出部107に入射する反射光L22の入射方向に垂直な面であったが、所定面Sは、当該入射方向に対して例えば30°以下の角度で傾斜する等、当該入射方向と交差する面であればよい。
【符号の説明】
【0108】
1…レーザ加工装置、7…支持部、9…制御部(処理部)、14…対物レンズ部、14b…光出射面、19…回路部(処理部)、81,82…光源(第1光源)、91…ディスプレイ、101…光源(第2光源)、107…光検出部、141…レンズ、142…鏡筒、143…保護カバー、A,A1,A2…光軸、L…レーザ光(加工光)、L21…測距光(非加工光)、L22…反射光、W…対象物、Wa…表面(所定面)。